台本概要
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タイトル | 夕日だけれど朝日でいいや |
---|---|
作者名 | Danzig |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 3人用台本(不問3) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
この台本は、所謂『不条理劇』と言われるジャンルのものです。 この話は、劇作家サミュエル・ベケットによる戯曲「ゴドーを待ちながら」をオマージュした作品です。 タイトルは第三舞台の不条理劇「朝日のような夕日をつれて」のオマージュです。 ※死体と細尾と青年は兼ね役でお願いします。 不条理劇ですので、作者からの思考提案はありません。 演者、読者、観客のそれぞれの立場で、感じるままに感じて頂ければと思います。 423 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
江里 | 不問 | 147 | 江里(えさと) |
宇良出 | 不問 | 157 | 宇良出(うらで) |
死体 | 不問 | 20 | 死体(田中) |
細尾 | 不問 | 44 | 細尾(ほそお) |
青年 | 不問 | 20 | 使者の青年 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:『夕日だけれど朝日でいいや』
0:
0:登場人物
0:江里(えさと)
0:宇良出(うらで)
0:死体(田中)
0:細尾(ほそお)
0:使者の青年
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:
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0:
0:(公園 ベンチの横に死体が転がっている
0:そこへ人がやってくる)
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江里:あぁ、これだな・・・・よしよし
0:
0:(携帯電話を取り出す)
0:
江里:あー、もしもし、言われた場所に来てみたが、言われた通りに、死体はあったよ。
江里:で、権藤(ごんどう)さんは後でここに来るんだね?
江里:じゃぁ、この死体を調べて、その時に報告すればいいんだな、うん分かった
江里:え? 権藤さんが来るまで死体を見張ってろって?
江里:ははは、死体が動くわけないじゃないか、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、
江里:はいはい、言われた通り、ちゃんと見張ってるから、じゃぁ
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0:(電話を切る江里)
0:
江里:さてと・・・
0:
0:死体を検死する江里)
0:
江里:ふむふむ・・・死体の人物は、蒼いパンツに赤色のシャツ・・・この帽子は麦わら帽子か・・・
江里:脈はなし、確かに死んでるな。
江里:ほっぺたがプニプニして、なんだか、引っ張ったら、どこまでも伸びそうだな
江里:うーん・・・・それにしても、この死体の人物は一体誰なんだ・・・・
江里:誰かこの人の事を知っている人でも通らないかな・・・
0:
0:(鼻歌を歌いながら宇良出が通る)
0:
宇良出:(鼻歌)
:
江里:お、いい所に
江里:あー、ちょっとちょっと、そこの君
:
宇良出:え? 僕ですか?
:
江里:そうそう、君だよ、君
:
宇良出:僕は君じゃないですよ?
:
江里:君が僕じゃない事は分かってるんだ
:
宇良出:いや、そうじゃなく、僕は君じゃないって事ですよ。
:
江里:ちゃんと名前があるって言いたいんだろ?
:
宇良出:ええ、そうです、僕は宇良出(うらで)と言います。
宇良出:宇良出の「うら」に宇良出の「で」で、宇良出です。
:
江里:あぁ、宇良出君か、すまなかったね、宇良出君。
江里:私は江里(えさと)いう者だ、よろしく頼むよ。
:
宇良出:はい、よろしくお願いします。
:
江里:ところで宇良出君、ちょっといいかな
:
宇良出:僕に何か用ですか?
:
江里:用があるから呼んだんじゃないか、ちょっとこっちに来てくれないか
:
宇良出:どうしてですか?
:
江里:ちょっと宇良出君に、聞きたい事があってね
:
宇良出:僕は先程、コンビニでパンを買って食べましたが、それと何か関係がありますか?
:
江里:いや、それとは関係が無さそうだな
:
宇良出:でも、期間限定のメロンパンですよ
:
江里:うーん、残念だがパンではないんだよ
:
宇良出:すると、おにぎりですか・・・・僕はあまり食べないですね
:
江里:そうか、それも残念だな、おにぎりは美味しいのに・・・特に明太子のおにぎりは何とも言えない美味さがある。
江里:あぁいやでも、コンビニとは関係なさそうな話なんだよ
:
宇良出:とすると、僕の趣味の事ですか?
宇良出:僕の趣味は昆虫採集ですが・・・
:
江里:そうでもないんだ・・・
江里:いや、ちょっと待てよ・・・という事は、宇良出君はひょっとしてボランティアか何かかね?
:
宇良出:いえ、違いますね
宇良出:どちらかといえば、フリーターに近いかもしれません
:
江里:そうか・・・
江里:だとすると、やはり、この事件に関係があるかもしれないな
:
宇良出:事件って・・・どういう意味ですか?
:
江里:あぁ・・事件というのはだね、意外な出来事という意味だよ
江里:例えば・・・そうだな、もめごととか、争い、犯罪、騒ぎとか事故なんかの、こう、人々の関心をひく出来事の事だね。
:
宇良出:なるほど、そういう事だったのですね、わかりました。
宇良出:それで、僕は何をすればいいのですか?
:
江里:ちょっとこっちへ来て、これを見て欲しいんだ
:
宇良出:ん? どれですか?
0:
0:(宇良出が死体に近づく)
0:
江里:この死体なんだが・・・君はこの死体に、何か心当たりはないかね
:
宇良出:心当たりって言われても・・・え? 田中さん?
:
江里:おお、なんと宇良出君、君はやはりこの死体と知り合いなのか?
:
宇良出:いや、知り合いという訳ではないのですが
宇良出:この人、田中さんでしょ?
:
江里:田中さん?
:
宇良出:「田中さん?」って・・・あなた、田中さんを知らないんですか?
:
江里:田中さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? 大学で先生やってる
:
宇良出:それは斎藤さんでしょ
:
江里:いや、田中さんだよ、五ラン大学の
:
宇良出:いやいや、それは斎藤さんですって、
宇良出:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
:
江里:斉藤さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? コンビニでバイトしてる。
:
宇良出:それは高橋さん!
:
江里:でも、高橋さんは、美容師さんじゃないか?
:
宇良出:美容師なのは、元町さんでしょ?
:
江里:じゃぁ、この人は?
:
宇良出:それは田中さん。
:
江里:うーん・・・どれも関連性は無さそうだな
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0:(間)
0:
宇良出:ところで、どうしてここに死体があるんですか?
:
江里:それが分からないんだよ、だから俺がここに来たんだ。
江里:宇良出君も何か心当たりはないかね?
:
宇良出:そうですね・・・心当たりですか・・・
宇良出:やっぱり最近腰が痛いのは、運動不足だけじゃなくて、和式の生活様式に問題があるんじゃないかと思ってるんです。
:
江里:ほう
:
宇良出:和式はテーブルが低いから、どうしても猫背になりがちですからね。
:
江里:俺は冬にコタツは無くてはならないと思うがね
:
宇良出:でも、それってネコが入って来るじゃないですか?
:
江里:いいじゃないか、ネコくらい入れてやれば
:
宇良出:まぁ確かに・・・
:
江里:コタツで食べる雪見大福は美味いぞ
:
宇良出:確かに、そう言われれば、そんな気もしてきますが、でも僕はコタツで食べるラーメンが好きなんですよ。
:
江里:あぁ、それも美味いな
:
宇良出:それもインスタントではなく、断然、店屋物(てんやもの)ですね。
:
江里:餃子は?
:
宇良出:チャーハンですね。
:
江里:なるほど・・・・
江里:そうなると、もう少し聞き込みが必要なのかもしれないな
:
宇良出:それにしても、田中さんの死因は何なんですかね
:
江里:それも調べないとな
:
宇良出:うーん・・・
0:
0:(死体がもっそり起き上がる)
0:
死体:あのぉ、お取込み中すみませんが・・・
:
宇良出:何ですか田中さん、急に起きて来ちゃって
:
死体:え? あのぉ、私、田中という名前なんですか?
