台本概要
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タイトル | 止まない雨 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 4人用台本(男1、女3) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ご自由に、お使いください。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
莉緒 | 女 | 124 | 莉緒(りお)主人公。彼氏有り。セリフ多め。 |
咲夜 | 男 | 56 | 咲夜(さくや)。莉緒に片想い中。 |
絵奈 | 女 | 36 | 絵奈(えな)。クラスに一人はいるよね。こういう子。 |
綾香 | 女 | 47 | 綾香(あやか)。嫌なヤツ。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
莉緒:(M)雨が止(や)まない
莉緒:(M)どこに行っても
莉緒:(M)いつまでたっても雨が止まない
莉緒:(M)私は、ひとり…
0:【間】
咲夜:(N)とある学校に、容姿端麗(ようしたんれい)、勉強も運動もできる女の子がいた
咲夜:(N)彼女の名前は、葉月莉緒(はづきりお)
咲夜:(N)昼休みに、莉緒は、彼氏と屋上で弁当を食べた後、教室に戻ろうとしていた
絵奈:あっ、莉緒
莉緒:あ、絵奈。やほ
絵奈:やほ
綾香:やほ
莉緒:ん?
絵奈:あぁ。この子は、B組の日野綾香(ひのあやか)。最近、仲良くなったの
綾香:綾香でーす
莉緒:綾香さん?
綾香:綾香でいいよー
莉緒:うん。綾香。私のことも、莉緒でいいからね
綾香:莉緒?莉緒っちでいい?
莉緒:莉緒っち?
綾香:うん。莉緒っち
莉緒:いいよ
綾香:じゃあ、莉緒っち、これから仲良くしてねー
莉緒:こちらこそ、よろしくね
絵奈:そうそう。今ね、莉緒のこと話してたの
莉緒:私のこと?
絵奈:そうだよ。莉緒って、完璧だよねって
莉緒:完璧?
綾香:うんうん。可愛いし、勉強も運動もできる。もう、無敵って感じで、絵奈から話を聞かされていたところです
綾香:私のクラスでも莉緒のこと狙ってた男子、結構多かったと思うよ。でも、C組の木村と付き合ったのは意外だったな
莉緒:意外?
綾香:だって、木村、パッとしないじゃん。莉緒っちなら、もっとイイ男と付き合えるのに~
莉緒:そんなことないよ。木村君は、真面目だし、優しいよ
絵奈:あっ!また惚気(のろけ)てる!
綾香:惚気だね~
莉緒:も~う。そんなんじゃないよ~
絵奈:(同時に)ふふふ
綾香:(同時に)ふふふ。じゃあ、これで、うちら、もう友達になったから、何か困ったこととかあれば、なんでも相談に乗るからね
莉緒:うん。ありがとう
0:【間】
莉緒:(M)親友の友達だから、良い子だと思ってた
莉緒:(M)その思い込みが、間違いの始まりだった
0:【間】
咲夜:(N)放課後、部活を終えた莉緒は、再び彼女と出会う…
綾香:あっ、莉緒っちじゃん
莉緒:あ、綾香
綾香:今、部活終わったとこ?
莉緒:うん。そうだよ。綾香も?
綾香:うん。あっ、もしかして、今日も木村と帰るの?
莉緒:ううん。今日は、彼、直接塾に行く日だから、一緒には帰らないよ
綾香:じゃあさ。駅までは一緒に帰ろうよ。確か、莉緒っちも電車通学だったよね?
莉緒:そうだよ
綾香:あのさ、ぶっちゃけ聞くけど、木村とどうなの?もうヤッた?
莉緒:えっ?
綾香:だから、ヤッたの?
莉緒:それは…まだ…
綾香:は!?そうなの?じゃあ、キスは?
莉緒:キスも…まだ…
綾香:なにそれ!こんな完璧美少女と付き合えてるのに、木村って馬鹿なの?
莉緒:ははは。でも、まだ付き合って二週間だし
綾香:二週間!?二週間でキスもしてこないの?普通、付き合ったその日か翌日には、エッチするのが普通でしょ?
莉緒:そうなの?
綾香:そうそう。男って、みんな狼!野獣なの!本能で生きてる!ヤルことしか考えていないの!
莉緒:…木村君は、違うと思うな
綾香:それは、木村が変な奴ってだけよ
莉緒:確かに、変わってる人かも知れないけど
綾香:普通は違うの。普通はね
0:
莉緒:(M)普通…普通…。彼女は、『普通』という言葉を多用して
莉緒:(M)私の、『あたりまえ』を否定した
莉緒:(M)私の、『あたりまえ』を塗り替えようとしてきた
0:
咲夜:(N)その晩、莉緒は、絵奈にLINEした。
咲夜:(N)自分の『あたりまえ』が、綾香の『あたりまえ』によって塗り替えられてしまうことに、違和感?
咲夜:(N)気持ち悪さを感じていたから…
0:
莉緒:ねぇ、綾香って、どんな子なの?
絵奈:あぁ、いい子だよ
莉緒:いい子?
