台本概要

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タイトル 声優になりたい!
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 声優になりたい青年とその父の話。

◇あらすじ◆
青年・幸彦は「俺、実は声優になりたいんだ。」と、父に打ち明ける。どうしてなりたいのか、父のことをどう思っているのか、親子のやりとりはしかし『ある理由』で擦れ違っていた。父は息子に問う「幸彦。お前に、やれるのか? 英雄」。これはある父と子の進路を巡る物語。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
幸彦 136 幸彦(ゆきひこ)。声優になりたい青年。 粘り強く夢への情熱に溢れているが、歯擦音(サ行)がちょっと怪しい。母の名前は美幸(みゆき)
親父 132 孝彦(たかひこ)。幸彦の父。 幸彦から見て堅実で寡黙な父。仕事の関係で少し耳が遠い。幸彦が英雄になりたいと思っている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:◆◇◇◆ : 0:親父が縁側で晩酌をしている。 0:幸彦が真剣な表情で現れる。 : 幸彦:親父。 親父:……お前も、呑むか? 幸彦:……あのさ、親父。 親父:……どうした、幸彦。 : 0:親父、盃を置く。 : 幸彦:親父、俺――。 親父:…………。 幸彦:俺、実は声優になりたいんだ。 親父:……何? 幸彦:突然こんなこと言われて驚いてると思う。 幸彦:けど、俺は本気なんだ。ずっとずっとなりたかったんだ。 幸彦:それでも俺、声優になりたいんだ。 親父:………いゆう。 幸彦:ああ。 親父:幸彦。お前にやれるのか? 英雄。 幸彦:分かってるよ、もっと安定した道を選ぶべきなのは。 親父:…………。 幸彦:親父みたいにさ。 幸彦:堅実に生きていくのもかっこいいと思う。仕事と家庭を両立できるすげぇ親父。正直、尊敬してる。ちょっと無愛想で、何考えてんのか分かんねぇこともあるけど、親父の知り合いみんなから「あの人はすげぇ」って慕われてて、母さんも……、亡くなっちまったけどよ、母さんも親父のこと最期まで愛してるって、親父といられて幸せだったって。言ってて。 親父:……そうか。美幸が。 幸彦:……親父は俺をここまで育ててくれた。文句一つ言わずに働いて、飯炊いて、俺を育ててくれた。あんまり話すことは多くなかったけどよ、俺はそんな親父の背中を見て育った。親父は背中で生き方を教えてくれた。 幸彦:親父は、俺の自慢の親父。 親父:……なら。俺の跡、継ぐか? 幸彦。 : 0:間。 : 幸彦:ありがとう親父。でも、そうじゃない。やっぱり違うんだ。 親父:…………。 幸彦:親父はかっこいいよ。けど、親父のかっこ良さは、俺の憧れてるかっこ良さとは違う。俺のやりたいこととは違うんだ。 親父:……そうか。お前なら、俺の跡を継がせてもいい、そう思ったんだがな。 幸彦:……親父。 親父:俺の息子だからってんじゃねぇ、お前は馬鹿真面目で、諦めが悪いからな。見所がある。跡を継げるのはお前しかいねぇ。 親父:そう、思ってたんだがな。 幸彦:我が儘は承知だ。 親父:我が儘、か。 幸彦:親父の言う通り、俺はこれまで真面目にやってきた。耐え忍ぶこと、己を律すること、多くを望みすぎないこと、常に誠実であること。今だってそれは大事にしてる。親父が教えてくれたんだ。 親父:俺が? 幸彦:その背中で、その生き方で。 親父:幸彦。 幸彦:親父の生き方はかっこいい。そんな生き方が出来たら、俺だって誇らしいよ。けどその上で、……やっぱり、夢は諦められないんだ。 親父:夢か。……お前らしいな、幸彦。 幸彦:もっと現実見ろって言いたいんだろ。親父みたいに、堅実に、自分の「仕事」に向き合って丁寧に生きろって。遙か遠くの夢じゃ無くて、目の前に続く自分って「道」を丹念に熟していく親父みたいに。 親父:……道か。勿体ぶった言い方だ。俺は、俺の生き方ってもんをそんな風には考えていないな。てめぇにやれることをやれ。それだけだ。違うか? 幸彦。 幸彦:違うな。親父。 親父:…………。 幸彦:俺、色々考えたんだ。親父。それで、考えた末に出した、なりたいって答えなんだ。 幸彦:俺の出した答えは親父とは違う。歩き出した道は親父とは違うんだ。 