台本概要
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タイトル | 『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の誘い。 |
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作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 5人用台本(男1、女3、不問1) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【あらすじ】 昼下がりのファミレスに、並々ならぬ気配を漂わせてる少年と紳士とOLが入店する。何やら物騒な、しかし魅惑的な匂いのする会話を繰り広げる三人。彼らの目的、そして正体とは―― 48 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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トリカブト | 不問 | 128 | 外見=少年 真名=三舟・玲以(みふね・れい) 小学生の姿をしているが落ち着いた雰囲気を纏い、言葉遣いも丁寧かつ堂々たるもの。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人で議長を務める。 |
ヒガンバナ | 男 | 101 | 外見=紳士 真名=一条・司(いちじょう・つかさ) 姿も中身も紳士的で冷静。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人で参謀を務め、アネモネの監督者でもある。苦労人。 |
アネモネ | 女 | 58 | 外見=女学生 真名=二宮・貴璃(にのみや・きり) 文学少女然とした風貌ながら、言動は乱暴でパワータイプながら語彙が豊富。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人で遊撃手。遅刻常習者。 |
キョウチクトウ | 女 | 93 | 会社員 真名=四谷・夕星(ゆず) 見た目はクールな女性会社員で無口。『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』の幹部『七災花《セブンス・フラワー》」の一人ではなく秘花《ホロウ・フロウ》或いは観測者《スケア・クロウ》と呼ばれる斥候。 |
小春 | 女 | 74 | 肩書=アルバイト店員 名前=日和・小春(ひより・こはる) 真面目にアルバイトをする大学生。ただ少し日々に物足りなさを感じながら生きている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:◇ファミレス
:
0:入店音。
:
小春:いらっしゃいませー。
:
0:少年トリカブトと、紳士ヒガンバナ、会社員キョウチクトウが並んで入ってくる。
:
小春:すみません、ただいま満席でございましてご案内まで少々お時間頂きますが大丈夫でしょうか?
トリカブト:構わないよ。
小春:……え?
トリカブト:何か?
:
0:小春、キョウチクトウを見る。
0:が、目を逸らされる。
0:ヒガンバナが前に出る。
:
ヒガンバナ:ええ、構いませんよ。
小春:……ああ、すみません、それでは準備ができましたらご案内致しますので、こちらのウェイティングボードにご記入お願い致します。
トリカブト:ありがとう。
小春:失礼致します。
小春:(M)なんだろう、あのお客さん……。家族連れ? いや、そんな風には……。まぁいっか。
:
0:小春、去る。
:
トリカブト:今日は四輪……いや、四名で良かったかな?
ヒガンバナ:ええ。その筈ですが。
キョウチクトウ:……肯定。
トリカブト:アネモネにも困ったものだ。ああヒガンバナ、お前煙草は吸うのかい?
ヒガンバナ:いえ。
トリカブト:キョウチクトウもいいかい?
キョウチクトウ:…………ん。
トリカブト:君は相変わらず無口だね。
キョウチクトウ:……ふふ。
トリカブト:ふふ。
トリカブト:ところで、アネモネは本当に来るんだろうね? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:ええ、先程そのように連絡がありましたよ、トリカブト。
ヒガンバナ:なんでも『草ヲ刈ル者《ディフォリエンター》』の巣を見つけたらしく、道草をしているとか。
キョウチクトウ:…………は。
トリカブト:それはそれは。使命に忠実で何よりだ。
トリカブト:……もしそれが本当ならば、だけれどね。
ヒガンバナ:アネモネは独自の根を持っておりますから、どこかで情報を掴んでくるのやもしれません。
トリカブト:君はそれを信じているのかい? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:株を連ねる同志としては、信頼しております。
トリカブト:そうか。けれどアネモネは光合成をするように嘘をつくからね。ある意味それが彼女の養分とも言える。アネモネの言の葉が真実なら、もう《ディフォリエンター》は根絶やしだろう。それも五回分ほどね。
ヒガンバナ:……仰るとおりです。
キョウチクトウ:……同意。
トリカブト:全く、再生の使徒たる僕らの悲願を何だと思っているのかな、ヒガンバナ。
キョウチクトウ:……悲願……ヒガンバナ……ふふ。
ヒガンバナ:面目ありません。
トリカブト:……まぁいい。アネモネの怠惰と君の管理責任を問うのはまた今度にしよう。それで良いね?
キョウチクトウ:……異論、無い。
ヒガンバナ:ええ。
:
0:小春が近付いてきてウェイティングボードを見る。
:
小春:大変お待たせ致しました、四名でお待ちの……『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』様……? え?
トリカブト:さて、行こうか。トリカブト、キョウチクトウ。
ヒガンバナ:仰せのままに。
キョウチクトウ:……御意。
小春:(M)え、何これ、どういうあれなの? 関係性が読めない、家族では無さそうだし、家族で無いなら……あ、オフ会? オフ会なのかな? 多分そう、きっとそう。でも、深く考えないでいよう、私。
トリカブト:ああ、君。
小春:え、あ、なんでしょうか……?
トリカブト:一名遅れてくるが構わないかな?
小春:あ、はい。
トリカブト:では、案内してくれ給え。
小春:は、はい……それではお席にご案内します。
トリカブト:ありがとう。
:
0:小春、三人をテーブル席に案内する。
:
小春:そ、それではご注文お決まりでしたら、呼び出しボタンを押して下さい。
ヒガンバナ:ええ。分かりました。
キョウチクトウ:……承知。
小春:し、失礼します。
トリカブト:……ああ、君。
小春:は、はい!? 何でしょうか。
トリカブト:ドリンクバーはあるかい?
小春:ドリンクバー。……はい、ございますよ。
トリカブト:では、それを人数分頼もうかな。
小春:ドリンクバー。……かしこまりました。
トリカブト:ああ、四名分、頼むよ。
小春:ドリンクバー。四名。かしこまりました。
ヒガンバナ:僭越ながら、トリカブト。アネモネが本当に来るかは分の悪い賭けに思われますが。
キョウチクトウ:……博打。
トリカブト:たとえ現れなかったとしても、その程度は最低限の場所代という物だ。
ヒガンバナ:そのようなお考えでございましたか。承知。
小春:い、以上でよろしかったでしょうか?
トリカブト:ああ、また改めて声をかけるよ。
小春:(M)正直かけないで欲しい。
小春:かしこまりました。ドリンクバーはあちらにございます。専用のグラスをお使い下さい。それでは失礼します。
キョウチクトウ:……うむ。
ヒガンバナ:私が淹れて参ります。何がよろしいでしょう?
トリカブト:エスプレッソだ。
ヒガンバナ:承知しました。キョウチクトウは?
キョウチクトウ:……炭酸水。
ヒガンバナ:良いでしょう。しばしお待ち下さい。
小春:(M)大人が小学生に敬語使ってる……。ギルマスとかなのか? いや、もしかして……お坊ちゃま? お付きの二人は執事。あ、ぽいな。もう一人は……メイドさん……? とか? いや。考えないようにしよ。私はバイト、私はバイト。
:
0:小春、キッチンに向かう。
0:ヒガンバナドリンクバーを淹れに行く。
:
トリカブト:…………。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:キョウチクトウ。
キョウチクトウ:…………?
トリカブト:炭酸水、美味しいのかい?
キョウチクトウ:…………至高。
トリカブト:それはなによりだ。
キョウチクトウ:…………。
:
0:ヒガンバナが戻る。
:
ヒガンバナ:お待たせ致しました。
ヒガンバナ:エスプレッソと炭酸水、私はカモミールを。
キョウチクトウ:……感謝。
トリカブト:ありがとう。
ヒガンバナ:いえ。
キョウチクトウ:……ん。
トリカブト:……さて、定刻だ。始めるとしよう――。
0:
0:間。
0:
トリカブト:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
ヒガンバナ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
キョウチクトウ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
小春:(M)なんか始まった。
:
0:小春、三人の様子をチラ見している。
:
トリカブト:知っての通り、現在はスズラン主動の下、オペレーション『塵芥散《ダスト・シード》』が展開されている。成功如何によっては、僕らの『領域《ガーデン》』獲得が大きく見込める極めて重要な作戦だ。
キョウチクトウ:……『領域《ガーデン》』
小春:(M)見ちゃいけない。関わるとマズい。頭では分かってるのに、何だか見てしまう。聞き耳が立ってしまう。どうしてしまったんだろう、私……?