:
宇良出:そうですよ、あなた田中さんを知らないんですか?
:
死体:ええ、残念ながら・・・何だかすみません・・・
:
宇良出:いえまぁ、それはともかく、今は取り込んでる最中なんですよ、見て分かりませんか?
:
江里:そうだよ、君は死んでるんだから、大人しく死んでてくれればいいじゃないか
:
死体:いや、そうですけど、このまま死んでるのも退屈ですし、地面は固くて冷たいし、身体も痛くなってくるし・・・
:
宇良出:でも、死体だから普通、動けないでしょ
:
江里:そうだな、さっき脈も止まっていたし、確かに君は死体だったよ。
:
死体:あれは心臓を止めてただけですよ。
:
江里:そんな事が出来るのかい?
:
死体:ええ、少しくらいなら
:
宇良出:変わった特技ですね
:
死体:割と出来る人はいますよ。
:
宇良出:へー、そうなんですか?
:
死体:ええ割と、特に年寄りになると、出来る人が多いですね。
死体:眠っている時に時々心臓を止めたりしている人って結構いますよ。
死体:まぁでも、そのまま止めてる事を忘れちゃう人も多いんですけどね。
:
江里:なるほどねぇ・・・でも、君はまだ若いじゃないか
:
死体:ええ、だからここで死んでてくれって頼まれたんですよ
:
江里:誰に?
:
死体:誰だかはちょっと忘れてしまって、思い出せないんですよ。
死体:でも、迎えがくるまでっていう事だったんで、とりあえず、迎えが来るまでは死んでいればいいかなぁと思って
:
江里:なるほどねぇ
:
宇良出:じゃぁ、やっぱり起きてきたらダメじゃないですか?
:
死体:いや、そうなんですけどね、ずっと待ってたら、段々とトイレに行きたくなって来ちゃって
:
宇良出:でも、死体なんですから、我慢しなきゃ
:
死体:我慢してましたよ、あなた達が会話している間も、ずっと我慢していましたよ、
死体:私はチャーハンよりは唐揚げだなぁ・・・って思いながらも、ずっと我慢してたんですよ。
死体:でもトイレに行きたくて仕方がなくなってしまったんですよ。
:
宇良出:いやいやいや、そういう気持ちはわかりますけど、田中さんは死体なんですから、トイレに行っちゃダメでしょ
:
死体:でも私、ずっと我慢してたんですよ、トイレに行きたくて、行きたくて、でも、ずっと我慢してたんですよ。
死体:どうして死体がトイレ行っちゃいけないんですか? 死体がトイレに行っちゃいけないなんて差別じゃないですか!
:
宇良出:まぁ、そう言われれば、確かに・・・
:
死体:でしょ、だからトイレに行かせてくださいよ。
:
宇良出:それはいいですけど、でも田中さんが居なくなったら、死体が無くなっちゃうじゃないですか。
宇良出:誰かが迎えに来るんですよね?
:
死体:そうなんですよ、
死体:ですから、私がトイレに行っている間、この場所を見てて欲しいんですよ
:
宇良出:場所を見てればいいんですか?
:
死体:ええ
死体:あ!、でも死体にはならないで下さいよ、私の居場所が無くなっちゃいますから
:
宇良出:いや、ならないですよ。 私が死体になったら、死んじゃうじゃないですか
:
死体:でも、ちょっとした興味本位とかで・・・
:
宇良出:ないない
:
死体:そうですか、なら安心してトイレに行けますね。
:
宇良出:でも、田中さんがトイレに行っている間に、その迎えに来る「誰か」ってのが来たらどうするんですか?
宇良出:それに、私はその「誰か」ってのが誰かも知らないですよ。
:
死体:うーん、私も「誰か」が誰なのかは分からないですけど、きっと「誰か」が来たら、あぁ「誰か」が来たんなんだなって直ぐに分かる気がするんです。
死体:死体の直感ですかね。
:
宇良出:そうですか・・・で、田中さんが居ない時に、その「誰か」が来たら、どうなるんですか?
宇良出:その時、僕はどうすればいいんですか?
:
死体:それは私にもよくわかりませんから、その時に考えましょう。
死体:とにかく私はトイレに行きたくて仕方ないですから、今からちょっとトイレに行ってきますね。
死体:後はお願いします・・・
:
宇良出:あっ、ちょっと・・・・
宇良出:あぁ、行っちゃった・・
:
江里:まぁ、トイレなんだから直ぐに帰って来るだろうし、待ってればいいよ
:
宇良出:そうですね。
:
江里:俺も死体からは、いろいろ聞いておかないといけないからな、権藤さんが来るまでに・・・
江里:あぁ、早く帰って来ないかなぁ
:
宇良出:ははは、今行ったばかりなんですから、そんな直ぐには無理ですよ。
宇良出:それにしても、田中さんはどれだけ死体だったんですかね?
:
江里:うーん、確かな事は分からんが、俺が来た時にはもう死体だったよ
:
宇良出:なるほど、そりゃきっと、トイレも長そうですね
:
江里:まぁ、そうだな
0:
0:(間)
0:
宇良出:そういえば、話を戻しますけど
:
江里:なんだ?
:
宇良出:江里さんは、どうして、さっきコンビニの限定メロンパンの事は聞かなかったんですか?
:
江里:それは、明太子のおにぎりがあったからじゃないか?
:
宇良出:そういうもんですか・・・・
:
江里:まぁ、そうとばかりは言えないかもしれないがね
:
宇良出:でも、本当に限定だったんですよ
:
江里:君はそう言うが、世の中、何が起きるか分からないならな
:
宇良出:ふーん・・・
0:
0:(少しの間
0: 一人の人間がやってくる)
0:
細尾:刑事さん、こっちこっち、こっちですよ
0:
0:(細尾が現場につく)
0:
細尾:ふー、ようやく着きました。
細尾:刑事さん、ここが死体があった場所です・・・・って、あれ? 刑事さんは?
0:
0:(辺りを見渡す細尾)
0:
細尾:おーい、刑事さーん、刑事の荒木さーん、どこですかー!
:
江里:ん? どうかしましたか?
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細尾:はい、ここに死体があるというので、刑事の荒木さんをここへ連れて来たのですが、どうも彼とははぐれちゃったみたいです
:
江里:そうですか、それは御苦労様です。
:
宇良出:あれ? 田中さん?
宇良出:もうトイレは済んだんですか?
:
江里:あ、そう言われれば、さっきの死体だ、 でも服装は違ってるな
:
細尾:何言ってるんですか、私は死体じゃないですよ。
:
宇良出:顔だけじゃなくて、声もそっくり
:
江里:うんうん、そうだよ、やっぱり、さっきの死体なんじゃないか?
:
宇良出:そうですよね、やっぱり田中さんですよ。
:
細尾:いや、だから私は死体じゃないですって、私は細尾といいます。
細尾:それに、誰ですか、その田中さんって?
:
宇良出:え? あなた田中さんを知らないんですか?
:
細尾:いえ、田中さんくらいは知っていますよ、ほら、あれでしょ、大学で先生をやってる・・・
:
江里:ほらっ!
:
宇良出:それは斎藤さんでしょ
:
細尾:いや、田中さんですよ、五ラン大学の
:
江里:ほら、ほらっ!
:
宇良出:いやいや、それは斎藤さんですって、
宇良出:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
:
細尾:私だって、斉藤さんくらい知ってますよ、ほら、あれでしょ? コンビニでバイトしてる。
:
江里:ほら、ほら、ほらっ!
:
宇良出:それは高橋さん!
:
細尾:でも、高橋さんって、美容師さんじゃないですか?
:
江里:ね!、そうだよね、ほら!
:
細尾:そんなの、当たり前じゃないですか
:
宇良出:いや美容師なのは、元町さんですよ?
