台本概要

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タイトル Dear Re;
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 大怪我をして目を覚ました裕樹は記憶を失っていた。
甲斐甲斐しく世話をする優しい妻、星那。
徐々に戻っていく記憶と真実。

Dear無印の男女逆転版です。

読み手の性別は不問、登場人物の性別変更は不可。
ご利用される場合は強制ではありませんがお知らせいただくと作者が小躍りして喜びます。
作品名、作者名、台本リンクの内2点の表記をお願いします。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
裕樹 372 大怪我をして入院中。記憶を失っている
星那 375 裕樹の妻。 ……
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
Dear 裕樹 ゆうき。大怪我をして入院している 怪我の影響か、記憶が無い 星那 星那。裕樹の妻 …… ーーーー 星那:……くん、ゆーくん…! 裕樹:…ぅ…… 星那:ゆー君!気が付いた…?! 裕樹:……こ、こ…どこ… 星那:病院だよ。良かった…!! 裕樹:びょういん……うっ… 星那:動いちゃダメ…! 裕樹:痛い… 星那:看護師さん呼ぶから待ってね 裕樹:身体が、痛い…あ、つい… 星那:怪我してるんだから動かないで。ね?それに三日も目が覚めなかったんだよ 裕樹:怪我……なんで… 星那:どう?痛み以外…気持ち悪いとかある? 裕樹:うん… 星那:良かった、目が覚めて… 裕樹:…… 星那:ゆー君? 裕樹:…あなたは…? 星那:え… 裕樹:誰… 星那:…本気で、言ってる…? 裕樹:……あぁ 星那:私だよ、星那 裕樹:せ、な… 星那:わから、ない…? 裕樹:……うん 星那:…… 裕樹:ゆー君、って…僕の事…? 星那:……ぇ 裕樹:…分からない… 星那:…… 裕樹:僕、なんで…どうして、怪我、してるんだ… 星那:…… 裕樹:…? 星那:…事故、にあって 裕樹:…じ、こ… 星那:うん、事故。…あの、えっと…そう!思い出せないなら、今は怪我治すのを優先しよ?傷が治ってくればきっと思い出せるから 裕樹:…そうかな… 星那:大丈夫、すぐ元気になるよ 裕樹:うん… 星那:私が付いてるから。大丈夫、今思い出せない事も、色々教えるからね 裕樹:ありがとう…せな、さん… 星那:…私の事は星那って呼んでたよ 裕樹:せ、な… 星那:すぐじゃなくていいから。少しずつ、その呼び方に慣れてくれたら嬉しいな 裕樹:ん、わかった…(眠気が襲ってくる) 星那:ゆー君? 裕樹:ね、むい…… 星那:寝ちゃったの?そっか、記憶が…そう、良かった……目が覚めて 星那:おやすみ、裕樹。早く良くなってね : : 星那:ゆー君、入るよ? 裕樹:…せ、な… 星那:…ふふっ。いいよ、無理して呼ばなくて 裕樹:ごめん 星那:謝らないで。ゆー君からしたら昨日会ったばかりの人なんだから 裕樹:…ごめん 星那:こういう時はありがとうって言えばいいの 裕樹:…あり、がと… 星那:どういたしまして!どう?気分は 裕樹:昨日よりは少しスッキリしてる…まだ痛いけど… 星那:良かった。食欲は?ご飯ちゃんと食べた? 裕樹:ご飯は…あんまり 星那:そっか…でも、少しでも食べなきゃダメだよ。傷を治すのだって、体に栄養いるんだから 裕樹:…母親みたい、だね 星那:えぇ、そう? 裕樹:…うん 星那:も~…あ、そうだ。お医者さんから説明聞いてきた。記憶に関することは明後日には精密検査してみるって 裕樹:そっか… 星那:何か分かると良いけど… 裕樹:あの…聞いても、いいかな? 星那:ん、なに? 裕樹:その…あなたは、僕とどういう関係…? 星那:…あぁ、そうだよね。それは気になるよね 裕樹:…… 星那:(椅子に腰を下ろす)驚かないで聞いて。貴方は、私の旦那さんなの 裕樹:ぇ…… 星那:私たち、先月結婚式を挙げたばかりだったの 裕樹:結婚… 星那:そう、結婚。ほら、薬指の指輪お揃いでしょ? 裕樹:(自分の手を見る)…覚えて、無い… 星那:まぁ、自分の名前分からないもんね、仕方ないよ…あっ、もしかして…なんでこいつと結婚したんだって思ってる、とか…? 裕樹:えっ?いや、それは思ってない…です 星那:良かった… 裕樹:尚更、ごめん…。自分の奥さんの事、思い出せないなんて… 星那:仕方ないよ。だってゆー君が望んだことじゃないんだから 裕樹:ん、そうだけど… 星那:そうだ!明日、ゆー君が好きなサクランボ買ってくるね 裕樹:サクランボ…? 星那:好きな物なら食ベれそうじゃない?一応看護師さんに許可とるから安心して 裕樹:ありがとう…星那さん 星那:…嬉しい 裕樹:ん? 星那:…もう目を覚まさないかもしれないって、覚悟して欲しいって担当の先生に言われて、ものすごく怖かった。どうしようってずっと思ってたの。だから、目を覚ましてくれて、また星那って呼んでくれて…凄く嬉しい… 裕樹:僕、自分の名前も思い出せなくて…正直、すごく怖いよ。でも、誰も傍に居なかったら、もっと怖かったと思うんだ。だから…星那さん、ありがとう 星那:どういたしまして 裕樹:あのっ… 星那:どうかした? 裕樹:…名前 星那:名前? 裕樹:どういう字を書くのか、教えて貰えないかな? 星那:わかった。えっとね… : :スマートフォンに文字を入力する 星那:これがゆー君の名前。石川裕樹 裕樹:石川、裕樹… 星那:よく、ひろきって間違えられるんだって笑ってたなぁ 裕樹:そうなんだ… 星那:で、私は星那。沢山の星って意味があるんだよ 裕樹:沢山の星… 星那:うん 裕樹:…ごめんやっぱり… 星那:ううん、いいの。忘れてること、私が教えてあげる。何も心配しなくて良いからね 裕樹:ありがとう… 星那:そうだ。明日、アルバム持って来るね。一緒に写ってる写真見たら何か思い出せるかも 裕樹:そう…うん、そうかも 星那:……(裕樹の手を握る) 裕樹:…星那、さん 星那:無理はしないで。私がずっと傍に居るからね 裕樹:…うん 星那:あっ、あんまり長く面会ダメって言われてたんだった…ごめん、今日はもう帰るね 裕樹:ありがとう 星那:じゃあ、また明日ね 裕樹:うん、また明日 : : 星那:ゆー君 裕樹:星那さん 星那:痛みはどう? 裕樹:ん…動いたらまだ少し 星那:今日、リハビリ初日だったんでしょ?どうだった? 裕樹:僕は寝てるだけだから…担当の人が来て、動くところ動かしてくれた 星那:まだギブスもしてるから仕方ないね 裕樹:…聞きたいんだけど 星那:ん?なぁに? 裕樹:…顔の怪我… 星那:…… 裕樹:火傷の範囲が広いって… 星那:ぁ… 裕樹:ここはほかの怪我と関係ある…んだよな…なんでこんな状態に… 星那:だから、事故って… 裕樹:どんな事故? 星那:…… 裕樹:どうして僕は、こんな大怪我したんだ?知ってるんだよな? 星那:…… 裕樹:教えて、星那さん…! 星那:…… 裕樹:星那…! 星那:ごめんなさい 裕樹:え… 星那:今はまだ…早いよ。目が覚めたばかりだし、傷も治ってないし… 裕樹:でも… 星那:焦らないで。ね?もう少し回復したらちゃんと話す 裕樹:…… 星那:それにまだ…記憶が戻ってないでしょ 裕樹:うん… 星那:体と精神面のケアを優先しよ?もっと元気になったら、ちゃんと話すから 裕樹:…分かった 星那:ごめんね、できるだけゆー君のお願い、叶えてあげたいんだけど… 裕樹:ううん、僕の事考えてくれてるって…わかってる 星那:…ありがと 裕樹:…分からないことばっかりで、不安で… 星那:仕方ないよ 裕樹:冷静じゃなかった、ごめん 星那:気にしてない。それに…星那って呼んでくれて嬉しい 裕樹:あっ…咄嗟に… 星那:ありがとう 裕樹:慣れて、行くから 星那:うん…あっ、結婚式の写真持ってきたの。ほら見て 裕樹:…… 星那:すごく素敵だったなぁ、ゆー君。本物の王子様みたいで 裕樹:…… 星那:思い、出さない? 裕樹:ごめん… 星那:じゃあ…ゆー君が退院してすっかり元気になったらもう一回結婚式しちゃう? 