台本概要

 400 views 

タイトル Zwei Krähen
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ツヴァイ・クレーエン。

五人がホテルに集った日より一年ほど前のお話。
マフィア組織『クラウディウス』の金策担当、クロウは、異国の情報屋レイヴンを訪ね、喫茶店の席に座っていた。
暖かな太陽光の射す室内で、二羽のカラスは羽を休める。

「今日は私たちの組織の“暴君”のことで伺いました。」


『互悦導衆』シリーズ 外伝 その3。

 400 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
レイヴン 不問 42 名実ともに最強の情報屋。通称『ウォッチャー』。 様々な組織、機関と秘密裏に情報のやり取りをしており、 あらゆる情報ネットワークを持つ様から二つ名は“俯瞰者”。
クロウ 不問 42 組織のお金稼ぎ担当。極度の不幸体質でチームメンバーからは「不運会長」と呼ばれる始末。 真面目だが少しコミカルな言動が目立つ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:真昼間のドイツ。黒コートの人物と白スーツの人物が喫茶でお茶をしている。 : レイヴン:[店員に向かって]えぇっと、このスイーツセットを二つ。片方はホットコーヒーにミルクポットのみ、スイーツはワッフルのジェラート添え。…で、もう片方はストレートティーにミルクもシュガーもなし。スイーツはバウムクーヘンで!…はあいどうもー。[店員が去っていく] クロウ:いやあ、やっぱりツイてない日は雰囲気のいい喫茶店でティータイムに限りますねぇ。 レイヴン:あはは、さっきは散々な目に遭ったからね。ここでは息をつけるといいんだけど。 クロウ:ちょっと。その死亡フラグ的なものやめてください!?回収しかねませんよ私のあだ名知ってるでしょ! レイヴン:“凶兆の白鴉”(きょうちょうのはくあ)、チームメンバーからは「不運会長」(ふうんかいちょう)。いやあ、でも通り名になるくらい運が悪いのは才能だと思うよ、クロウくん。 クロウ:それ褒めてるんですか…?なんで私がリーダーなのに部下から「不運会長」なんて呼ばれにゃならんのですかぁ…。うぅ、私だってレイヴンさんみたいなかっこいいコードネームが欲しかったですよぉ、なんですか“俯瞰者”(ウォッチャー)って。カッコよすぎでしょォ…。 レイヴン:仕方ないだろう、君たちと僕はそもそも住んでる国が違う。ネーミングセンスが違うのは当たりまえさ。それに、僕はクロウくんのコードネーム、カッコいいと思うけどなあ。なんかこう、漫画の中盤あたりで出てくるダークホース的な敵キャラっぽいと思うんだよね。 クロウ:私は馬じゃなくてカラスなんですが!まあ白馬でもかっこいい気はしますけど! レイヴン:君が爽やかなプリンスか…。ウン、似合わない。やっぱり君は白鴉(はくあ)が一番よく似合うと思う。 クロウ:…どーせ私は元気がいいだけの陰鬱な金策要因ですよーだ…。 レイヴン:まあそうしょげないでよ。せっかくドイツまではるばる飛んできたんだからさ。もっと楽観的に行こうよ。それに、まだ本題にも入れてないしね。 クロウ:それも私に襲い掛かる不幸のせいなんですが!うぅ…。なんで半分息抜きのために来たドイツ旅行がお気に入りのサングラスを失くすところから始まらなきゃならんのだぁ…。 レイヴン:そんなに気に入ってたの? クロウ:アレがないと落ち着かないレベルだったんです…。あともう少しであの子との一周年記念日だったのに…。 レイヴン:それは可哀想に。仕方ないなあ。そういう時は新しい恋を見つけて気持ちを切り替えるのが一番の薬さ。ということで、この僕があとで君に新しいサングラスを見繕ってあげよう。 