台本概要

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タイトル もしもし。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 繋がる電話と切れない絆。

◆あらすじ◆
『俺』が『お前』に電話をかけ、大学時代の友達や友情について語り合う嘘と本当の話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
132 月見嘉一(つきみ かいち)
お前 129 早川柳慈朗(はやかわ りゅうじろう)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:もしもし。 : 0:繋がる電話と切れない絆。 : 0:◆あらすじ◆ 0:『俺』が『お前』に電話をかけ、大学時代の友達や友情について語り合う嘘と本当の話。 : 0:◆登場人物◆ 俺:月見嘉一(つきみ かいち) お前:早川柳慈朗(はやかわ りゅうじろう) : 0:◇◇◇◇ : 0:以下、電話でのやりとり。 : 俺:もしもし? 俺。 お前:……俺って誰だよ。詐欺か? 俺:いやお前、オレオレ詐欺じゃないって。 お前:ほんとかよ。 俺:嘘ついてどうすんだよ。 お前:いや、でも詐欺師が自分から「はい、こちらオレオレ詐欺です。」とは言わないだろうし、嘘をつくための嘘の可能性は否めない。 俺:否めよ。何だその理論。大体、金は無いくせに警戒心だけは強いお前みたいなめんどい奴ターゲットにしねぇよ。 お前:金がなくて警戒心の強いめんどいやつ? ああ。それはきっと人違いだな。そうか、なるほどこれは詐欺じゃなくて間違い電話というやつか。 俺:残念ながら俺が用があるのは、このいかにもめんどいしゃべり方をするお前で間違いないよ。 お前:でもリッチだ。 俺:エッチの間違いだろ。 お前:否定しないが。 俺:否定しないのかよ。 お前:ああ、リッチとタッチの差でエッチだ。 俺:リッチでもエッチでもどっちでも良いけどさ。ていうかそれだったらやっぱりタッチの差でプアなんじゃないか? お前:まぁ金は無いな。要するに心がリッチなんだ。ハートが満たされているのならそれ以上何を求める必要があるというのだろう。 俺:金以外なら、愛とか? お前:俺は、愛を物質的に捉えてるのかい? 俺:そういうお前はしっかり愛を捕らえているのか? お前:自由な心こそ愛だよ。それは誰かを束縛し繋累する関係とは限らないのさ。 俺:要はまだ独り身ってことな。エッチなのに。 お前:エッチ故に。 俺:それは分かる。 お前:身体が求めても心は付いていかないみたいな。 俺:身も心も面倒くさいからなお前。 お前:面倒くさいって何よ! はっ! 身体が目当てだったの!? 俺:少なくともお前の金が目当てではないな。 お前:ハートは? 俺:いらん。 お前:美味しいのに。 俺:焼き鳥の話してないよ。 お前:どこ好き? 俺:砂肝。 お前:分かる。今度飯行かない? 俺:行かない。奢らせるきだろ。 お前:当たり前だろ? 誰がご相伴してやると思っているんだ。金を払えなどとは万死に値する。 俺:誰なんだよお前。驕り昂ぶりすぎだろ。 お前:そう、昂ぶって眠れない夜もある今日この頃。 俺:それは知らんが。まぁ、金のことなら、もっと金持っててチョロい奴狙うわ。 お前:ほう、例えば? 俺:うーん。坂本だな。ボンボンだし、人が良いからな。 お前:あーね。もっちゃん。 俺:もっちゃんとか呼んでなかっただろ。だいたいあいつのイメージにもっちゃんは合わない。 お前:だったら何が合う? 俺:さぁ? お前:……竜馬。 俺:あー。ぽいな。 お前:竜馬か。 俺:あいつずっと坂本としか呼ばれてなかったのに、こんなところで竜馬って呼ばれるとは思わないだろうな。 お前:そういえば、今、先生やってるみたいだね。 俺:誰が? お前:竜馬。 俺:マジ? お前:嘘ついてどうする。大体嘘ついたことなんて無いだろ? 