裕樹:え? 星那:だって、ゆー君は覚えてないんでしょ?なら式挙げてないのと同じよね 裕樹:でも、それは僕の中だけの話で… 星那:良いじゃない。紺のタキシードも素敵だったけど、きっとシルバーの衣装も素敵だと思う。お色直しもして…案外赤色とかも似合うんじゃない?恥ずかしいなら二人きりでもいいよ 裕樹:…本気? 星那:もちろん!そしたらもう一回、ゆー君の花婿姿が見れるし。チャペルで二人きりの結婚式、最高じゃない?ダイエットしなきゃ! 裕樹:…ぷっ…ふふ 星那:あ、やっと笑った 裕樹:え? 星那:やっと笑ったなって 裕樹:あ…… 星那:不安よね、凄く。でも、ちゃんと私が傍にいるから。心配事とかあったらなんでも話して 裕樹:…うん 星那:あー…ハグ、したいな。でもまだ体が痛いから我慢しなきゃね 裕樹:…す、少しなら… 星那:…良いの? 裕樹:うん… 星那:…じゃあ、ちょっとだけ…あ、痛かったら言ってね? 裕樹:平気だよ :上から被さるだけのハグ 星那:…ゆー君、本当に良かった 裕樹:星那… 星那:(離れて)また、明日来るね 裕樹:ん。気をつけて帰って 星那:じゃあね : : 星那:こんにちはぁ 裕樹:…こんにちは 星那:どう?具合は 裕樹:まぁまぁかな。今日で点滴取るって 星那:ほんと?良かった 裕樹:顔の包帯も変えてもらった。かなり回復していってるって 星那:ゆー君の体が早く元気になるぞーって頑張ってるんだよ! 裕樹:そうだね 星那:ね、見て。じゃじゃーん 裕樹:サクランボ… 星那:昨日持って来たかったんだけど売ってなくて。今日は見つけたから持ってきたよ 裕樹:…ありがとう 星那:どう?食べてみる? 裕樹:…せっかくだし、貰おうかな 星那:分かった、洗ってくる :間 星那:今日のリハビリはどうだった? 裕樹:昨日と変わらないけど…明日からは車椅子で少し外、出てもいいって 星那:そうなの? 裕樹:うん。一人じゃまだ乗れないから、誰かに連れて行ってもらう感じかな 星那:じゃあさ、中庭一緒に行きたいな 裕樹:中庭? 星那:うん。ここの中庭、今すごく沢山お花咲いてて綺麗だよ。明日も天気良いみたいだから 裕樹:星那は花が好きだね 星那:…! 裕樹:どうかした? 星那:…何か、思い出したの? 裕樹:え? 星那:あ、違った?私が花好きなの、思い出したかなって 裕樹:…ごめん、そういうんじゃなくて…なんとなく… 星那:そっか 裕樹:…… 星那:他は? 裕樹:え? 星那:他に私のこと、これ好きそうだなーとか、これ嫌いそうだなーとかなにか思いつかない? 裕樹:えっと… 星那:じゃあ、クイズにしよっか 裕樹:クイズって… 星那:第一問!私の名前はなんでしょう? 裕樹:えっと…石川星那… 星那:はい、大正解! 裕樹:ぷっ… 星那:幸先の良いスタートですねぇ。それでは第二問!貴方のお名前はなんでしょう? 裕樹:石川、裕樹 星那:はーい、またまた大正解! 裕樹:ふふっ… 星那:第三問 裕樹:え、まだ続けるの? 星那:ん?ダメ? 裕樹:…ありがと 星那:…… 裕樹:笑わせようと、してくれてるんだよね 星那:…私…そんな気が利いた性格してないし…こんな風に馬鹿みたいなことしか… 裕樹:そんな事ないよ 星那:…… 裕樹:馬鹿みたいなことじゃない。…星那のおかげで、すごく心強い 星那:そう…? 裕樹:うん。沢山励ましてもらってる 星那:なら良かった… 裕樹:ありがとう 星那:…(小さく微笑む) 裕樹:サクランボ、一つ食べさせてくれる? 星那:良いよ。はい、あーん 裕樹:…… 星那:ほーら、照れないで。あーん 裕樹:……あーん 星那:美味しい? 裕樹:…うん、美味しい 星那:良かった。もう一個食べる? 裕樹:食べる…けど、あーんって言うのやめてくれない、かな… 星那:どうして?片目塞がってるから見えにくいでしょ?あーんして 裕樹:…… 星那:ゆー君 裕樹:………あー…ん 星那:ふふっ、可愛い 裕樹:…全身包帯でミイラみたいなのに? 星那:ゆー君は可愛いよ。どんな姿でも 裕樹:…変なの 星那:変じゃないよ。ゆー君の事、愛してるから結婚したんだよ?どんな貴方でも、愛してる 裕樹:…… 星那:…改めて言うと、ちょっと恥ずかしいね 裕樹:…言われる方もね 星那:でも、本心だから 裕樹:…うん : : 星那:入るよー…あ、座ってる! 裕樹:いらっしゃい 星那:ベッド起こしてもらったんだ。痛みはどう? 裕樹:点滴も外れたし、痛みも少なくなった。かなり楽だよ 星那:良かった。どう?今日はご飯食べれた? 裕樹:うん、昨日よりは。星那が持ってきてくれたサクランボのおかげかも 星那:また何か欲しいものあったら言って 裕樹:…星那 星那:ん? 裕樹:星那は、僕の怪我の原因知ってたよね? 星那:…… 裕樹:知ってるん、だよね 星那:…うん 裕樹:目が覚めてもう五日経ってるし身体も回復してきてる。…そろそろ教えて欲しい 星那:だけど… 裕樹:星那、教えて…! 星那:…分かった。すごくショッキングな話だから…もう少し怪我も治ってからって思ってたんだけど… 裕樹:記憶が無いだけでも、充分ショッキングだよ 星那:そっか… 裕樹:…教えて 星那:(椅子に座る)目を覚ましてから、なにか思い出したことある? 裕樹:…何も 星那:断片的なことも? 裕樹:うん… 星那:そっか。…あのね、車に轢かれたの 裕樹:車…? 星那:そう 裕樹:でも、顔は火傷って… 星那:…顔に、薬剤を掛けられて、動けなくなった所を車で… 裕樹:…… 星那:悪質なストーカーに遭ってたの 裕樹:ス、トーカー… 星那:ずっと前から悩んでて…警察にも相談行ったけど… 裕樹:…… 星那:結婚が決まった頃から、それが急にエスカレートして… 裕樹:殺されかけた、って事…? 星那:…うん 裕樹:今は?その人は… 星那:大丈夫、もう捕まったから 裕樹:…… 星那:犯人は捕まったから、もう大丈夫 裕樹:そっか… 星那:警察の人がね、回復したら話を聞きたいって言ってて…でも止めてもらってるの。まだ回復してないし、記憶が戻ってないからって 裕樹:確かに…聞かれても…何も答えられない… 星那:…大丈夫?怖い話しちゃったけど… 裕樹:ん、大丈夫…。もう捕まったなら 星那:… 裕樹:…… 星那:今日は…外に散歩って気分じゃ、ないね 裕樹:うん…ごめん 星那:ううん、いいの 裕樹:星那、ありがと… 星那:また、別の日に行こうね 裕樹:うん… 星那:ゆー君…私がゆー君のこと、守るからね 裕樹:ありがとう 星那:…その、また…ハグしてもいい…? 裕樹:良いよ、どうぞ 星那:痛くないようにするから… 裕樹:平気だって 星那:(ハグをする)…ゆー君が、早く良くなりますように 裕樹:……… 星那:ゆー君? 裕樹:……香水 星那:ん? 裕樹:前から…この香水使ってた…? 星那:ずっと変えてないけど 裕樹:あれ…? 星那:ゆー君が似合うねって言ってくれた香りだから変えてないよ 裕樹:あ……そっか… 星那:大丈夫?なにか思い出した? 裕樹:思い出しかけたんだけど… 星那:…… 裕樹:ごめん、やっぱりダメみたいだ… 星那:…ゆっくりで、良いからね 裕樹:あ、うん… 星那:その、ゆー君 裕樹:なに? 星那:私、明日から仕事復帰しなきゃいけなくて 裕樹:あ…ずっと休んでくれてたんだ… 星那:有給残ってたから。でもさすがにそろそろ… 裕樹:そうだよね、ごめん 星那:だから顔出すの、夜になるけど 裕樹:いいよ、特に困ることもないと思うし 星那:そう?じゃあ…今日はもう帰るね 裕樹:ありがとう。帰り、気を付けて 星那:うん、じゃあまた明日 裕樹:気を付けて : : 星那:ゆー君 裕樹:お疲れ様 星那:ごめん、すっかり遅くなっちゃった 裕樹:久しぶりの仕事、どうだった? 星那:休んでた間フォローしてもらってたからって頑張ってみたけど… 裕樹:けど? 星那:なんか空回りしちゃったかなぁって 裕樹:そっか、大変だったね 星那:平気平気。今日は?お母さん来たんでしょ? 裕樹:え、なんで知ってるの? 星那:ん?あぁ、看護師さんが教えてくれた 裕樹:そう、なんだ?