台本概要
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タイトル | アビス イン マイザーエデン |
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作者名 | アール/ドラゴス (@Dragoss_R) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 5人用台本(男1、女1、不問3) ※兼役あり |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
舞台は娯楽施設、【マイザー・ファイナンス】の英国店。 武器商人のライオンは商談の為にここを訪れるが、なぜかそこには殺し屋アビスの姿が。 偽りの楽園と呼ばれるその場所に集うカードたち。 妙に落ち着いた空気の中、ひっそりと。殺し屋たちは言葉を交わす。 「俺の右腕は、くすんで、ひび割れた。」 【アビスシリーズ】第四話 634 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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アビス | 不問 | 94 | 幼い体つき、幼い声をした愉快犯の殺し屋。 ライオンの護衛をとある人物から任された。 |
ライオン | 不問 | 96 | 武器売買会社、『LCTT』の社長。 通称は“黒獅子”で、本名はアルフレッド・ノワール。 |
シャオロン | 不問 | 94 | 丸サングラスにチャイナ服の胡散臭い中国人。 【マイザー・ファイナンス】英国店のオーナー。 |
シトリン | 男 | 92 | ハットを目深に被り、コートを着た人物。 シャオロンに呼ばれて【マイザー・ファイナンス】までやってきた。 |
ブラウニー | 女 | 65 | おどおどとした【マイザー・ファイナンス】の従業員。 死体の第一発見者となる。 (タルト役の兼ね役) ※役名一覧にない兼ね役がございます。本文のト書きをご覧ください。 |
タルト | 女 | 13 | アビスの付き添いの女性。礼儀正しい。 本日の被害者。 (ブラウニー役の兼ね役) ※役名一覧にない兼ね役がございます。本文のト書きをご覧ください。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:英国。煌めく夜の道を歩くサングラスの人物が一人。
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ライオン:[電話を取る]もしもし。おう、お疲れさん。悪いが要件は手短に済ませてくれると助かる。もうじき取引先に着くんでな。……本当に大丈夫なのか、だと?ハハ、お嬢は心配性だな。だが安心しろ。確かに今回の取引相手は大物だが、もう「守銭奴金融」とは何回も取引をしている仲、要はお得意様だ。いつも通り良い条件で契約を取り付けてくるさ。…ああ。さて、そろそろ目的地に着く。切るぞ。…ああ。…ああ。それじゃあな。[電話を切る]
ライオン:…とは言っても。流石に護衛もつけずに一人で英国に来たのは舐めすぎだったかねえ…。
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アビス:―――ねえねえ、もしかして今、“鮮血”と話してた?♪
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ライオン:っ!?
ライオン:なに、お前は…、“深淵”!?
アビス:はじめまして、武器商人の“黒獅子”(くろじし)さん♪ボクのことを知ってくれてるってことは、きっと“鮮血”がいろいろ話したんだよね?あの子、今元気?
ライオン:その質問に答えるのはお前がオレの質問に答えてからだ。
アビス:どうぞ♪
ライオン:わざわざ英国まで飛んできて、オレが一人になったタイミングで接触してきた理由を教えろ。…殺る気だったら容赦はしない。
アビス:あはは♪怖いなあ、そんなに身構えないでよ♪安心して、ボクはアナタに危害を加えたくてやってきたわけじゃない。というか、むしろその逆なんだから♪ね、タルトさん?
タルト:はい。アビス様はとある方からの依頼でここまでやってきたのです。
ライオン:…アンタは?
タルト:わたくし、とあるお方からアビス様の付き添いを仰せつかりました、タルトと申します。
ライオン:タルト?知らない名前だが新入りか?
タルト:いえ、違います。というのも、今回アビス様がここに来たのは、“女王陛下”のご意志ではないのです。
ライオン:なに…?あの女王サマじゃないっていうなら、どこの誰がこんな厄介者をブリテンまで送ってきたっていうんだ?
アビス:依頼主はトップシークレット。というのも、ライオンさんの取引が無事に終わるまで秘匿しろって言われてるんだ、ごめんね♪
ライオン:…胡散臭いな。
タルト:アビス様がそう見えるのはいつものことです。
アビス:ちょっと!タルトさんそれどういうことー!?
ライオン:そのまんまの意味だろう。…お前さんの雇い主がわからないのはいい。だが、お前さんがオレを追ってきた目的。それが一番の問題だ。答えろ。
アビス:ライオンさんの「護衛」。
ライオン:…はぁ?
アビス:だーかーら、ボクはとある人からアナタの護衛を頼まれたんだ♪あの人曰く、「どうせ“アルフレッドくん”は慢心して護衛もつけずに英国に来るだろうから、付き添ってやってほしい」とのことで…♪
ライオン:…へえ?つまり今回お前さんがここに来たのは、個人的な仕事ってことか。
アビス:そのとーり♪
ライオン:なるほど。わかった。それじゃあオレの商談が終わるまで、よろしく頼もうか。
アビス:あれ、えらく納得するのが早いね?
ライオン:オレが断ったところで「他人のおせっかい」なら意味がないからな。それに、わざわざ“深淵”を寄こしたってことはどうせ何か裏があるんだろうが、オレを殺すつもりならさっきの時点で不意打ちを食らって死んでいる。だからこそ、当面の間はその言葉を信用して良いと踏んだ。交渉成立だ。
アビス:さっすが♪歴戦の武器商人さんは話が早くて助かるよ~!
ライオン:それで?タルトだったか。アンタはどうするんだ。付き添いって言ってたが。
タルト:はい。わたくしも同行させていただきます。アビス様の保護者役ですので。
ライオン:ハハ。おいおい、護衛に保護者が付くなんて、前代未聞じゃないか?
アビス:あの人がお世話焼きなだけだよ!ボクだって一人でできるって言ったし、三か月前にきちんと高級レストランでの護衛と暗殺、きっちり成功させた実績もあるのにさぁー…?
タルト:まあ、念には念をということでしょう。それに、アビス様にここで死なれてはあの方も困るでしょうし。護衛の護衛、ということで。
アビス:むぅ…。まあいいや。それで、“黒獅子”さん。ボクは答えたよ?
ライオン:ん?ああ、そうだったそうだった。すこぶる元気だよ、お嬢は。勢いあまって「マフィア」から「魔女」になっちまうくらいには、な。
アビス:へぇ…、それを聞けて安心したよ、ありがとね!
ライオン:どういたしまして。…さて、ついた。今回の商談が行われる場所だ。
アビス:わぁっ!おっきい施設ー…、って、あれ。ここって、「怪物」さんの?
ライオン:依頼主から聞いてなかったのか?
アビス:うん♪ボクに伝えられたのは、「ライオンさんを護れ」ってことと、ライオンさんが駅を出発するであろう時間だけだから♪
タルト:わたくしも同じくです。
ライオン:…ロクデナシだな、そいつ。まあいい。そう、ここは「守銭奴」と「怪物」が嗤う場所。「娯楽施設」であり「金融施設」。【マイザー・ファイナンス】、英国店だ。
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0:
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0:場面転換。マイザー・ファイナンス英国店、入口にて。
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ブラウニー:い、いらっしゃいませぇ…。「奈落の楽園」、マイザー・ファイナンスへようこそー…。娯楽へ向かうなら左手側、お金が欲しいなら右手側ですー…。たくさん、楽しんでいってくださいねー…。
シトリン:おい。
ブラウニー:ひゃぃっ!?な、なんでしょう、か…。
シトリン:ここのオーナーに呼ばれて来た。どこにいるかわかるだろうか?
ブラウニー:お、オーナー…、「先生」ですか…?え、えぇと…、あっ!確か、お、オーナーはレストランブースでお待ちだと思いますっ!ハイ…。
シトリン:…レストランブースか。…あぁ?
ブラウニー:ひっ…。
シトリン:…失礼。スーツの右肩部分にシミがある。
ブラウニー:えっ…!?あ、ホント、だ…。
シトリン:ここは身だしなみにうるさくプライドの高い上流階級の奴らもよく来る。気を付けた方がいいだろう。
ブラウニー:あ、その…、ありがとう、ございます…っ。
シトリン:ともあれ助かった。礼を言う。[歩いていく]
ブラウニー:た、たのしんでぇ…。…こ、怖かったあぁ…、ハットで隠れてたけど右目に眼帯してたし、絶対カタギの人じゃなかったよぉ……。
アビス:[話しながら入ってくる]―――しかもさあ、あの子なんて言って話を始めたと思う?
タルト:なんと仰ったのですか?
アビス:凄く真剣な顔で、「権力に興味はない?」って。
ライオン:ハッ、新手の詐欺かよ。
アビス:まったくおんなじことを思ったよ、当時のボクも!びっくりしない?
ライオン:そりゃするだろ。やべえなお嬢、帰ったらネタにしてやるか。ハハハッ。
ブラウニー:ぁ、えと、い、いらっしゃいませぇー…。
ライオン:よぉ。少しいいか、受付のお嬢さん。
ブラウニー:ふぇ、は、はい……。
ライオン:そう緊張しないでくれ。聞きたいことがあってな。ああ、オレはLCTT社のアルフレッド・ノワールってモンだ。それで、ここのオーナーがどこにいるかわかるか?商談の約束があるんだが。
ブラウニー:えっ、あ、あなたも、オーナーに…?
ライオン:ああ。まさか、何か手違いでもあったか?
ブラウニー:え、えぇ、っと、その…、お、オーナーはレストランブースでお待ち、です。
ライオン:そうか、ありがとさん。仕事、応援してるぜ。こっちだ、行くぞお前ら。[歩いていく]
アビス:ありがとうございまーす♪[ついていく]
ブラウニー:た、楽しんでぇ…、……やばい、私、もしかしてミスった…?どうしようどうしよう…。あ、そうだ、とりあえず先輩に聞きに行こう…っ!確か、今はバックヤードにいるはず…っ!…せ、先輩ぃ~、助けてくださぁい~…っ!![受付を離れる]
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0:
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0:場面転換。レストランブースに移動した三人。
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アビス:わぁ~!いろんなジャンルの高級そうなレストランがたくさん並んでる!すっごく美味しそう…♪
ライオン:ここの料理は美味いぞ。オレも何回か食ったことがある。だが…。金を払っては食えねえな。
アビス:え?それってどういうこと?
タルト:値段票をご覧になれば一目瞭然ですよ。ほら。
アビス:…え!高っ!!
ライオン:ハハ、そりゃ初見はそういう反応になるよなあ。実際俺もそうだった。そして、だというのにレストランはこんなにも大賑わいだ。何故だかわかるか、深淵?
アビス:えぇーっと、なんだっけ、前に「怪物」さんから聞いた気がするんだけど…、あはは、忘れちゃったや♪
ライオン:本人から聞いて忘れるのか…。まあいい。それじゃあ答え合わせだ。正解は―――。
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シャオロン:沢山アルよ、ここが繁盛する理由は。
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アビス:!
ライオン:おぉっと、オレたちに気づいてたんならもっと早く声をかけてほしいんだがね、シャオロン先生。
シャオロン:ごめんごめん、あまりにもアビスくんの反応がかわいくて、眺めてたくなっちゃったんだ。許してよ~。
アビス:あれ。なんでボクの名前知ってるの?
シャオロン:それは当然、我が盟友から聞き及んでいるから。你好(ニーハオ)、アビスくん。
アビス:にーはお…、あ、もしかして、アナタが「怪物」さんのオトモダチの?
シャオロン:そのとおり。ぼくの名前はシャオロン。ここ、マイザー・ファイナンス英国店のオーナーだよ~。アビスくんの話は盟友からかねがね、会えて嬉しいよ。まあとはいっても、まさか今日会えるとは思ってなかったけどね。
ライオン:ああ、そうか事前に伝わってもないのか…。そりゃ失礼したな、先生。
シャオロン:ほんとだよ、ぼくびっくりしちゃったアル。それで、なんでノワールくんにアビスくんがハッピー欲張りセットしてるのかな。
ライオン:それは席に座ってからゆっくり話させてもらうよ。食事する店に指定はあるか?
シャオロン:ないよ。あーでも、フランス料理の気分だから、あそこのお店がいいかな。
ライオン:わかった。今移動できるかい?
シャオロン:勿論。そうだ、食事代はこちらで出すから、アビスくんとそこの女の子もここで食べていきなよ。美味しい料理がたくさんあるぞぅ。
アビス:え、いいのー?やったぁー♪
タルト:そのご厚意、謹んで頂戴します。
シャオロン:うんうん。君たちみたいな多重債務者(ゾンビ)や賭博中毒者(ジャンキー)でもない清らかな子たちは大歓迎だから、肩の力を抜いて楽しんでいってね。さ、それでは改めてご案内しよう。ウェルカム・トゥ・「守銭奴金融」。「財貨を以て罪科を問う」場所、【マイザー・ファイナンス】へようこそ。
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0:
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0:場面転換。フランス料理店の中にて。
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アビス:―――楽園と奈落?
ライオン:そうだ。「束の間の楽園」、「生涯の奈落」。それが【マイザー・ファイナンス】だ。…ほんと、恐ろしい施設をつくったもんだぜ、“財貨の怪物”さんはよ。
アビス:えぇっと、要は富裕層と貧困層を狙って作られた施設ってことだよね?
シャオロン:そうそう。まとめるとこうだ。「まず、お金持ちの方々にはラグジュアリーでゴージャスなオモテナシでお金を沢山落としてもらう。でも、おバカな文無しの皆様には…、わざとこちらでお金を貸し与えて、お金を使うことの快楽に堕ちてもらう。生きていて一度も味わったことのないお金をパァーっと使う感覚。美味しいごはんに喉が焼けるほど美味しいお酒。そうして現実を忘れて遊び続けると、正気に戻った時にはめくるめく借金地獄と身体に染み付いた賭博依存。酒依存。お金使い切り症候群。結果的に出来上がるのは歩く死体も同然の廃人。借用書で出来た服を着て、命果てるまで我らの為にはたらく都合のいい傀儡人形(かいらいにんぎょう)」ってワケさ!素晴らしいシステムだネ~。
アビス:なるほど!狂っているようでその実、なかなか考えられてるんだね♪
ライオン:しっかし毎度疑問に思うんだが、「この世は金がすべて」って言ってるような怪物さんが、よく貸金業(かしきんぎょう)なんてやったよなぁ。それも貧乏人だけを狙った。というか、命の限りはたらいたところで、そいつらに使われた金は全額戻ってこないんじゃないのか?
