台本概要
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タイトル | 【歪んだ愛】あなたにお別れを言いに来ました |
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作者名 | ゆる男 (@yuruyurumanno11) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 4人用台本(男1、女3) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
───恋愛って…こんなだったっけ?─── 人を好きになれない愛羅。 余命残りわずかの母のために彼氏を作るが、様々な困難に当たってしまう。 どうしたら人を好きになれるか。本当の愛の形とは何か。 それを探し続ける愛羅は今日も、涙を流しながら成長していく 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 少しだけ性的描写、百合要素が混ざってるので苦手な方はご注意ください。 キャラの性別を変えなければ異性のキャラを演じても大丈夫です! 過度なアドリブなどは控えてくださいませ! 野良劇や約束劇で使用する時に X(ツイッター)で呟いて頂けると今後のモチベーションに繋がります!! 582 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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愛羅 | 女 | 296 | 愛羅(あいら) 19歳の女の子。母親の為に彼氏を作るが、好きになれない理由がある。 本当の愛の為に日々何かを探している |
響 | 女 | 126 | 響(ひびき) 年齢は23歳くらい よく落し物をする不思議な人物。 クールだけど抜けてる部分があるのが特徴。 愛羅とは歪んだ愛の道を歩む |
律 | 男 | 98 | 律(りつ) 愛羅の同級生で愛羅の彼氏。 愛羅のことをとことん好きになるが、それは本人には絶対に届かない。 愛羅とは偽りの愛の道を歩む |
絵美 | 女 | 85 | 絵美(えみ) 愛羅のお母さん。 余命1年と言われていたが元気過ぎるくらい明るい。 愛羅には愛の形とは何かを教えながら歩んでいく |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
愛羅:……あれ?……おかしいな
0:
愛羅:……恋愛って…こんなだったっけ?
0:【間】
0:場面転換。
律:手、繋いでいい?
愛羅:あ、うん!いいよ!
律:……ああ〜〜!愛羅と初めて手繋いだ!
愛羅:……うん。嬉しい
律:あったかいね。愛羅
愛羅:…………
律:愛羅?
愛羅:あ、うん!あったかいね
律:えっへへ!よかった!
0:【間】
愛羅:(M)律と付き合って間もない時、初めて手を繋いだ。この感覚の"それ"は19歳にして初めて出来た彼氏だからなのかも。……そう思っていた
律:愛羅は俺が幸せにしてあげるね
愛羅:……ありがとう
0:
愛羅:(M)律は同じ大学の同級生で、告白された時に周りからも性格が優しいから付き合っても損はないって言われて付き合い始めた
愛羅:(M)今まで男性と付き合ってこなかったのも恋愛に興味が湧かなったから。どうして湧かなかったかも自分ではよくわからない
愛羅:(M)好きって何だろ?"愛"って何だろ?そう思っているのは今も変わらず、そろそろ男性と付き合わないと色んな人が心配するから使命感で付き合ってしまった部分もある
愛羅:(M)だって、私の大切な人に、安心して貰いたいから
0:【間】
0:場面転換。病院の中
愛羅:(ノック音)お母さん。入るよ?
絵美:はーい
愛羅:おかあ____
絵美:(被せるように)愛羅ーー!!!
愛羅:う、うわあ!
0:絵美は愛羅に抱きつく
絵美:はあああーー。あなたはいつも可愛いねー!こんなに可愛く育ってもうお母さん嬉しくなっちゃう!いい匂いするし
愛羅:お、お母さん!言ったでしょ?今日はお見舞いだけじゃないって
絵美:関係ないわよー!この溢れる愛を1ミリも惜しみたくないの!ほら、膝の上に座って
愛羅:座らないよ!
絵美:座らないのねえー!可愛いわぁ〜!
律:あ、あのー
絵美:待って。今お取り込み中
愛羅:取り込んでないから!今日は紹介したい人が居るって言ったでしょ?
絵美:あら、そうだったわね
律:あ、あの!愛羅さんとお付き合いさせてもらってます。律です!
絵美:あらー。律くんって言うの?いい名前じゃない
愛羅:うん。ちょっと前から付き合い始めたんだ
絵美:あの愛羅が…彼氏なんて……お母さん泣けてくるわーー!
愛羅:大袈裟だよ。でも、一目でもいいから私の彼氏が見たいって言ってたでしょ?
律:あの!まだ付き合いたてですけど!どんなことがあっても!どんな困難があっても!絶対に愛羅さんを幸せにします!
絵美:ありがとねー。律くん。あなたは頼もしいわ。愛羅。少し律くんと二人でお話してもいい?
愛羅:う、うん
絵美:終わったら連絡するわ
愛羅:わかった
0:愛羅は病室を出ていく
絵美:ふぅー
律:あ、あのー。お話とは?
絵美:あ?
律:え?
絵美:てめえ。正座しろよ
律:え!?
絵美:早く正座しろー!!
律:ひいぃー!は、はい!!
絵美:はあ。愛羅の彼氏だー?なめてんの?
律:滅相もございません!
絵美:母親なめんなよーー!!
律:そんなつもりありませんー!!!
絵美:ったく。なんでこんなやつと…。まあいいわ。愛羅があんたを選んだのなら仕方ない。愛羅の顔に免じて許してあげよう
律:ありがとうございます…
絵美:調子に乗るなよーー!!
律:乗ってないですーー!!
絵美:はあ…。単刀直入に聞くけど、あんた今まで彼女いた事ないでしょ?
律:うっ!な、なんでわかるんですか?
絵美:この歳になると大体わかるのよ。愛羅も今まで彼氏はいた事ないし、そういった意味では立場は同じだし、付き合いやすいんじゃないかしら?
律:そ、そうなんです!だから愛羅とはずっと一緒に居られます
絵美:そんな甘いものじゃないのよ。初めて付き合うってことは、モヤモヤするのも、傷付くのも、泣きたくなるのも。その痛みの全部が慣れないものなの
律:………
絵美:だから……本当にあんたがそれに耐えられるなら、"どんな愛羅でも"受け入れる覚悟を持ちなさい。それが出来なくなったら…私は今すぐ死んであんた呪い殺す
律:は、はい!大丈夫です!絶対に幸せになります!!僕と"愛羅"なら!
0:【間】
0:場面転換。愛羅は病院内のベンチに座っている
愛羅:…………はあ
愛羅:本当に…お母さんの余命はあと1年なのかな?
愛羅:あんなに元気なのに。いまだに信じられないよ
響:………
愛羅:あ、どうぞ。座ってください
響:ども
0:響は愛羅の隣に座る
愛羅:………
響:…………
愛羅:(M)うわあーー。すっごい綺麗な人だなー。ハーフ?なんか顔がくっきりしてる気がするし。いい匂いもする。さすが美人だなー
響:………
愛羅:あっ!
0:目が合うと愛羅は急いで視線を逸らす
響:………あんたはさ
愛羅:………え?
響:………家族が死んだことある?
愛羅:………わ、私に言ってます?
響:あんた以外誰が居るの?
愛羅:あ……そうですよね。私は……家族が死んだことないですよ
響:そう
愛羅:………はい
0:【間】
響:あたしはね。たった今、母親が死んだんだ
愛羅:………え?
響:だから……これからは…一人で生きていかないと
愛羅:…………
響:んじゃ
愛羅:え、ええ!?なんなんですかいきなり!
響:忘れて。もう二度と会うことも無いでしょ?
愛羅:そ、そうですけど!あ、ちょっと!
0:響は立ち去る
愛羅:………なんだったの?……あ!そうだ、お母さんから連絡来てたんだった!
愛羅:……あれ?
0:愛羅はベンチに置いてあるスマホに気付く
愛羅:これって……さっきの人の?……ホーム画面になんか書いてある
響:『このスマホを見つけた人へ。私はよく物を落とすのでこのスマホは保管しといてください。すぐに取りにいくので同じ場所で待っててください。響より』
0:【間】
愛羅:……変わった人だと思ってたけど…本当に変わった人だ……
0:場面転換。絵美の病室
愛羅:お母さんお待たせ!
絵美:あーらー!愛羅ー!!二回目でも可愛いわねぇー!好き好き愛してるわー!今晩は泊まっていきなさい
愛羅:病室で寝泊まりはダメだよ!話は終わったんでしょ?
律:う、うん。終わったよ
絵美:律くんは本当にいい子で一途でお母さんも安心よ!
律:あ、ありがとうございます
愛羅:……そうだね。私たちはもう帰るよ。あと、明日もここに行かなきゃいけなくなったからまた明日お見舞いに行くね
絵美:明日も来てくれるのー!?嬉しいわぁー!もう今すぐ死んじゃおうかしら!
愛羅:縁起でもないこと言わないでよ!じゃあね!また明日
絵美:うん!また明日ねぇー!
0:愛羅と律は病院を出る
律:愛羅のお母さんは本当に愛羅のことが好きなんだね
愛羅:そうなんだよ。ほんと、昔からあんな感じだからたまに恥ずかしくなっちゃうんだ
律:……お、俺だって!負けてないくらい…愛羅の事が好きだよ
愛羅:………うん。ありがとう
律:そ、その……愛羅?
愛羅:なに?
律:キス…してもいい?
愛羅:………キス?
律:うん。俺!愛羅のこと最初で最後の彼女にしたいんだ!だから……この先の初めてを…愛羅にあげたいんだ
愛羅:……うん。わかった
律:……いくよ?
愛羅:………うん
0:律は愛羅に顔を近づける
愛羅:………っ!!
律:あ、愛羅?
0:愛羅は近づく律の顔を避ける
愛羅:……ご、ごめん!
律:……うん。いいよ。愛羅も初めてだし、緊張するよね
愛羅:………
律:ま、まあ!ゆっくりでいいから一緒に進んでいこう!今日はこれで終わり!
愛羅:ごめんね
律:いいって。なんか食べ物でも買って帰ろ?好きな物買ってあげる
愛羅:そ、そんな、悪いよ!
律:いいからいいからー。これからもよろしくね。愛羅
愛羅:……よろしく…お願いします
0:【間】
愛羅:(M)律からのキスを拒んでしまった。それは…なんでだろう……。受け入れることが出来なかった
愛羅:(M)恋愛に興味はなかったけど、キスってどんな感じなんだろうとか、思ったことはあった。でも…いざキスをするってなると……なんでこんなに…嫌な気持ちになるんだろう?