クロウ:え、本当ですかっ!? レイヴン:ああ本当だとも。それもちゃんと高級な奴をプレゼントしよう。せっかくこっちに来てくれたんだし、ドイツデビューと君のチーム結成を祝してってことで。 クロウ:やったあー!ありがとうございますレイヴンさんっ!おかげさまで私の不運ロケットも飛んでいきそうです! レイヴン:…それ、爆発したり不時着したりしないよね? クロウ:そこはご安心を。不運ロケットは不運マインや不運ブーメランじゃないので、ちゃんと宇宙まで飛んでいきます! レイヴン:え、レパートリーあるの…?技名かなんかなの…?というかロケットに地雷ときてブーメランって…、ぷっ、あはははは!君、本当変わってるよね。 クロウ:よく言われます。 レイヴン:だろうねぇ。本当、いろんなマフィアを見てきた僕だけど、君ほどコードネームと実態に温度差を感じる奴はいないね。 クロウ:えぇー、理にはかなってると思いますけどね。クロウ、カラス、不幸の象徴、凶兆、“凶兆の白鴉”(きょうちょうのはくあ)って感じで。 レイヴン:その連想ゲームはまだわかるんだよ。僕が疑問なのは、「白」要素が君のどこから出てきたのか、ということなんだよ。単に不幸を強調するならただのカラスで良い、というかそっちの方がいい気がするし。 クロウ:…確かに、言われてみれば。白い鴉って幸運を運んでくるイメージありますよね。あれぇー…。 レイヴン:ちなみに君のコードネーム、名付け親は? クロウ:デラスさん。 レイヴン:うわあ、絶妙に気になるラインだねぇ…。裏に意味がありそうでもあるし、「なんとなく白っぽかったから雰囲気で」とも言いそうだ。 クロウ:同意見です。ちょっと気になるので帰ったら聞いてみましょうかね。…あ、でもそういうことが明らかにされてない方がミステリアスでカッコいいのでは…? レイヴン:好きにしたらいいだろう。 0:そこに注文したティーセットが運ばれてくる。 クロウ:あ、バウムクーヘン私ですー。…ありがとうございますー。[店員が去っていく] レイヴン:…失礼な発言かもなんだけどさ、君って存外「ドイツ語」(ジャーマン)が上手いんだね? クロウ:なあにを今更仰いますか!私、これでも【クラウディウス】のシノギ担当ですよ、お金稼ぎ!色んな言語が使えて然るべきなのです。 レイヴン:言われてみれば確かに?君は交渉技術の高さを買われてかの暴君さんに認められたわけだしね。参考までに、何か国語喋れるの? クロウ:欧州の言語は大抵網羅してますね!あとは「ポルトガル語」(ポーチュギス)、「中国語」(チャイニーズ)、「日本語」(ジャパニーズ)に「ヒンドゥー語」(ヒンディー)まで幅広く揃えてますよ。 レイヴン:流石は「狡猾な鴉」(ぼくのどうぞく)、とても頭がいい。いやにしてもしかしほほう、日本語に理解があると…、ジャパニーズ・アニメーションに興味は? クロウ:その話、長くなりそうですし色々と話し終わった後にゆっくり聞いてもいいです? レイヴン:あぁ…、はい…。 クロウ:そんな露骨に落ち込まないでくださいよ。 レイヴン:ようし。与太話はこの辺にして、そろそろ話してもらおうじゃないか、「不運会長」。君がわざわざ国を飛び出してまでこの僕に会いに来た理由を。 クロウ:どれだけ語りたいんです。 レイヴン:愛は無限大だよ。さあ、この偉大なる情報屋に話してごらん。 クロウ:…実は、今回はシノギのためにレイヴンさんを呼んだわけじゃないんです。 レイヴン:へぇ、珍しい。組織の利益を最優先に行動する君が、お金のためじゃないのに僕にわざわざ会いに来た。…少し深刻なお悩みかい。 クロウ:はい。…今日は、私たちの組織のトップ…、ボスについてお話がしたくて来ました。 レイヴン:ああなるほど。現在絶賛暴走中の彼のことか。 クロウ:…もしかして、既に調査済みだったり? レイヴン:勘が鋭いね。そう。