:
細尾:違いますよ
:
宇良出:それじゃぁ、あの死体の人は?
:
細尾:名前は知りませんよ
:
宇良出:うーん、あの人は田中さんなんだけどなぁ・・・・
:
細尾:まぁ、そんな事はいいとして、お二人は刑事さんを知りませんか?
:
宇良出:あれ? 刑事さんならここに居るじゃないですか?
:
細尾:え? どこにですか?
:
宇良出:ほら、ここに
0:
0:(宇良出が江里を指さす)
0:
細尾:あなた刑事さんだったんですか?
:
江里:え? 俺? いや、俺は刑事じゃないよ?
:
宇良出:えぇ! あなた刑事さんじゃないんですか?
宇良出:でも、警察関係の人ですよね?
:
江里:いや、まったく、全然
江里:どうして俺が刑事なんだよ
:
宇良出:だって、死体を調べてたじゃないですか?
:
江里:死体を調べてたからって警察の人間とは限らないだろ
:
宇良出:限るでしょ!
:
江里:限らないよ
江里:手術をするからって、医者とは限らないだろ? それと同じだよ
:
宇良出:いや、それもっと限るでしょ!
:
江里:うーん・・・なんていえばいいかなぁ
江里:分かりやすくいえば、車を運転するからって、運転手とは限らないって事だよ
:
宇良出:まぁ、それはそうですけど・・・
宇良出:じゃぁ、どうしてあなたは死体を調べていたんですか?
:
細尾:あなた、死体を調べていたんですか?
:
江里:そりゃ、調べていたけど、頼まれたからなんだよ
江里:ここに死体があるから、それを調べて、後から来る権藤さんに報告してくれって
:
細尾:誰にですか?
:
江里:誰にって、そりゃ・・・・
江里:あれ? 誰だったっけな?
:
細尾:分からないんですか?
:
江里:いや、分からないんじゃなくて、思い出せないだけなんだ
江里:えーっと、誰だったっけな・・・
江里:あ、そうだ、携帯! 携帯電話で聞いてみればわかるよ
:
細尾:それなら大丈夫そうですね、じゃぁ早速聞いてみて下さい。
:
江里:携帯、携帯・・・あれ? 携帯電話がない
:
細尾:どうしたんですか?
:
江里:携帯電話が無いんだよ、ここに来た時には確かに使ってたはずなんだが
:
細尾:まさか、嘘をついてるんじゃないでしょうね?
:
江里:いやいや、嘘じゃないんだ
:
細尾:もし、嘘だったら、あなた方、二人とも罪に問われますよ。
:
宇良出:えー、僕も?
:
細尾:そりゃそうですよ
:
宇良出:そんな・・・ねぇ江里さん、もっとよく探して下さいよ。
:
江里:分かってるよ、でも、さっきから探しているけど見あたらないんだ・・・
:
宇良出:そんな・・・
:
細尾:やっぱり嘘だったんですね、それなら、残念ですが二人とも・・・
:
江里:いや待て、待ってくれ、
江里:後でここに「権藤」という人がやって来るんだ、その人に説明して貰えば分かるはずだ
:
細尾:権藤・・・ですか?
:
江里:あぁ、そうだ権藤だ
江里:俺は権藤さんを待ってるんだ
:
細尾:そうですか、わかりました。
細尾:で、その権藤って人が来なかった時は、あなたはどうするつもりなんですか?
:
江里:え?
:
細尾:だから、「権藤という人が来なかった場合、あなたはどう責任をとるつもりですか?」という話ですよ。
:
江里:いや、権藤さんは来るよ。
:
細尾:どうしてそう言えるんですか?
:
江里:いや・・・だって・・・来るって言ってたし・・・
:
細尾:はぁ・・・まぁ、ひとまずそれはいいとして、で、死体は何処にあるんですか?
:
宇良出:死体は・・・・
:
細尾:どうしたんですか?
:
宇良出:今、トイレに行ってるんです・・・
:
細尾:トイレ? 死体がですか?
:
宇良出:ええ・・まぁ・・・
:
細尾:そんなバカげた話がありますか
細尾:死体がトイレに行ける訳がないでしょ
:
宇良出:でも、行きたいっていうから
:
細尾:行きたいからって行っていいもんでもないでしょ
細尾:どうして止めなかったんですか?
:
宇良出:いや、そうはいいますが、死体がトイレに行けないというのは差別ではないかと・・・
:
細尾:まぁ・・・そう言われれば確かにそうですね
:
宇良出:分かって貰えてよかったです。
:
細尾:それはいいとして、それで死体はいつ帰って来るんですか?
:
宇良出:トイレなんで、もうすぐだとは思うんですが・・・
:
細尾:そうですか・・・それで、もし死体が帰って来なかった時は、どうするんですか?
:
宇良出:いや、帰って来ますよ
:
細尾:どうしてそう言えるんですか?
:
宇良出:だって、そう約束したし、田中・・いや、死体だってここが自分の居場所だからって・・・
宇良出:それに「誰か」が迎えにくるからって・・・
:
細尾:誰かが迎えにくる?
:
宇良出:ええ、そう言ってました。
:
細尾:その「誰か」とは?
:
宇良出:いや、それは分からなくて・・・
:
細尾:どうしてそれが本当だと思ったんですか?
:
宇良出:どうしてって・・・それは・・・なんとなく・・・
:
細尾:はぁ・・・困りましたねぇ・・・いるんですよ、そうやって騙される人が
:
宇良出:騙されるって・・・僕は騙されてなんて・・・・
:
細尾:まぁ、いいです。
細尾:とにかく、死体が無いのなら、私はここに用はないですから
:
宇良出:え?
:
細尾:死体の事は、あなた方二人で何とかして下さいね。
細尾:では、私は失礼します。
:
宇良出:あの、ちょっ・・・
:
江里:はぁ・・・行っちゃったな
:
宇良出:ええ・・・
:
江里:何だったんだ、あいつは
:
宇良出:さぁ・・・
0:
0:(間)
0:
江里:どうする?
:
宇良出:どうするって何をです?
:
江里:死体だよ
:
宇良出:もう、いやだなぁ江里さんまで・・・ちゃんと帰って来ますって
:
江里:ホントにか?
:
宇良出:・・・多分・・・
0:
0:(間)
0:
江里:見て来なよ、トイレまで
:
宇良出:でも、トイレに見に行っている間に「誰か」が来たらどうするんですか?
:
江里:それは・・・
:
宇良出:じゃぁ、江里さんが見てきて下さいよ。
:
江里:俺だって行けないよ、権藤さんが来るかもしれないんだぞ
:
宇良出:そうですよね・・・
0:
0:(間)
0:
宇良出:ところで、権藤さんが来た時に死体が無かったらどうなるんですか?
:
江里:それなんだよ
江里:よく分からないけど、何か凄く嫌な予感がするんだ、この世の終わりが来るみたいな、何か凄く嫌な予感
:
宇良出:実は、僕もなんです。
:
江里:「誰か」ってのが来た時に死体が無かったらか?
:
宇良出:ええ・・・
:
江里:そうだな、俺もそんな気がする
:
宇良出:そうですよね・・・すごくそういう気がするんですよ
0:
0:(間)
0:
宇良出:田中さん、帰って来ませんね
:
江里:あぁ
:
宇良出:そういえば、権藤さんっていう人はいつ頃来るんですか?
:
江里:分からんよ、後で来るとしか聞いてないから
:
宇良出:でも、もう随分経ちますよ
:
江里:分かってるよそんな事は、だったら、宇良出君の方の「誰か」ってのはいつ来るんだよ
:
宇良出:分かる訳ないじゃないですか、そもそも僕は「誰か」が誰か知らないんですから・・・
:
江里:まぁ、そうだよな
:
宇良出:ええ・・・
0:
0:(間)
0:
江里:悪い事したな
:
宇良出:何がですか?
