台本概要
531 views
タイトル | サヨナラのかわりに、また明日 |
---|---|
作者名 | カタギリ (@Kata_giriV) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
閲覧ありがとうございます。 商用、非商用問わず作者への連絡不要ですが、Xなどで呟いていただけるととても嬉しいです。 ※最後の二カ所ほど、みずき役の方は兼役あります。 531 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
はじめ | 男 | 99 | 大学生。就活生。卑屈。 |
みずき | 女 | 94 | 女子高生。陸上部。明るい。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:サヨナラのかわりに、また明日
登場人物:はじめ 大学生。就活生。卑屈。
0:みずき 女子高生。陸上部。明るい。
0:店員 みずき役の方の兼役。
あらすじ:はじめは就職活動中の大学生。就活はうまくいってない。落ち込んだ時は大学近くの岬でたそがれるのが日課になっていたが、この日はいつもと違ったようで。
0:はじめ、岬でスマホを眺めている。
はじめ:はぁーまたお祈りメール。何社目だよ。もう疲れてきた。俺はどうせ社会不適合者ですよ。もうやってらんねーよ。ああー!
みずき:、、、(じー)
はじめ:はっ!?誰かいる?もしかして今の見られてた?ああ神様、俺の存在をいますぐ消してくれ。お願いします。
みずき:ぶふっ。
はじめ:最悪だ。確定だよ。めっちゃ笑い堪えてるじゃん。俺の醜態があの人の記憶に焼きつく前に逃げなければ。
みずき:あっ、待って。
はじめ:えっ、足早っ。
みずき:待ってください。これ落としてますよ。
はじめ:あ、俺のスマホ。
みずき:さっきあなたが暴れてた時に放り投げてましたよ。
はじめ:あばっ、もうそのことには触れないで。恥ずかしいからさ。
みずき:ごめんなさい。でも思い出すと、ふふっ。
はじめ:あー死にたい。
みずき:その程度のことで生きるのを諦めないでください。
はじめ:誰もいないと思って油断してた。ここで人に会ったことなんて一度もなかったから。
みずき:私もこの岬の雰囲気が好きでたまに来るんですけど、初めてです。人に会ったの。それも、ふふ、とびっきり、面白そうな、ふふ。
はじめ:笑い過ぎじゃない?
みずき:ごめんなさい。もうやめますね。ふふ。
はじめ:やめられてないし。なにはともあれ、スマホ、拾ってくれてありがとう。あんまり足が速いから驚いたよ。
みずき:脚には自信がありまして。これでも陸上部のエースなんです。
はじめ:へぇー通りでいい走りをする訳だ。
みずき:そんなに素直に褒められたの久しぶりかも。「お前はトップ走れて当たり前!」みたいな空気になってるから。
はじめ:プロの世界は厳しいんだな。素人からしたら充分すごいと思うけど。
みずき:プロは少し言い過ぎですよ。あっ、そろそろ戻らなきゃ。ここにはよく来るんですか?
はじめ:うん、就活の帰りに気分転換かねて寄ってる。
みずき:じゃあまた会えたらお話しでもしましょ。面白い先輩ともっとお話したくなりました。
はじめ:面白いかは知らないけど、いいよ。俺ははじめ、よろしく。
みずき:はじめ先輩、いい名前ですね。私はみずきです。よろしくお願いします。
はじめ:何で先輩呼び?
みずき:なんとなくです。ではまた。
はじめ:なんとなくかよ。まあいいけど。またね。
0:翌日、岬にて。
はじめ:またお祈りか。少しは慣れてきたけど、それでも堪えるな。はぁー。
みずき:そんなにため息してると幸せが逃げますよ。先輩。
はじめ:ため息はな、気分を落ち着かせてくれる効果があるんだ。知らんのか?
みずき:へぇー悪いイメージだけじゃないんですね。お疲れ様です。
はじめ:ああお疲れ。君はあまりため息つかなそう。
みずき:そうでもないですよ。これでも悩み多き乙女なんです。
はじめ:さいですか。ところで昨日のお礼じゃないけど、これあげるよ。
みずき:そんなのいいのに。あー!たい焼き!しかもこれ美波屋のたい焼きだ!私大好きなんです!今食べてもいいですか?
