台本概要

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タイトル 日記とモノローグ
作者名 鴉  (@krahe0320 )
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 1.人物の性別変更不可。ただし、演者様の性別は問いません
2.話の世界観を壊さないならアドリブ可。
3.非商用の場合連絡はいりませんが、連絡いただければお時間合えば聞きに行きます

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
33 あさひ。30代前半。美也の旦那。末期がん
美也 29 みや。30代前半。旭の妻。専業主婦
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:食事中。 : 旭:今日、病院にいったよ。 美也:そう!やっと行ってくれたのね。最近は野菜多めの食事にしてるし、コレステロール値は下がったんじゃない?でもお肉ばっかり食べてるから、肥満とか気をつけないと…。 旭:(さえぎるように)癌だって。 : 0:間 : 美也:…えっ? 旭:膵臓癌。末期だって。症状が出にくいから、今までわからなかったけど、もう手遅れらしい。 美也:何言っているの。冗談でしょ? 旭:僕も嘘だと思った。だけど、違うらしい。 美也:だって、今日だってピンピンしてるじゃない! 旭:今はな。でも、来週には入院しろって言われてる。 美也:……。 旭:ごめん。 美也:何が? 旭:僕がいないと、金銭的にも辛いだろ。保険でしばらくはなんとかなるだろうけど、それでもいつまでもつかわからない。申し訳ない。 美也:…そんなこと、どうでもいいでしょ!!! 旭:……。 美也:私は、そういう心配をしてるんじゃないの!!お金とか生活とか、そういうことじゃないでしょ!? 旭:ごめん。 美也:旭なしで、どう生きていけばいいのよ。 旭:うん。ごめん。 美也:謝らないでよ。 旭:わかった。 美也:どうしてそんなに落ち着いているの? 旭:誰だって、いつかこうなる日が来るのはわかってる。それが僕の場合はたまたま早まっただけだ。 美也:よく達観していられるね。 旭:ごちそうさま。 旭(N):末期の癌であることを告げられた僕は、その後医者とどんな会話をしたのか覚えていない。 旭(N):ドラマなどで見た俳優は、びっくりしたような表情を浮かべた後、涙を流していたような気がする。 旭(N):しかし僕は、そうはならなかった。「死」は自分から縁遠いものだと思っていたから。 旭(N):思いがけないことが起きた時、人は案外落ち着いていられるのだと知った。 旭(N):だけど。こうして美也に事情を説明する時だけは、さすがに声が震えた。 旭(N):僕がもし美也から「自分はあと一年も生きられない」と伝えられたら、どう感じるだろうか。 旭(N):それを思うと、胸が苦しくなる。美也は自分が思っている以上に、優しい。 旭(N):きっと余計なことをたくさん考えて、意味もないのに悩むのだろう。いなくなる人の為に頭を悩ませる必要なんてないんだ。 旭(N):僕のことなど忘れて、美也はただ自分の生活のことだけを考えてくれればそれでいい。僕が死んだ後も、幸せでいて欲しい。ただそれだけが、僕の願いなんだ。 : 0:ドアが開く音 0:旭が帰宅 : 美也:おかえり。 旭:……。 美也:ほら、コート預かるよ。すぐご飯食べる? 旭:うん。 美也:ちゃんと退職届、出してきた? 旭:うん。 美也:そっか。 旭:美也は、バイトの面接受けたのか? 美也:いや、今日はなんだか気分が乗らなくてさ。また来週にでも面接に行こうかなと思ってるよ。 旭:来週って、先延ばしするなよ。 美也:でも。 旭:でもじゃないだろ。 美也:そんなすぐに気持ちの整理出来ないよ。 旭:じき一人で暮らさなくちゃいけないんだから。しっかりしろよ。自覚ないのかよ。 美也:…どうしてそんなこと言うの? 旭:僕はもういつ死ぬかわからないんだ。僕に頼ってないで、少しは自立したらどうだ? 美也:…ひどいよ。 旭:……。 : 0:間 : 美也:私だって、頑張って受け入れようとしてるのに。 