台本概要

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タイトル 猫魔王さま
作者名 ヒデじい  (@taltal3014s)
ジャンル コメディ
演者人数 3人用台本(男1 女1 不問1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 なぜか魔王をやっている猫さんの話

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
猫魔王 不問 58 なぜか魔王をやっている猫
サブ 60 魔王様の有能な部下
勇者 43 10年旅をしている苦労人の女勇者
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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サブ:魔王様! 一大事でございます! 猫魔王:んー? どうしたのニャ……? 我輩は今、ゴロゴロするので忙しいニャ。 サブ:ついに……ついに奴がこの城に攻めてきました。 猫魔王:誰が来たのニャ……? サブ:ついに来たのです。そう、勇者が……! 猫魔王:ニャんと!? くっくっくっ……ようやく来たか、勇者よ……! 猫魔王:この十年、待ちくたびれてしまったぞ……おかげでちょっぴり年を取ってしまったニャ……! サブ:長い年月でしたな……。 猫魔王:うむ、十年前に見た、奴の写真に一目惚れして以来、幾年月。 猫魔王:来る日も来る日も玉座に座って待っていたかいがあったニャ……! サブ:毎日毎日、わくわくソワソワして待っていましたからな。 猫魔王:しかし、時間が経ちすぎて、以前に考えていたカッコいいセリフを忘れてしまったニャ……。 サブ:魔王様、ここにカンペを用意しております。ふりがなも振っておきました! 猫魔王:フッフッフッ、相変わらず仕事が出来るでは無いか、サブよ。 猫魔王:  猫魔王:  0:サブ、配下の魔物から報告を受ける サブ:ふむ。なになに……。魔王さま、只今玄関に誰かが現れたとご報告が! 猫魔王:くーっくっくっくっ、来たか! 我輩自ら出迎えてやろう! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:魔王、玄関前に颯爽と登場 猫魔王:ふあーっはっはっはっ! よく来たニャ……勇者よ!! 我輩は猫魔王様! 貴様ら人間は何ゆえもがき苦しむのか? 我輩がその苦しみを取り除き、貴様を闇へと葬り去ってやろう!! 猫魔王:……え? 人違い? あ、宅配便の方でしたかニャ……。なるほど、おばあちゃんからニシンのパイの差し入れが……。お、おほん。サインで良いですかニャ? サブ:あ、魔王様は字が書けないので、私が代わりに書きましょう。サラサラっと……。 猫魔王:ご、ご苦労さまですニャー……。  猫魔王:……うう、とんだ赤っ恥だったニャ! サブ:申し訳ありません……。しかし、城の近くで勇者を見かけたという報告が複数上がっております。 サブ:おそらく、近いうちに姿を現すかと。 猫魔王:ニャるほど、緊張してきたニャ……。 サブ:魔王様、ここは万全を期し、『闇の儀式』を行っておきましょう。 猫魔王:ほう、良い提案ではニャいか。うむ、戦いの前に生贄から魔力を補給しておくニャ……! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、魔王城内にて 勇者:ふう……ついに魔王城まで来たわね……。思えば十年、長い道のりだったわ。 勇者:おかげでだいぶ年を取ってしまったじゃない……。うう、私の青春……。 勇者:でも、その苦労も今日ここまで。ここでケリを付けてみせる! 勇者:あ、見つけたわ……! あれが魔王ね! 勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、儀式の間にて円卓を囲んでいる 猫魔王:くっくっくっ……サブよ、今日の生贄を持ってくるが良い。 サブ:ハッ! お母様特製のプリンでございます。 猫魔王:おお、戦いの前にはこれに限るニャ! 美味しそうだニャ! 猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、物陰に隠れながら 勇者:魔王のやつ、のんきにおやつを食べているわね……。