台本概要
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タイトル | 三月の神様とアリスの夢 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女1、不問1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ご自由に演じてください
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
澪 | 女 | 113 | アリス |
神様 | 男 | 97 | 帽子屋 |
三月うさぎ | 不問 | 70 | 「お調子者」を演じているウサギ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
澪:んんっ…んっ…んん?
神様:そろそろ、目覚める頃合いだと思っていたよ
澪:えっ?ここは、どこ?あなたは、誰?
神様:フフッ。ここは、「ここ」さ。そして、僕は、「神様」だよ
澪:神様?嘘でしょ?
神様:嘘なんて言わないよ。何故なら、僕は、嘘つきだから
澪:やっぱり嘘なんだ
神様:あぁ、嘘かも知れないね
澪:じゃあ、あなたは、本当は何者なの?
神様:本当は何者か…
神様:それは、君自身の目で見て、耳で聞いて、心で感じて、決めることだよ
神様:他人に「答え」を委(ゆだ)ねるのは、つまらないことだ
澪:つまらないこと…
澪:じゃあ、今は、とりあえず、「神様」って呼ばせてもらうね
神様:ありがとう。そう、僕は、神様!
澪:ねぇ、神様、ここはどこなの?
神様:また、その質問か…
神様:だから、ここは、「ここ」さ
澪:「ここ」が、この場所の名前?
神様:さぁ、どうだろう?
神様:君の目には、「ここ」が、どんなふうに見えている?
澪:麦畑…かな?
神様:麦畑!それも正解だ!
澪:麦が、たくさん実っている
神様:実っているねぇ
澪:でも、他には、何もない
神様:何もない?本当にそうかな?よく「見て」ごらん?
神様:同じ景色でも、じっくり、色んな角度から見ることで
神様:今まで見えなかったモノが見えることもある
澪:…
澪:電信柱もないし、神様の他に人の気配がまったくない
澪:空を見上げると、太陽もないのに、青空が、ただ広がってる
澪:不思議…
神様:不思議!そう!ここは、ふしっ、あっ…
澪:ふしっ?
神様:うっ…いやっ!なんでもない
澪:ん?
神様:なんでもないさ
神様:ちなみに、君は、ここで何かしたいことは?
澪:したいこと?
神様:そう、目的はないのかい?
澪:そんなもの、私には…
神様:じゃあ、何か目的を見つけないとだ!
澪:どうして、目的を見つけないといけないの?
神様:目的が見つかれば、目的に向かい、ここから動き出すことができる
神様:君も、ずっと「ここ」にとどまっていたくはないだろう?
澪:それは…
0:
澪:(M)麦畑の中を勢い良く、真っ直ぐに、何かがこちらに向かってくる
0:
三月うさぎ:タタタタタタタッ!
澪:なんだろう?
神様:なんだろうね?
三月うさぎ:タタタタタッ!シュタッ!
澪:うさぎ?
神様:うさぎだね
三月うさぎ:あっ!あれ?名前は忘れたけど、大事な人!と…
澪:ふわっ!うさぎが喋った!
神様:やぁ!三月うさぎ!僕の名前を忘れてくれて、ありがとう
三月うさぎ:あいおっ!君は…誰?もしかして、今度のアリス?
澪:アリス?
三月うさぎ:アリスじゃないの?
澪:私は、「アリス」って名前じゃないよ
三月うさぎ:じゃあ、なんて名前なの?
澪:私は、澪(みお)だよ
三月うさぎ:な~んだ。ちゃんと自分の名前が言える子か
三月うさぎ:つまんないの。じゃあ、僕は、もう行くね
澪:どこに行くの?
三月うさぎ:そんなの決まってるだろ!アリスを探しに行くのさ!
澪:アリス?
三月うさぎ:アリスは、アリスさ!
澪:じゃあ、私も、うさぎさんと一緒にアリスを探しに行きたいんだけど、いいかな?
神様:おや?
三月うさぎ:えっ?僕と一緒にアリスを探しに行きたいって
三月うさぎ:そんなこと出来るわけないだろ?
澪:出来ないの?
神様:三月うさぎ!出来るわけないと、誰が決めたんだい?
三月うさぎ:あれっ?誰が決めたんだろう?
三月うさぎ:大変だ!大変だ!出来るわけないと誰が決めたのか、分かんないぞ!大変だーっ!
神様:だったら、この子と一緒にアリスを探しに行っても良いのではないかな?
三月うさぎ:いいのかなぁ?いいのかなぁ?
神様:いいに決まってるだろ?その方が、きっと楽しい!
三月うさぎ:あいおっ!僕、楽しいの、だぁ~い好き!
澪:それじゃあ、私、うさぎさんについて行っても良いの?
神様:もちろん!ここでの目的が生まれて良かったね!
澪:えっ?あぁ…。うん…
三月うさぎ:それじゃあ、それじゃあ、僕について来てよ!
三月うさぎ:えっと、名前、なんだっけ?
澪:澪だよ
三月うさぎ:澪!僕は、三月うさぎだよ!
澪:三月うさぎ?