でも、お母さんって言われてもピンと来なくて… 星那:そっか… 裕樹:…泣かれ、ちゃって 星那:一応ね、怪我だけじゃなくて記憶のことも話したんだけど…どうしても話がしたいって 裕樹:子供の頃の話とかしてくれたんだけど…全然思い出せなくて。なんか逆に申し訳なくなってさ。…すごくびっくりしてたし 星那:だよね…。その、事が事だったから連絡もどうしようか悩んだんだけど…でも何も知らせないのもやっぱり良くないなって…後から聞くのも怖いと思うし 裕樹:連絡してくれてありがとう。仕方ないねって言ってた 星那:なら良かった…どんな話したの? 裕樹:体調の事とか、学生時代の話とか 星那:何か気になった事とかあった? 裕樹:うーん…特には 星那:そっか…残念 裕樹:僕、一人っ子だったんだなって 星那:子供の頃にお父さんは亡くなられたから、お母さん母子家庭で頑張ったって聞いた 裕樹:…母さんのことだけでも覚えてたかったな… 星那:お母さんのこと、だけ? 裕樹:だって、父親も居なくて、きょうだいも居なくて。尚更僕が忘れたら…悲しいだけだなって 星那:…そう、ね。私はこうして会いに来れるけど、お母さんちょっと離れてるもんね 裕樹:そうなんだ 星那:退院したら実家に行こうよ。その頃には、なんで忘れてたんだろーってなってるんじゃない? 裕樹:そうだと…いいけど 星那:あ、そうだ忘れてた。ゼリー買ってきたから冷蔵庫入れとくね 裕樹:ありがとう 星那:ゆー君の好きなみかんのやつね 裕樹:…… 星那:どうかした?ちゃんと果肉入ってるよ 裕樹:…ううん、なんでもない… 星那:ゆー君? 裕樹:みかんのゼリー…なんだろ、なにか… 星那:大丈夫? 裕樹:うん……あぁ、やっぱダメだ 星那:ゆー君… 裕樹:あぁ大丈夫、平気。…はは、何がきっかけになるかわかんないね 星那:そうだね。じゃあ今夜は帰るね 裕樹:あっ、星那。僕のスマホ、持ってきてくれないかな? 星那:…… 裕樹:星那? 星那:事故の時に壊れて…その、使えなくなっちゃってて… 裕樹:そう、なんだ…写真データとか、前のやり取り見たらなにか思い出すかなって思ったんだけど… 星那:修理、ダメ元で出してみる? 裕樹:…一応 星那:分かった、出しとく。じゃあね、おやすみ 裕樹:おやすみ : : 裕樹:(溜息)頭、痛いな… 星那:ゆー君、入るよ 裕樹:あ… 星那:どうしたの? 裕樹:なんか…頭痛くて… 星那:大丈夫?薬貰った? 裕樹:いや、まだ… 星那:貰わなくていいの? 裕樹:後で、いいかなって 星那:そう?…あ、眼帯取れたんだね 裕樹:え、あぁ、うん。まだなんとなくぼやけてるけど 星那:両目出たら少し、鬱陶しくなくなったんじゃない? 裕樹:そうだね、距離感は分かりやすくなった… 星那:…元気、ないね 裕樹:あぁ、うん… 星那:…… 裕樹:…(溜息) 星那:今日はなんだか辛そうね。もう帰ろっか 裕樹:ごめん、折角来てくれたのに。…ちょっと、リハビリで疲れたのかも 星那:そう?無理しちゃだめだよ 裕樹:うん…。あ、星那 星那:なに? 裕樹:…冷蔵庫のゼリー、持って帰ってくれないかな?食べれそうになくて 星那:そうなの?好きだったのに 裕樹:好き…だったんだよな。うん… 星那:…どうしたの? 裕樹:ううん、ほんとごめん。なんか欲しくなくて… 星那:そう?じゃあまた別のもの買ってこよっか 裕樹:…っ!……頭、いた…! 星那:ゆー君? 裕樹:頭、いっ…! 星那:裕樹!?(ナースコールを押す)すみません、すぐ来て貰えますか?急に頭痛いって…! : :間 星那:…どう? 裕樹:ん…大丈夫… 星那:痛みって強くなる前に薬飲んだ方が良いんだって。もう我慢しちゃダメだよ? 裕樹:うん、気をつける… 星那:もう寝て。私も帰るから 裕樹:そうだね…ごめんね、ありがとう 星那:(頭を撫でる)また来る 裕樹:…あの、さ 星那:なに? 裕樹:……いや、なんでもない 星那:変なの。ゆー君、おやすみなさい 裕樹:おやすみ 星那:また明日ね : : 裕樹:熱い…顔が…! 星那:私以外に向ける貴方の顔なんてもう要らないの。安心して…どんな姿になっても、貴方のこと愛してるから 裕樹:いっ…熱い… 星那:裕樹…ゆうきぃ… 裕樹:来るな、近寄るなっ! 星那:貴方は私のものよ、私だけの裕樹なんだから 裕樹:う、うぅ…! 星那:あんな女になんて…絶対に渡さない…! : : 裕樹:…っ!! 裕樹:(荒い呼吸)…夢… 裕樹:さっきのは…誰だ…? 裕樹:うっ……気持ち、悪い… : : 星那:こんばんは 裕樹:…っ 星那:ん?どしたの? 裕樹:…なんでも、ない… 星那:今日はどう?頭痛治まった? 裕樹:うん、もう平気 星那:さっき担当の先生と会ったよ。リハビリも順調だし、ギプスも軽いものに変えるって 裕樹:…… 星那:どんどん回復してて凄く嬉しい。ね! 裕樹:そうだね… 星那:どうしたの?(頬に触れる) 裕樹:(触れた手にビクつく) 星那:…ゆー君? 裕樹:なんでも…ない… 星那:ほんとに? 裕樹:うん… 星那:ゆー君(ぐっと近づく) 裕樹:…うわっ!(星那を突き飛ばす) 星那:……ゆー、くん…? 裕樹:…あっ、ご…ごめん… 星那:…… 裕樹:星那、ごめん…!その、僕… 星那:…なにか思い出した? 裕樹:え… 星那:なにか思い出したの? 裕樹:な、にも… 星那:本当に? 裕樹:……うん 星那:そっか… 裕樹:ごめん、本当に… 星那:…いっその事 裕樹:? 星那:全部忘れたままで、一から、でも良いんじゃない? 裕樹:え…いや、それは… 星那:これから二人で新しく、楽しいこといっぱい積み上げていって。…それじゃダメ? 裕樹:…な、んで…そんな事… 星那:思い出せないってことは、思い出したくないって事なんじゃないの? 裕樹:…星那? 星那:なーんてね!ごめんね、変なこと言って 裕樹:…… 星那:ほんとごめん、私の方が少し仕事で疲れてるみたい。もう帰るね 裕樹:そう…? 星那:また来る、おやすみなさい 裕樹:おやすみ…気を付けて… : : 星那:入るよー? 裕樹:…星那 星那:三日も空いちゃって、ごめんなさい。仕事が残業ばっかりで… 裕樹:ううん、お疲れ様 星那:顔もガーゼだけになったんだね、良かった 裕樹:そうだね… 星那:ゆー君? 裕樹:…… 星那:どうかした? 裕樹:ねぇ、星那… 星那:ん? 裕樹:…どうして、嘘ついたんだ? 星那:…嘘、って? 裕樹:ストーカーしてた犯人、捕まってるって言ったよな。あれ、嘘だったんだろ… 星那:…誰から聞いたの?警察? 裕樹:うん 星那:…… 裕樹:昨日面会に来てくれた時に… 星那:…面会に来たのは、知ってる 裕樹:記憶も戻ってないから話せること、全然無かったけど…まだ捕まってないって… 星那:…ごめんなさい 裕樹:どうして、嘘なんか…? 星那:それは…!安心、させたくて… 裕樹:でも、もう捕まったって油断してる時にまた来たらどうすんだよ?! 星那:もう来ない! 裕樹:なんで断言出来るんだ…?分かんないだろ!人に薬剤かけて車で轢き殺そうとした…そんな頭おかしい奴、何してくるか分かんないだろ! 星那:ゆー君、落ち着いて! 裕樹:僕だけじゃない、もし星那に何かあったら… 星那:ゆー君 裕樹:守れ、なかったら…どうしたらいいんだよ…! 星那:…ごめんなさい、ゆー君の気持ち全然考えて無くて… 裕樹:なにか、あったらって…! 星那:安心させたくて…それだけだったの。嘘ついてごめんなさい 裕樹:…… 星那:ごめんね、嘘ついて。でも本当に…記憶が戻らなくて不安だろうから、少しでもそういうの、取り除きたいなって…それだけで…。本当にごめんなさい 裕樹:…せ、な… 星那:結局、混乱させるだけになっちゃって… 裕樹:…僕も、ごめん… 星那:ううん… 裕樹:ごめん 星那:…ゆー君 裕樹:せ…(口づけられて言葉が止まる) : 裕樹:…っ!(押し退けて顔を背ける) 星那:ゆーくん…? 裕樹:…… 星那:えっと…キス、嫌だった?… 裕樹:ちょっと、びっくりして… 星那:…… 裕樹:…… 星那:…今日は、帰った方がいい? 裕樹:ごめん… 星那:分かった、ゆっくり休んで。また明日来る 裕樹:ん、ありがとう… : : 裕樹:…… 星那:ゆー君? 裕樹:?! 星那:どうしたの?