つい数週間前に、君の組織の重鎮さんから連絡があってね。「ボスの動向をくまなく俯瞰(ふかん)してくれ」って言われたばっかりさ。 クロウ:お名前は機密事項(クローズ)ですか。 レイヴン:いいや仄聞可能(オープン)だよ。開示するかい? クロウ:お願いします。 レイヴン:かの有名な幹部チーム、『チーム・ブラック』のリーダーさんだよ。 クロウ:…数週間前、って言ってましたっけ。…いくら幹部とはいえ危機察知能力バケモノ過ぎませんかあの人。 レイヴン:今に始まった話じゃないよ。君も知っているとは思うけどね。まあそういうことさ、ある程度の情報は僕のシワだらけの崇高な脳みそに入ってる。好きなだけ質問していい…、けど、最初の質問は既に予測がついているから先にアンサーを出そう。「YES」だ。 クロウ:っ…!…そう、ですか。本当だったんですか、【ジュリアス】のボスの暗殺を実行したという話は……。 レイヴン:というか正直、君から連絡が入った時点でその件であろうことは大方予想がついてたんだ。君のシノギの中には敵対組織である【ジュリアス】と良い関係を結ぶことで達成されるイレギュラーなものもあったからね。 クロウ:…ええ。請け負う仕事が仕事ですから、ソッチの匂いや動きには敏感だっていう自負はあります。 レイヴン:実際、君は彼の次に嗅ぎつけるのが早かったね。 クロウ:…ついこの間、突然あちらの取引相手…、“木こり”さんとの連絡が途絶えたんです。 レイヴン:“木こり”…、ああ。「心臓狂い」(マッドハート)のウッドマン? クロウ:ですです。それでいろいろ探ったら、ウチのボスが遂に凶行に奔ったって噂が立ってて。もしそれが本当で、出回ったら全面戦争が勃発してしまう。そう思ったら、居てもたってもいられなくて。レイヴンさんに連絡を取った次第です。 レイヴン:直接会いに来たのはインターネットや情報ベースに僕との会話ログを残したくないからか。 クロウ:はい。流出なんてありえないと思いますが、状況が状況ですので念を入れました。 レイヴン:慎重派な君の手口には毎度感心させられるよ。だけど…、時間をかけすぎたね。 クロウ:っ、ま、まさか…、もう、火種が大きく…っ! レイヴン:ああ、残念だよ。……君が遅すぎてもう『チーム・ブラック』がもみ消しから情報統制まで全部やっちゃったよ! クロウ:…へ? レイヴン:…あはは、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してる! クロウ:か、カラスです。一応。 レイヴン:ちょっと、そんなバカ正直に答えないでよ、せっかくの僕のユーモアなんだからさぁー? クロウ:す、すみません!でも…、あああぁぁ~、よかったあぁぁ……っ。どうやら私の最悪な想像は杞憂で終わったみたいで、とっても安心しましたよ。というか改めて思ったんですけど『チーム・ブラック』えげつなさぎません? レイヴン:そんなえげつない彼らに情報をよく提供している情報屋がこの僕さ、もっと褒めてくれていいんだよクロウくん。 クロウ:え、あ、すごい、デスネー。 レイヴン:なんで棒読みなのさ。 クロウ:いや…、なんというか。いろんな感情が今私の心を行き交ってまして。すみません。感情迷子ってやつです。 レイヴン:あはは、君らしいなあ!ま、そういうことさ。全面戦争の心配はない。だから君は、心行くまでドイツ観光を楽しめばいいよ。ちょうどこっちの仕事もひと段落したし、ガイドは“ウォッチャー”たるこの僕が努めよう。 クロウ:え、いいんですか!? レイヴン:勿論。同じカラス同士、この機会に親睦を深めようじゃないか。 クロウ:わあいやったやったぁー!ありがとうございますレイヴンさん!私たち、「三羽烏」(さんばがらす)ならぬ「二羽烏」(にばがらす)ですね! レイヴン:ふふ、そうだねえ。