旭:お前は当事者じゃないだろ。 美也:そうだよ!私だって、出来れば当事者になりたいよ!!でも、無理なんだよ!! 旭:なら、一緒に死んでくれるか? 美也:…どうしてそんな意地悪なこと言うの? 旭:……。 : 0:旭は黙ってその場から離れる。そして、自室にこもってしまう。 : 美也(N):旭はその日から、変わってしまった。私の前で笑顔を見せることはなくなり、私と会話するのを避けているようだ。 美也(N):私はどうすべきなのか、わからない。あからさまに私と距離を取るような態度。旭と結婚してから5年が経つけど、こんなことは初めて。 美也(N):そして変化は、それだけではなかった。あれだけ健康的だった旭の容姿は、日に日に衰弱していくのがわかった。頬はこけていき、目元の光は失われていった。 美也(N):これがドッキリや、冗談の類ではないということを、時間の経過とともに自覚させらる。私は残された時間を、旭と笑って過ごしたかった。それなのに、旭はそうするのを露骨に拒否しました。 美也(N):そして遂に…。 : 0:旭、息苦しさで倒れる : 旭:うぅ…。う…。 美也:ちょ、どうしたの!?大丈夫!? : 0:救急車のサイレン : 美也(N):その夜救急車に運ばれた旭は、そのまま入院することになった。余命の短い旭にとって、それはつまり、二度と家に帰ることが出来ないことを意味していた。旭はみるみる弱っていった。 美也(N):それでも、私が毎日病院を訪れると 旭:…仕事は見つかったのか?僕の世話なんてしなくていい。自分のことだけ考えろ。 美也(N):とばかり。初めのうちは「他人の心配してる場合か」と思った。しかし、次第にそんなことすら話せないほどに、旭は衰弱していった。 美也(N):そして、その日は唐突にやってきた。ちょうど私がバイトの面接に合格し、それを報告するために病院を訪れた日のこと。 旭:…美也、生きろ。幸せになってくれ。 美也(N):旭は笑いながら、それだけを言い残して他界しました。その一日はあっけないほどに過ぎていった。私がどれだけ泣いても。 美也(N):私がどれだけ願っても。旭がまた、私に微笑みかけてくれることは、もう二度とない。 美也(N):もしも。もしも、もっと私が気を遣っていれば。もしも、私が健康に気を遣った料理を作っていれば。 美也(N):もしも、私が定期的に健康診断にいくよう説得していれば。もしも、私と出会わなければ。旭はもっと幸せな人生を送れたかもしれない。 美也(N):そんなもしもが、頭の中で何度も何度も思い浮かびました。 美也(N):しかし、私がどれだけ悩み考えたところで、旭は帰ってこないのです。この先何があろうと、私は旭のために、生き続けなければならないのです。 : : : 美也(N):旭の私物を片付けていると、引き出しのなかに一冊の日記帳を見つけた。几帳面な字体で記された内容は、そのほとんどが私に向けられた内容だった。 美也(N):適当なページをめくると、そこには病気が発覚したあの日の内容が記されていた。 旭:帰宅する前に、この日記帳を購入してみた。日記なんて僕らしくないことだと思う。だけど、残された時間が少ないし、折角だから書いてみようと思った。 旭:僕は癌で、数ヶ月のうちに死ぬらしい。人はいつか死ぬ、なんて当たり前のこと。誰だって知ってる。でも、いざこうして目の前に現れると、怖くて仕方がない。痛みはあるのだろうか。苦しいものなのだろうか。 旭:そんな不安ばかりが頭をよぎる。考えても仕方がないことはわかっている。だけど、考えずにいられないのだ。そして何より心配なのは、美也のこと。 旭:美也のことだから、きっと僕がいなくてもうまくやっていけるに決まっている。その点は全く心配いらないと思っている。 旭:だけど、彼女は優しい。自分に関係のない事柄も、自分に関連づけて考えてしまうことがある。きっと僕が死ぬことだって、自分のことのように悲しんでくれる。 旭:だけど、僕はそんなことを望んでいない。これからいなくなる人のことで、頭を悩ませながら生きる人生など送らないで欲しい。死ぬまでに残された時間、僕にできることなんて、たかが知れてる。 旭:だからこそ、僕がすべきことを考えよう。 美也:ページをめくる手が止まらない。 : 0:次のページをめくる。 : 旭:残された時間で、僕にできることを考えた。だけど考えれば考えるほど、何も思いつかなかった。死ぬ前にやりたいことも考えてみたけれど、どれもいまいちピンとこない。 旭:元々欲のあるタイプではないし、欲しいものもない。だけどたった一つだけ、すべきことがある。僕が死んだあと、美也が不足なく生きられるようにすることだ。 旭:僕らに子供はいない。彼女はまだ若いし、可能性もまだたくさん残っている。僕以外の誰かと付き合ったって、結婚してくれたっていい。…まぁ、少しは嫌な気はするかもしれないけど。 旭:でも、それよりも僕は、美也に幸せでいて欲しいと思っている。 旭:だから僕は、美也に嫌われて死にたいと思う。僕のことなんて忘れて、人生の次のステップへと進んで欲しい。 美也:旭は昔からいつも、私のことばかり考えてくれていた。いつだって、形が綺麗な方のおかずを譲ってくれた。重い荷物は代わりに持ってくれた。優しいのは、私じゃなくて旭の方だ。 旭:美也はきっと、僕が変わってしまったことに驚いていると思う。嫌われて死ぬのは、正直辛い。でもこれは僕が決めたことだから。幸せになってもらうには、こうするしかないと思った。 美也:私にとっての幸せは、できるだけ長く旭と一緒に暮らすことだった。でもどうしたって、それは叶わない。 旭:日に日に弱っているのがわかる。自分でもおどろくほどに、生気が失われていくのを感じている。最近は見るもの全てが白黒に感じられるし、食べものの味がしない。 旭:辛い。苦しい。怖い。死が近づいてくる。でもそれ以上に、美也に会えなくなることが怖い。何度も「来なくていい」と伝えているのに、毎日のように病院に来てくれる。 旭:情けないけど、それが内心とても嬉しかったりする。…最後の日くらい、笑って話をしてもいいだろうか。多分、僕はもうすぐ死ぬ。 : 0:日記を読み終える。 0:パタンと日記帳を閉じて、一人涙を流す美也。 : 美也:…ごめんなさい。 美也(N):旭を最後まで信じてあげられなかった。私のことが嫌いになったのではないかと、少しでも疑った自分を罵ってやりたかった。 美也(N):旭のことが大好きだ。最後にもう一度だけ、話がしたいと思った。でも旭はきっとそれを望まないだろう。私は旭の分まで、幸せにならなくてはならない。 旭:さぁ、前を向いて。 美也(N):前を向いて生き続けるしかない。旭の為に、幸せにならなければいけない。私は日記を閉じて、棚の奥深くへとしまった。次に旭と出会う時、「幸せな人生だった」と胸を張っていられるように。 美也(N):私は、生きなければならないのだから。

0:食事中。 : 旭:今日、病院にいったよ。 美也:そう!やっと行ってくれたのね。最近は野菜多めの食事にしてるし、コレステロール値は下がったんじゃない?でもお肉ばっかり食べてるから、肥満とか気をつけないと…。 旭:(さえぎるように)癌だって。 : 0:間 : 美也:…えっ? 旭:膵臓癌。末期だって。症状が出にくいから、今までわからなかったけど、もう手遅れらしい。 美也:何言っているの。冗談でしょ? 旭:僕も嘘だと思った。だけど、違うらしい。 美也:だって、今日だってピンピンしてるじゃない! 旭:今はな。でも、来週には入院しろって言われてる。 美也:……。 旭:ごめん。 美也:何が? 旭:僕がいないと、金銭的にも辛いだろ。保険でしばらくはなんとかなるだろうけど、それでもいつまでもつかわからない。申し訳ない。 美也:…そんなこと、どうでもいいでしょ!!! 旭:……。 美也:私は、そういう心配をしてるんじゃないの!!お金とか生活とか、そういうことじゃないでしょ!? 旭:ごめん。 美也:旭なしで、どう生きていけばいいのよ。 旭:うん。ごめん。 美也:謝らないでよ。 旭:わかった。 美也:どうしてそんなに落ち着いているの? 旭:誰だって、いつかこうなる日が来るのはわかってる。それが僕の場合はたまたま早まっただけだ。 美也:よく達観していられるね。 旭:ごちそうさま。 旭(N):末期の癌であることを告げられた僕は、その後医者とどんな会話をしたのか覚えていない。 旭(N):ドラマなどで見た俳優は、びっくりしたような表情を浮かべた後、涙を流していたような気がする。 旭(N):しかし僕は、そうはならなかった。