俺:お前たまに判断に迷う嘘つくじゃねぇか。二年の時に犬飼ったから見に来ないって言われて行ったらフェレットだったのは何だったんだよ。 お前:あれはあーいう犬なんだ。 俺:だから犬じゃねぇよ。明らかフェレットだわ。 お前:すげーよなー。コネで親のとこにも行けるし、研究だって続けられただろうに。 俺:急に竜馬の話に戻るなよ。フェレットが研究者になりたかったみたいになってんだろ。 お前:白衣着てるフェレット可愛くない? 俺:可愛いけど、それ完全にフェレットって認めてるだろ。 お前:……もう、五年か。 俺:ああ、姪っ子にせがまれて譲ったんだっけ。 お前:元気にしてるかな。 俺:あいつやんちゃだったよな。 お前:そうそう、ああ見えて結構遊び好きというか。 俺:あぁ、確かにちょっとクールな雰囲気あったよな。 お前:そんなところがモテてたのかな、竜馬。 俺:今の竜馬の話!? お前:え? ああ、ウチの犬、竜馬って名前だったんだよ。 俺:初耳だしややこしいわ! それに、犬じゃなくてフェレットだろうが。 お前:元気にしてるかな、竜馬。 俺:どっちのだ。お前のせいで思い出の中の坂本が限りなく、フェレットに近い何かになったわ。どっちの話だよそれ。 お前:人が良くてボンボンで、研究者になりたいって言ってたけどやっぱり先生になって、遊び好きでやんちゃなところがモテる、姪っ子にもらわれてった竜馬の話? 俺:混ざりまくって最終的にお前の親戚になってるじゃねぇか。 お前:何言ってるんだ、家族みたいなもんじゃないか。 俺:そうだけど、それとは意味合いが違うだろ……。 お前:そうかな? 俺:そうだよ。……あのさ、俺らもう卒業して五年経つじゃん。 お前:卒業も五年前だったか。忘れてた。 俺:まぁ、こうして社会に出てみると、時の流れなんてあっという間だしな。 お前:色んなことを覚えて、色んな物を忘れていく日々だな。 俺:そうだな。だから俺、ふと思ったんだ。 お前:何を? 俺:まだ友達なのかなって。俺達。 お前:そんなの決まってるさ。 俺:まぁ、友達なんだろうな。 お前:それはどうだろうな。 俺:え? お前:何を以てして友達というかは個々人の感覚に依存するというか、繋がりの深さは可視化できず絶対的な基準は存在しないことから、友達と思えば友達、友達と言えば友達、一度友達になれば友達、一度付き合いが途切れれば友達じゃなくなる、何日会ってないから友達じゃない、そもそも友達じゃないなど、様々な段階や価値基準があるので一概に友達だろうというのは間違いではないかと思うのだがどうだろう? 俺:……あのお前、空気読んでくれない? お前:……ズッ友だよ! 俺:やかましいわ。 お前:むう。 俺:……まぁでも、最近思うんだ、俺達はお前の言うように、そうでも無かった可能性もあるんだよな。 お前:そうでも無い、とは? 俺:考えてみれば俺達は「大学の頃の仲の良い友達」だったんだと思う。だから今は、たぶん、そうでもないんだ。 お前:その頃からそうでも無かったという説は? 俺:あるけど虚しくなるからやめろ。 お前:そんな虚しさも友情さ。そしてそれ噛みしめて大人になる。 俺:スレてんな。 お前:スレてるんじゃなくて、ズレてるんだよ。 俺:自覚あったのかよ。 お前:余りあるくらいありまくり。それ故に虚しさも一入で誰よりも大人になった気がするよ。 俺:それは難儀だな。でもお前はぜんぜん大人ではないだろ。 お前:なら、ズッ友じゃなくてずっと子供か? 俺:すっとこどっこいって感じだな。 お前:強そう。 俺:確かにハートは強いよな。 お前:繋がりは強くないけどな。 俺:そうなんだけどさ、言い方。 お前:年に2、3回、誕生日とかに連絡するくらいの繋がりで、実際、こうして電話してるのだって、何年ぶりかなって感じだろ。 俺:ああ、会うことなんて1回もなかったな。 お前:そうだな。 俺:なんかお互いなにやってるとかは、FacebookとかTwitterとかインスタとかでちらっと見かけるけどさ、そこに俺達はいなくてさ、知らないそいつがいるだけ。