はじめ:もちろん。焼き立てだから早めに食べた方が美味しいと思う。
みずき:じゃあ遠慮なくいただきます!はむっ、ん~外はカリカリ、中はフワフワの皮にほどよい甘さのなめらかなあんこが合わさって最強です!
はじめ:そんなに喜んでもらえるとは。ここへ来る途中でたまたま見かけて買ってきたけど、当たりだったみたいだな。
みずき:美波屋はこの辺りの学生に大人気なんですよ。癒やし系の優しいお婆ちゃんが焼いてくれる昔ながらの素敵なお店なんです。
はじめ:そうなんだ。俺が買った時はお婆ちゃんじゃなくてお姉さんが店番してたけどね。
みずき:えっ、珍しいですね。お婆ちゃん休んでるところ見たことないくらいですけど。
はじめ:お婆ちゃんも毎日は疲れるだろうし、たまには休むこともあるんじゃない?
みずき:うーん、そうですかね。あ、もう半分しかない。先輩はこのたい焼き食べたことないんですか?
はじめ:うん、ないね。
みずき:じゃあ半分こしましょう。
はじめ:え?俺はいいよ。君へのお礼なんだから。
みずき:いいえ、こんな至高の逸品を食べたことがないなんて人生損してます。
はじめ:いいって、学生はたくさん食べな。
みずき:先輩もまだ学生じゃないですか。それとも私の食べかけは嫌ですか?
はじめ:いや、そういうわけじゃないけど、、、
みずき:じゃあどうぞ!召し上がってください!ほら!ぐいっと!
はじめ:わ、わかったよ。お酒じゃないんだから、はむっ、ん、美味しい。
みずき:でしょー。
はじめ:今まで食べたたい焼きの中でも1番かも。
みずき:先輩にも気に入ってもらえて嬉しいです。ご馳走様でした。今度は私が買ってきますからまた食べましょ?
はじめ:あ、うん。
みずき:約束ですよ。ふふ。
はじめ:(こうしてたい焼き片手に岬に集まるのがお決まりになってきたある日。)
みずき:んーやっぱりおかしい。
はじめ:ん?どうかした?珍しく神妙な面持ちだな。
みずき:珍しくは余分です。美波屋のお婆ちゃんの件が引っかかるんですよね。
はじめ:ああ、結局俺は一回も会ってないな。
みずき:私が買いに行く時はいつもお婆ちゃんが店番してるのに先輩の時だけいないっておかしくないですか?
はじめ:うーん、確かにこれだけ偶然が続くのもおかしいかもな。
みずき:じゃあ今から一緒に確かめに行きます?
はじめ:そうだね。行ってみるか。
みずき:なんだか刑事ドラマみたいでワクワクしますね。コホン、行きましょう、はじめ君。
はじめ:ふふ、まだまだ子供だな。そういえば、一緒に岬から出るのって初めてだよね。
みずき:そうですね。時間を忘れて話し過ぎちゃて、帰りは急いで出ていきますからね、主に私が。
はじめ:ははは、君が凄い勢いで走ってくからおかしくって笑っちゃうよ。
みずき:もう、人を小馬鹿にして、性格悪い。
はじめ:ごめん。でも君も初めて会った時、俺のこと散々笑ってたからおあいこだろ。
はじめ:あれ?みずき?いない。さっきまで隣にいたよな。岬に戻ったのか、、、ってうわぁ!
みずき:きゃあ!
はじめ:みずき、どこ行ってたんだよ。てか急に出てきたよな?
みずき:先輩こそ、急にいなくなったと思ったら、急に隣りに生えてて。
はじめ:植物みたいに言うなよ。
みずき:でもおかしいですよ。岬から出ようとするとお互い相手が見えなくなるなんて。
はじめ:就活で疲れてんのか、俺?
みずき:私も部活で疲れてるのかもしれません。
はじめ:、、、あのさ、頭がおかしいと思われるかもしれないけど、この岬だけ時空が歪んでるとか?
みずき:そんなオカルトみたいなこと、、、。
はじめ:今日って何年何月何日?
みずき:え、そんなの当たり前じゃないですか、、、あれ?
はじめ:俺も試したけど、時間に関することが言葉にできない。
みずき:本当に時空のゆがみが起きてるんですかね?