そんなにびっくりして… 裕樹:ごめん、考え事してて… 星那:ヨーグルト買ってきたよ、アロエのやつ 裕樹:うん、ありがとう… 星那:…大丈夫?何かあった? 裕樹:鏡… 星那:鏡? 裕樹:ガーゼだけになって、初めて鏡見せてもらって… 星那:…… 裕樹:治りきってないとはいえ…結構、衝撃的で… 星那:…… 裕樹:こんなの…外、出歩けば見世物じゃないか… 星那:……ねえ、ゆー君 裕樹:? 星那:気分転換に、車椅子で中庭行かない? 裕樹:気分転換って… 星那:ずっと病室だからさ。今日いいお天気だよ、外の風吸ったら気持ちいいと思うな 裕樹:…… 星那:…だめ? 裕樹:…ううん、いいね、行こうか 星那:良かった。車椅子乗るの、手伝うね 裕樹:ありがと :星那に支えられながら車椅子に移動する :車椅子の前でしゃがみ込んで裕樹と向き合う星那 裕樹:まだまともに動けないなんて、情けないよ… 星那:仕方ないよ。でも私はお世話するの、全然苦じゃないよ 裕樹:星那… 星那:だって大好きな人のお世話なんだよ?どんどん甘えてって思っちゃうし… 裕樹:甘えてって 星那:私は、どんな姿になっても、貴方のこと愛してるから 裕樹:……ぇ 星那:あ、最近の美容整形の技術って凄いんだよ。時間はかかるかもしれないけど、綺麗になるって 裕樹:…… 星那:だからそんなにしんぱ…(いしなくても) 裕樹:さっき、なんて言った…? 星那:ん? 裕樹:さっき…なんて? 星那:美容技術の事?最近はすご…(いんだよ) 裕樹:その前 星那:前? 裕樹:どんな…って… 星那:えっと…あぁ、うん。たとえ顔に傷跡があっても、半身動かなくても、私はどんな裕樹でも愛してるよ 裕樹:…… 星那:んー、ふふっ。やっぱり改めて言うと恥ずかしいね 裕樹:(息が少しずつ荒くなる)…つっ、痛…! 星那:ナースコール… 裕樹:待って!…何か…思い出せそうなんだ…だから、待って…! 星那:分かった… : :間 裕樹:…あ、やの、さん… 星那:ゆー君…? 裕樹:思い出した…僕、あやのさんに…ストーカーされてた… 星那:…うん、合ってる… 裕樹:星那の、友達で… 星那:…長い付き合いだからって…紹介しなきゃ良かった 裕樹:思い、出した… 星那:私のこと、ちゃんと分かる? 裕樹:わかる… 星那:良かった… 裕樹:みかんのゼリー… 星那:ゼリー? 裕樹:大量に家に届いて、気持ち悪くなって… 星那:…そうだったんだ 裕樹:…まだ、曖昧な部分はあるんだ。顔とか思い出せないし、ぼんやりしてる感じで…でも、何となく 星那:大丈夫?気分悪かったりしない? 裕樹:…うん 星那:ゆー君? 裕樹:すごく怖かった…もう嫌だって思って…話が通じなくて、どうしたらって 星那:そうだよね…(裕樹の背後に回る) 裕樹:…なんでこんな思いしなきゃいけないんだって、どうしていいかわからなくなってて… 星那:うん… : :少し長めの間 裕樹:…どこだ? 星那:ん? 裕樹:どこ、なんだ…? 星那:なにが? 裕樹:……星那は、どこだ? 星那:ゆー君何言ってるの。私はここに… 裕樹:違う 星那:…… 裕樹:お前、星那じゃない… 星那:…… 裕樹:全部、思い出した… 星那:全部? 裕樹:曖昧だった所も、はっきり思い出した… 星那:…… 裕樹:…もう諦めたんだと思ってたんだ…そしたら星那によく似た顔のお前が…目の前に現れて… 星那:…… 裕樹:これで何の問題もないって、言いだして… 星那:…… 裕樹:星那…星那に、なにをした…? 星那:…もういいじゃない 裕樹:なに… 星那:もう、あの子の事は忘れて、一緒に暮らせばいいじゃない 裕樹:良い訳ない…良い訳無いだろ…! 星那:どうして?私、貴方に沢山優しくしたよ?理想の奥さんって思わなかった?私の方があの子よりキャリアあるのよ。あなた一人養うなんて何ともないのよ 裕樹:…… 星那:何がダメ?何が許せない?…ああ、貴方を傷物にしたから?大丈夫、言ったでしょ?どんな姿になっても貴方のこと愛してるって。美容整形なんかしなくても、そのままでも私は貴方のこと愛せるよ 裕樹:僕は…お前の事なんて… 星那:うっふふふ… 裕樹:…っ! 星那:(背後から耳元で)あの事故だって、貴方を殺してやろうとかそんなつもりはなかったんだ。ただ、貴方があまりにも私の話を聞いてくれないから、ゆっくりお話したいなって 裕樹:事故って…自分が引き起こしたことだろ…! 星那:事故よ。裕樹が私のことを素直に受け入れてくれてたら起こらなかった…悲しい事故 裕樹:…… 星那:私の気持ちを分かってくれてたら…あんなことにならなかったのに 裕樹:そんな、身勝手…! 星那:あは…駄目ねぇ。自分で軽率だって思わない?ひとりで満足に身動きもできないのに…そんなこと言ってて大丈夫かな?また傷も治りきってないのに…背後、取られちゃったね :裕樹の首に腕を回して締め上げる 裕樹:ぐっ…!んっ、が…!!(暴れる) 星那:あばれたらっ…傷に触るわよ…! 裕樹:く、あ…!!はな…!! 星那:ほぉら。息が苦しくなって…気が遠くなるでしょ 裕樹:ん、ぐ…っ…!! 星那:大丈夫、貴方は殺さないから。私の秘密のおうちに招待してあげる。あの子にもちゃんと会わせてあげるから安心して 裕樹:ん…く、ぅ…(苦しくて気が遠くなっていく) 星那:(独り言)あ、そうだ…盗聴器。回収しとかなきゃ… 星那:さぁ、お散歩に行きましょ。ちゃんと、私が連れて行ってあげる 裕樹:…う、く…(気絶する) 星那:…いい子ね、私の裕樹 : : :広い部屋の真ん中で車椅子に座ったままの状態で目を覚ます裕樹 : 裕樹:…ん、ここ、は……誰も、居ない… : 裕樹:…どこかに行ってるのか…?今のうちに… : :入口のドアに手をかけようとした瞬間に開かれる : 星那:あら、起きたのね? 裕樹:っ?! 星那:どこかに行くつもりだった? 裕樹:…ひ…く、くるな…! 星那:あぁ、嬉しいなぁ。裕樹がここに居るなんて夢みたい。いつか一緒に生活しようって思ってたから、実現出来て本当に嬉しい 裕樹:…せ、星那は… 星那:…… 裕樹:星那に会わせてくれるって…言っただろ!星那はどこだ? 星那:(長い溜息)…あのさぁ 裕樹:…… 星那:なんでそんなに…あの子がいいの?ドン臭くて、人が良いだけの地味な子!こっちは貴方に近付きたいが為だけに、好みじゃないメイクして髪だって切って…ここまでしたのに…何がダメなの?何が足りないの? 裕樹:やめろ…近づくな… 星那:貴方を満足させたいだけなのに…貴方に愛して欲しいだけなのに…!何がダメなのよ!私はただ、あなたを愛してるだけなのに! 裕樹:ひ…! :不自由な手で車椅子を動かす裕樹 星那:……逃げるの、私から 裕樹:…っ! 星那:…あぁ、そうか…逃げられないようにすればいいんだぁ 裕樹:…だ、れか… 星那:そのてあし、いらないね 裕樹:…は 星那:あの子解体するから…ついでに切っちゃおっか 裕樹:…か、いたい… 星那:だって。二人の新しい生活を始めるのに… 裕樹:…… 星那:大きな生ごみは、処分した方がいいでしょ? 裕樹:…星那は、どうした… 星那:ん? 裕樹:会わせるって… 星那:……あぁ、ごめんごめん。約束だったよね(車椅子の向きを変える) 裕樹:っ! 星那:はいはい、星那の所へご案内〜 :星那は鼻歌を歌いながら車椅子を押す :ガレージのような薄暗い空間に連れていく 星那:はーい、到着ですよぉ 裕樹:え…… 星那:見て見て。こういう冷凍庫、懐かしくない?昔、駄菓子屋とかにあったよね。アイス売ってるやつ 裕樹:…ま、って…まさか… 星那:探すの大変だったんだよ、これ 裕樹:……う、そだろ 星那:どうぞ。中、覗いて 裕樹:…… 星那:会いたかったんでしょ?遠慮しなくていいから 裕樹:…… 星那:見ろって言ってんのよ!(裕樹の頭を冷凍庫の窓に押し付ける) 裕樹:いっ…!! 星那:感動のご対面だね…まぁ、返事は返ってこないけど 裕樹:星那…! 星那:この子、人は良いからさぁ。それが命取りになるなんて、思いもしてなかったろうなぁ 裕樹:星那ぁっ! 星那:声掛けるのは好きにすればいいけど…でも、解凍した魚が動くと思う?ゆで卵が生卵に戻るかな?それと一緒 裕樹:せな…せなぁ…! 星那:分かったでしょ。じゃあ早速…っ! :車椅子から裕樹を引きずり下ろす 裕樹:ぐっ…! 星那:痛いのは一瞬かな、動かないでね(手に鉈が握られている) 裕樹:やだ、いやだ…やめろ、やめてくれ…! 星那:私が傍に居てずっとずっと愛してあげる。誰よりも、貴方のことを愛してるのは私なんだから。貴方は…誰にも渡さない 裕樹:…ぁ…た、すけ… 星那:私だけの、裕樹 裕樹:やめろおおおおぉぉ!!! : :たっぷりと長い間 : 星那:うふ…うふふっ…あぁ、大好きな裕樹 : 星那:私が幸せにしてあげるからね : : 終

