台本概要

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タイトル 奇遇。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 1人用台本(女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 それを偶然と呼ぶか運命と呼ぶかは趣味の問題だけれど、その呼び方が合ったなら気も合うだろう。

◆あらすじ◇
あるとき思い立って出かけた一人旅。旅先で思い掛けない奇遇な出会いをする私と彼。滅茶苦茶気の合う二人だったが……。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
61 一人旅に出る。衝動的に出かけたりするので、あまり誰かと行動したがらない。少しイタズラが好き。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:奇遇。 : 0:それを偶然と呼ぶか運命と呼ぶかは趣味の問題だけれど、その呼び方が合ったなら気も合うだろう。 : 0:◆あらすじ◇ 0:あるとき思い立って出かけた一人旅。旅先で思い掛けない奇遇な出会いをする私と彼。滅茶苦茶気の合う二人だったが……。 : 0:◇登場人物◆ 私:一人旅に出る。衝動的に出かけたりするので、あまり誰かと行動したがらない。少しイタズラが好き。 : 0:◆◆◇◇ : 私:大型連休でも何でも無い普通の土日休みの日曜日。 私:私は早朝に目が覚めたので、折角だからとなんか思い立って海に行くことにした。 私:一人旅。 私:別に一緒に行く友達がいないわけではないんだけど、私は一人旅が好きだった。 私:「色んな景色や物を見て、たくさん美味しい物を食べたり、なんか買って帰るにしても、喜びや感動を共有できた方が楽しいんじゃ無いの?」 私:って、電車での移動中に「遊ぼうぜ」ってかかってきた電話の向こうの友達は言うけれど。 私:そして暗に「連れて行けよ、声かけろよ」と圧かけてくるけど、いやぁ、なんか違うんだよねってのが私の感想。 私:友達はそれ聞いて露骨に嫌な声出すけれど、でも一緒に行ってもそもそも別行動するじゃんあんた。って思ったのでそう言った。 私:それなら最初からそれぞれ行きたいとこ行って、あとで旅の話とかしたら良いんじゃ無いの? 私:って言ったら「それもそうだね」って。 私:適当か。 : 0:◆ : 私:そんな感じで来た旅先。 私:行き当たりばったりの旅先で、私は思い掛けない人物とばったり行き当たる。 : 私:あ、シャツの柄だだ被りだ。 : 私:向かいから私のシャツと、おまけにジーンズの色味まで同じ人が歩いてきていた。 私:しかも目が合った。 私:うわぁ最悪、恥ずかしいなぁ。 私:なんて思っていると、どうしたことだろう、彼は話しかけてきた。 私:なんだよちょっと、そういうのやめてよね。 私:そう思ったけれど、違ったらしい。 : 私:「すみません、もし良かったら写真撮ってくれませんか?」 : 私:いや、どうせ一人なんだし自撮りで良いじゃん。 私:なんで私なんだよ。と、思いながら、それでもなんだか断るのも感じ悪いから、渋々、そうと悟られないように表面上はにっこりと、その人に渡されたスマートフォンを受け取る。 私:見ると見事にそれも同じ機種。カバーまで同じ。 私:思わず私、あはは。 : 私:「どうかしましたか?」 : 私:いえ、何も。 私:と、苦笑いしながら彼を撮ろうとしたところでふと、いつか読んだ太宰の『富岳百景』を思い出して、彼を撮らずに風景だけ撮ってやった。 : 私:ハイ、チーズ。 : 私:富士山じゃなくて海だったけれど。 