台本概要

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タイトル Urpan Legends
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 アーパン・レジェンズ。

五人がとあるホテルに集った日より二年ほど前のお話。
マフィア組織『クラウディウス』の「都市伝説」、ベイカーは、後輩のドッペルと共に仕事を切り抜けた後、建物の屋上で煙草をふかしていた。
静かな夜の空の下、二人の反省会という名の談笑会が始まる。

「都市伝説の後輩として、何処までもあなたを慕わせていただきます。」

『互悦導衆』シリーズ 外伝 その2。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ベイカー 不問 42 組織に蔓延る「都市伝説」、『火薬風味のパン屋さん』の正体。 面倒見のいい性格をしており、洒落と麺麭が大好きだが、プロフェッショナルの爆弾魔で手口は超一流。
ドッペル 不問 42 組織に蔓延る「都市伝説」、『鏡合わせの殺人鬼』の正体。 江戸っ子のような軽い口調が特徴的で、普段は温厚なマフィアだが、俗に言う変装の達人で、手口は超一流。ベイカーの都市伝説仲間であり、後輩。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:夜。黒いスーツの人物とグレーのコートの人物が建物の屋上で街を眺めている。 : ドッペル:いやあ、災難でしたねえベイカーさん。まさか爆破を阻止されちまうなんて。 ベイカー:あァ…、お前さんがいなけりゃあ確実にシクってた。カバーしてくれてあンがとな、ドッペル。 ドッペル:お安い御用で。 ベイカー:しっかし…、マジで何だったんだァ、あの近代風の探偵みたいなやつらは…。私が設置した「調味料」の位置を完全に把握して解除した挙句、ターゲットを中央街(セントラル)まで送り届けやがるなんて。 ドッペル:おまけに、あの方々はそのまま姿を眩ましちまいましたからねぇ。結果なんの情報も得られず終い。敵ながらあっぱれだ。 ベイカー:ほんとになァ…。[たばこを取り出す]…ドッペル、火ィ、貰えるかい? ドッペル:はいな。[火をつける] ベイカー:[煙を吸って吐く]ふゥ…。お前さんも吸うか? ドッペル:いえ、あたくしは遠慮しときます。 ベイカー:珍しいなァ、一時期はあんだけに葉巻に凝ってた奴が。 ドッペル:実は禁煙したんですよ。最近はありがたいことに、あたくしの名前もだいぶ売れてきたらしいですからね。御伽噺(フェアリーテイル)を非現実(フィクション)で留めるために、喉や体力に支障をきたすことは避けようと思いまして。 ベイカー:ハハッ、流石、『鏡合わせの殺人鬼』はストイックだねェ! ドッペル:ベイカーさんにゃあ負けます。 ベイカー:コイツゥ、いつの間にお世辞が上手くなりやがったァ~? ドッペル:おべっかだなんて滅相もない。あたくしはベイカーさんが陰で沢山努力してる真面目な人ってことを存じているゆえにそう言ったまでですよ。 ベイカー:…なにィ? ドッペル:『火薬風味のパン屋さん』が経営を続けられてんのは、ベイカーさんが「パンの製法」から「火加減」まで、計算に計算を重ねてより良い「パン」を作ろうと努力しているからに他ならないでしょう。仕事から帰ったら毎日必ず「記録」(メモ)と「反省」(しこみ)をして、ね? ベイカー:…ハ、ハハ。流石は「組織の都市伝説」に昇るほどの愉快犯ってとこかァ…? ドッペル:なんたってあたくしの引用元(モチーフ)は「影」(ゲンガー)ですから。いつ「あなたになれ」と言われてもいいように、勉強してるんです。 ベイカー:ったく、それ!私だったからいいが、他のヤツには言うなよォ?やってることほぼストーカーだからなァ!? ドッペル:ご安心を。