台本概要
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タイトル | 理想の世界に思いを馳せて |
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作者名 | ふらん☆くりん (@Frank_lin01) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女3) |
時間 | 70 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
【あらすじ】 清き心の持ち主だけが住むと言われる理想郷「ピュアラムール」。 これはそんな世界に連れて来られた一人の女性のお話。 ※この作品はフィクションです。実在の人物とは一切関係ありません。 ※多少グロテスクに感じる表現があります。 【著作権について】 本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。 また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。 【禁止事項】 ●商業目的での利用 ●台本の無断使用、無断転載、自作発言等 ●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等 【ご利用に際してのお願い】 ●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。 ●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。 ●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。 234 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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律子 | 女 | 149 | 山本 律子(やまもと りつこ)。商社に勤める23歳OL。真面目だが優柔不断であまり他人と関わるのは苦手。 |
紗栄子 | 女 | 96 | 三井 紗栄子(みつい さえこ)。律子と同じ会社で働く先輩OL。27歳。キャリアウーマンでとても明るく後輩思いな性格。 |
ライム | 男 | 36 | 理想郷「ピュアラムール」の住人。優しくて爽やかな25歳男性。 |
キラト | 男 | 26 | 理想郷「ピュアラムール」の住人。やんちゃで人懐っこい性格の男の子。14歳。 |
クレア | 女 | 32 | 理想郷「ピュアラムール」の住人。おっとりしていて柔らかな印象の30歳女性。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:理想の世界に思いを馳せて
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登場人物:
律子:*山本 律子《やまもと りつこ》。商社に勤める23歳OL。真面目だが優柔不断であまり他人と関わるのは苦手。
紗栄子:*三井 紗栄子《みつい さえこ》。律子と同じ会社で働く先輩OL。27歳。キャリアウーマンでとても明るく後輩思いな性格。
ライム:理想郷「ピュアラムール」の住人。優しくて爽やかな25歳男性。
キラト:理想郷「ピュアラムール」の住人。やんちゃで人懐っこい性格の男の子。14歳。
クレア:理想郷「ピュアラムール」の住人。おっとりしていて柔らかな印象の30歳女性。
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:途中に出てくる(カチッ)音は口で言ってもSEでもどちらでも構いませんが、必ず入れてください。
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本編:
律子:(M)もし、いじめや犯罪、貧困や戦争、その他生きていくうえで感じる恐怖や不安が全くない、そんな清き心の持ち主だけが住む理想の世界があるとしたら、あなたは行ってみたいですか?
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律子:あぁ…もう朝か。今日もまた憂鬱な一日が始まるのね。
律子:(M)今日もまた…。その言葉の示す通り、私は生きることに何の価値も見い出せない自分に嫌気が差していた。毎日会社に行っては積み上げられた仕事の山とクレームの電話に振り回される日々…。気付けば他人とコミュニケーションを取ることすら忘れ、一人黙々と業務をこなすだけのマシーンと化していた。孤立による耐え難い孤独感…正直会社に安息の場所などなかった。
紗栄子:山本さん、少し休憩したら?そんな怖い顔で毎日仕事してたら持たないわよ。
律子:お気遣いありがとうございます。でも、私には休んでる暇なんてないので。
紗栄子:そう…あまり一人で抱え込まないでね。
律子:はい。
紗栄子:あ、そうそう。これ、また時間がある時にでも行ってみると良いわ。とても癒されるから。
律子:ありがとうございます。
律子:(M)そう言いながらも私は渡された紙に目を通すことなく、そのままデスクに積まれた書類の上に無造作に重ねて仕事に戻る。そして時は過ぎ…。
:
律子:えっ…もう22時?はぁ…さすがに疲れたな…。そろそろ帰るか。ん?このチラシは確か…。
紗栄子:(これ、また時間がある時にでも行ってみると良いわ。とても癒されるから。)
律子:そういや紗栄子先輩がそんなこと言ってたっけ?なになに?「今話題沸騰中の見つめるだけで癒される神秘の泉『*洗心泉《せんしんせん》』」ねぇ…。まあどうせ*眉唾《まゆつば》ものだろうけど、せっかくだし今度の休みにでも行ってみるか。
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:-------------------休日
律子:あれ?おかしいな。確かにここのはずなんだけど誰もいない…場所間違えたかな?
紗栄子:あら、山本さんじゃない!来てくれたのね。
律子:紗栄子先輩…どうして先輩がここに?
紗栄子:あなたが来るのをずっと待ってたの。
律子:え…私を?私、先輩に今日ここに来るなんて言ってませんでしたよね?
紗栄子:そうね。でも山本さんならきっと来てくれるんじゃないかって思ってたのよ。
律子:そうなんですか。私も何となく行ってみようかなと思っていたので思いがけず先輩に会えて良かったです。
紗栄子:私も嬉しいわ。それより、ここが究極の癒しスポット「洗心泉」よ。早くあなたもこっちにいらっしゃい。
律子:はい。あ、あの先輩。その前に一つ聞いても良いですか?
紗栄子:ええ、どうぞ。
律子:チラシには「今話題沸騰中の」と書かれていましたが、私たち以外誰もいないんですけど?
紗栄子:それはね、ここは私と山本さんしか知らない特別な場所だからよ。
律子:え…?じゃあ、あのチラシは…?
紗栄子:あれは私があなたのためだけに作った特別なチラシなの。ここの所ずっと働き詰めだったじゃない?私、どんどんやつれていく山本さんを見ていられなくてね。ほら、あなたって流行に敏感でしょ?だからああやって書けばきっと来てくれるだろうって思ったの。
律子:ははは…そうだったんですね。つまり私はまんまと先輩に釣られたわけですね?
紗栄子:そういうこと。でもあなたに来て欲しかったのは本心よ。
律子:嬉しいです。ありがとうございます。
紗栄子:さ、そんな事より早くこっちに来て。
律子:あ、はい。〈紗栄子の元へ駆け寄る〉
紗栄子:ほら、あそこから泉が湧き出しているのが見えるかしら?
律子:はい。
紗栄子:この泉はね、水面を見ているだけでどんどん心が癒されていくの。
律子:水面を見ているだけで?
紗栄子:そうよ。でもただ見ているだけじゃダメなの。これから私が言うことをきちんとやれば必ず効果はあるから。ねぇ、やってみない?
律子:あ…はい。
紗栄子:じゃあまずは水面を見つめながら私に続いてこう唱えてね。「私のありのままの姿をあなた様に捧げます。どうか私の*穢《けが》れを清き水で洗い流してください」
律子:「私のありのままの姿をあなた様に捧げます。どうか私の*穢《けが》れを清き水で洗い流してください」」(あれ?…私の姿が水面に映し出されて…はぁ♡…どんどん心が軽くなっていくわ)
紗栄子:その調子よ。そのまま私の言葉に耳を傾けなさい…。
律子:はい…。(あぁ…それに紗栄子先輩の声を聞いていたら何だかうっとりしてきちゃった…)
紗栄子:「清き*水面《みなも》に汝が心を映す時、その肉体と魂を我らの世界に誘わん。汝に問う。我らと共に理想郷の民となる意思はあるか?」
律子:はい…あります。(え?私何言ってんの?)
紗栄子:よろしい。では私に続いてその身を泉に捧げなさい!それっ!〈泉に飛び込む〉
律子:はい!!(え!ちょ…まさか!ダメ…体が勝手に…きゃあああ!)〈泉に飛び込む〉
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:-------------------理想郷「ピュアラムール」
律子:う…うぅ、ここは?
紗栄子:あら、目が覚めたようね。ようこそ!我らが理想郷「ピュアラムール」へ。あなたは晴れてこの世界の住人となりました。
律子:え?理想郷の住人って…ちょっと紗栄子先輩、急に何言ってるんですか?冗談ですよね?
紗栄子:冗談?いいえ。私は本当のことを話しているだけよ。
律子:でも、会社はどうするんですか?急にいなくなったらみんな困るんじゃないですか?警察に捜索願いとか出されて*大事《おおごと》になっても嫌ですし、それに、無断欠勤なんかしたらそれこそ何言われるか…。
紗栄子:元いた世界のことなど気にしなくて良いの。それよりもこちらの世界を楽しみなさい。
律子:は、はい…。
紗栄子:ここは日常の不安や恐怖から解放された理想の世界。ここには清き心を持った人しかいないわ。だから争いや犯罪、貧富の差も何もない。誰もが幸せに暮らしていける場所なの。
律子:でも私…清き心なんて持ってませんけど…。
紗栄子:大丈夫。あなたは選ばれた人間。だから何も心配しなくて良いのよ。さぁ、あなたにもこの世界の住人としての証を付けてあげるわ。髪を上げておでこを出して。
律子:あ、はい…。〈おでこを出す〉
紗栄子:いくわよ。んっ…〈律子の額にキスをする〉
律子:(カチッ)ひゃ!き、キス!せ、先輩、いきなり何するんですか!?
紗栄子:うふふ…びっくりした?それより気分はどう?
律子:気分…ですか?うーん…何か頭の中で音がしたような気がしますが、あとはこれと言って変化はないです。
紗栄子:そう。
律子:あの…私、もう元の世界には戻れないんですか?
紗栄子:あら?戻りたいの?
律子:い、いえ…そういうわけじゃないですけど。この世界でも居場所がなかったらどうしようかと思って…。
紗栄子:大丈夫よ。みんなあなたを歓迎してくれるわ。
律子:分かりました。あの、先輩?
紗栄子:何かしら?
律子:紗栄子先輩もこの世界の住人なんですか?
