台本概要

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タイトル かげろうに月は笑う。
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 二人の少女の友情の話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
かや 251 黒森華夜くろもりかや
ひな 253 水野陽菜美みずのひなみ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:図書館、人気の無い奥まった一角のテーブルで華夜が一人本を読んでいる。 0:陽菜美がやってくる。 ひな:あれ?もしかして、かや? かや:……。 ひな:なんでいんの? 0:華夜、陽菜美を一瞥すると本に目を戻す。 ひな:ちょいちょい!なんで無視すんの? かや:してないし。見たじゃん。 ひな:いや、見たけどよ?なんかあるくない? かや:なんか? ひな:うっす。的な。 かや:野球部かよ。 ひな:いや、あいつらは「オァァーースッ!」 かや:なんて?てか声でか。 ひな:そそ、マジでかいんよ。ビビるわ。 かや:いや、ひなが。こっちこそビビるわ。 ひな:え、うち? かや:ここ、図書館なんだけど。 ひな:あーね? かや:うん。 ひな:てかさ、なんでいんの? かや:いてよくね? ひな:いや、良いけどさ。図書館とかキャラじゃないじゃん。ビビったわ。 かや:うちも。てかビビりすぎじゃね、うちら。 ひな:それな。 かや:てか、ひなは?絶対読まないよね? ひな:ひっど。てか弟の付き添い。 かや:付き添ってなくね? ひな:あいつ今虫見てっから。マジ最悪。 かや:虫?いんの? ひな:いや図鑑的な。調べてんだって。 かや:へー。どんな? ひな:いや気にする?なんだっけ。ういろう。みたいな。 かや:ういろう……? ひな:あれ、すぐ死ぬやつ。 かや:すぐ死ぬ? ひな:らしい。 かや:……かげろうじゃね? ひな:それ! かや:ういろうて。 ひな:てかマジで死ぬん?どんくらい? かや:三日とか? ひな:え、はっや。 かや:幼虫の期間いれたら一年くらいだけど。 ひな:大人になったら人生終わり的な? かや:極論? ひな:うちらと一緒じゃね。 かや:そいつ大人なったら速攻彼氏と子供作って死ぬけどな。 ひな:やば。恋するために生きてんじゃん。えも。 かや:えもいか?てかかげろう好きになった? ひな:全然。うち虫嫌いだしてか詳しすぎん?博士じゃん。 かや:この前読んだ本に書いてた。 ひな:この前?そんな来る感じなん? かや:まぁ。 ひな:へー。てかなに読んでんの? かや:月と六ペンス。 ひな:なんて? かや:月と六ペンス。 ひな:なにそれ? かや:画家の話。 ひな:画家? かや:絵描きのこと。 ひな:いや分かるし。なめんな~? かや:やるじゃん。 ひな:うざ。どんな話? かや:絵を描くために安定した暮らしを捨てる、ゴーギャンがモデルって言われてる画家の話、みたいな。 ひな:刹那的な? かや:知らんけど。 ひな:おもろい? かや:普通。 ひな:ふーん。 かや:うん。 0:華夜、本を読み進める。 ひな:いや、がちで読んでんじゃん。 かや:そりゃ読むくね?図書館だし。 ひな:うちいるんだけど。 かや:なんでいんの? ひな:ひま。 かや:弟のとこ行けば? ひな:あいつ本読んでたら声かけても無視するし。 かや:うちもするわ。 ひな:すんなつきあえよ。 かや:嫌。 ひな:てかさ。 かや:……。 ひな:夏休み何してたん? かや:……。 ひな:かや? かや:……。 ひな:うちさ、旅行いってたわ。 かや:……どこ? ひな:オーストラリア。 かや:遠っ。 ひな:コアラとカンガルー見た。 かや:可愛かった? ひな:猫の方が好き。 かや:近所で良いじゃん。 ひな:近所で良いし。 かや:てかインスタ、猫とネイルしか上げてなかったよね? ひな:てか気にする子いるし。 かや:あーね。 ひな:うち金持ちだから。 かや:言うん? ひな:ひな気にしないじゃん。 かや:するけど。 ひな:ま? かや:……。 ひな:寂しかった? かや:は? ひな:うちいなくて。 かや:別に。「ここ」と「りお」には会ってたし。てかひな死んだ説流れてたけど。 ひな:死んでねぇわ。 かや:狂ったように猫あげてたし。botじゃね。って。 ひな:は?ミケジロウかわいいだろ。 かや:ミケジロウって。三毛猫だしメスでしょ? ひな:オス。 かや:え、めずら。 ひな:てかさ。かや、本読むとか知らなかったんだけど。 かや:言ってないし。 ひな:言えよ。 かや:なんで? ひな:察した。 かや:は? ひな:うちら親友じゃん? かや:なに? ひな:違うん? かや:まぁたぶん? ひな:たぶんじゃなくて絶対だし。 かや:絶対とか世の中に無いし。 ひな:うちが作るし。 かや:無茶苦茶だな。てか親友で、何? ひな:夏休み何してたん? かや:……関係ないじゃん。 ひな:親友だし。 かや:うざ。親かよ。 ひな:親よりも大事でしょ。 