ヒガンバナ:ええ。我々の命運を掛けた、まさに次の時代を作る種子を世界に散りばめる作戦です。ああ、直接関われないのが残念でなりません。
トリカブト:そう言うな。君には君の役目があるさ、ヒガンバナ。
ヒガンバナ:アネモネのお守り以外で頼みたいものですが。
トリカブト:それは、その役目を十分にこなしてから言って欲しいね。
ヒガンバナ:かたじけない限りです。
キョウチクトウ:……無能。
ヒガンバナ:っく……。
トリカブト:やれやれ。……話を戻そう。
トリカブト:《ダスト・シード》遂行に伴い、此度はスズラン以下、ジキタリス、ナルシサス、タイガー・リリーの四輪がこの場にいない。
ヒガンバナ:半数以上ですね。此度は珍しくキョウチクトウも姿を見せていますが。
小春:(M)ほ、他にも仲間が!? やっぱりギルドメンバー? それとも……。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:そうだね。普段ならば「恐らくその辺りに居る」ことしか分からないし、彼女がその気であれば、残念ながら僕の感覚では捉えきれないよ。ヒガンバナ、君はどうだい?
ヒガンバナ:わたくしも薄らと何かを感じる気がする。くらいですね。喩えるならそれこそ『アネモネ』の匂いのような。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:まぁ、あのアネモネは非常に匂い立つ存在だけれどね。
ヒガンバナ:ええ、確かに。……さておき、今こうして感じ取ることのできる匂いが、果たしてキョウチクトウのものであるのかと問われると、私には自信がありませんね。
トリカブト:そうだろうね。だからこそ、秘花《ホロウ・フロウ》たるキョウチクトウの働きがあるとも言えるのだけれど。
小春:(M)あの無口なお姉さんにそんな役割が……?!
ヒガンバナ:そもそも我々《ラスティ・エデン》幹部『七災花《セブンス・フラワー》」においてはもとより数に入っておりませんな。
小春:(M)『七災花《セブンス・フラワー》」とは!?
キョウチクトウ:……ふふ。
トリカブト:ならば、此度の《ラスティ・エデン》においても、やはり居ないも同然だろうか? どうしたい? キョウチクトウ?
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:だそうだよ。
ヒガンバナ:いつものことではありますが。
ヒガンバナ:……ということは、アネモネについても?
トリカブト:今更来ると思うかい?
ヒガンバナ:……いえ。
キョウチクトウ:……怠惰。
トリカブト:彼女は正式な幹部だというのにね。
ヒガンバナ:つまり此度の会合、幹部は四輪欠席、一輪遅刻、一輪補欠。出席は二輪のみですか。
小春:(M)幹部の会合……? いかん、仕事が手につかなくなってきたぞ。
トリカブト:キョウチクトウは補欠ですら無い、言わば傍観者、いや観測者《スケア・クロウ》だ。
キョウチクトウ:……《スケア・クロウ》。
トリカブト:だから此度の《ラスティ・エデン》は、ヒガンバナ。君と、この僕トリカブトで執り行われる。
キョウチクトウ:……トリカブト……執り行う……ふふ。
小春:(M)なんかツボってる……。
ヒガンバナ:はぁ。
トリカブト:なんだい、不満かい?
ヒガンバナ:いえ、ただ。我々《ラスティ・エデン》の意志を束ねる会合であるのに、このような質で良いのかと憂いていただけです。
トリカブト:案ずるな。アネモネはさておき、《ダスト・シード》遂行者四輪の委任状は預かっている。
小春:(M)委任状? な、何だあの文字は……! 読めねぇ! 日本語でも英語でも無いのに、出鱈目には見えない! ……これ、ちょっと待って、もしかしてもしかしない? 本当に……?
キョウチクトウ:…………。
小春:……あ。
キョウチクトウ:……ふふ。
小春:(M)目ぇ合った! やっば! 一旦引っ込もう、仕事仕事――!
キョウチクトウ:……ん。
トリカブト:気にするな。
トリカブト:《ラスティ・エデン》は滞りなく行われるよ。
トリカブト:それに、このような状況を招いたのは、少なからず君の力不足が一因だと言うことを忘れていないかい?
ヒガンバナ:それは……力及ばずお恥ずかしい限りです。
トリカブト:全く、大いに恥じてくれよ。
ヒガンバナ:っは。御意に。
トリカブト:君の真なる願いが、前線で大輪の赤き花を咲かせることに尽きるとはいえ、君には組織を束ねる根《ルーツ》としての役目もあるのだから。
ヒガンバナ:えぇ、左様で。しかし、こうしていると戦場に焦げ付く芳香をすっかり懐かしく思ってしまうこともまた事実。そしてわたくしは今、静かに枯れ逝こうとしている感覚さえあります。
小春:(M)赤き花? 戦場……? 何の話なんだろう。
キョウチクトウ:…………。
小春:(M)あ、監視されてる。
トリカブト:君ならそう言うだろうと思っていたからね。いい話があるよ、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……期待してもよろしいので?
トリカブト:ふふふ、もちろん。僕は君達の、いや僕達《ラスティ・エデン》の幸福と繁栄をいつでも願っているからね。
小春:(M)《ラスティ・エデン》とは一体……?
ヒガンバナ:有り難く拝聴致しましょう。
キョウチクトウ:……宿望。
トリカブト:では、本題だ。君にはある任務を言い渡す。
ヒガンバナ:任務?
トリカブト:作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。
小春:(M)カーニヴァル? 意外と楽しそう……? いやでもカーニヴァルって確か……。
トリカブト:なに、簡単なことだよ、君にとっては。いや、君達にとってはというべきかな?
ヒガンバナ:……君、達?
トリカブト:ああ、君の能力に疑いは無いけれど、なんせあの《ロスト・ペイン》死山血河と畏れられたヒガンバナのことだからね。とはいえ、大切な幹部を一輪で行かせる訳にはいかない。
小春:(M)あの穏やかそうな紳士がそんな物騒な……?!
トリカブト:セルを組み、先日新たに判明した《ディフォリエンター》の基地を潰してきてもらいたい。所在及び敵の規模についてはキョウチクトウがすでに調査している。
キョウチクトウ:…………ん。
小春:(M)優秀だな。
ヒガンバナ:して如何ほどでしょう?
トリカブト:大凡、一万程度だ。
ヒガンバナ:一万!?
小春:一万!?
トリカブト:ん?
ヒガンバナ:ん?
キョウチクトウ:ん。
小春:い、一万円入りまーす!
トリカブト:……ふむ。
小春:(M)あ、危なかったー!
トリカブト:……ああ、ヒガンバナ。この任務のオーダーは分かっているだろうけれど『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』だ。
キョウチクトウ:……『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』。
トリカブト:以上だよ。何か質問は?
ヒガンバナ:…………。
トリカブト:どうしたんだい?
ヒガンバナ:いえ。わたくしは誰と組むことになるのでしょうか?
トリカブト:決まっているだろう? 斥候たるキョウチクトウ、それに君の露払いである――
アネモネ:あたしだ。
:
0:女学生アネモネが現れる。
:
ヒガンバナ:アネモネ!?
アネモネ:待たせたな。
小春:(M)増えた!
トリカブト:不服かい?
ヒガンバナ:い、いえ、ですが……!
小春:(M)すごい不服そう。
キョウチクトウ:……不服。
トリカブト:君は常々言っていただろう? 彼女の性根を叩き直してやりたいと。
アネモネ:ほう。詳しく話せトリカブト。
トリカブト:それには何より実戦が良いだろう。君の好きな最前線がと。君もそう思うだろう、ねぇヒガンバナ?
ヒガンバナ:そ、それは。しかし、いくらこのわたくしとて、一万の《ディフォリエンター》を相手にするなど。
小春:(M)あ、ヒガンバナの顔色が悪くなってきた。
トリカブト:その為のアネモネだよ。彼女は愚かだが、非常に『渇えている《ラスティ》』だ。心配はいらないだろう。
アネモネ:あぁ? 俺が愚かだと?
小春:(M)うわめっちゃガンつけてる。
トリカブト:違うのかい?
小春:(M)物静かそうな女子高生に至近距離で睨まれて笑ってる小学生とか、すごい絵面……! これ大丈夫なの?
