台本概要

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タイトル 黒斑らの紐は脱兎の如く
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル ミステリー
演者人数 4人用台本(男1、不問3)
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 (くろまだらのひもは だっとのごとく)
サスペンス/警察/連続殺人事件

亀毛以外は大きな声を出さずにできます!
(烏白はト書きでは叫びますが、そこは環境に応じてお好みで)

※こちらの企画は、兎角ゆず様の「第一回闇鍋企画」で創らせていただいた台本になります。
他の作者様の台本はこちらをご覧ください。
→https://tokakuyuzu.web.fc2.com/yaminabe.html

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。

兎に角はなく、亀に毛はなく、烏は白くない。

地球儀の個人台本サイト:https://lit.link/tsukuenoueno

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
黒斑 不問 60 くろぶち。性別不問。全身黒ずくめの探偵。一人称は「自分」。
兎角 不問 57 とかく。性別不問。警部。一人称は「私」。美容オタク。
亀毛 71 きもう。兎角の同僚。美形。一人称は「俺」。※女装シーンがあります。
烏白 不問 72 うしろ(コアラや、釧路のイントネーション)。役としては男。兎角の遠縁の親戚。学生。一人称は「僕」。ショタでも良いけど大学生くらいでも問題なく話通じるよ!※女性が演じても構いません。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
黒斑:(M)昔から、罰されない悪というものが許せなかった。だから警察ではなく、「探偵」などという職についた。警察に裁けない犯罪も、自分なら……そんな驕りもあったのかもしれない。そうして正義を振りかざす自分が疎ましかったのだろうか。周りにいた筈の仲間は、いつの間にかいなくなって、気が付けば一匹狼のはぐれ者。まあ別に、誰がなくて困る事もなし。 黒斑:……そんな考えの自分が、何の気まぐれか、濡れそぼった子犬のようなそいつに、声をかけてしまった。 黒斑:  黒斑:——それが、全ての始まりだった。 0:  黒斑:あの。そんな所で何をしているのです。ここら辺は治安が悪い。縄張り争いの渦中のシマです。早くどこか移動した方がいい。 烏白:……あぁ。へへ。こんばんは。ここは君の縄張り?ごめんね、お邪魔してるよ。 黒斑:お邪魔してるよ、じゃないでしょう。びしょ濡れじゃないですか。それに、初対面の相手に「君」と言うのも、礼儀がなっていないですね、「クソガキ」。 烏白:なんか君、良い香りがする……。 黒斑:は?ちょっと、何ですかいきなり……! 0:(烏白、倒れるように黒斑にもたれかかり、苦しそうに唸る) 黒斑:え?こ、こら……!(ハッとして)貴方……すごい熱じゃないですか。 0:(道の向こうから亀毛と兎角が走ってくる) 亀毛:……あ!兎角(とかく)!いたぞ!こっちだ! 黒斑:ん?……あぁ、良かった。どうやら保護者様のお迎えですよ。ほら、起きなさい、クソガキ。 兎角:シロ!あぁ。兎にも角にも良かった、見つかって。 兎角:……あ。ごめんな。君がシロを保護してくれていたのか。感謝する。 亀毛:うわっ!お前ら揃いも揃ってびしょ濡れじゃねえか! 黒斑:ええ。この子がもたれかかってきたおかげで、自分までこのザマです。 烏白:こいつと一緒に、帰る……。 0:(烏白、黒斑をギュッと抱きしめる) 黒斑:は?いや、何を言っているんです。自分は遠慮いたします。