台本概要

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タイトル 魔法の国のアリス~アリス第二部・第一章~
作者名 天道司
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(女1、不問4)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 自由に演じてください

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アリス 164 魔法学園の問題児。
帽子屋 不問 10 ??? ※兼ね役…ナレ・トランプ兵
三月うさぎ 不問 89 お調子者のウサギ。
妖精 不問 93 純粋な心を持つクリーチャー。
ハートの女王 不問 30 傲慢な女王。 ※兼ね役・ウーナ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ナレ:ここは、アビス魔法学園。将来、記憶監視官やUMA保護員、マジックヒーローなどの人気職に就くために ナレ:生徒たちが魔法の勉強に励む学び舎(や)だよ ナレ:さて、学園では、もうすぐ期末試験がある。それなのに、あれれ~? ナレ:全く試験勉強をする気のない生徒がいるね ナレ:学園に飾られている壁画やオブジェ、怪しい場所に向かって、『封印解除』の魔法を唱えている ナレ:あぁ、彼女は、一年生の『アリス』だ アリス:アチマ・メフィプトゥ! ナレ:アチマ・メフィプトゥは、封印解除の魔法の中でも上級レベル。一年生でアレを唱えられるのは… ナレ:うん。彼女くらいだろうね。一体何をしているのかな? アリス:アチマ・メフィプトゥ!アチマ・メフィプトゥ! ウーナ:アリスさん!何をしているのですか? アリス:うわっ!ウーナ先生!これはこれは、ごきげんよう ウーナ:ごきげんよう。ではないです!何をしているのですか?私の質問に答えなさい アリス:あのっ、不思議の部屋を ウーナ:ありません アリス:不思議の部屋があると思うんです ウーナ:ありません! アリス:でも、学園七不思議として語られているからには、調査の必要があるかと ウーナ:(さえぎって)ありません!あのね、アリスさん。もうすぐ期末試験があることをお忘れですか? ウーナ:あなたのご学友の方々は、みなさん、今、必死にお勉強をされていますよ アリス:勉強よりも大事なことだと思うんです。そのっ、不思議の部屋の謎を解き明かすことの方が ウーナ:わかりました。その杖は、没収(ぼっしゅう)させていただきますね アリス:えっ!? ウーナ:トゥーシャル・ビュッシ! アリス:あっ!私の杖が! ウーナ:試験期間が終われば、お返しします アリス:ええーっ!でも、実技試験では杖が! ウーナ:今回の期末試験では、実技試験はありません。筆記だけです アリス:そ、そうでしたね ウーナ:そうです。だから、さぁ、すぐにご自分のお部屋に戻って、試験に向けた勉強をして下さい アリス:わ、わかりました 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスの杖が消されちゃった!アリスの杖が消されちゃった! アリス:ん?タキシードを着たうさぎ? ウーナ:アリスさん?どうしたの? アリス:(M)え?ウーナ先生には見えてない? 三月うさぎ:当たり前さ!この世界で、僕の姿が見えるのは、アリスだけさ! アリス:うわっ! ウーナ:なんですか!はしたない声を上げて! アリス:ごっ、ごめんなさい。勉強をするので部屋に戻ります! ウーナ:あ、はい…。ん? 0:【間】 ナレ:おや?アリスは、三月うさぎの首根っこを指でつまんで、トイレに入り、個室に駆け込んでいったよ アリス:なっ、なんなの?あなたは 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:わかった。その三月うさぎは、どうして私にしか見えないの? 三月うさぎ:あいおっ!それは、君がアリスだからさ!アリスだけが、この世界で不思議の部屋のクリーチャーを見ることができる! アリス:確かに、私の名前はアリスだけど 三月うさぎ:アリスには、不思議の部屋に入る必要がある! アリス:えっ?不思議の部屋!?まさか!あなた!不思議の部屋が、どこにあるのか知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!ヒャヒャッw不思議の部屋に、入りたいよね?入りたいよね? アリス:入りたい! 三月うさぎ:あいおっ!それじゃ、どこでもいいから壁に触れて アリス:あっ!でも、私、今、杖がないから封印解除の魔法を使えないよ? 三月うさぎ:ヒャヒャッw杖なんかなくても、アリスは魔法が使えるし、不思議の部屋に入れる! アリス:えっ?杖がないと無理だよ 三月うさぎ:いいから!いいから!どこでもいい。壁に触れて、『不思議の部屋に入りたい』って願ってみてよ! アリス:うん…。わかった ナレ:おやおや?アリスは、三月うさぎの言葉のままに、壁に触れた アリス:不思議の部屋に入りたい! ナレ:おおっ!アリスの体は、シュシュシュシュシューッと小さくなって、壁の中に吸い込まれてしまったよ! アリス:キャーッ! 三月うさぎ:ヒャヒャッw 0: ナレ:―タイトルコール・魔法の国のアリス― 0: ナレ:ここは、不思議の部屋。どうして、ここが不思議の部屋なのか?ふふっ… ナレ:それは、すぐに分かるかも知れないし、永遠に分からないかも知れない… アリス:んっ…んんっ…ここは、どこなの?あれは…積み木の家?あっ?妖精が飛んでる 妖精:わーっ!誰かきた!誰かきた! アリス:えっと、妖精だよね? 妖精:妖精? アリス:そう、あなた、妖精だよね? 妖精:妖精?妖精って、吾輩のこと? アリス:そうよ。だって、体が私の親指ほどの大きさだし、透明な羽もついてるから 妖精:体が君の親指ほどの大きさで、透明の羽がついてたなら、妖精なの? アリス:妖精じゃないの? 妖精:吾輩には、ボルニャンスキーという名前と役割が与えられている アリス:ボルニャ? 妖精:ボルニャンスキーだよ アリス:ボルちゃんでいい? 妖精:ボルちゃん? アリス:だって、その方が呼び易いし、友達になれそうな気がするから 妖精:友達? アリス:そう、友達! 妖精:友達って、何? アリス:あなた、友達を知らないの? 妖精:知らない アリス:だったら、私がボルちゃんの友達になってあげる 妖精:それは、遠慮しとくよ。吾輩は、別に、友達なんて訳のわからないモノはいらない アリス:訳のわからないモノじゃないよ。友達って、とっても良いモノなんだよ 妖精:なんか、ずっと、そう、ずっと遠い昔に、君と同じことを言ってる子に出会った気がする アリス:えっ?そうなの? 妖精:うん。でも、思い出せないんだ アリス:そっか…。その子って、どんな子だったんだろう ナレ:おっと?遠くから、ハートの女王が、トランプ兵たちを引き連れて、こちらに向かってくるよ トランプ兵:ハートの女王のお通りだ~♪ハートの女王のお通りだ~♪ トランプ兵:全ての道をあけるんだ~♪全ての道はハートの女王のために~♪ アリス:なっ、なんなの? 妖精:ダメだ!君!頭を下げて! アリス:えっ?ええっ!? トランプ兵:ハートの女王は偉いんだ~♪ハートの女王は美しい~♪ 妖精:早く!早く!頭を下げて! アリス:どうして、頭を下げないといけないの? 妖精:それはね ハートの女王:(さえぎって)ごきげんよう アリス:あっ!