かや:そういうのいらないんだけど。 ひな:うちは必要だし。 かや:は? ひな:かやのこと必要だし。 かや:いや、は? ひな:かやは、うちのこと必要じゃないん? かや:待って、てかこれなんの話? ひな:うちらの話。 かや:いや意味分かんないんだけど。なんでちょっと泣きそうなん? ひな:だってかやが、うちのこと捨てようとしてるから。 かや:してないし。てかどういうことか説明してよ分からん。 ひな:かやってもっと馬鹿じゃん? かや:は?殺すぞ。 ひな:殺してくれるの? かや:……ガチトーンやめろ。 ひな:冗談だし。 かや:そう聞こえねぇのよ。 かや:で、なんなん? ひな:ほらうちも馬鹿だから知らないかやがいて不安になって。なんで黙ってたのかなって。うちのこと必要ないのかなって。 かや:お前ほんとめんどくさいな。 ひな:だよね。うん。ごめんもう、かやと関わらない。親友もやめる。 かや:おい。 ひな:親友やめるから、なんでもするから、だから一緒にいさせて? かや:どういう理屈のなんなの?うち、黙って図書館来てただけじゃん。 ひな:それが嫌なの! かや:お前、黙ってオーストラリア行ってたやつが言う? ひな:だって!でもそれは……! かや:それは、なに? ひな:えっと……。 かや:言いたいことあるんならはっきり言えば? ひな:……。 かや:なに? ひな:悪いかなと思ったんだ。かやんち貧乏だから。 かや:おま……!てかならなんでさっき言ったんだよ? ひな:無視されて哀しかったから。 かや:いや性格よ。 ひな:かやなら気にしないかなって。でも気にするって言ってたし。あ、そうなんだ。みたいな。ごめんね。 かや:繊細か。いいよ別に事実だし。 ひな:でも、かや偉いよね。 かや:何が? ひな:貧乏でも賢くて。 かや:お前マジ殺すぞ。 ひな:殺して欲しい。 かや:やだよめんどい。 ひな:そうだよね、私なんて殺す価値もないよね。 かや:いや、そうは言ってないけど。マジどしたん?今日、いつもの陽菜美らしくないじゃん。私とか言ってるし。なんかあったん?オーストラリア。 ひな:……うん。 かや:そっか。話せる? ひな:うち、お母さんと、喧嘩した。 かや:あぁ。 ひな:うちね、かやみたいになりたかったんだ。 かや:なんでまた。 ひな:かっこいいから。 かや:いや、かっこいいか? ひな:うん。だいすき。 かや:お、おう……? ひな:でも、駄目だって。 かや:駄目って? ひな:ちゃんとしなさい。よしき……弟みたいにちゃんと勉強しなさいって。私、頑張ってたけど、ずっと駄目だったから。 かや:知ってる。ずっと見てたし。 ひな:うん……。それでね、お母さん言ったんだ。 かや:なんて? ひな:かやみたいな子たちと付き合ってるから駄目になるんだって。 かや:それは、ムカつくよな。 ひな:うん、ムカついてぶん殴っちゃった。 かや:え? ひな:だって悪いの、かやじゃなくてひななのに! かや:ついに一人称名前になったな。 ひな:そしたらあのババア! かや:ババアって言っちゃった。 ひな:ほら不良がうつったって言った! かや:ま、母ちゃんからしたらそうだよな。うちら実際ガラ悪いし。まぁ仕方ないわ。 ひな:仕方なくない! かや:でもさ、 ひな:だから言ってやったの。 かや:……なんて?絶対ヤバイこと言ったよね。あんま聞きたくないんだけど。 ひな:かやはお母さん想いの優しい子なんだって。 かや:あ、意外と普通。でも、うちそんなに母ちゃん……。うーん、なんていうのかな。 ひな:うん、だから、言ったの。 かや:え? ひな:かやはうちと全然違う!お前みたいなババアがかやを悪く言うな!かやのこと何も知らないくせにガタガタ抜かしてんじゃねぇよ! かや:ちょ、ここ図書館なんだけど。 ひな:関係ないよ! かや:関係あるよ。 ひな:ひなのできの悪さとかやは関係ないんだよ……。 かや:あ、話聞いてない感じか。それで?どうしたん?仲直りは? ひな:するわけないし。 かや:頑固だなぁ。でも、大変じゃね?適当に頭下げて、赦してもらえば良いって。実際、うちもたまにぶつかるから。 ひな:かやがお母さんと? かや:下手に出て、媚びてたらたまにどうにかなるよ。ちょっと凝った飯作ったりとかしてたらいける。 ひな:そっか。でも無理だよ。 かや:なんで? ひな:二回も殴って、そんなのできるわけないよ。 かや:二回目いったん? ひな:いった。 かや:ヤバイな、お前。 ひな:そんなことないよ。 かや:いやあるよ。てか、それでよく無事に日本帰ってこれたな。無事かは分かんないけど、家ではどんな感じなん? ひな:え? かや:いや、家。気まずくね? ひな:大丈夫。 かや:マジで? ひな:うん。だって、いないし。 かや:は? ひな:置いてきたもん。 かや:いや、一人で帰ってきたん? ひな:ううん、弟と。 かや:あ。弟と、って言ってたな。え。 ひな:家にも帰れないし。 かや:おま……!てことは、それ、 ひな:うん、家出。 かや:ま? ひな:ま。 かや:やばすぎ。 ひな:そうかな? かや:そうだよ。どういうことだよ。その状態であんなに何気なく話しかけてこれる? ひな:頑張った。 