Dear 裕樹 ゆうき。大怪我をして入院している 怪我の影響か、記憶が無い 星那 星那。裕樹の妻 …… ーーーー 星那:……くん、ゆーくん…! 裕樹:…ぅ…… 星那:ゆー君!気が付いた…?! 裕樹:……こ、こ…どこ… 星那:病院だよ。良かった…!! 裕樹:びょういん……うっ… 星那:動いちゃダメ…! 裕樹:痛い… 星那:看護師さん呼ぶから待ってね 裕樹:身体が、痛い…あ、つい… 星那:怪我してるんだから動かないで。ね?それに三日も目が覚めなかったんだよ 裕樹:怪我……なんで… 星那:どう?痛み以外…気持ち悪いとかある? 裕樹:うん… 星那:良かった、目が覚めて… 裕樹:…… 星那:ゆー君? 裕樹:…あなたは…? 星那:え… 裕樹:誰… 星那:…本気で、言ってる…? 裕樹:……あぁ 星那:私だよ、星那 裕樹:せ、な… 星那:わから、ない…? 裕樹:……うん 星那:…… 裕樹:ゆー君、って…僕の事…? 星那:……ぇ 裕樹:…分からない… 星那:…… 裕樹:僕、なんで…どうして、怪我、してるんだ… 星那:…… 裕樹:…? 星那:…事故、にあって 裕樹:…じ、こ… 星那:うん、事故。…あの、えっと…そう!思い出せないなら、今は怪我治すのを優先しよ?傷が治ってくればきっと思い出せるから 裕樹:…そうかな… 星那:大丈夫、すぐ元気になるよ 裕樹:うん… 星那:私が付いてるから。大丈夫、今思い出せない事も、色々教えるからね 裕樹:ありがとう…せな、さん… 星那:…私の事は星那って呼んでたよ 裕樹:せ、な… 星那:すぐじゃなくていいから。少しずつ、その呼び方に慣れてくれたら嬉しいな 裕樹:ん、わかった…(眠気が襲ってくる) 星那:ゆー君? 裕樹:ね、むい…… 星那:寝ちゃったの?そっか、記憶が…そう、良かった……目が覚めて 星那:おやすみ、裕樹。早く良くなってね : : 星那:ゆー君、入るよ? 裕樹:…せ、な… 星那:…ふふっ。いいよ、無理して呼ばなくて 裕樹:ごめん 星那:謝らないで。ゆー君からしたら昨日会ったばかりの人なんだから 裕樹:…ごめん 星那:こういう時はありがとうって言えばいいの 裕樹:…あり、がと… 星那:どういたしまして!どう?気分は 裕樹:昨日よりは少しスッキリしてる…まだ痛いけど… 星那:良かった。食欲は?ご飯ちゃんと食べた? 裕樹:ご飯は…あんまり 星那:そっか…でも、少しでも食べなきゃダメだよ。傷を治すのだって、体に栄養いるんだから 裕樹:…母親みたい、だね 星那:えぇ、そう? 裕樹:…うん 星那:も~…あ、そうだ。お医者さんから説明聞いてきた。記憶に関することは明後日には精密検査してみるって 裕樹:そっか… 星那:何か分かると良いけど… 裕樹:あの…聞いても、いいかな? 星那:ん、なに? 裕樹:その…あなたは、僕とどういう関係…? 星那:…あぁ、そうだよね。それは気になるよね 裕樹:…… 星那:(椅子に腰を下ろす)驚かないで聞いて。貴方は、私の旦那さんなの 裕樹:ぇ…… 星那:私たち、先月結婚式を挙げたばかりだったの 裕樹:結婚… 星那:そう、結婚。ほら、薬指の指輪お揃いでしょ? 裕樹:(自分の手を見る)…覚えて、無い… 星那:まぁ、自分の名前分からないもんね、仕方ないよ…あっ、もしかして…なんでこいつと結婚したんだって思ってる、とか…? 裕樹:えっ?いや、それは思ってない…です 星那:良かった… 裕樹:尚更、ごめん…。自分の奥さんの事、思い出せないなんて… 星那:仕方ないよ。だってゆー君が望んだことじゃないんだから 裕樹:ん、そうだけど… 星那:そうだ!明日、ゆー君が好きなサクランボ買ってくるね 裕樹:サクランボ…? 星那:好きな物なら食ベれそうじゃない?一応看護師さんに許可とるから安心して 裕樹:ありがとう…星那さん 星那:…嬉しい 裕樹:ん? 星那:…もう目を覚まさないかもしれないって、覚悟して欲しいって担当の先生に言われて、ものすごく怖かった。どうしようってずっと思ってたの。だから、目を覚ましてくれて、また星那って呼んでくれて…凄く嬉しい… 裕樹:僕、自分の名前も思い出せなくて…正直、すごく怖いよ。でも、誰も傍に居なかったら、もっと怖かったと思うんだ。だから…星那さん、ありがとう 星那:どういたしまして 裕樹:あのっ… 星那:どうかした? 裕樹:…名前 星那:名前? 裕樹:どういう字を書くのか、教えて貰えないかな? 星那:わかった。えっとね… : :スマートフォンに文字を入力する 星那:これがゆー君の名前。石川裕樹 裕樹:石川、裕樹… 星那:よく、ひろきって間違えられるんだって笑ってたなぁ 裕樹:そうなんだ… 星那:で、私は星那。沢山の星って意味があるんだよ 裕樹:沢山の星… 星那:うん 裕樹:…ごめんやっぱり… 星那:ううん、いいの。忘れてること、私が教えてあげる。何も心配しなくて良いからね 裕樹:ありがとう… 星那:そうだ。明日、アルバム持って来るね。一緒に写ってる写真見たら何か思い出せるかも 裕樹:そう…うん、そうかも 星那:……(裕樹の手を握る) 裕樹:…星那、さん 星那:無理はしないで。私がずっと傍に居るからね 裕樹:…うん 星那:あっ、あんまり長く面会ダメって言われてたんだった…ごめん、今日はもう帰るね 裕樹:ありがとう 星那:じゃあ、また明日ね 裕樹:うん、また明日 : : 星那:ゆー君 裕樹:星那さん 星那:痛みはどう? 裕樹:ん…動いたらまだ少し 星那:今日、リハビリ初日だったんでしょ?どうだった? 裕樹:僕は寝てるだけだから…担当の人が来て、動くところ動かしてくれた 星那:まだギブスもしてるから仕方ないね 裕樹:…聞きたいんだけど 星那:ん?なぁに? 裕樹:…顔の怪我… 星那:…… 裕樹:火傷の範囲が広いって… 星那:ぁ… 裕樹:ここはほかの怪我と関係ある…んだよな…なんでこんな状態に… 星那:だから、事故って… 裕樹:どんな事故? 星那:…… 裕樹:どうして僕は、こんな大怪我したんだ?知ってるんだよな? 星那:…… 裕樹:教えて、星那さん…! 星那:…… 裕樹:星那…! 星那:ごめんなさい 裕樹:え… 星那:今はまだ…早いよ。目が覚めたばかりだし、傷も治ってないし… 裕樹:でも… 星那:焦らないで。ね?もう少し回復したらちゃんと話す 裕樹:…… 星那:それにまだ…記憶が戻ってないでしょ 裕樹:うん… 星那:体と精神面のケアを優先しよ?もっと元気になったら、ちゃんと話すから 裕樹:…分かった 星那:ごめんね、できるだけゆー君のお願い、叶えてあげたいんだけど… 裕樹:ううん、僕の事考えてくれてるって…わかってる 星那:…ありがと 裕樹:…分からないことばっかりで、不安で… 星那:仕方ないよ 裕樹:冷静じゃなかった、ごめん 星那:気にしてない。それに…星那って呼んでくれて嬉しい 裕樹:あっ…咄嗟に… 星那:ありがとう 裕樹:慣れて、行くから 星那:うん…あっ、結婚式の写真持ってきたの。ほら見て 裕樹:…… 星那:すごく素敵だったなぁ、ゆー君。本物の王子様みたいで 裕樹:…… 星那:思い、出さない? 裕樹:ごめん… 星那:じゃあ…ゆー君が退院してすっかり元気になったらもう一回結婚式しちゃう? 裕樹:え? 星那:だって、ゆー君は覚えてないんでしょ?なら式挙げてないのと同じよね 裕樹:でも、それは僕の中だけの話で… 星那:良いじゃない。紺のタキシードも素敵だったけど、きっとシルバーの衣装も素敵だと思う。お色直しもして…案外赤色とかも似合うんじゃない?恥ずかしいなら二人きりでもいいよ 裕樹:…本気? 星那:もちろん!そしたらもう一回、ゆー君の花婿姿が見れるし。チャペルで二人きりの結婚式、最高じゃない?ダイエットしなきゃ! 