台本概要

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タイトル 桔梗の花言葉【大正時代風】
作者名 ヒデじい  (@taltal3014s)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1 女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 大正時代風の作品。かなり甘めです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
正宗 54 19歳。海軍士官学校の士官候補生。真面目で実直なイメージ。
柚子 53 17歳。おしとやかな大正乙女。 名前の読みは「ゆず」。 一人称「私」の読みは「わたし」でも「わたくし」でも読みやすい方で構いません。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:柚子、ベンチに座る正宗に近づいて話しかける。 柚子:正宗様、こんばんは。月が綺麗な夜ですね。 正宗:やあ、柚子、すまないね。こんな時間に呼び出して。 柚子:いいえ、私もお会いしたかったので大丈夫です。 柚子:二ヶ月ぶりでしょうか。 柚子:少し日焼けされましたか? 月明かりの下でもわかります。 正宗:はは、そうだね。最近は陸よりも船の上にいるほうがずっと長いからね。 正宗:この間、外洋演習から帰還したばかりだけど、明日にはまた海上生活に逆戻りだ。 柚子:まあ……。本当にご多忙でいらっしゃるのですね。 正宗:うん、士官候補生がこんなに大変だとは思わなかったよ。 柚子:そして、この春で海軍士官学校をご卒業でございますね。 柚子:おめでとうございます。 正宗:うん、有難う。 柚子:これからは『少尉』とお呼びしなければいけませんね。 正宗:少尉か……。しっくりこないな……。君に呼ばれるのは特に。 柚子:ふふ、ではやめておきます。 柚子:それで、私にお話とは? 正宗:そうだね……何から話そうかな。 正宗:柚子は元気にしてた? 女学校には慣れたかい? 柚子:はい、ご学友も増えて、毎日皆様と楽しく過ごさせてもらっています。 正宗:そうか。おじさんとおばさんも元気かい? 柚子:ええ、お陰様で。二人共、息災にしておりますよ。 正宗:そうか、それは何よりだ。 柚子:正宗様は、どうですか? 学校の方は。 正宗:いやあ、毎日しごかれているよ……。 正宗:演習や軍事教練、それに柔道や剣道の稽古がみっちりあって。 正宗:お陰で年中筋肉痛だ。 柚子:だいぶ身体付きも逞しくなられましたね。 柚子:子供の頃のあの、やせっぽちだった姿が嘘みたいです。 正宗:それは言わないでくれよ……。 正宗:君だって、子供の頃はやんちゃで、近所の子から『柚子の姉御』なんて呼ばれていたじゃないか。 柚子:ふふ、そんな時代もありましたね。 柚子:でも、今は本とお花が大好きな大正小町ですよ。 正宗:はは、そうだね。見違えたよ。柚子は。 正宗:  正宗:  0:正宗、ふいにポケットから紙袋を取り出す。 正宗:そうだ。これお土産。 正宗:先日沖縄に行った時、君が好きそうな珍しい花の種をいくつか買ってきたんだ。 柚子:わあ……! 有難うございます。 正宗:柚子は昔から、花の世話をするのが好きだったね。 柚子:ええ、正宗様の影響ですよ。 柚子:覚えていますか? 子供の頃の事。 柚子:  柚子:  柚子:  柚子:  0:以下、子供の頃の回想。 0:泣いている柚子に正宗が話しかける。 正宗:柚子、どうしたの……? 泣いてるの? 柚子:正宗ちゃん……。あのね、お父さん、戦争に行ったんだって。 柚子:露国っていう大きな国と戦うんだって……。 正宗:そっか、軍人さんだもんね。柚子のおじさんは……。 柚子:うん、『戻ってこれるか分からない』って、昨日お手紙があったの……。 正宗:……。 柚子:それにね……お母さんも心配で寝込んじゃって、最近はずっと熱を出してるの……。 正宗:そっか……。 柚子:わたし、どうすれば良いのかな……。 正宗:柚子……泣かないで。きっと大丈夫だよ。 