親父:……それも、お前の生き方、お前の道だな。 親父:だが、お前のなりたいものは、そんなに生半可なものか? 親父:いつか、その道を選んだことを後悔するのでは無いか? 親父:お前がたとえどんな道を選ぼうと、俺は、その選択に口出しくらいしか出来ない。てめぇがてめぇで決めて進みてえって言った道だ。足引っ張ることは出来ても、お前の足は止まらねぇだろうよ。 親父:お前は頑固だからな。 幸彦:誰かの背中を見て育ったからな。 親父:かもな。だが。……あのとき、もっと考えておけば良かったと思うことはあるかも知れねぇ。もっと見続けていればってな。 幸彦:それは……。 親父:……失って。大切なものを見失って、初めて気付くことがある。……もっと、そばに居られたんじゃ無いかとな。 幸彦:親父、母さんの……。 親父:だが、その時にはもう遅い。 親父:幸彦、お前がどんな道を選ぶのかはお前の勝手だ。だけどよ、俺はその道を薦めない。 幸彦:分かってる。分かってるよ親父。なりたいからといって簡単になれるものじゃないことも、華々しさだけじゃ無い、泥水を啜って凌ぐような辛く険しい道だってことも。それはもしかしたら俺の努力じゃどうにもならないかもしれない。 親父:…………。 幸彦:今、最善だって出した答えも、長い目で見れば間違っていたって気付くこともあるだろう。あの親父が、そう言うんだ。きっと、俺じゃまだ分からねぇ、見えてない物が多すぎる。いつか選択を誤ったと後悔する日が来るのかも知れない。 親父:だったら考え直せ。幸彦。取り返しがつかなくなる前にな。 幸彦:ああ。それが正しい道なんだと、あるべき生き方なんだと思う。親父の背中を追っかけて、いつか親父を追い越して、親父を背負って、親父の歩んだ道を歩む。そして同じようにその後を俺の子が追いかけてきて、何代にもわたって一つの道を進んでいく。考えるだけで胸が熱くなる。俺達はなんてすげーことをやってるんだって。でも、親父。 親父:…………。 幸彦:それでも、俺は進むんだ。その大きく心強い街道から外れて、獣道を、未だ誰も進んだことの無い道なき道を。 親父:修羅の道だ。 幸彦:上等だ。薦められなきゃ進めない道を歩むんじゃねぇ。自分で選んで進むんだ。 親父:そうか。だが、幸彦。お前はどうしてそこまで生き急ぐ? お前はどうなりたい? 幸彦:憧れなんだ。 親父:憧れ? 幸彦:そう、憧れだ。辛く険しい道も、それがあれば歩いていける。それはきっと、親父の歩いてきた道も同じだ。 親父:俺の道。 幸彦:親父の道だって並大抵じゃ無い。それはきっと憧れあってのものだろう? 親父:憧れか。少し違うな。 幸彦:違う? 親父:俺にあったのは理想だ。こうありたいと、そう願う己の理想。 幸彦:理想。 親父:お前にもそれはあるのか? 幸彦:ああ。もちろんあるよ、理想。しっくり来る言葉だな。 親父:…………。 幸彦:覚えているか、親父。俺がガキの頃のこと。 親父:覚えているとも。幸彦、お前は泣き虫だった。 幸彦:はは、そうだな。俺は泣き虫だった。でも、俺は変わった。変わりたいと願った。 親父:お前はいつからか泣かなくなったな。 幸彦:ああ。俺はいつか、見たヒーローに憧れたんだ。力強く、どんな苦境に遭っても決してめげないそんなヒーローに。俺もそうなりたいと願った。 親父:それが、お前の英雄か。 幸彦:涙を流すよりも、笑顔を零す男になりたい。だから辛いことがあっても、絶対に泣かない。 親父:たとえやせ我慢だとしても。 幸彦:ははは……。 親父:よく憶ええているよ、幸彦。どんなに辛いことがあっても泣かない。それは容易なことでは無いだろう。あの日も、母さんと別れたあの日もお前は泣かなかったな。 幸彦:…………。 親父:微笑みながら、眼には今にも零れそうな涙を湛え、けれど何があろうと決して零してなるものか。 親父:……そんな気概を見て、俺はお前を一人前の男と認めた。俺には勿体ないくらいの、立派な息子だとな。 幸彦:親父……。 親父:だが、お前の憧れる英雄というのはお話の中の作り物で、芝居の中にしか居ない存在だ。そんなものにお前はどうしてなろうとするんだ? 幸彦:それは違うよ。親父。 親父:どう違う? 幸彦:確かに、俺の憧れたヒーローは作り物だ。けれど、そこには魂があるんだ。 親父:魂? 幸彦:それは小さい頃、確かに眼に見えて、今もこの胸の内を熱く灯してくれている。 親父:それがお前の理想か? 幸彦:ああ。