台本概要
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タイトル | 出られない部屋。 |
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作者名 | 音佐りんご。 (@ringo_otosa) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 5人用台本(男5) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
世界の内と外を分けるのは、境界線ではなくそれを引いた心なのだとして。 ◆あらすじ◆ 互いに面識の無い五人の男達が学校の教室の中で目を覚ます。困惑しながら教室の中を調べていると、黒板に書かれている文言に気が付き絶望する。それでも次第に現実を受け入れ、どうにか頑張ろうと奮起するのだった。 黒板にはこう書かれていた『出られない部屋』と。 213 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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平太郎 | 男 | 182 | 坂不田 平太郎(さかふだ へいたろう) 社会人。 部屋に来る前は夜遊びしたあと始発の電車を待っていた。 |
行愛 | 男 | 142 | 不来方 行愛(こずかた ゆきお) 大学生。 部屋に来る前は恋人と待ち合わせをしていた。 |
創 | 男 | 127 | 不壊藤 創(ふえとう はじめ) 殺し屋。 部屋に来る前は仕事がキャンセルになって時間つぶしをしていた。 |
想真 | 男 | 119 | 不虚作 想真(ふこさ そうま) 病弱な高校生。 部屋に来る前は全身麻酔で手術を受けていた。 |
出雲 | 男 | 111 | 入不二 出雲(いりふじ いずも) 登山家。 部屋に来る前は雪山で遭難して助けが来るのを待っていた。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:◆◆◆◆◆
:
想真:もしも明日死ぬとして。
行愛:今日を生きない理由はあるだろうか。
出雲:もしも今日死ぬとして。
平太郎:今日を生きない理由はあるだろうか。
創:だって理由もなしに人は死ねないものだろう。
:
0:◆
:
0:小学校の教室のような部屋。
0:五人の男達が倒れている。
0:学校のチャイムのような音が鳴り始める。
:
平太郎:……っせぇなぁ……ぁふ。
:
0:チャイムが鳴り終わる。
0:平太郎、目を覚ます。
:
平太郎:……ぁんだ? 教室? 俺、なんで……ぁ、やっべぇ、酔っ払って学校忍び込んじゃった!? さっさと逃げっか。
行愛:ん……。
平太郎:ぁん? 何だこいつ? というか――。
:
0:平太郎、周囲を見渡す。
:
創:…………。
想真:…………。
出雲:…………。
平太郎:何だこいつら……? おい、お前。
行愛:……んん……。
平太郎:起きろよ、おい。
行愛:……んぇ? えっと?
平太郎:おはよう。
行愛:おはようございます。
平太郎:早速だけどお前誰?
行愛:えっと? あなたこそ誰ですか?
平太郎:俺? 平太郎。
行愛:平太郎……。
平太郎:お前は?
行愛:不来方 行愛です。
平太郎:こずたかゆきお?
行愛:こずかた、です。
平太郎:それってどう書くの?
行愛:え? 未来の来の前に不可能の不をつけて不来、方向の方で不来方です。ゆきおは行くに愛で行愛。
平太郎:へー。珍しい名前だな。
行愛:よく言われます。
平太郎:ちなみに俺も珍しい方。
行愛:そうなんですか?
平太郎:そうそう。坂不田っていうの。
行愛:さかふだ? お酒の札ですか?
平太郎:いや、土の坂田の間に不思議の不が入ってんの。それで坂不田。平太郎は。平らな太郎。
行愛:なるほど。奇遇ですね、僕達二人とも――
平太郎:あ、そうだ自己紹介してる場合じゃなかった。この状況どう思う? ユッキー?
行愛:ゆ、ユッキー? 状況って?
平太郎:俺って結構マイペースって言われるんだけどさ、ユッキーも大概言われるんじゃね?
行愛:へ?
平太郎:周り。
行愛:周り? ……っわ!?
平太郎:どう思う?
行愛:この机全然錆びてないし板もすごい綺麗だ……!
平太郎:いや、着眼点おかしいだろ! なんですんなり学校、しかも小学校っぽいとこにいるの納得してんの?
行愛:見たまんまのところに驚くのも芸が無いかなって。
平太郎:余裕か。じゃあ、そこに転がってる奴らについてはなんてコメントするんだ?
行愛:平太郎さん。人殺しは良くないですよ?
平太郎:俺は殺してねぇ! あのさ、お前、見た目の割りに飛んでるな。
行愛:でも、地に足の着いた生き方を心がけなさいって、父さんが言ってました。僕もそう思います。
平太郎:頼むから会話しろ? あと、ついでにそいつら起こしてくんね?
行愛:起こす? どうして?
平太郎:どうしてっていや、この意味分かんねぇ状況を知りたいからに決まってんだろ?
行愛:じゃなくて。
平太郎:じゃなくて?
行愛:この人達、起きてますよ?
平太郎:へ?
行愛:寝たふりですね。
平太郎:え、いや、どうして?
行愛:状況を見てたんじゃないかな。
平太郎:どういうこと?
行愛:ですよね、
:
0:行愛、創に近付き声をかける。
:
行愛:おじさん。
創:……君はいつから気付いてたのかな?
平太郎:えぇぇ?! 起きてたのかよ!?
行愛:はじめから。
創:ふふ。だ、そうだよ残りのお二方。
:
0:間。
:
想真:バレてたか。
出雲:おやおや。
平太郎:え? なんでなんで!?
想真:なんでというとね。
出雲:状況が分からないときは動かないに限るんでな。
創:ちなみに彼も寝たふりですよ。
平太郎:彼?
想真:行愛くん。
平太郎:……知り合いなの?
行愛:いいえ。
想真:さっき二人が話してるの聞いてたから。
平太郎:なるほど?
行愛:まったく、どうして僕を最初に起こすんですか。
平太郎:え、マジで起きてたの?
行愛:はい。
平太郎:じゃ、じゃあもしかして、本気で寝てたのって俺だけ?
創:良い眠りっぷりでしたね。
出雲:ああ。羨ましいくらいにな。
想真:ほんと、こんな状況でよく眠れるよ。3時間も。
出雲:俺もよっぽど寝たふりやめようかと思ったくらいだな。
創:どうせこの方以外起きてましたしね。
想真:無駄な時間だったね。
平太郎:えー? いや、なら起こしてよ。というかこんな状況って?
:
0:間。
:
平太郎:え? なに? 何の間?
行愛:平太郎さん。
想真:もしかしてほんとに気付いてない?
平太郎:気付くって何に?
創:気付いてないみたいですね。
出雲:結構な異常事態だと思うんだがな。
平太郎:いや、異常なのは分かるよ? 起きたら学校とか。
出雲:そこじゃねぇのよ。
平太郎:えぇ?
行愛:平太郎さん見えますか? あれ。
平太郎:あれ?
:
0:平太郎、教室の後ろの壁を見る。
0:そこには5挺の拳銃が掛けられている。
:
平太郎:……何あれ。
創:銃ですね。
平太郎:え?
想真:より正確には、ニューナンブMー60。おまわりさんの持ってるやつ。
平太郎:へー。
出雲:さらに厳密には持ってたやつ。今は「サクラ」だろ?
行愛:重ねて実際には、まだ使われていることもある。ですね。
平太郎:……なんでみんなそんな詳しいの。
行愛:知識としてウィキペディアで。
想真:趣味で資料から。
創:職業柄。
出雲:友人が警察官でな。
平太郎:へー。そんなもんか。いや、待って。職業柄?
創:はい。
想真:おまわりさんってこと?
創:そう見えますか?
想真:……いいえ。
創:ふふ。
出雲:じゃあ、何やってるんだ?
創:人に言えないお仕事を。
出雲:言えない?
創:これ以上は知らない方が良いでしょうね。コンプライアンス的に。
行愛:コンプライアンス?
創:ええ。
想真:そう言われると知りたくなるのが人情じゃない?
創:好奇心は猫を殺しますが、人間もそうですよ知りたがりの坊ちゃん。
想真:それって脅し?
創:そう感じるのであれば。……まぁ私の素性よりも今は気にすべきことが、一名を除いて皆さんが気にしていたモノがあるのではありませんか?
出雲:五つも、な。
行愛:あの銃ですね。
創:そういうことです。
平太郎:どういうことです?
出雲:あれがあるから俺達は動けなかったってことさ。
平太郎:どうして?
想真:どうしてって、五つあるんだよ? あれ。
平太郎:えっと、つまり?
行愛:ここにいる人数分ですよ。
平太郎:ほー? なるほど。
行愛:平太郎さん。分かってます?
平太郎:わかってるわかってる。たぶん。
出雲:いや、絶対分かってないだろ。
想真:なかなかまずい状況なのにね。
平太郎:まずい状況? 確かに教室の壁に銃なんて飾られてたら物騒だなと思うけど、そんなに?
出雲:みんながあんたみたいな平和な頭してたらそうでもないのかも知れないけどな。
平太郎:あれ? 今のひょっとして悪口?
創:さておき、皆さん、この状況を見て思ったんですよ。
平太郎:え? この状況って?
行愛:平太郎さん、話の腰折らないで下さい。
創:じゃあ、状況を整理しましょうか。目が覚めると、
想真:どこかの教室。
創:周りには、
出雲:見知らぬ四人。
創:壁に、
行愛:人数分の銃。
創:そしてもう一つ。
平太郎:もう一つ?
行愛:……あれですよ。
平太郎:あれ?
:
0:四人、黒板を見る。
0:視線に釣られて、平太郎もそちらを見る。
0:黒板に『出られない部屋』と書かれている。
:
平太郎:そういう、ことね。
創:この状況、どう思いますか? 坂不田平太郎さん。
平太郎:あー、なんか、あれに似てるくね? なんて言うの? そう、デスゲーム。
想真:…………。
出雲:…………。
行愛:…………。
創:…………。
平太郎:あれ、違った?
創:いえ、何といいますか。言葉にするとこれほどチープなものも珍しいなと思いまして。
想真:現実感、ないよね。
出雲:悪い夢みたいだ。
行愛:今更ですが、これ、夢という線はありませんか?
想真:無くはないと思うけど。
創:確かめようもないでしょうな。
出雲:頬でも抓ってみるか?