「死」は自分から縁遠いものだと思っていたから。 旭(N):思いがけないことが起きた時、人は案外落ち着いていられるのだと知った。 旭(N):だけど。こうして美也に事情を説明する時だけは、さすがに声が震えた。 旭(N):僕がもし美也から「自分はあと一年も生きられない」と伝えられたら、どう感じるだろうか。 旭(N):それを思うと、胸が苦しくなる。美也は自分が思っている以上に、優しい。 旭(N):きっと余計なことをたくさん考えて、意味もないのに悩むのだろう。いなくなる人の為に頭を悩ませる必要なんてないんだ。 旭(N):僕のことなど忘れて、美也はただ自分の生活のことだけを考えてくれればそれでいい。僕が死んだ後も、幸せでいて欲しい。ただそれだけが、僕の願いなんだ。 : 0:ドアが開く音 0:旭が帰宅 : 美也:おかえり。 旭:……。 美也:ほら、コート預かるよ。すぐご飯食べる? 旭:うん。 美也:ちゃんと退職届、出してきた? 旭:うん。 美也:そっか。 旭:美也は、バイトの面接受けたのか? 美也:いや、今日はなんだか気分が乗らなくてさ。また来週にでも面接に行こうかなと思ってるよ。 旭:来週って、先延ばしするなよ。 美也:でも。 旭:でもじゃないだろ。 美也:そんなすぐに気持ちの整理出来ないよ。 旭:じき一人で暮らさなくちゃいけないんだから。しっかりしろよ。自覚ないのかよ。 美也:…どうしてそんなこと言うの? 旭:僕はもういつ死ぬかわからないんだ。僕に頼ってないで、少しは自立したらどうだ? 美也:…ひどいよ。 旭:……。 : 0:間 : 美也:私だって、頑張って受け入れようとしてるのに。 旭:お前は当事者じゃないだろ。 美也:そうだよ!私だって、出来れば当事者になりたいよ!!でも、無理なんだよ!! 旭:なら、一緒に死んでくれるか? 美也:…どうしてそんな意地悪なこと言うの? 旭:……。 : 0:旭は黙ってその場から離れる。そして、自室にこもってしまう。 : 美也(N):旭はその日から、変わってしまった。私の前で笑顔を見せることはなくなり、私と会話するのを避けているようだ。 美也(N):私はどうすべきなのか、わからない。あからさまに私と距離を取るような態度。旭と結婚してから5年が経つけど、こんなことは初めて。 美也(N):そして変化は、それだけではなかった。あれだけ健康的だった旭の容姿は、日に日に衰弱していくのがわかった。頬はこけていき、目元の光は失われていった。 美也(N):これがドッキリや、冗談の類ではないということを、時間の経過とともに自覚させらる。私は残された時間を、旭と笑って過ごしたかった。それなのに、旭はそうするのを露骨に拒否しました。 美也(N):そして遂に…。 : 0:旭、息苦しさで倒れる : 旭:うぅ…。う…。 美也:ちょ、どうしたの!?大丈夫!? : 0:救急車のサイレン : 美也(N):その夜救急車に運ばれた旭は、そのまま入院することになった。余命の短い旭にとって、それはつまり、二度と家に帰ることが出来ないことを意味していた。旭はみるみる弱っていった。 美也(N):それでも、私が毎日病院を訪れると 旭:…仕事は見つかったのか?僕の世話なんてしなくていい。自分のことだけ考えろ。 美也(N):とばかり。初めのうちは「他人の心配してる場合か」と思った。しかし、次第にそんなことすら話せないほどに、旭は衰弱していった。 美也(N):そして、その日は唐突にやってきた。ちょうど私がバイトの面接に合格し、それを報告するために病院を訪れた日のこと。 旭:…美也、生きろ。幸せになってくれ。 美也(N):旭は笑いながら、それだけを言い残して他界しました。その一日はあっけないほどに過ぎていった。私がどれだけ泣いても。 美也(N):私がどれだけ願っても。旭がまた、私に微笑みかけてくれることは、もう二度とない。 美也(N):もしも。もしも、もっと私が気を遣っていれば。もしも、私が健康に気を遣った料理を作っていれば。 美也(N):もしも、私が定期的に健康診断にいくよう説得していれば。もしも、私と出会わなければ。旭はもっと幸せな人生を送れたかもしれない。 美也(N):そんなもしもが、頭の中で何度も何度も思い浮かびました。 美也(N):しかし、私がどれだけ悩み考えたところで、旭は帰ってこないのです。