紗栄子:ええ、そうよ。生まれてからずっとね。
律子:え?でも先輩はずっとうちの会社で働いていたじゃないですか?
紗栄子:それはね、山本さんのような人を見つけてこの世界に連れてくるためにあの会社に潜入してたの。
律子:え…何でわざわざそんなことを?ましてや、私なんか連れて来ても何も良いことなんてないですよ。
紗栄子:そんなことないわよ。必死で頑張っているのにいつも一人ぼっち。そんな人生辛すぎるじゃない?実は私、あの会社に潜入してからずっとあなたのことを見ていたの。
律子:私を?じゃあ先輩には全部見抜かれていたんですね…。
紗栄子:ええ。だからこそあなたをここに呼んだの。幸せになってもらうためにね。
律子:紗栄子先輩…うう…ありがとうございます。〈泣き出す〉
紗栄子:泣かないで。これからは笑って生きていける人生が待ってるんだから。
律子:ぐすん…はい、よろしくお願いします。
紗栄子:それじゃあ早速だけど、この世界を案内してあげる。あ、そうそう。一つ大事なことを忘れていたわ。せっかくこの世界の住人になったんだから、私があなたに新しい名前をプレゼントしてあげるわ。
律子:新しい名前…ですか?
紗栄子:そうよ。ちなみに私は「シズク」って言う名前なの。
律子:(カチッ)シズク…様…何て素敵なお名前なの!(あれ?前は別のお名前でお呼びしていた気がするのだけれど…。ダメだ、思い出せないわ。)
紗栄子:ありがとう。うーん、そうねぇ…「セイラ」ってのはどうかしら?
律子:(カチッ)セイラ…私はセイラ!わぁ…ありがとうございます!(はぁ♡シズク様にこんな素敵な名前をいただけるなんて、私ったら本当に幸せ者だわ!)
紗栄子:うふふ…気に入ってもらえて嬉しいわ…山本律子さん。
律子:あの…山本律子さんって誰ですか?
紗栄子:あ、ごめんなさい。ふと昔の知り合いの名前を呟いちゃったわ。気にしないで。
律子:そうなんですね。分かりました。
紗栄子:それじゃセイラ、私に着いて来なさい。
律子:はい!シズク様!
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:-------------------「導きの館」入口
紗栄子:さあ着いたわよ。
律子:まあ!何て大きくて神秘的なの!シズク様、ここは何の建物ですか?
紗栄子:ここは「導きの館」と言ってね、人々の暮らしの全てに対して大いなる導きを与えてくださるとても神聖な場所なのよ。ここに住む全ての人々はその導きに従って穏やかで平和な毎日を送っているわ。
律子:え…?それじゃあ何一つ自分で決められないってことですか?それって逆に不自由なんじゃ…。
紗栄子:うふふ。セイラ、あなたの言うことも分かるわ。でもね、人々が個々の考えや欲望に従って生きてしまったら世界はどうなると思う?
律子:えっと…お互いの意見が食い違って争いになります。
紗栄子:その通りよ。争いをなくし人々が平和に暮らすには個々の考えを捨て、導きに従って生きることが何より大切なの。
律子:うーん…そういうものですかねぇ…。
紗栄子:安心して。あなたも大いなる導きに触れればきっと分かるわ。さぁ、中に入りましょ。〈建物の中に入る〉
律子:は、はい。〈シズクの後に続いて中に入る〉
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:-------------------「導きの館」内部
紗栄子:ここが導きの館の中枢部「神託の祭壇」よ。
律子:わぁ…立派な祭壇ですね。
紗栄子:まずはあなたがきちんと導きを*享受《きょうじゅ》できるようにならないとね。
律子:導きを享受できるようになる…ですか?
紗栄子:そう。さっきも言ったようにここでは誰もが導きに従って生きているの。でもあなた自身が導きを受け入れられる体じゃないと、せっかくの導きが無駄になってしまうわ。だからこれから行なう儀式はあなたがこの世界で生きていくために絶対に必要なの。
律子:分かりました。
紗栄子:素直でよろしい。じゃあ早速だけど、この手形の上にあなたの手の平を乗せてくれるかしら?
律子:〈手の平を手形に置く〉はい。これで良いですか?
紗栄子:良いわよ。それじゃあ行くわね。「我らの迷える民のため、その大いなる導きを*以《もっ》て暗き道に一筋の光を示したまえ!」〈手形が怪しく光る〉
律子:(カチッ)ああ!!頭の中にキラキラした何かが流れ込んで来て、私の全てを書き換えていくの!!ふぁぁ♡…とっても気持ちが良いわ♡
紗栄子:さぁ、これであなたは導きを享受することができるようになったわ。
紗栄子:セイラ、気分はどう?
律子:はぁ♡何て素晴らしいの!心の中のモヤモヤがなくなって、とっても清々しい気持ちです。うふふ…幸せぇ♡
紗栄子:そう。それは良かったわ。これで儀式は終了よ。それじゃあ改めて、理想郷「ピュアラムール」はあなたを心から歓迎するわ。
律子:はぁ♡ありがとうございます!シズク様ぁ♡
紗栄子:さて、それじゃあセイラ、あなたを新しい家族の所に案内するわ。着いていらっしゃい。
律子:はい!
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:-------------------共同生活施設コクーン
紗栄子:着いたわよ。セイラ、ここが今日からあなたが暮らす家、共同生活施設コクーン1号棟よ。
律子:なんて可愛いお家なの!*繭《まゆ》みたいにまん丸でモフモフしてて!
紗栄子:うふふ…気に入って貰えて嬉しいわ。それじゃ中に入りましょうか。
律子:はい!
:
紗栄子:(コンコン)
律子:失礼しまーす。
ライム:これはこれはシズク様。わざわざお越しくださるとは何とありがたいことでしょう。さぁどうぞお入りください。おや?あなたは?
紗栄子:紹介するわ。今日からこの家の新しい家族になるセイラよ。みんな、仲良くしてあげてね。
律子:せ、セイラと申します。よろしくお願いいたします。
ライム:ようこそ我が家へ!俺はライム。困ったことがあったら何でも聞いてくれ。
キラト:僕はキラトって言うんだ。セイラお姉ちゃんよろしくね!
クレア:私はクレアよ。家族が増えて嬉しいわ。ちょうどあなたくらいの子が来てくれないかしらと思っていたところなのよ。
律子:嬉しいです!早く皆さんと仲良くなれるように頑張ります!
紗栄子:あら、頑張らなくて良いのよ。だってあなたたちはとっても仲の良い家族なんですから。
律子:仲の良い家族…(カチッ)うふふ…そうよね。私ったら家族相手に何かしこまってんだか。
ライム:(カチッ)あはは!まったくだ!
キラト:(カチッ)ねぇお姉ちゃん、今日は何して遊ぶ?
律子:うーん…そうねぇ、今日はキャッチボールでもしよっか?
キラト:やったぁ!
クレア:(カチッ)うふふ、セイラは本当に面倒見が良いわね。
律子:やだなぁ、クレア姉さんったら褒めても何も出ないわよ。
クレア:あら、それは残念ね。ライム、そろそろ買い出しに行って来てちょうだい。
ライム:あいよ!今日は気分が良いから飛び切り美味しいご馳走でも作るとするか!
律子:わぁ!ライム兄さんの手料理、とっても楽しみだわ!
紗栄子:(うふふ…セイラ、その調子よ。私はこのままいなくなるけど、私の事など気にせずに家族団欒の時を楽しみなさい。)
:
:-------------------その日の夜
キラト:ねぇみんな見て見て!僕、かなり頑張って精錬度上げたんだよ!
ライム:ん?どれどれ?…精錬度50%!ほほう!キラト、すごいじゃないか!
キラト:えへへ!嬉しいな!
クレア:偉いわね。あと半分で「*天昇《てんしょう》の儀」が受けられるわね!
律子:精錬度?「天昇の儀」?それって何だっけ?
ライム:何だセイラ、もう忘れたのか?まあ良い、何度でも教えてやるよ。良いか、よく聞いとけよ。俺たちピュアラムールの民がやるべきことは自分自身の魂の純度を上げていくことなんだ。
律子:魂の純度を上げる?
ライム:そうだ。俺たちは日々導きに従って生きているとは言え、魂のレベルは人それぞれ。そこで己の魂から不純物を取り除く作業…つまり、「精錬度」を上げることが何より大切なんだ。
律子:精錬度を上げないとどうなるの?
ライム:良い質問だな。もし精錬度を上げることを怠れば、体内に不純物、つまり悪い考えや*邪《よこしま》な気持ちが溜まり続けることになる。
律子:そっか…。
ライム:最終的に精錬度が0%になった者はここでの全ての記憶を消されてピュアラムールから追放されると言われているんだ。
律子:追放されちゃった人はどこへ行くの?
ライム:俺も詳しいことは分からないが、おそらくは次元の*狭間《はざま》を永遠に*彷徨《さまよ》うことになるんだろうな。
律子:怖いわ…でも、いきなり魂の精錬度を上げろって言われても、どうやってやったら良いか分からないわ。
ライム:よし!じゃあそれについては精錬度上げの達人、クレア姉さんに説明してもらおう。姉さん、よろしくな!
クレア:分かったわ。そうねぇ、精錬度を上げる一番手っ取り早い方法は、町の外れにある「浄化の広場」に行くことね。
律子:浄化の広場か。そこで何をするの?
クレア:自分自身と向き合って悪い考えや*邪《よこしま》な気持ちを一つ一つ吐き出しながら魂を綺麗にしていくの。あなたの中から悪い思考が消える度に精錬度は徐々に上がっていくわ。
律子:うーん、言葉で言われてもなかなかイメージ出来ないなぁ。
キラト:それじゃあさ、明日みんなで浄化の広場に行くってのはどうかな?