:
江里:君にさ・・・・
江里:おれが声を掛けちゃったから、何か巻き込むみたいになっちゃって・・・
:
宇良出:そうですね・・・・あの時声を掛けられなかったら・・・
宇良出:でも、考えると、何が切っ掛けになるか分からないものですね
:
江里:あぁ、そうだな
江里:それはきっと夢と同じなんだろうな
:
宇良出:夢・・・ですか?
:
江里:そう、夢と同じ
江里:夢ってさ、何故か突然、シーンが切り替わったりするだろ
:
宇良出:ええ、そうですね
:
江里:シーンの切り替わりには、何かの切っ掛けがある筈だんだけど、そういうのって分からないよな
:
宇良出:まぁ、そうですね・・・
:
江里:だろ?
:
宇良出:関係ありますか?
:
江里:・・・ないな
:
宇良出:ですよね
0:
0:(間)
0:
宇良出:田中さんも権藤さんも来ませんね・・・
:
江里:そうだな
:
宇良出:でも、来るなら権藤さんの方が早く来そうですよね?
:
江里:そうかな?
:
宇良出:そうですよ、きっと権藤さんの方が早く来ますよ
:
江里:何言ってるんだよ君は、権藤さんの方が早かったら何だっていうんだよ
江里:まさか、君は、俺の方が先に・・・・
:
宇良出:・・・
:
江里:そういう事なのか?
:
宇良出:・・・
:
江里:黙ってないで、何とか言ったらどうなんだよ
:
宇良出:そうじゃないんです
:
江里:そうじゃないって、じゃぁ、どういう意味なんだよ
:
宇良出:僕が死体をやりますよ
:
江里:え?
:
宇良出:権藤さんが来た時には、僕が死体になります。
宇良出:そうすれば、少なくとも権藤さんの一件は方が付くじゃないですか
:
江里:でも君は、死体になったら死んじゃうって言ってたじゃないか?
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宇良出:ええ・・・でもそれしか方法が思いつかないんですよ。
宇良出:権藤さんがいつ来るか分からないから、もう、今のうちに死体になってようかと思いまして
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江里:いや、まてまて、「誰か」の方が早く来るかもしれないだろ
江里:だってほら、死体がトイレを我慢できるくらいの時間で、迎えに来るっていう話なんだから・・・
江里:それに、君は死体に言われたんだろ? 居場所を奪わないでくれって
:
宇良出:ええ、それは確かに・・・
:
江里:だから君が死体になっちゃダメなんだよ
:
宇良出:そうですか・・・
:
江里:あぁ、俺に変な気は使わなくていいよ・・・
:
宇良出:・・・
:
江里:でも、俺なら、まだ大丈夫だろ、「誰か」が来ないうちに、今から俺が・・・
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宇良出:ちょ、ちょっと! 待って下さいよ!
宇良出:そんな事しても意味ないですって
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江里:何でだよ
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宇良出:だって、僕は「誰か」を知らないんですよ。
:
江里:でも、「誰か」が来たら直ぐに分かるんだろ?
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宇良出:それは田中さんがそう言っているだけで、僕が分かるかどうかなんて、分からないじゃないですか
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江里:まぁ、確かに
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宇良出:だから、やっぱり僕が・・・
:
江里:やめろって言ったろ
江里:それに、俺だって権藤さんが誰か知らないよ
:
宇良出:そうですよね・・・
0:
0:(間)
0:
宇良出:僕達って、何を待ってるんですかね・・・・
:
江里:あぁそうだな・・・
江里:権藤さんを待っているのか、死体を待っているのか、「誰か」を待っているのか・・・
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宇良出:それが分からないと死ぬに死ねないですね
:
江里:そうだな
0:
0:(間)
0:
0:(死体に似た誰かが登場)
0:
青年:あ、いたいた、ここでしたか、ちょっと迷ってしまって・・・探しましたよ
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宇良出:・・・田中さん・・・・
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江里:はぁ・・・よかった・・・助かった・・・
:
青年:お二人ともどうしたんですか?
:
宇良出:「どうしたんですか」じゃありませんよ、もう、ずっとあなたの事を待ってたんですから
:
青年:私を待っていたのですか?
青年:私が来る事を、良く知ってましたね?
:
江里:そりゃそうだよ、君が来なければ、俺達はどんな目に会うか・・・
:
宇良出:それにしても、田中さん、随分長いトイレでしたね、お腹でも壊れたんですか?
:
青年:は? 田中さん?
青年:私は田中さんじゃないですよ?
:
江里:ほら、だから言ったろ、死体は田中さんじゃないって
:
青年:いや、死体の名前は田中さんですよ?
:
宇良出:ほらっ!
:
江里:いや、だってさっき・・・・
:
青年:あなた、田中さんを知らないんですか?
:
江里:いや、俺だって田中さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? 大学で先生やってる
:
青年:それは斎藤さんでしょ
:
宇良出:ほらぁ!
:
江里:いや、田中さんだよ、五ラン大学の
:
青年:それは斎藤さん。
青年:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
:
江里:斉藤さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? コンビニでバイトしてる。
:
青年:それは高橋さん!
:
宇良出:ほら、ほら、ほら、ね、そうでしょ? そうだったでしょ?
:
江里:うーん・・・・
江里:ちなみに、美容師さんは?
:
青年:元町さん。
:
宇良出:よっしゃー! よーし、よし、よしよし
宇良出:あれ? そんな事より、僕達、とんでもない事を見逃している気がする・・・
:
江里:え? とんでもない事って?
:
青年:ところで、お二人はさっきから何の話をしているんですか?
:
江里:だから、死体である君の名前が、田中かどうかって事だよ。
:
青年:私は田中ではありませんよ
:
江里:だろ?
江里:だからさっきから言ってるんだよ、死体は田中じゃないって
江里:それを君がややこしくしたんじゃないか
:
青年:いや、死体は田中さんですよ
:
江里:でも、君は自分は田中じゃないって言ったじゃないか
:
青年:ええ、私は死体ではありませんから・・・
:
江里:え?
:
宇良出:あぁ・・・やっぱり・・・・
:
江里:じ、じゃぁ、あなたは誰で、何しにここに来たんですか?
:
青年:私は権藤さんの伝言を、権藤さんを待っていらっしゃる方に届けに来た者です。
:
江里:俺に?
:
青年:あぁ、あなたが権藤さんを待っていらっしゃる方ですか?
:
江里:ええ、まぁ一応
:
青年:そうですか、権藤さんからの伝言です。
青年:「今日は行けなくなったけど、明日の明け方になったら、そっちに行くよ」という事でした。
:
江里:え? 明日?
:
青年:ええ、明日の明け方ですって
:
江里:明け方・・・ですか?
:
青年:明け方というのは、夜が明ける頃という意味ですね
:
江里:そうですか・・・
:
青年:伝言は確かにお届けしましたよ
青年:では、お二人さん、さようなら
:
江里:あの・・・えっと・・・
0:
0:(去っていく青年)
0:
0:(間)
0:
宇良出:権藤さん、明日になるんですね
:
江里:そうらしいな
0:
0:(間)
0:
宇良出:江里さん
:
江里:ん?
:
宇良出:さっきから、ずっと考えていたんですが、なんだか僕、分かった気がするんです。
:
江里:そうか・・・実は俺もそうなんだよ
江里:俺もなんだか、今分かった気がするんだよ
:
宇良出:そうですか・・・
:
江里:あぁ、
:
宇良出:僕達って、権藤さんを待っている訳でも、死体を待っている訳でも、「誰か」を待っている訳でもなかったんですね。
:
江里:そうだな、俺達は「その時」を待ってたんだな
0:
0:(間)
0:
宇良出:あの夕日、綺麗ですね。
:
江里:もう、夕方になっちまってたんだな
:
宇良出:ええ、何だかんだで、知らないうちに時間が過ぎて行ってたんですね
:
江里:そうだな、あっという間だったな
:
宇良出:ええ
0:
0:(間)
0:
江里:あれは夕日だよな?