うう、私なんてもう三日もご飯食べてないのに……。 勇者:でもこれはチャンス。私の極大魔法で一気に勝負を決める! 奇襲よ! 勇者:  勇者:  0:勇者、詠唱を始める 勇者:……目覚めよ、風の精霊シルフィールド……! 我が全魔法力を込めて、いざ、闇を引き裂かん!  勇者:エターナル・フォース・ブリザード!! 勇者:  勇者:  0:あたりに突風が吹き荒れる 猫魔王:ぐはっ…………! サブ:魔王様……!?  猫魔王:どうしたのニャ……。急に洗濯物が隣の部屋まで飛んでいってしまったニャ……。 サブ:ふむ、すきま風でしょうか? 今日は風が騒がしいですな。 猫魔王:こらー、洗濯物! 待つニャー! サブ:いけません、魔王様、転びますぞ。私めも付いてまいります……! 勇者:(うう、お腹が空いて力が出ない……。私のエターナル・フォース・ブリザードがすきま風扱いなんて……。でも、魔王が離席した今が好機! 続いて二の矢、三の矢を叩き込む!) 勇者:  勇者:  0:魔王、部屋に戻ってくる 猫魔王:ふう……。ちと予定が狂ったが、儀式を再開しようではニャいか。 猫魔王:さて、まずは杯をかわすとするニャ。サブ。 サブ:ははっ、どうぞ。キンキンに冷えたミルクでございます。 猫魔王:くっくっく……戦いの前の一杯はやはり格別。 猫魔王:ごくごく……。あちゃっ!! サブ:魔王様!? 猫魔王:サブ……このミルク……熱いニャ……。 サブ:そんな馬鹿な……。申し訳ありません! 猫舌の魔王様にホットミルクを出すなど何たる失態……! 猫魔王:ま、まあ良い。さて、ではいよいよ今夜の生贄、プリンを食らうとしよう……。 猫魔王:くっくっくっ……実に甘そうではニャいか。これこそ天上の快楽、人生の至福……! 猫魔王:ぱくり……もぐもぐ……♪ 猫魔王:ぐはっ……!? サブ:魔王様!? 猫魔王:サブ……毒ニャ……猛毒が、中に……! サブ:これは……! プリンの中に魔王様の大嫌いな人参が入っている! 酷い! 誰がこのような事を! 猫魔王:ぐっ……身体が……しびれる……。 猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、颯爽と姿を表す 勇者:ふっふっふっ、今度は効いたみたいね!  勇者:ここで会ったが十年目! あなたの悪事もここまでよ! 魔王! 猫魔王:貴様は……勇者……!  サブ:おのれ……貴様の仕業か。卑怯な! 勇者とは『勇気ある者』ではなかったのか? 勇者:う、うるさいわね……。勝てば官軍、勝利こそ正義なの。勝てばいいのよ、勝てば! サブ:ほほう、言うではないか。とても勇者とは思えんが……。 猫魔王:くっくっくっ……まあ良い。待っていたぞ、勇者よ! 猫魔王:しかし、十年前に見た写真からは、ちょっぴり老けたような気がするニャ……!  サブ:そうだ貴様! 十年間、何をしていたのだ! 勇者:ううっ。それ、聞いちゃう……? 猫魔王:当たり前ニャ! なかなか来ないから心配したニャ! サブ:そういえば、配下の魔物達からは『勇者と戦った』という報告が全くありませんでしたな。 勇者:だって……魔物と戦うなんて怖いじゃない? 痛いし、うっかり死んじゃうかもしれないし……。 サブ:うむ、それはごもっともですな。 勇者:でしょ? でしょ? だから私はセーフティーに旅をすることにしたの。 勇者:敵に見つからないようにホフク前進で移動し、素振りをしながらレベルを上げ、旅費が足りないから行く先々でバイトをし……気づいたら十年経っていたの……! 思い出すだけでツライ旅だったわ……。 サブ:なるほど、それは大変でしたな……。 猫魔王:よしよし、よく頑張ったニャ。(なでなで) 勇者:ありがとう、あなた達良い人ね……。でもね、そのツライ冒険も今日ここで終わり! さあ、勝負よ! 魔王! 猫魔王:ふっふっふっ……。よかろう! しかし、最終決戦がお茶の間というのも格好がつかん。場所を変えようではニャいか、勇者よ! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:玉座の間にて 猫魔王:くっくっく、仕切り直しといこう、勇者よ!  猫魔王:我輩は猫魔王様。この世界をこっそり支配している者ニャ! 貴様ら人間はなにゆえ…… 勇者:えいっ(ペチッ) 猫魔王:ぐはっ!?  サブ:こ、こいつ、人が喋っている間に攻撃を……!? 