柚子:……正宗ちゃん。 正宗:そうだ。これ、あげるよ。 正宗:裏の山で一輪だけ咲いてるのを見つけたんだ。 柚子:わあ……綺麗……。 正宗:父様に聞いたら、『桔梗』っていうんだって。 正宗:それにね、このお花の根っこは、漢方薬っていうお薬にもなるんだって。 柚子:綺麗なのに、お薬にもなるの? 凄い……。 正宗:ね、この花をお庭に埋めてみようよ。おばさんのお部屋から見える場所に。 柚子:お庭に? 正宗:うん、そして枯れちゃったら、その種をまた埋めるんだ。 正宗:そして来年になったら綺麗な花がたくさん咲く。根っこもたくさん取れる。 正宗:きっとおばさんも元気になるし、その頃にはおじさんも無事に帰ってくるよ! 正宗:  正宗:  正宗:  正宗:  0:回想終了 柚子:あの時は、本当に元気をいただきました。 正宗:懐かしいね。 正宗:園芸の知識なんて無かったけど、二人で頑張って世話をしたっけ。蒔いた種から無事に芽が出て、花が咲いたときは嬉しかったなあ。 柚子:ええ、それに桔梗は多年生の植物ですから、毎年綺麗な花を咲かせてくれました。 正宗:不思議だよね。あの小さな種があんな風になるなんて。 柚子:はい、私はあの桔梗が育つのを見るのが楽しくって、色んなお花を育てるようになったんです。 正宗:そうだったね。おかげで君の家の周りはちょっとした花畑だ。 柚子:ふふっ。さっきいただいたお花の種も早速植えてみますね。 柚子:正宗様がご卒業されて、東京に戻ってくる頃にはきっと綺麗なお花が満開です。 柚子:  柚子:  0:正宗、不意に黙り込む。 正宗:…………。 柚子:正宗様……? 正宗:……実は、さ。 柚子:はい。 正宗:俺、卒業後は、英国に派遣されることになったんだ。 柚子:……英国……? 正宗:ああ、駐在武官として数年間向こうで働くことになる。 正宗:これから欧州では大きな戦争が起きるかもしれない。現地での情報収集は大事な任務になる。 正宗:その役割をぜひ俺にと、上官が推薦してくれたんだ。 柚子:それは……おめでとうございます。名誉なことでございますね。 柚子:正宗様は、英語が達者でいらっしゃいますから。 正宗:うん……有難う。ただ、英国は遠い。 正宗:渡航するだけで四十日間もの長旅だ。おそらく、任期終了までは帰れない。 柚子:そうですか……。寂しくなってしまいますね。 正宗:そうだね……。柚子と会えなくなるなんて、不思議な気分だ。 柚子:もう、かれこれ十七年ほどの付き合いになりますから……。 柚子:私が生まれたときから、隣のお家には正宗様がいました。 正宗:柚子、有難う、今まで。 正宗:今日はお礼を言いたかったんだ。 柚子:……。 正宗:俺さ、昔から君の笑顔を見ると、自分も嬉しい気持ちになれたんだ。 正宗:俺が迷った時には君が背中を押してくれた。 正宗:士官学校に入ってからは、君の手紙にいつも元気を貰ってた。 正宗:君のお陰でずっと頑張ってこれた。 柚子:……正宗様……。 柚子:そんなの……私の方がどれだけ正宗様に助けられたか……。 正宗:有難う。柚子が幼なじみで本当に良かった。 柚子:私だって同じ気持ちです。 柚子:……でも、お願いです。 柚子:そんな今生の別れみたいな言葉、聞きたくありません。 正宗:柚子……。 柚子:……。 正宗:ねえ、柚子。さっきの花の種、良かったら一緒に埋めてみないか。 正宗:子供の頃みたいに、二人で。 柚子:……はい。私も思い出がほしいです。 柚子:  柚子:  柚子:  0:二人、花壇の前に立つ。 0:柚子、貰った紙袋を開ける。 正宗:何の花か、種を見ただけで分かるかい? 柚子:はい。ベゴニア、ゼラニウム、ローズマリー……それに、桔梗。 正宗:流石だね。柚子は。 柚子:どれも、多年草……ですね。 正宗:うん、これから何年も花を咲かせてくれる植物だ。 柚子:有難うございます。 柚子:大事にお世話させていただきますね。正宗様の代わりに。 正宗:ああ、そうしてくれると嬉しい。 正宗:  正宗:  0:柚子、紙袋の底に何かを見つける。 柚子:あら、袋の底に何か……。 柚子:これは……? 正宗:うん、それを……良かったら貰ってくれないか。 柚子:指輪……ですか……? 