三月うさぎ:そう、三月うさぎ!そして、君の方は…
神様:あぁ、今回は、『神様』と呼んでくれ
三月うさぎ:神様?神様なんていないよ?
神様:神様なんていなくても、今回、僕は神様なんだ
神様:澪が、僕を神様にしてくれたからね
澪:えっ?私が?
神様:…
三月うさぎ:わからないけど、わかった!
神様:フフッ。それで良い。それじゃあ、行こうか?
神様:あぁ、もちろん僕もついて行くよ
三月うさぎ:あいおっ!こっちこっちーっ!
澪:うっ、うん…
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0:【間】
0:
澪:(M)三月うさぎを先頭にして、麦畑をかき分け、しばらく進んで行くと、地下に続く洞窟(どうくつ)があった
0:
澪:洞窟?
神様:洞窟だね
三月うさぎ:うわーっ!洞窟だーっ!
澪:この洞窟の中にアリスがいるの?
三月うさぎ:え?
澪:え?
神様:もしかして、澪は、三月うさぎがアリスの居場所に、ある程度の目星(めぼし)がついているとでも思っていたのかな?
澪:えっ?うん
神様:フフッ
澪:えっ?ええっ!?
三月うさぎ:ん?どうしたの?
澪:三月うさぎさんは、アリスがどこにいるのか、だいたいの場所は分かっているの?
三月うさぎ:全然わかんないよ
澪:え?
三月うさぎ:全然わかんないよ
澪:嘘でしょ?
神様:ハハッ。相変わらず、三月うさぎは、三月うさぎだ
三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ!
澪:じゃあ、どこを、どう探せば、アリスは見つかるの?
三月うさぎ:えっ?どこを、どう探せば?えーっ!大変だ!大変だ!
三月うさぎ:どこを、どう探せば、アリスが見つけられるのか分かんないぞ!大変だーっ!
神様:三月うさぎ!
三月うさぎ:あいお?
神様:澪の「答え」を訊いてみよう
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪、アリスは、どこにいると思う?
澪:うーん…。わかんないよ…。でも、この洞窟は、怪しい気がする
神様:じゃあ、進んでみるかい?洞窟の中へ
三月うさぎ:え?ここに入るの?真っ暗だよ!怖いよ!
澪:そうだね。きっと危ないよね
神様:あぁ、危ないかも知れないね。でも、危なくないかも知れない
澪:ん?
神様:自分で飛び込んで、進んで、確かめない限り
神様:本当の「答え」は、見えて来ないってことさ
澪:見えてこない?
神様:そうだよ。そこが暗闇(くらやみ)であってもね
三月うさぎ:澪は、どうするの?ここに、入るの?
澪:私は、入ってみるよ。だって、このまま麦畑を進んでいっても、同じ景色しかないだろうから
神様:そうだね。今までとは違う景色を見ることも、とても、そう、とても大切だ
澪:じゃあ、行くよ
三月うさぎ:えっと、先頭は、澪に譲(ゆず)ることにするよ!僕は、一番後ろから、ついて行くね!
澪:うん。いいよ
0:
澪:(M)私が洞窟に足を踏み入れると同時に、壁のロウソクに一斉(いっせい)に火が灯った
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!急に明るくなったぞ!
神様:どうやら、調律師(ちょうりつし)は、僕たちを歓迎してくれているらしい
澪:調律師?ここには、他に誰かいるの?
神様:ずっといるよ。ずっとね。ずっと君を…
澪:えっ?私を?
三月うさぎ:へへーん!やっぱり、先頭には、僕が立ってあげようかな?
神様:フフッ
澪:じゃあ、先頭は引き続き、三月うさぎさん、よろしくね!
三月うさぎ:あいおっ!
0:
0:【間】
0:
澪:この洞窟、どこまで続いているんだろう?
神様:さぁ、どこまでだろうね
澪:古い洞窟なのに、どうして、私たちの進む速さに合わせて、ロウソクに火が?
三月うさぎ:そんなの決まってるじゃないか!
澪:決まっているの?それは、理由を知っているってこと?
三月うさぎ:それはね
神様:(さえぎって)三月うさぎ!
三月うさぎ:ん?なんだい?
神様:三月うさぎの好きな食べ物は、なんだい?
三月うさぎ:好きな食べ物?そんなの決まってるじゃないか!ニンジンだよ!ニンジン!
神様:あぁ、ニンジン?ニンジンは、良いよね!
神様:カレーやシチューに入れても美味しいし
神様:チャーハンの具材としても、最高だ
澪:あのっ!
神様:澪っ!
澪:えっ?
神様:アリスは、どこにいると思う?
澪:アリス?そんなの知らないよ。そもそも、アリスって、誰なの?
神様:アリスが誰か…
神様:うーん…。アリスは、雨音(あまね)だったのかも知れないし、春華(はるか)だったのかも知れないし…
神様:あるいは…「澪」だったのかも知れない
澪:私?
神様:君ではない君
澪:私ではない私?それって、どういうこと?
三月うさぎ:クンクン…。アレ?奥の方から美味しそうな匂いがするぞ
三月うさぎ:ビュッビュッ、ビュビューンッ!
