台本概要
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タイトル | 「うぃざーず/うぃっちーず」(合本版) |
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作者名 | なぎ@泣き虫保護者 (@fuyu_number10) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女3) ※兼役あり |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
拙作「うぃざーず/うぃっちーず」の合本版です。 幼いころに魔法に目覚めた姉弟。 両親の再婚で再開することになった二人。 姉の彗は魔法への憧れをしっかりと覚えていた。 そして、みずがめ座流星群の降る夜に、二人は・・・。 ※台本をご利用になる際は、Twitterにてぜひお報せくださいませ。 お伺いできる限り聴かせていただければと存じます。 なお、特に商用利用の場合において、著作権は放棄していません。無断での転載はお断りします。 162 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
彗 | 女 | 171 | 天野 彗(あまの すい)。姉弟の姉。幼いころに弟の昴とキスをして魔法に目覚める。炎魔法の能力持ちだけどほぼ使えません。 |
昴 | 男 | 156 | 天野 昴(あまの すばる)。姉弟の弟。幼いころに姉の彗にキスをされて魔法に目覚める。氷魔法の能力持ち。 |
橙花 | 女 | 79 | 宮泉 橙花(みやいずみ とうか)彗のクラスメイトで、昴とも面識アリ。反魔法集団に属している。バスケ部員と兼ね役。 |
男 | 男 | 36 | 謎の男。反魔法集団に属している。その正体は本編で。彗のクラスメイト・バスケ部監督を兼ね役。 |
彗の母 | 女 | 7 | 天野 恵(あまの けい)。姉弟の母。橙花役の方が兼ねてもOKです。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
彗:(N)離れ離れだった私たちは。
昴:(N)ある時、突然再会の時を迎えた。
彗:(N)両親と、私たち二人しか、知らないはずの秘密を抱えたまま。
昴:(N)運命は、転がっていく。
彗or昴:「うぃざーず/うぃっちーず」。
0:朝のキッチンにて。
彗:「(ふざけ気味に)おぉ~い!早くしろぉ~!」
0:彗、昴のお尻を蹴る
昴:「痛い!!!」
彗:「(呆れながら)アンタ何してんのよ!平たく焼いたら、菜箸(さいばし)でちょいちょいって畳むだけでしょ!?」
昴:「卵焼き無理だってー!スクランブルエッグで我慢してよ!ってか火を使ってるんだから暴れないでよ!危ないでしょ!」
彗:「(徐々にヒートアップ)嫌よ!アタシは卵焼きがいいの!甘くて!ふわっとろの!しっかりしろー!絶対やれるから!」
昴:「注文多いけど、これ難しいんだからね!」
彗:「あー!砂糖が焦げる!!」
昴:「ほら・・・彗が蹴るから・・・」
彗:「アタシのせいだっての?!理不尽だ!!」
昴:「理不尽なのは彗だからね!?」
彗:「いいから巻け!畳め!!」
昴:「待って、無理だってば!」
彗:「いいから早くぅ!!」
0:間。姉弟の食卓の上に、黒く焦げた部分が多いスクランブルエッグ。
昴:「・・・。」
彗:「・・・何でこうなった・・・?」
昴:「・・・だから言ったじゃん。いきなり卵焼きはムリって・・・。」
彗:「・・・何でアンタは最初っから無理無理言うかなぁ・・・できないならできないで練習しなさいよね。」
昴:「いや、だって・・・。」
彗:「ママがいつまでも作ってくれるとでも?!卵焼き一つ作れないんじゃ将来困るわよ!?」
昴:「じゃあ何が出来れば合格なのさ・・・。」
彗:「・・・(考え込んで)・・・NIKU JAGA?」
昴:「昭和・・・ってか何で英語風・・・。」
彗:「何?」
昴:「何でもない・・・肉じゃがねぇ・・・。僕はゼリーがあれば生きていけるし・・・。」
彗:「カブトムシか!?そだ、肉じゃがといえばさ・・・ママの肉じゃがって食べたことないねぇ・・・。」
昴:「あー、そっか・・・そういえばそうだね・・・。」
昴:
昴:(N)そもそも。まさか幼いころに生き別れた姉弟が、両親がヨリを戻したことでまた一緒に暮らすことになるなんて・・・。
彗:「ん~・・・まぁ焦げてないとこは食べれるから今日はこれで許す。」
昴:「うん・・・。」
彗:「どした?」
昴:「んーん。今更だけど、僕らが一緒に暮らすようになったのって、驚きだな、って。」
彗:「そうね。二度と会うことないんだな、って思ってた。」
昴:「そうなの?」
彗:「そりゃそうでしょ。パパが再婚する、っていうからさ、どんな人かと思ったらママだったとかさ。
彗:普通ヨリ戻したからって再婚する?同じ相手とさ。」
昴:「そういうものかなー?」
彗:「まぁアタシも経験したわけじゃないからね。そういうこともあり得るんだろうけど・・・
彗:昴、アンタに会えるっていうのがさ。楽しみだったわけよ。(小声で)なのにさ・・・。」
昴:「僕も彗に会えるって聞いて・・・びっくりしたし・・・(小声で)嬉しかったし・・・。」
彗:「そう?そりゃ何より。(玉子焼きを食べ始める)うんうん。焦げてないとこは美味しいじゃん・・・。」
昴:「?」
0:場面転換。夜の浴室。彗が入浴している。
彗:「はぁ~・・・昴、覚えてるのかな・・・アタシたちの不思議な力のこと・・・。」
彗:「(幼い声で)ねぇ、パパ、私と昴はどうして、チューしたら魔法みたいな力が使えるの?」
彗の父:「彗、お前と昴には、不思議な力があるんだよ。」
彗:(幼い声で)「ふしぎな、ちから?」
彗の父:「そうだよ。でも、昴もそうだけど、この力は無闇に使っちゃだめだ。ちゃんとコントロールできるまではね。」
彗:(幼い声で)「こんとろーる・・・?わかった!」
彗:(今の声で)「コントロール、ねぇ・・・。」
0:不意に、彗の胸に言い知れない「何かが起こるかもしれない」という感情が沸き起こる。
彗:っ・・・?
0:場面転換。夜の庭先。風呂上がりの彗が、望遠鏡を覗く昴を見つける。
彗:「ふぃ~極楽極楽~・・・昴?」
昴:「何~?」
彗:「部屋真っ暗にして、何してんの?」
昴:「みずがめ座流星群~・・・。」
彗:「そういえばそんなこと言ってたわね。どう?見える?」
昴:「んー、見えるよ~。結構飛んでるね。」
彗:「ほほぅ・・・どれどれ~?」
昴:「え?ちょ、彗、近い近い!」
彗:「おおー、凄い凄い!飛んでるねー!って何よ昴ー、照れてるの?」
昴:「そりゃそうでしょ!」
彗:「ひひひ、いい匂いでしょ~?シャンプー変えたんだ~。」
昴:「知ってる、知ってるよ!風呂に置いてるの見たもん!」
彗:「んー、そう?(すんすんと昴の匂いもかぐ)昴もいい匂いするね~・・・!」
昴:「ちょ、彗!あぶな!」
彗:「わひゃっ!?」
0:倒れる望遠鏡。彗が昴に覆いかぶさるように倒れる。昴に何か予感めいたものが走る。
彗:「昴・・・」
昴:「・・・あっ、うん」
彗:「・・・・・・ごめん!」
昴:「ん!?」
0:彗、昴に口づけする。家中に風が吹き、彗の周りに数個の火が現れる。
彗:「ん・・・ふふっ・・・昴ぅ・・・見て・・・!火が飛んでる!」
昴:「(キスされて驚きを隠せず)彗?!何で!?」
彗:「えー?だってさぁ・・・早く「チカラ」を使ってみたかったんだもん・・・。」
昴:「「チカラ」?なんだよそれ!」
彗:「え?」
昴:「え?」
彗:「昴、もしかして覚えてないの・・・?ほら、これ・・・」(と舞い散る火の粉を指さす)
0:場面転換。天体観測を中断して、お茶を用意した彗と昴。
昴:「うーん・・・そんな話したっけなぁ・・・?」
彗:「え~!?あんなに衝撃的な出来事だったのに!?ってかアタシのファーストキスだったのに!!」
昴:「いやいや、そんな小さなころのことなんてノーカンで良くない!?」
彗:「良くないわよ!アタシが覚えてる限りアレがノーカンになることはない!
彗:ノーカンだとしてもさっきやった!だから返せ!乙女の純情を!」
昴:「話逸れてない?!ってか無理だし!?」
彗:「む~っ!!」
昴:「いや、むくれても無理だよ!?」
彗:「・・・ぷっぷくぷー!!」
昴:「怒ってるのか楽しんでるのかどっちかにしてよ!?