かや:頑張りすぎ。 ひな:やった褒められた……! かや:うわ……。 ひな:かやは、 かや:うん? ひな:かやは親友、なんだよね? かや:親友……なのかな。 ひな:ううん、別に親友じゃなくてもいいし。私の、うちの憧れだし。 かや:憧れ、なぁ。そんなんじゃないと思うけどな。 ひな:なんで? かや:言うて、うちも良くないから。 ひな:良くないって? かや:家が。 ひな:家柄? かや:お前さぁ。 ひな:え? かや:はぁ。 かや:あいつ、基本的にうちのこと全否定だから。 ひな:でも、仲良さそうにしてたの見たけど……。 かや:あいつがそういうの好きだから、仲良し親子に見えるようにしてんだよ。 ひな:え? かや:言ったろ、媚びるって。 ひな:ま? かや:今、その「ま?」ってテンションじゃないんだけど。そうそう。マジだよ。あいつ、クソなんだ。 ひな:そっか、知らなかった。 かや:言ってないからな。 ひな:言ってよ。 かや:言えると思う? ひな:……。 かや:図書館来てることも言ってないんだよ。あいつに。てか、誰にも言ってない。 ひな:そうなの? かや:あいつ、うちが本読んでたら何て言うと思う? ひな:偉いね。とか? かや:そうそう。偉いねぇ、華夜ちゃんは。ねぇ華夜ちゃん。華夜ちゃん、私より偉いつもり?へぇ、偉いねぇ。 ひな:……やば。 かや:だから、やばいんよ。 ひな:じゃあ、かやは、 かや:まぁ。 ひな:ここたちとツルんで馬鹿のフリしてたんだね? かや:言い方よ。事実ではあるけどさ。 ひな:あ、ごめん。 かや:でも、ひなもそうだけどさ、ここたちといるのは単純に楽しいからだし、馬鹿のフリしてツルむんじゃなくて、気楽に馬鹿やれるって感じ。 ひな:気楽に馬鹿やれる? かや:あいつの前で馬鹿演じるのと、うちらで馬鹿やるのは全然違うし。 ひな:そう、だったんだ。 かや:幻滅した? ひな:ううん。もっと好きになった。 かや:いや、なんでだよ。 ひな:かやのこと知れて良かった。 かや:ふーん。ひなは、さ。楽しいか? ひな:え? かや:うちらとツルむの。 ひな:楽しい。 かや:即答。 ひな:かやのことが好きだけど、こことりおも好きだから。 かや:気楽? ひな:うん! かや:仲間じゃん。 ひな:親友だし。 かや:あっそ。 ひな:えへへ。 かや:てかこれからどうすんの? ひな:え?どこ行くかは決めてないかな。 かや:だよな。 ひな:だから就職もありかなって。かやは? かや:いや、進路じゃなくて当面の生活。 ひな:あーね。ま、なんとかなるっしょ。 かや:軽っ。 ひな:ね、かやは? かや:うち?いや、読み終わったら帰るだけ……って、進路? ひな:うん。 かや:考えてないけどさ。 ひな:じゃあ、うちと一緒にお笑いしない? かや:なんでやねん。 ひな:ね、いけそうじゃね? かや:無理だろ。てか、別にお笑い好きじゃないし。 ひな:うちも。 かや:なんで言った? ひな:なんとなく。 かや:あっそ。 ひな:じゃあ、大学行ってみたら? かや:は? ひな:え?行かないの、逆に。 かや:行かないけど。 ひな:なんで? かや:だって、親が、ほら。あのさ、 ひな:関係ないよ。 かや:え? ひな:親なんて関係ない。やりたいことやればいい。 かや:って訳にもいかないだろ。 ひな:怖い? かや:……怖いけど。 ひな:なら、ぶん殴っちゃえばいい。 かや:いや、お前。 ひな:大丈夫。案外なんとかなるよ。 かや:なってねぇのよ。 ひな:でも、月とすっぽんだよ。 かや:は? ひな:その本。 かや:月と六ペンスな。 ひな:それ。 かや:いや、わけわからん。 ひな:安定した生活よりも、やりたいことやれば? かや:そういう話じゃないのよ。 ひな:じゃあ、ういろうだ。 かや:かげろうな。 ひな:大人になったら死ぬんだよ? かや:死なねぇよ。 ひな:じゃあ、一緒に死のう? かや:怖いわ。マジなんだよ、目が。 ひな:じゃあ……一緒に生きよ。 かや:ひな…。 ひな:親の言う通り生きなくちゃいけない?そんなわけないでしょ。親より賢くちゃいけない?馬鹿じゃないの?親なんて関係ない。ふざけんな。うちの、うちらの人生だ! かや:……! ひな:文句あるならうちがぶん殴ってやる! かや:……ふふ、すげぇな、ひなは。 ひな:かやの人生はうちのものだ! かや:それは違う。 ひな:え? かや:ま、でもいいよ。考えとく。 ひな:結婚を? かや:そこまでは言ってないけど。一緒に生きるのも、ありかなって。 ひな:二人で? かや:こことりなにも相談するけど。 ひな:なぁんだ。 かや:不服かよ? ひな:うん。 かや:あっそ。てか、そうじゃなくて。 ひな:なに? かや:進路じゃなくて生活。 ひな:お金あるから大丈夫。 かや:てかなんであるんだよ? ひな:お小遣い貯めてからに決まってるじゃん。 かや:さっきのかっこいい台詞なんだよ、台無しじゃねぇか。 ひな:まぁなんとかなるっしょ。 かや:ならねぇよ。いいから頭下げにいけ。 ひな:やだ。 かや:やだじゃねぇよ。あ、そうだ弟どうすんだよ?巻き込んでるだろ。 ひな:いたなそういえば。忘れてた。 かや:忘れんな。