澪:あっ!三月うさぎさん!
神様:フフッ
澪:急いで追いかけよう!
神様:あぁ!
0:
澪:(M)三月うさぎを追いかけて洞窟を突き進むと、そこには、広い空間があり、ニンジン畑が広がっていた
0:
澪:はぁ…はぁ…はぁ…。いた!三月うさぎさん!
三月うさぎ:わーい!わーい!ニンジンだ!ニンジンだ!
三月うさぎ:モグモグッ!美味しいなぁ!モグモグッ!やっぱり、ニンジン、だぁーい好き!
澪:えっ?いいのかな?誰かが大事に育てているニンジンかも知れない
神様:そうだね。誰かが大事に育てているニンジンかも知れない
澪:三月うさぎさん、勝手に、あんなに食べちゃってる。育てている人に怒られるかも知れないよ
神様:怒られる?どうして?
澪:だって、大事に育てているニンジンを、勝手に食べられたら、誰だって怒るでしょ?
神様:そんなことはないと思うけどね
澪:どうして?
神様:何のために、誰のために、そういったところで、怒るかどうかが決まるからさ
澪:確かに、三月うさぎさんに食べてもらうために育てていたのなら、問題はないかも?
神様:それならば、問題はない。この一面に広がるニンジン畑は、三月うさぎのために用意されたモノだからね
澪:え?神様は、なんで、そんなこと知ってるの?
神様:知っているから、知っている
澪:意味が分からない
神様:三月うさぎはね。今まで、アリスのために、一生懸命だったんだよ
神様:頭は悪いし、ドジばかり踏むけどさ
神様:アリスのことが大好きだから、いつだってアリスの味方だった
澪:アリスの味方?
神様:ずっと味方でいること、ずっと好きでいることはね
神様:そんなに簡単なことじゃないんだよ
神様:だから、このニンジン畑は、きっと、そんな三月うさぎへの『ご褒美』なのさ
澪:ご褒美?
三月うさぎ:モグモグッ!嬉しいなぁ!こんなにニンジンが食べられるなんて!
三月うさぎ:大変だ!大変だ!嬉しくて、美味しくて、嬉しくて、美味しくて、モグモグッ!大変だーっ!
澪:ほんとに嬉しそう!
神様:そうだね。ほんとに良かった
神様:そして、ありがとう…
澪:ありがとう?
神様:僕は、三月うさぎに、感謝しているんだ
神様:三月うさぎがいたから、物語にアクセントが加わった
神様:普通ではない物語になったから、普通ではない君に見つけてもらうことができた
澪:神様の言っている言葉は、全部、意味が分からないよ
神様:分からなくてもいいさ
神様:分からないから、考えてくれているだろ?
神様:考えている内容が、例え憎悪(ぞうお)や軽蔑(けいべつ)であっても
神様:考えてくれている間は、ずっと、そこに僕は残っている。だから、それでいい
澪:…
0:
澪:(M)突然、地面が揺れ始めた
0:
澪:地震!?
三月うさぎ:わっ!わわっ!大変だ!大変だ!
神様:どうやら、地震ではないようだよ
澪:あっ!あれは…
三月うさぎ:ドドドッ、ドラゴンだーっ!逃げろーっ!
0:
澪:(M)三月うさぎは、全速力で私の後ろに身を隠した
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!
澪:こっ、こっちに向かってきてる!
神様:そうだね。向かってきている
澪:どうして、神様は、そんなに落ち着いていられるの?
神様:澪がいるからさ
澪:私がいるから?
神様:この世界で、一番安全な場所は、調律師に一番愛されている人のそばだからね
澪:愛されている?
神様:澪の方こそ、逃げなくていいのかい?ドラゴンは、もう、すぐ目の前だよ
澪:うん。そうだね
三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリス、助けてーっ!
澪:…
澪:怖くないよ…
0:
澪:(M)ドラゴンは、私に、ゆっくりとお辞儀をすると、背中を向けた。まるで、その背に乗れと言っているかのように
0:
澪:乗せてもらおう
三月うさぎ:えっ?ドラゴンだよ?ドラゴンなんだよ?澪は、怖くないの?
澪:怖くないよ。だって、ずっと前に、誰かに教えてもらった気がするから
澪:本当に見なきゃいけないモノは、見えている外見じゃなくて、見えていない中身だって
澪:本当に頼りになるモノは、出会う前に知った情報じゃなくて、出会ってから関わって知って、感じたこと
澪:そう、自分自身の心
三月うさぎ:自分自身の心?
澪:そうだよ。だから、このドラゴンは、優しいドラゴンだと思う
澪:きっとアリスのいる場所に、私たちを導いてくれるはず
神様:…そうだね。きっと導いてくれる
三月うさぎ:二人がそう言うなら…あいおっ!
0:
澪:(M)私と神様と三月うさぎは、ドラゴンの背に乗った。たてがみをしっかりと掴むと、ドラゴンは、天井に向かって火を吹いた
澪:(M)その火は、天井に大きな風穴(かざあな)を空けた。すると、そこには、星空が広がっていた
澪:(M)ドラゴンは、星空を目指して、空高く舞い上がった
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!空を飛んでる!空を飛んでるぞーっ!