ライム:そうだな。たまにはみんなで行くか!
クレア:うふふ。楽しみね。それじゃあその時に「天昇の儀」についても教えてあげるわ。
律子:わーい!楽しみ!早く明日が来ないかな。
:
:-------------------翌日
クレア:さあ二人とも、今日は浄化の広場に行くんだから早く起きなさい。
律子:う、うーん…もう朝かぁ。
キラト:ふぁああ…良く寝た。
ライム:お前たち、朝ごはんできてるからさっさと食べて支度するんだ。
律子:はーい。
キラト:今行くよ。
:
:-------------------食卓を囲んで
律子:もぐもぐ…そう言えばずっと気になってたんだけど、みんなはどうやって精錬度を測ってるの?
ライム:精錬度を測るためにはこの特殊な宝玉「*涙石《なみだいし》」を使うんだ。
律子:何これ…とっても綺麗。透き通るような青色で、本当に涙みたいな形をしているのね。それで?これをどう使うの?
キラト:こうやって石を通して測りたい人のおでこの辺りを見ると数字が浮び上がってくるんだ。お?セイラお姉ちゃんの精錬度は15%かぁ。これからだね!
律子:うう…15%…まだまだ先は長いわね。
ライム:まあそう焦ることもないさ。ちなみに自分自身を測る時は、鏡や水面に映った自分の姿を涙石を通して見てみると良い。
律子:なるほどね。分かったわ。
クレア:せっかくだからセイラも一つ持ってなさい。これから使う機会がたくさんあるだろうから。〈セイラに涙石を渡す〉
律子:ありがとう!クレア姉さん!
ライム:それじゃあ朝食も食べたことだし、支度して出掛けるぞ!
律子:はーい!〈同時に〉
キラト:はーい!〈同時に〉
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:-------------------「浄化の広場」
ライム:さあ着いたぞ!ここが「浄化の広場」だ。
律子:うわぁ…もうこんなにたくさんの人がいる!
キラト:そりゃそうさ。みんな早く自分の精錬度を上げて「天昇の儀」を受けに行きたいからね。
律子:あ!そうだ。「天昇の儀」について聞くんだった。クレア姉さん、教えて!
クレア:うふふ…良いわよ。「天昇の儀」は精錬度が100%もしくはそれ以上に達した者だけが受けることを許される特別な儀式なの。
律子:100%もしくはそれ以上…
クレア:そして言い伝えでは「天昇の儀」を受けた者は、晴れて人間から天界の使者へと生まれ変わることが出来るそうよ。
キラト:天界の使者か…良いなぁ、僕も早く受けてみたいなぁ。
ライム:あと半分じゃないか。ちゃんと自分自身の魂と向き合っていれば、いつか必ず受けられる日が来るさ。
律子:それで、具体的にここで何をすれば良いの?
クレア:それじゃあこれから具体的な手順について説明していくわね。…と言っても、実際にやって見せた方が早いかしらね。
律子:うん。
クレア:まずは広場にゆっくりと腰を下ろして座るの。座り方はあぐらでも正座でもやりやすい方で構わないわ。そうしたら大地と繋がる感じを意識して背筋を伸ばして目を閉じるの。
律子:ゆっくりと座り、大地との繋がりを意識しながら背筋を伸ばして目を閉じる…。
クレア:そうしたら頭の中で思い付く限りのマイナスの感情や思考を強くイメージして、浮かんできた言葉を口に出してみるの。例えばこんな感じね。「ああ!昨日のカップルマジでムカつくわ!道路の真ん中で堂々とイチャついて!とっとと別れちゃえば良いのに!」
クレア:(カチッ)「昨日見掛けたカップルは本当に仲の良い感じが微笑ましくて。見ているこっちまで幸せな気分になったわ。末永くお幸せにね」
クレア:これで私の中からマイナスの感情が一つ浄化されたわ。さぁ、セイラもやってみて。
律子:分かった。マイナスの感情や思考をイメージして…「うう…何で思い通りの人生が送れないの!いつも誰かに邪魔されて!こんな世界消えちゃえば良いんだ!」
律子:(カチッ)「何も考えず、大いなる導きに従って生きてさえいれば幸せになれる。なんて素晴らしい人生なの!私の周りには素敵な人たちがたくさんいて、いつも優しくしてくれるの。あぁ…この世界がずーっと続けば良いのに。」
律子:ほんとだ!私の中からマイナスの感情が一つ消えたわ!
クレア:その調子よ。この広場ではマイナスの感情や思考を頭に思い浮かべて口にするだけで、大いなる導きが自動的にプラスに変換してくれるの。これを続けていくことで魂がどんどん精錬されて、いつかは全く濁りのない清らかなる存在になれるのよ。
律子:素敵ね!私も早くそうなれるように頑張るわ!
クレア:ええ。一緒に頑張りましょう!…さてと、ライムとキラトの方はどうかしらね?
:
ライム:「あの野郎…俺が断れない性格なのを良いことに、いつも価値のないガラクタばかり売りつけやがって!今度会ったら絶対ボコボコにしてやる!」
ライム:(カチッ)「あの人…俺のためを思って、いつも魅力いっぱいの商品をセレクトして売ってくれるんだ。本当にありがたいよ。今度会ったらお礼言っとこう」
クレア:どう?上手くいってる?
ライム:あぁ、順調だよ。セイラの方はどう?
クレア:大丈夫よ。ちゃんとコツを*掴《つか》んだみたい。
ライム:それは良かった。
クレア:キラトは?
ライム:あの子なら心配ないさ。あそこで黙々とやってるよ。
クレア:じゃあちょっと様子を見てくるわね。
ライム:あぁ、行ってらっしゃい!
:
キラト:「はぁ…どうせ僕は誰からも必要とされていないんだ。こんなつまらない人生なんて今すぐにでも終わりにしたいよ…。」
キラト:(カチッ)「えへへ!みんなが僕のことを大事に思ってくれてるんだ!こんな素敵な人生を一日でも長く楽しみたいな!」
クレア:頑張ってるわね。
キラト:うん!僕も早くクレア姉さんやライム兄さんに追い付きたいからね!
クレア:うふふ…大丈夫、キラトならすぐにでも追い付けるわよ。
キラト:わーい!クレア姉さんに褒めてもらっちゃった。そう言えばセイラお姉ちゃんはどんな感じ?
クレア:安心して。もうやり方は覚えたみたいだから。
キラト:そっかぁ!良かった!じゃあ僕も負けないように頑張らないとね!
クレア:あんまり無理しないでね。
キラト:ありがとう!
:
:-------------------その日の終わり
ライム:みんな、暗くなってきたしそろそろ帰ろうか。
クレア:そうね。二人とも、そのくらいにして帰るわよ。
律子:はーい。
キラト:もうそんな時間かぁ。あっという間だったなぁ。
クレア:セイラ、初めての魂の浄化はどうだった?
律子:うん!すっごく楽しかった!私ね、今日一日でだいぶ精錬度上がった気がするんだ。
クレア:どれどれ…25%!すごいじゃない!頑張ったわね。
ライム:こりゃあ油断してると一気に抜かれちゃうな。
律子:えへへ。嬉しいな。
キラト:僕も見て見て!
ライム:えっとキラトは…おっ!58%!やるじゃないか!
キラト:でしょ〜!ライム兄さんとクレア姉さんは?
ライム:俺は今日は3%アップで現在75%だ。
クレア:私は2%アップで80%よ。
律子:二人ともあと少しじゃない。羨ましいなぁ。
ライム:そうでもないさ。精錬度が高くなればなるほど一回の浄化による精錬度の上昇率は低くなっていくんだ。だからもっと頑張らないとな。
クレア:ライムの言う通りよ。私もまだまだこれからよ。
キラト:そうなんだ。じゃあさ、またみんなでここに来ようよ!
律子:賛成!私ももっとみんなと一緒に頑張りたいわ。
クレア:うふふ。そうね、それじゃあお休みの日はみんなでここに来ましょうか。
ライム:ああ!俺もクレア姉さんの意見に賛成だ!
:
律子:(M)こうして家族全員で定期的に浄化の広場に来ては精錬度を上げる日々が続いた。家族と共に同じ目標に向かって努力する時間は私にとって最高に幸せなひと時だった。そして半年が過ぎたある日の朝…。
:
律子:ふぁぁ…おはよう。あれ?ライム兄さん、キラト、二人ともどうしたの?そんなに暗い顔して。
ライム:セイラおはよう…実は朝起きたらこれが食卓の上に置いてあったんだ。
律子:これってクレア姉さんの涙石…。姉さんは?
キラト:それが…いなくなっちゃったの…。
律子:えっ?
ライム:きっと精錬度が100%を超えたから「天昇の儀」を受けに一人で奉納の神殿に向かったんだと思う。
律子:どうして…せめて行く前に一言教えてくれても良かったじゃない…。
ライム:セイラ、良く聞くんだ。この世界の決まりとして、精錬度が100%になった人間はそれ以上精錬度が下がらないように他者との接触を避けて一人で奉納の神殿に向かい儀式を受けることになっているんだ。
律子:そんな…せっかくみんなでお祝いして温かく送り出してあげようと思ってたのに…。こんな形でお別れするなんて寂し過ぎるよ。ううう…。〈涙ぐむ〉
キラト:僕もだよ…もっとクレア姉さんとたくさんおしゃべりしたかった。僕の成長を傍でずっと見ていて欲しかったのに…うう…うわぁーん!〈泣き出す〉
ライム:二人とも、もう悲しむのはやめよう。せっかく俺たちのクレア姉さんが偉業を達成したんだ。俺たちがめそめそしていたらクレア姉さんも気になって天界の使者になるどころじゃなくなってしまうだろ?もうここに姉さんが帰って来ることはないけれど、無事に天界の使者になれるよう俺たちでお祈りするんだ。
律子:うん…そうだよね。ライム兄さんの言う通りだわ。クレア姉さん!本当におめでとう!
