台本概要

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タイトル また君に恋してる
作者名 安財由希子  (@yukiko_anzi)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(男1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ちょっと大人な渋めの男性をイメージした一人語り用の台本です。
基本的にご報告は不要ですが、お知らせいただけるなら聴きにうかがいます。
どうぞよろしくお願いいたします。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
- いい歳の男性。イメージは渋め。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
男性:────憂鬱だ。 0:    男性:毎年恒例のレセプションパーティ。 男性:上司からの命令で、強制的に参加させられている状況に、鬱々(うつうつ)とした感情が渦巻いていた。 男性:着慣れないスーツにネクタイを締めた状態では、美味しいはずの酒も十分に楽しめない。 男性:俺はシャレた柱を背にして、グラス片手に寄りかかり、ぼんやりと会場内を眺めていた。 0:    男性:すると目の前を見知った女性が横切る。 男性:ゆるく巻いた長い髪を左肩から流し、右肩は肌があらわになっている。 男性:ボディラインがくっきりとわかるようなタイトな桜色のワンピース。 男性:胸元が大胆に開いているのを見て、よほど自分に自信があるんだな、などと勝手に想像する。 男性:相手も俺に気がついたようで、蠱惑的(こわくてき)に微笑み、親しげに挨拶をしてきた。 男性:だが俺は、どうも、と平坦な声で答えるなり、会場前方へと視線を戻す。 男性:ジトリとした声で、相変わらずの無愛想さですね、とトゲのある言葉を投げられても、俺は視線もくれてやらずにこう言ってのけた。 0:    男性:「君に愛想良くしてなにかメリットが?」 0:    男性:するとさすがに相手は呆れたようにため息をつく。 男性:それを横目に、俺はグラスを傾けた。 0:    0:    男性:元々こういう華やかな場所は苦手だ。 男性:酒はそれなりに好きだが、こういう堅苦しい、形式張った上辺だけの交流の場は白けてしまう。 男性:会場内の女性たちはきらびやかに着飾って、濃い色の唇で媚びるように何事かを語っている。 男性:その姿に男たちは鼻の下を伸ばして、たるんだ腹を揺らして笑っていた。 0:    男性:ああ、早く帰りたい。 0:    男性:半ば(なかば)やさぐれた気持ちでいると、遠目にやたら男に囲まれた人物が目に入った。 男性:輪の中心にいるのは女性のようだ。 男性:男どもの隙間から見え隠れするシンプルな紺色のフォーマルドレスの裾が揺れている。 男性:決して華美なわけではないその後ろ姿は、なぜか目を引き、視線を外せずにいた。 男性:髪をすべてまとめ上げ、あらわになったうなじから背骨にかけてのラインを視線でなぞる。 男性:美しい背骨をたどったその先のヒップラインが、美しくカーブを描いている。 男性:角度によっては肩甲骨も僅かに見えるが、女性らしい曲線に色気を感じた。 男性:細い首筋にかかるおくれ毛も、なんともセクシーだ。 男性:目が痛くなるようなギラギラとした会場内では、その控えめなデザインのドレスを着こなした女性に好感が持てる。 0:    男性:距離が離れていることをいいことにガン見を決め込み、シャンパンを煽った。 男性:万人受けするのは先ほど声をかけてきた女性のような容姿だろうが、俺はその遠目に見つけた凛とした佇まいの女性が気になってしょうがなかった。 男性:するとふいにその女性が、後ろにいた小太りの男の胸によろめいた。 男性:どうやら足を踏んでしまったらしい。 男性:慌てた様子で振り返ったその顔に、俺は思わず目を見開く。 男性:着飾らないシンプルなドレス。けれど、やけに目を引く好ましい女性。 0:    男性:なんてこった、と思わず破顔した俺に、側にいた先程の女性が何事かと驚いた様子を見せたが、そんなことはどうでもいい。 