さあて、観光は今日から始めるつもりだったけど異論はないね? クロウ:美味しいビールからソーセージまで楽しみ尽くす心づもりは今爆速でしました! レイヴン:よろしい!ならば…、まずは僕たちの目の前に置いてある、ちょうどいい温度まで冷めたであろうドリンクとスイーツを堪能するとしよう。 クロウ:そうですね!それじゃあ、いっただきまーすっ!優雅に、美しく―――あ。[勢いよく伸ばした手でコーヒーカップを倒す]……すみませぇーん、コーヒーを零しましたあァ……ッ。 : 0:白昼夢を見るような太陽光の差し込むなか、二匹の“カラス”は、やがて空へと羽ばたいた。 : 0:End

0:真昼間のドイツ。黒コートの人物と白スーツの人物が喫茶でお茶をしている。 : レイヴン:[店員に向かって]えぇっと、このスイーツセットを二つ。片方はホットコーヒーにミルクポットのみ、スイーツはワッフルのジェラート添え。…で、もう片方はストレートティーにミルクもシュガーもなし。スイーツはバウムクーヘンで!…はあいどうもー。[店員が去っていく] クロウ:いやあ、やっぱりツイてない日は雰囲気のいい喫茶店でティータイムに限りますねぇ。 レイヴン:あはは、さっきは散々な目に遭ったからね。ここでは息をつけるといいんだけど。 クロウ:ちょっと。その死亡フラグ的なものやめてください!?回収しかねませんよ私のあだ名知ってるでしょ! レイヴン:“凶兆の白鴉”(きょうちょうのはくあ)、チームメンバーからは「不運会長」(ふうんかいちょう)。いやあ、でも通り名になるくらい運が悪いのは才能だと思うよ、クロウくん。 クロウ:それ褒めてるんですか…?なんで私がリーダーなのに部下から「不運会長」なんて呼ばれにゃならんのですかぁ…。うぅ、私だってレイヴンさんみたいなかっこいいコードネームが欲しかったですよぉ、なんですか“俯瞰者”(ウォッチャー)って。カッコよすぎでしょォ…。 レイヴン:仕方ないだろう、君たちと僕はそもそも住んでる国が違う。ネーミングセンスが違うのは当たりまえさ。それに、僕はクロウくんのコードネーム、カッコいいと思うけどなあ。なんかこう、漫画の中盤あたりで出てくるダークホース的な敵キャラっぽいと思うんだよね。 クロウ:私は馬じゃなくてカラスなんですが!まあ白馬でもかっこいい気はしますけど! レイヴン:君が爽やかなプリンスか…。ウン、似合わない。やっぱり君は白鴉(はくあ)が一番よく似合うと思う。 クロウ:…どーせ私は元気がいいだけの陰鬱な金策要因ですよーだ…。 レイヴン:まあそうしょげないでよ。せっかくドイツまではるばる飛んできたんだからさ。もっと楽観的に行こうよ。それに、まだ本題にも入れてないしね。 クロウ:それも私に襲い掛かる不幸のせいなんですが!うぅ…。なんで半分息抜きのために来たドイツ旅行がお気に入りのサングラスを失くすところから始まらなきゃならんのだぁ…。 レイヴン:そんなに気に入ってたの? クロウ:アレがないと落ち着かないレベルだったんです…。あともう少しであの子との一周年記念日だったのに…。 レイヴン:それは可哀想に。仕方ないなあ。そういう時は新しい恋を見つけて気持ちを切り替えるのが一番の薬さ。ということで、この僕があとで君に新しいサングラスを見繕ってあげよう。 クロウ:え、本当ですかっ!? レイヴン:ああ本当だとも。それもちゃんと高級な奴をプレゼントしよう。せっかくこっちに来てくれたんだし、ドイツデビューと君のチーム結成を祝してってことで。 クロウ:やったあー!ありがとうございますレイヴンさんっ!おかげさまで私の不運ロケットも飛んでいきそうです! レイヴン:…それ、爆発したり不時着したりしないよね? クロウ:そこはご安心を。不運ロケットは不運マインや不運ブーメランじゃないので、ちゃんと宇宙まで飛んでいきます! レイヴン:え、レパートリーあるの…?技名かなんかなの…?