キラト:ぐすん…もうクレア姉さんと会えないのは辛いけど、僕も早く「天昇の儀」を受けられるように頑張るよ!おめでとう!
ライム:クレア姉さん、俺たち家族は姉さんをとても誇りに思うよ。俺たちに道を示してくれて本当にありがとう!そして、心からおめでとうを言うよ。
:
:-------------------3ヶ月後。浄化の広場
律子:(今日は一人で来ちゃった。そう言えば、初めてここで浄化のやり方を教えてくれたのもクレア姉さんだったわね。…今頃どうしてるかなぁ。あれから私も必死で努力してようやく精錬度70%まで辿り着くことが出来たのよ。うふふ…キラトが私に抜かれて口惜しがる姿を見せてあげたかったわ。はぁ…もう一度姉さんに会いたいなぁ。)
紗栄子:あら、セイラじゃない。久しぶりね。
律子:し、シズク様!ご無沙汰しております!こんな所でお会い出来るなんて光栄です!
紗栄子:どう?ここでの生活はもう慣れた?
律子:はい!みんなとっても優しくて毎日幸せです!
紗栄子:それは良かったわ。それより聞いたわよ。この前あなたの家族から「天昇の儀」を受けた人が出たらしいじゃないの。
律子:はい!クレア姉さんって言うんです!とっても素敵な人で私たち家族の誇りなんです!
紗栄子:それは素晴らしいわ!
律子:あの…シズク様、そのことで一つ教えていただきたいことがあるのですがよろしいでしょうか?
紗栄子:何かしら?
律子:「天昇の儀」を受けた人達は今どこにいるんですか?
紗栄子:ごめんなさい。儀式については機密事項だから教えられないの。
律子:そう…なんですか…。
紗栄子:でもせっかくだからセイラにだけは特別に教えてあげるわ。
律子:え!?良いんですか。
紗栄子:しーっ!他の人に聞かれちゃいけないから場所を変えましょう。
律子:あ、はい…。〈移動する〉
:
紗栄子:ここなら大丈夫ね。それで、「天昇の儀」を受けた人が今どこにいるかだったわよね?
律子:はい!
紗栄子:彼らは儀式を受けた後、天界の使者になって奉納の神殿で暮らしているわ。
律子:や、やっぱりそうだったんだ!じゃあ私も神殿に行けばクレア姉さんに会えるんですね!
紗栄子:うふふ…会えるかもしれないわね。
律子:私頑張ります!一日でも早く精錬度を100%まで上げて、もう一度姉さんに会いたいです!
紗栄子:その意気よ。あなたが「天昇の儀」を受けに来るのを楽しみにしてるわ。
律子:はい!
紗栄子:ただし、さっきの話は誰にも言っちゃダメよ。あなたの心の中だけにしまっておきなさい。
律子:分かりました!本当にありがとうございました!
:
律子:(M)それから先は早かった。クレア姉さんが奉納の神殿にいる…その事実だけで私は誰よりも努力出来た。そして2ヶ月後、ついに私は念願の精錬度100%を達成することに成功した。
:
:-------------------ライムとキラトの寝室
キラト:すー…すー。
ライム:ぐぅ…ぐぅ…。
律子:(二人とも、今まで本当にありがとう。私、行って来るね!)
:
律子:(M)私は涙石をテーブルの上に置いた後、穏やかな寝息を立てる二人を残し静かに家を後にした。そして真っ暗な山道を抜け、日が昇る頃には目的地である奉納の神殿に辿り着くことが出来た。
:
:-------------------奉納の神殿
律子:(ここが奉納の神殿ね。今まで苦労の連続だったけど、ようやく私もここに来ることが出来たわ。あとは私も「天昇の儀」を受ければクレア姉さんに会えるのね!…あ、でも少し早く着きすぎたかな?まだ儀式まで時間があるしちょっと散歩でもしてよっか。…ん?あれは何かしら?)
律子:(M)神殿の隣に小さく*佇《たたず》む建物が目に*留《と》まる。私は何かに導かれるようにフラフラと中に入って行った。
:
律子:〈扉を開ける〉お邪魔しまーす。
律子:…えっ…なに…これ?…はっ!クレア姉さん?ウソでしょ!何で姉さんがこんな所に!
紗栄子:あらあらダメじゃない。勝手に入っちゃ。
律子:はっ!シズク様!教えてください!これは一体?
紗栄子:見られてしまったものは仕方ないわね。ここはね、魂の抜け殻を冷凍保存する場所。言ってみれば共同墓地と言った所かしら?
律子:共同墓地?え…でもクレア姉さんは「天昇の儀」を受けて天界の使者になったんですよね?それなのに…何でここに埋葬されてるんですか?
紗栄子:うふふ…それはもう必要なくなったゴミだからよ。
律子:必要なくなったゴミって…じゃあ本当のクレア姉さんは今どこにいるんですか!姉さんに会わせてください!!
紗栄子:すぐにでも会わせてあげるわ。儀式を受けた後でね。
律子:そんな言葉信じられないわ!今すぐ会わせて!
紗栄子:〈小声で〉はぁ…せっかく精錬度を100%にしたってのに、これじゃどんどん鮮度が落ちちゃうじゃない。
律子:鮮度って何?…まさか!
紗栄子:さぁセイラ、あなたも「天昇の儀」を受けるのよ。今すぐ私と一緒に神殿に行きましょう!
律子:嫌!私、そんな儀式なんて受けたくない!誰が神殿なんて行くもんですか!
律子:(カチッ)…はぁ♡ようやく私も「天昇の儀」を受けられるのね!とっても光栄だわ。シズク様ぁ…今すぐ神殿に参りますわ。
紗栄子:うふふ…。
:
:-------------------奉納の神殿内部
紗栄子:これより「天昇の儀」を執り行います。セイラ、こちらへ。
律子:はい。シズク様。〈シズクの前に立つ〉
紗栄子:それでは*離魄の剣《りはくのつるぎ》にてあなたの魂と肉体を分離させます。覚悟はよろしいですか?
律子:…よろしくお願いします。
紗栄子:いざ!〈剣をセイラの心臓に突き刺す〉
律子:ぐっ!?
紗栄子:「セイラの清らかなる魂よ!*剣《つるぎ》に従いその肉体から解き放たれん!」〈ゆっくりと剣を引き抜く〉
律子:(あぁ…私の肉体がどんどん離れていくわ…これで私も天界の使者に…)
紗栄子:うふふ…それじゃあセイラ、あなたの魂いただくわね。まずは右腕から…あむ…〈セイラの右腕に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…あぁ!これよ!この味だわ!まだ鮮度は落ちてなかったようね!
律子:(はぁ♡…私が少しずつシズク様と一つになっていくの♡)
紗栄子:次は左腕よ…あむ…〈セイラの左腕に噛み付く〉
紗栄子:ん〜!最高!ふにふにした二の腕が病みつきになりそうだわ!
律子:(気持ち良い…これが人間を捨てて生まれ変わるということなのね♡)
紗栄子:次は右足をいただくわね!あむ…〈セイラの右足に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…セイラ、あなたの可愛らしい指先の一つ一つがとっても愛おしいの!
律子:(本当に素敵な人生だったわ…)
紗栄子:美味しすぎて止まらないわ!次は左足ね!…あむ…〈セイラの左足に噛み付く〉
紗栄子:んふふふ…食べれば食べるほど私の魂が清められていくのを感じるわぁ♡
律子:(あぁ…もう少しでクレア姉さんに会えるのね…)
紗栄子:さぁ、セイラの胴体はどんな味かしら。うふふ…あむ…〈セイラのお腹に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…はぁ♡これは絶品ね!とろけるような舌触りがたまらないわ!
律子:(これで良かったのよ…何もかも。これで……良いわけないじゃない!!)
紗栄子:さぁ、最後は一番美味しい頭の部分ね!それじゃあいただきまーす!…あむ〈セイラの頭に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…うっ!?何この味!うっぷ…ゲェェェ!!〈セイラの魂を全て吐き出す〉
律子:(私の魂が肉体に戻って行く…)動く…体が動くわ!
紗栄子:ぐっ…セイラ、あんた…一体何をしたの!
律子:私、ようやく気付いたの。こんなの絶対に間違ってるって!〈離魄の剣を取る〉
紗栄子:せ、セイラ…やめなさい。*離魄の剣《りはくのつるぎ》なんて持って何をする気なの!
律子:シズク様…いや、紗栄子先輩!今まで取り込んだみんなの魂、全て返してもらいます!はぁぁぁぁ!!〈離魄の剣を紗栄子の胸に突き立てる〉
紗栄子:ぐぁ!…や、やめて!お願い…だから!セイラ…!
律子:私はセイラじゃない!山本律子だぁぁぁ!!〈思いっきり剣を引き抜く〉
紗栄子:きゃああああああああぁぁぁ!!!〈全ての魂が解放される〉
:
:-----------------------------
律子:う…ううん。あれ?ここは…洗心泉…?ってことは私、元の世界に戻って来れたのね!…泉が干上がってる。そっか…全部終わったんだ。
:
律子:(M)こうして私の夢のような冒険は幕を閉じた。不思議なことに、あれだけ長い時間向こうの世界にいたはずなのに、私が泉に飛び込んだあの瞬間から一秒も時が進んでいなかった。
律子:翌日会社に出勤すると「三井 紗栄子」という人物は、存在そのものがみんなの記憶から消え去っていた。そして…。
:
律子:さぁて、今日から心機一転頑張るか!ん?誰か入ってきた。新人さんかしら?…うそ…あれってまさか!