神様:三月うさぎ!風が気持ち良いねぇ!
三月うさぎ:あっ?えっ?うん…。風が気持ち良い!ビュッビュッ、ビューン!
澪:ふふっ
神様:おっ!澪が笑った!
三月うさぎ:澪が笑った!澪が笑った!
澪:え?私が笑うと変かな?
神様:変じゃないさ。澪が笑うと僕は嬉しい
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪に笑ってもらうために、澪に演じてもらうために、物語は生まれ続けたのだから…
澪:ん?
三月うさぎ:え?それは、アリスじゃないの?
神様:あぁ、そうだった。そうだった
澪:ごめんね。私はアリスじゃない。アリスじゃないんだよ
神様:分かってる
澪:神様が思っているような人間じゃない
神様:それも分かってる
澪:分かってない!分かってないのに!全部分かった気にならないで!
三月うさぎ:へ?
澪:気持ち悪い!気持ち悪いのよ!あんたなんか大嫌い!消えて!今すぐ消えて!
三月うさぎ:澪!突然、どうしたの!?
澪:…
神様:澪は、ずっと澪だよ
神様:そして、今、ようやく本来の澪の感情を取り戻したのさ
三月うさぎ:へ?どっ、どういうこと?
澪:…
神様:ドラゴン、僕と三月うさぎを、あの「灰色の星」に降ろしてくれるかな?
0:
澪:(M)ドラゴンは、灰色の星に着陸した。私は、たてがみに顔を埋(うず)めたままで、顔を上げることができなかった
0:
神様:さぁ、お別れの時間だね
三月うさぎ:へ?ここで、お別れ?アリスは?アリスは、まだ見つかっていないよ?
神様:三月うさぎ!どうしてアリスを見つける必要があるんだい?
三月うさぎ:だって、だって、だって!アリスがいなきゃ、物語は始まらない!
三月うさぎ:アリスがいなきゃ、世界は、ずっと白黒で、面白くないんだよ!
三月うさぎ:だから、僕には、アリスが必要なんだ!
澪:…
神様:フフッ。そうだね。僕にもアリスが必要さ
神様:アリスが見てくれることを信じて、楽しんでいる姿を想像して、そこから、たくさんの物語は生まれた
神様:僕は、色んな僕になれた
神様:色んな僕になれることが嬉しかった
神様:アリスとお別れしてしまうと、僕は、もう、何者でもない。ただの僕になってしまう
澪:…
三月うさぎ:ねぇ、澪!澪が、今度のアリスになってよ!澪なら、きっと、すっごいアリスになれるはずだから!
三月うさぎ:澪がアリスになってくれなきゃ、僕たちは、このまま消えてしまう!
澪:「消えて」って言ってるのよ…
三月うさぎ:へ?
神様:三月うさぎ、あきらめよう
神様:もう、彼女の「夢」は覚めたんだ
三月うさぎ:やだよ…終わりたくない…消えたくないよ
神様:すべてのモノには、終わりがある。アリスの物語にもね
三月うさぎ:それでも!僕は、アリスが大好きだから!
神様:あぁ…。その気持ちは、きっと届いているはずさ
神様:また、彼女が、この場所に戻ってきてくれるかは、彼女次第だが
神様:僕たちと過ごした時間は、僕たちの想いは、彼女の中で消えないはずだ
神様:それが、どんなに小さくなってしまってもね
三月うさぎ:神様は!帽子屋は!アリスのことが好きじゃないのかい?
神様:…
三月うさぎ:も~う!黙ってないで、聞かせてよ!今度こそ君の本当の気持ちを!
神様:…
神様:あぁ…。好きだよ!好きに決まってるだろ!
神様:狂いそうなくらい彼女のことを愛してる!彼女だけを愛してる!
神様:一人だけの特別を、こっそり胸の内に秘めて、愛し続けていた!
三月うさぎ:だったら、あきらめちゃダメだよ!
神様:あきらめるしかないだろ!僕は、彼女に嫌われてんだぞ!
三月うさぎ:嫌われてるって決め付けてるだけじゃないのかい?
神様:決め付けなんかじゃない。わかるんだ!彼女の行動が、とっくのとうに、「答え」を出してる
神様:僕は、現実を見てるんだ!
三月うさぎ:バカ野郎ーっ!現実なんか見るなよ!ここは、不思議の国だろ!
三月うさぎ:テメェの妄想で、希望で、幾らでも作り変えることができる世界じゃないか!
神様:無理だ…。それだと、リアリティが損なわれてしまう
三月うさぎ:(さえぎって)そんなものクソくらえだ!
神様:っ!?
三月うさぎ:好きなモノは好き!嘘をつくなよ!はっきり、テメェの言葉で伝えろよ!
三月うさぎ:欲しいモノには、手を伸ばせよ!命の続く限り、魂を込めて!
神様:…
神様:あぁ…。そうだな…。そうだったな…
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪!顔を上げてくれ!
澪:っ?
神様:僕は、君が好きだ
澪:…
神様:誰よりも愛してる!