ご、ごきげんよう トランプ兵:こら!お前!頭(ず)が高いぞ!ん?見ない顔だな ハートの女王:(さえぎって)いいのよ。あなた、名前は? アリス:私?私は、アリスだよ ハートの女王:アリス!アリスですって! トランプ兵:アリス…アリスなのか…アリス… アリス:ん?どうしたの?私は、アリスだけど? ハートの女王:ふっ…。ふふふ。アリス、良い名前ね。そうだ。お近づきの印(しるし)に、アレをあげましょう。トランプ兵! トランプ兵:はっ、はい!ほらっ、ありがたく受け取れ! ナレ:トランプ兵は、ハートの女王の顔写真のプリントされている麻袋(あさぶくろ)を、アリスに手渡した。 アリス:ん?この袋は?何が入ってるんですか? ハートの女王:クッキーよ。とっても美味しいクッキー アリス:ありがとうございます ハートの女王:では、私は、これで失礼するわね アリス:あっ、はい トランプ兵:(だんだん遠ざかるように)ハートの女王のお通りだ~♪ハートの女王のお通りだ~♪ 0:【間】 アリス:なんだったんだろう 妖精:ねぇ、もらった袋、吾輩にちょうだい アリス:え?ボルちゃん、クッキー好きなの? 妖精:クッキーは好きだけど アリス:じゃあ、半分こする?友達になったんだしさ。楽しいことはもちろんのこと、美味しいモノも半分こしよう 妖精:あのさ。まだ君と友達になった覚えはないよ?それと、袋の中身、全部、吾輩にくれないかな? アリス:どうして?半分こじゃダメなの? 妖精:毒が入ってるかも知れないからだよ! アリス:毒? 妖精:そう、毒! アリス:あんなに綺麗な人が、毒の入ったクッキーなんてくれるわけないでしょ! 妖精:ハートの女王は、見た目は確かに綺麗だけど、すっごく意地悪な奴なんだよ アリス:意地悪? 妖精:そう、意地悪! アリス:あぁ、なるほどね 妖精:ん? アリス:ボルちゃん、クッキーを一人で全部食べたいから、私をだまそうとしてるわけね 妖精:そんな嘘つくわけないだろ! アリス:何が真実かは、私は自分で確かめる。えっと… ナレ:あぁ!アリスは、麻袋の中からクッキーを一つ取り出し、それを口に入れてしまったよ! 妖精:わぁーっ!なんてことだ!アリスがクッキーを食べてしまった! 0:【注意】ここから、しばらくアリスは『あべこべの言葉』を喋ります! アリス:あっ、美味しくない 妖精:美味しくない?だろ?だから、早くそれを吐き出すんだ アリス:ちっとも美味しくない。あれ?ん?さらに、おかしなことはない 妖精:ん? アリス:おかしな事はない。ボルちゃんの言ってる事は嘘だった 妖精:嘘?嘘なんて言ってないよ アリス:ボルちゃんの言ってた事は間違いだった。助けないで 妖精:じゃあ、何も問題はなかったんだね アリス:助けないで。何もしなくていい 妖精:わかった。じゃあ、吾輩は、もう、行くね アリス:あっちにいけ!さっさと、あっちにいけ! 妖精:えっ?ひどい…。ひどいよ…。友達っていうモノは、友達の心を傷つけるモノだったんだね アリス:その通りだよ! 妖精:やっぱり、友達なんて、いらないや。さよなら アリス:待たないで!早く!早くあっちにいけ! 妖精:わかった…。さよなら ナレ:妖精は、積み木の家の中に入って、扉に鍵をかけてしまったよ アリス:ボルちゃーん! ナレ:アリスは、クッキーの入った麻袋を地面に叩きつけ、泣き出してしまったよ アリス:うっ…ぐすん…ううぅ…いい…こんなの、ステキ…このままでいい… アリス:ボルちゃん、ボルちゃん、ボルちゃーん! ナレ:おっと!そこに三月うさぎが猛烈な勢いで駆けてきた! 三月うさぎ:ビュビューン!ビュンビューン! アリス:あっ、あなたは? 三月うさぎ:あぁ!やっと見つけた!アリス! アリス:助けないで。おかしくないの。素直な言葉以外も喋れるの 三月うさぎ:ん?ん?ん? アリス:素直な言葉以外も喋れるから、助けないで! 三月うさぎ:アリスぅ、どこかで頭でもぶつけたのかい?君の言ってることは、意味不明だよ ナレ:アリスは、地面に投げつけた麻袋を拾い上げ、三月うさぎに見せた 三月うさぎ:ハートの女王の顔のプリントされている麻袋、中にはクッキー…。ままま、ま・さ・か! アリス:ううん。ううん 三月うさぎ:食べたんだね? アリス:食べてない 三月うさぎ:食べたんだよね? アリス:食べてない 三月うさぎ:はぁーっ。食べてないなら安心だ。ハートの女王のクッキーを食べてしまったが最後 三月うさぎ:体が小さくなったり、踊りをやめられなくなったり、あべこべの言葉しか言えなくなったり、そういった呪いにかかるからね アリス:そうじゃない!素直な言葉以外も喋れてるから、大丈夫!ううっ… 三月うさぎ:ん?どうして泣いてるの? アリス:助けないでよ 三月うさぎ:そんなことより、アリス。君に、行って欲しい場所があるんだ! アリス:助けないでよ!最後まで助けないでよ!行って欲しい場所にも行かないから! 三月うさぎ:えっ? アリス:助けないで!何もしないで! 三月うさぎ:あいおっ!僕はアリスを助けないし、何もしないよ。とにかく、僕についてきてほしいんだ アリス:ついていかない!ついていかないから、何もしないで! 三月うさぎ:わーっ!大変だ!大変だ!なんだか、今のアリスとの会話は、気持ち悪い!気持ち悪いよ! アリス:うっ…ぐすん…うぅっ… 三月うさぎ:どうして泣くのさ? アリス:全て分かってくれてるからだよ! 三月うさぎ:なんにも分からないよ! ナレ:おっと…?積み木の家の中で、二人の会話を聞いていた妖精が飛び出してきたよ アリス:あっ!ボルちゃん! 妖精:アリスは、きっと、あべこべの言葉しか言えなくなってるんだよ 三月うさぎ:えっ!なんだって!? 妖精:ハートの女王のクッキーを食べちゃったんだ 三月うさぎ:大変だ!大変だ! アリス:何もしなくていいよ 妖精:なんとかしてほしいんだね? アリス:何もしなくていい 三月うさぎ:何もしなくていいって言ってるよ? 妖精:言葉があべこべになってるから、なんとかしてほしいんだよ アリス:助けなくていい 三月うさぎ:ほらっ!助けなくていいって! 妖精:それも、あべこべだから、助けてほしいんだよ 三月うさぎ:ひーっ!ややこしい! 妖精:今のアリスを元に戻すには… 三月うさぎ:ん?どうして、僕を見るの?熱い視線で見つめるのさ?もしかして?もしかして? ナレ:妖精は、三月うさぎの頭の毛を強引に引き抜いてしまったよ 三月うさぎ:痛~い!も~う!何するのさ~! 妖精:そ~れっ! ナレ:妖精は、引き抜いた毛をアリスの頭に振りかけた! アリス:んんっ?あーあー。私は、アリス。私はアリス アリス:あーあー私は、アビス魔法学園の生徒。あーっ!元に戻ってる! 妖精:よかった 三月うさぎ:ん?ん?元に戻ったの?何も変わらないように見えるけど、元に戻ったの? アリス:うん。元に戻ったよ。ボルちゃん、助けてくれて、ありがとう 妖精:いえいえ 三月うさぎ:ちょっと!アリスを助けたのは、妖精じゃない。僕の頭の毛の力だよ! 三月うさぎ:つまり、アリスを助けたのは僕!まずは、僕にお礼を言ってもらわないとだよね! アリス:ふふっ。うさぎさん、ありがとう 三月うさぎ:あいおっ!あと、僕は、うさぎじゃなくて三月うさぎ!ちゃんと名前を覚えてよね! アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ アリス:そういえば、三月うさぎさん、私についてきて欲しい場所があるって? 三月うさぎ:え?僕、そんなこと言ってたっけ? アリス:うん。