私:まぁ、二度と会うことも無いだろうし、問題ないだろう。 私:私はスマートフォンを渡すと足早に去ろうとした。 私:……のだけれど。 : 私:「もし良かったら僕も撮りましょうか? 折角なので」 : 私:撮ってくれると言うのなら、別に断る理由もない。普段は自撮りか、そもそも風景しか撮らないのだけど、たまにはこういうのも悪くはないだろう。 私:ああ、でも、一人旅なのにこんな写真残ってたら、例の友達に「お前ぇ誰と行ってきたんだぁ!}って聞かれてしまうかも知れない。 私:ハイテンションで痛くも無い腹を探られる。 私:それはこの上なく嫌だけど、旅先で会った人に撮ってもらったって言えばいい話か。 私:あいつ適当だから、それで納得するだろう。 私:うん。 私:私は彼にスマートフォンを渡す。 私:すると、何やら怪訝な顔をされた。 私:どうしたの? って聞くと、彼はおずおずと口を開いた。 : 私:「増やしました?」 : 私:どうやら同じ機種であることに気付いた様子。 私:思わず、あはは。増やしてない増やしてない。 : 私:「あ、じゃあ偶然かぶっちゃったんですね」 : 私:じゃあって何、本気で増やしたと思ったの? 私:そう言うと、彼も「あはは」と、苦笑。 私:なんだかその笑い方が妙にしっくり来るなと思った。 私:いや、というか変な言い方だけど、なんとなくその顔に馴染む感じだった。 : 私:「ハイ、チーズ」 : 私:不意打ちだった。 私:ちょっと! 私:ムスっとしながら私はスマートフォンを受け取る。 : 私:「すみませんすみません、良い表情だったので、あはは。つい」 : 私:良い表情なもんか。私はきっとかなり微妙な苦笑をしていた筈だ。 私:そんな私を前に、それこそ彼は良い表情をしていた。 : 私:「それじゃあ」 : 私:と、彼。 私:彼が行ってしまう。 私:なんとなくだった。なんとなく私が、 私:あの。 私:と声をかけようとしたところで、 私:彼もまた、 : 私:「あの」 : 私:と言った。 私:驚いた。 私:彼も驚いてた。 私:先に彼の言いたいことを聞いた。 : 私:「お茶でもしませんか」 : 私:とのことだった。 私:私も、同じつもり。と伝えて、お互い「奇遇ですね」なんて言って意気投合。 私:これがその日の午前のこと。 : 0:◇ : 私:お茶とは言ったけど、なんだかんだ言ってもう結構良い時間だったのでランチに行くことにした。 私:結構有名な観光地だし、色々ありすぎて入るお店で迷うんじゃないかなと思った。それに全然意見が合わないかも。 私:そういうのが嫌で一人旅をしている節もある私だったりするのだけど、あ、ここ良さそうですね! 私がそう言おうとしたときに、彼が。 : 私:「ここ行きませんか?」 : 私:ほとんど同時。 私:そんな感じで意外とすんなり、私達のお眼鏡にかなうお店は見つかってしまった。 私:ほんとに気が合うなぁ。 私:そう思っていたら、 : 私:「ほんとに気が合うなぁ」 : 私:と、彼が言った。 私:だから私も、ほんとに気が合うなぁ。 私:と、口に出して言った。 私:彼は笑った。 私:私も笑った。 私:テーブル席で向かい合うように私達は座った。 私:お互い横向きになったメニューを身を乗り出し気味に一瞥する。 私:私は注文するのに時間をかける方では無いので、彼の方に向けようとしたら、彼も同じように回そうとしたみたいでメニューがくるっと一回転した。 私:私は思わず、あはは。と笑ってしまった。 私:彼も思わずといった感じで「あはは」って笑ってた。 私:お互いメニューが決まってそうだと思ったので、店員さんを呼び止めようとした。 私:それもほとんど同時だったので、思いのほか良い感じのハーモニーになって驚いた。 私:ほんとに驚いたのは店員さんだと思うけど。 