はじめ:わからない。でも目の前で起きちゃってるからね。
みずき:、、、。
はじめ:今日のところは出直すか。
みずき:そうしましょ。
はじめ:明日も来る?
みずき:そうですね。
はじめ:それじゃあまた明日。
みずき:はい、また明日。
0:翌日、岬にて。
はじめ:やあ、昨日はよく眠れた?
みずき:そう見えますか?
はじめ:目の下のくまを見る限りはそう見えないな、ごめん。
みずき:昨日の夜、思い出したことがあって。うちのお爺さんの言い伝えなんですけど、この岬は昔、ヒトツキ岬って呼ばれてたそうです。
はじめ:ヒトツキ岬、、、。
みずき:好きな女に想いを告げられなかった男が、リベンジのためにと過去と未来を繋ぐ儀式を行ったのがこの岬らしいです。
はじめ:マジでオカルトじゃん。それにしても、その情熱を最初から発揮していればよかったのに、、、。
みずき:それで、その儀式にはある供物を用いたんですけど。
はじめ:供物って?
みずき:鯛。
はじめ:鯛ね、、、ってもしかしてたい焼き!?
みずき:おそらく私たちの場合はたい焼きが供物代わりになって儀式が発動したのかも。
はじめ:しょーもな!でもみずきと初めて会った時って俺はたい焼き持ってなかったぞ?
みずき:実はあの時、私、岬でたい焼き食べてたんですよね。あははは。
はじめ:さいですか。でも、昨日は随分驚いたけど、その話聞いたら拍子抜けしちゃった。
みずき:過去と未来が繋がるって割ととんでもないこと起きてますけどね。
はじめ:ところでヒトツキってどういう意味があるんだ?
みずき:儀式の有効期限が一ヶ月らしくて。
はじめ:ああ、なるほど。そういえば、俺達がはじめて会ったのって一ヶ月前くらいじゃない?
みずき:そうですね。明日でちょうど一ヶ月です。
はじめ:マジか。
みずき:マジです。
みずき:あくまで嘘くさい言い伝えなのでわからないですけど、明日が最後かもしれませんね。ここでお話しできるのも。
はじめ:そうか、、、よし、明日はここでパーティーをしよう。
みずき:へ?
はじめ:最後くらい楽しい思い出作ろうぜ。大学生はお祭り事が大好きな生き物なのだ!
みずき:急に元気になりましたね、先輩。でも賛成です。やりましょう!一ヶ月記念パーティーですね!
はじめ:そうと決まれば準備しないとな!
みずき:適当に食べ物とか見繕ってきますね!もちろん美波屋のたい焼きも!
はじめ:ああ、それじゃあまた明日。
みずき:はい、また明日。
0:はじめ宅
はじめ:みずきと会えるのも明日で最後か。
はじめ:思えば、たい焼き食って他愛もない会話してただけだな。でもそれが楽しかった。少し寂しいな。
0:みずき宅
みずき:先輩とパーティーか。楽しみだな。
たった一ヶ月、でも濃密な一ヶ月だった気がする。本当に明日で終わりなのかな。
0:翌日、岬にて。
はじめ:おおー随分大荷物じゃないか?
みずき:パーティーだからって買い過ぎちゃいました。たい焼きでしょ、それからポテチに、チョコに、、、。
はじめ:お菓子ばっかじゃん。俺は焼鳥と焼きそばと飲み物も買ってきたよ。
みずき:いいですね!あっ、でもお酒はダメですよ!
はじめ:えっ!?缶一本も?
みずき:ダーメです!未成年いるんですから!我慢してください。大人でしょ。
はじめ:とほほ、しょうがないな。
みずき:ほらほらそんなにしょげてないで楽しみましょう!カンパーイ!
はじめ:ちょっ、まだ注いでないって。
みずき:先輩遅いですよー。あははは。
はじめ:(こうしてひとしきり飲んで食べて楽しんだ。)
みずき:ふーお腹いっぱいです。
はじめ:食べるのは休憩してこれ、どうよ?
みずき:わーい!花火だ!
はじめ:おい、あんまり振り回すと危ないって。
みずき:センパーイ、ノロノロしてると先輩の分も全部遊んじゃいますよ。
はじめ:ちょっとは残してくれよ。
みずき:あはっ!打ち上げ花火!綺麗!
