台本概要
88 views
タイトル | 旅の途中。 |
---|---|
作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 1人用台本(男1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
《あらすじ》 康幸のもとを友人の男が訪れる。彼は持参したお土産を切っ掛けに、かつての思い出に耽る。 88 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
男 | 男 | 30 | 康幸(やすゆき)の友人。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:旅の途中。
:
0:《あらすじ》
0:康幸のもとを友人の男が訪れる。彼は持参したお土産を切っ掛けに、かつての思い出に耽る。
:
男:康幸の友人。
:
0:◆◇◆◇◆
:
0:砂利を踏む音。
0:男が紙袋を持って現れる。
:
男:よう、久しぶり康幸。
男:悪いな。ここんとこ忙しくて全然顔出せなかったわ。
男:それに俺が今暮らしてるとこからは随分遠くてな。
:
男:まぁ、そんなのは言い訳だよな。
男:でもよ、代わりと言っちゃなんだが、お前に土産持ってきたから勘弁な。
:
0:男、紙袋の中に手を入れる。
:
男:ん~? なんだと思う?
男:そりゃお前に持ってくるものなんて決まってるだろ。
男:酒だよ酒。
男:でもな、ただの酒じゃないんだぜ?
男:勿体ぶるんだから上物だろう、って?
男:さぁ、そいつはどうだろうな。
:
男:もちろん美味い酒もいっぱい知ってるけどな。
男:伊達に歳は食っちゃいねぇし、相変わらず旅は好きだったからよ。
男:色んなもん見たり、飲んだり食ったり、それなりに楽しくやってたよ。
男:お前が絶対好きそうな酒だっていくつか知ってる。
男:飲んだら美味すぎてぜってー泣いちまうような、そんな酒をよ。
男:ははは、嘘じゃねぇって。
男:まぁ、でもよ。
男:こいつは俺達にとっちゃこの世のどんな酒より上等だぜ。
男:それはたぶんあの――いや。
男:なぁ康幸。
:
0:間。
:
男:康幸、覚えてるか? 二十歳のとき俺ら旅行、行ったじゃん?
男:いやまぁ、色々行ったけどさ。
男:そうそう。北は北海道の礼文島から、南は沖縄、石垣島より遙か南のオーストラリアまで。
男:あの頃は国内旅行が中心で。思えば日本ってさ、どこ行っても大体山なんだよな。そうでなきゃ海か、或いは街か人か、食いもんか。
:
男:いやいや、それが悪いわけじゃ無いさ。俺だって自然は好きだし、美味いメシは最高だ。金沢で食ったのどぐろ、美味かったよな。
男:まぁ、それにそもそも地元がほぼ山だったから、なんかどこいってもそういう大自然みたいなのに囲まれてると、妙に落ち着く感じはあったしな。
男:そうそう。
:
男:でもよ、折角なら違うもん見てえよなってお前と話してて、気が付けば色んなとこに行き始めたのがきっかけだったか。
男:懐かしいって程昔じゃ無いような気もするが、結構前なんだよな。
男:ありきたりな言葉だが随分遠くまで来た気がするよ。
男:いや、実際、ここ遠いんだぜ。
男:車で片道十四時間。かといって電車もバスもねえんだからよ。
男:色んなとこに行ったけどよ、そういえば今までお前の地元には来たこと無かったな。
男:オーストラリアとお前のいるとこ。果たしてどっちが遠いんだろうな。
:
男:いやぁ、それにしてもオーストラリア、すごかったよな。
男:始めて日本から飛び出して、驚いた。スケールがすげぇのなんの。
男:当たり前だけどさ、景色も人も日差しも風も匂いも。なんもかも違ってて。
男:荘厳だったり怖いくらいに茂った森や、怒濤に流れる川や、深い深い雪山なんかを大自然の全てだと思ってた俺達には衝撃的だったよな。
:
男:広い、広い大地。北海道でもちょっと感動してとこあったけど、それとも違う、包み込まない大自然。見放すような荒野。
:
男:康幸。南天には極星が無いって知ってたか。
:
男:俺は知らなかったな。
男:あの頃はそんなこと気にもしてなかったけどよ。
男:どこに居ても、同じ星空を見上げてる。
男:だとしても、どこからでも同じ星を見られるとは限らない。
男:そんなことをオーストラリアで俺は考えてた。
:
男:これも旅の醍醐味だと思うんだがな、目に新しい何かを見るだけじゃ無くて、自分の中の何かに出会う。そういうのもあるよな。たぶん。
:
男:まぁ、それでも。あの南の旅で見た物はすごかった。
男:例えばそうだな、エアーズロックとかカンガルージャーキーとかグレートバリアリーフ……は見てないか。時間なくてさ。
男:けど、やっぱりあれは焦ったよな。
男:あの旅で、いやこれまでの旅で、人生で一番焦ったまであるわ。
:
男:お? 俺の土産に察しがついたか?
