台本概要
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タイトル | エゴイスト |
---|---|
作者名 | 柿間朱夏 (@syuka_kakima) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男2、女3) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
とある高校の、文化祭前日。 いよいよ明日が舞台本番というこの差し迫った時に、5人を衝撃が襲う。 「え?私たちの台本と同じじゃない?これ」 台本を横流ししたのは一体誰だ!?テンポよく進む、軽めのサスペンス会話劇です。 連絡不要ですが、Xでメンション付けて告知してくださるとめちゃくちゃ嬉しいです 962 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ハルカ | 女 | 34 | 実は健気な女の子 |
ナツキ | 女 | 41 | 勝ち気な女の子 |
アキト | 男 | 44 | 陽気な男の子 |
トーマ | 男 | 34 | 物静かな男の子。 カナの事が好きだけど、本編には全く関係ありません。 |
カナ | 女 | 26 | 気弱な女の子 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:夕暮れの教室に5人の学生がいる。神妙な面持ちで、相手の出方を伺っている様子
ナツキ:(痺れを切らして)んで?いつまでこうやってるの?
アキト:そりゃ…裏切り者が出てくるまでじゃない?
ハルカ:いつ出てくるのよ?
トーマ:それは裏切り者本人に聞いてくれ。僕には待つことしか出来ない
アキト:それにしても、さっき練習してた奴らのシナリオ、マジでビビったよな!俺らが明日文化祭で演じるやつと瓜二つじゃん!
トーマ:要所要所のセリフは多少違ったものの、オチまで完全に一緒だったからな
ハルカ:似てるなんてもんじゃない、完全に盗作よね
ナツキ:つまりこの中に、私たちのシナリオを横流しした奴がいるってことだよね?
アキト:まあ俺達のシナリオっていうか、書いたのはカナだから、正確にはカナのシナリオだけどな
カナ:ねえ、私別に犯人とか探さなくてもいいよ!
トーマ:何言ってんだよ、一番の被害者なのに。自分のアイデアをパクられて悔しくないのか?
カナ:それは、もちろん悲しいけど……。でも今日あの人たちのリハーサル見てたら、悔しいけど私の台本よりも良くできてたし……
ハルカ:そんなことないよ!私はカナの台本の方が好きだよ!なんていうかこう……情熱的でさ!
トーマ:僕だってそうだよ!大体あっちはカナの台本をパクってんだから。ゼロから作り上げたカナの方がすごいに決まってるじゃないか
アキト:それに、元々ある文章をかっこよくする方が楽に決まってんじゃん、気にすんなって!
ナツキ:アキト、あんた馬鹿じゃないの?それってつまりあっちの台本の方がセリフのセンスがいいって言ってんのと一緒でしょ!
アキト:えっ!?いや、そういうつもりじゃなかった、俺はただ慰めるつもりで
ナツキ:あんたねぇ、ほんと口に出す前に一旦頭の中で喋ってから口にしなさいって、いつも言ってんでしょ!
アキト:それはセリフの話だろ!
ナツキ:実生活でもそうよ。ほんと考えなしなんだから。脳みそ入ってんの?
アキト:少なくともナツキよりは入ってるわ!
トーマ:二人ともやめろよ、今そんなこと話してる場合じゃないだろ?とにかくもう明日の本番まで時間がない。このままアイツらと同じ内容でやるのか、演目を変えるのか。どうするんだよ
アキト:今更台本変えられるわけねーだろ!俺がセリフ覚えるのに何ヶ月かかったと思ってんだよ!それに衣装も小道具も、全部用意しちまってんだぞ?
ハルカ:でも、このままやったって、順番的に向こうの方が先にやるし、悔しいけど、演技のクオリティも向こうの方が上だし……
ナツキ:いい笑いものになっちゃうよね、私達
カナ:じゃあ朗読とかにしたらどうかな!もう台本を諦めてさ
トーマ:でも、せっかくカナが一生懸命書いてくれたのに
カナ:私のことは気にしないで!また別のを書くからいいよ
アキト:カナが良くても、俺は許せねえよ!絶対犯人を捕まえて、カナに土下座させてやる
ナツキ:そういうあんたも容疑者の1人だっていうこと、忘れないようにね
アキト:は?あんなにやりたがってた俺が犯人なわけねーだろ!