はじめ:最後、線香花火やろうぜ。
みずき:いいですね。やりましょ!
みずき:線香花火って可愛いんですけど、儚げな感じがまた趣があって。
はじめ:そうだな。見てると落ち着く。
0:間
みずき:私、この一ヶ月すっごい楽しかったです。特別なことをした訳ではないですけど、先輩と話してると何でもないことも楽しく思えて。
はじめ:ファーストコンタクトは最悪だったけどな。
みずき:あれもいい思い出、ぐふふ、だったじゃないですか、くくく。
はじめ:また思い出し笑いしてる。そんなに面白かったか?
みずき:面白かったですよ。あれがなかったらこの一ヶ月はなかったかもってくらい。
はじめ:んーなんか複雑な心境だな。
みずき:でも本当に不思議です。見ず知らずの人とこんなに仲良くなれるなんて。きっと、先輩って人に好かれるオーラを纏ってるんですよ。
はじめ:そうかな。ただ面白がられてるだけかと思うけど。
みずき:それもありましたけどね。
はじめ:台無しだよ。
みずき:まあまあ。先輩みたいな人でも就活でこんなに苦労するなんて、就活って大変なんだなって思いました。
はじめ:うまく自分をPRするのってなかなか難しいんだよ。
みずき:でもこの一ヶ月で先輩、随分変わったと思いますよ。最初はおどおどしてたのに最近は堂々としてるって言うか、いや、堂々は言い過ぎだったかもしれません。
はじめ:いいじゃん、そこは素直に褒めておけばさ。君は一言余分なんだよな。
みずき:あははは、先輩の反応が楽しくてついからかっちゃうんです。ごめんなさい。
はじめ:でも、変わったっていうのは君の言う通りかもしれない。実は遂に内定もらったんだ。
みずき:おおーおめでとうございます!
はじめ:この一ヶ月で何となく自信がついたのか、面接でも上手く喋れるようになってきたんだ。君が雑談に付き合ってくれたお陰かもしれない。ありがとう。
みずき:いえいえ、私は何もしてませんよ。先輩の良さがやっと芽を出したってところじゃないですかね。
はじめ:本当感謝してる。
みずき:それに私も先輩にお礼が言いたいんです。
はじめ:えっ?
みずき:私、最近、陸上部の中で浮いてたんですよね。
はじめ:なんか意外だな。
みずき:最近は練習がハードになってきて部員と言葉を交わすこともほとんどありませんでしたから、しょうがないんですけど。
はじめ:期待のエースだもんな。
みずき:でも、この場所で先輩とたくさんお喋りして心に余裕ができたんだと思います。
みずき:思い切って私から部員に話しかけてみたんです。そしたら「一人で頑張らせてごめんね。」「私達も応援してるし一緒に頑張ろう。」って言ってくれて。泣いちゃいました。
はじめ:いい仲間に恵まれたな。
みずき:はい。先輩、勇気をくれてありがとございました。
はじめ:俺は何もしてないけど、そういうことにしておくか。
0:間
みずき:これで本当に最後なんですね。
はじめ:いや、それはまだわからないよ。
みずき:えっ?
はじめ:時空がズレてるだけなら二人とも同じ世界には生きてるってことだろ?
はじめ:案外言うほど時間ズレてないかもしれないし。どこかでまた再会できる可能性があるって俺は信じたいな。
みずき:、、、そうですね。私も信じてみようかな。先輩、たまには良いこと言いますね。
はじめ:たまには余分だ。
みずき:あははは。
はじめ:それじゃあ一旦お別れだ。
みずき:さよならは言いません。また会いましょ、先輩。
はじめ:ああ、またな、みずき。
0:翌日
はじめ:(翌日岬に行ってみたけど、みずきはいなかった。言い伝えは大体合ってたらしい。)
はじめ:少しくらい気を利かせてくれてもバチは当たらないだろうに。適当な儀式の癖に変なところきっちりしてるんだから。
はじめ:帰りに美波屋のたい焼き買ってこ。
0:美波屋にて
店員:いつもありがとうございます。たい焼きですね。お待たせしました。
はじめ:どうも、、、ん?あの、たい焼き1個でいいんですけど。
店員:サービスです。学生はたくさん食べた方がいいんでしょ、先輩。
はじめ:(どうやら繋がれた縁はそう簡単には解けないらしい。)
0:おしまい。
タイトル:サヨナラのかわりに、また明日
登場人物:はじめ 大学生。就活生。卑屈。
0:みずき 女子高生。陸上部。明るい。
0:店員 みずき役の方の兼役。
あらすじ:はじめは就職活動中の大学生。就活はうまくいってない。落ち込んだ時は大学近くの岬でたそがれるのが日課になっていたが、この日はいつもと違ったようで。
0:はじめ、岬でスマホを眺めている。
はじめ:はぁーまたお祈りメール。何社目だよ。もう疲れてきた。俺はどうせ社会不適合者ですよ。もうやってらんねーよ。ああー!