キョウチクトウ:…………ふふ。
小春:(M)……まぁ全体的にすごい取り合わせではあるけど。
アネモネ:く、ふふふ! あは! ああ。ははは、その通りだトリカブト!
小春:(M)え、めっちゃ笑うやん……。
アネモネ:分かってるじゃねぇか。このアネモネに知性など不要! 俺はただ、食い散らかせればそれで良い!
小春:(M)文学少女みたいな見た目なのにまさかの脳筋!?
アネモネ:俺は『渇えている《ラスティ》』だ! 『枯れる《ドライ》』にゃ『勿体ない《プレコーシャス》』な『血湧き肉躍る花びら《フレッシュ&クラッシュ・リーヴス》』! 『お前もそうなんだろう?《ザ・ラウン・ネクスト・ドア・イズ・オルソー・ブラッディ》』ヒガンバナ? それともお前ぇはお飾りの『屍《プリザーブド・ギフト》』か?
小春:(M)何言ってるか分からん!
ヒガンバナ:それはそうかも知れませんが、あなたも大切な幹部の一輪。もしものことがあれば……。
小春:(M)ちゃんと伝わってる!?
トリカブト:それは君の責任だよ、ヒガンバナ。
トリカブト:監督者たる君の、ね。
キョウチクトウ:……当然。
ヒガンバナ:……冗談でしょう?
トリカブト:ああ、僕が冗談を言うと思うかい?
キョウチクトウ:…………否。
ヒガンバナ:……いえ。
アネモネ:もちろん『包み隠さず《フル・ブルーム》』だろうよ!
トリカブト:ならばそれはそういうことだ。
ヒガンバナ:ですが《セブンス・フラワー》が四輪不在の今、作戦の承認は……。
アネモネ:何を『弱気《バイオレット》』なこと言ってんだよ『華々しく《バイオレント》』にいこううぜ。
小春:(M)知性いらん言ってたわりにめっちゃ知的じゃない?!
キョウチクト:…………ん。
トリカブト:慌てるなアネモネ。その為に委任状を預かっている。キョウチクトウ、読み上げてくれるかい?
小春:え?
キョウチクトウ:四輪のうち、スズラン及びタイガー・リリー、賛成。
キョウチクトウ:ジキタリス反対。
キョウチクトウ:ナルシサス辞退。
小春:(M)普通に喋れるんかい!
キョウチクトウ:賛成2、反対1、辞退1。
トリカブト:というわけだ。
ヒガンバナ:味方がいない……!
トリカブト:僕は議長だから辞退するが……アネモネはどうかな?
アネモネ:俺はもちろん『賛成《ブルーミング》』さ。
キョウチクトウ:賛成3、反対1、辞退2。
ヒガンバナ:これは、とんだ茶番ですね。
トリカブト:さて、何のことやら。とにかく――
トリカブト:やれるね、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……はぁ、えぇ。
キョウチクトウ:賛成4、反対1、辞退2。
キョウチクトウ:賛成多数。よって、作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。議決されました。
トリカブト:ふふ。君達の活躍を期待しているよ。
アネモネ:蕾が綻ぶぜ。
ヒガンバナ:……はぁ。
小春:(M)あぁ……このありふれたファミレスで、重大な何かが決まってしまった。私は一体どうすれば……。
トリカブト:さぁ、ヒガンバナ。決まりは決まりだ。異論は無いね?
ヒガンバナ:ええ。
アネモネ:ねぇな!
キョウチクトウ:右に同じ。
トリカブト:ふふ。では一同、唱和せよ。全ては――
トリカブト:《ラスティ・エデン》の名の下に。
ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
キョウチクトウ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
:
0:間。
:
トリカブト:あぁところで、ヒガンバナ。そろそろ何かを頼まないといけないと思うんだ。彼女がずっと見ているよ?
小春:あ、
小春:(M)やば、バレてる……!
アネモネ:あぁ。あたし、ドリンクバー行ってきていいか? 走ってきたから《ラスティ》でさ。
トリカブト:ならば勝手に見繕っておくが。
アネモネ:任せる。あ、お替わりいる奴。
トリカブト:カプチーノ。
キョウチクトウ:……炭酸水。
ヒガンバナ:私はアセロラで。
アネモネ:オーケー『ちゃっちゃと行ってくる《プレコーシャス》』!
ヒガンバナ:では、何にしましょうか?
トリカブト:君は何か希望があるかい?
ヒガンバナ:特には。
トリカブト:キョウチクトウ?
キョウチクトウ:……同じく。
トリカブト:では、僕が纏めて見繕おう。いいね?
キョウチクトウ:……ん。
ヒガンバナ:分かりました。お呼び致します。
:
0:ヒガンバナ、手を叩いて店員を呼ぶ。
:
小春:(M)呼び出しボタン押せや……!
小春:……ご注文お決まりでしょうか?
トリカブト:ああ、君。オムライスを四人分。
小春:オムライス四人前ですね。
キョウチクトウ:ここのオムライス、美味。
ヒガンバナ:良いですな。
トリカブト:あぁ、それと食後にはパフェを。このエクストラスイート雪景色パフェなるものを四人分頂けるかな? 頼むよ。ふふ。
小春:雪景色パフェですね。……ボリュームありますよ?
トリカブト:問題ない。
小春:(M)小学生に食べられる量じゃ無いんだけど、……まぁ正体不明だからもしかしたらこれくらいぺろりといけるのかも。
小春:かしこまりました。ご注文はオムライス四人前、雪景色パフェ四人前、以上でよろしかったでしょうか?
トリカブト:ああ。
小春:承りました。失礼致します。
:
0:小春去る。
:
キョウチクトウ:エクストラスイート……、
ヒガンバナ:雪景色、
アネモネ:パフェか。
ヒガンバナ:アネモネ。
キョウチクトウ:……おかえり。
アネモネ:ああ、戻ったぜ。ほらよ。カプチーノ、炭酸、アセロラ、
ヒガンバナ:アネモネ、お前のは?
アネモネ:あたしのはコーラ。
アネモネ:しかし、パフェかぁ。
トリカブト:甘いものは嫌いかい?
アネモネ:嫌いじゃねぇな。
ヒガンバナ:好物です。
キョウチクトウ:……好き。
トリカブト:それは良かった。
ヒガンバナ:ただ、高く付きそうですね。
アネモネ:どうせ稼いでんだろ? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:まぁ。そうですね、はい。
キョウチクトウ:…………裏山。
トリカブト:ふふふ。あてにしているよ。
アネモネ:同じく。
キョウチクトウ:…………ちゃんと、払うよ。
ヒガンバナ:……はぁ。構いませんよ。
キョウチクトウ:……感謝。
トリカブト:さて、次の会合はいつにする?
ヒガンバナ:そうですね、来週わたくしは外せない打ち合わ……任務がありますので、幹部会には出られませんね。
キョウチクトウ:〆切近い。
トリカブト:それは残念だ。
小春:(M)あ、なんか普通に表の顔があるっぽいな、良かったぁ。本当に何か謎の存在の危ない集いなのかと思ったけど、そっか良かった。
トリカブト:アネモネは?
アネモネ:あたしは来週よその高校のやつらと殺し合……交流試合だな。まぁ早く片付いたら来るよ。
小春:(M)ちょっと待って、今普通に物騒な響きが聞こえたけど……!?
トリカブト:そうか、各々忙しいようだね。
ヒガンバナ:恐縮です。
アネモネ:すまねぇな。
キョウチクトウ:……ごめんね。
トリカブト:いいさ。ただ僕は、いつか『組織』が一堂に会する日が来るのを切に願うよ。
アネモネ:全員かぁ。厳しいよな。
キョウチクトウ:あんまり揃わないですものね。私達は生活圏、生き方、年齢、職業、その他考え得るステータスは大凡バラバラですから。
小春:(M)ずっと黙ってたのに、急に喋り出したな。
キョウチクトウ:私達に共通点と呼べるものなんて表面上は何一つありません。
アネモネ:傍から見ればまとまりのねぇ奇妙な集団だろうな。
小春:(M)それな。
キョウチクトウ:一時に集まれる機会など滅多にあることではありませんしね。
トリカブト:それ故に、深層でのみ繋がる我々『組織』の素晴らしさを感じるだろう?