言ってた気がする 三月うさぎ:言ってた気がするってことは、気がするだけさ 妖精:じゃあ、三月うさぎは、ここに何をしにきたの? 三月うさぎ:えっと…。う~ん…。多分、ニンジンを探しにきたんだと思う アリス:ニンジン? 三月うさぎ:あいおっ!僕、ニンジンが大好きなんだ! 妖精:そういえば、アリスは、ここに何をしにきたの? アリス:私? 妖精:うん アリス:私はね。学園七不思議の一つ、不思議の部屋の秘密を暴きたかったの アリス:不思議の部屋には、『帽子屋』という謎の機械人形が閉じ込められていて アリス:帽子屋に会えば、『始まりの魔法』を覚えることができるという話だからさ 三月うさぎ:帽子屋!そう、帽子屋だよ! アリス:知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!帽子屋は、今、ハートの女王のお城の地下牢に閉じ込められてるんだ 三月うさぎ:だから、アリスに帽子屋を助けに行ってもらいたいんだ アリス:どうして、閉じ込められてるの? 三月うさぎ:そんなの知らないよ。でも、ハートの女王と戦えるのは、アリスだけだから! アリス:私だけ?でも、魔法の杖は、今、ウーナ先生に没収されて、魔法が使えない 妖精:アリス! アリス:ん?ボルちゃん?どうしたの? 妖精:魔法の杖がなくても、アリスは、魔法が使えるよ アリス:無理だよ。魔法っていうのはね。魔法の言葉を唱えただけじゃ使えないの アリス:魔法の杖を振らないと、使えないの! 妖精:そんなの誰が決めたのさ! 三月うさぎ:誰が決めたのさ! アリス:誰って…。学校で、そう教わってるから、そうなの! 妖精:学校で教わってることが、全部正しいの? 三月うさぎ:全部正しいの? アリス:だって、学校だよ!学校が間違ったことを教えるわけがない! 妖精:じゃあ、試してみなよ アリス:試す? 妖精:杖を使わずに、魔法の言葉だけで…。そうだなぁ。ニンジンを出してみてよ 三月うさぎ:ニンジン?ニンジンを出してくれるの?ニンジン、食べれるの? アリス:えっ?無理だよ。そんなの 三月うさぎ:ええ~っ!無理なの?ねぇ、無理なの? 妖精:アリス、やってもみないうちから、無理だって決めつけないで!自分の力を信じて! アリス:自分の力を信じる? 妖精:そう、自分の力を信じる!想いの力を信じる!心の中で具体的なニンジンのイメージをふくらませて! 三月うさぎ:ふぁ~っ…ニンジン、食べたいなぁ~… アリス:じゃあ、一度だけね。う~ん…。ニンジン…ニンジン… アリス:キャロヌ・プットゥ・ルカーハ・ジャッハ! ナレ:アリスが魔法の言葉を唱えると同時に、手のひらを地面に向かって振り下ろすと… ナレ:ニンジンが!そう、ニンジンが現れた! アリス:出た 三月うさぎ:わぁ~い!ニンジンだ!ニンジンだ!これ、僕のだからね!僕が最初に見つけたから、僕の! 三月うさぎ:だから、僕が食べるよ!食べちゃうよ?いっただきま~す!ムシャムシャムシャ… 妖精:ね?魔法の杖がなくても、魔法は使えただろ? アリス:うん。使えた。ボルちゃんの言う通りだった 三月うさぎ:わぁ~っ!美味しかった~っ!ごちそうさま~っ! アリス:あれ?もう食べちゃったの? 三月うさぎ:食べたよ。だから、もう一度ニンジンを出してよ! アリス:いいよ。それじゃあ 妖精:(さえぎって)ダメだよ! アリス:えっ?どうして? 妖精:魔力は、温存しておいた方がいい。これから、ハートの女王のお城に乗り込むならね 三月うさぎ:あっ!そうだ!ハートの女王のお城に行かなきゃだ!帽子屋を助けなきゃだ! アリス:三月うさぎさんは、帽子屋の友達なの? 三月うさぎ:あいおっ!友達さ! 妖精:友達? 三月うさぎ:あいおっ!友達さ! アリス:そうだよ。友達っていうモノはね。友達が困っていたら、助けるモノなんだよ 妖精:そうなの? アリス:そうだよ。そして、私は、どうしても『始まりの魔法』を覚えたいの 妖精:始まりの魔法って、何? アリス:ゼロから新しい魔法を作り出す魔法。どんなことでも出来る魔法 アリス:私はね。その魔法で、私が産まれてすぐに死んでしまったお母さんを、生き還らせたいの 妖精:そうなんだ。だったら、吾輩もついて行くよ アリス:えっ? 妖精:吾輩は、アリスの友達になるって決めた。だから、アリスを助ける 三月うさぎ:つまりつまり?妖精も、僕とアリスと一緒にハートの女王のお城に行ってくれるってこと? 妖精:そういうことだよ アリス:三月うさぎさん!妖精じゃなくて、ボルちゃんだよ 三月うさぎ:ボルちゃん? 妖精:そう。吾輩は、ボルちゃん 三月うさぎ:あいおっ!ボルちゃん! アリス:ちなみに、ハートの女王のお城の場所は、三月うさぎさんが知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!知ってるよ!僕についてくれば、大丈夫だよ。こっちこっち~!ビュビュ~ン! アリス:わかった。ボルちゃん、ついて行こう 妖精:うん! 0:【間】 ナレ:三月うさぎに案内され、アリスと妖精改めボルちゃんは、森の中を突き進んでゆく 三月うさぎ:ストップ! 妖精:ん? アリス:急に立ち止まって、どうしたの? 三月うさぎ:大変だ!大変だ! アリス:大変って、何が大変なの? 三月うさぎ:この道で合ってると思ってたんだけど、合ってない気もしてきた。大変だ!大変だ! アリス:えっ?それって、どういうこと? 妖精:あぁ…。多分、合ってるよ。この道で、合ってる 三月うさぎ:どうして、そんなこと分かるのさ? 妖精:だって、ここには、アリスがいるからね アリス:私がいる? 三月うさぎ:そうだね!そうだね!アリスがいる!アリスがいれば、道に迷うことはない! アリス:私がいれば、道に迷わないの? 妖精:そうだよ。アリスの進む道が、全て正解なんだよ 三月うさぎ:あいおっ!それが間違いでも、正解になっちゃう! 妖精:何しろ、ここは 三月うさぎ:不思議の部屋だからね! アリス:不思議の部屋? 0:【間】 ナレ:アリス一行は、道に迷うことなく、無事にハートの女王のお城へとたどり着く アリス:ここがハートの女王のお城? 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!ここがハートの女王のお城だよ! 妖精:扉は閉まってるね アリス:えっと、ここを開けて下さい!地下牢に閉じ込められている帽子屋を助けたいんです! 三月うさぎ:ええっ!そんな直球に目的を言って、扉を開けてもらえるわけっ?なっ?んんっ? 妖精:あ?扉が開いた トランプ兵:ついてこい!ハートの女王が、お茶会の準備をしてお待ちだ 三月うさぎ:あいおっ?お茶会!?嫌な予感~っ! 妖精:とりあえず、ついて行ってみようか? アリス:そ、そうだね 0:【間】 ナレ:白くて長いテーブル。それぞれの席にずらりと並んだ紅茶と砂糖とバラエティに富んだお茶菓子の数々 ナレ:そして、テーブルの一番奥には、ハートの女王が不敵な笑みを浮かべて、偉そうに座っているよ ハートの女王:ようこそ!私のお茶会へ!さささ、お席に座りなさい 妖精:座ろうか? アリス:うん 三月うさぎ:あいおっ! ハートの女王:ふふっ。いいわねぇ。お茶会。何年ぶりかしら…。ずっと前に、ここにきたアリスもね ハートの女王:私とお茶会をしてくれたのよ。だけど、魔法の杖を使って、私に、とんでもない呪いをかけてくれたのよ アリス:とんでもない呪い? ハートの女王:どんな呪いか知りたい?知りたいわよね?いいわ。教えてあげる 三月うさぎ:優しくなる呪いだろ? ハートの女王:(さえぎって)クッキーになりなさい! 