台本概要
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タイトル | アーウィング・ホー氏の朝 |
---|---|
作者名 | 冷凍みかん-光柑- (@mikanchilled) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 1人用台本(男1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
日本で暮らすアーウィング・ホー氏にはある悩みがあった。 そしてその苦悩の矛先はまったく関係のない灯油業者に向けられるのであった。 ご自由になさってください。 149 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
アーウィング・ホー | 男 | 10 | 23歳。40代と言われても遜色のないような風格がある。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
アーウィング・ホー:私は車で母を駅まで送り、帰宅後は炊飯器の予約機能を昼12時にセットした。
アーウィング・ホー:現在9時45分。今日の予定は母を午後1時に迎えに行くこと。
アーウィング・ホー:また先日 私はコンタクトレンズを購入したので、連絡があり次第 眼鏡屋に取りに行くことになっている。
アーウィング・ホー:この眼鏡屋はこじんまりとした店なのだが、レンズの注文に眼科の処方箋がいらないので有り難い。
アーウィング・ホー:近くに銀行があるので、ついでに印鑑登録をし直そうと考えている。
アーウィング・ホー:結論を言うと私は昼まで暇なのだ。
0:
アーウィング・ホー:なぜ大人の私が家でくすぶっているかというと、試験に合格してあとは就職を待つのみだからである。
アーウィング・ホー:こう記すとなんだか順風満帆、悠々自適な感じを受けるだろうが、正直言って私は困っている。
アーウィング・ホー:なんせ一人で遊ぼうにも金がない。前に働いていた引っ越し業者で明日からバイトをするのだが、
アーウィング・ホー:いまこの瞬間を紛らわす術(すべ)を私は何も持ち合わせていないのだ。
アーウィング・ホー:発作的に購入した本は気に入るものではなかったし、
アーウィング・ホー:動画サイトやSNSを見るのも飽きた。かと言って映画を観るほどじっとしてもいられない。
アーウィング・ホー:ランニングを思いついたが、昨日8キロほど走った影響で体が痛む気がする。
アーウィング・ホー:というかそもそも私にはーー
0:
アーウィング・ホー:すまない。少し席を離れてしまった。バイトの出勤確認の通知が来たのだ。
アーウィング・ホー:それから母の荷物を郵送業者から受け取った。
アーウィング・ホー:ことほど左様に、私は家に居なければならない。
アーウィング・ホー:強制されているわけではないが、それが現在の私にとって
アーウィング・ホー:”自然な状態”であり、ここを離れると
アーウィング・ホー:「どこをほっつき歩いていた?」「何しに出かけたんだ?」
アーウィング・ホー:と聞かれること請け合いだ。
アーウィング・ホー:気分転換さと答えることもできるが、こうフワフワした気持ちでは
アーウィング・ホー:自分でもどうなってしまうか分からない。
アーウィング・ホー:私は絶賛アーウィング・ホーなのだ。
アーウィング・ホー:YEAH
0:
アーウィング・ホー:さて、隣の妹の部屋が何だか騒がしい。
アーウィング・ホー:私の妹は親のすねかじりであることに何の引け目も感じぬようで
アーウィング・ホー:将来的にも実家から離れるつもりはないらしい。
アーウィング・ホー:これには両親も賛成で、特に母は私の妹と暮らすことに固執している。
アーウィング・ホー:妹のあっけらかんとした性格が、日々の生活に明るさをもたらしていることは事実であれ、
アーウィング・ホー:いつまでも子のように扱われるのを良しとする妹の心は、私にはまるで理解ができない。
アーウィング・ホー:妹はいま映像系の専門学校に通っていて、そこでできた友達の家に泊まることもしばしばある。
アーウィング・ホー:とうぜん送り迎えは私の仕事だ。
アーウィング・ホー:役割があるのは結構だが、妹の場合は直前に連絡してくるので慌ただしくて困る。
0:
アーウィング・ホー:父はよく知らない。所得から察するに何やら重大な仕事を任されていることは間違いないが
アーウィング・ホー:話を聞いたところで面白くもなんともない風に話すから、私としてもあまり興味がそそられないのだ。
アーウィング・ホー:小学生のときの授業参観では、体育の授業で父兄代表として跳び箱8段を飛んでみせたが
アーウィング・ホー:私の観測した父の雄姿はそれっきりである。
アーウィング・ホー:身だしなみはいつもきちんとしていて清潔感のある印象だが
アーウィング・ホー:服のちょっとした染みを気に病みがちなのでナイーブな性格だと思う。
アーウィング・ホー:就職についての相談もしたが、毒にも薬にもならないことを言われたような気がする。
アーウィング・ホー:本当に空気のような人だ。
0:
アーウィング・ホー:登場人物は全部で4人。両親と妹、そしてアーウィング・ホーたる私だ。
アーウィング・ホー:10時45分になったがこれから何か驚くべきことが起こるのだろうか。