絵奈:ちょっと変わってるけどね。ノリが良くて、面白い子でしょ?
莉緒:今日ね、綾香と一緒に駅まで帰ったんだ
絵奈:へぇ。そうなんだ
莉緒:その時に、彼氏と付き合ったら、すぐにエッチするのが普通だって言われて…
絵奈:あぁ…、ね。今は、それが普通じゃない?そういう時代なんだよ
莉緒:そうなの?
絵奈:そうそう。莉緒は、真面目すぎるんだよ。そんなに難しく考えなくても良いって!
莉緒:うっ…、うん…
0:
莉緒:(M)絵奈には、否定してほしかった
莉緒:(M)綾香の『あたりまえ』を否定してほしかった
0:
0:【間】
0:
咲夜:(N)朝、珍しく通学時に乗る電車の車両が、莉緒さんと一緒になった
莉緒:あっ、咲夜君、おはよう
咲夜:おはよう
莉緒:車両が一緒になるなんて珍しいね
咲夜:だね。いつもは、これの二本前の便に乗ってる。今日は珍しく部活の朝練がない日だったからさ
莉緒:サッカー部だったよね?
咲夜:そうだよ。ずっとレギュラーには、なれていないけどね
莉緒:レギュラーになれなくても続けられてる事が凄いと思うな。小学の時もクラブに入ってたよね
咲夜:うん。好きな事だから続ける事ができてる
莉緒:そっか。好きな事か…。あっ、話は変わるけど、咲夜君は確かB組だったよね?
咲夜:そうだけど、どうしたの?
莉緒:綾香って、どんな子?
咲夜:綾香さんかぁ。うーん…。ちょっと自分は苦手かな
莉緒:苦手?いい子なのに?
咲夜:いい子?
莉緒:いい子じゃないの?
咲夜:うーん。何を基準に、いい子なの?
莉緒:何を基準にって…。みんなを基準に?
咲夜:その、みんなって、誰と誰と誰?
莉緒:えっと…、絵奈…
咲夜:絵奈さんだけ?
莉緒:あぁ…。うん
咲夜:それは、みんなとは言わないんじゃないのかな?
莉緒:ふっ。確かにね。あのさ、どうして綾香のことが苦手なの?
咲夜:うーん…。あたりまえを押し付けてくるからかな
莉緒:あたりまえを?
咲夜:そうだよ。自分基準で、「普通は普通は」ってさ
莉緒:あはは。そうなんだ
咲夜:僕はね。僕のあたりまえは、自分の目で確かめて、自分の耳で聴いて、自分の心で決めるモノだと思ってる
莉緒:そっか…
咲夜:そうだよ。あっ、そろそろ着くよ
莉緒:うん…。あのさ
咲夜:なに?
莉緒:ありがと
咲夜:僕は何もしてないけど
莉緒:それでも、ありがと
0:
莉緒:(M)彼の言葉は、揺らいでいた私の価値観を、心をそっと守ってくれたような、そんな気がした
0:
咲夜:(N)いつもの教室の、いつもの朝の風景。繰り返されるはずの予定調和…
絵奈:おはよう。莉緒
莉緒:絵奈、おはよう
絵奈:昨日、綾香と一緒に帰ったんだって?
莉緒:うん
絵奈:綾香って面白いでしょ?
莉緒:そうだね
絵奈:どんなこと話したの?
莉緒:あぁ…。(小声で)木村君ともうエッチしたの?って…
絵奈:え?したの?
莉緒:してない!してないよ!
絵奈:まだしてなかったの?
莉緒:でも、付き合って二週間だよ
絵奈:二週間だったら、してるのが普通じゃない?
莉緒:えっ?
0:
莉緒:(M)昨晩LINEで話した内容を全く覚えていないような様子だった
莉緒:(M)他人の事なんて、私の事なんて、どうでも良いのかな?
莉緒:(M)昔から絵奈を知っている私には、今の絵奈がどこか違う。遠い存在に感じた
莉緒:(M)そうして、世界の『あたりまえ』は、少しずつ、少しずつ、私たちの知らないところで
莉緒:(M)ゆっくりと歪(ゆが)んで行く…。だけど、誰もその変化に気づけない
莉緒:(M)変化に身を任せておく方が簡単だし、楽だから…
0:
莉緒:(M)私や咲夜君のように、その微妙な変化や違和感に気づいてしまった人間は…
0:【間】
咲夜:(N)その日の放課後、彼氏が部活を終えるのを待つ莉緒に、綾香が話しかけてきた
綾香:莉緒っち、やっほー
莉緒:やっほー
綾香:もしかして、もしかしなくても、木村君、待ってるの?
莉緒:そうだよ
綾香:ははぁ~ん。今日こそは、キスくらい、しちゃいなよ
莉緒:キスくらいって…
綾香:木村もさ。ほんとは莉緒っちとヤリたくてヤリたくて、仕方ないだろうしさ
莉緒:うーん…。そうなのかな?
綾香:そうだよ。男子って、普通はみんな、エッチする為に彼女作りたいだけなんだからさ
莉緒:そうなの?