シャオロン:そこは問題ナッシング。我が盟友曰く、「Life is Money」(ライフ イズ マネー)。帰ってこなかった分はそいつの「魂」で精算させてもらってるからねぇ。
タルト:皆さんが軽く話していらっしゃるせいで錯覚しますが、今さらりととんでもなく恐ろしい話をしていますよね。
シャオロン:恐ろしくなんかないさ。だって、少なくとも今の君は貧民(プアー)でも愚民(フール)でもないんだからサ。
タルト:そう思っておきます。あぁ、アビス様。わたくしお手洗いに行きたいので、少し席を外しますね。
アビス:りょうかーい♪
タルト:それでは、失礼します。[店を抜けていく]
シャオロン:にしても驚いたなぁ~、アビスくんがノワールくんの護衛だなんて。ねえねえ、ぼくにだけこっそり誰からの依頼なのか教えてくれたりしない?
アビス:ごめんねー、商談が終わるまでは「誰にも」口外するなって言われてるんだ♪
シャオロン:むぅ、ケチんぼめ~。
ライオン:早いところ交渉を終わらせればいいだけさ。どうせ今回もネゴを終わらせた後は少し遊ばせてくれるんだろう?
シャオロン:そのつもりだったよ。それじゃあ、ごもっともなご指摘を受けたとこで早速ご商談を―――、と、行きたいんだけど、その前に。少しいいかな。
ライオン:なんだいシャオロン先生。
シャオロン:実は君に会わせたい人がいるんだよ、ノワールくん。
ライオン:英国に友人はほぼいないはずなんだが。
シャオロン:君も彼もお互いハジメマシテだよ。でも…。ちょっとコチラにも事情があってさ。少し付き合ってほしいんだ。いいかな。
ライオン:アンタが言うのなら、「喜んで」(マイ プレジャー)。
シャオロン:谢谢(シェイシェイ)。あ、ちなみにアビスくんは既知の方だと思うアル。
アビス:えぇ?ボク、英国のお知り合いは大抵殺してるはずなんだけどなあ。
シャオロン:ではでは登場していただこう!出でよ、シトリンく~ん。
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0:暫しの沈黙。誰も現れない。
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ライオン:…誰も来ないが。
シャオロン:あっれれ~…。さっき打ち合わせしたのになあ。呼んだら(登場するっていう話でまとまったはず――――。
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ブラウニー:[セリフに被せて遠くから]きゃああああっっ!!
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アビス:っ、今の声は?
ライオン:向こうからだな…、いったい何があったんだ?
シャオロン:さあ。
:
0:そこに。
:
シトリン:[走ってきて]―――シャオロン…っ!!
シャオロン:あ、シトリンくん。もう、なんで合図で登場してくれなかったのさ。というかなんでハットもコートも脱がずに走ってきたの?
ライオン:ああ、アンタが先生の言ってた人か?
アビス:んー…?
シトリン:ハットはともかくコートはいつだって脱げないさ。悪かったな。だが、今はそれどころじゃない。来てくれるかシャオロン。あっちで人が死んだ。
ライオン:死んっ…、はぁ?
シャオロン:具体的には~?
シトリン:俺が発見した時には死んでたが、首に何かしらの絞め跡があった。他殺なのは明らかだろう。
シャオロン:…なあんで商談のある日に限ってマーダーしちゃうかなあ。仕方ない。ノワールくんとアビスくんはちょっと待っててくれる?オーナーさんは少し様子を見てくる。
シトリン:っ、待て。…今、アビスと言ったか?
アビス:えーっと、こんばんは?
シトリン:っ…!!…まさか、こんなところで会うなんてな。どういう因果だ…、まったく。
アビス:…んんー、どこかで見覚えがある、ような?
シトリン:当然だ、俺はお前と何度もあったことがある…。だが、今それは後回しだ。とにかく来てくれオーナー。
シャオロン:はあいはい。じゃ、ちょっと待っててね二人とも。
ライオン:わ、わかった…。
:
0:シトリンとシャオロンが早歩きで店を去る。
:
ライオン:…まさか、お前のせいか?
アビス:それこそまさか。だってボクずっとここに居たでしょ?
ライオン:お前さんはな。だが、真っ先に一人抜け出したヤツがいただろう。
アビス:…まっさかぁー♪
:
0:
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0:場面転換。シトリンに連れられたシャオロン。
:
シトリン:死体を発見したのは今のところ一人だけのようだ。まだあまり騒ぎになっていなくてよかった。ここで死人が出たと知れれば、当分客足も遠のいてしまうだろうしな。お前のメンツにも関わる。
シャオロン:そこは心配ご無用だよ。この「偽りの聖域」に居る人は、みんな自分の死を怖がってるだけで、他の人が死んでたってなんも関係ないだろうから。
シトリン:…そうか。さて、着いたぞ。御覧のありさまだ。
シャオロン:あちゃぁ…。って、あれ。この子……。
シトリン:…やはり先ほどまでお前たちと一緒に居た女か。名前はタルト、だったか。
シャオロン:アイヤー。それで、そこにいる女の子…、あ、君確か、うちで働いてる子だよね。もしかして、君が第一発見者かな~?
ブラウニー:は、はい…。そうです…っ。
シトリン:さっきの叫ぶ声もどうやらコイツのものだ。今は腰が抜けたらしくて床にへたり込んでるが。
シャオロン:なるほどぉ、了解アル。…ん、あれ、ちょっと待って~?タルトちゃんが殺されたってことはもしかしてノワールくんとアビスくんも狙われてる可能性が?
シトリン:ある。というか高いだろうな。
シャオロン:…どうやらあの二人も連れてくる必要がありそうなので、鳥渡(チョット)行ってくるアル~。
0:シャオロンがまた戻っていく。
シトリン:…まったく、いつ話しても不気味だ。あいつはどこからどこまでが本音で本気なのか。…さて。そこの女。
ブラウニー:は、はい…っ。ってぇ、なにぃっ、あなたは…っ!
シトリン:そう怯えるな。ったく…。[咳払い]必要かわからんが、一応事情聴取をさせてもらってもいいか。ミス・ブラウニー。
ブラウニー:あ、ハイ、勿論……、って、えっ、なな、なんで私の名前…っ!
シトリン:そこに落ちている免許証だよ。
ブラウニー:え…、あっ!ほんとだ、これ私の…っ!
シトリン:個人情報をまき散らさないうちに懐に仕舞っておけ、「ブラウニー・スチュワート」さん。
ブラウニー:あ、ありがとうござい、ます…っ![免許証を手に取り、シトリンから目をそらすように免許証をじっと見つめる]
シトリン:ところでだが。あなたはさっきまでここの受付をやっていたな。受付嬢というのは大抵持ち場に張り付いて離れない仕事だ。だというのに、なぜあなたは入口から大きく離れたレストランブースのレストルームの近くに居た?
ブラウニー:あ、その、えっと、えっと…、…ば、バックヤードの先輩にききたいことがあって…、こっちまで来て…、その、ついでにおトイレに行って、戻ろうとしたら通路に人が死んでたんです…。
シトリン:…そうか。了解した。
ブラウニー:あ、あの…、私、もしかしなくてもめちゃくちゃ疑われてます、よね…。
シトリン:当たり前だろ。「最も怪しいのは第一発見者」だ。それに何事も疑うことから始めなければ、事件の円満解決は難しいものだよ。
ブラウニー:そ、そう、ですよねぇ…、あは、はは、は…。
シトリン:おっと。悪いがしばらく俺の視界から外れないで貰おうか。逃げられたら困る。
ブラウニー:……ひゃい。
0:シャオロンがライオンとアビスを連れて戻ってくる。
シャオロン:ただいま戻ったよ。
ライオン:うぉ…、…あぁ、なんというか。さっきまで普通に言葉を交わしてた奴が静かに転がってるの見るのは、いつまでも慣れないもんだな…。
アビス:タルトさん…、ホントに死んでる…!
シトリン:さて…、シャオロン。ミス・ブラウニーは白だ。
ブラウニー:…ふぇ?[溜息まじり]
シャオロン:んん?普通ブラウニーは茶色いお菓子だと思うんだけど。あ、粉糖がかかってる?
シトリン:かかってるのはお前の頭が病気にだ。一度解剖してもらうことを勧めておく。
アビス:あ、脳みそが大好きな人ならボク知り合いにいるよ!
ライオン:案山子(かかし)のことだろう?オレなら連絡先も持っている。
アビス:さっすがぁ♪
シャオロン:チョコレートの話だったはずなのに甘くないなあ。オーナー泣いちゃうゾ。なあんて冗談はさておき。もう探ってくれてたんだ~?
シトリン:ああ。殺人犯は別にいて、どこかしらに逃げたと考えるのが妥当だろう。ここからは警察の出番だな。
ブラウニー:え、えーっと、どうやら無罪らしいので私はこのあたりで失礼しまぁす…。
シトリン:逃げる気か?
ブラウニー:ひっ…、いぇ、そんなんじゃ…。
シトリン:勘違いさせたのなら申し訳ないがミス・ブラウニー。あなたはまだグレーだ。先ほどのは、「今のところ」怪しい雰囲気がないというだけのこと。完全に白であることを証明したいのならば、もうしばらく拘束されていてくれ。
ブラウニー:…うぅ。はい…。
シャオロン:…ああ、そうだちょうどいいや。シトリンくん。「君に依頼を出そう。」
シトリン:…依頼だと?
シャオロン:仕事内容は、「タルトを殺(た)べたのは誰か」を解明すること。
ライオン:ハッ、おいおい先生。上手いことかけてるのかもしれないが、ここにいるのは「少女」(アリス)じゃなくて「深淵」(アビス)だぜ。
アビス:黒獅子さん…!握手♪
ライオン:あぁ?…なんでだ?する分には構わないけどよ。
アビス:ふふー…♪否定されたの、初めてだから嬉しくて…♪
シャオロン:確かにここは「奈落に深淵」(アビス トゥ アビス)。でも同時に「楽園」(ワンダーランド)でもあるから。なんとかなるでしょ~。
シトリン:…報酬は?
シャオロン:お金をたくさん。
ブラウニー:ア、アバウトすぎませんか、オーナー…。
シトリン:…俺は“先生”じゃない。解決は厳しいやもしれんぞ。
シャオロン:できるところまででいいよ。だって、ぼくはちょうどここに優秀な「探偵」さんがいたから、事件を解決してもらおうと思っただけだしねぇ。
シトリン:…愉快犯め。
ライオン:探偵ぃ?マジかよ。今の時代本当に探偵っているんだなぁ…、えーっと?
シトリン:シトリンでいい。それと訂正しておくが、俺はとある探偵の「秘書」に過ぎん。
アビス:すごーっ!なんか余計響きがカッコよくなったじゃん!「探偵秘書」、だってー!♪ねえ、アナタもかっこいいと思うよねっ?
ブラウニー:えあ、ハイ、そう、ですねぇ…。
シャオロン:ちょいちょいアビスくん。あんまり距離詰めるとブラウニーちゃん怯えちゃうから、気を付けてね。
アビス:え、なんでー?
シトリン:見てわからないのか、“深淵”。ミス・ブラウニーは明らかに深刻なコミュニケーション障害を抱えている。
ライオン:プッ…、ハハ。えらくバッサリ斬るな、探偵秘書さん?
シトリン:事実を述べたまでだが。
シャオロン:それじゃあシトリンくん。肩慣らしに。なぜブラウニーちゃんがこんな感じなのか、当ててみてよ。
シトリン:演繹的推理(えんえきてきすいり)をしろと?俺はどこぞの名探偵じゃないんだぞ。
アビス:でも舞台は同じ英国だよね~♪英国人(ジョンブル)が誰しも憧れるやつ、やってみてよ~!
ライオン:おそらくここにいる奴の中で英国人はそこのお嬢さん一人だけだと思うがね。
シトリン:…はぁ。まったく。ミス・ブラウニー、こちらに。
ブラウニー:え、でもあの、死体が…。
シャオロン:そんなの後回しで大丈夫だよ~。ミステリの解明よりも今はシトリンくんの凄さをみんなに知らしめるのが先サ!
ブラウニー:…わ、わかりました。
シトリン:[じっと観察して]…制服が新しい。が…、失礼。そこ、上のボタンを一つ掛け違えている。
ブラウニー:っ…!?え、ぁ、本当だ、すみませんお恥ずかしいところを…っ!!
シトリン:謝らずに。つまりはこの仕事に慣れていない。このことから、あなたが【マイザー・ファイナンス】の受付に座ったのは少なくともここ一週間以内であると推測できる。違うか?
ブラウニー:えっ…、あ、あたって、ます。
シトリン:先ほどから腰を良く伸ばしている。ここ一週間以前も同じ体制でワークをする仕事に就いていた。
ブラウニー:っ、あぁ…。
シトリン:目の下にクマがあり、眼精疲労がひどい。眼鏡のレンズもかなり厚そうだ。長時間ブルーライトを眺めていた証拠だろう。ここから紐解くに―――。
:
シトリン:ミス・ブラウニーは最低限しか人と触れあわない仕事…、そう。オフィス・ワーカーだった。なんとか職を失うまいと必死に働いていたが、過労により注意力が落ちた結果ミスを連発。上司に怒鳴られる日々が続いた結果、コミュニケーション障害を発症。最終的に精神的ストレスから元々勤めていた会社を辞め、【マイザー・ファイナンス】に就職、今に至る。…と、言ったところか?
:
ブラウニー:ぁ、その…、ぜんぶ、当たりです…。
シャオロン:はあい、みんな拍手~。これがシトリンくんの実力です。
ライオン:[小さく拍手しつつ]こりゃ凄い。顔と仕草を見るだけでここまでわかるもんかよ。
シャオロン:ま、シトリンくんは元マフィアだからね~。洞察力や胆力がえげつない。つまるに探偵はうってつけの仕事だったのさ。
ブラウニー:マフィ、ア…っ!?
シャオロン:おっとっと。さらに怖がらせちゃったかな。对不起(ドゥイブチー)。
ブラウニー:チャ、チャイニーズは理解不能(ドント アンダースタンド)ですっ…。
アビス:それにしてもなるほどなあ。会話が苦手なのも納得がいったよ。つまりアナタは、もともと「デスクワークインドアオタク」さんだったってワケだ♪
シトリン:なんだその妙に語呂がいい蔑称(べっしょう)は。
ブラウニー:こ、光栄ですぅ…。
シトリン:アンタもアンタで喜ぶなよ…。
アビス:でも、ホントに凄いね♪流石は元【ジュリアス】の№2、“黄金の右腕”ってところかな?