トーマ:それはどうだろうな?やりたがってた割に演技はド下手くそ。当日恥をかきたくなくて、横流しした可能性もある
アキト:トーマ、てめえもっかい言ってみろ!
カナ:(大声で)みんなやめてよ!
ナツキ:カナ……
カナ:私はみんなが好きだよ。私ほんとに人見知りで、転校してきてクラスに馴染めるか、すごく不安だったけど、ナツキちゃんとアキトくんが真っ先に話しかけてきてくれて、学級委員のトーマくんが色々学校の事を教えてくれて、ハルカちゃんは、私が前の学校で習ってないところの勉強を放課後まで付き合って教えてくれた
ハルカ:カナ……
カナ:だから私は、みんなを疑いたくないし、みんなが疑いあってるところも見たくない。やめようよ、こんな犯人探し。本当に私は平気だから……
トーマ:カナがそう言うならもう…
ナツキ:(遮って)悪いけど、もうカナだけの問題じゃないのよ。私、中学の時の友達とかに明日はすっごい芝居するよって宣伝して、いっぱい呼んじゃってんだから。今更ただの朗読やるなんて冗談じゃないわ
アキト:お前のあのくっさい芝居、よく宣伝できたな。聞かせるのか?「(棒読みで)よくも私に傷を負わせたなー!お前ら殺してやるうー!」って
ナツキ:ぶっ殺されたいの?アキト
アキト:おーこわ。その迫力を本番で出せればな
ナツキ:(殴りかかる)このっ
トーマ:やめろ!何度も言わせるな。そんなくだらない言い争いしてる暇はないんだよ
ナツキ:ごめん
アキト:わりぃ
トーマ:みんなして主張し合っても、どうせ自分じゃないとしか言わないんだし、事実関係を洗っていこう
ハルカ:事実関係?
トーマ:そうだな、まずは、あのパクリ集団の中に知り合いがいるやつはいるか?
アキト:一人もいない
ナツキ:私も
カナ:私もいないよ
トーマ:僕も名前を知ってる程度のやつしかいない
アキト:大体あいつら3年だろ?関わる時がねえよ
トーマ:ん?ハルカ。顔色悪いな、どうした
ハルカ:……元彼がいる
アキト:まじで?だれ?
ハルカ:……ナギくん
トーマ:え!?あの演技力が半端なくて、滑舌が素晴らしくて、声色も自由自在に操れるうえに、立ってるだけでオーラが凄まじい、あのナギさん?
ハルカ:そうだよ
アキト:なんでナギさんと付き合ってたのにそんな大根なの?
ハルカ:うるさいな!上手い人と付き合ったからって、こっちまで演技が上手くなるわけないでしょ!
ナツキ:ハルカに彼氏がいたなんて、全然気づかなかった…てか、なんで教えてくれなかったのよ!ズッ友だと思ってたのに!
ハルカ:ちゃんと言おうと思ってたよ!でもすぐに別れちゃったから言うタイミングが無かったの!
カナ:どうして別れちゃったの?
ハルカ:だって……ナギくんがあまりに演技が上手すぎて、本気で言ってるのか演技で言ってるのかわかんなくなっちゃって
トーマ:は?あほなの?
ハルカ:何言われても本気じゃない気がして、もしかして私だけが好きなんじゃないかなって、遊ばれてるのかもって、不安ばっかりになっちゃって……別れちゃった
カナ:それじゃ、ナギさんのことを嫌いになって別れたわけじゃないってこと?
ハルカ:そうだよ…。今でもナギくんのファンだし
アキト:なあ、これもうハルカで決定じゃない?
ハルカ:え?なにがよ
アキト:ナギさんに台本見せたんだろ?
ハルカ:そんなわけないじゃん!別れてから一度も連絡とってないし!
アキト:とってない証拠あるのか?
ハルカ:証拠って…そんなのあるわけないでしょ!
アキト:ほら見ろ
カナ:やってない証明は不可能…。そういうの、悪魔の証明って言うんだよ
トーマ:さすがカナ。物知りだな!