みずき:、、、(じー)
はじめ:はっ!?誰かいる?もしかして今の見られてた?ああ神様、俺の存在をいますぐ消してくれ。お願いします。
みずき:ぶふっ。
はじめ:最悪だ。確定だよ。めっちゃ笑い堪えてるじゃん。俺の醜態があの人の記憶に焼きつく前に逃げなければ。
みずき:あっ、待って。
はじめ:えっ、足早っ。
みずき:待ってください。これ落としてますよ。
はじめ:あ、俺のスマホ。
みずき:さっきあなたが暴れてた時に放り投げてましたよ。
はじめ:あばっ、もうそのことには触れないで。恥ずかしいからさ。
みずき:ごめんなさい。でも思い出すと、ふふっ。
はじめ:あー死にたい。
みずき:その程度のことで生きるのを諦めないでください。
はじめ:誰もいないと思って油断してた。ここで人に会ったことなんて一度もなかったから。
みずき:私もこの岬の雰囲気が好きでたまに来るんですけど、初めてです。人に会ったの。それも、ふふ、とびっきり、面白そうな、ふふ。
はじめ:笑い過ぎじゃない?
みずき:ごめんなさい。もうやめますね。ふふ。
はじめ:やめられてないし。なにはともあれ、スマホ、拾ってくれてありがとう。あんまり足が速いから驚いたよ。
みずき:脚には自信がありまして。これでも陸上部のエースなんです。
はじめ:へぇー通りでいい走りをする訳だ。
みずき:そんなに素直に褒められたの久しぶりかも。「お前はトップ走れて当たり前!」みたいな空気になってるから。
はじめ:プロの世界は厳しいんだな。素人からしたら充分すごいと思うけど。
みずき:プロは少し言い過ぎですよ。あっ、そろそろ戻らなきゃ。ここにはよく来るんですか?
はじめ:うん、就活の帰りに気分転換かねて寄ってる。
みずき:じゃあまた会えたらお話しでもしましょ。面白い先輩ともっとお話したくなりました。
はじめ:面白いかは知らないけど、いいよ。俺ははじめ、よろしく。
みずき:はじめ先輩、いい名前ですね。私はみずきです。よろしくお願いします。
はじめ:何で先輩呼び?
みずき:なんとなくです。ではまた。
はじめ:なんとなくかよ。まあいいけど。またね。
0:翌日、岬にて。
はじめ:またお祈りか。少しは慣れてきたけど、それでも堪えるな。はぁー。
みずき:そんなにため息してると幸せが逃げますよ。先輩。
はじめ:ため息はな、気分を落ち着かせてくれる効果があるんだ。知らんのか?
みずき:へぇー悪いイメージだけじゃないんですね。お疲れ様です。
はじめ:ああお疲れ。君はあまりため息つかなそう。
みずき:そうでもないですよ。これでも悩み多き乙女なんです。
はじめ:さいですか。ところで昨日のお礼じゃないけど、これあげるよ。
みずき:そんなのいいのに。あー!たい焼き!しかもこれ美波屋のたい焼きだ!私大好きなんです!今食べてもいいですか?
はじめ:もちろん。焼き立てだから早めに食べた方が美味しいと思う。
みずき:じゃあ遠慮なくいただきます!はむっ、ん~外はカリカリ、中はフワフワの皮にほどよい甘さのなめらかなあんこが合わさって最強です!
