台本概要

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タイトル ニンジンの国のアリス~アリス第二部・第二章~
作者名 天道司
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(女1、不問4)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ご自由に演じて下さい

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アリス 219 ライム王国のお姫様。
帽子屋 不問 95 心を手に入れたクリーチャー。 ※兼ね役・フック
三月うさぎ 不問 56 お調子者のウサギ。 ※兼ね役・スミス・トランプ兵・ナレ2
妖精 不問 93 不思議な猫。 ※兼ね役・モブA
ハートの女王 不問 87 傲慢な女王。 兼ね役・モブB・ナレ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ナレ:ここは、海賊船ワンダーコメット号の甲板(かんぱん)の上 フック:ヨーソロー!イカリをあげろー!出航だーっ! スミス:アイアイサーッ! フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!愉快!愉快! フック:キャメロンの町に立ち寄ったら、ちょうどそこにライム王国のお姫様が、お忍びで、観光にきてるなんてなぁ! スミス:ヒッヒッヒッ。船長、今夜は、お楽しみですね! フック:あぁ、たっぷり可愛がってやらねぇとだな!ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!おっし!まずは、祝杯をあげようじゃねぇか! スミス:アイアイサーッ! モブA:よっ!グリムの海賊王! モブB:無敵のキャプテン! フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!それじゃあ、かんぱーい! スミス:(同時に)かんぱーい! モブA:(同時に)かんぱーい! モブB:(同時に)かんぱーい! フック:宴(うたげ)だーっ!さぁ、飲め!踊れ!歌えーっ! 0:(以下)オリジナルメロディを作って、楽しく歌って下さい スミス:俺たちゃ、無敵の海賊団~ モブA:お宝求めて、ヨーソロ~ モブB:奪い取れ、ヨーソロ~ スミス:突き進め、ヨーソロ~ モブA:逆らう奴らにゃ、容赦しねぇ~ モブB:奪い取れ!突き進め! スミス:風は友達、心のままに~ モブA:ヨーソロー!ヨーソロー! スミス:俺たちゃ、無敵の海賊団~ モブB:フック海賊団~ 0:(以下)通常の会話に戻ります フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!お前ら、最高だーっ! スミス:(同時に)アイアイサーッ! モブA:(同時に)アイアイサーッ! モブB:(同時に)アイアイサーッ! フック:さぁ、思う存分、宴を楽しんでくれ!ヒャヒャヒャヒャヒャーッ! スミス:あれ?あれれ~?船長は、一緒に飲まないんですかい? モブA:船長もこっちきて、一緒に飲みやしょうぜ! フック:ヒャヒャッ!あぁ、ちょっとな!って、おい!わかんだろ? スミス:あっ、あぁ…。察しやしたぜ。牢の中のお宝を見にゆくんですね! フック:ヒャヒャッ! ナレ:フックは、船倉(せんそう)の横にある牢に向かった 0: 0:【間】 0: アリス:んっ?あなたは!? フック:ヒャヒャッ!お姫様よ、元気にしてるかい? アリス:早く殺しなさい!辱(はずかし)めを受けるくらいなら、死んだ方がマシです フック:そうかそうか。それなら… ナレ:フックは、牢の鍵を開けた アリス:は!?今から何をするつもりですか?こんなことをして恥ずかしくないんですか? フック:おいおい。俺は、まだ、何もしちゃいないだろ? アリス:していませんが…。今から、その、私にヒドイことをするつもりでしょ? フック:ヒドイことって、なんだ? アリス:えっと…。私の体をもてあそぶ… フック:フッ アリス:それが、海賊でしょ!キャメロンの町の人たちも、殺した フック:ん?殺した? アリス:そうよ!殺したんでしょ!たくさん! フック:見たのか? アリス:うっ… フック:見ていないんだろ? アリス:私は、「海賊が出た」という町の人の声を聞いて、すぐに気を失ったから… フック:そう、見ていない。俺たちが人を殺したところを見ていない フック:それなのに、海賊ってだけで、人を殺すモノだと決めにかかる フック:よくねぇなぁ。よくねぇよ! アリス:それは… フック:俺は、自分を海賊だと思ってる。だが、海賊である前に、俺は、俺なんだよ アリス:俺は、俺? フック:そうさ。お前が、お前であるのと同じようにな アリス:お前じゃないです!私は、ヘルベルト・フォン・ロードフェルム・アリス フック:なげぇな…。アリスでいいか? アリス:アリス? フック:そう、アリス 三月うさぎ:そう、アリス! アリス:わっ!ううう、うさぎ!? 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:三月うさぎ?ん?あれ?海賊が動かなくなってる!? 三月うさぎ:あいおっ!僕が時間を止めたんだ!って? アリス:えいっ! 三月うさぎ:わわっ!アリスが海賊を蹴った!アリスが海賊を蹴った! アリス:あっ!ほんとだ!ピクリともしない 三月うさぎ:だから言ったろ?僕が時間を止めたんだよ アリス:本物のうさぎを見るのも初めてだけど、本物の魔法を見るのも初めて…。あなた、うさぎの魔法使いなの? 三月うさぎ:うさぎの魔法使い?なんだいそれは?僕は、三月うざぎだよ アリス:三月うざぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は三月うさぎだよ アリス:わかった。あなた、三月うさぎという名前なのね。その三月うさぎさんは、どうして、ここにいるの? 三月うさぎ:僕は、アリスを不思議の国に連れてゆくために、ここにきたんだよ アリス:私を不思議の国に?つまり、私をここから助け出してくれるの? 三月うさぎ:あいお?助けてほしいのは、僕の方なんだけどな…。まぁ、いいや。とにかく、今から不思議の国に来てくれないかな? アリス:もちろん!行くよ!私をここから助け出してくれるなら、どこへだって! 三月うさぎ:ヤッターッ!それじゃあ、僕と握手して!握手! アリス:わかった。握手、すれば良いのね? 三月うさぎ:うんうん ナレ:アリスは身をかがめ、三月うさぎと握手した。すると、世界は、まばゆい光に包まれた アリス:わあああーっ!!! 0: 0:【間】 0: ナレ:アリスが目覚めた場所は…。えっと…。ん?どこだろうねぇ… 妖精:おや?こんにちは アリス:えっ?誰なの?ここはどこ?真っ暗で、何も見えない 妖精:それはそれは、失礼。うーん…。それっ! ナレ:ロウソクに火が灯る アリス:あ…!ここは、大きな積み木で出来た家の中? 妖精:果たして、そうなのかな アリス:でも、ここは、あなたの家じゃないの? 妖精:そう、吾輩は、ここで暮らしている。積み木で組み上げられた建物の中 アリス:じゃあ、ここは、あなたの家ね 妖精:君がそう思うのなら、そうなのかも知れない アリス:ねぇ、あなたは、どこにいるの?さっきから声は聴こえるけど、姿が見えない 妖精:最初から、君の目の前にずっといるよ。君が見ようとしていないだけさ アリス:私が見ようとしていないだけ? 妖精:そうだよ アリス:そんなはずは… 妖精:いないと思えば、いない。いると思えば、いる アリス:どういうこと? 妖精:そのままの意味さ。さぁ、想像してごらん。吾輩の姿形を… アリス:でも、声だけしか分からない 妖精:本当に、声だけかな?あぁ…。でも、声だけでも充分だよ アリス:え?意味が分からない 妖精:意味や理由、姿形を与えるのは、いつだって、君自身さ アリス:私自身… 妖精:ふふふ。得られた情報全てを使って、想像力をふくらませるんだ アリス:想像力を…ふくらませる… ナレ:アリスが目を閉じて、声の主(ぬし)の姿形を思い浮かべ、目を開けてみると… アリス:わっ!妖精!? 妖精:妖精?やっぱり君も、吾輩のことを妖精と呼ぶんだね アリス:だって、妖精でしょ?体は親指ほどの大きさだし、羽が生えてる 妖精:ふふっ。吾輩は、妖精なのかも知れないが、ボルニャンスキーという名前と役割が与えられている アリス:ボルニャンスキー? 妖精:そう、ボルニャンスキー アリス:長いから、ボルちゃんでいい? 妖精:構わないよ。名前は、名前であって、吾輩ではないからね。好きに呼ぶといい。吾輩は、君のことをアリスと呼ぶことにしよう アリス:アリス?そう、私の名前は確かにアリスだけど、本当の名前は…。あれ?思い出せない。アリスって名前の前に、何かが付いていたはずなのに… 妖精:ふふっ。何かがね アリス:まぁ、いいか…。あのっ、私は、早くお城に帰りたいんだけど 妖精:お城に?お城は、危険だ アリス:え?どうして?もしかして戦争が始まったとか? 妖精:戦争なんて始まっていないよ。でも、お城には、ハートの女王がいる アリス:ハートの女王?やっぱり!他の国の人たちが攻めてきたんじゃないの? 妖精:ん?ハートの女王のお城には、ずっとハートの女王がいるよ アリス:ハートの女王のお城?私は、ライム王国のライム城の話をしているんだけど? 妖精:あぁ、残念だけど、ここは不思議の国。そして、今回の不思議の国に存在するお城は、ハートの女王のお城だけだよ アリス:えっ?遠い場所に来てしまったってこと?私、もう、ライム城に帰れないの? 妖精:帰れるかも知れないし、帰れないかも知れない アリス:どっちなの? 妖精:さぁ、どっちだろう? アリス:はぁ…。とにかく、早くここを出ないと…。でも、扉がたくさんある アリス:ねぇ、どの扉が外に続いているの? 妖精:どの扉も、外に続いているよ。この積み木の家の外にね アリス:どの扉を開ければいいの? 妖精:どの扉を開ければ良いか…。うーん…。どの扉も正解だし、どの扉も間違いだ。今のところはね 妖精:なぜなら、扉を開けた先のアリスの行動で、正解か間違いかが決まるからだ アリス:ほんとに、意味が分からない 妖精:意味は、誰かに与えてもらうモノではないからね。意味は、自分自身が与えるモノさ アリス:自分自身が… 妖精:そうだよ。さぁ、今度のアリスは、どの扉を選ぶのかな? アリス:私は…うーん… 妖精:おや?その扉か… 0: 0:【間】 0: ナレ:アリスは、白色の扉を開いたよ。すると、そこも真っ暗な部屋だった アリス:(M)あれ?また、何も見えない。でも、とっても良い匂いがする アリス:ねぇ、ボルちゃん!明かりをつけてよ! 帽子屋:明かり? アリス:そう、明かりをつけて!真っ暗で何も見えないの 帽子屋:僕には、見えてるよ アリス:あれ?声が違う? 帽子屋:声が違う? アリス:やっぱり、声が違う。あなたは、誰? 帽子屋:僕は、帽子屋だよ アリス:帽子屋? 帽子屋:そう、帽子屋 アリス:あのっ、帽子屋さん。明かりをつけてくれる? 帽子屋:どうして、明かりをつける必要があるんだい? アリス:真っ暗で、何も見えないからだよ 帽子屋:君に見えていなくても、僕には見えているよ アリス:あなたには、見えていても、私には見えないの 帽子屋:君に見えていなくても、僕は困らない。だから、明かりをつける必要はないと思うんだけど? アリス:お願いだから、明かりをつけてくれない? 帽子屋:お願いか…。そのお願いをきけば、僕に、どんなステキなことが起こるんだい? アリス:ステキなこと? 帽子屋:そう、ステキなこと。ステキなことがなければ、お願いをきく意味がないだろ? アリス:ステキなことがなくても、困ってる人を助けるのは、当たり前のことじゃないの? 帽子屋:当たり前か…。ふっ。この世界に、当たり前や常識は、存在しないよ アリス:あなたは、優しくない人なんだね 帽子屋:優しくない?