台本概要

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タイトル イマジネーション。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。

◇あらすじ
幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
80 空木 思穂(うつろぎ しほ) 老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。
70 空木 想太(うつろぎ そうた) イマジナリーフレンド。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:イマジネーション。 : 0:想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。 : 0:◇あらすじ 0:幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。 : 0:◆登場人物 私:空木 思穂(うつろぎ しほ) 私:老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。 彼:空木 想太(うつろぎ そうた) 彼:イマジナリーフレンド。 : 0:◇ : 0:ベッドに私が眠っている。 0:以下、夢であり追想。 : 私:昔、私はずっと大好きだったイマジナリーフレンドに、 : 彼:「思穂。お前は友達じゃない」 : 私:と言われた。 私:それはとてもショックだった。 : 私:そう、私のそばには物心ついたときからイマジナリーフレンドの彼、空木想太がいた。 私:もしかしたら、想太は物心つく前からいたのかも知れない。 私:いつから? どうして? そう思ったことはたぶん無い。 私:兄弟とも、幼なじみとも違う。 私:私にとってイマジナリーフレンドは、想太はそこに居て当たり前の存在だった。 : 彼:「思穂! 一緒にトランプしよ!」 私:幼い私の病室に彼はよく遊びに来た。 彼:「思穂! 元気になったらサッカーしようぜ!」 私:彼のを分けてもらったのか、サッカーは無理でも、私は外で遊べるくらいになった。 彼:「思穂! こっち来て! 珍しい花が咲いてるんだ!」 私:想太との日々は驚きと発見に溢れてた。 彼:「思穂! 何してるの?! 本読めるんだ! すごいね! どんな話なの聞かせて!」 私:私は想太が好きだった。 彼:「思穂! 大好きだよ!」 私:けれど、恥ずかしくてあまり私は好きだって言えなかった。 彼:「思穂! 一緒に学校行こうぜ!」 私:想太と私は一緒に大きくなった。 彼:「思穂! 宿題教えて!」 私:小さい頃は落ち着きの無い子だったけど、 彼:「思穂。なんか辛いことでもあった? 話聞くよ」 私:いつの間にか頼りになる存在になってた。 彼:「思穂。そういえば小さい頃に見つけたあの花好きだったよな。最近やっと名前分かったんだ、ほら、この本の花、そうだろ?」 私:いいえ、最初から頼りになる存在だった。 彼:「思穂。なんかあったら俺に言えよ?」 私:背も気が付いたら私より高くなってた。 彼:「思穂。……いや、何でも無い。ああ、駅前に美味しいパン屋見つけてさ、帰りに寄ってかない?」 私:知らないうちに、どんどん好きになっていった。 彼:「思穂。……俺の顔に何か付いてる?」 私:空木想太、彼は友達、イマジナリーフレンド。 彼:「思穂」 私:友達。そう、友達の筈だった。 : 彼:「思穂。お前は友達じゃない」 : 私:彼はあの時そう言ったんだ。 私:私は泣きたくなった。 彼:「なぁ、思穂」 私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。 : 彼:「お前は友達じゃない。恋人、だろ?」 : 私:私は何も言えなかった。 : 彼:「思穂。好きだ。付き合ってくれるよな?」 : 私:イマジナリーフレンドはイマジナリー彼氏になった。 彼:「思穂。今日はどこ行きたい?」 私:幸せだった。それまでとは違う楽しさ。 彼:「思穂。今日、楽しかったな。って、何ぼーっとしてるんだ? 疲れた?」 私:驚き、発見。 彼:「思穂。俺さ、お前のこと、守るよ」 私:想太への、思い。 彼:「思穂。誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとな」 私:彼とのかけがえのない日々。 