台本概要

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タイトル 『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』
作者名 音佐りんご。  (@ringo_otosa)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 昼下がりのファミレスに、並々ならぬ気配を漂わせてる少年と紳士が入店する。何やら物騒な、しかし魅惑的な匂いのする会話を繰り広げる二人。彼らの目的、そして正体とは――

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
トリカブト 不問 70 外見=少年 真名=三舟・玲以(みふね・れい) 小学生の姿をしているが落ち着いた雰囲気を纏い、言葉遣いも丁寧かつ堂々たるもの。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人で議長を務める。
ヒガンバナ 67 外見=紳士 真名=一条・司(いちじょう・つかさ) 姿も中身も紳士的で冷静。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人で参謀を務め、アネモネの監督者でもある。苦労人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:◇ファミレス :  0:入店音。 0:少年トリカブトと、紳士ヒガンバナが並んで入ってくる。 0:店員に「何名様ですか?」と問われる。 : トリカブト:三輪……いや、三名だ。一名は遅れてくる。そうだね? ヒガンバナ:ええ。その筈ですが。 トリカブト:アネモネにも困ったものだ。ああ、お前煙草は吸うのか? ヒガンバナ:いえ。 トリカブト:禁煙席で頼む。うむ。 :  0:二人、テーブルに案内される。 :  トリカブト:アネモネは本当に来るんだろうね? ヒガンバナ。 ヒガンバナ:ええ、先程そのように連絡がありましたよ、トリカブト。なんでも『草ヲ刈ル者《ディフォリエンター》』の巣を見つけたらしく、道草をしているとか。 トリカブト:それはそれは。使命に忠実で何よりだ。……もしそれが本当ならば、だけれどね。 ヒガンバナ:アネモネは独自の根を持っておりますから、どこかで情報を掴んでくるのやもしれません。 トリカブト:君はそれを信じているのかい? ヒガンバナ。 ヒガンバナ:株を連ねる同志としては、信頼しております。 トリカブト:そうか。けれどアネモネは光合成をするように嘘をつくからね。ある意味それが彼女の養分とも言える。アネモネの言の葉が真実なら、もう《ディフォリエンター》は根絶やしだろう。それも五回分ほどね。 ヒガンバナ:……仰るとおりです。 トリカブト:全く、再生の使徒たる僕らの悲願を何だと思っているのか。 ヒガンバナ:面目ありません。 トリカブト:……まぁいい。アネモネの怠惰と君の管理責任を問うのはまた今度にしよう。それで良いね? ヒガンバナ:ええ。 トリカブト:さて、定刻だ。始めるとしよう――。 :  0:間。 :  トリカブト:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。 ヒガンバナ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。 トリカブト:知っての通り、現在はスズラン主動の下、オペレーション『塵芥散《ダスト・シード》』が展開されている。成功如何によっては、僕らの『領域《ガーデン》』獲得が大きく見込める極めて重要な作戦だ。 ヒガンバナ:ええ。我々の命運を掛けた、正に、次の時代を作る種子を世界に散りばめる作戦です。ああ、直接関われないのが残念でなりません。 トリカブト:そう言うな。君には君の役目があるさ、ヒガンバナ。 ヒガンバナ:アネモネのお守り以外で頼みたいものですが。 