こんなことベイカーさんにしか言いませんよ。 ベイカー:あぁ…?そいつはどうしてだ? ドッペル:ベイカーさんならあたくしに殺されることはないでしょうから。 ベイカー:…フ、ハハハハハッ!やっぱドッペル、お前さん私を買いかぶりすぎだぜ!だが、後輩にそンだけ信頼されてんのは嬉しいなァ。 ドッペル:当然です。先刻だって、ベイカーさんの腕を信頼してなかったら自分から名乗り出て「囮」になんざなってませんからねえ。そしてあなたはそれに応えてきちんと殺ってくれた。あんな重鎮も恐動(キョド)るような場面で。 ベイカー:そうかァ?私はあの時超絶ウキウキしてたけどねェ!つーか、私の周りの奴らなら大抵滾る場面だと思うぜ、あれは。 ドッペル:…話で聞いちゃいますが、あなたの周りには戦闘狂の人しかいないんですかい? ベイカー:全員が全員ってわけじゃねェが、まあ大体の連中は血煙ン中に身を投じて生を感じる変態どもだなァ。でも、もちろんお前さんみたいに温厚なやつもいるぜ。例えば、“堕天の流星”とか! ドッペル:流星…、初めて聞く渾名(あだな)です。 ベイカー:お、ガチか。寡黙で良いやつだぜ、流星は!おまけに超絶ストイックで、実力も最高峰の敏腕だ。たぶん護衛任務をやらせたら右に出るものはいねえんじゃねえかなァ。 ドッペル:護衛。…ああ、もしかしてそのお方、元々【オウルハント】所属だった方だったりします? ベイカー:お、正解だぜ!なァんだ、知ってるンじゃねえか! ドッペル:風の噂程度にしか聞いたことはないですがね。その方についてあたくしが知ってるのは、ウラの世界の警護組織、【オウルハント】のエリートとして名を馳せていた過去を持つが、何らかの事情があってウチの組織、【クラウディウス】に流れ着いてきたってことだけです。だもんで、その方が“堕天の流星”なんて二つ名を持ってることも今初めて知りました。 ベイカー:ハハッ、そんだけ知ってりゃ十分だろ!だが、もしもアイツと仕事をすることがあったら気をつけろよ。私も“流星”の過去のことは知らねェが、どうやら昔のことでだいぶ思い詰めてるらしくてなァ。きっと掘り返さない方が身のためだぜ。 ドッペル:ご丁寧にありがとうございます。しっかし気になるなあ、あの【オウルハント】の精鋭がマフィアになった事情(ワケ)ってぇのは。 ベイカー:な、私も興味ありまくりなんだよ。昔っから他人の堕落話は大好物なんでなァ。 ドッペル:ベイカーさんってそんなに趣味悪かったですっけ。 ベイカー:おいおい今更だぜドッペル。「パン喰らいをパンにする」ような奴の趣味が良いわけねえだろ?ハハハッ! ドッペル:確かに言われてみりゃあそうでしたね。そいつぁ失礼しました。まあつっても…、そんなベイカーさんもあたくしほど悪趣味じゃあないでしょうが。 ベイカー:そうかァ?おんなじくらいだと思うがねェ。組織の「都市伝説」としてどっちも同じくらい気味悪がられてるしよ。 ドッペル:いいえいいえ、考えても見てくださいよベイカーさん。『鏡合わせの殺人鬼』に選ばれちまった人は、「自分と瓜二つの容姿を持った人間が突然現れて命を奪われる」んですよ?そんなの、家に見知らぬパンが置かれているよりもよっぽどおっかないと思いませんか? ベイカー:…なるほどォ?まあ凶悪度合いで言えば確かにそっちのが上かもなァ。 ドッペル:そうでしょう。そして、あたくしはその人になりきるために、跡をつけ、家にお邪魔し、映像媒体に映るその人を分析し、観察して観察して観察しまくって、容姿や声、挙句には仕草までコピーするんです。 ベイカー:…そう改めて説明されるとやってること変態にしか聞こえねェな、それ。 ドッペル:そうでしょう、そうでしょう。そうして寸分違わぬ「自分自身」となったあたくしに追い詰められ、得体のしれない恐怖を抱いたまま心の臓を止められた時の彼らの表情は……。 ベイカー:ゥン?