私:ご注文をどうぞと言われたので、先に私のを言ってから彼のを聞こうと思ったら、 : 私:「白砂海岸ホワイトとろとろシーフードオムライスと」 : 私:と、同時に言って、互いに「あ。」と言った。 私:困ったことに全く同じものが気になったらしい。 私:それで店員さんは私達を見比べて少し微笑んだ。 私:コントのようにかぶったから笑っているのかと思ったけど、違った。 私:それもあるんだけど、たぶん店員さんは私達のシャツを見て笑っていたらしい。 : 私:「あ。」 : 私:よく考えてみれば私達は図らずもペアルックなのだ。 私:私は少し照れた。 私:彼も少し照れたらしい。 私:しばらくして出てきたオムライスの味を、私はよく覚えていない。 私:彼はどうなのだろう? : 0:◆◇ : 私:その後はシャツのことも忘れて、というか半ばやけくそでぶらぶらと二人で観光した。 私:傍から見ればぶらぶらというか、らぶらぶやってらぁ。 私:って感じだったのかも知れないけど。 私:私にそんなことを考える余裕はなかった。 私:なんて言うのだろう? 私:私は、率直に言うと、 私:あ、二人も良いな。 私:って思った。 私:ただ、友達が言ってたみたいに共有するって感じではなくて、私達は意見がすれ違うこともなければ、違う見方をすることもなく、そう、なんとなく二倍楽しかった。 私:そんな時間はあっという間に過ぎていく。 私:もしかしたら時間も二倍速で進んでいたのかな、なんて。 私:その時が近付いてる。 私:偶然出会って、偶然シャツが被ってて、偶然が気が合ったり、色んな偶然が重なった私と彼だけど、そろそろ頃合いだ。 私:そんなことを考えてると、私は切っ掛けとなった例の写真のことを思い出した。 私:あ、やっちゃったかも。 私:まぁ、二度と会うことも無いだろうし、問題ないだろう。 私:あの時はそう思ってたけど、この出会いを、私はなんか嫌な思い出にしたくなくなった。 私:ごめんなさい、あの時の写真なんだけど……。 私:そう言おう言おうとしたら、彼が、 : 私:「ごめん実は、あの時の写真なんだけど……。」 : 私:え、あなたも? 私:彼は「も?」と言った。 私:お互い保存された『風景写真』を見せ合って「あはは。」と、笑い合った。 私:「こいつめ! やってくれたな!」 私:なんて、散々笑った。 私:ひとしきり笑い合って、丁度良かったので改めて二人で一緒に撮った。 私:自慢じゃないけど夕陽に照らされた私と彼は、お互い最高の笑顔だった。 私:あまりに良い笑顔だったから、この写真はちょっとあいつに見せられないな、なんて思った。 私:それで私達は名残惜しくも、なんとなく連絡先を交換して解散する運びとなった。 私:また会えるといいな、なんて珍しく、思った。 : 0:◇◆ : 私:けれど、どうしたことか。 私:帰りのバスが一緒だった。 私:別々に乗ったはずなのにふと、何気なく隣を見ると彼がいた。 私:彼もびっくりしたような、バツの悪いような顔で、 : 私:「あはは。」 : 私:しかも彼の持ってるお土産と私のお土産、よく見たら全く同じ。 私:ほんと気が合うなぁ。と思った。 私:その後、やっぱりというか、当然というか。乗る電車は同じだった。 : 私:「奇遇だねぇ」 : 私:なんて彼と私は笑いながら話した。 私:旅先ではあんまりお互いのことを話していなかったのだけれど、他に話すこともないから、色んなことを話した。 私:私は彼と話している内に、ある予感が大きくなっているのを感じた。 私:好きな本や映画、音楽、最近見たドラマ、持っている自転車の色、昔飼っていたハムスターの名前、嫌いな食べ物、好きな数字、座右の銘、誕生日、フォローしている有名人、考え方、尊敬している人、そして、降りる駅も同じだった。 : 私:「奇遇だねぇ」 : 私:なんて彼と私は真剣な面持ちで話した。 