平太郎:よし……いてててて! 夢じゃない!?
想真:ほんとにやる人初めて見た。
出雲:あぁ、けどよぉ、これではっきりしたんじゃないか?
行愛:はっきりしたって、なにがですか?
想真:そこはっきり言おうよ、おじさん。
出雲:そうだな。じゃあ言おうか。
創:私達は殺し合わなければならない。
:
0:間。
:
創:ですね。
出雲:いや、あんたが言うのかよ。
創:失礼。こういう時、どうにも仕切りたくなってしまって。職業柄ですかね?
想真:言えないって言っときながらすごいほのめかすじゃん。
行愛:実は聞いて欲しいんですか?
創:ふふ、どうでしょうね。
平太郎:それで、あんたらはどうすんの?
創:どうする、とは?
平太郎:殺し合う感じ? 俺はそれで別に良いけど。
行愛:え、受け入れるの早くないです?
平太郎:いや、だってデスゲームって漫画とかアニメで見たことあるけど、時間かけた方が泥沼じゃん? なんか相手の身の上話とかそういうの聞いて、誰が生き残るべきか。とか話し始めたら殺しづらくなるっていうかさ。お互いのこと何も知らないまま適当に殺し合った方が楽じゃね? 分かる?
出雲:そりゃ分かるけどなぁ。そんな簡単に飲み込めるもんかい? もしかしたら嘘かも知れない。というかこの状況に対してのデスゲームっていう仮定も、憶測に過ぎないんだぜ?
想真:根拠はあそこに飾られてる五挺の銃だけ。近くで見たわけじゃ無いからあれも本物かどうかすら分からないんだよ?
創:本物ですよ。遠目で見ても分かります。職業柄。
想真:出たよ職業柄。
創:まぁ、撃てるようになってるかは分かりませんが。
平太郎:あー、そうなの?
創:ええ、もしかしたら弾が偽物という線もありますからね。
平太郎:じゃあ、試してみよっか。
創:へ?
出雲:おい、
行愛:何を、
想真:ちょっと!
:
0:平太郎、立ち上がると銃の一挺を手に取り窓に向けて撃つ。
0:発砲音。窓がバラバラに砕け散る。
:
平太郎:うひゃー。俺、銃なんて初めて撃った。てか結構匂うな。
創:今、自分が何をしたか分かっているのですか?
平太郎:え? 銃を撃った?
創:そうですが、この状況の中ですよ?
平太郎:……? あ。
創:気が付きましたか。
平太郎:なんてこった! 俺、小学校の教室で銃撃って窓ぶち壊しちゃった!? え、こわ。発砲事件じゃん。逮捕間違いなし?
行愛:そうだけどそうじゃなくて!
創:あなたがぶち壊したのは、窓ガラスだけじゃなくて、この状況もですよ。
出雲:だな。
想真:ですね。
行愛:はぁ。
平太郎:……どういうこと?
創:もう殺し合うしか無くなったんですよ。
平太郎:え? そういう話じゃなかった?
行愛:いや、まだデスゲームと決まった訳じゃないって話でしたよ。マイペースですね平太郎さん。
平太郎:それも言わなかった? そう、俺ってマイペースなんだよね。
出雲:そのペースで全員殺す訳か?
創:様子を見すぎましたね。
想真:まさか、最後に起きた何も知らないやつに先手を取られるとはね。
平太郎:あー。成る程。この銃って何発入ってんの?
想真:そりゃ……。
出雲:言うな(同時)
創:言うな(同時)
想真:え?
出雲:駆け引きはもう始まってる。
創:そういうことです。
行愛:駆け引き?
出雲:ゲームスタートだ。
平太郎:あー。成る程。じゃあこうしよう。
:
0:平太郎、銃口を上に向ける。
:
創:何を!?
平太郎:いや、撃つんだけど。
:
0:平太郎、銃を連射する。
0:三回発砲音が鳴る。
:
平太郎:一、二、三。もう出ないな。……ということは三発か。
出雲:いや、五発だよ。
平太郎:でも三発しか出なかったぞ?
想真:最初に窓ぶっ壊しただろうがあんた。
平太郎:あ、そっか。
出雲:おいおい。
平太郎:でも四発じゃ?
行愛:確かに一発は不発っぽかったですが。
平太郎:そういうこともあるのか。
想真:それで、何のつもりだったんだよ、今の。
平太郎:これで弾は空っぽなわけだろ? ゲームセットだ。
創:でも後四挺。あなたのうしろにありますよ。
平太郎:あー、残り数十発も撃てってこと?
想真:二十発だって。計算できないのかよ。
平太郎:二日酔いかな? あんまり頭回らねぇんだよね。
想真:酔っ払って銃撃ったの? こわ。
平太郎:酔っ払いと二日酔いは違うんだな、これが。てか、耳痛い。
出雲:そりゃ、あんだけ撃てばな。
行愛:まさか、本気で撃つんですか?
平太郎:撃っちゃ駄目なのか?
創:駄目でしょうよ。というか、流石にこれ以上撃たせませんよ。
平太郎:じゃあ、どうすんの? 力づくで止めに来る感じ? 俺が銃を取るのが先か、それを止めるのが先か! うっは、燃える展開。
想真:これ、一番駄目な人に主導権握られてない?
出雲:そうかも知れんが、他の人間がどれだけ信用できる?
行愛:そもそも、今、人を信用することにどれだけ意味があるのかって感じですが。
想真:それは確かに。じゃあ、えっと平太郎さんでしたっけ?
平太郎:そう、俺平太郎。
想真:とりあえず自己紹介、しません?
平太郎:今更じゃない?
想真:今更だけど。でも、平太郎さんだけ名前知られてるのって不公平でしょ?
行愛:いや、僕もですが。
平太郎:確かに?
想真:というわけで、僕の名前は不虚作 想真です。不作の間に虚ろでふこさ。真に想うで想真。
平太郎:へー、珍しい名字だね。ていうか、あれ? 確かユッキーも……。
想真:はい、職業柄さんはなんてお名前ですか?
創:職業柄さんはやめてくれませんか? 私は、不壊藤創です。壊れずの不壊に藤原の藤で不壊藤、創作の創一文字で創。以後よろしく。
行愛:ちょっと待って下さい。不壊藤さん?
創:何ですか? 不来方くん?
行愛:それ本名ですか?
創:偽名の方を聞きたいですか? 偽名は漆原 明(うるしはら あきら)です。
行愛:聞いてませんけど。
創:おや残念。
想真:やっぱり気付いた?
行愛:ええ。
平太郎:はぁん。成る程? 俺達、面識はなかったけど、
行愛:意外な共通点があったって訳ですね。
出雲:そうらしいな。
想真:ということは?
出雲:入るに不二家の不二、出雲大社の出雲で入不二出雲。
想真:坂不田、不来方、不壊藤、不虚作、そして入不二。
行愛:つまり僕達は。
創:ええ。
出雲:苗字が全員、
平太郎:三文字。
:
0:間。
:
想真:あの。そういうボケいらないんで。
平太郎:分かってる分かってる。苗字に不が入ってんだろ?
出雲:なんだよ、ちゃんと分かってたのか。
行愛:本気で言ってるのかと。
創:ですが、それに何の意味があるのかは不明ですね。
行愛:不、だけに?
創:ええ、不だけに。思ったんですが、これちょっと意味深じゃないですかね。
出雲:意味深? 何が。
創:いえ、先程そこの坂不田さんが銃を乱射しましたよね?
想真:ああ、小学校で男が銃を乱射したね。
平太郎:改めて言葉にするとやべぇな……。
行愛:実際ヤバい奴で合ってますが。
平太郎:おい。
創:それはさておき一発だけ、不発でした。
出雲:何が言いたいんだ?
創:私達は五人で、銃も五挺。弾は五発で、その内一発は不発。もしかしたら、一人不発なんじゃないでしょうか?
行愛:それは、
創:ついでに言えば、先程銃が偽物かどうかという話をしていましたが、その内の一挺は不良なんじゃないかと。
出雲:何?
平太郎:不良? あ、ほんとだ。よく見たら引き金が取れてる。
出雲:おい、あいつまた勝手に動いたぞ。縛っておいた方が良いんじゃ無いか?
創:それは検討の余地ありですね。
行愛:つまりこれは、
想真:五人の内一人が仲間はずれってこと?
出雲:更に言えばこれはデスゲームじゃなくて、その仲間はずれを探す為のゲームなわけだな。
平太郎:人狼ゲームってことか?
創:そう見るべきでは?
出雲:一理あるな。それで?
創:それで、とは?
想真:これがただの殺し合いのデスゲームじゃなくて、人狼ゲームだと仮定して、あんたは何がしたいの?
創:ああ。そうですね。彼は言いました。話し合う前に片を付けよう、と。でも、これは人狼ゲームです。なら、まず何をするべきでしょうか? 幸いにも銃弾は四発も撃たれたのに、誰も傷つけてませんから。まだ、間に合いますよね?
出雲:なるほどな。いいぜ。話し合おう。
行愛:良いんですか?
出雲:なんも分からないまま殺し合うよりはいいだろう?
行愛:それはそうですね。
想真:おっけー! じゃあ、机動かそうか。
創:その前に、取り敢えずこっちに来てくれませんか、坂不田さん。
平太郎:ん? おう。あ、これどうする?
想真:持ってきて!
:
0:平太郎、四人の傍に移動する。
:
出雲:何でだ? どうせもう撃てないんだろ?
想真:趣味。どうせなら近くで見たいじゃん。
出雲:なるほどな。
行愛:撃てるなら置いてきた方が安心ですが。机、動かしましょうか。
想真:はいよー。
:
0:行愛、出雲、想真、机を移動させてシマを作る。
:
創:撃てる、かも知れませんよ。
行愛:え?
創:不発とはいえ、本当に使えない弾とは限らない。
出雲:それって、暴発するかもってことか?
平太郎:マジ?
創:まぁ、可能性は低いですが。
想真:なら、弾抜いとく?
創:その方が良さそうですね。
平太郎:おっけー。……これどうやんの?
創:貸してください。
:
0:創、平太郎から銃を取ると、弾を抜いて想真に渡す。
:
創:はい。どうぞ。
想真:……なんか手際良くない?