それは、僕に、『優しく』が存在しないということかい? アリス:うーん…。『優しく』じゃなくて、『優しさ』がないんだよ 帽子屋:それは、嫌だ! アリス:えっ? 帽子屋:僕は、『優しさ』がほしい。どうすればいい? アリス:ん?あぁ…。それじゃあ、明かりをつけて 帽子屋:わかった。すぐに明かりをつけるね。それっ! アリス:…。ん?ここは…。森の中?ほんとに外に続いてたんだ…。そして、あなたが、帽子屋さん? 帽子屋:そうだよ。僕が、帽子屋だよ ナレ:知らない森の中、白くて長いテーブル ナレ:テーブルの上には、カレーライスに、ビーフシチュー、オムライスなどのご馳走が、ズラリと並んでいた ナレ:そして、そのテーブルの向こう側には、陳腐(ちんぷ)な帽子をかぶり、ツギハギだらけのタキシードを身にまとった青年の姿があった アリス:良い匂いの正体は、この料理か…。すっごく美味しそう! 帽子屋:美味しそう? アリス:ねぇ、食べてもいい? 帽子屋:食べてもいいけど、その前に、君の名前が知りたいな アリス:あぁ!私の名前ね。私は、アリスだよ 帽子屋:アリス… アリス:ん?どうしたの? 帽子屋:いや、なんでもない…。あっ、僕の料理、きっと何かが足りないけど、どうぞ召し上がれ アリス:何かが足りない?いいよ。そんなの気にしない!いっただきまーす! アリス:んっ、もぐもぐもぐ…。次の料理、もぐもぐもぐ…。今度はこっち、もぐもぐもぐ… アリス:ん?んん?あれ? 帽子屋:どうしたの? アリス:あのね。どの料理も美味しかったよ。でも、何か足りないの 帽子屋:だろ?何かが足りない アリス:ほら!コロコロ、ホクホク、サクッのアクセントを加えるアレだよ! 帽子屋:コロコロ、ホクホク、サクッ? アリス:そう、ニンジンよ!ニンジンが入っていないのよ! 帽子屋:ニンジン?なんだい?それは? アリス:ニンジンは、ニンジンよ 帽子屋:わからない アリス:帽子屋さんは、ニンジンを知らないの?食べたことがないの? 帽子屋:きっと多分、そう、食べたことはあるんだろうけど、この世界にも確かに存在していたんだろうけど 帽子屋:きっと多分、そう、消されてしまったんだと思う アリス:消された? 妖精:そう、消された! アリス:あっ!ボルちゃん! 妖精:フフフ… 帽子屋:ボルニャンスキー、消されたということは、やはり 妖精:そうだよ。間違いなく、ハートの女王の仕業だろうね アリス:ハートの女王? 帽子屋:そう、不思議の国における最凶最悪のヴィランさ アリス:ヴィラン? 帽子屋:悪役って意味だよ 妖精:そうだね。ハートの女王は、自分の気に入らないモノを、魔法の杖を使って、次々に消し去っていってる アリス:魔法?消し去る?どうして、そんなことをするの? 妖精:酷いことをするのがヴィラン。ハートの女王に与えられた役割なのさ 妖精:吾輩たち、不思議の国のクリーチャーは、役割にあらがうことはできない 妖精:過去に一度だけ、その役割に、運命に打ち勝ったクリーチャーはいたがね 帽子屋:… アリス:打ち勝ったクリーチャー?がいるなら、きっとハートの女王だって、変われるはずだよ アリス:気に入らないモノを消すのを、やめさせないと! 妖精:どのような方法で? アリス:それは…。うーん… アリス:えっと…。話をする。説得をする 帽子屋:説得なんて、無駄だと思うけどね 妖精:そうだね。帽子屋は、それを身を持って体験している アリス:ボルちゃん、それは、どういうこと? 妖精:帽子屋は、以前、ハートの女王にヴィランとしての役割を捨てるように説得をこころみたことがあるが、その結果… アリス:その結果、どうなったの? 帽子屋:ハートの女王のお城の地下牢に閉じ込められた アリス:地下牢に?どうして、そんな酷いことをするの? 妖精:言っただろう?ヴィランだから…。フフフ… 妖精:説得だけで、改心させられるほど、ハートの女王の役割は、心は、単純なモノではないのだよ アリス:それでも、私は、ハートの女王と一度、話をしてみたい 帽子屋:とても危険だ。やめておいた方がいい 妖精:帽子屋!決めるのは、アリスだよ!なぜなら、ここは… 帽子屋:不思議の国…。でも…。僕は… アリス:帽子屋さん、大丈夫だよ!大丈夫!私は、行くよ。ハートの女王のところに! 妖精:フフッ 帽子屋:それなら、僕もついてゆくよ アリス:えっ?ついてきてくれるの?以前、酷い目に遭ったのなら、怖くないの? 帽子屋:あぁ。アリスがいれば、怖くない 妖精:そうだね。アリスがいれば、怖くない。怖くないから、吾輩も同行させてもらうよ アリス:ボルちゃんもついてきてくれるの? 妖精:もちろんさ。あぁ、なんだか面白くなってきたよ アリス:ありがとう。でも、どこに行けば、ハートの女王に会えるの? 妖精:フフッ。あそこだよ ナレ:妖精は、アリスの背後に立つ木の根元を指さした。そこには、手のひらサイズの小さな赤色の扉があった アリス:えっ?あの扉に、この体の大きさで、どうやって入るの? 妖精:今のままでは無理だろうね アリス:今のままでは無理?じゃあ、何かあの扉の中に入る方法があるってこと? 帽子屋:トランプをしよう アリス:トランプ? 帽子屋:急がば回れだよ ナレ:帽子屋は、どこからともなくトランプを取り出し、華麗にシャッフルし始めたよ アリス:急がば、回れね。トランプをすれば、何か良いアイディアが浮かんでくるかもってことね 帽子屋:それは、どうだろう? 妖精:トランプをするのならば、三人では、物足りないだろ?三月うさぎも呼ぼう アリス:三月うさぎ?三月うさぎって、もしかして? 妖精:三月うさぎ!美味しいキャベツがあるよ。出ておいで 三月うさぎ:タタタタタタタッ ナレ:深い森の奥から、三月うさぎがこちらに向かって駆けてきた 三月うさぎ:ビュビューン!キャベツ?キャベツがあるの? アリス:あぁ!やっぱり、あの時のうさぎさん! 三月うさぎ:あいお?誰だい?僕は、君を知らないよ? アリス:えっ? 帽子屋:やぁ、三月うさぎ 妖精:久しぶりだね。三月うさぎ 三月うさぎ:あいさつなんて、どうでもいいよ!キャベツ!キャベツはどこなの? 妖精:あぁ…。キャベツね。キャベツは、トランプのあとにプレゼントするよ 三月うさぎ:トランプのあとに?ヤッター!トランプする!する!早くトランプしよう! 妖精:フフフ…。では、みんな、着席しようじゃないか 三月うさぎ:あいおっ! アリス:うっ、うん… ナレ:全員が着席すると、帽子屋は、カードをそれぞれの席の前に、手裏剣のように配り始めたよ アリス:えっと…。何のトランプゲームをするの?ポーカー?ババ抜き? 妖精:あぁ…。そういえば、決めてなかったね。何がいいだろう? 三月うさぎ:そんなことは、配ってから決めればいいじゃないか 妖精:フフッ。それは、まさに、その通りだね。っと…。あぁ…。もう配り終わったみたいだよ 帽子屋:アリスは、トランプで、何のゲームをしたいんだい? アリス:えっ?私?なんで私が?みんなが決めてよ 三月うさぎ:無理だよ。僕、どんなゲームがあるのかわかんないし 帽子屋:僕は、アリスが決めたゲームがしたい アリス:私が決めたゲーム? 帽子屋:そうだよ。僕は、アリスが決めたゲームがしたいし、そのゲームをきっと好きになる アリス:どうして?面白くないゲームかも知れないよ? 帽子屋:でも、それをアリスは、面白いと思って選ぶんだろ? アリス:それは…。そうだけど… 帽子屋:それなら、面白いし、好きなゲームになるのは、間違いない アリス:どうして、そんなこと言い切れるの? 帽子屋:それは… 妖精:フフッ。好きな人の選んでくれた服は、良いと思う。好きな人の選んでくれた靴は。良いと思う 妖精:それと同じだよ。好きな人の選んでくれたゲームも、良いと思う。良いと思うから、楽しめるし、好きになる アリス:それって、つまり帽子屋さんは私のことを? 帽子屋:… 三月うさぎ:ん?帽子屋?どうして、顔が赤くなってるんだよ? 帽子屋:…。三月うさぎ、少し、黙っていてくれないか? 三月うさぎ:えっ!?えええーっ!!! 三月うさぎ:なんで?どうして?帽子屋の顔は赤くなってるの? 妖精:三月うさぎ! 三月うさぎ:あいお? 妖精:三月うさぎは、アリスのことが好きだよね? 三月うさぎ:アリス?うんうん!アリスのことは、キャベツと同じくらい大好きだよ! アリス:えっ?私のこと、好きなの? 三月うさぎ:えっ?どうして?別に君のことなんて知らないし、好きでもなんでもないよ? アリス:でも、アリスのことがキャベツと同じくらい大好きだって 三月うさぎ:あいおっ!大好きだよ! 妖精:三月うさぎ!その子が、今度のアリスだよ! 三月うさぎ:えっ!?えっ!?えええーっ!!!君、アリスなの!?アリスなの!? アリス:うん。アリスだよ 三月うさぎ:やっぱり?僕、最初からそんな気がしてたんだ。君がアリスじゃないかってね! アリス:だって、私をここに連れてきたのは、あなたでしょ? 三月うさぎ:あなたじゃない!三月うさぎだよ! アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:そう!三月うさぎ!僕のことを三日月うさぎって間違える子がいるけど、君は間違えないでよね! アリス:うん。わかった。三月うさぎさん 三月うさぎ:あいおっ! アリス:あのっ。三月うさぎさん、私を元の世界に…。あっ…ダメだ。海賊の船の上に戻されてしまうかも知れない…。うーん… 帽子屋:おほん。そろそろ、決めてくれないかな?その、ゲームをさ アリス:あぁ、そうね…。本当に私が決めても、いいんだよね? 妖精:もちろんさ!ここにいる帽子屋も、三月うさぎも、吾輩も、それを望んでいる。なぜなら 三月うさぎ:み~んな、アリスのことが好きだからね! アリス:どうして、私のことが好きなの? 妖精:それを答えてしまったら、この物語は、そこで終わってしまうじゃないか。フフフ… アリス:よくわからないけど、好きって思われるのは、悪い気はしないかな アリス:じゃあ、まずは、トランプをみんなで同時にめくって、一番大きな数字を引いた人が勝ちってゲームはどう? 帽子屋:… 妖精:… 三月うさぎ:… アリス:あ…。やっぱり、簡単すぎて、面白くないかな? 帽子屋:ブブブ…。ブラボー!エクセレント! 妖精:すばらしいゲームじゃないか! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが、すっごく面白そうなゲームを選んでくれた!ワクワク!ドキドキ! アリス:えっ?ええっ!?そんなに、面白そうなゲームかな? 妖精:面白いに決まってるじゃないか! 三月うさぎ:早く早くーっ!やろう!やろう! 帽子屋:そうだね。さっそく始めよう! アリス:うっ…うん… ナレ:それから、トランプをみんなで同時にめくって、一番大きな数字を引いた人が勝ちってゲームは、しばらく続いた ナレ:ここは不思議の国だから、それが何時間かは分からないし、何日かも分からない。もしかしたら、一瞬だったのかも知れない ナレ:やがて、アリスは、ある異変に気づく アリス:あれ?どうしたんだろう?なんか、周りにある木、さっきより大きくなってない? 妖精:さっきって、いつだい? アリス:さっきは、うーん…。トランプのゲームを始める前かな? 帽子屋:そうだね。大きくなってるね。成長したのかな アリス:この短時間に? 妖精:短時間だったかは、わからないさ。時間の感覚は、それぞれ違うからね アリス:それぞれ違う? 三月うさぎ:大変だ!大変だ!木が大きくなってる!木が大きくなってる! 帽子屋:木が大きくなると、どうして大変なんだい? 三月うさぎ:あ。大変じゃないや 妖精:フフフ…。木が大きくなっているのではなく、我々が小さくなっているのかも知れないよ アリス:どっちなんだろう?でも、木と一緒に赤色の扉も大きくなったから、今なら入れそう 妖精:そうだね。それでは、扉の向こう側に、行ってみるかい?ハートの女王のお城にさ。フフフ アリス:うん。行くよ 三月うさぎ:えっ?ええっ?ハートの女王のお城?僕は行かないよ!とっても危険だから! 帽子屋:危険かも知れないけど、アリスがいる 妖精:アリスがいる 三月うさぎ:アリスがいれば、大丈夫!