トリカブト:それは、その役目を十分にこなしてから言って欲しいね。 ヒガンバナ:かたじけない限りです。 トリカブト:話を戻そう。 トリカブト:《ダスト・シード》遂行に伴い、此度はスズラン以下、ジキタリス、ナルシサス、タイガー・リリーの四輪がこの場にいない。 ヒガンバナ:半数以上ですね。キョウチクトウは? トリカブト:彼は、そうだね。恐らくその辺りに居るんじゃ無いかな。残念ながら、僕の感覚では捉えきれない。ヒガンバナ、君はどうだい? ヒガンバナ:わたくしも薄らと何かを感じる気がする。くらいですね。喩えるならそれこそ『アネモネ』の匂いのような。 トリカブト:まぁ、あのアネモネは非常に匂い立つ存在だけれどね。 ヒガンバナ:ええ、確かに。……さておき、今こうして感じ取ることのできる匂いが、果たしてキョウチクトウのものであるのかと問われると、私には自信がありませんね。 トリカブト:そうだろうね。だからこそ、秘花《ホロウ・フロウ》たるキョウチクトウの働きがあるとも言えるのだけれど。 ヒガンバナ:そもそも我々《ラスティ・エデン》幹部『七災花《セブンス・フラワー》」においてはもとより数に入っておりませんな。 トリカブト:ならば、此度の《ラスティ・エデン》においても、やはり居ないも同然だろう? ヒガンバナ:いつものことではありますが。……ということは、アネモネについても? トリカブト:今更来ると思うかい? ヒガンバナ:……いえ。 トリカブト:彼女は正式な幹部だというのにね。 ヒガンバナ:つまり、幹部は四輪欠席、一輪遅刻、一輪補欠。 トリカブト:キョウチクトウは補欠ですら無い、言わば傍観者、いや観測者《スケア・クロウ》だ。 トリカブト:だから此度の《ラスティ・エデン》はヒガンバナ。君と、この僕トリカブトで執り行われる。 ヒガンバナ:はぁ。 トリカブト:なんだい、不満かい? ヒガンバナ:いえ、ただ。我々《ラスティ・エデン》の意志を束ねる会合であるのに、このような質で良いのかと、憂いていただけです。 トリカブト:案ずるな。アネモネはさておき、《ダスト・シード》遂行者四輪の委任状は預かっている。 トリカブト:《ラスティ・エデン》は滞りなく行われるよ。 トリカブト:それに、このような状況を招いたのは、少なからず君の力不足が一因だと言うことを忘れていないかい? ヒガンバナ:それは……力及ばずお恥ずかしい限りです。 トリカブト:全く、大いに恥じてくれよ。 ヒガンバナ:っは。御意に。 トリカブト:君の真なる願いが、前線で大輪の赤き花を咲かせることに尽きるとはいえ、君には組織を束ねる根《ルーツ》としての役目もあるのだから。 ヒガンバナ:えぇ、左様で。しかし、こうしていると戦場に焦げ付く芳香をすっかり懐かしく思ってしまうこともまた事実。そしてわたくしは今、静かに枯れ逝こうとしている感覚さえあります。 トリカブト:君ならそう言うだろうと思っていたからね。いい話があるよ、ヒガンバナ? ヒガンバナ:……期待してもよろしいので? トリカブト:ふふふ、もちろん。僕は君達の、いや僕達《ラスティ・エデン》の幸福と繁栄をいつでも願っているからね。 ヒガンバナ:有り難く拝聴致しましょう。 トリカブト:では、本題だ。君にはある任務を言い渡す。 ヒガンバナ:任務? トリカブト:作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。 トリカブト:なに、簡単なことだよ、君にとっては。いや、君達にとってはというべきかな? ヒガンバナ:……君、達? トリカブト:ああ、君の能力に疑いは無いけれど、なんせあの《ロスト・ペイン》死山血河と畏れられたヒガンバナのことだからね。とはいえ、大切な幹部を一輪で行かせる訳にはいかない。 トリカブト:セルを組み、先日新たに判明した《ディフォリエンター》の基地を潰してきてもらいたい。所在及び敵の規模についてはキョウチクトウがすでに調査している。まぁ大凡一万程度だ。 トリカブト:この任務のオーダーは分かっているだろうけれど『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』だ。 