てか、よく付いてきたよな。 ひな:あいつ、うちのこと好きだから。 かや:なんだその自信。流石にあんな小さい弟をつれ回して家出とかまずいだろ。 ひな:あーね?どうしよ? かや:ほんとお前、ああ! ひな:やばいかな? かや:やばいわ。今さらだわ。 ひな:そっか。 かや:うーん。とりあえず、頭下げるか。 ひな:え。嫌。 かや:嫌じゃねぇのよ。お前のことじゃん。 ひな:絶対赦してくれないし。 かや:言ったろ。絶対とか世の中に無いし ひな:は?絶対とかうちが作るし。 かや:作んな。逆に絶対ぶっ壊せや。 ひな:どうやって? かや:とりあえず勉強する。 ひな:なんで? かや:作戦。 ひな:作戦? かや:要するにうちが勉強できない腐ったみかんと思われてんのがいけないわけじゃん? ひな:かやのこと腐ったみかんだと思ってんのあのババア。マジムカつくな。 かや:いや喩え。じゃなくてさ。逆にうちが優等生だったら? ひな:かやが?あり得なくね? かや:いやあり得ないんだけどさ。だからこそ。 ひな:は?うちでも分かるように説明して? かや:ひなは勉強しに帰ってきたことにする。 ひな:は? かや:うちはひなに勉強教えてることにする。 ひな:え? かや:で、一緒に大学行く。 ひな:いやいや。分かんない。 かや:ツルんでる馬鹿どもを勉強仲間に仕立て上げるんよ。 ひな:無理あるよね? かや:こことりなにも声かけないとな。あいつらマジ勉強嫌いだからな。 ひな:ほ、本気? かや:じゃないように見える? ひな:見えない。 かや:なら、そういうこと。 ひな:で、でも殴っちゃったんだよ? かや:……てか、親友馬鹿にされてキレないやつとかいる? ひな:え? かや:うちらの努力とかなんも知らねぇくせに、勝手なことピーピー言ってんなよ。馬鹿がうつるっていうなら、娘の友達悪く言う親から良くないもんうつるよな? ひな:な、なに言ってんの? かや:よしきに、そういうの真似して欲しくないから連れて帰った。そんで、うちらと一緒に勉強してた。 ひな:かや? かや:かやだって努力してる。ここも、りなも。生まれた環境や持って生まれた何かで全部が決まるなら、人間なんて生きる意味ない。変えようと頑張ってる。 ひな:……。 かや:だから私が誰とどう生きるかは、私が決める。気に入らないなら勘当でも絶縁でも然るべき公的機関に身柄を引き渡すでもすればいい。 ひな:……。 かや:あと、殴ってごめんなさい。お母さん。私、胸がすごく苦しくなった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、苦しかった。大切な友達が、馬鹿にされるのも同じくらい。 ひな:うん……! かや:日本で、ちゃんと謝ります。あなたの娘。水野陽菜美。 ひな:かや、今のって……? かや:どう思う? ひな:なんていうかすっごい、感動した……!やばい。泣いちゃう。 かや:なら、いけるな。 ひな:へ? かや:今言ったの全部起こしてメールしろ。 ひな:メール? かや:あ、やっぱ録音しろ。 ひな:ろ、録音? かや:動画でもいいぞ。なんならうちも一緒に写る。 ひな:え、え? かや:こういうの得意だからな。媚びながら生きてきた。楽勝だ。まともな親ならこれで落ちる。これで落ちない親は、マジでやばい。うちのことな。 ひな:壮絶、だね。 かや:より良く生きるって壮絶だ。でも、 ひな:でも? かや:大変なのはこっから。 ひな:どういうこと? かや:勉強しなきゃじゃん?今からとんでもない大嘘つく。そんでそれを真実にする。馬鹿四人集まって何が出来るか世間様に見せてやらなきゃ。 ひな:あ。 かや:だから、大変なのはこっから。 ひな:できるの? かや:努力次第じゃね? ひな:えー……。 かや:言っとくけど、うち、金ないからな? ひな:え、知ってるけど。 かや:特待狙わないといけないんだよ。 ひな:特待? かや:底辺のうちがマジの優等生になるってこと。 ひな:無理あるって! かや:てか、馬鹿やるって感じ。 ひな:馬鹿? かや:馬鹿が集まって馬鹿やる。本質は変わんない。やるのが勉強になるだけ。そしたら見下してた周りの見る目が変わる。ほんとの馬鹿は周り。それ、最高じゃね? ひな:……かやは、やっぱりかっこいいな。 かや:そう?ひなも大概だと思うけど。 ひな:ありがと。 かや:気にすんな、仲間じゃん? ひな:うん……! かや:そうと決まれば、まずはメッセージ作成からだな。 ひな:ほんとにやるの? かや:やらなきゃやられる。 ひな:でもさ? かや:ビビってんの? ひな:そりゃビビるよ! かや:大丈夫、要点は教えてやっから。これたぶん面接でも使える。大人騙すの得意なんだ。 ひな:かやって実は結構悪い子なんだね。 かや:ははっ、今さら気づいたん? ひな:もっといい子だと思ってた。 かや:幻滅した? ひな:更に好きになった。 かや:あっそ。 ひな:愛してる。 かや:そんな? ひな:そんな。 かや:うちも。 ひな:え? かや:じゃ、弟くんとあいつら迎えにいこっか。 ひな:え? かや:動画、五人で撮ろ。 ひな:え? かや:駄目だったとき用にTikTok上げんのもいいかな。全世界泣くやつ。 ひな:話がどんどん大きく、 かや:元はと言えばひなのせいじゃん。 ひな:そうだけどさ。 かや:さ、行こうぜ、ひな。うちらの人生こっからだ。 0:かや、席を立つと本棚の向こうに。 ひな:ま、待ってよ!かや! 0:ひなが去ると、机の上には読みかけの本だけが残される。