男性:考えるよりも先に俺は一歩踏み出し、大股で突き進んだ。 0:    男性:そして、腹に力を込めて【妻の名】を呼ぶ。 0:    男性:するとざわついていた会場内がピタリと静まり、異様な空気が広がった。 男性:会場内の視線を一身に受けても、俺は気にも止めず突き進む。 男性:一瞬弾かれたように顔を上げた妻の視線が、声の先をたどって左右に揺れ、俺をとらえた。 0:    男性:そこからは、まるで結婚式場から花嫁を連れ去る男の心境だった。 男性:妻の腕を掴み、強引に男どもの輪から引っ張り出す。 男性:妻の慌てた声が聞こえても俺は足を止めなかった。 男性:が、連れ出した手前、向かう先に迷って、結局、元いた場所に戻ることになってしまった。 0:    男性:今度は例の顔見知りの女性からの視線が刺さることになる。 男性:居心地の悪さに、思わず「なんだよ」と絞り出した。 男性:すると再びトゲのある声で「相変わらず愛妻家でいらっしゃるのね」と言うものだから、思わず「悪いかよ」とそっけなく返した。 0:    男性:会場内を見渡せば、さっきの異様な静けさはどこへやら、元のざわめきを取り戻していた。 男性:別段こちらに注視している面倒な輩(やから)もいない。 男性:勢いにまかせて連れてきてしまったが、急に気まずくなって、変な汗をかいてきた。 男性:気休めにしかならないが、首元に指一本入れて襟を浮かせ、気を紛らわせる。 男性:すると、俺の居心地の悪さを察したらしい妻が「らしくないことするからよ」とボソリと言った。 0:    男性:俺と同じく、さほど人づきあいが得意ではない妻にとって、あの人だかりから抜け出せたことは幸いだったはずなのだ。 男性:素直じゃない妻の言動など、とうに慣れている。 0:    男性:ちらりと妻に視線をやれば、前方を見据えたままの頭頂部だけが見えた。 男性:その表情がどんなものか気になったが、覗き込むなんて野暮なことはしない。 男性:俺は感情が乗りきらない声で「ああ、ごめん」と上辺だけの謝罪をして、自分を突き動かした女の腰を引き寄せた。 0:    男性:「けど、いい女は自分のそばに捕まえておかないと気が済まなくてね」 0:    男性:わざとキザったらしく言ってみせると、大きく見開いた目が勢いよくこちらを見上げた。 男性:その顔は耳まで真っ赤になっている。 男性:すぐ視線を逸らされ「馬鹿じゃないのっ!」と小さく叫ぶ妻の反応は、この上なく俺の心を満たすもので、年甲斐もなく浮かれて、自然と破顔した。 0:    0:    男性:普段は呆れられるくらい無愛想なこの俺を何度も笑顔にさせるのは、きっとこの世界に一人だけだろう。

男性:────憂鬱だ。 0:    男性:毎年恒例のレセプションパーティ。 男性:上司からの命令で、強制的に参加させられている状況に、鬱々(うつうつ)とした感情が渦巻いていた。 男性:着慣れないスーツにネクタイを締めた状態では、美味しいはずの酒も十分に楽しめない。 男性:俺はシャレた柱を背にして、グラス片手に寄りかかり、ぼんやりと会場内を眺めていた。 0:    男性:すると目の前を見知った女性が横切る。 男性:ゆるく巻いた長い髪を左肩から流し、右肩は肌があらわになっている。 男性:ボディラインがくっきりとわかるようなタイトな桜色のワンピース。 男性:胸元が大胆に開いているのを見て、よほど自分に自信があるんだな、などと勝手に想像する。 男性:相手も俺に気がついたようで、蠱惑的(こわくてき)に微笑み、親しげに挨拶をしてきた。 男性:だが俺は、どうも、と平坦な声で答えるなり、会場前方へと視線を戻す。 男性:ジトリとした声で、相変わらずの無愛想さですね、とトゲのある言葉を投げられても、俺は視線もくれてやらずにこう言ってのけた。 0:    男性:「君に愛想良くしてなにかメリットが?」 0:    男性:するとさすがに相手は呆れたようにため息をつく。 男性:それを横目に、俺はグラスを傾けた。 0:    0:    男性:元々こういう華やかな場所は苦手だ。 男性:酒はそれなりに好きだが、こういう堅苦しい、形式張った上辺だけの交流の場は白けてしまう。 男性:会場内の女性たちはきらびやかに着飾って、濃い色の唇で媚びるように何事かを語っている。 男性:その姿に男たちは鼻の下を伸ばして、たるんだ腹を揺らして笑っていた。 