愛羅:(M)ただ罪悪感が募っていく。律は本当に一途に私を好きでいてくれてるのに。やっぱり……。私は"あの日から"変わってしまったんだと思う
0:【間】
0:次の日
愛羅:(ノック音)お母さん
絵美:いらっしゃーーい!!愛羅ーー!!
愛羅:もう、病院の中は静かにしてよ
絵美:可愛い娘の前で落ち着いていられないでしょ!
愛羅:わかったわかった。じっとしてて。今日はあんまり時間ないからね?
絵美:……ふふっ。愛羅
愛羅:なに?
絵美:……っ
0:絵美は愛羅を抱きしめる
愛羅:……どうしたの?お母さん
絵美:ただ愛おしい娘を抱きしめたくなったのよ
愛羅:いつものお母さんじゃん
絵美:うん。だから気にしないで
愛羅:変なの
絵美:……愛羅?
愛羅:なに?
絵美:今あなたは…幸せ?
愛羅:………なんで?
絵美:彼氏も出来たし。愛羅の中で変わった事でもあったのかなって
愛羅:……幸せかどうかは…わかんないよ
絵美:そう?
愛羅:お母さんがずっと生きてくれれば幸せかもね
絵美:まったくー!可愛いこと言わないの!
愛羅:本当だよ?
絵美:うん。ありがとう。でもね…。お母さんも愛羅に色々迷惑を掛けちゃったから、それでも愛羅が幸せならそれでいいかなって思ってるだけ。お母さんが居なくても…幸せって言えるようにしなさい
愛羅:……難しいよ…。そんなこと
絵美:愛羅なら出来るわ
0:【間】
0:場面転換。病院のベンチにて
愛羅:昨日の人は確かこの辺にいたよなー
響:ねえ、あんた
愛羅:あ、いたいた
響:昨日この辺でパンダのぬいぐるみ落としたんだけど見てない?
愛羅:もっと大事なもの落としてましたよ!?
響:もしかして…トランプ落とした?
愛羅:そんなレベルの低い落し物じゃないです!ほら!
響:………ん?
愛羅:スマホ。ホーム画面にご丁寧に書いてありましたよね?届けに来ましたよ
響:おー。ありがとう
愛羅:どういたしまして。じゃあ。私はこれで
響:あんた、パフェ好き?
愛羅:ん?どうして?
響:あたしが奢ってあげるよ。お礼にね
愛羅:………ありがとうございます
0:場面転換。ファミレスにて
響:ん〜!うまい!
愛羅:自分が一番美味しそうに食べてどうするんですか。……パクッ。……美味しい!
響:ここのファミレスのパフェは美味いんだよ。
愛羅:でも、本当にいいんですか?奢ってもらって
響:うん。そのために今日はお金下ろしてきたからね。……あれ?財布どこだ?
愛羅:………
響:おー!パンダのぬいぐるみあったじゃん!でも財布はー。えーと?
愛羅:……もしかして?
響:落とした
愛羅:何しとんじゃああああ!!
0:愛羅が支払うことになった
愛羅:全くもう!結局私が払うことになったじゃないですか!
響:いやー。ごめんごめん
愛羅:物を落とす癖、治した方がいいですよ!
響:治らないから困ってんだよねー
愛羅:信じられないです!財布はどうするんですか?
響:どうにかなるっしょ
愛羅:軽すぎますよ
響:まあでも、今日はありがとう。気分も晴れたよ
愛羅:……っ。
響:ほら、昨日母親が死んだからさ
愛羅:そ、そういえば言ってましたね。なんかあっさりしてるから忘れてました
響:まあね。いつか死ぬってわかってたし
愛羅:そういうもんなんですか
響:あんた、名前なんていうの?
愛羅:あ、私は愛羅です
響:愛羅ね。私は響。また今度お礼させてよ
愛羅:いえいえ、お気遣いなく
響:いいの。ライン交換しよっか
愛羅:わかりました
0:愛羅と響はラインを交換する
響:よし!じゃあまたねー。またラインする
愛羅:はい。……ちょっと!響さん!?スマホ落としてますよ!
響:あ、ごめんごめん
愛羅:……ふっ!あっはは!
響:なんで笑ってんの?
愛羅:なんだか面白くて
響:あんた変わってるね
愛羅:響さんには言われたくないですよー
響:ふーん。じゃあ、またねー
愛羅:はい!こちらこそ…ありがとうございます
0:【間】
愛羅:(M)顔が整っている響さんは、笑うと可愛かった。よく物を落とす不思議な響さんと話してみて、私は少しだけ笑うことが出来た
愛羅:(M)思わず笑ってしまう。大学の友達ともそんなに笑わないのに、こんなに楽しい気分になるのは久しぶりだった
0:ある日のこと
律:さあ!今日は付き合って1ヶ月記念日だよー!たっくさん食べてー!
愛羅:う、うん!ありがとう
律:本当は高級ディナーとか連れていきたかったんだけど予算が無くて…!イタリアンのファミレスでごめんね!
愛羅:い、いいよそんな事しなくて!大学生だしさ
律:でもお祝いはしたいじゃないかー!
愛羅:こういうのってさ、私たちの記念日なんだから二人でお祝いするものでしょ?だから奢るとかも無しにしよ?
律:あ、愛羅…!君って人は本当にいい子だね!俺はこんな愛羅と付き合えて幸せだよ!!
愛羅:ありがとう
律:そうだ!俺さ、愛羅に手紙を書いてきたんだ
愛羅:手紙?
律:うん。今ここで読んでもいい?
愛羅:うん
律:愛羅へ。1ヶ月間付き合ってくれてありがとう!俺は愛羅のクールな一面だったり、それでも内心優しいところが大好きです!2ヶ月3ヶ月!100年後も一緒に居られたら嬉しいなー!なんて思ってます!これからもよろしくね
愛羅:……素敵だね
律:ほんとに!?ありがとう!じゃあこの手紙は愛羅にあげるから
愛羅:ありがとう
律:ずっと一緒に居ようね!好きだよ、愛羅!
愛羅:……うん
0:【間】
愛羅:(M)こんなにも自分を好いてくれるんだから、この人と付き合えばきっと幸せになれる。それは何となく思うんだけど、また罪悪感が出てくる。律の熱量と私の熱量は比例してしまっているから
愛羅:(M)クールな一面…。私って人からそんな風に思われてたんだ
愛羅:(M)確かに律やお母さんみたいに明るい性格ではないし、何か楽しいことがない限りはテンションも低いし。……でも、昔から笑ったりすると…怒られてたからなー
愛羅:(M)子供の頃のトラウマとか、嫌な気持ちは、心が成長しても同じ思いはしたくないと自分に蓋をしてしまうことがある。それは19歳になって少しずつわかってきた事だった。
愛羅:(M)痛みは消えてもあの日の傷は消えない。ずっとずっと…心の傷として残り続けるものだから
0:【間】
律:今日はありがとう。愛羅
愛羅:うん。こちらこそありがとね
律:……愛羅。キスしてもいい?
愛羅:………
律:嫌だ?
愛羅:嫌じゃない!……嫌じゃ…ないよ
律:じゃあ……いくよ?
愛羅:………うん
0:律は愛羅に顔を近づける
愛羅:…………っ!!
0:愛羅はまた律の顔を避けてしまう
律:愛羅…どうして!?
愛羅:ご、ごめん
律:俺たち…もう付き合って1ヶ月経つんだよ?周りの人もそのくらい時期でキスくらいするよ?
愛羅:ごめん律!やっぱ……出来ないよ
律:どうして!?
愛羅:………怖い
律:………え?……なんでよ。俺の事好きじゃないの?
愛羅:………好きって……どうすれば…好きなの?
律:………本気で言ってる?
愛羅:わかんない……。好きっていう感情が…わかんない
律:……じゃあ…。わかった。愛羅が好きって言ってくれるまで俺は離れないよ
愛羅:………どうしてあなたはそこまでするの!?こんな彼女嫌でしょ!?
律:俺は!愛羅とずっと一緒に居るって決めたから…
愛羅:…………私…律に何もしてあげられないかもしれないんだよ?
律:いいんだよ……。愛羅は何も悪くないから。とりあえず、今日は帰ろう。また落ち着いた時に話してくれればいいからさ
愛羅:うん……ありがとう
0:【間】
愛羅:(M)こんな気持ちになるなら知らない方がよかった。なんて言葉はどこかで聞いたことがある。それはまさに今の事なのかもしれない。こんなにいい人なのに……こんなに思ってくれるのに……私は人を好きになれない
愛羅:(M)こんな気持ちのまま……付き合っててもいいのかな…。それすらもわからないまま。この気持ちを背中に引きずることになるんだろう
愛羅:(M)律と駅で別れて家に向かう。お母さんは入院してるから、基本は一人でいるんだけど……。私は自分が嫌い。こんな自分と過ごすのはもっと嫌い
0:【間】
0:帰り道のこと
愛羅:……あれ?これ……トランプ?………なんでこんな所にトランプが落ちてるの?
愛羅:これってもしかして……響さんの?
0:愛羅は響に電話を掛ける
愛羅:もしもし?響さん?
響:どうしたの?
愛羅:トランプ落ちてましたよ
響:え、嘘。どこに?
愛羅:私の家の近くです
響:じゃあそれ持ち帰ってまた会う時に渡してよ
愛羅:何回も持ち帰らないです。取りに来てください
響:めんどくさい
愛羅:じゃあ処分します
響:だめだめー!大事なやつなんだから
愛羅:じゃあ来てください。後で住所送っとくんで
響:はーい
0:【間】
響:お邪魔しまーす
愛羅:こんばんは。遅い時間にすみません
響:いいんだよー。寝る時間いつも遅いしね。トランプどこ?
愛羅:これ
響:おー!これこれー!よかったー!
愛羅:そんなに大事なものなんですか?
響:当たり前だよ。一人でババ抜き出来ないじゃん
愛羅:一人で何してるんですか!?
響:やるでしょ?一人で麻雀とか
愛羅:………。あっはは!全然理解出来ないですよー!
響:あれー?そうなの?
愛羅:はい。相変わらず面白いです。響さん
響:まあいいや、拾ってくれてありがとうねー
愛羅:………
0:
愛羅:(M)どうして……響さんの前では笑うことが出来るんだろう?…どうして……家に来てもらおうと思ったんだろう?
愛羅:(M)どうして……一人になりたくないからって……響さんを………
0:
愛羅:あ、あの!響さん
響:ん?
愛羅:良かったら……一緒にご飯食べませんか?