昴:・・・それよりも彗?その火は消えないの?ってか危ないんだけど?」
彗:「んー・・・いや、楽しんではないけど・・・さっきいくつか消えちゃったけどさ、
彗:コイツだけ全然消えないのね。どうしたらいいのかな?」
昴:「火、ということは・・・」
0:昴、ガラスポットを取り出す。
昴:「彗、この中に入れられる?」
彗:「ここに?何で?」
昴:「酸素がなくなったら消えるかなと。」
彗:「昴!アンタ天才じゃん!やればできる子!!」
昴:「いや中学生の理科・・・!」
彗:「んじゃ、よい、しょっと・・・?」
0:彗が誘導するが火はガラスポットに入らない。
彗:「あれー?んしょ、この、よっ、と・・・」
昴:「え?何してるの彗?」
彗:「えぇ?何って・・・入らないのよ、これが・・・っんしょ!・・・ほっ!」
昴:「うわ!あっぶ!!!」
彗:「ええ・・・え!わっ・・・とと!!」
0:シュボッ、という音とともに火が消える。そして彗の母が彗に無言で「げんこつ」をお見舞いする。
彗:「いだっ!!」
昴:「母さん・・・お、おかえり・・・。」
0:場面転換。昴の自室。昴と彗。
彗:「っていうかさ、昴のチカラは何で発動?してないの?」
昴:「発動て・・・でも確かにそうだね・・・」
彗:「あの時は何があったんだっけ・・・?すっごい風が吹いて・・・急にひんやりして・・・。」
昴:「それで?」
彗:「昴が、・・・どこ見てるのか分からないような眼をしてて・・・」
昴:「はい?」
彗:「急に、「僕はこの世界を変えてやる!」とか言い出して・・・」
昴:「(嫌そうに)ぅえ・・・?」
彗:「ママにげんこつされて正気に戻ったんだっけ」
昴:「何気に母さん最強なんだよね・・・」
彗:「それで結局どういうチカラなのか・・・分からないわけだけど・・・。」
昴:「風を起こしたりできるのかな・・・?んー・・・!(と気合を入れてみる)」
彗:「え・・・昴何そのポーズ・・・。」
昴:「「俺の右手が真っ赤に燃える」的な?」
彗:「何よそれ・・・中二かよ・・・。それにしても何も出ないわね?」
昴:「まぁこれで何か出ても怖いんだけど(昴、突然苦しみだす)・・・ぅぅっ・・・。」
彗:「え?」
昴:「う・・・ぐぁ・・・はっ、はっ(呼吸が荒くなる)な、に、こ・・・れ・・・・・・」
0:部屋の中を強い風が吹き荒れる。
彗:「ちょっと、昴!?」
昴:「・・・。」
彗:「昴、昴!!」
昴:「す、い・・・?・・・サワ・・・る、ナ・・・!」
0:昴、彗を突き飛ばす
彗:「ぅわ!?」
0:強い風はどんどん温度を下げて冷風になる。
彗:「!?さむっ・・・!何なのこれ・・・!」
昴:「すい・・・彗・・・!」
彗:「え・・・?」
0:風が収まり、昴の周りを大きな雪の結晶のようなものが廻っている。
昴:「何だかわかんないけど・・・もしかして僕も・・・?」
彗:「うん・・・たぶん・・・っていうか昴、アンタ大丈夫なの?」
昴:「えっと・・・たぶん・・・急に胸が苦しくなったんだけど・・・今は何だかすっきりしてるし・・・ほっ!」
0:アイスコーヒーが入ったグラスに雪の結晶が飛び込み、一瞬で凍結する。
彗:「・・・はぁっ!?」
昴:「えへへ・・・なんか出来ちゃった・・・。」
彗:「ぐぬぬ・・・!何で昴は出来てアタシが出来ないの・・・!?」
昴:「いや・・・分かんないけど・・・。」
彗:「あー!!!もう!!!分からんものは分からん!!また明日にしよ!寝る!!」
昴:「お、お休み、彗・・・。」
彗:「お休み、昴!」
0:昴の部屋のドアが乱暴に閉まる。昴、右手をグーパーしながら。
昴:「・・・うーん・・・この感じ・・嫌な予感がする・・・。」
0:自室に戻った彗。
彗:「昴・・・さっきは・・・ごめんね。でもあたしだって恥ずかしいんだからな・・・うううぅ!」
0:彗、自室の別途に倒れ込み、枕に顔を押し付けてうなり続ける。
0:
0:場面転換。彗・昴のモノローグ。
昴:(N)「彗の潤んだ瞳は、鮮やかなオレンジ色に光っていて。」
彗:(N)「昴の驚いた瞳は、深海のようなブルーの光を帯びて。」
昴:(N)「唇が触れ合ったその時。」
彗:(N)「私は、一瞬、ふっ、と力が抜けるのを感じた。」
昴:(N)「彗の瞳の光は・・・まるで蝋燭(ろうそく)の灯(ともしび)が、消えるように、」
昴:(N)「一瞬の強い光の後、黒く戻っていった。」
0:その深夜、とある民家の屋上。天野家を見つめる男女二人。
橙花:「はぁ・・・。」
男:「どうした?」
橙花:「あのさ・・・前にも言ったけど、あの子、私のクラスメイトなんだけど。」
男:「で?」
橙花:「・・・。」
男:「殺したくない、なんて・・・今更言わないよな?」
橙花:「・・・他に誰か居なかったの?」
男:「俺たちは「魔法使い」を始末する。それだけだ。違うか?」
橙花:「(ため息)はぁ・・・。」
男:「この世界に魔法使いは不要。」
橙花:「だからって、あの子たちは目覚めたばかりでしょ?」
男:「危険な芽は摘んでおくに限る。あの子供二人を始末し、両親も消す。」
橙花:「・・・(切なげに)そう・・・。」
男:「早いうちに覚悟を決めておくんだな。」
0:男の姿は闇に溶けるように消えていく。
橙花:「彗ちゃん、昴君、どうして、あなたたちなの・・・?」
0:朝、昴の部屋。
0:昴、彗の夢を見てうなされる。
彗:「(昴の夢の中、消え入りそうな彗の声)昴・・・アタシ、待ってるから・・・。」
昴:「嫌な・・・夢・・・。」
昴:「彗・・・泣いてた・・・。何だろ、この感じ・・・。」
0:彗が昴を起こしに来る。(≧▽≦)←こんな表情で
彗:「(できるだけ大声で)おぉ~い!早く起きろぉ~!」
0:彗、おたまでフライパンを叩きながら登場。
昴:「(寝起きでうなるように)うーるーさーいー!」
彗:「(呆れながら)アンタ何してんのよ!今日からまた学校でしょ!?」
昴:「彗がうるさいから行かない!!」
彗:「起きないとこれ鳴らし続けるわよ!!」
0:彗がフライパンを「カカカン!」と連打。
昴:「近所迷惑だからね!」
彗:「ほら、さっさと起きる!」
昴:「いやだ・・・学校行きたくない・・・。」
彗:「バカなこと言ってないで!ほぉら!」
昴:「ううう・・・起きる・・・着替えるから・・・。」
彗:「はいはい!んじゃ下で待ってる!」
昴:「ん・・・。」
0:間。朝の食卓の上。焼き鮭にご飯、味噌汁、生卵、海苔、納豆etc。
昴:「・・・。」
彗:「・・・昴?」
昴:「(眠そうに)んー・・・?」
彗:「アンタそんなに朝弱かったっけ?ってか学校行きたくないって・・・。」
昴:「彗は・・・昨日のことさ・・・気にしてないの?」
彗:「うん?何を?」
昴:「いきなり・・・魔法とかさ・・・。」
彗:「そっち?」
昴:「え?」
彗:「え?・・・いやまぁ・・・そりゃぁ、気にはしてるよ?」
昴:「うん。だからさ、・・・色々考えちゃってさ・・・。」
彗:「例えば?」
昴:「昨日のコトがバレる、とか。」
彗:「ん」
昴:「何でこんなチカラがあるのかな、とか・・・。」
彗:「・・・(渋い顔をする)。」
昴:「あれ?」
0:すぱーん!と彗がテーブルを手のひらで叩く。
彗:「・・・いやキスのコト触れんかいっ!」
0:彗の手のひらで火花が散る。
昴:「やっぱりそっちだった!」
昴:(N)「彗には言えないけど、本当は、必死に調べていたんだ。二人の魔法のコト、僕と彗の、過去のコト。」
0:場面転換。二人の通う学校の教室にて。
彗:「おはよー!」
橙花:「彗ちゃんおはよー」
クラスメイト:「彗、ちーっす!」
彗:「おっすおっすー!みんな昨日のみずがめ座流星群、見た~?」
橙花:「彗ちゃんに教えてもらったから、気になってずっと眺めちゃってたわ。」
クラスメイト:「あー、部活帰りに見てたけど・・・方角が分かんなくってさー!あんま見れんかった・・・!」
彗:「そっかそっか、うちは昴が望遠鏡で必死に見ててさー!」
橙花:「昴君、そういうの詳しいもんね。さすが天文部。」
彗:「アイツほぼ幽霊なんだけどなぁ・・・。」
クラスメイト:「彗は見てたん?」
彗:「あー、昴に望遠鏡覗かせてもらったわー。流星群ってすご、ってなったわ。あんなに飛ぶと思わなかった!」
橙花:「望遠鏡で見れるっていいわね、めちゃくちゃ見れそうじゃない?」
彗:「うん、凄い良く見えてさー!でも昴が言うには、もっと街の明かりのないところがいいんだって。」
クラスメイト:「それ聞いたことあるなー。街の灯りがあると、その光のせいでよく見えないんだってさ。」
彗:「そうそう、だから昴、将来は山に籠(こも)りたいって言ってる・・・。」
橙花:「さすが名前が「昴」ってだけあるわねー。星とかのことに目がないっていうか。」
彗:「まぁその前にアイツ体力付けないと、山で生きていけないっしょ・・・。」
クラスメイト:「あー、それなー。」
橙花:「彗ちゃん、鍛えてあげたら?バスケ部なんだし。」
彗:「絶対アイツ、「めんどくさーい」って言って聞かないわよ。そんなんで山で暮らせるかってーの!」
3人:(笑う)
橙花:「あ!噂をすれば、じゃない?昴君、おはよう。」
昴:「あ、おはようございます。どもです・・・。」
彗:「昴、どうしたの?」
昴:「うん。これ持ってきた。」
0:昴、彗のお弁当箱を差し出す。
彗:「え?アタシお弁当忘れてた?嘘でしょ?」
0:彗、自分の鞄を漁るが弁当箱が見つからない。
彗:「あー、忘れてたみたい・・・さんきゅ、昴!」