0:図書館、人気の無い奥まった一角のテーブルで華夜が一人本を読んでいる。 0:陽菜美がやってくる。 ひな:あれ?もしかして、かや? かや:……。 ひな:なんでいんの? 0:華夜、陽菜美を一瞥すると本に目を戻す。 ひな:ちょいちょい!なんで無視すんの? かや:してないし。見たじゃん。 ひな:いや、見たけどよ?なんかあるくない? かや:なんか? ひな:うっす。的な。 かや:野球部かよ。 ひな:いや、あいつらは「オァァーースッ!」 かや:なんて?てか声でか。 ひな:そそ、マジでかいんよ。ビビるわ。 かや:いや、ひなが。こっちこそビビるわ。 ひな:え、うち? かや:ここ、図書館なんだけど。 ひな:あーね? かや:うん。 ひな:てかさ、なんでいんの? かや:いてよくね? ひな:いや、良いけどさ。図書館とかキャラじゃないじゃん。ビビったわ。 かや:うちも。てかビビりすぎじゃね、うちら。 ひな:それな。 かや:てか、ひなは?絶対読まないよね? ひな:ひっど。てか弟の付き添い。 かや:付き添ってなくね? ひな:あいつ今虫見てっから。マジ最悪。 かや:虫?いんの? ひな:いや図鑑的な。調べてんだって。 かや:へー。どんな? ひな:いや気にする?なんだっけ。ういろう。みたいな。 かや:ういろう……? ひな:あれ、すぐ死ぬやつ。 かや:すぐ死ぬ? ひな:らしい。 かや:……かげろうじゃね? ひな:それ! かや:ういろうて。 ひな:てかマジで死ぬん?どんくらい? かや:三日とか? ひな:え、はっや。 かや:幼虫の期間いれたら一年くらいだけど。 ひな:大人になったら人生終わり的な? かや:極論? ひな:うちらと一緒じゃね。 かや:そいつ大人なったら速攻彼氏と子供作って死ぬけどな。 ひな:やば。恋するために生きてんじゃん。えも。 かや:えもいか?てかかげろう好きになった? ひな:全然。うち虫嫌いだしてか詳しすぎん?博士じゃん。 かや:この前読んだ本に書いてた。 ひな:この前?そんな来る感じなん? かや:まぁ。 ひな:へー。てかなに読んでんの? かや:月と六ペンス。 ひな:なんて? かや:月と六ペンス。 ひな:なにそれ? かや:画家の話。 ひな:画家? かや:絵描きのこと。 ひな:いや分かるし。なめんな~? かや:やるじゃん。 ひな:うざ。どんな話? かや:絵を描くために安定した暮らしを捨てる、ゴーギャンがモデルって言われてる画家の話、みたいな。 ひな:刹那的な? かや:知らんけど。 ひな:おもろい? かや:普通。 ひな:ふーん。 かや:うん。 0:華夜、本を読み進める。 ひな:いや、がちで読んでんじゃん。 かや:そりゃ読むくね?図書館だし。 ひな:うちいるんだけど。 かや:なんでいんの? ひな:ひま。 かや:弟のとこ行けば? ひな:あいつ本読んでたら声かけても無視するし。 かや:うちもするわ。 ひな:すんなつきあえよ。 かや:嫌。 ひな:てかさ。 かや:……。 ひな:夏休み何してたん? かや:……。 ひな:かや? かや:……。 ひな:うちさ、旅行いってたわ。 かや:……どこ? ひな:オーストラリア。 かや:遠っ。 ひな:コアラとカンガルー見た。 かや:可愛かった? ひな:猫の方が好き。 かや:近所で良いじゃん。 ひな:近所で良いし。 かや:てかインスタ、猫とネイルしか上げてなかったよね? ひな:てか気にする子いるし。 かや:あーね。 ひな:うち金持ちだから。 かや:言うん? ひな:ひな気にしないじゃん。 かや:するけど。 ひな:ま? かや:……。 ひな:寂しかった? かや:は? ひな:うちいなくて。 かや:別に。「ここ」と「りお」には会ってたし。てかひな死んだ説流れてたけど。 ひな:死んでねぇわ。 かや:狂ったように猫あげてたし。botじゃね。って。 ひな:は?ミケジロウかわいいだろ。 かや:ミケジロウって。三毛猫だしメスでしょ? ひな:オス。 かや:え、めずら。 ひな:てかさ。かや、本読むとか知らなかったんだけど。 かや:言ってないし。 ひな:言えよ。 かや:なんで? ひな:察した。 かや:は? ひな:うちら親友じゃん? かや:なに? ひな:違うん? かや:まぁたぶん? ひな:たぶんじゃなくて絶対だし。 かや:絶対とか世の中に無いし。 ひな:うちが作るし。 かや:無茶苦茶だな。てか親友で、何? ひな:夏休み何してたん? かや:……関係ないじゃん。 ひな:親友だし。 かや:うざ。親かよ。 ひな:親よりも大事でしょ。 かや:そういうのいらないんだけど。 ひな:うちは必要だし。 かや:は? ひな:かやのこと必要だし。 かや:いや、は? ひな:かやは、うちのこと必要じゃないん? かや:待って、てかこれなんの話? ひな:うちらの話。 かや:いや意味分かんないんだけど。なんでちょっと泣きそうなん? ひな:だってかやが、うちのこと捨てようとしてるから。 