トリカブト:以上だよ。何か質問は? ヒガンバナ:…………。 トリカブト:どうしたんだい? ヒガンバナ:いえ。わたくしは誰と組むことになるのでしょうか? トリカブト:決まっているだろう? 斥候たるキョウチクトウ、それに君の露払いであるアネモネだ。 ヒガンバナ:そん―― トリカブト:不服かい? ヒガンバナ:い、いえ、ですが……! トリカブト:君は常々言っていただろう? 彼女の性根を叩き直してやりたいと。それには何より実戦が良いだろう。君の好きな最前線が。ねぇヒガンバナ? ヒガンバナ:そ、それは。しかし、いくらこのわたくしとて、一万の《ディフォリエンター》を相手にするなど。 トリカブト:その為のアネモネだよ。彼女は愚かだが、非常に『渇えている《ラスティ》』だ。心配はいらないだろう。 ヒガンバナ:それはそうかも知れませんが、彼女も大切な幹部の一輪。もしものことがあれば……。 トリカブト:それは君の責任だよ、ヒガンバナ。監督者たる君の、ね。 ヒガンバナ:……冗談でしょう? トリカブト:ああ、僕が冗談を言うと思うかい? ヒガンバナ:……いえ。 トリカブト:ならばそれはそういうことだ。 ヒガンバナ:ですが《セブンス・フラワー》が四輪不在の今、作戦の承認は……。 トリカブト:その為に委任状を預かっている。四輪のうち、スズランとタイガー・リリー賛成。ジキタリスは反対、ナルシサスは辞退。つまり、アネモネが来なかった時点で、この作戦は決定事項なんだよ。 ヒガンバナ:それは、アネモネが来ていても同じことなのでは? トリカブト:さて、どうだろうね。とにかく―― トリカブト:やれるね、ヒガンバナ? ヒガンバナ:……はぁ、えぇ。 トリカブト:ふふ。君達の活躍を期待しているよ。 トリカブト:全ては《ラスティ・エデン》の名の下に。 ヒガンバナ:全ては《ラスティ・エデン》の名の下に。 :  0:間。 :  トリカブト:ところで、トリカブト、そろそろ何かを頼まないといけないと思うんだ。彼らがずっと見ているよ? ヒガンバナ:あぁ、そうですね。何にしましょうか? トリカブト:君は何か希望があるかい? ヒガンバナ:特には。 トリカブト:では、僕が適当に見繕おう。いいね? ヒガンバナ:分かりました。お呼び致します。 :  0:ヒガンバナ、手を叩いて店員を呼ぶ。 :  トリカブト:ああ、君。僕とこの男にオムライスを一つずつ。それに食後にはパフェを、このエクストラスイート雪景色パフェなものを頂けるかな? 頼むよ。ふふ。 ヒガンバナ:……パフェですか。 トリカブト:甘いものは嫌いかい? ヒガンバナ:いえ。好物です。 トリカブト:それは良かった。 ヒガンバナ:ただ、高く付きそうだなと。 トリカブト:稼いでるんだろう? ヒガンバナ:まぁ。そうですね、はい。 トリカブト:ふふふ。あてにしているよ。さて、次の会合はいつにする? ヒガンバナ:そうですね、来週わたくしは外せない案件……任務がありますので、幹部会には出られませんね。なので、残りのメンバーでやっていただけたら幸いです。 トリカブト:そうか、それは寂しくなるね。 ヒガンバナ:恐縮です。 トリカブト:僕はいつか『組織』が一堂に会する日が来ることを切に願うよ。 ヒガンバナ:全員ですか。まぁ、あんまり揃わないですもんね。我々は生活圏も、生き方も、年齢、職業、その他考え得るステータスは大凡バラバラですからね。共通点と呼べるものなんて表面上は何一つありません。それが一時に集まれる機会など滅多にあることでは。 トリカブト:それ故に、深層でのみ繋がる我々『組織』の素晴らしさを感じるだろう? ヒガンバナ:仰るとおりで。表のシガラミにまみれた肩書きや、意味の無い身分的な上下関係を放り出し、静かに秘匿された関係性の中において、現実を超克した空想を表現することで、真なる自己を解放できるこのひとときこそ、わたくしの人生で何より明確に生を実感できる唯一無二の《エデン》なのです。 トリカブト:半分くらい何を言ってるのか僕には難しくて理解できないけれど、君が喜んでいるのなら何よりだ。 