というかロケットに地雷ときてブーメランって…、ぷっ、あはははは!君、本当変わってるよね。 クロウ:よく言われます。 レイヴン:だろうねぇ。本当、いろんなマフィアを見てきた僕だけど、君ほどコードネームと実態に温度差を感じる奴はいないね。 クロウ:えぇー、理にはかなってると思いますけどね。クロウ、カラス、不幸の象徴、凶兆、“凶兆の白鴉”(きょうちょうのはくあ)って感じで。 レイヴン:その連想ゲームはまだわかるんだよ。僕が疑問なのは、「白」要素が君のどこから出てきたのか、ということなんだよ。単に不幸を強調するならただのカラスで良い、というかそっちの方がいい気がするし。 クロウ:…確かに、言われてみれば。白い鴉って幸運を運んでくるイメージありますよね。あれぇー…。 レイヴン:ちなみに君のコードネーム、名付け親は? クロウ:デラスさん。 レイヴン:うわあ、絶妙に気になるラインだねぇ…。裏に意味がありそうでもあるし、「なんとなく白っぽかったから雰囲気で」とも言いそうだ。 クロウ:同意見です。ちょっと気になるので帰ったら聞いてみましょうかね。…あ、でもそういうことが明らかにされてない方がミステリアスでカッコいいのでは…? レイヴン:好きにしたらいいだろう。 0:そこに注文したティーセットが運ばれてくる。 クロウ:あ、バウムクーヘン私ですー。…ありがとうございますー。[店員が去っていく] レイヴン:…失礼な発言かもなんだけどさ、君って存外「ドイツ語」(ジャーマン)が上手いんだね? クロウ:なあにを今更仰いますか!私、これでも【クラウディウス】のシノギ担当ですよ、お金稼ぎ!色んな言語が使えて然るべきなのです。 レイヴン:言われてみれば確かに?君は交渉技術の高さを買われてかの暴君さんに認められたわけだしね。参考までに、何か国語喋れるの? クロウ:欧州の言語は大抵網羅してますね!あとは「ポルトガル語」(ポーチュギス)、「中国語」(チャイニーズ)、「日本語」(ジャパニーズ)に「ヒンドゥー語」(ヒンディー)まで幅広く揃えてますよ。 レイヴン:流石は「狡猾な鴉」(ぼくのどうぞく)、とても頭がいい。いやにしてもしかしほほう、日本語に理解があると…、ジャパニーズ・アニメーションに興味は? クロウ:その話、長くなりそうですし色々と話し終わった後にゆっくり聞いてもいいです? レイヴン:あぁ…、はい…。 クロウ:そんな露骨に落ち込まないでくださいよ。 レイヴン:ようし。与太話はこの辺にして、そろそろ話してもらおうじゃないか、「不運会長」。君がわざわざ国を飛び出してまでこの僕に会いに来た理由を。 クロウ:どれだけ語りたいんです。 レイヴン:愛は無限大だよ。さあ、この偉大なる情報屋に話してごらん。 クロウ:…実は、今回はシノギのためにレイヴンさんを呼んだわけじゃないんです。 レイヴン:へぇ、珍しい。組織の利益を最優先に行動する君が、お金のためじゃないのに僕にわざわざ会いに来た。…少し深刻なお悩みかい。 クロウ:はい。…今日は、私たちの組織のトップ…、ボスについてお話がしたくて来ました。 レイヴン:ああなるほど。現在絶賛暴走中の彼のことか。 クロウ:…もしかして、既に調査済みだったり? レイヴン:勘が鋭いね。そう。つい数週間前に、君の組織の重鎮さんから連絡があってね。「ボスの動向をくまなく俯瞰(ふかん)してくれ」って言われたばっかりさ。 クロウ:お名前は機密事項(クローズ)ですか。 レイヴン:いいや仄聞可能(オープン)だよ。開示するかい? クロウ:お願いします。 レイヴン:かの有名な幹部チーム、『チーム・ブラック』のリーダーさんだよ。 クロウ:…数週間前、って言ってましたっけ。…いくら幹部とはいえ危機察知能力バケモノ過ぎませんかあの人。 レイヴン:今に始まった話じゃないよ。君も知っているとは思うけどね。