かや:してないし。てかどういうことか説明してよ分からん。 ひな:かやってもっと馬鹿じゃん? かや:は?殺すぞ。 ひな:殺してくれるの? かや:……ガチトーンやめろ。 ひな:冗談だし。 かや:そう聞こえねぇのよ。 かや:で、なんなん? ひな:ほらうちも馬鹿だから知らないかやがいて不安になって。なんで黙ってたのかなって。うちのこと必要ないのかなって。 かや:お前ほんとめんどくさいな。 ひな:だよね。うん。ごめんもう、かやと関わらない。親友もやめる。 かや:おい。 ひな:親友やめるから、なんでもするから、だから一緒にいさせて? かや:どういう理屈のなんなの?うち、黙って図書館来てただけじゃん。 ひな:それが嫌なの! かや:お前、黙ってオーストラリア行ってたやつが言う? ひな:だって!でもそれは……! かや:それは、なに? ひな:えっと……。 かや:言いたいことあるんならはっきり言えば? ひな:……。 かや:なに? ひな:悪いかなと思ったんだ。かやんち貧乏だから。 かや:おま……!てかならなんでさっき言ったんだよ? ひな:無視されて哀しかったから。 かや:いや性格よ。 ひな:かやなら気にしないかなって。でも気にするって言ってたし。あ、そうなんだ。みたいな。ごめんね。 かや:繊細か。いいよ別に事実だし。 ひな:でも、かや偉いよね。 かや:何が? ひな:貧乏でも賢くて。 かや:お前マジ殺すぞ。 ひな:殺して欲しい。 かや:やだよめんどい。 ひな:そうだよね、私なんて殺す価値もないよね。 かや:いや、そうは言ってないけど。マジどしたん?今日、いつもの陽菜美らしくないじゃん。私とか言ってるし。なんかあったん?オーストラリア。 ひな:……うん。 かや:そっか。話せる? ひな:うち、お母さんと、喧嘩した。 かや:あぁ。 ひな:うちね、かやみたいになりたかったんだ。 かや:なんでまた。 ひな:かっこいいから。 かや:いや、かっこいいか? ひな:うん。だいすき。 かや:お、おう……? ひな:でも、駄目だって。 かや:駄目って? ひな:ちゃんとしなさい。よしき……弟みたいにちゃんと勉強しなさいって。私、頑張ってたけど、ずっと駄目だったから。 かや:知ってる。ずっと見てたし。 ひな:うん……。それでね、お母さん言ったんだ。 かや:なんて? ひな:かやみたいな子たちと付き合ってるから駄目になるんだって。 かや:それは、ムカつくよな。 ひな:うん、ムカついてぶん殴っちゃった。 かや:え? ひな:だって悪いの、かやじゃなくてひななのに! かや:ついに一人称名前になったな。 ひな:そしたらあのババア! かや:ババアって言っちゃった。 ひな:ほら不良がうつったって言った! かや:ま、母ちゃんからしたらそうだよな。うちら実際ガラ悪いし。まぁ仕方ないわ。 ひな:仕方なくない! かや:でもさ、 ひな:だから言ってやったの。 かや:……なんて?絶対ヤバイこと言ったよね。あんま聞きたくないんだけど。 ひな:かやはお母さん想いの優しい子なんだって。 かや:あ、意外と普通。でも、うちそんなに母ちゃん……。うーん、なんていうのかな。 ひな:うん、だから、言ったの。 かや:え? ひな:かやはうちと全然違う!お前みたいなババアがかやを悪く言うな!かやのこと何も知らないくせにガタガタ抜かしてんじゃねぇよ! かや:ちょ、ここ図書館なんだけど。 ひな:関係ないよ! かや:関係あるよ。 ひな:ひなのできの悪さとかやは関係ないんだよ……。 かや:あ、話聞いてない感じか。それで?どうしたん?仲直りは? ひな:するわけないし。 かや:頑固だなぁ。でも、大変じゃね?適当に頭下げて、赦してもらえば良いって。実際、うちもたまにぶつかるから。 ひな:かやがお母さんと? かや:下手に出て、媚びてたらたまにどうにかなるよ。ちょっと凝った飯作ったりとかしてたらいける。 ひな:そっか。でも無理だよ。 かや:なんで? ひな:二回も殴って、そんなのできるわけないよ。 かや:二回目いったん? ひな:いった。 かや:ヤバイな、お前。 ひな:そんなことないよ。 かや:いやあるよ。てか、それでよく無事に日本帰ってこれたな。無事かは分かんないけど、家ではどんな感じなん? ひな:え? かや:いや、家。気まずくね? ひな:大丈夫。 かや:マジで? ひな:うん。だって、いないし。 かや:は? ひな:置いてきたもん。 かや:いや、一人で帰ってきたん? ひな:ううん、弟と。 かや:あ。弟と、って言ってたな。え。 ひな:家にも帰れないし。 かや:おま……!てことは、それ、 ひな:うん、家出。 かや:ま? ひな:ま。 かや:やばすぎ。 ひな:そうかな? かや:そうだよ。どういうことだよ。その状態であんなに何気なく話しかけてこれる? ひな:頑張った。 かや:頑張りすぎ。 ひな:やった褒められた……! かや:うわ……。 ひな:かやは、 かや:うん? ひな:かやは親友、なんだよね? かや:親友……なのかな。 ひな:ううん、別に親友じゃなくてもいいし。私の、うちの憧れだし。 かや:憧れ、なぁ。そんなんじゃないと思うけどな。 