響:いいの?
愛羅:はい
響:じゃあコンビニでアイス買おう!食後に食べると思考が新幹線になるよ
愛羅:どういう意味ですか?
響:行こ
愛羅:……はい
0:
愛羅:(M)響さんが差し出した手を私は思わず握りしめる。律と手を繋いだ時、こんなに嬉しかったっけ?それはわからないけど…。私は今、寂しい気持ちも、辛い気持ちも、少し楽になった気がした
愛羅:(M)気持ちが軽くなるなら…響さんに話してみたい。……今までの私を
0:【間】
響:ふぅー!ご馳走様でしたー
愛羅:食器はそこに置いといてください
響:ありがと〜
愛羅:響さん、痩せてるのにいっぱい食べるんですね
響:普通じゃないの?
愛羅:普通じゃないです
響:はあー!お腹もいっぱいになったしそろそろ……
愛羅:……帰っちゃうんですか?
響:え?だってもう夜の9時だよ?
愛羅:そ、そうですけど
響:……ん?
愛羅:……私の話聞いて貰えますか?
響:なに?
愛羅:……実は私、彼氏が居るんです
響:………そうなんだ
愛羅:……私の事、本当に大事にしてくれて、ずっと好きで居るって言ってくれます。でも、1ヶ月が経っても…。私は彼を好きになれないんです
響:どうして?
愛羅:きっと…私にもわかってる。昔暮らしていた父親が原因だと思うんです
響:父親?
愛羅:はい。今は離婚してお母さんだけなんですけど…。お酒に酔った父親が毎回私に暴力を振るってきたんです。アザや傷が治っても…。そのトラウマはずっと残り続けるんだって
響:…………
愛羅:だからきっと……。そのトラウマで男の人が怖くなったのかも
響:じゃあなんで彼氏を作ったの?
愛羅:お母さんが…。余命1年って言われてるんです。父親とのトラブルでストレスが溜まってしまって、脳の病気になったから
愛羅:そんなお母さんは、死ぬ前に私の彼氏を一目見たいって言ってたんです。だから…優しくて真面目そうな彼を選んだんです
響:なるほどね
愛羅:でも……彼を好きになれない私は……最低なのかなって
響:そんな事ないよ。愛羅は優しいじゃん
愛羅:優しくないです
響:優しいよ
愛羅:優しくなんかないですー!響さんに私の何がわかるんですか!
響:いや、あんたが勝手に話してきたんだよね?
愛羅:そうでした。すいません
響:でも、愛羅は優しい
愛羅:どうしてそう言えるんですか?
響:お母さんのために苦手なことも頑張ろうとしてるからだよ。あたしだったら嫌なことは嫌で押し通すしね
愛羅:………そうなんですか
響:それに、あたしも男は嫌いだから。気持ちはわかるよ
愛羅:……そうなんですか?
響:うん。ろくでもない男しか……知らないから。あたしも母親だけが味方でいてくれたけどもう死んだしね
愛羅:響さんはお母さんが居なくなっても寂しくならないんですか?
響:……なるよ
愛羅:なるんじゃないですか
響:愛羅は今…辛いんでしょ?
愛羅:そうですね……。でも、響さんが居ると不思議と辛い気持ちが薄れていくんです
響:………
愛羅:だから……。っ!
0:響は愛羅を抱きしめる
響:今度はあたしの番ね
愛羅:……はい
響:あたしも…彼氏が居たんだ。結構前に
愛羅:はい
響:でも、モラハラしてきたり、お金を貸して欲しいって言われたり、浮気されたり。挙句の果てに言われた言葉がね
愛羅:………
響:お前のこと、好きじゃないって
愛羅:…………っ
響:その言葉であたしは捨てられたんだって思った。それから男が嫌いになった。あたしの母親もその事をずっと心配してたよ。好きじゃないって言われたら…この先の愛なんて無くなるだろうって
響:でも…愛羅はそれとは違うよね。好きになれないだけであって、人を思う気持ちはちゃんとある。そんな愛羅は本当に素敵な人だと思うよ
愛羅:……ありがとうございます。
響:優しい愛羅が好き
愛羅:何言ってるんですか…。……私も捨てられた響さんのこと、拾ってあげます
響:なに?あたしのこと好きなの?
愛羅:どうでしょう?確かめてみないとわからないです。……だからお願いがあります
響:……なに?
愛羅:私とキスしてください
響:……いいの?
愛羅:はい。私が人を好きになれるなら…。確かめてみたいんです
響:あたし、自分のこと好きになってくれる人には容赦ないよ?
愛羅:きっと大丈夫です……
響:じゃあ、安心して……優しくするから
愛羅:………はい
0:愛羅と響はキスをする
0:【間】
愛羅:(M)どうして……どうして涙が出るんだろう……
愛羅:(M)それは…やっとわかってしまったからだと思う
0:
愛羅:……うっ……ううぅぅ……
響:……愛羅?
愛羅:……好きです。響さん
響:……彼氏さんは大丈夫なの?
愛羅:………わかりません…。けど、響さんとなら…愛の形を見つけられそうです
響:………ありがとう。あたしも…愛羅のこと大事にするよ
0:【間】
愛羅:(M)私は人を好きになれないと思っていた。……でも、見つけてしまった。本当に好きな気持ちと、キスをした時の幸福感を
愛羅:(M)誰にも理解されないかもしれない…。きっと律は納得してくれないかもしれない。……でも、これが私にとっての愛の形だった
愛羅:(M)それからも私と響さんは何度も会った。何度も会って、何度も好きと言い合って、何度もキスをした。こんなに気持ちいいと知ってしまったらもう止めることは出来なかった
愛羅:(M)お母さん。お願いだから、悲しい顔はしないでね。私は本当の愛を見つけて、今、幸せになろうとしてるから
0:【間】
愛羅:(M)きっと私は最低なことをしている。それはわかっているけど、それでも止められない。私は律に…男の人は好きになれないって伝えられてないから
愛羅:(M)それを伝えると…きっと別れを告げられてしまうから。そうなるとお母さんが悲しんで律を恨んだりするに決まってる
律:愛羅…キスしてもいい?
愛羅:……うん
0:
愛羅:(M)律とキスをする時は必ず目をつむる。そうしないと律とはキスが出来ない。響さんを想像しながらキスをすれば、怖くないってことに気付いたから。全部…全部響さんだと思えばいいんだ
0:場面転換。響の家
響:おいで…愛羅
愛羅:はい……。
0:
愛羅:(M)響さんの綺麗な瞳に吸い込まれるように、私は唇を重ねる。熱くなる体を擦り合わせて、何度も吐息を漏らす。響さんと過ごす夜は、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように逃げられない。そして…癖になる
0:【間】
響:愛羅…もし、あたしとの関係が嫌になったらいつでも言ってほしい
愛羅:……え?
響:あたしはもちろん、愛羅のそばにいる。けど…もしそうなった時……言ってほしいんだ
愛羅:どうしてそんな事言うの?
響:この関係が……間違ってるからだよ
愛羅:……間違ってるよ。……でも、人を好きになるのに…正解なんてないでしょ?
響:それはもちろんそうだけど…。あたしと愛羅がこのまま一緒に居ても、結婚も出来ないし子供だって出来ない
愛羅:それでもいい!!……それでも…いいじゃん。響さんは……嫌なの?
響:………あたしは嫌じゃないよ。…けど、愛羅の方がまだ若いんだ。この間違った関係に耐えられなくなる時が来るはず。……だから、その時は言って欲しい
愛羅:………そんなの絶対来ない
響:じゃあ…お母さんにはなんて説明するの?
愛羅:……それは
響:ほら、迷ってる
愛羅:…………
響:どっちでもいいんだよ。愛羅にとって、あたしか、お母さんか、それとも彼氏か。愛の形ってそれぞれだからね。そうなった時は…ちゃんと言ってね
愛羅:………わかったよ
0:そして月日が経つ
律:今日で半年記念だね。愛羅
愛羅:……そうだね
律:いつまでも、変わらず、好きだよ!
愛羅:………ありがとう
律:もしさ……仮に、愛羅が俺を嫌いになったとしても、俺はそれでもいいと思ってるんだ。俺は愛羅が幸せならそれでいいからね
愛羅:……嫌いになんて…ならないよ
0:
愛羅:(M)私はもう…嘘だらけになってしまう。律にも、お母さんにも。……それでも…誰も傷つかないならこのままでもいいと思っていた。そんなある日の事…。
0:【間】
愛羅:お、おかあ…さん?
絵美:どうしたの?
愛羅:……いや、なんでもない
絵美:そう
愛羅:さ、寒くなってきたね!暖かいお茶でも飲む?そろそろ冷える時期だし
絵美:愛羅
愛羅:……ん?
絵美:あなたが中学生の頃、どうしても欲しいスニーカーがあって、でも我慢した時、あなたはなんて言ったか覚えてる?
愛羅:……急になに?
絵美:暑くなってきたからアイス食べたいって
愛羅:な、何の話?
絵美:愛羅は我慢する時に体温の話をするの。だから今でも何か我慢してることは無い?
愛羅:……ない
絵美:そう。じゃあお母さんが生きてるうちに教えてね
愛羅:………何言ってんの?まだ死なないでしょ?
絵美:ええ、まだ死なないわよ?でも、お母さんが居なくなっても律くんが居るし大丈夫かなーって思ってるよ
愛羅:………仮に何か我慢してるとしたら…涙が止まらなくなりそうだし、言わないよ
絵美:涙を拭うのはハンカチでもティッシュでもないわ
絵美:人の涙は人の心で拭うものよ
愛羅:………お母さん
絵美:さーて。お母さんの代わりに愛羅の涙を拭ってくれる人は誰なんだろー?
愛羅:もう!また死ぬみたいなこと言わないでよ!
絵美:まだ生きてるわよぉーー!愛羅ー!!私の可愛い娘ー!
愛羅:いいから!じゃあね。学校行ってくる
絵美:いってらっしゃい
0:愛羅は病室を出る
絵美:……愛羅が二十歳になるまで…あと4ヶ月
絵美:最近寝付きが悪いのはね、眠りそうになると鐘の音が頭の中を響かせているからなの
絵美:あそこで手招きしてるのは誰だろう?ってよく見ると。あれは愛羅のおばあちゃんね
絵美:あっちの世界に行っちゃいけない。だから、あんまり眠らないようにしてるのよ
絵美:愛羅と一日でも長く居られるように
0:【間】
0:ある日の事
律:体調はどうですか?お母さん
絵美:めちゃくちゃ絶好調よ!今日は愛羅と一緒じゃないのね
律:愛羅は友達と遊びに行ってます。なんでも、親友が出来たとかなんとか
絵美:あら、そんな話私は聞いたことないわね
律:愛羅は意外と秘密主義みたいな所ありますからねー
絵美:秘密主義じゃないわよ。愛羅は自分の気持ちが時々わからなくなるだけ
律:そうなんですか?