ヒガンバナ:仰るとおりで。
アネモネ:同意するぜ。
キョウチクトウ:共感します。
ヒガンバナ:表のシガラミにまみれた肩書き、
アネモネ:意味の無い上下関係なんてクソみたいなもんを放り出して、
キョウチクトウ:静かに秘匿された関係性の中において、
ヒガンバナ:現実を超克した空想を表現することで、
アネモネ:真なる自己《デザイア》を解放できるこのメンツが
ヒガンバナ:わたくしの人生で何より明確に生を実感できる唯一無二の、
キョウチクトウ:《エデン》なのです。
ヒガンバナ:感謝しています。
トリカブト:半分くらい何を言ってるのか僕には難しくて理解できないけれど、君達が喜んでいるのなら何よりだ。あと、それ練習してきたの?
キョウチクトウ:はい。
アネモネ:かっこいいだろ?
トリカブト:僕も混ぜてくれれば良かったのになぁ。ちょっとのけ者にされた気分だよ。
ヒガンバナ:ふふ、そう言わないで下さい。
アネモネ:この喜びを俺達に教えてくれたこと、感謝の言葉もねぇ。
キョウチクトウ:だから、これはちょっとしたサプライズ。好きですよね、こういう連携技。
トリカブト:ふふ。ありがとう。大好きさ、君達が。
キョウチクトウ:……う! 尊い!
アネモネ:それな!
ヒガンバナ:分かりみの翁。
小春:(M)キャラ崩壊がひどいな!
トリカブト:ありがとう、でも、僕らは、今言ったように、上下関係に囚われない同志なのだろう? なら、それでいいじゃないか。あくまで、僕が皆の総意により、役割的な議長をしているだけで、誰かが代わりたければ代わっても良い。だから特別僕に恩義を感じる必要も無い。
トリカブト:そうだろう?
ヒガンバナ:ええ、そうでしたね。ですが、わたくしの望みはこうあることなので。
アネモネ:俺も今のままが楽しい。
キョウチクトウ:私もそうです。
トリカブト:そうだろう。ならば、君達は君達でいれば良いさ。そうありたいと願う今この時は、君はキョウチクトウであり、
キョウチクトウ:アネモネであり、
アネモネ:ヒガンバナであり、
ヒガンバナ:トリカブトである。
トリカブト:ふふ。そういうことだよ。
キョウチクトウ:ええ、そうですね。
ヒガンバナ:まことに。
アネモネ:……おお。オムライス来たみたいだぜ。
:
0:小春がオムライスのプレートを四人の前に置く。
:
小春:ご注文お持ちしました。
トリカブト:ありがとう。
アネモネ:お姉さん、もらうよ。
小春:恐れ入ります。
キョウチクトウ:美味しそう……。
小春:また後ほど、パフェお持ち致します。
トリカブト:ありがとう。
トリカブト:……では、頂くとしよう。
ヒガンバナ:それでは、
トリカブト:《ラスティ・エデン》の理想に。
ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の繁栄に。
キョウチクトウ:《ラスティ・エデン》の永世に。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の爛熟に。
:
0:間。
:
トリカブト:いただきまーす!
ヒガンバナ:いただきます。
キョウチクトウ:いただきます。
アネモネ:いただこう。
トリカブト:んー! おいしい!
ヒガンバナ:ん。これは、なかなか。
キョウチクトウ:ああ、口の中にオムライスという一つの完成されたハーモニー、即ちエデンが広がっていく!
アネモネ:どんな食レポだよ夕星の姐さん。確かに美味いけど。
トリカブト:ねー。パフェも楽しみ!
ヒガンバナ:そうですねぇ! でも、食べきれますか?
キョウチクトウ:うーん。思ったより大きかったからねぇ。いけそう?
アネモネ:きつかったら姉ちゃんが食べてやろうか?
キョウチクトウ:姉だけにアネモネ。……ぶふっ。
アネモネ:やかましいわ。
トリカブト:駄目そうだったら一条が食べてくれる?
ヒガンバナ:私ですか!? う、この量を……。最近歳のせいか、胃袋が……。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の参謀が随分と気弱なことじゃねぇか。
キョウチクトウ:気弱というか胃弱(いじゃく)では?
ヒガンバナ:うるさいですよ!
トリカブト:もう、何言ってるんだよ。一条はまだ若いでしょ、大丈夫大丈夫。
ヒガンバナ:玲維くん、それ、桂木さんと比べてませんか?
キョウチクトウ:あの人はまぁ、うちの平均年齢爆上げしてますもんね。
アネモネ:なのに一番元気だしなあの爺さん。
キョウチクトウ:吸血鬼って言われても信じちゃいますよね。
アネモネ:分かる。
ヒガンバナ:でも玲維くんだって育ち盛りだし。
トリカブト:知ってる? 一条、食べ過ぎは良くないんだよ?
ヒガンバナ:玲維くんが言うの?
アネモネ:あたしもちょっときついかも。
キョウチクトウ:だよねー。
トリカブト:あー、パフェ楽しみだねー。
ヒガンバナ:ちょっと、パフェが来るの怖くなってきたんですが。
キョウチクトウ:私もカロリー怖い。
トリカブト:そう? 僕はパフェも、次の会合も楽しみだけどなー。
アネモネ:まぁ根性でどうにかなるだろ、多分。
ヒガンバナ:左様で。
キョウチクトウ:貴璃ちゃん食べるのめっちゃ早いね。
アネモネ:ああ、食ってるときは無防備だからな。どんなときも出来るだけ早く食い終われってのがうちの家訓。あと、食えるときに食っとけも。
キョウチクトウ:なんか妙に逞しいよね、貴璃ちゃんの家って。どんな家なの?
アネモネ:聞きたいなら教えても良いけどさ。別に隠してるわけじゃねぇし。
ヒガンバナ:おじさんは、知らない方が良いこともあると思うけどね。
トリカブト:あのねぇ、二宮お姉ちゃんの家は大っきくて広いお城みたいなところだよ。
キョウチクトウ:へー、……行ったことあるの? 玲維くん。
トリカブト:うん! 意外と近所だし、車乗せてくれるからたまに遊びに行くんだ。
キョウチクトウ:……っく! 羨ましい!
ヒガンバナ:なんだか胃が痛くなるね。
トリカブト:……う、ちょっと。しんどくなってきたからオムライスわけてあげるね、一条。
ヒガンバナ:えぇ!? 早くない?!
アネモネ:ごちそうさま。
キョウチクトウ:早っ!?
アネモネ:楽勝。
ヒガンバナ:え、じゃあ、玲維くんの分食べてよ。
アネモネ:か、間接キスはちょっと恥ずいじゃん。
キョウチクトウ:さっき食べるって言ってなかった?
トリカブト:あ、それよりみんな! 《ラスティ・エデン》の次は何にする? 今回はお花だったから、次はお星とか? 海の生き物とか石とかもありかも知れないね!
アネモネ:夢が広がるなぁ!
トリカブト:……あ、パフェ来たよ!
:
0:小春、パフェを持ってくる。
:
小春:お待たせしました、エクストラスイート雪景色パフェ四人前お持ち致しましたー。
キョウチクトウ:すっご!
アネモネ:でっかいな!
トリカブト:わーすごー!
ヒガンバナ:……うわぁ、これも食べるのかぁ。これは医者に怒られますね。
キョウチクトウ:太りそう……。
アネモネ:まぁ、体動かせば良いっしょ。
キョウチクトウ:これ1000キロカロリー超えてるよ? いける?
アネモネ:う。
トリカブト:一条、四谷……いや。ヒガンバナ、キョウチクトウ? 早くオムライス食べ終わりなよ。僕はアネモネと待ってるから、ね?
アネモネ:早くしねぇと、俺が全部刈り尽くしちまうぜ?
キョウチクトウ:……うふふ。
ヒガンバナ:……まったく。ええい、分かりました! すぐに片付けますよ、トリカブト!
トリカブト:ふふ、その意気だ。
トリカブト:…………。
小春:うわぁ……あ、それでは失礼します。
トリカブト:……ああ、君。
小春:え、はい?
トリカブト:君、僕らの同志にならないか?
小春:え、ど、どういうことですか……?
キョウチクトウ:玲維君、そんな急に。
トリカブト:なぁに、難しいことは無いよ、お姉さん。ただ、心を開いて自らの意志に従えばいいのさ。どうかな?
小春:え、と、でも!
アネモネ:ずっと見てたもんな。興味、あるんだろ?
小春:そ、それは……。
アネモネ:俺達と来るときっと楽しいぜ?