ハルカ:とにかく私じゃない!明日の芝居をナギくんに見てもらって、私の事を認めてもらいたいって思いながら、ずっと稽古も頑張ってたんだから!
カナ:わー、ハルカちゃん健気……。
ナツキ:いやでも自分から別れたんだよね
アキト:それな?
ハルカ:それに、台本はナギくんにも、誰にも見せてない!
トーマ:僕も見せてないよ、ネタバレになるし
ナツキ:私も見せてないよ、見せてとは言われたけど断ったもん。
トーマ:ん?どうした。今度はお前の顔色が悪くなったな、アキト
アキト:じ、実はミサトに見せた
ナツキ:はあ?バッカじゃないの?なんでよりによってミサトに!
カナ:ミサトさんって誰?
ハルカ:あー、カナはまだ話したことないよね。ミサトはアキトの彼女。影でスピーカー女って呼ばれてるほど口が軽い。あの子に秘密を話したら、3日後には全校生徒に知れ渡る
カナ:なんて恐ろしい…
アキト:おい俺の目の前でミサトの悪口言うなよな
ナツキ:そんな呑気なこと言ってるところに悪いけど。あんたがファーストキスをミサトに鼻にしたって話。もう用務員さんにまで知られてるからね?
アキト:な!なんだと?
トーマ:ああ、僕も聞いた。なんでも早く目を閉じすぎたんだって?
アキト:そ、それはっ
ハルカ:しかも恥ずかしさで逆ギレして、ミサトの身長が低いせいだーって言い訳したんでしょ?
カナ:うわ……アキトくん、それはちょっとひどいね
アキト:ちがうんだよ!いや違わないけど、ちがうんだよお!
ハルカ:ミサト、ブチ切れてたよ?
アキト:今俺があいつにブチ切れそうだよ!なんでそんなこと他人にベラベラ喋ってんだよ!
ナツキ:まあミサトだし
ハルカ:喋ってないと死んじゃうし
トーマ:そういう子だし
ナツキ:で、そんなスピーカーに台本を見せたと。もうこれアキトで決定だね、犯人
アキト:ふざけんなよ!なんで俺が!
ナツキ:そりゃ直接広めたのはあんたじゃないかもしれないけど、情報提供したのはあんたなんだから、結局はあんたのせいでしょ
アキト:いやいや待て待て。落ち着いて考えろよ。見せたって言っても別にじっくり読ませたわけじゃないし、パラパラとめくった程度だぜ?あいつ芝居に全く興味無いし、一回読んだくらいでパクれるほど覚えられるわけないだろ?
トーマ:それもそうか
ハルカ:ミサト馬鹿だし
ナツキ:アキト並に記憶力ないしね
アキト:だから俺の前で堂々と彼女の悪口言うなって。あと俺の悪口をナチュラルに混ぜるのやめろ
カナ:ミサトさん、お芝居に興味無いんだ。楽しいのにね
アキト:だよなー!一緒にやろうぜって誘ってみたけど無駄だった
ナツキ:興味が無いといえば……トーマも最初に誘った時はそんな事言ってたよね?
トーマ:そりゃそうだよ。芝居なんかこれまで一度もした事ないし、そもそも人前に出るのは苦手だし
アキト:でもトーマはやる気になってくれたもんな!
トーマ:休み時間の度にお前がしつこく誘ってくるから断るのに疲れたんだよ
ハルカ:人前が苦手……。もしかして本番直前に怖気付いて、やめたくなった……とか?
トーマ:えっ僕、いま疑われてる?
ハルカ:動機としては十分有り得るよね。プロでもドタキャンする人とかいるし。
トーマ:いやいや、待てよ!確かに最初はアキトに半ば無理やり誘われて始めたけど、練習していくうちに演技する楽しさに目覚めたんだよ!そりゃ明日の本番は不安も多い。ちゃんとセリフを噛まずに言えるのか、セリフが飛んでしまったらどうしようか……でも、そんな不安もよりも、正直楽しみの方が大きいんだ!今までの練習の成果をやっと見せられるって!失敗しても楽しもうって!
カナ:いい心がけだね、トーマくん!
トーマ:ありがとう、カナ
ナツキ:そうだね、トーマの棒読みは酷いもんだけど、楽しんだもん勝ちだよね
トーマ:あれ、自然に今僕の事ディスった?