彼:「思穂。ずっと一緒に居よう」 私:重ねた時間と足跡はもう数え切れない。 彼:「思穂。俺ってさ、……やっぱ何でも無い。次の休み、どこ行く?」 私:そんなある日、 : 彼:「思穂。話ってさ、何?」 : 私:少し不安そうな、けれど、覚悟したような顔の想太。 私:そして私にも不安があった。 私:けれど、それを口にしたら全てが消えてしまうような気がして、怖かった。 : 彼:「思穂。いいよ、ゆっくりでいいから、俺に話して。ちゃんと、聞くから」 : 私:「あなたは……」 彼:「うん」 私:「想太は、私の本当の……彼氏じゃなくて」 彼:「うん」 私:「私の……」 彼:「うん」 私:「夢咲思穂のイマジナリーな存在」 彼:「…………」 私:「空木想太はイマジナリー彼氏……なんだよね?」 彼:「…………」 私:「…………」 : 彼:「……そうだよ」 : 私:彼はとても傷ついたような顔をしていた。 私:実在性の不安。 私:そんな物は、彼が一番分かっていることだったのに。 私:私は彼に言ってしまったのだ。 : 私:「……そう、だよね」 : 私:でも、だから、この関係は、もう、終わりなんだって。 私:それが少し肩の荷が下りたような、 私:なのに胸を冷たい針で刺されたような、 私:そんな感覚がした。 私:私は私が最低だと思った。 : 彼:「なぁ、思穂」 : 私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。 : 彼:「思穂。俺は、そうだな、空木想太は、お前の言う、本当の意味で彼氏じゃないよ。ずっとずっと、俺達は小さい頃から一緒に居た。けど、実際は、実在性だって怪しい、すごくふわっとした存在だ。お前が瞬きしたら、次の瞬間には、もうそこに俺はいないかも知れない。そんな曖昧な存在が俺だ。けどさ、ああ、でも、思穂。なぁ思穂……、夢咲思穂。俺はお前のことが、君のことが、ずっとずっと好きなんだ。初めて会ったときから、いいや、俺が俺になった時から、もしかしたらそれよりも前から。ずっとずっと好きなんだ。君が想像したからじゃ無い、俺が、そうしたいと、愛したいと想ったから愛してるんだ。なぁ、思穂。だから僕は君の夫になりたい。君が実在性に不安を覚えた僕は、もっと、はっきりと存在を感じられるよう、君をもっと安心させてあげられるように、君の夫になりたい。思穂さん。結婚してください。僕は僕という存在に懸けて、あなたを幸せにします」 : 私:イマジナリー彼氏はイマジナリー婚約者になった。 彼:「思穂。とても綺麗だよ」 私:まもなく結婚してイマジナリーパートナーになり、 彼:「思穂。ほら、みて……! 僕達の子だよ! 賑やかになるね、ふふ、あぁ……! 思穂! よく頑張ったね」 私:イマジナリー息子と、 彼:「大志! 希実!」 私:イマジナリー娘が生まれたことでイマジナリーパパになり、 彼:「あんまり遠くに行くんじゃ無いぞ! もう、元気だなぁ。誰に似たんだか。……僕? ははは、君もだよ」 私:イマジナリー所帯を持ち、 彼:「思穂。僕らも行こうよ。折角家族で遊びに来たんだから、思い出作らなくっちゃ!」 私:イマジナリー家族として私達は幸せに暮らしてきた。 : 私:そして時は流れて、 : 彼:「思穂おばあさん。孫の抱き心地はどうかな? 懐かしいな、こうしてると、大志と思穂が生まれた頃を思い出すよ。ああ、僕は幸せだなぁ」 私:イマジナリー孫も生まれ、イマジナリーおじいちゃんになっても、 彼:「思穂さん。君は幸せかい?」 私:もちろん、幸せで、あの人のことを私は大好きだった。 彼:「思穂、さん」 私:そんなあの人も、 私:三年前に亡くなった。 : 私:あの人は大人げもなく泣きじゃくる私に、ぽつぽつと話し始めた。 彼:「思穂さん、……思穂。誕生日、おめでとう」 私:私は顔を上げた。 彼:「生まれてきてくれてありがとな」 私:戸惑いと悲しみが混ざり合って、上手く声が出なかった。 彼:「昔、そんなことを言ったことがあったけど、憶えているかい? 憶えて無くても、良いんだ」 私:憶えている。彼との、あなたとの、想太との、私達の思い出は全部全部。 彼:「僕のそばにはね、イマジナリーフレンドとして物心ついたときから、イマジナリーフレンドである前から、君が、思穂がいた。いつから? どうして? そう思ったことは無いんだ。兄弟とも、幼なじみとも違う。僕にとっての思穂は、イマジナリーフレンドの友達はそこに居て当たり前の存在だったから」 私:それは私も同じだった。 : 彼:ただね、 私:「ただ……?」 