シトリン:…っ。
ライオン:なに…?“黄金の右腕”と言やあ、お嬢が散々話してた…!?
シャオロン:さっすがアビスくん。気づいたんだ?
アビス:うん。最初は見た目が変わりすぎててわからなかったケド、さっきボクのことを深淵って呼んだときに確信を得たよ♪久しぶりだね、“黄金”♪
シトリン:…今はシトリンで通ってる。その名で呼ぶのはやめろ。
ライオン:おい、ちょっと待て。お前さんが“黄金”?だとすれば、ずいぶん昔に忽然と姿を眩ましたって話のアンタが、なんで英国で探偵秘書なんてやってるんだ。
シトリン:ん?なんだ、お前は「俺」のことを知っていたのか、
ライオン:ああ。そりゃあもう良く聞かされるよ。…それにだ。シャオロン先生、アンタはなんでオレを“黄金”と引き合わせようとした?話がまったくもって読めないんだが…。
アビス:後者に関してはライオンさんの都合だからいいけど、前者がボクも気になるなあ…。てっきりどっかで野垂れ死んだものだとばっかり思ってたからさ♪
ブラウニー:さ、さっきから話が殺伐としすぎてませんか…っ!?
シャオロン:ゴメンネ~。でもこればっかりは慣れてもらうしかない。なんたって君以外は全員裏のセカイの住人なもんだからサ。
ブラウニー:そ、うですか…。あはは…。
シャオロン:さあて。それじゃあ答え合わせという名の説明を軽く使用かナ。いいよねシトリンくん。この二人は大丈夫な子たちだし。
シトリン:…お前がそういうなら信用する。好きにしろ。
シャオロン:謝謝(シェイシェイ)。それじゃあ簡潔に、ブラウニーちゃんにもわかりやすいように話すね。
ブラウニー:はい…。
シャオロン:遡ること数年。シトリンくんはイタリアのとある都市にあるマフィア組織、【ジュリアス】の№2だった。だけど、シトリンくんはある日組織のボスと共に忽然と姿を消してしまう。本当にある日突然消えたから、内部は大混乱。そして急遽組織の№3、“鮮血の左腕”こと、ルージュちゃんがボスの座を継ぐことになった。ここまではいいよね?
アビス:二重丸♪ボクも“黄金”とボスが蒸発する数か月前までは組織に居たからね、そこまでは完璧に把握してるよ♪
ブラウニー:み、みんなマフィア…。
シャオロン:あはは~。でも怖がらないで。アビスくんは殺し屋だけどかわいい系だし。
ブラウニー:殺し屋にかわいいも何もなくないですかっ…!?
シャオロン:それに、今のシトリンくんはマフィアや殺し屋から足を洗ってるしね。
ライオン:今は「探偵秘書」なんだろう?パーフェクトな推理を披露されたからそこはわかる。
シャオロン:それじゃあ、なんでマフィア組織の№2は英国で探偵業をするに至ったのか。答えは凡庸(シンプル)。「襲撃されて瀕死の重傷を負ってしまった」からサ。
アビス:襲撃…?どういうこと?
シャオロン:シトリンくん。ハットを取って、「右目」の傷と「右腕」の服をまくって見せてくれる?
シトリン:…ああ。この通りだ。
0:シトリンが言われた通りにすると、右目の眼帯からは痛々しい傷が少し見えており、右腕は――――。
ブラウニー:う、腕が…。
ライオン:へえ。隻眼なのは眼帯で分かってたが、隻腕だったのか。なるほど。確かに「右腕」は死んじまったらしい。
シャオロン:ある日の夜、シトリンくんとボスは何者かに襲われた。複数の暗殺部隊のようだったらしいけど、とにかくいきなり襲撃されて、シトリンくんとボスは大怪我を負った。そんななか、協力者の尽力もあり、命からがら逃げおおせて、辿り着いた先がここ、イタリアから少し離れた歴史の国、イギリスだった。
アビス:キミに協力者かあ…。あはは、昔とはだいぶ変わったんだね?♪
シトリン:余計なお世話だ。
シャオロン:そして、シトリンくんとボスは名前を変え、私立探偵に姿を変え。平穏な暮らしを送るとともに、「自分たちを襲ったのが何者で、何の策略だったのか」を調べていた、というわけなのサ。
ブラウニー:しゅ、執念がすごいですね…。
シトリン:…当たり前だ。俺が腕や目を奪われるだけならまだいいが、ボスも両足を失い、【ジュリアス】を使って成し遂げんとしていた夢も実現が難しくなってしまった。…借りを返すことができなくとも、俺たちはせめて真実を知りたい。…どうせ、パンドラの箱の中身はろくでもないんだろうがな。
ライオン:ハハ、話を聞いてるとホント、噂通りなんだなあ、アンタ。
シトリン:…ずっと疑問に思ってたんだが。お前はどこから俺の話を聞いているんだ?【ジュリアス】はもう瓦解したはずだろう。
ライオン:そりゃもちろん。お前さんらが忽然と消えた後、必死に頑張ってた不器用な「鮮血嬢」(スカーレット・プリンセス)からだよ。
シトリン:“鮮血”だと…ッ!?チッ…!
0:シトリンは拳銃を取り出しライオンの頭につきつける。すかさずアビスも動き。
ブラウニー:ひっ、拳銃っ…。
アビス:[シトリンの首にナイフをかける]その銃をおろしてほしいなあ、“黄金”。ボク、昔の仲間を殺したくないよ。
ライオン:はは。エアガンだとしても人の頭にゼロ距離で撃てば大怪我は必至なんだがねえ。
シトリン:黙れ…ッ!どういうことだシャオロン。あの女は最重要容疑者だと話したはずだ…ッ!
シャオロン:しかと耳にしてるよ。だからこそ、ぼくはその誤解を解くために、きみとノワールくんを引き合わせようとしたのサ。
シトリン:…なんだと?
アビス:ん~?ああ、なるほど。つまり“黄金”は、自分たちを殺そうとした襲撃犯が“鮮血”だと思ってたってことか。だとするなら、ボクからも言わせてもらうよ!それは無理だ。だって“鮮血”、結構メンタル弱いもん♪それに、もし本当に襲ってたとしたらあの子多分仲間に隠さないだろうし♪ライオンさんや案山子(かかし)さんが知らない時点で無実証明みたいなものでしょ♪
ライオン:流石は深淵、お嬢とタッグを組んでただけはあって性格を熟知しているなあ。オレも新参者ではあるが同意見だ。というかシャオロン先生がこう言ってる時点で確定だぜ。
シトリン:…そうか。早とちりだったか。…すまなかった、
ライオン:納得したんならこの玩具(オモチャ)を仕舞ってくれると助かるんだがね。
シトリン:ああ。[銃をしまう]
アビス:じゃあ僕も♪[ナイフをしまう]
ブラウニー:ほ、本職のマフィアさん、怖……っ。
シャオロン:あはは~。まあそう委縮しないで、ブラウニーちゃん。というか今更だけど、ここは怖あい人もたくさん来るから、今のうちに慣れとかないとやってられないよ。
ブラウニー:そう、です、よね……。
シャオロン:大丈夫大丈夫。みんな人相とかも悪いけど、何の罪もない人を傷つけるような輩は大抵出禁だし。それに、一般人がこういうことに巻き込まれるなんてほとんどないんだから、むしろ楽しんでやるー、くらいの気概でいこうよ。
ブラウニー:そんな据わった肝は持ってないです…っ!
シャオロン:ふふ。「中華人的冗談」(チャイニーズジョーク)アルよ。ま、話を戻すとね。今日ぼくが二人を引き合わせようとした理由は二つ。一つは、ノワールくんを通してルージュちゃんに「シトリンくんとボスは死んでないよ」ってことを伝えるため。もう一つは、シトリンくんに「襲撃を実行したのは少なくともルージュちゃんたちじゃないこと」を説明するためだったのさ。
アビス:なるほど~♪で、そこになぜかボクとタルトさんが着いてきて、おまけにタルトさんが殺されちゃったから、状況がこんがらがっちゃってたんだってことかあ。
シャオロン:そういうこと~。なんかこういう言い方するとタルトちゃんが悪かったみたいになるからよくないけどね。
ブラウニー:あの、オーナー。質問があるん、ですけど…、その。オーナーが仕えているのは「社長」だと思うんですけど、えっと…、なんで、みなさんのために動いていたんですか…?
シャオロン:んぁ~、それ聞いちゃう?ま別に隠すことでもないから全然オッケーなんだけど。僕はねえ、みんなを助けているというよりは、シトリンくん個人を助けているんだよ。
アビス:“黄金”だけを?へえー、余計に変だね。「怪物」さん、仲間内以外の個人への貸し借り嫌ってなかったっけ。
シャオロン:うん。基本はぼくもそれを通してるんだけど、シトリンくんには「借り」があるからね~。
シトリン:…俺は貸しを作った覚えもないんだが。
シャオロン:いやいや。「Life is Money」(ライフ イズ マネー)だからね。その分の働きはきちんとさせてもらうよ~。
ブラウニー:お、オーナーが借りを作ったって…、いったい何があったんですか…!?
シャオロン:それはヒミツ。あんまりぼくが弱みを見せたら、盟友怒っちゃうから。
ライオン:なんだ、残念だな。珍しく先生の弱いところが見えると思ったのに。
シャオロン:えぇ、ぼくはいつだってよわよわだよ~。なんたって、ぼくは「J11」(ジャック)だからね。強い方ではあるけど、めちゃくちゃ強いかと言われたらそうでもない。
アビス:それ、絵札とエースじゃない子みんな泣いちゃうよ?
ブラウニー:…え、でもあの「不思議の国」(ワンダーランド)で、女王のタルトを食べた容疑にかかってたのって、え、確か…。
シャオロン:あぁ、嫌な偶然だねえ。でも違うヨ~。なんたって、ぼくは確かに「ジャック」だけど、冠するマークは煌めくダイヤだからねえ。ぼくはいつだって、「愛」(ラバー)よりも「お金」(キャッシュ)が欲しいのさ。
シトリン:もう溢れんばかりに持ってるだろうが。…ったく。さあ。俺とそこの武器商の話もひと段落着いたことだ。依頼の通り、そろそろこの死体に向き合うとしよう。
アビス:お!ついに“黄金”の名推理が見れるんだね、楽しみだなあ♪
シトリン:…だからシトリンと呼べと言っているだろう。
アビス:えー、いいじゃん。過去の栄光がなくなるわけじゃないんだしさ♪
シャオロン:そうそう。会うたびに思うけど、君は本当に「宝石」を冠するのに相応しいと思うよ~。ぼく、友達に宝石職人がいるんだけどさ。彼に君のカラット数を調べさせたいくらいだよ。
アビス:あはは♪ほら、シャオロンさんも君は今でも輝いてるってさ♪
シトリン:…おちょくるのはやめろ。俺の身体は既に、黒く濁ってひび割れている。
アビス:でも、砕けてはないんだろ、“黄金”?ならいいじゃん!キミはまだまだ活躍できるし戦える…♪
シトリン:はっ、そうかもな。だが、俺はもう自分からこの腕を振るうことはない。…今の俺は、ただの探偵秘書だからな。
ブラウニー:は、話を聞いていると今でも「ただの」、で片づけられるような人じゃない気がしますが……。
シトリン:…今一度死体を観察させてもらおう。…首になにかの…、いや、これは革ベルトの絞め跡か。絞殺で間違いないな。…ミス・ブラウニー。この死体は「ここで」死んでたのか?あなたがここを通ろうとしたら既に横たわっていた?
ブラウニー:は、はい。そうです…。
ライオン:なにか発見はあったかい、探偵秘書さん。
シトリン:…ああ。今最も重要なのは「Why done it?」(ホワイ ダニット)。犯人はなぜタルトを殺したのか。…ほとんどの場合殺しには動機が伴う。そこのクソガキみたいに狂ってなければな。
アビス:えー、それボクのことー?ヒドいなあ、ボクだって殺す動機は誰かからの依頼だよ?ま、殺ったあとは良く遊んでたけどね、昔は♪
シャオロン:あはは~、さすが、深淵はやることが違うなあ。
シトリン:…そうだな。シャオロン。少し擦り合わせしたいことがある。少しこちらに来てくれるか?
シャオロン:ん、わかった。じゃ、ちょっと席外すね~。
0:シャオロンとシトリンが離席する。
ライオン:…このタイミングで擦り合わせとか、いったい何をするつもりなんだ、あいつは。
アビス:さあ?でも、なんだか楽しそうだからいいじゃん♪
ライオン:お前さんは愉しければすべて許せるタイプか…。いや、話は聞いてるんだが。本当にそのまんまでびっくりするぜ。
ブラウニー:……。
アビス:あ、ごめんごめん。なんだかハブったみたいになっちゃったね、ブラウニーさん♪
ブラウニー:へ…、ああ、いえ、全然ダイジョブ、ですはい…っ!
ライオン:はは、まあそうカタくなるな。お前さんは運が悪かったのさ。巻き込んじまって、悪かったな。
アビス:でも、まさかちょっと目を離したすきにタルトさんが死んじゃうなんてなあ…。というか、さっきもシャオロンさんに言われたけど、ボクら狙われてる可能性が高いってことだよね?
ライオン:だろうな。というか、だとしたら…、そうだな。ブラウニーのお嬢さん。念のためオレたちから離れとけ。
ブラウニー:え…!?
アビス:そりゃあそうでしょー♪今ボクたちだいぶゆったりしてるし♪もし急に真犯人が現れて襲ってきたら、ライオンさんは護りきれる自信あるけど、あなたまでは手が届かないだろうし♪
ライオン:ま、奴さんの狙いはきっと武器商人であるオレの首だろうからな。巻き添え喰らわない限りは平気だと思うが。アイツらが戻ってきたらそっちの傍に居た方がいい。
ブラウニー:あ…、ありがとうございます。
ライオン:正直、カタギに手を出されるのが一番好きじゃないんでね。
アビス:ひゅぅ、ライオンさんイッケメーン♪
ライオン:なんだそのおちょくりは。…というか、オレを護衛するように言ったお前さんの依頼主はもしや、こうなることを見越していたのか…?
アビス:さあね♪今はチョコレートブラウニーが食べたい気分で考える気になれないや♪
ライオン:おいおい、結局何も食えなかったからって食い意地張ってんのか?
ブラウニー:わ、私食べられるんですか…っ!?