勇者:あ、ごめんなさい。隙だらけだったからつい。 サブ:おい! 卑怯だぞ! 魔王様は貴様とお喋りするのを楽しみにしておられたのだ! 黙って聞くように! 勇者:仕方ないなあ……。私、長いお話苦手だから手短にね。 猫魔王:(こやつ……思ったよりも脳筋……!) 猫魔王:お、おほん。手短に言うとだニャ……。勇者、貴様ここには何をしに来たニャ……? 勇者:あなたの持っている『伝説の煮干し』をいただきに来たの。あれは元々人間界の物。返してもらうわ! サブ:ほほう。あの煮干しを持つ者は世界の覇権を握るとすら言われる、伝説の秘宝。それを奪いに来たと。  猫魔王:ふむ……。そうニャ。ここは一つ、交換条件といかんかニャ? 貴様がこちらの要求をのむならば渡してやっても良いニャ。 勇者:何? 手下になれとでも言うつもり……? サブ:(魔王様、今です! あのセリフを言うチャンスでございます!) 猫魔王:(うむ……!) 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:サブ、部屋の隅まで走っていき、窓を開ける 猫魔王:くっくっくっ……勇者よ……。外を見るが良いニャ……! 勇者:何よ。 猫魔王:月が……綺麗だニャ……。 勇者:……?  猫魔王:……。 勇者:そうかしら? 今日は大雨だけど……。 サブ:(ああ、伝わってない……!! 魔王様のカッコいい告白が……!!) 猫魔王:(しまった、年中引きこもっているから、お天気なんて見てなかったニャ!) 勇者:……? サブ:魔王様、ここはハッキリ伝えた方が早いかと。 猫魔王:うむ、回りくどいからストレートに言うニャ! 貴様、我輩の妻になるがいいニャ!  猫魔王:十年前に貴様の写真を見たときから心に決めてましたニャ! まずは結婚を前提にお付き合いして下さいニャ! 勇者:ええっ!!  サブ:フッフッフッ、今度は伝わったようですな。 勇者:(プロポーズ……!? どどどどどうしよう……私、恋愛方面の免疫なんて皆無なのに……) 勇者:ああああ甘いわね、そそそそそんな言葉に乗ると思っているの……!?  勇者:私は勇者よ! 勇者! 魔王の提案になんて乗るわけがないじゃない! サブ:フッフッフッ、魔王様と結婚するとお得なことがたくさんありますぞ? 勇者:へ、へー……ふーん……。ちなみに……どういうメリットがあるの……?  猫魔王:うむ、まず、我が妻となる者には、永遠の若さを与えてやるニャ。 猫魔王:おい、サブ、あれを持ってくるニャ。 サブ:ははっ。こちらでございます。 勇者:これは……美顔ローラー器……! すっごく欲しかったけど高すぎて買えなかったやつ……!! サブ:これがあれば貴方は五十年先もお肌ツヤツヤ。美魔女として崇拝される存在になりましょう。 勇者:(ほしい……! でも私は勇者! こんなものに屈するわけには……) サブ:そして魔王様の一族に加わると、お買い物をするたびにポイントが五倍貯まります。 勇者:(ポイント……! 貧乏人には魅力的な響き……!) 猫魔王:くっくっく……そして食後のデザートには毎日プリンをつけてやろう! 勇者:プリン……ごくり……。 サブ:ダメ押しをして差し上げましょう。魔王様の年収は五十三億チュールです。 勇者:五十三億……!? 私のバイト代の数万倍じゃない……!! 勇者:くっ、これってもしかして超優良物件……!? でも私は勇者。答えなんて最初っから決まってるッ……! 猫魔王:どうニャ? 改めて聞こう。我が妻に…… 勇者:ごめんなさい……。私は二次元しか愛せない女なの! 最近は城下町で発行されている恋愛小説のラーハルト様一筋!!  勇者:あと魔王! 貴方ちょっとお腹出てるし、私のタイプじゃないわ! 猫魔王:ぐはっ……!! サブ:ああ、魔王様が気にしていることを……!! 猫魔王:うう、我が十年の片思いが……。 猫魔王:  猫魔王:  0:魔王、ガックリと倒れる 猫魔王:サブよ……我輩はもうだめニャ……あとは……任せるニャ……。 サブ:おいたわしや、魔王様……。度重なるダメージで虫の息に……。 勇者:……何かよく分からないけど勝ったみたいね。じゃあ悪いけど、伝説の煮干しは頂いていくわ。あ、ついでに美顔ローラー器も。 サブ:……フッフッフッ、もう勝った気でいるのか。気が早いな。 勇者:何よ? あなたはサブだったかしら? いかにもモブっぽいお名前だけど、魔王を倒したこの勇者と一人で戦う気? サブ:そう。