ヒガンバナ:ええ、この喜びをわたくしに教えてくれたこと、感謝の言葉もありません。 トリカブト:よせよ、ヒガンバナ。僕らは君が今言ったように、上下関係に囚われない同志なのだろう? それでいいじゃないか。あくまで、僕が皆の総意により、役割的な議長をしているだけで、君が代わりたければ代わっても良いんだ。そうだろう? ヒガンバナ:ええ、そうでしたね。ですが、わたくしの望みはこうあることなので。 トリカブト:そうだろう。ならば、君は君でいれば良いさ。そうありたいと願う今この時は、君はヒガンバナであり、僕は、 ヒガンバナ:トリカブト。 トリカブト:ふふ。そういうことだよ。……ああ。オムライスが来たみたいだ。 :  0:店員がオムライスのプレートを二人の前に置く。 :  トリカブト:ありがとう。……では、頂くとしよう。 ヒガンバナ:それでは、 トリカブト:《ラスティ・エデン》の理想に。 ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の繁栄に。 トリカブト:いただきまーす! ヒガンバナ:いただきます。 トリカブト:んー! おいしい! ヒガンバナ:ん。これは、なかなか。 トリカブト:だよね! パフェも楽しみ! ヒガンバナ:そうですねぇ! でも、食べきれますか? トリカブト:……うーん。思ったより大きかったからね。どうだろう? 駄目そうだったら一条が食べてくれる? ヒガンバナ:う、この量をですか……。最近歳のせいか、胃袋が……。 トリカブト:何言ってるんだよ。一条はまだ若いでしょ、大丈夫大丈夫。 ヒガンバナ:玲維くん、それ、桂木さんと比べてませんか? それを言ったら玲維くんだって育ち盛りだし。 トリカブト:知ってる? 一条、食べ過ぎは良くないんだよ? ヒガンバナ:玲維くんが言うの? トリカブト:あー、パフェ楽しみだねー。 ヒガンバナ:わたくしはちょっと、パフェが来るの怖くなってきたんですが。 トリカブト:そう? 僕はパフェも、次の会合も楽しみだけどなー。 ヒガンバナ:左様で。 トリカブト:……う、ちょっと。しんどくなってきたかオムライスわけてあげるね。 ヒガンバナ:えぇ!? トリカブト:あ、そうだ一条! 《ラスティ・エデン》の次は何にする? 今回はお花だったから、次はお星とか? 海の生き物とか石とかもありかも知れないね! またみんなに聞かないと! ……あ、パフェ来たよ! すっご! でっか! わーい! ヒガンバナ:……うわぁ、あれも食べるのかぁ。これは医者に怒られますね。 トリカブト:一条……ヒガンバナも早くオムライス食べ終わりなよ。待ってるから、ね? ヒガンバナ:……まったく。ええい、分かりました! すぐに片付けますよ、トリカブト! ……我ら《ラスティ・エデン》に栄光あれ! :  0:  《幕》

0:◇ファミレス :  0:入店音。 0:少年トリカブトと、紳士ヒガンバナが並んで入ってくる。 0:店員に「何名様ですか?」と問われる。 : トリカブト:三輪……いや、三名だ。一名は遅れてくる。そうだね? ヒガンバナ:ええ。その筈ですが。 トリカブト:アネモネにも困ったものだ。ああ、お前煙草は吸うのか? ヒガンバナ:いえ。 トリカブト:禁煙席で頼む。うむ。 :  0:二人、テーブルに案内される。 :  トリカブト:アネモネは本当に来るんだろうね? ヒガンバナ。 ヒガンバナ:ええ、先程そのように連絡がありましたよ、トリカブト。なんでも『草ヲ刈ル者《ディフォリエンター》』の巣を見つけたらしく、道草をしているとか。 トリカブト:それはそれは。使命に忠実で何よりだ。……もしそれが本当ならば、だけれどね。 ヒガンバナ:アネモネは独自の根を持っておりますから、どこかで情報を掴んでくるのやもしれません。 トリカブト:君はそれを信じているのかい? ヒガンバナ。 ヒガンバナ:株を連ねる同志としては、信頼しております。 トリカブト:そうか。けれどアネモネは光合成をするように嘘をつくからね。ある意味それが彼女の養分とも言える。アネモネの言の葉が真実なら、もう《ディフォリエンター》は根絶やしだろう。