はじめ:そんなに喜んでもらえるとは。ここへ来る途中でたまたま見かけて買ってきたけど、当たりだったみたいだな。
みずき:美波屋はこの辺りの学生に大人気なんですよ。癒やし系の優しいお婆ちゃんが焼いてくれる昔ながらの素敵なお店なんです。
はじめ:そうなんだ。俺が買った時はお婆ちゃんじゃなくてお姉さんが店番してたけどね。
みずき:えっ、珍しいですね。お婆ちゃん休んでるところ見たことないくらいですけど。
はじめ:お婆ちゃんも毎日は疲れるだろうし、たまには休むこともあるんじゃない?
みずき:うーん、そうですかね。あ、もう半分しかない。先輩はこのたい焼き食べたことないんですか?
はじめ:うん、ないね。
みずき:じゃあ半分こしましょう。
はじめ:え?俺はいいよ。君へのお礼なんだから。
みずき:いいえ、こんな至高の逸品を食べたことがないなんて人生損してます。
はじめ:いいって、学生はたくさん食べな。
みずき:先輩もまだ学生じゃないですか。それとも私の食べかけは嫌ですか?
はじめ:いや、そういうわけじゃないけど、、、
みずき:じゃあどうぞ!召し上がってください!ほら!ぐいっと!
はじめ:わ、わかったよ。お酒じゃないんだから、はむっ、ん、美味しい。
みずき:でしょー。
はじめ:今まで食べたたい焼きの中でも1番かも。
みずき:先輩にも気に入ってもらえて嬉しいです。ご馳走様でした。今度は私が買ってきますからまた食べましょ?
はじめ:あ、うん。
みずき:約束ですよ。ふふ。
はじめ:(こうしてたい焼き片手に岬に集まるのがお決まりになってきたある日。)
みずき:んーやっぱりおかしい。
はじめ:ん?どうかした?珍しく神妙な面持ちだな。
みずき:珍しくは余分です。美波屋のお婆ちゃんの件が引っかかるんですよね。
はじめ:ああ、結局俺は一回も会ってないな。
みずき:私が買いに行く時はいつもお婆ちゃんが店番してるのに先輩の時だけいないっておかしくないですか?
はじめ:うーん、確かにこれだけ偶然が続くのもおかしいかもな。
みずき:じゃあ今から一緒に確かめに行きます?
はじめ:そうだね。行ってみるか。
みずき:なんだか刑事ドラマみたいでワクワクしますね。コホン、行きましょう、はじめ君。
はじめ:ふふ、まだまだ子供だな。そういえば、一緒に岬から出るのって初めてだよね。
みずき:そうですね。時間を忘れて話し過ぎちゃて、帰りは急いで出ていきますからね、主に私が。
はじめ:ははは、君が凄い勢いで走ってくからおかしくって笑っちゃうよ。
みずき:もう、人を小馬鹿にして、性格悪い。
はじめ:ごめん。でも君も初めて会った時、俺のこと散々笑ってたからおあいこだろ。
はじめ:あれ?みずき?いない。さっきまで隣にいたよな。岬に戻ったのか、、、ってうわぁ!
みずき:きゃあ!
はじめ:みずき、どこ行ってたんだよ。てか急に出てきたよな?
みずき:先輩こそ、急にいなくなったと思ったら、急に隣りに生えてて。
はじめ:植物みたいに言うなよ。
みずき:でもおかしいですよ。岬から出ようとするとお互い相手が見えなくなるなんて。
はじめ:就活で疲れてんのか、俺?
みずき:私も部活で疲れてるのかもしれません。
はじめ:、、、あのさ、頭がおかしいと思われるかもしれないけど、この岬だけ時空が歪んでるとか?
みずき:そんなオカルトみたいなこと、、、。
はじめ:今日って何年何月何日?
みずき:え、そんなの当たり前じゃないですか、、、あれ?
はじめ:俺も試したけど、時間に関することが言葉にできない。
みずき:本当に時空のゆがみが起きてるんですかね?
はじめ:わからない。でも目の前で起きちゃってるからね。
みずき:、、、。
はじめ:今日のところは出直すか。
みずき:そうしましょ。
はじめ:明日も来る?