絵美:ええ、どうしたらいいかわからない時、あの子は口にするのを止めるの。それが最適だと思ってるから。けど、誰かがそれを受け止めてくれるならその気持ちは軽くなるはず
律:………そうですね
絵美:律くん。あんたはどんな愛羅でも受け止めるって言ったわね
律:はい!もちろんです!
絵美:じゃあ…。愛羅の昔話でもしましょうか…。その上で愛羅をどうするか決めてちょうだい
律:……わかりました
0:【間】
0:場面転換。愛羅と響
響:……愛羅…可愛いよ
愛羅:……響さんも…。綺麗だよ
0:二人は唇を重ねる
響:あたし達は…間違ってることをするんだ
愛羅:……うん。響さんとなら…例え歪んだ愛情でも……受け入れたい
律:………愛羅?
愛羅:………っ!!
響:…………
律:……何してんの?
愛羅:………律
0:
0:
律:…………ど、どういうこと!?なんで…女の人と……キスなんか
愛羅:…………
響:……愛羅の彼氏?
律:………そうですけど。あなたは愛羅のなんなんですか!?
愛羅:ひ、響さんは友達だよ!
律:友達同士でこんなことするわけないだろ!!
愛羅:………
響:……愛羅。いいよ
愛羅:響さん……
響:……ごめんなさい。愛羅の彼氏さん
律:………
愛羅:わ、私からも謝る!ごめんなさい!律
律:………いつからこんなことになった?
愛羅:………半年くらい前から
律:……じゃあ、俺よりもこの人と先にキスをしてたってこと?
愛羅:……うん
律:………ふざけんなよー!!
愛羅:……っ!!
律:どうしてそんなことが出来るんだよ!!愛羅!!
響:……ねえ、愛羅の彼氏
律:……なんですか
響:………あんた、最低だよ
律:………あなたにだけは言われたくない。俺のどこが最低なんだ!
響:愛羅はね。男の人が怖いんだよ。なのに、そんなに怒鳴ったらもっと怖がるでしょ
律:……だって…。こんな状況で怒らない人なんて居ないだろ。お母さんからも聞いたよ。愛羅はもしかしたら人を好きになれないかもしれないって
律:でも!俺だったら大丈夫とか!俺のことは好きになってくれるとか!そう考えたかったのに……なんだよ…。なんなんだよ!これは!!
愛羅:………ごめんね。律
律:………愛羅の本当の気持ちを教えて欲しい
愛羅:……え
律:俺のこと、好きかどうか…。
愛羅:…………私は…
響:………
愛羅:……私は……響さんの事が好き
律:………ああ。そうか。そうだよね。俺じゃなくてこの人と先にキスをするくらいだしね
愛羅:………ごめんなさい
律:もう会わない方がいいなら、そうするよ。愛羅の本当の好きな人と一緒にいた方がいい。……それでも愛羅の気持ちが変わるのなら……俺はまた愛羅からの連絡を待ってる
愛羅:………律
律:俺はどんな愛羅でも受け入れる……。けど、愛羅も俺の事を受け止めてほしいんだ。ただそれだけ。俺はいつでも愛羅の味方だからさ
愛羅:…………
律:………さようなら。愛羅
愛羅:…………うっ……ううぅぅ〜〜
0:律は家を出る
愛羅:うぅぅ〜〜……
響:愛羅、ごめんね
愛羅:ううん。謝るのは私の方だよ。迷惑かけてごめんなさい
響:あたしは大丈夫。でも、これでわかったでしょ
愛羅:……なに?
響:あたしと一緒に居ると、こうやって理解されないまま、不幸になるんだ
愛羅:……響さん
響:……あたしは愛羅となら一緒に不幸になれる。……だから、愛羅も答えを決めて
愛羅:………答え?
響:あたしと一緒に、間違った愛に進むか、普通の男の人と、正しい愛に進むか
愛羅:…………
響:……あたしはそれを受け入れるから、その答えがわかった時、また連絡して
愛羅:……うん。わかった
0:響も家を出る
0:【間】
愛羅:(M)私が泣くのなんて…わがままだ。ずっと好きでいてくれる彼氏も居て、ずっと守ってくれたお母さんが居て、ずっと愛をくれた響さんが居るのに…
愛羅:(M)辛くて、息苦しくて、それだけで泣いてる私は…ずるい女だ
0:【間】
律:(M)愛羅は大学の同級生で、クラスの中でも目立たない存在だった。そんな愛羅を初めて見たのは大学の中にある図書室。彼女はある一冊の本を見つめていた
愛羅:………心と体の仕組み…
律:(M)どうしてこんな本を読んでいたのかはわからない。でもその悲しげな表情に俺は一気に彼女の事を意識するようになった。高校時代は、好きという感情はなかったけど、彼女だけは好きだった
0:
律:好きです!付き合ってください!
愛羅:………私?
律:は、はい!あ、名前は?
愛羅:順番がデタラメだよ。私は愛羅
律:愛羅さん!僕は律です!付き合ってください!
愛羅:…………ごめん
律:………ダメ…ですか?
愛羅:いや、少し考えさせて
律:………わかった
0:
律:(M)それから愛羅は条件付きで告白を受け入れてくれた。その条件は愛羅のお母さんの余命が少ないこと。それで、なかなか時間が作れないこと。それでも俺はよかった。お母さんを大事にすることはいい事だし、素敵な事だから
律:(M)でも……女同士で…それも、好きな人が居るだなんて……想像もつかなかった。どんな愛羅でも受け入れるって言ったけど、なかなか受け入れられなかった
律:(M)俺にとって…愛羅はこんな人。そのどれもが全部外れていた。そんな自分も受け入れられなかった
0:【間】
響:(M)あたしは愛羅に比べると、人から与えられた愛情が少ないと感じる。男なんてどうしようも無いくらい浮ついた言葉しか言わないから。この男の為に流した涙なんて一粒もなかった
響:(M)それに比べて愛羅は落ちた物を拾ってそれを届けてくれる。好きになれない男にも、涙を流して謝れる。人を思う心を持っているちゃんとした子だ
響:(M)そんな子が。あたしを好きになる。それは間違ってるし、あってはならない事だし、将来を考えるともうここで留まった方がいいに決まってる
響:(M)それでも私は…寂しい夜も、辛い夜も、愛羅が居れば乗り越えられる。だから……あたしはあたしのために。愛羅を受け入れるしかないんだ
0:【間】
0:場面転換。病室では
愛羅:……お母さん?
絵美:あら、今日も可愛いわね。愛羅
愛羅:……どうして…呼吸器なんか付けてるの?
絵美:今日も可愛い愛羅を見納めるためよ
愛羅:………やめてよ
絵美:……愛羅。こっちにいらっしゃい
愛羅:………っ
0:絵美は愛羅を抱きしめる
絵美:ん〜!大きくなったわね
愛羅:改まって言わないでよ
絵美:子供の頃から可愛かったのに、どうしてこんなに可愛く居てくれるのかしら?
愛羅:それはお母さんが溺愛してるからでしょ?
絵美:ええ、そうね。私が愛したのは愛羅だけよ
愛羅:………ありがとう
絵美:………愛羅。何か言いたいことはある
愛羅:………言いたいこと?
絵美:律くんから聞いたけど、すごく仲のいい友達が出来たみたいじゃない
愛羅:……うん。そうだね
絵美:その子が居てくれた方が幸せ?
愛羅:……うん。その人のこと…大好きだし
絵美:よかったじゃない
愛羅:………お母さん。…あのね
絵美:ん?どうしたの?
愛羅:私…男の人を好きになれなくなっちゃったの
絵美:………そう。
愛羅:……だから。律のこと……好きじゃないんだ
絵美:……そうなのね
愛羅:………だから…うっ………ううぅぅぅ〜〜
絵美:辛かったのね。自分の気持ちに嘘をついて、律くんと一緒に居るのが
愛羅:……うん
絵美:……でもね、愛羅。愛の形は何も男女だけの関係じゃないのよ
愛羅:………え?
絵美:その愛に偽りがあってもいい。その先にあるものに幸せの価値を付けるのよ
愛羅:……幸せの価値…?
絵美:……そう。子供を生むこと
愛羅:…………っ
絵美:お母さんも、ろくでもない男に人生を棒に振ったけど、それもまた人生だからね。そこに愛が無いのかもしれない
絵美:それでも…自分のお腹の中から生まれてくる子供は、間違いなく愛の形なの。あなたを生んでよかったと…心から思える。あなたを愛してる事に誇りを持てるの
愛羅:………お母さん…
絵美:愛羅に幸せになって欲しいだけ。ただそれだけだから、自分が一番幸せになれる道に進みなさい
愛羅:………ううぅぅ〜〜!お母さーん!!
絵美:ありがとう。愛してるわ愛羅。あなたは私の愛の形よ
0:【間】
律:(M)俺が愛羅にあげたもの。それは数え切れないくらいのプレゼントと、溢れるばかりの愛情だった。でも、愛羅にとってそれは必要のないものだったのかもしれない
響:(M)この愛情が正しいかなんて本人たちが決めること。その先にあるものが何なのかはあたしにはわからない。あたしの母親は、男なんて信じるなしか言わなかったから
律:(M)それでも、どんな結末が待ってても、俺は愛羅を待っている
響:(M)覚悟はもう出来ている。愛羅の幸せをただ願うだけ
0:【間】
0:場面転換。愛羅の家では
愛羅:……部屋にパンダのぬいぐるみが落ちてる。しかも3個くらい
愛羅:だらしがないなー。私が何回拾っても落とすし、本当に変わった人ね
0:
愛羅:(M)私が一番幸せになれる道。その道に進むには、やっぱり"あの人"しか居ないと思った
愛羅:(M)響さんは間違った愛か、正しい愛か。そう言っていたけど、私にとってはそれは違う。本物の愛か、偽りの愛か
愛羅:(M)その先には私にとっての本当の愛の形に出会える。お母さんのその言葉を信じて、どんな私でも受け入れてくれると信じて、私は"あの人"に電話をかける
0:
愛羅:もしもし。……あの…。……あなたに、会いたいです
0:
愛羅:(M)パンダのぬいぐるみと、忘れていった財布など、数え切れないほどの落し物を持って、私はあの人に会いに行く
愛羅:(M)肌寒い秋の空の下で、今日も何かをポロポロと落としながら歩いていく姿を見て私は…また笑みが零れてしまう。やっぱり私はこの人が好き
愛羅:(M)……だからこそ、私は本物の愛を捨てる。その先にある愛の形を見つけるために。お母さんの言葉のように、お母さんみたいになれるように。
0:
愛羅:来てくれてありがとう。……今日はね
0:
愛羅:あなたに……お別れを言いに来ました
響:……じゃあ、なんであんたが泣くの?愛羅
0:End
愛羅:……あれ?……おかしいな
0:
愛羅:……恋愛って…こんなだったっけ?