ライオン:なんでお前さんはそうなる。…ったく、命を狙われてるかもしれないってのに、本当に緊張感ねえよなあ、オレたち。
アビス:ホントにね~♪
ブラウニー:ええ。だもんで助かりましたよ。
ライオン:あ?
ブラウニー:[指に針のようなものを挟みライオンに投げようとする]
アビス:しまった、距離が―――ッ!
:
シトリン:ここで焦るようじゃ二流だな。
:
ブラウニー:なッ――――。
シトリン:[いつの間にかブラウニーの背後を取っている]動くな。動いた瞬間お前の頸動脈をぶち抜く。
ブラウニー:…これはまいりました。…完全に場が緩み切った絶好のタイミングだと思ったのですが。…この感じでは、どうやらシトリンさんには随分前から気づかれていましたかね。
シャオロン:探偵秘書は流石に頭がいいってことだよ。ブラウニーちゃん。
ライオン:…ちょ、っと待て?もしかして今、オレ殺されかかったのか?
シトリン:それにすら気づかなかったのか?…お前、切れ者ぶってるくせに案外頭悪いんだな。
ライオン:…反論はできねえな。
アビス:ちなみにボクも全然気づきませんでした♪というかブラウニーさん…、その殺気、今の今までいったいどこに隠してたの?ホントに気づかなかったよ…♪
ブラウニー:気配と殺気を隠すのは昔よく訓練したんです。そうじゃないと「都市伝説」には登れませんからね。
ライオン:「都市伝説」…、か。
ブラウニー:ええ。私…、いいえいいえ。「あたくし」は、存在すらあやふやな御伽噺(フェアリーテイル)、立派な影法師でございます。しっかしお見事です。…いつからあたくしの正体に気づいてたんです?
シトリン:演繹的推理(えんえきてきすいり)を披露しているころには確信に変わってたよ。「お前がブラウニー・スチュワートじゃない」ことなんてな。
アビス:え、でもちょっと待って。ブラウニーさんが暗殺者さんだったことはわかるんだけど…、ブラウニーさんがブラウニーさんじゃないってどういうこと?だって、見た目も仕草も話し方…、は今なんか変わっちゃったけど、ぜんぶ受付に居たブラウニーさんそのものだったじゃん。
ライオン:『鏡合わせの殺人鬼』。
アビス:え、なにそれ。ライオンさん知ってるのー?
ライオン:ああ。イタリアのとあるマフィア組織で噂されてる「都市伝説」だ。とはいっても、正体はこうして実在するマフィアなんだがな。
アビス:…んん?どーゆーこと?
シャオロン:説明しよう。マフィア組織【クラウディウス】には、構成員の中で噂される都市伝説が数説あるんだけどね。もちろん大抵のものは仕事に疲れたマフィアが面白半分で生み出したただのブラックジョークなんだけど…、たまに、「本当」が混じっている。そのうちの一人がこちらの「ブラウニー」ちゃん…、の皮を被った、暗殺者くんってことさ。
ブラウニー:あらまあ。そこまで知られてちゃあもう正体を隠す意味もないですねえ。…ええ。そんじゃま、改めて自己紹介をば。
0:※ここから「ブラウニー」の役表記が「ドッペル」に変わります。
ドッペル:[素顔を明かして]あたくし、【クラウディウス】のマフィアにして生ける都市伝説、変装の達人、もとい『鏡合わせの殺人鬼』、ドッペルと申します。以後…、は、ねえでしょうがまあ、お見知りおきを。
アビス:わぁ、ホントに別人だった!さっきの顔は全部メイクとかマスクってこと!?すごーっ♪
ドッペル:へえ、まあそんなところです。
シャオロン:それで探偵秘書先生。あなたはどうやってドッペルくんがブラウニーちゃんに成り代わってると推理したんだい?
シトリン:…まず最初の違和感は落ちている免許証を指摘した時だ。あの時お前は、「本当だ、私の免許証だ」とわざわざ言った。普通自分の顔が刻まれていれば一発でわかるものを。それが少し引っかかった。
ドッペル:はは、恥ずかしい話です。あの時は超絶慌てふためいてましたもんで…。ボロが出ちまってたようですね。
ライオン:慌ててた…?
ドッペル:ええ。まあ先にネタバレしちまいますと、あたくしはここに「武器商人アルフレッドを殺せ」っていう命で送られてきまして。あの「財貨の怪物」の庭で殺しをするってぇのがとっても怖かったですが、ぱっぱと終わらせて帰ってやろうと思ったんです。…そうしたらたまげましたよ。アルフレッド単品かと思いきや、あの深淵が居やがったんですから。
アビス:え、もしかしてボクって有名人なの?
ドッペル:さあ。多分ですが、知る人ぞ知るってぇ感じです。ウチの組織【クラウディウス】は元々【ジュリアス】と犬猿の仲でしたしね。
シャオロン:なるほどねえ。ちなみにシトリンくん。まだあるかい?
シトリン:ああ…、まあ片手の指がちょうど埋まるくらいには挙げられるが、その中でも大きかったのは、【マイザー・ファイナンス】に入社して一週間も経ってないってのにシャオロンや「財貨の怪物」についてよく知っているようだったことだ。だというのに俺たちがマフィアであることを明かすとお前はそれ以上に怯えた。よっぽど「財貨の怪物」のが恐ろしいだろうに。そこが矛盾として俺の頭に残ってな。さっき俺がシャオロンを連れて擦り合わせをしたのはバックヤードだ。
シャオロン:ね。びっくりしたよ。急に呼ばれたから何かと思ったら、バックヤードに本物のブラウニーちゃんとほかに数人従業員の子が死んでて、身ぐるみが剥がされてたから。ドッペルくんはきっと、ブラウニーちゃんに成り代わることで隙を見てノワールくんを殺って逃げるつもりだったんだろうけど…、そうは問屋が卸さなかったアルね。
ドッペル:…あたくしの敗因は、探偵助手さんを舐めすぎた、ってことでしょうかねぇ。
アビス:まあ片目片腕を失っても“黄金”は“黄金”だからね♪それに、推理力もついて頭が余計よくなってるから、むしろ前よりも手ごわい、まであるかも♪
ドッペル:そいつは末恐ろしい話で…。…さ。この通り。あたくしはもう抵抗しません。完敗ですからね。
ライオン:おいおい、えらく往生際がいいな?
ドッペル:都市伝説としての矜持、みたいなもんですよ。…さあ。煮るなり灼くなり、好きにしてくださいな。
シトリン:…ああ。
シャオロン:うぅん…、惜しいなあ。
ライオン:惜しいだあ?
シャオロン:だって、うちの道化くんから「スゴイスゴイ」って散々言われてたあの『鏡合わせの殺人鬼』だよ?ここで始末しちゃうのはもったいないと思うんだよね。
アビス:その考え方いいねぇ♪シャオロンさんの使えるものは何でも使うスタンス好きだなあ…♪
ライオン:まあバチは当たらないだろうな。
シャオロン:ということで…、ドッペルくん。提案があるんだけど。
ドッペル:…なんです。
シャオロン:ぼくと…、いや。ぼくたち。【マイザー・ファイナンス】と契約を結ばないかい。
ドッペル:…あたくしが、ですか?
シャオロン:うん。君のことを見逃す代わりに、これから君にはぼくたちの駒になってもらいたいんだ。ああ、勿論【クラウディウス】には所属したままでいいよ。人員とか偵察員、暗殺者が必要になったときにちょこっと手伝ってくれるだけでいいからさ。ああ、君の今の雇い主くんからの報復とかは気にしないでいいからね。こっちでぜんぶやっとくからサ~!
ドッペル:…それくらいをこなすだけであたくしを見逃してくれるんです?
シトリン:まあ、今回そこの武器商を殺すためにお前を送り込んだヤツの名前を吐くくらいはしてもらわないと困るがな。俺が言うのもなんだが、シャオロンにつくのはいい選択だと思うぞ。【マイザー・ファイナンス】唯一の良心だからな、こいつは。
シャオロン:ちょっと。盟友やヴェロちゃんのこと悪く言うのは流石のぼくも怒るぞぉ?
ライオン:ハハ。アンタが怒るところは正直見てみてえなあ。きっと翌朝には槍が降ってる。
シャオロン:ぼくのことなんだと思ってるのかな君たち~??
アビス:胡散臭いけど優しいチャイニーズマフィア!
シャオロン:うぅん、その通りかな!あはは~。
ドッペル:……。ふふ、ははは!ああ、なんだか調子狂うなあ。さっきまでの心持ちが嘘みてえだ。……シャオロン先生。本当にいいんですかい?あたくし、一応刺客だったんですが。
シャオロン:もちろん。君がウチの傘下に加わったら、我が盟友もきっと喜ぶだろうしね♪
ドッペル:…そのご厚意、謹んで頂戴します。
シャオロン:やったね~。ドッペルくんゲットだぜ。
シトリン:…なんだか、世界統一でもしそうな勢いで味方増えてないか、【マイザー・ファイナンス】は…。
アビス:いいじゃん。ボクらは恩恵を受ける側なんだし♪
シトリン:まあ、それはそうかもしれないが…。というか、お前はいいのか深淵。仮にもタルトはお前の仲間だったんだろう。
アビス:ボクは平気だよー♪せっかくお友達になれた人が死んじゃったのはちょっと悲しいけど、【マイザー・ファイナンス】の人が良いっていうなら大丈夫だと思うし!
シトリン:「大丈夫」…?
ライオン:そんで。ドッペル。晴れて仲間になったことだし、教えてもらおうか。今回お前さんを送り付けてきたのは、いったいどこのどいつだ?
ドッペル:あたくしの今回の雇い主は、名前を“ロレンス”と言いました。…しっかし、申し訳ない。漠然と「武器商人のアルフレッドを殺せ」としか言われてなかったもんですから、何処に所属しているかまでは全然わからねえんです。
シャオロン:そっかあ。あんまり得るものはなかったかな~…?
ライオン:いや。“ロレンス”って名前が聞けただけでも十分な収穫だ。イタリアに帰ったらお嬢とより深く調べることにしよう。
シャオロン:うんうん。それじゃあこれにて一件落着。ご飯でも食べますか~。
アビス:さんせーい!冷や汗をかいたせいで余計おなか減っちゃったしね♪
シャオロン:ドッペルくんとシトリンくんも来てくれるよネ?
ドッペル:雇い主様が仰るんでしたら、喜んで。
ライオン:はは、もうすっかり懐柔されてるな。流石は変幻自在の殺し屋ってところか。
シトリン:…俺は帰らせてもらう。今日は“先生”が夕食を用意してくれてるからな。
シャオロン:えぇー、ぼくも「先生」なのになあ。
シトリン:屁理屈を言うな。とにかく俺は帰る。…面倒ごとに巻き込まれて俺はくたくただ。
アビス:そう?今回はあんまりアクションもなかったと思うけど。昔の君ならこれくらいへっちゃらだっただろうに…、片腕がなくなって、体力もそれに比例して落ちちゃったカンジ?♪
シトリン:…単に腕が鈍ってるだけだ。
アビス:そっか…。でも安心した♪キミの腕は「鈍ってる」だけで「腐った」わけじゃあないってことだもんね。ま、元から宝石だし、腐敗しないのはアタリマエか♪
シトリン:お前はくだらない言葉遊びが上手くなったな。「鮮血の口紅」(ルージュ・ルージュ)を塗ってもらったからか?
ライオン:お嬢はそこまでジョークは達者じゃないぜ。なぜなら、冗談に聞こえることを本気でやろうとすることが大抵なもんでなぁ…。
シャオロン:ノワールくんも苦労人だなあ~…。
ドッペル:…あのぅ、トパー…、じゃねえ。シトリンさん。本当に帰っちまう前に、伝えておきたいことがあります。
シトリン:なんだ。
ドッペル:…「【ジュリアス】を襲撃した真犯人」について。
シトリン:っ!知っているのかッ!?
ドッペル:はい。…なんたって、「皇帝暗殺」(アレ)を企てたのは紛れもない――――。
:
ドッペル:――――「【クラウディウス】の暴君」(ウチのクソボス)ですから。
:
0:
:
0:場面転換。レストランから出てくるアビス、ライオン、シャオロン。
:
ライオン:はぁー、食った食った。ありがとうな、先生。ご馳走になったぜ。
シャオロン:うんうん。君の地元の料理店と遜色ない味だったでしょ~?
ライオン:ああ。デザートまで完璧だった。流石は「エデン」だ。
アビス:あれそういえば、ドッペルさんはどこ行ったの?さっきまで居たのに。
シャオロン:ん~とね、ついさっき、受付の子とか従業員さんがお亡くなりになっちゃって人員が足りないことに気づいちゃって、仕方ないから今日のところはドッペルくんにヘルプで入ってもらうことにしたんだ~。だから今頃、従業員に扮してお仕事をしてるよ。
アビス:…ここのお仕事って、言われてすぐできるものなの?
シャオロン:ぼくは無理だね。だって構造が複雑だし。でも、ドッペルくんはほら、「模倣」が大得意だから。なんとかなるでしょ。
ライオン:よくそのテキトーさで回るよなあ、この楽園は…、ああ、そういや深淵。まだお前さんを送り付けたヤツの名前を聞いてなかったな。
アビス:ボクの依頼主さん?教えられないよ?
ライオン:おいおい、話が違うだろう。明かさないのは「オレと先生の取引が終わるまで」だったろ。…あ?取引だと……?
シャオロン:…あ。
アビス:あはは、ようやく気付いたー?♪
ライオン:…シャオロン先生。
シャオロン:さっきの書類とってくるね。
ライオン:頼む。場所はどうする。
シャオロン:ご飯食べながらは胃が爆発しちゃうし、ぼくの事務室でどうかな。
ライオン:承知した。じゃあそこの前で待ってる。
アビス:ふふ、急にスイッチはいるのおもしろ~♪
:
0:
:
シトリン:ん…?電話か。(電話を取る)もしもし…。
0:「どうやら散々な目にあったようだな、少年?」
シトリン:…見ていたんですか?