昴:「うん。それじゃ」
橙花:「(帰ろうとする昴にかぶせて)まーまー昴君!もう少し居なさいよ。」
昴:「はい・・・?」
橙花:「昴君、彗ちゃんと暮らすようになってどう?何か変わった?」
昴:「いえ、特には・・・。」
クラスメイト:「えー?彗となんか変なイベントとか発生してね?」
昴:「変な・・・?」
橙花:「そうそう!あの・・・ほら、ラッキースケb・・・いたっ!?」
0:彗、橙花をはたく。
彗:「(恥ずかしそうに)ちょっと!橙花やめてよねそういうの!昴も何か言いなさいよ!」
橙花:「んん~?彗ちゃん、顔が赤いわよ?実は何かあったんでしょ?」
彗:(真っ赤になって全否定する)「ないない!ないってば!」
昴:(N)このときは、あんなに早く「終わりの始まり」が訪れるなんて・・・思わなかった。
0:場面転換。放課後の部活、バスケ部にて。彗が試合に出ている。彗のシュートチャンス。
バスケ部員:「彗!撃って!」
彗:「っ!!・・・え・・・?」
0:ボールは力なくふわっと放物線を描き、リングには届かず、相手チームの手に渡る。呆然とする彗。
彗:「嘘・・・?」
バスケ部監督:「彗!ディフェンス!」
彗:「はい!あっ!!」
0:彗が足をもつれさせて、膝から崩れるように転倒する。そのまま動けない彗。
バスケ部員:「彗!?」
バスケ部監督:「彗!大丈夫か!?」
彗:(N)「その後のことは、よく覚えてない。」
彗:(N)「ただ、シュートのとき、力が全然入らなかったことだけは、はっきり覚えている。それがとても、ショックだったから。」
彗:(N)「目が覚めたら、アタシは自分のベッドの上に寝ていた。」
彗:「すばる・・・?」
昴:「あ、彗。気分は?」
彗:「ん・・・大丈夫。」
昴:「うん。よかった。何か食べられそう?」
彗:「・・・うん。・・・ねぇ、昴?」
昴:「なに?」
彗:「・・・アタシ・・・病気じゃない、よね・・・?」
昴:「先生は「疲れてるんだろう」だって。検査も問題ないって言ってたし、頑張りすぎじゃない?バスケ。」
彗:「そうなのかな・・・アタシさ、凄く調子よかったんだ。」
昴:「うん。」
彗:「でも、・・・でもさ・・・。」
昴:「彗、休むことも大事だよ?」
彗:「昴・・・。」
昴:「・・・って、言われてるんじゃない?カミサマ的な何かに。」
彗:「何よそれ・・・昴は幽霊部員のくせにー・・・(少し笑う)。」
昴:「むー・・・それよりごはん、うどんでいい?冷凍の。」
彗:「うん・・・昴?」
昴:「んー?」
彗:「・・・それって昴が魔法で冷凍したの?」
昴:「え?」
彗:「・・・なんてねっ!冗談っ!・・・ありがと!」
0:彗、毛布で顔を半分隠す。
0:昴が部屋を出てしばらくして、彗のスマホが鳴る。
彗:「もしもし、橙花?電話なんて珍しいね・・・どうしたの?」
橙花:「うん、部活で倒れた、って聞いたから・・・ちょっとね。その、心配で。声が聴けたら、って思って。」
彗:「そっかー、ごめんね?」
橙花:「いいよ、大丈夫。・・・具合はどう?」
彗:「うん、今は落ち着いてるよ。明日は学校行けそう。」
橙花:「そのことなんだけど、彗ちゃん・・・。」
彗:「ん?」
橙花:「絶対に昴君から、離れちゃだめよ。」
彗:「へ?昴?なんで?」
橙花:「(なんで?にかぶせるように)それだけ。それじゃ。」
0:一方的に電話は切れる。
彗:「・・・橙花・・・?」
0:その日の夜中。とある民家の屋上。橙花。
橙花:「彗ちゃん・・・あとどれくらい生きられるんだろう・・・。」
男:「なぜあんなことを話した?」
橙花:「・・・。」
男:「お前のことだ。あの姉弟(きょうだい)を守ろう、などと考えているのかも知れないが・・・。」
橙花:「二人が一緒に居たほうが、都合がいいでしょ。」
男:「本当にそう思っているのか?」
橙花:「・・・何が言いたいの?」
男:「あの二人はお前に任せるが・・・くれぐれも、魔法をこの先の世界に残してはいけない。」
橙花:「どうして?」
男:「・・・「どうして」?」
橙花:「私は・・・まだ完全に納得が出来てない。」
男:「・・・(ため息)あの少年は・・・接吻(せっぷん)により姉から魔法を譲渡された。」
橙花:「え?」
男:「そもそも魔法の譲渡は禁忌なのだが・・・譲渡した相手があの少年、というのがまずいのだ。」
橙花:「それって、・・・どういう・・・?」
男:「あの少年は・・・「魔を統べる者」。」
橙花:「昴君が・・・?」
男:「遥か昔から、「魔を統べる者」は・・・世の破滅をもたらさんとしてきた。」
橙花:「破滅・・・?」
男:「一度目の接吻は・・・「魔を統べる者」を目覚めさせ・・・二度目はあの娘を「贄(にえ)」とする。」
橙花:「贄・・・?まさか!」
男:「あの娘・・・永くはないぞ。そしてあの少年も、この先このようなことが起きないようにせねばならん。」
橙花:「なん、で・・・?」
男:「「魔を統べる者」を滅ぼすために、我々は存在する。」
橙花:「・・・。」
男:「まさか・・・我々の時代に現れるとは、思いもしなかったが、な・・・。」
0:男の姿、再び掻(か)き消える。
橙花:「(辛さで泣き出しながら)ぐ・・・く、っ・・・!」
0:ほぼ同時刻。昴の部屋。
昴:「接吻(せっぷん)による魔法の譲渡・・・禁忌の行為・・・その代償・・・じゃあ彗は何で・・・?」
昴:「わからない・・・僕は・・・どうしたらいい・・・このままじゃ・・・時間がない・・・!」
0:場面転換。橙花の独白。
橙花:(N)「私の家は、武士の家系で、かつて「魔を統(す)べる者」を退治した家系なんだ、と教えられて育ってきた。
橙花:ウチが剣術の道場なのは、その名残(なごり)、なんだと。
橙花:私はずっと、それを「また冗談を言ってるわ」と話半分に聞きながら、
橙花:それでも普段の護身のために、剣術を学んでいた。
橙花:そもそも魔法だとかそんな、オカルトのような存在自体、信じてなどいなかった。
橙花:それが、こんなところで剣術の技を使うことになるなどと、思いもせずに・・・。」
0:とある日の早朝。宮泉家の道場にて。橙花、木刀を一心不乱に振る。
橙花:「んっ!・・・ふっ!!」
橙花:
橙花:(N)「ほんの少し前まで、・・・何でもない会話ができる、お友達だったのに。」
0:素振りを終えた橙花、庭の井戸の水で顔を洗い、手ぬぐいでぬぐう。
橙花:「(ため息)どうして、こんなことになったんだろう。」
橙花:彗ちゃん・・・昴君・・・。」
橙花:
橙花:(N)「私は何度この問いを繰り返しただろう。考えても考えても、
橙花:「ウチはそういう家だから」という結論に至ってしまう。
橙花:「そういう家だから」?あの与太話(よたばなし)、信じていなかったのに・・・?」
0:中庭に人影。橙花が気づく。
橙花:「・・・?」
男:「よう。」
橙花:「(不快そうに)・・・何?」
男:「殺気がダダ漏れだぞ・・・まぁ、それだけやる気なのかも知れんが。」
橙花:「・・・今ここで、あなたを殺してもいいのよ。」
男:「やめておけ、家名に泥を塗りたくないだろう?親殺し、としてな。」
橙花:「・・・(唇を噛む)。(小声で)友達を、・・・手にかけるくらいなら・・・家名なんて・・・。」
男:「・・・。」
0:男、いきなり橙花に平手打ちをする。
橙花:「っ?!」
男:「お前に宮泉(みやいずみ)の血が流れている限り、「魔を統べる者」を殺すのは使命だ。」
橙花:「あんな与太話・・・。」
男:「昨日のアレは、夢などではないぞ。あいつらを殺すのは、橙花、お前だ。」
橙花:「っ・・・!」
0:男、立ち去る。
橙花:「・・・私は・・・何も、できないの・・・?」
0:場面転換。学校のチャイムが鳴る。橙花、席に座ってぼんやりとしている。
彗:「おーい!とーぅかー!?」
橙花:「(驚いて)っ!?なに!?」
彗:「いやいや、何!?じゃないでしょーに。どしたん?ぼーっとしてさー。ってか珍しいね、油断してるねー(にしし、と笑う)」
橙花:「ん、・・・ごめん、なんでもないの。」
彗:「そっかー。ならいいけどさー?改めてぇ~、おっすー!」
橙花:「うん。おはよ、彗ちゃん。」
0:彗と橙花、ハイタッチする。
橙花:「彗ちゃん、体調、・・・本当に大丈夫?」
彗:「んー、まだちょっとだけダルさがあるけど・・・まぁダイジョブっしょ。」
橙花:「そう、それならいいんだけど・・・。」
彗:「ありがとね!昨日も連絡くれたし。心配かけちゃったね。」
橙花:「いいの。友達でしょ、私たち。」
彗:「当たり前じゃん!だからこそ、ありがとう、でしょ!」
橙花:「(N)そういってにっこり笑う彗ちゃんのことを、私は真っ直ぐに見ることが出来なかった。
橙花:どの口が、『友達』などと彗ちゃんに言えたのだろう・・・。」
彗:「・・・あれ?アタシ変なこと言った?」
橙花:「んーん、彗ちゃんってさ、・・・いい子だな、って。」
彗:「え~?何よそれー!あははっ!」
橙花:「ねぇ、彗ちゃん・・・?」
彗:「何?」
橙花:「その・・・今日は、昴君は?」
彗:「昴?うん、普通にガッコ来てるよ?」
橙花:「そう・・・。」
彗:「え、何?橙花もしかして昴のコト・・・(色めき立つ)。」
橙花:「えっ?・・・ああ、そういうことじゃないの。」
彗:「ふーん?・・・そうなんだー・・・?んっ!」
0:彗のスマホに電話がかかる。
彗:「知らない番号だ・・・。もしもし?」
彗:はい、そうです(だんだんトーンが落ちる)・・・え・・・嘘・・・?