0:【間】
0:場面転換。
律:手、繋いでいい?
愛羅:あ、うん!いいよ!
律:……ああ〜〜!愛羅と初めて手繋いだ!
愛羅:……うん。嬉しい
律:あったかいね。愛羅
愛羅:…………
律:愛羅?
愛羅:あ、うん!あったかいね
律:えっへへ!よかった!
0:【間】
愛羅:(M)律と付き合って間もない時、初めて手を繋いだ。この感覚の"それ"は19歳にして初めて出来た彼氏だからなのかも。……そう思っていた
律:愛羅は俺が幸せにしてあげるね
愛羅:……ありがとう
0:
愛羅:(M)律は同じ大学の同級生で、告白された時に周りからも性格が優しいから付き合っても損はないって言われて付き合い始めた
愛羅:(M)今まで男性と付き合ってこなかったのも恋愛に興味が湧かなったから。どうして湧かなかったかも自分ではよくわからない
愛羅:(M)好きって何だろ?"愛"って何だろ?そう思っているのは今も変わらず、そろそろ男性と付き合わないと色んな人が心配するから使命感で付き合ってしまった部分もある
愛羅:(M)だって、私の大切な人に、安心して貰いたいから
0:【間】
0:場面転換。病院の中
愛羅:(ノック音)お母さん。入るよ?
絵美:はーい
愛羅:おかあ____
絵美:(被せるように)愛羅ーー!!!
愛羅:う、うわあ!
0:絵美は愛羅に抱きつく
絵美:はあああーー。あなたはいつも可愛いねー!こんなに可愛く育ってもうお母さん嬉しくなっちゃう!いい匂いするし
愛羅:お、お母さん!言ったでしょ?今日はお見舞いだけじゃないって
絵美:関係ないわよー!この溢れる愛を1ミリも惜しみたくないの!ほら、膝の上に座って
愛羅:座らないよ!
絵美:座らないのねえー!可愛いわぁ〜!
律:あ、あのー
絵美:待って。今お取り込み中
愛羅:取り込んでないから!今日は紹介したい人が居るって言ったでしょ?
絵美:あら、そうだったわね
律:あ、あの!愛羅さんとお付き合いさせてもらってます。律です!
絵美:あらー。律くんって言うの?いい名前じゃない
愛羅:うん。ちょっと前から付き合い始めたんだ
絵美:あの愛羅が…彼氏なんて……お母さん泣けてくるわーー!
愛羅:大袈裟だよ。でも、一目でもいいから私の彼氏が見たいって言ってたでしょ?
律:あの!まだ付き合いたてですけど!どんなことがあっても!どんな困難があっても!絶対に愛羅さんを幸せにします!
絵美:ありがとねー。律くん。あなたは頼もしいわ。愛羅。少し律くんと二人でお話してもいい?
愛羅:う、うん
絵美:終わったら連絡するわ
愛羅:わかった
0:愛羅は病室を出ていく
絵美:ふぅー
律:あ、あのー。お話とは?
絵美:あ?
律:え?
絵美:てめえ。正座しろよ
律:え!?
絵美:早く正座しろー!!
律:ひいぃー!は、はい!!
絵美:はあ。愛羅の彼氏だー?なめてんの?
律:滅相もございません!
絵美:母親なめんなよーー!!
律:そんなつもりありませんー!!!
絵美:ったく。なんでこんなやつと…。まあいいわ。愛羅があんたを選んだのなら仕方ない。愛羅の顔に免じて許してあげよう
律:ありがとうございます…
絵美:調子に乗るなよーー!!
律:乗ってないですーー!!
絵美:はあ…。単刀直入に聞くけど、あんた今まで彼女いた事ないでしょ?
律:うっ!な、なんでわかるんですか?
絵美:この歳になると大体わかるのよ。愛羅も今まで彼氏はいた事ないし、そういった意味では立場は同じだし、付き合いやすいんじゃないかしら?
律:そ、そうなんです!だから愛羅とはずっと一緒に居られます
絵美:そんな甘いものじゃないのよ。初めて付き合うってことは、モヤモヤするのも、傷付くのも、泣きたくなるのも。その痛みの全部が慣れないものなの
律:………
絵美:だから……本当にあんたがそれに耐えられるなら、"どんな愛羅でも"受け入れる覚悟を持ちなさい。それが出来なくなったら…私は今すぐ死んであんた呪い殺す
律:は、はい!大丈夫です!絶対に幸せになります!!僕と"愛羅"なら!
0:【間】
0:場面転換。愛羅は病院内のベンチに座っている
愛羅:…………はあ
愛羅:本当に…お母さんの余命はあと1年なのかな?
愛羅:あんなに元気なのに。いまだに信じられないよ
響:………
愛羅:あ、どうぞ。座ってください
響:ども
0:響は愛羅の隣に座る
愛羅:………
響:…………
愛羅:(M)うわあーー。すっごい綺麗な人だなー。ハーフ?なんか顔がくっきりしてる気がするし。いい匂いもする。さすが美人だなー
響:………
愛羅:あっ!
0:目が合うと愛羅は急いで視線を逸らす
響:………あんたはさ
愛羅:………え?
響:………家族が死んだことある?
愛羅:………わ、私に言ってます?
響:あんた以外誰が居るの?
愛羅:あ……そうですよね。私は……家族が死んだことないですよ
響:そう
愛羅:………はい
0:【間】
響:あたしはね。たった今、母親が死んだんだ
愛羅:………え?
響:だから……これからは…一人で生きていかないと
愛羅:…………
響:んじゃ
愛羅:え、ええ!?なんなんですかいきなり!
響:忘れて。もう二度と会うことも無いでしょ?
愛羅:そ、そうですけど!あ、ちょっと!
0:響は立ち去る
愛羅:………なんだったの?……あ!そうだ、お母さんから連絡来てたんだった!
愛羅:……あれ?
0:愛羅はベンチに置いてあるスマホに気付く
愛羅:これって……さっきの人の?……ホーム画面になんか書いてある
響:『このスマホを見つけた人へ。私はよく物を落とすのでこのスマホは保管しといてください。すぐに取りにいくので同じ場所で待っててください。響より』
0:【間】
愛羅:……変わった人だと思ってたけど…本当に変わった人だ……
0:場面転換。絵美の病室
愛羅:お母さんお待たせ!
絵美:あーらー!愛羅ー!!二回目でも可愛いわねぇー!好き好き愛してるわー!今晩は泊まっていきなさい
愛羅:病室で寝泊まりはダメだよ!話は終わったんでしょ?
律:う、うん。終わったよ
絵美:律くんは本当にいい子で一途でお母さんも安心よ!
律:あ、ありがとうございます
愛羅:……そうだね。私たちはもう帰るよ。あと、明日もここに行かなきゃいけなくなったからまた明日お見舞いに行くね
絵美:明日も来てくれるのー!?嬉しいわぁー!もう今すぐ死んじゃおうかしら!
愛羅:縁起でもないこと言わないでよ!じゃあね!また明日
絵美:うん!また明日ねぇー!
0:愛羅と律は病院を出る
律:愛羅のお母さんは本当に愛羅のことが好きなんだね
愛羅:そうなんだよ。ほんと、昔からあんな感じだからたまに恥ずかしくなっちゃうんだ
律:……お、俺だって!負けてないくらい…愛羅の事が好きだよ
愛羅:………うん。ありがとう
律:そ、その……愛羅?
愛羅:なに?
律:キス…してもいい?
愛羅:………キス?
律:うん。俺!愛羅のこと最初で最後の彼女にしたいんだ!だから……この先の初めてを…愛羅にあげたいんだ
愛羅:……うん。わかった
律:……いくよ?
愛羅:………うん
0:律は愛羅に顔を近づける
愛羅:………っ!!
律:あ、愛羅?
0:愛羅は近づく律の顔を避ける
愛羅:……ご、ごめん!
律:……うん。いいよ。愛羅も初めてだし、緊張するよね
愛羅:………
律:ま、まあ!ゆっくりでいいから一緒に進んでいこう!今日はこれで終わり!
愛羅:ごめんね
律:いいって。なんか食べ物でも買って帰ろ?好きな物買ってあげる
愛羅:そ、そんな、悪いよ!
律:いいからいいからー。これからもよろしくね。愛羅
愛羅:……よろしく…お願いします
0:【間】
愛羅:(M)律からのキスを拒んでしまった。それは…なんでだろう……。受け入れることが出来なかった
愛羅:(M)恋愛に興味はなかったけど、キスってどんな感じなんだろうとか、思ったことはあった。でも…いざキスをするってなると……なんでこんなに…嫌な気持ちになるんだろう?
愛羅:(M)ただ罪悪感が募っていく。律は本当に一途に私を好きでいてくれてるのに。やっぱり……。私は"あの日から"変わってしまったんだと思う
0:【間】
0:次の日
愛羅:(ノック音)お母さん
絵美:いらっしゃーーい!!愛羅ーー!!
愛羅:もう、病院の中は静かにしてよ
絵美:可愛い娘の前で落ち着いていられないでしょ!
愛羅:わかったわかった。じっとしてて。今日はあんまり時間ないからね?
絵美:……ふふっ。愛羅
愛羅:なに?
絵美:……っ
0:絵美は愛羅を抱きしめる
愛羅:……どうしたの?お母さん
絵美:ただ愛おしい娘を抱きしめたくなったのよ
愛羅:いつものお母さんじゃん
絵美:うん。だから気にしないで
愛羅:変なの
絵美:……愛羅?
愛羅:なに?