我が名はサブ。正式な名を『サブスタンス・オブ・エビルエンペラー』という……。またの名を、『大魔王』!! 勇者:大魔王……!?  サブ:そうだ。私は魔王様よりも強い。私が魔王軍最強なのだ! 勇者:でも何だかひょろっちいし、弱そうなんだけど……。 サブ:ふん、あまりに力が強大すぎるゆえ、普段は自らの力を封じておる。 サブ:しかし、『闇の衣』を身に着けた我は封印が解け、本来の力を取り戻す。 サブ:その戦闘力……普段の数億倍……! 勇者:なんですって……。 勇者:  勇者:  0:ふいに、サブの懐で音が響く サブ:ん? 電話だ……。ちょっと待っておれ。もしもし。 サブ:……姉上!? サブ:仕事中にはかけてくるなとあれほど……。 サブ:何! 『闇の衣』を玄関に忘れている!?  サブ:す、すまんが取り急ぎ持って来てはくれないか……ああ、大至急だ。 サブ:え、何? あの言葉を言わないとダメ? わかったよ……もう……おほん。 サブ:姉上……大好きだ。 サブ:こ、これで良いか!? では頼むぞ! 勇者:……。 サブ:フッフッフッ……まあそう焦るでない……。一時休戦と行こうではないか。どうだ? プリンでも…… 勇者:えいっ。(ペチッ) サブ:ぐはっ……!? 勇者:勝ったわね……。ふう……苦しい戦いだったわ……。 勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、倒れたまま笑い出す サブ:くっくっく…… 猫魔王:くっくっく…… 勇者:何、まだやる気……!? サブ:ばかめ……これで終わりだと思ったか……! 良いか。絶望的な一言を告げてやろう。 サブ:我々を倒しても、まだ上には大大魔王様がおられる。 勇者:大大魔王ですって……!  猫魔王:うむ、そしてその上には超スーパーグレート魔王様がおられるニャ……!  勇者:……。 猫魔王:つまり、我輩たちは単なる下っ端に過ぎないということニャ。そしてそのさらに上には……。 勇者:えいっ(ペチッ) 猫魔王:はにゃっ! 勇者:えいっ。えいっ(ペチッ) サブ:ぐはっ! 勇者:うう、あと何人いるのよ、魔王! 私の旅、まだ終わらないの!? もう! 返してよ! 私の青春! 猫魔王:ああ、肉球を……ぷにぷにするでニャい……肉球は弱い……はにゃぁ……。 サブ:魔王様、ここはひとまず撤退しましょう……。 猫魔王:うむ、緊急脱出用の呪文を頼むニャ……。 サブ:はっ。ワープ!! 勇者:うう…………私の冒険、あと何十年続くのかしら……。とりあえず……その辺で地道に素振りして、頑張ってレベル上げるわよ! 勇者:  勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、地球のとある街中にて目覚める 猫魔王:うーん、ここはどこだニャ……。 サブ:申し訳ありません、魔王様……。転移に失敗しまして、異世界に来てしまった模様です。 猫魔王:ニャンと! それは……面白そうではニャイか! 猫魔王:よしサブ! あたりを偵察してくるのニャ! まずは正確な情報を集めるニャ! サブ:ははっ。 サブ:  サブ:  0:数十分後 サブ:ただいま戻りました。魔王様。 猫魔王:うむ、サブよ、報告を。 サブ:まず、辺りには『シブヤ』とか『ハロウィーン』とかいう言葉が飛び交っておりました。『シブヤ』はおそらく地名でしょう。 サブ:日付は現地時間で十月三十一日の模様です。 猫魔王:ほほう。 サブ:そして、辺りには見渡す限りカボチャの飾りが大量にございます。 サブ:おそらく、カボチャ好きの民族が住んでいるものかと。 猫魔王:ふむ……我輩、かぼちゃの煮物好きだから気が合いそうだニャ……。 サブ:そして魔女のような格好をしたものが大量におります。 猫魔王:魔女……! 魔女っ子は我輩好みだニャ……!! サブ:そして何故かお菓子をたくさんもらいました! 猫魔王:ニャンと!! つまりまとめるとどういうことニャ……? サブ:はは、この『シブヤ』という国はカボチャ好きな魔女がお菓子を配りまくっている国、ということになります。 猫魔王:くっくっく……流石はサブ、鋭い分析力。なかなか愉快なところではニャいか! 良かろう、この世界で成り上がってやるニャ! そして今度こそ嫁を見つけるニャ! サブ:ははっ、お供いたします!  猫魔王:とりあえずお菓子を貰いに行くニャ!

