台本概要

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タイトル 台本
作者名 たこせん
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男1、女3)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
- 高二 交通事故にあい、一部記憶喪失
小春 - 高二 交通事故で死亡
紅葉 - 高二 お寺生まれのお嬢さん
那月 - 高一 ひとりでオカルト研究会をしている
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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幸(ゆき)高二 小春(こはる)高二 紅葉(もみじ)高二 那月(なつき)高一 幸「桜の樹の下には屍体が埋まっている…か。」 那月「お?なになに、幸さんもついにこっち側に足を踏み入れる感じっすか!?」 幸「うわっ!って那月かぁ…あれ、今日って面会の日だったっけ。」 那月「事前に連絡入れましたよ!んでんで、幸さんも、明日からオカルト研究会に入会しちゃう感じっすか!?」 幸「あ、いや…そんなんじゃなくって…。今読んでる本に書いてあっただけだよ。」 那月「ちぇーつまんないの。ほんっとに幸さんは本の虫っすねぇ。」 紅葉「お邪魔します!コラ那月ぃ!勝手に先先いくな言うたやろ!」 幸「あ…もみちゃん。」 那月「ひぃー!ごめんってもみさん!!ほっぺつねらないで!!!」 紅葉「ったく。幸ごめんな?騒がしくして。」 幸「あはは…」 紅葉「ほんで、明日から復帰やな。おめでとう」 幸「あ、ありがとう。これって…栞?」 那月「そうそう!俺ともみさんで作った桜の押し花の栞。本の虫の幸さんにはぴったりでしょ?」 幸「うん、嬉しい。」 那月「ちなみに、桜はあの世と深い関係があるとかないとか…あでっ!?」 紅葉「縁起でもないこと言わんでええっ!!こほん。ほんで幸、調子の方はどうなん?」 幸「あぁ、うん。ずっと寝たきりだったから体力は落ちてるけど、それ以外はもう大丈夫だよ。でも…。」 紅葉「そっか…まだ戻らんのやね、記憶。」 那月「小春さんのことだけすっぽり忘れるなんて、そんな限定的な記憶喪失ってあるもんなんすね。」 幸「心因性の記憶喪失だから、すぐには治らないかもって。実感はないんだけど、心に穴が空くって、こういうことなのかなって感じ。」 紅葉「……まぁ、記憶はこれからゆっくり取り戻していけばええ。うちらもできることなんでも協力するさかい、あんま思い悩まんとき。」 幸「うん、ありがとう、二人とも。」 那月「じゃあまた明日学校で!!」 紅葉「ほなね〜。」 幸「小春、小春ちゃん?うーん…やっぱり、しっくり来ないなぁ。」 翌日、退院して初めての登校 生徒1「幸ちゃん……!退院おめでとう、大丈夫?」 幸「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫。」 生徒1「そっか……なんか、困ったことあったらいつでも頼ってよ。」 幸「うん、ありがとう。」 小春「おはよぉー。」 幸「え……?」 そこに現れたのは、もみちゃん達に見せてもらった写真の中の人……小春、という私の友達だったはずの人だった。 小春「えーなんでそんな面食らってんの?うける。」 幸「え、なんで、あなたがここにいるの……?」 小春「なに、私がここにいちゃまずい?」 幸「ゆ、幽霊……!!!」 小春「変な冗談やめてよー!私、小春だよ?」 幸「小春!?小春ってあの…!で、でもあなたは私を庇って…!」 小春「え、なに?」 幸「私を、庇って死んだって……。」 小春「……ふふ、あはははは!!勝手に殺さないでよー!私はいつも通り、ピンピンしてるじゃん!」 幸「え、じゃあ……なんで。」 小春「事故のショックで記憶を無くしたって聞いてたけど、思ったより元気そうでよかったー!」 幸「……でも、もみちゃんと那月がそんな嘘つくわけない。」 小春「あー、今日提出しないといけない課題あるの忘れてた!」 幸「待って、小春!!」 生徒1「幸ちゃん?どうしたの急に大きな声出して?」 幸「小春はっ……!?あれ…?」 生徒2「ちょっと、そっとしておきなよ。ごめんね、幸ちゃん。」 生徒2「幸ちゃん、小春ちゃんと仲良かったじゃん。」 生徒1「うん……辛かっただろうね、可哀想に……。」 幸「いま、確かに小春と喋ってたのに、小春は…みんなには見えてないってこと?こんな、小説みたいなことって……!」 放課後。 小春「ゆーきっ。」 幸「こ、小春。」 小春「ねぇねぇ、この後空いてる?一緒にさ、クレープ食べに行かない?」 幸「く、クレープ?」 小春「そ。駅前にさ、新しく可愛いお店できたじゃん。ずっと行ってみたかったんだよねぇ〜。」 幸「小春、そんな呑気なこと言ってていいの?あなたはもう……。いや、ここで小春に本当のことを教えちゃっていいの…?ショックでもう1回死んじゃったりしないかな…?何より……。」 周りの人からの視線、ヒソヒソ声が突き刺さる 幸「小春っ、ひとまず出るよ!!」 小春「え!?待ってよ幸っ!」 オカ研の会室に逃げ込む2人 … 幸「はぁ、はぁ…。絶対ヤバいやつだと思われた…!」 廊下から話し声が近づいてくると、部屋の扉が開き、紅葉と那月が入ってくる。 