みんなあんまり更新もしなくなったしな。LINEのグループなんて最後に使ったのいつだよ。三年前の山下の「すぐ帰るね!」「ごめん、間違えた」に対する高木の「いいよいいよ」だよ? なんか、もう、そういうことなんだろうなって。 お前:ああ、そんな感じらしいな。そもそも学生の頃からやってないが。 俺:お前はそうなんだよな。だから余計連絡とりづらい。ていうかなんで知ってんだよ? お前:山下の彼女に聞いた。 俺:……なんで山下の彼女知ってんだよお前。 お前:もともと知り合いで山下に紹介したから。 俺:繋がり方キモいな。 お前:よく言われる。 俺:否定しとけよ。 お前:自分の生き方に嘘はつけないから。 俺:いい感じに纏めてるけど、お前の人生嘘だらけじゃねぇか。 お前:嘘も方便ってね。 俺:前向きに肯定したな。 お前:でも思うんだ。 俺:何が? お前:それぞれに、それぞれの生活があって、思い出はもちろんどこかにあるんだけど、もうそのアルバムは完成したんだろうなって。当たり前だけど。 俺:……あー、ごめん、急にポエムつぶやかれても分からん。 お前:なんとなく分からないか? 俺:なんとなくはな? でも、それ以上に面倒くさいな、電話かける相手間違えたなってことが分かる。 お前:突然電話してきたと思ったら、なんかセンチメンタル発動して、昔の話始めるやつに面倒くさいとか言われても。 俺:それは、そうなんだけどさ。 お前:特技だもんな。知ってるよ。 俺:知ってたか。 お前:「大学の頃の仲の良い友達」だからな。大目に見てやろう。 俺:そっか、ありがとな。 お前:ありがとう……か。何に対する感謝だよ? 俺:何でも良いだろ。 お前:何でも良いなんて姿勢は失礼じゃないか? 話したいけど誰でも良くてかけてきたとか、ちょっと凹むじゃないか。 俺:そういう何でも良い誰でも良いじゃないって。こんなん、誰にでも言うわけじゃ無い。お前だから言うんだ。 お前:なんだか告白みたいだな。 俺:今となっては昔だが、普段かなり面倒くさいこと言ってきてたお前だから、だ。 お前:相思相愛だな。 俺:喧しい。 お前:今更気付いたのか? この愛に。 俺:俺とお前の間に愛は無い。 お前:悲しい男だ。 俺:言ってろ。……まぁ、でもある意味告白かもな。 お前:金を貸せでも、手を貸せでも、耳を貸せでもなく、胸を貸せってことかな? おっぱいを。 俺:おっぱいじゃねぇよ、真面目に話せよ。 お前:真面目な話がしたければ高木にでも電話かければ良かったんじゃないか? 俺:あいつ今、俺より大変だから、声もかけづらいんだよ。 お前:知ってる。 俺:だから何でだよ。 お前:元カ……高木の姉ちゃんから聞いた。 俺:今元カノって言おうとしなかった? お前:…………して、ない。 俺:珍しく歯切れ悪い嘘だな。 お前:気のせい。 俺:別にお前の交友関係に口出しするつもりはないけどさ。 お前:っほ。 俺:っほ。じゃねぇよ。 お前:ウホ? 俺:……なんか取り敢えず言いたくないのは分かった。 お前:察しの良い友を持って幸せだな。 俺:ああ、そうだな。そうかも知れねえ。 お前:一生の財産だな。大事にしろよ。 俺:ああ、大事にするよ。 お前:あ、そういえば。 俺:何だ? お前:結局何の用なんだ? 俺:用って程のことは何もねぇよ。 お前:そうなのか? 俺:ああ。ただ最後に聞いとこうと思って、お前の声。 : 0:間。 : お前:……え? 俺:え? ってなんだよ。 お前:あっ……。そういうこ……、だ、駄目だぞ、おい! 諦めるな! 俺:あ、諦めるって何が?! お前:どんなに辛いことがあったのかは聞かない、でも生きてれば……きっと何か良いことがあるし、思い掛けない出会いもあったりしてなんだりして、とにかく! 頑張れよ! 俺:……え? いやいや。別に死なないからね!? 大丈夫だから! お前:嘘をつくな!! そういう空気出してるやつは、大丈夫大丈夫ってみんな言うんだよ! 本音を隠すのは詐欺師だけじゃない! 悲しみを背負ったやつもなんだよ!! 俺:お前……。 