ナツキ:まあまあ!細かいことはいいじゃん。ようこそ演劇の世界へ!てことで
アキト:まるで演劇界の人間みたいな言い方だな
ナツキ:だって将来は絶対劇団に入りたいもん!気持ちは既に劇人(げきじん)です
カナ:ナツキちゃんはほんと、お芝居好きだよね
ナツキ:まあ今はまだ下手の横好きだけどね
アキト:確かに下手だな
ナツキ:お前が言うな
カナ:ごめんねナツキちゃん。主役に選ばなくって
ナツキ:何言ってんのよ!確かに今回の役はセリフは少ないけど、やりがいあって楽しいよ!
トーマ:主役のキャラはナツキには似合わないもんな、仕方ないよ
ナツキ:くやしいけどそれには言い返せないな。あーあ、もっともっと演技力つけないとなあ、どんなキャラでも演じられるようにさ!
アキト:まぁそれでいうと今回の悪役も演じられてはないけどな?
ナツキ:え?どういう意味よ、それ
アキト:なんていうか、気持ちが入ってないよな。セリフに
ナツキ:はあ?
ハルカ:確かに、心ここに在らず…って感じる時はあったかも
ナツキ:ハルカまで!
トーマ:本当は主役に心残りがあったんじゃないか?だから稽古に身が入らない。違うか?
ナツキ:そ、それは……、そりゃ主役やりたかったのは事実だけど……
ハルカ:うわ、なんか私この話入りづらいわ。主役奪ったの私だし
カナ:それを言うなら私もだよ!配役決めたの私だし
ナツキ:あー!もう!ちがうってば!私はこの悪役は気に入ってるの!セリフも馬鹿みたいに何度も練習したし!そもそも気に入ってないならわざわざSNSで拡散して人呼ばないって!
トーマ:そういえばそんなこと言ってたな
ナツキ:そうだよ!最初の方に言ったよ!
0:3秒ほど間
アキト:……なあ
ハルカ:……うん
ナツキ:たぶん、犯人この中にいないよね
トーマ:そうだな
カナ:私もそう思うよ!だってみんなこんなに私の台本大切にしてくれてるし!
ハルカ:カナ……
カナ:もしかしたら、私がプロットとか、どこかに落としちゃってたのかもしれない。もしそうなら、本当にみんなごめんね。こんないがみ合いさせて
ナツキ:もう!カナのせいって決まったわけじゃないでしょ!
ハルカ:そうだよ!大体一番ショックなのはカナでしょ?作品って自分の子ども同然じゃん!それを人に盗まれたなんて、本当に許せないよね!
カナ:ありがとう、ハルカちゃん
アキト:なあ、盗まれたって考えるのもうやめようぜ。なんか悔しいじゃん。偶然だったんだよ、偶然似てたんだよ!
ナツキ:アキト、あんたたまにはいいこと言うわね
アキト:「たまに」は余計だ
トーマ:事実は小説よりも奇なり、ってね。確かに偶然なのかもな。仕方ない、明日は朗読やるか。
ハルカ:もう練習時間も残ってないし、なんか短いやつになっちゃうけどね
ナツキ:このメンバーでやれるならなんでもいいよ!
アキト:調子いいなぁ、さっきまで俺の事疑ってたくせに
ハルカ:アキトだって私のこと疑ってたくせに
トーマ:そういうハルカは僕を疑ってたけどね
0:全員笑う
ナツキ:そんじゃ図書館いってなんか本さがそうよ!
アキト:だな、行くか!
トーマ:……あれ、カナは行かないの?
カナ:うん、私は出演者じゃないし
ハルカ:それもそうか、じゃあまた明日ね!
カナ:うん、明日の朗読楽しみにしてるね!みんな頑張ってね!
アキト:おう、じゃな!