0:「いいや?ただ、そんな気がしただけさ。しかしその口ぶりから察するに、当たっていたらしいな。何かトラブルでもあったか?」
シトリン:…はい。とんだハプニングでした。が、その分収穫も大きかった。俺たちの追い求めているもののしっぽ…、いや。胴体を掴みましたから。
0:「…それは僥倖。よくやったな、シトリン。…いや。忠実なる私の“黄金の右腕”よ。」
シトリン:! …その呼び名は。
0:「ふふ。いやすまない。なんだか懐かしくなってしまってね。だが、たまにはいいだろう?」
シトリン:…あなたが良いと思うならば。
0:「やれやれ。最寄りの駅までマキアートに迎えに行かせた。車に乗ってゆっくり帰っておいで。」
シトリン:承知しました。
0:「うん。今日の夕食は君の大好きなジェノベーゼパスタだ。楽しみにしているといい。」
シトリン:! はい、先生…、いえ。…楽しみにしています。“ボス”。
:
0:
:
シトリン:(N)扉を蹴破った先の楽園で、男は推理を披露した。
シトリン:(N)黄金(トパーズ)の輝きが失われても、俺の誇りは砕けない。
:
アビス:(N)またもやマーダー、あっそびましょー!♪
:
0:アビスの無邪気な笑い声が響いている……。
:
0:Dusty Gate was closed.
0:英国。煌めく夜の道を歩くサングラスの人物が一人。
:
ライオン:[電話を取る]もしもし。おう、お疲れさん。悪いが要件は手短に済ませてくれると助かる。もうじき取引先に着くんでな。……本当に大丈夫なのか、だと?ハハ、お嬢は心配性だな。だが安心しろ。確かに今回の取引相手は大物だが、もう「守銭奴金融」とは何回も取引をしている仲、要はお得意様だ。いつも通り良い条件で契約を取り付けてくるさ。…ああ。さて、そろそろ目的地に着く。切るぞ。…ああ。…ああ。それじゃあな。[電話を切る]
ライオン:…とは言っても。流石に護衛もつけずに一人で英国に来たのは舐めすぎだったかねえ…。
:
アビス:―――ねえねえ、もしかして今、“鮮血”と話してた?♪
:
ライオン:っ!?
ライオン:なに、お前は…、“深淵”!?
アビス:はじめまして、武器商人の“黒獅子”(くろじし)さん♪ボクのことを知ってくれてるってことは、きっと“鮮血”がいろいろ話したんだよね?あの子、今元気?
ライオン:その質問に答えるのはお前がオレの質問に答えてからだ。
アビス:どうぞ♪
ライオン:わざわざ英国まで飛んできて、オレが一人になったタイミングで接触してきた理由を教えろ。…殺る気だったら容赦はしない。
アビス:あはは♪怖いなあ、そんなに身構えないでよ♪安心して、ボクはアナタに危害を加えたくてやってきたわけじゃない。というか、むしろその逆なんだから♪ね、タルトさん?
タルト:はい。アビス様はとある方からの依頼でここまでやってきたのです。
ライオン:…アンタは?
タルト:わたくし、とあるお方からアビス様の付き添いを仰せつかりました、タルトと申します。
ライオン:タルト?知らない名前だが新入りか?
タルト:いえ、違います。というのも、今回アビス様がここに来たのは、“女王陛下”のご意志ではないのです。
ライオン:なに…?あの女王サマじゃないっていうなら、どこの誰がこんな厄介者をブリテンまで送ってきたっていうんだ?
アビス:依頼主はトップシークレット。というのも、ライオンさんの取引が無事に終わるまで秘匿しろって言われてるんだ、ごめんね♪
ライオン:…胡散臭いな。
タルト:アビス様がそう見えるのはいつものことです。
アビス:ちょっと!タルトさんそれどういうことー!?
ライオン:そのまんまの意味だろう。…お前さんの雇い主がわからないのはいい。だが、お前さんがオレを追ってきた目的。それが一番の問題だ。答えろ。
アビス:ライオンさんの「護衛」。
ライオン:…はぁ?
アビス:だーかーら、ボクはとある人からアナタの護衛を頼まれたんだ♪あの人曰く、「どうせ“アルフレッドくん”は慢心して護衛もつけずに英国に来るだろうから、付き添ってやってほしい」とのことで…♪
ライオン:…へえ?つまり今回お前さんがここに来たのは、個人的な仕事ってことか。
アビス:そのとーり♪
ライオン:なるほど。わかった。それじゃあオレの商談が終わるまで、よろしく頼もうか。
アビス:あれ、えらく納得するのが早いね?
ライオン:オレが断ったところで「他人のおせっかい」なら意味がないからな。それに、わざわざ“深淵”を寄こしたってことはどうせ何か裏があるんだろうが、オレを殺すつもりならさっきの時点で不意打ちを食らって死んでいる。だからこそ、当面の間はその言葉を信用して良いと踏んだ。交渉成立だ。
アビス:さっすが♪歴戦の武器商人さんは話が早くて助かるよ~!
ライオン:それで?タルトだったか。アンタはどうするんだ。付き添いって言ってたが。
タルト:はい。わたくしも同行させていただきます。アビス様の保護者役ですので。
ライオン:ハハ。おいおい、護衛に保護者が付くなんて、前代未聞じゃないか?
アビス:あの人がお世話焼きなだけだよ!ボクだって一人でできるって言ったし、三か月前にきちんと高級レストランでの護衛と暗殺、きっちり成功させた実績もあるのにさぁー…?
タルト:まあ、念には念をということでしょう。それに、アビス様にここで死なれてはあの方も困るでしょうし。護衛の護衛、ということで。
アビス:むぅ…。まあいいや。それで、“黒獅子”さん。ボクは答えたよ?
ライオン:ん?ああ、そうだったそうだった。すこぶる元気だよ、お嬢は。勢いあまって「マフィア」から「魔女」になっちまうくらいには、な。
アビス:へぇ…、それを聞けて安心したよ、ありがとね!
ライオン:どういたしまして。…さて、ついた。今回の商談が行われる場所だ。
アビス:わぁっ!おっきい施設ー…、って、あれ。ここって、「怪物」さんの?
ライオン:依頼主から聞いてなかったのか?
アビス:うん♪ボクに伝えられたのは、「ライオンさんを護れ」ってことと、ライオンさんが駅を出発するであろう時間だけだから♪
タルト:わたくしも同じくです。
ライオン:…ロクデナシだな、そいつ。まあいい。そう、ここは「守銭奴」と「怪物」が嗤う場所。「娯楽施設」であり「金融施設」。【マイザー・ファイナンス】、英国店だ。
:
0:
:
0:場面転換。マイザー・ファイナンス英国店、入口にて。
:
ブラウニー:い、いらっしゃいませぇ…。「奈落の楽園」、マイザー・ファイナンスへようこそー…。娯楽へ向かうなら左手側、お金が欲しいなら右手側ですー…。たくさん、楽しんでいってくださいねー…。
シトリン:おい。
ブラウニー:ひゃぃっ!?な、なんでしょう、か…。
シトリン:ここのオーナーに呼ばれて来た。どこにいるかわかるだろうか?
ブラウニー:お、オーナー…、「先生」ですか…?え、えぇと…、あっ!確か、お、オーナーはレストランブースでお待ちだと思いますっ!ハイ…。
シトリン:…レストランブースか。…あぁ?
ブラウニー:ひっ…。
シトリン:…失礼。スーツの右肩部分にシミがある。
ブラウニー:えっ…!?あ、ホント、だ…。
シトリン:ここは身だしなみにうるさくプライドの高い上流階級の奴らもよく来る。気を付けた方がいいだろう。
ブラウニー:あ、その…、ありがとう、ございます…っ。
シトリン:ともあれ助かった。礼を言う。[歩いていく]
ブラウニー:た、たのしんでぇ…。…こ、怖かったあぁ…、ハットで隠れてたけど右目に眼帯してたし、絶対カタギの人じゃなかったよぉ……。
アビス:[話しながら入ってくる]―――しかもさあ、あの子なんて言って話を始めたと思う?
タルト:なんと仰ったのですか?
アビス:凄く真剣な顔で、「権力に興味はない?」って。
ライオン:ハッ、新手の詐欺かよ。
アビス:まったくおんなじことを思ったよ、当時のボクも!びっくりしない?
ライオン:そりゃするだろ。やべえなお嬢、帰ったらネタにしてやるか。ハハハッ。
ブラウニー:ぁ、えと、い、いらっしゃいませぇー…。
ライオン:よぉ。少しいいか、受付のお嬢さん。
ブラウニー:ふぇ、は、はい……。
ライオン:そう緊張しないでくれ。聞きたいことがあってな。ああ、オレはLCTT社のアルフレッド・ノワールってモンだ。それで、ここのオーナーがどこにいるかわかるか?商談の約束があるんだが。
ブラウニー:えっ、あ、あなたも、オーナーに…?
ライオン:ああ。まさか、何か手違いでもあったか?
ブラウニー:え、えぇ、っと、その…、お、オーナーはレストランブースでお待ち、です。
ライオン:そうか、ありがとさん。仕事、応援してるぜ。こっちだ、行くぞお前ら。[歩いていく]
アビス:ありがとうございまーす♪[ついていく]
ブラウニー:た、楽しんでぇ…、……やばい、私、もしかしてミスった…?どうしようどうしよう…。あ、そうだ、とりあえず先輩に聞きに行こう…っ!確か、今はバックヤードにいるはず…っ!…せ、先輩ぃ~、助けてくださぁい~…っ!![受付を離れる]
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0:
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0:場面転換。レストランブースに移動した三人。
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アビス:わぁ~!いろんなジャンルの高級そうなレストランがたくさん並んでる!すっごく美味しそう…♪
ライオン:ここの料理は美味いぞ。オレも何回か食ったことがある。だが…。金を払っては食えねえな。
アビス:え?それってどういうこと?
タルト:値段票をご覧になれば一目瞭然ですよ。ほら。
アビス:…え!高っ!!
ライオン:ハハ、そりゃ初見はそういう反応になるよなあ。実際俺もそうだった。そして、だというのにレストランはこんなにも大賑わいだ。何故だかわかるか、深淵?
アビス:えぇーっと、なんだっけ、前に「怪物」さんから聞いた気がするんだけど…、あはは、忘れちゃったや♪
ライオン:本人から聞いて忘れるのか…。まあいい。それじゃあ答え合わせだ。正解は―――。
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シャオロン:沢山アルよ、ここが繁盛する理由は。
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アビス:!
ライオン:おぉっと、オレたちに気づいてたんならもっと早く声をかけてほしいんだがね、シャオロン先生。
シャオロン:ごめんごめん、あまりにもアビスくんの反応がかわいくて、眺めてたくなっちゃったんだ。許してよ~。
アビス:あれ。なんでボクの名前知ってるの?
シャオロン:それは当然、我が盟友から聞き及んでいるから。你好(ニーハオ)、アビスくん。
アビス:にーはお…、あ、もしかして、アナタが「怪物」さんのオトモダチの?
シャオロン:そのとおり。ぼくの名前はシャオロン。ここ、マイザー・ファイナンス英国店のオーナーだよ~。アビスくんの話は盟友からかねがね、会えて嬉しいよ。まあとはいっても、まさか今日会えるとは思ってなかったけどね。
ライオン:ああ、そうか事前に伝わってもないのか…。そりゃ失礼したな、先生。
シャオロン:ほんとだよ、ぼくびっくりしちゃったアル。それで、なんでノワールくんにアビスくんがハッピー欲張りセットしてるのかな。
ライオン:それは席に座ってからゆっくり話させてもらうよ。食事する店に指定はあるか?
シャオロン:ないよ。あーでも、フランス料理の気分だから、あそこのお店がいいかな。
ライオン:わかった。今移動できるかい?
シャオロン:勿論。そうだ、食事代はこちらで出すから、アビスくんとそこの女の子もここで食べていきなよ。美味しい料理がたくさんあるぞぅ。
アビス:え、いいのー?やったぁー♪
タルト:そのご厚意、謹んで頂戴します。
シャオロン:うんうん。君たちみたいな多重債務者(ゾンビ)や賭博中毒者(ジャンキー)でもない清らかな子たちは大歓迎だから、肩の力を抜いて楽しんでいってね。さ、それでは改めてご案内しよう。ウェルカム・トゥ・「守銭奴金融」。「財貨を以て罪科を問う」場所、【マイザー・ファイナンス】へようこそ。
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0:
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0:場面転換。フランス料理店の中にて。
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アビス:―――楽園と奈落?
ライオン:そうだ。「束の間の楽園」、「生涯の奈落」。それが【マイザー・ファイナンス】だ。…ほんと、恐ろしい施設をつくったもんだぜ、“財貨の怪物”さんはよ。
アビス:えぇっと、要は富裕層と貧困層を狙って作られた施設ってことだよね?
シャオロン:そうそう。まとめるとこうだ。「まず、お金持ちの方々にはラグジュアリーでゴージャスなオモテナシでお金を沢山落としてもらう。でも、おバカな文無しの皆様には…、わざとこちらでお金を貸し与えて、お金を使うことの快楽に堕ちてもらう。生きていて一度も味わったことのないお金をパァーっと使う感覚。美味しいごはんに喉が焼けるほど美味しいお酒。そうして現実を忘れて遊び続けると、正気に戻った時にはめくるめく借金地獄と身体に染み付いた賭博依存。酒依存。お金使い切り症候群。結果的に出来上がるのは歩く死体も同然の廃人。借用書で出来た服を着て、命果てるまで我らの為にはたらく都合のいい傀儡人形(かいらいにんぎょう)」ってワケさ!素晴らしいシステムだネ~。
アビス:なるほど!狂っているようでその実、なかなか考えられてるんだね♪
ライオン:しっかし毎度疑問に思うんだが、「この世は金がすべて」って言ってるような怪物さんが、よく貸金業(かしきんぎょう)なんてやったよなぁ。それも貧乏人だけを狙った。というか、命の限りはたらいたところで、そいつらに使われた金は全額戻ってこないんじゃないのか?
シャオロン:そこは問題ナッシング。我が盟友曰く、「Life is Money」(ライフ イズ マネー)。帰ってこなかった分はそいつの「魂」で精算させてもらってるからねぇ。
タルト:皆さんが軽く話していらっしゃるせいで錯覚しますが、今さらりととんでもなく恐ろしい話をしていますよね。
シャオロン:恐ろしくなんかないさ。だって、少なくとも今の君は貧民(プアー)でも愚民(フール)でもないんだからサ。
タルト:そう思っておきます。あぁ、アビス様。わたくしお手洗いに行きたいので、少し席を外しますね。
アビス:りょうかーい♪
タルト:それでは、失礼します。[店を抜けていく]
シャオロン:にしても驚いたなぁ~、アビスくんがノワールくんの護衛だなんて。ねえねえ、ぼくにだけこっそり誰からの依頼なのか教えてくれたりしない?