お前:そう、元カ……高木の姉ちゃんが言ってたんだ! 俺:自分の言葉じゃないのかよ! あと引き摺ってんじゃねぇよ! 未練たらたらか! お前:未練たらたらで何が悪い!? 彼女いない歴と年齢の間に二本線が引けるやつには分かんないだろうな!! 俺:うるせぇよ! お前地雷踏み抜かれたからって、ひとの地雷ぶん殴りに来てんじゃねぇよ! お前:地雷と思ってるならそんな幕引きで良いのか、それで本当に未練は残らないと言えるのか! 最後の最後、取り返しの付かないところで、走馬燈に親しい間柄の異性が登場しないことに絶望して「ああ、俺やっぱりエッチなことしたかった……」って思いながら、この世を去るなんてそんなの悲しすぎるじゃないか! 友達がそんな思いを抱えて旅立つなんて耐えられない! 俺:そんなこと思われてる友達の心中も察しろや! 確か俺の言い方が悪かったせいでそういう空気になってるけど、違うから! お前:違うって何が!? 俺:実は俺、行くんだよ。 お前:どこに? 川の向こうか? 俺:彼岸じゃねぇよ。海の向こうだよ。 お前:冒険にでも出るのか? 俺:ある意味大冒険だな。ああ、海外に行くんだ、仕事で。 お前:出張とかじゃなくてってことか? 俺:あぁ、永住だよ。 お前:ほう。 俺:あと、お前勘違いしてたと思うけど、二本線は引かれてないぞ。あ、いや。二本線あるな。俺と彼女の間に。 お前:……それはつまり?! 俺:ああ、結婚する。 : 0:間。 : お前:マジ? 俺:マジ。 お前:…………。 俺:……どうした? お前:……か。 俺:え? お前:会おうか! 俺:あ、会う!? お前:何年ぶりだ?! そう、五年ぶり! 五年ぶりに集まろう! みんなで! 俺:え? 集まんの? お前:来週の日曜だ。 俺:来週の日曜? いやいや、別にそんなつもりで掛けたわけじゃ……。 お前:どんなつもりだろうと関係ない、積もり積もる話はその同窓会? 送別会? 何でも良いけどその宴会で話して貰う! 俺:いや、そんな急にできるのかよ! お前:なーに、セッティングはこっちでやる。有り難く思え! 俺:いや、有り難いけどさ、でも、高木以外お前含め全員地元帰ったじゃん。 お前:だからどうした? 俺:え? お前:呼べば良い。 俺:呼べばって、みんなそれぞれ色々あるだろ! さっき話したけど、今は皆それぞれ違う生き方、違う世界で一人一人の幸せのためにやるべきことやって暮らしてるんだぞ? それを急に俺なんかが呼び出したり出来ないって! お前:いいや、出来る。 俺:いや、仕事とかもあるかも知れないし。 お前:休めば良い。 俺:急には休めないかも知れないし。 お前:もしそれで休めないのなら、そんな仕事やめれば良い。 俺:無茶苦茶言うなよ! お前:「大学の頃の仲の良い友達」だぞ。 俺:え? お前:その大事な友達の門出を祝うパーティに出られない理由がこの世にいくつある? 俺:あ、あるだろう……。 お前:いいや、断言しよう。無い。 俺:…………! お前:仮にあったとして、友の幸せを祝うことも出来ない人生を幸せと言えるだろうか? もしそう思うのなら説得してやる! その生き方は幸せじゃないって! 俺:そんなこと出来る筈無いだろ! お前:出来る。 俺:どうして。 お前:友達だから! 俺:友達。でも、ほとんど連絡も交流も無かったのに? お前:それでも、互いの幸せを願ってるのは嘘じゃない。違うか? 俺:そうかも知れないけどさ……。 : お前:お前も信じてみないか? 俺:え? お前:俺を、友達を。 俺:信じる。 お前:ああ。友情は裏切らない。きっと、来週の日曜日、お前の前には見慣れた面々が集まって祝福してくれている。 俺:…………。 お前:山下、山下の彼女、高木、水穂……じゃなくて高木の姉ちゃん、坂本、あと竜馬と姪のユキちゃん。 俺:フェレット連れてくるつもりかよ飼い主同伴で! というか、何人か初対面なんだけど、それでどうして俺のために来てくれるんだよ……。 お前:まぁ、細かいことは気にするな。信じて待っててくれよ親友。この早川柳慈朗と愉快な仲間達をな。 俺:早川……! お前:あと、ちゃんと婚約者も連れてこいよ。 俺:え、おい、 お前:じゃあな。パーティー会場で会おう。月見嘉一、我が友よ。 : 0:電話が切れる。 : 俺:あ、切れた。お前、ほんと、そういうとこ、まじで、 : 0:間。 : 俺:……好きだわ。 : 俺:はー。……来週、か。 俺:電話、してみるもんだな。 : 0:◇◇◇◇