那月「ちょっともみさん、なんで着いてくるんすか?あ、もしかして!ついに我がオカルト研究会に入会してくれるんすか??」 紅葉「あーちゃうちゃう。うちそういうの興味無いから。ふつーにうちは居心地が悪いからなぁ。壇家(だんけ)さんがいっつもおって敵わんわ。」 那月「そろそろ部屋代請求しようかな…。」 紅葉「硬いこといいなや〜!ウチとあんたの仲やろ…?」 那月「えぇ~~……。」 小春「あはは。相変わらずの夫婦漫才だね〜。」 那月「あ、幸さん!もー、いるんならもっとアピールしてくださいよ〜。てか、不法侵入!!」 幸「ご、ごめんね。ここくらいしか逃げ場が思いつかなくて…。」 紅葉「かまへんかまへん、どーせ那月以外誰もこぉへんのやから、ゆっくりしていき。」 那月「ひどい!もみさんの部屋じゃないっすよここは!!」 紅葉「ほんで幸、逃げ場って、あんた何かに追われとんの?」 幸「あ、そうだった……、あのね、信じて貰えないと思うけど、小春がいたの。」 紅葉・那月「……はぁ??」 幸「教室に入ったら、後ろから声をかけてきて…放課後は、クレープ食べに行こって…今も、私の隣で1人でジャンケンしてる!」 会話に入れず、拗ねたように1人でジャンケンする小春。 那月「うそ!?ってことは……幽霊!?やっぱり実在したんすね!!信じてきてよかった!生きててよかった!神様ありがとう!」 幸「ねぇ、もみちゃんなら見えたりしないの?お寺の人だし……。」 紅葉「幸…悪いけど、うちにはなーんも見えへん。」 那月「あ、僕もっす。良ければコツとか教えてくれません?」 幸「嘘…本当に、私以外に見えてないの?」 小春「幸〜!二人共無視してくるよぉ…。ひどい…。」 紅葉「……小春。そこにおるんか?」 小春「うん。いるよ。」 紅葉「なんや、幽霊と話したことなんかあらへんし、気の利いた世間話なんか出来へんさかい、単刀直入に言うで。」 那月「え、ちょっともみさん。本当のこと小春さんに言っちゃうんすか!?」 紅葉「いつか言うことになるんや、今言うてもええやろ。それに…自覚してもらわんと、話が進まへんからな。」 小春「なになに?みんな深刻そうな顔しちゃって。…私なんかやらかしちゃった?」 幸「小春……。」 紅葉「小春、落ち着いて聞きや。あんたはもう、この世の人間やない。」 幸「…あなたは、私を庇って車に轢かれたんだって。そしてそのまま…。」 小春「嘘…。」 紅葉「可哀想に。この世から離れんのは寂しいか?……寂しいやろなぁ。安心し。うちら全員であんたを見送ったるから。」 小春「紅葉ちゃん…。そうだったんだ。ごめんね、みんな、迷惑かけちゃって。決めた。私、成仏する…!」 幸「え、成仏するってそんな急に!?」 紅葉「幸、呼び止めたらあかん!小春のこと思っとるんなら、引き止めたらんといて!」 那月「おぉ~!!もみさん除霊とかできるんすかっ!!これはいい絵が見られる…!」 紅葉「もにょもにょもにょ………はぁー!!」 小春「う、うわぁぁぁぁぁ~」 光と音であたりが包まれた……ような気がする。 紅葉「ど、どや!?幸!」 幸「……いるね。」 那月「えええええ!?今の絶対成功する流れだったじゃないすか~!!」 紅葉「……こほん。坊さんの娘やからってそんな簡単に除霊出来たら、お寺ぜーんぶ潰れてまうわ。」 那月「理不尽…!」 幸「小春、なんともないの?」 小春「うん、見てのとおりピンピンしてるよ~。」 紅葉「しかしまぁ、お経唱えて成仏せんってことは、これは中々めんどくさい幽霊やな。」 小春「え~めんどくさいって何よ〜。」 那月「あの〜、小春さん。聞こえてますか~?」 小春「聞こえてるよぉ。」 幸「聞こえてるって。」 那月「すごい不謹慎なのは承知の上で……お願いです!!幽霊になってみてどんな感じか、教えて貰えませんか!?」 紅葉「コラ那月ィ!興味に走るなぁ!」 那月「ここで引いたらオカルト好きとしてのプライドが許さないっす!!」 小春「いいよぉ。」 幸「い、良いって!」 紅葉「ええんかい!なんなん小春は…もっとなんか、ショックとかないんか?」 小春「ふふふ。そうだなぁ…。どんな感じって言われてもなぁ。」 幸「あんまりわからないみたい。」 那月「じゃあじゃあ、あの世の景色とか覚えてませんか!?」 小春「うーん…。」 幸「お、覚えてなさそう。」 那月「はぁ~…やっぱダメっすか~…。何すかね。記憶消されちゃう感じすか??」 小春「あ!でも一つだけわかることがある。」 幸「な、何がわかるの!?」 那月「おぉ~!?」 紅葉「なんや!?」 小春「痛い。」 幸「……え?痛いって…。」 小春「なんかさ、身体中が痛いんだよね。骨が折れて、皮膚が擦れて、血が流れて…。1人ぼっちで、寂しくて、心も痛い。」 幸「え……、」 那月「幸さんっ!小春さんはなんて言ってるんですか!?」 小春「酷いね、なんでだろうね。私は死んじゃったのに、みんなは生きてる。どうして?」 幸「こ、はる…?」 小春「ねぇなんで?幸。なんであなたは生きてるの?」 紅葉「幸…?」 那月「幸さん…!」 幸「わた、しは、」 紅葉「幸!!」 幸「はっ…!」 那月「幸さん!大丈夫ですか!?酷い顔色っすよ…!?」 幸「なんで小春だったんだろう……。」 紅葉「はぁ!?」 幸「私…小春が死んでまで生きるべき人間なの…?私に、そんな価値があるの?私は、私が。」 紅葉「ゆ、幸、急にどうしたんや……!?そんなこと、絶対に言ったらあかんやろ!!」 幸「だって、本来なら私が勝手に車に轢かれてたはずなのに、私が、死ぬはずだったのに、」 那月「幸さん……。」 