彗:(涙声で)はい、はい!すぐに行きます!!」
0:彗、弾けるように席を立つ。
橙花:「彗ちゃん?」
彗:「橙花ごめん!今日アタシ学校休む!あとよろしく!!」
橙花:「えっ、彗ちゃ・・・?」
0:彗、早退してしまう。橙花、胸騒ぎがする。
橙花:「まさか・・・(青ざめ、息を呑む)っ・・・。」
0:学校の屋上、男が立っている。服や顔に返り血がついている。
男:「橙花、次はお前の番だぞ・・・どうする?」
0:廊下をダッシュする彗、昴の教室に向かう。その途中で昴と合流。
彗:「昴!」
昴:「彗!」
彗:「昴、パパとママが!」
昴:「聞いたよ、急ごう!」
彗:「パパとママ、・・・大丈夫だよねっ?」
昴:「二人とも頑丈なの知ってるでしょ?!」
0:彗と昴、病院に到着する。面会謝絶の札がかかった病室に飛び込む。
彗:「パパ!ママ!!」
0:二人の父母、重傷で意識がない。
昴:「二人とも、何で・・・?」
0:彗の母、意識を取り戻す。
彗の母:「すい・・・すば、る・・・。」
彗:「ママ!!」
昴:「母さん、何があったの?」
彗の母:「二人、とも、・・・天野のお爺ちゃんのところに・・・逃げ、なさい・・・。」
彗:「お爺ちゃん家?何で?どういうこと!?」
彗の母:「アンタたち、・・・キ、ス・・・した、でしょ・・・。」
彗:「っ!?」
彗の母:「(切れ切れの声で)そのせいで、彗のチカラを昴が受け取ってしまった・・・。」
昴:「ぼく、が・・・?」
彗の母:「彗が、魔法の力を譲渡してしまったの・・・あってはならない、こと・・・してはいけないこと。
彗の母:そして昴、アンタは・・・、「魔を統べる者」。」
昴:「(噛み締めるように)「魔を統べる者」・・・?」
彗の母:「彗、アンタはその贄(にえ)に、・・・なる・・・。」
彗:「にえ・・・?」
彗の母:「アンタの命が・・・っぐ・・・。」
彗:「ママ?ママ!!」
昴:「母さん・・・。」
0:母が意識を失う。その後の病院内、自販機から飲み物が出てくる。重たい雰囲気の彗と昴。
彗:「ママ・・・。」
昴:「・・・(難しい顔でうなる)。」
彗:「昴・・・?」
昴:「・・・父さんと母さんが襲われたのって。」
彗:「え?」
昴:「魔法のコトが原因なんじゃ・・・。」
彗:「へ・・・?」
昴:「それでさ・・・もしかしたら母さんが言ってた「魔を統べる者」、っていうか、・・・僕が・・・。
昴:誰かに狙われてるんじゃないか、って。」
彗:「昴が・・・?」
昴:「そういうこと、だよね・・・。それと」
彗:「それ、と・・・?」
昴:「彗、彗が倒れたのって。」
彗:「ん?」
昴:「魔法の力を僕に渡したから、だよね・・・?」
彗:「・・・。」
昴:「何であんなことしたの?」
彗:「それは!アタシはあの力に憧れてたし、昴とその・・・しちゃったら、
彗:(少しずつトーンが落ちていく)またあのときみたいなステキなことが起きるんじゃないか、って・・・だから・・・。」
昴:「そっか・・・うん。わかった。(優しく諭すように)彗、僕は怒ってるわけじゃないから、安心して。」
彗:「うん・・・。」
昴:「でも母さん、「贄」って言ってた・・・どういうことだろう・・・。」
彗:「にえ・・・「生贄」とかの「贄」?」
昴:「聞き間違いじゃなければ、たぶんそう。でも・・・。」
0:しばしの沈黙。口を開いたのは彗。
彗:「昴、ママの言う通りに逃げよ?」
昴:「天野のお爺ちゃんのところ?」
彗:「うん、・・・でも・・・おじいちゃんたちに迷惑かけるかな・・・?」
昴:「でも母さんの言うとおりにしなきゃだし・・・だったら・・・あえて寄り道しながら逃げる
昴:・・・それなら意外に撒(ま)けるかも・・・。」
彗:「うん、・・・その分どうなるか分からないけど・・・。」
昴:「やるしかない、よね。」
彗:「うん・・・。」
0:彗と昴、看護師にくれぐれもと父母を託し、病院を抜け、郊外の山の方に移動する。
彗:「(息を切らしている)はぁ、はっ、・・・まだ誰も追ってこないよね?」
昴:「(同じく息を切らしている)とりあえず、だけど・・・。でもどうしてウチだけが・・・?」」
彗:「分からない・・・全然心当たりないもの・・・昴は?」
昴:「僕も全然・・・。」
0:二人の後ろ、音もなく橙花が近づく。
橙花:「二人とも。」
彗:「(昴と同時)っ!」
昴:「(彗と同時)っ!」
0:橙花、ノーモーションで背後から彗を刺し貫く。
彗:「とう・・・か・・・?か、・・・っは・・・っ・・・!」
橙花:「ごめんね。」
昴:「彗?彗っ!!?」
橙花:「昴君・・・。」
0:彗の胸元から血が流れだす。切っ先が鋭すぎるためか、その流れはゆっくりとしている。
昴:「彗!彗!!(突然苦しみだす)う・・・ぁ・・・!?」
0:昴の足元から、放射状に冷気と強風が広がる。
橙花:「これが、・・・昴君の・・・チカラ・・・。」
昴:「・・・うぅぁああああああああああああ!!!」
0:昴が両手をかざすと、巨大なつららが現れ、橙花の真上から落下する。
橙花:「っ!」
0:橙花、間一髪で後ろに跳び、つららを避ける。なおもつららは橙花を襲う。
昴:「・・・カラメトレ(搦め取れ)っ!」
0:飛び退いた橙花の足に、氷の鎖が絡まる。動けなくなる橙花。歩み寄る昴。
橙花:「くっ!」
昴:「トウカ・・・さん・・・!」
0:昴の眼は、血走っていながら潤みを帯びている。
橙花:「昴君・・・あなた・・・覚醒が・・・?!」
昴:「どうしテ・・・こンナ・・・コト・・・!!」
橙花:「あなたたちが・・・魔法に目覚めたから・・・。
橙花:私たちは・・・「魔を消し去る者」よ。
橙花:そして昴君・・・あなたは、・・・「魔を統べる者」。
橙花:あなたの力が解放されると、この世のあらゆる「悪魔」と言われる奴らがこの世界に解き放たれる。
橙花:昴君、・・・あなたを中心として。」
昴:「ぼくタちヲ・・・こロすノ・・・?」
橙花:「「魔を消し去る者」のつとめを、果たすわ・・・。ごめんなさい、昴君。」
昴:「僕たちハ・・・ぐっ・・・死ぬわけには、いかない!」
0:昴、脳内に自然に流れてくる言葉をそのまま声に出す。
昴:「氷の奔流(ほんりゅう)より創り出す凛冽(せいれつ)な刃よ、
昴:我が前に立ち塞がる者を断ち切り、紅蓮(ぐれん)の血潮を舞い散らせん。氷の刀、その名をとどろかせ!」
昴:
昴:「氷刃・六華(ひょうじん・りっか)!」
0:昴の右手に氷でできた豪華な装飾の剣が現れる。
0:橙花、座った状態から刀を弓矢を引くように引き、「突き」の姿勢。昴、六華を構える。
橙花:「『絶華、壱式(ぜっか・いちしき)』!!!」
昴:「ぐっ!!!」
0:昴、剣撃を六華で受け止めようとするが、六華を折られてしまう。
橙花:「昴君・・・。」
昴:「六華!!」
0:昴、再び六華を召喚、攻勢に出る。めったやたらの攻撃だが・・・。
橙花:「っ!く!」
0:昴の気迫に押される橙花。
橙花:「ぅあ・・・っ!」
0:橙花、受け止めきれず肩口を斬られる。昴、畳みかける。
昴:「ぅあああ!!」
橙花:「っ!」
0:昴の一突きが橙花の胸元を貫く。
橙花:「すば・・・ん・・・すぃ・・・ちゃ・・・。」
0:橙花、倒れる。
昴:「はー、はー・・・っ。彗・・・。」
0:昴、彗のもとに。
昴:「彗、彗!」
彗:「・・・すば、・・・る・・・(呼吸はするものの、声はかすれる)。」
男:「おい。」
昴:「っ!」
0:昴、弾けるように振り向く。
男:「ったく・・・面倒ごと増やしやがって。少年、悪いがおとなしくやられてくれねぇか・・・?」
昴:「あなた、は・・・?」
男:「そこで氷漬けになってる娘の、親・・・だが・・・まぁそれはいい。」
昴:「橙花さんの・・・?」
男:「あー、そういうのは今どうでもいいんだ。お前さんが魔法を使えるばっかりに、
男:こういう状況になってるわけだが・・・。それももうどうでもいい。」
男:お前さんたちを始末することが、宮泉の宿命なんだ。悪いな。」
0:男、視認できないほどの速度で刀を振るう。
昴:「!!」
0:自分をかばおうとした昴の両腕から氷の盾が発生し、刀が盾に食い込む。
男:「(少し感心したように)へえ。」
昴:「・・・。」
0:昴、後ろに跳び、距離を取る。
昴:「『六華』!!」
0:昴の腕に絡まるように、氷の刃が発生する。
男:「剣で俺に勝てると思うか?」
昴:「(震える声で)やってみなくちゃ、分からない・・・。」
男:「ふぅ・・・命のやり取りは一発勝負だ。来いよ。」
0:昴、剣道の中段の構え。
男:「いくぞ。」