アーウィング・ホー:物語として、一つの小噺として何か重大な大事件が起こるといいのだが。
0:
アーウィング・ホー:他力本願でも仕方がないので私自ら動くことにした。
アーウィング・ホー:ちょうど灯油業者が家の前を通っているので、その車を全力で止めてみたいと思う。
アーウィング・ホー:最も有効なのは積載している灯油に火をつけて車両もろとも爆破することだが
アーウィング・ホー:それでは燃え盛る炎の煙や、不完全燃焼時の嫌な匂いがしばらくの間家の前に留まってしまう。
アーウィング・ホー:それは明らかに不快だろうから止しておく。
0:
アーウィング・ホー:青信号を割ってみるのはどうだろうか。信号に律儀な運転手ならば青信号が光らない限り、
アーウィング・ホー:その場にとどまるはずだ。
アーウィング・ホー:警察を呼んで事の顛末を語りだすかもしれない。
アーウィング・ホー:最寄りの警察署までは1km強あるので事情聴取を含めても小一時間は車両を止めたことになるはずだ。
アーウィング・ホー:問題なのは信号一つの値段が総額400万弱もすることだ。
アーウィング・ホー:これは信号制御盤が約200万もする精密機械な故だが、
アーウィング・ホー:赤、青、黄色の信号灯機だけでも10万はする。
アーウィング・ホー:いくら灯油業者を止めるためとはいえ、これほどの損害は流石に申し訳ない。
アーウィング・ホー:他にも道路に穴を掘る、瓦礫で道をふさぐ、
アーウィング・ホー:道に”まき菱”をばら撒いてタイヤをパンクさせるという方法があるが
アーウィング・ホー:いずれにせよインフラに大きな影響をもたらす懸念が残るため断念した。
0:
アーウィング・ホー:そこで、断念する一歩手前の思考過程に立ち返ってみようと思う。
アーウィング・ホー:着目したのは信号を割った時に取るであろう運転手の行動だ。
アーウィング・ホー:これはつまるところ運転手の精神作用を利用した方法だったが
アーウィング・ホー:どうやらモノに働きかけるよりも、運転手の心理に直接働きかけることが有効なようだ。
アーウィング・ホー:これなら私の得意分野だ。
アーウィング・ホー:モノに働きかけるには、狙った現象を引き起こすまでのトライアンドエラーが必須になってくるが
アーウィング・ホー:運転手の心理に働きかけるならば実行するだけである。
アーウィング・ホー:そうと決まれば窓を開け、ベランダに出よう。
アーウィング・ホー:そして大声で叫ぶだけだ。
アーウィング・ホー:灯油!灯油!漏れてますよ!!
アーウィング・ホー:気がつくと、家の前には既に灯油業者はいなかった。
0:
アーウィング・ホー:そして炊飯器は米が炊けたのを告げたのだった。
アーウィング・ホー:私は車で母を駅まで送り、帰宅後は炊飯器の予約機能を昼12時にセットした。
アーウィング・ホー:現在9時45分。今日の予定は母を午後1時に迎えに行くこと。
アーウィング・ホー:また先日 私はコンタクトレンズを購入したので、連絡があり次第 眼鏡屋に取りに行くことになっている。
アーウィング・ホー:この眼鏡屋はこじんまりとした店なのだが、レンズの注文に眼科の処方箋がいらないので有り難い。
アーウィング・ホー:近くに銀行があるので、ついでに印鑑登録をし直そうと考えている。
アーウィング・ホー:結論を言うと私は昼まで暇なのだ。
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アーウィング・ホー:なぜ大人の私が家でくすぶっているかというと、試験に合格してあとは就職を待つのみだからである。
アーウィング・ホー:こう記すとなんだか順風満帆、悠々自適な感じを受けるだろうが、正直言って私は困っている。
アーウィング・ホー:なんせ一人で遊ぼうにも金がない。前に働いていた引っ越し業者で明日からバイトをするのだが、
アーウィング・ホー:いまこの瞬間を紛らわす術(すべ)を私は何も持ち合わせていないのだ。
アーウィング・ホー:発作的に購入した本は気に入るものではなかったし、
アーウィング・ホー:動画サイトやSNSを見るのも飽きた。かと言って映画を観るほどじっとしてもいられない。
アーウィング・ホー:ランニングを思いついたが、昨日8キロほど走った影響で体が痛む気がする。
アーウィング・ホー:というかそもそも私にはーー
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アーウィング・ホー:すまない。少し席を離れてしまった。バイトの出勤確認の通知が来たのだ。
アーウィング・ホー:それから母の荷物を郵送業者から受け取った。
アーウィング・ホー:ことほど左様に、私は家に居なければならない。
アーウィング・ホー:強制されているわけではないが、それが現在の私にとって
アーウィング・ホー:”自然な状態”であり、ここを離れると
アーウィング・ホー:「どこをほっつき歩いていた?」「何しに出かけたんだ?」
アーウィング・ホー:と聞かれること請け合いだ。
アーウィング・ホー:気分転換さと答えることもできるが、こうフワフワした気持ちでは
アーウィング・ホー:自分でもどうなってしまうか分からない。
アーウィング・ホー:私は絶賛アーウィング・ホーなのだ。
アーウィング・ホー:YEAH