0:もしもし。 : 0:繋がる電話と切れない絆。 : 0:◆あらすじ◆ 0:『俺』が『お前』に電話をかけ、大学時代の友達や友情について語り合う嘘と本当の話。 : 0:◆登場人物◆ 俺:月見嘉一(つきみ かいち) お前:早川柳慈朗(はやかわ りゅうじろう) : 0:◇◇◇◇ : 0:以下、電話でのやりとり。 : 俺:もしもし? 俺。 お前:……俺って誰だよ。詐欺か? 俺:いやお前、オレオレ詐欺じゃないって。 お前:ほんとかよ。 俺:嘘ついてどうすんだよ。 お前:いや、でも詐欺師が自分から「はい、こちらオレオレ詐欺です。」とは言わないだろうし、嘘をつくための嘘の可能性は否めない。 俺:否めよ。何だその理論。大体、金は無いくせに警戒心だけは強いお前みたいなめんどい奴ターゲットにしねぇよ。 お前:金がなくて警戒心の強いめんどいやつ? ああ。それはきっと人違いだな。そうか、なるほどこれは詐欺じゃなくて間違い電話というやつか。 俺:残念ながら俺が用があるのは、このいかにもめんどいしゃべり方をするお前で間違いないよ。 お前:でもリッチだ。 俺:エッチの間違いだろ。 お前:否定しないが。 俺:否定しないのかよ。 お前:ああ、リッチとタッチの差でエッチだ。 俺:リッチでもエッチでもどっちでも良いけどさ。ていうかそれだったらやっぱりタッチの差でプアなんじゃないか? お前:まぁ金は無いな。要するに心がリッチなんだ。ハートが満たされているのならそれ以上何を求める必要があるというのだろう。 俺:金以外なら、愛とか? お前:俺は、愛を物質的に捉えてるのかい? 俺:そういうお前はしっかり愛を捕らえているのか? お前:自由な心こそ愛だよ。それは誰かを束縛し繋累する関係とは限らないのさ。 俺:要はまだ独り身ってことな。エッチなのに。 お前:エッチ故に。 俺:それは分かる。 お前:身体が求めても心は付いていかないみたいな。 俺:身も心も面倒くさいからなお前。 お前:面倒くさいって何よ! はっ! 身体が目当てだったの!? 俺:少なくともお前の金が目当てではないな。 お前:ハートは? 俺:いらん。 お前:美味しいのに。 俺:焼き鳥の話してないよ。 お前:どこ好き? 俺:砂肝。 お前:分かる。今度飯行かない? 俺:行かない。奢らせるきだろ。 お前:当たり前だろ? 誰がご相伴してやると思っているんだ。金を払えなどとは万死に値する。 俺:誰なんだよお前。驕り昂ぶりすぎだろ。 お前:そう、昂ぶって眠れない夜もある今日この頃。 俺:それは知らんが。まぁ、金のことなら、もっと金持っててチョロい奴狙うわ。 お前:ほう、例えば? 俺:うーん。坂本だな。ボンボンだし、人が良いからな。 お前:あーね。もっちゃん。 俺:もっちゃんとか呼んでなかっただろ。だいたいあいつのイメージにもっちゃんは合わない。 お前:だったら何が合う? 俺:さぁ? お前:……竜馬。 俺:あー。ぽいな。 お前:竜馬か。 俺:あいつずっと坂本としか呼ばれてなかったのに、こんなところで竜馬って呼ばれるとは思わないだろうな。 お前:そういえば、今、先生やってるみたいだね。 俺:誰が? お前:竜馬。 俺:マジ? お前:嘘ついてどうする。大体嘘ついたことなんて無いだろ? 俺:お前たまに判断に迷う嘘つくじゃねぇか。二年の時に犬飼ったから見に来ないって言われて行ったらフェレットだったのは何だったんだよ。 お前:あれはあーいう犬なんだ。 俺:だから犬じゃねぇよ。明らかフェレットだわ。 お前:すげーよなー。コネで親のとこにも行けるし、研究だって続けられただろうに。 俺:急に竜馬の話に戻るなよ。