創:まぁ、職業柄。
出雲:またそれか。
創:それより、どうですか、実銃は。
想真:重い。かっこいい。
創:それはそれは。
行愛:いや、その職業なんか駄目でしょ。
創:警察官、かも知れませんよ?
想真:かも知れません、とか言ってる時点でもう違うでしょ。こいつ人狼じゃね? 吊しとく?
創:ふふ。それは座ってからはじめません?
行愛:創だけに?
創:……ええ。
想真:今、すごい睨まれてたよ?
出雲:名前とか弄られるの嫌いなタイプかもしれないな。
平太郎:ってことは、案外偽名じゃねぇのかも。
創:本名ですからね。さ、どうぞおかけになってください。
:
0:五人着席する。渋い顔。
:
平太郎:……いや、これさ。
出雲:ああ。
想真:まぁ分かってたけど、
行愛:そうですね……。
創:ええ。
平太郎:椅子小っちゃ!?
想真:机も低くて足が入らない。
創:低学年の教室みたいですね。
出雲:そこに大人が集まって座ってるのか。
行愛:シュールですね。
平太郎:おまけに、机の上には拳銃。
想真:犯罪的だね。
出雲:実際、犯罪に巻き込まれたと見るべきだろうが。
行愛:平太郎さんは犯罪者ですが。
平太郎:え~? 俺、何もしてないって。
想真:真っ先に銃ぶっ放したくせに?
平太郎:いやぁ。はっはっは。
出雲:笑い事じゃねぇって。こっちは相当肝冷やしたんだからな?
行愛:幸い、最悪の事態は避けられましたが。
創:既に最悪かも知れませんが、不幸中の幸い、かも知れませんね。
想真:不幸、ね。
出雲:でも俺はこの状況。実はそれ程最悪とも、不幸とも思ってないんだ。
創:ほう。それはどういうことですか? 入不二さん。
出雲:それはな……。ちなみにこれは確認なんだが。
想真:確認?
出雲:この中に、ここに自分の足で来た記憶がある奴はいるか?
行愛:それはつまり?
出雲:気が付いたらみんなここにいた。そういう認識でいいのかって質問だ。ついでだ。ここに来る前に何してたのかも教えてくれるか?
創:私はありません。とある仕事がキャンセルになりましてね、久しぶりに暇つぶしがてら街中を歩いていた。昔の友人に会ったり、喫茶店で流行りの本を読んだり。あとは何でしょう。バーで少々お酒を嗜みながらビリヤードをしましたかね。そこまでは憶えているんですが、攫われたのか、襲われたのか。……まぁ、そういうことも考えられますね、職業柄。
行愛:だからどんな仕事ですか。
創:ふふ。
出雲:それは気になるところだが、今はいい。坂不田、お前は? 起きた途端大騒ぎしてたが。
平太郎:俺? いやぁ、ははは。来る前、か。仕事でちょい嫌なことあって、まぁちょっと人に言えない遊びして……。
想真:人に言えない……? 怪しくね?
平太郎:いや、怪しいっちゃ怪しいけど、なんだ。少なくともお前には言えねぇな。
想真:どうして?
平太郎:たぶんお前未成年だろ?
想真:そうだけど……あ。そう、いう感じの?
平太郎:みなまで言うな。そういう感じの。まぁとりま言った通り酒飲んでてさ、起きたらここにいたんだけど、んー確か最後は駅前で始発待ちながら吐いてたな。
出雲:あー。
想真:駅前のあれってこういう奴のなんだなって。
行愛:どおりでゲロくさいと思いました。
平太郎:嘘? 匂う?
創:吐瀉物はさておき、酒臭くはありますね。あとそもそも全体的に臭いですね。
平太郎:ひどくね!?
出雲:不来方、お前は?
行愛:僕は彼女と駅で待ち合わせしていました。
平太郎:なんだその英語の訳みたいな文章。
想真:は? 彼女? 死ね。
行愛:いや、なんすかその反応。ほんとに待ち合わせてたんですよ。
想真:ぶふっ! ゲロまみれの駅前で?
平太郎:おいこら。
行愛:そんなわけないじゃないですか! デート前にそんなもんあったら、流石に集合場所変えますよ。スタバとかに。
出雲:なるほど。デートの前だった訳か。
平太郎:なのにこんなところで四人の知らねぇ男達と顔つき合わせて人狼ゲーム。いやぁ、ご愁傷様だな。ははは。
想真:なにそれウケる。
行愛:いらつきますね。入不二さん、こいつら撃って良いですか?
出雲:洒落にならんからやめろ。
創:取り敢えず話を進めましょうか。想真くん、君はどうでしたか?
想真:うーん。俺は病院だな。
出雲:病院? どこか悪いのか?
想真:どこか。ってか、全部。
行愛:全部?
想真:そう、全部悪いんだ。血も、骨も、肉も、内臓も、ついでに頭もな。
出雲:……それで?
想真:何だっけ、憶えてること? まぁ、憶えてるって言っても、ぶっちゃけどっから夢で、どっから現実なのかはっきりしないんだけど、そうだな、確か手術を受けてたんだ。
創:手術、ですか?
想真:そう、しかも全身麻酔の大がかりな。
平太郎:いや、でもとてもそんな風には……。
想真:見えないだろ? 俺もビックリ。こんなに清々しいのって久しぶりだもん。どこも痛くないし、頭もすっきりしてる。手術は成功したのかな。もしかして、あのヤブっぽい医者、実はとんでも無い名医だったのかな。そして思った。僕の身に一体何があったんだろうね。
出雲:……なるほどな。
想真:だからさ、もうなんて言うか、みんなの話聞いてて、これ、確証はないんだけど、デスゲームでも、人狼ゲームでも何でも無いんじゃないかなって、思うんだけど、答え合わせ、する?
行愛:え、どういうことですか?
平太郎:俺もよく分かんないんだけど……。
創:じゃあ最後の一人を聞いてから決めましょうか。
想真:だって? 入不二さん。
出雲:……俺は、ここに来る前『K2』にいたんだ。
平太郎:K2って?
出雲:山だよ。
創:パキスタンの最高峰。カラコルム山脈測量番号2号。……有名な山、ですよね。
想真:よく知ってるね。
創:えぇ。職業柄。
想真:……便利な言葉だなぁ。
行愛:出雲さんは登山家なんですか?
出雲:ああ。登山家だった。
平太郎:やっぱ、入不二だけに?
出雲:入不二? ああ、富士山も登ったぞ。結構昔のことだけどな。
平太郎:すっげ。
行愛:そのK2も?
出雲:ああ。チームで登っていた。比較的安全な時期に、本当に比較的だけどな、まだリスクの低いルートで入念な準備をして挑んだ。でも、今年は予想以上に天候が荒れていてな。俺は、俺達は――遭難したんだ。
:
0:間。
:
行愛:どうして?
出雲:どうして。どうして、か。それは何度も問いかけたよ。運が悪かったのか? 致命的なミスを犯したのか? 準備が甘かったのか? 実力が足りなかったのか? 足を踏み入れたことが間違いだったのか? そもそも、登山なんて始めなければ良かったのか? どうして、どうして? 止まない吹雪の中で俺達は、俺は問い続けた。その結果が。
創:ここ。という訳でしたか。
出雲:ああ。そうだ。
行愛:えっと……?
平太郎:パキスタン、なんだよな。その山があるの。
出雲:ああ、中国とパキスタンの国境にある。
平太郎:どうやって来たの?
出雲:……さぁな? 俺が知りたいよ。
創:それで「この状況。実はそれ程最悪とも、不幸とも思ってない』ということですか。
行愛:よく憶えてますね。
:
創:職業柄(同時)
平太郎:職業柄(同時)
:
平太郎:だろ?
創:ふふ。
想真:状況としては僕と近いわけだ。
出雲:そういうわけだな。これには俺も流石にビックリだ。まさか目が覚めたら、遠い故郷のどことも知れない小学校の教室でこんなことになるなんて。意味分かんねぇよ。けど、寒くもなく、恐くもなく、独りでもない。それだけは、確かなんだ。
想真:ほんとにそうだよね。でも、それなら、これはやっぱり人狼ゲームなんかじゃなくて、ただのデスゲームなんだ。
創:なるほど。私も、状況が殆ど完璧に理解できました。いえ、理解、というか大体の予想、そして心の整理でしょうか。ええ、そういうこともあり得ますよね、職業柄。
想真:ちなみに、何してんの? 仕事。
創:聞いたら後悔するかも知れませんよ?
想真:いやいや、聞かない方が後悔するって。メイドさんのお土産って奴?
出雲:冥土の土産な。
想真:だから教えてよ、不壊藤さん。ちなみに僕は高校生! ま、殆ど行ってないけどね。
創:……そうですか。分かりました。では簡潔に。私は、殺し屋です。
行愛:ころ……!?
想真:やっぱり?
出雲:カタギには見えないもんな。
平太郎:ハジメちゃんってスジモンなの?
創:ハジメちゃん? まぁ、広義の意味ではそうですね。ちなみに漆原明という名前で黒い仕事を請け負い、安くないお金を頂いて慎ましくない暮らしをしています。端的にリッチですね。
平太郎:マジ? 裏山~。
創:その分、安くない恨みも買ってますが。
平太郎:それはノーサンキュー。まぁ、でも俺もかなり黒い会社で働いてるから似たようなもんか。
創:おやおや、それは。
平太郎:つっても、やっすい給料で働いてゴミのような暮らししてるから、全然違うんだけど。
想真:それは草はえるね。
平太郎:だろ? にしても、俺ダッサ! みんななんかすごい感じなのに俺ダッサ! これアル中で、ってことでしょ? ソーくんはこんな大人になっちゃ駄目だぜ?
想真:馴れ馴れしくない? まぁでも嬉しいことに、そんな大人になることもないわけだ。というかもう大人になんてなれない。だって僕達――。
行愛:ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
平太郎:どったのユッキー?
行愛:いやいや、どういうことですか……? 訳が分かりません!
創:口ではそう言いながら、もう、気付いてるんじゃありませんか?
行愛:何に!?