ひな:なんで? かや:言うて、うちも良くないから。 ひな:良くないって? かや:家が。 ひな:家柄? かや:お前さぁ。 ひな:え? かや:はぁ。 かや:あいつ、基本的にうちのこと全否定だから。 ひな:でも、仲良さそうにしてたの見たけど……。 かや:あいつがそういうの好きだから、仲良し親子に見えるようにしてんだよ。 ひな:え? かや:言ったろ、媚びるって。 ひな:ま? かや:今、その「ま?」ってテンションじゃないんだけど。そうそう。マジだよ。あいつ、クソなんだ。 ひな:そっか、知らなかった。 かや:言ってないからな。 ひな:言ってよ。 かや:言えると思う? ひな:……。 かや:図書館来てることも言ってないんだよ。あいつに。てか、誰にも言ってない。 ひな:そうなの? かや:あいつ、うちが本読んでたら何て言うと思う? ひな:偉いね。とか? かや:そうそう。偉いねぇ、華夜ちゃんは。ねぇ華夜ちゃん。華夜ちゃん、私より偉いつもり?へぇ、偉いねぇ。 ひな:……やば。 かや:だから、やばいんよ。 ひな:じゃあ、かやは、 かや:まぁ。 ひな:ここたちとツルんで馬鹿のフリしてたんだね? かや:言い方よ。事実ではあるけどさ。 ひな:あ、ごめん。 かや:でも、ひなもそうだけどさ、ここたちといるのは単純に楽しいからだし、馬鹿のフリしてツルむんじゃなくて、気楽に馬鹿やれるって感じ。 ひな:気楽に馬鹿やれる? かや:あいつの前で馬鹿演じるのと、うちらで馬鹿やるのは全然違うし。 ひな:そう、だったんだ。 かや:幻滅した? ひな:ううん。もっと好きになった。 かや:いや、なんでだよ。 ひな:かやのこと知れて良かった。 かや:ふーん。ひなは、さ。楽しいか? ひな:え? かや:うちらとツルむの。 ひな:楽しい。 かや:即答。 ひな:かやのことが好きだけど、こことりおも好きだから。 かや:気楽? ひな:うん! かや:仲間じゃん。 ひな:親友だし。 かや:あっそ。 ひな:えへへ。 かや:てかこれからどうすんの? ひな:え?どこ行くかは決めてないかな。 かや:だよな。 ひな:だから就職もありかなって。かやは? かや:いや、進路じゃなくて当面の生活。 ひな:あーね。ま、なんとかなるっしょ。 かや:軽っ。 ひな:ね、かやは? かや:うち?いや、読み終わったら帰るだけ……って、進路? ひな:うん。 かや:考えてないけどさ。 ひな:じゃあ、うちと一緒にお笑いしない? かや:なんでやねん。 ひな:ね、いけそうじゃね? かや:無理だろ。てか、別にお笑い好きじゃないし。 ひな:うちも。 かや:なんで言った? ひな:なんとなく。 かや:あっそ。 ひな:じゃあ、大学行ってみたら? かや:は? ひな:え?行かないの、逆に。 かや:行かないけど。 ひな:なんで? かや:だって、親が、ほら。あのさ、 ひな:関係ないよ。 かや:え? ひな:親なんて関係ない。やりたいことやればいい。 かや:って訳にもいかないだろ。 ひな:怖い? かや:……怖いけど。 ひな:なら、ぶん殴っちゃえばいい。 かや:いや、お前。 ひな:大丈夫。案外なんとかなるよ。 かや:なってねぇのよ。 ひな:でも、月とすっぽんだよ。 かや:は? ひな:その本。 かや:月と六ペンスな。 ひな:それ。 かや:いや、わけわからん。 ひな:安定した生活よりも、やりたいことやれば? かや:そういう話じゃないのよ。 ひな:じゃあ、ういろうだ。 かや:かげろうな。 ひな:大人になったら死ぬんだよ? かや:死なねぇよ。 ひな:じゃあ、一緒に死のう? かや:怖いわ。マジなんだよ、目が。 ひな:じゃあ……一緒に生きよ。 かや:ひな…。 ひな:親の言う通り生きなくちゃいけない?そんなわけないでしょ。親より賢くちゃいけない?馬鹿じゃないの?親なんて関係ない。ふざけんな。うちの、うちらの人生だ! かや:……! ひな:文句あるならうちがぶん殴ってやる! かや:……ふふ、すげぇな、ひなは。 ひな:かやの人生はうちのものだ! かや:それは違う。 ひな:え? かや:ま、でもいいよ。考えとく。 ひな:結婚を? かや:そこまでは言ってないけど。一緒に生きるのも、ありかなって。 ひな:二人で? かや:こことりなにも相談するけど。 ひな:なぁんだ。 かや:不服かよ? ひな:うん。 かや:あっそ。てか、そうじゃなくて。 ひな:なに? かや:進路じゃなくて生活。 ひな:お金あるから大丈夫。 かや:てかなんであるんだよ? ひな:お小遣い貯めてからに決まってるじゃん。 かや:さっきのかっこいい台詞なんだよ、台無しじゃねぇか。 ひな:まぁなんとかなるっしょ。 かや:ならねぇよ。いいから頭下げにいけ。 ひな:やだ。 かや:やだじゃねぇよ。あ、そうだ弟どうすんだよ?巻き込んでるだろ。 ひな:いたなそういえば。忘れてた。 かや:忘れんな。てか、よく付いてきたよな。 ひな:あいつ、うちのこと好きだから。 かや:なんだその自信。流石にあんな小さい弟をつれ回して家出とかまずいだろ。 ひな:あーね?どうしよ? かや:ほんとお前、ああ! ひな:やばいかな? かや:やばいわ。今さらだわ。 ひな:そっか。 かや:うーん。とりあえず、頭下げるか。 