フェレットが研究者になりたかったみたいになってんだろ。 お前:白衣着てるフェレット可愛くない? 俺:可愛いけど、それ完全にフェレットって認めてるだろ。 お前:……もう、五年か。 俺:ああ、姪っ子にせがまれて譲ったんだっけ。 お前:元気にしてるかな。 俺:あいつやんちゃだったよな。 お前:そうそう、ああ見えて結構遊び好きというか。 俺:あぁ、確かにちょっとクールな雰囲気あったよな。 お前:そんなところがモテてたのかな、竜馬。 俺:今の竜馬の話!? お前:え? ああ、ウチの犬、竜馬って名前だったんだよ。 俺:初耳だしややこしいわ! それに、犬じゃなくてフェレットだろうが。 お前:元気にしてるかな、竜馬。 俺:どっちのだ。お前のせいで思い出の中の坂本が限りなく、フェレットに近い何かになったわ。どっちの話だよそれ。 お前:人が良くてボンボンで、研究者になりたいって言ってたけどやっぱり先生になって、遊び好きでやんちゃなところがモテる、姪っ子にもらわれてった竜馬の話? 俺:混ざりまくって最終的にお前の親戚になってるじゃねぇか。 お前:何言ってるんだ、家族みたいなもんじゃないか。 俺:そうだけど、それとは意味合いが違うだろ……。 お前:そうかな? 俺:そうだよ。……あのさ、俺らもう卒業して五年経つじゃん。 お前:卒業も五年前だったか。忘れてた。 俺:まぁ、こうして社会に出てみると、時の流れなんてあっという間だしな。 お前:色んなことを覚えて、色んな物を忘れていく日々だな。 俺:そうだな。だから俺、ふと思ったんだ。 お前:何を? 俺:まだ友達なのかなって。俺達。 お前:そんなの決まってるさ。 俺:まぁ、友達なんだろうな。 お前:それはどうだろうな。 俺:え? お前:何を以てして友達というかは個々人の感覚に依存するというか、繋がりの深さは可視化できず絶対的な基準は存在しないことから、友達と思えば友達、友達と言えば友達、一度友達になれば友達、一度付き合いが途切れれば友達じゃなくなる、何日会ってないから友達じゃない、そもそも友達じゃないなど、様々な段階や価値基準があるので一概に友達だろうというのは間違いではないかと思うのだがどうだろう? 俺:……あのお前、空気読んでくれない? お前:……ズッ友だよ! 俺:やかましいわ。 お前:むう。 俺:……まぁでも、最近思うんだ、俺達はお前の言うように、そうでも無かった可能性もあるんだよな。 お前:そうでも無い、とは? 俺:考えてみれば俺達は「大学の頃の仲の良い友達」だったんだと思う。だから今は、たぶん、そうでもないんだ。 お前:その頃からそうでも無かったという説は? 俺:あるけど虚しくなるからやめろ。 お前:そんな虚しさも友情さ。そしてそれ噛みしめて大人になる。 俺:スレてんな。 お前:スレてるんじゃなくて、ズレてるんだよ。 俺:自覚あったのかよ。 お前:余りあるくらいありまくり。それ故に虚しさも一入で誰よりも大人になった気がするよ。 俺:それは難儀だな。でもお前はぜんぜん大人ではないだろ。 お前:なら、ズッ友じゃなくてずっと子供か? 俺:すっとこどっこいって感じだな。 お前:強そう。 俺:確かにハートは強いよな。 お前:繋がりは強くないけどな。 俺:そうなんだけどさ、言い方。 お前:年に2、3回、誕生日とかに連絡するくらいの繋がりで、実際、こうして電話してるのだって、何年ぶりかなって感じだろ。 俺:ああ、会うことなんて1回もなかったな。 お前:そうだな。 俺:なんかお互いなにやってるとかは、FacebookとかTwitterとかインスタとかでちらっと見かけるけどさ、そこに俺達はいなくてさ、知らないそいつがいるだけ。みんなあんまり更新もしなくなったしな。LINEのグループなんて最後に使ったのいつだよ。三年前の山下の「すぐ帰るね!」「ごめん、間違えた」に対する高木の「いいよいいよ」だよ? なんか、もう、そういうことなんだろうなって。 お前:ああ、そんな感じらしいな。そもそも学生の頃からやってないが。 俺:お前はそうなんだよな。だから余計連絡とりづらい。