三月うさぎ:うはっ! ナレ:なんてことだ!ハートの女王の振った杖の先から黒色の光が放たれ、その光に射抜かれた三月うさぎは ナレ:クッキーに姿を変えられてしまったよ! アリス:なっ、なんてことするの! 妖精:最悪だね ハートの女王:ふっ。私はね。私がお喋りをしている最中に、割り込んで喋られるとムカつくのよね! アリス:ムカついたからって、クッキーに変えちゃうなんて、ひどいよ! ハートの女王:ひどいって?何がよ?アリスもクッキーに変えられたいの? ハートの女王:知ってるわよ。今度のアリスは、魔法の杖を持っていない。魔法の杖がなければ、魔法は使えない ハートの女王:つまり、今度のアリスは、私に絶対に逆らえない。勝つことはできない ハートの女王:そういえば、私のプレゼントしたクッキーは食べなかったの? アリス:食べたよ ハートの女王:それは、嘘ね。食べたなら、あべこべの言葉しか言えないはず。今のアリスは、そう、普通に喋ることができている ハートの女王:つまり、クッキーを食べていない。だから、そばにあるクッキーを…。そう、三月うさぎクッキーを食べなさい アリス:食べない ハートの女王:食べなさい アリス:食べない ハートの女王:食べなさい!私の命令が聞けないの? アリス:聞かない。あんたの命令なんて聞かない 妖精:そうだ。こいつの命令なんて、聞く必要はない ハートの女王:そう、そこの妖精も、アリスと同じように、私に逆らう気なのね? ナレ:ハートの女王は、妖精に向けて杖を構えた。すると、アリスは、妖精をかばうようにして前に立ち、両手を広げた アリス:ボルちゃんには手出しさせない!私が守る! ハートの女王:ふん。魔法の杖もないのに、私に逆らおうっていうの? アリス:私は…友達を守る! ハートの女王:友達を守る?魔法を使えない弱いアリスに、何ができるの? アリス:あなたに、勝てる! ハートの女王:私に勝てる?勝てるわけがないでしょ!魔法が使えないのに、どうやって私に勝とうっていうの? アリス:勝てるかどうか、魔法が使えるかどうか、それは、あなたが決めることじゃない アリス:運命は、いつだって、私自身が決める! 妖精:よく言った!アリス!その通りだ! ハートの女王:はぁ…。アリスと楽しいお茶会がしたかったのだけど、興(きょう)が冷めたわ ハートの女王:あなたたちも三月うさぎと同じように、クッキーに変えてあげる ハートの女王:クッキーになりなさい! アリス:(さえぎって)バフィード・ファルム! ナレ:ハートの女王の振った杖の先から黒色の光が放たれるが、アリスはそれを手のひらで、かき消した ハートの女王:なっ、何よ?それ?魔法? 妖精:アリスはね。魔法の杖がなくても、魔法が使えるんだ ハートの女王:なんですって?そんなの、そんなの聞いてない。おかしいでしょ!ありえない!ありえないわ! アリス:ウィルラード・ドリアールド! ナレ:アリスが魔法を唱えると、お城の壁から蔦(つた)が現れ、ハートの女王の体を縛り上げた ハートの女王:なっ、なんなの!?うっ、動けない。どうして、こんなひどいことをするの? トランプ兵:はっ、ハートの女王! アリス:ウィルラード・ドリアールド! ナレ:アリスは、魔法でトランプ兵の体も蔦で縛り上げた。 トランプ兵:うっ、うわっ! アリス:大丈夫。その魔法、その蔦は、一時間で消えるから ハートの女王:ど、どうして、魔法の杖がないのに、魔法が? アリス:魔法はね。元々、私の中にあったんだよ。その力を信じていなかっただけで、確かに、それは、あったんだよ ハートの女王:意味がわからないわ 妖精:今のハートの女王には、わからないだろうね アリス:よしっ。三月うさぎさんも元に戻してあげる! アリス:ラーラ・フィルド・フェルナロル! ナレ:アリスが、クッキーに変えられた三月うさぎに向かって手をかざすと… 三月うさぎ:ビュビューン!ふぁーっ!ひっどい目に遭ったなぁ! 妖精:三月うさぎが元に戻った! 三月うさぎ:アリス、ありがと! アリス:ふふっ。どういたしまして 三月うさぎ:へへ~ん。ハートの女王、いいザマだね! ハートの女王:ひぃ~っ!くやしい~っ! 三月うさぎ:それじゃ。ひひひ ナレ:おおっ?三月うさぎは、ハートの女王の王冠にハメ込まれていた鍵を抜き取ったよ 三月うさぎ:これが、帽子屋が閉じ込められている地下牢の鍵さ。それじゃ、帽子屋を助けに行こう! アリス:うん! 0:【間】 ナレ:地下牢には、両手両足を鉄の手錠で拘束(こうそく)された帽子屋の姿があった 三月うさぎ:帽子屋、帽子屋ーっ!大丈夫かい? アリス:彼が、帽子屋なの? ナレ:三月うさぎは、牢の鍵を開けた 三月うさぎ:手錠もこの鍵で外せるみたい…。ほらっ!外れたよ! 0:【間】 三月うさぎ:おーい!帽子屋!おーい!あれ?ん?反応がない!大変だ!大変だ!反応がない! アリス:帽子屋!ねぇ、しっかりして!目を開けてよ! 0:【間】 妖精:うーん…。残念だけど、彼は、もう、死んでるね。心臓の音がしない 三月うさぎ:大変だ!大変だ!帽子屋が死んじゃった!帽子屋が死んじゃった! アリス:そ、そんな… 妖精:ねぇ、アリス、君の魔法で帽子屋を生き還らせることはできないの? アリス:無理だよ…。私は、学校で習ったことのある魔法しか使えない アリス:だから、『始まりの魔法』が欲しかったの 三月うさぎ:やだよ!やだよ!帽子屋ーっ!帽子屋ーっ!うわ~ん!生き還ってよぉ~っ! 妖精:アリス、習ったことがなくても、やってみてよ! アリス:でも、魔法の言葉がわからない 妖精:魔法を使うのに、本当に魔法の言葉は、必要なのかな? アリス:えっ? 妖精:魔法の言葉なんかなくても、想いの力で、君自身の行動で、奇跡は起こせるんじゃないのかな? アリス:想いの力で…私自身の行動で… 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!なんたって、君は、アリスなんだから! アリス:私は、アリス…。私は、私! アリス:『お願い!帽子屋を生き還らせたい!』 ナレ:アリスは、祈りを込めて帽子屋の額にキスをした… 帽子屋:んっ…。んんっ… 三月うさぎ:おっ、おおっ! 妖精:心臓の音がする! アリス:帽子屋が生き還った! 帽子屋:あれ?三月うさぎ?それから、妖精?ん?君は…うん。アリスだね アリス:帽子屋、私は、ずっとあなたに会いたかった 帽子屋:僕もだよ。僕もずっとアリスに会いたかった。君にまた会えるのを、ずっとずっと楽しみにしていた アリス:なんでだろう。初めて会うはずなのに、ずっと前から、あなたを知ってる気がする アリス:ずっと前から、あなたのことが大好きだった気がする 帽子屋:それは、気がするだけさ。きっと気のせいさ 三月うさぎ:ヒャヒャッ。よかったね!帽子屋!アリスに会えて! 帽子屋:あぁ。とても、そう、とても嬉しいよ 妖精:アリス、帽子屋に会えたんだ。始まりの魔法について聞かないのかい? アリス:聞かないよ 妖精:ん?それは、どうして? アリス:だって、始まりの魔法は、最初から… 0:【長い間】 ハートの女王:出来ないことを決めていたのは、誰なの? 三月うさぎ:学校かな?先生かな?友達かな? ハートの女王:正解や間違いを決めていたのは、誰なの? 三月うさぎ:学校かな?先生かな?友達かな? ハートの女王:目に見えている景色だけが、全てなの? 三月うさぎ:耳に入ってくる情報だけが、全てなの? 妖精:それは、本当に、君の目で見ている景色なのかな? 帽子屋:それは、本当に、君の耳で聴いている情報なのかな? 妖精:君の目は、どこを見ていて 帽子屋:君の耳は、何を聞いているの? ハートの女王:たった一度の人生を、たった一つの心を 三月うさぎ:誰かの、世界の『あたりまえ』に染め上げて 妖精:君の色を忘れていないかい? 帽子屋:とっても、ステキな色だったのに 妖精:君にしか出せない色だったのに 帽子屋:もったいないことをしてはいないかい? アリス:まだ、間に合う。きっと、間に合う 妖精:君の色で、君の心で輝くんだ 帽子屋:すべては、最初から アリス:そこにあるのだから… 0: 0:―了―