幸「だから小春も私を恨んでるんだ、本当は私の代わりに死にたくなんてなかったって……!」 那月「小春さんがそんなこと言うわけない…!幸さんが一番よくわかってるはずっす!小春さんが優しくて正義感のある人なのは、幸さんがいちばんよく知ってるはずでしょう!?」 幸「……知らない、わかんないよ……小春とのこと、何も覚えてないのに……。」 紅葉「……幸。ごめんな、病み上がりやのに。……今日はもう解散にしよ。家まで送るわ。」 那月「俺も、着いていきます。」 雪を家まで送り届けた帰り道。 那月「もみさんすんません…。俺、ゆきさんの気持ちも考えずに、自分の興味に突っ走っちゃって…。」 紅葉「アホ。ウチに謝ってどないすんねん。それに……早い段階で止めんかったウチもアホやった。生てる人間があの世の人間と関わってええことない。1番ようわかってたはずやのに…。」 那月「……寂しいのは、幸さんだけじゃないっすから。」 紅葉「……せやね。やけど、ずっとこのままっちゅー訳にもいかん。」 那月「なにか案はあるんすか?」 紅葉「あるっちゃある。私としては限り無く避けたいけど、今はそんなことも言ってられへん状況やしな。」 那月「限り無く避けたいって…どんな案っすか?」 紅葉「まぁ、あんただけに言うても意味ないしな。また明日、みんな集まった時に言うわ。」 幸の自室。 幸「……。小春、いるんでしょ?」 小春「…何?」 幸「あなたは…私を恨んでるの?」 小春「どうだろうね。」 幸「なんで、私の前に現れたの?」 小春「う〜ん、復讐?みたいな。」 幸「……私、事故に合う前の記憶を無くしてるの。」 小春「ふーん。それは…可哀想に?」 幸「私とあなたは友達だったんでしょ?その時の事を教えて欲しい。あと、どうして私を生かしたのかも。」 幸「……小春?お、おーい。…いなくなっちゃった。」 翌日、オカルト研究会室にて。 那月「えーと、確かこの辺に…あ、あった!!『心霊解説シリーズ〜あの世と繋がった者たち〜』!!幸さんのためにも、改めて心霊のことについて調べまくるっす!!」 紅葉「邪魔すんで〜。」 那月「ヴァッ!!」 紅葉「なんや那月、潰れた猿みたいな声出して。」 那月「ドアはもうちょい優しく開けてくれませんかねぇ…!あ、幸さんも一緒なんすね、おはざーす!!」 紅葉「あんた、幸にはえらいデレデレしてんなぁ……。」 幸「もみちゃんに、話があるって急に連れてかれたの…。」 紅葉「そうそう。急かして悪いけど、早速本題に入りたいからそこ座り。那月も、お茶はええから座り。」 那月「うちに茶なんてないっすよ…。」 幸「話って、やっぱり小春のこと、だよね。」 紅葉「そうや。うち色々考えてんけど、やっぱり、ちゃんと小春から話を聞かなあかんと思う。小春も、なんかしらの未練があってこの世に残っとるはずや。」 幸「……昨日色々聞いたの。けど、なんで私を生かしたのかと、事故に遭う前のことは何も話してくれなくて、手がかりになるようなことは…。」 紅葉「うちと面と向かって話してもらう。お祓いはでけへんかったけど、降霊ならちゃんとした道具があればうちでもできる。」 幸「こ、降霊…。」 那月「昨日言ってた限り無く避けたいってのは…。」 紅葉「バレたら、親父のゲンコツが飛んでくるやろなぁ。」 那月「おぉ…もみさんのお父さんすっごい怖いのに、リスクを承知で単身飛び込むとは…。」 幸「そ、そんな…悪いよ。私なんかのために…。」 紅葉「水臭いこと言わんで。それに、これはあんただけの為やない。小春のためでもあるんや。」 幸「小春の…ため。……わかった、お願い。」 紅葉「ほな、やろか。」 那月「えぇっ、今っすか!?」 紅葉「思い立ったが吉日。」 幸「でも、道具は?」 紅葉「親父の借りてきた。勿論、許可とってないけどな。」 那月「罪状増やしてどうするんすか!!」 紅葉「はいはい、ご退場〜。二人でジュースでも飲んでき。」 那月「あ〜っ!俺の部屋なのに〜!!」 幸「もみちゃんっ!!……気をつけてね?」 紅葉「……任しとき。」 紅葉「さてと…。カッコつけたからには、ちゃんとせなな。」 暗い会室の中、蝋燭に火が灯る。 紅葉「…小春さん小春さん、この灯りでいらっしゃい。」 小春「……久しぶり、紅葉。」 紅葉「小春……やな?」 小春「そうだよ。」 紅葉「……小春、あんたを呼び出したのは…。」 小春「大丈夫、知ってるよ。全部上から見てるから。」 紅葉「う、上から…?あんたは、ずっとうちらと一緒に居ったんちゃうんか?」 小春「えぇっ、酷いな~、私そんな嫌なこと言うような奴だと思ってたの?友達の見分けもつかないなんて。」 紅葉「……幸にだけ見えとるんや。うちらにあんたは見えてへん。」 小春「あ、そっか。じゃあ、気づかないのにも無理ないね~。」 紅葉「なぁ小春…!あんたなんか知っとるんやろ?うちらには何が起きてんのかさっぱりや、幸を苦しめてるあの霊は…!」 小春「(耳打ち)」 紅葉「……!」 小春「紅葉。幸はきっと気づいてるよ。ただ、本当のことを知るのには、多分すごい勇気が必要なんだよ。だから、紅葉や那月がそばにいてあげて。私には出来ないことだけど、二人にはできるから。」 紅葉「待って!小春!」 小春「……待ってるからね。」 自動販売機の前、ジュースを飲みながら話す那月と幸。 幸「もみちゃん、大丈夫かな…。」 那月「大丈夫っすよ!もみさんの事だから、なんかあったら拳で一発っす!」 幸「また怒られるよ…?」 