それも五回分ほどね。 ヒガンバナ:……仰るとおりです。 トリカブト:全く、再生の使徒たる僕らの悲願を何だと思っているのか。 ヒガンバナ:面目ありません。 トリカブト:……まぁいい。アネモネの怠惰と君の管理責任を問うのはまた今度にしよう。それで良いね? ヒガンバナ:ええ。 トリカブト:さて、定刻だ。始めるとしよう――。 :  0:間。 :  トリカブト:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。 ヒガンバナ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。 トリカブト:知っての通り、現在はスズラン主動の下、オペレーション『塵芥散《ダスト・シード》』が展開されている。成功如何によっては、僕らの『領域《ガーデン》』獲得が大きく見込める極めて重要な作戦だ。 ヒガンバナ:ええ。我々の命運を掛けた、正に、次の時代を作る種子を世界に散りばめる作戦です。ああ、直接関われないのが残念でなりません。 トリカブト:そう言うな。君には君の役目があるさ、ヒガンバナ。 ヒガンバナ:アネモネのお守り以外で頼みたいものですが。 トリカブト:それは、その役目を十分にこなしてから言って欲しいね。 ヒガンバナ:かたじけない限りです。 トリカブト:話を戻そう。 トリカブト:《ダスト・シード》遂行に伴い、此度はスズラン以下、ジキタリス、ナルシサス、タイガー・リリーの四輪がこの場にいない。 ヒガンバナ:半数以上ですね。キョウチクトウは? トリカブト:彼は、そうだね。恐らくその辺りに居るんじゃ無いかな。残念ながら、僕の感覚では捉えきれない。ヒガンバナ、君はどうだい? ヒガンバナ:わたくしも薄らと何かを感じる気がする。くらいですね。喩えるならそれこそ『アネモネ』の匂いのような。 トリカブト:まぁ、あのアネモネは非常に匂い立つ存在だけれどね。 ヒガンバナ:ええ、確かに。……さておき、今こうして感じ取ることのできる匂いが、果たしてキョウチクトウのものであるのかと問われると、私には自信がありませんね。 トリカブト:そうだろうね。だからこそ、秘花《ホロウ・フロウ》たるキョウチクトウの働きがあるとも言えるのだけれど。 ヒガンバナ:そもそも我々《ラスティ・エデン》幹部『七災花《セブンス・フラワー》」においてはもとより数に入っておりませんな。 トリカブト:ならば、此度の《ラスティ・エデン》においても、やはり居ないも同然だろう? ヒガンバナ:いつものことではありますが。……ということは、アネモネについても? トリカブト:今更来ると思うかい? ヒガンバナ:……いえ。 トリカブト:彼女は正式な幹部だというのにね。 ヒガンバナ:つまり、幹部は四輪欠席、一輪遅刻、一輪補欠。 トリカブト:キョウチクトウは補欠ですら無い、言わば傍観者、いや観測者《スケア・クロウ》だ。 トリカブト:だから此度の《ラスティ・エデン》はヒガンバナ。君と、この僕トリカブトで執り行われる。 ヒガンバナ:はぁ。 トリカブト:なんだい、不満かい? ヒガンバナ:いえ、ただ。我々《ラスティ・エデン》の意志を束ねる会合であるのに、このような質で良いのかと、憂いていただけです。 トリカブト:案ずるな。アネモネはさておき、《ダスト・シード》遂行者四輪の委任状は預かっている。 トリカブト:《ラスティ・エデン》は滞りなく行われるよ。 トリカブト:それに、このような状況を招いたのは、少なからず君の力不足が一因だと言うことを忘れていないかい? ヒガンバナ:それは……力及ばずお恥ずかしい限りです。 トリカブト:全く、大いに恥じてくれよ。 ヒガンバナ:っは。御意に。 トリカブト:君の真なる願いが、前線で大輪の赤き花を咲かせることに尽きるとはいえ、君には組織を束ねる根《ルーツ》としての役目もあるのだから。 ヒガンバナ:えぇ、左様で。しかし、こうしていると戦場に焦げ付く芳香をすっかり懐かしく思ってしまうこともまた事実。そしてわたくしは今、静かに枯れ逝こうとしている感覚さえあります。 