だったら、僕もついてゆくよ! アリス:三月うさぎさんまで、ついてきてくれるの? 三月うさぎ:あいおっ! アリス:ありがとう。みんなで話をすれば、きっとハートの女王も分かってくれるはず ナレ:アリスは、赤色の扉を開いたよ 0: 0:【間】 0: ナレ2:扉を開いた先には、絢爛豪華(けんらんごうか)なシャンデリアに照らされて、豪奢(ごうしゃ)な椅子に腰掛け、きらびやかなドレスを身にまとい ナレ2:退屈そうな表情を浮かべる女性の姿が…。あぁ…。ハートの女王が、そこにいた ナレ2:ハートの女王は、アリスに気づくや否や、新しいオモチャを手に入れた子どものような笑みを浮かべる ハートの女王:ようこそ!アリス!私が誰かは、もう、分かっているわよね? アリス:ハートの女王? ハートの女王:そう!私は、私こそがハートの女王。この不思議の国で最も美しく、最もエレガントな存在よ! アリス:確かに、綺麗だけど…。私は、あなたに話があって、ここに来たの ハートの女王:あぁ…。お茶会にベストマッチするお茶菓子のお話かしら? 帽子屋:そんな話なわけがないだろ! 三月うさぎ:そーだ!そーだ!ベロベロベー! ハートの女王:あら?あなたたちもいたのね 妖精:吾輩たちのことは、眼中にないらしいね ハートの女王:そうよ!当たり前じゃない!私が興味があるのは、アリスだけ!さぁ、今度のアリスは、どんなアリスなのかしら? アリス:私は、私よ! ハートの女王:フフッ アリス:ねぇ、どうしてニンジンを消しちゃったの? 三月うさぎ:ニンジン?ニンジン?なんか美味しそうな響き! ハートの女王:ニンジン?何よ、それ? アリス:覚えていないの? ハートの女王:私が消したモノは、完全に消えるのよ。完全に消えるのだから、消えたモノが何だったのかは、もう、誰にも分からないし、思い出せないの ハートの女王:消し去った私でさえもね。フフッ アリス:ニンジンは、きっと、この世界にもあったはず ハートの女王:そう、あったのかも知れないわね アリス:もう、あなたの都合で、勝手に何かを消すようなことはしないで! ハートの女王:それは、命令かしら? アリス:お願いよ!だって、みんな、それを望んでいるはずだから! ハートの女王:みんなって、誰よ? アリス:それは… 妖精:吾輩も、アリスと同様の意見だよ。ハートの女王の気分次第で、自分の身の周りのモノが知らない間に消えてしまうというのは、気持ちが悪いからね 帽子屋:僕もだ。完全に消えたはずなのに、何かが足りないことに気づく。それに気づいた時、心に、そう、ぽっかりと穴が空いたような、悲しい気持ちになる ハートの女王:フッ。帽子屋!あんたは、ただの機械人形でしょ!機械人形には、心は存在しないの ハートの女王:心が存在しないということは、悲しい感情になるはずがないでしょ!あんた、狂ってるの? 帽子屋:それは… アリス:ふざけないで!心があるとかないとか、それは、ハートの女王が決めることじゃない。帽子屋さんが決めることでしょ! ハートの女王:あん?この私に、お説教? 三月うさぎ:大変だ…大変だ…ハートの女王を怒らせちゃったぞ! 妖精:三月うさぎ、ハートの女王を怒らせたら、何か問題でもあるのかね? 三月うさぎ:問題大アリだよ!ハートの女王は、気に入らないモノを消しちゃうから! ハートの女王:そうよ。私には、気に入らないモノを消す力がある。絶対的な力がね! ハートの女王:逆らえば、私は、誰であっても、容赦なく消すわ!それは、アリスも例外ではない! アリス:消したければ、消せばいい。あなたは、そうやって、気に入らないモノ、自分に意見する人たちを消し去って アリス:最後には、ひとりぼっちになるのよ。いいえ、今もすでに、ひとりぼっちなんでしょ?ほんとは、誰よりも、あなたは、ひとりぼっちで、寂しい人なの! ハートの女王:は!?そんなはずない…。そんなはずないわ!私にはトランプ兵たちがいる! 妖精:トランプ兵は、ハートの女王が魔法で魂を吹き込んだ、ただのトランプだろ?そのトランプに、心は、あるのかい? ハートの女王:あるわ!あるに決まってるでしょ? 妖精:その理論が成立するなら、帽子屋にも…フッ 帽子屋:僕にも…心が… アリス:そうだよ!帽子屋さんにも心があるの! 三月うさぎ:アリス、僕にも心がある?心がある? アリス:もちろんだよ!「心があるか?」そう自分に問いかけられることこそが、心がある証拠だと思う 帽子屋:心がある…。僕には、心がある! ハートの女王:帽子屋! 帽子屋:ん? ハートの女王:アリスに毒されてんじゃないわよ!ただの機械人形の分際で! 妖精:ハートの女王!それは、帽子屋に対して、とても失礼な発言だよ!よくない!よくないねぇ! ハートの女王:あん?あんたも私にお説教するつもりなの? 妖精:お説教だと受け止められたのなら、それは、まさにお説教さ 三月うさぎ:お説教さ! 妖精:吾輩には、吾輩の意思があり、正義がある。その正義の押し付けとまではいかないが、意見くらいはしたくなったのさ 妖精:吾輩にも心があるからね。ハートの女王の発言に対し、怒りを覚え、間違いを感じた 妖精:だから、自分の心に従い、間違いを指摘した。それだけのことさ ハートの女王:間違いを指摘?フフッ…。私は間違いを犯さない。私の言うこと、私のやることは全て正しいの! ハートの女王:なぜなら、私は、私こそがハートの女王なのだから! 妖精:傲慢(ごうまん)だね。そんな考え方だから、ハートの女王は、いつまで経っても成長しないし、ひとりぼっちなのだよ 三月うさぎ:そうだそうだ!ハートの女王は、ひとりぼっちだ! ハートの女王:さっきから、あんたは、鬱陶(うっとう)しいわね!消えなさい! ナレ2:ハートの女王は、「三月うさぎよ、消えろ!」と願いながら、魔法の杖を振った。すると、杖の先から黒色の光が放たれ、三月うさぎに命中する! 三月うさぎ:ぎゃーっ!!! アリス:三月うさぎさん! 帽子屋:ん?三月うさぎ? アリス:三月うさぎさんが、消えちゃった… 帽子屋:消えちゃった? アリス:三月うさぎさんのこと、覚えていないの? 帽子屋:ごめん…。何かがそこにいた気がするんだけど、思い出せない… アリス:ボルちゃんは?ボルちゃんは、覚えているよね? 妖精:… アリス:覚えているよね?三月うさぎさんだよ!明るくて、お調子者の三月うさぎさんだよ! 妖精:すまない… アリス:そ、そんな… ハートの女王:あら?そこに、何かいたのかしら? アリス:三月うさぎさんがいたよ。いたんだよ。あなたが消したの! ハートの女王:フフッ。そうなの? アリス:何も感じないの? ハートの女王:何も感じない。何も感じないわ。なぜなら、消したのなら、それは、もう、完全に消えた状態よ ハートの女王:消えたモノは、もう、誰にもわからないし、思い出せない。あら?さっきも、このセリフ、言ったような気がするわね アリス:ひどい…。ひどすぎる… 妖精:あぁ…。ハートの女王が、何を消したのかは思い出せないが、今、とても、心が煮えたぎっているよ 帽子屋:僕もだ…。心のモヤモヤが、ざわつきが、ハートの女王への怒りに変わっていってる ハートの女王:おかしいわねぇ。私が何を消したのか思い出せないはずなのに、一体何に対して怒っているのかしら? アリス:私は、覚えてる。三月うさぎさんが消されちゃったんだよ! アリス:ボルちゃんと帽子屋さんの友達で、一緒にトランプで遊んだ三月うさぎさんが消されちゃったんだよ! 帽子屋:三月うさぎ…。なんだろう…。その名前を頭の中で繰り返すと、何故だか目から熱い水が… 妖精:それは、涙だね 帽子屋:これが、涙? ハートの女王:涙なわけないでしょ!クソ妖精が、適当なこと言わないでくれるかしら! 妖精:適当なことではない!帽子屋には、心が、感情があるから、涙を流すことができるのだよ! ハートの女王:いちいち癇(かん)に障(さわ)るわね!私に消されたいの? 妖精:消したければ、消せばいい。しかし、吾輩は、決して消えることはない 妖精:世界の記憶から吾輩は消えても、アリスの記憶からは(消えないからだ!) ハートの女王:(さえぎって)消えなさい! ナレ2:ハートの女王は、杖の魔力で、妖精を消し去ってしまったよ ハートの女王:ん?あら?私、何か消したのかしら? アリス:ボルちゃーん! 帽子屋:ボルちゃん? アリス:ボルちゃんまで消えちゃった…。ボルちゃんはね。帽子屋さんの友達だよ 帽子屋:僕の友達?僕は、友達を消されたのかい? アリス:うん。ボルちゃんと、三月うさぎさんを、ハートの女王に消されたの ハートの女王:あら?あらあらあら?おかしいわねぇ…。動悸(どうき)が激しいわ。頭に血が上ってるみたい ハートの女王:私、どうしたのかしら?何かに怒っていたのかしら? アリス:ハートの女王!ボルちゃんと三月うさぎさんを元に戻して! ハートの女王:元に戻して?フッ。分からないモノを元に戻すことなんて、できるわけないでしょ? アリス:私は、あなたを許さない ハートの女王:許さない?私、何か悪いことをしたの? アリス:私の友達を消し去った ハートの女王:何よ?被害妄想でしょ?仮に、私があなたの友達を消したのだとしても、その友達をここに連れてきたのは、あなたでしょ? ハートの女王:つまり、友達が消えた原因は、あなたにもあるんじゃないの? アリス:えっ? ハートの女王:あなたが悪いのよ。私は、何も悪くないわ アリス:私が、ひとりでここに来ていれば… ハートの女王:そんなことより、私と楽しいお茶会をしましょ!メルフルール・ヘルナレティーレ! ナレ2:ハートの女王が杖を振ると、何もないところに、白くて長いテーブルと椅子、それぞれの席に、紅茶とミルクと砂糖が現れた アリス:… ハートの女王:さぁ、楽しいお茶会の始まりよ! アリス:… ナレ2:アリスは、無言でハートの女王の前に歩いてゆく ハートの女王:何?なんなの? アリス:バシッ(※頬をたたく音) ナレ2:ハートの女王の頬を平手で殴った ハートの女王:痛っ!痛いじゃないのよ! アリス:バシッ(※頬をたたく音) ハートの女王:痛っ!またぶったわね! アリス:バシッ(※頬をたたく音) ハートの女王:痛っ!ひ―――っ! ナレ2:ハートの女王は、アリスにぶたれた勢いで、杖を手放してしまったよ。そして、あれ? ナレ2:それが、コロコロと転がって、帽子屋の足元に… 帽子屋:魔法の杖… ナレ2:帽子屋は、杖を拾い上げた ハートの女王:帽子屋!それは、私のモノよ!今すぐ返しなさい! 帽子屋:返さない ハートの女王:は!?返しなさいって言ってるでしょ!私の命令がきけないの! 帽子屋:返さない!えいっ! ナレ2:帽子屋は、ひざを使って杖を折った ハートの女王:キーッ!私の杖が! 帽子屋:これで、ハートの女王は、もう、魔法が使えない。何かを消すことはできない ハートの女王:あん?だから何よ!トランプ兵!トランプ兵!出てきなさい! アリス:え? トランプ兵:ハートの女王に呼ばれたぞ~!ハートの女王に呼ばれたぞ~! ハートの女王:フフッ。きたわね。トランプ兵。トランプ兵!今すぐアリスと帽子屋をつかまえなさい! トランプ兵:ハートの女王の命令だ~!ハートの女王の命令だ~!アリスと帽子屋をつかまえろ~! アリス:そんな命令きく必要ない! トランプ兵:ん? アリス:きっと消されるのが怖くて、ハートの女王の命令をきこうとしてるんだよね? アリス:でも、今のハートの女王は、魔法の杖を持っていない。魔法の力に、消されてしまうことに怯(おび)える必要はないの アリス:だから、もう、あなたたちがやりたいことは、あなたたちが決めていいの! アリス:あなたたちにも、きっと、心があるはずだから! トランプ兵:心が? ハートの女王:ありません!トランプ兵に心なんてあるはずないでしょ!だって、元は、ただのトランプ! ハートの女王:私が魔力で魂を注ぎ込んで動いてるだけなのよ! アリス:それは、さっきと言ってることが違うんじゃないの?さっきは、トランプ兵に心があるって、言ってたでしょ? ハートの女王:言ってない。そんなこと言うわけないでしょ?トランプ兵には、心はないの。私の命令に、忠実(ちゅうじつ)に従うだけよ ハートの女王:そうよね?トランプ兵 トランプ兵:うぐっ… アリス:決めるのは、あなたたちよ!