0:3秒ほど間
カナ:(声のトーンを下げて)……はあ。前日にバレるとは計算外だったわ。まさかリハーサルに出くわすとはね。ったく冗談じゃないわよ。アタシの渾身の台本をあんな素人集団が演じる?ふざけんなよ!演技が好きだって言うから渡したのに、蓋を開けてみれば肝心の実力はど素人!感情の入れ方、間のとり方、アクセント……どれもこれも鳥肌が立つほどひどい!なんでお前らなんかにアタシの可愛い可愛い台本を読ませなきゃいけないんだよ!……(少し冷静になって)プロ並みの演技力をもつあの人達に、手直しした台本を渡せて良かった。おかげで明日は満足いく芝居が見られるし、素人集団は朗読をする羽目になった。ま、結果オーライだな。あーほんっとに良かった!!
0:夕暮れの教室に5人の学生がいる。神妙な面持ちで、相手の出方を伺っている様子
ナツキ:(痺れを切らして)んで?いつまでこうやってるの?
アキト:そりゃ…裏切り者が出てくるまでじゃない?
ハルカ:いつ出てくるのよ?
トーマ:それは裏切り者本人に聞いてくれ。僕には待つことしか出来ない
アキト:それにしても、さっき練習してた奴らのシナリオ、マジでビビったよな!俺らが明日文化祭で演じるやつと瓜二つじゃん!
トーマ:要所要所のセリフは多少違ったものの、オチまで完全に一緒だったからな
ハルカ:似てるなんてもんじゃない、完全に盗作よね
ナツキ:つまりこの中に、私たちのシナリオを横流しした奴がいるってことだよね?
アキト:まあ俺達のシナリオっていうか、書いたのはカナだから、正確にはカナのシナリオだけどな
カナ:ねえ、私別に犯人とか探さなくてもいいよ!
トーマ:何言ってんだよ、一番の被害者なのに。自分のアイデアをパクられて悔しくないのか?
カナ:それは、もちろん悲しいけど……。でも今日あの人たちのリハーサル見てたら、悔しいけど私の台本よりも良くできてたし……
ハルカ:そんなことないよ!私はカナの台本の方が好きだよ!なんていうかこう……情熱的でさ!
トーマ:僕だってそうだよ!大体あっちはカナの台本をパクってんだから。ゼロから作り上げたカナの方がすごいに決まってるじゃないか
アキト:それに、元々ある文章をかっこよくする方が楽に決まってんじゃん、気にすんなって!
ナツキ:アキト、あんた馬鹿じゃないの?それってつまりあっちの台本の方がセリフのセンスがいいって言ってんのと一緒でしょ!
アキト:えっ!?いや、そういうつもりじゃなかった、俺はただ慰めるつもりで
ナツキ:あんたねぇ、ほんと口に出す前に一旦頭の中で喋ってから口にしなさいって、いつも言ってんでしょ!
アキト:それはセリフの話だろ!
ナツキ:実生活でもそうよ。ほんと考えなしなんだから。脳みそ入ってんの?
アキト:少なくともナツキよりは入ってるわ!
トーマ:二人ともやめろよ、今そんなこと話してる場合じゃないだろ?とにかくもう明日の本番まで時間がない。このままアイツらと同じ内容でやるのか、演目を変えるのか。どうするんだよ
アキト:今更台本変えられるわけねーだろ!俺がセリフ覚えるのに何ヶ月かかったと思ってんだよ!それに衣装も小道具も、全部用意しちまってんだぞ?
ハルカ:でも、このままやったって、順番的に向こうの方が先にやるし、悔しいけど、演技のクオリティも向こうの方が上だし……
ナツキ:いい笑いものになっちゃうよね、私達
カナ:じゃあ朗読とかにしたらどうかな!もう台本を諦めてさ
トーマ:でも、せっかくカナが一生懸命書いてくれたのに
カナ:私のことは気にしないで!また別のを書くからいいよ
アキト:カナが良くても、俺は許せねえよ!絶対犯人を捕まえて、カナに土下座させてやる
ナツキ:そういうあんたも容疑者の1人だっていうこと、忘れないようにね
アキト:は?あんなにやりたがってた俺が犯人なわけねーだろ!
トーマ:それはどうだろうな?やりたがってた割に演技はド下手くそ。当日恥をかきたくなくて、横流しした可能性もある
アキト:トーマ、てめえもっかい言ってみろ!
カナ:(大声で)みんなやめてよ!