:
宇良出:ええ、夕日ですね。
:
江里:やっぱり、夕日だよな?
:
宇良出:ええ、夕日です。
:
江里:あれが夕日でも、もう朝日でいいかな
:
宇良出:そうですね、それでいいと思います。
:
江里:そうだな、よし、じゃぁ行こうか。
:
宇良出:はい、行きましょう。
0:
0:
0:(二人去る)
0:(完)
0:
0:『夕日だけれど朝日でいいや』
0:
0:登場人物
0:江里(えさと)
0:宇良出(うらで)
0:死体(田中)
0:細尾(ほそお)
0:使者の青年
:
:
:
0:
0:(公園 ベンチの横に死体が転がっている
0:そこへ人がやってくる)
:
江里:あぁ、これだな・・・・よしよし
0:
0:(携帯電話を取り出す)
0:
江里:あー、もしもし、言われた場所に来てみたが、言われた通りに、死体はあったよ。
江里:で、権藤(ごんどう)さんは後でここに来るんだね?
江里:じゃぁ、この死体を調べて、その時に報告すればいいんだな、うん分かった
江里:え? 権藤さんが来るまで死体を見張ってろって?
江里:ははは、死体が動くわけないじゃないか、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、
江里:はいはい、言われた通り、ちゃんと見張ってるから、じゃぁ
0:
0:(電話を切る江里)
0:
江里:さてと・・・
0:
0:死体を検死する江里)
0:
江里:ふむふむ・・・死体の人物は、蒼いパンツに赤色のシャツ・・・この帽子は麦わら帽子か・・・
江里:脈はなし、確かに死んでるな。
江里:ほっぺたがプニプニして、なんだか、引っ張ったら、どこまでも伸びそうだな
江里:うーん・・・・それにしても、この死体の人物は一体誰なんだ・・・・
江里:誰かこの人の事を知っている人でも通らないかな・・・
0:
0:(鼻歌を歌いながら宇良出が通る)
0:
宇良出:(鼻歌)
:
江里:お、いい所に
江里:あー、ちょっとちょっと、そこの君
:
宇良出:え? 僕ですか?
:
江里:そうそう、君だよ、君
:
宇良出:僕は君じゃないですよ?
:
江里:君が僕じゃない事は分かってるんだ
:
宇良出:いや、そうじゃなく、僕は君じゃないって事ですよ。
:
江里:ちゃんと名前があるって言いたいんだろ?
:
宇良出:ええ、そうです、僕は宇良出(うらで)と言います。
宇良出:宇良出の「うら」に宇良出の「で」で、宇良出です。
:
江里:あぁ、宇良出君か、すまなかったね、宇良出君。
江里:私は江里(えさと)いう者だ、よろしく頼むよ。
:
宇良出:はい、よろしくお願いします。
:
江里:ところで宇良出君、ちょっといいかな
:
宇良出:僕に何か用ですか?
:
江里:用があるから呼んだんじゃないか、ちょっとこっちに来てくれないか
:
宇良出:どうしてですか?
:
江里:ちょっと宇良出君に、聞きたい事があってね
:
宇良出:僕は先程、コンビニでパンを買って食べましたが、それと何か関係がありますか?
:
江里:いや、それとは関係が無さそうだな
:
宇良出:でも、期間限定のメロンパンですよ
:
江里:うーん、残念だがパンではないんだよ
:
宇良出:すると、おにぎりですか・・・・僕はあまり食べないですね
:
江里:そうか、それも残念だな、おにぎりは美味しいのに・・・特に明太子のおにぎりは何とも言えない美味さがある。
江里:あぁいやでも、コンビニとは関係なさそうな話なんだよ
:
宇良出:とすると、僕の趣味の事ですか?
宇良出:僕の趣味は昆虫採集ですが・・・
:
江里:そうでもないんだ・・・
江里:いや、ちょっと待てよ・・・という事は、宇良出君はひょっとしてボランティアか何かかね?
:
宇良出:いえ、違いますね
宇良出:どちらかといえば、フリーターに近いかもしれません
:
江里:そうか・・・
江里:だとすると、やはり、この事件に関係があるかもしれないな
:
宇良出:事件って・・・どういう意味ですか?
:
江里:あぁ・・事件というのはだね、意外な出来事という意味だよ
江里:例えば・・・そうだな、もめごととか、争い、犯罪、騒ぎとか事故なんかの、こう、人々の関心をひく出来事の事だね。
:
宇良出:なるほど、そういう事だったのですね、わかりました。
宇良出:それで、僕は何をすればいいのですか?
:
江里:ちょっとこっちへ来て、これを見て欲しいんだ
:
宇良出:ん? どれですか?
0:
0:(宇良出が死体に近づく)
0:
江里:この死体なんだが・・・君はこの死体に、何か心当たりはないかね
:
宇良出:心当たりって言われても・・・え? 田中さん?
:
江里:おお、なんと宇良出君、君はやはりこの死体と知り合いなのか?
:
宇良出:いや、知り合いという訳ではないのですが
宇良出:この人、田中さんでしょ?
:
江里:田中さん?
:
宇良出:「田中さん?」って・・・あなた、田中さんを知らないんですか?
:
江里:田中さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? 大学で先生やってる
:
宇良出:それは斎藤さんでしょ
:
江里:いや、田中さんだよ、五ラン大学の
:
宇良出:いやいや、それは斎藤さんですって、
宇良出:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
:
江里:斉藤さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? コンビニでバイトしてる。
:
宇良出:それは高橋さん!
:
江里:でも、高橋さんは、美容師さんじゃないか?
:
宇良出:美容師なのは、元町さんでしょ?
:
江里:じゃぁ、この人は?
:
宇良出:それは田中さん。
:
江里:うーん・・・どれも関連性は無さそうだな
0:
0:(間)
0:
宇良出:ところで、どうしてここに死体があるんですか?
:
江里:それが分からないんだよ、だから俺がここに来たんだ。
江里:宇良出君も何か心当たりはないかね?
:
宇良出:そうですね・・・心当たりですか・・・
宇良出:やっぱり最近腰が痛いのは、運動不足だけじゃなくて、和式の生活様式に問題があるんじゃないかと思ってるんです。
:
江里:ほう
:
宇良出:和式はテーブルが低いから、どうしても猫背になりがちですからね。
:
江里:俺は冬にコタツは無くてはならないと思うがね
:
宇良出:でも、それってネコが入って来るじゃないですか?
:
江里:いいじゃないか、ネコくらい入れてやれば
:
宇良出:まぁ確かに・・・
:
江里:コタツで食べる雪見大福は美味いぞ
:
宇良出:確かに、そう言われれば、そんな気もしてきますが、でも僕はコタツで食べるラーメンが好きなんですよ。
:
江里:あぁ、それも美味いな
:
宇良出:それもインスタントではなく、断然、店屋物(てんやもの)ですね。
:
江里:餃子は?
:
宇良出:チャーハンですね。
:
江里:なるほど・・・・
江里:そうなると、もう少し聞き込みが必要なのかもしれないな
:
宇良出:それにしても、田中さんの死因は何なんですかね
:
江里:それも調べないとな
:
宇良出:うーん・・・
0:
0:(死体がもっそり起き上がる)
0:
死体:あのぉ、お取込み中すみませんが・・・
:
宇良出:何ですか田中さん、急に起きて来ちゃって
:
死体:え? あのぉ、私、田中という名前なんですか?
:
宇良出:そうですよ、あなた田中さんを知らないんですか?
:
死体:ええ、残念ながら・・・何だかすみません・・・
:
宇良出:いえまぁ、それはともかく、今は取り込んでる最中なんですよ、見て分かりませんか?