澪:…
神様:僕と結婚してほしい!
澪:(好きにお答え下さい)
0:
0:―了―
澪:んんっ…んっ…んん?
神様:そろそろ、目覚める頃合いだと思っていたよ
澪:えっ?ここは、どこ?あなたは、誰?
神様:フフッ。ここは、「ここ」さ。そして、僕は、「神様」だよ
澪:神様?嘘でしょ?
神様:嘘なんて言わないよ。何故なら、僕は、嘘つきだから
澪:やっぱり嘘なんだ
神様:あぁ、嘘かも知れないね
澪:じゃあ、あなたは、本当は何者なの?
神様:本当は何者か…
神様:それは、君自身の目で見て、耳で聞いて、心で感じて、決めることだよ
神様:他人に「答え」を委(ゆだ)ねるのは、つまらないことだ
澪:つまらないこと…
澪:じゃあ、今は、とりあえず、「神様」って呼ばせてもらうね
神様:ありがとう。そう、僕は、神様!
澪:ねぇ、神様、ここはどこなの?
神様:また、その質問か…
神様:だから、ここは、「ここ」さ
澪:「ここ」が、この場所の名前?
神様:さぁ、どうだろう?
神様:君の目には、「ここ」が、どんなふうに見えている?
澪:麦畑…かな?
神様:麦畑!それも正解だ!
澪:麦が、たくさん実っている
神様:実っているねぇ
澪:でも、他には、何もない
神様:何もない?本当にそうかな?よく「見て」ごらん?
神様:同じ景色でも、じっくり、色んな角度から見ることで
神様:今まで見えなかったモノが見えることもある
澪:…
澪:電信柱もないし、神様の他に人の気配がまったくない
澪:空を見上げると、太陽もないのに、青空が、ただ広がってる
澪:不思議…
神様:不思議!そう!ここは、ふしっ、あっ…
澪:ふしっ?
神様:うっ…いやっ!なんでもない
澪:ん?
神様:なんでもないさ
神様:ちなみに、君は、ここで何かしたいことは?
澪:したいこと?
神様:そう、目的はないのかい?
澪:そんなもの、私には…
神様:じゃあ、何か目的を見つけないとだ!
澪:どうして、目的を見つけないといけないの?
神様:目的が見つかれば、目的に向かい、ここから動き出すことができる
神様:君も、ずっと「ここ」にとどまっていたくはないだろう?
澪:それは…
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澪:(M)麦畑の中を勢い良く、真っ直ぐに、何かがこちらに向かってくる
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三月うさぎ:タタタタタタタッ!
澪:なんだろう?
神様:なんだろうね?
三月うさぎ:タタタタタッ!シュタッ!
澪:うさぎ?
神様:うさぎだね
三月うさぎ:あっ!あれ?名前は忘れたけど、大事な人!と…
澪:ふわっ!うさぎが喋った!
神様:やぁ!三月うさぎ!僕の名前を忘れてくれて、ありがとう
三月うさぎ:あいおっ!君は…誰?もしかして、今度のアリス?
澪:アリス?
三月うさぎ:アリスじゃないの?
澪:私は、「アリス」って名前じゃないよ
三月うさぎ:じゃあ、なんて名前なの?
澪:私は、澪(みお)だよ
三月うさぎ:な~んだ。ちゃんと自分の名前が言える子か
三月うさぎ:つまんないの。じゃあ、僕は、もう行くね
澪:どこに行くの?
三月うさぎ:そんなの決まってるだろ!アリスを探しに行くのさ!
澪:アリス?
三月うさぎ:アリスは、アリスさ!
澪:じゃあ、私も、うさぎさんと一緒にアリスを探しに行きたいんだけど、いいかな?
神様:おや?
三月うさぎ:えっ?僕と一緒にアリスを探しに行きたいって
三月うさぎ:そんなこと出来るわけないだろ?
澪:出来ないの?
神様:三月うさぎ!出来るわけないと、誰が決めたんだい?
三月うさぎ:あれっ?誰が決めたんだろう?
三月うさぎ:大変だ!大変だ!出来るわけないと誰が決めたのか、分かんないぞ!大変だーっ!
神様:だったら、この子と一緒にアリスを探しに行っても良いのではないかな?
三月うさぎ:いいのかなぁ?いいのかなぁ?
神様:いいに決まってるだろ?その方が、きっと楽しい!
三月うさぎ:あいおっ!僕、楽しいの、だぁ~い好き!
澪:それじゃあ、私、うさぎさんについて行っても良いの?
神様:もちろん!ここでの目的が生まれて良かったね!
澪:えっ?あぁ…。うん…
三月うさぎ:それじゃあ、それじゃあ、僕について来てよ!
三月うさぎ:えっと、名前、なんだっけ?
澪:澪だよ
三月うさぎ:澪!僕は、三月うさぎだよ!
澪:三月うさぎ?
三月うさぎ:そう、三月うさぎ!そして、君の方は…
神様:あぁ、今回は、『神様』と呼んでくれ
三月うさぎ:神様?神様なんていないよ?