昴:「(小声で)しもばしらよ、こおりの・・・あらし・・・ぜつ・・・いてつき・・・」
男:「はあああああっ!!!」
昴:「『天牢雪獄(てんろうせつごく)』!!!」
0:男、動き出した姿勢のまま、氷漬けになる。魔力を大きく使った昴、膝をつく。
昴:「・・・っぐ・・・ふぅ・・・。はぁ、はぁ・・・。」
0:昴、再び彗のもとへ。
彗:「すばる・・・。」
昴:「彗、・・・しゃべらなくっていいよ・・・。」
彗:「すばる、アタシ、しぬの・・・?」
昴:「そんなこと、させないよ。今は、少し休んでてね。」
昴:「魂の渦に踊るような寒気を纏(まと)い、氷の精霊たちよ、冷たい鎖を紡ぎ出せ。
昴:永遠(とわ)の眠りに堕ちるように、相手を凍りつかせ、時間の流れを停めよう。
昴:寒冷なる氷漣(ひょうれん)に包まれし者よ、その存在を氷像と化し、永劫(えいごう)の眠りに閉ざされよ。
昴:凍結の呼び声、凍魂(とうこん)の謳歌!『氷結封縛(ひょうけつふうばく)』!」
0:彗の身体が、足元から凍り付いていく。
彗:「昴・・・?」
昴:「必ず、また一緒に暮らせるから・・・待っててね。」
彗:「うん・・・アンタ・・・強かったんだね、最初から。」
昴:「もう・・・今それ言う?」
0:二人、そっと笑う。彗の全身が氷に包まれようとする。
彗:「昴、アタシ、待ってるからね。」
昴:「うん。待っててね。・・・おやすみなさい。」
0:彗、氷に包まれる。疲労で大の字に倒れ込む昴。しばらくの間。
昴:「・・・(ため息)これから・・・彗をもとに戻さなきゃ・・・。」
昴:
昴:「(N)僕の力は全て彗からもらったもの。だから、彗に返さなくちゃ。
昴:何より魔法に憧れていたのは、他でもない、彗なんだから。
昴:彗が僕の贄(にえ)になって死ぬなんて、絶対に嫌だ。
昴:だけど今は、彗を冷凍保存して、彗を元に戻す方法を探さなくちゃいけない。
昴:彗が僕の贄じゃなく、死ぬこともなく、普通に暮らせるようになる方法を。
昴:でも、・・・魔法を使いこなす彗も、ちょっと、見てみたいかも。」
昴:
昴:「僕と彗が、逆だったらよかったのにな・・・。」
0:昴、山の奥深くに姿を消す。後ろから蝙蝠(こうもり)やゴブリンらしき影が、そっと昴の後を付いて行く。
0:
0:おしまい。
0:
彗:(N)離れ離れだった私たちは。
昴:(N)ある時、突然再会の時を迎えた。
彗:(N)両親と、私たち二人しか、知らないはずの秘密を抱えたまま。
昴:(N)運命は、転がっていく。
彗or昴:「うぃざーず/うぃっちーず」。
0:朝のキッチンにて。
彗:「(ふざけ気味に)おぉ~い!早くしろぉ~!」
0:彗、昴のお尻を蹴る
昴:「痛い!!!」
彗:「(呆れながら)アンタ何してんのよ!平たく焼いたら、菜箸(さいばし)でちょいちょいって畳むだけでしょ!?」
昴:「卵焼き無理だってー!スクランブルエッグで我慢してよ!ってか火を使ってるんだから暴れないでよ!危ないでしょ!」
彗:「(徐々にヒートアップ)嫌よ!アタシは卵焼きがいいの!甘くて!ふわっとろの!しっかりしろー!絶対やれるから!」
昴:「注文多いけど、これ難しいんだからね!」
彗:「あー!砂糖が焦げる!!」
昴:「ほら・・・彗が蹴るから・・・」
彗:「アタシのせいだっての?!理不尽だ!!」
昴:「理不尽なのは彗だからね!?」
彗:「いいから巻け!畳め!!」
昴:「待って、無理だってば!」
彗:「いいから早くぅ!!」
0:間。姉弟の食卓の上に、黒く焦げた部分が多いスクランブルエッグ。
昴:「・・・。」
彗:「・・・何でこうなった・・・?」
昴:「・・・だから言ったじゃん。いきなり卵焼きはムリって・・・。」
彗:「・・・何でアンタは最初っから無理無理言うかなぁ・・・できないならできないで練習しなさいよね。」
昴:「いや、だって・・・。」
彗:「ママがいつまでも作ってくれるとでも?!卵焼き一つ作れないんじゃ将来困るわよ!?」
昴:「じゃあ何が出来れば合格なのさ・・・。」
彗:「・・・(考え込んで)・・・NIKU JAGA?」
昴:「昭和・・・ってか何で英語風・・・。」
彗:「何?」
昴:「何でもない・・・肉じゃがねぇ・・・。僕はゼリーがあれば生きていけるし・・・。」
彗:「カブトムシか!?そだ、肉じゃがといえばさ・・・ママの肉じゃがって食べたことないねぇ・・・。」
昴:「あー、そっか・・・そういえばそうだね・・・。」
昴:
昴:(N)そもそも。まさか幼いころに生き別れた姉弟が、両親がヨリを戻したことでまた一緒に暮らすことになるなんて・・・。
彗:「ん~・・・まぁ焦げてないとこは食べれるから今日はこれで許す。」
昴:「うん・・・。」
彗:「どした?」
昴:「んーん。今更だけど、僕らが一緒に暮らすようになったのって、驚きだな、って。」
彗:「そうね。二度と会うことないんだな、って思ってた。」
昴:「そうなの?」
彗:「そりゃそうでしょ。パパが再婚する、っていうからさ、どんな人かと思ったらママだったとかさ。
彗:普通ヨリ戻したからって再婚する?同じ相手とさ。」
昴:「そういうものかなー?」
彗:「まぁアタシも経験したわけじゃないからね。そういうこともあり得るんだろうけど・・・
彗:昴、アンタに会えるっていうのがさ。楽しみだったわけよ。(小声で)なのにさ・・・。」
昴:「僕も彗に会えるって聞いて・・・びっくりしたし・・・(小声で)嬉しかったし・・・。」
彗:「そう?そりゃ何より。(玉子焼きを食べ始める)うんうん。焦げてないとこは美味しいじゃん・・・。」
昴:「?」
0:場面転換。夜の浴室。彗が入浴している。
彗:「はぁ~・・・昴、覚えてるのかな・・・アタシたちの不思議な力のこと・・・。」
彗:「(幼い声で)ねぇ、パパ、私と昴はどうして、チューしたら魔法みたいな力が使えるの?」
彗の父:「彗、お前と昴には、不思議な力があるんだよ。」
彗:(幼い声で)「ふしぎな、ちから?」
彗の父:「そうだよ。でも、昴もそうだけど、この力は無闇に使っちゃだめだ。ちゃんとコントロールできるまではね。」
彗:(幼い声で)「こんとろーる・・・?わかった!」
彗:(今の声で)「コントロール、ねぇ・・・。」
0:不意に、彗の胸に言い知れない「何かが起こるかもしれない」という感情が沸き起こる。
彗:っ・・・?
0:場面転換。夜の庭先。風呂上がりの彗が、望遠鏡を覗く昴を見つける。
彗:「ふぃ~極楽極楽~・・・昴?」
昴:「何~?」
彗:「部屋真っ暗にして、何してんの?」
昴:「みずがめ座流星群~・・・。」
彗:「そういえばそんなこと言ってたわね。どう?見える?」
昴:「んー、見えるよ~。結構飛んでるね。」
彗:「ほほぅ・・・どれどれ~?」
昴:「え?ちょ、彗、近い近い!」
彗:「おおー、凄い凄い!飛んでるねー!って何よ昴ー、照れてるの?」
昴:「そりゃそうでしょ!」
彗:「ひひひ、いい匂いでしょ~?シャンプー変えたんだ~。」
昴:「知ってる、知ってるよ!風呂に置いてるの見たもん!」
彗:「んー、そう?(すんすんと昴の匂いもかぐ)昴もいい匂いするね~・・・!」
昴:「ちょ、彗!あぶな!」
彗:「わひゃっ!?」
0:倒れる望遠鏡。彗が昴に覆いかぶさるように倒れる。昴に何か予感めいたものが走る。
彗:「昴・・・」
昴:「・・・あっ、うん」
彗:「・・・・・・ごめん!」
昴:「ん!?」
0:彗、昴に口づけする。家中に風が吹き、彗の周りに数個の火が現れる。
彗:「ん・・・ふふっ・・・昴ぅ・・・見て・・・!火が飛んでる!」
昴:「(キスされて驚きを隠せず)彗?!何で!?」
彗:「えー?だってさぁ・・・早く「チカラ」を使ってみたかったんだもん・・・。」
昴:「「チカラ」?なんだよそれ!」
彗:「え?」
昴:「え?」
彗:「昴、もしかして覚えてないの・・・?ほら、これ・・・」(と舞い散る火の粉を指さす)
0:場面転換。天体観測を中断して、お茶を用意した彗と昴。
昴:「うーん・・・そんな話したっけなぁ・・・?」
彗:「え~!?あんなに衝撃的な出来事だったのに!?ってかアタシのファーストキスだったのに!!」
昴:「いやいや、そんな小さなころのことなんてノーカンで良くない!?」
彗:「良くないわよ!アタシが覚えてる限りアレがノーカンになることはない!
彗:ノーカンだとしてもさっきやった!だから返せ!乙女の純情を!」
昴:「話逸れてない?!ってか無理だし!?」
彗:「む~っ!!」
昴:「いや、むくれても無理だよ!?」
彗:「・・・ぷっぷくぷー!!」
昴:「怒ってるのか楽しんでるのかどっちかにしてよ!?