アビス:ごめんねー、商談が終わるまでは「誰にも」口外するなって言われてるんだ♪
シャオロン:むぅ、ケチんぼめ~。
ライオン:早いところ交渉を終わらせればいいだけさ。どうせ今回もネゴを終わらせた後は少し遊ばせてくれるんだろう?
シャオロン:そのつもりだったよ。それじゃあ、ごもっともなご指摘を受けたとこで早速ご商談を―――、と、行きたいんだけど、その前に。少しいいかな。
ライオン:なんだいシャオロン先生。
シャオロン:実は君に会わせたい人がいるんだよ、ノワールくん。
ライオン:英国に友人はほぼいないはずなんだが。
シャオロン:君も彼もお互いハジメマシテだよ。でも…。ちょっとコチラにも事情があってさ。少し付き合ってほしいんだ。いいかな。
ライオン:アンタが言うのなら、「喜んで」(マイ プレジャー)。
シャオロン:谢谢(シェイシェイ)。あ、ちなみにアビスくんは既知の方だと思うアル。
アビス:えぇ?ボク、英国のお知り合いは大抵殺してるはずなんだけどなあ。
シャオロン:ではでは登場していただこう!出でよ、シトリンく~ん。
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0:暫しの沈黙。誰も現れない。
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ライオン:…誰も来ないが。
シャオロン:あっれれ~…。さっき打ち合わせしたのになあ。呼んだら(登場するっていう話でまとまったはず――――。
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ブラウニー:[セリフに被せて遠くから]きゃああああっっ!!
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アビス:っ、今の声は?
ライオン:向こうからだな…、いったい何があったんだ?
シャオロン:さあ。
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0:そこに。
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シトリン:[走ってきて]―――シャオロン…っ!!
シャオロン:あ、シトリンくん。もう、なんで合図で登場してくれなかったのさ。というかなんでハットもコートも脱がずに走ってきたの?
ライオン:ああ、アンタが先生の言ってた人か?
アビス:んー…?
シトリン:ハットはともかくコートはいつだって脱げないさ。悪かったな。だが、今はそれどころじゃない。来てくれるかシャオロン。あっちで人が死んだ。
ライオン:死んっ…、はぁ?
シャオロン:具体的には~?
シトリン:俺が発見した時には死んでたが、首に何かしらの絞め跡があった。他殺なのは明らかだろう。
シャオロン:…なあんで商談のある日に限ってマーダーしちゃうかなあ。仕方ない。ノワールくんとアビスくんはちょっと待っててくれる?オーナーさんは少し様子を見てくる。
シトリン:っ、待て。…今、アビスと言ったか?
アビス:えーっと、こんばんは?
シトリン:っ…!!…まさか、こんなところで会うなんてな。どういう因果だ…、まったく。
アビス:…んんー、どこかで見覚えがある、ような?
シトリン:当然だ、俺はお前と何度もあったことがある…。だが、今それは後回しだ。とにかく来てくれオーナー。
シャオロン:はあいはい。じゃ、ちょっと待っててね二人とも。
ライオン:わ、わかった…。
:
0:シトリンとシャオロンが早歩きで店を去る。
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ライオン:…まさか、お前のせいか?
アビス:それこそまさか。だってボクずっとここに居たでしょ?
ライオン:お前さんはな。だが、真っ先に一人抜け出したヤツがいただろう。
アビス:…まっさかぁー♪
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0:
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0:場面転換。シトリンに連れられたシャオロン。
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シトリン:死体を発見したのは今のところ一人だけのようだ。まだあまり騒ぎになっていなくてよかった。ここで死人が出たと知れれば、当分客足も遠のいてしまうだろうしな。お前のメンツにも関わる。
シャオロン:そこは心配ご無用だよ。この「偽りの聖域」に居る人は、みんな自分の死を怖がってるだけで、他の人が死んでたってなんも関係ないだろうから。
シトリン:…そうか。さて、着いたぞ。御覧のありさまだ。
シャオロン:あちゃぁ…。って、あれ。この子……。
シトリン:…やはり先ほどまでお前たちと一緒に居た女か。名前はタルト、だったか。
シャオロン:アイヤー。それで、そこにいる女の子…、あ、君確か、うちで働いてる子だよね。もしかして、君が第一発見者かな~?
ブラウニー:は、はい…。そうです…っ。
シトリン:さっきの叫ぶ声もどうやらコイツのものだ。今は腰が抜けたらしくて床にへたり込んでるが。
シャオロン:なるほどぉ、了解アル。…ん、あれ、ちょっと待って~?タルトちゃんが殺されたってことはもしかしてノワールくんとアビスくんも狙われてる可能性が?
シトリン:ある。というか高いだろうな。
シャオロン:…どうやらあの二人も連れてくる必要がありそうなので、鳥渡(チョット)行ってくるアル~。
0:シャオロンがまた戻っていく。
シトリン:…まったく、いつ話しても不気味だ。あいつはどこからどこまでが本音で本気なのか。…さて。そこの女。
ブラウニー:は、はい…っ。ってぇ、なにぃっ、あなたは…っ!
シトリン:そう怯えるな。ったく…。[咳払い]必要かわからんが、一応事情聴取をさせてもらってもいいか。ミス・ブラウニー。
ブラウニー:あ、ハイ、勿論……、って、えっ、なな、なんで私の名前…っ!
シトリン:そこに落ちている免許証だよ。
ブラウニー:え…、あっ!ほんとだ、これ私の…っ!
シトリン:個人情報をまき散らさないうちに懐に仕舞っておけ、「ブラウニー・スチュワート」さん。
ブラウニー:あ、ありがとうござい、ます…っ![免許証を手に取り、シトリンから目をそらすように免許証をじっと見つめる]
シトリン:ところでだが。あなたはさっきまでここの受付をやっていたな。受付嬢というのは大抵持ち場に張り付いて離れない仕事だ。だというのに、なぜあなたは入口から大きく離れたレストランブースのレストルームの近くに居た?
ブラウニー:あ、その、えっと、えっと…、…ば、バックヤードの先輩にききたいことがあって…、こっちまで来て…、その、ついでにおトイレに行って、戻ろうとしたら通路に人が死んでたんです…。
シトリン:…そうか。了解した。
ブラウニー:あ、あの…、私、もしかしなくてもめちゃくちゃ疑われてます、よね…。
シトリン:当たり前だろ。「最も怪しいのは第一発見者」だ。それに何事も疑うことから始めなければ、事件の円満解決は難しいものだよ。
ブラウニー:そ、そう、ですよねぇ…、あは、はは、は…。
シトリン:おっと。悪いがしばらく俺の視界から外れないで貰おうか。逃げられたら困る。
ブラウニー:……ひゃい。
0:シャオロンがライオンとアビスを連れて戻ってくる。
シャオロン:ただいま戻ったよ。
ライオン:うぉ…、…あぁ、なんというか。さっきまで普通に言葉を交わしてた奴が静かに転がってるの見るのは、いつまでも慣れないもんだな…。
アビス:タルトさん…、ホントに死んでる…!
シトリン:さて…、シャオロン。ミス・ブラウニーは白だ。
ブラウニー:…ふぇ?[溜息まじり]
シャオロン:んん?普通ブラウニーは茶色いお菓子だと思うんだけど。あ、粉糖がかかってる?
シトリン:かかってるのはお前の頭が病気にだ。一度解剖してもらうことを勧めておく。
アビス:あ、脳みそが大好きな人ならボク知り合いにいるよ!
ライオン:案山子(かかし)のことだろう?オレなら連絡先も持っている。
アビス:さっすがぁ♪
シャオロン:チョコレートの話だったはずなのに甘くないなあ。オーナー泣いちゃうゾ。なあんて冗談はさておき。もう探ってくれてたんだ~?
シトリン:ああ。殺人犯は別にいて、どこかしらに逃げたと考えるのが妥当だろう。ここからは警察の出番だな。
ブラウニー:え、えーっと、どうやら無罪らしいので私はこのあたりで失礼しまぁす…。
シトリン:逃げる気か?
ブラウニー:ひっ…、いぇ、そんなんじゃ…。
シトリン:勘違いさせたのなら申し訳ないがミス・ブラウニー。あなたはまだグレーだ。先ほどのは、「今のところ」怪しい雰囲気がないというだけのこと。完全に白であることを証明したいのならば、もうしばらく拘束されていてくれ。
ブラウニー:…うぅ。はい…。
シャオロン:…ああ、そうだちょうどいいや。シトリンくん。「君に依頼を出そう。」
シトリン:…依頼だと?
シャオロン:仕事内容は、「タルトを殺(た)べたのは誰か」を解明すること。
ライオン:ハッ、おいおい先生。上手いことかけてるのかもしれないが、ここにいるのは「少女」(アリス)じゃなくて「深淵」(アビス)だぜ。
アビス:黒獅子さん…!握手♪
ライオン:あぁ?…なんでだ?する分には構わないけどよ。
アビス:ふふー…♪否定されたの、初めてだから嬉しくて…♪
シャオロン:確かにここは「奈落に深淵」(アビス トゥ アビス)。でも同時に「楽園」(ワンダーランド)でもあるから。なんとかなるでしょ~。
シトリン:…報酬は?
シャオロン:お金をたくさん。
ブラウニー:ア、アバウトすぎませんか、オーナー…。
シトリン:…俺は“先生”じゃない。解決は厳しいやもしれんぞ。
シャオロン:できるところまででいいよ。だって、ぼくはちょうどここに優秀な「探偵」さんがいたから、事件を解決してもらおうと思っただけだしねぇ。
シトリン:…愉快犯め。
ライオン:探偵ぃ?マジかよ。今の時代本当に探偵っているんだなぁ…、えーっと?
シトリン:シトリンでいい。それと訂正しておくが、俺はとある探偵の「秘書」に過ぎん。
アビス:すごーっ!なんか余計響きがカッコよくなったじゃん!「探偵秘書」、だってー!♪ねえ、アナタもかっこいいと思うよねっ?
ブラウニー:えあ、ハイ、そう、ですねぇ…。
シャオロン:ちょいちょいアビスくん。あんまり距離詰めるとブラウニーちゃん怯えちゃうから、気を付けてね。
アビス:え、なんでー?
シトリン:見てわからないのか、“深淵”。ミス・ブラウニーは明らかに深刻なコミュニケーション障害を抱えている。
ライオン:プッ…、ハハ。えらくバッサリ斬るな、探偵秘書さん?
シトリン:事実を述べたまでだが。
シャオロン:それじゃあシトリンくん。肩慣らしに。なぜブラウニーちゃんがこんな感じなのか、当ててみてよ。
シトリン:演繹的推理(えんえきてきすいり)をしろと?俺はどこぞの名探偵じゃないんだぞ。
アビス:でも舞台は同じ英国だよね~♪英国人(ジョンブル)が誰しも憧れるやつ、やってみてよ~!
ライオン:おそらくここにいる奴の中で英国人はそこのお嬢さん一人だけだと思うがね。
シトリン:…はぁ。まったく。ミス・ブラウニー、こちらに。
ブラウニー:え、でもあの、死体が…。
シャオロン:そんなの後回しで大丈夫だよ~。ミステリの解明よりも今はシトリンくんの凄さをみんなに知らしめるのが先サ!
ブラウニー:…わ、わかりました。
シトリン:[じっと観察して]…制服が新しい。が…、失礼。そこ、上のボタンを一つ掛け違えている。
ブラウニー:っ…!?え、ぁ、本当だ、すみませんお恥ずかしいところを…っ!!
シトリン:謝らずに。つまりはこの仕事に慣れていない。このことから、あなたが【マイザー・ファイナンス】の受付に座ったのは少なくともここ一週間以内であると推測できる。違うか?
ブラウニー:えっ…、あ、あたって、ます。
シトリン:先ほどから腰を良く伸ばしている。ここ一週間以前も同じ体制でワークをする仕事に就いていた。
ブラウニー:っ、あぁ…。
シトリン:目の下にクマがあり、眼精疲労がひどい。眼鏡のレンズもかなり厚そうだ。長時間ブルーライトを眺めていた証拠だろう。ここから紐解くに―――。
:
シトリン:ミス・ブラウニーは最低限しか人と触れあわない仕事…、そう。オフィス・ワーカーだった。なんとか職を失うまいと必死に働いていたが、過労により注意力が落ちた結果ミスを連発。上司に怒鳴られる日々が続いた結果、コミュニケーション障害を発症。最終的に精神的ストレスから元々勤めていた会社を辞め、【マイザー・ファイナンス】に就職、今に至る。…と、言ったところか?
:
ブラウニー:ぁ、その…、ぜんぶ、当たりです…。
シャオロン:はあい、みんな拍手~。これがシトリンくんの実力です。
ライオン:[小さく拍手しつつ]こりゃ凄い。顔と仕草を見るだけでここまでわかるもんかよ。
シャオロン:ま、シトリンくんは元マフィアだからね~。洞察力や胆力がえげつない。つまるに探偵はうってつけの仕事だったのさ。
ブラウニー:マフィ、ア…っ!?
シャオロン:おっとっと。さらに怖がらせちゃったかな。对不起(ドゥイブチー)。
ブラウニー:チャ、チャイニーズは理解不能(ドント アンダースタンド)ですっ…。
アビス:それにしてもなるほどなあ。会話が苦手なのも納得がいったよ。つまりアナタは、もともと「デスクワークインドアオタク」さんだったってワケだ♪
シトリン:なんだその妙に語呂がいい蔑称(べっしょう)は。
ブラウニー:こ、光栄ですぅ…。
シトリン:アンタもアンタで喜ぶなよ…。
アビス:でも、ホントに凄いね♪流石は元【ジュリアス】の№2、“黄金の右腕”ってところかな?
シトリン:…っ。
ライオン:なに…?“黄金の右腕”と言やあ、お嬢が散々話してた…!?
シャオロン:さっすがアビスくん。気づいたんだ?
アビス:うん。最初は見た目が変わりすぎててわからなかったケド、さっきボクのことを深淵って呼んだときに確信を得たよ♪久しぶりだね、“黄金”♪
シトリン:…今はシトリンで通ってる。その名で呼ぶのはやめろ。
ライオン:おい、ちょっと待て。お前さんが“黄金”?だとすれば、ずいぶん昔に忽然と姿を眩ましたって話のアンタが、なんで英国で探偵秘書なんてやってるんだ。
シトリン:ん?なんだ、お前は「俺」のことを知っていたのか、
ライオン:ああ。そりゃあもう良く聞かされるよ。…それにだ。シャオロン先生、アンタはなんでオレを“黄金”と引き合わせようとした?話がまったくもって読めないんだが…。
アビス:後者に関してはライオンさんの都合だからいいけど、前者がボクも気になるなあ…。てっきりどっかで野垂れ死んだものだとばっかり思ってたからさ♪
ブラウニー:さ、さっきから話が殺伐としすぎてませんか…っ!?