綾香:そうだよ。それが普通なの!体を求めてこない男子なんて異常よ!
莉緒:木村君は真面目だからなぁ
綾香:真面目だろうが、なんだろうが、普通の男子は、エッチする事しか考えてないものなの!
莉緒:うっ、うん
綾香:あとさ。ぶっちゃけ絵奈の事、どう思ってる?
莉緒:絵奈の事?あぁ、親友だと思ってるけど
綾香:親友?
莉緒:そう、親友
綾香:えっと…。悪い事は言わないから、絵奈とは、あんまり仲良くしない方が良いかも
莉緒:どうして?
綾香:絵奈ってさ。八方美人じゃん。誰にでも当たり障(さわ)りなく話を合わせてるところあるでしょ?
莉緒:まっ、まぁ…
綾香:でしょでしょ?自分は嫌われたくないから、良い子に思われたいから、本音を隠して話を合わせてるだけって、なんか、そういうのウザくない?
莉緒:でも、それは、絵奈が優しいってことじゃ、ないのかな?
綾香:優しい?違うよ。卑怯(ひきょう)なだけだよ!
莉緒:卑怯?
綾香:そう、卑怯。ズルいんだよ。絵奈はさ。どの男子にも良い顔して、魔性(ましょう)の女って感じで、マジでウザい
莉緒:そこまで言わなくても…
綾香:でも、莉緒っちも、少しは絵奈がそういう子だって、思ってるでしょ?
莉緒:それは…うん…
綾香:でしょでしょ!絵奈はウザいんだよ!
莉緒:うん…
0:
0:【間】
0:
咲夜:(N)そして、莉緒は、部活を終えてやってきた木村を、公園の多目的トイレに誘い、体を許す…。
咲夜:(N)痛みと快感が交錯(こうさく)し、これでようやく木村と一つになれたと
咲夜:(N)みんなと同じになれたと安堵(あんど)する
0:【間】
咲夜:(N)その夜、莉緒は、木村に体を許したことを、親友である絵奈に一番に報告するために、LINEをするが、既読が付かない
咲夜:(N)どれだけ待っても、既読が付かない
莉緒:おかしいな…。どうして、既読が付かないんだろう?
0:【間】
咲夜:(N)翌朝、莉緒は、教室に入り、「おはよう」と挨拶をするが、誰ひとりとして、莉緒に挨拶を返してはくれない
莉緒:絵奈、おはよう
絵奈:…
莉緒:あれ?絵奈、どうかした?
絵奈:…
莉緒:絵奈、無視しないでよ!
絵奈:…
莉緒:うちら、親友でしょ?
絵奈:親友?私、あんたなんかと親友になったつもりないから
莉緒:えっ?どういうこと?
絵奈:だって、そうでしょ?あんた、私のこと、八方美人(はっぽうびじん)のウザい奴って思ってるんでしょ?
莉緒:そんなこと…
絵奈:全部、全部、ある人から聞いてるから
莉緒:あっ、ある人って、綾香?
絵奈:なるほどね…。そうやって、簡単に友達の名前を売るわけね
莉緒:名前を売るって
絵奈:だって、その通りでしょ!
莉緒:絵奈。違うの。私を信じて!
絵奈:信じられない。もう、二度と私に話しかけないで
莉緒:そんなっ…
0:【間】
莉緒:(M)その日の学校は、最悪だった
莉緒:(M)誰にも私の姿が見えていない。誰にも私の声が届かない
莉緒:(M)なぜだか分からないけど、普段なら、昼休みには、屋上に木村君は来てくれるのに
莉緒:(M)普段なら、一緒に弁当を食べているのに、木村君は来なかった…
咲夜:(N)そして、放課後。いつものように彼氏を待つ莉緒に、綾香が話しかけてきた
綾香:あっ!木村君は来ないよ
莉緒:えっ?どういうこと?
綾香:木村君は、今頃、体育倉庫で絵奈と…フフフ…
莉緒:え?体育倉庫で、絵奈となんなの?
綾香:さぁね?確かめに行ってみたら?
莉緒:っ!
咲夜:(N)莉緒は、走って体育倉庫に向かった
咲夜:(N)分厚い扉越しに聴こえる。絵奈と木村が深く、激しく混ざり合っている声
咲夜:(N)突き付けられた現実に、予想だにしない裏切りに、胸を抉(えぐ)られる
咲夜:(N)心を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に引き裂かれる
咲夜:(N)莉緒は、生まれて初めて、『死にたい』と思った
咲夜:(N)そして、なんの迷いも、躊躇(ためら)いもなく、自らの命を終わらせるために、屋上に向かった
0:【間】
莉緒:はぁ、はぁ、はぁ…
咲夜:あ…、莉緒さん?
莉緒:…っ!
咲夜:おっと!
咲夜:(M)僕の手は、なぜか、目の前を突っ切って行こうとする莉緒さんの腕をつかんでいた
莉緒:どうして私の腕をつかむの?
咲夜:どうしてだろう?
莉緒:放して!ねぇ!放してよ!