男:でも答え合わせはもう少し待ってくれ。
男:もう少しひたりたいんだよ。
:
男:なぁ康幸覚えてるか?
男:オーストラリア満喫していざ帰ろうってした時さぁ。
男:そう!
男:まさかの大雪で全便欠航。
男:期末試験の前日に帰国予定だったのによ。
男:ははは。
男:しかも必須科目の試験あるから落としたら留年確定。
男:お前、膝から崩れ落ちてたよな。
男:いやもう、あれは笑った。
男:だってロビーのど真ん中だぜ?
男:この世の終わりみたいな顔で、
:
男:ああああぁぁぁぁぁぁ……!!!!
:
男:って。周りの人みんな見てんの。隣の白髪のばあちゃんなんて目ぇこんな感じでかっ開いてたっけ。
男:俺、爆笑。そしたらお前、親の仇かってくらい睨んで、
:
男:お前ぇ!!!!
:
男:って。あはは、修羅場修羅場。
男:警備来ちゃったからね。
男:南半球舐めてたわ。
:
男:まぁでもなんだかんだ無事帰ってこれたんだから良いじゃん。
男:試験も無事追試受けれたし。
男:ま、教授にぶん殴られそうになったけど。
男:でもお前避けたよな。
男:あれもウケた。
:
男:あぁ、そうそう。お待ちかねの酒な。
男:空港からとぼとぼとホテルに引き返す時、飯屋でヤケ酒したあれだよ。
男:そうそう、あのえげつねぇ味の。
男:思い出したか?
男:あれは酷かった。
男:げぇげぇ吐いたよな。
男:でも、あの味に打ちのめされたお陰で、なんか立ち直ったよな。
:
0:笑い声。
:
男:最近さ、オーストラリア行くことあったんだよ。
男:そういえばまたグレートバリアリーフは見逃したけどよ。
男:うん?
男:ああ、家族とな。
男:信じられるか? 俺も人の親だぜ?
男:娘が二人だ。可愛いんだ、これが。
男:はは。いつまでも人でなしじゃいられねぇや。
:
0:男、酒瓶とグラスを取り出す。
:
男:で、偶然見かけたんだ。こいつ。
男:持って帰ってくるのに保安検査引っ掛からないのが不思議なくらいの危険物だけどよ。思い出の品じゃん?
男:その、つい、な。
:
0:間。
:
男:実はさ、顔出さないつもりだったんだけど、来ちまったんだ。
男:ま、たぶんこれも何かの縁ってやつだな。
男:な?
男:どんな上物の酒より、俺達にとっちゃ忘れられない一品だろ?
男:はは、思い出しただけで吐きそうになるわ。
:
0:男、グラスに酒を注ぎ差し出す。
:
男:てことで、一杯、やろうか。
男:そんな嫌そうにすんなって。
男:俺の酒が飲めねぇってのか?
男:ま、これじゃあ、飲めねぇわな。ははは。
:
男:じゃあ、まぁ。見ててくれよ。
男:お前にはその一杯。残りは俺が全部飲むよ。
男:あの時はどんくらい飲んだんだっけ?
男:まぁ、覚えてねぇよな。
男:なんせ飲んだ数より吐いた数の方が多いんだもん。
男:でも今日は、ちゃんと飲みきるよ。
男:康幸、乾杯。
:
0:グラスと酒瓶のぶつかる音。
:
男:……っぐ、っぐ、っっっんぐ、ん、っっっっっん。
:
男:……、お、おぇ……。
男:いや、まぁ、思い出は美化されるって言うもんだけど、こいつに関しては思い出と寸分違わず不味かったわ。
男:お前はどうだった、康幸?