那月「それに、幽霊と言っても小春さんは小春さんのままなはず。あんなに優しかった人が、俺らに危害を加えるなんて、考えられないっす!!」 幸「あ、もみちゃん…!」 那月「成功したんすか!?小春さんはなんて…!」 紅葉「……小春が、なんで今まで事件の真相を話してくれへんかったか、合点がいったわ。……幸、あんた、まだあの霊を小春やと思ってる?」 幸「何言ってるの…?確かに姿も形も、写真で見た小春のままなんだよ?」 紅葉「やとしたら、あんたは勘違いしとる。アレは小春やない。あんたや。」 幸「え、私……?どういうこと……?」 那月「何言ってんすか、勿体ぶらないでちゃんと話してくださいよ!」 紅葉「幸を苦しめてた小春は…あんた自身の心。言うてしまえば幻覚ってところや。」 幸「幻覚……!?私が見てた小春は、私の妄想だったってこと……?」 紅葉「……そもそも小春が見えへん時点で違和感はあった。ただの人間だった小春の地縛霊が、那月はともかく、私に見えへんのは考えにくい。」 幸「で、でも、もみちゃんにだって出来ないことはあるでしょ!?除霊だって失敗したし!!」 紅葉「そこもミソ。おらんもんに何やっても暖簾に腕押しや。」 幸「そ、そんな…幻覚だなんて、それだけの証拠で、小春なんかいなかったんだって言われても、信じられないよ…!」 那月「でも、俺たちは幸さんからの伝言でしか小春さんの存在を認識できないから、小春さんがそこにいるという証拠もまた、無い……。」 幸「じゃあ、今までのは全部、私がおかしくなってたせいで起こったってこと!?」 那月「そんな風に言う必要ないっす。幸さんの気持ちがわかるなんて簡単には言えないけど、小春さんのことで辛かったのは俺も、もみさんも一緒っすから。だから、多分この問題は幸さんが小春さんとどう向き合うか次第っすよ。」 幸「私が…小春とどう向き合うか……?」 紅葉「……小春は、待ってるから、ってうちに言い残して消えてった。あんたなら、小春の居場所が分かるはずや。だって幸は小春のーー幼なじみやろ?」 幸「……!私と小春は、幼なじみだったんだね。」 那月「そうっすよ!それも忘れてたんすか!?」 幸「……そうだ、信じられないんじゃない。これは私のエゴだ。自分で自分を苦しめて、勝手に償ってる気になって…!本当の小春のこと、何も知ろうとしてなかった!!……もみちゃん、那月、ありがとう。」 那月「幸さんっ!?どこ行くんすかっ!?」 紅葉「那月、やめとき。」 那月「でもっ、幸さんに何かあったら…!」 紅葉「きっと、大丈夫や。もううちらが出しゃばらんでも、幸は決着をつけてくる。」 那月「そう、すか。……俺も、信じるっすよ、幸さん。」 幸「はぁっ、はぁっ、ここだ……!桜は……さすがに枯れてるけど。」 小春「遅いよ、幸。」 幸「こはるっ……!小春、聴いて…私、小春がいなくなっちゃったのを信じたくなくて…!小春が今までくれたもの、楽しかった思い出も、全部無かったことにしてたんだ……!!」 小春「……ここは、私が小春と一緒にタイムカプセルを埋めた場所。小学生の時だったね。2人で10年後の私たちに送って、10年後に2人で答え併せしようって。」 幸「私は本屋さんになりたいって書いた。それと、小春とずっと一緒にいられますようにって……。」 小春「あ、まだ10年経ってないのに言っちゃった。……そうだね、二人で、この桜の樹にお願いした。暖かい春の日だったから、桜が満開だったよねぇ。」 幸「こはるっ……!ここにいるんでしょ!?お願い、会いに来てよ……!どうして私を助けたのか、教えてよ……!!」 小春「……」 幸「……答えてくれるわけないか。」 小春「ごめんね。」 枯れた桜の前で顔を上げる。 幸「……私、あなたの分まで精一杯生きるから。そして、どうしてあなたが私を生かしたのか考え続ける。」 小春「あはは…すっごい呪いかけちゃったぁ……幸、いつまでも待ってるからね。いつかの春にまた、会いに来てね。来てくれて、助けてくれて、私と友達でいてくれて。ありがとう。」 (5年後) 那月「あ、幸さーーん!!こっちこっち!」 紅葉「言い出しっぺが遅れてくるなんて、どういう了見やほんまぁ~!」 幸「ごめんごめん!道迷っちゃって……! 」 那月「まぁまぁ、時間には間に合ってますし!行きましょ!」 幸「2人とも忙しいのにわざわざありがとうね。私の就職祝いだなんて…。」 那月「ほんとそうっすよ~~。毎日毎日卒論とにらめっこで!やんなっちゃうっす!」 紅葉「幸は、本屋やんな。いつからなん?うち、遊び行こかな~。」 幸「明日からだよ。」 那月「あれ、もみさん、本読むの嫌いじゃなかったっすか?」 紅葉「あ~~……なんかオススメ用意しといてや。司書さん。」 幸「あはは。あ、着いたよ。」 紅葉「お〜、これはまた桜が満開で。」 那月「こんな穴場よく見つけたっすね、幸さん。」 幸「確かこの辺に……。」 那月「えっ!?幸さん!?急に土を掘り出して、どうしちゃったんすか……!!」 幸「あ、あった…!!」 紅葉「あははははは!!!幸、顔にまで土付いとるやないの!なになに?何を見つけたん?」 幸「これはね、私と小春が昔埋めたタイムカプセル。あの日からちょうど10年経ったから、開けに来たの。」 那月「タイムカプセル……。俺たち着いてきてよかったんすか?」 幸「何言ってるの。小春の親友は私だけじゃないでしょ?……開けるよ。」 幸はタイムカプセルを開く。紅葉は紙を1枚手に取る。 紅葉「幸、本屋さんになりたいって、10年前の願いが叶ったんやな。」 幸「うん、そうだね。……あった、これが小春の願い。」 紅葉「お、なんて書いてあるん?」 幸「……なんだ、私と同じじゃん……。」 那月「俺にも見せてください!」 幸「死体を掘り起こすなんて、縁起悪いことするもんじゃないね!」 那月「え、死体!?どういうことっすか幸さ……え!なんで!?なんで泣いてるんすか!?笑いながら!!」 小春(モノローグ)『幸と、ずっと親友でいられますように。』