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アーウィング・ホー:さて、隣の妹の部屋が何だか騒がしい。
アーウィング・ホー:私の妹は親のすねかじりであることに何の引け目も感じぬようで
アーウィング・ホー:将来的にも実家から離れるつもりはないらしい。
アーウィング・ホー:これには両親も賛成で、特に母は私の妹と暮らすことに固執している。
アーウィング・ホー:妹のあっけらかんとした性格が、日々の生活に明るさをもたらしていることは事実であれ、
アーウィング・ホー:いつまでも子のように扱われるのを良しとする妹の心は、私にはまるで理解ができない。
アーウィング・ホー:妹はいま映像系の専門学校に通っていて、そこでできた友達の家に泊まることもしばしばある。
アーウィング・ホー:とうぜん送り迎えは私の仕事だ。
アーウィング・ホー:役割があるのは結構だが、妹の場合は直前に連絡してくるので慌ただしくて困る。
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アーウィング・ホー:父はよく知らない。所得から察するに何やら重大な仕事を任されていることは間違いないが
アーウィング・ホー:話を聞いたところで面白くもなんともない風に話すから、私としてもあまり興味がそそられないのだ。
アーウィング・ホー:小学生のときの授業参観では、体育の授業で父兄代表として跳び箱8段を飛んでみせたが
アーウィング・ホー:私の観測した父の雄姿はそれっきりである。
アーウィング・ホー:身だしなみはいつもきちんとしていて清潔感のある印象だが
アーウィング・ホー:服のちょっとした染みを気に病みがちなのでナイーブな性格だと思う。
アーウィング・ホー:就職についての相談もしたが、毒にも薬にもならないことを言われたような気がする。
アーウィング・ホー:本当に空気のような人だ。
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アーウィング・ホー:登場人物は全部で4人。両親と妹、そしてアーウィング・ホーたる私だ。
アーウィング・ホー:10時45分になったがこれから何か驚くべきことが起こるのだろうか。
アーウィング・ホー:物語として、一つの小噺として何か重大な大事件が起こるといいのだが。
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アーウィング・ホー:他力本願でも仕方がないので私自ら動くことにした。
アーウィング・ホー:ちょうど灯油業者が家の前を通っているので、その車を全力で止めてみたいと思う。
アーウィング・ホー:最も有効なのは積載している灯油に火をつけて車両もろとも爆破することだが
アーウィング・ホー:それでは燃え盛る炎の煙や、不完全燃焼時の嫌な匂いがしばらくの間家の前に留まってしまう。
アーウィング・ホー:それは明らかに不快だろうから止しておく。
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アーウィング・ホー:青信号を割ってみるのはどうだろうか。信号に律儀な運転手ならば青信号が光らない限り、
アーウィング・ホー:その場にとどまるはずだ。
アーウィング・ホー:警察を呼んで事の顛末を語りだすかもしれない。
アーウィング・ホー:最寄りの警察署までは1km強あるので事情聴取を含めても小一時間は車両を止めたことになるはずだ。
アーウィング・ホー:問題なのは信号一つの値段が総額400万弱もすることだ。
アーウィング・ホー:これは信号制御盤が約200万もする精密機械な故だが、
アーウィング・ホー:赤、青、黄色の信号灯機だけでも10万はする。
アーウィング・ホー:いくら灯油業者を止めるためとはいえ、これほどの損害は流石に申し訳ない。
アーウィング・ホー:他にも道路に穴を掘る、瓦礫で道をふさぐ、
アーウィング・ホー:道に”まき菱”をばら撒いてタイヤをパンクさせるという方法があるが
アーウィング・ホー:いずれにせよインフラに大きな影響をもたらす懸念が残るため断念した。
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アーウィング・ホー:そこで、断念する一歩手前の思考過程に立ち返ってみようと思う。
アーウィング・ホー:着目したのは信号を割った時に取るであろう運転手の行動だ。
アーウィング・ホー:これはつまるところ運転手の精神作用を利用した方法だったが
アーウィング・ホー:どうやらモノに働きかけるよりも、運転手の心理に直接働きかけることが有効なようだ。
アーウィング・ホー:これなら私の得意分野だ。
アーウィング・ホー:モノに働きかけるには、狙った現象を引き起こすまでのトライアンドエラーが必須になってくるが
アーウィング・ホー:運転手の心理に働きかけるならば実行するだけである。
アーウィング・ホー:そうと決まれば窓を開け、ベランダに出よう。
アーウィング・ホー:そして大声で叫ぶだけだ。
アーウィング・ホー:灯油!灯油!漏れてますよ!!
アーウィング・ホー:気がつくと、家の前には既に灯油業者はいなかった。
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アーウィング・ホー:そして炊飯器は米が炊けたのを告げたのだった。