クレア:初めまして!*私《わたくし》、本日付でこの営業3課に配属となりました*下川 瑞稀《しもかわ みずき》と申します。どうぞよろしくお願いいたします!
律子:あ…ああ…やっと会えたわ!姉さぁぁん!!!〈泣きながら抱きつく〉
:
:~完~
タイトル:理想の世界に思いを馳せて
:
登場人物:
律子:*山本 律子《やまもと りつこ》。商社に勤める23歳OL。真面目だが優柔不断であまり他人と関わるのは苦手。
紗栄子:*三井 紗栄子《みつい さえこ》。律子と同じ会社で働く先輩OL。27歳。キャリアウーマンでとても明るく後輩思いな性格。
ライム:理想郷「ピュアラムール」の住人。優しくて爽やかな25歳男性。
キラト:理想郷「ピュアラムール」の住人。やんちゃで人懐っこい性格の男の子。14歳。
クレア:理想郷「ピュアラムール」の住人。おっとりしていて柔らかな印象の30歳女性。
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:途中に出てくる(カチッ)音は口で言ってもSEでもどちらでも構いませんが、必ず入れてください。
:
:
本編:
律子:(M)もし、いじめや犯罪、貧困や戦争、その他生きていくうえで感じる恐怖や不安が全くない、そんな清き心の持ち主だけが住む理想の世界があるとしたら、あなたは行ってみたいですか?
:
律子:あぁ…もう朝か。今日もまた憂鬱な一日が始まるのね。
律子:(M)今日もまた…。その言葉の示す通り、私は生きることに何の価値も見い出せない自分に嫌気が差していた。毎日会社に行っては積み上げられた仕事の山とクレームの電話に振り回される日々…。気付けば他人とコミュニケーションを取ることすら忘れ、一人黙々と業務をこなすだけのマシーンと化していた。孤立による耐え難い孤独感…正直会社に安息の場所などなかった。
紗栄子:山本さん、少し休憩したら?そんな怖い顔で毎日仕事してたら持たないわよ。
律子:お気遣いありがとうございます。でも、私には休んでる暇なんてないので。
紗栄子:そう…あまり一人で抱え込まないでね。
律子:はい。
紗栄子:あ、そうそう。これ、また時間がある時にでも行ってみると良いわ。とても癒されるから。
律子:ありがとうございます。
律子:(M)そう言いながらも私は渡された紙に目を通すことなく、そのままデスクに積まれた書類の上に無造作に重ねて仕事に戻る。そして時は過ぎ…。
:
律子:えっ…もう22時?はぁ…さすがに疲れたな…。そろそろ帰るか。ん?このチラシは確か…。
紗栄子:(これ、また時間がある時にでも行ってみると良いわ。とても癒されるから。)
律子:そういや紗栄子先輩がそんなこと言ってたっけ?なになに?「今話題沸騰中の見つめるだけで癒される神秘の泉『*洗心泉《せんしんせん》』」ねぇ…。まあどうせ*眉唾《まゆつば》ものだろうけど、せっかくだし今度の休みにでも行ってみるか。
:
:-------------------休日
律子:あれ?おかしいな。確かにここのはずなんだけど誰もいない…場所間違えたかな?
紗栄子:あら、山本さんじゃない!来てくれたのね。
律子:紗栄子先輩…どうして先輩がここに?
紗栄子:あなたが来るのをずっと待ってたの。
律子:え…私を?私、先輩に今日ここに来るなんて言ってませんでしたよね?
紗栄子:そうね。でも山本さんならきっと来てくれるんじゃないかって思ってたのよ。
律子:そうなんですか。私も何となく行ってみようかなと思っていたので思いがけず先輩に会えて良かったです。
紗栄子:私も嬉しいわ。それより、ここが究極の癒しスポット「洗心泉」よ。早くあなたもこっちにいらっしゃい。
律子:はい。あ、あの先輩。その前に一つ聞いても良いですか?
紗栄子:ええ、どうぞ。
律子:チラシには「今話題沸騰中の」と書かれていましたが、私たち以外誰もいないんですけど?
紗栄子:それはね、ここは私と山本さんしか知らない特別な場所だからよ。
律子:え…?じゃあ、あのチラシは…?
紗栄子:あれは私があなたのためだけに作った特別なチラシなの。ここの所ずっと働き詰めだったじゃない?私、どんどんやつれていく山本さんを見ていられなくてね。ほら、あなたって流行に敏感でしょ?だからああやって書けばきっと来てくれるだろうって思ったの。
律子:ははは…そうだったんですね。つまり私はまんまと先輩に釣られたわけですね?
紗栄子:そういうこと。でもあなたに来て欲しかったのは本心よ。
律子:嬉しいです。ありがとうございます。
紗栄子:さ、そんな事より早くこっちに来て。
律子:あ、はい。〈紗栄子の元へ駆け寄る〉
紗栄子:ほら、あそこから泉が湧き出しているのが見えるかしら?
律子:はい。
紗栄子:この泉はね、水面を見ているだけでどんどん心が癒されていくの。
律子:水面を見ているだけで?
紗栄子:そうよ。でもただ見ているだけじゃダメなの。これから私が言うことをきちんとやれば必ず効果はあるから。ねぇ、やってみない?
律子:あ…はい。
紗栄子:じゃあまずは水面を見つめながら私に続いてこう唱えてね。「私のありのままの姿をあなた様に捧げます。どうか私の*穢《けが》れを清き水で洗い流してください」
律子:「私のありのままの姿をあなた様に捧げます。どうか私の*穢《けが》れを清き水で洗い流してください」」(あれ?…私の姿が水面に映し出されて…はぁ♡…どんどん心が軽くなっていくわ)
紗栄子:その調子よ。そのまま私の言葉に耳を傾けなさい…。
律子:はい…。(あぁ…それに紗栄子先輩の声を聞いていたら何だかうっとりしてきちゃった…)
紗栄子:「清き*水面《みなも》に汝が心を映す時、その肉体と魂を我らの世界に誘わん。汝に問う。我らと共に理想郷の民となる意思はあるか?」
律子:はい…あります。(え?私何言ってんの?)
紗栄子:よろしい。では私に続いてその身を泉に捧げなさい!それっ!〈泉に飛び込む〉
律子:はい!!(え!ちょ…まさか!ダメ…体が勝手に…きゃあああ!)〈泉に飛び込む〉
:
:-------------------理想郷「ピュアラムール」
律子:う…うぅ、ここは?
紗栄子:あら、目が覚めたようね。ようこそ!我らが理想郷「ピュアラムール」へ。あなたは晴れてこの世界の住人となりました。
律子:え?理想郷の住人って…ちょっと紗栄子先輩、急に何言ってるんですか?冗談ですよね?
紗栄子:冗談?いいえ。私は本当のことを話しているだけよ。
律子:でも、会社はどうするんですか?急にいなくなったらみんな困るんじゃないですか?警察に捜索願いとか出されて*大事《おおごと》になっても嫌ですし、それに、無断欠勤なんかしたらそれこそ何言われるか…。
紗栄子:元いた世界のことなど気にしなくて良いの。それよりもこちらの世界を楽しみなさい。
律子:は、はい…。
紗栄子:ここは日常の不安や恐怖から解放された理想の世界。ここには清き心を持った人しかいないわ。だから争いや犯罪、貧富の差も何もない。誰もが幸せに暮らしていける場所なの。
律子:でも私…清き心なんて持ってませんけど…。
紗栄子:大丈夫。あなたは選ばれた人間。だから何も心配しなくて良いのよ。さぁ、あなたにもこの世界の住人としての証を付けてあげるわ。髪を上げておでこを出して。
律子:あ、はい…。〈おでこを出す〉
紗栄子:いくわよ。んっ…〈律子の額にキスをする〉
律子:(カチッ)ひゃ!き、キス!せ、先輩、いきなり何するんですか!?
紗栄子:うふふ…びっくりした?それより気分はどう?
律子:気分…ですか?うーん…何か頭の中で音がしたような気がしますが、あとはこれと言って変化はないです。
紗栄子:そう。
律子:あの…私、もう元の世界には戻れないんですか?
紗栄子:あら?戻りたいの?
律子:い、いえ…そういうわけじゃないですけど。この世界でも居場所がなかったらどうしようかと思って…。
紗栄子:大丈夫よ。みんなあなたを歓迎してくれるわ。
律子:分かりました。あの、先輩?
紗栄子:何かしら?
律子:紗栄子先輩もこの世界の住人なんですか?
紗栄子:ええ、そうよ。生まれてからずっとね。
律子:え?でも先輩はずっとうちの会社で働いていたじゃないですか?
紗栄子:それはね、山本さんのような人を見つけてこの世界に連れてくるためにあの会社に潜入してたの。
律子:え…何でわざわざそんなことを?ましてや、私なんか連れて来ても何も良いことなんてないですよ。
紗栄子:そんなことないわよ。必死で頑張っているのにいつも一人ぼっち。そんな人生辛すぎるじゃない?実は私、あの会社に潜入してからずっとあなたのことを見ていたの。
律子:私を?じゃあ先輩には全部見抜かれていたんですね…。
紗栄子:ええ。だからこそあなたをここに呼んだの。幸せになってもらうためにね。
律子:紗栄子先輩…うう…ありがとうございます。〈泣き出す〉
紗栄子:泣かないで。これからは笑って生きていける人生が待ってるんだから。
律子:ぐすん…はい、よろしくお願いします。
紗栄子:それじゃあ早速だけど、この世界を案内してあげる。あ、そうそう。一つ大事なことを忘れていたわ。せっかくこの世界の住人になったんだから、私があなたに新しい名前をプレゼントしてあげるわ。
律子:新しい名前…ですか?