自分が本当にやりたいことが決まった時、自分の意思で動いた時、心があるのか自分に問いかけた時 アリス:そこには、すでに、心はあるの! 帽子屋:機械人形の僕にも、心があるように、君たちにも トランプ兵:ぐぬぬっ… ハートの女王:トランプ兵!毒されようとしてんじゃないわよ! ハートの女王:あんたたちは、私が魔法の杖を手に入れる前から、私の命令には、絶対服従(ぜったいふくじゅう)してたでしょ? ハートの女王:今更、反抗だなんて、ナンセンスだわ。そうよね? トランプ兵:ぐぐぐっ… ハートの女王:さっさとつかまえなさい!ギロチンにかけられたいの? トランプ兵:ふわっ!アリスと帽子屋をつかまえろ~!アリスと帽子屋をつかまえろ~! アリス:(同時に)わーっ!やめてーっ! 帽子屋:(同時に)あーっ!やめろーっ! ハートの女王:フフッ。そうよ。それでいいのよ。さぁ、二人をギロチン台に連れてゆきなさい! トランプ兵:はいっ! アリス:ぎっ、ギロチン? ナレ2:アリスと帽子屋は、手足の自由を鉄の鎖(くさり)で拘束(こうそく)され、お城の外にあるギロチン台に立たされた ナレ2:外は、相変わらず真夜中。ギロチン台を取り囲むように、松明(たいまつ)に火が灯っていた ナレ2:あぁ、これは、絶体絶命のピンチってやつだね ハートの女王:フフッ。さぁ、命乞(いのちご)いしなさい アリス:… ハートの女王:まだ、間に合うわ。私に生意気な口をきいたことに謝罪し ハートの女王:「ハートの女王と楽しいお茶会がしたいです~」と、そうカワイコぶって、土下座して、大声で、惨(みじ)めに懇願(こんがん)しなさい 帽子屋:アリス、悔しいけど、ここは、従った方が良さそうだよ アリス:えっ? 帽子屋:命をなくしてしまったら、そこで、終わりなんだ アリス:でも… 帽子屋:誇りをとるか、命をとるか、そんなの選ぶまでもない。命が一番大切だ。生きてさえいれば、その先に明日が広がる 帽子屋:明日は、いつだって白紙だ。そこには、アリスの望む明日が待っているかも知れない ハートの女王:フフッ。いいわねぇ。帽子屋の言う通りよ。せっかくステキな助言をしてくれているのよ。アリス!素直にききなさい! アリス:きかない 帽子屋:ん? ハートの女王:は? アリス:きかないって言ったのよ。私は、誇りを捨てない。心を捨てない。力に、あなたに屈(くっ)しない! ハートの女王:私に屈しないですって!?私に命を握られている状況で、何ができるの?何もできないでしょ! アリス:あなたに勝てる! ハートの女王:私に勝てるですって?バカなの?狂ってるの? 帽子屋:そうだね。アリスは狂ってる。そして、そんなアリスが、不思議の国を狂わせる! ハートの女王:えっ? トランプ兵:ハートの女王!ごめんなさい! ハートの女王:ちょっと!トランプ兵!あんたたち!何やってるの! ナレ2:おお!トランプ兵たちが、アリスと帽子屋の拘束(こうそく)を解いたよ! ハートの女王:トランプ兵!私の命令に逆らったわね!あなたたち全員、ギロチンよ!処刑よ!処刑! 帽子屋:その処刑は、誰がするんだい? ハートの女王:そんなの決まってるじゃない。トランプ兵よ アリス:トランプ兵が、トランプ兵を? ハートの女王:それは…。ぐっ…。だったら、私がするわ!あんたたち全員の処刑をね! アリス:… ナレ2:アリスは、無言でハートの女王の方に歩いていく ハートの女王:なんなの?なんなのよ!また、ぶつ気? アリス:大丈夫だよ ナレ2:アリスは、ハートの女王を抱きしめた ハートの女王:なっ!?何?なんなの!? アリス:大丈夫。大丈夫だよ ハートの女王:何が大丈夫よ!意味がわからないわ! アリス:意味なんて、いらないの! ハートの女王:… アリス:あなたが、ピカピカの衣装を着ているのも、良い匂いの香水をつけているのも、威張って振舞っているのも アリス:弱い自分を、隠すためよね? ハートの女王:え?私は、弱くなんてないわ アリス:いいんだよ。弱くても…。弱いのは、あなただけじゃない。私も、みんな弱いんだから ハートの女王:そんなはずない!私は強いの!私だけは、強いの! アリス:いいんだよ。弱くて…。強くなる必要はない。背伸びをする必要はない。そのままで、そのままでいいんだよ ハートの女王:でも、それだと、誰も私の命令を聞かなくなるじゃない アリス:命令を聞いてもらう必要なんて、あるのかな?あなたのことが好きなら、大切に想われているのなら アリス:命令なんてする必要はないはず。あなたが、困っているなら、助けたいと思ってくれるはず。それが、友達でしょ! ハートの女王:私に友達はいない。誰にも大切に想われてない。誰も私を好きになってはくれないの! アリス:それは、どうしてだと思う? ハートの女王:… ハートの女王:私が弱いからよ!力で支配していたからよ! アリス:力や魔法で、周りを支配しようとしても、そこに、本当の『つながり』は生まれないんだよ ハートの女王:じゃあ、どうすればいいのよ!私は、友達がほしいの!一緒にお茶会を楽しんでくれる。一緒に笑ってくれる友達がほしいの! アリス:そう思えたなら、答えは簡単だよ。ありのままの弱い自分を認めて、周りにいる人たちの弱さを気遣って、優しく接すること アリス:優しく接することが、友達を作る一番の近道だよ ハートの女王:無理よ。私は、わがままで、嘘つきで、ずっとみんなに酷いことをしてきたのよ ハートの女王:そんな私が今更、みんなに優しく接しても、無駄よ。気持ち悪がられるだけだわ アリス:そんなことない!あなたが、本気で変わろうとするなら、周りに優しくあろうとするなら、私が、あなたの最初の友達になるよ! ハートの女王:アリスが?私の友達に?なってくれるの? アリス:うん ハートの女王:でも、私は、きっと、あなたの友達を傷つけたのよね?消してしまったのよね?そんな私を、アリスは許せるの? アリス:許すよ。やってしまったことを、どれだけ責めたところで、消えたモノは、元には戻らない アリス:元には戻らないけど、私の記憶には、消えずに残ってる。そう、消えたけど、消えてないんだよ アリス:私と一緒に生きているんだよ! アリス:だから、ハートの女王が今まで酷いことをしてきたのなら、それを本気で反省して、あなたが変わってくれるなら、それでいいよ ハートの女王:アリスは、優しいのね… 帽子屋:あぁ…。アリスは、優しすぎるよ。だけど、アリスが許すなら、僕も許すよ。そして、ハートの女王が優しいハートの女王として生まれ変わるなら 帽子屋:僕も、その、ハートの女王と友達になってもいいよ ハートの女王:ありがとう… トランプ兵:ハートの女王が、「ありがとう」と言った! ハートの女王:ありがとう…。ありがとう! 帽子屋:まるで、魔法みたいだ ハートの女王:みなさん、今まで、たくさん嫌なことを言って、嫌なことをして、傷つけてしまったわね。ごめんなさい 帽子屋:フッ。まさか、ハートの女王に「ごめんなさい」と言われる日がくるなんてね トランプ兵:我々は、うーん…。失礼かも知れませんが、ハートの女王と友達になりたいと思っています ハートの女王:こんな私でも、友達になってくれるの? トランプ兵:もちろんです!友達になって下さい! 帽子屋:やっぱり、トランプ兵たちにも、心はあったんだね トランプ兵:え? 帽子屋:アリスの言葉をきいて、本来の役割を捨てて、行動を変えた。それは、心が動いたということ。心があるということさ ハートの女王:そうよ。私の友達なんだから、心があるのは当然でしょ!フフッ 帽子屋:おっと!傲慢(ごうまん)な態度は変わっていないかな? ハートの女王:あら、失礼 アリス:ふふっ トランプ兵:あの、アリスさん、これをどうぞ アリス:ん? ナレ2:トランプ兵は、ハートの女王が持っていた杖の先についていた赤い宝石をアリスに手渡した アリス:これは? トランプ兵:その宝石には、消えたモノたちが封印(ふういん)されています アリス:封印? トランプ兵:もしかしたら、アリスさんなら、その封印を解き放つことができるかも知れません ハートの女王:ああ!そうね!アリスさんなら、きっと…! アリス:私なら? 帽子屋:大丈夫。君はアリスなんだ。この世界を狂わせるのも、あるべき形に戻せるのも、アリスだけなんだ 帽子屋:自分の心を信じて、宝石に願いを込めるんだ アリス:宝石に、願いを… アリス:わかった。やってみる…。全部、全部元に戻して!消えたモノを全部、この世界に返して! ナレ2:アリスが願いを込めた宝石から、まばゆい光が解き放たれる ナレ2:空には、太陽が輝き、真夜中の時間に固定されていた世界に朝が訪れる。そして… ナレ2:ニンジンをくわえた三月うさぎと、一匹の黒猫が姿を現す アリス:あっ!三月うさぎさん! 三月うさぎ:もぐもぐ…ごっくん。あいおっ!僕は三月うさぎだよ!ニンジンが大好きな三月うさぎだよ! アリス:ニンジンが大好き?つまり、ニンジンもこの世界に戻ってきたってことね! 帽子屋:ニンジンだけじゃないさ。きっと、他のモノも、この世界に戻ってきてる。アリスのおかげだよ 妖精:アリスのおかげだねぇ アリス:あら?この猫さんは? 妖精:吾輩だよ!アリス! アリス:もしかして、ボルちゃん?ボルちゃんなの? 妖精:吾輩は、ボルちゃんであり、ボルニャンスキーであり、チェシャ猫だよ アリス:チェシャ猫? 帽子屋:本当の名前を取り戻したということかな? 妖精:フフッ。本当の名前?そんなモノは最初から存在しないし、そんなモノは必要ない。なぜなら、吾輩は吾輩 妖精:吾輩が吾輩だと分かっていれば、名前が何であっても、姿形が変わっても、何も問題ないのさ アリス:でも、妖精の姿じゃなくなったから、羽がなくなったから、空を飛べなくなったんじゃないの? 妖精:フッ。アリス、君は空を飛べるかどうかは、羽があるかどうかで決め付けるのかい? アリス:えっ? 妖精:目に見えている情報だけで、全てを決めつけていたのでは、真実は見えてこないさ。それっ! アリス:わっ!ボルちゃんが、宙に浮いた! 妖精:ほらねっ!羽なんかなくても、空を飛べる。むしろ、羽があった時より自由にね!それそれそれ~っ! アリス:す、すごい… ハートの女王:フフッ。なぜなら、ここは 帽子屋:不思議の国だからね 三月うさぎ:あいおっ! ハートの女王:アリスさんが望めば、この世界は、どこまでも自由に、エレガントに生まれ変わるのよ! アリス:私が望めば…。えっと…。私も空を飛びたい! アリス:わっ!宙に浮いた! 帽子屋:エクセレント! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが宙に浮いた!空を飛んだ! 妖精:三月うさぎ! 三月うさぎ:あいおっ? 妖精:そろそろ時間だ。アリスを元の世界に戻すんだ 三月うさぎ:あいおっ! ナレ2:三月うさぎは、タキシードの胸ポケットから懐中時計をカッコ良く取り出し、青色のボタンを押したよ 三月うさぎ:ポチッとな! ナレ2:世界は、銀色の光に包まれる アリス:あっ!えっ?なっ、なんなの!?わあああーっ!!! 0:【間】 アリス:んっ…。んんっ… スミス:あ!お目覚めになられましたか! アリス:んっ?ここは、ベッドの上? スミス:船長!お姫様が、お目覚めになられましたよ! フック:おっ、おおおーっ!目覚めたか!よかった アリス:どうしたの? フック:突然、気を失って倒れたんだ。心配したよ アリス:どうして、海賊が私を心配するの?いや、ありがとう フック:ありがとう? アリス:あなたは、海賊だけど、あなたなのよね? フック:フッ。その通りだ。俺は、俺だ アリス:私は、あなたのことが知りたいわ。教えてくれるかしら? フック:ああ、いいとも! ナレ2:ワンダーコメット号の船長フックは、ライム王国の国王から、特別な許可を得ている『王国特別海賊』だった ナレ2:王国特別海賊とは、敵国の侵攻(しんこう)から国を守ったり、手に入れた宝のほとんどを国の財政を豊かにさせるために寄付する海賊 ナレ2:そして、今回の任務は、お城を、僅(わず)かな護衛と共にこっそりと抜け出したお姫様を、お城に連れ帰ることだった 0:【間】 妖精:大切なのは、名前なのかい? 三月うさぎ:名前なのかい? 妖精:その人を決定づけるモノは、肩書きなのかい? 三月うさぎ:肩書きなのかい? 帽子屋:肩書きがカッコイイと、カッコイイの? 妖精:順位が高いと、すごい人なの? ハートの女王:周りが良い人だと言う人は、良い人なの? 三月うさぎ:周りが悪い人だと言う人は、悪い人なの? 帽子屋:わからない ハートの女王:わからない アリス:わからない 妖精:わからないのが、正解さ 帽子屋:わからないから、わかろうとする アリス:心を向けて、自分で決める 妖精:なぜなら、これは… ハートの女王:他の誰でもない アリス:私の…物語… 0: 0:―了―