私:帰り道の方向も同じで、住んでる町も同じで……。 私:折角だから家まで送るよ、と私は言った。 私:彼も、 : 私:「折角だから家まで送るよ」 : 私:そう言った。 私:お互い「あはは」と笑って、沈黙。 私:私は恐る恐る住所と、今更ながら彼の名前を訪ねた。 私:彼も同じように訪ねてきた。 私:仕方が無いので「せーので言おっか」なんて言った。 私:もしかしたら、せーのなんて言う必要無かったんじゃないかな。 私:……同じだった。 私:住所も名前も。 : 0:◇◆◆ : 私:私達はとりあえず、手こそ繋がなかったけど二人で並んでお互いの家の前まで帰ってきた。 : 私:「きっと僕達を見たら両親はびっくりするだろうね」 : 私:なんて、彼は心にもないことを言った。 私:私はそうだねと言った。 私:「一人旅に出たと思ったら、恋人を連れて帰ってきた」 私:そんな風に思われるかも知れない。 私:なんて、少しでも考えている顔でないことは、私には分かった。 私:いいや。彼も私の顔を見てそう思ったに違いない。 私:インターホンは鳴らさずに、なんとなくノックしてからドアを開けた。 私:それも同時だった。 : 私:「ただいま」 : 私:ほとんど一つに聞こえるその挨拶に、両親は「おかえり」と言った。 私:私達二人ともに。 私:もちろん、びっくりなんてしていなかった。 私:両親も同じ。 私:つまりこうして私たちは家族になったのだ。 私:或いは、最初から。 : 私:「こんなこともあるもんなんだなぁ」 : 私:と、私達は顔を見合わせた。 私:彼はあんまり気にしなかったらしく「あはは」と笑った。 私:まぁ、それも当たり前かも知れない。 私:ただ、私は一つそこで不安になったことがある。 私:彼も同じ疑問を持ったらしい。 私:「変なこと聞くけど」と前置きしてから、私も重ねて言った。 : 私:「ベッドって同じだと思う?」 : 私:正直、どっちでも良かったけど、お互いのことを気遣う感じがしたので、あんまり気にしない方向でこの話は終わった。 私:そして思った。 私:私達はきっとどこまでも奇遇なのだろう。 私:すると、例の友達からラインが来た。 : 私:「今日の一人旅、どうだった?」 : 私:彼の方にも同じ文面のものが来たらしい。 : 私:「二人になった」 : 私:私達は「あはは」と笑いながら二人の友達に例の写真を送った。 : 0:◇◇◆◆

0:奇遇。 : 0:それを偶然と呼ぶか運命と呼ぶかは趣味の問題だけれど、その呼び方が合ったなら気も合うだろう。 : 0:◆あらすじ◇ 0:あるとき思い立って出かけた一人旅。旅先で思い掛けない奇遇な出会いをする私と彼。滅茶苦茶気の合う二人だったが……。 : 0:◇登場人物◆ 私:一人旅に出る。衝動的に出かけたりするので、あまり誰かと行動したがらない。少しイタズラが好き。 : 0:◆◆◇◇ : 私:大型連休でも何でも無い普通の土日休みの日曜日。 私:私は早朝に目が覚めたので、折角だからとなんか思い立って海に行くことにした。 私:一人旅。 私:別に一緒に行く友達がいないわけではないんだけど、私は一人旅が好きだった。 私:「色んな景色や物を見て、たくさん美味しい物を食べたり、なんか買って帰るにしても、喜びや感動を共有できた方が楽しいんじゃ無いの?」 私:って、電車での移動中に「遊ぼうぜ」ってかかってきた電話の向こうの友達は言うけれど。 私:そして暗に「連れて行けよ、声かけろよ」と圧かけてくるけど、いやぁ、なんか違うんだよねってのが私の感想。 私:友達はそれ聞いて露骨に嫌な声出すけれど、でも一緒に行ってもそもそも別行動するじゃんあんた。って思ったのでそう言った。 私:それなら最初からそれぞれ行きたいとこ行って、あとで旅の話とかしたら良いんじゃ無いの? 