紗栄子:そうよ。ちなみに私は「シズク」って言う名前なの。
律子:(カチッ)シズク…様…何て素敵なお名前なの!(あれ?前は別のお名前でお呼びしていた気がするのだけれど…。ダメだ、思い出せないわ。)
紗栄子:ありがとう。うーん、そうねぇ…「セイラ」ってのはどうかしら?
律子:(カチッ)セイラ…私はセイラ!わぁ…ありがとうございます!(はぁ♡シズク様にこんな素敵な名前をいただけるなんて、私ったら本当に幸せ者だわ!)
紗栄子:うふふ…気に入ってもらえて嬉しいわ…山本律子さん。
律子:あの…山本律子さんって誰ですか?
紗栄子:あ、ごめんなさい。ふと昔の知り合いの名前を呟いちゃったわ。気にしないで。
律子:そうなんですね。分かりました。
紗栄子:それじゃセイラ、私に着いて来なさい。
律子:はい!シズク様!
:
:-------------------「導きの館」入口
紗栄子:さあ着いたわよ。
律子:まあ!何て大きくて神秘的なの!シズク様、ここは何の建物ですか?
紗栄子:ここは「導きの館」と言ってね、人々の暮らしの全てに対して大いなる導きを与えてくださるとても神聖な場所なのよ。ここに住む全ての人々はその導きに従って穏やかで平和な毎日を送っているわ。
律子:え…?それじゃあ何一つ自分で決められないってことですか?それって逆に不自由なんじゃ…。
紗栄子:うふふ。セイラ、あなたの言うことも分かるわ。でもね、人々が個々の考えや欲望に従って生きてしまったら世界はどうなると思う?
律子:えっと…お互いの意見が食い違って争いになります。
紗栄子:その通りよ。争いをなくし人々が平和に暮らすには個々の考えを捨て、導きに従って生きることが何より大切なの。
律子:うーん…そういうものですかねぇ…。
紗栄子:安心して。あなたも大いなる導きに触れればきっと分かるわ。さぁ、中に入りましょ。〈建物の中に入る〉
律子:は、はい。〈シズクの後に続いて中に入る〉
:
:-------------------「導きの館」内部
紗栄子:ここが導きの館の中枢部「神託の祭壇」よ。
律子:わぁ…立派な祭壇ですね。
紗栄子:まずはあなたがきちんと導きを*享受《きょうじゅ》できるようにならないとね。
律子:導きを享受できるようになる…ですか?
紗栄子:そう。さっきも言ったようにここでは誰もが導きに従って生きているの。でもあなた自身が導きを受け入れられる体じゃないと、せっかくの導きが無駄になってしまうわ。だからこれから行なう儀式はあなたがこの世界で生きていくために絶対に必要なの。
律子:分かりました。
紗栄子:素直でよろしい。じゃあ早速だけど、この手形の上にあなたの手の平を乗せてくれるかしら?
律子:〈手の平を手形に置く〉はい。これで良いですか?
紗栄子:良いわよ。それじゃあ行くわね。「我らの迷える民のため、その大いなる導きを*以《もっ》て暗き道に一筋の光を示したまえ!」〈手形が怪しく光る〉
律子:(カチッ)ああ!!頭の中にキラキラした何かが流れ込んで来て、私の全てを書き換えていくの!!ふぁぁ♡…とっても気持ちが良いわ♡
紗栄子:さぁ、これであなたは導きを享受することができるようになったわ。
紗栄子:セイラ、気分はどう?
律子:はぁ♡何て素晴らしいの!心の中のモヤモヤがなくなって、とっても清々しい気持ちです。うふふ…幸せぇ♡
紗栄子:そう。それは良かったわ。これで儀式は終了よ。それじゃあ改めて、理想郷「ピュアラムール」はあなたを心から歓迎するわ。
律子:はぁ♡ありがとうございます!シズク様ぁ♡
紗栄子:さて、それじゃあセイラ、あなたを新しい家族の所に案内するわ。着いていらっしゃい。
律子:はい!
:
:-------------------共同生活施設コクーン
紗栄子:着いたわよ。セイラ、ここが今日からあなたが暮らす家、共同生活施設コクーン1号棟よ。
律子:なんて可愛いお家なの!*繭《まゆ》みたいにまん丸でモフモフしてて!
紗栄子:うふふ…気に入って貰えて嬉しいわ。それじゃ中に入りましょうか。
律子:はい!
:
紗栄子:(コンコン)
律子:失礼しまーす。
ライム:これはこれはシズク様。わざわざお越しくださるとは何とありがたいことでしょう。さぁどうぞお入りください。おや?あなたは?
紗栄子:紹介するわ。今日からこの家の新しい家族になるセイラよ。みんな、仲良くしてあげてね。
律子:せ、セイラと申します。よろしくお願いいたします。
ライム:ようこそ我が家へ!俺はライム。困ったことがあったら何でも聞いてくれ。
キラト:僕はキラトって言うんだ。セイラお姉ちゃんよろしくね!
クレア:私はクレアよ。家族が増えて嬉しいわ。ちょうどあなたくらいの子が来てくれないかしらと思っていたところなのよ。
律子:嬉しいです!早く皆さんと仲良くなれるように頑張ります!
紗栄子:あら、頑張らなくて良いのよ。だってあなたたちはとっても仲の良い家族なんですから。
律子:仲の良い家族…(カチッ)うふふ…そうよね。私ったら家族相手に何かしこまってんだか。
ライム:(カチッ)あはは!まったくだ!
キラト:(カチッ)ねぇお姉ちゃん、今日は何して遊ぶ?
律子:うーん…そうねぇ、今日はキャッチボールでもしよっか?
キラト:やったぁ!
クレア:(カチッ)うふふ、セイラは本当に面倒見が良いわね。
律子:やだなぁ、クレア姉さんったら褒めても何も出ないわよ。
クレア:あら、それは残念ね。ライム、そろそろ買い出しに行って来てちょうだい。
ライム:あいよ!今日は気分が良いから飛び切り美味しいご馳走でも作るとするか!
律子:わぁ!ライム兄さんの手料理、とっても楽しみだわ!
紗栄子:(うふふ…セイラ、その調子よ。私はこのままいなくなるけど、私の事など気にせずに家族団欒の時を楽しみなさい。)
:
:-------------------その日の夜
キラト:ねぇみんな見て見て!僕、かなり頑張って精錬度上げたんだよ!
ライム:ん?どれどれ?…精錬度50%!ほほう!キラト、すごいじゃないか!
キラト:えへへ!嬉しいな!
クレア:偉いわね。あと半分で「*天昇《てんしょう》の儀」が受けられるわね!
律子:精錬度?「天昇の儀」?それって何だっけ?
ライム:何だセイラ、もう忘れたのか?まあ良い、何度でも教えてやるよ。良いか、よく聞いとけよ。俺たちピュアラムールの民がやるべきことは自分自身の魂の純度を上げていくことなんだ。
律子:魂の純度を上げる?
ライム:そうだ。俺たちは日々導きに従って生きているとは言え、魂のレベルは人それぞれ。そこで己の魂から不純物を取り除く作業…つまり、「精錬度」を上げることが何より大切なんだ。
律子:精錬度を上げないとどうなるの?
ライム:良い質問だな。もし精錬度を上げることを怠れば、体内に不純物、つまり悪い考えや*邪《よこしま》な気持ちが溜まり続けることになる。
律子:そっか…。
ライム:最終的に精錬度が0%になった者はここでの全ての記憶を消されてピュアラムールから追放されると言われているんだ。
律子:追放されちゃった人はどこへ行くの?
ライム:俺も詳しいことは分からないが、おそらくは次元の*狭間《はざま》を永遠に*彷徨《さまよ》うことになるんだろうな。
律子:怖いわ…でも、いきなり魂の精錬度を上げろって言われても、どうやってやったら良いか分からないわ。
ライム:よし!じゃあそれについては精錬度上げの達人、クレア姉さんに説明してもらおう。姉さん、よろしくな!
クレア:分かったわ。そうねぇ、精錬度を上げる一番手っ取り早い方法は、町の外れにある「浄化の広場」に行くことね。
律子:浄化の広場か。そこで何をするの?
クレア:自分自身と向き合って悪い考えや*邪《よこしま》な気持ちを一つ一つ吐き出しながら魂を綺麗にしていくの。あなたの中から悪い思考が消える度に精錬度は徐々に上がっていくわ。
律子:うーん、言葉で言われてもなかなかイメージ出来ないなぁ。
キラト:それじゃあさ、明日みんなで浄化の広場に行くってのはどうかな?
ライム:そうだな。たまにはみんなで行くか!
クレア:うふふ。楽しみね。それじゃあその時に「天昇の儀」についても教えてあげるわ。
律子:わーい!楽しみ!早く明日が来ないかな。
:
:-------------------翌日
クレア:さあ二人とも、今日は浄化の広場に行くんだから早く起きなさい。
律子:う、うーん…もう朝かぁ。
キラト:ふぁああ…良く寝た。
ライム:お前たち、朝ごはんできてるからさっさと食べて支度するんだ。
律子:はーい。
キラト:今行くよ。
:
:-------------------食卓を囲んで
律子:もぐもぐ…そう言えばずっと気になってたんだけど、みんなはどうやって精錬度を測ってるの?