……そして、あの人みたいに、俺は俺の声でみんなを感動させたい。 親父:感動か。 幸彦:いや、違うな。俺も――、 : 0:間。 : 幸彦:俺も誰かに勇気や希望を与えたい。 親父:…………。 幸彦:切っ掛けは、何も知らないガキの抱いたほんの小さな憧れに過ぎないだろう。けど、今は。 幸彦:俺の胸には納まりきらない。大きな大きな理想なんだ。 幸彦:そして俺は決めたんだ。俺はみんなの希望になる。 親父:幸彦……。 幸彦:そのためにまずは専門学校に入る。 : 0:間。 : 親父:……そんな学校があるのか? 幸彦:あるよ。俺と同じように夢を持つ若者が集う場所だ。 親父:……お前「それでも、俺は進むんだ。その大きく心強い街道から外れて、獣道を、未だ誰も進んだことの無い道なき道を。」って言ってなかったか? その道は誰かの拓いてくれた道じゃ無いのか? 修羅の道はどこに行った。 幸彦:親父、それは言葉の綾だよ。確かに、俺は俺にしか進めない道を、俺の足で歩む。それは本当で、理想だよ。 親父:…………。 幸彦:でもさ、やっぱり現実はきちんと学ばないと渡り合ってはいけない過酷な世界なんだよ。そんな戦場を生き抜くためには、そこで切磋琢磨して、夢に一歩一歩近づいていくことが何より大事なんだ。 親父:しかし、その道とて甘くはないのだろう? 志半ばで倒れるかもしれない。 幸彦:ああ、分かってる。それでもそこでの経験がきっと助けになる。自信にも繋がる。きっと近道は無いんだ。 幸彦:歩む道は違っても、親父が歩んできたように、俺は堅実に行こうと思う。こうして歩き出す以上、な。焦ったりいい加減なことをして、足下を掬われるなんて、そんなのはダメだ。だから俺は入念に準備する。何者にも、自分にも負けないように己を鍛えぬくんだ! 親父:それは、大変なことではないのか? 親父:挫けやしないか? 幸彦:親父。あんたの背を見て育ったあんたの息子は挫けない。信じてくれ。 親父:信じる……。 幸彦:そしてその男はいつか必ずや、なる―― 幸彦:声優に! : 0:間。 : 親父:幸彦。 幸彦:…………。 親父:信じよう。お前のことを。 幸彦:…………!! 親父:信じて、お前のことを送り出そう。 幸彦:良いのか! 親父。 親父:良いも悪いも無い。お前の決めた道なのだから。ただ、疑り深い頑固な親父がお前のことを信じたかどうかだけだ。まぁ、頑張れよ。 幸彦:……!! ありがとう親父! 大好きだ! 親父:そうか。 幸彦:じゃあ早速準備するよ。 親父:……気が早くないか? 幸彦:いいや、膳は急げ、だ。俺は直ぐにでも飛び出したくいくらいさ! 親父:そういうものか、なら、少し待っていろ。お前に渡すものがある。 幸彦:親父? 何かくれるのか? 餞別的な? : 0:親父、部屋の壁を外す。 : 親父:ここを開けるのも久しぶりだな。よいしょ……! 幸彦:え、……え! そこの壁動くの!? : 0:大きな箱が隠されている。 : 幸彦:でかい箱だな……? 一体何が入っているんだ? 親父:いつかこんな日が来るかも知れないと思って用意していたんだ。お前がいつかなりたいと言ってくるのでは無いかとな。 幸彦:お、俺のために……? 親父、まさか俺の夢を知って……! 親父:ああ。俺はお前の親父だからな。 幸彦:う、うぅ、親父……! 親父:おいおい、どんなに辛いことがあっても泣かないんだろう? ヒーロー? 幸彦:う、嬉しいことは別なんだよ。 親父:泣き虫め。 幸彦:……でも、何だろう、マイクセット? いや、この大きさだからな、あぁ、何にしても嬉しいな、親父からのプレゼント―― : 0:親父、箱を開ける。 : 幸彦:…………なにこれ? 親父:剣だ。 幸彦:いや剣なのは見たら分かるんだけど、マジモン? 親父:偽物渡してどうする。 幸彦:本物渡されてもどうするって感じなんだけど。 親父:これは、かなりの業物だぞ。 幸彦:業物……。 親父:おい馬鹿! 迂闊に触るんじゃねぇ! 手ぇ切るぞ! 幸彦:え、そんなに……? 親父:ああ、そんじょそこらの曰く付きの剣とは訳が違う。数多の猛者達の手を渡り歩き、数知れない戦場で勝利と栄光をその手に授けてきたとされる伝説級の逸品だ。 親父:どうだ、幸彦。すごいだろう? 幸彦:すごいけど! ……いや、何で? 親父:何で、って何が? ああ、やっぱりどうやって手に入れたのか気になるよな。でも、それには少々長い話があるんだが、自分の持つ相棒の経歴ぐらい知っておきたいのも道理だよな。