シャオロン:ゴメンネ~。でもこればっかりは慣れてもらうしかない。なんたって君以外は全員裏のセカイの住人なもんだからサ。
ブラウニー:そ、うですか…。あはは…。
シャオロン:さあて。それじゃあ答え合わせという名の説明を軽く使用かナ。いいよねシトリンくん。この二人は大丈夫な子たちだし。
シトリン:…お前がそういうなら信用する。好きにしろ。
シャオロン:謝謝(シェイシェイ)。それじゃあ簡潔に、ブラウニーちゃんにもわかりやすいように話すね。
ブラウニー:はい…。
シャオロン:遡ること数年。シトリンくんはイタリアのとある都市にあるマフィア組織、【ジュリアス】の№2だった。だけど、シトリンくんはある日組織のボスと共に忽然と姿を消してしまう。本当にある日突然消えたから、内部は大混乱。そして急遽組織の№3、“鮮血の左腕”こと、ルージュちゃんがボスの座を継ぐことになった。ここまではいいよね?
アビス:二重丸♪ボクも“黄金”とボスが蒸発する数か月前までは組織に居たからね、そこまでは完璧に把握してるよ♪
ブラウニー:み、みんなマフィア…。
シャオロン:あはは~。でも怖がらないで。アビスくんは殺し屋だけどかわいい系だし。
ブラウニー:殺し屋にかわいいも何もなくないですかっ…!?
シャオロン:それに、今のシトリンくんはマフィアや殺し屋から足を洗ってるしね。
ライオン:今は「探偵秘書」なんだろう?パーフェクトな推理を披露されたからそこはわかる。
シャオロン:それじゃあ、なんでマフィア組織の№2は英国で探偵業をするに至ったのか。答えは凡庸(シンプル)。「襲撃されて瀕死の重傷を負ってしまった」からサ。
アビス:襲撃…?どういうこと?
シャオロン:シトリンくん。ハットを取って、「右目」の傷と「右腕」の服をまくって見せてくれる?
シトリン:…ああ。この通りだ。
0:シトリンが言われた通りにすると、右目の眼帯からは痛々しい傷が少し見えており、右腕は――――。
ブラウニー:う、腕が…。
ライオン:へえ。隻眼なのは眼帯で分かってたが、隻腕だったのか。なるほど。確かに「右腕」は死んじまったらしい。
シャオロン:ある日の夜、シトリンくんとボスは何者かに襲われた。複数の暗殺部隊のようだったらしいけど、とにかくいきなり襲撃されて、シトリンくんとボスは大怪我を負った。そんななか、協力者の尽力もあり、命からがら逃げおおせて、辿り着いた先がここ、イタリアから少し離れた歴史の国、イギリスだった。
アビス:キミに協力者かあ…。あはは、昔とはだいぶ変わったんだね?♪
シトリン:余計なお世話だ。
シャオロン:そして、シトリンくんとボスは名前を変え、私立探偵に姿を変え。平穏な暮らしを送るとともに、「自分たちを襲ったのが何者で、何の策略だったのか」を調べていた、というわけなのサ。
ブラウニー:しゅ、執念がすごいですね…。
シトリン:…当たり前だ。俺が腕や目を奪われるだけならまだいいが、ボスも両足を失い、【ジュリアス】を使って成し遂げんとしていた夢も実現が難しくなってしまった。…借りを返すことができなくとも、俺たちはせめて真実を知りたい。…どうせ、パンドラの箱の中身はろくでもないんだろうがな。
ライオン:ハハ、話を聞いてるとホント、噂通りなんだなあ、アンタ。
シトリン:…ずっと疑問に思ってたんだが。お前はどこから俺の話を聞いているんだ?【ジュリアス】はもう瓦解したはずだろう。
ライオン:そりゃもちろん。お前さんらが忽然と消えた後、必死に頑張ってた不器用な「鮮血嬢」(スカーレット・プリンセス)からだよ。
シトリン:“鮮血”だと…ッ!?チッ…!
0:シトリンは拳銃を取り出しライオンの頭につきつける。すかさずアビスも動き。
ブラウニー:ひっ、拳銃っ…。
アビス:[シトリンの首にナイフをかける]その銃をおろしてほしいなあ、“黄金”。ボク、昔の仲間を殺したくないよ。
ライオン:はは。エアガンだとしても人の頭にゼロ距離で撃てば大怪我は必至なんだがねえ。
シトリン:黙れ…ッ!どういうことだシャオロン。あの女は最重要容疑者だと話したはずだ…ッ!
シャオロン:しかと耳にしてるよ。だからこそ、ぼくはその誤解を解くために、きみとノワールくんを引き合わせようとしたのサ。
シトリン:…なんだと?
アビス:ん~?ああ、なるほど。つまり“黄金”は、自分たちを殺そうとした襲撃犯が“鮮血”だと思ってたってことか。だとするなら、ボクからも言わせてもらうよ!それは無理だ。だって“鮮血”、結構メンタル弱いもん♪それに、もし本当に襲ってたとしたらあの子多分仲間に隠さないだろうし♪ライオンさんや案山子(かかし)さんが知らない時点で無実証明みたいなものでしょ♪
ライオン:流石は深淵、お嬢とタッグを組んでただけはあって性格を熟知しているなあ。オレも新参者ではあるが同意見だ。というかシャオロン先生がこう言ってる時点で確定だぜ。
シトリン:…そうか。早とちりだったか。…すまなかった、
ライオン:納得したんならこの玩具(オモチャ)を仕舞ってくれると助かるんだがね。
シトリン:ああ。[銃をしまう]
アビス:じゃあ僕も♪[ナイフをしまう]
ブラウニー:ほ、本職のマフィアさん、怖……っ。
シャオロン:あはは~。まあそう委縮しないで、ブラウニーちゃん。というか今更だけど、ここは怖あい人もたくさん来るから、今のうちに慣れとかないとやってられないよ。
ブラウニー:そう、です、よね……。
シャオロン:大丈夫大丈夫。みんな人相とかも悪いけど、何の罪もない人を傷つけるような輩は大抵出禁だし。それに、一般人がこういうことに巻き込まれるなんてほとんどないんだから、むしろ楽しんでやるー、くらいの気概でいこうよ。
ブラウニー:そんな据わった肝は持ってないです…っ!
シャオロン:ふふ。「中華人的冗談」(チャイニーズジョーク)アルよ。ま、話を戻すとね。今日ぼくが二人を引き合わせようとした理由は二つ。一つは、ノワールくんを通してルージュちゃんに「シトリンくんとボスは死んでないよ」ってことを伝えるため。もう一つは、シトリンくんに「襲撃を実行したのは少なくともルージュちゃんたちじゃないこと」を説明するためだったのさ。
アビス:なるほど~♪で、そこになぜかボクとタルトさんが着いてきて、おまけにタルトさんが殺されちゃったから、状況がこんがらがっちゃってたんだってことかあ。
シャオロン:そういうこと~。なんかこういう言い方するとタルトちゃんが悪かったみたいになるからよくないけどね。
ブラウニー:あの、オーナー。質問があるん、ですけど…、その。オーナーが仕えているのは「社長」だと思うんですけど、えっと…、なんで、みなさんのために動いていたんですか…?
シャオロン:んぁ~、それ聞いちゃう?ま別に隠すことでもないから全然オッケーなんだけど。僕はねえ、みんなを助けているというよりは、シトリンくん個人を助けているんだよ。
アビス:“黄金”だけを?へえー、余計に変だね。「怪物」さん、仲間内以外の個人への貸し借り嫌ってなかったっけ。
シャオロン:うん。基本はぼくもそれを通してるんだけど、シトリンくんには「借り」があるからね~。
シトリン:…俺は貸しを作った覚えもないんだが。
シャオロン:いやいや。「Life is Money」(ライフ イズ マネー)だからね。その分の働きはきちんとさせてもらうよ~。
ブラウニー:お、オーナーが借りを作ったって…、いったい何があったんですか…!?
シャオロン:それはヒミツ。あんまりぼくが弱みを見せたら、盟友怒っちゃうから。
ライオン:なんだ、残念だな。珍しく先生の弱いところが見えると思ったのに。
シャオロン:えぇ、ぼくはいつだってよわよわだよ~。なんたって、ぼくは「J11」(ジャック)だからね。強い方ではあるけど、めちゃくちゃ強いかと言われたらそうでもない。
アビス:それ、絵札とエースじゃない子みんな泣いちゃうよ?
ブラウニー:…え、でもあの「不思議の国」(ワンダーランド)で、女王のタルトを食べた容疑にかかってたのって、え、確か…。
シャオロン:あぁ、嫌な偶然だねえ。でも違うヨ~。なんたって、ぼくは確かに「ジャック」だけど、冠するマークは煌めくダイヤだからねえ。ぼくはいつだって、「愛」(ラバー)よりも「お金」(キャッシュ)が欲しいのさ。
シトリン:もう溢れんばかりに持ってるだろうが。…ったく。さあ。俺とそこの武器商の話もひと段落着いたことだ。依頼の通り、そろそろこの死体に向き合うとしよう。
アビス:お!ついに“黄金”の名推理が見れるんだね、楽しみだなあ♪
シトリン:…だからシトリンと呼べと言っているだろう。
アビス:えー、いいじゃん。過去の栄光がなくなるわけじゃないんだしさ♪
シャオロン:そうそう。会うたびに思うけど、君は本当に「宝石」を冠するのに相応しいと思うよ~。ぼく、友達に宝石職人がいるんだけどさ。彼に君のカラット数を調べさせたいくらいだよ。
アビス:あはは♪ほら、シャオロンさんも君は今でも輝いてるってさ♪
シトリン:…おちょくるのはやめろ。俺の身体は既に、黒く濁ってひび割れている。
アビス:でも、砕けてはないんだろ、“黄金”?ならいいじゃん!キミはまだまだ活躍できるし戦える…♪
シトリン:はっ、そうかもな。だが、俺はもう自分からこの腕を振るうことはない。…今の俺は、ただの探偵秘書だからな。
ブラウニー:は、話を聞いていると今でも「ただの」、で片づけられるような人じゃない気がしますが……。
シトリン:…今一度死体を観察させてもらおう。…首になにかの…、いや、これは革ベルトの絞め跡か。絞殺で間違いないな。…ミス・ブラウニー。この死体は「ここで」死んでたのか?あなたがここを通ろうとしたら既に横たわっていた?
ブラウニー:は、はい。そうです…。
ライオン:なにか発見はあったかい、探偵秘書さん。
シトリン:…ああ。今最も重要なのは「Why done it?」(ホワイ ダニット)。犯人はなぜタルトを殺したのか。…ほとんどの場合殺しには動機が伴う。そこのクソガキみたいに狂ってなければな。
アビス:えー、それボクのことー?ヒドいなあ、ボクだって殺す動機は誰かからの依頼だよ?ま、殺ったあとは良く遊んでたけどね、昔は♪
シャオロン:あはは~、さすが、深淵はやることが違うなあ。
シトリン:…そうだな。シャオロン。少し擦り合わせしたいことがある。少しこちらに来てくれるか?
シャオロン:ん、わかった。じゃ、ちょっと席外すね~。
0:シャオロンとシトリンが離席する。
ライオン:…このタイミングで擦り合わせとか、いったい何をするつもりなんだ、あいつは。
アビス:さあ?でも、なんだか楽しそうだからいいじゃん♪
ライオン:お前さんは愉しければすべて許せるタイプか…。いや、話は聞いてるんだが。本当にそのまんまでびっくりするぜ。
ブラウニー:……。
アビス:あ、ごめんごめん。なんだかハブったみたいになっちゃったね、ブラウニーさん♪
ブラウニー:へ…、ああ、いえ、全然ダイジョブ、ですはい…っ!
ライオン:はは、まあそうカタくなるな。お前さんは運が悪かったのさ。巻き込んじまって、悪かったな。
アビス:でも、まさかちょっと目を離したすきにタルトさんが死んじゃうなんてなあ…。というか、さっきもシャオロンさんに言われたけど、ボクら狙われてる可能性が高いってことだよね?
ライオン:だろうな。というか、だとしたら…、そうだな。ブラウニーのお嬢さん。念のためオレたちから離れとけ。
ブラウニー:え…!?
アビス:そりゃあそうでしょー♪今ボクたちだいぶゆったりしてるし♪もし急に真犯人が現れて襲ってきたら、ライオンさんは護りきれる自信あるけど、あなたまでは手が届かないだろうし♪
ライオン:ま、奴さんの狙いはきっと武器商人であるオレの首だろうからな。巻き添え喰らわない限りは平気だと思うが。アイツらが戻ってきたらそっちの傍に居た方がいい。
ブラウニー:あ…、ありがとうございます。
ライオン:正直、カタギに手を出されるのが一番好きじゃないんでね。
アビス:ひゅぅ、ライオンさんイッケメーン♪
ライオン:なんだそのおちょくりは。…というか、オレを護衛するように言ったお前さんの依頼主はもしや、こうなることを見越していたのか…?
アビス:さあね♪今はチョコレートブラウニーが食べたい気分で考える気になれないや♪
ライオン:おいおい、結局何も食えなかったからって食い意地張ってんのか?
ブラウニー:わ、私食べられるんですか…っ!?
ライオン:なんでお前さんはそうなる。…ったく、命を狙われてるかもしれないってのに、本当に緊張感ねえよなあ、オレたち。
アビス:ホントにね~♪
ブラウニー:ええ。だもんで助かりましたよ。
ライオン:あ?
ブラウニー:[指に針のようなものを挟みライオンに投げようとする]
アビス:しまった、距離が―――ッ!
:
シトリン:ここで焦るようじゃ二流だな。
:
ブラウニー:なッ――――。
シトリン:[いつの間にかブラウニーの背後を取っている]動くな。動いた瞬間お前の頸動脈をぶち抜く。
ブラウニー:…これはまいりました。…完全に場が緩み切った絶好のタイミングだと思ったのですが。…この感じでは、どうやらシトリンさんには随分前から気づかれていましたかね。
シャオロン:探偵秘書は流石に頭がいいってことだよ。ブラウニーちゃん。
ライオン:…ちょ、っと待て?もしかして今、オレ殺されかかったのか?