昴:・・・それよりも彗?その火は消えないの?ってか危ないんだけど?」
彗:「んー・・・いや、楽しんではないけど・・・さっきいくつか消えちゃったけどさ、
彗:コイツだけ全然消えないのね。どうしたらいいのかな?」
昴:「火、ということは・・・」
0:昴、ガラスポットを取り出す。
昴:「彗、この中に入れられる?」
彗:「ここに?何で?」
昴:「酸素がなくなったら消えるかなと。」
彗:「昴!アンタ天才じゃん!やればできる子!!」
昴:「いや中学生の理科・・・!」
彗:「んじゃ、よい、しょっと・・・?」
0:彗が誘導するが火はガラスポットに入らない。
彗:「あれー?んしょ、この、よっ、と・・・」
昴:「え?何してるの彗?」
彗:「えぇ?何って・・・入らないのよ、これが・・・っんしょ!・・・ほっ!」
昴:「うわ!あっぶ!!!」
彗:「ええ・・・え!わっ・・・とと!!」
0:シュボッ、という音とともに火が消える。そして彗の母が彗に無言で「げんこつ」をお見舞いする。
彗:「いだっ!!」
昴:「母さん・・・お、おかえり・・・。」
0:場面転換。昴の自室。昴と彗。
彗:「っていうかさ、昴のチカラは何で発動?してないの?」
昴:「発動て・・・でも確かにそうだね・・・」
彗:「あの時は何があったんだっけ・・・?すっごい風が吹いて・・・急にひんやりして・・・。」
昴:「それで?」
彗:「昴が、・・・どこ見てるのか分からないような眼をしてて・・・」
昴:「はい?」
彗:「急に、「僕はこの世界を変えてやる!」とか言い出して・・・」
昴:「(嫌そうに)ぅえ・・・?」
彗:「ママにげんこつされて正気に戻ったんだっけ」
昴:「何気に母さん最強なんだよね・・・」
彗:「それで結局どういうチカラなのか・・・分からないわけだけど・・・。」
昴:「風を起こしたりできるのかな・・・?んー・・・!(と気合を入れてみる)」
彗:「え・・・昴何そのポーズ・・・。」
昴:「「俺の右手が真っ赤に燃える」的な?」
彗:「何よそれ・・・中二かよ・・・。それにしても何も出ないわね?」
昴:「まぁこれで何か出ても怖いんだけど(昴、突然苦しみだす)・・・ぅぅっ・・・。」
彗:「え?」
昴:「う・・・ぐぁ・・・はっ、はっ(呼吸が荒くなる)な、に、こ・・・れ・・・・・・」
0:部屋の中を強い風が吹き荒れる。
彗:「ちょっと、昴!?」
昴:「・・・。」
彗:「昴、昴!!」
昴:「す、い・・・?・・・サワ・・・る、ナ・・・!」
0:昴、彗を突き飛ばす
彗:「ぅわ!?」
0:強い風はどんどん温度を下げて冷風になる。
彗:「!?さむっ・・・!何なのこれ・・・!」
昴:「すい・・・彗・・・!」
彗:「え・・・?」
0:風が収まり、昴の周りを大きな雪の結晶のようなものが廻っている。
昴:「何だかわかんないけど・・・もしかして僕も・・・?」
彗:「うん・・・たぶん・・・っていうか昴、アンタ大丈夫なの?」
昴:「えっと・・・たぶん・・・急に胸が苦しくなったんだけど・・・今は何だかすっきりしてるし・・・ほっ!」
0:アイスコーヒーが入ったグラスに雪の結晶が飛び込み、一瞬で凍結する。
彗:「・・・はぁっ!?」
昴:「えへへ・・・なんか出来ちゃった・・・。」
彗:「ぐぬぬ・・・!何で昴は出来てアタシが出来ないの・・・!?」
昴:「いや・・・分かんないけど・・・。」
彗:「あー!!!もう!!!分からんものは分からん!!また明日にしよ!寝る!!」
昴:「お、お休み、彗・・・。」
彗:「お休み、昴!」
0:昴の部屋のドアが乱暴に閉まる。昴、右手をグーパーしながら。
昴:「・・・うーん・・・この感じ・・嫌な予感がする・・・。」
0:自室に戻った彗。
彗:「昴・・・さっきは・・・ごめんね。でもあたしだって恥ずかしいんだからな・・・うううぅ!」
0:彗、自室の別途に倒れ込み、枕に顔を押し付けてうなり続ける。
0:
0:場面転換。彗・昴のモノローグ。
昴:(N)「彗の潤んだ瞳は、鮮やかなオレンジ色に光っていて。」
彗:(N)「昴の驚いた瞳は、深海のようなブルーの光を帯びて。」
昴:(N)「唇が触れ合ったその時。」
彗:(N)「私は、一瞬、ふっ、と力が抜けるのを感じた。」
昴:(N)「彗の瞳の光は・・・まるで蝋燭(ろうそく)の灯(ともしび)が、消えるように、」
昴:(N)「一瞬の強い光の後、黒く戻っていった。」
0:その深夜、とある民家の屋上。天野家を見つめる男女二人。
橙花:「はぁ・・・。」
男:「どうした?」
橙花:「あのさ・・・前にも言ったけど、あの子、私のクラスメイトなんだけど。」
男:「で?」
橙花:「・・・。」
男:「殺したくない、なんて・・・今更言わないよな?」
橙花:「・・・他に誰か居なかったの?」
男:「俺たちは「魔法使い」を始末する。それだけだ。違うか?」
橙花:「(ため息)はぁ・・・。」
男:「この世界に魔法使いは不要。」
橙花:「だからって、あの子たちは目覚めたばかりでしょ?」
男:「危険な芽は摘んでおくに限る。あの子供二人を始末し、両親も消す。」
橙花:「・・・(切なげに)そう・・・。」
男:「早いうちに覚悟を決めておくんだな。」
0:男の姿は闇に溶けるように消えていく。
橙花:「彗ちゃん、昴君、どうして、あなたたちなの・・・?」
0:朝、昴の部屋。
0:昴、彗の夢を見てうなされる。
彗:「(昴の夢の中、消え入りそうな彗の声)昴・・・アタシ、待ってるから・・・。」
昴:「嫌な・・・夢・・・。」
昴:「彗・・・泣いてた・・・。何だろ、この感じ・・・。」
0:彗が昴を起こしに来る。(≧▽≦)←こんな表情で
彗:「(できるだけ大声で)おぉ~い!早く起きろぉ~!」
0:彗、おたまでフライパンを叩きながら登場。
昴:「(寝起きでうなるように)うーるーさーいー!」
彗:「(呆れながら)アンタ何してんのよ!今日からまた学校でしょ!?」
昴:「彗がうるさいから行かない!!」
彗:「起きないとこれ鳴らし続けるわよ!!」
0:彗がフライパンを「カカカン!」と連打。
昴:「近所迷惑だからね!」
彗:「ほら、さっさと起きる!」
昴:「いやだ・・・学校行きたくない・・・。」
彗:「バカなこと言ってないで!ほぉら!」
昴:「ううう・・・起きる・・・着替えるから・・・。」
彗:「はいはい!んじゃ下で待ってる!」
昴:「ん・・・。」
0:間。朝の食卓の上。焼き鮭にご飯、味噌汁、生卵、海苔、納豆etc。
昴:「・・・。」
彗:「・・・昴?」
昴:「(眠そうに)んー・・・?」
彗:「アンタそんなに朝弱かったっけ?ってか学校行きたくないって・・・。」
昴:「彗は・・・昨日のことさ・・・気にしてないの?」
彗:「うん?何を?」
昴:「いきなり・・・魔法とかさ・・・。」
彗:「そっち?」
昴:「え?」
彗:「え?・・・いやまぁ・・・そりゃぁ、気にはしてるよ?」
昴:「うん。だからさ、・・・色々考えちゃってさ・・・。」
彗:「例えば?」
昴:「昨日のコトがバレる、とか。」
彗:「ん」
昴:「何でこんなチカラがあるのかな、とか・・・。」
彗:「・・・(渋い顔をする)。」
昴:「あれ?」
0:すぱーん!と彗がテーブルを手のひらで叩く。
彗:「・・・いやキスのコト触れんかいっ!」
0:彗の手のひらで火花が散る。
昴:「やっぱりそっちだった!」
昴:(N)「彗には言えないけど、本当は、必死に調べていたんだ。二人の魔法のコト、僕と彗の、過去のコト。」
0:場面転換。二人の通う学校の教室にて。
彗:「おはよー!」
橙花:「彗ちゃんおはよー」
クラスメイト:「彗、ちーっす!」
彗:「おっすおっすー!みんな昨日のみずがめ座流星群、見た~?」
橙花:「彗ちゃんに教えてもらったから、気になってずっと眺めちゃってたわ。」
クラスメイト:「あー、部活帰りに見てたけど・・・方角が分かんなくってさー!あんま見れんかった・・・!」
彗:「そっかそっか、うちは昴が望遠鏡で必死に見ててさー!」
橙花:「昴君、そういうの詳しいもんね。さすが天文部。」
彗:「アイツほぼ幽霊なんだけどなぁ・・・。」
クラスメイト:「彗は見てたん?」
彗:「あー、昴に望遠鏡覗かせてもらったわー。流星群ってすご、ってなったわ。あんなに飛ぶと思わなかった!」
橙花:「望遠鏡で見れるっていいわね、めちゃくちゃ見れそうじゃない?」
彗:「うん、凄い良く見えてさー!でも昴が言うには、もっと街の明かりのないところがいいんだって。」
クラスメイト:「それ聞いたことあるなー。街の灯りがあると、その光のせいでよく見えないんだってさ。」
彗:「そうそう、だから昴、将来は山に籠(こも)りたいって言ってる・・・。」
橙花:「さすが名前が「昴」ってだけあるわねー。星とかのことに目がないっていうか。」
彗:「まぁその前にアイツ体力付けないと、山で生きていけないっしょ・・・。」
クラスメイト:「あー、それなー。」
橙花:「彗ちゃん、鍛えてあげたら?バスケ部なんだし。」
彗:「絶対アイツ、「めんどくさーい」って言って聞かないわよ。そんなんで山で暮らせるかってーの!」
3人:(笑う)
橙花:「あ!噂をすれば、じゃない?昴君、おはよう。」
昴:「あ、おはようございます。どもです・・・。」
彗:「昴、どうしたの?」
昴:「うん。これ持ってきた。」
0:昴、彗のお弁当箱を差し出す。
彗:「え?アタシお弁当忘れてた?嘘でしょ?」
0:彗、自分の鞄を漁るが弁当箱が見つからない。
彗:「あー、忘れてたみたい・・・さんきゅ、昴!」