うむ。あれはな、俺がまだケツの青いガキだった頃―― 幸彦:それも気になるけど! それより、いや、なんでそんなもん俺に剣を渡すんだよ! 餞別に剣て! 世界観揺らいじゃうよ! 親父:ああ? 何でってお前……幸彦。お前、英雄になりたいんだろ? : 0:間。 : 幸彦:……いや、あのさ、親父。 親父:何だよ、幸彦。 幸彦:うん、違うよ? 親父:……銃が良かったか? 幸彦:ちげーよ! そんな物騒なもんいらねーよ! この剣も十分物騒だけど! 親父:こいつは並の重火器より断然仇為す敵をなます斬りにしてきたからな。物騒っちゃ物騒か。むぅ。お前にはまだ早かったか? いや、でも早い内から本物に触れておくのは一流を目指す上で大事なことだから、俺としては早くこの剣でなます斬りに出来るくらいにはなって欲しいが……。 幸彦:いや、親父が一番物騒! 一流目指すって何!? 俺何目指すことになってんの! ヒットマン!? 親父:何って、幸彦。……英雄だろ? : 幸彦:……英雄? : 親父:英雄。 幸彦:声優。 親父:英雄。 幸彦:声優! 親父:英雄! 幸彦:声優! 親父:英雄!! 幸彦:声優!! : 0:間。 : 親父:…………英雄? 幸彦:…………声優。 親父:何言ってんだおめぇ。 幸彦:あんたが何言ってんだ。 幸彦:あのさ、俺がなりたいのは声優。オーケー? 親父:英雄。 幸彦:ノーノーノー。せ・い・ゆ・う。 親父:オーケー。え・い・ゆ・う。 幸彦:オウ……。ノーノーノー。せ・い・ゆ・う。 親父:オーケーオーケー。え・い・ゆ・う。 幸彦:シット……! アー、リピートアフタミー。 親父:ァァン……オーケー。 幸彦:せ・い・ゆ・う。 親父:え・い・ゆ・う。 幸彦:せ! 親父:え! 幸彦:せ! 親父:え! 幸彦:あー。 親父:あー。 幸彦:あ・か・さ! 親父:あ・か・さ! 幸彦:イエス! 親父:イエス! 幸彦:さしすせ! 親父:さしすせ! 幸彦:イエス! 親父:イエス! 幸彦:せ! 親父:せ! 幸彦:オウイエ! 親父:オウイエ! 幸彦:せ・い! 親父:え・い! 幸彦:ノー! 親父:ノー! 幸彦:せ・い! 親父:……せ・い! 幸彦:……せいゆう! 親父:……せいゆう! 幸彦:オウ! エクセレンツ! オウイエ! 親父:オウ! エクセレンツ! オウイエ! : 幸彦:英雄じゃ無くて、 親父:声優な。分かった。 幸彦:え、親父、ずっと英雄になりたいだと思ってたの? 親父:おう。 幸彦:なにその進路。あんたの息子ヤバすぎでしょ。 親父:やべぇなと思ってた。 幸彦:それなのにオッケー出したんだ……。 親父:お前の選んだ道だからな。 幸彦:なにその優しさ。 親父:親の愛ってやつよ。 幸彦:いらねぇー。 幸彦:……ちなみに、なって良いの? 親父:声優? いんじゃね。 幸彦:かる! 親父:そりゃ英雄よりは気軽だろ。 幸彦:そうだけどさ……。 親父:で、幸彦。どうすんの。 幸彦:何が? 親父:剣。 幸彦:剣? ……いや、いらんけど。 親父:そっか。 幸彦:かる。 親父:マイクセット買ってやろうか? 幸彦:マジ? でもいらん。 親父:どうして。 幸彦:親父に任せたら碌なことにならなそうだと、今日向き合って思ったから。 親父:親子といえど、背中を見てるだけでは人間わかり合えないよな。 幸彦:それな。それに、さっき言ったけど、自分で選んだ道だしな。マイクセットくらい自分で買うよ。バイトして。 親父:そうか、それが良いな。 幸彦:おう。学費もな。 親父:ほう、それは助かった。 幸彦:助かった? 親父:剣買ったから、あんまり残ってないんだ。お金。 幸彦:いや、何してんだよ。 親父:まぁ、人生そういうこともある。 幸彦:ねーよ。 親父:俺にはあった。で、専門学校はいつから行くんだ? 幸彦:あー。取り敢えず、……来年かな。半年は金貯めて、って感じ。 親父:気長だな。 幸彦:地道に堅実に、だからな。 親父:何するか決めてんのか? 幸彦:何って何が? 親父:バイト。 幸彦:決めてねぇな。 親父:そうか。だったら、俺のとこで働くか? 幸彦:……良いのか? 親父:ああ。もちろん、そのまま俺の下で働くつもりなら、許さないけどな。 幸彦:厳しいな。 親父:それがお前の選んだ道なんだろ、幸彦? 幸彦:そうだな。ありがとよ、親父。 親父:ああ。お前はお前の仕事をやれ。 幸彦:そうだな。 親父:……あ。 幸彦:何だよ? 親父:あと、滑舌鍛えろよ、英雄。 幸彦:……そうだな。 親父:おう。 幸彦:全く、親父は俺の英雄だよ。 親父:ははは。よせよ、俺は声優なんて教えられないぞ。 : 0:間。 : 幸彦:親父。 親父:どうした幸彦。 幸彦:俺やっぱ。この剣もらってくわ。 親父:は? 何でまた……。 幸彦:分かんねぇ。でもそうしなきゃいけない気がするんだ。 親父:……はぁ。よく分かんねぇが、お前が決めたんならそうすれば良いさ。まぁ、頑張れよ、幸彦。 幸彦:ああ。俺、自分を鍛えて、いつか絶対声優になる。 幸彦:ありがとう、親父。 : 0:幸彦、剣を手に旅立つ。 : 0:◇◆幕◆◇