サブ:魔王様! 一大事でございます! 猫魔王:んー? どうしたのニャ……? 我輩は今、ゴロゴロするので忙しいニャ。 サブ:ついに……ついに奴がこの城に攻めてきました。 猫魔王:誰が来たのニャ……? サブ:ついに来たのです。そう、勇者が……! 猫魔王:ニャんと!? くっくっくっ……ようやく来たか、勇者よ……! 猫魔王:この十年、待ちくたびれてしまったぞ……おかげでちょっぴり年を取ってしまったニャ……! サブ:長い年月でしたな……。 猫魔王:うむ、十年前に見た、奴の写真に一目惚れして以来、幾年月。 猫魔王:来る日も来る日も玉座に座って待っていたかいがあったニャ……! サブ:毎日毎日、わくわくソワソワして待っていましたからな。 猫魔王:しかし、時間が経ちすぎて、以前に考えていたカッコいいセリフを忘れてしまったニャ……。 サブ:魔王様、ここにカンペを用意しております。ふりがなも振っておきました! 猫魔王:フッフッフッ、相変わらず仕事が出来るでは無いか、サブよ。 猫魔王:  猫魔王:  0:サブ、配下の魔物から報告を受ける サブ:ふむ。なになに……。魔王さま、只今玄関に誰かが現れたとご報告が! 猫魔王:くーっくっくっくっ、来たか! 我輩自ら出迎えてやろう! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:魔王、玄関前に颯爽と登場 猫魔王:ふあーっはっはっはっ! よく来たニャ……勇者よ!! 我輩は猫魔王様! 貴様ら人間は何ゆえもがき苦しむのか? 我輩がその苦しみを取り除き、貴様を闇へと葬り去ってやろう!! 猫魔王:……え? 人違い? あ、宅配便の方でしたかニャ……。なるほど、おばあちゃんからニシンのパイの差し入れが……。お、おほん。サインで良いですかニャ? サブ:あ、魔王様は字が書けないので、私が代わりに書きましょう。サラサラっと……。 猫魔王:ご、ご苦労さまですニャー……。  猫魔王:……うう、とんだ赤っ恥だったニャ! サブ:申し訳ありません……。しかし、城の近くで勇者を見かけたという報告が複数上がっております。 サブ:おそらく、近いうちに姿を現すかと。 猫魔王:ニャるほど、緊張してきたニャ……。 サブ:魔王様、ここは万全を期し、『闇の儀式』を行っておきましょう。 猫魔王:ほう、良い提案ではニャいか。うむ、戦いの前に生贄から魔力を補給しておくニャ……! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、魔王城内にて 勇者:ふう……ついに魔王城まで来たわね……。思えば十年、長い道のりだったわ。 勇者:おかげでだいぶ年を取ってしまったじゃない……。うう、私の青春……。 勇者:でも、その苦労も今日ここまで。ここでケリを付けてみせる! 勇者:あ、見つけたわ……! あれが魔王ね! 勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、儀式の間にて円卓を囲んでいる 猫魔王:くっくっくっ……サブよ、今日の生贄を持ってくるが良い。 サブ:ハッ! お母様特製のプリンでございます。 猫魔王:おお、戦いの前にはこれに限るニャ! 美味しそうだニャ! 猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、物陰に隠れながら 勇者:魔王のやつ、のんきにおやつを食べているわね……。うう、私なんてもう三日もご飯食べてないのに……。 勇者:でもこれはチャンス。私の極大魔法で一気に勝負を決める! 奇襲よ! 勇者:  勇者:  0:勇者、詠唱を始める 勇者:……目覚めよ、風の精霊シルフィールド……! 我が全魔法力を込めて、いざ、闇を引き裂かん!  勇者:エターナル・フォース・ブリザード!! 勇者:  勇者:  0:あたりに突風が吹き荒れる 猫魔王:ぐはっ…………! サブ:魔王様……!?  猫魔王:どうしたのニャ……。急に洗濯物が隣の部屋まで飛んでいってしまったニャ……。 サブ:ふむ、すきま風でしょうか? 