台本概要
94 views
タイトル | イマジネーション。 |
---|---|
作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。 ◇あらすじ 幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。 94 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 | 女 | 80 | 空木 思穂(うつろぎ しほ) 老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。 |
彼 | 男 | 70 | 空木 想太(うつろぎ そうた) イマジナリーフレンド。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:イマジネーション。
:
0:想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。
:
0:◇あらすじ
0:幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。
:
0:◆登場人物
私:空木 思穂(うつろぎ しほ)
私:老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。
彼:空木 想太(うつろぎ そうた)
彼:イマジナリーフレンド。
:
0:◇
:
0:ベッドに私が眠っている。
0:以下、夢であり追想。
:
私:昔、私はずっと大好きだったイマジナリーフレンドに、
:
彼:「思穂。お前は友達じゃない」
:
私:と言われた。
私:それはとてもショックだった。
:
私:そう、私のそばには物心ついたときからイマジナリーフレンドの彼、空木想太がいた。
私:もしかしたら、想太は物心つく前からいたのかも知れない。
私:いつから? どうして? そう思ったことはたぶん無い。
私:兄弟とも、幼なじみとも違う。
私:私にとってイマジナリーフレンドは、想太はそこに居て当たり前の存在だった。
:
彼:「思穂! 一緒にトランプしよ!」
私:幼い私の病室に彼はよく遊びに来た。
彼:「思穂! 元気になったらサッカーしようぜ!」
私:彼のを分けてもらったのか、サッカーは無理でも、私は外で遊べるくらいになった。
彼:「思穂! こっち来て! 珍しい花が咲いてるんだ!」
私:想太との日々は驚きと発見に溢れてた。
彼:「思穂! 何してるの?! 本読めるんだ! すごいね! どんな話なの聞かせて!」
私:私は想太が好きだった。
彼:「思穂! 大好きだよ!」
私:けれど、恥ずかしくてあまり私は好きだって言えなかった。
彼:「思穂! 一緒に学校行こうぜ!」
私:想太と私は一緒に大きくなった。
彼:「思穂! 宿題教えて!」
私:小さい頃は落ち着きの無い子だったけど、
彼:「思穂。なんか辛いことでもあった? 話聞くよ」
私:いつの間にか頼りになる存在になってた。
彼:「思穂。そういえば小さい頃に見つけたあの花好きだったよな。最近やっと名前分かったんだ、ほら、この本の花、そうだろ?」
私:いいえ、最初から頼りになる存在だった。
彼:「思穂。なんかあったら俺に言えよ?」
私:背も気が付いたら私より高くなってた。
彼:「思穂。……いや、何でも無い。ああ、駅前に美味しいパン屋見つけてさ、帰りに寄ってかない?」
私:知らないうちに、どんどん好きになっていった。
彼:「思穂。……俺の顔に何か付いてる?」
私:空木想太、彼は友達、イマジナリーフレンド。
彼:「思穂」
私:友達。そう、友達の筈だった。
:
彼:「思穂。お前は友達じゃない」
:
私:彼はあの時そう言ったんだ。
私:私は泣きたくなった。
彼:「なぁ、思穂」
私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。
:
彼:「お前は友達じゃない。恋人、だろ?」
:
私:私は何も言えなかった。
:
彼:「思穂。好きだ。付き合ってくれるよな?」
:
私:イマジナリーフレンドはイマジナリー彼氏になった。
彼:「思穂。今日はどこ行きたい?」
私:幸せだった。それまでとは違う楽しさ。
彼:「思穂。今日、楽しかったな。って、何ぼーっとしてるんだ? 疲れた?」
私:驚き、発見。
彼:「思穂。俺さ、お前のこと、守るよ」
私:想太への、思い。
彼:「思穂。誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとな」