まあそういうことさ、ある程度の情報は僕のシワだらけの崇高な脳みそに入ってる。好きなだけ質問していい…、けど、最初の質問は既に予測がついているから先にアンサーを出そう。「YES」だ。 クロウ:っ…!…そう、ですか。本当だったんですか、【ジュリアス】のボスの暗殺を実行したという話は……。 レイヴン:というか正直、君から連絡が入った時点でその件であろうことは大方予想がついてたんだ。君のシノギの中には敵対組織である【ジュリアス】と良い関係を結ぶことで達成されるイレギュラーなものもあったからね。 クロウ:…ええ。請け負う仕事が仕事ですから、ソッチの匂いや動きには敏感だっていう自負はあります。 レイヴン:実際、君は彼の次に嗅ぎつけるのが早かったね。 クロウ:…ついこの間、突然あちらの取引相手…、“木こり”さんとの連絡が途絶えたんです。 レイヴン:“木こり”…、ああ。「心臓狂い」(マッドハート)のウッドマン? クロウ:ですです。それでいろいろ探ったら、ウチのボスが遂に凶行に奔ったって噂が立ってて。もしそれが本当で、出回ったら全面戦争が勃発してしまう。そう思ったら、居てもたってもいられなくて。レイヴンさんに連絡を取った次第です。 レイヴン:直接会いに来たのはインターネットや情報ベースに僕との会話ログを残したくないからか。 クロウ:はい。流出なんてありえないと思いますが、状況が状況ですので念を入れました。 レイヴン:慎重派な君の手口には毎度感心させられるよ。だけど…、時間をかけすぎたね。 クロウ:っ、ま、まさか…、もう、火種が大きく…っ! レイヴン:ああ、残念だよ。……君が遅すぎてもう『チーム・ブラック』がもみ消しから情報統制まで全部やっちゃったよ! クロウ:…へ? レイヴン:…あはは、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してる! クロウ:か、カラスです。一応。 レイヴン:ちょっと、そんなバカ正直に答えないでよ、せっかくの僕のユーモアなんだからさぁー? クロウ:す、すみません!でも…、あああぁぁ~、よかったあぁぁ……っ。どうやら私の最悪な想像は杞憂で終わったみたいで、とっても安心しましたよ。というか改めて思ったんですけど『チーム・ブラック』えげつなさぎません? レイヴン:そんなえげつない彼らに情報をよく提供している情報屋がこの僕さ、もっと褒めてくれていいんだよクロウくん。 クロウ:え、あ、すごい、デスネー。 レイヴン:なんで棒読みなのさ。 クロウ:いや…、なんというか。いろんな感情が今私の心を行き交ってまして。すみません。感情迷子ってやつです。 レイヴン:あはは、君らしいなあ!ま、そういうことさ。全面戦争の心配はない。だから君は、心行くまでドイツ観光を楽しめばいいよ。ちょうどこっちの仕事もひと段落したし、ガイドは“ウォッチャー”たるこの僕が努めよう。 クロウ:え、いいんですか!? レイヴン:勿論。同じカラス同士、この機会に親睦を深めようじゃないか。 クロウ:わあいやったやったぁー!ありがとうございますレイヴンさん!私たち、「三羽烏」(さんばがらす)ならぬ「二羽烏」(にばがらす)ですね! レイヴン:ふふ、そうだねえ。さあて、観光は今日から始めるつもりだったけど異論はないね? クロウ:美味しいビールからソーセージまで楽しみ尽くす心づもりは今爆速でしました! レイヴン:よろしい!ならば…、まずは僕たちの目の前に置いてある、ちょうどいい温度まで冷めたであろうドリンクとスイーツを堪能するとしよう。 クロウ:そうですね!それじゃあ、いっただきまーすっ!優雅に、美しく―――あ。[勢いよく伸ばした手でコーヒーカップを倒す]……すみませぇーん、コーヒーを零しましたあァ……ッ。 : 0:白昼夢を見るような太陽光の差し込むなか、二匹の“カラス”は、やがて空へと羽ばたいた。 : 0:End