0:◆◇◇◆ : 0:親父が縁側で晩酌をしている。 0:幸彦が真剣な表情で現れる。 : 幸彦:親父。 親父:……お前も、呑むか? 幸彦:……あのさ、親父。 親父:……どうした、幸彦。 : 0:親父、盃を置く。 : 幸彦:親父、俺――。 親父:…………。 幸彦:俺、実は声優になりたいんだ。 親父:……何? 幸彦:突然こんなこと言われて驚いてると思う。 幸彦:けど、俺は本気なんだ。ずっとずっとなりたかったんだ。 幸彦:それでも俺、声優になりたいんだ。 親父:………いゆう。 幸彦:ああ。 親父:幸彦。お前にやれるのか? 英雄。 幸彦:分かってるよ、もっと安定した道を選ぶべきなのは。 親父:…………。 幸彦:親父みたいにさ。 幸彦:堅実に生きていくのもかっこいいと思う。仕事と家庭を両立できるすげぇ親父。正直、尊敬してる。ちょっと無愛想で、何考えてんのか分かんねぇこともあるけど、親父の知り合いみんなから「あの人はすげぇ」って慕われてて、母さんも……、亡くなっちまったけどよ、母さんも親父のこと最期まで愛してるって、親父といられて幸せだったって。言ってて。 親父:……そうか。美幸が。 幸彦:……親父は俺をここまで育ててくれた。文句一つ言わずに働いて、飯炊いて、俺を育ててくれた。あんまり話すことは多くなかったけどよ、俺はそんな親父の背中を見て育った。親父は背中で生き方を教えてくれた。 幸彦:親父は、俺の自慢の親父。 親父:……なら。俺の跡、継ぐか? 幸彦。 : 0:間。 : 幸彦:ありがとう親父。でも、そうじゃない。やっぱり違うんだ。 親父:…………。 幸彦:親父はかっこいいよ。けど、親父のかっこ良さは、俺の憧れてるかっこ良さとは違う。俺のやりたいこととは違うんだ。 親父:……そうか。お前なら、俺の跡を継がせてもいい、そう思ったんだがな。 幸彦:……親父。 親父:俺の息子だからってんじゃねぇ、お前は馬鹿真面目で、諦めが悪いからな。見所がある。跡を継げるのはお前しかいねぇ。 親父:そう、思ってたんだがな。 幸彦:我が儘は承知だ。 親父:我が儘、か。 幸彦:親父の言う通り、俺はこれまで真面目にやってきた。耐え忍ぶこと、己を律すること、多くを望みすぎないこと、常に誠実であること。今だってそれは大事にしてる。親父が教えてくれたんだ。 親父:俺が? 幸彦:その背中で、その生き方で。 親父:幸彦。 幸彦:親父の生き方はかっこいい。そんな生き方が出来たら、俺だって誇らしいよ。けどその上で、……やっぱり、夢は諦められないんだ。 親父:夢か。……お前らしいな、幸彦。 幸彦:もっと現実見ろって言いたいんだろ。親父みたいに、堅実に、自分の「仕事」に向き合って丁寧に生きろって。遙か遠くの夢じゃ無くて、目の前に続く自分って「道」を丹念に熟していく親父みたいに。 親父:……道か。勿体ぶった言い方だ。俺は、俺の生き方ってもんをそんな風には考えていないな。てめぇにやれることをやれ。それだけだ。違うか? 幸彦。 幸彦:違うな。親父。 親父:…………。 幸彦:俺、色々考えたんだ。親父。それで、考えた末に出した、なりたいって答えなんだ。 幸彦:俺の出した答えは親父とは違う。歩き出した道は親父とは違うんだ。 親父:……それも、お前の生き方、お前の道だな。 親父:だが、お前のなりたいものは、そんなに生半可なものか? 親父:いつか、その道を選んだことを後悔するのでは無いか? 親父:お前がたとえどんな道を選ぼうと、俺は、その選択に口出しくらいしか出来ない。てめぇがてめぇで決めて進みてえって言った道だ。足引っ張ることは出来ても、お前の足は止まらねぇだろうよ。 親父:お前は頑固だからな。 幸彦:誰かの背中を見て育ったからな。 親父:かもな。だが。……あのとき、もっと考えておけば良かったと思うことはあるかも知れねぇ。