正宗:江戸の世では女性にクシを、明治の世では女性に白百合を贈る風潮があった。 正宗:そして今は、指輪を贈る人が増えているらしい。 柚子:……。 正宗:これから数年は会えないと思う。君を縛り付けるつもりはない。 正宗:それでももし、良ければ……その指輪を持っていてほしいんだ。 柚子:……。 正宗:要らなくなったら、質にでも入れてくれて構わない。 正宗:学資の足しにしてくれたって良い。 正宗:……受け取ってくれるかな。 柚子:はい。大事に致します。 正宗:有難う。 正宗:あのさ……伝わってるかな。俺の気持ち。 柚子:一応これでも乙女ですから、女学校で指輪の意味くらい聞いたことがございます。 柚子:ただ……お願いします。はっきり口に出して聞かせていただけませんか? 正宗:はは。君は昔からそうだったね。迷ったときは俺の背中をいつも押してくれた。 柚子:それはもう、『柚子の姉御』でございますから。 正宗:うん、そういうところが好きなんだな……俺は。 正宗:  正宗:  0:正宗、姿勢を正して柚子に向き合う。 正宗:はっきり言うね。 正宗:異国の地で暮らすのは大変だ。君にはご両親もいるし、学校だってある。 正宗:君を連れて行くことはできない。 柚子:……はい。 正宗:でも、数年後、任期満了後には日本に戻ってくるよ。 正宗:そうしたら、俺と一緒になってくれないか? 正宗:  正宗:  0:正宗、柚子に手を差し出す。 柚子:では……これが、私のお返事です。 柚子:  柚子:  0:柚子、紙袋から種を取り出して、正宗の手のひらに乗せる。 正宗:桔梗の……種? 柚子:正宗様はご存知ですか? 桔梗の花言葉。 正宗:……。 柚子:『変わらぬ愛』、です。 柚子:子供の頃から私の気持ちはずっと変わっていません。 柚子:たった数年会えないくらいで、心変わりしたりはいたしませんよ。 正宗:柚子……。 柚子:ふふっ、涙が出てきちゃいました。 柚子:有難うございます。謹んで、謹んで、お受け致します。 柚子:凄く、凄く嬉しいです……。 正宗:うん……有難う。俺もだ。 正宗:  正宗:  正宗:  0:二人、花の種を植えた花壇を眺めながら 柚子:ねえ、ご存知ですか?  柚子:近頃は『遠距離恋愛』というものが密かに流行っているんです。 柚子:私、たくさんお手紙を書きますね。 正宗:はは、郵便代が大変なことになりそうだね。 正宗:でも、それも悪くない。柚子の手紙があれば異国でも頑張れそうだ。 柚子:はい。私も頑張ります。 柚子:そしてまた数年後、一緒にここでお花見が出来ることを楽しみにしております。 柚子:頑張ってらっしゃいませ。

0:柚子、ベンチに座る正宗に近づいて話しかける。 柚子:正宗様、こんばんは。月が綺麗な夜ですね。 正宗:やあ、柚子、すまないね。こんな時間に呼び出して。 柚子:いいえ、私もお会いしたかったので大丈夫です。 柚子:二ヶ月ぶりでしょうか。 柚子:少し日焼けされましたか? 月明かりの下でもわかります。 正宗:はは、そうだね。最近は陸よりも船の上にいるほうがずっと長いからね。 正宗:この間、外洋演習から帰還したばかりだけど、明日にはまた海上生活に逆戻りだ。 柚子:まあ……。本当にご多忙でいらっしゃるのですね。 正宗:うん、士官候補生がこんなに大変だとは思わなかったよ。 柚子:そして、この春で海軍士官学校をご卒業でございますね。 柚子:おめでとうございます。 正宗:うん、有難う。 柚子:これからは『少尉』とお呼びしなければいけませんね。 正宗:少尉か……。しっくりこないな……。君に呼ばれるのは特に。 柚子:ふふ、ではやめておきます。 柚子:それで、私にお話とは? 正宗:そうだね……何から話そうかな。 正宗:柚子は元気にしてた? 女学校には慣れたかい? 柚子:はい、ご学友も増えて、毎日皆様と楽しく過ごさせてもらっています。 正宗:そうか。おじさんとおばさんも元気かい? 柚子:ええ、お陰様で。二人共、息災にしておりますよ。 正宗:そうか、それは何よりだ。 柚子:正宗様は、どうですか? 学校の方は。 正宗:いやあ、毎日しごかれているよ……。 正宗:演習や軍事教練、それに柔道や剣道の稽古がみっちりあって。 正宗:お陰で年中筋肉痛だ。 