トリカブト:君ならそう言うだろうと思っていたからね。いい話があるよ、ヒガンバナ? ヒガンバナ:……期待してもよろしいので? トリカブト:ふふふ、もちろん。僕は君達の、いや僕達《ラスティ・エデン》の幸福と繁栄をいつでも願っているからね。 ヒガンバナ:有り難く拝聴致しましょう。 トリカブト:では、本題だ。君にはある任務を言い渡す。 ヒガンバナ:任務? トリカブト:作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。 トリカブト:なに、簡単なことだよ、君にとっては。いや、君達にとってはというべきかな? ヒガンバナ:……君、達? トリカブト:ああ、君の能力に疑いは無いけれど、なんせあの《ロスト・ペイン》死山血河と畏れられたヒガンバナのことだからね。とはいえ、大切な幹部を一輪で行かせる訳にはいかない。 トリカブト:セルを組み、先日新たに判明した《ディフォリエンター》の基地を潰してきてもらいたい。所在及び敵の規模についてはキョウチクトウがすでに調査している。まぁ大凡一万程度だ。 トリカブト:この任務のオーダーは分かっているだろうけれど『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』だ。 トリカブト:以上だよ。何か質問は? ヒガンバナ:…………。 トリカブト:どうしたんだい? ヒガンバナ:いえ。わたくしは誰と組むことになるのでしょうか? トリカブト:決まっているだろう? 斥候たるキョウチクトウ、それに君の露払いであるアネモネだ。 ヒガンバナ:そん―― トリカブト:不服かい? ヒガンバナ:い、いえ、ですが……! トリカブト:君は常々言っていただろう? 彼女の性根を叩き直してやりたいと。それには何より実戦が良いだろう。君の好きな最前線が。ねぇヒガンバナ? ヒガンバナ:そ、それは。しかし、いくらこのわたくしとて、一万の《ディフォリエンター》を相手にするなど。 トリカブト:その為のアネモネだよ。彼女は愚かだが、非常に『渇えている《ラスティ》』だ。心配はいらないだろう。 ヒガンバナ:それはそうかも知れませんが、彼女も大切な幹部の一輪。もしものことがあれば……。 トリカブト:それは君の責任だよ、ヒガンバナ。監督者たる君の、ね。 ヒガンバナ:……冗談でしょう? トリカブト:ああ、僕が冗談を言うと思うかい? ヒガンバナ:……いえ。 トリカブト:ならばそれはそういうことだ。 ヒガンバナ:ですが《セブンス・フラワー》が四輪不在の今、作戦の承認は……。 トリカブト:その為に委任状を預かっている。四輪のうち、スズランとタイガー・リリー賛成。ジキタリスは反対、ナルシサスは辞退。つまり、アネモネが来なかった時点で、この作戦は決定事項なんだよ。 ヒガンバナ:それは、アネモネが来ていても同じことなのでは? トリカブト:さて、どうだろうね。とにかく―― トリカブト:やれるね、ヒガンバナ? ヒガンバナ:……はぁ、えぇ。 トリカブト:ふふ。君達の活躍を期待しているよ。 トリカブト:全ては《ラスティ・エデン》の名の下に。 ヒガンバナ:全ては《ラスティ・エデン》の名の下に。 :  0:間。 :  トリカブト:ところで、トリカブト、そろそろ何かを頼まないといけないと思うんだ。彼らがずっと見ているよ? ヒガンバナ:あぁ、そうですね。何にしましょうか? トリカブト:君は何か希望があるかい? ヒガンバナ:特には。 トリカブト:では、僕が適当に見繕おう。いいね? ヒガンバナ:分かりました。お呼び致します。 :  0:ヒガンバナ、手を叩いて店員を呼ぶ。 :  トリカブト:ああ、君。僕とこの男にオムライスを一つずつ。それに食後にはパフェを、このエクストラスイート雪景色パフェなものを頂けるかな? 頼むよ。ふふ。 ヒガンバナ:……パフェですか。 トリカブト:甘いものは嫌いかい? ヒガンバナ:いえ。好物です。 トリカブト:それは良かった。 ヒガンバナ:ただ、高く付きそうだなと。 トリカブト:稼いでるんだろう? ヒガンバナ:まぁ。そうですね、はい。 