:
男:ん。
男:まぁ、そんくらい。
男:……邪魔したな。
男:また、縁があったら来るよ。
男:じゃあな。
男:またどこか旅先で出会えたらいいな。康幸。
:
0: 《幕》
0:旅の途中。
:
0:《あらすじ》
0:康幸のもとを友人の男が訪れる。彼は持参したお土産を切っ掛けに、かつての思い出に耽る。
:
男:康幸の友人。
:
0:◆◇◆◇◆
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0:砂利を踏む音。
0:男が紙袋を持って現れる。
:
男:よう、久しぶり康幸。
男:悪いな。ここんとこ忙しくて全然顔出せなかったわ。
男:それに俺が今暮らしてるとこからは随分遠くてな。
:
男:まぁ、そんなのは言い訳だよな。
男:でもよ、代わりと言っちゃなんだが、お前に土産持ってきたから勘弁な。
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0:男、紙袋の中に手を入れる。
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男:ん~? なんだと思う?
男:そりゃお前に持ってくるものなんて決まってるだろ。
男:酒だよ酒。
男:でもな、ただの酒じゃないんだぜ?
男:勿体ぶるんだから上物だろう、って?
男:さぁ、そいつはどうだろうな。
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男:もちろん美味い酒もいっぱい知ってるけどな。
男:伊達に歳は食っちゃいねぇし、相変わらず旅は好きだったからよ。
男:色んなもん見たり、飲んだり食ったり、それなりに楽しくやってたよ。
男:お前が絶対好きそうな酒だっていくつか知ってる。
男:飲んだら美味すぎてぜってー泣いちまうような、そんな酒をよ。
男:ははは、嘘じゃねぇって。
男:まぁ、でもよ。
男:こいつは俺達にとっちゃこの世のどんな酒より上等だぜ。
男:それはたぶんあの――いや。
男:なぁ康幸。
:
0:間。
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男:康幸、覚えてるか? 二十歳のとき俺ら旅行、行ったじゃん?
男:いやまぁ、色々行ったけどさ。
男:そうそう。北は北海道の礼文島から、南は沖縄、石垣島より遙か南のオーストラリアまで。
男:あの頃は国内旅行が中心で。思えば日本ってさ、どこ行っても大体山なんだよな。そうでなきゃ海か、或いは街か人か、食いもんか。
:
男:いやいや、それが悪いわけじゃ無いさ。俺だって自然は好きだし、美味いメシは最高だ。金沢で食ったのどぐろ、美味かったよな。
男:まぁ、それにそもそも地元がほぼ山だったから、なんかどこいってもそういう大自然みたいなのに囲まれてると、妙に落ち着く感じはあったしな。
男:そうそう。
:
男:でもよ、折角なら違うもん見てえよなってお前と話してて、気が付けば色んなとこに行き始めたのがきっかけだったか。
男:懐かしいって程昔じゃ無いような気もするが、結構前なんだよな。
男:ありきたりな言葉だが随分遠くまで来た気がするよ。
男:いや、実際、ここ遠いんだぜ。
男:車で片道十四時間。かといって電車もバスもねえんだからよ。
男:色んなとこに行ったけどよ、そういえば今までお前の地元には来たこと無かったな。
男:オーストラリアとお前のいるとこ。果たしてどっちが遠いんだろうな。
:
男:いやぁ、それにしてもオーストラリア、すごかったよな。
男:始めて日本から飛び出して、驚いた。スケールがすげぇのなんの。
男:当たり前だけどさ、景色も人も日差しも風も匂いも。なんもかも違ってて。
男:荘厳だったり怖いくらいに茂った森や、怒濤に流れる川や、深い深い雪山なんかを大自然の全てだと思ってた俺達には衝撃的だったよな。
:
男:広い、広い大地。北海道でもちょっと感動してとこあったけど、それとも違う、包み込まない大自然。見放すような荒野。
:
男:康幸。南天には極星が無いって知ってたか。
:
男:俺は知らなかったな。
男:あの頃はそんなこと気にもしてなかったけどよ。
男:どこに居ても、同じ星空を見上げてる。
男:だとしても、どこからでも同じ星を見られるとは限らない。
男:そんなことをオーストラリアで俺は考えてた。
:
男:これも旅の醍醐味だと思うんだがな、目に新しい何かを見るだけじゃ無くて、自分の中の何かに出会う。そういうのもあるよな。たぶん。
:
男:まぁ、それでも。あの南の旅で見た物はすごかった。
男:例えばそうだな、エアーズロックとかカンガルージャーキーとかグレートバリアリーフ……は見てないか。時間なくてさ。
男:けど、やっぱりあれは焦ったよな。
男:あの旅で、いやこれまでの旅で、人生で一番焦ったまであるわ。
:
男:お? 俺の土産に察しがついたか?