ひな:え。嫌。 かや:嫌じゃねぇのよ。お前のことじゃん。 ひな:絶対赦してくれないし。 かや:言ったろ。絶対とか世の中に無いし ひな:は?絶対とかうちが作るし。 かや:作んな。逆に絶対ぶっ壊せや。 ひな:どうやって? かや:とりあえず勉強する。 ひな:なんで? かや:作戦。 ひな:作戦? かや:要するにうちが勉強できない腐ったみかんと思われてんのがいけないわけじゃん? ひな:かやのこと腐ったみかんだと思ってんのあのババア。マジムカつくな。 かや:いや喩え。じゃなくてさ。逆にうちが優等生だったら? ひな:かやが?あり得なくね? かや:いやあり得ないんだけどさ。だからこそ。 ひな:は?うちでも分かるように説明して? かや:ひなは勉強しに帰ってきたことにする。 ひな:は? かや:うちはひなに勉強教えてることにする。 ひな:え? かや:で、一緒に大学行く。 ひな:いやいや。分かんない。 かや:ツルんでる馬鹿どもを勉強仲間に仕立て上げるんよ。 ひな:無理あるよね? かや:こことりなにも声かけないとな。あいつらマジ勉強嫌いだからな。 ひな:ほ、本気? かや:じゃないように見える? ひな:見えない。 かや:なら、そういうこと。 ひな:で、でも殴っちゃったんだよ? かや:……てか、親友馬鹿にされてキレないやつとかいる? ひな:え? かや:うちらの努力とかなんも知らねぇくせに、勝手なことピーピー言ってんなよ。馬鹿がうつるっていうなら、娘の友達悪く言う親から良くないもんうつるよな? ひな:な、なに言ってんの? かや:よしきに、そういうの真似して欲しくないから連れて帰った。そんで、うちらと一緒に勉強してた。 ひな:かや? かや:かやだって努力してる。ここも、りなも。生まれた環境や持って生まれた何かで全部が決まるなら、人間なんて生きる意味ない。変えようと頑張ってる。 ひな:……。 かや:だから私が誰とどう生きるかは、私が決める。気に入らないなら勘当でも絶縁でも然るべき公的機関に身柄を引き渡すでもすればいい。 ひな:……。 かや:あと、殴ってごめんなさい。お母さん。私、胸がすごく苦しくなった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、苦しかった。大切な友達が、馬鹿にされるのも同じくらい。 ひな:うん……! かや:日本で、ちゃんと謝ります。あなたの娘。水野陽菜美。 ひな:かや、今のって……? かや:どう思う? ひな:なんていうかすっごい、感動した……!やばい。泣いちゃう。 かや:なら、いけるな。 ひな:へ? かや:今言ったの全部起こしてメールしろ。 ひな:メール? かや:あ、やっぱ録音しろ。 ひな:ろ、録音? かや:動画でもいいぞ。なんならうちも一緒に写る。 ひな:え、え? かや:こういうの得意だからな。媚びながら生きてきた。楽勝だ。まともな親ならこれで落ちる。これで落ちない親は、マジでやばい。うちのことな。 ひな:壮絶、だね。 かや:より良く生きるって壮絶だ。でも、 ひな:でも? かや:大変なのはこっから。 ひな:どういうこと? かや:勉強しなきゃじゃん?今からとんでもない大嘘つく。そんでそれを真実にする。馬鹿四人集まって何が出来るか世間様に見せてやらなきゃ。 ひな:あ。 かや:だから、大変なのはこっから。 ひな:できるの? かや:努力次第じゃね? ひな:えー……。 かや:言っとくけど、うち、金ないからな? ひな:え、知ってるけど。 かや:特待狙わないといけないんだよ。 ひな:特待? かや:底辺のうちがマジの優等生になるってこと。 ひな:無理あるって! かや:てか、馬鹿やるって感じ。 ひな:馬鹿? かや:馬鹿が集まって馬鹿やる。本質は変わんない。やるのが勉強になるだけ。そしたら見下してた周りの見る目が変わる。ほんとの馬鹿は周り。それ、最高じゃね? ひな:……かやは、やっぱりかっこいいな。 かや:そう?ひなも大概だと思うけど。 ひな:ありがと。 かや:気にすんな、仲間じゃん? ひな:うん……! かや:そうと決まれば、まずはメッセージ作成からだな。 ひな:ほんとにやるの? かや:やらなきゃやられる。 ひな:でもさ? かや:ビビってんの? ひな:そりゃビビるよ! かや:大丈夫、要点は教えてやっから。これたぶん面接でも使える。大人騙すの得意なんだ。 ひな:かやって実は結構悪い子なんだね。 かや:ははっ、今さら気づいたん? ひな:もっといい子だと思ってた。 かや:幻滅した? ひな:更に好きになった。 かや:あっそ。 ひな:愛してる。 かや:そんな? ひな:そんな。 かや:うちも。 ひな:え? かや:じゃ、弟くんとあいつら迎えにいこっか。 ひな:え? かや:動画、五人で撮ろ。 ひな:え? かや:駄目だったとき用にTikTok上げんのもいいかな。全世界泣くやつ。 ひな:話がどんどん大きく、 かや:元はと言えばひなのせいじゃん。 ひな:そうだけどさ。 かや:さ、行こうぜ、ひな。うちらの人生こっからだ。 0:かや、席を立つと本棚の向こうに。 ひな:ま、待ってよ!かや! 0:ひなが去ると、机の上には読みかけの本だけが残される。