絵美:今あなたは…幸せ?
愛羅:………なんで?
絵美:彼氏も出来たし。愛羅の中で変わった事でもあったのかなって
愛羅:……幸せかどうかは…わかんないよ
絵美:そう?
愛羅:お母さんがずっと生きてくれれば幸せかもね
絵美:まったくー!可愛いこと言わないの!
愛羅:本当だよ?
絵美:うん。ありがとう。でもね…。お母さんも愛羅に色々迷惑を掛けちゃったから、それでも愛羅が幸せならそれでいいかなって思ってるだけ。お母さんが居なくても…幸せって言えるようにしなさい
愛羅:……難しいよ…。そんなこと
絵美:愛羅なら出来るわ
0:【間】
0:場面転換。病院のベンチにて
愛羅:昨日の人は確かこの辺にいたよなー
響:ねえ、あんた
愛羅:あ、いたいた
響:昨日この辺でパンダのぬいぐるみ落としたんだけど見てない?
愛羅:もっと大事なもの落としてましたよ!?
響:もしかして…トランプ落とした?
愛羅:そんなレベルの低い落し物じゃないです!ほら!
響:………ん?
愛羅:スマホ。ホーム画面にご丁寧に書いてありましたよね?届けに来ましたよ
響:おー。ありがとう
愛羅:どういたしまして。じゃあ。私はこれで
響:あんた、パフェ好き?
愛羅:ん?どうして?
響:あたしが奢ってあげるよ。お礼にね
愛羅:………ありがとうございます
0:場面転換。ファミレスにて
響:ん〜!うまい!
愛羅:自分が一番美味しそうに食べてどうするんですか。……パクッ。……美味しい!
響:ここのファミレスのパフェは美味いんだよ。
愛羅:でも、本当にいいんですか?奢ってもらって
響:うん。そのために今日はお金下ろしてきたからね。……あれ?財布どこだ?
愛羅:………
響:おー!パンダのぬいぐるみあったじゃん!でも財布はー。えーと?
愛羅:……もしかして?
響:落とした
愛羅:何しとんじゃああああ!!
0:愛羅が支払うことになった
愛羅:全くもう!結局私が払うことになったじゃないですか!
響:いやー。ごめんごめん
愛羅:物を落とす癖、治した方がいいですよ!
響:治らないから困ってんだよねー
愛羅:信じられないです!財布はどうするんですか?
響:どうにかなるっしょ
愛羅:軽すぎますよ
響:まあでも、今日はありがとう。気分も晴れたよ
愛羅:……っ。
響:ほら、昨日母親が死んだからさ
愛羅:そ、そういえば言ってましたね。なんかあっさりしてるから忘れてました
響:まあね。いつか死ぬってわかってたし
愛羅:そういうもんなんですか
響:あんた、名前なんていうの?
愛羅:あ、私は愛羅です
響:愛羅ね。私は響。また今度お礼させてよ
愛羅:いえいえ、お気遣いなく
響:いいの。ライン交換しよっか
愛羅:わかりました
0:愛羅と響はラインを交換する
響:よし!じゃあまたねー。またラインする
愛羅:はい。……ちょっと!響さん!?スマホ落としてますよ!
響:あ、ごめんごめん
愛羅:……ふっ!あっはは!
響:なんで笑ってんの?
愛羅:なんだか面白くて
響:あんた変わってるね
愛羅:響さんには言われたくないですよー
響:ふーん。じゃあ、またねー
愛羅:はい!こちらこそ…ありがとうございます
0:【間】
愛羅:(M)顔が整っている響さんは、笑うと可愛かった。よく物を落とす不思議な響さんと話してみて、私は少しだけ笑うことが出来た
愛羅:(M)思わず笑ってしまう。大学の友達ともそんなに笑わないのに、こんなに楽しい気分になるのは久しぶりだった
0:ある日のこと
律:さあ!今日は付き合って1ヶ月記念日だよー!たっくさん食べてー!
愛羅:う、うん!ありがとう
律:本当は高級ディナーとか連れていきたかったんだけど予算が無くて…!イタリアンのファミレスでごめんね!
愛羅:い、いいよそんな事しなくて!大学生だしさ
律:でもお祝いはしたいじゃないかー!
愛羅:こういうのってさ、私たちの記念日なんだから二人でお祝いするものでしょ?だから奢るとかも無しにしよ?
律:あ、愛羅…!君って人は本当にいい子だね!俺はこんな愛羅と付き合えて幸せだよ!!
愛羅:ありがとう
律:そうだ!俺さ、愛羅に手紙を書いてきたんだ
愛羅:手紙?
律:うん。今ここで読んでもいい?
愛羅:うん
律:愛羅へ。1ヶ月間付き合ってくれてありがとう!俺は愛羅のクールな一面だったり、それでも内心優しいところが大好きです!2ヶ月3ヶ月!100年後も一緒に居られたら嬉しいなー!なんて思ってます!これからもよろしくね
愛羅:……素敵だね
律:ほんとに!?ありがとう!じゃあこの手紙は愛羅にあげるから
愛羅:ありがとう
律:ずっと一緒に居ようね!好きだよ、愛羅!
愛羅:……うん
0:【間】
愛羅:(M)こんなにも自分を好いてくれるんだから、この人と付き合えばきっと幸せになれる。それは何となく思うんだけど、また罪悪感が出てくる。律の熱量と私の熱量は比例してしまっているから
愛羅:(M)クールな一面…。私って人からそんな風に思われてたんだ
愛羅:(M)確かに律やお母さんみたいに明るい性格ではないし、何か楽しいことがない限りはテンションも低いし。……でも、昔から笑ったりすると…怒られてたからなー
愛羅:(M)子供の頃のトラウマとか、嫌な気持ちは、心が成長しても同じ思いはしたくないと自分に蓋をしてしまうことがある。それは19歳になって少しずつわかってきた事だった。
愛羅:(M)痛みは消えてもあの日の傷は消えない。ずっとずっと…心の傷として残り続けるものだから
0:【間】
律:今日はありがとう。愛羅
愛羅:うん。こちらこそありがとね
律:……愛羅。キスしてもいい?
愛羅:………
律:嫌だ?
愛羅:嫌じゃない!……嫌じゃ…ないよ
律:じゃあ……いくよ?
愛羅:………うん
0:律は愛羅に顔を近づける
愛羅:…………っ!!
0:愛羅はまた律の顔を避けてしまう
律:愛羅…どうして!?
愛羅:ご、ごめん
律:俺たち…もう付き合って1ヶ月経つんだよ?周りの人もそのくらい時期でキスくらいするよ?
愛羅:ごめん律!やっぱ……出来ないよ
律:どうして!?
愛羅:………怖い
律:………え?……なんでよ。俺の事好きじゃないの?
愛羅:………好きって……どうすれば…好きなの?
律:………本気で言ってる?
愛羅:わかんない……。好きっていう感情が…わかんない
律:……じゃあ…。わかった。愛羅が好きって言ってくれるまで俺は離れないよ
愛羅:………どうしてあなたはそこまでするの!?こんな彼女嫌でしょ!?
律:俺は!愛羅とずっと一緒に居るって決めたから…
愛羅:…………私…律に何もしてあげられないかもしれないんだよ?
律:いいんだよ……。愛羅は何も悪くないから。とりあえず、今日は帰ろう。また落ち着いた時に話してくれればいいからさ
愛羅:うん……ありがとう
0:【間】
愛羅:(M)こんな気持ちになるなら知らない方がよかった。なんて言葉はどこかで聞いたことがある。それはまさに今の事なのかもしれない。こんなにいい人なのに……こんなに思ってくれるのに……私は人を好きになれない
愛羅:(M)こんな気持ちのまま……付き合っててもいいのかな…。それすらもわからないまま。この気持ちを背中に引きずることになるんだろう
愛羅:(M)律と駅で別れて家に向かう。お母さんは入院してるから、基本は一人でいるんだけど……。私は自分が嫌い。こんな自分と過ごすのはもっと嫌い
0:【間】
0:帰り道のこと
愛羅:……あれ?これ……トランプ?………なんでこんな所にトランプが落ちてるの?
愛羅:これってもしかして……響さんの?
0:愛羅は響に電話を掛ける
愛羅:もしもし?響さん?
響:どうしたの?
愛羅:トランプ落ちてましたよ
響:え、嘘。どこに?
愛羅:私の家の近くです
響:じゃあそれ持ち帰ってまた会う時に渡してよ
愛羅:何回も持ち帰らないです。取りに来てください
響:めんどくさい
愛羅:じゃあ処分します
響:だめだめー!大事なやつなんだから
愛羅:じゃあ来てください。後で住所送っとくんで
響:はーい
0:【間】
響:お邪魔しまーす
愛羅:こんばんは。遅い時間にすみません
響:いいんだよー。寝る時間いつも遅いしね。トランプどこ?
愛羅:これ
響:おー!これこれー!よかったー!
愛羅:そんなに大事なものなんですか?
響:当たり前だよ。一人でババ抜き出来ないじゃん
愛羅:一人で何してるんですか!?
響:やるでしょ?一人で麻雀とか
愛羅:………。あっはは!全然理解出来ないですよー!
響:あれー?そうなの?
愛羅:はい。相変わらず面白いです。響さん
響:まあいいや、拾ってくれてありがとうねー
愛羅:………
0:
愛羅:(M)どうして……響さんの前では笑うことが出来るんだろう?…どうして……家に来てもらおうと思ったんだろう?
愛羅:(M)どうして……一人になりたくないからって……響さんを………
0:
愛羅:あ、あの!響さん
響:ん?
愛羅:良かったら……一緒にご飯食べませんか?
響:いいの?
愛羅:はい
響:じゃあコンビニでアイス買おう!食後に食べると思考が新幹線になるよ
愛羅:どういう意味ですか?
響:行こ
愛羅:……はい
0:
愛羅:(M)響さんが差し出した手を私は思わず握りしめる。律と手を繋いだ時、こんなに嬉しかったっけ?それはわからないけど…。私は今、寂しい気持ちも、辛い気持ちも、少し楽になった気がした
愛羅:(M)気持ちが軽くなるなら…響さんに話してみたい。……今までの私を
0:【間】
響:ふぅー!ご馳走様でしたー
愛羅:食器はそこに置いといてください
響:ありがと〜
愛羅:響さん、痩せてるのにいっぱい食べるんですね
響:普通じゃないの?