私:って言ったら「それもそうだね」って。 私:適当か。 : 0:◆ : 私:そんな感じで来た旅先。 私:行き当たりばったりの旅先で、私は思い掛けない人物とばったり行き当たる。 : 私:あ、シャツの柄だだ被りだ。 : 私:向かいから私のシャツと、おまけにジーンズの色味まで同じ人が歩いてきていた。 私:しかも目が合った。 私:うわぁ最悪、恥ずかしいなぁ。 私:なんて思っていると、どうしたことだろう、彼は話しかけてきた。 私:なんだよちょっと、そういうのやめてよね。 私:そう思ったけれど、違ったらしい。 : 私:「すみません、もし良かったら写真撮ってくれませんか?」 : 私:いや、どうせ一人なんだし自撮りで良いじゃん。 私:なんで私なんだよ。と、思いながら、それでもなんだか断るのも感じ悪いから、渋々、そうと悟られないように表面上はにっこりと、その人に渡されたスマートフォンを受け取る。 私:見ると見事にそれも同じ機種。カバーまで同じ。 私:思わず私、あはは。 : 私:「どうかしましたか?」 : 私:いえ、何も。 私:と、苦笑いしながら彼を撮ろうとしたところでふと、いつか読んだ太宰の『富岳百景』を思い出して、彼を撮らずに風景だけ撮ってやった。 : 私:ハイ、チーズ。 : 私:富士山じゃなくて海だったけれど。 私:まぁ、二度と会うことも無いだろうし、問題ないだろう。 私:私はスマートフォンを渡すと足早に去ろうとした。 私:……のだけれど。 : 私:「もし良かったら僕も撮りましょうか? 折角なので」 : 私:撮ってくれると言うのなら、別に断る理由もない。普段は自撮りか、そもそも風景しか撮らないのだけど、たまにはこういうのも悪くはないだろう。 私:ああ、でも、一人旅なのにこんな写真残ってたら、例の友達に「お前ぇ誰と行ってきたんだぁ!}って聞かれてしまうかも知れない。 私:ハイテンションで痛くも無い腹を探られる。 私:それはこの上なく嫌だけど、旅先で会った人に撮ってもらったって言えばいい話か。 私:あいつ適当だから、それで納得するだろう。 私:うん。 私:私は彼にスマートフォンを渡す。 私:すると、何やら怪訝な顔をされた。 私:どうしたの? って聞くと、彼はおずおずと口を開いた。 : 私:「増やしました?」 : 私:どうやら同じ機種であることに気付いた様子。 私:思わず、あはは。増やしてない増やしてない。 : 私:「あ、じゃあ偶然かぶっちゃったんですね」 : 私:じゃあって何、本気で増やしたと思ったの? 私:そう言うと、彼も「あはは」と、苦笑。 私:なんだかその笑い方が妙にしっくり来るなと思った。 私:いや、というか変な言い方だけど、なんとなくその顔に馴染む感じだった。 : 私:「ハイ、チーズ」 : 私:不意打ちだった。 私:ちょっと! 私:ムスっとしながら私はスマートフォンを受け取る。 : 私:「すみませんすみません、良い表情だったので、あはは。つい」 : 私:良い表情なもんか。私はきっとかなり微妙な苦笑をしていた筈だ。 私:そんな私を前に、それこそ彼は良い表情をしていた。 : 私:「それじゃあ」 : 私:と、彼。 私:彼が行ってしまう。 私:なんとなくだった。なんとなく私が、 私:あの。 私:と声をかけようとしたところで、 私:彼もまた、 : 私:「あの」 : 私:と言った。 私:驚いた。 私:彼も驚いてた。 私:先に彼の言いたいことを聞いた。 : 私:「お茶でもしませんか」 : 私:とのことだった。 私:私も、同じつもり。と伝えて、お互い「奇遇ですね」なんて言って意気投合。 私:これがその日の午前のこと。 : 0:◇ : 私:お茶とは言ったけど、なんだかんだ言ってもう結構良い時間だったのでランチに行くことにした。 