咲夜:放さない
咲夜:(M)絶対に放してはいけない気がして、僕は…そのまま莉緒さんを抱き寄せた
莉緒:ちょ…
咲夜:莉緒さんが落ち着くまで、ずっと、ずっとこのままでいるから
莉緒:どうして?
咲夜:わからない…
莉緒:もう…。咲夜君、部活は?サッカー部でしょ?
咲夜:サボった
莉緒:どうして?
咲夜:気持ち悪いから
莉緒:気持ち悪い?体調が悪いの?
咲夜:体調は、悪くないよ。でも、今日、綾香さんの周りにいる人たちがさ。とても、そう、とても気持ち悪かったからさ
莉緒:…
咲夜:僕は、部活をサボってでも、ここにいないとダメな気がしたんだ
莉緒:意味がわからない
咲夜:僕は、君に死んでほしくないんだよ
莉緒:どうして?どうして?咲夜君に、私の何がわかるの?
咲夜:ほとんどわからないさ。でも、今、君が、死にたくなるくらい辛い想いをしてるってことくらいは、わかるさ
莉緒:咲夜君って、神様なの?
咲夜:神様?ふっ。そんなに良いモノじゃないさ。僕は、僕だよ
莉緒:ありがとう
咲夜:いえいえ…。僕は、何もしていませんよ。ただ、好きな人を抱きしめただけです
莉緒:好きな人?
咲夜:僕はね…。ずっと莉緒さんのことが好きだったんだ
莉緒:私のことが?嘘でしょ…
咲夜:嘘を言って、どうするんだよ?
莉緒:私は、今日、みんなから嫌われてしまった。そんな私と一緒にいると、咲夜君も嫌われてしまうよ
莉緒:みんなからの咲夜君の評価も下がってしまうよ
咲夜:評価って、なんだい?僕は、誰に何を思われて、誰に何を言われても、たった一人の、心に決めた好きな人を守りたいな
莉緒:私は、もう、汚れてる。綺麗じゃないの
咲夜:汚れてるって何?綺麗って何?
莉緒:もう、処女じゃないってことよ!もう、木村とヤッてるってことよ!
咲夜:だから?なに?
莉緒:えっ?
咲夜:君は綺麗だ。誰よりも綺麗だ
莉緒:…っ!
咲夜:僕は、君の過去に興味はないし、僕が興味があるのは、君の明日だけさ
莉緒:私の…明日?
咲夜:そう、僕に、莉緒さんの明日をあずけてほしい
莉緒:…雨だよ
咲夜:雨?
莉緒:そう、雨。止まない雨。どこに行っても、どれだけ時間が経っても、この雨は、きっと止まないの
咲夜:だったらさ。僕が、傘になるよ
莉緒:傘に?
咲夜:そう。莉緒さんが、雨を凌(しの)ぐための傘になる
莉緒:ふっ。咲夜君って、そういうキザなことを言う人だったんだ
咲夜:ふっ。ようやく笑ってくれたね
莉緒:なによ!笑っちゃ悪いの?
咲夜:ううん。笑顔も、とても、そう、とても綺麗だ
莉緒:なによ!なによ!もーう!ふふふっ
咲夜:ほら、雨、止んだだろ?
莉緒:あっ…
0:
0:【間】
0:
絵奈:(M)『普通』って、なんだろう?
絵奈:(M)『あたりまえ』って、なんだろう?
綾香:(M)私の『普通』が、一番の『あたりまえ』だから、私はいつも正しいの
絵奈:(M)本当に、そうなのかな?
綾香:(M)私の『普通』に流されていれば、楽でしょ?
綾香:(M)みんなと同じになれるから、安心でしょ?
綾香:(M)何も考えなくて良いから、簡単でしょ?
絵奈:(M)確かに、そうかもね
絵奈:(M)だけど、そこに、私の意思は存在しない
絵奈:(M)綾香と関わることで、私の『あたりまえ』は変わっていった
綾香:(M)でも、絵奈は、私を友達にしてしまった
綾香:(M)私を友達にすることで、絵奈の親友も
絵奈:(M)そう、綾香の『普通』に、綾香の『あたりまえ』に染めてしまった
絵奈:(M)その結果、私の親友は…莉緒は…
綾香:(M)ふっ。絵奈のせいよ?私は、何も悪くない
綾香:(M)なぜなら、私は、『普通』で、『あたりまえ』だから!
絵奈:(M)友達は、選ぶべきだ。誤(あやま)った『普通』や『あたりまえ』を押し付けてくる人との関係は、すぐに断つべきだ!
綾香:(M)絵奈には無理だよ。だって、周りから良く思われたいから
綾香:(M)どんな人間とも友達でいられる人間を演じたいから、自分に酔っているから
絵奈:(M)そう、私は自分に酔っている。自分が大好き
絵奈:(M)だから、誰かを傷つけることはしないし、綾香とも友達でいた
綾香:(M)誰かを傷つけることはしない?嘘でしょ?
綾香:(M)絵奈は、私と友達でいることで、一番大切な親友を傷つけた。自殺に追い込んだ
絵奈:(M)それは…
莉緒:(M)大丈夫だよ…。大丈夫
絵奈:(M)えっ!?