キョウチクトウ:……歓迎。
小春:……私は……。
トリカブト:どうするかは君の心のままに。……ところで、手元がお留守だよ、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……っは!
トリカブト:僕達は新たな同胞を心より待っているから。ね?
小春:(N)こうして私は彼らと出会い『組織《エデン》』の一員となった。これからの私の人生に何が待ち受けているのか、それはまだ分からないけれど、なんだか素敵なことが始まる期待を胸に、私は錆びた《ラスティ》な扉を叩き、新たな世界へ。
ヒガンバナ:我ら《ラスティ・エデン》に栄光あれ!
:
0: 《幕》
0:◇ファミレス
:
0:入店音。
:
小春:いらっしゃいませー。
:
0:少年トリカブトと、紳士ヒガンバナ、会社員キョウチクトウが並んで入ってくる。
:
小春:すみません、ただいま満席でございましてご案内まで少々お時間頂きますが大丈夫でしょうか?
トリカブト:構わないよ。
小春:……え?
トリカブト:何か?
:
0:小春、キョウチクトウを見る。
0:が、目を逸らされる。
0:ヒガンバナが前に出る。
:
ヒガンバナ:ええ、構いませんよ。
小春:……ああ、すみません、それでは準備ができましたらご案内致しますので、こちらのウェイティングボードにご記入お願い致します。
トリカブト:ありがとう。
小春:失礼致します。
小春:(M)なんだろう、あのお客さん……。家族連れ? いや、そんな風には……。まぁいっか。
:
0:小春、去る。
:
トリカブト:今日は四輪……いや、四名で良かったかな?
ヒガンバナ:ええ。その筈ですが。
キョウチクトウ:……肯定。
トリカブト:アネモネにも困ったものだ。ああヒガンバナ、お前煙草は吸うのかい?
ヒガンバナ:いえ。
トリカブト:キョウチクトウもいいかい?
キョウチクトウ:…………ん。
トリカブト:君は相変わらず無口だね。
キョウチクトウ:……ふふ。
トリカブト:ふふ。
トリカブト:ところで、アネモネは本当に来るんだろうね? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:ええ、先程そのように連絡がありましたよ、トリカブト。
ヒガンバナ:なんでも『草ヲ刈ル者《ディフォリエンター》』の巣を見つけたらしく、道草をしているとか。
キョウチクトウ:…………は。
トリカブト:それはそれは。使命に忠実で何よりだ。
トリカブト:……もしそれが本当ならば、だけれどね。
ヒガンバナ:アネモネは独自の根を持っておりますから、どこかで情報を掴んでくるのやもしれません。
トリカブト:君はそれを信じているのかい? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:株を連ねる同志としては、信頼しております。
トリカブト:そうか。けれどアネモネは光合成をするように嘘をつくからね。ある意味それが彼女の養分とも言える。アネモネの言の葉が真実なら、もう《ディフォリエンター》は根絶やしだろう。それも五回分ほどね。
ヒガンバナ:……仰るとおりです。
キョウチクトウ:……同意。
トリカブト:全く、再生の使徒たる僕らの悲願を何だと思っているのかな、ヒガンバナ。
キョウチクトウ:……悲願……ヒガンバナ……ふふ。
ヒガンバナ:面目ありません。
トリカブト:……まぁいい。アネモネの怠惰と君の管理責任を問うのはまた今度にしよう。それで良いね?
キョウチクトウ:……異論、無い。
ヒガンバナ:ええ。
:
0:小春が近付いてきてウェイティングボードを見る。
:
小春:大変お待たせ致しました、四名でお待ちの……『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』様……? え?
トリカブト:さて、行こうか。トリカブト、キョウチクトウ。
ヒガンバナ:仰せのままに。
キョウチクトウ:……御意。
小春:(M)え、何これ、どういうあれなの? 関係性が読めない、家族では無さそうだし、家族で無いなら……あ、オフ会? オフ会なのかな? 多分そう、きっとそう。でも、深く考えないでいよう、私。
トリカブト:ああ、君。
小春:え、あ、なんでしょうか……?
トリカブト:一名遅れてくるが構わないかな?
小春:あ、はい。
トリカブト:では、案内してくれ給え。
小春:は、はい……それではお席にご案内します。
トリカブト:ありがとう。
:
0:小春、三人をテーブル席に案内する。
:
小春:そ、それではご注文お決まりでしたら、呼び出しボタンを押して下さい。
ヒガンバナ:ええ。分かりました。
キョウチクトウ:……承知。
小春:し、失礼します。
トリカブト:……ああ、君。
小春:は、はい!? 何でしょうか。
トリカブト:ドリンクバーはあるかい?
小春:ドリンクバー。……はい、ございますよ。
トリカブト:では、それを人数分頼もうかな。
小春:ドリンクバー。……かしこまりました。
トリカブト:ああ、四名分、頼むよ。
小春:ドリンクバー。四名。かしこまりました。
ヒガンバナ:僭越ながら、トリカブト。アネモネが本当に来るかは分の悪い賭けに思われますが。
キョウチクトウ:……博打。
トリカブト:たとえ現れなかったとしても、その程度は最低限の場所代という物だ。
ヒガンバナ:そのようなお考えでございましたか。承知。
小春:い、以上でよろしかったでしょうか?
トリカブト:ああ、また改めて声をかけるよ。
小春:(M)正直かけないで欲しい。
小春:かしこまりました。ドリンクバーはあちらにございます。専用のグラスをお使い下さい。それでは失礼します。
キョウチクトウ:……うむ。
ヒガンバナ:私が淹れて参ります。何がよろしいでしょう?
トリカブト:エスプレッソだ。
ヒガンバナ:承知しました。キョウチクトウは?
キョウチクトウ:……炭酸水。
ヒガンバナ:良いでしょう。しばしお待ち下さい。
小春:(M)大人が小学生に敬語使ってる……。ギルマスとかなのか? いや、もしかして……お坊ちゃま? お付きの二人は執事。あ、ぽいな。もう一人は……メイドさん……? とか? いや。考えないようにしよ。私はバイト、私はバイト。
:
0:小春、キッチンに向かう。
0:ヒガンバナドリンクバーを淹れに行く。
:
トリカブト:…………。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:キョウチクトウ。
キョウチクトウ:…………?
トリカブト:炭酸水、美味しいのかい?
キョウチクトウ:…………至高。
トリカブト:それはなによりだ。
キョウチクトウ:…………。
:
0:ヒガンバナが戻る。
:
ヒガンバナ:お待たせ致しました。
ヒガンバナ:エスプレッソと炭酸水、私はカモミールを。
キョウチクトウ:……感謝。
トリカブト:ありがとう。
ヒガンバナ:いえ。
キョウチクトウ:……ん。
トリカブト:……さて、定刻だ。始めるとしよう――。
0:
0:間。
0:
トリカブト:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
ヒガンバナ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
キョウチクトウ:『毒花ノ庭《ラスティ・エデン》』を。
小春:(M)なんか始まった。
:
0:小春、三人の様子をチラ見している。
:
トリカブト:知っての通り、現在はスズラン主動の下、オペレーション『塵芥散《ダスト・シード》』が展開されている。成功如何によっては、僕らの『領域《ガーデン》』獲得が大きく見込める極めて重要な作戦だ。
キョウチクトウ:……『領域《ガーデン》』
小春:(M)見ちゃいけない。関わるとマズい。頭では分かってるのに、何だか見てしまう。聞き耳が立ってしまう。どうしてしまったんだろう、私……?
ヒガンバナ:ええ。我々の命運を掛けた、まさに次の時代を作る種子を世界に散りばめる作戦です。ああ、直接関われないのが残念でなりません。
トリカブト:そう言うな。君には君の役目があるさ、ヒガンバナ。
ヒガンバナ:アネモネのお守り以外で頼みたいものですが。
トリカブト:それは、その役目を十分にこなしてから言って欲しいね。
ヒガンバナ:かたじけない限りです。
キョウチクトウ:……無能。
ヒガンバナ:っく……。
トリカブト:やれやれ。……話を戻そう。
トリカブト:《ダスト・シード》遂行に伴い、此度はスズラン以下、ジキタリス、ナルシサス、タイガー・リリーの四輪がこの場にいない。
ヒガンバナ:半数以上ですね。此度は珍しくキョウチクトウも姿を見せていますが。
小春:(M)ほ、他にも仲間が!? やっぱりギルドメンバー? それとも……。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:そうだね。普段ならば「恐らくその辺りに居る」ことしか分からないし、彼女がその気であれば、残念ながら僕の感覚では捉えきれないよ。ヒガンバナ、君はどうだい?