0:    男性:ああ、早く帰りたい。 0:    男性:半ば(なかば)やさぐれた気持ちでいると、遠目にやたら男に囲まれた人物が目に入った。 男性:輪の中心にいるのは女性のようだ。 男性:男どもの隙間から見え隠れするシンプルな紺色のフォーマルドレスの裾が揺れている。 男性:決して華美なわけではないその後ろ姿は、なぜか目を引き、視線を外せずにいた。 男性:髪をすべてまとめ上げ、あらわになったうなじから背骨にかけてのラインを視線でなぞる。 男性:美しい背骨をたどったその先のヒップラインが、美しくカーブを描いている。 男性:角度によっては肩甲骨も僅かに見えるが、女性らしい曲線に色気を感じた。 男性:細い首筋にかかるおくれ毛も、なんともセクシーだ。 男性:目が痛くなるようなギラギラとした会場内では、その控えめなデザインのドレスを着こなした女性に好感が持てる。 0:    男性:距離が離れていることをいいことにガン見を決め込み、シャンパンを煽った。 男性:万人受けするのは先ほど声をかけてきた女性のような容姿だろうが、俺はその遠目に見つけた凛とした佇まいの女性が気になってしょうがなかった。 男性:するとふいにその女性が、後ろにいた小太りの男の胸によろめいた。 男性:どうやら足を踏んでしまったらしい。 男性:慌てた様子で振り返ったその顔に、俺は思わず目を見開く。 男性:着飾らないシンプルなドレス。けれど、やけに目を引く好ましい女性。 0:    男性:なんてこった、と思わず破顔した俺に、側にいた先程の女性が何事かと驚いた様子を見せたが、そんなことはどうでもいい。 男性:考えるよりも先に俺は一歩踏み出し、大股で突き進んだ。 0:    男性:そして、腹に力を込めて【妻の名】を呼ぶ。 0:    男性:するとざわついていた会場内がピタリと静まり、異様な空気が広がった。 男性:会場内の視線を一身に受けても、俺は気にも止めず突き進む。 男性:一瞬弾かれたように顔を上げた妻の視線が、声の先をたどって左右に揺れ、俺をとらえた。 0:    男性:そこからは、まるで結婚式場から花嫁を連れ去る男の心境だった。 男性:妻の腕を掴み、強引に男どもの輪から引っ張り出す。 男性:妻の慌てた声が聞こえても俺は足を止めなかった。 男性:が、連れ出した手前、向かう先に迷って、結局、元いた場所に戻ることになってしまった。 0:    男性:今度は例の顔見知りの女性からの視線が刺さることになる。 男性:居心地の悪さに、思わず「なんだよ」と絞り出した。 男性:すると再びトゲのある声で「相変わらず愛妻家でいらっしゃるのね」と言うものだから、思わず「悪いかよ」とそっけなく返した。 0:    男性:会場内を見渡せば、さっきの異様な静けさはどこへやら、元のざわめきを取り戻していた。 男性:別段こちらに注視している面倒な輩(やから)もいない。 男性:勢いにまかせて連れてきてしまったが、急に気まずくなって、変な汗をかいてきた。 男性:気休めにしかならないが、首元に指一本入れて襟を浮かせ、気を紛らわせる。 男性:すると、俺の居心地の悪さを察したらしい妻が「らしくないことするからよ」とボソリと言った。 0:    男性:俺と同じく、さほど人づきあいが得意ではない妻にとって、あの人だかりから抜け出せたことは幸いだったはずなのだ。 男性:素直じゃない妻の言動など、とうに慣れている。 0:    男性:ちらりと妻に視線をやれば、前方を見据えたままの頭頂部だけが見えた。 男性:その表情がどんなものか気になったが、覗き込むなんて野暮なことはしない。 男性:俺は感情が乗りきらない声で「ああ、ごめん」と上辺だけの謝罪をして、自分を突き動かした女の腰を引き寄せた。 0:    男性:「けど、いい女は自分のそばに捕まえておかないと気が済まなくてね」 0:    男性:わざとキザったらしく言ってみせると、大きく見開いた目が勢いよくこちらを見上げた。 男性:その顔は耳まで真っ赤になっている。 男性:すぐ視線を逸らされ「馬鹿じゃないのっ!」と小さく叫ぶ妻の反応は、この上なく俺の心を満たすもので、年甲斐もなく浮かれて、自然と破顔した。 0:    0:    男性:普段は呆れられるくらい無愛想なこの俺を何度も笑顔にさせるのは、きっとこの世界に一人だけだろう。