どうした、ドッペル―――ってェ、お前、その「顔」…。 ドッペル:へへ…、最……ッ高にあたくしのことを滾らせてくれるんですよ、ベイカーさぁん…。へへ、へへへへ……ッ!! ベイカー:ア~、前言撤回だ。やっぱお前さんのが悪趣味かもしれん。だが、そこは血しぶき狂いじゃないところで均衡が取れてるんじゃねェかと思うぜ…、ハハ。ま、流石は「二重の影」(ドッペルゲンガー)の模倣犯ってとこか。薄気味悪ィ。 ドッペル:誉め言葉として受け取らせていただきます。 ベイカー:おうよ。さてと…、雑談はこのくらいで終わりにして。そろそろ考えるとするかァ、明日の計画をよ。 ドッペル:そうですねえ。ま、案外楽勝なんじゃないですかい?面倒っちい要人のお命頂戴は既に完了してるわけですし。あとはパン屋さんお得意の精密爆破で小さいビルを吹っ飛ばすだけですよ。 ベイカー:その通りなんだが、油断はできねェな。今日の奴らがまた明日も出向いてきやがったらまた「小麦粉」の位置をズラされるかもしれねえ。そうなっちまったら最悪自爆もあり得る。 ドッペル:おっと、そいつぁまずい。「麺麭喰らいが麺麭になる」のぁ見てて爽快ですが、「麺麭屋さんが麺麭になっちまう」のは…、あ!整いましたベイカーさん! ベイカー:整う?サウナか? ドッペル:違います違います。こいつぁ日本のコメディアン…、いや、説明は面倒くせえか。えぇとですね、あたくしがなんか言ったら、「その心は。」と聞いてください。 ベイカー:おぉ、オーケーオーケー。で、何が整ったんだ? ドッペル:[咳払い]えぇー、「放置したせいでカチコチになった麺麭」とカケまして、「任務中に先輩が爆死しちまった状況」とトく。 ベイカー:…そのココロは? ドッペル:どちらも、「マズくていただけない」でしょう。なんちて。 ベイカー:ハッ、くだらねえブラックジョークだなァ、オイ!? ドッペル:へへ、知ってるたぁ思いますが、あたくしこういうの「大好物」でして。 ベイカー:ほォ。ならドッペル。私が振舞う極上のコルネットとくだらねえジョーク、この二つだったらどっちのが好きだ? ドッペル:そりゃあもちろん、どっちの「パン」も喜んでいただきます。 ベイカー:コイツ、逃げやがったなァ~? ドッペル:ンなこたぁねえですよ!というか、その二つは提供される場所も用途も味も何もかも違うじゃありませんか。同じ「パン」だから紛らわしいですが、言うなればそいつぁ「読書」と「ハムスター」で好きなのはどっちか聞いてるようなもんです。 ベイカー:そうかァ?私は即答できるぜ? ドッペル:そりゃベイカーさんは「麺麭」の圧勝でしょう。仕事バックレて限定の麺麭を買いに行くくらいなんですから。 ベイカー:あれは「数量限定サクふわチョコクロワッサン」の発売日に指令出してきやがった組織が悪ィ。 ドッペル:へへ…、まったく、ベイカーさんは「麺麭喰らい」というより、「麺麭狂い」ですねえ。 ベイカー:誉め言葉として受け取らせてもらうぜ! ドッペル:へいへい。…ってぇ、いけねえ、また本題から逸れちまってた。 ベイカー:あ、ホントじゃねえか。ハハ、こりゃお前さんのせいだなドッペル。 ドッペル:あたくしのせいですかい…っ? ベイカー:おうよ!お前さんとの雑談が楽しすぎるせいだ!おかげさまで仕事の話をまったくする気になれねェ! ドッペル:その言葉、そっくりそのままお返しさせていただきます。 ベイカー:しかと受け取らせてもらうぜその返球!そんで心の奥底に仕舞わせて貰う! ドッペル:お好きにしてくださいな。ああでも、言葉を「心に仕舞っても」、明日ベイカーさんの「麺麭屋」が爆発して「店仕舞い」になっちまったら意味がなくなっちまいますんで、お気をつけて。 ベイカー:馬鹿野郎、なんで自分は助かってるような口ぶりなんだよォ!もし本当にそうなっちまったら死ぬときゃ一緒だからなァ!? ドッペル:へへ。ええ、勿論です。