:
江里:そうだよ、君は死んでるんだから、大人しく死んでてくれればいいじゃないか
:
死体:いや、そうですけど、このまま死んでるのも退屈ですし、地面は固くて冷たいし、身体も痛くなってくるし・・・
:
宇良出:でも、死体だから普通、動けないでしょ
:
江里:そうだな、さっき脈も止まっていたし、確かに君は死体だったよ。
:
死体:あれは心臓を止めてただけですよ。
:
江里:そんな事が出来るのかい?
:
死体:ええ、少しくらいなら
:
宇良出:変わった特技ですね
:
死体:割と出来る人はいますよ。
:
宇良出:へー、そうなんですか?
:
死体:ええ割と、特に年寄りになると、出来る人が多いですね。
死体:眠っている時に時々心臓を止めたりしている人って結構いますよ。
死体:まぁでも、そのまま止めてる事を忘れちゃう人も多いんですけどね。
:
江里:なるほどねぇ・・・でも、君はまだ若いじゃないか
:
死体:ええ、だからここで死んでてくれって頼まれたんですよ
:
江里:誰に?
:
死体:誰だかはちょっと忘れてしまって、思い出せないんですよ。
死体:でも、迎えがくるまでっていう事だったんで、とりあえず、迎えが来るまでは死んでいればいいかなぁと思って
:
江里:なるほどねぇ
:
宇良出:じゃぁ、やっぱり起きてきたらダメじゃないですか?
:
死体:いや、そうなんですけどね、ずっと待ってたら、段々とトイレに行きたくなって来ちゃって
:
宇良出:でも、死体なんですから、我慢しなきゃ
:
死体:我慢してましたよ、あなた達が会話している間も、ずっと我慢していましたよ、
死体:私はチャーハンよりは唐揚げだなぁ・・・って思いながらも、ずっと我慢してたんですよ。
死体:でもトイレに行きたくて仕方がなくなってしまったんですよ。
:
宇良出:いやいやいや、そういう気持ちはわかりますけど、田中さんは死体なんですから、トイレに行っちゃダメでしょ
:
死体:でも私、ずっと我慢してたんですよ、トイレに行きたくて、行きたくて、でも、ずっと我慢してたんですよ。
死体:どうして死体がトイレ行っちゃいけないんですか? 死体がトイレに行っちゃいけないなんて差別じゃないですか!
:
宇良出:まぁ、そう言われれば、確かに・・・
:
死体:でしょ、だからトイレに行かせてくださいよ。
:
宇良出:それはいいですけど、でも田中さんが居なくなったら、死体が無くなっちゃうじゃないですか。
宇良出:誰かが迎えに来るんですよね?
:
死体:そうなんですよ、
死体:ですから、私がトイレに行っている間、この場所を見てて欲しいんですよ
:
宇良出:場所を見てればいいんですか?
:
死体:ええ
死体:あ!、でも死体にはならないで下さいよ、私の居場所が無くなっちゃいますから
:
宇良出:いや、ならないですよ。 私が死体になったら、死んじゃうじゃないですか
:
死体:でも、ちょっとした興味本位とかで・・・
:
宇良出:ないない
:
死体:そうですか、なら安心してトイレに行けますね。
:
宇良出:でも、田中さんがトイレに行っている間に、その迎えに来る「誰か」ってのが来たらどうするんですか?
宇良出:それに、私はその「誰か」ってのが誰かも知らないですよ。
:
死体:うーん、私も「誰か」が誰なのかは分からないですけど、きっと「誰か」が来たら、あぁ「誰か」が来たんなんだなって直ぐに分かる気がするんです。
死体:死体の直感ですかね。
:
宇良出:そうですか・・・で、田中さんが居ない時に、その「誰か」が来たら、どうなるんですか?
宇良出:その時、僕はどうすればいいんですか?
:
死体:それは私にもよくわかりませんから、その時に考えましょう。
死体:とにかく私はトイレに行きたくて仕方ないですから、今からちょっとトイレに行ってきますね。
死体:後はお願いします・・・
:
宇良出:あっ、ちょっと・・・・
宇良出:あぁ、行っちゃった・・
:
江里:まぁ、トイレなんだから直ぐに帰って来るだろうし、待ってればいいよ
:
宇良出:そうですね。
:
江里:俺も死体からは、いろいろ聞いておかないといけないからな、権藤さんが来るまでに・・・
江里:あぁ、早く帰って来ないかなぁ
:
宇良出:ははは、今行ったばかりなんですから、そんな直ぐには無理ですよ。
宇良出:それにしても、田中さんはどれだけ死体だったんですかね?
:
江里:うーん、確かな事は分からんが、俺が来た時にはもう死体だったよ
:
宇良出:なるほど、そりゃきっと、トイレも長そうですね
:
江里:まぁ、そうだな
0:
0:(間)
0:
宇良出:そういえば、話を戻しますけど
:
江里:なんだ?
:
宇良出:江里さんは、どうして、さっきコンビニの限定メロンパンの事は聞かなかったんですか?
:
江里:それは、明太子のおにぎりがあったからじゃないか?
:
宇良出:そういうもんですか・・・・
:
江里:まぁ、そうとばかりは言えないかもしれないがね
:
宇良出:でも、本当に限定だったんですよ
:
江里:君はそう言うが、世の中、何が起きるか分からないならな
:
宇良出:ふーん・・・
0:
0:(少しの間
0: 一人の人間がやってくる)
0:
細尾:刑事さん、こっちこっち、こっちですよ
0:
0:(細尾が現場につく)
0:
細尾:ふー、ようやく着きました。
細尾:刑事さん、ここが死体があった場所です・・・・って、あれ? 刑事さんは?
0:
0:(辺りを見渡す細尾)
0:
細尾:おーい、刑事さーん、刑事の荒木さーん、どこですかー!
:
江里:ん? どうかしましたか?
:
細尾:はい、ここに死体があるというので、刑事の荒木さんをここへ連れて来たのですが、どうも彼とははぐれちゃったみたいです
:
江里:そうですか、それは御苦労様です。
:
宇良出:あれ? 田中さん?
宇良出:もうトイレは済んだんですか?
:
江里:あ、そう言われれば、さっきの死体だ、 でも服装は違ってるな
:
細尾:何言ってるんですか、私は死体じゃないですよ。
:
宇良出:顔だけじゃなくて、声もそっくり
:
江里:うんうん、そうだよ、やっぱり、さっきの死体なんじゃないか?
:
宇良出:そうですよね、やっぱり田中さんですよ。
:
細尾:いや、だから私は死体じゃないですって、私は細尾といいます。
細尾:それに、誰ですか、その田中さんって?
:
宇良出:え? あなた田中さんを知らないんですか?
:
細尾:いえ、田中さんくらいは知っていますよ、ほら、あれでしょ、大学で先生をやってる・・・
:
江里:ほらっ!
:
宇良出:それは斎藤さんでしょ
:
細尾:いや、田中さんですよ、五ラン大学の
:
江里:ほら、ほらっ!
:
宇良出:いやいや、それは斎藤さんですって、
宇良出:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
:
細尾:私だって、斉藤さんくらい知ってますよ、ほら、あれでしょ? コンビニでバイトしてる。
:
江里:ほら、ほら、ほらっ!
:
宇良出:それは高橋さん!
:
細尾:でも、高橋さんって、美容師さんじゃないですか?
:
江里:ね!、そうだよね、ほら!
:
細尾:そんなの、当たり前じゃないですか
:
宇良出:いや美容師なのは、元町さんですよ?
:
細尾:違いますよ
:
宇良出:それじゃぁ、あの死体の人は?
:
細尾:名前は知りませんよ
:
宇良出:うーん、あの人は田中さんなんだけどなぁ・・・・
:
細尾:まぁ、そんな事はいいとして、お二人は刑事さんを知りませんか?
:
宇良出:あれ? 刑事さんならここに居るじゃないですか?
:
細尾:え? どこにですか?