幸(ゆき)高二 小春(こはる)高二 紅葉(もみじ)高二 那月(なつき)高一 幸「桜の樹の下には屍体が埋まっている…か。」 那月「お?なになに、幸さんもついにこっち側に足を踏み入れる感じっすか!?」 幸「うわっ!って那月かぁ…あれ、今日って面会の日だったっけ。」 那月「事前に連絡入れましたよ!んでんで、幸さんも、明日からオカルト研究会に入会しちゃう感じっすか!?」 幸「あ、いや…そんなんじゃなくって…。今読んでる本に書いてあっただけだよ。」 那月「ちぇーつまんないの。ほんっとに幸さんは本の虫っすねぇ。」 紅葉「お邪魔します!コラ那月ぃ!勝手に先先いくな言うたやろ!」 幸「あ…もみちゃん。」 那月「ひぃー!ごめんってもみさん!!ほっぺつねらないで!!!」 紅葉「ったく。幸ごめんな?騒がしくして。」 幸「あはは…」 紅葉「ほんで、明日から復帰やな。おめでとう」 幸「あ、ありがとう。これって…栞?」 那月「そうそう!俺ともみさんで作った桜の押し花の栞。本の虫の幸さんにはぴったりでしょ?」 幸「うん、嬉しい。」 那月「ちなみに、桜はあの世と深い関係があるとかないとか…あでっ!?」 紅葉「縁起でもないこと言わんでええっ!!こほん。ほんで幸、調子の方はどうなん?」 幸「あぁ、うん。ずっと寝たきりだったから体力は落ちてるけど、それ以外はもう大丈夫だよ。でも…。」 紅葉「そっか…まだ戻らんのやね、記憶。」 那月「小春さんのことだけすっぽり忘れるなんて、そんな限定的な記憶喪失ってあるもんなんすね。」 幸「心因性の記憶喪失だから、すぐには治らないかもって。実感はないんだけど、心に穴が空くって、こういうことなのかなって感じ。」 紅葉「……まぁ、記憶はこれからゆっくり取り戻していけばええ。うちらもできることなんでも協力するさかい、あんま思い悩まんとき。」 幸「うん、ありがとう、二人とも。」 那月「じゃあまた明日学校で!!」 紅葉「ほなね〜。」 幸「小春、小春ちゃん?うーん…やっぱり、しっくり来ないなぁ。」 翌日、退院して初めての登校 生徒1「幸ちゃん……!退院おめでとう、大丈夫?」 幸「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫。」 生徒1「そっか……なんか、困ったことあったらいつでも頼ってよ。」 幸「うん、ありがとう。」 小春「おはよぉー。」 幸「え……?」 そこに現れたのは、もみちゃん達に見せてもらった写真の中の人……小春、という私の友達だったはずの人だった。 小春「えーなんでそんな面食らってんの?うける。」 幸「え、なんで、あなたがここにいるの……?」 小春「なに、私がここにいちゃまずい?」 幸「ゆ、幽霊……!!!」 小春「変な冗談やめてよー!私、小春だよ?」 幸「小春!?小春ってあの…!で、でもあなたは私を庇って…!」 小春「え、なに?」 幸「私を、庇って死んだって……。」 小春「……ふふ、あはははは!!勝手に殺さないでよー!私はいつも通り、ピンピンしてるじゃん!」 幸「え、じゃあ……なんで。」 小春「事故のショックで記憶を無くしたって聞いてたけど、思ったより元気そうでよかったー!」 幸「……でも、もみちゃんと那月がそんな嘘つくわけない。」 小春「あー、今日提出しないといけない課題あるの忘れてた!」 幸「待って、小春!!」 生徒1「幸ちゃん?どうしたの急に大きな声出して?」 幸「小春はっ……!?あれ…?」 生徒2「ちょっと、そっとしておきなよ。ごめんね、幸ちゃん。」 生徒2「幸ちゃん、小春ちゃんと仲良かったじゃん。」 生徒1「うん……辛かっただろうね、可哀想に……。」 幸「いま、確かに小春と喋ってたのに、小春は…みんなには見えてないってこと?こんな、小説みたいなことって……!」 放課後。 小春「ゆーきっ。」 幸「こ、小春。」 小春「ねぇねぇ、この後空いてる?一緒にさ、クレープ食べに行かない?」 幸「く、クレープ?」 小春「そ。駅前にさ、新しく可愛いお店できたじゃん。ずっと行ってみたかったんだよねぇ〜。」 幸「小春、そんな呑気なこと言ってていいの?あなたはもう……。いや、ここで小春に本当のことを教えちゃっていいの…?ショックでもう1回死んじゃったりしないかな…?何より……。」 周りの人からの視線、ヒソヒソ声が突き刺さる 幸「小春っ、ひとまず出るよ!!」 小春「え!?待ってよ幸っ!」 オカ研の会室に逃げ込む2人 … 幸「はぁ、はぁ…。絶対ヤバいやつだと思われた…!」 廊下から話し声が近づいてくると、部屋の扉が開き、紅葉と那月が入ってくる。 那月「ちょっともみさん、なんで着いてくるんすか?あ、もしかして!ついに我がオカルト研究会に入会してくれるんすか??」 紅葉「あーちゃうちゃう。うちそういうの興味無いから。ふつーにうちは居心地が悪いからなぁ。壇家(だんけ)さんがいっつもおって敵わんわ。」 那月「そろそろ部屋代請求しようかな…。」 紅葉「硬いこといいなや〜!ウチとあんたの仲やろ…?」 那月「えぇ~~……。」 小春「あはは。