もっと見続けていればってな。 幸彦:それは……。 親父:……失って。大切なものを見失って、初めて気付くことがある。……もっと、そばに居られたんじゃ無いかとな。 幸彦:親父、母さんの……。 親父:だが、その時にはもう遅い。 親父:幸彦、お前がどんな道を選ぶのかはお前の勝手だ。だけどよ、俺はその道を薦めない。 幸彦:分かってる。分かってるよ親父。なりたいからといって簡単になれるものじゃないことも、華々しさだけじゃ無い、泥水を啜って凌ぐような辛く険しい道だってことも。それはもしかしたら俺の努力じゃどうにもならないかもしれない。 親父:…………。 幸彦:今、最善だって出した答えも、長い目で見れば間違っていたって気付くこともあるだろう。あの親父が、そう言うんだ。きっと、俺じゃまだ分からねぇ、見えてない物が多すぎる。いつか選択を誤ったと後悔する日が来るのかも知れない。 親父:だったら考え直せ。幸彦。取り返しがつかなくなる前にな。 幸彦:ああ。それが正しい道なんだと、あるべき生き方なんだと思う。親父の背中を追っかけて、いつか親父を追い越して、親父を背負って、親父の歩んだ道を歩む。そして同じようにその後を俺の子が追いかけてきて、何代にもわたって一つの道を進んでいく。考えるだけで胸が熱くなる。俺達はなんてすげーことをやってるんだって。でも、親父。 親父:…………。 幸彦:それでも、俺は進むんだ。その大きく心強い街道から外れて、獣道を、未だ誰も進んだことの無い道なき道を。 親父:修羅の道だ。 幸彦:上等だ。薦められなきゃ進めない道を歩むんじゃねぇ。自分で選んで進むんだ。 親父:そうか。だが、幸彦。お前はどうしてそこまで生き急ぐ? お前はどうなりたい? 幸彦:憧れなんだ。 親父:憧れ? 幸彦:そう、憧れだ。辛く険しい道も、それがあれば歩いていける。それはきっと、親父の歩いてきた道も同じだ。 親父:俺の道。 幸彦:親父の道だって並大抵じゃ無い。それはきっと憧れあってのものだろう? 親父:憧れか。少し違うな。 幸彦:違う? 親父:俺にあったのは理想だ。こうありたいと、そう願う己の理想。 幸彦:理想。 親父:お前にもそれはあるのか? 幸彦:ああ。もちろんあるよ、理想。しっくり来る言葉だな。 親父:…………。 幸彦:覚えているか、親父。俺がガキの頃のこと。 親父:覚えているとも。幸彦、お前は泣き虫だった。 幸彦:はは、そうだな。俺は泣き虫だった。でも、俺は変わった。変わりたいと願った。 親父:お前はいつからか泣かなくなったな。 幸彦:ああ。俺はいつか、見たヒーローに憧れたんだ。力強く、どんな苦境に遭っても決してめげないそんなヒーローに。俺もそうなりたいと願った。 親父:それが、お前の英雄か。 幸彦:涙を流すよりも、笑顔を零す男になりたい。だから辛いことがあっても、絶対に泣かない。 親父:たとえやせ我慢だとしても。 幸彦:ははは……。 親父:よく憶ええているよ、幸彦。どんなに辛いことがあっても泣かない。それは容易なことでは無いだろう。あの日も、母さんと別れたあの日もお前は泣かなかったな。 幸彦:…………。 親父:微笑みながら、眼には今にも零れそうな涙を湛え、けれど何があろうと決して零してなるものか。 親父:……そんな気概を見て、俺はお前を一人前の男と認めた。俺には勿体ないくらいの、立派な息子だとな。 幸彦:親父……。 親父:だが、お前の憧れる英雄というのはお話の中の作り物で、芝居の中にしか居ない存在だ。そんなものにお前はどうしてなろうとするんだ? 幸彦:それは違うよ。親父。 親父:どう違う? 幸彦:確かに、俺の憧れたヒーローは作り物だ。けれど、そこには魂があるんだ。 親父:魂? 幸彦:それは小さい頃、確かに眼に見えて、今もこの胸の内を熱く灯してくれている。 親父:それがお前の理想か? 幸彦:ああ。……そして、あの人みたいに、俺は俺の声でみんなを感動させたい。 親父:感動か。 幸彦:いや、違うな。俺も――、 : 0:間。 : 幸彦:俺も誰かに勇気や希望を与えたい。 親父:…………。 幸彦:切っ掛けは、何も知らないガキの抱いたほんの小さな憧れに過ぎないだろう。けど、今は。 幸彦:俺の胸には納まりきらない。大きな大きな理想なんだ。 幸彦:そして俺は決めたんだ。俺はみんなの希望になる。 親父:幸彦……。 幸彦:そのためにまずは専門学校に入る。 : 0:間。 : 親父:……そんな学校があるのか? 幸彦:あるよ。