裕樹:…ぷっ…ふふ 星那:あ、やっと笑った 裕樹:え? 星那:やっと笑ったなって 裕樹:あ…… 星那:不安よね、凄く。でも、ちゃんと私が傍にいるから。心配事とかあったらなんでも話して 裕樹:…うん 星那:あー…ハグ、したいな。でもまだ体が痛いから我慢しなきゃね 裕樹:…す、少しなら… 星那:…良いの? 裕樹:うん… 星那:…じゃあ、ちょっとだけ…あ、痛かったら言ってね? 裕樹:平気だよ :上から被さるだけのハグ 星那:…ゆー君、本当に良かった 裕樹:星那… 星那:(離れて)また、明日来るね 裕樹:ん。気をつけて帰って 星那:じゃあね : : 星那:こんにちはぁ 裕樹:…こんにちは 星那:どう?具合は 裕樹:まぁまぁかな。今日で点滴取るって 星那:ほんと?良かった 裕樹:顔の包帯も変えてもらった。かなり回復していってるって 星那:ゆー君の体が早く元気になるぞーって頑張ってるんだよ! 裕樹:そうだね 星那:ね、見て。じゃじゃーん 裕樹:サクランボ… 星那:昨日持って来たかったんだけど売ってなくて。今日は見つけたから持ってきたよ 裕樹:…ありがとう 星那:どう?食べてみる? 裕樹:…せっかくだし、貰おうかな 星那:分かった、洗ってくる :間 星那:今日のリハビリはどうだった? 裕樹:昨日と変わらないけど…明日からは車椅子で少し外、出てもいいって 星那:そうなの? 裕樹:うん。一人じゃまだ乗れないから、誰かに連れて行ってもらう感じかな 星那:じゃあさ、中庭一緒に行きたいな 裕樹:中庭? 星那:うん。ここの中庭、今すごく沢山お花咲いてて綺麗だよ。明日も天気良いみたいだから 裕樹:星那は花が好きだね 星那:…! 裕樹:どうかした? 星那:…何か、思い出したの? 裕樹:え? 星那:あ、違った?私が花好きなの、思い出したかなって 裕樹:…ごめん、そういうんじゃなくて…なんとなく… 星那:そっか 裕樹:…… 星那:他は? 裕樹:え? 星那:他に私のこと、これ好きそうだなーとか、これ嫌いそうだなーとかなにか思いつかない? 裕樹:えっと… 星那:じゃあ、クイズにしよっか 裕樹:クイズって… 星那:第一問!私の名前はなんでしょう? 裕樹:えっと…石川星那… 星那:はい、大正解! 裕樹:ぷっ… 星那:幸先の良いスタートですねぇ。それでは第二問!貴方のお名前はなんでしょう? 裕樹:石川、裕樹 星那:はーい、またまた大正解! 裕樹:ふふっ… 星那:第三問 裕樹:え、まだ続けるの? 星那:ん?ダメ? 裕樹:…ありがと 星那:…… 裕樹:笑わせようと、してくれてるんだよね 星那:…私…そんな気が利いた性格してないし…こんな風に馬鹿みたいなことしか… 裕樹:そんな事ないよ 星那:…… 裕樹:馬鹿みたいなことじゃない。…星那のおかげで、すごく心強い 星那:そう…? 裕樹:うん。沢山励ましてもらってる 星那:なら良かった… 裕樹:ありがとう 星那:…(小さく微笑む) 裕樹:サクランボ、一つ食べさせてくれる? 星那:良いよ。はい、あーん 裕樹:…… 星那:ほーら、照れないで。あーん 裕樹:……あーん 星那:美味しい? 裕樹:…うん、美味しい 星那:良かった。もう一個食べる? 裕樹:食べる…けど、あーんって言うのやめてくれない、かな… 星那:どうして?片目塞がってるから見えにくいでしょ?あーんして 裕樹:…… 星那:ゆー君 裕樹:………あー…ん 星那:ふふっ、可愛い 裕樹:…全身包帯でミイラみたいなのに? 星那:ゆー君は可愛いよ。どんな姿でも 裕樹:…変なの 星那:変じゃないよ。ゆー君の事、愛してるから結婚したんだよ?どんな貴方でも、愛してる 裕樹:…… 星那:…改めて言うと、ちょっと恥ずかしいね 裕樹:…言われる方もね 星那:でも、本心だから 裕樹:…うん : : 星那:入るよー…あ、座ってる! 裕樹:いらっしゃい 星那:ベッド起こしてもらったんだ。痛みはどう? 裕樹:点滴も外れたし、痛みも少なくなった。かなり楽だよ 星那:良かった。どう?今日はご飯食べれた? 裕樹:うん、昨日よりは。星那が持ってきてくれたサクランボのおかげかも 星那:また何か欲しいものあったら言って 裕樹:…星那 星那:ん? 裕樹:星那は、僕の怪我の原因知ってたよね? 星那:…… 裕樹:知ってるん、だよね 星那:…うん 裕樹:目が覚めてもう五日経ってるし身体も回復してきてる。…そろそろ教えて欲しい 星那:だけど… 裕樹:星那、教えて…! 星那:…分かった。すごくショッキングな話だから…もう少し怪我も治ってからって思ってたんだけど… 裕樹:記憶が無いだけでも、充分ショッキングだよ 星那:そっか… 裕樹:…教えて 星那:(椅子に座る)目を覚ましてから、なにか思い出したことある? 裕樹:…何も 星那:断片的なことも? 裕樹:うん… 星那:そっか。…あのね、車に轢かれたの 裕樹:車…? 星那:そう 裕樹:でも、顔は火傷って… 星那:…顔に、薬剤を掛けられて、動けなくなった所を車で… 裕樹:…… 星那:悪質なストーカーに遭ってたの 裕樹:ス、トーカー… 星那:ずっと前から悩んでて…警察にも相談行ったけど… 裕樹:…… 星那:結婚が決まった頃から、それが急にエスカレートして… 裕樹:殺されかけた、って事…? 星那:…うん 裕樹:今は?その人は… 星那:大丈夫、もう捕まったから 裕樹:…… 星那:犯人は捕まったから、もう大丈夫 裕樹:そっか… 星那:警察の人がね、回復したら話を聞きたいって言ってて…でも止めてもらってるの。まだ回復してないし、記憶が戻ってないからって 裕樹:確かに…聞かれても…何も答えられない… 星那:…大丈夫?怖い話しちゃったけど… 裕樹:ん、大丈夫…。もう捕まったなら 星那:… 裕樹:…… 星那:今日は…外に散歩って気分じゃ、ないね 裕樹:うん…ごめん 星那:ううん、いいの 裕樹:星那、ありがと… 星那:また、別の日に行こうね 裕樹:うん… 星那:ゆー君…私がゆー君のこと、守るからね 裕樹:ありがとう 星那:…その、また…ハグしてもいい…? 裕樹:良いよ、どうぞ 星那:痛くないようにするから… 裕樹:平気だって 星那:(ハグをする)…ゆー君が、早く良くなりますように 裕樹:……… 星那:ゆー君? 裕樹:……香水 星那:ん? 裕樹:前から…この香水使ってた…? 星那:ずっと変えてないけど 裕樹:あれ…? 星那:ゆー君が似合うねって言ってくれた香りだから変えてないよ 裕樹:あ……そっか… 星那:大丈夫?なにか思い出した? 裕樹:思い出しかけたんだけど… 星那:…… 裕樹:ごめん、やっぱりダメみたいだ… 星那:…ゆっくりで、良いからね 裕樹:あ、うん… 星那:その、ゆー君 裕樹:なに? 星那:私、明日から仕事復帰しなきゃいけなくて 裕樹:あ…ずっと休んでくれてたんだ… 星那:有給残ってたから。でもさすがにそろそろ… 裕樹:そうだよね、ごめん 星那:だから顔出すの、夜になるけど 裕樹:いいよ、特に困ることもないと思うし 星那:そう?じゃあ…今日はもう帰るね 裕樹:ありがとう。帰り、気を付けて 星那:うん、じゃあまた明日 裕樹:気を付けて : : 星那:ゆー君 裕樹:お疲れ様 星那:ごめん、すっかり遅くなっちゃった 裕樹:久しぶりの仕事、どうだった? 星那:休んでた間フォローしてもらってたからって頑張ってみたけど… 裕樹:けど? 星那:なんか空回りしちゃったかなぁって 裕樹:そっか、大変だったね 星那:平気平気。今日は?お母さん来たんでしょ? 裕樹:え、なんで知ってるの? 星那:ん?あぁ、看護師さんが教えてくれた 裕樹:そう、なんだ?でも、お母さんって言われてもピンと来なくて… 星那:そっか… 裕樹:…泣かれ、ちゃって 星那:一応ね、怪我だけじゃなくて記憶のことも話したんだけど…どうしても話がしたいって 裕樹:子供の頃の話とかしてくれたんだけど…全然思い出せなくて。なんか逆に申し訳なくなってさ。…すごくびっくりしてたし 星那:だよね…。その、事が事だったから連絡もどうしようか悩んだんだけど…でも何も知らせないのもやっぱり良くないなって…後から聞くのも怖いと思うし 裕樹:連絡してくれてありがとう。仕方ないねって言ってた 星那:なら良かった…どんな話したの? 