あなたを慕ういち後輩として、このドッペル。地獄の底まで、ベイカーさんの影となってお供させていただきます。 ベイカー:サンキュ!さぁて…、そんじゃ、本格的に作戦会議…、をする前に!ドッペル、私の家に行くぞ! ドッペル:おっとぉ、その心は? ベイカー:腹が減っては戦ができぬってやつさァ!夜はぶっ通しで作戦だったからな、お前さんも腹、減ってるだろ? ドッペル:ええ、そりゃあもうぺっこぺこです。…え、ってぇことは、まさかベイカーさん! ベイカー:おう!『火薬風味のパン屋さん』特製、焼きたてのフォカッチャで腹ごしらえと行こうぜェ! : 0:星が見守る空の下、都市伝説の“影”と“パン屋”は、硝煙と共に姿を消した。 : 0:End

0:夜。黒いスーツの人物とグレーのコートの人物が建物の屋上で街を眺めている。 : ドッペル:いやあ、災難でしたねえベイカーさん。まさか爆破を阻止されちまうなんて。 ベイカー:あァ…、お前さんがいなけりゃあ確実にシクってた。カバーしてくれてあンがとな、ドッペル。 ドッペル:お安い御用で。 ベイカー:しっかし…、マジで何だったんだァ、あの近代風の探偵みたいなやつらは…。私が設置した「調味料」の位置を完全に把握して解除した挙句、ターゲットを中央街(セントラル)まで送り届けやがるなんて。 ドッペル:おまけに、あの方々はそのまま姿を眩ましちまいましたからねぇ。結果なんの情報も得られず終い。敵ながらあっぱれだ。 ベイカー:ほんとになァ…。[たばこを取り出す]…ドッペル、火ィ、貰えるかい? ドッペル:はいな。[火をつける] ベイカー:[煙を吸って吐く]ふゥ…。お前さんも吸うか? ドッペル:いえ、あたくしは遠慮しときます。 ベイカー:珍しいなァ、一時期はあんだけに葉巻に凝ってた奴が。 ドッペル:実は禁煙したんですよ。最近はありがたいことに、あたくしの名前もだいぶ売れてきたらしいですからね。御伽噺(フェアリーテイル)を非現実(フィクション)で留めるために、喉や体力に支障をきたすことは避けようと思いまして。 ベイカー:ハハッ、流石、『鏡合わせの殺人鬼』はストイックだねェ! ドッペル:ベイカーさんにゃあ負けます。 ベイカー:コイツゥ、いつの間にお世辞が上手くなりやがったァ~? ドッペル:おべっかだなんて滅相もない。あたくしはベイカーさんが陰で沢山努力してる真面目な人ってことを存じているゆえにそう言ったまでですよ。 ベイカー:…なにィ? ドッペル:『火薬風味のパン屋さん』が経営を続けられてんのは、ベイカーさんが「パンの製法」から「火加減」まで、計算に計算を重ねてより良い「パン」を作ろうと努力しているからに他ならないでしょう。仕事から帰ったら毎日必ず「記録」(メモ)と「反省」(しこみ)をして、ね? ベイカー:…ハ、ハハ。流石は「組織の都市伝説」に昇るほどの愉快犯ってとこかァ…? ドッペル:なんたってあたくしの引用元(モチーフ)は「影」(ゲンガー)ですから。いつ「あなたになれ」と言われてもいいように、勉強してるんです。 ベイカー:ったく、それ!私だったからいいが、他のヤツには言うなよォ?やってることほぼストーカーだからなァ!? ドッペル:ご安心を。こんなことベイカーさんにしか言いませんよ。 ベイカー:あぁ…?そいつはどうしてだ? ドッペル:ベイカーさんならあたくしに殺されることはないでしょうから。 ベイカー:…フ、ハハハハハッ!やっぱドッペル、お前さん私を買いかぶりすぎだぜ!だが、後輩にそンだけ信頼されてんのは嬉しいなァ。 ドッペル:当然です。先刻だって、ベイカーさんの腕を信頼してなかったら自分から名乗り出て「囮」になんざなってませんからねえ。そしてあなたはそれに応えてきちんと殺ってくれた。あんな重鎮も恐動(キョド)るような場面で。 ベイカー:そうかァ?私はあの時超絶ウキウキしてたけどねェ!つーか、私の周りの奴らなら大抵滾る場面だと思うぜ、あれは。 