ていうかなんで知ってんだよ? お前:山下の彼女に聞いた。 俺:……なんで山下の彼女知ってんだよお前。 お前:もともと知り合いで山下に紹介したから。 俺:繋がり方キモいな。 お前:よく言われる。 俺:否定しとけよ。 お前:自分の生き方に嘘はつけないから。 俺:いい感じに纏めてるけど、お前の人生嘘だらけじゃねぇか。 お前:嘘も方便ってね。 俺:前向きに肯定したな。 お前:でも思うんだ。 俺:何が? お前:それぞれに、それぞれの生活があって、思い出はもちろんどこかにあるんだけど、もうそのアルバムは完成したんだろうなって。当たり前だけど。 俺:……あー、ごめん、急にポエムつぶやかれても分からん。 お前:なんとなく分からないか? 俺:なんとなくはな? でも、それ以上に面倒くさいな、電話かける相手間違えたなってことが分かる。 お前:突然電話してきたと思ったら、なんかセンチメンタル発動して、昔の話始めるやつに面倒くさいとか言われても。 俺:それは、そうなんだけどさ。 お前:特技だもんな。知ってるよ。 俺:知ってたか。 お前:「大学の頃の仲の良い友達」だからな。大目に見てやろう。 俺:そっか、ありがとな。 お前:ありがとう……か。何に対する感謝だよ? 俺:何でも良いだろ。 お前:何でも良いなんて姿勢は失礼じゃないか? 話したいけど誰でも良くてかけてきたとか、ちょっと凹むじゃないか。 俺:そういう何でも良い誰でも良いじゃないって。こんなん、誰にでも言うわけじゃ無い。お前だから言うんだ。 お前:なんだか告白みたいだな。 俺:今となっては昔だが、普段かなり面倒くさいこと言ってきてたお前だから、だ。 お前:相思相愛だな。 俺:喧しい。 お前:今更気付いたのか? この愛に。 俺:俺とお前の間に愛は無い。 お前:悲しい男だ。 俺:言ってろ。……まぁ、でもある意味告白かもな。 お前:金を貸せでも、手を貸せでも、耳を貸せでもなく、胸を貸せってことかな? おっぱいを。 俺:おっぱいじゃねぇよ、真面目に話せよ。 お前:真面目な話がしたければ高木にでも電話かければ良かったんじゃないか? 俺:あいつ今、俺より大変だから、声もかけづらいんだよ。 お前:知ってる。 俺:だから何でだよ。 お前:元カ……高木の姉ちゃんから聞いた。 俺:今元カノって言おうとしなかった? お前:…………して、ない。 俺:珍しく歯切れ悪い嘘だな。 お前:気のせい。 俺:別にお前の交友関係に口出しするつもりはないけどさ。 お前:っほ。 俺:っほ。じゃねぇよ。 お前:ウホ? 俺:……なんか取り敢えず言いたくないのは分かった。 お前:察しの良い友を持って幸せだな。 俺:ああ、そうだな。そうかも知れねえ。 お前:一生の財産だな。大事にしろよ。 俺:ああ、大事にするよ。 お前:あ、そういえば。 俺:何だ? お前:結局何の用なんだ? 俺:用って程のことは何もねぇよ。 お前:そうなのか? 俺:ああ。ただ最後に聞いとこうと思って、お前の声。 : 0:間。 : お前:……え? 俺:え? ってなんだよ。 お前:あっ……。そういうこ……、だ、駄目だぞ、おい! 諦めるな! 俺:あ、諦めるって何が?! お前:どんなに辛いことがあったのかは聞かない、でも生きてれば……きっと何か良いことがあるし、思い掛けない出会いもあったりしてなんだりして、とにかく! 頑張れよ! 俺:……え? いやいや。別に死なないからね!? 大丈夫だから! お前:嘘をつくな!! そういう空気出してるやつは、大丈夫大丈夫ってみんな言うんだよ! 本音を隠すのは詐欺師だけじゃない! 悲しみを背負ったやつもなんだよ!! 俺:お前……。 お前:そう、元カ……高木の姉ちゃんが言ってたんだ! 俺:自分の言葉じゃないのかよ! あと引き摺ってんじゃねぇよ! 未練たらたらか! お前:未練たらたらで何が悪い!? 彼女いない歴と年齢の間に二本線が引けるやつには分かんないだろうな!! 俺:うるせぇよ! お前地雷踏み抜かれたからって、ひとの地雷ぶん殴りに来てんじゃねぇよ! お前:地雷と思ってるならそんな幕引きで良いのか、それで本当に未練は残らないと言えるのか! 