離しなさい、クソガキ。 兎角:一緒に帰るって、お前なあ……。 烏白:帰る……! 黒斑:おいこら、離せ。離しなさいって。……くそ!力強いですね、まったく! 0:(「逃げないでよ!一緒に帰ろう!」「一旦手を離してください!」などと押し問答をする烏白と黒斑) 兎角:…………だー、もう!ほら!そいつも一緒でいいから帰るぞ!風呂沸かしてやるから、びしょ濡れ同士一緒に入れ、な!? 黒斑:は!?だから何勝手に……! 烏白:帰ろ?クロ! 黒斑:はい!? 亀毛:ハハッ、クロか!そりゃあ良い!真っ黒のこいつにピッタリだ! 黒斑:猫の名付けみたいに、適当にあだ名を付けるのはやめていただきたい!自分の名前は、黒斑(くろぶち)!クロはクロですが黒斑です!くーろーぶーち! 烏白:一緒にいて、クロ。 黒斑:〜〜〜ッ!あぁ、もう! 0:  黒斑:(M)——そこから妙に懐かれてしまって、今に至る。その日は、烏白(うしろ)の唯一の肉親が亡くなった日だったらしい。遠縁の兎角(とかく)が烏白を一時預かることになったのだが、親戚連中と言い合う中で、烏白がいつの間にかいなくなっているのに気付き、友人の亀毛(きもう)と大慌てで探し回っていたそうだ。 0:  兎角:いやあ、あの時は流石に肝を冷やした。預かって半時間で対象を見失うなんてね。 亀毛:お前が風呂上がりに、化粧水だなんだって無駄な時間かけていたからだけどな!? 兎角:いやあ、ハハハッ!兎にも角にもクロがいてくれて良かったよ。そうでなきゃ、今頃ストレスでお肌がボロボロになっているところだった! 亀毛:ったく……。 0: 烏白:何かね。クロと一緒だと、安心するんだよね。不思議。……少し、お父さんと匂いが似てるからかな。出会った時、絶対に手を離しちゃいけないって……あの時そう思ったんだ。 0:  亀毛:良いじゃないか、烏白のシロと真っ黒のクロ。お似合いだぜ、お前ら。俺らも職場では、「兎角のウサギと亀毛のカメで相性ぴったりだね」なーんて言われるんだよ。なんたって、俺らは最高のバディだからな! 兎角:私としては、このノリが時々鬱陶しいんだけどね。……時々ね。 烏白:ふふ。 0:  黒斑:(M)全身黒づくめだから、「クロ」。何とも安直なあだ名だ。しかも、三者三様で好き勝手言ってくれる。……というか、ウサギとカメは競争相手なのだから、「相性がいい」とはならないだろうに。全く、いい加減な奴らだ。 黒斑:まあ、拠点が変わって、仕事に差し支えるような職でなし。「クロ」というあだ名は不本意だったが、烏白の熱烈な後押しもあり、そのまま自分は、兎角の家に世話になることになった。 黒斑:……兎角と亀毛の生業が、自分の興味を強く揺さぶるものだったことが、兎角の家に住むことを決めた大きな要因だった。……警察。警察だ。自分が選ばなかった道。そちら側の視点から、また何かこの世界について見えることもあるかもしれない。あいつらもあいつらで、急に預かることになった烏白を持て余しており、本人が懐いていて、面倒の見れる自分のような存在が、どうやらありがたいようであった。 0:  兎角:ふーむ、これはこれは。兎にも角にも厄介だ。 亀毛:兎角だけに?ってか最近のその口癖なんなの?キャラ付け? 兎角:うるさい、黙れ。 亀毛:よっと。あーらら。ほんと、こりゃまたひっでえなあ。壁中血だらけだ。 0:(黒斑、いつの間にか音もなく亀毛の背後に立っている) 黒斑:おやおや。マル変ですか? 亀毛:うおっ。びっくりさせんな、ったく。相変わらずでけえな、お前は。 黒斑:ふふ、どうも。背丈だけは人並み以上にありますからね。 兎角:こら、クロ。それ以上先には入るなよ。 黒斑:ええ。弁えていますよ。こう見えても探偵ですから。 兎角:あれ?そういえばシロは? 烏白:いるよ、ここに。 亀毛:だぁあああ!だからなんでお前らは、いつも突然背後にいるんだ!びびらせんな!俺の可愛い可愛いちっちゃな心臓がもたねえだろ、ったく! 烏白:小心者。 