ナレ:ここは、海賊船ワンダーコメット号の甲板(かんぱん)の上 フック:ヨーソロー!イカリをあげろー!出航だーっ! スミス:アイアイサーッ! フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!愉快!愉快! フック:キャメロンの町に立ち寄ったら、ちょうどそこにライム王国のお姫様が、お忍びで、観光にきてるなんてなぁ! スミス:ヒッヒッヒッ。船長、今夜は、お楽しみですね! フック:あぁ、たっぷり可愛がってやらねぇとだな!ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!おっし!まずは、祝杯をあげようじゃねぇか! スミス:アイアイサーッ! モブA:よっ!グリムの海賊王! モブB:無敵のキャプテン! フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!それじゃあ、かんぱーい! スミス:(同時に)かんぱーい! モブA:(同時に)かんぱーい! モブB:(同時に)かんぱーい! フック:宴(うたげ)だーっ!さぁ、飲め!踊れ!歌えーっ! 0:(以下)オリジナルメロディを作って、楽しく歌って下さい スミス:俺たちゃ、無敵の海賊団~ モブA:お宝求めて、ヨーソロ~ モブB:奪い取れ、ヨーソロ~ スミス:突き進め、ヨーソロ~ モブA:逆らう奴らにゃ、容赦しねぇ~ モブB:奪い取れ!突き進め! スミス:風は友達、心のままに~ モブA:ヨーソロー!ヨーソロー! スミス:俺たちゃ、無敵の海賊団~ モブB:フック海賊団~ 0:(以下)通常の会話に戻ります フック:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!お前ら、最高だーっ! スミス:(同時に)アイアイサーッ! モブA:(同時に)アイアイサーッ! モブB:(同時に)アイアイサーッ! フック:さぁ、思う存分、宴を楽しんでくれ!ヒャヒャヒャヒャヒャーッ! スミス:あれ?あれれ~?船長は、一緒に飲まないんですかい? モブA:船長もこっちきて、一緒に飲みやしょうぜ! フック:ヒャヒャッ!あぁ、ちょっとな!って、おい!わかんだろ? スミス:あっ、あぁ…。察しやしたぜ。牢の中のお宝を見にゆくんですね! フック:ヒャヒャッ! ナレ:フックは、船倉(せんそう)の横にある牢に向かった 0: 0:【間】 0: アリス:んっ?あなたは!? フック:ヒャヒャッ!お姫様よ、元気にしてるかい? アリス:早く殺しなさい!辱(はずかし)めを受けるくらいなら、死んだ方がマシです フック:そうかそうか。それなら… ナレ:フックは、牢の鍵を開けた アリス:は!?今から何をするつもりですか?こんなことをして恥ずかしくないんですか? フック:おいおい。俺は、まだ、何もしちゃいないだろ? アリス:していませんが…。今から、その、私にヒドイことをするつもりでしょ? フック:ヒドイことって、なんだ? アリス:えっと…。私の体をもてあそぶ… フック:フッ アリス:それが、海賊でしょ!キャメロンの町の人たちも、殺した フック:ん?殺した? アリス:そうよ!殺したんでしょ!たくさん! フック:見たのか? アリス:うっ… フック:見ていないんだろ? アリス:私は、「海賊が出た」という町の人の声を聞いて、すぐに気を失ったから… フック:そう、見ていない。俺たちが人を殺したところを見ていない フック:それなのに、海賊ってだけで、人を殺すモノだと決めにかかる フック:よくねぇなぁ。よくねぇよ! アリス:それは… フック:俺は、自分を海賊だと思ってる。だが、海賊である前に、俺は、俺なんだよ アリス:俺は、俺? フック:そうさ。お前が、お前であるのと同じようにな アリス:お前じゃないです!私は、ヘルベルト・フォン・ロードフェルム・アリス フック:なげぇな…。アリスでいいか? アリス:アリス? フック:そう、アリス 三月うさぎ:そう、アリス! アリス:わっ!ううう、うさぎ!? 三月うさぎ:僕は、三月うさぎだよ アリス:三月うさぎ?ん?あれ?海賊が動かなくなってる!? 三月うさぎ:あいおっ!僕が時間を止めたんだ!って? アリス:えいっ! 三月うさぎ:わわっ!アリスが海賊を蹴った!アリスが海賊を蹴った! アリス:あっ!ほんとだ!ピクリともしない 三月うさぎ:だから言ったろ?僕が時間を止めたんだよ アリス:本物のうさぎを見るのも初めてだけど、本物の魔法を見るのも初めて…。あなた、うさぎの魔法使いなの? 三月うさぎ:うさぎの魔法使い?なんだいそれは?僕は、三月うざぎだよ アリス:三月うざぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は三月うさぎだよ アリス:わかった。あなた、三月うさぎという名前なのね。その三月うさぎさんは、どうして、ここにいるの? 三月うさぎ:僕は、アリスを不思議の国に連れてゆくために、ここにきたんだよ アリス:私を不思議の国に?つまり、私をここから助け出してくれるの? 三月うさぎ:あいお?助けてほしいのは、僕の方なんだけどな…。まぁ、いいや。とにかく、今から不思議の国に来てくれないかな? アリス:もちろん!行くよ!私をここから助け出してくれるなら、どこへだって! 三月うさぎ:ヤッターッ!それじゃあ、僕と握手して!握手! アリス:わかった。握手、すれば良いのね? 三月うさぎ:うんうん ナレ:アリスは身をかがめ、三月うさぎと握手した。すると、世界は、まばゆい光に包まれた アリス:わあああーっ!!! 0: 0:【間】 0: ナレ:アリスが目覚めた場所は…。えっと…。ん?どこだろうねぇ… 妖精:おや?こんにちは アリス:えっ?誰なの?ここはどこ?真っ暗で、何も見えない 妖精:それはそれは、失礼。うーん…。それっ! ナレ:ロウソクに火が灯る アリス:あ…!ここは、大きな積み木で出来た家の中? 妖精:果たして、そうなのかな アリス:でも、ここは、あなたの家じゃないの? 妖精:そう、吾輩は、ここで暮らしている。積み木で組み上げられた建物の中 アリス:じゃあ、ここは、あなたの家ね 妖精:君がそう思うのなら、そうなのかも知れない アリス:ねぇ、あなたは、どこにいるの?さっきから声は聴こえるけど、姿が見えない 妖精:最初から、君の目の前にずっといるよ。君が見ようとしていないだけさ アリス:私が見ようとしていないだけ? 妖精:そうだよ アリス:そんなはずは… 妖精:いないと思えば、いない。いると思えば、いる アリス:どういうこと? 妖精:そのままの意味さ。さぁ、想像してごらん。吾輩の姿形を… アリス:でも、声だけしか分からない 妖精:本当に、声だけかな?あぁ…。でも、声だけでも充分だよ アリス:え?意味が分からない 妖精:意味や理由、姿形を与えるのは、いつだって、君自身さ アリス:私自身… 妖精:ふふふ。得られた情報全てを使って、想像力をふくらませるんだ アリス:想像力を…ふくらませる… ナレ:アリスが目を閉じて、声の主(ぬし)の姿形を思い浮かべ、目を開けてみると… アリス:わっ!妖精!? 妖精:妖精?やっぱり君も、吾輩のことを妖精と呼ぶんだね アリス:だって、妖精でしょ?体は親指ほどの大きさだし、羽が生えてる 妖精:ふふっ。吾輩は、妖精なのかも知れないが、ボルニャンスキーという名前と役割が与えられている アリス:ボルニャンスキー? 妖精:そう、ボルニャンスキー アリス:長いから、ボルちゃんでいい? 妖精:構わないよ。名前は、名前であって、吾輩ではないからね。好きに呼ぶといい。吾輩は、君のことをアリスと呼ぶことにしよう アリス:アリス?そう、私の名前は確かにアリスだけど、本当の名前は…。あれ?思い出せない。アリスって名前の前に、何かが付いていたはずなのに… 妖精:ふふっ。何かがね アリス:まぁ、いいか…。あのっ、私は、早くお城に帰りたいんだけど 妖精:お城に?お城は、危険だ アリス:え?どうして?もしかして戦争が始まったとか? 妖精:戦争なんて始まっていないよ。でも、お城には、ハートの女王がいる アリス:ハートの女王?やっぱり!他の国の人たちが攻めてきたんじゃないの? 妖精:ん?ハートの女王のお城には、ずっとハートの女王がいるよ アリス:ハートの女王のお城?私は、ライム王国のライム城の話をしているんだけど? 妖精:あぁ、残念だけど、ここは不思議の国。そして、今回の不思議の国に存在するお城は、ハートの女王のお城だけだよ アリス:えっ?遠い場所に来てしまったってこと?私、もう、ライム城に帰れないの? 妖精:帰れるかも知れないし、帰れないかも知れない アリス:どっちなの? 妖精:さぁ、どっちだろう? アリス:はぁ…。とにかく、早くここを出ないと…。でも、扉がたくさんある アリス:ねぇ、どの扉が外に続いているの? 妖精:どの扉も、外に続いているよ。この積み木の家の外にね アリス:どの扉を開ければいいの? 妖精:どの扉を開ければ良いか…。うーん…。どの扉も正解だし、どの扉も間違いだ。今のところはね 妖精:なぜなら、扉を開けた先のアリスの行動で、正解か間違いかが決まるからだ アリス:ほんとに、意味が分からない 妖精:意味は、誰かに与えてもらうモノではないからね。意味は、自分自身が与えるモノさ アリス:自分自身が… 妖精:そうだよ。さぁ、今度のアリスは、どの扉を選ぶのかな? アリス:私は…うーん… 妖精:おや?その扉か… 0: 0:【間】 0: ナレ:アリスは、白色の扉を開いたよ。すると、そこも真っ暗な部屋だった アリス:(M)あれ?また、何も見えない。でも、とっても良い匂いがする アリス:ねぇ、ボルちゃん!明かりをつけてよ! 帽子屋:明かり? アリス:そう、明かりをつけて!真っ暗で何も見えないの 帽子屋:僕には、見えてるよ アリス:あれ?声が違う? 帽子屋:声が違う? アリス:やっぱり、声が違う。あなたは、誰? 帽子屋:僕は、帽子屋だよ アリス:帽子屋? 帽子屋:そう、帽子屋 アリス:あのっ、帽子屋さん。明かりをつけてくれる? 帽子屋:どうして、明かりをつける必要があるんだい? アリス:真っ暗で、何も見えないからだよ 帽子屋:君に見えていなくても、僕には見えているよ アリス:あなたには、見えていても、私には見えないの 帽子屋:君に見えていなくても、僕は困らない。だから、明かりをつける必要はないと思うんだけど? アリス:お願いだから、明かりをつけてくれない? 帽子屋:お願いか…。そのお願いをきけば、僕に、どんなステキなことが起こるんだい? アリス:ステキなこと? 帽子屋:そう、ステキなこと。ステキなことがなければ、お願いをきく意味がないだろ? アリス:ステキなことがなくても、困ってる人を助けるのは、当たり前のことじゃないの? 帽子屋:当たり前か…。ふっ。この世界に、当たり前や常識は、存在しないよ アリス:あなたは、優しくない人なんだね 帽子屋:優しくない?それは、僕に、『優しく』が存在しないということかい? アリス:うーん…。『優しく』じゃなくて、『優しさ』がないんだよ 帽子屋:それは、嫌だ! アリス:えっ? 帽子屋:僕は、『優しさ』がほしい。どうすればいい? アリス:ん?あぁ…。それじゃあ、明かりをつけて 帽子屋:わかった。すぐに明かりをつけるね。それっ! アリス:…。ん?ここは…。森の中?ほんとに外に続いてたんだ…。そして、あなたが、帽子屋さん? 帽子屋:そうだよ。