ヒガンバナ:わたくしも薄らと何かを感じる気がする。くらいですね。喩えるならそれこそ『アネモネ』の匂いのような。
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:まぁ、あのアネモネは非常に匂い立つ存在だけれどね。
ヒガンバナ:ええ、確かに。……さておき、今こうして感じ取ることのできる匂いが、果たしてキョウチクトウのものであるのかと問われると、私には自信がありませんね。
トリカブト:そうだろうね。だからこそ、秘花《ホロウ・フロウ》たるキョウチクトウの働きがあるとも言えるのだけれど。
小春:(M)あの無口なお姉さんにそんな役割が……?!
ヒガンバナ:そもそも我々《ラスティ・エデン》幹部『七災花《セブンス・フラワー》」においてはもとより数に入っておりませんな。
小春:(M)『七災花《セブンス・フラワー》」とは!?
キョウチクトウ:……ふふ。
トリカブト:ならば、此度の《ラスティ・エデン》においても、やはり居ないも同然だろうか? どうしたい? キョウチクトウ?
キョウチクトウ:…………。
トリカブト:だそうだよ。
ヒガンバナ:いつものことではありますが。
ヒガンバナ:……ということは、アネモネについても?
トリカブト:今更来ると思うかい?
ヒガンバナ:……いえ。
キョウチクトウ:……怠惰。
トリカブト:彼女は正式な幹部だというのにね。
ヒガンバナ:つまり此度の会合、幹部は四輪欠席、一輪遅刻、一輪補欠。出席は二輪のみですか。
小春:(M)幹部の会合……? いかん、仕事が手につかなくなってきたぞ。
トリカブト:キョウチクトウは補欠ですら無い、言わば傍観者、いや観測者《スケア・クロウ》だ。
キョウチクトウ:……《スケア・クロウ》。
トリカブト:だから此度の《ラスティ・エデン》は、ヒガンバナ。君と、この僕トリカブトで執り行われる。
キョウチクトウ:……トリカブト……執り行う……ふふ。
小春:(M)なんかツボってる……。
ヒガンバナ:はぁ。
トリカブト:なんだい、不満かい?
ヒガンバナ:いえ、ただ。我々《ラスティ・エデン》の意志を束ねる会合であるのに、このような質で良いのかと憂いていただけです。
トリカブト:案ずるな。アネモネはさておき、《ダスト・シード》遂行者四輪の委任状は預かっている。
小春:(M)委任状? な、何だあの文字は……! 読めねぇ! 日本語でも英語でも無いのに、出鱈目には見えない! ……これ、ちょっと待って、もしかしてもしかしない? 本当に……?
キョウチクトウ:…………。
小春:……あ。
キョウチクトウ:……ふふ。
小春:(M)目ぇ合った! やっば! 一旦引っ込もう、仕事仕事――!
キョウチクトウ:……ん。
トリカブト:気にするな。
トリカブト:《ラスティ・エデン》は滞りなく行われるよ。
トリカブト:それに、このような状況を招いたのは、少なからず君の力不足が一因だと言うことを忘れていないかい?
ヒガンバナ:それは……力及ばずお恥ずかしい限りです。
トリカブト:全く、大いに恥じてくれよ。
ヒガンバナ:っは。御意に。
トリカブト:君の真なる願いが、前線で大輪の赤き花を咲かせることに尽きるとはいえ、君には組織を束ねる根《ルーツ》としての役目もあるのだから。
ヒガンバナ:えぇ、左様で。しかし、こうしていると戦場に焦げ付く芳香をすっかり懐かしく思ってしまうこともまた事実。そしてわたくしは今、静かに枯れ逝こうとしている感覚さえあります。
小春:(M)赤き花? 戦場……? 何の話なんだろう。
キョウチクトウ:…………。
小春:(M)あ、監視されてる。
トリカブト:君ならそう言うだろうと思っていたからね。いい話があるよ、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……期待してもよろしいので?
トリカブト:ふふふ、もちろん。僕は君達の、いや僕達《ラスティ・エデン》の幸福と繁栄をいつでも願っているからね。
小春:(M)《ラスティ・エデン》とは一体……?
ヒガンバナ:有り難く拝聴致しましょう。
キョウチクトウ:……宿望。
トリカブト:では、本題だ。君にはある任務を言い渡す。
ヒガンバナ:任務?
トリカブト:作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。
小春:(M)カーニヴァル? 意外と楽しそう……? いやでもカーニヴァルって確か……。
トリカブト:なに、簡単なことだよ、君にとっては。いや、君達にとってはというべきかな?
ヒガンバナ:……君、達?
トリカブト:ああ、君の能力に疑いは無いけれど、なんせあの《ロスト・ペイン》死山血河と畏れられたヒガンバナのことだからね。とはいえ、大切な幹部を一輪で行かせる訳にはいかない。
小春:(M)あの穏やかそうな紳士がそんな物騒な……?!
トリカブト:セルを組み、先日新たに判明した《ディフォリエンター》の基地を潰してきてもらいたい。所在及び敵の規模についてはキョウチクトウがすでに調査している。
キョウチクトウ:…………ん。
小春:(M)優秀だな。
ヒガンバナ:して如何ほどでしょう?
トリカブト:大凡、一万程度だ。
ヒガンバナ:一万!?
小春:一万!?
トリカブト:ん?
ヒガンバナ:ん?
キョウチクトウ:ん。
小春:い、一万円入りまーす!
トリカブト:……ふむ。
小春:(M)あ、危なかったー!
トリカブト:……ああ、ヒガンバナ。この任務のオーダーは分かっているだろうけれど『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』だ。
キョウチクトウ:……『完膚なきまでに殲滅しろ《ラスティ・エデン》』。
トリカブト:以上だよ。何か質問は?
ヒガンバナ:…………。
トリカブト:どうしたんだい?
ヒガンバナ:いえ。わたくしは誰と組むことになるのでしょうか?
トリカブト:決まっているだろう? 斥候たるキョウチクトウ、それに君の露払いである――
アネモネ:あたしだ。
:
0:女学生アネモネが現れる。
:
ヒガンバナ:アネモネ!?
アネモネ:待たせたな。
小春:(M)増えた!
トリカブト:不服かい?
ヒガンバナ:い、いえ、ですが……!
小春:(M)すごい不服そう。
キョウチクトウ:……不服。
トリカブト:君は常々言っていただろう? 彼女の性根を叩き直してやりたいと。
アネモネ:ほう。詳しく話せトリカブト。
トリカブト:それには何より実戦が良いだろう。君の好きな最前線がと。君もそう思うだろう、ねぇヒガンバナ?
ヒガンバナ:そ、それは。しかし、いくらこのわたくしとて、一万の《ディフォリエンター》を相手にするなど。
小春:(M)あ、ヒガンバナの顔色が悪くなってきた。
トリカブト:その為のアネモネだよ。彼女は愚かだが、非常に『渇えている《ラスティ》』だ。心配はいらないだろう。
アネモネ:あぁ? 俺が愚かだと?
小春:(M)うわめっちゃガンつけてる。
トリカブト:違うのかい?
小春:(M)物静かそうな女子高生に至近距離で睨まれて笑ってる小学生とか、すごい絵面……! これ大丈夫なの?
キョウチクトウ:…………ふふ。
小春:(M)……まぁ全体的にすごい取り合わせではあるけど。
アネモネ:く、ふふふ! あは! ああ。ははは、その通りだトリカブト!
小春:(M)え、めっちゃ笑うやん……。
アネモネ:分かってるじゃねぇか。このアネモネに知性など不要! 俺はただ、食い散らかせればそれで良い!
小春:(M)文学少女みたいな見た目なのにまさかの脳筋!?
アネモネ:俺は『渇えている《ラスティ》』だ! 『枯れる《ドライ》』にゃ『勿体ない《プレコーシャス》』な『血湧き肉躍る花びら《フレッシュ&クラッシュ・リーヴス》』! 『お前もそうなんだろう?《ザ・ラウン・ネクスト・ドア・イズ・オルソー・ブラッディ》』ヒガンバナ? それともお前ぇはお飾りの『屍《プリザーブド・ギフト》』か?