みずき:そうですね。
はじめ:それじゃあまた明日。
みずき:はい、また明日。
0:翌日、岬にて。
はじめ:やあ、昨日はよく眠れた?
みずき:そう見えますか?
はじめ:目の下のくまを見る限りはそう見えないな、ごめん。
みずき:昨日の夜、思い出したことがあって。うちのお爺さんの言い伝えなんですけど、この岬は昔、ヒトツキ岬って呼ばれてたそうです。
はじめ:ヒトツキ岬、、、。
みずき:好きな女に想いを告げられなかった男が、リベンジのためにと過去と未来を繋ぐ儀式を行ったのがこの岬らしいです。
はじめ:マジでオカルトじゃん。それにしても、その情熱を最初から発揮していればよかったのに、、、。
みずき:それで、その儀式にはある供物を用いたんですけど。
はじめ:供物って?
みずき:鯛。
はじめ:鯛ね、、、ってもしかしてたい焼き!?
みずき:おそらく私たちの場合はたい焼きが供物代わりになって儀式が発動したのかも。
はじめ:しょーもな!でもみずきと初めて会った時って俺はたい焼き持ってなかったぞ?
みずき:実はあの時、私、岬でたい焼き食べてたんですよね。あははは。
はじめ:さいですか。でも、昨日は随分驚いたけど、その話聞いたら拍子抜けしちゃった。
みずき:過去と未来が繋がるって割ととんでもないこと起きてますけどね。
はじめ:ところでヒトツキってどういう意味があるんだ?
みずき:儀式の有効期限が一ヶ月らしくて。
はじめ:ああ、なるほど。そういえば、俺達がはじめて会ったのって一ヶ月前くらいじゃない?
みずき:そうですね。明日でちょうど一ヶ月です。
はじめ:マジか。
みずき:マジです。
みずき:あくまで嘘くさい言い伝えなのでわからないですけど、明日が最後かもしれませんね。ここでお話しできるのも。
はじめ:そうか、、、よし、明日はここでパーティーをしよう。
みずき:へ?
はじめ:最後くらい楽しい思い出作ろうぜ。大学生はお祭り事が大好きな生き物なのだ!
みずき:急に元気になりましたね、先輩。でも賛成です。やりましょう!一ヶ月記念パーティーですね!
はじめ:そうと決まれば準備しないとな!
みずき:適当に食べ物とか見繕ってきますね!もちろん美波屋のたい焼きも!
はじめ:ああ、それじゃあまた明日。
みずき:はい、また明日。
0:はじめ宅
はじめ:みずきと会えるのも明日で最後か。
はじめ:思えば、たい焼き食って他愛もない会話してただけだな。でもそれが楽しかった。少し寂しいな。
0:みずき宅
みずき:先輩とパーティーか。楽しみだな。
たった一ヶ月、でも濃密な一ヶ月だった気がする。本当に明日で終わりなのかな。
0:翌日、岬にて。
はじめ:おおー随分大荷物じゃないか?
みずき:パーティーだからって買い過ぎちゃいました。たい焼きでしょ、それからポテチに、チョコに、、、。
はじめ:お菓子ばっかじゃん。俺は焼鳥と焼きそばと飲み物も買ってきたよ。
みずき:いいですね!あっ、でもお酒はダメですよ!
はじめ:えっ!?缶一本も?
みずき:ダーメです!未成年いるんですから!我慢してください。大人でしょ。
はじめ:とほほ、しょうがないな。
みずき:ほらほらそんなにしょげてないで楽しみましょう!カンパーイ!
はじめ:ちょっ、まだ注いでないって。
みずき:先輩遅いですよー。あははは。
はじめ:(こうしてひとしきり飲んで食べて楽しんだ。)
みずき:ふーお腹いっぱいです。
はじめ:食べるのは休憩してこれ、どうよ?
みずき:わーい!花火だ!
はじめ:おい、あんまり振り回すと危ないって。
みずき:センパーイ、ノロノロしてると先輩の分も全部遊んじゃいますよ。
はじめ:ちょっとは残してくれよ。
みずき:あはっ!打ち上げ花火!綺麗!
はじめ:最後、線香花火やろうぜ。
みずき:いいですね。やりましょ!