ナツキ:カナ……
カナ:私はみんなが好きだよ。私ほんとに人見知りで、転校してきてクラスに馴染めるか、すごく不安だったけど、ナツキちゃんとアキトくんが真っ先に話しかけてきてくれて、学級委員のトーマくんが色々学校の事を教えてくれて、ハルカちゃんは、私が前の学校で習ってないところの勉強を放課後まで付き合って教えてくれた
ハルカ:カナ……
カナ:だから私は、みんなを疑いたくないし、みんなが疑いあってるところも見たくない。やめようよ、こんな犯人探し。本当に私は平気だから……
トーマ:カナがそう言うならもう…
ナツキ:(遮って)悪いけど、もうカナだけの問題じゃないのよ。私、中学の時の友達とかに明日はすっごい芝居するよって宣伝して、いっぱい呼んじゃってんだから。今更ただの朗読やるなんて冗談じゃないわ
アキト:お前のあのくっさい芝居、よく宣伝できたな。聞かせるのか?「(棒読みで)よくも私に傷を負わせたなー!お前ら殺してやるうー!」って
ナツキ:ぶっ殺されたいの?アキト
アキト:おーこわ。その迫力を本番で出せればな
ナツキ:(殴りかかる)このっ
トーマ:やめろ!何度も言わせるな。そんなくだらない言い争いしてる暇はないんだよ
ナツキ:ごめん
アキト:わりぃ
トーマ:みんなして主張し合っても、どうせ自分じゃないとしか言わないんだし、事実関係を洗っていこう
ハルカ:事実関係?
トーマ:そうだな、まずは、あのパクリ集団の中に知り合いがいるやつはいるか?
アキト:一人もいない
ナツキ:私も
カナ:私もいないよ
トーマ:僕も名前を知ってる程度のやつしかいない
アキト:大体あいつら3年だろ?関わる時がねえよ
トーマ:ん?ハルカ。顔色悪いな、どうした
ハルカ:……元彼がいる
アキト:まじで?だれ?
ハルカ:……ナギくん
トーマ:え!?あの演技力が半端なくて、滑舌が素晴らしくて、声色も自由自在に操れるうえに、立ってるだけでオーラが凄まじい、あのナギさん?
ハルカ:そうだよ
アキト:なんでナギさんと付き合ってたのにそんな大根なの?
ハルカ:うるさいな!上手い人と付き合ったからって、こっちまで演技が上手くなるわけないでしょ!
ナツキ:ハルカに彼氏がいたなんて、全然気づかなかった…てか、なんで教えてくれなかったのよ!ズッ友だと思ってたのに!
ハルカ:ちゃんと言おうと思ってたよ!でもすぐに別れちゃったから言うタイミングが無かったの!
カナ:どうして別れちゃったの?
ハルカ:だって……ナギくんがあまりに演技が上手すぎて、本気で言ってるのか演技で言ってるのかわかんなくなっちゃって
トーマ:は?あほなの?
ハルカ:何言われても本気じゃない気がして、もしかして私だけが好きなんじゃないかなって、遊ばれてるのかもって、不安ばっかりになっちゃって……別れちゃった
カナ:それじゃ、ナギさんのことを嫌いになって別れたわけじゃないってこと?
ハルカ:そうだよ…。今でもナギくんのファンだし
アキト:なあ、これもうハルカで決定じゃない?
ハルカ:え?なにがよ
アキト:ナギさんに台本見せたんだろ?
ハルカ:そんなわけないじゃん!別れてから一度も連絡とってないし!
アキト:とってない証拠あるのか?
ハルカ:証拠って…そんなのあるわけないでしょ!
アキト:ほら見ろ
カナ:やってない証明は不可能…。そういうの、悪魔の証明って言うんだよ
トーマ:さすがカナ。物知りだな!
ハルカ:とにかく私じゃない!明日の芝居をナギくんに見てもらって、私の事を認めてもらいたいって思いながら、ずっと稽古も頑張ってたんだから!
カナ:わー、ハルカちゃん健気……。
ナツキ:いやでも自分から別れたんだよね
アキト:それな?
ハルカ:それに、台本はナギくんにも、誰にも見せてない!