柚子:だいぶ身体付きも逞しくなられましたね。 柚子:子供の頃のあの、やせっぽちだった姿が嘘みたいです。 正宗:それは言わないでくれよ……。 正宗:君だって、子供の頃はやんちゃで、近所の子から『柚子の姉御』なんて呼ばれていたじゃないか。 柚子:ふふ、そんな時代もありましたね。 柚子:でも、今は本とお花が大好きな大正小町ですよ。 正宗:はは、そうだね。見違えたよ。柚子は。 正宗:  正宗:  0:正宗、ふいにポケットから紙袋を取り出す。 正宗:そうだ。これお土産。 正宗:先日沖縄に行った時、君が好きそうな珍しい花の種をいくつか買ってきたんだ。 柚子:わあ……! 有難うございます。 正宗:柚子は昔から、花の世話をするのが好きだったね。 柚子:ええ、正宗様の影響ですよ。 柚子:覚えていますか? 子供の頃の事。 柚子:  柚子:  柚子:  柚子:  0:以下、子供の頃の回想。 0:泣いている柚子に正宗が話しかける。 正宗:柚子、どうしたの……? 泣いてるの? 柚子:正宗ちゃん……。あのね、お父さん、戦争に行ったんだって。 柚子:露国っていう大きな国と戦うんだって……。 正宗:そっか、軍人さんだもんね。柚子のおじさんは……。 柚子:うん、『戻ってこれるか分からない』って、昨日お手紙があったの……。 正宗:……。 柚子:それにね……お母さんも心配で寝込んじゃって、最近はずっと熱を出してるの……。 正宗:そっか……。 柚子:わたし、どうすれば良いのかな……。 正宗:柚子……泣かないで。きっと大丈夫だよ。 柚子:……正宗ちゃん。 正宗:そうだ。これ、あげるよ。 正宗:裏の山で一輪だけ咲いてるのを見つけたんだ。 柚子:わあ……綺麗……。 正宗:父様に聞いたら、『桔梗』っていうんだって。 正宗:それにね、このお花の根っこは、漢方薬っていうお薬にもなるんだって。 柚子:綺麗なのに、お薬にもなるの? 凄い……。 正宗:ね、この花をお庭に埋めてみようよ。おばさんのお部屋から見える場所に。 柚子:お庭に? 正宗:うん、そして枯れちゃったら、その種をまた埋めるんだ。 正宗:そして来年になったら綺麗な花がたくさん咲く。根っこもたくさん取れる。 正宗:きっとおばさんも元気になるし、その頃にはおじさんも無事に帰ってくるよ! 正宗:  正宗:  正宗:  正宗:  0:回想終了 柚子:あの時は、本当に元気をいただきました。 正宗:懐かしいね。 正宗:園芸の知識なんて無かったけど、二人で頑張って世話をしたっけ。蒔いた種から無事に芽が出て、花が咲いたときは嬉しかったなあ。 柚子:ええ、それに桔梗は多年生の植物ですから、毎年綺麗な花を咲かせてくれました。 正宗:不思議だよね。あの小さな種があんな風になるなんて。 柚子:はい、私はあの桔梗が育つのを見るのが楽しくって、色んなお花を育てるようになったんです。 正宗:そうだったね。おかげで君の家の周りはちょっとした花畑だ。 柚子:ふふっ。さっきいただいたお花の種も早速植えてみますね。 柚子:正宗様がご卒業されて、東京に戻ってくる頃にはきっと綺麗なお花が満開です。 柚子:  柚子:  0:正宗、不意に黙り込む。 正宗:…………。 柚子:正宗様……? 正宗:……実は、さ。 柚子:はい。 正宗:俺、卒業後は、英国に派遣されることになったんだ。 柚子:……英国……? 正宗:ああ、駐在武官として数年間向こうで働くことになる。 正宗:これから欧州では大きな戦争が起きるかもしれない。現地での情報収集は大事な任務になる。 正宗:その役割をぜひ俺にと、上官が推薦してくれたんだ。 柚子:それは……おめでとうございます。名誉なことでございますね。 柚子:正宗様は、英語が達者でいらっしゃいますから。 正宗:うん……有難う。ただ、英国は遠い。 正宗:渡航するだけで四十日間もの長旅だ。おそらく、任期終了までは帰れない。 柚子:そうですか……。寂しくなってしまいますね。 正宗:そうだね……。柚子と会えなくなるなんて、不思議な気分だ。 柚子:もう、かれこれ十七年ほどの付き合いになりますから……。 柚子:私が生まれたときから、隣のお家には正宗様がいました。 正宗:柚子、有難う、今まで。 