私:彼とのかけがえのない日々。
彼:「思穂。ずっと一緒に居よう」
私:重ねた時間と足跡はもう数え切れない。
彼:「思穂。俺ってさ、……やっぱ何でも無い。次の休み、どこ行く?」
私:そんなある日、
:
彼:「思穂。話ってさ、何?」
:
私:少し不安そうな、けれど、覚悟したような顔の想太。
私:そして私にも不安があった。
私:けれど、それを口にしたら全てが消えてしまうような気がして、怖かった。
:
彼:「思穂。いいよ、ゆっくりでいいから、俺に話して。ちゃんと、聞くから」
:
私:「あなたは……」
彼:「うん」
私:「想太は、私の本当の……彼氏じゃなくて」
彼:「うん」
私:「私の……」
彼:「うん」
私:「夢咲思穂のイマジナリーな存在」
彼:「…………」
私:「空木想太はイマジナリー彼氏……なんだよね?」
彼:「…………」
私:「…………」
:
彼:「……そうだよ」
:
私:彼はとても傷ついたような顔をしていた。
私:実在性の不安。
私:そんな物は、彼が一番分かっていることだったのに。
私:私は彼に言ってしまったのだ。
:
私:「……そう、だよね」
:
私:でも、だから、この関係は、もう、終わりなんだって。
私:それが少し肩の荷が下りたような、
私:なのに胸を冷たい針で刺されたような、
私:そんな感覚がした。
私:私は私が最低だと思った。
:
彼:「なぁ、思穂」
:
私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。
:
彼:「思穂。俺は、そうだな、空木想太は、お前の言う、本当の意味で彼氏じゃないよ。ずっとずっと、俺達は小さい頃から一緒に居た。けど、実際は、実在性だって怪しい、すごくふわっとした存在だ。お前が瞬きしたら、次の瞬間には、もうそこに俺はいないかも知れない。そんな曖昧な存在が俺だ。けどさ、ああ、でも、思穂。なぁ思穂……、夢咲思穂。俺はお前のことが、君のことが、ずっとずっと好きなんだ。初めて会ったときから、いいや、俺が俺になった時から、もしかしたらそれよりも前から。ずっとずっと好きなんだ。君が想像したからじゃ無い、俺が、そうしたいと、愛したいと想ったから愛してるんだ。なぁ、思穂。だから僕は君の夫になりたい。君が実在性に不安を覚えた僕は、もっと、はっきりと存在を感じられるよう、君をもっと安心させてあげられるように、君の夫になりたい。思穂さん。結婚してください。僕は僕という存在に懸けて、あなたを幸せにします」
:
私:イマジナリー彼氏はイマジナリー婚約者になった。
彼:「思穂。とても綺麗だよ」
私:まもなく結婚してイマジナリーパートナーになり、
彼:「思穂。ほら、みて……! 僕達の子だよ! 賑やかになるね、ふふ、あぁ……! 思穂! よく頑張ったね」
私:イマジナリー息子と、
彼:「大志! 希実!」
私:イマジナリー娘が生まれたことでイマジナリーパパになり、
彼:「あんまり遠くに行くんじゃ無いぞ! もう、元気だなぁ。誰に似たんだか。……僕? ははは、君もだよ」
私:イマジナリー所帯を持ち、
彼:「思穂。僕らも行こうよ。折角家族で遊びに来たんだから、思い出作らなくっちゃ!」
私:イマジナリー家族として私達は幸せに暮らしてきた。
:
私:そして時は流れて、
:
彼:「思穂おばあさん。孫の抱き心地はどうかな? 懐かしいな、こうしてると、大志と思穂が生まれた頃を思い出すよ。ああ、僕は幸せだなぁ」
私:イマジナリー孫も生まれ、イマジナリーおじいちゃんになっても、
彼:「思穂さん。君は幸せかい?」
私:もちろん、幸せで、あの人のことを私は大好きだった。
彼:「思穂、さん」
私:そんなあの人も、
私:三年前に亡くなった。
:
私:あの人は大人げもなく泣きじゃくる私に、ぽつぽつと話し始めた。
彼:「思穂さん、……思穂。誕生日、おめでとう」
私:私は顔を上げた。
彼:「生まれてきてくれてありがとな」
私:戸惑いと悲しみが混ざり合って、上手く声が出なかった。
彼:「昔、そんなことを言ったことがあったけど、憶えているかい? 憶えて無くても、良いんだ」
私:憶えている。彼との、あなたとの、想太との、私達の思い出は全部全部。
彼:「僕のそばにはね、イマジナリーフレンドとして物心ついたときから、イマジナリーフレンドである前から、君が、思穂がいた。いつから? どうして? そう思ったことは無いんだ。兄弟とも、幼なじみとも違う。僕にとっての思穂は、イマジナリーフレンドの友達はそこに居て当たり前の存在だったから」
私:それは私も同じだった。
:
彼:ただね、