みずき:線香花火って可愛いんですけど、儚げな感じがまた趣があって。
はじめ:そうだな。見てると落ち着く。
0:間
みずき:私、この一ヶ月すっごい楽しかったです。特別なことをした訳ではないですけど、先輩と話してると何でもないことも楽しく思えて。
はじめ:ファーストコンタクトは最悪だったけどな。
みずき:あれもいい思い出、ぐふふ、だったじゃないですか、くくく。
はじめ:また思い出し笑いしてる。そんなに面白かったか?
みずき:面白かったですよ。あれがなかったらこの一ヶ月はなかったかもってくらい。
はじめ:んーなんか複雑な心境だな。
みずき:でも本当に不思議です。見ず知らずの人とこんなに仲良くなれるなんて。きっと、先輩って人に好かれるオーラを纏ってるんですよ。
はじめ:そうかな。ただ面白がられてるだけかと思うけど。
みずき:それもありましたけどね。
はじめ:台無しだよ。
みずき:まあまあ。先輩みたいな人でも就活でこんなに苦労するなんて、就活って大変なんだなって思いました。
はじめ:うまく自分をPRするのってなかなか難しいんだよ。
みずき:でもこの一ヶ月で先輩、随分変わったと思いますよ。最初はおどおどしてたのに最近は堂々としてるって言うか、いや、堂々は言い過ぎだったかもしれません。
はじめ:いいじゃん、そこは素直に褒めておけばさ。君は一言余分なんだよな。
みずき:あははは、先輩の反応が楽しくてついからかっちゃうんです。ごめんなさい。
はじめ:でも、変わったっていうのは君の言う通りかもしれない。実は遂に内定もらったんだ。
みずき:おおーおめでとうございます!
はじめ:この一ヶ月で何となく自信がついたのか、面接でも上手く喋れるようになってきたんだ。君が雑談に付き合ってくれたお陰かもしれない。ありがとう。
みずき:いえいえ、私は何もしてませんよ。先輩の良さがやっと芽を出したってところじゃないですかね。
はじめ:本当感謝してる。
みずき:それに私も先輩にお礼が言いたいんです。
はじめ:えっ?
みずき:私、最近、陸上部の中で浮いてたんですよね。
はじめ:なんか意外だな。
みずき:最近は練習がハードになってきて部員と言葉を交わすこともほとんどありませんでしたから、しょうがないんですけど。
はじめ:期待のエースだもんな。
みずき:でも、この場所で先輩とたくさんお喋りして心に余裕ができたんだと思います。
みずき:思い切って私から部員に話しかけてみたんです。そしたら「一人で頑張らせてごめんね。」「私達も応援してるし一緒に頑張ろう。」って言ってくれて。泣いちゃいました。
はじめ:いい仲間に恵まれたな。
みずき:はい。先輩、勇気をくれてありがとございました。
はじめ:俺は何もしてないけど、そういうことにしておくか。
0:間
みずき:これで本当に最後なんですね。
はじめ:いや、それはまだわからないよ。
みずき:えっ?
はじめ:時空がズレてるだけなら二人とも同じ世界には生きてるってことだろ?
はじめ:案外言うほど時間ズレてないかもしれないし。どこかでまた再会できる可能性があるって俺は信じたいな。
みずき:、、、そうですね。私も信じてみようかな。先輩、たまには良いこと言いますね。
はじめ:たまには余分だ。
みずき:あははは。
はじめ:それじゃあ一旦お別れだ。
みずき:さよならは言いません。また会いましょ、先輩。
はじめ:ああ、またな、みずき。
0:翌日
はじめ:(翌日岬に行ってみたけど、みずきはいなかった。言い伝えは大体合ってたらしい。)
はじめ:少しくらい気を利かせてくれてもバチは当たらないだろうに。適当な儀式の癖に変なところきっちりしてるんだから。
はじめ:帰りに美波屋のたい焼き買ってこ。
0:美波屋にて
店員:いつもありがとうございます。たい焼きですね。お待たせしました。
はじめ:どうも、、、ん?あの、たい焼き1個でいいんですけど。
店員:サービスです。学生はたくさん食べた方がいいんでしょ、先輩。
はじめ:(どうやら繋がれた縁はそう簡単には解けないらしい。)
0:おしまい。