この先何があろうと、私は旭のために、生き続けなければならないのです。 : : : 美也(N):旭の私物を片付けていると、引き出しのなかに一冊の日記帳を見つけた。几帳面な字体で記された内容は、そのほとんどが私に向けられた内容だった。 美也(N):適当なページをめくると、そこには病気が発覚したあの日の内容が記されていた。 旭:帰宅する前に、この日記帳を購入してみた。日記なんて僕らしくないことだと思う。だけど、残された時間が少ないし、折角だから書いてみようと思った。 旭:僕は癌で、数ヶ月のうちに死ぬらしい。人はいつか死ぬ、なんて当たり前のこと。誰だって知ってる。でも、いざこうして目の前に現れると、怖くて仕方がない。痛みはあるのだろうか。苦しいものなのだろうか。 旭:そんな不安ばかりが頭をよぎる。考えても仕方がないことはわかっている。だけど、考えずにいられないのだ。そして何より心配なのは、美也のこと。 旭:美也のことだから、きっと僕がいなくてもうまくやっていけるに決まっている。その点は全く心配いらないと思っている。 旭:だけど、彼女は優しい。自分に関係のない事柄も、自分に関連づけて考えてしまうことがある。きっと僕が死ぬことだって、自分のことのように悲しんでくれる。 旭:だけど、僕はそんなことを望んでいない。これからいなくなる人のことで、頭を悩ませながら生きる人生など送らないで欲しい。死ぬまでに残された時間、僕にできることなんて、たかが知れてる。 旭:だからこそ、僕がすべきことを考えよう。 美也:ページをめくる手が止まらない。 : 0:次のページをめくる。 : 旭:残された時間で、僕にできることを考えた。だけど考えれば考えるほど、何も思いつかなかった。死ぬ前にやりたいことも考えてみたけれど、どれもいまいちピンとこない。 旭:元々欲のあるタイプではないし、欲しいものもない。だけどたった一つだけ、すべきことがある。僕が死んだあと、美也が不足なく生きられるようにすることだ。 旭:僕らに子供はいない。彼女はまだ若いし、可能性もまだたくさん残っている。僕以外の誰かと付き合ったって、結婚してくれたっていい。…まぁ、少しは嫌な気はするかもしれないけど。 旭:でも、それよりも僕は、美也に幸せでいて欲しいと思っている。 旭:だから僕は、美也に嫌われて死にたいと思う。僕のことなんて忘れて、人生の次のステップへと進んで欲しい。 美也:旭は昔からいつも、私のことばかり考えてくれていた。いつだって、形が綺麗な方のおかずを譲ってくれた。重い荷物は代わりに持ってくれた。優しいのは、私じゃなくて旭の方だ。 旭:美也はきっと、僕が変わってしまったことに驚いていると思う。嫌われて死ぬのは、正直辛い。でもこれは僕が決めたことだから。幸せになってもらうには、こうするしかないと思った。 美也:私にとっての幸せは、できるだけ長く旭と一緒に暮らすことだった。でもどうしたって、それは叶わない。 旭:日に日に弱っているのがわかる。自分でもおどろくほどに、生気が失われていくのを感じている。最近は見るもの全てが白黒に感じられるし、食べものの味がしない。 旭:辛い。苦しい。怖い。死が近づいてくる。でもそれ以上に、美也に会えなくなることが怖い。何度も「来なくていい」と伝えているのに、毎日のように病院に来てくれる。 旭:情けないけど、それが内心とても嬉しかったりする。…最後の日くらい、笑って話をしてもいいだろうか。多分、僕はもうすぐ死ぬ。 : 0:日記を読み終える。 0:パタンと日記帳を閉じて、一人涙を流す美也。 : 美也:…ごめんなさい。 美也(N):旭を最後まで信じてあげられなかった。私のことが嫌いになったのではないかと、少しでも疑った自分を罵ってやりたかった。 美也(N):旭のことが大好きだ。最後にもう一度だけ、話がしたいと思った。でも旭はきっとそれを望まないだろう。私は旭の分まで、幸せにならなくてはならない。 旭:さぁ、前を向いて。 美也(N):前を向いて生き続けるしかない。旭の為に、幸せにならなければいけない。私は日記を閉じて、棚の奥深くへとしまった。次に旭と出会う時、「幸せな人生だった」と胸を張っていられるように。 美也(N):私は、生きなければならないのだから。