相変わらずの夫婦漫才だね〜。」 那月「あ、幸さん!もー、いるんならもっとアピールしてくださいよ〜。てか、不法侵入!!」 幸「ご、ごめんね。ここくらいしか逃げ場が思いつかなくて…。」 紅葉「かまへんかまへん、どーせ那月以外誰もこぉへんのやから、ゆっくりしていき。」 那月「ひどい!もみさんの部屋じゃないっすよここは!!」 紅葉「ほんで幸、逃げ場って、あんた何かに追われとんの?」 幸「あ、そうだった……、あのね、信じて貰えないと思うけど、小春がいたの。」 紅葉・那月「……はぁ??」 幸「教室に入ったら、後ろから声をかけてきて…放課後は、クレープ食べに行こって…今も、私の隣で1人でジャンケンしてる!」 会話に入れず、拗ねたように1人でジャンケンする小春。 那月「うそ!?ってことは……幽霊!?やっぱり実在したんすね!!信じてきてよかった!生きててよかった!神様ありがとう!」 幸「ねぇ、もみちゃんなら見えたりしないの?お寺の人だし……。」 紅葉「幸…悪いけど、うちにはなーんも見えへん。」 那月「あ、僕もっす。良ければコツとか教えてくれません?」 幸「嘘…本当に、私以外に見えてないの?」 小春「幸〜!二人共無視してくるよぉ…。ひどい…。」 紅葉「……小春。そこにおるんか?」 小春「うん。いるよ。」 紅葉「なんや、幽霊と話したことなんかあらへんし、気の利いた世間話なんか出来へんさかい、単刀直入に言うで。」 那月「え、ちょっともみさん。本当のこと小春さんに言っちゃうんすか!?」 紅葉「いつか言うことになるんや、今言うてもええやろ。それに…自覚してもらわんと、話が進まへんからな。」 小春「なになに?みんな深刻そうな顔しちゃって。…私なんかやらかしちゃった?」 幸「小春……。」 紅葉「小春、落ち着いて聞きや。あんたはもう、この世の人間やない。」 幸「…あなたは、私を庇って車に轢かれたんだって。そしてそのまま…。」 小春「嘘…。」 紅葉「可哀想に。この世から離れんのは寂しいか?……寂しいやろなぁ。安心し。うちら全員であんたを見送ったるから。」 小春「紅葉ちゃん…。そうだったんだ。ごめんね、みんな、迷惑かけちゃって。決めた。私、成仏する…!」 幸「え、成仏するってそんな急に!?」 紅葉「幸、呼び止めたらあかん!小春のこと思っとるんなら、引き止めたらんといて!」 那月「おぉ~!!もみさん除霊とかできるんすかっ!!これはいい絵が見られる…!」 紅葉「もにょもにょもにょ………はぁー!!」 小春「う、うわぁぁぁぁぁ~」 光と音であたりが包まれた……ような気がする。 紅葉「ど、どや!?幸!」 幸「……いるね。」 那月「えええええ!?今の絶対成功する流れだったじゃないすか~!!」 紅葉「……こほん。坊さんの娘やからってそんな簡単に除霊出来たら、お寺ぜーんぶ潰れてまうわ。」 那月「理不尽…!」 幸「小春、なんともないの?」 小春「うん、見てのとおりピンピンしてるよ~。」 紅葉「しかしまぁ、お経唱えて成仏せんってことは、これは中々めんどくさい幽霊やな。」 小春「え~めんどくさいって何よ〜。」 那月「あの〜、小春さん。聞こえてますか~?」 小春「聞こえてるよぉ。」 幸「聞こえてるって。」 那月「すごい不謹慎なのは承知の上で……お願いです!!幽霊になってみてどんな感じか、教えて貰えませんか!?」 紅葉「コラ那月ィ!興味に走るなぁ!」 那月「ここで引いたらオカルト好きとしてのプライドが許さないっす!!」 小春「いいよぉ。」 幸「い、良いって!」 紅葉「ええんかい!なんなん小春は…もっとなんか、ショックとかないんか?」 小春「ふふふ。そうだなぁ…。どんな感じって言われてもなぁ。」 幸「あんまりわからないみたい。」 那月「じゃあじゃあ、あの世の景色とか覚えてませんか!?」 小春「うーん…。」 幸「お、覚えてなさそう。」 那月「はぁ~…やっぱダメっすか~…。何すかね。記憶消されちゃう感じすか??」 小春「あ!でも一つだけわかることがある。」 幸「な、何がわかるの!?」 那月「おぉ~!?」 紅葉「なんや!?」 小春「痛い。」 幸「……え?痛いって…。」 小春「なんかさ、身体中が痛いんだよね。骨が折れて、皮膚が擦れて、血が流れて…。1人ぼっちで、寂しくて、心も痛い。」 幸「え……、」 那月「幸さんっ!小春さんはなんて言ってるんですか!?」 小春「酷いね、なんでだろうね。私は死んじゃったのに、みんなは生きてる。どうして?」 幸「こ、はる…?」 小春「ねぇなんで?幸。なんであなたは生きてるの?」 紅葉「幸…?」 那月「幸さん…!」 幸「わた、しは、」 紅葉「幸!!」 幸「はっ…!」 那月「幸さん!大丈夫ですか!?酷い顔色っすよ…!?」 幸「なんで小春だったんだろう……。」 紅葉「はぁ!?」 幸「私…小春が死んでまで生きるべき人間なの…?私に、そんな価値があるの?私は、私が。」 紅葉「ゆ、幸、急にどうしたんや……!?そんなこと、絶対に言ったらあかんやろ!!」 幸「だって、本来なら私が勝手に車に轢かれてたはずなのに、私が、死ぬはずだったのに、」 那月「幸さん……。」 幸「だから小春も私を恨んでるんだ、本当は私の代わりに死にたくなんてなかったって……!」 那月「小春さんがそんなこと言うわけない…!幸さんが一番よくわかってるはずっす!小春さんが優しくて正義感のある人なのは、幸さんがいちばんよく知ってるはずでしょう!?」 幸「……知らない、わかんないよ……小春とのこと、何も覚えてないのに……。」 紅葉「……幸。