彼:「思穂。僕はずっと、君に言えなかったことがあるんだ」 私:「言えなかったこと?」 彼:「うん、僕は想像もしていなかったから」 私:「想像?」 彼:「うん、だから、僕は言うよ。ありがとう、って」 私:「でも生まれてきてくれてって……」 彼:「そうじゃ無くて僕を」 私:「想太を」 彼:「あのまま、消えて居なくなる筈だった僕を、そこで終わりだった空木想太を、ここまで、こんな素敵な、幸せなところまで連れてきてくれて、ありがとうって」 私:「あ……」 彼:「思穂。ありがとう」 私:「ねぇ想太」 彼:「なんだい?」 私:「あなたは私の友達? イマジナリーフレンド? それとも……」 彼:「僕は」 私:「…………」 彼:「僕は最期まで、君の最高のイマジナリーパートナーであれただろうか?」 私:「うん、まるで、夢のようだった」 彼:「ふふふ……それなら、僕は何者でも良い」 私:「私も!」 彼:「うん」 私:「ずっと、言えなかった」 彼:「うん」 私:「あなたのこと」 彼:「うん」 私:「想太のこと」 彼:「うん」 私:「ずっとずっと大好きだった」 彼:「ありがとう」 私:「生まれてきてくれて、ありがとう」 彼:「うん」 私:「私のイマジナリーフレンドになってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「私のイマジナリー彼氏になってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「パートナーに、家族に、幸せに、生きる意味に、私の全てになってくれて……ううん、空木想太であってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「本当にありがとう、想太」 彼:「うん」 : 私:そして彼はいつもの笑顔で、 : 彼:「思穂」 : 私:愛しい声で、 : 彼:「今までありがとう」 : 私:そう言って旅立った。 私:だから、次は私の番。 私:私は今、大志に希実にその子供達、イマジナリー家族に囲まれて、最期の時を迎えようとしている。 私:イマジナリーでない人々はこの場にいない。 私:お医者さんも看護婦さんもイマジナリー。 私:実在性なんて自分自身を含めて怪しいものだ。 私:けれど、私は思う。 私:あの人の大好きな笑顔を思い出して。 私:そう、もう分かってる。 私:きっと、この幸せだけはイマジナリーじゃない。 私:だって、イマジナリーを超えて、 : 私:「想像の先にあった空木思穂の人生は、とっても素敵だったんだもの」 : 私:それはあの人も、言っていたように。 私:だから、そう言い残して旅立ったあの人のように私も。 : 私:「ありがとう」 : 私:幸せだったのだ。 : 0:◆

0:イマジネーション。 : 0:想像であって、空想で無い。たとえそうだとしてもそこにはあの人を想った分の愛が残る。あの空いっぱいの愛だけが。 : 0:◇あらすじ 0:幼い頃から一緒に過ごしたイマジナリーフレンドの少年と出会ってから別れるまでの、ある女性の追想とモノローグ。 : 0:◆登場人物 私:空木 思穂(うつろぎ しほ) 私:老女。旧姓、夢咲(ゆめさき)子供の名前は大志(たいし)と希実(のぞみ)。 彼:空木 想太(うつろぎ そうた) 彼:イマジナリーフレンド。 : 0:◇ : 0:ベッドに私が眠っている。 0:以下、夢であり追想。 : 私:昔、私はずっと大好きだったイマジナリーフレンドに、 : 彼:「思穂。お前は友達じゃない」 : 私:と言われた。 私:それはとてもショックだった。 : 私:そう、私のそばには物心ついたときからイマジナリーフレンドの彼、空木想太がいた。 私:もしかしたら、想太は物心つく前からいたのかも知れない。 私:いつから? どうして? そう思ったことはたぶん無い。 私:兄弟とも、幼なじみとも違う。 私:私にとってイマジナリーフレンドは、想太はそこに居て当たり前の存在だった。 : 彼:「思穂! 一緒にトランプしよ!」 私:幼い私の病室に彼はよく遊びに来た。 彼:「思穂! 元気になったらサッカーしようぜ!」 私:彼のを分けてもらったのか、サッカーは無理でも、私は外で遊べるくらいになった。 彼:「思穂! こっち来て! 珍しい花が咲いてるんだ!」 私:想太との日々は驚きと発見に溢れてた。 彼:「思穂! 何してるの?! 本読めるんだ! すごいね! どんな話なの聞かせて!」 私:私は想太が好きだった。 彼:「思穂! 大好きだよ!」 