愛羅:普通じゃないです
響:はあー!お腹もいっぱいになったしそろそろ……
愛羅:……帰っちゃうんですか?
響:え?だってもう夜の9時だよ?
愛羅:そ、そうですけど
響:……ん?
愛羅:……私の話聞いて貰えますか?
響:なに?
愛羅:……実は私、彼氏が居るんです
響:………そうなんだ
愛羅:……私の事、本当に大事にしてくれて、ずっと好きで居るって言ってくれます。でも、1ヶ月が経っても…。私は彼を好きになれないんです
響:どうして?
愛羅:きっと…私にもわかってる。昔暮らしていた父親が原因だと思うんです
響:父親?
愛羅:はい。今は離婚してお母さんだけなんですけど…。お酒に酔った父親が毎回私に暴力を振るってきたんです。アザや傷が治っても…。そのトラウマはずっと残り続けるんだって
響:…………
愛羅:だからきっと……。そのトラウマで男の人が怖くなったのかも
響:じゃあなんで彼氏を作ったの?
愛羅:お母さんが…。余命1年って言われてるんです。父親とのトラブルでストレスが溜まってしまって、脳の病気になったから
愛羅:そんなお母さんは、死ぬ前に私の彼氏を一目見たいって言ってたんです。だから…優しくて真面目そうな彼を選んだんです
響:なるほどね
愛羅:でも……彼を好きになれない私は……最低なのかなって
響:そんな事ないよ。愛羅は優しいじゃん
愛羅:優しくないです
響:優しいよ
愛羅:優しくなんかないですー!響さんに私の何がわかるんですか!
響:いや、あんたが勝手に話してきたんだよね?
愛羅:そうでした。すいません
響:でも、愛羅は優しい
愛羅:どうしてそう言えるんですか?
響:お母さんのために苦手なことも頑張ろうとしてるからだよ。あたしだったら嫌なことは嫌で押し通すしね
愛羅:………そうなんですか
響:それに、あたしも男は嫌いだから。気持ちはわかるよ
愛羅:……そうなんですか?
響:うん。ろくでもない男しか……知らないから。あたしも母親だけが味方でいてくれたけどもう死んだしね
愛羅:響さんはお母さんが居なくなっても寂しくならないんですか?
響:……なるよ
愛羅:なるんじゃないですか
響:愛羅は今…辛いんでしょ?
愛羅:そうですね……。でも、響さんが居ると不思議と辛い気持ちが薄れていくんです
響:………
愛羅:だから……。っ!
0:響は愛羅を抱きしめる
響:今度はあたしの番ね
愛羅:……はい
響:あたしも…彼氏が居たんだ。結構前に
愛羅:はい
響:でも、モラハラしてきたり、お金を貸して欲しいって言われたり、浮気されたり。挙句の果てに言われた言葉がね
愛羅:………
響:お前のこと、好きじゃないって
愛羅:…………っ
響:その言葉であたしは捨てられたんだって思った。それから男が嫌いになった。あたしの母親もその事をずっと心配してたよ。好きじゃないって言われたら…この先の愛なんて無くなるだろうって
響:でも…愛羅はそれとは違うよね。好きになれないだけであって、人を思う気持ちはちゃんとある。そんな愛羅は本当に素敵な人だと思うよ
愛羅:……ありがとうございます。
響:優しい愛羅が好き
愛羅:何言ってるんですか…。……私も捨てられた響さんのこと、拾ってあげます
響:なに?あたしのこと好きなの?
愛羅:どうでしょう?確かめてみないとわからないです。……だからお願いがあります
響:……なに?
愛羅:私とキスしてください
響:……いいの?
愛羅:はい。私が人を好きになれるなら…。確かめてみたいんです
響:あたし、自分のこと好きになってくれる人には容赦ないよ?
愛羅:きっと大丈夫です……
響:じゃあ、安心して……優しくするから
愛羅:………はい
0:愛羅と響はキスをする
0:【間】
愛羅:(M)どうして……どうして涙が出るんだろう……
愛羅:(M)それは…やっとわかってしまったからだと思う
0:
愛羅:……うっ……ううぅぅ……
響:……愛羅?
愛羅:……好きです。響さん
響:……彼氏さんは大丈夫なの?
愛羅:………わかりません…。けど、響さんとなら…愛の形を見つけられそうです
響:………ありがとう。あたしも…愛羅のこと大事にするよ
0:【間】
愛羅:(M)私は人を好きになれないと思っていた。……でも、見つけてしまった。本当に好きな気持ちと、キスをした時の幸福感を
愛羅:(M)誰にも理解されないかもしれない…。きっと律は納得してくれないかもしれない。……でも、これが私にとっての愛の形だった
愛羅:(M)それからも私と響さんは何度も会った。何度も会って、何度も好きと言い合って、何度もキスをした。こんなに気持ちいいと知ってしまったらもう止めることは出来なかった
愛羅:(M)お母さん。お願いだから、悲しい顔はしないでね。私は本当の愛を見つけて、今、幸せになろうとしてるから
0:【間】
愛羅:(M)きっと私は最低なことをしている。それはわかっているけど、それでも止められない。私は律に…男の人は好きになれないって伝えられてないから
愛羅:(M)それを伝えると…きっと別れを告げられてしまうから。そうなるとお母さんが悲しんで律を恨んだりするに決まってる
律:愛羅…キスしてもいい?
愛羅:……うん
0:
愛羅:(M)律とキスをする時は必ず目をつむる。そうしないと律とはキスが出来ない。響さんを想像しながらキスをすれば、怖くないってことに気付いたから。全部…全部響さんだと思えばいいんだ
0:場面転換。響の家
響:おいで…愛羅
愛羅:はい……。
0:
愛羅:(M)響さんの綺麗な瞳に吸い込まれるように、私は唇を重ねる。熱くなる体を擦り合わせて、何度も吐息を漏らす。響さんと過ごす夜は、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように逃げられない。そして…癖になる
0:【間】
響:愛羅…もし、あたしとの関係が嫌になったらいつでも言ってほしい
愛羅:……え?
響:あたしはもちろん、愛羅のそばにいる。けど…もしそうなった時……言ってほしいんだ
愛羅:どうしてそんな事言うの?
響:この関係が……間違ってるからだよ
愛羅:……間違ってるよ。……でも、人を好きになるのに…正解なんてないでしょ?
響:それはもちろんそうだけど…。あたしと愛羅がこのまま一緒に居ても、結婚も出来ないし子供だって出来ない
愛羅:それでもいい!!……それでも…いいじゃん。響さんは……嫌なの?
響:………あたしは嫌じゃないよ。…けど、愛羅の方がまだ若いんだ。この間違った関係に耐えられなくなる時が来るはず。……だから、その時は言って欲しい
愛羅:………そんなの絶対来ない
響:じゃあ…お母さんにはなんて説明するの?
愛羅:……それは
響:ほら、迷ってる
愛羅:…………
響:どっちでもいいんだよ。愛羅にとって、あたしか、お母さんか、それとも彼氏か。愛の形ってそれぞれだからね。そうなった時は…ちゃんと言ってね
愛羅:………わかったよ
0:そして月日が経つ
律:今日で半年記念だね。愛羅
愛羅:……そうだね
律:いつまでも、変わらず、好きだよ!
愛羅:………ありがとう
律:もしさ……仮に、愛羅が俺を嫌いになったとしても、俺はそれでもいいと思ってるんだ。俺は愛羅が幸せならそれでいいからね
愛羅:……嫌いになんて…ならないよ
0:
愛羅:(M)私はもう…嘘だらけになってしまう。律にも、お母さんにも。……それでも…誰も傷つかないならこのままでもいいと思っていた。そんなある日の事…。
0:【間】
愛羅:お、おかあ…さん?
絵美:どうしたの?
愛羅:……いや、なんでもない
絵美:そう
愛羅:さ、寒くなってきたね!暖かいお茶でも飲む?そろそろ冷える時期だし
絵美:愛羅
愛羅:……ん?
絵美:あなたが中学生の頃、どうしても欲しいスニーカーがあって、でも我慢した時、あなたはなんて言ったか覚えてる?
愛羅:……急になに?
絵美:暑くなってきたからアイス食べたいって
愛羅:な、何の話?
絵美:愛羅は我慢する時に体温の話をするの。だから今でも何か我慢してることは無い?
愛羅:……ない
絵美:そう。じゃあお母さんが生きてるうちに教えてね
愛羅:………何言ってんの?まだ死なないでしょ?
絵美:ええ、まだ死なないわよ?でも、お母さんが居なくなっても律くんが居るし大丈夫かなーって思ってるよ
愛羅:………仮に何か我慢してるとしたら…涙が止まらなくなりそうだし、言わないよ
絵美:涙を拭うのはハンカチでもティッシュでもないわ
絵美:人の涙は人の心で拭うものよ
愛羅:………お母さん
絵美:さーて。お母さんの代わりに愛羅の涙を拭ってくれる人は誰なんだろー?
愛羅:もう!また死ぬみたいなこと言わないでよ!
絵美:まだ生きてるわよぉーー!愛羅ー!!私の可愛い娘ー!
愛羅:いいから!じゃあね。学校行ってくる
絵美:いってらっしゃい
0:愛羅は病室を出る
絵美:……愛羅が二十歳になるまで…あと4ヶ月
絵美:最近寝付きが悪いのはね、眠りそうになると鐘の音が頭の中を響かせているからなの
絵美:あそこで手招きしてるのは誰だろう?ってよく見ると。あれは愛羅のおばあちゃんね
絵美:あっちの世界に行っちゃいけない。だから、あんまり眠らないようにしてるのよ
絵美:愛羅と一日でも長く居られるように
0:【間】
0:ある日の事
律:体調はどうですか?お母さん
絵美:めちゃくちゃ絶好調よ!今日は愛羅と一緒じゃないのね
律:愛羅は友達と遊びに行ってます。なんでも、親友が出来たとかなんとか
絵美:あら、そんな話私は聞いたことないわね
律:愛羅は意外と秘密主義みたいな所ありますからねー
絵美:秘密主義じゃないわよ。愛羅は自分の気持ちが時々わからなくなるだけ
律:そうなんですか?
絵美:ええ、どうしたらいいかわからない時、あの子は口にするのを止めるの。それが最適だと思ってるから。けど、誰かがそれを受け止めてくれるならその気持ちは軽くなるはず
律:………そうですね
絵美:律くん。あんたはどんな愛羅でも受け止めるって言ったわね
律:はい!もちろんです!