出雲:別に、気付かない振りしてても良いんだぜ? 最初、ここで目覚めて、黒板見て、それでまた、横になったときみたいに。
行愛:見てたんですか……?
出雲:ああ。
行愛:どうしてですか……?
平太郎:どうしてって?
行愛:どうして僕はこんなところに居るんですか?
想真:そんなの、決まってるじゃん。でも、なんで、不来方くんだったのかは知らない。強いて言うなら不運にも、てところじゃない?
行愛:そんなのおかしいですよ!? おかしい! 僕は、僕はただ彼女と待ち合わせてたんですよ!? ただ、それだけなんですよ?! デート! デートなんですよ?! 幸せだった、幸せの手前にいたはずだった! それなのに、起きたらこんな場所で! こんな人達に囲まれて。夢じゃないんですか?
平太郎:夢って感じはしないけどな。頬抓ると痛いし。
想真:またやってるよ。
行愛:でもあり得ないでしょう?
出雲:どうしてそう思う?
行愛:だって、全身麻酔で大手術受けてた高校生?
想真:そうだけど?
行愛:K2だかエベレストだかに居た登山家?
出雲:ああ。
行愛:それに恨みを買った殺し屋ですか?
創:えぇ。
行愛:馬鹿げてる! そんなの嘘だ! 嘘に決まってる!
平太郎:あれ? 俺は? 俺の流れじゃない? もしかして俺忘れられて――
行愛:そうだ! そうに違いない! 人狼ゲームなんだ! 僕を騙して都合良く殺そうとしてるんだ!
平太郎:おいユッキー! 駅前で酔っ払ってぶっ倒れたおっさんですか? って言えよこら! 仲間はずれにすんじゃねぇ!
出雲:そう思いたければ、思えば良い。疑いたければ疑えば良い。
創:ここではっきりしていることなんて、何も無いですからね。
想真:ただ、自分の置かれていた状況があるだけだし。
平太郎:信じられるのは自分だけ。俺が言っても説得力無い。てか、俺は俺のことが一番信じられねぇけどな。いや、もうマジ、信じらんねぇよ、俺、最低かよ。あー!
想真:あのさ、ちょっと黙ろっか坂不田さん。
出雲:不来方。これを悪夢と思うのも、下らない夢と思うのも自由だが、夢の中では眠れないものだ。それに、寝て起きたら現実が夢になることもない。そんなことは絶対に、無いんだ。
創:私もあまりよくは憶えてないんですが、憶えてないってことは、ある意味楽だったのかも知れませんね。
行愛:そんなの知らない! 覚えてない! 僕に一体何があったと言うんですか……?!
平太郎:ユッキー、頼むから会話しろ? そろそろ目ぇ醒ませよ?
行愛:目を醒ます? どうして?
平太郎:どうしてって、いや、この意味分かんねぇ状況をどうにかしたいからに決まってんだろ?
行愛:言ったら、認めたら何か変わるんですか?
出雲:いいや、変わらねぇだろ。俺達はもう、何も変わらねぇ。
行愛:だったら、
創:でも、いつかは受け入れるしかなくなるんですよ。
想真:或いはいつまでも受け入れないでいるしか。
平太郎:言えよ。言葉にするとこれほどチープなものもなくて笑うかもよ?
創:ふふ。
行愛:笑えませんよ、こんなの。
平太郎:俺は笑えると思うけどな?
想真:それは確かに。
出雲:なんというか、お前のはあまりにも残念だもんな。
平太郎:何をぉ? 俺だって頑張ってたんだよ!
創:分かりましたから坂不田さん。……それで、不来方さん。答え合わせ、しますか?
行愛:……みんな、
創:はい。
行愛:みんなもう、……死んでるんですね?
:
0:間。
:
行愛:……は、はは。
平太郎:笑っちまうだろ?
想真:現実感、ないよね。
出雲:悪い夢みたいだ。
行愛:今更ですが、これ、夢という線はもうありませんか?
想真:無くはないと思うけど。
創:確かめようもないでしょうな。
出雲:頬でも抓ってみるか?
平太郎:よし試してみるか!
行愛:え? 何を?
:
0:平太郎、壁に掛けられた銃を取りに行く。
:
出雲:な、何するつもりだ坂不田?
平太郎:こうする!
想真:ちょっ!
:
0:平太郎、自分の頭を撃ち抜いてぶっ倒れる。
:
創:マジか……。
想真:ほんとにやる人初めて見た。
行愛:いや、え、これどうなるんですか……?
出雲:さぁな? 気になるんなら見てこいよ、不来方。
行愛:いや、ここは不壊藤さんでは? 見慣れてるでしょ、職業柄。
創:いや、あれはもう駄目でしょ。遠目で分かります。
行愛:じゃあ、死んだんですか? 死んでる筈なのに……。やっぱり、さっきのやりとりは全部嘘で――
:
0:平太郎、むくりと起き上がる。
:
平太郎:いったぁぁぁぁ!?
行愛:ぎゃああああ!?
平太郎:ってことは……夢じゃない!?
想真:生き返ったね。
行愛:へ、平気なんですか、平太郎さん?
平太郎:おう。へーきへーき。平気の平太郎。
行愛:うわぁ、かっる。
想真:元通りっぽいね。飛び散ったものも消えてるし。でも、なんていうかきっしょ。
創:ええ、同意します。
出雲:あぁ、けどよぉ、これではっきりしたんじゃないか?
行愛:はっきりしたって、なにがですか?
想真:そこはっきり言おうよ、入不二さん。
出雲:そうだな。じゃあ言おうか。
創:私達は殺し合っても意味がない。
:
0:間。
:
創:ですね。
出雲:いや、あんたが言うのかよ。
創:失礼。こういう時、どうにも横取りしたくなってしまって。職――
平太郎:職業柄だろ。
出雲:職業柄だな。
想真:職業柄でしょ。
行愛:職業柄ですね。
創:……ええ、職業柄です。でもまさかあの銃の意味が殺し合わせる為じゃなくて、死んでることに気付かせる為にあるなんて、驚きですね。
平太郎:え? そうなの?
創:……気付いてなかったんですね。
平太郎:ま、良いじゃんそれは!
行愛:それで、これからどうするんですか? 殺し合えない、裏切り者もいない、話し合うことも別にない、そもそも生きてすらない。何をしたら良いんですか?
出雲:何も出来ないんじゃないか?
想真:何をしろとも言われてないしね。
創:メッセージというと黒板のあれだけですね。
:
行愛:『出られない部屋』
:
出雲:何かをしたら出られる、とかそういう条件があるわけじゃ無くて、
想真:結局、そのままの意味だったってことかな?
行愛:ちなみにこの中に教室の扉、開けようとした人って居ます?
創:ああ、あれは――
平太郎:絵だぞ?
行愛:え?
想真:え?
出雲:え?
創:面白い反応ですね。平太郎さん、気付いてたんですね。
平太郎:というかハジメちゃん以外気付いてなかったのかよ?
行愛:いや、ほんとですか?
想真:絵? まっさか~。
出雲:いくらなんでも……、
:
0:三人、扉に近付いてぺたぺたと触れる。
:
行愛:あー。
想真:へー。
平太郎:な?
出雲:絵、だな。
創:騙し絵という奴ですね。角度で分かります。
出雲:よく出来てるなぁ……。
平太郎:ということは、だ。やるべきことがはっきりしたな。
創:やるべきこと?
平太郎:扉はただの絵。だから出られない。なら、残された道は一つしかないだろ。
行愛:もしかして……。
出雲:おいおい。
創:本気ですか?
平太郎:ここに残るならどうぞご自由に、だ。居たけりゃずっと居られる。頭に穴あいても直るんだ。腹減りすぎて穴あいても直らない道理はねぇだろ。多分。
想真:いや暴論。
平太郎:それに頭の穴は直ったのに、あの穴は直ってないだろ?
想真:穴?
出雲:窓だよ。
想真:あ。
出雲:初手で窓ぶっ壊したのがまさか正解とはな。
想真:えー……この人適当にしか動いて無さそうなのに、なんで微妙に正解引き当ててるんだろ。
平太郎:ま、職業柄ってやつ?
創:ただの会社員では?
平太郎:ブラックだけどな。
出雲:いや、だが、ほんとに行くのか坂不田?
平太郎:ぁん?
想真:それに出られない筈でしょ、この部屋からは? 窓からなんて、何があるか分かんないよ?
平太郎:知らねぇのか? 窓の外も部屋の一部だから、窓から見える景色なら厳密には出れてねぇ。
想真:いや暴論。
平太郎:じゃあ、こうすれば良いだろ。
:
0:平太郎、黒板の前に行く。
:
出雲:何するつもりだ?
平太郎:お、チョークみっけ。
想真:まさか。
:
0:平太郎、黒板の文言に書き足す。
:
行愛:『出られ“ないことも”ない部屋』
平太郎:どうよ?
行愛:アホですね。
平太郎:アホと天才は紙一重なんだよ。って、誰がアホだ。
想真:いや、それはいいんだけど、そもそも、窓の外の景色、あれ、何?
平太郎:知らん。何だろうな、あれ。
創:正に、この世の物とは思えない景色、ですね。
行愛:天国とも地獄ともつきませんからね。
出雲:それでも行くのか?
平太郎:ああ。俺は行くよ。何が待ってるとしてもな。それとも行かねえのか、登山家?
出雲:……! なんだよお前、かっこいいな。
平太郎:だろ?
出雲:アル中で死んだくせに。
平太郎:うるせぇ!? で、お前は? 病弱少年。
想真:僕?
平太郎:せっかく元気なんだし、窓の外とか憧れない?
想真:まぁ、ちょっとだけ。
平太郎:おう。それじゃ殺し屋さんは? この窓の外にはきっとシガラミとかそういうのないぜ?
創:いい加減なことを言いますね。それも悪くないと思いますが。
平太郎:はいはい職業柄な。
創:元、ですよ。
平太郎:いいね。じゃあ、最後になんだ。……フラれたやつ?
行愛:フラれてません!
平太郎:あれ、そうだっけ?
行愛:どうして死んだのか、ちっとも分かりませんが、それだけは確かです。僕の愛は永遠です。
平太郎:……あっそ。行くの? 誘う言葉思いつかないんだけど。
行愛:なら、自分で決めます。
平太郎:何を?