ライム:精錬度を測るためにはこの特殊な宝玉「*涙石《なみだいし》」を使うんだ。
律子:何これ…とっても綺麗。透き通るような青色で、本当に涙みたいな形をしているのね。それで?これをどう使うの?
キラト:こうやって石を通して測りたい人のおでこの辺りを見ると数字が浮び上がってくるんだ。お?セイラお姉ちゃんの精錬度は15%かぁ。これからだね!
律子:うう…15%…まだまだ先は長いわね。
ライム:まあそう焦ることもないさ。ちなみに自分自身を測る時は、鏡や水面に映った自分の姿を涙石を通して見てみると良い。
律子:なるほどね。分かったわ。
クレア:せっかくだからセイラも一つ持ってなさい。これから使う機会がたくさんあるだろうから。〈セイラに涙石を渡す〉
律子:ありがとう!クレア姉さん!
ライム:それじゃあ朝食も食べたことだし、支度して出掛けるぞ!
律子:はーい!〈同時に〉
キラト:はーい!〈同時に〉
:
:-------------------「浄化の広場」
ライム:さあ着いたぞ!ここが「浄化の広場」だ。
律子:うわぁ…もうこんなにたくさんの人がいる!
キラト:そりゃそうさ。みんな早く自分の精錬度を上げて「天昇の儀」を受けに行きたいからね。
律子:あ!そうだ。「天昇の儀」について聞くんだった。クレア姉さん、教えて!
クレア:うふふ…良いわよ。「天昇の儀」は精錬度が100%もしくはそれ以上に達した者だけが受けることを許される特別な儀式なの。
律子:100%もしくはそれ以上…
クレア:そして言い伝えでは「天昇の儀」を受けた者は、晴れて人間から天界の使者へと生まれ変わることが出来るそうよ。
キラト:天界の使者か…良いなぁ、僕も早く受けてみたいなぁ。
ライム:あと半分じゃないか。ちゃんと自分自身の魂と向き合っていれば、いつか必ず受けられる日が来るさ。
律子:それで、具体的にここで何をすれば良いの?
クレア:それじゃあこれから具体的な手順について説明していくわね。…と言っても、実際にやって見せた方が早いかしらね。
律子:うん。
クレア:まずは広場にゆっくりと腰を下ろして座るの。座り方はあぐらでも正座でもやりやすい方で構わないわ。そうしたら大地と繋がる感じを意識して背筋を伸ばして目を閉じるの。
律子:ゆっくりと座り、大地との繋がりを意識しながら背筋を伸ばして目を閉じる…。
クレア:そうしたら頭の中で思い付く限りのマイナスの感情や思考を強くイメージして、浮かんできた言葉を口に出してみるの。例えばこんな感じね。「ああ!昨日のカップルマジでムカつくわ!道路の真ん中で堂々とイチャついて!とっとと別れちゃえば良いのに!」
クレア:(カチッ)「昨日見掛けたカップルは本当に仲の良い感じが微笑ましくて。見ているこっちまで幸せな気分になったわ。末永くお幸せにね」
クレア:これで私の中からマイナスの感情が一つ浄化されたわ。さぁ、セイラもやってみて。
律子:分かった。マイナスの感情や思考をイメージして…「うう…何で思い通りの人生が送れないの!いつも誰かに邪魔されて!こんな世界消えちゃえば良いんだ!」
律子:(カチッ)「何も考えず、大いなる導きに従って生きてさえいれば幸せになれる。なんて素晴らしい人生なの!私の周りには素敵な人たちがたくさんいて、いつも優しくしてくれるの。あぁ…この世界がずーっと続けば良いのに。」
律子:ほんとだ!私の中からマイナスの感情が一つ消えたわ!
クレア:その調子よ。この広場ではマイナスの感情や思考を頭に思い浮かべて口にするだけで、大いなる導きが自動的にプラスに変換してくれるの。これを続けていくことで魂がどんどん精錬されて、いつかは全く濁りのない清らかなる存在になれるのよ。
律子:素敵ね!私も早くそうなれるように頑張るわ!
クレア:ええ。一緒に頑張りましょう!…さてと、ライムとキラトの方はどうかしらね?
:
ライム:「あの野郎…俺が断れない性格なのを良いことに、いつも価値のないガラクタばかり売りつけやがって!今度会ったら絶対ボコボコにしてやる!」
ライム:(カチッ)「あの人…俺のためを思って、いつも魅力いっぱいの商品をセレクトして売ってくれるんだ。本当にありがたいよ。今度会ったらお礼言っとこう」
クレア:どう?上手くいってる?
ライム:あぁ、順調だよ。セイラの方はどう?
クレア:大丈夫よ。ちゃんとコツを*掴《つか》んだみたい。
ライム:それは良かった。
クレア:キラトは?
ライム:あの子なら心配ないさ。あそこで黙々とやってるよ。
クレア:じゃあちょっと様子を見てくるわね。
ライム:あぁ、行ってらっしゃい!
:
キラト:「はぁ…どうせ僕は誰からも必要とされていないんだ。こんなつまらない人生なんて今すぐにでも終わりにしたいよ…。」
キラト:(カチッ)「えへへ!みんなが僕のことを大事に思ってくれてるんだ!こんな素敵な人生を一日でも長く楽しみたいな!」
クレア:頑張ってるわね。
キラト:うん!僕も早くクレア姉さんやライム兄さんに追い付きたいからね!
クレア:うふふ…大丈夫、キラトならすぐにでも追い付けるわよ。
キラト:わーい!クレア姉さんに褒めてもらっちゃった。そう言えばセイラお姉ちゃんはどんな感じ?
クレア:安心して。もうやり方は覚えたみたいだから。
キラト:そっかぁ!良かった!じゃあ僕も負けないように頑張らないとね!
クレア:あんまり無理しないでね。
キラト:ありがとう!
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:-------------------その日の終わり
ライム:みんな、暗くなってきたしそろそろ帰ろうか。
クレア:そうね。二人とも、そのくらいにして帰るわよ。
律子:はーい。
キラト:もうそんな時間かぁ。あっという間だったなぁ。
クレア:セイラ、初めての魂の浄化はどうだった?
律子:うん!すっごく楽しかった!私ね、今日一日でだいぶ精錬度上がった気がするんだ。
クレア:どれどれ…25%!すごいじゃない!頑張ったわね。
ライム:こりゃあ油断してると一気に抜かれちゃうな。
律子:えへへ。嬉しいな。
キラト:僕も見て見て!
ライム:えっとキラトは…おっ!58%!やるじゃないか!
キラト:でしょ〜!ライム兄さんとクレア姉さんは?
ライム:俺は今日は3%アップで現在75%だ。
クレア:私は2%アップで80%よ。
律子:二人ともあと少しじゃない。羨ましいなぁ。
ライム:そうでもないさ。精錬度が高くなればなるほど一回の浄化による精錬度の上昇率は低くなっていくんだ。だからもっと頑張らないとな。
クレア:ライムの言う通りよ。私もまだまだこれからよ。
キラト:そうなんだ。じゃあさ、またみんなでここに来ようよ!
律子:賛成!私ももっとみんなと一緒に頑張りたいわ。
クレア:うふふ。そうね、それじゃあお休みの日はみんなでここに来ましょうか。
ライム:ああ!俺もクレア姉さんの意見に賛成だ!
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律子:(M)こうして家族全員で定期的に浄化の広場に来ては精錬度を上げる日々が続いた。家族と共に同じ目標に向かって努力する時間は私にとって最高に幸せなひと時だった。そして半年が過ぎたある日の朝…。
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律子:ふぁぁ…おはよう。あれ?ライム兄さん、キラト、二人ともどうしたの?そんなに暗い顔して。
ライム:セイラおはよう…実は朝起きたらこれが食卓の上に置いてあったんだ。
律子:これってクレア姉さんの涙石…。姉さんは?
キラト:それが…いなくなっちゃったの…。
律子:えっ?
ライム:きっと精錬度が100%を超えたから「天昇の儀」を受けに一人で奉納の神殿に向かったんだと思う。
律子:どうして…せめて行く前に一言教えてくれても良かったじゃない…。
ライム:セイラ、良く聞くんだ。この世界の決まりとして、精錬度が100%になった人間はそれ以上精錬度が下がらないように他者との接触を避けて一人で奉納の神殿に向かい儀式を受けることになっているんだ。
律子:そんな…せっかくみんなでお祝いして温かく送り出してあげようと思ってたのに…。こんな形でお別れするなんて寂し過ぎるよ。ううう…。〈涙ぐむ〉
キラト:僕もだよ…もっとクレア姉さんとたくさんおしゃべりしたかった。僕の成長を傍でずっと見ていて欲しかったのに…うう…うわぁーん!〈泣き出す〉
ライム:二人とも、もう悲しむのはやめよう。せっかく俺たちのクレア姉さんが偉業を達成したんだ。俺たちがめそめそしていたらクレア姉さんも気になって天界の使者になるどころじゃなくなってしまうだろ?もうここに姉さんが帰って来ることはないけれど、無事に天界の使者になれるよう俺たちでお祈りするんだ。
律子:うん…そうだよね。ライム兄さんの言う通りだわ。クレア姉さん!本当におめでとう!
キラト:ぐすん…もうクレア姉さんと会えないのは辛いけど、僕も早く「天昇の儀」を受けられるように頑張るよ!おめでとう!