昴:「うん。それじゃ」
橙花:「(帰ろうとする昴にかぶせて)まーまー昴君!もう少し居なさいよ。」
昴:「はい・・・?」
橙花:「昴君、彗ちゃんと暮らすようになってどう?何か変わった?」
昴:「いえ、特には・・・。」
クラスメイト:「えー?彗となんか変なイベントとか発生してね?」
昴:「変な・・・?」
橙花:「そうそう!あの・・・ほら、ラッキースケb・・・いたっ!?」
0:彗、橙花をはたく。
彗:「(恥ずかしそうに)ちょっと!橙花やめてよねそういうの!昴も何か言いなさいよ!」
橙花:「んん~?彗ちゃん、顔が赤いわよ?実は何かあったんでしょ?」
彗:(真っ赤になって全否定する)「ないない!ないってば!」
昴:(N)このときは、あんなに早く「終わりの始まり」が訪れるなんて・・・思わなかった。
0:場面転換。放課後の部活、バスケ部にて。彗が試合に出ている。彗のシュートチャンス。
バスケ部員:「彗!撃って!」
彗:「っ!!・・・え・・・?」
0:ボールは力なくふわっと放物線を描き、リングには届かず、相手チームの手に渡る。呆然とする彗。
彗:「嘘・・・?」
バスケ部監督:「彗!ディフェンス!」
彗:「はい!あっ!!」
0:彗が足をもつれさせて、膝から崩れるように転倒する。そのまま動けない彗。
バスケ部員:「彗!?」
バスケ部監督:「彗!大丈夫か!?」
彗:(N)「その後のことは、よく覚えてない。」
彗:(N)「ただ、シュートのとき、力が全然入らなかったことだけは、はっきり覚えている。それがとても、ショックだったから。」
彗:(N)「目が覚めたら、アタシは自分のベッドの上に寝ていた。」
彗:「すばる・・・?」
昴:「あ、彗。気分は?」
彗:「ん・・・大丈夫。」
昴:「うん。よかった。何か食べられそう?」
彗:「・・・うん。・・・ねぇ、昴?」
昴:「なに?」
彗:「・・・アタシ・・・病気じゃない、よね・・・?」
昴:「先生は「疲れてるんだろう」だって。検査も問題ないって言ってたし、頑張りすぎじゃない?バスケ。」
彗:「そうなのかな・・・アタシさ、凄く調子よかったんだ。」
昴:「うん。」
彗:「でも、・・・でもさ・・・。」
昴:「彗、休むことも大事だよ?」
彗:「昴・・・。」
昴:「・・・って、言われてるんじゃない?カミサマ的な何かに。」
彗:「何よそれ・・・昴は幽霊部員のくせにー・・・(少し笑う)。」
昴:「むー・・・それよりごはん、うどんでいい?冷凍の。」
彗:「うん・・・昴?」
昴:「んー?」
彗:「・・・それって昴が魔法で冷凍したの?」
昴:「え?」
彗:「・・・なんてねっ!冗談っ!・・・ありがと!」
0:彗、毛布で顔を半分隠す。
0:昴が部屋を出てしばらくして、彗のスマホが鳴る。
彗:「もしもし、橙花?電話なんて珍しいね・・・どうしたの?」
橙花:「うん、部活で倒れた、って聞いたから・・・ちょっとね。その、心配で。声が聴けたら、って思って。」
彗:「そっかー、ごめんね?」
橙花:「いいよ、大丈夫。・・・具合はどう?」
彗:「うん、今は落ち着いてるよ。明日は学校行けそう。」
橙花:「そのことなんだけど、彗ちゃん・・・。」
彗:「ん?」
橙花:「絶対に昴君から、離れちゃだめよ。」
彗:「へ?昴?なんで?」
橙花:「(なんで?にかぶせるように)それだけ。それじゃ。」
0:一方的に電話は切れる。
彗:「・・・橙花・・・?」
0:その日の夜中。とある民家の屋上。橙花。
橙花:「彗ちゃん・・・あとどれくらい生きられるんだろう・・・。」
男:「なぜあんなことを話した?」
橙花:「・・・。」
男:「お前のことだ。あの姉弟(きょうだい)を守ろう、などと考えているのかも知れないが・・・。」
橙花:「二人が一緒に居たほうが、都合がいいでしょ。」
男:「本当にそう思っているのか?」
橙花:「・・・何が言いたいの?」
男:「あの二人はお前に任せるが・・・くれぐれも、魔法をこの先の世界に残してはいけない。」
橙花:「どうして?」
男:「・・・「どうして」?」
橙花:「私は・・・まだ完全に納得が出来てない。」
男:「・・・(ため息)あの少年は・・・接吻(せっぷん)により姉から魔法を譲渡された。」
橙花:「え?」
男:「そもそも魔法の譲渡は禁忌なのだが・・・譲渡した相手があの少年、というのがまずいのだ。」
橙花:「それって、・・・どういう・・・?」
男:「あの少年は・・・「魔を統べる者」。」
橙花:「昴君が・・・?」
男:「遥か昔から、「魔を統べる者」は・・・世の破滅をもたらさんとしてきた。」
橙花:「破滅・・・?」
男:「一度目の接吻は・・・「魔を統べる者」を目覚めさせ・・・二度目はあの娘を「贄(にえ)」とする。」
橙花:「贄・・・?まさか!」
男:「あの娘・・・永くはないぞ。そしてあの少年も、この先このようなことが起きないようにせねばならん。」
橙花:「なん、で・・・?」
男:「「魔を統べる者」を滅ぼすために、我々は存在する。」
橙花:「・・・。」
男:「まさか・・・我々の時代に現れるとは、思いもしなかったが、な・・・。」
0:男の姿、再び掻(か)き消える。
橙花:「(辛さで泣き出しながら)ぐ・・・く、っ・・・!」
0:ほぼ同時刻。昴の部屋。
昴:「接吻(せっぷん)による魔法の譲渡・・・禁忌の行為・・・その代償・・・じゃあ彗は何で・・・?」
昴:「わからない・・・僕は・・・どうしたらいい・・・このままじゃ・・・時間がない・・・!」
0:場面転換。橙花の独白。
橙花:(N)「私の家は、武士の家系で、かつて「魔を統(す)べる者」を退治した家系なんだ、と教えられて育ってきた。
橙花:ウチが剣術の道場なのは、その名残(なごり)、なんだと。
橙花:私はずっと、それを「また冗談を言ってるわ」と話半分に聞きながら、
橙花:それでも普段の護身のために、剣術を学んでいた。
橙花:そもそも魔法だとかそんな、オカルトのような存在自体、信じてなどいなかった。
橙花:それが、こんなところで剣術の技を使うことになるなどと、思いもせずに・・・。」
0:とある日の早朝。宮泉家の道場にて。橙花、木刀を一心不乱に振る。
橙花:「んっ!・・・ふっ!!」
橙花:
橙花:(N)「ほんの少し前まで、・・・何でもない会話ができる、お友達だったのに。」
0:素振りを終えた橙花、庭の井戸の水で顔を洗い、手ぬぐいでぬぐう。
橙花:「(ため息)どうして、こんなことになったんだろう。」
橙花:彗ちゃん・・・昴君・・・。」
橙花:
橙花:(N)「私は何度この問いを繰り返しただろう。考えても考えても、
橙花:「ウチはそういう家だから」という結論に至ってしまう。
橙花:「そういう家だから」?あの与太話(よたばなし)、信じていなかったのに・・・?」
0:中庭に人影。橙花が気づく。
橙花:「・・・?」
男:「よう。」
橙花:「(不快そうに)・・・何?」
男:「殺気がダダ漏れだぞ・・・まぁ、それだけやる気なのかも知れんが。」
橙花:「・・・今ここで、あなたを殺してもいいのよ。」
男:「やめておけ、家名に泥を塗りたくないだろう?親殺し、としてな。」
橙花:「・・・(唇を噛む)。(小声で)友達を、・・・手にかけるくらいなら・・・家名なんて・・・。」
男:「・・・。」
0:男、いきなり橙花に平手打ちをする。
橙花:「っ?!」
男:「お前に宮泉(みやいずみ)の血が流れている限り、「魔を統べる者」を殺すのは使命だ。」
橙花:「あんな与太話・・・。」
男:「昨日のアレは、夢などではないぞ。あいつらを殺すのは、橙花、お前だ。」
橙花:「っ・・・!」
0:男、立ち去る。
橙花:「・・・私は・・・何も、できないの・・・?」
0:場面転換。学校のチャイムが鳴る。橙花、席に座ってぼんやりとしている。
彗:「おーい!とーぅかー!?」
橙花:「(驚いて)っ!?なに!?」
彗:「いやいや、何!?じゃないでしょーに。どしたん?ぼーっとしてさー。ってか珍しいね、油断してるねー(にしし、と笑う)」
橙花:「ん、・・・ごめん、なんでもないの。」
彗:「そっかー。ならいいけどさー?改めてぇ~、おっすー!」
橙花:「うん。おはよ、彗ちゃん。」
0:彗と橙花、ハイタッチする。
橙花:「彗ちゃん、体調、・・・本当に大丈夫?」
彗:「んー、まだちょっとだけダルさがあるけど・・・まぁダイジョブっしょ。」
橙花:「そう、それならいいんだけど・・・。」
彗:「ありがとね!昨日も連絡くれたし。心配かけちゃったね。」
橙花:「いいの。友達でしょ、私たち。」
彗:「当たり前じゃん!だからこそ、ありがとう、でしょ!」
橙花:「(N)そういってにっこり笑う彗ちゃんのことを、私は真っ直ぐに見ることが出来なかった。
橙花:どの口が、『友達』などと彗ちゃんに言えたのだろう・・・。」
彗:「・・・あれ?アタシ変なこと言った?」
橙花:「んーん、彗ちゃんってさ、・・・いい子だな、って。」
彗:「え~?何よそれー!あははっ!」
橙花:「ねぇ、彗ちゃん・・・?」
彗:「何?」
橙花:「その・・・今日は、昴君は?」
彗:「昴?うん、普通にガッコ来てるよ?」
橙花:「そう・・・。」
彗:「え、何?橙花もしかして昴のコト・・・(色めき立つ)。」
橙花:「えっ?・・・ああ、そういうことじゃないの。」
彗:「ふーん?・・・そうなんだー・・・?んっ!」
0:彗のスマホに電話がかかる。
彗:「知らない番号だ・・・。もしもし?」
彗:はい、そうです(だんだんトーンが落ちる)・・・え・・・嘘・・・?