行愛:死んで、気が付いたらいきなりこんなところに居たんですよ? 決まってるじゃないですか。だから、今度は自分で決めるんです。僕の居場所。
平太郎:……うーん長いな、五点。
出雲:何点満点中?
平太郎:百点中。
行愛:低っ!?
平太郎:冗談だって。十点中だよ。
行愛:それでも半分なんですが……。
平太郎:半分あれば上等だろ?
行愛:まぁ……。
平太郎:うし。じゃあ張り切って行こうか。
出雲:ああ!
想真:うん。
創:ええ。
行愛:はい!
平太郎:出られないこともない部屋から、あの窓の向こうに!
0:◆◆◆◆◆
:
想真:もしも明日死ぬとして。
行愛:今日を生きない理由はあるだろうか。
出雲:もしも今日死ぬとして。
平太郎:今日を生きない理由はあるだろうか。
創:だって理由もなしに人は死ねないものだろう。
:
0:◆
:
0:小学校の教室のような部屋。
0:五人の男達が倒れている。
0:学校のチャイムのような音が鳴り始める。
:
平太郎:……っせぇなぁ……ぁふ。
:
0:チャイムが鳴り終わる。
0:平太郎、目を覚ます。
:
平太郎:……ぁんだ? 教室? 俺、なんで……ぁ、やっべぇ、酔っ払って学校忍び込んじゃった!? さっさと逃げっか。
行愛:ん……。
平太郎:ぁん? 何だこいつ? というか――。
:
0:平太郎、周囲を見渡す。
:
創:…………。
想真:…………。
出雲:…………。
平太郎:何だこいつら……? おい、お前。
行愛:……んん……。
平太郎:起きろよ、おい。
行愛:……んぇ? えっと?
平太郎:おはよう。
行愛:おはようございます。
平太郎:早速だけどお前誰?
行愛:えっと? あなたこそ誰ですか?
平太郎:俺? 平太郎。
行愛:平太郎……。
平太郎:お前は?
行愛:不来方 行愛です。
平太郎:こずたかゆきお?
行愛:こずかた、です。
平太郎:それってどう書くの?
行愛:え? 未来の来の前に不可能の不をつけて不来、方向の方で不来方です。ゆきおは行くに愛で行愛。
平太郎:へー。珍しい名前だな。
行愛:よく言われます。
平太郎:ちなみに俺も珍しい方。
行愛:そうなんですか?
平太郎:そうそう。坂不田っていうの。
行愛:さかふだ? お酒の札ですか?
平太郎:いや、土の坂田の間に不思議の不が入ってんの。それで坂不田。平太郎は。平らな太郎。
行愛:なるほど。奇遇ですね、僕達二人とも――
平太郎:あ、そうだ自己紹介してる場合じゃなかった。この状況どう思う? ユッキー?
行愛:ゆ、ユッキー? 状況って?
平太郎:俺って結構マイペースって言われるんだけどさ、ユッキーも大概言われるんじゃね?
行愛:へ?
平太郎:周り。
行愛:周り? ……っわ!?
平太郎:どう思う?
行愛:この机全然錆びてないし板もすごい綺麗だ……!
平太郎:いや、着眼点おかしいだろ! なんですんなり学校、しかも小学校っぽいとこにいるの納得してんの?
行愛:見たまんまのところに驚くのも芸が無いかなって。
平太郎:余裕か。じゃあ、そこに転がってる奴らについてはなんてコメントするんだ?
行愛:平太郎さん。人殺しは良くないですよ?
平太郎:俺は殺してねぇ! あのさ、お前、見た目の割りに飛んでるな。
行愛:でも、地に足の着いた生き方を心がけなさいって、父さんが言ってました。僕もそう思います。
平太郎:頼むから会話しろ? あと、ついでにそいつら起こしてくんね?
行愛:起こす? どうして?
平太郎:どうしてっていや、この意味分かんねぇ状況を知りたいからに決まってんだろ?
行愛:じゃなくて。
平太郎:じゃなくて?
行愛:この人達、起きてますよ?
平太郎:へ?
行愛:寝たふりですね。
平太郎:え、いや、どうして?
行愛:状況を見てたんじゃないかな。
平太郎:どういうこと?
行愛:ですよね、
:
0:行愛、創に近付き声をかける。
:
行愛:おじさん。
創:……君はいつから気付いてたのかな?
平太郎:えぇぇ?! 起きてたのかよ!?
行愛:はじめから。
創:ふふ。だ、そうだよ残りのお二方。
:
0:間。
:
想真:バレてたか。
出雲:おやおや。
平太郎:え? なんでなんで!?
想真:なんでというとね。
出雲:状況が分からないときは動かないに限るんでな。
創:ちなみに彼も寝たふりですよ。
平太郎:彼?
想真:行愛くん。
平太郎:……知り合いなの?
行愛:いいえ。
想真:さっき二人が話してるの聞いてたから。
平太郎:なるほど?
行愛:まったく、どうして僕を最初に起こすんですか。
平太郎:え、マジで起きてたの?
行愛:はい。
平太郎:じゃ、じゃあもしかして、本気で寝てたのって俺だけ?
創:良い眠りっぷりでしたね。
出雲:ああ。羨ましいくらいにな。
想真:ほんと、こんな状況でよく眠れるよ。3時間も。
出雲:俺もよっぽど寝たふりやめようかと思ったくらいだな。
創:どうせこの方以外起きてましたしね。
想真:無駄な時間だったね。
平太郎:えー? いや、なら起こしてよ。というかこんな状況って?
:
0:間。
:
平太郎:え? なに? 何の間?
行愛:平太郎さん。
想真:もしかしてほんとに気付いてない?
平太郎:気付くって何に?
創:気付いてないみたいですね。
出雲:結構な異常事態だと思うんだがな。
平太郎:いや、異常なのは分かるよ? 起きたら学校とか。
出雲:そこじゃねぇのよ。
平太郎:えぇ?
行愛:平太郎さん見えますか? あれ。
平太郎:あれ?
:
0:平太郎、教室の後ろの壁を見る。
0:そこには5挺の拳銃が掛けられている。
:
平太郎:……何あれ。
創:銃ですね。
平太郎:え?
想真:より正確には、ニューナンブMー60。おまわりさんの持ってるやつ。
平太郎:へー。
出雲:さらに厳密には持ってたやつ。今は「サクラ」だろ?
行愛:重ねて実際には、まだ使われていることもある。ですね。
平太郎:……なんでみんなそんな詳しいの。
行愛:知識としてウィキペディアで。
想真:趣味で資料から。
創:職業柄。
出雲:友人が警察官でな。
平太郎:へー。そんなもんか。いや、待って。職業柄?
創:はい。
想真:おまわりさんってこと?
創:そう見えますか?
想真:……いいえ。
創:ふふ。
出雲:じゃあ、何やってるんだ?
創:人に言えないお仕事を。
出雲:言えない?
創:これ以上は知らない方が良いでしょうね。コンプライアンス的に。
行愛:コンプライアンス?
創:ええ。
想真:そう言われると知りたくなるのが人情じゃない?
創:好奇心は猫を殺しますが、人間もそうですよ知りたがりの坊ちゃん。
想真:それって脅し?
創:そう感じるのであれば。……まぁ私の素性よりも今は気にすべきことが、一名を除いて皆さんが気にしていたモノがあるのではありませんか?
出雲:五つも、な。
行愛:あの銃ですね。
創:そういうことです。
平太郎:どういうことです?
出雲:あれがあるから俺達は動けなかったってことさ。
平太郎:どうして?
想真:どうしてって、五つあるんだよ? あれ。
平太郎:えっと、つまり?
行愛:ここにいる人数分ですよ。
平太郎:ほー? なるほど。
行愛:平太郎さん。分かってます?
平太郎:わかってるわかってる。たぶん。
出雲:いや、絶対分かってないだろ。
想真:なかなかまずい状況なのにね。
平太郎:まずい状況? 確かに教室の壁に銃なんて飾られてたら物騒だなと思うけど、そんなに?
出雲:みんながあんたみたいな平和な頭してたらそうでもないのかも知れないけどな。
平太郎:あれ? 今のひょっとして悪口?
創:さておき、皆さん、この状況を見て思ったんですよ。
平太郎:え? この状況って?
行愛:平太郎さん、話の腰折らないで下さい。
創:じゃあ、状況を整理しましょうか。目が覚めると、
想真:どこかの教室。
創:周りには、
出雲:見知らぬ四人。
創:壁に、
行愛:人数分の銃。
創:そしてもう一つ。
平太郎:もう一つ?
行愛:……あれですよ。
平太郎:あれ?
:
0:四人、黒板を見る。
0:視線に釣られて、平太郎もそちらを見る。
0:黒板に『出られない部屋』と書かれている。
:
平太郎:そういう、ことね。
創:この状況、どう思いますか? 坂不田平太郎さん。
平太郎:あー、なんか、あれに似てるくね? なんて言うの? そう、デスゲーム。
想真:…………。
出雲:…………。
行愛:…………。
創:…………。
平太郎:あれ、違った?
創:いえ、何といいますか。言葉にするとこれほどチープなものも珍しいなと思いまして。
想真:現実感、ないよね。
出雲:悪い夢みたいだ。
行愛:今更ですが、これ、夢という線はありませんか?
想真:無くはないと思うけど。
創:確かめようもないでしょうな。
出雲:頬でも抓ってみるか?
平太郎:よし……いてててて! 夢じゃない!?
想真:ほんとにやる人初めて見た。
出雲:あぁ、けどよぉ、これではっきりしたんじゃないか?
行愛:はっきりしたって、なにがですか?
想真:そこはっきり言おうよ、おじさん。
出雲:そうだな。じゃあ言おうか。
創:私達は殺し合わなければならない。
:
0:間。
:
創:ですね。
出雲:いや、あんたが言うのかよ。
創:失礼。こういう時、どうにも仕切りたくなってしまって。職業柄ですかね?
想真:言えないって言っときながらすごいほのめかすじゃん。
行愛:実は聞いて欲しいんですか?
創:ふふ、どうでしょうね。
平太郎:それで、あんたらはどうすんの?