私:「ただ……?」
彼:「思穂。僕はずっと、君に言えなかったことがあるんだ」
私:「言えなかったこと?」
彼:「うん、僕は想像もしていなかったから」
私:「想像?」
彼:「うん、だから、僕は言うよ。ありがとう、って」
私:「でも生まれてきてくれてって……」
彼:「そうじゃ無くて僕を」
私:「想太を」
彼:「あのまま、消えて居なくなる筈だった僕を、そこで終わりだった空木想太を、ここまで、こんな素敵な、幸せなところまで連れてきてくれて、ありがとうって」
私:「あ……」
彼:「思穂。ありがとう」
私:「ねぇ想太」
彼:「なんだい?」
私:「あなたは私の友達? イマジナリーフレンド? それとも……」
彼:「僕は」
私:「…………」
彼:「僕は最期まで、君の最高のイマジナリーパートナーであれただろうか?」
私:「うん、まるで、夢のようだった」
彼:「ふふふ……それなら、僕は何者でも良い」
私:「私も!」
彼:「うん」
私:「ずっと、言えなかった」
彼:「うん」
私:「あなたのこと」
彼:「うん」
私:「想太のこと」
彼:「うん」
私:「ずっとずっと大好きだった」
彼:「ありがとう」
私:「生まれてきてくれて、ありがとう」
彼:「うん」
私:「私のイマジナリーフレンドになってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「私のイマジナリー彼氏になってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「パートナーに、家族に、幸せに、生きる意味に、私の全てになってくれて……ううん、空木想太であってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「本当にありがとう、想太」
彼:「うん」
:
私:そして彼はいつもの笑顔で、
:
彼:「思穂」
:
私:愛しい声で、
:
彼:「今までありがとう」
:
私:そう言って旅立った。
私:だから、次は私の番。
私:私は今、大志に希実にその子供達、イマジナリー家族に囲まれて、最期の時を迎えようとしている。
私:イマジナリーでない人々はこの場にいない。
私:お医者さんも看護婦さんもイマジナリー。
私:実在性なんて自分自身を含めて怪しいものだ。
私:けれど、私は思う。
私:あの人の大好きな笑顔を思い出して。
私:そう、もう分かってる。
私:きっと、この幸せだけはイマジナリーじゃない。
私:だって、イマジナリーを超えて、
:
私:「想像の先にあった空木思穂の人生は、とっても素敵だったんだもの」
:
私:それはあの人も、言っていたように。
私:だから、そう言い残して旅立ったあの人のように私も。
:
私:「ありがとう」
:
私:幸せだったのだ。
:
0:◆
0:イマジネーション。
:
0:想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。
:
0:◇あらすじ
0:幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。
:
0:◆登場人物
私:空木 思穂(うつろぎ しほ)
私:老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。
彼:空木 想太(うつろぎ そうた)
彼:イマジナリーフレンド。
:
0:◇
:
0:ベッドに私が眠っている。
0:以下、夢であり追想。
:
私:昔、私はずっと大好きだったイマジナリーフレンドに、
:
彼:「思穂。お前は友達じゃない」
:
私:と言われた。
私:それはとてもショックだった。
:
私:そう、私のそばには物心ついたときからイマジナリーフレンドの彼、空木想太がいた。
私:もしかしたら、想太は物心つく前からいたのかも知れない。
私:いつから? どうして? そう思ったことはたぶん無い。
私:兄弟とも、幼なじみとも違う。
私:私にとってイマジナリーフレンドは、想太はそこに居て当たり前の存在だった。
:
彼:「思穂! 一緒にトランプしよ!」
私:幼い私の病室に彼はよく遊びに来た。
彼:「思穂! 元気になったらサッカーしようぜ!」
私:彼のを分けてもらったのか、サッカーは無理でも、私は外で遊べるくらいになった。
彼:「思穂! こっち来て! 珍しい花が咲いてるんだ!」
私:想太との日々は驚きと発見に溢れてた。
彼:「思穂! 何してるの?! 本読めるんだ! すごいね! どんな話なの聞かせて!」
私:私は想太が好きだった。
彼:「思穂! 大好きだよ!」