小春:(M)何言ってるか分からん!
ヒガンバナ:それはそうかも知れませんが、あなたも大切な幹部の一輪。もしものことがあれば……。
小春:(M)ちゃんと伝わってる!?
トリカブト:それは君の責任だよ、ヒガンバナ。
トリカブト:監督者たる君の、ね。
キョウチクトウ:……当然。
ヒガンバナ:……冗談でしょう?
トリカブト:ああ、僕が冗談を言うと思うかい?
キョウチクトウ:…………否。
ヒガンバナ:……いえ。
アネモネ:もちろん『包み隠さず《フル・ブルーム》』だろうよ!
トリカブト:ならばそれはそういうことだ。
ヒガンバナ:ですが《セブンス・フラワー》が四輪不在の今、作戦の承認は……。
アネモネ:何を『弱気《バイオレット》』なこと言ってんだよ『華々しく《バイオレント》』にいこううぜ。
小春:(M)知性いらん言ってたわりにめっちゃ知的じゃない?!
キョウチクト:…………ん。
トリカブト:慌てるなアネモネ。その為に委任状を預かっている。キョウチクトウ、読み上げてくれるかい?
小春:え?
キョウチクトウ:四輪のうち、スズラン及びタイガー・リリー、賛成。
キョウチクトウ:ジキタリス反対。
キョウチクトウ:ナルシサス辞退。
小春:(M)普通に喋れるんかい!
キョウチクトウ:賛成2、反対1、辞退1。
トリカブト:というわけだ。
ヒガンバナ:味方がいない……!
トリカブト:僕は議長だから辞退するが……アネモネはどうかな?
アネモネ:俺はもちろん『賛成《ブルーミング》』さ。
キョウチクトウ:賛成3、反対1、辞退2。
ヒガンバナ:これは、とんだ茶番ですね。
トリカブト:さて、何のことやら。とにかく――
トリカブト:やれるね、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……はぁ、えぇ。
キョウチクトウ:賛成4、反対1、辞退2。
キョウチクトウ:賛成多数。よって、作戦名『死屍花々《ラスト・カーニヴァル》』。議決されました。
トリカブト:ふふ。君達の活躍を期待しているよ。
アネモネ:蕾が綻ぶぜ。
ヒガンバナ:……はぁ。
小春:(M)あぁ……このありふれたファミレスで、重大な何かが決まってしまった。私は一体どうすれば……。
トリカブト:さぁ、ヒガンバナ。決まりは決まりだ。異論は無いね?
ヒガンバナ:ええ。
アネモネ:ねぇな!
キョウチクトウ:右に同じ。
トリカブト:ふふ。では一同、唱和せよ。全ては――
トリカブト:《ラスティ・エデン》の名の下に。
ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
キョウチクトウ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の名の下に。
:
0:間。
:
トリカブト:あぁところで、ヒガンバナ。そろそろ何かを頼まないといけないと思うんだ。彼女がずっと見ているよ?
小春:あ、
小春:(M)やば、バレてる……!
アネモネ:あぁ。あたし、ドリンクバー行ってきていいか? 走ってきたから《ラスティ》でさ。
トリカブト:ならば勝手に見繕っておくが。
アネモネ:任せる。あ、お替わりいる奴。
トリカブト:カプチーノ。
キョウチクトウ:……炭酸水。
ヒガンバナ:私はアセロラで。
アネモネ:オーケー『ちゃっちゃと行ってくる《プレコーシャス》』!
ヒガンバナ:では、何にしましょうか?
トリカブト:君は何か希望があるかい?
ヒガンバナ:特には。
トリカブト:キョウチクトウ?
キョウチクトウ:……同じく。
トリカブト:では、僕が纏めて見繕おう。いいね?
キョウチクトウ:……ん。
ヒガンバナ:分かりました。お呼び致します。
:
0:ヒガンバナ、手を叩いて店員を呼ぶ。
:
小春:(M)呼び出しボタン押せや……!
小春:……ご注文お決まりでしょうか?
トリカブト:ああ、君。オムライスを四人分。
小春:オムライス四人前ですね。
キョウチクトウ:ここのオムライス、美味。
ヒガンバナ:良いですな。
トリカブト:あぁ、それと食後にはパフェを。このエクストラスイート雪景色パフェなるものを四人分頂けるかな? 頼むよ。ふふ。
小春:雪景色パフェですね。……ボリュームありますよ?
トリカブト:問題ない。
小春:(M)小学生に食べられる量じゃ無いんだけど、……まぁ正体不明だからもしかしたらこれくらいぺろりといけるのかも。
小春:かしこまりました。ご注文はオムライス四人前、雪景色パフェ四人前、以上でよろしかったでしょうか?
トリカブト:ああ。
小春:承りました。失礼致します。
:
0:小春去る。
:
キョウチクトウ:エクストラスイート……、
ヒガンバナ:雪景色、
アネモネ:パフェか。
ヒガンバナ:アネモネ。
キョウチクトウ:……おかえり。
アネモネ:ああ、戻ったぜ。ほらよ。カプチーノ、炭酸、アセロラ、
ヒガンバナ:アネモネ、お前のは?
アネモネ:あたしのはコーラ。
アネモネ:しかし、パフェかぁ。
トリカブト:甘いものは嫌いかい?
アネモネ:嫌いじゃねぇな。
ヒガンバナ:好物です。
キョウチクトウ:……好き。
トリカブト:それは良かった。
ヒガンバナ:ただ、高く付きそうですね。
アネモネ:どうせ稼いでんだろ? ヒガンバナ。
ヒガンバナ:まぁ。そうですね、はい。
キョウチクトウ:…………裏山。
トリカブト:ふふふ。あてにしているよ。
アネモネ:同じく。
キョウチクトウ:…………ちゃんと、払うよ。
ヒガンバナ:……はぁ。構いませんよ。
キョウチクトウ:……感謝。
トリカブト:さて、次の会合はいつにする?
ヒガンバナ:そうですね、来週わたくしは外せない打ち合わ……任務がありますので、幹部会には出られませんね。
キョウチクトウ:〆切近い。
トリカブト:それは残念だ。
小春:(M)あ、なんか普通に表の顔があるっぽいな、良かったぁ。本当に何か謎の存在の危ない集いなのかと思ったけど、そっか良かった。
トリカブト:アネモネは?
アネモネ:あたしは来週よその高校のやつらと殺し合……交流試合だな。まぁ早く片付いたら来るよ。
小春:(M)ちょっと待って、今普通に物騒な響きが聞こえたけど……!?
トリカブト:そうか、各々忙しいようだね。
ヒガンバナ:恐縮です。
アネモネ:すまねぇな。
キョウチクトウ:……ごめんね。
トリカブト:いいさ。ただ僕は、いつか『組織』が一堂に会する日が来るのを切に願うよ。
アネモネ:全員かぁ。厳しいよな。
キョウチクトウ:あんまり揃わないですものね。私達は生活圏、生き方、年齢、職業、その他考え得るステータスは大凡バラバラですから。
小春:(M)ずっと黙ってたのに、急に喋り出したな。
キョウチクトウ:私達に共通点と呼べるものなんて表面上は何一つありません。
アネモネ:傍から見ればまとまりのねぇ奇妙な集団だろうな。
小春:(M)それな。
キョウチクトウ:一時に集まれる機会など滅多にあることではありませんしね。
トリカブト:それ故に、深層でのみ繋がる我々『組織』の素晴らしさを感じるだろう?
ヒガンバナ:仰るとおりで。
アネモネ:同意するぜ。
キョウチクトウ:共感します。
ヒガンバナ:表のシガラミにまみれた肩書き、
アネモネ:意味の無い上下関係なんてクソみたいなもんを放り出して、
キョウチクトウ:静かに秘匿された関係性の中において、
ヒガンバナ:現実を超克した空想を表現することで、
アネモネ:真なる自己《デザイア》を解放できるこのメンツが
ヒガンバナ:わたくしの人生で何より明確に生を実感できる唯一無二の、
キョウチクトウ:《エデン》なのです。
ヒガンバナ:感謝しています。
トリカブト:半分くらい何を言ってるのか僕には難しくて理解できないけれど、君達が喜んでいるのなら何よりだ。あと、それ練習してきたの?
キョウチクトウ:はい。
アネモネ:かっこいいだろ?