創:どうする、とは?
平太郎:殺し合う感じ? 俺はそれで別に良いけど。
行愛:え、受け入れるの早くないです?
平太郎:いや、だってデスゲームって漫画とかアニメで見たことあるけど、時間かけた方が泥沼じゃん? なんか相手の身の上話とかそういうの聞いて、誰が生き残るべきか。とか話し始めたら殺しづらくなるっていうかさ。お互いのこと何も知らないまま適当に殺し合った方が楽じゃね? 分かる?
出雲:そりゃ分かるけどなぁ。そんな簡単に飲み込めるもんかい? もしかしたら嘘かも知れない。というかこの状況に対してのデスゲームっていう仮定も、憶測に過ぎないんだぜ?
想真:根拠はあそこに飾られてる五挺の銃だけ。近くで見たわけじゃ無いからあれも本物かどうかすら分からないんだよ?
創:本物ですよ。遠目で見ても分かります。職業柄。
想真:出たよ職業柄。
創:まぁ、撃てるようになってるかは分かりませんが。
平太郎:あー、そうなの?
創:ええ、もしかしたら弾が偽物という線もありますからね。
平太郎:じゃあ、試してみよっか。
創:へ?
出雲:おい、
行愛:何を、
想真:ちょっと!
:
0:平太郎、立ち上がると銃の一挺を手に取り窓に向けて撃つ。
0:発砲音。窓がバラバラに砕け散る。
:
平太郎:うひゃー。俺、銃なんて初めて撃った。てか結構匂うな。
創:今、自分が何をしたか分かっているのですか?
平太郎:え? 銃を撃った?
創:そうですが、この状況の中ですよ?
平太郎:……? あ。
創:気が付きましたか。
平太郎:なんてこった! 俺、小学校の教室で銃撃って窓ぶち壊しちゃった!? え、こわ。発砲事件じゃん。逮捕間違いなし?
行愛:そうだけどそうじゃなくて!
創:あなたがぶち壊したのは、窓ガラスだけじゃなくて、この状況もですよ。
出雲:だな。
想真:ですね。
行愛:はぁ。
平太郎:……どういうこと?
創:もう殺し合うしか無くなったんですよ。
平太郎:え? そういう話じゃなかった?
行愛:いや、まだデスゲームと決まった訳じゃないって話でしたよ。マイペースですね平太郎さん。
平太郎:それも言わなかった? そう、俺ってマイペースなんだよね。
出雲:そのペースで全員殺す訳か?
創:様子を見すぎましたね。
想真:まさか、最後に起きた何も知らないやつに先手を取られるとはね。
平太郎:あー。成る程。この銃って何発入ってんの?
想真:そりゃ……。
出雲:言うな(同時)
創:言うな(同時)
想真:え?
出雲:駆け引きはもう始まってる。
創:そういうことです。
行愛:駆け引き?
出雲:ゲームスタートだ。
平太郎:あー。成る程。じゃあこうしよう。
:
0:平太郎、銃口を上に向ける。
:
創:何を!?
平太郎:いや、撃つんだけど。
:
0:平太郎、銃を連射する。
0:三回発砲音が鳴る。
:
平太郎:一、二、三。もう出ないな。……ということは三発か。
出雲:いや、五発だよ。
平太郎:でも三発しか出なかったぞ?
想真:最初に窓ぶっ壊しただろうがあんた。
平太郎:あ、そっか。
出雲:おいおい。
平太郎:でも四発じゃ?
行愛:確かに一発は不発っぽかったですが。
平太郎:そういうこともあるのか。
想真:それで、何のつもりだったんだよ、今の。
平太郎:これで弾は空っぽなわけだろ? ゲームセットだ。
創:でも後四挺。あなたのうしろにありますよ。
平太郎:あー、残り数十発も撃てってこと?
想真:二十発だって。計算できないのかよ。
平太郎:二日酔いかな? あんまり頭回らねぇんだよね。
想真:酔っ払って銃撃ったの? こわ。
平太郎:酔っ払いと二日酔いは違うんだな、これが。てか、耳痛い。
出雲:そりゃ、あんだけ撃てばな。
行愛:まさか、本気で撃つんですか?
平太郎:撃っちゃ駄目なのか?
創:駄目でしょうよ。というか、流石にこれ以上撃たせませんよ。
平太郎:じゃあ、どうすんの? 力づくで止めに来る感じ? 俺が銃を取るのが先か、それを止めるのが先か! うっは、燃える展開。
想真:これ、一番駄目な人に主導権握られてない?
出雲:そうかも知れんが、他の人間がどれだけ信用できる?
行愛:そもそも、今、人を信用することにどれだけ意味があるのかって感じですが。
想真:それは確かに。じゃあ、えっと平太郎さんでしたっけ?
平太郎:そう、俺平太郎。
想真:とりあえず自己紹介、しません?
平太郎:今更じゃない?
想真:今更だけど。でも、平太郎さんだけ名前知られてるのって不公平でしょ?
行愛:いや、僕もですが。
平太郎:確かに?
想真:というわけで、僕の名前は不虚作 想真です。不作の間に虚ろでふこさ。真に想うで想真。
平太郎:へー、珍しい名字だね。ていうか、あれ? 確かユッキーも……。
想真:はい、職業柄さんはなんてお名前ですか?
創:職業柄さんはやめてくれませんか? 私は、不壊藤創です。壊れずの不壊に藤原の藤で不壊藤、創作の創一文字で創。以後よろしく。
行愛:ちょっと待って下さい。不壊藤さん?
創:何ですか? 不来方くん?
行愛:それ本名ですか?
創:偽名の方を聞きたいですか? 偽名は漆原 明(うるしはら あきら)です。
行愛:聞いてませんけど。
創:おや残念。
想真:やっぱり気付いた?
行愛:ええ。
平太郎:はぁん。成る程? 俺達、面識はなかったけど、
行愛:意外な共通点があったって訳ですね。
出雲:そうらしいな。
想真:ということは?
出雲:入るに不二家の不二、出雲大社の出雲で入不二出雲。
想真:坂不田、不来方、不壊藤、不虚作、そして入不二。
行愛:つまり僕達は。
創:ええ。
出雲:苗字が全員、
平太郎:三文字。
:
0:間。
:
想真:あの。そういうボケいらないんで。
平太郎:分かってる分かってる。苗字に不が入ってんだろ?
出雲:なんだよ、ちゃんと分かってたのか。
行愛:本気で言ってるのかと。
創:ですが、それに何の意味があるのかは不明ですね。
行愛:不、だけに?
創:ええ、不だけに。思ったんですが、これちょっと意味深じゃないですかね。
出雲:意味深? 何が。
創:いえ、先程そこの坂不田さんが銃を乱射しましたよね?
想真:ああ、小学校で男が銃を乱射したね。
平太郎:改めて言葉にするとやべぇな……。
行愛:実際ヤバい奴で合ってますが。
平太郎:おい。
創:それはさておき一発だけ、不発でした。
出雲:何が言いたいんだ?
創:私達は五人で、銃も五挺。弾は五発で、その内一発は不発。もしかしたら、一人不発なんじゃないでしょうか?
行愛:それは、
創:ついでに言えば、先程銃が偽物かどうかという話をしていましたが、その内の一挺は不良なんじゃないかと。
出雲:何?
平太郎:不良? あ、ほんとだ。よく見たら引き金が取れてる。
出雲:おい、あいつまた勝手に動いたぞ。縛っておいた方が良いんじゃ無いか?
創:それは検討の余地ありですね。
行愛:つまりこれは、
想真:五人の内一人が仲間はずれってこと?
出雲:更に言えばこれはデスゲームじゃなくて、その仲間はずれを探す為のゲームなわけだな。
平太郎:人狼ゲームってことか?
創:そう見るべきでは?
出雲:一理あるな。それで?
創:それで、とは?
想真:これがただの殺し合いのデスゲームじゃなくて、人狼ゲームだと仮定して、あんたは何がしたいの?
創:ああ。そうですね。彼は言いました。話し合う前に片を付けよう、と。でも、これは人狼ゲームです。なら、まず何をするべきでしょうか? 幸いにも銃弾は四発も撃たれたのに、誰も傷つけてませんから。まだ、間に合いますよね?
出雲:なるほどな。いいぜ。話し合おう。
行愛:良いんですか?
出雲:なんも分からないまま殺し合うよりはいいだろう?
行愛:それはそうですね。
想真:おっけー! じゃあ、机動かそうか。
創:その前に、取り敢えずこっちに来てくれませんか、坂不田さん。
平太郎:ん? おう。あ、これどうする?
想真:持ってきて!
:
0:平太郎、四人の傍に移動する。
:
出雲:何でだ? どうせもう撃てないんだろ?
想真:趣味。どうせなら近くで見たいじゃん。
出雲:なるほどな。
行愛:撃てるなら置いてきた方が安心ですが。机、動かしましょうか。
想真:はいよー。
:
0:行愛、出雲、想真、机を移動させてシマを作る。
:
創:撃てる、かも知れませんよ。
行愛:え?
創:不発とはいえ、本当に使えない弾とは限らない。
出雲:それって、暴発するかもってことか?
平太郎:マジ?
創:まぁ、可能性は低いですが。
想真:なら、弾抜いとく?
創:その方が良さそうですね。
平太郎:おっけー。……これどうやんの?
創:貸してください。
:
0:創、平太郎から銃を取ると、弾を抜いて想真に渡す。
:
創:はい。どうぞ。
想真:……なんか手際良くない?
創:まぁ、職業柄。
出雲:またそれか。
創:それより、どうですか、実銃は。
想真:重い。かっこいい。
創:それはそれは。
行愛:いや、その職業なんか駄目でしょ。
創:警察官、かも知れませんよ?
想真:かも知れません、とか言ってる時点でもう違うでしょ。こいつ人狼じゃね? 吊しとく?
創:ふふ。それは座ってからはじめません?
行愛:創だけに?
創:……ええ。
想真:今、すごい睨まれてたよ?