ナレ:ここは、アビス魔法学園。将来、記憶監視官やUMA保護員、マジックヒーローなどの人気職に就くために ナレ:生徒たちが魔法の勉強に励む学び舎(や)だよ ナレ:さて、学園では、もうすぐ期末試験がある。それなのに、あれれ~? ナレ:全く試験勉強をする気のない生徒がいるね ナレ:学園に飾られている壁画やオブジェ、怪しい場所に向かって、『封印解除』の魔法を唱えている ナレ:あぁ、彼女は、一年生の『アリス』だ アリス:アチマ・メフィプトゥ! ナレ:アチマ・メフィプトゥは、封印解除の魔法の中でも上級レベル。一年生でアレを唱えられるのは… ナレ:うん。彼女くらいだろうね。一体何をしているのかな? アリス:アチマ・メフィプトゥ!アチマ・メフィプトゥ! ウーナ:アリスさん!何をしているのですか? アリス:うわっ!ウーナ先生!これはこれは、ごきげんよう ウーナ:ごきげんよう。ではないです!何をしているのですか?私の質問に答えなさい アリス:あのっ、不思議の部屋を ウーナ:ありません アリス:不思議の部屋があると思うんです ウーナ:ありません! アリス:でも、学園七不思議として語られているからには、調査の必要があるかと ウーナ:(さえぎって)ありません!あのね、アリスさん。もうすぐ期末試験があることをお忘れですか? ウーナ:あなたのご学友の方々は、みなさん、今、必死にお勉強をされていますよ アリス:勉強よりも大事なことだと思うんです。そのっ、不思議の部屋の謎を解き明かすことの方が ウーナ:わかりました。その杖は、没収(ぼっしゅう)させていただきますね アリス:えっ!? ウーナ:トゥーシャル・ビュッシ! アリス:あっ!私の杖が! ウーナ:試験期間が終われば、お返しします アリス:ええーっ!でも、実技試験では杖が! ウーナ:今回の期末試験では、実技試験はありません。筆記だけです アリス:そ、そうでしたね ウーナ:そうです。だから、さぁ、すぐにご自分のお部屋に戻って、試験に向けた勉強をして下さい アリス:わ、わかりました 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスの杖が消されちゃった!アリスの杖が消されちゃった! アリス:ん?タキシードを着たうさぎ? ウーナ:アリスさん?どうしたの? アリス:(M)え?ウーナ先生には見えてない? 三月うさぎ:当たり前さ!この世界で、僕の姿が見えるのは、アリスだけさ! アリス:うわっ! ウーナ:なんですか!はしたない声を上げて! アリス:ごっ、ごめんなさい。勉強をするので部屋に戻ります! ウーナ:あ、はい…。ん? 0:【間】 ナレ:おや?アリスは、三月うさぎの首根っこを指でつまんで、トイレに入り、個室に駆け込んでいったよ アリス:なっ、なんなの?あなたは 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:わかった。その三月うさぎは、どうして私にしか見えないの? 三月うさぎ:あいおっ!それは、君がアリスだからさ!アリスだけが、この世界で不思議の部屋のクリーチャーを見ることができる! アリス:確かに、私の名前はアリスだけど 三月うさぎ:アリスには、不思議の部屋に入る必要がある! アリス:えっ?不思議の部屋!?まさか!あなた!不思議の部屋が、どこにあるのか知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!ヒャヒャッw不思議の部屋に、入りたいよね?入りたいよね? アリス:入りたい! 三月うさぎ:あいおっ!それじゃ、どこでもいいから壁に触れて アリス:あっ!でも、私、今、杖がないから封印解除の魔法を使えないよ? 三月うさぎ:ヒャヒャッw杖なんかなくても、アリスは魔法が使えるし、不思議の部屋に入れる! アリス:えっ?杖がないと無理だよ 三月うさぎ:いいから!いいから!どこでもいい。壁に触れて、『不思議の部屋に入りたい』って願ってみてよ! アリス:うん…。わかった ナレ:おやおや?アリスは、三月うさぎの言葉のままに、壁に触れた アリス:不思議の部屋に入りたい! ナレ:おおっ!アリスの体は、シュシュシュシュシューッと小さくなって、壁の中に吸い込まれてしまったよ! アリス:キャーッ! 三月うさぎ:ヒャヒャッw 0: ナレ:―タイトルコール・魔法の国のアリス― 0: ナレ:ここは、不思議の部屋。どうして、ここが不思議の部屋なのか?ふふっ… ナレ:それは、すぐに分かるかも知れないし、永遠に分からないかも知れない… アリス:んっ…んんっ…ここは、どこなの?あれは…積み木の家?あっ?妖精が飛んでる 妖精:わーっ!誰かきた!誰かきた! アリス:えっと、妖精だよね? 妖精:妖精? アリス:そう、あなた、妖精だよね? 妖精:妖精?妖精って、吾輩のこと? アリス:そうよ。だって、体が私の親指ほどの大きさだし、透明な羽もついてるから 妖精:体が君の親指ほどの大きさで、透明の羽がついてたなら、妖精なの? アリス:妖精じゃないの? 妖精:吾輩には、ボルニャンスキーという名前と役割が与えられている アリス:ボルニャ? 妖精:ボルニャンスキーだよ アリス:ボルちゃんでいい? 妖精:ボルちゃん? アリス:だって、その方が呼び易いし、友達になれそうな気がするから 妖精:友達? アリス:そう、友達! 妖精:友達って、何? アリス:あなた、友達を知らないの? 妖精:知らない アリス:だったら、私がボルちゃんの友達になってあげる 妖精:それは、遠慮しとくよ。吾輩は、別に、友達なんて訳のわからないモノはいらない アリス:訳のわからないモノじゃないよ。友達って、とっても良いモノなんだよ 妖精:なんか、ずっと、そう、ずっと遠い昔に、君と同じことを言ってる子に出会った気がする アリス:えっ?そうなの? 妖精:うん。でも、思い出せないんだ アリス:そっか…。その子って、どんな子だったんだろう ナレ:おっと?遠くから、ハートの女王が、トランプ兵たちを引き連れて、こちらに向かってくるよ トランプ兵:ハートの女王のお通りだ~♪ハートの女王のお通りだ~♪ トランプ兵:全ての道をあけるんだ~♪全ての道はハートの女王のために~♪ アリス:なっ、なんなの? 妖精:ダメだ!君!頭を下げて! アリス:えっ?ええっ!? トランプ兵:ハートの女王は偉いんだ~♪ハートの女王は美しい~♪ 妖精:早く!早く!頭を下げて! アリス:どうして、頭を下げないといけないの? 妖精:それはね ハートの女王:(さえぎって)ごきげんよう アリス:あっ!ご、ごきげんよう トランプ兵:こら!お前!頭(ず)が高いぞ!ん?見ない顔だな ハートの女王:(さえぎって)いいのよ。あなた、名前は? アリス:私?私は、アリスだよ ハートの女王:アリス!アリスですって! トランプ兵:アリス…アリスなのか…アリス… アリス:ん?どうしたの?私は、アリスだけど? ハートの女王:ふっ…。ふふふ。アリス、良い名前ね。そうだ。お近づきの印(しるし)に、アレをあげましょう。