トリカブト:僕も混ぜてくれれば良かったのになぁ。ちょっとのけ者にされた気分だよ。
ヒガンバナ:ふふ、そう言わないで下さい。
アネモネ:この喜びを俺達に教えてくれたこと、感謝の言葉もねぇ。
キョウチクトウ:だから、これはちょっとしたサプライズ。好きですよね、こういう連携技。
トリカブト:ふふ。ありがとう。大好きさ、君達が。
キョウチクトウ:……う! 尊い!
アネモネ:それな!
ヒガンバナ:分かりみの翁。
小春:(M)キャラ崩壊がひどいな!
トリカブト:ありがとう、でも、僕らは、今言ったように、上下関係に囚われない同志なのだろう? なら、それでいいじゃないか。あくまで、僕が皆の総意により、役割的な議長をしているだけで、誰かが代わりたければ代わっても良い。だから特別僕に恩義を感じる必要も無い。
トリカブト:そうだろう?
ヒガンバナ:ええ、そうでしたね。ですが、わたくしの望みはこうあることなので。
アネモネ:俺も今のままが楽しい。
キョウチクトウ:私もそうです。
トリカブト:そうだろう。ならば、君達は君達でいれば良いさ。そうありたいと願う今この時は、君はキョウチクトウであり、
キョウチクトウ:アネモネであり、
アネモネ:ヒガンバナであり、
ヒガンバナ:トリカブトである。
トリカブト:ふふ。そういうことだよ。
キョウチクトウ:ええ、そうですね。
ヒガンバナ:まことに。
アネモネ:……おお。オムライス来たみたいだぜ。
:
0:小春がオムライスのプレートを四人の前に置く。
:
小春:ご注文お持ちしました。
トリカブト:ありがとう。
アネモネ:お姉さん、もらうよ。
小春:恐れ入ります。
キョウチクトウ:美味しそう……。
小春:また後ほど、パフェお持ち致します。
トリカブト:ありがとう。
トリカブト:……では、頂くとしよう。
ヒガンバナ:それでは、
トリカブト:《ラスティ・エデン》の理想に。
ヒガンバナ:《ラスティ・エデン》の繁栄に。
キョウチクトウ:《ラスティ・エデン》の永世に。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の爛熟に。
:
0:間。
:
トリカブト:いただきまーす!
ヒガンバナ:いただきます。
キョウチクトウ:いただきます。
アネモネ:いただこう。
トリカブト:んー! おいしい!
ヒガンバナ:ん。これは、なかなか。
キョウチクトウ:ああ、口の中にオムライスという一つの完成されたハーモニー、即ちエデンが広がっていく!
アネモネ:どんな食レポだよ夕星の姐さん。確かに美味いけど。
トリカブト:ねー。パフェも楽しみ!
ヒガンバナ:そうですねぇ! でも、食べきれますか?
キョウチクトウ:うーん。思ったより大きかったからねぇ。いけそう?
アネモネ:きつかったら姉ちゃんが食べてやろうか?
キョウチクトウ:姉だけにアネモネ。……ぶふっ。
アネモネ:やかましいわ。
トリカブト:駄目そうだったら一条が食べてくれる?
ヒガンバナ:私ですか!? う、この量を……。最近歳のせいか、胃袋が……。
アネモネ:《ラスティ・エデン》の参謀が随分と気弱なことじゃねぇか。
キョウチクトウ:気弱というか胃弱(いじゃく)では?
ヒガンバナ:うるさいですよ!
トリカブト:もう、何言ってるんだよ。一条はまだ若いでしょ、大丈夫大丈夫。
ヒガンバナ:玲維くん、それ、桂木さんと比べてませんか?
キョウチクトウ:あの人はまぁ、うちの平均年齢爆上げしてますもんね。
アネモネ:なのに一番元気だしなあの爺さん。
キョウチクトウ:吸血鬼って言われても信じちゃいますよね。
アネモネ:分かる。
ヒガンバナ:でも玲維くんだって育ち盛りだし。
トリカブト:知ってる? 一条、食べ過ぎは良くないんだよ?
ヒガンバナ:玲維くんが言うの?
アネモネ:あたしもちょっときついかも。
キョウチクトウ:だよねー。
トリカブト:あー、パフェ楽しみだねー。
ヒガンバナ:ちょっと、パフェが来るの怖くなってきたんですが。
キョウチクトウ:私もカロリー怖い。
トリカブト:そう? 僕はパフェも、次の会合も楽しみだけどなー。
アネモネ:まぁ根性でどうにかなるだろ、多分。
ヒガンバナ:左様で。
キョウチクトウ:貴璃ちゃん食べるのめっちゃ早いね。
アネモネ:ああ、食ってるときは無防備だからな。どんなときも出来るだけ早く食い終われってのがうちの家訓。あと、食えるときに食っとけも。
キョウチクトウ:なんか妙に逞しいよね、貴璃ちゃんの家って。どんな家なの?
アネモネ:聞きたいなら教えても良いけどさ。別に隠してるわけじゃねぇし。
ヒガンバナ:おじさんは、知らない方が良いこともあると思うけどね。
トリカブト:あのねぇ、二宮お姉ちゃんの家は大っきくて広いお城みたいなところだよ。
キョウチクトウ:へー、……行ったことあるの? 玲維くん。
トリカブト:うん! 意外と近所だし、車乗せてくれるからたまに遊びに行くんだ。
キョウチクトウ:……っく! 羨ましい!
ヒガンバナ:なんだか胃が痛くなるね。
トリカブト:……う、ちょっと。しんどくなってきたからオムライスわけてあげるね、一条。
ヒガンバナ:えぇ!? 早くない?!
アネモネ:ごちそうさま。
キョウチクトウ:早っ!?
アネモネ:楽勝。
ヒガンバナ:え、じゃあ、玲維くんの分食べてよ。
アネモネ:か、間接キスはちょっと恥ずいじゃん。
キョウチクトウ:さっき食べるって言ってなかった?
トリカブト:あ、それよりみんな! 《ラスティ・エデン》の次は何にする? 今回はお花だったから、次はお星とか? 海の生き物とか石とかもありかも知れないね!
アネモネ:夢が広がるなぁ!
トリカブト:……あ、パフェ来たよ!
:
0:小春、パフェを持ってくる。
:
小春:お待たせしました、エクストラスイート雪景色パフェ四人前お持ち致しましたー。
キョウチクトウ:すっご!
アネモネ:でっかいな!
トリカブト:わーすごー!
ヒガンバナ:……うわぁ、これも食べるのかぁ。これは医者に怒られますね。
キョウチクトウ:太りそう……。
アネモネ:まぁ、体動かせば良いっしょ。
キョウチクトウ:これ1000キロカロリー超えてるよ? いける?
アネモネ:う。
トリカブト:一条、四谷……いや。ヒガンバナ、キョウチクトウ? 早くオムライス食べ終わりなよ。僕はアネモネと待ってるから、ね?
アネモネ:早くしねぇと、俺が全部刈り尽くしちまうぜ?
キョウチクトウ:……うふふ。
ヒガンバナ:……まったく。ええい、分かりました! すぐに片付けますよ、トリカブト!
トリカブト:ふふ、その意気だ。
トリカブト:…………。
小春:うわぁ……あ、それでは失礼します。
トリカブト:……ああ、君。
小春:え、はい?
トリカブト:君、僕らの同志にならないか?
小春:え、ど、どういうことですか……?
キョウチクトウ:玲維君、そんな急に。
トリカブト:なぁに、難しいことは無いよ、お姉さん。ただ、心を開いて自らの意志に従えばいいのさ。どうかな?
小春:え、と、でも!
アネモネ:ずっと見てたもんな。興味、あるんだろ?
小春:そ、それは……。
アネモネ:俺達と来るときっと楽しいぜ?
キョウチクトウ:……歓迎。
小春:……私は……。
トリカブト:どうするかは君の心のままに。……ところで、手元がお留守だよ、ヒガンバナ?
ヒガンバナ:……っは!
トリカブト:僕達は新たな同胞を心より待っているから。ね?
小春:(N)こうして私は彼らと出会い『組織《エデン》』の一員となった。これからの私の人生に何が待ち受けているのか、それはまだ分からないけれど、なんだか素敵なことが始まる期待を胸に、私は錆びた《ラスティ》な扉を叩き、新たな世界へ。
ヒガンバナ:我ら《ラスティ・エデン》に栄光あれ!
:
0: 《幕》