莉緒:(M)絵奈は、何も悪くない
莉緒:(M)例え、止まない雨があったとしても
莉緒:(M)どこかに、きっと…
莉緒:(M)傘を差し出してくれる優しい人は、きっといるから…
0:
0:―了―
莉緒:(M)雨が止(や)まない
莉緒:(M)どこに行っても
莉緒:(M)いつまでたっても雨が止まない
莉緒:(M)私は、ひとり…
0:【間】
咲夜:(N)とある学校に、容姿端麗(ようしたんれい)、勉強も運動もできる女の子がいた
咲夜:(N)彼女の名前は、葉月莉緒(はづきりお)
咲夜:(N)昼休みに、莉緒は、彼氏と屋上で弁当を食べた後、教室に戻ろうとしていた
絵奈:あっ、莉緒
莉緒:あ、絵奈。やほ
絵奈:やほ
綾香:やほ
莉緒:ん?
絵奈:あぁ。この子は、B組の日野綾香(ひのあやか)。最近、仲良くなったの
綾香:綾香でーす
莉緒:綾香さん?
綾香:綾香でいいよー
莉緒:うん。綾香。私のことも、莉緒でいいからね
綾香:莉緒?莉緒っちでいい?
莉緒:莉緒っち?
綾香:うん。莉緒っち
莉緒:いいよ
綾香:じゃあ、莉緒っち、これから仲良くしてねー
莉緒:こちらこそ、よろしくね
絵奈:そうそう。今ね、莉緒のこと話してたの
莉緒:私のこと?
絵奈:そうだよ。莉緒って、完璧だよねって
莉緒:完璧?
綾香:うんうん。可愛いし、勉強も運動もできる。もう、無敵って感じで、絵奈から話を聞かされていたところです
綾香:私のクラスでも莉緒のこと狙ってた男子、結構多かったと思うよ。でも、C組の木村と付き合ったのは意外だったな
莉緒:意外?
綾香:だって、木村、パッとしないじゃん。莉緒っちなら、もっとイイ男と付き合えるのに~
莉緒:そんなことないよ。木村君は、真面目だし、優しいよ
絵奈:あっ!また惚気(のろけ)てる!
綾香:惚気だね~
莉緒:も~う。そんなんじゃないよ~
絵奈:(同時に)ふふふ
綾香:(同時に)ふふふ。じゃあ、これで、うちら、もう友達になったから、何か困ったこととかあれば、なんでも相談に乗るからね
莉緒:うん。ありがとう
0:【間】
莉緒:(M)親友の友達だから、良い子だと思ってた
莉緒:(M)その思い込みが、間違いの始まりだった
0:【間】
咲夜:(N)放課後、部活を終えた莉緒は、再び彼女と出会う…
綾香:あっ、莉緒っちじゃん
莉緒:あ、綾香
綾香:今、部活終わったとこ?
莉緒:うん。そうだよ。綾香も?
綾香:うん。あっ、もしかして、今日も木村と帰るの?
莉緒:ううん。今日は、彼、直接塾に行く日だから、一緒には帰らないよ
綾香:じゃあさ。駅までは一緒に帰ろうよ。確か、莉緒っちも電車通学だったよね?
莉緒:そうだよ
綾香:あのさ、ぶっちゃけ聞くけど、木村とどうなの?もうヤッた?
莉緒:えっ?
綾香:だから、ヤッたの?
莉緒:それは…まだ…
綾香:は!?そうなの?じゃあ、キスは?
莉緒:キスも…まだ…
綾香:なにそれ!こんな完璧美少女と付き合えてるのに、木村って馬鹿なの?
莉緒:ははは。でも、まだ付き合って二週間だし
綾香:二週間!?二週間でキスもしてこないの?普通、付き合ったその日か翌日には、エッチするのが普通でしょ?
莉緒:そうなの?
綾香:そうそう。男って、みんな狼!野獣なの!本能で生きてる!ヤルことしか考えていないの!
莉緒:…木村君は、違うと思うな
綾香:それは、木村が変な奴ってだけよ
莉緒:確かに、変わってる人かも知れないけど
綾香:普通は違うの。普通はね
0:
莉緒:(M)普通…普通…。彼女は、『普通』という言葉を多用して
莉緒:(M)私の、『あたりまえ』を否定した
莉緒:(M)私の、『あたりまえ』を塗り替えようとしてきた
0:
咲夜:(N)その晩、莉緒は、絵奈にLINEした。
咲夜:(N)自分の『あたりまえ』が、綾香の『あたりまえ』によって塗り替えられてしまうことに、違和感?
咲夜:(N)気持ち悪さを感じていたから…
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莉緒:ねぇ、綾香って、どんな子なの?
絵奈:あぁ、いい子だよ
莉緒:いい子?
絵奈:ちょっと変わってるけどね。ノリが良くて、面白い子でしょ?