ドッペル:…話で聞いちゃいますが、あなたの周りには戦闘狂の人しかいないんですかい? ベイカー:全員が全員ってわけじゃねェが、まあ大体の連中は血煙ン中に身を投じて生を感じる変態どもだなァ。でも、もちろんお前さんみたいに温厚なやつもいるぜ。例えば、“堕天の流星”とか! ドッペル:流星…、初めて聞く渾名(あだな)です。 ベイカー:お、ガチか。寡黙で良いやつだぜ、流星は!おまけに超絶ストイックで、実力も最高峰の敏腕だ。たぶん護衛任務をやらせたら右に出るものはいねえんじゃねえかなァ。 ドッペル:護衛。…ああ、もしかしてそのお方、元々【オウルハント】所属だった方だったりします? ベイカー:お、正解だぜ!なァんだ、知ってるンじゃねえか! ドッペル:風の噂程度にしか聞いたことはないですがね。その方についてあたくしが知ってるのは、ウラの世界の警護組織、【オウルハント】のエリートとして名を馳せていた過去を持つが、何らかの事情があってウチの組織、【クラウディウス】に流れ着いてきたってことだけです。だもんで、その方が“堕天の流星”なんて二つ名を持ってることも今初めて知りました。 ベイカー:ハハッ、そんだけ知ってりゃ十分だろ!だが、もしもアイツと仕事をすることがあったら気をつけろよ。私も“流星”の過去のことは知らねェが、どうやら昔のことでだいぶ思い詰めてるらしくてなァ。きっと掘り返さない方が身のためだぜ。 ドッペル:ご丁寧にありがとうございます。しっかし気になるなあ、あの【オウルハント】の精鋭がマフィアになった事情(ワケ)ってぇのは。 ベイカー:な、私も興味ありまくりなんだよ。昔っから他人の堕落話は大好物なんでなァ。 ドッペル:ベイカーさんってそんなに趣味悪かったですっけ。 ベイカー:おいおい今更だぜドッペル。「パン喰らいをパンにする」ような奴の趣味が良いわけねえだろ?ハハハッ! ドッペル:確かに言われてみりゃあそうでしたね。そいつぁ失礼しました。まあつっても…、そんなベイカーさんもあたくしほど悪趣味じゃあないでしょうが。 ベイカー:そうかァ?おんなじくらいだと思うがねェ。組織の「都市伝説」としてどっちも同じくらい気味悪がられてるしよ。 ドッペル:いいえいいえ、考えても見てくださいよベイカーさん。『鏡合わせの殺人鬼』に選ばれちまった人は、「自分と瓜二つの容姿を持った人間が突然現れて命を奪われる」んですよ?そんなの、家に見知らぬパンが置かれているよりもよっぽどおっかないと思いませんか? ベイカー:…なるほどォ?まあ凶悪度合いで言えば確かにそっちのが上かもなァ。 ドッペル:そうでしょう。そして、あたくしはその人になりきるために、跡をつけ、家にお邪魔し、映像媒体に映るその人を分析し、観察して観察して観察しまくって、容姿や声、挙句には仕草までコピーするんです。 ベイカー:…そう改めて説明されるとやってること変態にしか聞こえねェな、それ。 ドッペル:そうでしょう、そうでしょう。そうして寸分違わぬ「自分自身」となったあたくしに追い詰められ、得体のしれない恐怖を抱いたまま心の臓を止められた時の彼らの表情は……。 ベイカー:ゥン?どうした、ドッペル―――ってェ、お前、その「顔」…。 ドッペル:へへ…、最……ッ高にあたくしのことを滾らせてくれるんですよ、ベイカーさぁん…。へへ、へへへへ……ッ!! ベイカー:ア~、前言撤回だ。やっぱお前さんのが悪趣味かもしれん。だが、そこは血しぶき狂いじゃないところで均衡が取れてるんじゃねェかと思うぜ…、ハハ。ま、流石は「二重の影」(ドッペルゲンガー)の模倣犯ってとこか。薄気味悪ィ。 ドッペル:誉め言葉として受け取らせていただきます。 ベイカー:おうよ。さてと…、雑談はこのくらいで終わりにして。そろそろ考えるとするかァ、明日の計画をよ。 ドッペル:そうですねえ。ま、案外楽勝なんじゃないですかい?