神様:神様なんていなくても、今回、僕は神様なんだ
神様:澪が、僕を神様にしてくれたからね
澪:えっ?私が?
神様:…
三月うさぎ:わからないけど、わかった!
神様:フフッ。それで良い。それじゃあ、行こうか?
神様:あぁ、もちろん僕もついて行くよ
三月うさぎ:あいおっ!こっちこっちーっ!
澪:うっ、うん…
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澪:(M)三月うさぎを先頭にして、麦畑をかき分け、しばらく進んで行くと、地下に続く洞窟(どうくつ)があった
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澪:洞窟?
神様:洞窟だね
三月うさぎ:うわーっ!洞窟だーっ!
澪:この洞窟の中にアリスがいるの?
三月うさぎ:え?
澪:え?
神様:もしかして、澪は、三月うさぎがアリスの居場所に、ある程度の目星(めぼし)がついているとでも思っていたのかな?
澪:えっ?うん
神様:フフッ
澪:えっ?ええっ!?
三月うさぎ:ん?どうしたの?
澪:三月うさぎさんは、アリスがどこにいるのか、だいたいの場所は分かっているの?
三月うさぎ:全然わかんないよ
澪:え?
三月うさぎ:全然わかんないよ
澪:嘘でしょ?
神様:ハハッ。相変わらず、三月うさぎは、三月うさぎだ
三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ!
澪:じゃあ、どこを、どう探せば、アリスは見つかるの?
三月うさぎ:えっ?どこを、どう探せば?えーっ!大変だ!大変だ!
三月うさぎ:どこを、どう探せば、アリスが見つけられるのか分かんないぞ!大変だーっ!
神様:三月うさぎ!
三月うさぎ:あいお?
神様:澪の「答え」を訊いてみよう
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪、アリスは、どこにいると思う?
澪:うーん…。わかんないよ…。でも、この洞窟は、怪しい気がする
神様:じゃあ、進んでみるかい?洞窟の中へ
三月うさぎ:え?ここに入るの?真っ暗だよ!怖いよ!
澪:そうだね。きっと危ないよね
神様:あぁ、危ないかも知れないね。でも、危なくないかも知れない
澪:ん?
神様:自分で飛び込んで、進んで、確かめない限り
神様:本当の「答え」は、見えて来ないってことさ
澪:見えてこない?
神様:そうだよ。そこが暗闇(くらやみ)であってもね
三月うさぎ:澪は、どうするの?ここに、入るの?
澪:私は、入ってみるよ。だって、このまま麦畑を進んでいっても、同じ景色しかないだろうから
神様:そうだね。今までとは違う景色を見ることも、とても、そう、とても大切だ
澪:じゃあ、行くよ
三月うさぎ:えっと、先頭は、澪に譲(ゆず)ることにするよ!僕は、一番後ろから、ついて行くね!
澪:うん。いいよ
0:
澪:(M)私が洞窟に足を踏み入れると同時に、壁のロウソクに一斉(いっせい)に火が灯った
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!急に明るくなったぞ!
神様:どうやら、調律師(ちょうりつし)は、僕たちを歓迎してくれているらしい
澪:調律師?ここには、他に誰かいるの?
神様:ずっといるよ。ずっとね。ずっと君を…
澪:えっ?私を?
三月うさぎ:へへーん!やっぱり、先頭には、僕が立ってあげようかな?
神様:フフッ
澪:じゃあ、先頭は引き続き、三月うさぎさん、よろしくね!
三月うさぎ:あいおっ!
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0:【間】
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澪:この洞窟、どこまで続いているんだろう?
神様:さぁ、どこまでだろうね
澪:古い洞窟なのに、どうして、私たちの進む速さに合わせて、ロウソクに火が?
三月うさぎ:そんなの決まってるじゃないか!
澪:決まっているの?それは、理由を知っているってこと?
三月うさぎ:それはね
神様:(さえぎって)三月うさぎ!
三月うさぎ:ん?なんだい?
神様:三月うさぎの好きな食べ物は、なんだい?
三月うさぎ:好きな食べ物?そんなの決まってるじゃないか!ニンジンだよ!ニンジン!
神様:あぁ、ニンジン?ニンジンは、良いよね!
神様:カレーやシチューに入れても美味しいし
神様:チャーハンの具材としても、最高だ
澪:あのっ!
神様:澪っ!
澪:えっ?
神様:アリスは、どこにいると思う?
澪:アリス?そんなの知らないよ。そもそも、アリスって、誰なの?
神様:アリスが誰か…
神様:うーん…。アリスは、雨音(あまね)だったのかも知れないし、春華(はるか)だったのかも知れないし…
神様:あるいは…「澪」だったのかも知れない
澪:私?
神様:君ではない君
澪:私ではない私?それって、どういうこと?
三月うさぎ:クンクン…。アレ?奥の方から美味しそうな匂いがするぞ
三月うさぎ:ビュッビュッ、ビュビューンッ!
澪:あっ!三月うさぎさん!
神様:フフッ
澪:急いで追いかけよう!
神様:あぁ!