莉緒:今日ね、綾香と一緒に駅まで帰ったんだ
絵奈:へぇ。そうなんだ
莉緒:その時に、彼氏と付き合ったら、すぐにエッチするのが普通だって言われて…
絵奈:あぁ…、ね。今は、それが普通じゃない?そういう時代なんだよ
莉緒:そうなの?
絵奈:そうそう。莉緒は、真面目すぎるんだよ。そんなに難しく考えなくても良いって!
莉緒:うっ…、うん…
0:
莉緒:(M)絵奈には、否定してほしかった
莉緒:(M)綾香の『あたりまえ』を否定してほしかった
0:
0:【間】
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咲夜:(N)朝、珍しく通学時に乗る電車の車両が、莉緒さんと一緒になった
莉緒:あっ、咲夜君、おはよう
咲夜:おはよう
莉緒:車両が一緒になるなんて珍しいね
咲夜:だね。いつもは、これの二本前の便に乗ってる。今日は珍しく部活の朝練がない日だったからさ
莉緒:サッカー部だったよね?
咲夜:そうだよ。ずっとレギュラーには、なれていないけどね
莉緒:レギュラーになれなくても続けられてる事が凄いと思うな。小学の時もクラブに入ってたよね
咲夜:うん。好きな事だから続ける事ができてる
莉緒:そっか。好きな事か…。あっ、話は変わるけど、咲夜君は確かB組だったよね?
咲夜:そうだけど、どうしたの?
莉緒:綾香って、どんな子?
咲夜:綾香さんかぁ。うーん…。ちょっと自分は苦手かな
莉緒:苦手?いい子なのに?
咲夜:いい子?
莉緒:いい子じゃないの?
咲夜:うーん。何を基準に、いい子なの?
莉緒:何を基準にって…。みんなを基準に?
咲夜:その、みんなって、誰と誰と誰?
莉緒:えっと…、絵奈…
咲夜:絵奈さんだけ?
莉緒:あぁ…。うん
咲夜:それは、みんなとは言わないんじゃないのかな?
莉緒:ふっ。確かにね。あのさ、どうして綾香のことが苦手なの?
咲夜:うーん…。あたりまえを押し付けてくるからかな
莉緒:あたりまえを?
咲夜:そうだよ。自分基準で、「普通は普通は」ってさ
莉緒:あはは。そうなんだ
咲夜:僕はね。僕のあたりまえは、自分の目で確かめて、自分の耳で聴いて、自分の心で決めるモノだと思ってる
莉緒:そっか…
咲夜:そうだよ。あっ、そろそろ着くよ
莉緒:うん…。あのさ
咲夜:なに?
莉緒:ありがと
咲夜:僕は何もしてないけど
莉緒:それでも、ありがと
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莉緒:(M)彼の言葉は、揺らいでいた私の価値観を、心をそっと守ってくれたような、そんな気がした
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咲夜:(N)いつもの教室の、いつもの朝の風景。繰り返されるはずの予定調和…
絵奈:おはよう。莉緒
莉緒:絵奈、おはよう
絵奈:昨日、綾香と一緒に帰ったんだって?
莉緒:うん
絵奈:綾香って面白いでしょ?
莉緒:そうだね
絵奈:どんなこと話したの?
莉緒:あぁ…。(小声で)木村君ともうエッチしたの?って…
絵奈:え?したの?
莉緒:してない!してないよ!
絵奈:まだしてなかったの?
莉緒:でも、付き合って二週間だよ
絵奈:二週間だったら、してるのが普通じゃない?
莉緒:えっ?
0:
莉緒:(M)昨晩LINEで話した内容を全く覚えていないような様子だった
莉緒:(M)他人の事なんて、私の事なんて、どうでも良いのかな?
莉緒:(M)昔から絵奈を知っている私には、今の絵奈がどこか違う。遠い存在に感じた
莉緒:(M)そうして、世界の『あたりまえ』は、少しずつ、少しずつ、私たちの知らないところで
莉緒:(M)ゆっくりと歪(ゆが)んで行く…。だけど、誰もその変化に気づけない
莉緒:(M)変化に身を任せておく方が簡単だし、楽だから…
0:
莉緒:(M)私や咲夜君のように、その微妙な変化や違和感に気づいてしまった人間は…
0:【間】
咲夜:(N)その日の放課後、彼氏が部活を終えるのを待つ莉緒に、綾香が話しかけてきた
綾香:莉緒っち、やっほー
莉緒:やっほー
綾香:もしかして、もしかしなくても、木村君、待ってるの?
莉緒:そうだよ
綾香:ははぁ~ん。今日こそは、キスくらい、しちゃいなよ
莉緒:キスくらいって…
綾香:木村もさ。ほんとは莉緒っちとヤリたくてヤリたくて、仕方ないだろうしさ
莉緒:うーん…。そうなのかな?
綾香:そうだよ。男子って、普通はみんな、エッチする為に彼女作りたいだけなんだからさ
莉緒:そうなの?
綾香:そうだよ。それが普通なの!体を求めてこない男子なんて異常よ!
莉緒:木村君は真面目だからなぁ
綾香:真面目だろうが、なんだろうが、普通の男子は、エッチする事しか考えてないものなの!