僕が、帽子屋だよ ナレ:知らない森の中、白くて長いテーブル ナレ:テーブルの上には、カレーライスに、ビーフシチュー、オムライスなどのご馳走が、ズラリと並んでいた ナレ:そして、そのテーブルの向こう側には、陳腐(ちんぷ)な帽子をかぶり、ツギハギだらけのタキシードを身にまとった青年の姿があった アリス:良い匂いの正体は、この料理か…。すっごく美味しそう! 帽子屋:美味しそう? アリス:ねぇ、食べてもいい? 帽子屋:食べてもいいけど、その前に、君の名前が知りたいな アリス:あぁ!私の名前ね。私は、アリスだよ 帽子屋:アリス… アリス:ん?どうしたの? 帽子屋:いや、なんでもない…。あっ、僕の料理、きっと何かが足りないけど、どうぞ召し上がれ アリス:何かが足りない?いいよ。そんなの気にしない!いっただきまーす! アリス:んっ、もぐもぐもぐ…。次の料理、もぐもぐもぐ…。今度はこっち、もぐもぐもぐ… アリス:ん?んん?あれ? 帽子屋:どうしたの? アリス:あのね。どの料理も美味しかったよ。でも、何か足りないの 帽子屋:だろ?何かが足りない アリス:ほら!コロコロ、ホクホク、サクッのアクセントを加えるアレだよ! 帽子屋:コロコロ、ホクホク、サクッ? アリス:そう、ニンジンよ!ニンジンが入っていないのよ! 帽子屋:ニンジン?なんだい?それは? アリス:ニンジンは、ニンジンよ 帽子屋:わからない アリス:帽子屋さんは、ニンジンを知らないの?食べたことがないの? 帽子屋:きっと多分、そう、食べたことはあるんだろうけど、この世界にも確かに存在していたんだろうけど 帽子屋:きっと多分、そう、消されてしまったんだと思う アリス:消された? 妖精:そう、消された! アリス:あっ!ボルちゃん! 妖精:フフフ… 帽子屋:ボルニャンスキー、消されたということは、やはり 妖精:そうだよ。間違いなく、ハートの女王の仕業だろうね アリス:ハートの女王? 帽子屋:そう、不思議の国における最凶最悪のヴィランさ アリス:ヴィラン? 帽子屋:悪役って意味だよ 妖精:そうだね。ハートの女王は、自分の気に入らないモノを、魔法の杖を使って、次々に消し去っていってる アリス:魔法?消し去る?どうして、そんなことをするの? 妖精:酷いことをするのがヴィラン。ハートの女王に与えられた役割なのさ 妖精:吾輩たち、不思議の国のクリーチャーは、役割にあらがうことはできない 妖精:過去に一度だけ、その役割に、運命に打ち勝ったクリーチャーはいたがね 帽子屋:… アリス:打ち勝ったクリーチャー?がいるなら、きっとハートの女王だって、変われるはずだよ アリス:気に入らないモノを消すのを、やめさせないと! 妖精:どのような方法で? アリス:それは…。うーん… アリス:えっと…。話をする。説得をする 帽子屋:説得なんて、無駄だと思うけどね 妖精:そうだね。帽子屋は、それを身を持って体験している アリス:ボルちゃん、それは、どういうこと? 妖精:帽子屋は、以前、ハートの女王にヴィランとしての役割を捨てるように説得をこころみたことがあるが、その結果… アリス:その結果、どうなったの? 帽子屋:ハートの女王のお城の地下牢に閉じ込められた アリス:地下牢に?どうして、そんな酷いことをするの? 妖精:言っただろう?ヴィランだから…。フフフ… 妖精:説得だけで、改心させられるほど、ハートの女王の役割は、心は、単純なモノではないのだよ アリス:それでも、私は、ハートの女王と一度、話をしてみたい 帽子屋:とても危険だ。やめておいた方がいい 妖精:帽子屋!決めるのは、アリスだよ!なぜなら、ここは… 帽子屋:不思議の国…。でも…。僕は… アリス:帽子屋さん、大丈夫だよ!大丈夫!私は、行くよ。ハートの女王のところに! 妖精:フフッ 帽子屋:それなら、僕もついてゆくよ アリス:えっ?ついてきてくれるの?以前、酷い目に遭ったのなら、怖くないの? 帽子屋:あぁ。アリスがいれば、怖くない 妖精:そうだね。アリスがいれば、怖くない。怖くないから、吾輩も同行させてもらうよ アリス:ボルちゃんもついてきてくれるの? 妖精:もちろんさ。あぁ、なんだか面白くなってきたよ アリス:ありがとう。でも、どこに行けば、ハートの女王に会えるの? 妖精:フフッ。あそこだよ ナレ:妖精は、アリスの背後に立つ木の根元を指さした。そこには、手のひらサイズの小さな赤色の扉があった アリス:えっ?あの扉に、この体の大きさで、どうやって入るの? 妖精:今のままでは無理だろうね アリス:今のままでは無理?じゃあ、何かあの扉の中に入る方法があるってこと? 帽子屋:トランプをしよう アリス:トランプ? 帽子屋:急がば回れだよ ナレ:帽子屋は、どこからともなくトランプを取り出し、華麗にシャッフルし始めたよ アリス:急がば、回れね。トランプをすれば、何か良いアイディアが浮かんでくるかもってことね 帽子屋:それは、どうだろう? 妖精:トランプをするのならば、三人では、物足りないだろ?三月うさぎも呼ぼう アリス:三月うさぎ?三月うさぎって、もしかして? 妖精:三月うさぎ!美味しいキャベツがあるよ。出ておいで 三月うさぎ:タタタタタタタッ ナレ:深い森の奥から、三月うさぎがこちらに向かって駆けてきた 三月うさぎ:ビュビューン!キャベツ?キャベツがあるの? アリス:あぁ!やっぱり、あの時のうさぎさん! 三月うさぎ:あいお?誰だい?僕は、君を知らないよ? アリス:えっ? 帽子屋:やぁ、三月うさぎ 妖精:久しぶりだね。三月うさぎ 三月うさぎ:あいさつなんて、どうでもいいよ!キャベツ!キャベツはどこなの? 妖精:あぁ…。キャベツね。キャベツは、トランプのあとにプレゼントするよ 三月うさぎ:トランプのあとに?ヤッター!トランプする!する!早くトランプしよう! 妖精:フフフ…。では、みんな、着席しようじゃないか 三月うさぎ:あいおっ! アリス:うっ、うん… ナレ:全員が着席すると、帽子屋は、カードをそれぞれの席の前に、手裏剣のように配り始めたよ アリス:えっと…。何のトランプゲームをするの?ポーカー?ババ抜き? 妖精:あぁ…。そういえば、決めてなかったね。何がいいだろう? 三月うさぎ:そんなことは、配ってから決めればいいじゃないか 妖精:フフッ。それは、まさに、その通りだね。っと…。あぁ…。もう配り終わったみたいだよ 帽子屋:アリスは、トランプで、何のゲームをしたいんだい? アリス:えっ?私?なんで私が?みんなが決めてよ 三月うさぎ:無理だよ。僕、どんなゲームがあるのかわかんないし 帽子屋:僕は、アリスが決めたゲームがしたい アリス:私が決めたゲーム? 帽子屋:そうだよ。僕は、アリスが決めたゲームがしたいし、そのゲームをきっと好きになる アリス:どうして?面白くないゲームかも知れないよ? 帽子屋:でも、それをアリスは、面白いと思って選ぶんだろ? アリス:それは…。そうだけど… 帽子屋:それなら、面白いし、好きなゲームになるのは、間違いない アリス:どうして、そんなこと言い切れるの? 帽子屋:それは… 妖精:フフッ。好きな人の選んでくれた服は、良いと思う。好きな人の選んでくれた靴は。良いと思う 妖精:それと同じだよ。好きな人の選んでくれたゲームも、良いと思う。良いと思うから、楽しめるし、好きになる アリス:それって、つまり帽子屋さんは私のことを? 帽子屋:… 三月うさぎ:ん?帽子屋?どうして、顔が赤くなってるんだよ? 帽子屋:…。三月うさぎ、少し、黙っていてくれないか? 三月うさぎ:えっ!?えええーっ!!! 三月うさぎ:なんで?どうして?帽子屋の顔は赤くなってるの? 妖精:三月うさぎ! 三月うさぎ:あいお? 妖精:三月うさぎは、アリスのことが好きだよね? 三月うさぎ:アリス?うんうん!アリスのことは、キャベツと同じくらい大好きだよ! アリス:えっ?私のこと、好きなの? 三月うさぎ:えっ?どうして?別に君のことなんて知らないし、好きでもなんでもないよ? アリス:でも、アリスのことがキャベツと同じくらい大好きだって 三月うさぎ:あいおっ!大好きだよ! 妖精:三月うさぎ!その子が、今度のアリスだよ! 三月うさぎ:えっ!?えっ!?えええーっ!!!君、アリスなの!?アリスなの!? アリス:うん。アリスだよ 三月うさぎ:やっぱり?僕、最初からそんな気がしてたんだ。君がアリスじゃないかってね! アリス:だって、私をここに連れてきたのは、あなたでしょ? 三月うさぎ:あなたじゃない!三月うさぎだよ! アリス:三月うさぎ? 三月うさぎ:そう!三月うさぎ!僕のことを三日月うさぎって間違える子がいるけど、君は間違えないでよね! アリス:うん。わかった。三月うさぎさん 三月うさぎ:あいおっ! アリス:あのっ。三月うさぎさん、私を元の世界に…。あっ…ダメだ。海賊の船の上に戻されてしまうかも知れない…。うーん… 帽子屋:おほん。そろそろ、決めてくれないかな?その、ゲームをさ アリス:あぁ、そうね…。本当に私が決めても、いいんだよね? 妖精:もちろんさ!ここにいる帽子屋も、三月うさぎも、吾輩も、それを望んでいる。なぜなら 三月うさぎ:み~んな、アリスのことが好きだからね! アリス:どうして、私のことが好きなの? 妖精:それを答えてしまったら、この物語は、そこで終わってしまうじゃないか。フフフ… アリス:よくわからないけど、好きって思われるのは、悪い気はしないかな アリス:じゃあ、まずは、トランプをみんなで同時にめくって、一番大きな数字を引いた人が勝ちってゲームはどう? 帽子屋:… 妖精:… 三月うさぎ:… アリス:あ…。やっぱり、簡単すぎて、面白くないかな? 帽子屋:ブブブ…。ブラボー!エクセレント! 妖精:すばらしいゲームじゃないか! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが、すっごく面白そうなゲームを選んでくれた!ワクワク!ドキドキ! アリス:えっ?ええっ!?そんなに、面白そうなゲームかな? 妖精:面白いに決まってるじゃないか! 三月うさぎ:早く早くーっ!やろう!やろう! 帽子屋:そうだね。さっそく始めよう! アリス:うっ…うん… ナレ:それから、トランプをみんなで同時にめくって、一番大きな数字を引いた人が勝ちってゲームは、しばらく続いた ナレ:ここは不思議の国だから、それが何時間かは分からないし、何日かも分からない。もしかしたら、一瞬だったのかも知れない ナレ:やがて、アリスは、ある異変に気づく アリス:あれ?どうしたんだろう?なんか、周りにある木、さっきより大きくなってない? 妖精:さっきって、いつだい? アリス:さっきは、うーん…。トランプのゲームを始める前かな? 帽子屋:そうだね。大きくなってるね。成長したのかな アリス:この短時間に? 妖精:短時間だったかは、わからないさ。時間の感覚は、それぞれ違うからね アリス:それぞれ違う? 三月うさぎ:大変だ!大変だ!木が大きくなってる!木が大きくなってる! 帽子屋:木が大きくなると、どうして大変なんだい? 三月うさぎ:あ。大変じゃないや 妖精:フフフ…。木が大きくなっているのではなく、我々が小さくなっているのかも知れないよ アリス:どっちなんだろう?でも、木と一緒に赤色の扉も大きくなったから、今なら入れそう 妖精:そうだね。それでは、扉の向こう側に、行ってみるかい?ハートの女王のお城にさ。フフフ アリス:うん。行くよ 三月うさぎ:えっ?ええっ?ハートの女王のお城?僕は行かないよ!とっても危険だから! 帽子屋:危険かも知れないけど、アリスがいる 妖精:アリスがいる 三月うさぎ:アリスがいれば、大丈夫!だったら、僕もついてゆくよ! アリス:三月うさぎさんまで、ついてきてくれるの? 三月うさぎ:あいおっ! アリス:ありがとう。みんなで話をすれば、きっとハートの女王も分かってくれるはず ナレ:アリスは、赤色の扉を開いたよ 0: 0:【間】 0: ナレ2:扉を開いた先には、絢爛豪華(けんらんごうか)なシャンデリアに照らされて、豪奢(ごうしゃ)な椅子に腰掛け、きらびやかなドレスを身にまとい ナレ2:退屈そうな表情を浮かべる女性の姿が…。あぁ…。ハートの女王が、そこにいた ナレ2:ハートの女王は、アリスに気づくや否や、新しいオモチャを手に入れた子どものような笑みを浮かべる ハートの女王:ようこそ!