出雲:名前とか弄られるの嫌いなタイプかもしれないな。
平太郎:ってことは、案外偽名じゃねぇのかも。
創:本名ですからね。さ、どうぞおかけになってください。
:
0:五人着席する。渋い顔。
:
平太郎:……いや、これさ。
出雲:ああ。
想真:まぁ分かってたけど、
行愛:そうですね……。
創:ええ。
平太郎:椅子小っちゃ!?
想真:机も低くて足が入らない。
創:低学年の教室みたいですね。
出雲:そこに大人が集まって座ってるのか。
行愛:シュールですね。
平太郎:おまけに、机の上には拳銃。
想真:犯罪的だね。
出雲:実際、犯罪に巻き込まれたと見るべきだろうが。
行愛:平太郎さんは犯罪者ですが。
平太郎:え~? 俺、何もしてないって。
想真:真っ先に銃ぶっ放したくせに?
平太郎:いやぁ。はっはっは。
出雲:笑い事じゃねぇって。こっちは相当肝冷やしたんだからな?
行愛:幸い、最悪の事態は避けられましたが。
創:既に最悪かも知れませんが、不幸中の幸い、かも知れませんね。
想真:不幸、ね。
出雲:でも俺はこの状況。実はそれ程最悪とも、不幸とも思ってないんだ。
創:ほう。それはどういうことですか? 入不二さん。
出雲:それはな……。ちなみにこれは確認なんだが。
想真:確認?
出雲:この中に、ここに自分の足で来た記憶がある奴はいるか?
行愛:それはつまり?
出雲:気が付いたらみんなここにいた。そういう認識でいいのかって質問だ。ついでだ。ここに来る前に何してたのかも教えてくれるか?
創:私はありません。とある仕事がキャンセルになりましてね、久しぶりに暇つぶしがてら街中を歩いていた。昔の友人に会ったり、喫茶店で流行りの本を読んだり。あとは何でしょう。バーで少々お酒を嗜みながらビリヤードをしましたかね。そこまでは憶えているんですが、攫われたのか、襲われたのか。……まぁ、そういうことも考えられますね、職業柄。
行愛:だからどんな仕事ですか。
創:ふふ。
出雲:それは気になるところだが、今はいい。坂不田、お前は? 起きた途端大騒ぎしてたが。
平太郎:俺? いやぁ、ははは。来る前、か。仕事でちょい嫌なことあって、まぁちょっと人に言えない遊びして……。
想真:人に言えない……? 怪しくね?
平太郎:いや、怪しいっちゃ怪しいけど、なんだ。少なくともお前には言えねぇな。
想真:どうして?
平太郎:たぶんお前未成年だろ?
想真:そうだけど……あ。そう、いう感じの?
平太郎:みなまで言うな。そういう感じの。まぁとりま言った通り酒飲んでてさ、起きたらここにいたんだけど、んー確か最後は駅前で始発待ちながら吐いてたな。
出雲:あー。
想真:駅前のあれってこういう奴のなんだなって。
行愛:どおりでゲロくさいと思いました。
平太郎:嘘? 匂う?
創:吐瀉物はさておき、酒臭くはありますね。あとそもそも全体的に臭いですね。
平太郎:ひどくね!?
出雲:不来方、お前は?
行愛:僕は彼女と駅で待ち合わせしていました。
平太郎:なんだその英語の訳みたいな文章。
想真:は? 彼女? 死ね。
行愛:いや、なんすかその反応。ほんとに待ち合わせてたんですよ。
想真:ぶふっ! ゲロまみれの駅前で?
平太郎:おいこら。
行愛:そんなわけないじゃないですか! デート前にそんなもんあったら、流石に集合場所変えますよ。スタバとかに。
出雲:なるほど。デートの前だった訳か。
平太郎:なのにこんなところで四人の知らねぇ男達と顔つき合わせて人狼ゲーム。いやぁ、ご愁傷様だな。ははは。
想真:なにそれウケる。
行愛:いらつきますね。入不二さん、こいつら撃って良いですか?
出雲:洒落にならんからやめろ。
創:取り敢えず話を進めましょうか。想真くん、君はどうでしたか?
想真:うーん。俺は病院だな。
出雲:病院? どこか悪いのか?
想真:どこか。ってか、全部。
行愛:全部?
想真:そう、全部悪いんだ。血も、骨も、肉も、内臓も、ついでに頭もな。
出雲:……それで?
想真:何だっけ、憶えてること? まぁ、憶えてるって言っても、ぶっちゃけどっから夢で、どっから現実なのかはっきりしないんだけど、そうだな、確か手術を受けてたんだ。
創:手術、ですか?
想真:そう、しかも全身麻酔の大がかりな。
平太郎:いや、でもとてもそんな風には……。
想真:見えないだろ? 俺もビックリ。こんなに清々しいのって久しぶりだもん。どこも痛くないし、頭もすっきりしてる。手術は成功したのかな。もしかして、あのヤブっぽい医者、実はとんでも無い名医だったのかな。そして思った。僕の身に一体何があったんだろうね。
出雲:……なるほどな。
想真:だからさ、もうなんて言うか、みんなの話聞いてて、これ、確証はないんだけど、デスゲームでも、人狼ゲームでも何でも無いんじゃないかなって、思うんだけど、答え合わせ、する?
行愛:え、どういうことですか?
平太郎:俺もよく分かんないんだけど……。
創:じゃあ最後の一人を聞いてから決めましょうか。
想真:だって? 入不二さん。
出雲:……俺は、ここに来る前『K2』にいたんだ。
平太郎:K2って?
出雲:山だよ。
創:パキスタンの最高峰。カラコルム山脈測量番号2号。……有名な山、ですよね。
想真:よく知ってるね。
創:えぇ。職業柄。
想真:……便利な言葉だなぁ。
行愛:出雲さんは登山家なんですか?
出雲:ああ。登山家だった。
平太郎:やっぱ、入不二だけに?
出雲:入不二? ああ、富士山も登ったぞ。結構昔のことだけどな。
平太郎:すっげ。
行愛:そのK2も?
出雲:ああ。チームで登っていた。比較的安全な時期に、本当に比較的だけどな、まだリスクの低いルートで入念な準備をして挑んだ。でも、今年は予想以上に天候が荒れていてな。俺は、俺達は――遭難したんだ。
:
0:間。
:
行愛:どうして?
出雲:どうして。どうして、か。それは何度も問いかけたよ。運が悪かったのか? 致命的なミスを犯したのか? 準備が甘かったのか? 実力が足りなかったのか? 足を踏み入れたことが間違いだったのか? そもそも、登山なんて始めなければ良かったのか? どうして、どうして? 止まない吹雪の中で俺達は、俺は問い続けた。その結果が。
創:ここ。という訳でしたか。
出雲:ああ。そうだ。
行愛:えっと……?
平太郎:パキスタン、なんだよな。その山があるの。
出雲:ああ、中国とパキスタンの国境にある。
平太郎:どうやって来たの?
出雲:……さぁな? 俺が知りたいよ。
創:それで「この状況。実はそれ程最悪とも、不幸とも思ってない』ということですか。
行愛:よく憶えてますね。
:
創:職業柄(同時)
平太郎:職業柄(同時)
:
平太郎:だろ?
創:ふふ。
想真:状況としては僕と近いわけだ。
出雲:そういうわけだな。これには俺も流石にビックリだ。まさか目が覚めたら、遠い故郷のどことも知れない小学校の教室でこんなことになるなんて。意味分かんねぇよ。けど、寒くもなく、恐くもなく、独りでもない。それだけは、確かなんだ。
想真:ほんとにそうだよね。でも、それなら、これはやっぱり人狼ゲームなんかじゃなくて、ただのデスゲームなんだ。
創:なるほど。私も、状況が殆ど完璧に理解できました。いえ、理解、というか大体の予想、そして心の整理でしょうか。ええ、そういうこともあり得ますよね、職業柄。
想真:ちなみに、何してんの? 仕事。
創:聞いたら後悔するかも知れませんよ?
想真:いやいや、聞かない方が後悔するって。メイドさんのお土産って奴?
出雲:冥土の土産な。
想真:だから教えてよ、不壊藤さん。ちなみに僕は高校生! ま、殆ど行ってないけどね。
創:……そうですか。分かりました。では簡潔に。私は、殺し屋です。
行愛:ころ……!?
想真:やっぱり?
出雲:カタギには見えないもんな。
平太郎:ハジメちゃんってスジモンなの?
創:ハジメちゃん? まぁ、広義の意味ではそうですね。ちなみに漆原明という名前で黒い仕事を請け負い、安くないお金を頂いて慎ましくない暮らしをしています。端的にリッチですね。
平太郎:マジ? 裏山~。
創:その分、安くない恨みも買ってますが。
平太郎:それはノーサンキュー。まぁ、でも俺もかなり黒い会社で働いてるから似たようなもんか。
創:おやおや、それは。
平太郎:つっても、やっすい給料で働いてゴミのような暮らししてるから、全然違うんだけど。
想真:それは草はえるね。
平太郎:だろ? にしても、俺ダッサ! みんななんかすごい感じなのに俺ダッサ! これアル中で、ってことでしょ? ソーくんはこんな大人になっちゃ駄目だぜ?
想真:馴れ馴れしくない? まぁでも嬉しいことに、そんな大人になることもないわけだ。というかもう大人になんてなれない。だって僕達――。
行愛:ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
平太郎:どったのユッキー?
行愛:いやいや、どういうことですか……? 訳が分かりません!
創:口ではそう言いながら、もう、気付いてるんじゃありませんか?
行愛:何に!?
出雲:別に、気付かない振りしてても良いんだぜ? 最初、ここで目覚めて、黒板見て、それでまた、横になったときみたいに。
行愛:見てたんですか……?
出雲:ああ。
行愛:どうしてですか……?
平太郎:どうしてって?
行愛:どうして僕はこんなところに居るんですか?
想真:そんなの、決まってるじゃん。でも、なんで、不来方くんだったのかは知らない。強いて言うなら不運にも、てところじゃない?
行愛:そんなのおかしいですよ!? おかしい! 僕は、僕はただ彼女と待ち合わせてたんですよ!? ただ、それだけなんですよ?! デート! デートなんですよ?! 幸せだった、幸せの手前にいたはずだった! それなのに、起きたらこんな場所で! こんな人達に囲まれて。夢じゃないんですか?