莉緒:うっ、うん
綾香:あとさ。ぶっちゃけ絵奈の事、どう思ってる?
莉緒:絵奈の事?あぁ、親友だと思ってるけど
綾香:親友?
莉緒:そう、親友
綾香:えっと…。悪い事は言わないから、絵奈とは、あんまり仲良くしない方が良いかも
莉緒:どうして?
綾香:絵奈ってさ。八方美人じゃん。誰にでも当たり障(さわ)りなく話を合わせてるところあるでしょ?
莉緒:まっ、まぁ…
綾香:でしょでしょ?自分は嫌われたくないから、良い子に思われたいから、本音を隠して話を合わせてるだけって、なんか、そういうのウザくない?
莉緒:でも、それは、絵奈が優しいってことじゃ、ないのかな?
綾香:優しい?違うよ。卑怯(ひきょう)なだけだよ!
莉緒:卑怯?
綾香:そう、卑怯。ズルいんだよ。絵奈はさ。どの男子にも良い顔して、魔性(ましょう)の女って感じで、マジでウザい
莉緒:そこまで言わなくても…
綾香:でも、莉緒っちも、少しは絵奈がそういう子だって、思ってるでしょ?
莉緒:それは…うん…
綾香:でしょでしょ!絵奈はウザいんだよ!
莉緒:うん…
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咲夜:(N)そして、莉緒は、部活を終えてやってきた木村を、公園の多目的トイレに誘い、体を許す…。
咲夜:(N)痛みと快感が交錯(こうさく)し、これでようやく木村と一つになれたと
咲夜:(N)みんなと同じになれたと安堵(あんど)する
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咲夜:(N)その夜、莉緒は、木村に体を許したことを、親友である絵奈に一番に報告するために、LINEをするが、既読が付かない
咲夜:(N)どれだけ待っても、既読が付かない
莉緒:おかしいな…。どうして、既読が付かないんだろう?
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咲夜:(N)翌朝、莉緒は、教室に入り、「おはよう」と挨拶をするが、誰ひとりとして、莉緒に挨拶を返してはくれない
莉緒:絵奈、おはよう
絵奈:…
莉緒:あれ?絵奈、どうかした?
絵奈:…
莉緒:絵奈、無視しないでよ!
絵奈:…
莉緒:うちら、親友でしょ?
絵奈:親友?私、あんたなんかと親友になったつもりないから
莉緒:えっ?どういうこと?
絵奈:だって、そうでしょ?あんた、私のこと、八方美人(はっぽうびじん)のウザい奴って思ってるんでしょ?
莉緒:そんなこと…
絵奈:全部、全部、ある人から聞いてるから
莉緒:あっ、ある人って、綾香?
絵奈:なるほどね…。そうやって、簡単に友達の名前を売るわけね
莉緒:名前を売るって
絵奈:だって、その通りでしょ!
莉緒:絵奈。違うの。私を信じて!
絵奈:信じられない。もう、二度と私に話しかけないで
莉緒:そんなっ…
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莉緒:(M)その日の学校は、最悪だった
莉緒:(M)誰にも私の姿が見えていない。誰にも私の声が届かない
莉緒:(M)なぜだか分からないけど、普段なら、昼休みには、屋上に木村君は来てくれるのに
莉緒:(M)普段なら、一緒に弁当を食べているのに、木村君は来なかった…
咲夜:(N)そして、放課後。いつものように彼氏を待つ莉緒に、綾香が話しかけてきた
綾香:あっ!木村君は来ないよ
莉緒:えっ?どういうこと?
綾香:木村君は、今頃、体育倉庫で絵奈と…フフフ…
莉緒:え?体育倉庫で、絵奈となんなの?
綾香:さぁね?確かめに行ってみたら?
莉緒:っ!
咲夜:(N)莉緒は、走って体育倉庫に向かった
咲夜:(N)分厚い扉越しに聴こえる。絵奈と木村が深く、激しく混ざり合っている声
咲夜:(N)突き付けられた現実に、予想だにしない裏切りに、胸を抉(えぐ)られる
咲夜:(N)心を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に引き裂かれる
咲夜:(N)莉緒は、生まれて初めて、『死にたい』と思った
咲夜:(N)そして、なんの迷いも、躊躇(ためら)いもなく、自らの命を終わらせるために、屋上に向かった
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莉緒:はぁ、はぁ、はぁ…
咲夜:あ…、莉緒さん?
莉緒:…っ!
咲夜:おっと!
咲夜:(M)僕の手は、なぜか、目の前を突っ切って行こうとする莉緒さんの腕をつかんでいた
莉緒:どうして私の腕をつかむの?
咲夜:どうしてだろう?
莉緒:放して!ねぇ!放してよ!
咲夜:放さない
咲夜:(M)絶対に放してはいけない気がして、僕は…そのまま莉緒さんを抱き寄せた
莉緒:ちょ…
咲夜:莉緒さんが落ち着くまで、ずっと、ずっとこのままでいるから
莉緒:どうして?
咲夜:わからない…
莉緒:もう…。咲夜君、部活は?サッカー部でしょ?