:
宇良出:ほら、ここに
0:
0:(宇良出が江里を指さす)
0:
細尾:あなた刑事さんだったんですか?
:
江里:え? 俺? いや、俺は刑事じゃないよ?
:
宇良出:えぇ! あなた刑事さんじゃないんですか?
宇良出:でも、警察関係の人ですよね?
:
江里:いや、まったく、全然
江里:どうして俺が刑事なんだよ
:
宇良出:だって、死体を調べてたじゃないですか?
:
江里:死体を調べてたからって警察の人間とは限らないだろ
:
宇良出:限るでしょ!
:
江里:限らないよ
江里:手術をするからって、医者とは限らないだろ? それと同じだよ
:
宇良出:いや、それもっと限るでしょ!
:
江里:うーん・・・なんていえばいいかなぁ
江里:分かりやすくいえば、車を運転するからって、運転手とは限らないって事だよ
:
宇良出:まぁ、それはそうですけど・・・
宇良出:じゃぁ、どうしてあなたは死体を調べていたんですか?
:
細尾:あなた、死体を調べていたんですか?
:
江里:そりゃ、調べていたけど、頼まれたからなんだよ
江里:ここに死体があるから、それを調べて、後から来る権藤さんに報告してくれって
:
細尾:誰にですか?
:
江里:誰にって、そりゃ・・・・
江里:あれ? 誰だったっけな?
:
細尾:分からないんですか?
:
江里:いや、分からないんじゃなくて、思い出せないだけなんだ
江里:えーっと、誰だったっけな・・・
江里:あ、そうだ、携帯! 携帯電話で聞いてみればわかるよ
:
細尾:それなら大丈夫そうですね、じゃぁ早速聞いてみて下さい。
:
江里:携帯、携帯・・・あれ? 携帯電話がない
:
細尾:どうしたんですか?
:
江里:携帯電話が無いんだよ、ここに来た時には確かに使ってたはずなんだが
:
細尾:まさか、嘘をついてるんじゃないでしょうね?
:
江里:いやいや、嘘じゃないんだ
:
細尾:もし、嘘だったら、あなた方、二人とも罪に問われますよ。
:
宇良出:えー、僕も?
:
細尾:そりゃそうですよ
:
宇良出:そんな・・・ねぇ江里さん、もっとよく探して下さいよ。
:
江里:分かってるよ、でも、さっきから探しているけど見あたらないんだ・・・
:
宇良出:そんな・・・
:
細尾:やっぱり嘘だったんですね、それなら、残念ですが二人とも・・・
:
江里:いや待て、待ってくれ、
江里:後でここに「権藤」という人がやって来るんだ、その人に説明して貰えば分かるはずだ
:
細尾:権藤・・・ですか?
:
江里:あぁ、そうだ権藤だ
江里:俺は権藤さんを待ってるんだ
:
細尾:そうですか、わかりました。
細尾:で、その権藤って人が来なかった時は、あなたはどうするつもりなんですか?
:
江里:え?
:
細尾:だから、「権藤という人が来なかった場合、あなたはどう責任をとるつもりですか?」という話ですよ。
:
江里:いや、権藤さんは来るよ。
:
細尾:どうしてそう言えるんですか?
:
江里:いや・・・だって・・・来るって言ってたし・・・
:
細尾:はぁ・・・まぁ、ひとまずそれはいいとして、で、死体は何処にあるんですか?
:
宇良出:死体は・・・・
:
細尾:どうしたんですか?
:
宇良出:今、トイレに行ってるんです・・・
:
細尾:トイレ? 死体がですか?
:
宇良出:ええ・・まぁ・・・
:
細尾:そんなバカげた話がありますか
細尾:死体がトイレに行ける訳がないでしょ
:
宇良出:でも、行きたいっていうから
:
細尾:行きたいからって行っていいもんでもないでしょ
細尾:どうして止めなかったんですか?
:
宇良出:いや、そうはいいますが、死体がトイレに行けないというのは差別ではないかと・・・
:
細尾:まぁ・・・そう言われれば確かにそうですね
:
宇良出:分かって貰えてよかったです。
:
細尾:それはいいとして、それで死体はいつ帰って来るんですか?
:
宇良出:トイレなんで、もうすぐだとは思うんですが・・・
:
細尾:そうですか・・・それで、もし死体が帰って来なかった時は、どうするんですか?
:
宇良出:いや、帰って来ますよ
:
細尾:どうしてそう言えるんですか?
:
宇良出:だって、そう約束したし、田中・・いや、死体だってここが自分の居場所だからって・・・
宇良出:それに「誰か」が迎えにくるからって・・・
:
細尾:誰かが迎えにくる?
:
宇良出:ええ、そう言ってました。
:
細尾:その「誰か」とは?
:
宇良出:いや、それは分からなくて・・・
:
細尾:どうしてそれが本当だと思ったんですか?
:
宇良出:どうしてって・・・それは・・・なんとなく・・・
:
細尾:はぁ・・・困りましたねぇ・・・いるんですよ、そうやって騙される人が
:
宇良出:騙されるって・・・僕は騙されてなんて・・・・
:
細尾:まぁ、いいです。
細尾:とにかく、死体が無いのなら、私はここに用はないですから
:
宇良出:え?
:
細尾:死体の事は、あなた方二人で何とかして下さいね。
細尾:では、私は失礼します。
:
宇良出:あの、ちょっ・・・
:
江里:はぁ・・・行っちゃったな
:
宇良出:ええ・・・
:
江里:何だったんだ、あいつは
:
宇良出:さぁ・・・
0:
0:(間)
0:
江里:どうする?
:
宇良出:どうするって何をです?
:
江里:死体だよ
:
宇良出:もう、いやだなぁ江里さんまで・・・ちゃんと帰って来ますって
:
江里:ホントにか?
:
宇良出:・・・多分・・・
0:
0:(間)
0:
江里:見て来なよ、トイレまで
:
宇良出:でも、トイレに見に行っている間に「誰か」が来たらどうするんですか?
:
江里:それは・・・
:
宇良出:じゃぁ、江里さんが見てきて下さいよ。
:
江里:俺だって行けないよ、権藤さんが来るかもしれないんだぞ
:
宇良出:そうですよね・・・
0:
0:(間)
0:
宇良出:ところで、権藤さんが来た時に死体が無かったらどうなるんですか?
:
江里:それなんだよ
江里:よく分からないけど、何か凄く嫌な予感がするんだ、この世の終わりが来るみたいな、何か凄く嫌な予感
:
宇良出:実は、僕もなんです。
:
江里:「誰か」ってのが来た時に死体が無かったらか?
:
宇良出:ええ・・・
:
江里:そうだな、俺もそんな気がする
:
宇良出:そうですよね・・・すごくそういう気がするんですよ
0:
0:(間)
0:
宇良出:田中さん、帰って来ませんね
:
江里:あぁ
:
宇良出:そういえば、権藤さんっていう人はいつ頃来るんですか?
:
江里:分からんよ、後で来るとしか聞いてないから
:
宇良出:でも、もう随分経ちますよ
:
江里:分かってるよそんな事は、だったら、宇良出君の方の「誰か」ってのはいつ来るんだよ
:
宇良出:分かる訳ないじゃないですか、そもそも僕は「誰か」が誰か知らないんですから・・・
:
江里:まぁ、そうだよな
:
宇良出:ええ・・・
0:
0:(間)
0:
江里:悪い事したな
:
宇良出:何がですか?
:
江里:君にさ・・・・
江里:おれが声を掛けちゃったから、何か巻き込むみたいになっちゃって・・・
:
宇良出:そうですね・・・・あの時声を掛けられなかったら・・・
宇良出:でも、考えると、何が切っ掛けになるか分からないものですね
:
江里:あぁ、そうだな
江里:それはきっと夢と同じなんだろうな
:
宇良出:夢・・・ですか?