私:結構有名な観光地だし、色々ありすぎて入るお店で迷うんじゃないかなと思った。それに全然意見が合わないかも。 私:そういうのが嫌で一人旅をしている節もある私だったりするのだけど、あ、ここ良さそうですね! 私がそう言おうとしたときに、彼が。 : 私:「ここ行きませんか?」 : 私:ほとんど同時。 私:そんな感じで意外とすんなり、私達のお眼鏡にかなうお店は見つかってしまった。 私:ほんとに気が合うなぁ。 私:そう思っていたら、 : 私:「ほんとに気が合うなぁ」 : 私:と、彼が言った。 私:だから私も、ほんとに気が合うなぁ。 私:と、口に出して言った。 私:彼は笑った。 私:私も笑った。 私:テーブル席で向かい合うように私達は座った。 私:お互い横向きになったメニューを身を乗り出し気味に一瞥する。 私:私は注文するのに時間をかける方では無いので、彼の方に向けようとしたら、彼も同じように回そうとしたみたいでメニューがくるっと一回転した。 私:私は思わず、あはは。と笑ってしまった。 私:彼も思わずといった感じで「あはは」って笑ってた。 私:お互いメニューが決まってそうだと思ったので、店員さんを呼び止めようとした。 私:それもほとんど同時だったので、思いのほか良い感じのハーモニーになって驚いた。 私:ほんとに驚いたのは店員さんだと思うけど。 私:ご注文をどうぞと言われたので、先に私のを言ってから彼のを聞こうと思ったら、 : 私:「白砂海岸ホワイトとろとろシーフードオムライスと」 : 私:と、同時に言って、互いに「あ。」と言った。 私:困ったことに全く同じものが気になったらしい。 私:それで店員さんは私達を見比べて少し微笑んだ。 私:コントのようにかぶったから笑っているのかと思ったけど、違った。 私:それもあるんだけど、たぶん店員さんは私達のシャツを見て笑っていたらしい。 : 私:「あ。」 : 私:よく考えてみれば私達は図らずもペアルックなのだ。 私:私は少し照れた。 私:彼も少し照れたらしい。 私:しばらくして出てきたオムライスの味を、私はよく覚えていない。 私:彼はどうなのだろう? : 0:◆◇ : 私:その後はシャツのことも忘れて、というか半ばやけくそでぶらぶらと二人で観光した。 私:傍から見ればぶらぶらというか、らぶらぶやってらぁ。 私:って感じだったのかも知れないけど。 私:私にそんなことを考える余裕はなかった。 私:なんて言うのだろう? 私:私は、率直に言うと、 私:あ、二人も良いな。 私:って思った。 私:ただ、友達が言ってたみたいに共有するって感じではなくて、私達は意見がすれ違うこともなければ、違う見方をすることもなく、そう、なんとなく二倍楽しかった。 私:そんな時間はあっという間に過ぎていく。 私:もしかしたら時間も二倍速で進んでいたのかな、なんて。 私:その時が近付いてる。 私:偶然出会って、偶然シャツが被ってて、偶然が気が合ったり、色んな偶然が重なった私と彼だけど、そろそろ頃合いだ。 私:そんなことを考えてると、私は切っ掛けとなった例の写真のことを思い出した。 私:あ、やっちゃったかも。 私:まぁ、二度と会うことも無いだろうし、問題ないだろう。 私:あの時はそう思ってたけど、この出会いを、私はなんか嫌な思い出にしたくなくなった。 私:ごめんなさい、あの時の写真なんだけど……。 私:そう言おう言おうとしたら、彼が、 : 私:「ごめん実は、あの時の写真なんだけど……。」 : 私:え、あなたも? 私:彼は「も?」と言った。 私:お互い保存された『風景写真』を見せ合って「あはは。」と、笑い合った。 私:「こいつめ! やってくれたな!」 私:なんて、散々笑った。 私:ひとしきり笑い合って、丁度良かったので改めて二人で一緒に撮った。 