ライム:クレア姉さん、俺たち家族は姉さんをとても誇りに思うよ。俺たちに道を示してくれて本当にありがとう!そして、心からおめでとうを言うよ。
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:-------------------3ヶ月後。浄化の広場
律子:(今日は一人で来ちゃった。そう言えば、初めてここで浄化のやり方を教えてくれたのもクレア姉さんだったわね。…今頃どうしてるかなぁ。あれから私も必死で努力してようやく精錬度70%まで辿り着くことが出来たのよ。うふふ…キラトが私に抜かれて口惜しがる姿を見せてあげたかったわ。はぁ…もう一度姉さんに会いたいなぁ。)
紗栄子:あら、セイラじゃない。久しぶりね。
律子:し、シズク様!ご無沙汰しております!こんな所でお会い出来るなんて光栄です!
紗栄子:どう?ここでの生活はもう慣れた?
律子:はい!みんなとっても優しくて毎日幸せです!
紗栄子:それは良かったわ。それより聞いたわよ。この前あなたの家族から「天昇の儀」を受けた人が出たらしいじゃないの。
律子:はい!クレア姉さんって言うんです!とっても素敵な人で私たち家族の誇りなんです!
紗栄子:それは素晴らしいわ!
律子:あの…シズク様、そのことで一つ教えていただきたいことがあるのですがよろしいでしょうか?
紗栄子:何かしら?
律子:「天昇の儀」を受けた人達は今どこにいるんですか?
紗栄子:ごめんなさい。儀式については機密事項だから教えられないの。
律子:そう…なんですか…。
紗栄子:でもせっかくだからセイラにだけは特別に教えてあげるわ。
律子:え!?良いんですか。
紗栄子:しーっ!他の人に聞かれちゃいけないから場所を変えましょう。
律子:あ、はい…。〈移動する〉
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紗栄子:ここなら大丈夫ね。それで、「天昇の儀」を受けた人が今どこにいるかだったわよね?
律子:はい!
紗栄子:彼らは儀式を受けた後、天界の使者になって奉納の神殿で暮らしているわ。
律子:や、やっぱりそうだったんだ!じゃあ私も神殿に行けばクレア姉さんに会えるんですね!
紗栄子:うふふ…会えるかもしれないわね。
律子:私頑張ります!一日でも早く精錬度を100%まで上げて、もう一度姉さんに会いたいです!
紗栄子:その意気よ。あなたが「天昇の儀」を受けに来るのを楽しみにしてるわ。
律子:はい!
紗栄子:ただし、さっきの話は誰にも言っちゃダメよ。あなたの心の中だけにしまっておきなさい。
律子:分かりました!本当にありがとうございました!
:
律子:(M)それから先は早かった。クレア姉さんが奉納の神殿にいる…その事実だけで私は誰よりも努力出来た。そして2ヶ月後、ついに私は念願の精錬度100%を達成することに成功した。
:
:-------------------ライムとキラトの寝室
キラト:すー…すー。
ライム:ぐぅ…ぐぅ…。
律子:(二人とも、今まで本当にありがとう。私、行って来るね!)
:
律子:(M)私は涙石をテーブルの上に置いた後、穏やかな寝息を立てる二人を残し静かに家を後にした。そして真っ暗な山道を抜け、日が昇る頃には目的地である奉納の神殿に辿り着くことが出来た。
:
:-------------------奉納の神殿
律子:(ここが奉納の神殿ね。今まで苦労の連続だったけど、ようやく私もここに来ることが出来たわ。あとは私も「天昇の儀」を受ければクレア姉さんに会えるのね!…あ、でも少し早く着きすぎたかな?まだ儀式まで時間があるしちょっと散歩でもしてよっか。…ん?あれは何かしら?)
律子:(M)神殿の隣に小さく*佇《たたず》む建物が目に*留《と》まる。私は何かに導かれるようにフラフラと中に入って行った。
:
律子:〈扉を開ける〉お邪魔しまーす。
律子:…えっ…なに…これ?…はっ!クレア姉さん?ウソでしょ!何で姉さんがこんな所に!
紗栄子:あらあらダメじゃない。勝手に入っちゃ。
律子:はっ!シズク様!教えてください!これは一体?
紗栄子:見られてしまったものは仕方ないわね。ここはね、魂の抜け殻を冷凍保存する場所。言ってみれば共同墓地と言った所かしら?
律子:共同墓地?え…でもクレア姉さんは「天昇の儀」を受けて天界の使者になったんですよね?それなのに…何でここに埋葬されてるんですか?
紗栄子:うふふ…それはもう必要なくなったゴミだからよ。
律子:必要なくなったゴミって…じゃあ本当のクレア姉さんは今どこにいるんですか!姉さんに会わせてください!!
紗栄子:すぐにでも会わせてあげるわ。儀式を受けた後でね。
律子:そんな言葉信じられないわ!今すぐ会わせて!
紗栄子:〈小声で〉はぁ…せっかく精錬度を100%にしたってのに、これじゃどんどん鮮度が落ちちゃうじゃない。
律子:鮮度って何?…まさか!
紗栄子:さぁセイラ、あなたも「天昇の儀」を受けるのよ。今すぐ私と一緒に神殿に行きましょう!
律子:嫌!私、そんな儀式なんて受けたくない!誰が神殿なんて行くもんですか!
律子:(カチッ)…はぁ♡ようやく私も「天昇の儀」を受けられるのね!とっても光栄だわ。シズク様ぁ…今すぐ神殿に参りますわ。
紗栄子:うふふ…。
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:-------------------奉納の神殿内部
紗栄子:これより「天昇の儀」を執り行います。セイラ、こちらへ。
律子:はい。シズク様。〈シズクの前に立つ〉
紗栄子:それでは*離魄の剣《りはくのつるぎ》にてあなたの魂と肉体を分離させます。覚悟はよろしいですか?
律子:…よろしくお願いします。
紗栄子:いざ!〈剣をセイラの心臓に突き刺す〉
律子:ぐっ!?
紗栄子:「セイラの清らかなる魂よ!*剣《つるぎ》に従いその肉体から解き放たれん!」〈ゆっくりと剣を引き抜く〉
律子:(あぁ…私の肉体がどんどん離れていくわ…これで私も天界の使者に…)
紗栄子:うふふ…それじゃあセイラ、あなたの魂いただくわね。まずは右腕から…あむ…〈セイラの右腕に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…あぁ!これよ!この味だわ!まだ鮮度は落ちてなかったようね!
律子:(はぁ♡…私が少しずつシズク様と一つになっていくの♡)
紗栄子:次は左腕よ…あむ…〈セイラの左腕に噛み付く〉
紗栄子:ん〜!最高!ふにふにした二の腕が病みつきになりそうだわ!
律子:(気持ち良い…これが人間を捨てて生まれ変わるということなのね♡)
紗栄子:次は右足をいただくわね!あむ…〈セイラの右足に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…セイラ、あなたの可愛らしい指先の一つ一つがとっても愛おしいの!
律子:(本当に素敵な人生だったわ…)
紗栄子:美味しすぎて止まらないわ!次は左足ね!…あむ…〈セイラの左足に噛み付く〉
紗栄子:んふふふ…食べれば食べるほど私の魂が清められていくのを感じるわぁ♡
律子:(あぁ…もう少しでクレア姉さんに会えるのね…)
紗栄子:さぁ、セイラの胴体はどんな味かしら。うふふ…あむ…〈セイラのお腹に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…はぁ♡これは絶品ね!とろけるような舌触りがたまらないわ!
律子:(これで良かったのよ…何もかも。これで……良いわけないじゃない!!)
紗栄子:さぁ、最後は一番美味しい頭の部分ね!それじゃあいただきまーす!…あむ〈セイラの頭に噛み付く〉
紗栄子:もぐもぐ…うっ!?何この味!うっぷ…ゲェェェ!!〈セイラの魂を全て吐き出す〉
律子:(私の魂が肉体に戻って行く…)動く…体が動くわ!
紗栄子:ぐっ…セイラ、あんた…一体何をしたの!
律子:私、ようやく気付いたの。こんなの絶対に間違ってるって!〈離魄の剣を取る〉
紗栄子:せ、セイラ…やめなさい。*離魄の剣《りはくのつるぎ》なんて持って何をする気なの!
律子:シズク様…いや、紗栄子先輩!今まで取り込んだみんなの魂、全て返してもらいます!はぁぁぁぁ!!〈離魄の剣を紗栄子の胸に突き立てる〉
紗栄子:ぐぁ!…や、やめて!お願い…だから!セイラ…!
律子:私はセイラじゃない!山本律子だぁぁぁ!!〈思いっきり剣を引き抜く〉
紗栄子:きゃああああああああぁぁぁ!!!〈全ての魂が解放される〉
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律子:う…ううん。あれ?ここは…洗心泉…?ってことは私、元の世界に戻って来れたのね!…泉が干上がってる。そっか…全部終わったんだ。
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律子:(M)こうして私の夢のような冒険は幕を閉じた。不思議なことに、あれだけ長い時間向こうの世界にいたはずなのに、私が泉に飛び込んだあの瞬間から一秒も時が進んでいなかった。
律子:翌日会社に出勤すると「三井 紗栄子」という人物は、存在そのものがみんなの記憶から消え去っていた。そして…。
:
律子:さぁて、今日から心機一転頑張るか!ん?誰か入ってきた。新人さんかしら?…うそ…あれってまさか!
クレア:初めまして!*私《わたくし》、本日付でこの営業3課に配属となりました*下川 瑞稀《しもかわ みずき》と申します。どうぞよろしくお願いいたします!
律子:あ…ああ…やっと会えたわ!姉さぁぁん!!!〈泣きながら抱きつく〉
:
:~完~