咲夜:サボった
莉緒:どうして?
咲夜:気持ち悪いから
莉緒:気持ち悪い?体調が悪いの?
咲夜:体調は、悪くないよ。でも、今日、綾香さんの周りにいる人たちがさ。とても、そう、とても気持ち悪かったからさ
莉緒:…
咲夜:僕は、部活をサボってでも、ここにいないとダメな気がしたんだ
莉緒:意味がわからない
咲夜:僕は、君に死んでほしくないんだよ
莉緒:どうして?どうして?咲夜君に、私の何がわかるの?
咲夜:ほとんどわからないさ。でも、今、君が、死にたくなるくらい辛い想いをしてるってことくらいは、わかるさ
莉緒:咲夜君って、神様なの?
咲夜:神様?ふっ。そんなに良いモノじゃないさ。僕は、僕だよ
莉緒:ありがとう
咲夜:いえいえ…。僕は、何もしていませんよ。ただ、好きな人を抱きしめただけです
莉緒:好きな人?
咲夜:僕はね…。ずっと莉緒さんのことが好きだったんだ
莉緒:私のことが?嘘でしょ…
咲夜:嘘を言って、どうするんだよ?
莉緒:私は、今日、みんなから嫌われてしまった。そんな私と一緒にいると、咲夜君も嫌われてしまうよ
莉緒:みんなからの咲夜君の評価も下がってしまうよ
咲夜:評価って、なんだい?僕は、誰に何を思われて、誰に何を言われても、たった一人の、心に決めた好きな人を守りたいな
莉緒:私は、もう、汚れてる。綺麗じゃないの
咲夜:汚れてるって何?綺麗って何?
莉緒:もう、処女じゃないってことよ!もう、木村とヤッてるってことよ!
咲夜:だから?なに?
莉緒:えっ?
咲夜:君は綺麗だ。誰よりも綺麗だ
莉緒:…っ!
咲夜:僕は、君の過去に興味はないし、僕が興味があるのは、君の明日だけさ
莉緒:私の…明日?
咲夜:そう、僕に、莉緒さんの明日をあずけてほしい
莉緒:…雨だよ
咲夜:雨?
莉緒:そう、雨。止まない雨。どこに行っても、どれだけ時間が経っても、この雨は、きっと止まないの
咲夜:だったらさ。僕が、傘になるよ
莉緒:傘に?
咲夜:そう。莉緒さんが、雨を凌(しの)ぐための傘になる
莉緒:ふっ。咲夜君って、そういうキザなことを言う人だったんだ
咲夜:ふっ。ようやく笑ってくれたね
莉緒:なによ!笑っちゃ悪いの?
咲夜:ううん。笑顔も、とても、そう、とても綺麗だ
莉緒:なによ!なによ!もーう!ふふふっ
咲夜:ほら、雨、止んだだろ?
莉緒:あっ…
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絵奈:(M)『普通』って、なんだろう?
絵奈:(M)『あたりまえ』って、なんだろう?
綾香:(M)私の『普通』が、一番の『あたりまえ』だから、私はいつも正しいの
絵奈:(M)本当に、そうなのかな?
綾香:(M)私の『普通』に流されていれば、楽でしょ?
綾香:(M)みんなと同じになれるから、安心でしょ?
綾香:(M)何も考えなくて良いから、簡単でしょ?
絵奈:(M)確かに、そうかもね
絵奈:(M)だけど、そこに、私の意思は存在しない
絵奈:(M)綾香と関わることで、私の『あたりまえ』は変わっていった
綾香:(M)でも、絵奈は、私を友達にしてしまった
綾香:(M)私を友達にすることで、絵奈の親友も
絵奈:(M)そう、綾香の『普通』に、綾香の『あたりまえ』に染めてしまった
絵奈:(M)その結果、私の親友は…莉緒は…
綾香:(M)ふっ。絵奈のせいよ?私は、何も悪くない
綾香:(M)なぜなら、私は、『普通』で、『あたりまえ』だから!
絵奈:(M)友達は、選ぶべきだ。誤(あやま)った『普通』や『あたりまえ』を押し付けてくる人との関係は、すぐに断つべきだ!
綾香:(M)絵奈には無理だよ。だって、周りから良く思われたいから
綾香:(M)どんな人間とも友達でいられる人間を演じたいから、自分に酔っているから
絵奈:(M)そう、私は自分に酔っている。自分が大好き
絵奈:(M)だから、誰かを傷つけることはしないし、綾香とも友達でいた
綾香:(M)誰かを傷つけることはしない?嘘でしょ?
綾香:(M)絵奈は、私と友達でいることで、一番大切な親友を傷つけた。自殺に追い込んだ
絵奈:(M)それは…
莉緒:(M)大丈夫だよ…。大丈夫
絵奈:(M)えっ!?
莉緒:(M)絵奈は、何も悪くない
莉緒:(M)例え、止まない雨があったとしても
莉緒:(M)どこかに、きっと…
莉緒:(M)傘を差し出してくれる優しい人は、きっといるから…
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0:―了―