アリス!私が誰かは、もう、分かっているわよね? アリス:ハートの女王? ハートの女王:そう!私は、私こそがハートの女王。この不思議の国で最も美しく、最もエレガントな存在よ! アリス:確かに、綺麗だけど…。私は、あなたに話があって、ここに来たの ハートの女王:あぁ…。お茶会にベストマッチするお茶菓子のお話かしら? 帽子屋:そんな話なわけがないだろ! 三月うさぎ:そーだ!そーだ!ベロベロベー! ハートの女王:あら?あなたたちもいたのね 妖精:吾輩たちのことは、眼中にないらしいね ハートの女王:そうよ!当たり前じゃない!私が興味があるのは、アリスだけ!さぁ、今度のアリスは、どんなアリスなのかしら? アリス:私は、私よ! ハートの女王:フフッ アリス:ねぇ、どうしてニンジンを消しちゃったの? 三月うさぎ:ニンジン?ニンジン?なんか美味しそうな響き! ハートの女王:ニンジン?何よ、それ? アリス:覚えていないの? ハートの女王:私が消したモノは、完全に消えるのよ。完全に消えるのだから、消えたモノが何だったのかは、もう、誰にも分からないし、思い出せないの ハートの女王:消し去った私でさえもね。フフッ アリス:ニンジンは、きっと、この世界にもあったはず ハートの女王:そう、あったのかも知れないわね アリス:もう、あなたの都合で、勝手に何かを消すようなことはしないで! ハートの女王:それは、命令かしら? アリス:お願いよ!だって、みんな、それを望んでいるはずだから! ハートの女王:みんなって、誰よ? アリス:それは… 妖精:吾輩も、アリスと同様の意見だよ。ハートの女王の気分次第で、自分の身の周りのモノが知らない間に消えてしまうというのは、気持ちが悪いからね 帽子屋:僕もだ。完全に消えたはずなのに、何かが足りないことに気づく。それに気づいた時、心に、そう、ぽっかりと穴が空いたような、悲しい気持ちになる ハートの女王:フッ。帽子屋!あんたは、ただの機械人形でしょ!機械人形には、心は存在しないの ハートの女王:心が存在しないということは、悲しい感情になるはずがないでしょ!あんた、狂ってるの? 帽子屋:それは… アリス:ふざけないで!心があるとかないとか、それは、ハートの女王が決めることじゃない。帽子屋さんが決めることでしょ! ハートの女王:あん?この私に、お説教? 三月うさぎ:大変だ…大変だ…ハートの女王を怒らせちゃったぞ! 妖精:三月うさぎ、ハートの女王を怒らせたら、何か問題でもあるのかね? 三月うさぎ:問題大アリだよ!ハートの女王は、気に入らないモノを消しちゃうから! ハートの女王:そうよ。私には、気に入らないモノを消す力がある。絶対的な力がね! ハートの女王:逆らえば、私は、誰であっても、容赦なく消すわ!それは、アリスも例外ではない! アリス:消したければ、消せばいい。あなたは、そうやって、気に入らないモノ、自分に意見する人たちを消し去って アリス:最後には、ひとりぼっちになるのよ。いいえ、今もすでに、ひとりぼっちなんでしょ?ほんとは、誰よりも、あなたは、ひとりぼっちで、寂しい人なの! ハートの女王:は!?そんなはずない…。そんなはずないわ!私にはトランプ兵たちがいる! 妖精:トランプ兵は、ハートの女王が魔法で魂を吹き込んだ、ただのトランプだろ?そのトランプに、心は、あるのかい? ハートの女王:あるわ!あるに決まってるでしょ? 妖精:その理論が成立するなら、帽子屋にも…フッ 帽子屋:僕にも…心が… アリス:そうだよ!帽子屋さんにも心があるの! 三月うさぎ:アリス、僕にも心がある?心がある? アリス:もちろんだよ!「心があるか?」そう自分に問いかけられることこそが、心がある証拠だと思う 帽子屋:心がある…。僕には、心がある! ハートの女王:帽子屋! 帽子屋:ん? ハートの女王:アリスに毒されてんじゃないわよ!ただの機械人形の分際で! 妖精:ハートの女王!それは、帽子屋に対して、とても失礼な発言だよ!よくない!よくないねぇ! ハートの女王:あん?あんたも私にお説教するつもりなの? 妖精:お説教だと受け止められたのなら、それは、まさにお説教さ 三月うさぎ:お説教さ! 妖精:吾輩には、吾輩の意思があり、正義がある。その正義の押し付けとまではいかないが、意見くらいはしたくなったのさ 妖精:吾輩にも心があるからね。ハートの女王の発言に対し、怒りを覚え、間違いを感じた 妖精:だから、自分の心に従い、間違いを指摘した。それだけのことさ ハートの女王:間違いを指摘?フフッ…。私は間違いを犯さない。私の言うこと、私のやることは全て正しいの! ハートの女王:なぜなら、私は、私こそがハートの女王なのだから! 妖精:傲慢(ごうまん)だね。そんな考え方だから、ハートの女王は、いつまで経っても成長しないし、ひとりぼっちなのだよ 三月うさぎ:そうだそうだ!ハートの女王は、ひとりぼっちだ! ハートの女王:さっきから、あんたは、鬱陶(うっとう)しいわね!消えなさい! ナレ2:ハートの女王は、「三月うさぎよ、消えろ!」と願いながら、魔法の杖を振った。すると、杖の先から黒色の光が放たれ、三月うさぎに命中する! 三月うさぎ:ぎゃーっ!!! アリス:三月うさぎさん! 帽子屋:ん?三月うさぎ? アリス:三月うさぎさんが、消えちゃった… 帽子屋:消えちゃった? アリス:三月うさぎさんのこと、覚えていないの? 帽子屋:ごめん…。何かがそこにいた気がするんだけど、思い出せない… アリス:ボルちゃんは?ボルちゃんは、覚えているよね? 妖精:… アリス:覚えているよね?三月うさぎさんだよ!明るくて、お調子者の三月うさぎさんだよ! 妖精:すまない… アリス:そ、そんな… ハートの女王:あら?そこに、何かいたのかしら? アリス:三月うさぎさんがいたよ。いたんだよ。あなたが消したの! ハートの女王:フフッ。そうなの? アリス:何も感じないの? ハートの女王:何も感じない。何も感じないわ。なぜなら、消したのなら、それは、もう、完全に消えた状態よ ハートの女王:消えたモノは、もう、誰にもわからないし、思い出せない。あら?さっきも、このセリフ、言ったような気がするわね アリス:ひどい…。ひどすぎる… 妖精:あぁ…。ハートの女王が、何を消したのかは思い出せないが、今、とても、心が煮えたぎっているよ 帽子屋:僕もだ…。心のモヤモヤが、ざわつきが、ハートの女王への怒りに変わっていってる ハートの女王:おかしいわねぇ。私が何を消したのか思い出せないはずなのに、一体何に対して怒っているのかしら? アリス:私は、覚えてる。三月うさぎさんが消されちゃったんだよ! アリス:ボルちゃんと帽子屋さんの友達で、一緒にトランプで遊んだ三月うさぎさんが消されちゃったんだよ! 帽子屋:三月うさぎ…。なんだろう…。その名前を頭の中で繰り返すと、何故だか目から熱い水が… 妖精:それは、涙だね 帽子屋:これが、涙? ハートの女王:涙なわけないでしょ!クソ妖精が、適当なこと言わないでくれるかしら! 妖精:適当なことではない!帽子屋には、心が、感情があるから、涙を流すことができるのだよ! ハートの女王:いちいち癇(かん)に障(さわ)るわね!私に消されたいの? 妖精:消したければ、消せばいい。しかし、吾輩は、決して消えることはない 妖精:世界の記憶から吾輩は消えても、アリスの記憶からは(消えないからだ!) ハートの女王:(さえぎって)消えなさい! ナレ2:ハートの女王は、杖の魔力で、妖精を消し去ってしまったよ ハートの女王:ん?あら?私、何か消したのかしら? アリス:ボルちゃーん! 帽子屋:ボルちゃん? アリス:ボルちゃんまで消えちゃった…。ボルちゃんはね。帽子屋さんの友達だよ 帽子屋:僕の友達?僕は、友達を消されたのかい? アリス:うん。ボルちゃんと、三月うさぎさんを、ハートの女王に消されたの ハートの女王:あら?あらあらあら?おかしいわねぇ…。動悸(どうき)が激しいわ。頭に血が上ってるみたい ハートの女王:私、どうしたのかしら?何かに怒っていたのかしら? アリス:ハートの女王!ボルちゃんと三月うさぎさんを元に戻して! ハートの女王:元に戻して?フッ。分からないモノを元に戻すことなんて、できるわけないでしょ? アリス:私は、あなたを許さない ハートの女王:許さない?私、何か悪いことをしたの? アリス:私の友達を消し去った ハートの女王:何よ?被害妄想でしょ?仮に、私があなたの友達を消したのだとしても、その友達をここに連れてきたのは、あなたでしょ? ハートの女王:つまり、友達が消えた原因は、あなたにもあるんじゃないの? アリス:えっ? ハートの女王:あなたが悪いのよ。私は、何も悪くないわ アリス:私が、ひとりでここに来ていれば… ハートの女王:そんなことより、私と楽しいお茶会をしましょ!メルフルール・ヘルナレティーレ! ナレ2:ハートの女王が杖を振ると、何もないところに、白くて長いテーブルと椅子、それぞれの席に、紅茶とミルクと砂糖が現れた アリス:… ハートの女王:さぁ、楽しいお茶会の始まりよ! アリス:… ナレ2:アリスは、無言でハートの女王の前に歩いてゆく ハートの女王:何?なんなの? アリス:バシッ(※頬をたたく音) ナレ2:ハートの女王の頬を平手で殴った ハートの女王:痛っ!痛いじゃないのよ! アリス:バシッ(※頬をたたく音) ハートの女王:痛っ!またぶったわね! アリス:バシッ(※頬をたたく音) ハートの女王:痛っ!ひ―――っ! ナレ2:ハートの女王は、アリスにぶたれた勢いで、杖を手放してしまったよ。そして、あれ? ナレ2:それが、コロコロと転がって、帽子屋の足元に… 帽子屋:魔法の杖… ナレ2:帽子屋は、杖を拾い上げた ハートの女王:帽子屋!それは、私のモノよ!今すぐ返しなさい! 帽子屋:返さない ハートの女王:は!?返しなさいって言ってるでしょ!私の命令がきけないの! 帽子屋:返さない!えいっ! ナレ2:帽子屋は、ひざを使って杖を折った ハートの女王:キーッ!私の杖が! 帽子屋:これで、ハートの女王は、もう、魔法が使えない。何かを消すことはできない ハートの女王:あん?だから何よ!トランプ兵!トランプ兵!出てきなさい! アリス:え? トランプ兵:ハートの女王に呼ばれたぞ~!ハートの女王に呼ばれたぞ~! ハートの女王:フフッ。きたわね。トランプ兵。トランプ兵!今すぐアリスと帽子屋をつかまえなさい! トランプ兵:ハートの女王の命令だ~!ハートの女王の命令だ~!アリスと帽子屋をつかまえろ~! アリス:そんな命令きく必要ない! トランプ兵:ん? アリス:きっと消されるのが怖くて、ハートの女王の命令をきこうとしてるんだよね? アリス:でも、今のハートの女王は、魔法の杖を持っていない。魔法の力に、消されてしまうことに怯(おび)える必要はないの アリス:だから、もう、あなたたちがやりたいことは、あなたたちが決めていいの! アリス:あなたたちにも、きっと、心があるはずだから! トランプ兵:心が? ハートの女王:ありません!トランプ兵に心なんてあるはずないでしょ!だって、元は、ただのトランプ! ハートの女王:私が魔力で魂を注ぎ込んで動いてるだけなのよ! アリス:それは、さっきと言ってることが違うんじゃないの?さっきは、トランプ兵に心があるって、言ってたでしょ? ハートの女王:言ってない。そんなこと言うわけないでしょ?トランプ兵には、心はないの。私の命令に、忠実(ちゅうじつ)に従うだけよ ハートの女王:そうよね?トランプ兵 トランプ兵:うぐっ… アリス:決めるのは、あなたたちよ!自分が本当にやりたいことが決まった時、自分の意思で動いた時、心があるのか自分に問いかけた時 アリス:そこには、すでに、心はあるの! 帽子屋:機械人形の僕にも、心があるように、君たちにも トランプ兵:ぐぬぬっ… ハートの女王:トランプ兵!毒されようとしてんじゃないわよ! ハートの女王:あんたたちは、私が魔法の杖を手に入れる前から、私の命令には、絶対服従(ぜったいふくじゅう)してたでしょ? ハートの女王:今更、反抗だなんて、ナンセンスだわ。そうよね? トランプ兵:ぐぐぐっ… ハートの女王:さっさとつかまえなさい!ギロチンにかけられたいの? トランプ兵:ふわっ!