私:自慢じゃないけど夕陽に照らされた私と彼は、お互い最高の笑顔だった。 私:あまりに良い笑顔だったから、この写真はちょっとあいつに見せられないな、なんて思った。 私:それで私達は名残惜しくも、なんとなく連絡先を交換して解散する運びとなった。 私:また会えるといいな、なんて珍しく、思った。 : 0:◇◆ : 私:けれど、どうしたことか。 私:帰りのバスが一緒だった。 私:別々に乗ったはずなのにふと、何気なく隣を見ると彼がいた。 私:彼もびっくりしたような、バツの悪いような顔で、 : 私:「あはは。」 : 私:しかも彼の持ってるお土産と私のお土産、よく見たら全く同じ。 私:ほんと気が合うなぁ。と思った。 私:その後、やっぱりというか、当然というか。乗る電車は同じだった。 : 私:「奇遇だねぇ」 : 私:なんて彼と私は笑いながら話した。 私:旅先ではあんまりお互いのことを話していなかったのだけれど、他に話すこともないから、色んなことを話した。 私:私は彼と話している内に、ある予感が大きくなっているのを感じた。 私:好きな本や映画、音楽、最近見たドラマ、持っている自転車の色、昔飼っていたハムスターの名前、嫌いな食べ物、好きな数字、座右の銘、誕生日、フォローしている有名人、考え方、尊敬している人、そして、降りる駅も同じだった。 : 私:「奇遇だねぇ」 : 私:なんて彼と私は真剣な面持ちで話した。 私:帰り道の方向も同じで、住んでる町も同じで……。 私:折角だから家まで送るよ、と私は言った。 私:彼も、 : 私:「折角だから家まで送るよ」 : 私:そう言った。 私:お互い「あはは」と笑って、沈黙。 私:私は恐る恐る住所と、今更ながら彼の名前を訪ねた。 私:彼も同じように訪ねてきた。 私:仕方が無いので「せーので言おっか」なんて言った。 私:もしかしたら、せーのなんて言う必要無かったんじゃないかな。 私:……同じだった。 私:住所も名前も。 : 0:◇◆◆ : 私:私達はとりあえず、手こそ繋がなかったけど二人で並んでお互いの家の前まで帰ってきた。 : 私:「きっと僕達を見たら両親はびっくりするだろうね」 : 私:なんて、彼は心にもないことを言った。 私:私はそうだねと言った。 私:「一人旅に出たと思ったら、恋人を連れて帰ってきた」 私:そんな風に思われるかも知れない。 私:なんて、少しでも考えている顔でないことは、私には分かった。 私:いいや。彼も私の顔を見てそう思ったに違いない。 私:インターホンは鳴らさずに、なんとなくノックしてからドアを開けた。 私:それも同時だった。 : 私:「ただいま」 : 私:ほとんど一つに聞こえるその挨拶に、両親は「おかえり」と言った。 私:私達二人ともに。 私:もちろん、びっくりなんてしていなかった。 私:両親も同じ。 私:つまりこうして私たちは家族になったのだ。 私:或いは、最初から。 : 私:「こんなこともあるもんなんだなぁ」 : 私:と、私達は顔を見合わせた。 私:彼はあんまり気にしなかったらしく「あはは」と笑った。 私:まぁ、それも当たり前かも知れない。 私:ただ、私は一つそこで不安になったことがある。 私:彼も同じ疑問を持ったらしい。 私:「変なこと聞くけど」と前置きしてから、私も重ねて言った。 : 私:「ベッドって同じだと思う?」 : 私:正直、どっちでも良かったけど、お互いのことを気遣う感じがしたので、あんまり気にしない方向でこの話は終わった。 私:そして思った。 私:私達はきっとどこまでも奇遇なのだろう。 私:すると、例の友達からラインが来た。 : 私:「今日の一人旅、どうだった?」 : 私:彼の方にも同じ文面のものが来たらしい。 : 私:「二人になった」 : 私:私達は「あはは」と笑いながら二人の友達に例の写真を送った。 : 0:◇◇◆◆