私:けれど、恥ずかしくてあまり私は好きだって言えなかった。
彼:「思穂! 一緒に学校行こうぜ!」
私:想太と私は一緒に大きくなった。
彼:「思穂! 宿題教えて!」
私:小さい頃は落ち着きの無い子だったけど、
彼:「思穂。なんか辛いことでもあった? 話聞くよ」
私:いつの間にか頼りになる存在になってた。
彼:「思穂。そういえば小さい頃に見つけたあの花好きだったよな。最近やっと名前分かったんだ、ほら、この本の花、そうだろ?」
私:いいえ、最初から頼りになる存在だった。
彼:「思穂。なんかあったら俺に言えよ?」
私:背も気が付いたら私より高くなってた。
彼:「思穂。……いや、何でも無い。ああ、駅前に美味しいパン屋見つけてさ、帰りに寄ってかない?」
私:知らないうちに、どんどん好きになっていった。
彼:「思穂。……俺の顔に何か付いてる?」
私:空木想太、彼は友達、イマジナリーフレンド。
彼:「思穂」
私:友達。そう、友達の筈だった。
:
彼:「思穂。お前は友達じゃない」
:
私:彼はあの時そう言ったんだ。
私:私は泣きたくなった。
彼:「なぁ、思穂」
私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。
:
彼:「お前は友達じゃない。恋人、だろ?」
:
私:私は何も言えなかった。
:
彼:「思穂。好きだ。付き合ってくれるよな?」
:
私:イマジナリーフレンドはイマジナリー彼氏になった。
彼:「思穂。今日はどこ行きたい?」
私:幸せだった。それまでとは違う楽しさ。
彼:「思穂。今日、楽しかったな。って、何ぼーっとしてるんだ? 疲れた?」
私:驚き、発見。
彼:「思穂。俺さ、お前のこと、守るよ」
私:想太への、思い。
彼:「思穂。誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとな」
私:彼とのかけがえのない日々。
彼:「思穂。ずっと一緒に居よう」
私:重ねた時間と足跡はもう数え切れない。
彼:「思穂。俺ってさ、……やっぱ何でも無い。次の休み、どこ行く?」
私:そんなある日、
:
彼:「思穂。話ってさ、何?」
:
私:少し不安そうな、けれど、覚悟したような顔の想太。
私:そして私にも不安があった。
私:けれど、それを口にしたら全てが消えてしまうような気がして、怖かった。
:
彼:「思穂。いいよ、ゆっくりでいいから、俺に話して。ちゃんと、聞くから」
:
私:「あなたは……」
彼:「うん」
私:「想太は、私の本当の……彼氏じゃなくて」
彼:「うん」
私:「私の……」
彼:「うん」
私:「夢咲思穂のイマジナリーな存在」
彼:「…………」
私:「空木想太はイマジナリー彼氏……なんだよね?」
彼:「…………」
私:「…………」
:
彼:「……そうだよ」
:
私:彼はとても傷ついたような顔をしていた。
私:実在性の不安。
私:そんな物は、彼が一番分かっていることだったのに。
私:私は彼に言ってしまったのだ。
:
私:「……そう、だよね」
:
私:でも、だから、この関係は、もう、終わりなんだって。
私:それが少し肩の荷が下りたような、
私:なのに胸を冷たい針で刺されたような、
私:そんな感覚がした。
私:私は私が最低だと思った。
:
彼:「なぁ、思穂」
:
私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。
:
彼:「思穂。俺は、そうだな、空木想太は、お前の言う、本当の意味で彼氏じゃないよ。ずっとずっと、俺達は小さい頃から一緒に居た。けど、実際は、実在性だって怪しい、すごくふわっとした存在だ。お前が瞬きしたら、次の瞬間には、もうそこに俺はいないかも知れない。そんな曖昧な存在が俺だ。けどさ、ああ、でも、思穂。なぁ思穂……、夢咲思穂。俺はお前のことが、君のことが、ずっとずっと好きなんだ。初めて会ったときから、いいや、俺が俺になった時から、もしかしたらそれよりも前から。ずっとずっと好きなんだ。君が想像したからじゃ無い、俺が、そうしたいと、愛したいと想ったから愛してるんだ。なぁ、思穂。だから僕は君の夫になりたい。君が実在性に不安を覚えた僕は、もっと、はっきりと存在を感じられるよう、君をもっと安心させてあげられるように、君の夫になりたい。思穂さん。結婚してください。僕は僕という存在に懸けて、あなたを幸せにします」
:
私:イマジナリー彼氏はイマジナリー婚約者になった。
彼:「思穂。とても綺麗だよ」
私:まもなく結婚してイマジナリーパートナーになり、