今日は風が騒がしいですな。 猫魔王:こらー、洗濯物! 待つニャー! サブ:いけません、魔王様、転びますぞ。私めも付いてまいります……! 勇者:(うう、お腹が空いて力が出ない……。私のエターナル・フォース・ブリザードがすきま風扱いなんて……。でも、魔王が離席した今が好機! 続いて二の矢、三の矢を叩き込む!) 勇者:  勇者:  0:魔王、部屋に戻ってくる 猫魔王:ふう……。ちと予定が狂ったが、儀式を再開しようではニャいか。 猫魔王:さて、まずは杯をかわすとするニャ。サブ。 サブ:ははっ、どうぞ。キンキンに冷えたミルクでございます。 猫魔王:くっくっく……戦いの前の一杯はやはり格別。 猫魔王:ごくごく……。あちゃっ!! サブ:魔王様!? 猫魔王:サブ……このミルク……熱いニャ……。 サブ:そんな馬鹿な……。申し訳ありません! 猫舌の魔王様にホットミルクを出すなど何たる失態……! 猫魔王:ま、まあ良い。さて、ではいよいよ今夜の生贄、プリンを食らうとしよう……。 猫魔王:くっくっくっ……実に甘そうではニャいか。これこそ天上の快楽、人生の至福……! 猫魔王:ぱくり……もぐもぐ……♪ 猫魔王:ぐはっ……!? サブ:魔王様!? 猫魔王:サブ……毒ニャ……猛毒が、中に……! サブ:これは……! プリンの中に魔王様の大嫌いな人参が入っている! 酷い! 誰がこのような事を! 猫魔王:ぐっ……身体が……しびれる……。 猫魔王:  猫魔王:  0:勇者、颯爽と姿を表す 勇者:ふっふっふっ、今度は効いたみたいね!  勇者:ここで会ったが十年目! あなたの悪事もここまでよ! 魔王! 猫魔王:貴様は……勇者……!  サブ:おのれ……貴様の仕業か。卑怯な! 勇者とは『勇気ある者』ではなかったのか? 勇者:う、うるさいわね……。勝てば官軍、勝利こそ正義なの。勝てばいいのよ、勝てば! サブ:ほほう、言うではないか。とても勇者とは思えんが……。 猫魔王:くっくっくっ……まあ良い。待っていたぞ、勇者よ! 猫魔王:しかし、十年前に見た写真からは、ちょっぴり老けたような気がするニャ……!  サブ:そうだ貴様! 十年間、何をしていたのだ! 勇者:ううっ。それ、聞いちゃう……? 猫魔王:当たり前ニャ! なかなか来ないから心配したニャ! サブ:そういえば、配下の魔物達からは『勇者と戦った』という報告が全くありませんでしたな。 勇者:だって……魔物と戦うなんて怖いじゃない? 痛いし、うっかり死んじゃうかもしれないし……。 サブ:うむ、それはごもっともですな。 勇者:でしょ? でしょ? だから私はセーフティーに旅をすることにしたの。 勇者:敵に見つからないようにホフク前進で移動し、素振りをしながらレベルを上げ、旅費が足りないから行く先々でバイトをし……気づいたら十年経っていたの……! 思い出すだけでツライ旅だったわ……。 サブ:なるほど、それは大変でしたな……。 猫魔王:よしよし、よく頑張ったニャ。(なでなで) 勇者:ありがとう、あなた達良い人ね……。でもね、そのツライ冒険も今日ここで終わり! さあ、勝負よ! 魔王! 猫魔王:ふっふっふっ……。よかろう! しかし、最終決戦がお茶の間というのも格好がつかん。場所を変えようではニャいか、勇者よ! 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:玉座の間にて 猫魔王:くっくっく、仕切り直しといこう、勇者よ!  猫魔王:我輩は猫魔王様。この世界をこっそり支配している者ニャ! 貴様ら人間はなにゆえ…… 勇者:えいっ(ペチッ) 猫魔王:ぐはっ!?  サブ:こ、こいつ、人が喋っている間に攻撃を……!? 勇者:あ、ごめんなさい。隙だらけだったからつい。 サブ:おい! 卑怯だぞ! 魔王様は貴様とお喋りするのを楽しみにしておられたのだ! 黙って聞くように! 勇者:仕方ないなあ……。私、長いお話苦手だから手短にね。 猫魔王:(こやつ……思ったよりも脳筋……!) 猫魔王:お、おほん。手短に言うとだニャ……。勇者、貴様ここには何をしに来たニャ……? 