シトリン:それにすら気づかなかったのか?…お前、切れ者ぶってるくせに案外頭悪いんだな。
ライオン:…反論はできねえな。
アビス:ちなみにボクも全然気づきませんでした♪というかブラウニーさん…、その殺気、今の今までいったいどこに隠してたの?ホントに気づかなかったよ…♪
ブラウニー:気配と殺気を隠すのは昔よく訓練したんです。そうじゃないと「都市伝説」には登れませんからね。
ライオン:「都市伝説」…、か。
ブラウニー:ええ。私…、いいえいいえ。「あたくし」は、存在すらあやふやな御伽噺(フェアリーテイル)、立派な影法師でございます。しっかしお見事です。…いつからあたくしの正体に気づいてたんです?
シトリン:演繹的推理(えんえきてきすいり)を披露しているころには確信に変わってたよ。「お前がブラウニー・スチュワートじゃない」ことなんてな。
アビス:え、でもちょっと待って。ブラウニーさんが暗殺者さんだったことはわかるんだけど…、ブラウニーさんがブラウニーさんじゃないってどういうこと?だって、見た目も仕草も話し方…、は今なんか変わっちゃったけど、ぜんぶ受付に居たブラウニーさんそのものだったじゃん。
ライオン:『鏡合わせの殺人鬼』。
アビス:え、なにそれ。ライオンさん知ってるのー?
ライオン:ああ。イタリアのとあるマフィア組織で噂されてる「都市伝説」だ。とはいっても、正体はこうして実在するマフィアなんだがな。
アビス:…んん?どーゆーこと?
シャオロン:説明しよう。マフィア組織【クラウディウス】には、構成員の中で噂される都市伝説が数説あるんだけどね。もちろん大抵のものは仕事に疲れたマフィアが面白半分で生み出したただのブラックジョークなんだけど…、たまに、「本当」が混じっている。そのうちの一人がこちらの「ブラウニー」ちゃん…、の皮を被った、暗殺者くんってことさ。
ブラウニー:あらまあ。そこまで知られてちゃあもう正体を隠す意味もないですねえ。…ええ。そんじゃま、改めて自己紹介をば。
0:※ここから「ブラウニー」の役表記が「ドッペル」に変わります。
ドッペル:[素顔を明かして]あたくし、【クラウディウス】のマフィアにして生ける都市伝説、変装の達人、もとい『鏡合わせの殺人鬼』、ドッペルと申します。以後…、は、ねえでしょうがまあ、お見知りおきを。
アビス:わぁ、ホントに別人だった!さっきの顔は全部メイクとかマスクってこと!?すごーっ♪
ドッペル:へえ、まあそんなところです。
シャオロン:それで探偵秘書先生。あなたはどうやってドッペルくんがブラウニーちゃんに成り代わってると推理したんだい?
シトリン:…まず最初の違和感は落ちている免許証を指摘した時だ。あの時お前は、「本当だ、私の免許証だ」とわざわざ言った。普通自分の顔が刻まれていれば一発でわかるものを。それが少し引っかかった。
ドッペル:はは、恥ずかしい話です。あの時は超絶慌てふためいてましたもんで…。ボロが出ちまってたようですね。
ライオン:慌ててた…?
ドッペル:ええ。まあ先にネタバレしちまいますと、あたくしはここに「武器商人アルフレッドを殺せ」っていう命で送られてきまして。あの「財貨の怪物」の庭で殺しをするってぇのがとっても怖かったですが、ぱっぱと終わらせて帰ってやろうと思ったんです。…そうしたらたまげましたよ。アルフレッド単品かと思いきや、あの深淵が居やがったんですから。
アビス:え、もしかしてボクって有名人なの?
ドッペル:さあ。多分ですが、知る人ぞ知るってぇ感じです。ウチの組織【クラウディウス】は元々【ジュリアス】と犬猿の仲でしたしね。
シャオロン:なるほどねえ。ちなみにシトリンくん。まだあるかい?
シトリン:ああ…、まあ片手の指がちょうど埋まるくらいには挙げられるが、その中でも大きかったのは、【マイザー・ファイナンス】に入社して一週間も経ってないってのにシャオロンや「財貨の怪物」についてよく知っているようだったことだ。だというのに俺たちがマフィアであることを明かすとお前はそれ以上に怯えた。よっぽど「財貨の怪物」のが恐ろしいだろうに。そこが矛盾として俺の頭に残ってな。さっき俺がシャオロンを連れて擦り合わせをしたのはバックヤードだ。
シャオロン:ね。びっくりしたよ。急に呼ばれたから何かと思ったら、バックヤードに本物のブラウニーちゃんとほかに数人従業員の子が死んでて、身ぐるみが剥がされてたから。ドッペルくんはきっと、ブラウニーちゃんに成り代わることで隙を見てノワールくんを殺って逃げるつもりだったんだろうけど…、そうは問屋が卸さなかったアルね。
ドッペル:…あたくしの敗因は、探偵助手さんを舐めすぎた、ってことでしょうかねぇ。
アビス:まあ片目片腕を失っても“黄金”は“黄金”だからね♪それに、推理力もついて頭が余計よくなってるから、むしろ前よりも手ごわい、まであるかも♪
ドッペル:そいつは末恐ろしい話で…。…さ。この通り。あたくしはもう抵抗しません。完敗ですからね。
ライオン:おいおい、えらく往生際がいいな?
ドッペル:都市伝説としての矜持、みたいなもんですよ。…さあ。煮るなり灼くなり、好きにしてくださいな。
シトリン:…ああ。
シャオロン:うぅん…、惜しいなあ。
ライオン:惜しいだあ?
シャオロン:だって、うちの道化くんから「スゴイスゴイ」って散々言われてたあの『鏡合わせの殺人鬼』だよ?ここで始末しちゃうのはもったいないと思うんだよね。
アビス:その考え方いいねぇ♪シャオロンさんの使えるものは何でも使うスタンス好きだなあ…♪
ライオン:まあバチは当たらないだろうな。
シャオロン:ということで…、ドッペルくん。提案があるんだけど。
ドッペル:…なんです。
シャオロン:ぼくと…、いや。ぼくたち。【マイザー・ファイナンス】と契約を結ばないかい。
ドッペル:…あたくしが、ですか?
シャオロン:うん。君のことを見逃す代わりに、これから君にはぼくたちの駒になってもらいたいんだ。ああ、勿論【クラウディウス】には所属したままでいいよ。人員とか偵察員、暗殺者が必要になったときにちょこっと手伝ってくれるだけでいいからさ。ああ、君の今の雇い主くんからの報復とかは気にしないでいいからね。こっちでぜんぶやっとくからサ~!
ドッペル:…それくらいをこなすだけであたくしを見逃してくれるんです?
シトリン:まあ、今回そこの武器商を殺すためにお前を送り込んだヤツの名前を吐くくらいはしてもらわないと困るがな。俺が言うのもなんだが、シャオロンにつくのはいい選択だと思うぞ。【マイザー・ファイナンス】唯一の良心だからな、こいつは。
シャオロン:ちょっと。盟友やヴェロちゃんのこと悪く言うのは流石のぼくも怒るぞぉ?
ライオン:ハハ。アンタが怒るところは正直見てみてえなあ。きっと翌朝には槍が降ってる。
シャオロン:ぼくのことなんだと思ってるのかな君たち~??
アビス:胡散臭いけど優しいチャイニーズマフィア!
シャオロン:うぅん、その通りかな!あはは~。
ドッペル:……。ふふ、ははは!ああ、なんだか調子狂うなあ。さっきまでの心持ちが嘘みてえだ。……シャオロン先生。本当にいいんですかい?あたくし、一応刺客だったんですが。
シャオロン:もちろん。君がウチの傘下に加わったら、我が盟友もきっと喜ぶだろうしね♪
ドッペル:…そのご厚意、謹んで頂戴します。
シャオロン:やったね~。ドッペルくんゲットだぜ。
シトリン:…なんだか、世界統一でもしそうな勢いで味方増えてないか、【マイザー・ファイナンス】は…。
アビス:いいじゃん。ボクらは恩恵を受ける側なんだし♪
シトリン:まあ、それはそうかもしれないが…。というか、お前はいいのか深淵。仮にもタルトはお前の仲間だったんだろう。
アビス:ボクは平気だよー♪せっかくお友達になれた人が死んじゃったのはちょっと悲しいけど、【マイザー・ファイナンス】の人が良いっていうなら大丈夫だと思うし!
シトリン:「大丈夫」…?
ライオン:そんで。ドッペル。晴れて仲間になったことだし、教えてもらおうか。今回お前さんを送り付けてきたのは、いったいどこのどいつだ?
ドッペル:あたくしの今回の雇い主は、名前を“ロレンス”と言いました。…しっかし、申し訳ない。漠然と「武器商人のアルフレッドを殺せ」としか言われてなかったもんですから、何処に所属しているかまでは全然わからねえんです。
シャオロン:そっかあ。あんまり得るものはなかったかな~…?
ライオン:いや。“ロレンス”って名前が聞けただけでも十分な収穫だ。イタリアに帰ったらお嬢とより深く調べることにしよう。
シャオロン:うんうん。それじゃあこれにて一件落着。ご飯でも食べますか~。
アビス:さんせーい!冷や汗をかいたせいで余計おなか減っちゃったしね♪
シャオロン:ドッペルくんとシトリンくんも来てくれるよネ?
ドッペル:雇い主様が仰るんでしたら、喜んで。
ライオン:はは、もうすっかり懐柔されてるな。流石は変幻自在の殺し屋ってところか。
シトリン:…俺は帰らせてもらう。今日は“先生”が夕食を用意してくれてるからな。
シャオロン:えぇー、ぼくも「先生」なのになあ。
シトリン:屁理屈を言うな。とにかく俺は帰る。…面倒ごとに巻き込まれて俺はくたくただ。
アビス:そう?今回はあんまりアクションもなかったと思うけど。昔の君ならこれくらいへっちゃらだっただろうに…、片腕がなくなって、体力もそれに比例して落ちちゃったカンジ?♪
シトリン:…単に腕が鈍ってるだけだ。
アビス:そっか…。でも安心した♪キミの腕は「鈍ってる」だけで「腐った」わけじゃあないってことだもんね。ま、元から宝石だし、腐敗しないのはアタリマエか♪
シトリン:お前はくだらない言葉遊びが上手くなったな。「鮮血の口紅」(ルージュ・ルージュ)を塗ってもらったからか?
ライオン:お嬢はそこまでジョークは達者じゃないぜ。なぜなら、冗談に聞こえることを本気でやろうとすることが大抵なもんでなぁ…。
シャオロン:ノワールくんも苦労人だなあ~…。
ドッペル:…あのぅ、トパー…、じゃねえ。シトリンさん。本当に帰っちまう前に、伝えておきたいことがあります。
シトリン:なんだ。
ドッペル:…「【ジュリアス】を襲撃した真犯人」について。
シトリン:っ!知っているのかッ!?
ドッペル:はい。…なんたって、「皇帝暗殺」(アレ)を企てたのは紛れもない――――。
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ドッペル:――――「【クラウディウス】の暴君」(ウチのクソボス)ですから。
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0:
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0:場面転換。レストランから出てくるアビス、ライオン、シャオロン。
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ライオン:はぁー、食った食った。ありがとうな、先生。ご馳走になったぜ。
シャオロン:うんうん。君の地元の料理店と遜色ない味だったでしょ~?
ライオン:ああ。デザートまで完璧だった。流石は「エデン」だ。
アビス:あれそういえば、ドッペルさんはどこ行ったの?さっきまで居たのに。
シャオロン:ん~とね、ついさっき、受付の子とか従業員さんがお亡くなりになっちゃって人員が足りないことに気づいちゃって、仕方ないから今日のところはドッペルくんにヘルプで入ってもらうことにしたんだ~。だから今頃、従業員に扮してお仕事をしてるよ。
アビス:…ここのお仕事って、言われてすぐできるものなの?
シャオロン:ぼくは無理だね。だって構造が複雑だし。でも、ドッペルくんはほら、「模倣」が大得意だから。なんとかなるでしょ。
ライオン:よくそのテキトーさで回るよなあ、この楽園は…、ああ、そういや深淵。まだお前さんを送り付けたヤツの名前を聞いてなかったな。
アビス:ボクの依頼主さん?教えられないよ?
ライオン:おいおい、話が違うだろう。明かさないのは「オレと先生の取引が終わるまで」だったろ。…あ?取引だと……?
シャオロン:…あ。
アビス:あはは、ようやく気付いたー?♪
ライオン:…シャオロン先生。
シャオロン:さっきの書類とってくるね。
ライオン:頼む。場所はどうする。
シャオロン:ご飯食べながらは胃が爆発しちゃうし、ぼくの事務室でどうかな。
ライオン:承知した。じゃあそこの前で待ってる。
アビス:ふふ、急にスイッチはいるのおもしろ~♪
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0:
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シトリン:ん…?電話か。(電話を取る)もしもし…。
0:「どうやら散々な目にあったようだな、少年?」
シトリン:…見ていたんですか?
0:「いいや?ただ、そんな気がしただけさ。しかしその口ぶりから察するに、当たっていたらしいな。何かトラブルでもあったか?」
シトリン:…はい。とんだハプニングでした。が、その分収穫も大きかった。俺たちの追い求めているもののしっぽ…、いや。胴体を掴みましたから。
0:「…それは僥倖。よくやったな、シトリン。…いや。忠実なる私の“黄金の右腕”よ。」
シトリン:! …その呼び名は。
0:「ふふ。いやすまない。なんだか懐かしくなってしまってね。だが、たまにはいいだろう?」
シトリン:…あなたが良いと思うならば。
0:「やれやれ。最寄りの駅までマキアートに迎えに行かせた。車に乗ってゆっくり帰っておいで。」
シトリン:承知しました。
0:「うん。今日の夕食は君の大好きなジェノベーゼパスタだ。楽しみにしているといい。」
シトリン:! はい、先生…、いえ。…楽しみにしています。“ボス”。
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0:
:
シトリン:(N)扉を蹴破った先の楽園で、男は推理を披露した。
シトリン:(N)黄金(トパーズ)の輝きが失われても、俺の誇りは砕けない。
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アビス:(N)またもやマーダー、あっそびましょー!♪
:
0:アビスの無邪気な笑い声が響いている……。
:
0:Dusty Gate was closed.