俺と同じように夢を持つ若者が集う場所だ。 親父:……お前「それでも、俺は進むんだ。その大きく心強い街道から外れて、獣道を、未だ誰も進んだことの無い道なき道を。」って言ってなかったか? その道は誰かの拓いてくれた道じゃ無いのか? 修羅の道はどこに行った。 幸彦:親父、それは言葉の綾だよ。確かに、俺は俺にしか進めない道を、俺の足で歩む。それは本当で、理想だよ。 親父:…………。 幸彦:でもさ、やっぱり現実はきちんと学ばないと渡り合ってはいけない過酷な世界なんだよ。そんな戦場を生き抜くためには、そこで切磋琢磨して、夢に一歩一歩近づいていくことが何より大事なんだ。 親父:しかし、その道とて甘くはないのだろう? 志半ばで倒れるかもしれない。 幸彦:ああ、分かってる。それでもそこでの経験がきっと助けになる。自信にも繋がる。きっと近道は無いんだ。 幸彦:歩む道は違っても、親父が歩んできたように、俺は堅実に行こうと思う。こうして歩き出す以上、な。焦ったりいい加減なことをして、足下を掬われるなんて、そんなのはダメだ。だから俺は入念に準備する。何者にも、自分にも負けないように己を鍛えぬくんだ! 親父:それは、大変なことではないのか? 親父:挫けやしないか? 幸彦:親父。あんたの背を見て育ったあんたの息子は挫けない。信じてくれ。 親父:信じる……。 幸彦:そしてその男はいつか必ずや、なる―― 幸彦:声優に! : 0:間。 : 親父:幸彦。 幸彦:…………。 親父:信じよう。お前のことを。 幸彦:…………!! 親父:信じて、お前のことを送り出そう。 幸彦:良いのか! 親父。 親父:良いも悪いも無い。お前の決めた道なのだから。ただ、疑り深い頑固な親父がお前のことを信じたかどうかだけだ。まぁ、頑張れよ。 幸彦:……!! ありがとう親父! 大好きだ! 親父:そうか。 幸彦:じゃあ早速準備するよ。 親父:……気が早くないか? 幸彦:いいや、膳は急げ、だ。俺は直ぐにでも飛び出したくいくらいさ! 親父:そういうものか、なら、少し待っていろ。お前に渡すものがある。 幸彦:親父? 何かくれるのか? 餞別的な? : 0:親父、部屋の壁を外す。 : 親父:ここを開けるのも久しぶりだな。よいしょ……! 幸彦:え、……え! そこの壁動くの!? : 0:大きな箱が隠されている。 : 幸彦:でかい箱だな……? 一体何が入っているんだ? 親父:いつかこんな日が来るかも知れないと思って用意していたんだ。お前がいつかなりたいと言ってくるのでは無いかとな。 幸彦:お、俺のために……? 親父、まさか俺の夢を知って……! 親父:ああ。俺はお前の親父だからな。 幸彦:う、うぅ、親父……! 親父:おいおい、どんなに辛いことがあっても泣かないんだろう? ヒーロー? 幸彦:う、嬉しいことは別なんだよ。 親父:泣き虫め。 幸彦:……でも、何だろう、マイクセット? いや、この大きさだからな、あぁ、何にしても嬉しいな、親父からのプレゼント―― : 0:親父、箱を開ける。 : 幸彦:…………なにこれ? 親父:剣だ。 幸彦:いや剣なのは見たら分かるんだけど、マジモン? 親父:偽物渡してどうする。 幸彦:本物渡されてもどうするって感じなんだけど。 親父:これは、かなりの業物だぞ。 幸彦:業物……。 親父:おい馬鹿! 迂闊に触るんじゃねぇ! 手ぇ切るぞ! 幸彦:え、そんなに……? 親父:ああ、そんじょそこらの曰く付きの剣とは訳が違う。数多の猛者達の手を渡り歩き、数知れない戦場で勝利と栄光をその手に授けてきたとされる伝説級の逸品だ。 親父:どうだ、幸彦。すごいだろう? 幸彦:すごいけど! ……いや、何で? 親父:何で、って何が? ああ、やっぱりどうやって手に入れたのか気になるよな。でも、それには少々長い話があるんだが、自分の持つ相棒の経歴ぐらい知っておきたいのも道理だよな。うむ。あれはな、俺がまだケツの青いガキだった頃―― 幸彦:それも気になるけど! それより、いや、なんでそんなもん俺に剣を渡すんだよ! 餞別に剣て! 世界観揺らいじゃうよ! 親父:ああ? 何でってお前……幸彦。お前、英雄になりたいんだろ? : 0:間。 : 幸彦:……いや、あのさ、親父。 親父:何だよ、幸彦。 幸彦:うん、違うよ? 親父:……銃が良かったか? 幸彦:ちげーよ! そんな物騒なもんいらねーよ! この剣も十分物騒だけど! 親父:こいつは並の重火器より断然仇為す敵をなます斬りにしてきたからな。