勇者:あなたの持っている『伝説の煮干し』をいただきに来たの。あれは元々人間界の物。返してもらうわ! サブ:ほほう。あの煮干しを持つ者は世界の覇権を握るとすら言われる、伝説の秘宝。それを奪いに来たと。  猫魔王:ふむ……。そうニャ。ここは一つ、交換条件といかんかニャ? 貴様がこちらの要求をのむならば渡してやっても良いニャ。 勇者:何? 手下になれとでも言うつもり……? サブ:(魔王様、今です! あのセリフを言うチャンスでございます!) 猫魔王:(うむ……!) 猫魔王:  猫魔王:  猫魔王:  0:サブ、部屋の隅まで走っていき、窓を開ける 猫魔王:くっくっくっ……勇者よ……。外を見るが良いニャ……! 勇者:何よ。 猫魔王:月が……綺麗だニャ……。 勇者:……?  猫魔王:……。 勇者:そうかしら? 今日は大雨だけど……。 サブ:(ああ、伝わってない……!! 魔王様のカッコいい告白が……!!) 猫魔王:(しまった、年中引きこもっているから、お天気なんて見てなかったニャ!) 勇者:……? サブ:魔王様、ここはハッキリ伝えた方が早いかと。 猫魔王:うむ、回りくどいからストレートに言うニャ! 貴様、我輩の妻になるがいいニャ!  猫魔王:十年前に貴様の写真を見たときから心に決めてましたニャ! まずは結婚を前提にお付き合いして下さいニャ! 勇者:ええっ!!  サブ:フッフッフッ、今度は伝わったようですな。 勇者:(プロポーズ……!? どどどどどうしよう……私、恋愛方面の免疫なんて皆無なのに……) 勇者:ああああ甘いわね、そそそそそんな言葉に乗ると思っているの……!?  勇者:私は勇者よ! 勇者! 魔王の提案になんて乗るわけがないじゃない! サブ:フッフッフッ、魔王様と結婚するとお得なことがたくさんありますぞ? 勇者:へ、へー……ふーん……。ちなみに……どういうメリットがあるの……?  猫魔王:うむ、まず、我が妻となる者には、永遠の若さを与えてやるニャ。 猫魔王:おい、サブ、あれを持ってくるニャ。 サブ:ははっ。こちらでございます。 勇者:これは……美顔ローラー器……! すっごく欲しかったけど高すぎて買えなかったやつ……!! サブ:これがあれば貴方は五十年先もお肌ツヤツヤ。美魔女として崇拝される存在になりましょう。 勇者:(ほしい……! でも私は勇者! こんなものに屈するわけには……) サブ:そして魔王様の一族に加わると、お買い物をするたびにポイントが五倍貯まります。 勇者:(ポイント……! 貧乏人には魅力的な響き……!) 猫魔王:くっくっく……そして食後のデザートには毎日プリンをつけてやろう! 勇者:プリン……ごくり……。 サブ:ダメ押しをして差し上げましょう。魔王様の年収は五十三億チュールです。 勇者:五十三億……!? 私のバイト代の数万倍じゃない……!! 勇者:くっ、これってもしかして超優良物件……!? でも私は勇者。答えなんて最初っから決まってるッ……! 猫魔王:どうニャ? 改めて聞こう。我が妻に…… 勇者:ごめんなさい……。私は二次元しか愛せない女なの! 最近は城下町で発行されている恋愛小説のラーハルト様一筋!!  勇者:あと魔王! 貴方ちょっとお腹出てるし、私のタイプじゃないわ! 猫魔王:ぐはっ……!! サブ:ああ、魔王様が気にしていることを……!! 猫魔王:うう、我が十年の片思いが……。 猫魔王:  猫魔王:  0:魔王、ガックリと倒れる 猫魔王:サブよ……我輩はもうだめニャ……あとは……任せるニャ……。 サブ:おいたわしや、魔王様……。度重なるダメージで虫の息に……。 勇者:……何かよく分からないけど勝ったみたいね。じゃあ悪いけど、伝説の煮干しは頂いていくわ。あ、ついでに美顔ローラー器も。 サブ:……フッフッフッ、もう勝った気でいるのか。気が早いな。 勇者:何よ? あなたはサブだったかしら? いかにもモブっぽいお名前だけど、魔王を倒したこの勇者と一人で戦う気? サブ:そう。我が名はサブ。正式な名を『サブスタンス・オブ・エビルエンペラー』という……。またの名を、『大魔王』!! 勇者:大魔王……!?  サブ:そうだ。