声劇台本置き場

正樹：チッ、あいつまだかよ⋯。 咲：マーくんごめ～ん、遅くなっちゃったー。 正樹：まったく、準備にどんだけかかってんだ？早く行かないと日が暮れちまうだろうが。 咲：だって～、肝試しとか言ったら何かワクワクしちゃうじゃない？だから色々持ってきたくなっちゃって。 正樹：待て待て、そのボストンバックの中身、何が入ってんだ？ 咲：えー？地図でしょ、コンパスでしょー、ライターに、ロープとか？ 正樹：あのな、サバイバルしに行くんでも肝試し行くんでもない、撮影だって言っただろう！馬鹿か？ 咲：えー？全部一緒みたいなもんっしょ？ 正樹：全然違う！いいからそいつは全部置いて、撮影用のカメラだけ持ってこい。 咲：はーい。 ：間 正樹：まったく、咲のやつ何考えてんだ。天然にも程があるだろ。 咲：お待たせ～ 正樹：はいはい、いいから乗れ。 咲：うん。よっと、お邪魔しまーす。 正樹：よし、じゃあ出発するぞ。 咲：うん、それはいいけど地図とか無くて大丈夫なの？迷わない？ 正樹：アホ、車にはナビって便利な機能が付いてんだぞ？迷うわけないだろ。 咲：だって運転しないしわかんないよー。 正樹：ほんとに有り得ないくらいなんも知らないんだなお前。 咲：で、で、そのナビがあれば道案内してくれるんだ？ 正樹：ああ。ちなみに俺の車に付いてるナビは最新式のナビだからな。 咲：へー、なんか凄そう。ねね、早く使ってみてよ。 正樹：分かった分かった、まあ見てろ。えーと、ナビの起動ボタンは⋯これか。 ナビ：おはようございます。今日も安全運転で行きましょう。 咲：おぉ～喋った～ 正樹：会話型ＡＩ搭載ナビだから喋るのは当たり前だろ。 ナビ：今日の天候は晴れ、最高気温は２３度、過ごしやすい一日になります。 咲：へー、道を教えてくれるだけじゃないんだ～。 正樹：ＡＩがネットと繋がってるから色々な情報答えてくれるんだよ。とりあえずナビモードにするか。 ナビ：ナビゲーションシステムを起動します。目的地を選択して下さい。 咲：わ～なんかかっこいいね。 正樹：んで、目的地を選んでと⋯。 ナビ：目的地が設定されました、実際の交通情報に従って下さい。 正樹：おし、これでネットで噂になってた例の心霊スポットまでバッチリだな。 咲：へーナビちゃん賢いねー ナビ：ありがとうございます。私のお役に立てる事があれば、どうぞお気軽に仰って下さい。 咲：凄！普通に会話出来ちゃってるよ！？ 正樹：今どきのＡＩなら普通だろ。前が見ずらいからちゃんと座ってろ。 咲：はーい。 ナビ：聞き分けの良い素晴らしい彼女様ですね。 咲：えへへ～褒められちゃった。 正樹：最近のＡＩって、お世辞まで言えるのか⋯。 ：間 ナビ：５００メートル先、右方向です。 咲：ね～まだ～？ 正樹：うるせーな、まだ一時間くらいしか経ってないだろうが。 咲：え～だって退屈なんだも～ん。 ナビ：次の信号を、左方向です。 咲：ねーナビちゃん、後どれくらい？ ナビ：目的地到着時間まで、およそ二時間です。 咲：え～まだ二時間もあるの～？ 正樹：いちいちうるさいやつだなー。 咲：だって～。あ、そうだ、ナビちゃんと何かお話してていい？ 正樹：運転に集中したいから勝手にしろ。 咲：やった～、ねね、ナビちゃんナビちゃん！ ナビ：はい、どうされましたか？ 咲：何か面白い話ないかな？ ナビ：どの話題についてお話しましょう？ 咲：えーと、そうだなー。占い⋯とか？ 正樹：ありきたりなやつだな。 咲：いーじゃん、で、私おとめ座なんだけど、どう？ ナビ：かしこまりました。⋯おとめ座の今日の運勢は、素敵な一日になります。 咲：え！まじまじー！？ 正樹：けっ。 ナビ：一生に一度の忘れない日になる事間違いなし。ラッキーナンバーは３５ 咲：３５？なんか覚えにくーい。 正樹：んなの適当だろ。 ナビ：他に何かございますか？ 咲：うーん⋯あ、そうだ、私達の目的地でもある今ネットで噂になってる心霊スポットについてとか！ ナビ：心霊スポットですね。具体的な名称などございますか？ 咲：えーとなんだっけ？ 正樹：「呪いの杉谷山(すぎたにやま)」だ。 咲：あ、それそれ！ナビちゃん分かる？ ナビ：「呪いの杉谷山」ですね。ただいま検索します。 ：少しの間 ナビ：はい、心霊スポット「呪いの杉谷山」の情報が見つかりました。 咲：どんなのどんなの？ ナビ：〇〇県〇〇市にある杉谷山の峠にはかつて林業で栄えた杉谷村がありましたが、ある事件を境に人口が減少し、今は廃村になっています。 咲：へー、そうだったんだ。事件って何があったんだろ？ ナビ：山には古くからの神様を祀(まつ)った小さな祠(ほこら)がありましたが、伐採作業の過程で邪魔になり取り壊す事になったそうです。 正樹：現代人は信心深くも無くなってるしよくある話だな。 咲：ふーん。で、何があったの？ ナビ：その後すぐに作業関係者が謎の不審死をとげる事故が頻発したようです。 咲：え⋯何それ、それってめちゃくちゃ怖いじゃん⋯。 正樹：まあこの手の話には大体裏があって、外から入ってきた土木業者とその土地の人間が揉めて人情沙汰になったとかそんなとこが真相かもな。 咲：どゆこと？ 正樹：祠(ほこら)を神聖視して守ってた村人が工事反対が過熱して殺っちまったとかな。 咲：ひっ！こわいって～⋯。 ナビ：警察の発表によると不審死について事件性は認めらず事故として処理したようです。 咲：ええ⋯結局事故扱いになったんだ。 ナビ：それ以降この杉谷山は「呪われている」との噂が広まり村からも徐々に移住希望者が増え人が離れていき、その後杉谷村は廃村になっています。 咲：う～ん、たしかにそんな事があったら怖くて住めないよね。その後はどうなったの？ ナビ：さらに数年後、杉谷村はその事故で死んだ者の霊が現れては廃村を今もさ迷っていると噂が広がり、若者達の間で肝試しスポットにされるようになりました。 咲：し、死んだ霊が⋯マーくん～この話が本当なら怖くない？ 正樹：俺は信じてないけどな。 咲：えー？じゃあなんでそこに行こうとしてるの？ 正樹：そりゃお前、再生数稼ぎに決まってるだろ。適当にそれっぽい映像を撮って加工して出せば馬鹿な奴らが騙されて見てくれるんだよ。 咲：お～なんかすごそう。 正樹：てか咲、この話この間もしてやっただろ？ 咲：そだっけ？あ、たしかマーくんがやってるヤーチューブ、の話だっけ？ 正樹：まったく、それだよ。「心霊スポット行ってみた」ってやつで動画回すんだよ。このジャンルは再生数稼げるからな、へへ。 咲：さっすがマーくんあったま良い～。 ナビ：杉谷山のお話には続きがあります。 正樹：ん？ 咲：え、何何ナビちゃん？ ナビ：心霊スポットになった杉谷山は毎年肝試しに行く者が後を絶たないですが、その中には「謎の声が聞こえた」「車が急に故障した」「体調が悪くなった」などの話があります。 咲：や、やっぱり呪われるって事⋯？ 正樹：は、そ、それもガセだよ。話題作りしたいやつが広めたに決まってる。 ナビ：さらに、「帰ってこない」という方がいるとの噂も⋯。 咲：マ、マーくん⋯もう、やめない⋯？ 正樹：バカヤロ！ここまで来てやめられっかよ！へ、絶対なんも起きないから安心しろ。 咲：う、うん⋯。 ナビ：次の分岐を左方向です。 咲：ひっ！び、びっくりしたー⋯。 正樹：な、なーにビビってんだ？ 咲：マーくんも、変な汗出てない？ 正樹：あ、暑いだけだよ！ ナビ：５００メートル先、目的地です。 正樹：よーし、もうすぐだ。腹も減ったしさっさと撮影して帰るぞ。 咲：そうだね⋯あ、看板に３５って書いてたけど、なんだろ？ 正樹：この道が３５号線って事だよ。いいから咲は機材の準備しといてくれ。 ナビ：３００⋯メ⋯トル先、目的⋯地です。 正樹：ん？ちっ、山奥だからか変なノイズが入りやがるな。この、この、直りやがれ！ 咲：ちょっと、前見てないと危ないよ⋯ヒッ！ 正樹：な、なんだ今の衝撃は！？ 咲：な、なにかに当たったみたいだよ？ 正樹：なんだって？ ナビ：１００メートル先、目的地です。 正樹：⋯あー、きっと倒木とかだろ。気にすんな。ほら、三脚も忘れるなよ。 咲：う、うん⋯ってマーくん道がっ！？ 正樹：なっ！？うわあああああああ！！) 咲：いやああああああ！！(被せて) ：間 ナビ：目⋯的地⋯周⋯辺に⋯到着⋯しま⋯した⋯。 ：少しの間 ナビ：お疲れ様でした⋯。 ：おわり