物騒っちゃ物騒か。むぅ。お前にはまだ早かったか? いや、でも早い内から本物に触れておくのは一流を目指す上で大事なことだから、俺としては早くこの剣でなます斬りに出来るくらいにはなって欲しいが……。 幸彦:いや、親父が一番物騒! 一流目指すって何!? 俺何目指すことになってんの! ヒットマン!? 親父:何って、幸彦。……英雄だろ? : 幸彦:……英雄? : 親父:英雄。 幸彦:声優。 親父:英雄。 幸彦:声優! 親父:英雄! 幸彦:声優! 親父:英雄!! 幸彦:声優!! : 0:間。 : 親父:…………英雄? 幸彦:…………声優。 親父:何言ってんだおめぇ。 幸彦:あんたが何言ってんだ。 幸彦:あのさ、俺がなりたいのは声優。オーケー? 親父:英雄。 幸彦:ノーノーノー。せ・い・ゆ・う。 親父:オーケー。え・い・ゆ・う。 幸彦:オウ……。ノーノーノー。せ・い・ゆ・う。 親父:オーケーオーケー。え・い・ゆ・う。 幸彦:シット……! アー、リピートアフタミー。 親父:ァァン……オーケー。 幸彦:せ・い・ゆ・う。 親父:え・い・ゆ・う。 幸彦:せ! 親父:え! 幸彦:せ! 親父:え! 幸彦:あー。 親父:あー。 幸彦:あ・か・さ! 親父:あ・か・さ! 幸彦:イエス! 親父:イエス! 幸彦:さしすせ! 親父:さしすせ! 幸彦:イエス! 親父:イエス! 幸彦:せ! 親父:せ! 幸彦:オウイエ! 親父:オウイエ! 幸彦:せ・い! 親父:え・い! 幸彦:ノー! 親父:ノー! 幸彦:せ・い! 親父:……せ・い! 幸彦:……せいゆう! 親父:……せいゆう! 幸彦:オウ! エクセレンツ! オウイエ! 親父:オウ! エクセレンツ! オウイエ! : 幸彦:英雄じゃ無くて、 親父:声優な。分かった。 幸彦:え、親父、ずっと英雄になりたいだと思ってたの? 親父:おう。 幸彦:なにその進路。あんたの息子ヤバすぎでしょ。 親父:やべぇなと思ってた。 幸彦:それなのにオッケー出したんだ……。 親父:お前の選んだ道だからな。 幸彦:なにその優しさ。 親父:親の愛ってやつよ。 幸彦:いらねぇー。 幸彦:……ちなみに、なって良いの? 親父:声優? いんじゃね。 幸彦:かる! 親父:そりゃ英雄よりは気軽だろ。 幸彦:そうだけどさ……。 親父:で、幸彦。どうすんの。 幸彦:何が? 親父:剣。 幸彦:剣? ……いや、いらんけど。 親父:そっか。 幸彦:かる。 親父:マイクセット買ってやろうか? 幸彦:マジ? でもいらん。 親父:どうして。 幸彦:親父に任せたら碌なことにならなそうだと、今日向き合って思ったから。 親父:親子といえど、背中を見てるだけでは人間わかり合えないよな。 幸彦:それな。それに、さっき言ったけど、自分で選んだ道だしな。マイクセットくらい自分で買うよ。バイトして。 親父:そうか、それが良いな。 幸彦:おう。学費もな。 親父:ほう、それは助かった。 幸彦:助かった? 親父:剣買ったから、あんまり残ってないんだ。お金。 幸彦:いや、何してんだよ。 親父:まぁ、人生そういうこともある。 幸彦:ねーよ。 親父:俺にはあった。で、専門学校はいつから行くんだ? 幸彦:あー。取り敢えず、……来年かな。半年は金貯めて、って感じ。 親父:気長だな。 幸彦:地道に堅実に、だからな。 親父:何するか決めてんのか? 幸彦:何って何が? 親父:バイト。 幸彦:決めてねぇな。 親父:そうか。だったら、俺のとこで働くか? 幸彦:……良いのか? 親父:ああ。もちろん、そのまま俺の下で働くつもりなら、許さないけどな。 幸彦:厳しいな。 親父:それがお前の選んだ道なんだろ、幸彦? 幸彦:そうだな。ありがとよ、親父。 親父:ああ。お前はお前の仕事をやれ。 幸彦:そうだな。 親父:……あ。 幸彦:何だよ? 親父:あと、滑舌鍛えろよ、英雄。 幸彦:……そうだな。 親父:おう。 幸彦:全く、親父は俺の英雄だよ。 親父:ははは。よせよ、俺は声優なんて教えられないぞ。 : 0:間。 : 幸彦:親父。 親父:どうした幸彦。 幸彦:俺やっぱ。この剣もらってくわ。 親父:は? 何でまた……。 幸彦:分かんねぇ。でもそうしなきゃいけない気がするんだ。 親父:……はぁ。よく分かんねぇが、お前が決めたんならそうすれば良いさ。まぁ、頑張れよ、幸彦。 幸彦:ああ。俺、自分を鍛えて、いつか絶対声優になる。 幸彦:ありがとう、親父。 : 0:幸彦、剣を手に旅立つ。 : 0:◇◆幕◆◇