男:でも答え合わせはもう少し待ってくれ。
男:もう少しひたりたいんだよ。
:
男:なぁ康幸覚えてるか?
男:オーストラリア満喫していざ帰ろうってした時さぁ。
男:そう!
男:まさかの大雪で全便欠航。
男:期末試験の前日に帰国予定だったのによ。
男:ははは。
男:しかも必須科目の試験あるから落としたら留年確定。
男:お前、膝から崩れ落ちてたよな。
男:いやもう、あれは笑った。
男:だってロビーのど真ん中だぜ?
男:この世の終わりみたいな顔で、
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男:ああああぁぁぁぁぁぁ……!!!!
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男:って。周りの人みんな見てんの。隣の白髪のばあちゃんなんて目ぇこんな感じでかっ開いてたっけ。
男:俺、爆笑。そしたらお前、親の仇かってくらい睨んで、
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男:お前ぇ!!!!
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男:って。あはは、修羅場修羅場。
男:警備来ちゃったからね。
男:南半球舐めてたわ。
:
男:まぁでもなんだかんだ無事帰ってこれたんだから良いじゃん。
男:試験も無事追試受けれたし。
男:ま、教授にぶん殴られそうになったけど。
男:でもお前避けたよな。
男:あれもウケた。
:
男:あぁ、そうそう。お待ちかねの酒な。
男:空港からとぼとぼとホテルに引き返す時、飯屋でヤケ酒したあれだよ。
男:そうそう、あのえげつねぇ味の。
男:思い出したか?
男:あれは酷かった。
男:げぇげぇ吐いたよな。
男:でも、あの味に打ちのめされたお陰で、なんか立ち直ったよな。
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0:笑い声。
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男:最近さ、オーストラリア行くことあったんだよ。
男:そういえばまたグレートバリアリーフは見逃したけどよ。
男:うん?
男:ああ、家族とな。
男:信じられるか? 俺も人の親だぜ?
男:娘が二人だ。可愛いんだ、これが。
男:はは。いつまでも人でなしじゃいられねぇや。
:
0:男、酒瓶とグラスを取り出す。
:
男:で、偶然見かけたんだ。こいつ。
男:持って帰ってくるのに保安検査引っ掛からないのが不思議なくらいの危険物だけどよ。思い出の品じゃん?
男:その、つい、な。
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0:間。
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男:実はさ、顔出さないつもりだったんだけど、来ちまったんだ。
男:ま、たぶんこれも何かの縁ってやつだな。
男:な?
男:どんな上物の酒より、俺達にとっちゃ忘れられない一品だろ?
男:はは、思い出しただけで吐きそうになるわ。
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0:男、グラスに酒を注ぎ差し出す。
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男:てことで、一杯、やろうか。
男:そんな嫌そうにすんなって。
男:俺の酒が飲めねぇってのか?
男:ま、これじゃあ、飲めねぇわな。ははは。
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男:じゃあ、まぁ。見ててくれよ。
男:お前にはその一杯。残りは俺が全部飲むよ。
男:あの時はどんくらい飲んだんだっけ?
男:まぁ、覚えてねぇよな。
男:なんせ飲んだ数より吐いた数の方が多いんだもん。
男:でも今日は、ちゃんと飲みきるよ。
男:康幸、乾杯。
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0:グラスと酒瓶のぶつかる音。
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男:……っぐ、っぐ、っっっんぐ、ん、っっっっっん。
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男:……、お、おぇ……。
男:いや、まぁ、思い出は美化されるって言うもんだけど、こいつに関しては思い出と寸分違わず不味かったわ。
男:お前はどうだった、康幸?
:
男:ん。
男:まぁ、そんくらい。
男:……邪魔したな。
男:また、縁があったら来るよ。
男:じゃあな。
男:またどこか旅先で出会えたらいいな。康幸。
:
0: 《幕》