ごめんな、病み上がりやのに。……今日はもう解散にしよ。家まで送るわ。」 那月「俺も、着いていきます。」 雪を家まで送り届けた帰り道。 那月「もみさんすんません…。俺、ゆきさんの気持ちも考えずに、自分の興味に突っ走っちゃって…。」 紅葉「アホ。ウチに謝ってどないすんねん。それに……早い段階で止めんかったウチもアホやった。生てる人間があの世の人間と関わってええことない。1番ようわかってたはずやのに…。」 那月「……寂しいのは、幸さんだけじゃないっすから。」 紅葉「……せやね。やけど、ずっとこのままっちゅー訳にもいかん。」 那月「なにか案はあるんすか?」 紅葉「あるっちゃある。私としては限り無く避けたいけど、今はそんなことも言ってられへん状況やしな。」 那月「限り無く避けたいって…どんな案っすか?」 紅葉「まぁ、あんただけに言うても意味ないしな。また明日、みんな集まった時に言うわ。」 幸の自室。 幸「……。小春、いるんでしょ?」 小春「…何?」 幸「あなたは…私を恨んでるの?」 小春「どうだろうね。」 幸「なんで、私の前に現れたの?」 小春「う〜ん、復讐?みたいな。」 幸「……私、事故に合う前の記憶を無くしてるの。」 小春「ふーん。それは…可哀想に?」 幸「私とあなたは友達だったんでしょ?その時の事を教えて欲しい。あと、どうして私を生かしたのかも。」 幸「……小春?お、おーい。…いなくなっちゃった。」 翌日、オカルト研究会室にて。 那月「えーと、確かこの辺に…あ、あった!!『心霊解説シリーズ〜あの世と繋がった者たち〜』!!幸さんのためにも、改めて心霊のことについて調べまくるっす!!」 紅葉「邪魔すんで〜。」 那月「ヴァッ!!」 紅葉「なんや那月、潰れた猿みたいな声出して。」 那月「ドアはもうちょい優しく開けてくれませんかねぇ…!あ、幸さんも一緒なんすね、おはざーす!!」 紅葉「あんた、幸にはえらいデレデレしてんなぁ……。」 幸「もみちゃんに、話があるって急に連れてかれたの…。」 紅葉「そうそう。急かして悪いけど、早速本題に入りたいからそこ座り。那月も、お茶はええから座り。」 那月「うちに茶なんてないっすよ…。」 幸「話って、やっぱり小春のこと、だよね。」 紅葉「そうや。うち色々考えてんけど、やっぱり、ちゃんと小春から話を聞かなあかんと思う。小春も、なんかしらの未練があってこの世に残っとるはずや。」 幸「……昨日色々聞いたの。けど、なんで私を生かしたのかと、事故に遭う前のことは何も話してくれなくて、手がかりになるようなことは…。」 紅葉「うちと面と向かって話してもらう。お祓いはでけへんかったけど、降霊ならちゃんとした道具があればうちでもできる。」 幸「こ、降霊…。」 那月「昨日言ってた限り無く避けたいってのは…。」 紅葉「バレたら、親父のゲンコツが飛んでくるやろなぁ。」 那月「おぉ…もみさんのお父さんすっごい怖いのに、リスクを承知で単身飛び込むとは…。」 幸「そ、そんな…悪いよ。私なんかのために…。」 紅葉「水臭いこと言わんで。それに、これはあんただけの為やない。小春のためでもあるんや。」 幸「小春の…ため。……わかった、お願い。」 紅葉「ほな、やろか。」 那月「えぇっ、今っすか!?」 紅葉「思い立ったが吉日。」 幸「でも、道具は?」 紅葉「親父の借りてきた。勿論、許可とってないけどな。」 那月「罪状増やしてどうするんすか!!」 紅葉「はいはい、ご退場〜。二人でジュースでも飲んでき。」 那月「あ〜っ!俺の部屋なのに〜!!」 幸「もみちゃんっ!!……気をつけてね?」 紅葉「……任しとき。」 紅葉「さてと…。カッコつけたからには、ちゃんとせなな。」 暗い会室の中、蝋燭に火が灯る。 紅葉「…小春さん小春さん、この灯りでいらっしゃい。」 小春「……久しぶり、紅葉。」 紅葉「小春……やな?」 小春「そうだよ。」 紅葉「……小春、あんたを呼び出したのは…。」 小春「大丈夫、知ってるよ。全部上から見てるから。」 紅葉「う、上から…?あんたは、ずっとうちらと一緒に居ったんちゃうんか?」 小春「えぇっ、酷いな~、私そんな嫌なこと言うような奴だと思ってたの?友達の見分けもつかないなんて。」 紅葉「……幸にだけ見えとるんや。うちらにあんたは見えてへん。」 小春「あ、そっか。じゃあ、気づかないのにも無理ないね~。」 紅葉「なぁ小春…!あんたなんか知っとるんやろ?うちらには何が起きてんのかさっぱりや、幸を苦しめてるあの霊は…!」 小春「(耳打ち)」 紅葉「……!」 小春「紅葉。幸はきっと気づいてるよ。ただ、本当のことを知るのには、多分すごい勇気が必要なんだよ。だから、紅葉や那月がそばにいてあげて。私には出来ないことだけど、二人にはできるから。」 紅葉「待って!小春!」 小春「……待ってるからね。」 自動販売機の前、ジュースを飲みながら話す那月と幸。 幸「もみちゃん、大丈夫かな…。」 那月「大丈夫っすよ!もみさんの事だから、なんかあったら拳で一発っす!」 幸「また怒られるよ…?」 那月「それに、幽霊と言っても小春さんは小春さんのままなはず。あんなに優しかった人が、俺らに危害を加えるなんて、考えられないっす!!」 幸「あ、もみちゃん…!」 那月「成功したんすか!?小春さんはなんて…!」 紅葉「……小春が、なんで今まで事件の真相を話してくれへんかったか、合点がいったわ。……幸、あんた、まだあの霊を小春やと思ってる?」 幸「何言ってるの…?確かに姿も形も、写真で見た小春のままなんだよ?」 