トリカブト:ふふふ。あてにしているよ。さて、次の会合はいつにする? ヒガンバナ:そうですね、来週わたくしは外せない案件……任務がありますので、幹部会には出られませんね。なので、残りのメンバーでやっていただけたら幸いです。 トリカブト:そうか、それは寂しくなるね。 ヒガンバナ:恐縮です。 トリカブト:僕はいつか『組織』が一堂に会する日が来ることを切に願うよ。 ヒガンバナ:全員ですか。まぁ、あんまり揃わないですもんね。我々は生活圏も、生き方も、年齢、職業、その他考え得るステータスは大凡バラバラですからね。共通点と呼べるものなんて表面上は何一つありません。それが一時に集まれる機会など滅多にあることでは。 トリカブト:それ故に、深層でのみ繋がる我々『組織』の素晴らしさを感じるだろう? ヒガンバナ:仰るとおりで。表のシガラミにまみれた肩書きや、意味の無い身分的な上下関係を放り出し、静かに秘匿された関係性の中において、現実を超克した空想を表現することで、真なる自己を解放できるこのひとときこそ、わたくしの人生で何より明確に生を実感できる唯一無二の《エデン》なのです。 トリカブト:半分くらい何を言ってるのか僕には難しくて理解できないけれど、君が喜んでいるのなら何よりだ。 ヒガンバナ:ええ、この喜びをわたくしに教えてくれたこと、感謝の言葉もありません。 トリカブト:よせよ、ヒガンバナ。僕らは君が今言ったように、上下関係に囚われない同志なのだろう? それでいいじゃないか。あくまで、僕が皆の総意により、役割的な議長をしているだけで、君が代わりたければ代わっても良いんだ。そうだろう? ヒガンバナ:ええ、そうでしたね。ですが、わたくしの望みはこうあることなので。 トリカブト:そうだろう。ならば、君は君でいれば良いさ。そうありたいと願う今この時は、君はヒガンバナであり、僕は、 ヒガンバナ:トリカブト。 トリカブト:ふふ。そういうことだよ。……ああ。オムライスが来たみたいだ。 :  0:店員がオムライスのプレートを二人の前に置く。 :  トリカブト:ありがとう。……では、頂くとしよう。 ヒガンバナ:それでは、 トリカブト:《ラスティ・エデン》の理想に。 ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の繁栄に。 トリカブト:いただきまーす! ヒガンバナ:いただきます。 トリカブト:んー! おいしい! ヒガンバナ:ん。これは、なかなか。 トリカブト:だよね! パフェも楽しみ! ヒガンバナ:そうですねぇ! でも、食べきれますか? トリカブト:……うーん。思ったより大きかったからね。どうだろう? 駄目そうだったら一条が食べてくれる? ヒガンバナ:う、この量をですか……。最近歳のせいか、胃袋が……。 トリカブト:何言ってるんだよ。一条はまだ若いでしょ、大丈夫大丈夫。 ヒガンバナ:玲維くん、それ、桂木さんと比べてませんか? それを言ったら玲維くんだって育ち盛りだし。 トリカブト:知ってる? 一条、食べ過ぎは良くないんだよ? ヒガンバナ:玲維くんが言うの? トリカブト:あー、パフェ楽しみだねー。 ヒガンバナ:わたくしはちょっと、パフェが来るの怖くなってきたんですが。 トリカブト:そう? 僕はパフェも、次の会合も楽しみだけどなー。 ヒガンバナ:左様で。 トリカブト:……う、ちょっと。しんどくなってきたかオムライスわけてあげるね。 ヒガンバナ:えぇ!? トリカブト:あ、そうだ一条! 《ラスティ・エデン》の次は何にする? 今回はお花だったから、次はお星とか? 海の生き物とか石とかもありかも知れないね! またみんなに聞かないと! ……あ、パフェ来たよ! すっご! でっか! わーい! ヒガンバナ:……うわぁ、あれも食べるのかぁ。これは医者に怒られますね。 トリカブト:一条……ヒガンバナも早くオムライス食べ終わりなよ。待ってるから、ね? ヒガンバナ:……まったく。ええい、分かりました! すぐに片付けますよ、トリカブト! ……我ら《ラスティ・エデン》に栄光あれ! :  0:  《幕》