平太郎:夢って感じはしないけどな。頬抓ると痛いし。
想真:またやってるよ。
行愛:でもあり得ないでしょう?
出雲:どうしてそう思う?
行愛:だって、全身麻酔で大手術受けてた高校生?
想真:そうだけど?
行愛:K2だかエベレストだかに居た登山家?
出雲:ああ。
行愛:それに恨みを買った殺し屋ですか?
創:えぇ。
行愛:馬鹿げてる! そんなの嘘だ! 嘘に決まってる!
平太郎:あれ? 俺は? 俺の流れじゃない? もしかして俺忘れられて――
行愛:そうだ! そうに違いない! 人狼ゲームなんだ! 僕を騙して都合良く殺そうとしてるんだ!
平太郎:おいユッキー! 駅前で酔っ払ってぶっ倒れたおっさんですか? って言えよこら! 仲間はずれにすんじゃねぇ!
出雲:そう思いたければ、思えば良い。疑いたければ疑えば良い。
創:ここではっきりしていることなんて、何も無いですからね。
想真:ただ、自分の置かれていた状況があるだけだし。
平太郎:信じられるのは自分だけ。俺が言っても説得力無い。てか、俺は俺のことが一番信じられねぇけどな。いや、もうマジ、信じらんねぇよ、俺、最低かよ。あー!
想真:あのさ、ちょっと黙ろっか坂不田さん。
出雲:不来方。これを悪夢と思うのも、下らない夢と思うのも自由だが、夢の中では眠れないものだ。それに、寝て起きたら現実が夢になることもない。そんなことは絶対に、無いんだ。
創:私もあまりよくは憶えてないんですが、憶えてないってことは、ある意味楽だったのかも知れませんね。
行愛:そんなの知らない! 覚えてない! 僕に一体何があったと言うんですか……?!
平太郎:ユッキー、頼むから会話しろ? そろそろ目ぇ醒ませよ?
行愛:目を醒ます? どうして?
平太郎:どうしてって、いや、この意味分かんねぇ状況をどうにかしたいからに決まってんだろ?
行愛:言ったら、認めたら何か変わるんですか?
出雲:いいや、変わらねぇだろ。俺達はもう、何も変わらねぇ。
行愛:だったら、
創:でも、いつかは受け入れるしかなくなるんですよ。
想真:或いはいつまでも受け入れないでいるしか。
平太郎:言えよ。言葉にするとこれほどチープなものもなくて笑うかもよ?
創:ふふ。
行愛:笑えませんよ、こんなの。
平太郎:俺は笑えると思うけどな?
想真:それは確かに。
出雲:なんというか、お前のはあまりにも残念だもんな。
平太郎:何をぉ? 俺だって頑張ってたんだよ!
創:分かりましたから坂不田さん。……それで、不来方さん。答え合わせ、しますか?
行愛:……みんな、
創:はい。
行愛:みんなもう、……死んでるんですね?
:
0:間。
:
行愛:……は、はは。
平太郎:笑っちまうだろ?
想真:現実感、ないよね。
出雲:悪い夢みたいだ。
行愛:今更ですが、これ、夢という線はもうありませんか?
想真:無くはないと思うけど。
創:確かめようもないでしょうな。
出雲:頬でも抓ってみるか?
平太郎:よし試してみるか!
行愛:え? 何を?
:
0:平太郎、壁に掛けられた銃を取りに行く。
:
出雲:な、何するつもりだ坂不田?
平太郎:こうする!
想真:ちょっ!
:
0:平太郎、自分の頭を撃ち抜いてぶっ倒れる。
:
創:マジか……。
想真:ほんとにやる人初めて見た。
行愛:いや、え、これどうなるんですか……?
出雲:さぁな? 気になるんなら見てこいよ、不来方。
行愛:いや、ここは不壊藤さんでは? 見慣れてるでしょ、職業柄。
創:いや、あれはもう駄目でしょ。遠目で分かります。
行愛:じゃあ、死んだんですか? 死んでる筈なのに……。やっぱり、さっきのやりとりは全部嘘で――
:
0:平太郎、むくりと起き上がる。
:
平太郎:いったぁぁぁぁ!?
行愛:ぎゃああああ!?
平太郎:ってことは……夢じゃない!?
想真:生き返ったね。
行愛:へ、平気なんですか、平太郎さん?
平太郎:おう。へーきへーき。平気の平太郎。
行愛:うわぁ、かっる。
想真:元通りっぽいね。飛び散ったものも消えてるし。でも、なんていうかきっしょ。
創:ええ、同意します。
出雲:あぁ、けどよぉ、これではっきりしたんじゃないか?
行愛:はっきりしたって、なにがですか?
想真:そこはっきり言おうよ、入不二さん。
出雲:そうだな。じゃあ言おうか。
創:私達は殺し合っても意味がない。
:
0:間。
:
創:ですね。
出雲:いや、あんたが言うのかよ。
創:失礼。こういう時、どうにも横取りしたくなってしまって。職――
平太郎:職業柄だろ。
出雲:職業柄だな。
想真:職業柄でしょ。
行愛:職業柄ですね。
創:……ええ、職業柄です。でもまさかあの銃の意味が殺し合わせる為じゃなくて、死んでることに気付かせる為にあるなんて、驚きですね。
平太郎:え? そうなの?
創:……気付いてなかったんですね。
平太郎:ま、良いじゃんそれは!
行愛:それで、これからどうするんですか? 殺し合えない、裏切り者もいない、話し合うことも別にない、そもそも生きてすらない。何をしたら良いんですか?
出雲:何も出来ないんじゃないか?
想真:何をしろとも言われてないしね。
創:メッセージというと黒板のあれだけですね。
:
行愛:『出られない部屋』
:
出雲:何かをしたら出られる、とかそういう条件があるわけじゃ無くて、
想真:結局、そのままの意味だったってことかな?
行愛:ちなみにこの中に教室の扉、開けようとした人って居ます?
創:ああ、あれは――
平太郎:絵だぞ?
行愛:え?
想真:え?
出雲:え?
創:面白い反応ですね。平太郎さん、気付いてたんですね。
平太郎:というかハジメちゃん以外気付いてなかったのかよ?
行愛:いや、ほんとですか?
想真:絵? まっさか~。
出雲:いくらなんでも……、
:
0:三人、扉に近付いてぺたぺたと触れる。
:
行愛:あー。
想真:へー。
平太郎:な?
出雲:絵、だな。
創:騙し絵という奴ですね。角度で分かります。
出雲:よく出来てるなぁ……。
平太郎:ということは、だ。やるべきことがはっきりしたな。
創:やるべきこと?
平太郎:扉はただの絵。だから出られない。なら、残された道は一つしかないだろ。
行愛:もしかして……。
出雲:おいおい。
創:本気ですか?
平太郎:ここに残るならどうぞご自由に、だ。居たけりゃずっと居られる。頭に穴あいても直るんだ。腹減りすぎて穴あいても直らない道理はねぇだろ。多分。
想真:いや暴論。
平太郎:それに頭の穴は直ったのに、あの穴は直ってないだろ?
想真:穴?
出雲:窓だよ。
想真:あ。
出雲:初手で窓ぶっ壊したのがまさか正解とはな。
想真:えー……この人適当にしか動いて無さそうなのに、なんで微妙に正解引き当ててるんだろ。
平太郎:ま、職業柄ってやつ?
創:ただの会社員では?
平太郎:ブラックだけどな。
出雲:いや、だが、ほんとに行くのか坂不田?
平太郎:ぁん?
想真:それに出られない筈でしょ、この部屋からは? 窓からなんて、何があるか分かんないよ?
平太郎:知らねぇのか? 窓の外も部屋の一部だから、窓から見える景色なら厳密には出れてねぇ。
想真:いや暴論。
平太郎:じゃあ、こうすれば良いだろ。
:
0:平太郎、黒板の前に行く。
:
出雲:何するつもりだ?
平太郎:お、チョークみっけ。
想真:まさか。
:
0:平太郎、黒板の文言に書き足す。
:
行愛:『出られ“ないことも”ない部屋』
平太郎:どうよ?
行愛:アホですね。
平太郎:アホと天才は紙一重なんだよ。って、誰がアホだ。
想真:いや、それはいいんだけど、そもそも、窓の外の景色、あれ、何?
平太郎:知らん。何だろうな、あれ。
創:正に、この世の物とは思えない景色、ですね。
行愛:天国とも地獄ともつきませんからね。
出雲:それでも行くのか?
平太郎:ああ。俺は行くよ。何が待ってるとしてもな。それとも行かねえのか、登山家?
出雲:……! なんだよお前、かっこいいな。
平太郎:だろ?
出雲:アル中で死んだくせに。
平太郎:うるせぇ!? で、お前は? 病弱少年。
想真:僕?
平太郎:せっかく元気なんだし、窓の外とか憧れない?
想真:まぁ、ちょっとだけ。
平太郎:おう。それじゃ殺し屋さんは? この窓の外にはきっとシガラミとかそういうのないぜ?
創:いい加減なことを言いますね。それも悪くないと思いますが。
平太郎:はいはい職業柄な。
創:元、ですよ。
平太郎:いいね。じゃあ、最後になんだ。……フラれたやつ?
行愛:フラれてません!
平太郎:あれ、そうだっけ?
行愛:どうして死んだのか、ちっとも分かりませんが、それだけは確かです。僕の愛は永遠です。
平太郎:……あっそ。行くの? 誘う言葉思いつかないんだけど。
行愛:なら、自分で決めます。
平太郎:何を?
行愛:死んで、気が付いたらいきなりこんなところに居たんですよ? 決まってるじゃないですか。だから、今度は自分で決めるんです。僕の居場所。
平太郎:……うーん長いな、五点。
出雲:何点満点中?
平太郎:百点中。
行愛:低っ!?
平太郎:冗談だって。十点中だよ。
行愛:それでも半分なんですが……。
平太郎:半分あれば上等だろ?
行愛:まぁ……。
平太郎:うし。じゃあ張り切って行こうか。
出雲:ああ!
想真:うん。
創:ええ。
行愛:はい!
平太郎:出られないこともない部屋から、あの窓の向こうに!