最後の最後、取り返しの付かないところで、走馬燈に親しい間柄の異性が登場しないことに絶望して「ああ、俺やっぱりエッチなことしたかった……」って思いながら、この世を去るなんてそんなの悲しすぎるじゃないか! 友達がそんな思いを抱えて旅立つなんて耐えられない! 俺:そんなこと思われてる友達の心中も察しろや! 確か俺の言い方が悪かったせいでそういう空気になってるけど、違うから! お前:違うって何が!? 俺:実は俺、行くんだよ。 お前:どこに? 川の向こうか? 俺:彼岸じゃねぇよ。海の向こうだよ。 お前:冒険にでも出るのか? 俺:ある意味大冒険だな。ああ、海外に行くんだ、仕事で。 お前:出張とかじゃなくてってことか? 俺:あぁ、永住だよ。 お前:ほう。 俺:あと、お前勘違いしてたと思うけど、二本線は引かれてないぞ。あ、いや。二本線あるな。俺と彼女の間に。 お前:……それはつまり?! 俺:ああ、結婚する。 : 0:間。 : お前:マジ? 俺:マジ。 お前:…………。 俺:……どうした? お前:……か。 俺:え? お前:会おうか! 俺:あ、会う!? お前:何年ぶりだ?! そう、五年ぶり! 五年ぶりに集まろう! みんなで! 俺:え? 集まんの? お前:来週の日曜だ。 俺:来週の日曜? いやいや、別にそんなつもりで掛けたわけじゃ……。 お前:どんなつもりだろうと関係ない、積もり積もる話はその同窓会? 送別会? 何でも良いけどその宴会で話して貰う! 俺:いや、そんな急にできるのかよ! お前:なーに、セッティングはこっちでやる。有り難く思え! 俺:いや、有り難いけどさ、でも、高木以外お前含め全員地元帰ったじゃん。 お前:だからどうした? 俺:え? お前:呼べば良い。 俺:呼べばって、みんなそれぞれ色々あるだろ! さっき話したけど、今は皆それぞれ違う生き方、違う世界で一人一人の幸せのためにやるべきことやって暮らしてるんだぞ? それを急に俺なんかが呼び出したり出来ないって! お前:いいや、出来る。 俺:いや、仕事とかもあるかも知れないし。 お前:休めば良い。 俺:急には休めないかも知れないし。 お前:もしそれで休めないのなら、そんな仕事やめれば良い。 俺:無茶苦茶言うなよ! お前:「大学の頃の仲の良い友達」だぞ。 俺:え? お前:その大事な友達の門出を祝うパーティに出られない理由がこの世にいくつある? 俺:あ、あるだろう……。 お前:いいや、断言しよう。無い。 俺:…………! お前:仮にあったとして、友の幸せを祝うことも出来ない人生を幸せと言えるだろうか? もしそう思うのなら説得してやる! その生き方は幸せじゃないって! 俺:そんなこと出来る筈無いだろ! お前:出来る。 俺:どうして。 お前:友達だから! 俺:友達。でも、ほとんど連絡も交流も無かったのに? お前:それでも、互いの幸せを願ってるのは嘘じゃない。違うか? 俺:そうかも知れないけどさ……。 : お前:お前も信じてみないか? 俺:え? お前:俺を、友達を。 俺:信じる。 お前:ああ。友情は裏切らない。きっと、来週の日曜日、お前の前には見慣れた面々が集まって祝福してくれている。 俺:…………。 お前:山下、山下の彼女、高木、水穂……じゃなくて高木の姉ちゃん、坂本、あと竜馬と姪のユキちゃん。 俺:フェレット連れてくるつもりかよ飼い主同伴で! というか、何人か初対面なんだけど、それでどうして俺のために来てくれるんだよ……。 お前:まぁ、細かいことは気にするな。信じて待っててくれよ親友。この早川柳慈朗と愉快な仲間達をな。 俺:早川……! お前:あと、ちゃんと婚約者も連れてこいよ。 俺:え、おい、 お前:じゃあな。パーティー会場で会おう。月見嘉一、我が友よ。 : 0:電話が切れる。 : 俺:あ、切れた。お前、ほんと、そういうとこ、まじで、 : 0:間。 : 俺:……好きだわ。 : 俺:はー。……来週、か。 俺:電話、してみるもんだな。 : 0:◇◇◇◇