裕樹:体調の事とか、学生時代の話とか 星那:何か気になった事とかあった? 裕樹:うーん…特には 星那:そっか…残念 裕樹:僕、一人っ子だったんだなって 星那:子供の頃にお父さんは亡くなられたから、お母さん母子家庭で頑張ったって聞いた 裕樹:…母さんのことだけでも覚えてたかったな… 星那:お母さんのこと、だけ? 裕樹:だって、父親も居なくて、きょうだいも居なくて。尚更僕が忘れたら…悲しいだけだなって 星那:…そう、ね。私はこうして会いに来れるけど、お母さんちょっと離れてるもんね 裕樹:そうなんだ 星那:退院したら実家に行こうよ。その頃には、なんで忘れてたんだろーってなってるんじゃない? 裕樹:そうだと…いいけど 星那:あ、そうだ忘れてた。ゼリー買ってきたから冷蔵庫入れとくね 裕樹:ありがとう 星那:ゆー君の好きなみかんのやつね 裕樹:…… 星那:どうかした?ちゃんと果肉入ってるよ 裕樹:…ううん、なんでもない… 星那:ゆー君? 裕樹:みかんのゼリー…なんだろ、なにか… 星那:大丈夫? 裕樹:うん……あぁ、やっぱダメだ 星那:ゆー君… 裕樹:あぁ大丈夫、平気。…はは、何がきっかけになるかわかんないね 星那:そうだね。じゃあ今夜は帰るね 裕樹:あっ、星那。僕のスマホ、持ってきてくれないかな? 星那:…… 裕樹:星那? 星那:事故の時に壊れて…その、使えなくなっちゃってて… 裕樹:そう、なんだ…写真データとか、前のやり取り見たらなにか思い出すかなって思ったんだけど… 星那:修理、ダメ元で出してみる? 裕樹:…一応 星那:分かった、出しとく。じゃあね、おやすみ 裕樹:おやすみ : : 裕樹:(溜息)頭、痛いな… 星那:ゆー君、入るよ 裕樹:あ… 星那:どうしたの? 裕樹:なんか…頭痛くて… 星那:大丈夫?薬貰った? 裕樹:いや、まだ… 星那:貰わなくていいの? 裕樹:後で、いいかなって 星那:そう?…あ、眼帯取れたんだね 裕樹:え、あぁ、うん。まだなんとなくぼやけてるけど 星那:両目出たら少し、鬱陶しくなくなったんじゃない? 裕樹:そうだね、距離感は分かりやすくなった… 星那:…元気、ないね 裕樹:あぁ、うん… 星那:…… 裕樹:…(溜息) 星那:今日はなんだか辛そうね。もう帰ろっか 裕樹:ごめん、折角来てくれたのに。…ちょっと、リハビリで疲れたのかも 星那:そう?無理しちゃだめだよ 裕樹:うん…。あ、星那 星那:なに? 裕樹:…冷蔵庫のゼリー、持って帰ってくれないかな?食べれそうになくて 星那:そうなの?好きだったのに 裕樹:好き…だったんだよな。うん… 星那:…どうしたの? 裕樹:ううん、ほんとごめん。なんか欲しくなくて… 星那:そう?じゃあまた別のもの買ってこよっか 裕樹:…っ!……頭、いた…! 星那:ゆー君? 裕樹:頭、いっ…! 星那:裕樹!?(ナースコールを押す)すみません、すぐ来て貰えますか?急に頭痛いって…! : :間 星那:…どう? 裕樹:ん…大丈夫… 星那:痛みって強くなる前に薬飲んだ方が良いんだって。もう我慢しちゃダメだよ? 裕樹:うん、気をつける… 星那:もう寝て。私も帰るから 裕樹:そうだね…ごめんね、ありがとう 星那:(頭を撫でる)また来る 裕樹:…あの、さ 星那:なに? 裕樹:……いや、なんでもない 星那:変なの。ゆー君、おやすみなさい 裕樹:おやすみ 星那:また明日ね : : 裕樹:熱い…顔が…! 星那:私以外に向ける貴方の顔なんてもう要らないの。安心して…どんな姿になっても、貴方のこと愛してるから 裕樹:いっ…熱い… 星那:裕樹…ゆうきぃ… 裕樹:来るな、近寄るなっ! 星那:貴方は私のものよ、私だけの裕樹なんだから 裕樹:う、うぅ…! 星那:あんな女になんて…絶対に渡さない…! : : 裕樹:…っ!! 裕樹:(荒い呼吸)…夢… 裕樹:さっきのは…誰だ…? 裕樹:うっ……気持ち、悪い… : : 星那:こんばんは 裕樹:…っ 星那:ん?どしたの? 裕樹:…なんでも、ない… 星那:今日はどう?頭痛治まった? 裕樹:うん、もう平気 星那:さっき担当の先生と会ったよ。リハビリも順調だし、ギプスも軽いものに変えるって 裕樹:…… 星那:どんどん回復してて凄く嬉しい。ね! 裕樹:そうだね… 星那:どうしたの?(頬に触れる) 裕樹:(触れた手にビクつく) 星那:…ゆー君? 裕樹:なんでも…ない… 星那:ほんとに? 裕樹:うん… 星那:ゆー君(ぐっと近づく) 裕樹:…うわっ!(星那を突き飛ばす) 星那:……ゆー、くん…? 裕樹:…あっ、ご…ごめん… 星那:…… 裕樹:星那、ごめん…!その、僕… 星那:…なにか思い出した? 裕樹:え… 星那:なにか思い出したの? 裕樹:な、にも… 星那:本当に? 裕樹:……うん 星那:そっか… 裕樹:ごめん、本当に… 星那:…いっその事 裕樹:? 星那:全部忘れたままで、一から、でも良いんじゃない? 裕樹:え…いや、それは… 星那:これから二人で新しく、楽しいこといっぱい積み上げていって。…それじゃダメ? 裕樹:…な、んで…そんな事… 星那:思い出せないってことは、思い出したくないって事なんじゃないの? 裕樹:…星那? 星那:なーんてね!ごめんね、変なこと言って 裕樹:…… 星那:ほんとごめん、私の方が少し仕事で疲れてるみたい。もう帰るね 裕樹:そう…? 星那:また来る、おやすみなさい 裕樹:おやすみ…気を付けて… : : 星那:入るよー? 裕樹:…星那 星那:三日も空いちゃって、ごめんなさい。仕事が残業ばっかりで… 裕樹:ううん、お疲れ様 星那:顔もガーゼだけになったんだね、良かった 裕樹:そうだね… 星那:ゆー君? 裕樹:…… 星那:どうかした? 裕樹:ねぇ、星那… 星那:ん? 裕樹:…どうして、嘘ついたんだ? 星那:…嘘、って? 裕樹:ストーカーしてた犯人、捕まってるって言ったよな。あれ、嘘だったんだろ… 星那:…誰から聞いたの?警察? 裕樹:うん 星那:…… 裕樹:昨日面会に来てくれた時に… 星那:…面会に来たのは、知ってる 裕樹:記憶も戻ってないから話せること、全然無かったけど…まだ捕まってないって… 星那:…ごめんなさい 裕樹:どうして、嘘なんか…? 星那:それは…!安心、させたくて… 裕樹:でも、もう捕まったって油断してる時にまた来たらどうすんだよ?! 星那:もう来ない! 裕樹:なんで断言出来るんだ…?分かんないだろ!人に薬剤かけて車で轢き殺そうとした…そんな頭おかしい奴、何してくるか分かんないだろ! 星那:ゆー君、落ち着いて! 裕樹:僕だけじゃない、もし星那に何かあったら… 星那:ゆー君 裕樹:守れ、なかったら…どうしたらいいんだよ…! 星那:…ごめんなさい、ゆー君の気持ち全然考えて無くて… 裕樹:なにか、あったらって…! 星那:安心させたくて…それだけだったの。嘘ついてごめんなさい 裕樹:…… 星那:ごめんね、嘘ついて。でも本当に…記憶が戻らなくて不安だろうから、少しでもそういうの、取り除きたいなって…それだけで…。本当にごめんなさい 裕樹:…せ、な… 星那:結局、混乱させるだけになっちゃって… 裕樹:…僕も、ごめん… 星那:ううん… 裕樹:ごめん 星那:…ゆー君 裕樹:せ…(口づけられて言葉が止まる) : 裕樹:…っ!(押し退けて顔を背ける) 星那:ゆーくん…? 裕樹:…… 星那:えっと…キス、嫌だった?… 裕樹:ちょっと、びっくりして… 星那:…… 裕樹:…… 星那:…今日は、帰った方がいい? 裕樹:ごめん… 星那:分かった、ゆっくり休んで。また明日来る 裕樹:ん、ありがとう… : : 裕樹:…… 星那:ゆー君? 裕樹:?! 星那:どうしたの?そんなにびっくりして… 裕樹:ごめん、考え事してて… 星那:ヨーグルト買ってきたよ、アロエのやつ 裕樹:うん、ありがとう… 星那:…大丈夫?何かあった? 裕樹:鏡… 星那:鏡? 裕樹:ガーゼだけになって、初めて鏡見せてもらって… 星那:…… 裕樹:治りきってないとはいえ…結構、衝撃的で… 星那:…… 裕樹:こんなの…外、出歩けば見世物じゃないか… 星那:……ねえ、ゆー君 裕樹:? 星那:気分転換に、車椅子で中庭行かない? 裕樹:気分転換って… 星那:ずっと病室だからさ。