私:けれど、恥ずかしくてあまり私は好きだって言えなかった。 彼:「思穂! 一緒に学校行こうぜ!」 私:想太と私は一緒に大きくなった。 彼:「思穂! 宿題教えて!」 私:小さい頃は落ち着きの無い子だったけど、 彼:「思穂。なんか辛いことでもあった? 話聞くよ」 私:いつの間にか頼りになる存在になってた。 彼:「思穂。そういえば小さい頃に見つけたあの花好きだったよな。最近やっと名前分かったんだ、ほら、この本の花、そうだろ?」 私:いいえ、最初から頼りになる存在だった。 彼:「思穂。なんかあったら俺に言えよ?」 私:背も気が付いたら私より高くなってた。 彼:「思穂。……いや、何でも無い。ああ、駅前に美味しいパン屋見つけてさ、帰りに寄ってかない?」 私:知らないうちに、どんどん好きになっていった。 彼:「思穂。……俺の顔に何か付いてる?」 私:空木想太、彼は友達、イマジナリーフレンド。 彼:「思穂」 私:友達。そう、友達の筈だった。 : 彼:「思穂。お前は友達じゃない」 : 私:彼はあの時そう言ったんだ。 私:私は泣きたくなった。 彼:「なぁ、思穂」 私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。 : 彼:「お前は友達じゃない。恋人、だろ?」 : 私:私は何も言えなかった。 : 彼:「思穂。好きだ。付き合ってくれるよな?」 : 私:イマジナリーフレンドはイマジナリー彼氏になった。 彼:「思穂。今日はどこ行きたい?」 私:幸せだった。それまでとは違う楽しさ。 彼:「思穂。今日、楽しかったな。って、何ぼーっとしてるんだ? 疲れた?」 私:驚き、発見。 彼:「思穂。俺さ、お前のこと、守るよ」 私:想太への、思い。 彼:「思穂。誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとな」 私:彼とのかけがえのない日々。 彼:「思穂。ずっと一緒に居よう」 私:重ねた時間と足跡はもう数え切れない。 彼:「思穂。俺ってさ、……やっぱ何でも無い。次の休み、どこ行く?」 私:そんなある日、 : 彼:「思穂。話ってさ、何?」 : 私:少し不安そうな、けれど、覚悟したような顔の想太。 私:そして私にも不安があった。 私:けれど、それを口にしたら全てが消えてしまうような気がして、怖かった。 : 彼:「思穂。いいよ、ゆっくりでいいから、俺に話して。ちゃんと、聞くから」 : 私:「あなたは……」 彼:「うん」 私:「想太は、私の本当の……彼氏じゃなくて」 彼:「うん」 私:「私の……」 彼:「うん」 私:「夢咲思穂のイマジナリーな存在」 彼:「…………」 私:「空木想太はイマジナリー彼氏……なんだよね?」 彼:「…………」 私:「…………」 : 彼:「……そうだよ」 : 私:彼はとても傷ついたような顔をしていた。 私:実在性の不安。 私:そんな物は、彼が一番分かっていることだったのに。 私:私は彼に言ってしまったのだ。 : 私:「……そう、だよね」 : 私:でも、だから、この関係は、もう、終わりなんだって。 私:それが少し肩の荷が下りたような、 私:なのに胸を冷たい針で刺されたような、 私:そんな感覚がした。 私:私は私が最低だと思った。 : 彼:「なぁ、思穂」 : 私:けれど、その後すぐに彼は笑顔で言った。 : 彼:「思穂。俺は、そうだな、空木想太は、お前の言う、本当の意味で彼氏じゃないよ。ずっとずっと、俺達は小さい頃から一緒に居た。けど、実際は、実在性だって怪しい、すごくふわっとした存在だ。お前が瞬きしたら、次の瞬間には、もうそこに俺はいないかも知れない。そんな曖昧な存在が俺だ。けどさ、ああ、でも、思穂。なぁ思穂……、夢咲思穂。俺はお前のことが、君のことが、ずっとずっと好きなんだ。初めて会ったときから、いいや、俺が俺になった時から、もしかしたらそれよりも前から。ずっとずっと好きなんだ。君が想像したからじゃ無い、俺が、そうしたいと、愛したいと想ったから愛してるんだ。なぁ、思穂。だから僕は君の夫になりたい。君が実在性に不安を覚えた僕は、もっと、はっきりと存在を感じられるよう、君をもっと安心させてあげられるように、君の夫になりたい。思穂さん。結婚してください。僕は僕という存在に懸けて、あなたを幸せにします」 : 私:イマジナリー彼氏はイマジナリー婚約者になった。 彼:「思穂。とても綺麗だよ」 私:まもなく結婚してイマジナリーパートナーになり、 彼:「思穂。ほら、みて……! 僕達の子だよ! 賑やかになるね、ふふ、あぁ……! 