絵美:じゃあ…。愛羅の昔話でもしましょうか…。その上で愛羅をどうするか決めてちょうだい
律:……わかりました
0:【間】
0:場面転換。愛羅と響
響:……愛羅…可愛いよ
愛羅:……響さんも…。綺麗だよ
0:二人は唇を重ねる
響:あたし達は…間違ってることをするんだ
愛羅:……うん。響さんとなら…例え歪んだ愛情でも……受け入れたい
律:………愛羅?
愛羅:………っ!!
響:…………
律:……何してんの?
愛羅:………律
0:
0:
律:…………ど、どういうこと!?なんで…女の人と……キスなんか
愛羅:…………
響:……愛羅の彼氏?
律:………そうですけど。あなたは愛羅のなんなんですか!?
愛羅:ひ、響さんは友達だよ!
律:友達同士でこんなことするわけないだろ!!
愛羅:………
響:……愛羅。いいよ
愛羅:響さん……
響:……ごめんなさい。愛羅の彼氏さん
律:………
愛羅:わ、私からも謝る!ごめんなさい!律
律:………いつからこんなことになった?
愛羅:………半年くらい前から
律:……じゃあ、俺よりもこの人と先にキスをしてたってこと?
愛羅:……うん
律:………ふざけんなよー!!
愛羅:……っ!!
律:どうしてそんなことが出来るんだよ!!愛羅!!
響:……ねえ、愛羅の彼氏
律:……なんですか
響:………あんた、最低だよ
律:………あなたにだけは言われたくない。俺のどこが最低なんだ!
響:愛羅はね。男の人が怖いんだよ。なのに、そんなに怒鳴ったらもっと怖がるでしょ
律:……だって…。こんな状況で怒らない人なんて居ないだろ。お母さんからも聞いたよ。愛羅はもしかしたら人を好きになれないかもしれないって
律:でも!俺だったら大丈夫とか!俺のことは好きになってくれるとか!そう考えたかったのに……なんだよ…。なんなんだよ!これは!!
愛羅:………ごめんね。律
律:………愛羅の本当の気持ちを教えて欲しい
愛羅:……え
律:俺のこと、好きかどうか…。
愛羅:…………私は…
響:………
愛羅:……私は……響さんの事が好き
律:………ああ。そうか。そうだよね。俺じゃなくてこの人と先にキスをするくらいだしね
愛羅:………ごめんなさい
律:もう会わない方がいいなら、そうするよ。愛羅の本当の好きな人と一緒にいた方がいい。……それでも愛羅の気持ちが変わるのなら……俺はまた愛羅からの連絡を待ってる
愛羅:………律
律:俺はどんな愛羅でも受け入れる……。けど、愛羅も俺の事を受け止めてほしいんだ。ただそれだけ。俺はいつでも愛羅の味方だからさ
愛羅:…………
律:………さようなら。愛羅
愛羅:…………うっ……ううぅぅ〜〜
0:律は家を出る
愛羅:うぅぅ〜〜……
響:愛羅、ごめんね
愛羅:ううん。謝るのは私の方だよ。迷惑かけてごめんなさい
響:あたしは大丈夫。でも、これでわかったでしょ
愛羅:……なに?
響:あたしと一緒に居ると、こうやって理解されないまま、不幸になるんだ
愛羅:……響さん
響:……あたしは愛羅となら一緒に不幸になれる。……だから、愛羅も答えを決めて
愛羅:………答え?
響:あたしと一緒に、間違った愛に進むか、普通の男の人と、正しい愛に進むか
愛羅:…………
響:……あたしはそれを受け入れるから、その答えがわかった時、また連絡して
愛羅:……うん。わかった
0:響も家を出る
0:【間】
愛羅:(M)私が泣くのなんて…わがままだ。ずっと好きでいてくれる彼氏も居て、ずっと守ってくれたお母さんが居て、ずっと愛をくれた響さんが居るのに…
愛羅:(M)辛くて、息苦しくて、それだけで泣いてる私は…ずるい女だ
0:【間】
律:(M)愛羅は大学の同級生で、クラスの中でも目立たない存在だった。そんな愛羅を初めて見たのは大学の中にある図書室。彼女はある一冊の本を見つめていた
愛羅:………心と体の仕組み…
律:(M)どうしてこんな本を読んでいたのかはわからない。でもその悲しげな表情に俺は一気に彼女の事を意識するようになった。高校時代は、好きという感情はなかったけど、彼女だけは好きだった
0:
律:好きです!付き合ってください!
愛羅:………私?
律:は、はい!あ、名前は?
愛羅:順番がデタラメだよ。私は愛羅
律:愛羅さん!僕は律です!付き合ってください!
愛羅:…………ごめん
律:………ダメ…ですか?
愛羅:いや、少し考えさせて
律:………わかった
0:
律:(M)それから愛羅は条件付きで告白を受け入れてくれた。その条件は愛羅のお母さんの余命が少ないこと。それで、なかなか時間が作れないこと。それでも俺はよかった。お母さんを大事にすることはいい事だし、素敵な事だから
律:(M)でも……女同士で…それも、好きな人が居るだなんて……想像もつかなかった。どんな愛羅でも受け入れるって言ったけど、なかなか受け入れられなかった
律:(M)俺にとって…愛羅はこんな人。そのどれもが全部外れていた。そんな自分も受け入れられなかった
0:【間】
響:(M)あたしは愛羅に比べると、人から与えられた愛情が少ないと感じる。男なんてどうしようも無いくらい浮ついた言葉しか言わないから。この男の為に流した涙なんて一粒もなかった
響:(M)それに比べて愛羅は落ちた物を拾ってそれを届けてくれる。好きになれない男にも、涙を流して謝れる。人を思う心を持っているちゃんとした子だ
響:(M)そんな子が。あたしを好きになる。それは間違ってるし、あってはならない事だし、将来を考えるともうここで留まった方がいいに決まってる
響:(M)それでも私は…寂しい夜も、辛い夜も、愛羅が居れば乗り越えられる。だから……あたしはあたしのために。愛羅を受け入れるしかないんだ
0:【間】
0:場面転換。病室では
愛羅:……お母さん?
絵美:あら、今日も可愛いわね。愛羅
愛羅:……どうして…呼吸器なんか付けてるの?
絵美:今日も可愛い愛羅を見納めるためよ
愛羅:………やめてよ
絵美:……愛羅。こっちにいらっしゃい
愛羅:………っ
0:絵美は愛羅を抱きしめる
絵美:ん〜!大きくなったわね
愛羅:改まって言わないでよ
絵美:子供の頃から可愛かったのに、どうしてこんなに可愛く居てくれるのかしら?
愛羅:それはお母さんが溺愛してるからでしょ?
絵美:ええ、そうね。私が愛したのは愛羅だけよ
愛羅:………ありがとう
絵美:………愛羅。何か言いたいことはある
愛羅:………言いたいこと?
絵美:律くんから聞いたけど、すごく仲のいい友達が出来たみたいじゃない
愛羅:……うん。そうだね
絵美:その子が居てくれた方が幸せ?
愛羅:……うん。その人のこと…大好きだし
絵美:よかったじゃない
愛羅:………お母さん。…あのね
絵美:ん?どうしたの?
愛羅:私…男の人を好きになれなくなっちゃったの
絵美:………そう。
愛羅:……だから。律のこと……好きじゃないんだ
絵美:……そうなのね
愛羅:………だから…うっ………ううぅぅぅ〜〜
絵美:辛かったのね。自分の気持ちに嘘をついて、律くんと一緒に居るのが
愛羅:……うん
絵美:……でもね、愛羅。愛の形は何も男女だけの関係じゃないのよ
愛羅:………え?
絵美:その愛に偽りがあってもいい。その先にあるものに幸せの価値を付けるのよ
愛羅:……幸せの価値…?
絵美:……そう。子供を生むこと
愛羅:…………っ
絵美:お母さんも、ろくでもない男に人生を棒に振ったけど、それもまた人生だからね。そこに愛が無いのかもしれない
絵美:それでも…自分のお腹の中から生まれてくる子供は、間違いなく愛の形なの。あなたを生んでよかったと…心から思える。あなたを愛してる事に誇りを持てるの
愛羅:………お母さん…
絵美:愛羅に幸せになって欲しいだけ。ただそれだけだから、自分が一番幸せになれる道に進みなさい
愛羅:………ううぅぅ〜〜!お母さーん!!
絵美:ありがとう。愛してるわ愛羅。あなたは私の愛の形よ
0:【間】
律:(M)俺が愛羅にあげたもの。それは数え切れないくらいのプレゼントと、溢れるばかりの愛情だった。でも、愛羅にとってそれは必要のないものだったのかもしれない
響:(M)この愛情が正しいかなんて本人たちが決めること。その先にあるものが何なのかはあたしにはわからない。あたしの母親は、男なんて信じるなしか言わなかったから
律:(M)それでも、どんな結末が待ってても、俺は愛羅を待っている
響:(M)覚悟はもう出来ている。愛羅の幸せをただ願うだけ
0:【間】
0:場面転換。愛羅の家では
愛羅:……部屋にパンダのぬいぐるみが落ちてる。しかも3個くらい
愛羅:だらしがないなー。私が何回拾っても落とすし、本当に変わった人ね
0:
愛羅:(M)私が一番幸せになれる道。その道に進むには、やっぱり"あの人"しか居ないと思った
愛羅:(M)響さんは間違った愛か、正しい愛か。そう言っていたけど、私にとってはそれは違う。本物の愛か、偽りの愛か
愛羅:(M)その先には私にとっての本当の愛の形に出会える。お母さんのその言葉を信じて、どんな私でも受け入れてくれると信じて、私は"あの人"に電話をかける
0:
愛羅:もしもし。……あの…。……あなたに、会いたいです
0:
愛羅:(M)パンダのぬいぐるみと、忘れていった財布など、数え切れないほどの落し物を持って、私はあの人に会いに行く
愛羅:(M)肌寒い秋の空の下で、今日も何かをポロポロと落としながら歩いていく姿を見て私は…また笑みが零れてしまう。やっぱり私はこの人が好き
愛羅:(M)……だからこそ、私は本物の愛を捨てる。その先にある愛の形を見つけるために。お母さんの言葉のように、お母さんみたいになれるように。
0:
愛羅:来てくれてありがとう。……今日はね
0:
愛羅:あなたに……お別れを言いに来ました
響:……じゃあ、なんであんたが泣くの?愛羅
0:End