紅葉「やとしたら、あんたは勘違いしとる。アレは小春やない。あんたや。」 幸「え、私……?どういうこと……?」 那月「何言ってんすか、勿体ぶらないでちゃんと話してくださいよ!」 紅葉「幸を苦しめてた小春は…あんた自身の心。言うてしまえば幻覚ってところや。」 幸「幻覚……!?私が見てた小春は、私の妄想だったってこと……?」 紅葉「……そもそも小春が見えへん時点で違和感はあった。ただの人間だった小春の地縛霊が、那月はともかく、私に見えへんのは考えにくい。」 幸「で、でも、もみちゃんにだって出来ないことはあるでしょ!?除霊だって失敗したし!!」 紅葉「そこもミソ。おらんもんに何やっても暖簾に腕押しや。」 幸「そ、そんな…幻覚だなんて、それだけの証拠で、小春なんかいなかったんだって言われても、信じられないよ…!」 那月「でも、俺たちは幸さんからの伝言でしか小春さんの存在を認識できないから、小春さんがそこにいるという証拠もまた、無い……。」 幸「じゃあ、今までのは全部、私がおかしくなってたせいで起こったってこと!?」 那月「そんな風に言う必要ないっす。幸さんの気持ちがわかるなんて簡単には言えないけど、小春さんのことで辛かったのは俺も、もみさんも一緒っすから。だから、多分この問題は幸さんが小春さんとどう向き合うか次第っすよ。」 幸「私が…小春とどう向き合うか……?」 紅葉「……小春は、待ってるから、ってうちに言い残して消えてった。あんたなら、小春の居場所が分かるはずや。だって幸は小春のーー幼なじみやろ?」 幸「……!私と小春は、幼なじみだったんだね。」 那月「そうっすよ!それも忘れてたんすか!?」 幸「……そうだ、信じられないんじゃない。これは私のエゴだ。自分で自分を苦しめて、勝手に償ってる気になって…!本当の小春のこと、何も知ろうとしてなかった!!……もみちゃん、那月、ありがとう。」 那月「幸さんっ!?どこ行くんすかっ!?」 紅葉「那月、やめとき。」 那月「でもっ、幸さんに何かあったら…!」 紅葉「きっと、大丈夫や。もううちらが出しゃばらんでも、幸は決着をつけてくる。」 那月「そう、すか。……俺も、信じるっすよ、幸さん。」 幸「はぁっ、はぁっ、ここだ……!桜は……さすがに枯れてるけど。」 小春「遅いよ、幸。」 幸「こはるっ……!小春、聴いて…私、小春がいなくなっちゃったのを信じたくなくて…!小春が今までくれたもの、楽しかった思い出も、全部無かったことにしてたんだ……!!」 小春「……ここは、私が小春と一緒にタイムカプセルを埋めた場所。小学生の時だったね。2人で10年後の私たちに送って、10年後に2人で答え併せしようって。」 幸「私は本屋さんになりたいって書いた。それと、小春とずっと一緒にいられますようにって……。」 小春「あ、まだ10年経ってないのに言っちゃった。……そうだね、二人で、この桜の樹にお願いした。暖かい春の日だったから、桜が満開だったよねぇ。」 幸「こはるっ……!ここにいるんでしょ!?お願い、会いに来てよ……!どうして私を助けたのか、教えてよ……!!」 小春「……」 幸「……答えてくれるわけないか。」 小春「ごめんね。」 枯れた桜の前で顔を上げる。 幸「……私、あなたの分まで精一杯生きるから。そして、どうしてあなたが私を生かしたのか考え続ける。」 小春「あはは…すっごい呪いかけちゃったぁ……幸、いつまでも待ってるからね。いつかの春にまた、会いに来てね。来てくれて、助けてくれて、私と友達でいてくれて。ありがとう。」 (5年後) 那月「あ、幸さーーん!!こっちこっち!」 紅葉「言い出しっぺが遅れてくるなんて、どういう了見やほんまぁ~!」 幸「ごめんごめん!道迷っちゃって……! 」 那月「まぁまぁ、時間には間に合ってますし!行きましょ!」 幸「2人とも忙しいのにわざわざありがとうね。私の就職祝いだなんて…。」 那月「ほんとそうっすよ~~。毎日毎日卒論とにらめっこで!やんなっちゃうっす!」 紅葉「幸は、本屋やんな。いつからなん?うち、遊び行こかな~。」 幸「明日からだよ。」 那月「あれ、もみさん、本読むの嫌いじゃなかったっすか?」 紅葉「あ~~……なんかオススメ用意しといてや。司書さん。」 幸「あはは。あ、着いたよ。」 紅葉「お〜、これはまた桜が満開で。」 那月「こんな穴場よく見つけたっすね、幸さん。」 幸「確かこの辺に……。」 那月「えっ!?幸さん!?急に土を掘り出して、どうしちゃったんすか……!!」 幸「あ、あった…!!」 紅葉「あははははは!!!幸、顔にまで土付いとるやないの!なになに?何を見つけたん?」 幸「これはね、私と小春が昔埋めたタイムカプセル。あの日からちょうど10年経ったから、開けに来たの。」 那月「タイムカプセル……。俺たち着いてきてよかったんすか?」 幸「何言ってるの。小春の親友は私だけじゃないでしょ?……開けるよ。」 幸はタイムカプセルを開く。紅葉は紙を1枚手に取る。 紅葉「幸、本屋さんになりたいって、10年前の願いが叶ったんやな。」 幸「うん、そうだね。……あった、これが小春の願い。」 紅葉「お、なんて書いてあるん?」 幸「……なんだ、私と同じじゃん……。」 那月「俺にも見せてください!」 幸「死体を掘り起こすなんて、縁起悪いことするもんじゃないね!」 那月「え、死体!?どういうことっすか幸さ……え!なんで!?なんで泣いてるんすか!?笑いながら!!」 小春(モノローグ)『幸と、ずっと親友でいられますように。』