トランプ兵! トランプ兵:はっ、はい!ほらっ、ありがたく受け取れ! ナレ:トランプ兵は、ハートの女王の顔写真のプリントされている麻袋(あさぶくろ)を、アリスに手渡した。 アリス:ん?この袋は?何が入ってるんですか? ハートの女王:クッキーよ。とっても美味しいクッキー アリス:ありがとうございます ハートの女王:では、私は、これで失礼するわね アリス:あっ、はい トランプ兵:(だんだん遠ざかるように)ハートの女王のお通りだ~♪ハートの女王のお通りだ~♪ 0:【間】 アリス:なんだったんだろう 妖精:ねぇ、もらった袋、吾輩にちょうだい アリス:え?ボルちゃん、クッキー好きなの? 妖精:クッキーは好きだけど アリス:じゃあ、半分こする?友達になったんだしさ。楽しいことはもちろんのこと、美味しいモノも半分こしよう 妖精:あのさ。まだ君と友達になった覚えはないよ?それと、袋の中身、全部、吾輩にくれないかな? アリス:どうして?半分こじゃダメなの? 妖精:毒が入ってるかも知れないからだよ! アリス:毒? 妖精:そう、毒! アリス:あんなに綺麗な人が、毒の入ったクッキーなんてくれるわけないでしょ! 妖精:ハートの女王は、見た目は確かに綺麗だけど、すっごく意地悪な奴なんだよ アリス:意地悪? 妖精:そう、意地悪! アリス:あぁ、なるほどね 妖精:ん? アリス:ボルちゃん、クッキーを一人で全部食べたいから、私をだまそうとしてるわけね 妖精:そんな嘘つくわけないだろ! アリス:何が真実かは、私は自分で確かめる。えっと… ナレ:あぁ!アリスは、麻袋の中からクッキーを一つ取り出し、それを口に入れてしまったよ! 妖精:わぁーっ!なんてことだ!アリスがクッキーを食べてしまった! 0:【注意】ここから、しばらくアリスは『あべこべの言葉』を喋ります! アリス:あっ、美味しくない 妖精:美味しくない?だろ?だから、早くそれを吐き出すんだ アリス:ちっとも美味しくない。あれ?ん?さらに、おかしなことはない 妖精:ん? アリス:おかしな事はない。ボルちゃんの言ってる事は嘘だった 妖精:嘘?嘘なんて言ってないよ アリス:ボルちゃんの言ってた事は間違いだった。助けないで 妖精:じゃあ、何も問題はなかったんだね アリス:助けないで。何もしなくていい 妖精:わかった。じゃあ、吾輩は、もう、行くね アリス:あっちにいけ!さっさと、あっちにいけ! 妖精:えっ?ひどい…。ひどいよ…。友達っていうモノは、友達の心を傷つけるモノだったんだね アリス:その通りだよ! 妖精:やっぱり、友達なんて、いらないや。さよなら アリス:待たないで!早く!早くあっちにいけ! 妖精:わかった…。さよなら ナレ:妖精は、積み木の家の中に入って、扉に鍵をかけてしまったよ アリス:ボルちゃーん! ナレ:アリスは、クッキーの入った麻袋を地面に叩きつけ、泣き出してしまったよ アリス:うっ…ぐすん…ううぅ…いい…こんなの、ステキ…このままでいい… アリス:ボルちゃん、ボルちゃん、ボルちゃーん! ナレ:おっと!そこに三月うさぎが猛烈な勢いで駆けてきた! 三月うさぎ:ビュビューン!ビュンビューン! アリス:あっ、あなたは? 三月うさぎ:あぁ!やっと見つけた!アリス! アリス:助けないで。おかしくないの。素直な言葉以外も喋れるの 三月うさぎ:ん?ん?ん? アリス:素直な言葉以外も喋れるから、助けないで! 三月うさぎ:アリスぅ、どこかで頭でもぶつけたのかい?君の言ってることは、意味不明だよ ナレ:アリスは、地面に投げつけた麻袋を拾い上げ、三月うさぎに見せた 三月うさぎ:ハートの女王の顔のプリントされている麻袋、中にはクッキー…。ままま、ま・さ・か! アリス:ううん。ううん 三月うさぎ:食べたんだね? アリス:食べてない 三月うさぎ:食べたんだよね? アリス:食べてない 三月うさぎ:はぁーっ。食べてないなら安心だ。ハートの女王のクッキーを食べてしまったが最後 三月うさぎ:体が小さくなったり、踊りをやめられなくなったり、あべこべの言葉しか言えなくなったり、そういった呪いにかかるからね アリス:そうじゃない!素直な言葉以外も喋れてるから、大丈夫!ううっ… 三月うさぎ:ん?どうして泣いてるの? アリス:助けないでよ 三月うさぎ:そんなことより、アリス。君に、行って欲しい場所があるんだ! アリス:助けないでよ!最後まで助けないでよ!行って欲しい場所にも行かないから! 三月うさぎ:えっ? アリス:助けないで!何もしないで! 三月うさぎ:あいおっ!僕はアリスを助けないし、何もしないよ。とにかく、僕についてきてほしいんだ アリス:ついていかない!ついていかないから、何もしないで! 三月うさぎ:わーっ!大変だ!大変だ!なんだか、今のアリスとの会話は、気持ち悪い!気持ち悪いよ! アリス:うっ…ぐすん…うぅっ… 三月うさぎ:どうして泣くのさ? アリス:全て分かってくれてるからだよ! 三月うさぎ:なんにも分からないよ! ナレ:おっと…?積み木の家の中で、二人の会話を聞いていた妖精が飛び出してきたよ アリス:あっ!ボルちゃん! 妖精:アリスは、きっと、あべこべの言葉しか言えなくなってるんだよ 三月うさぎ:えっ!なんだって!? 妖精:ハートの女王のクッキーを食べちゃったんだ 三月うさぎ:大変だ!大変だ! アリス:何もしなくていいよ 妖精:なんとかしてほしいんだね? アリス:何もしなくていい 三月うさぎ:何もしなくていいって言ってるよ? 妖精:言葉があべこべになってるから、なんとかしてほしいんだよ アリス:助けなくていい 三月うさぎ:ほらっ!助けなくていいって! 妖精:それも、あべこべだから、助けてほしいんだよ 三月うさぎ:ひーっ!ややこしい! 妖精:今のアリスを元に戻すには… 三月うさぎ:ん?どうして、僕を見るの?熱い視線で見つめるのさ?もしかして?もしかして? ナレ:妖精は、三月うさぎの頭の毛を強引に引き抜いてしまったよ 三月うさぎ:痛~い!も~う!何するのさ~! 妖精:そ~れっ! ナレ:妖精は、引き抜いた毛をアリスの頭に振りかけた! アリス:んんっ?あーあー。私は、アリス。私はアリス アリス:あーあー私は、アビス魔法学園の生徒。あーっ!元に戻ってる! 妖精:よかった 三月うさぎ:ん?ん?元に戻ったの?何も変わらないように見えるけど、元に戻ったの? アリス:うん。元に戻ったよ。ボルちゃん、助けてくれて、ありがとう 妖精:いえいえ 三月うさぎ:ちょっと!アリスを助けたのは、妖精じゃない。僕の頭の毛の力だよ! 三月うさぎ:つまり、アリスを助けたのは僕!まずは、僕にお礼を言ってもらわないとだよね! アリス:ふふっ。うさぎさん、ありがとう 三月うさぎ:あいおっ!あと、僕は、うさぎじゃなくて三月うさぎ!ちゃんと名前を覚えてよね! アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ アリス:そういえば、三月うさぎさん、私についてきて欲しい場所があるって? 三月うさぎ:え?僕、そんなこと言ってたっけ? アリス:うん。言ってた気がする 三月うさぎ:言ってた気がするってことは、気がするだけさ 妖精:じゃあ、三月うさぎは、ここに何をしにきたの? 三月うさぎ:えっと…。う~ん…。多分、ニンジンを探しにきたんだと思う アリス:ニンジン? 三月うさぎ:あいおっ!僕、ニンジンが大好きなんだ! 妖精:そういえば、アリスは、ここに何をしにきたの? アリス:私? 妖精:うん アリス:私はね。