思穂! よく頑張ったね」 私:イマジナリー息子と、 彼:「大志! 希実!」 私:イマジナリー娘が生まれたことでイマジナリーパパになり、 彼:「あんまり遠くに行くんじゃ無いぞ! もう、元気だなぁ。誰に似たんだか。……僕? ははは、君もだよ」 私:イマジナリー所帯を持ち、 彼:「思穂。僕らも行こうよ。折角家族で遊びに来たんだから、思い出作らなくっちゃ!」 私:イマジナリー家族として私達は幸せに暮らしてきた。 : 私:そして時は流れて、 : 彼:「思穂おばあさん。孫の抱き心地はどうかな? 懐かしいな、こうしてると、大志と思穂が生まれた頃を思い出すよ。ああ、僕は幸せだなぁ」 私:イマジナリー孫も生まれ、イマジナリーおじいちゃんになっても、 彼:「思穂さん。君は幸せかい?」 私:もちろん、幸せで、あの人のことを私は大好きだった。 彼:「思穂、さん」 私:そんなあの人も、 私:三年前に亡くなった。 : 私:あの人は大人げもなく泣きじゃくる私に、ぽつぽつと話し始めた。 彼:「思穂さん、……思穂。誕生日、おめでとう」 私:私は顔を上げた。 彼:「生まれてきてくれてありがとな」 私:戸惑いと悲しみが混ざり合って、上手く声が出なかった。 彼:「昔、そんなことを言ったことがあったけど、憶えているかい? 憶えて無くても、良いんだ」 私:憶えている。彼との、あなたとの、想太との、私達の思い出は全部全部。 彼:「僕のそばにはね、イマジナリーフレンドとして物心ついたときから、イマジナリーフレンドである前から、君が、思穂がいた。いつから? どうして? そう思ったことは無いんだ。兄弟とも、幼なじみとも違う。僕にとっての思穂は、イマジナリーフレンドの友達はそこに居て当たり前の存在だったから」 私:それは私も同じだった。 : 彼:ただね、 私:「ただ……?」 彼:「思穂。僕はずっと、君に言えなかったことがあるんだ」 私:「言えなかったこと?」 彼:「うん、僕は想像もしていなかったから」 私:「想像?」 彼:「うん、だから、僕は言うよ。ありがとう、って」 私:「でも生まれてきてくれてって……」 彼:「そうじゃ無くて僕を」 私:「想太を」 彼:「あのまま、消えて居なくなる筈だった僕を、そこで終わりだった空木想太を、ここまで、こんな素敵な、幸せなところまで連れてきてくれて、ありがとうって」 私:「あ……」 彼:「思穂。ありがとう」 私:「ねぇ想太」 彼:「なんだい?」 私:「あなたは私の友達? イマジナリーフレンド? それとも……」 彼:「僕は」 私:「…………」 彼:「僕は最期まで、君の最高のイマジナリーパートナーであれただろうか?」 私:「うん、まるで、夢のようだった」 彼:「ふふふ……それなら、僕は何者でも良い」 私:「私も!」 彼:「うん」 私:「ずっと、言えなかった」 彼:「うん」 私:「あなたのこと」 彼:「うん」 私:「想太のこと」 彼:「うん」 私:「ずっとずっと大好きだった」 彼:「ありがとう」 私:「生まれてきてくれて、ありがとう」 彼:「うん」 私:「私のイマジナリーフレンドになってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「私のイマジナリー彼氏になってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「パートナーに、家族に、幸せに、生きる意味に、私の全てになってくれて……ううん、空木想太であってくれてありがとう」 彼:「うん」 私:「本当にありがとう、想太」 彼:「うん」 : 私:そして彼はいつもの笑顔で、 : 彼:「思穂」 : 私:愛しい声で、 : 彼:「今までありがとう」 : 私:そう言って旅立った。 私:だから、次は私の番。 私:私は今、大志に希実にその子供達、イマジナリー家族に囲まれて、最期の時を迎えようとしている。 私:イマジナリーでない人々はこの場にいない。 私:お医者さんも看護婦さんもイマジナリー。 私:実在性なんて自分自身を含めて怪しいものだ。 私:けれど、私は思う。 私:あの人の大好きな笑顔を思い出して。 私:そう、もう分かってる。 私:きっと、この幸せだけはイマジナリーじゃない。 私:だって、イマジナリーを超えて、 : 私:「想像の先にあった空木思穂の人生は、とっても素敵だったんだもの」 : 私:それはあの人も、言っていたように。 私:だから、そう言い残して旅立ったあの人のように私も。 : 私:「ありがとう」 : 私:幸せだったのだ。 : 0:◆