彼:「思穂。ほら、みて……! 僕達の子だよ! 賑やかになるね、ふふ、あぁ……! 思穂! よく頑張ったね」
私:イマジナリー息子と、
彼:「大志! 希実!」
私:イマジナリー娘が生まれたことでイマジナリーパパになり、
彼:「あんまり遠くに行くんじゃ無いぞ! もう、元気だなぁ。誰に似たんだか。……僕? ははは、君もだよ」
私:イマジナリー所帯を持ち、
彼:「思穂。僕らも行こうよ。折角家族で遊びに来たんだから、思い出作らなくっちゃ!」
私:イマジナリー家族として私達は幸せに暮らしてきた。
:
私:そして時は流れて、
:
彼:「思穂おばあさん。孫の抱き心地はどうかな? 懐かしいな、こうしてると、大志と思穂が生まれた頃を思い出すよ。ああ、僕は幸せだなぁ」
私:イマジナリー孫も生まれ、イマジナリーおじいちゃんになっても、
彼:「思穂さん。君は幸せかい?」
私:もちろん、幸せで、あの人のことを私は大好きだった。
彼:「思穂、さん」
私:そんなあの人も、
私:三年前に亡くなった。
:
私:あの人は大人げもなく泣きじゃくる私に、ぽつぽつと話し始めた。
彼:「思穂さん、……思穂。誕生日、おめでとう」
私:私は顔を上げた。
彼:「生まれてきてくれてありがとな」
私:戸惑いと悲しみが混ざり合って、上手く声が出なかった。
彼:「昔、そんなことを言ったことがあったけど、憶えているかい? 憶えて無くても、良いんだ」
私:憶えている。彼との、あなたとの、想太との、私達の思い出は全部全部。
彼:「僕のそばにはね、イマジナリーフレンドとして物心ついたときから、イマジナリーフレンドである前から、君が、思穂がいた。いつから? どうして? そう思ったことは無いんだ。兄弟とも、幼なじみとも違う。僕にとっての思穂は、イマジナリーフレンドの友達はそこに居て当たり前の存在だったから」
私:それは私も同じだった。
:
彼:ただね、
私:「ただ……?」
彼:「思穂。僕はずっと、君に言えなかったことがあるんだ」
私:「言えなかったこと?」
彼:「うん、僕は想像もしていなかったから」
私:「想像?」
彼:「うん、だから、僕は言うよ。ありがとう、って」
私:「でも生まれてきてくれてって……」
彼:「そうじゃ無くて僕を」
私:「想太を」
彼:「あのまま、消えて居なくなる筈だった僕を、そこで終わりだった空木想太を、ここまで、こんな素敵な、幸せなところまで連れてきてくれて、ありがとうって」
私:「あ……」
彼:「思穂。ありがとう」
私:「ねぇ想太」
彼:「なんだい?」
私:「あなたは私の友達? イマジナリーフレンド? それとも……」
彼:「僕は」
私:「…………」
彼:「僕は最期まで、君の最高のイマジナリーパートナーであれただろうか?」
私:「うん、まるで、夢のようだった」
彼:「ふふふ……それなら、僕は何者でも良い」
私:「私も!」
彼:「うん」
私:「ずっと、言えなかった」
彼:「うん」
私:「あなたのこと」
彼:「うん」
私:「想太のこと」
彼:「うん」
私:「ずっとずっと大好きだった」
彼:「ありがとう」
私:「生まれてきてくれて、ありがとう」
彼:「うん」
私:「私のイマジナリーフレンドになってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「私のイマジナリー彼氏になってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「パートナーに、家族に、幸せに、生きる意味に、私の全てになってくれて……ううん、空木想太であってくれてありがとう」
彼:「うん」
私:「本当にありがとう、想太」
彼:「うん」
:
私:そして彼はいつもの笑顔で、
:
彼:「思穂」
:
私:愛しい声で、
:
彼:「今までありがとう」
:
私:そう言って旅立った。
私:だから、次は私の番。
私:私は今、大志に希実にその子供達、イマジナリー家族に囲まれて、最期の時を迎えようとしている。
私:イマジナリーでない人々はこの場にいない。
私:お医者さんも看護婦さんもイマジナリー。
私:実在性なんて自分自身を含めて怪しいものだ。
私:けれど、私は思う。
私:あの人の大好きな笑顔を思い出して。
私:そう、もう分かってる。
私:きっと、この幸せだけはイマジナリーじゃない。
私:だって、イマジナリーを超えて、
:
私:「想像の先にあった空木思穂の人生は、とっても素敵だったんだもの」
:
私:それはあの人も、言っていたように。
私:だから、そう言い残して旅立ったあの人のように私も。
:
私:「ありがとう」
:
私:幸せだったのだ。
:
0:◆