学園七不思議の一つ、不思議の部屋の秘密を暴きたかったの アリス:不思議の部屋には、『帽子屋』という謎の機械人形が閉じ込められていて アリス:帽子屋に会えば、『始まりの魔法』を覚えることができるという話だからさ 三月うさぎ:帽子屋!そう、帽子屋だよ! アリス:知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!帽子屋は、今、ハートの女王のお城の地下牢に閉じ込められてるんだ 三月うさぎ:だから、アリスに帽子屋を助けに行ってもらいたいんだ アリス:どうして、閉じ込められてるの? 三月うさぎ:そんなの知らないよ。でも、ハートの女王と戦えるのは、アリスだけだから! アリス:私だけ?でも、魔法の杖は、今、ウーナ先生に没収されて、魔法が使えない 妖精:アリス! アリス:ん?ボルちゃん?どうしたの? 妖精:魔法の杖がなくても、アリスは、魔法が使えるよ アリス:無理だよ。魔法っていうのはね。魔法の言葉を唱えただけじゃ使えないの アリス:魔法の杖を振らないと、使えないの! 妖精:そんなの誰が決めたのさ! 三月うさぎ:誰が決めたのさ! アリス:誰って…。学校で、そう教わってるから、そうなの! 妖精:学校で教わってることが、全部正しいの? 三月うさぎ:全部正しいの? アリス:だって、学校だよ!学校が間違ったことを教えるわけがない! 妖精:じゃあ、試してみなよ アリス:試す? 妖精:杖を使わずに、魔法の言葉だけで…。そうだなぁ。ニンジンを出してみてよ 三月うさぎ:ニンジン?ニンジンを出してくれるの?ニンジン、食べれるの? アリス:えっ?無理だよ。そんなの 三月うさぎ:ええ~っ!無理なの?ねぇ、無理なの? 妖精:アリス、やってもみないうちから、無理だって決めつけないで!自分の力を信じて! アリス:自分の力を信じる? 妖精:そう、自分の力を信じる!想いの力を信じる!心の中で具体的なニンジンのイメージをふくらませて! 三月うさぎ:ふぁ~っ…ニンジン、食べたいなぁ~… アリス:じゃあ、一度だけね。う~ん…。ニンジン…ニンジン… アリス:キャロヌ・プットゥ・ルカーハ・ジャッハ! ナレ:アリスが魔法の言葉を唱えると同時に、手のひらを地面に向かって振り下ろすと… ナレ:ニンジンが!そう、ニンジンが現れた! アリス:出た 三月うさぎ:わぁ~い!ニンジンだ!ニンジンだ!これ、僕のだからね!僕が最初に見つけたから、僕の! 三月うさぎ:だから、僕が食べるよ!食べちゃうよ?いっただきま~す!ムシャムシャムシャ… 妖精:ね?魔法の杖がなくても、魔法は使えただろ? アリス:うん。使えた。ボルちゃんの言う通りだった 三月うさぎ:わぁ~っ!美味しかった~っ!ごちそうさま~っ! アリス:あれ?もう食べちゃったの? 三月うさぎ:食べたよ。だから、もう一度ニンジンを出してよ! アリス:いいよ。それじゃあ 妖精:(さえぎって)ダメだよ! アリス:えっ?どうして? 妖精:魔力は、温存しておいた方がいい。これから、ハートの女王のお城に乗り込むならね 三月うさぎ:あっ!そうだ!ハートの女王のお城に行かなきゃだ!帽子屋を助けなきゃだ! アリス:三月うさぎさんは、帽子屋の友達なの? 三月うさぎ:あいおっ!友達さ! 妖精:友達? 三月うさぎ:あいおっ!友達さ! アリス:そうだよ。友達っていうモノはね。友達が困っていたら、助けるモノなんだよ 妖精:そうなの? アリス:そうだよ。そして、私は、どうしても『始まりの魔法』を覚えたいの 妖精:始まりの魔法って、何? アリス:ゼロから新しい魔法を作り出す魔法。どんなことでも出来る魔法 アリス:私はね。その魔法で、私が産まれてすぐに死んでしまったお母さんを、生き還らせたいの 妖精:そうなんだ。だったら、吾輩もついて行くよ アリス:えっ? 妖精:吾輩は、アリスの友達になるって決めた。だから、アリスを助ける 三月うさぎ:つまりつまり?妖精も、僕とアリスと一緒にハートの女王のお城に行ってくれるってこと? 妖精:そういうことだよ アリス:三月うさぎさん!妖精じゃなくて、ボルちゃんだよ 三月うさぎ:ボルちゃん? 妖精:そう。吾輩は、ボルちゃん 三月うさぎ:あいおっ!ボルちゃん! アリス:ちなみに、ハートの女王のお城の場所は、三月うさぎさんが知ってるの? 三月うさぎ:あいおっ!知ってるよ!僕についてくれば、大丈夫だよ。こっちこっち~!ビュビュ~ン! アリス:わかった。ボルちゃん、ついて行こう 妖精:うん! 0:【間】 ナレ:三月うさぎに案内され、アリスと妖精改めボルちゃんは、森の中を突き進んでゆく 三月うさぎ:ストップ! 妖精:ん? アリス:急に立ち止まって、どうしたの? 三月うさぎ:大変だ!大変だ! アリス:大変って、何が大変なの? 三月うさぎ:この道で合ってると思ってたんだけど、合ってない気もしてきた。大変だ!大変だ! アリス:えっ?それって、どういうこと? 妖精:あぁ…。多分、合ってるよ。この道で、合ってる 三月うさぎ:どうして、そんなこと分かるのさ? 妖精:だって、ここには、アリスがいるからね アリス:私がいる? 三月うさぎ:そうだね!そうだね!アリスがいる!アリスがいれば、道に迷うことはない! アリス:私がいれば、道に迷わないの? 妖精:そうだよ。アリスの進む道が、全て正解なんだよ 三月うさぎ:あいおっ!それが間違いでも、正解になっちゃう! 妖精:何しろ、ここは 三月うさぎ:不思議の部屋だからね! アリス:不思議の部屋? 0:【間】 ナレ:アリス一行は、道に迷うことなく、無事にハートの女王のお城へとたどり着く アリス:ここがハートの女王のお城? 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!ここがハートの女王のお城だよ! 妖精:扉は閉まってるね アリス:えっと、ここを開けて下さい!地下牢に閉じ込められている帽子屋を助けたいんです! 三月うさぎ:ええっ!そんな直球に目的を言って、扉を開けてもらえるわけっ?なっ?んんっ? 妖精:あ?扉が開いた トランプ兵:ついてこい!ハートの女王が、お茶会の準備をしてお待ちだ 三月うさぎ:あいおっ?お茶会!?嫌な予感~っ! 妖精:とりあえず、ついて行ってみようか? アリス:そ、そうだね 0:【間】 ナレ:白くて長いテーブル。それぞれの席にずらりと並んだ紅茶と砂糖とバラエティに富んだお茶菓子の数々 ナレ:そして、テーブルの一番奥には、ハートの女王が不敵な笑みを浮かべて、偉そうに座っているよ ハートの女王:ようこそ!私のお茶会へ!さささ、お席に座りなさい 妖精:座ろうか? アリス:うん 三月うさぎ:あいおっ! ハートの女王:ふふっ。いいわねぇ。お茶会。何年ぶりかしら…。ずっと前に、ここにきたアリスもね ハートの女王:私とお茶会をしてくれたのよ。だけど、魔法の杖を使って、私に、とんでもない呪いをかけてくれたのよ アリス:とんでもない呪い? ハートの女王:どんな呪いか知りたい?知りたいわよね?いいわ。教えてあげる 三月うさぎ:優しくなる呪いだろ? ハートの女王:(さえぎって)クッキーになりなさい! 三月うさぎ:うはっ! ナレ:なんてことだ!ハートの女王の振った杖の先から黒色の光が放たれ、その光に射抜かれた三月うさぎは ナレ:クッキーに姿を変えられてしまったよ! アリス:なっ、なんてことするの! 妖精:最悪だね ハートの女王:ふっ。私はね。私がお喋りをしている最中に、割り込んで喋られるとムカつくのよね! アリス:ムカついたからって、クッキーに変えちゃうなんて、ひどいよ! ハートの女王:ひどいって?何がよ?アリスもクッキーに変えられたいの? ハートの女王:知ってるわよ。