トーマ:僕も見せてないよ、ネタバレになるし
ナツキ:私も見せてないよ、見せてとは言われたけど断ったもん。
トーマ:ん?どうした。今度はお前の顔色が悪くなったな、アキト
アキト:じ、実はミサトに見せた
ナツキ:はあ?バッカじゃないの?なんでよりによってミサトに!
カナ:ミサトさんって誰?
ハルカ:あー、カナはまだ話したことないよね。ミサトはアキトの彼女。影でスピーカー女って呼ばれてるほど口が軽い。あの子に秘密を話したら、3日後には全校生徒に知れ渡る
カナ:なんて恐ろしい…
アキト:おい俺の目の前でミサトの悪口言うなよな
ナツキ:そんな呑気なこと言ってるところに悪いけど。あんたがファーストキスをミサトに鼻にしたって話。もう用務員さんにまで知られてるからね?
アキト:な!なんだと?
トーマ:ああ、僕も聞いた。なんでも早く目を閉じすぎたんだって?
アキト:そ、それはっ
ハルカ:しかも恥ずかしさで逆ギレして、ミサトの身長が低いせいだーって言い訳したんでしょ?
カナ:うわ……アキトくん、それはちょっとひどいね
アキト:ちがうんだよ!いや違わないけど、ちがうんだよお!
ハルカ:ミサト、ブチ切れてたよ?
アキト:今俺があいつにブチ切れそうだよ!なんでそんなこと他人にベラベラ喋ってんだよ!
ナツキ:まあミサトだし
ハルカ:喋ってないと死んじゃうし
トーマ:そういう子だし
ナツキ:で、そんなスピーカーに台本を見せたと。もうこれアキトで決定だね、犯人
アキト:ふざけんなよ!なんで俺が!
ナツキ:そりゃ直接広めたのはあんたじゃないかもしれないけど、情報提供したのはあんたなんだから、結局はあんたのせいでしょ
アキト:いやいや待て待て。落ち着いて考えろよ。見せたって言っても別にじっくり読ませたわけじゃないし、パラパラとめくった程度だぜ?あいつ芝居に全く興味無いし、一回読んだくらいでパクれるほど覚えられるわけないだろ?
トーマ:それもそうか
ハルカ:ミサト馬鹿だし
ナツキ:アキト並に記憶力ないしね
アキト:だから俺の前で堂々と彼女の悪口言うなって。あと俺の悪口をナチュラルに混ぜるのやめろ
カナ:ミサトさん、お芝居に興味無いんだ。楽しいのにね
アキト:だよなー!一緒にやろうぜって誘ってみたけど無駄だった
ナツキ:興味が無いといえば……トーマも最初に誘った時はそんな事言ってたよね?
トーマ:そりゃそうだよ。芝居なんかこれまで一度もした事ないし、そもそも人前に出るのは苦手だし
アキト:でもトーマはやる気になってくれたもんな!
トーマ:休み時間の度にお前がしつこく誘ってくるから断るのに疲れたんだよ
ハルカ:人前が苦手……。もしかして本番直前に怖気付いて、やめたくなった……とか?
トーマ:えっ僕、いま疑われてる?
ハルカ:動機としては十分有り得るよね。プロでもドタキャンする人とかいるし。
トーマ:いやいや、待てよ!確かに最初はアキトに半ば無理やり誘われて始めたけど、練習していくうちに演技する楽しさに目覚めたんだよ!そりゃ明日の本番は不安も多い。ちゃんとセリフを噛まずに言えるのか、セリフが飛んでしまったらどうしようか……でも、そんな不安もよりも、正直楽しみの方が大きいんだ!今までの練習の成果をやっと見せられるって!失敗しても楽しもうって!
カナ:いい心がけだね、トーマくん!
トーマ:ありがとう、カナ
ナツキ:そうだね、トーマの棒読みは酷いもんだけど、楽しんだもん勝ちだよね
トーマ:あれ、自然に今僕の事ディスった?
ナツキ:まあまあ!細かいことはいいじゃん。ようこそ演劇の世界へ!てことで
アキト:まるで演劇界の人間みたいな言い方だな
ナツキ:だって将来は絶対劇団に入りたいもん!気持ちは既に劇人(げきじん)です
カナ:ナツキちゃんはほんと、お芝居好きだよね
ナツキ:まあ今はまだ下手の横好きだけどね
アキト:確かに下手だな
ナツキ:お前が言うな
カナ:ごめんねナツキちゃん。主役に選ばなくって
ナツキ:何言ってんのよ!確かに今回の役はセリフは少ないけど、やりがいあって楽しいよ!