正宗:今日はお礼を言いたかったんだ。 柚子:……。 正宗:俺さ、昔から君の笑顔を見ると、自分も嬉しい気持ちになれたんだ。 正宗:俺が迷った時には君が背中を押してくれた。 正宗:士官学校に入ってからは、君の手紙にいつも元気を貰ってた。 正宗:君のお陰でずっと頑張ってこれた。 柚子:……正宗様……。 柚子:そんなの……私の方がどれだけ正宗様に助けられたか……。 正宗:有難う。柚子が幼なじみで本当に良かった。 柚子:私だって同じ気持ちです。 柚子:……でも、お願いです。 柚子:そんな今生の別れみたいな言葉、聞きたくありません。 正宗:柚子……。 柚子:……。 正宗:ねえ、柚子。さっきの花の種、良かったら一緒に埋めてみないか。 正宗:子供の頃みたいに、二人で。 柚子:……はい。私も思い出がほしいです。 柚子:  柚子:  柚子:  0:二人、花壇の前に立つ。 0:柚子、貰った紙袋を開ける。 正宗:何の花か、種を見ただけで分かるかい? 柚子:はい。ベゴニア、ゼラニウム、ローズマリー……それに、桔梗。 正宗:流石だね。柚子は。 柚子:どれも、多年草……ですね。 正宗:うん、これから何年も花を咲かせてくれる植物だ。 柚子:有難うございます。 柚子:大事にお世話させていただきますね。正宗様の代わりに。 正宗:ああ、そうしてくれると嬉しい。 正宗:  正宗:  0:柚子、紙袋の底に何かを見つける。 柚子:あら、袋の底に何か……。 柚子:これは……? 正宗:うん、それを……良かったら貰ってくれないか。 柚子:指輪……ですか……? 正宗:江戸の世では女性にクシを、明治の世では女性に白百合を贈る風潮があった。 正宗:そして今は、指輪を贈る人が増えているらしい。 柚子:……。 正宗:これから数年は会えないと思う。君を縛り付けるつもりはない。 正宗:それでももし、良ければ……その指輪を持っていてほしいんだ。 柚子:……。 正宗:要らなくなったら、質にでも入れてくれて構わない。 正宗:学資の足しにしてくれたって良い。 正宗:……受け取ってくれるかな。 柚子:はい。大事に致します。 正宗:有難う。 正宗:あのさ……伝わってるかな。俺の気持ち。 柚子:一応これでも乙女ですから、女学校で指輪の意味くらい聞いたことがございます。 柚子:ただ……お願いします。はっきり口に出して聞かせていただけませんか? 正宗:はは。君は昔からそうだったね。迷ったときは俺の背中をいつも押してくれた。 柚子:それはもう、『柚子の姉御』でございますから。 正宗:うん、そういうところが好きなんだな……俺は。 正宗:  正宗:  0:正宗、姿勢を正して柚子に向き合う。 正宗:はっきり言うね。 正宗:異国の地で暮らすのは大変だ。君にはご両親もいるし、学校だってある。 正宗:君を連れて行くことはできない。 柚子:……はい。 正宗:でも、数年後、任期満了後には日本に戻ってくるよ。 正宗:そうしたら、俺と一緒になってくれないか? 正宗:  正宗:  0:正宗、柚子に手を差し出す。 柚子:では……これが、私のお返事です。 柚子:  柚子:  0:柚子、紙袋から種を取り出して、正宗の手のひらに乗せる。 正宗:桔梗の……種? 柚子:正宗様はご存知ですか? 桔梗の花言葉。 正宗:……。 柚子:『変わらぬ愛』、です。 柚子:子供の頃から私の気持ちはずっと変わっていません。 柚子:たった数年会えないくらいで、心変わりしたりはいたしませんよ。 正宗:柚子……。 柚子:ふふっ、涙が出てきちゃいました。 柚子:有難うございます。謹んで、謹んで、お受け致します。 柚子:凄く、凄く嬉しいです……。 正宗:うん……有難う。俺もだ。 正宗:  正宗:  正宗:  0:二人、花の種を植えた花壇を眺めながら 柚子:ねえ、ご存知ですか?  柚子:近頃は『遠距離恋愛』というものが密かに流行っているんです。 柚子:私、たくさんお手紙を書きますね。 正宗:はは、郵便代が大変なことになりそうだね。 正宗:でも、それも悪くない。柚子の手紙があれば異国でも頑張れそうだ。 柚子:はい。私も頑張ります。 柚子:そしてまた数年後、一緒にここでお花見が出来ることを楽しみにしております。 柚子:頑張ってらっしゃいませ。