アリスと帽子屋をつかまえろ~!アリスと帽子屋をつかまえろ~! アリス:(同時に)わーっ!やめてーっ! 帽子屋:(同時に)あーっ!やめろーっ! ハートの女王:フフッ。そうよ。それでいいのよ。さぁ、二人をギロチン台に連れてゆきなさい! トランプ兵:はいっ! アリス:ぎっ、ギロチン? ナレ2:アリスと帽子屋は、手足の自由を鉄の鎖(くさり)で拘束(こうそく)され、お城の外にあるギロチン台に立たされた ナレ2:外は、相変わらず真夜中。ギロチン台を取り囲むように、松明(たいまつ)に火が灯っていた ナレ2:あぁ、これは、絶体絶命のピンチってやつだね ハートの女王:フフッ。さぁ、命乞(いのちご)いしなさい アリス:… ハートの女王:まだ、間に合うわ。私に生意気な口をきいたことに謝罪し ハートの女王:「ハートの女王と楽しいお茶会がしたいです~」と、そうカワイコぶって、土下座して、大声で、惨(みじ)めに懇願(こんがん)しなさい 帽子屋:アリス、悔しいけど、ここは、従った方が良さそうだよ アリス:えっ? 帽子屋:命をなくしてしまったら、そこで、終わりなんだ アリス:でも… 帽子屋:誇りをとるか、命をとるか、そんなの選ぶまでもない。命が一番大切だ。生きてさえいれば、その先に明日が広がる 帽子屋:明日は、いつだって白紙だ。そこには、アリスの望む明日が待っているかも知れない ハートの女王:フフッ。いいわねぇ。帽子屋の言う通りよ。せっかくステキな助言をしてくれているのよ。アリス!素直にききなさい! アリス:きかない 帽子屋:ん? ハートの女王:は? アリス:きかないって言ったのよ。私は、誇りを捨てない。心を捨てない。力に、あなたに屈(くっ)しない! ハートの女王:私に屈しないですって!?私に命を握られている状況で、何ができるの?何もできないでしょ! アリス:あなたに勝てる! ハートの女王:私に勝てるですって?バカなの?狂ってるの? 帽子屋:そうだね。アリスは狂ってる。そして、そんなアリスが、不思議の国を狂わせる! ハートの女王:えっ? トランプ兵:ハートの女王!ごめんなさい! ハートの女王:ちょっと!トランプ兵!あんたたち!何やってるの! ナレ2:おお!トランプ兵たちが、アリスと帽子屋の拘束(こうそく)を解いたよ! ハートの女王:トランプ兵!私の命令に逆らったわね!あなたたち全員、ギロチンよ!処刑よ!処刑! 帽子屋:その処刑は、誰がするんだい? ハートの女王:そんなの決まってるじゃない。トランプ兵よ アリス:トランプ兵が、トランプ兵を? ハートの女王:それは…。ぐっ…。だったら、私がするわ!あんたたち全員の処刑をね! アリス:… ナレ2:アリスは、無言でハートの女王の方に歩いていく ハートの女王:なんなの?なんなのよ!また、ぶつ気? アリス:大丈夫だよ ナレ2:アリスは、ハートの女王を抱きしめた ハートの女王:なっ!?何?なんなの!? アリス:大丈夫。大丈夫だよ ハートの女王:何が大丈夫よ!意味がわからないわ! アリス:意味なんて、いらないの! ハートの女王:… アリス:あなたが、ピカピカの衣装を着ているのも、良い匂いの香水をつけているのも、威張って振舞っているのも アリス:弱い自分を、隠すためよね? ハートの女王:え?私は、弱くなんてないわ アリス:いいんだよ。弱くても…。弱いのは、あなただけじゃない。私も、みんな弱いんだから ハートの女王:そんなはずない!私は強いの!私だけは、強いの! アリス:いいんだよ。弱くて…。強くなる必要はない。背伸びをする必要はない。そのままで、そのままでいいんだよ ハートの女王:でも、それだと、誰も私の命令を聞かなくなるじゃない アリス:命令を聞いてもらう必要なんて、あるのかな?あなたのことが好きなら、大切に想われているのなら アリス:命令なんてする必要はないはず。あなたが、困っているなら、助けたいと思ってくれるはず。それが、友達でしょ! ハートの女王:私に友達はいない。誰にも大切に想われてない。誰も私を好きになってはくれないの! アリス:それは、どうしてだと思う? ハートの女王:… ハートの女王:私が弱いからよ!力で支配していたからよ! アリス:力や魔法で、周りを支配しようとしても、そこに、本当の『つながり』は生まれないんだよ ハートの女王:じゃあ、どうすればいいのよ!私は、友達がほしいの!一緒にお茶会を楽しんでくれる。一緒に笑ってくれる友達がほしいの! アリス:そう思えたなら、答えは簡単だよ。ありのままの弱い自分を認めて、周りにいる人たちの弱さを気遣って、優しく接すること アリス:優しく接することが、友達を作る一番の近道だよ ハートの女王:無理よ。私は、わがままで、嘘つきで、ずっとみんなに酷いことをしてきたのよ ハートの女王:そんな私が今更、みんなに優しく接しても、無駄よ。気持ち悪がられるだけだわ アリス:そんなことない!あなたが、本気で変わろうとするなら、周りに優しくあろうとするなら、私が、あなたの最初の友達になるよ! ハートの女王:アリスが?私の友達に?なってくれるの? アリス:うん ハートの女王:でも、私は、きっと、あなたの友達を傷つけたのよね?消してしまったのよね?そんな私を、アリスは許せるの? アリス:許すよ。やってしまったことを、どれだけ責めたところで、消えたモノは、元には戻らない アリス:元には戻らないけど、私の記憶には、消えずに残ってる。そう、消えたけど、消えてないんだよ アリス:私と一緒に生きているんだよ! アリス:だから、ハートの女王が今まで酷いことをしてきたのなら、それを本気で反省して、あなたが変わってくれるなら、それでいいよ ハートの女王:アリスは、優しいのね… 帽子屋:あぁ…。アリスは、優しすぎるよ。だけど、アリスが許すなら、僕も許すよ。そして、ハートの女王が優しいハートの女王として生まれ変わるなら 帽子屋:僕も、その、ハートの女王と友達になってもいいよ ハートの女王:ありがとう… トランプ兵:ハートの女王が、「ありがとう」と言った! ハートの女王:ありがとう…。ありがとう! 帽子屋:まるで、魔法みたいだ ハートの女王:みなさん、今まで、たくさん嫌なことを言って、嫌なことをして、傷つけてしまったわね。ごめんなさい 帽子屋:フッ。まさか、ハートの女王に「ごめんなさい」と言われる日がくるなんてね トランプ兵:我々は、うーん…。失礼かも知れませんが、ハートの女王と友達になりたいと思っています ハートの女王:こんな私でも、友達になってくれるの? トランプ兵:もちろんです!友達になって下さい! 帽子屋:やっぱり、トランプ兵たちにも、心はあったんだね トランプ兵:え? 帽子屋:アリスの言葉をきいて、本来の役割を捨てて、行動を変えた。それは、心が動いたということ。心があるということさ ハートの女王:そうよ。私の友達なんだから、心があるのは当然でしょ!フフッ 帽子屋:おっと!傲慢(ごうまん)な態度は変わっていないかな? ハートの女王:あら、失礼 アリス:ふふっ トランプ兵:あの、アリスさん、これをどうぞ アリス:ん? ナレ2:トランプ兵は、ハートの女王が持っていた杖の先についていた赤い宝石をアリスに手渡した アリス:これは? トランプ兵:その宝石には、消えたモノたちが封印(ふういん)されています アリス:封印? トランプ兵:もしかしたら、アリスさんなら、その封印を解き放つことができるかも知れません ハートの女王:ああ!そうね!アリスさんなら、きっと…! アリス:私なら? 帽子屋:大丈夫。君はアリスなんだ。この世界を狂わせるのも、あるべき形に戻せるのも、アリスだけなんだ 帽子屋:自分の心を信じて、宝石に願いを込めるんだ アリス:宝石に、願いを… アリス:わかった。やってみる…。全部、全部元に戻して!消えたモノを全部、この世界に返して! ナレ2:アリスが願いを込めた宝石から、まばゆい光が解き放たれる ナレ2:空には、太陽が輝き、真夜中の時間に固定されていた世界に朝が訪れる。そして… ナレ2:ニンジンをくわえた三月うさぎと、一匹の黒猫が姿を現す アリス:あっ!三月うさぎさん! 三月うさぎ:もぐもぐ…ごっくん。あいおっ!僕は三月うさぎだよ!ニンジンが大好きな三月うさぎだよ! アリス:ニンジンが大好き?つまり、ニンジンもこの世界に戻ってきたってことね! 帽子屋:ニンジンだけじゃないさ。きっと、他のモノも、この世界に戻ってきてる。アリスのおかげだよ 妖精:アリスのおかげだねぇ アリス:あら?この猫さんは? 妖精:吾輩だよ!アリス! アリス:もしかして、ボルちゃん?ボルちゃんなの? 妖精:吾輩は、ボルちゃんであり、ボルニャンスキーであり、チェシャ猫だよ アリス:チェシャ猫? 帽子屋:本当の名前を取り戻したということかな? 妖精:フフッ。本当の名前?そんなモノは最初から存在しないし、そんなモノは必要ない。なぜなら、吾輩は吾輩 妖精:吾輩が吾輩だと分かっていれば、名前が何であっても、姿形が変わっても、何も問題ないのさ アリス:でも、妖精の姿じゃなくなったから、羽がなくなったから、空を飛べなくなったんじゃないの? 妖精:フッ。アリス、君は空を飛べるかどうかは、羽があるかどうかで決め付けるのかい? アリス:えっ? 妖精:目に見えている情報だけで、全てを決めつけていたのでは、真実は見えてこないさ。それっ! アリス:わっ!ボルちゃんが、宙に浮いた! 妖精:ほらねっ!羽なんかなくても、空を飛べる。むしろ、羽があった時より自由にね!それそれそれ~っ! アリス:す、すごい… ハートの女王:フフッ。なぜなら、ここは 帽子屋:不思議の国だからね 三月うさぎ:あいおっ! ハートの女王:アリスさんが望めば、この世界は、どこまでも自由に、エレガントに生まれ変わるのよ! アリス:私が望めば…。えっと…。私も空を飛びたい! アリス:わっ!宙に浮いた! 帽子屋:エクセレント! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが宙に浮いた!空を飛んだ! 妖精:三月うさぎ! 三月うさぎ:あいおっ? 妖精:そろそろ時間だ。アリスを元の世界に戻すんだ 三月うさぎ:あいおっ! ナレ2:三月うさぎは、タキシードの胸ポケットから懐中時計をカッコ良く取り出し、青色のボタンを押したよ 三月うさぎ:ポチッとな! ナレ2:世界は、銀色の光に包まれる アリス:あっ!えっ?なっ、なんなの!?わあああーっ!!! 0:【間】 アリス:んっ…。んんっ… スミス:あ!お目覚めになられましたか! アリス:んっ?ここは、ベッドの上? スミス:船長!お姫様が、お目覚めになられましたよ! フック:おっ、おおおーっ!目覚めたか!よかった アリス:どうしたの? フック:突然、気を失って倒れたんだ。心配したよ アリス:どうして、海賊が私を心配するの?いや、ありがとう フック:ありがとう? アリス:あなたは、海賊だけど、あなたなのよね? フック:フッ。その通りだ。俺は、俺だ アリス:私は、あなたのことが知りたいわ。教えてくれるかしら? フック:ああ、いいとも! ナレ2:ワンダーコメット号の船長フックは、ライム王国の国王から、特別な許可を得ている『王国特別海賊』だった ナレ2:王国特別海賊とは、敵国の侵攻(しんこう)から国を守ったり、手に入れた宝のほとんどを国の財政を豊かにさせるために寄付する海賊 ナレ2:そして、今回の任務は、お城を、僅(わず)かな護衛と共にこっそりと抜け出したお姫様を、お城に連れ帰ることだった 0:【間】 妖精:大切なのは、名前なのかい? 三月うさぎ:名前なのかい? 妖精:その人を決定づけるモノは、肩書きなのかい? 三月うさぎ:肩書きなのかい? 帽子屋:肩書きがカッコイイと、カッコイイの? 妖精:順位が高いと、すごい人なの? ハートの女王:周りが良い人だと言う人は、良い人なの? 三月うさぎ:周りが悪い人だと言う人は、悪い人なの? 帽子屋:わからない ハートの女王:わからない アリス:わからない 妖精:わからないのが、正解さ 帽子屋:わからないから、わかろうとする アリス:心を向けて、自分で決める 妖精:なぜなら、これは… ハートの女王:他の誰でもない アリス:私の…物語… 0: 0:―了―