トーマ:主役のキャラはナツキには似合わないもんな、仕方ないよ
ナツキ:くやしいけどそれには言い返せないな。あーあ、もっともっと演技力つけないとなあ、どんなキャラでも演じられるようにさ!
アキト:まぁそれでいうと今回の悪役も演じられてはないけどな?
ナツキ:え?どういう意味よ、それ
アキト:なんていうか、気持ちが入ってないよな。セリフに
ナツキ:はあ?
ハルカ:確かに、心ここに在らず…って感じる時はあったかも
ナツキ:ハルカまで!
トーマ:本当は主役に心残りがあったんじゃないか?だから稽古に身が入らない。違うか?
ナツキ:そ、それは……、そりゃ主役やりたかったのは事実だけど……
ハルカ:うわ、なんか私この話入りづらいわ。主役奪ったの私だし
カナ:それを言うなら私もだよ!配役決めたの私だし
ナツキ:あー!もう!ちがうってば!私はこの悪役は気に入ってるの!セリフも馬鹿みたいに何度も練習したし!そもそも気に入ってないならわざわざSNSで拡散して人呼ばないって!
トーマ:そういえばそんなこと言ってたな
ナツキ:そうだよ!最初の方に言ったよ!
0:3秒ほど間
アキト:……なあ
ハルカ:……うん
ナツキ:たぶん、犯人この中にいないよね
トーマ:そうだな
カナ:私もそう思うよ!だってみんなこんなに私の台本大切にしてくれてるし!
ハルカ:カナ……
カナ:もしかしたら、私がプロットとか、どこかに落としちゃってたのかもしれない。もしそうなら、本当にみんなごめんね。こんないがみ合いさせて
ナツキ:もう!カナのせいって決まったわけじゃないでしょ!
ハルカ:そうだよ!大体一番ショックなのはカナでしょ?作品って自分の子ども同然じゃん!それを人に盗まれたなんて、本当に許せないよね!
カナ:ありがとう、ハルカちゃん
アキト:なあ、盗まれたって考えるのもうやめようぜ。なんか悔しいじゃん。偶然だったんだよ、偶然似てたんだよ!
ナツキ:アキト、あんたたまにはいいこと言うわね
アキト:「たまに」は余計だ
トーマ:事実は小説よりも奇なり、ってね。確かに偶然なのかもな。仕方ない、明日は朗読やるか。
ハルカ:もう練習時間も残ってないし、なんか短いやつになっちゃうけどね
ナツキ:このメンバーでやれるならなんでもいいよ!
アキト:調子いいなぁ、さっきまで俺の事疑ってたくせに
ハルカ:アキトだって私のこと疑ってたくせに
トーマ:そういうハルカは僕を疑ってたけどね
0:全員笑う
ナツキ:そんじゃ図書館いってなんか本さがそうよ!
アキト:だな、行くか!
トーマ:……あれ、カナは行かないの?
カナ:うん、私は出演者じゃないし
ハルカ:それもそうか、じゃあまた明日ね!
カナ:うん、明日の朗読楽しみにしてるね!みんな頑張ってね!
アキト:おう、じゃな!
0:3秒ほど間
カナ:(声のトーンを下げて)……はあ。前日にバレるとは計算外だったわ。まさかリハーサルに出くわすとはね。ったく冗談じゃないわよ。アタシの渾身の台本をあんな素人集団が演じる?ふざけんなよ!演技が好きだって言うから渡したのに、蓋を開けてみれば肝心の実力はど素人!感情の入れ方、間のとり方、アクセント……どれもこれも鳥肌が立つほどひどい!なんでお前らなんかにアタシの可愛い可愛い台本を読ませなきゃいけないんだよ!……(少し冷静になって)プロ並みの演技力をもつあの人達に、手直しした台本を渡せて良かった。おかげで明日は満足いく芝居が見られるし、素人集団は朗読をする羽目になった。ま、結果オーライだな。あーほんっとに良かった!!