私は魔王様よりも強い。私が魔王軍最強なのだ! 勇者:でも何だかひょろっちいし、弱そうなんだけど……。 サブ:ふん、あまりに力が強大すぎるゆえ、普段は自らの力を封じておる。 サブ:しかし、『闇の衣』を身に着けた我は封印が解け、本来の力を取り戻す。 サブ:その戦闘力……普段の数億倍……! 勇者:なんですって……。 勇者:  勇者:  0:ふいに、サブの懐で音が響く サブ:ん? 電話だ……。ちょっと待っておれ。もしもし。 サブ:……姉上!? サブ:仕事中にはかけてくるなとあれほど……。 サブ:何! 『闇の衣』を玄関に忘れている!?  サブ:す、すまんが取り急ぎ持って来てはくれないか……ああ、大至急だ。 サブ:え、何? あの言葉を言わないとダメ? わかったよ……もう……おほん。 サブ:姉上……大好きだ。 サブ:こ、これで良いか!? では頼むぞ! 勇者:……。 サブ:フッフッフッ……まあそう焦るでない……。一時休戦と行こうではないか。どうだ? プリンでも…… 勇者:えいっ。(ペチッ) サブ:ぐはっ……!? 勇者:勝ったわね……。ふう……苦しい戦いだったわ……。 勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、倒れたまま笑い出す サブ:くっくっく…… 猫魔王:くっくっく…… 勇者:何、まだやる気……!? サブ:ばかめ……これで終わりだと思ったか……! 良いか。絶望的な一言を告げてやろう。 サブ:我々を倒しても、まだ上には大大魔王様がおられる。 勇者:大大魔王ですって……!  猫魔王:うむ、そしてその上には超スーパーグレート魔王様がおられるニャ……!  勇者:……。 猫魔王:つまり、我輩たちは単なる下っ端に過ぎないということニャ。そしてそのさらに上には……。 勇者:えいっ(ペチッ) 猫魔王:はにゃっ! 勇者:えいっ。えいっ(ペチッ) サブ:ぐはっ! 勇者:うう、あと何人いるのよ、魔王! 私の旅、まだ終わらないの!? もう! 返してよ! 私の青春! 猫魔王:ああ、肉球を……ぷにぷにするでニャい……肉球は弱い……はにゃぁ……。 サブ:魔王様、ここはひとまず撤退しましょう……。 猫魔王:うむ、緊急脱出用の呪文を頼むニャ……。 サブ:はっ。ワープ!! 勇者:うう…………私の冒険、あと何十年続くのかしら……。とりあえず……その辺で地道に素振りして、頑張ってレベル上げるわよ! 勇者:  勇者:  勇者:  0:魔王とサブ、地球のとある街中にて目覚める 猫魔王:うーん、ここはどこだニャ……。 サブ:申し訳ありません、魔王様……。転移に失敗しまして、異世界に来てしまった模様です。 猫魔王:ニャンと! それは……面白そうではニャイか! 猫魔王:よしサブ! あたりを偵察してくるのニャ! まずは正確な情報を集めるニャ! サブ:ははっ。 サブ:  サブ:  0:数十分後 サブ:ただいま戻りました。魔王様。 猫魔王:うむ、サブよ、報告を。 サブ:まず、辺りには『シブヤ』とか『ハロウィーン』とかいう言葉が飛び交っておりました。『シブヤ』はおそらく地名でしょう。 サブ:日付は現地時間で十月三十一日の模様です。 猫魔王:ほほう。 サブ:そして、辺りには見渡す限りカボチャの飾りが大量にございます。 サブ:おそらく、カボチャ好きの民族が住んでいるものかと。 猫魔王:ふむ……我輩、かぼちゃの煮物好きだから気が合いそうだニャ……。 サブ:そして魔女のような格好をしたものが大量におります。 猫魔王:魔女……! 魔女っ子は我輩好みだニャ……!! サブ:そして何故かお菓子をたくさんもらいました! 猫魔王:ニャンと!! つまりまとめるとどういうことニャ……? サブ:はは、この『シブヤ』という国はカボチャ好きな魔女がお菓子を配りまくっている国、ということになります。 猫魔王:くっくっく……流石はサブ、鋭い分析力。なかなか愉快なところではニャいか! 良かろう、この世界で成り上がってやるニャ! そして今度こそ嫁を見つけるニャ! サブ:ははっ、お供いたします!  猫魔王:とりあえずお菓子を貰いに行くニャ!