0:
澪:(M)三月うさぎを追いかけて洞窟を突き進むと、そこには、広い空間があり、ニンジン畑が広がっていた
0:
澪:はぁ…はぁ…はぁ…。いた!三月うさぎさん!
三月うさぎ:わーい!わーい!ニンジンだ!ニンジンだ!
三月うさぎ:モグモグッ!美味しいなぁ!モグモグッ!やっぱり、ニンジン、だぁーい好き!
澪:えっ?いいのかな?誰かが大事に育てているニンジンかも知れない
神様:そうだね。誰かが大事に育てているニンジンかも知れない
澪:三月うさぎさん、勝手に、あんなに食べちゃってる。育てている人に怒られるかも知れないよ
神様:怒られる?どうして?
澪:だって、大事に育てているニンジンを、勝手に食べられたら、誰だって怒るでしょ?
神様:そんなことはないと思うけどね
澪:どうして?
神様:何のために、誰のために、そういったところで、怒るかどうかが決まるからさ
澪:確かに、三月うさぎさんに食べてもらうために育てていたのなら、問題はないかも?
神様:それならば、問題はない。この一面に広がるニンジン畑は、三月うさぎのために用意されたモノだからね
澪:え?神様は、なんで、そんなこと知ってるの?
神様:知っているから、知っている
澪:意味が分からない
神様:三月うさぎはね。今まで、アリスのために、一生懸命だったんだよ
神様:頭は悪いし、ドジばかり踏むけどさ
神様:アリスのことが大好きだから、いつだってアリスの味方だった
澪:アリスの味方?
神様:ずっと味方でいること、ずっと好きでいることはね
神様:そんなに簡単なことじゃないんだよ
神様:だから、このニンジン畑は、きっと、そんな三月うさぎへの『ご褒美』なのさ
澪:ご褒美?
三月うさぎ:モグモグッ!嬉しいなぁ!こんなにニンジンが食べられるなんて!
三月うさぎ:大変だ!大変だ!嬉しくて、美味しくて、嬉しくて、美味しくて、モグモグッ!大変だーっ!
澪:ほんとに嬉しそう!
神様:そうだね。ほんとに良かった
神様:そして、ありがとう…
澪:ありがとう?
神様:僕は、三月うさぎに、感謝しているんだ
神様:三月うさぎがいたから、物語にアクセントが加わった
神様:普通ではない物語になったから、普通ではない君に見つけてもらうことができた
澪:神様の言っている言葉は、全部、意味が分からないよ
神様:分からなくてもいいさ
神様:分からないから、考えてくれているだろ?
神様:考えている内容が、例え憎悪(ぞうお)や軽蔑(けいべつ)であっても
神様:考えてくれている間は、ずっと、そこに僕は残っている。だから、それでいい
澪:…
0:
澪:(M)突然、地面が揺れ始めた
0:
澪:地震!?
三月うさぎ:わっ!わわっ!大変だ!大変だ!
神様:どうやら、地震ではないようだよ
澪:あっ!あれは…
三月うさぎ:ドドドッ、ドラゴンだーっ!逃げろーっ!
0:
澪:(M)三月うさぎは、全速力で私の後ろに身を隠した
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!
澪:こっ、こっちに向かってきてる!
神様:そうだね。向かってきている
澪:どうして、神様は、そんなに落ち着いていられるの?
神様:澪がいるからさ
澪:私がいるから?
神様:この世界で、一番安全な場所は、調律師に一番愛されている人のそばだからね
澪:愛されている?
神様:澪の方こそ、逃げなくていいのかい?ドラゴンは、もう、すぐ目の前だよ
澪:うん。そうだね
三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリス、助けてーっ!
澪:…
澪:怖くないよ…
0:
澪:(M)ドラゴンは、私に、ゆっくりとお辞儀をすると、背中を向けた。まるで、その背に乗れと言っているかのように
0:
澪:乗せてもらおう
三月うさぎ:えっ?ドラゴンだよ?ドラゴンなんだよ?澪は、怖くないの?
澪:怖くないよ。だって、ずっと前に、誰かに教えてもらった気がするから
澪:本当に見なきゃいけないモノは、見えている外見じゃなくて、見えていない中身だって
澪:本当に頼りになるモノは、出会う前に知った情報じゃなくて、出会ってから関わって知って、感じたこと
澪:そう、自分自身の心
三月うさぎ:自分自身の心?
澪:そうだよ。だから、このドラゴンは、優しいドラゴンだと思う
澪:きっとアリスのいる場所に、私たちを導いてくれるはず
神様:…そうだね。きっと導いてくれる
三月うさぎ:二人がそう言うなら…あいおっ!
0:
澪:(M)私と神様と三月うさぎは、ドラゴンの背に乗った。たてがみをしっかりと掴むと、ドラゴンは、天井に向かって火を吹いた
澪:(M)その火は、天井に大きな風穴(かざあな)を空けた。すると、そこには、星空が広がっていた
澪:(M)ドラゴンは、星空を目指して、空高く舞い上がった
0:
三月うさぎ:大変だ!大変だ!空を飛んでる!空を飛んでるぞーっ!
神様:三月うさぎ!風が気持ち良いねぇ!