彗:(涙声で)はい、はい!すぐに行きます!!」
0:彗、弾けるように席を立つ。
橙花:「彗ちゃん?」
彗:「橙花ごめん!今日アタシ学校休む!あとよろしく!!」
橙花:「えっ、彗ちゃ・・・?」
0:彗、早退してしまう。橙花、胸騒ぎがする。
橙花:「まさか・・・(青ざめ、息を呑む)っ・・・。」
0:学校の屋上、男が立っている。服や顔に返り血がついている。
男:「橙花、次はお前の番だぞ・・・どうする?」
0:廊下をダッシュする彗、昴の教室に向かう。その途中で昴と合流。
彗:「昴!」
昴:「彗!」
彗:「昴、パパとママが!」
昴:「聞いたよ、急ごう!」
彗:「パパとママ、・・・大丈夫だよねっ?」
昴:「二人とも頑丈なの知ってるでしょ?!」
0:彗と昴、病院に到着する。面会謝絶の札がかかった病室に飛び込む。
彗:「パパ!ママ!!」
0:二人の父母、重傷で意識がない。
昴:「二人とも、何で・・・?」
0:彗の母、意識を取り戻す。
彗の母:「すい・・・すば、る・・・。」
彗:「ママ!!」
昴:「母さん、何があったの?」
彗の母:「二人、とも、・・・天野のお爺ちゃんのところに・・・逃げ、なさい・・・。」
彗:「お爺ちゃん家?何で?どういうこと!?」
彗の母:「アンタたち、・・・キ、ス・・・した、でしょ・・・。」
彗:「っ!?」
彗の母:「(切れ切れの声で)そのせいで、彗のチカラを昴が受け取ってしまった・・・。」
昴:「ぼく、が・・・?」
彗の母:「彗が、魔法の力を譲渡してしまったの・・・あってはならない、こと・・・してはいけないこと。
彗の母:そして昴、アンタは・・・、「魔を統べる者」。」
昴:「(噛み締めるように)「魔を統べる者」・・・?」
彗の母:「彗、アンタはその贄(にえ)に、・・・なる・・・。」
彗:「にえ・・・?」
彗の母:「アンタの命が・・・っぐ・・・。」
彗:「ママ?ママ!!」
昴:「母さん・・・。」
0:母が意識を失う。その後の病院内、自販機から飲み物が出てくる。重たい雰囲気の彗と昴。
彗:「ママ・・・。」
昴:「・・・(難しい顔でうなる)。」
彗:「昴・・・?」
昴:「・・・父さんと母さんが襲われたのって。」
彗:「え?」
昴:「魔法のコトが原因なんじゃ・・・。」
彗:「へ・・・?」
昴:「それでさ・・・もしかしたら母さんが言ってた「魔を統べる者」、っていうか、・・・僕が・・・。
昴:誰かに狙われてるんじゃないか、って。」
彗:「昴が・・・?」
昴:「そういうこと、だよね・・・。それと」
彗:「それ、と・・・?」
昴:「彗、彗が倒れたのって。」
彗:「ん?」
昴:「魔法の力を僕に渡したから、だよね・・・?」
彗:「・・・。」
昴:「何であんなことしたの?」
彗:「それは!アタシはあの力に憧れてたし、昴とその・・・しちゃったら、
彗:(少しずつトーンが落ちていく)またあのときみたいなステキなことが起きるんじゃないか、って・・・だから・・・。」
昴:「そっか・・・うん。わかった。(優しく諭すように)彗、僕は怒ってるわけじゃないから、安心して。」
彗:「うん・・・。」
昴:「でも母さん、「贄」って言ってた・・・どういうことだろう・・・。」
彗:「にえ・・・「生贄」とかの「贄」?」
昴:「聞き間違いじゃなければ、たぶんそう。でも・・・。」
0:しばしの沈黙。口を開いたのは彗。
彗:「昴、ママの言う通りに逃げよ?」
昴:「天野のお爺ちゃんのところ?」
彗:「うん、・・・でも・・・おじいちゃんたちに迷惑かけるかな・・・?」
昴:「でも母さんの言うとおりにしなきゃだし・・・だったら・・・あえて寄り道しながら逃げる
昴:・・・それなら意外に撒(ま)けるかも・・・。」
彗:「うん、・・・その分どうなるか分からないけど・・・。」
昴:「やるしかない、よね。」
彗:「うん・・・。」
0:彗と昴、看護師にくれぐれもと父母を託し、病院を抜け、郊外の山の方に移動する。
彗:「(息を切らしている)はぁ、はっ、・・・まだ誰も追ってこないよね?」
昴:「(同じく息を切らしている)とりあえず、だけど・・・。でもどうしてウチだけが・・・?」」
彗:「分からない・・・全然心当たりないもの・・・昴は?」
昴:「僕も全然・・・。」
0:二人の後ろ、音もなく橙花が近づく。
橙花:「二人とも。」
彗:「(昴と同時)っ!」
昴:「(彗と同時)っ!」
0:橙花、ノーモーションで背後から彗を刺し貫く。
彗:「とう・・・か・・・?か、・・・っは・・・っ・・・!」
橙花:「ごめんね。」
昴:「彗?彗っ!!?」
橙花:「昴君・・・。」
0:彗の胸元から血が流れだす。切っ先が鋭すぎるためか、その流れはゆっくりとしている。
昴:「彗!彗!!(突然苦しみだす)う・・・ぁ・・・!?」
0:昴の足元から、放射状に冷気と強風が広がる。
橙花:「これが、・・・昴君の・・・チカラ・・・。」
昴:「・・・うぅぁああああああああああああ!!!」
0:昴が両手をかざすと、巨大なつららが現れ、橙花の真上から落下する。
橙花:「っ!」
0:橙花、間一髪で後ろに跳び、つららを避ける。なおもつららは橙花を襲う。
昴:「・・・カラメトレ(搦め取れ)っ!」
0:飛び退いた橙花の足に、氷の鎖が絡まる。動けなくなる橙花。歩み寄る昴。
橙花:「くっ!」
昴:「トウカ・・・さん・・・!」
0:昴の眼は、血走っていながら潤みを帯びている。
橙花:「昴君・・・あなた・・・覚醒が・・・?!」
昴:「どうしテ・・・こンナ・・・コト・・・!!」
橙花:「あなたたちが・・・魔法に目覚めたから・・・。
橙花:私たちは・・・「魔を消し去る者」よ。
橙花:そして昴君・・・あなたは、・・・「魔を統べる者」。
橙花:あなたの力が解放されると、この世のあらゆる「悪魔」と言われる奴らがこの世界に解き放たれる。
橙花:昴君、・・・あなたを中心として。」
昴:「ぼくタちヲ・・・こロすノ・・・?」
橙花:「「魔を消し去る者」のつとめを、果たすわ・・・。ごめんなさい、昴君。」
昴:「僕たちハ・・・ぐっ・・・死ぬわけには、いかない!」
0:昴、脳内に自然に流れてくる言葉をそのまま声に出す。
昴:「氷の奔流(ほんりゅう)より創り出す凛冽(せいれつ)な刃よ、
昴:我が前に立ち塞がる者を断ち切り、紅蓮(ぐれん)の血潮を舞い散らせん。氷の刀、その名をとどろかせ!」
昴:
昴:「氷刃・六華(ひょうじん・りっか)!」
0:昴の右手に氷でできた豪華な装飾の剣が現れる。
0:橙花、座った状態から刀を弓矢を引くように引き、「突き」の姿勢。昴、六華を構える。
橙花:「『絶華、壱式(ぜっか・いちしき)』!!!」
昴:「ぐっ!!!」
0:昴、剣撃を六華で受け止めようとするが、六華を折られてしまう。
橙花:「昴君・・・。」
昴:「六華!!」
0:昴、再び六華を召喚、攻勢に出る。めったやたらの攻撃だが・・・。
橙花:「っ!く!」
0:昴の気迫に押される橙花。
橙花:「ぅあ・・・っ!」
0:橙花、受け止めきれず肩口を斬られる。昴、畳みかける。
昴:「ぅあああ!!」
橙花:「っ!」
0:昴の一突きが橙花の胸元を貫く。
橙花:「すば・・・ん・・・すぃ・・・ちゃ・・・。」
0:橙花、倒れる。
昴:「はー、はー・・・っ。彗・・・。」
0:昴、彗のもとに。
昴:「彗、彗!」
彗:「・・・すば、・・・る・・・(呼吸はするものの、声はかすれる)。」
男:「おい。」
昴:「っ!」
0:昴、弾けるように振り向く。
男:「ったく・・・面倒ごと増やしやがって。少年、悪いがおとなしくやられてくれねぇか・・・?」
昴:「あなた、は・・・?」
男:「そこで氷漬けになってる娘の、親・・・だが・・・まぁそれはいい。」
昴:「橙花さんの・・・?」
男:「あー、そういうのは今どうでもいいんだ。お前さんが魔法を使えるばっかりに、
男:こういう状況になってるわけだが・・・。それももうどうでもいい。」
男:お前さんたちを始末することが、宮泉の宿命なんだ。悪いな。」
0:男、視認できないほどの速度で刀を振るう。
昴:「!!」
0:自分をかばおうとした昴の両腕から氷の盾が発生し、刀が盾に食い込む。
男:「(少し感心したように)へえ。」
昴:「・・・。」
0:昴、後ろに跳び、距離を取る。
昴:「『六華』!!」
0:昴の腕に絡まるように、氷の刃が発生する。
男:「剣で俺に勝てると思うか?」
昴:「(震える声で)やってみなくちゃ、分からない・・・。」
男:「ふぅ・・・命のやり取りは一発勝負だ。来いよ。」
0:昴、剣道の中段の構え。
男:「いくぞ。」
昴:「(小声で)しもばしらよ、こおりの・・・あらし・・・ぜつ・・・いてつき・・・」
男:「はあああああっ!!!」
昴:「『天牢雪獄(てんろうせつごく)』!!!」
0:男、動き出した姿勢のまま、氷漬けになる。魔力を大きく使った昴、膝をつく。
昴:「・・・っぐ・・・ふぅ・・・。はぁ、はぁ・・・。」
0:昴、再び彗のもとへ。
彗:「すばる・・・。」
昴:「彗、・・・しゃべらなくっていいよ・・・。」
彗:「すばる、アタシ、しぬの・・・?」
昴:「そんなこと、させないよ。今は、少し休んでてね。」
昴:「魂の渦に踊るような寒気を纏(まと)い、氷の精霊たちよ、冷たい鎖を紡ぎ出せ。
昴:永遠(とわ)の眠りに堕ちるように、相手を凍りつかせ、時間の流れを停めよう。
昴:寒冷なる氷漣(ひょうれん)に包まれし者よ、その存在を氷像と化し、永劫(えいごう)の眠りに閉ざされよ。
昴:凍結の呼び声、凍魂(とうこん)の謳歌!『氷結封縛(ひょうけつふうばく)』!」
0:彗の身体が、足元から凍り付いていく。
彗:「昴・・・?」
昴:「必ず、また一緒に暮らせるから・・・待っててね。」
彗:「うん・・・アンタ・・・強かったんだね、最初から。」
昴:「もう・・・今それ言う?」
0:二人、そっと笑う。彗の全身が氷に包まれようとする。
彗:「昴、アタシ、待ってるからね。」
昴:「うん。待っててね。・・・おやすみなさい。」
0:彗、氷に包まれる。疲労で大の字に倒れ込む昴。しばらくの間。
昴:「・・・(ため息)これから・・・彗をもとに戻さなきゃ・・・。」
昴:
昴:「(N)僕の力は全て彗からもらったもの。だから、彗に返さなくちゃ。
昴:何より魔法に憧れていたのは、他でもない、彗なんだから。
昴:彗が僕の贄(にえ)になって死ぬなんて、絶対に嫌だ。
昴:だけど今は、彗を冷凍保存して、彗を元に戻す方法を探さなくちゃいけない。
昴:彗が僕の贄じゃなく、死ぬこともなく、普通に暮らせるようになる方法を。
昴:でも、・・・魔法を使いこなす彗も、ちょっと、見てみたいかも。」
昴:
昴:「僕と彗が、逆だったらよかったのにな・・・。」
0:昴、山の奥深くに姿を消す。後ろから蝙蝠(こうもり)やゴブリンらしき影が、そっと昴の後を付いて行く。
0:
0:おしまい。