面倒っちい要人のお命頂戴は既に完了してるわけですし。あとはパン屋さんお得意の精密爆破で小さいビルを吹っ飛ばすだけですよ。 ベイカー:その通りなんだが、油断はできねェな。今日の奴らがまた明日も出向いてきやがったらまた「小麦粉」の位置をズラされるかもしれねえ。そうなっちまったら最悪自爆もあり得る。 ドッペル:おっと、そいつぁまずい。「麺麭喰らいが麺麭になる」のぁ見てて爽快ですが、「麺麭屋さんが麺麭になっちまう」のは…、あ!整いましたベイカーさん! ベイカー:整う?サウナか? ドッペル:違います違います。こいつぁ日本のコメディアン…、いや、説明は面倒くせえか。えぇとですね、あたくしがなんか言ったら、「その心は。」と聞いてください。 ベイカー:おぉ、オーケーオーケー。で、何が整ったんだ? ドッペル:[咳払い]えぇー、「放置したせいでカチコチになった麺麭」とカケまして、「任務中に先輩が爆死しちまった状況」とトく。 ベイカー:…そのココロは? ドッペル:どちらも、「マズくていただけない」でしょう。なんちて。 ベイカー:ハッ、くだらねえブラックジョークだなァ、オイ!? ドッペル:へへ、知ってるたぁ思いますが、あたくしこういうの「大好物」でして。 ベイカー:ほォ。ならドッペル。私が振舞う極上のコルネットとくだらねえジョーク、この二つだったらどっちのが好きだ? ドッペル:そりゃあもちろん、どっちの「パン」も喜んでいただきます。 ベイカー:コイツ、逃げやがったなァ~? ドッペル:ンなこたぁねえですよ!というか、その二つは提供される場所も用途も味も何もかも違うじゃありませんか。同じ「パン」だから紛らわしいですが、言うなればそいつぁ「読書」と「ハムスター」で好きなのはどっちか聞いてるようなもんです。 ベイカー:そうかァ?私は即答できるぜ? ドッペル:そりゃベイカーさんは「麺麭」の圧勝でしょう。仕事バックレて限定の麺麭を買いに行くくらいなんですから。 ベイカー:あれは「数量限定サクふわチョコクロワッサン」の発売日に指令出してきやがった組織が悪ィ。 ドッペル:へへ…、まったく、ベイカーさんは「麺麭喰らい」というより、「麺麭狂い」ですねえ。 ベイカー:誉め言葉として受け取らせてもらうぜ! ドッペル:へいへい。…ってぇ、いけねえ、また本題から逸れちまってた。 ベイカー:あ、ホントじゃねえか。ハハ、こりゃお前さんのせいだなドッペル。 ドッペル:あたくしのせいですかい…っ? ベイカー:おうよ!お前さんとの雑談が楽しすぎるせいだ!おかげさまで仕事の話をまったくする気になれねェ! ドッペル:その言葉、そっくりそのままお返しさせていただきます。 ベイカー:しかと受け取らせてもらうぜその返球!そんで心の奥底に仕舞わせて貰う! ドッペル:お好きにしてくださいな。ああでも、言葉を「心に仕舞っても」、明日ベイカーさんの「麺麭屋」が爆発して「店仕舞い」になっちまったら意味がなくなっちまいますんで、お気をつけて。 ベイカー:馬鹿野郎、なんで自分は助かってるような口ぶりなんだよォ!もし本当にそうなっちまったら死ぬときゃ一緒だからなァ!? ドッペル:へへ。ええ、勿論です。あなたを慕ういち後輩として、このドッペル。地獄の底まで、ベイカーさんの影となってお供させていただきます。 ベイカー:サンキュ!さぁて…、そんじゃ、本格的に作戦会議…、をする前に!ドッペル、私の家に行くぞ! ドッペル:おっとぉ、その心は? ベイカー:腹が減っては戦ができぬってやつさァ!夜はぶっ通しで作戦だったからな、お前さんも腹、減ってるだろ? ドッペル:ええ、そりゃあもうぺっこぺこです。…え、ってぇことは、まさかベイカーさん! ベイカー:おう!『火薬風味のパン屋さん』特製、焼きたてのフォカッチャで腹ごしらえと行こうぜェ! : 0:星が見守る空の下、都市伝説の“影”と“パン屋”は、硝煙と共に姿を消した。 : 0:End