三月うさぎ:あっ?えっ?うん…。風が気持ち良い!ビュッビュッ、ビューン!
澪:ふふっ
神様:おっ!澪が笑った!
三月うさぎ:澪が笑った!澪が笑った!
澪:え?私が笑うと変かな?
神様:変じゃないさ。澪が笑うと僕は嬉しい
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪に笑ってもらうために、澪に演じてもらうために、物語は生まれ続けたのだから…
澪:ん?
三月うさぎ:え?それは、アリスじゃないの?
神様:あぁ、そうだった。そうだった
澪:ごめんね。私はアリスじゃない。アリスじゃないんだよ
神様:分かってる
澪:神様が思っているような人間じゃない
神様:それも分かってる
澪:分かってない!分かってないのに!全部分かった気にならないで!
三月うさぎ:へ?
澪:気持ち悪い!気持ち悪いのよ!あんたなんか大嫌い!消えて!今すぐ消えて!
三月うさぎ:澪!突然、どうしたの!?
澪:…
神様:澪は、ずっと澪だよ
神様:そして、今、ようやく本来の澪の感情を取り戻したのさ
三月うさぎ:へ?どっ、どういうこと?
澪:…
神様:ドラゴン、僕と三月うさぎを、あの「灰色の星」に降ろしてくれるかな?
0:
澪:(M)ドラゴンは、灰色の星に着陸した。私は、たてがみに顔を埋(うず)めたままで、顔を上げることができなかった
0:
神様:さぁ、お別れの時間だね
三月うさぎ:へ?ここで、お別れ?アリスは?アリスは、まだ見つかっていないよ?
神様:三月うさぎ!どうしてアリスを見つける必要があるんだい?
三月うさぎ:だって、だって、だって!アリスがいなきゃ、物語は始まらない!
三月うさぎ:アリスがいなきゃ、世界は、ずっと白黒で、面白くないんだよ!
三月うさぎ:だから、僕には、アリスが必要なんだ!
澪:…
神様:フフッ。そうだね。僕にもアリスが必要さ
神様:アリスが見てくれることを信じて、楽しんでいる姿を想像して、そこから、たくさんの物語は生まれた
神様:僕は、色んな僕になれた
神様:色んな僕になれることが嬉しかった
神様:アリスとお別れしてしまうと、僕は、もう、何者でもない。ただの僕になってしまう
澪:…
三月うさぎ:ねぇ、澪!澪が、今度のアリスになってよ!澪なら、きっと、すっごいアリスになれるはずだから!
三月うさぎ:澪がアリスになってくれなきゃ、僕たちは、このまま消えてしまう!
澪:「消えて」って言ってるのよ…
三月うさぎ:へ?
神様:三月うさぎ、あきらめよう
神様:もう、彼女の「夢」は覚めたんだ
三月うさぎ:やだよ…終わりたくない…消えたくないよ
神様:すべてのモノには、終わりがある。アリスの物語にもね
三月うさぎ:それでも!僕は、アリスが大好きだから!
神様:あぁ…。その気持ちは、きっと届いているはずさ
神様:また、彼女が、この場所に戻ってきてくれるかは、彼女次第だが
神様:僕たちと過ごした時間は、僕たちの想いは、彼女の中で消えないはずだ
神様:それが、どんなに小さくなってしまってもね
三月うさぎ:神様は!帽子屋は!アリスのことが好きじゃないのかい?
神様:…
三月うさぎ:も~う!黙ってないで、聞かせてよ!今度こそ君の本当の気持ちを!
神様:…
神様:あぁ…。好きだよ!好きに決まってるだろ!
神様:狂いそうなくらい彼女のことを愛してる!彼女だけを愛してる!
神様:一人だけの特別を、こっそり胸の内に秘めて、愛し続けていた!
三月うさぎ:だったら、あきらめちゃダメだよ!
神様:あきらめるしかないだろ!僕は、彼女に嫌われてんだぞ!
三月うさぎ:嫌われてるって決め付けてるだけじゃないのかい?
神様:決め付けなんかじゃない。わかるんだ!彼女の行動が、とっくのとうに、「答え」を出してる
神様:僕は、現実を見てるんだ!
三月うさぎ:バカ野郎ーっ!現実なんか見るなよ!ここは、不思議の国だろ!
三月うさぎ:テメェの妄想で、希望で、幾らでも作り変えることができる世界じゃないか!
神様:無理だ…。それだと、リアリティが損なわれてしまう
三月うさぎ:(さえぎって)そんなものクソくらえだ!
神様:っ!?
三月うさぎ:好きなモノは好き!嘘をつくなよ!はっきり、テメェの言葉で伝えろよ!
三月うさぎ:欲しいモノには、手を伸ばせよ!命の続く限り、魂を込めて!
神様:…
神様:あぁ…。そうだな…。そうだったな…
三月うさぎ:あいおっ!
神様:澪!顔を上げてくれ!
澪:っ?
神様:僕は、君が好きだ
澪:…
神様:誰よりも愛してる!
澪:…
神様:僕と結婚してほしい!
澪:(好きにお答え下さい)
0:
0:―了―