今日いいお天気だよ、外の風吸ったら気持ちいいと思うな 裕樹:…… 星那:…だめ? 裕樹:…ううん、いいね、行こうか 星那:良かった。車椅子乗るの、手伝うね 裕樹:ありがと :星那に支えられながら車椅子に移動する :車椅子の前でしゃがみ込んで裕樹と向き合う星那 裕樹:まだまともに動けないなんて、情けないよ… 星那:仕方ないよ。でも私はお世話するの、全然苦じゃないよ 裕樹:星那… 星那:だって大好きな人のお世話なんだよ?どんどん甘えてって思っちゃうし… 裕樹:甘えてって 星那:私は、どんな姿になっても、貴方のこと愛してるから 裕樹:……ぇ 星那:あ、最近の美容整形の技術って凄いんだよ。時間はかかるかもしれないけど、綺麗になるって 裕樹:…… 星那:だからそんなにしんぱ…(いしなくても) 裕樹:さっき、なんて言った…? 星那:ん? 裕樹:さっき…なんて? 星那:美容技術の事?最近はすご…(いんだよ) 裕樹:その前 星那:前? 裕樹:どんな…って… 星那:えっと…あぁ、うん。たとえ顔に傷跡があっても、半身動かなくても、私はどんな裕樹でも愛してるよ 裕樹:…… 星那:んー、ふふっ。やっぱり改めて言うと恥ずかしいね 裕樹:(息が少しずつ荒くなる)…つっ、痛…! 星那:ナースコール… 裕樹:待って!…何か…思い出せそうなんだ…だから、待って…! 星那:分かった… : :間 裕樹:…あ、やの、さん… 星那:ゆー君…? 裕樹:思い出した…僕、あやのさんに…ストーカーされてた… 星那:…うん、合ってる… 裕樹:星那の、友達で… 星那:…長い付き合いだからって…紹介しなきゃ良かった 裕樹:思い、出した… 星那:私のこと、ちゃんと分かる? 裕樹:わかる… 星那:良かった… 裕樹:みかんのゼリー… 星那:ゼリー? 裕樹:大量に家に届いて、気持ち悪くなって… 星那:…そうだったんだ 裕樹:…まだ、曖昧な部分はあるんだ。顔とか思い出せないし、ぼんやりしてる感じで…でも、何となく 星那:大丈夫?気分悪かったりしない? 裕樹:…うん 星那:ゆー君? 裕樹:すごく怖かった…もう嫌だって思って…話が通じなくて、どうしたらって 星那:そうだよね…(裕樹の背後に回る) 裕樹:…なんでこんな思いしなきゃいけないんだって、どうしていいかわからなくなってて… 星那:うん… : :少し長めの間 裕樹:…どこだ? 星那:ん? 裕樹:どこ、なんだ…? 星那:なにが? 裕樹:……星那は、どこだ? 星那:ゆー君何言ってるの。私はここに… 裕樹:違う 星那:…… 裕樹:お前、星那じゃない… 星那:…… 裕樹:全部、思い出した… 星那:全部? 裕樹:曖昧だった所も、はっきり思い出した… 星那:…… 裕樹:…もう諦めたんだと思ってたんだ…そしたら星那によく似た顔のお前が…目の前に現れて… 星那:…… 裕樹:これで何の問題もないって、言いだして… 星那:…… 裕樹:星那…星那に、なにをした…? 星那:…もういいじゃない 裕樹:なに… 星那:もう、あの子の事は忘れて、一緒に暮らせばいいじゃない 裕樹:良い訳ない…良い訳無いだろ…! 星那:どうして?私、貴方に沢山優しくしたよ?理想の奥さんって思わなかった?私の方があの子よりキャリアあるのよ。あなた一人養うなんて何ともないのよ 裕樹:…… 星那:何がダメ?何が許せない?…ああ、貴方を傷物にしたから?大丈夫、言ったでしょ?どんな姿になっても貴方のこと愛してるって。美容整形なんかしなくても、そのままでも私は貴方のこと愛せるよ 裕樹:僕は…お前の事なんて… 星那:うっふふふ… 裕樹:…っ! 星那:(背後から耳元で)あの事故だって、貴方を殺してやろうとかそんなつもりはなかったんだ。ただ、貴方があまりにも私の話を聞いてくれないから、ゆっくりお話したいなって 裕樹:事故って…自分が引き起こしたことだろ…! 星那:事故よ。裕樹が私のことを素直に受け入れてくれてたら起こらなかった…悲しい事故 裕樹:…… 星那:私の気持ちを分かってくれてたら…あんなことにならなかったのに 裕樹:そんな、身勝手…! 星那:あは…駄目ねぇ。自分で軽率だって思わない?ひとりで満足に身動きもできないのに…そんなこと言ってて大丈夫かな?また傷も治りきってないのに…背後、取られちゃったね :裕樹の首に腕を回して締め上げる 裕樹:ぐっ…!んっ、が…!!(暴れる) 星那:あばれたらっ…傷に触るわよ…! 裕樹:く、あ…!!はな…!! 星那:ほぉら。息が苦しくなって…気が遠くなるでしょ 裕樹:ん、ぐ…っ…!! 星那:大丈夫、貴方は殺さないから。私の秘密のおうちに招待してあげる。あの子にもちゃんと会わせてあげるから安心して 裕樹:ん…く、ぅ…(苦しくて気が遠くなっていく) 星那:(独り言)あ、そうだ…盗聴器。回収しとかなきゃ… 星那:さぁ、お散歩に行きましょ。ちゃんと、私が連れて行ってあげる 裕樹:…う、く…(気絶する) 星那:…いい子ね、私の裕樹 : : :広い部屋の真ん中で車椅子に座ったままの状態で目を覚ます裕樹 : 裕樹:…ん、ここ、は……誰も、居ない… : 裕樹:…どこかに行ってるのか…?今のうちに… : :入口のドアに手をかけようとした瞬間に開かれる : 星那:あら、起きたのね? 裕樹:っ?! 星那:どこかに行くつもりだった? 裕樹:…ひ…く、くるな…! 星那:あぁ、嬉しいなぁ。裕樹がここに居るなんて夢みたい。いつか一緒に生活しようって思ってたから、実現出来て本当に嬉しい 裕樹:…せ、星那は… 星那:…… 裕樹:星那に会わせてくれるって…言っただろ!星那はどこだ? 星那:(長い溜息)…あのさぁ 裕樹:…… 星那:なんでそんなに…あの子がいいの?ドン臭くて、人が良いだけの地味な子!こっちは貴方に近付きたいが為だけに、好みじゃないメイクして髪だって切って…ここまでしたのに…何がダメなの?何が足りないの? 裕樹:やめろ…近づくな… 星那:貴方を満足させたいだけなのに…貴方に愛して欲しいだけなのに…!何がダメなのよ!私はただ、あなたを愛してるだけなのに! 裕樹:ひ…! :不自由な手で車椅子を動かす裕樹 星那:……逃げるの、私から 裕樹:…っ! 星那:…あぁ、そうか…逃げられないようにすればいいんだぁ 裕樹:…だ、れか… 星那:そのてあし、いらないね 裕樹:…は 星那:あの子解体するから…ついでに切っちゃおっか 裕樹:…か、いたい… 星那:だって。二人の新しい生活を始めるのに… 裕樹:…… 星那:大きな生ごみは、処分した方がいいでしょ? 裕樹:…星那は、どうした… 星那:ん? 裕樹:会わせるって… 星那:……あぁ、ごめんごめん。約束だったよね(車椅子の向きを変える) 裕樹:っ! 星那:はいはい、星那の所へご案内〜 :星那は鼻歌を歌いながら車椅子を押す :ガレージのような薄暗い空間に連れていく 星那:はーい、到着ですよぉ 裕樹:え…… 星那:見て見て。こういう冷凍庫、懐かしくない?昔、駄菓子屋とかにあったよね。アイス売ってるやつ 裕樹:…ま、って…まさか… 星那:探すの大変だったんだよ、これ 裕樹:……う、そだろ 星那:どうぞ。中、覗いて 裕樹:…… 星那:会いたかったんでしょ?遠慮しなくていいから 裕樹:…… 星那:見ろって言ってんのよ!(裕樹の頭を冷凍庫の窓に押し付ける) 裕樹:いっ…!! 星那:感動のご対面だね…まぁ、返事は返ってこないけど 裕樹:星那…! 星那:この子、人は良いからさぁ。それが命取りになるなんて、思いもしてなかったろうなぁ 裕樹:星那ぁっ! 星那:声掛けるのは好きにすればいいけど…でも、解凍した魚が動くと思う?ゆで卵が生卵に戻るかな?それと一緒 裕樹:せな…せなぁ…! 星那:分かったでしょ。じゃあ早速…っ! :車椅子から裕樹を引きずり下ろす 裕樹:ぐっ…! 星那:痛いのは一瞬かな、動かないでね(手に鉈が握られている) 裕樹:やだ、いやだ…やめろ、やめてくれ…! 星那:私が傍に居てずっとずっと愛してあげる。誰よりも、貴方のことを愛してるのは私なんだから。貴方は…誰にも渡さない 裕樹:…ぁ…た、すけ… 星那:私だけの、裕樹 裕樹:やめろおおおおぉぉ!!! : :たっぷりと長い間 : 星那:うふ…うふふっ…あぁ、大好きな裕樹 : 星那:私が幸せにしてあげるからね : : 終