:
江里:そう、夢と同じ
江里:夢ってさ、何故か突然、シーンが切り替わったりするだろ
:
宇良出:ええ、そうですね
:
江里:シーンの切り替わりには、何かの切っ掛けがある筈だんだけど、そういうのって分からないよな
:
宇良出:まぁ、そうですね・・・
:
江里:だろ?
:
宇良出:関係ありますか?
:
江里:・・・ないな
:
宇良出:ですよね
0:
0:(間)
0:
宇良出:田中さんも権藤さんも来ませんね・・・
:
江里:そうだな
:
宇良出:でも、来るなら権藤さんの方が早く来そうですよね?
:
江里:そうかな?
:
宇良出:そうですよ、きっと権藤さんの方が早く来ますよ
:
江里:何言ってるんだよ君は、権藤さんの方が早かったら何だっていうんだよ
江里:まさか、君は、俺の方が先に・・・・
:
宇良出:・・・
:
江里:そういう事なのか?
:
宇良出:・・・
:
江里:黙ってないで、何とか言ったらどうなんだよ
:
宇良出:そうじゃないんです
:
江里:そうじゃないって、じゃぁ、どういう意味なんだよ
:
宇良出:僕が死体をやりますよ
:
江里:え?
:
宇良出:権藤さんが来た時には、僕が死体になります。
宇良出:そうすれば、少なくとも権藤さんの一件は方が付くじゃないですか
:
江里:でも君は、死体になったら死んじゃうって言ってたじゃないか?
:
宇良出:ええ・・・でもそれしか方法が思いつかないんですよ。
宇良出:権藤さんがいつ来るか分からないから、もう、今のうちに死体になってようかと思いまして
:
江里:いや、まてまて、「誰か」の方が早く来るかもしれないだろ
江里:だってほら、死体がトイレを我慢できるくらいの時間で、迎えに来るっていう話なんだから・・・
江里:それに、君は死体に言われたんだろ? 居場所を奪わないでくれって
:
宇良出:ええ、それは確かに・・・
:
江里:だから君が死体になっちゃダメなんだよ
:
宇良出:そうですか・・・
:
江里:あぁ、俺に変な気は使わなくていいよ・・・
:
宇良出:・・・
:
江里:でも、俺なら、まだ大丈夫だろ、「誰か」が来ないうちに、今から俺が・・・
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宇良出:ちょ、ちょっと! 待って下さいよ!
宇良出:そんな事しても意味ないですって
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江里:何でだよ
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宇良出:だって、僕は「誰か」を知らないんですよ。
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江里:でも、「誰か」が来たら直ぐに分かるんだろ?
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宇良出:それは田中さんがそう言っているだけで、僕が分かるかどうかなんて、分からないじゃないですか
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江里:まぁ、確かに
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宇良出:だから、やっぱり僕が・・・
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江里:やめろって言ったろ
江里:それに、俺だって権藤さんが誰か知らないよ
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宇良出:そうですよね・・・
0:
0:(間)
0:
宇良出:僕達って、何を待ってるんですかね・・・・
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江里:あぁそうだな・・・
江里:権藤さんを待っているのか、死体を待っているのか、「誰か」を待っているのか・・・
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宇良出:それが分からないと死ぬに死ねないですね
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江里:そうだな
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0:(間)
0:
0:(死体に似た誰かが登場)
0:
青年:あ、いたいた、ここでしたか、ちょっと迷ってしまって・・・探しましたよ
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宇良出:・・・田中さん・・・・
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江里:はぁ・・・よかった・・・助かった・・・
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青年:お二人ともどうしたんですか?
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宇良出:「どうしたんですか」じゃありませんよ、もう、ずっとあなたの事を待ってたんですから
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青年:私を待っていたのですか?
青年:私が来る事を、良く知ってましたね?
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江里:そりゃそうだよ、君が来なければ、俺達はどんな目に会うか・・・
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宇良出:それにしても、田中さん、随分長いトイレでしたね、お腹でも壊れたんですか?
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青年:は? 田中さん?
青年:私は田中さんじゃないですよ?
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江里:ほら、だから言ったろ、死体は田中さんじゃないって
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青年:いや、死体の名前は田中さんですよ?
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宇良出:ほらっ!
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江里:いや、だってさっき・・・・
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青年:あなた、田中さんを知らないんですか?
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江里:いや、俺だって田中さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? 大学で先生やってる
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青年:それは斎藤さんでしょ
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宇良出:ほらぁ!
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江里:いや、田中さんだよ、五ラン大学の
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青年:それは斎藤さん。
青年:あなた、もしかして斎藤さんを知らないんですか?
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江里:斉藤さんくらい知ってるよ、ほら、あれだろ? コンビニでバイトしてる。
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青年:それは高橋さん!
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宇良出:ほら、ほら、ほら、ね、そうでしょ? そうだったでしょ?
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江里:うーん・・・・
江里:ちなみに、美容師さんは?
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青年:元町さん。
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宇良出:よっしゃー! よーし、よし、よしよし
宇良出:あれ? そんな事より、僕達、とんでもない事を見逃している気がする・・・
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江里:え? とんでもない事って?
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青年:ところで、お二人はさっきから何の話をしているんですか?
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江里:だから、死体である君の名前が、田中かどうかって事だよ。
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青年:私は田中ではありませんよ
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江里:だろ?
江里:だからさっきから言ってるんだよ、死体は田中じゃないって
江里:それを君がややこしくしたんじゃないか
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青年:いや、死体は田中さんですよ
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江里:でも、君は自分は田中じゃないって言ったじゃないか
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青年:ええ、私は死体ではありませんから・・・
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江里:え?
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宇良出:あぁ・・・やっぱり・・・・
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江里:じ、じゃぁ、あなたは誰で、何しにここに来たんですか?
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青年:私は権藤さんの伝言を、権藤さんを待っていらっしゃる方に届けに来た者です。
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江里:俺に?
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青年:あぁ、あなたが権藤さんを待っていらっしゃる方ですか?
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江里:ええ、まぁ一応
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青年:そうですか、権藤さんからの伝言です。
青年:「今日は行けなくなったけど、明日の明け方になったら、そっちに行くよ」という事でした。
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江里:え? 明日?
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青年:ええ、明日の明け方ですって
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江里:明け方・・・ですか?
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青年:明け方というのは、夜が明ける頃という意味ですね
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江里:そうですか・・・
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青年:伝言は確かにお届けしましたよ
青年:では、お二人さん、さようなら
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江里:あの・・・えっと・・・
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0:(去っていく青年)
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0:(間)
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宇良出:権藤さん、明日になるんですね
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江里:そうらしいな
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0:(間)
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宇良出:江里さん
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江里:ん?
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宇良出:さっきから、ずっと考えていたんですが、なんだか僕、分かった気がするんです。
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江里:そうか・・・実は俺もそうなんだよ
江里:俺もなんだか、今分かった気がするんだよ
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宇良出:そうですか・・・
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江里:あぁ、
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宇良出:僕達って、権藤さんを待っている訳でも、死体を待っている訳でも、「誰か」を待っている訳でもなかったんですね。
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江里:そうだな、俺達は「その時」を待ってたんだな
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0:(間)
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宇良出:あの夕日、綺麗ですね。
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江里:もう、夕方になっちまってたんだな
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宇良出:ええ、何だかんだで、知らないうちに時間が過ぎて行ってたんですね
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江里:そうだな、あっという間だったな
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宇良出:ええ
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0:(間)
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江里:あれは夕日だよな?
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宇良出:ええ、夕日ですね。
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江里:やっぱり、夕日だよな?
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宇良出:ええ、夕日です。
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江里:あれが夕日でも、もう朝日でいいかな
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宇良出:そうですね、それでいいと思います。
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江里:そうだな、よし、じゃぁ行こうか。
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宇良出:はい、行きましょう。
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0:
0:(二人去る)
0:(完)