今度のアリスは、魔法の杖を持っていない。魔法の杖がなければ、魔法は使えない ハートの女王:つまり、今度のアリスは、私に絶対に逆らえない。勝つことはできない ハートの女王:そういえば、私のプレゼントしたクッキーは食べなかったの? アリス:食べたよ ハートの女王:それは、嘘ね。食べたなら、あべこべの言葉しか言えないはず。今のアリスは、そう、普通に喋ることができている ハートの女王:つまり、クッキーを食べていない。だから、そばにあるクッキーを…。そう、三月うさぎクッキーを食べなさい アリス:食べない ハートの女王:食べなさい アリス:食べない ハートの女王:食べなさい!私の命令が聞けないの? アリス:聞かない。あんたの命令なんて聞かない 妖精:そうだ。こいつの命令なんて、聞く必要はない ハートの女王:そう、そこの妖精も、アリスと同じように、私に逆らう気なのね? ナレ:ハートの女王は、妖精に向けて杖を構えた。すると、アリスは、妖精をかばうようにして前に立ち、両手を広げた アリス:ボルちゃんには手出しさせない!私が守る! ハートの女王:ふん。魔法の杖もないのに、私に逆らおうっていうの? アリス:私は…友達を守る! ハートの女王:友達を守る?魔法を使えない弱いアリスに、何ができるの? アリス:あなたに、勝てる! ハートの女王:私に勝てる?勝てるわけがないでしょ!魔法が使えないのに、どうやって私に勝とうっていうの? アリス:勝てるかどうか、魔法が使えるかどうか、それは、あなたが決めることじゃない アリス:運命は、いつだって、私自身が決める! 妖精:よく言った!アリス!その通りだ! ハートの女王:はぁ…。アリスと楽しいお茶会がしたかったのだけど、興(きょう)が冷めたわ ハートの女王:あなたたちも三月うさぎと同じように、クッキーに変えてあげる ハートの女王:クッキーになりなさい! アリス:(さえぎって)バフィード・ファルム! ナレ:ハートの女王の振った杖の先から黒色の光が放たれるが、アリスはそれを手のひらで、かき消した ハートの女王:なっ、何よ?それ?魔法? 妖精:アリスはね。魔法の杖がなくても、魔法が使えるんだ ハートの女王:なんですって?そんなの、そんなの聞いてない。おかしいでしょ!ありえない!ありえないわ! アリス:ウィルラード・ドリアールド! ナレ:アリスが魔法を唱えると、お城の壁から蔦(つた)が現れ、ハートの女王の体を縛り上げた ハートの女王:なっ、なんなの!?うっ、動けない。どうして、こんなひどいことをするの? トランプ兵:はっ、ハートの女王! アリス:ウィルラード・ドリアールド! ナレ:アリスは、魔法でトランプ兵の体も蔦で縛り上げた。 トランプ兵:うっ、うわっ! アリス:大丈夫。その魔法、その蔦は、一時間で消えるから ハートの女王:ど、どうして、魔法の杖がないのに、魔法が? アリス:魔法はね。元々、私の中にあったんだよ。その力を信じていなかっただけで、確かに、それは、あったんだよ ハートの女王:意味がわからないわ 妖精:今のハートの女王には、わからないだろうね アリス:よしっ。三月うさぎさんも元に戻してあげる! アリス:ラーラ・フィルド・フェルナロル! ナレ:アリスが、クッキーに変えられた三月うさぎに向かって手をかざすと… 三月うさぎ:ビュビューン!ふぁーっ!ひっどい目に遭ったなぁ! 妖精:三月うさぎが元に戻った! 三月うさぎ:アリス、ありがと! アリス:ふふっ。どういたしまして 三月うさぎ:へへ~ん。ハートの女王、いいザマだね! ハートの女王:ひぃ~っ!くやしい~っ! 三月うさぎ:それじゃ。ひひひ ナレ:おおっ?三月うさぎは、ハートの女王の王冠にハメ込まれていた鍵を抜き取ったよ 三月うさぎ:これが、帽子屋が閉じ込められている地下牢の鍵さ。それじゃ、帽子屋を助けに行こう! アリス:うん! 0:【間】 ナレ:地下牢には、両手両足を鉄の手錠で拘束(こうそく)された帽子屋の姿があった 三月うさぎ:帽子屋、帽子屋ーっ!大丈夫かい? アリス:彼が、帽子屋なの? ナレ:三月うさぎは、牢の鍵を開けた 三月うさぎ:手錠もこの鍵で外せるみたい…。ほらっ!外れたよ! 0:【間】 三月うさぎ:おーい!帽子屋!おーい!あれ?ん?反応がない!大変だ!大変だ!反応がない! アリス:帽子屋!ねぇ、しっかりして!目を開けてよ! 0:【間】 妖精:うーん…。残念だけど、彼は、もう、死んでるね。心臓の音がしない 三月うさぎ:大変だ!大変だ!帽子屋が死んじゃった!帽子屋が死んじゃった! アリス:そ、そんな… 妖精:ねぇ、アリス、君の魔法で帽子屋を生き還らせることはできないの? アリス:無理だよ…。私は、学校で習ったことのある魔法しか使えない アリス:だから、『始まりの魔法』が欲しかったの 三月うさぎ:やだよ!やだよ!帽子屋ーっ!帽子屋ーっ!うわ~ん!生き還ってよぉ~っ! 妖精:アリス、習ったことがなくても、やってみてよ! アリス:でも、魔法の言葉がわからない 妖精:魔法を使うのに、本当に魔法の言葉は、必要なのかな? アリス:えっ? 妖精:魔法の言葉なんかなくても、想いの力で、君自身の行動で、奇跡は起こせるんじゃないのかな? アリス:想いの力で…私自身の行動で… 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!なんたって、君は、アリスなんだから! アリス:私は、アリス…。私は、私! アリス:『お願い!帽子屋を生き還らせたい!』 ナレ:アリスは、祈りを込めて帽子屋の額にキスをした… 帽子屋:んっ…。んんっ… 三月うさぎ:おっ、おおっ! 妖精:心臓の音がする! アリス:帽子屋が生き還った! 帽子屋:あれ?三月うさぎ?それから、妖精?ん?君は…うん。アリスだね アリス:帽子屋、私は、ずっとあなたに会いたかった 帽子屋:僕もだよ。僕もずっとアリスに会いたかった。君にまた会えるのを、ずっとずっと楽しみにしていた アリス:なんでだろう。初めて会うはずなのに、ずっと前から、あなたを知ってる気がする アリス:ずっと前から、あなたのことが大好きだった気がする 帽子屋:それは、気がするだけさ。きっと気のせいさ 三月うさぎ:ヒャヒャッ。よかったね!帽子屋!アリスに会えて! 帽子屋:あぁ。とても、そう、とても嬉しいよ 妖精:アリス、帽子屋に会えたんだ。始まりの魔法について聞かないのかい? アリス:聞かないよ 妖精:ん?それは、どうして? アリス:だって、始まりの魔法は、最初から… 0:【長い間】 ハートの女王:出来ないことを決めていたのは、誰なの? 三月うさぎ:学校かな?先生かな?友達かな? ハートの女王:正解や間違いを決めていたのは、誰なの? 三月うさぎ:学校かな?先生かな?友達かな? ハートの女王:目に見えている景色だけが、全てなの? 三月うさぎ:耳に入ってくる情報だけが、全てなの? 妖精:それは、本当に、君の目で見ている景色なのかな? 帽子屋:それは、本当に、君の耳で聴いている情報なのかな? 妖精:君の目は、どこを見ていて 帽子屋:君の耳は、何を聞いているの? ハートの女王:たった一度の人生を、たった一つの心を 三月うさぎ:誰かの、世界の『あたりまえ』に染め上げて 妖精:君の色を忘れていないかい? 帽子屋:とっても、ステキな色だったのに 妖精:君にしか出せない色だったのに 帽子屋:もったいないことをしてはいないかい? アリス:まだ、間に合う。きっと、間に合う 妖精:君の色で、君の心で輝くんだ 帽子屋:すべては、最初から アリス:そこにあるのだから… 0: 0:―了―