亀毛:何か言ったか、ガキンチョ。 烏白:いえ、別に。亀毛さんは顔が整っているだけのビビり野郎、なんて、言ってませんよ、全然。 亀毛:言ってんだよなあ全部!?くそ! 亀毛:あー、それで?詳細は? 兎角:困ったことに、詳細も何もまだ分っちゃいない。壁にはこんなにも血が飛び散っているのに、床はピカピカ。死体もどこにも見つからない。……例の事件だよ。 亀毛:またか。これで何度目だ。 兎角:被害者は、おそらく全員がうら若き女性。……と言っても、犯行現場周辺で、その時期に行方不明となった人物と照らし合わせた予想というだけで……兎にも角にも、今のところなんの確証もない。 亀毛:しかも警察を嘲笑うかのように、狭い範囲で犯行を繰り返してやがる。 黒斑:(匂いを嗅いで)あれ? 0:(黒斑、現場の棚の奥を覗き込む) 黒斑:(小声で)おやおやこれは……どうやら忘れ物ですね。 兎角:どうした?クロ。……っ!これは……。 亀毛:おいおい、こりゃ洒落になんねえなあ。 烏白:これは……指?何でこんな棚の奥に……。 亀毛:おーい。何でそんなに冷静なんだ、お前は。 烏白:慣れ、かな。 亀毛:慣れるなよ、ガキンチョ。 兎角:まったく!先に来た奴らも鑑識も、一体何をやってやがる! 烏白:兎角さん、ちょっと断面見せてください。 兎角:え? 亀毛:下がっとけガキンチョ。……どう殺したらこんな所まで指が吹っ飛ぶんだ? 黒斑:ほら、下がりましょう、烏白。 兎角:おい、亀毛。 亀毛:なんだ。 黒斑:…………。 兎角:流石シロだ。ほら見ろ、これ。 亀毛:あ?……なんだ。切り口が妙だな。綺麗といえば綺麗なんだが、なんだか……、 烏白:なんだか途中で歪んでいる……。 亀毛:鋭利な刃物でスパッと一断ち……って感じでもねえな。凶器はなんだ? 兎角:んー、いや、これだけじゃさっぱり分からん。兎にも角にも、そういう細かい所は、一旦専門に任せよう。 烏白:それにしても……こんな惨い殺し方……。 亀毛:ハッ。犯罪者なんてみんな畜生だ。畜生に、人の道理が分かるもんかよ。 黒斑:……確かに。 兎角:はあ……。こりゃまた暫く、「無能な警察」の見出しで話題になりそうだな。 烏白:でも、ようやくヒントだね。 亀毛:あ? 烏白:どの事件でも異常なまでに綺麗だった床に、初めて取りこぼされた指先(こんせき)……。 兎角:慎重で正確な犯人の、唯一の失敗。今までの計画的な犯行に現れた暗雲。……兎にも角にも、この事件最初の綻び(ほころび)、か。 亀毛:あぁ、なるほど、そういうことか。……これで捜査が進むと良いんだがな。……鑑識の奴らを連れ戻さねえと。 烏白:早く捕まえないとね。……許せないよ。 黒斑:……ええ、本当に。許せませんねえ。 烏白:行こう、クロ。鑑識の人達が戻ってくる。僕らはお邪魔だ。……お腹も空いたし。 黒斑:あぁ、確かに。食事の時間ですね。ご一緒します。 兎角:うーん……。 亀毛:おい兎角、俺らも飯だ。鑑識が来るまでに脳に糖分回さねえと、判断が鈍っちまう。一旦署に戻ろう。出前でいいだろ? 兎角:あ、あぁ……。 0:(場面転換。警察署の一室。烏白と亀毛がすごい勢いで食事を平らげていく) 兎角:……はぁ。あんな現場を見た直後に、よく平気でモノ食べられるねえ、君たち。 亀毛:ゔぁか!はあがへっへはいくははできう、だほーあ!(馬鹿!腹が減っては戦はできぬ、だろうが!) 兎角:え?なんて?……おい、今馬鹿って言ったか? 烏白:はべはいとはいりょうもひおうおくもおひまふから(食べないと体力も思考力も落ちますから) 兎角:は?なんだって?……ったくもう、2人揃って汚ないなあ。クロを見習いなさいよ。君たちと違ってマナーが良いから。 烏白:うるさいなあ。食事くらい好きにさせてよ。 亀毛:全くだぜ!あぐあぐあぐ……。 黒斑:食事は美しく。基本ですよ、烏白。……亀毛さんは論外ですが。 烏白:クロは本当にお上品に食べるよねえ。美味しい?そのお肉。 黒斑:ええ、とっても。烏白も食べます? 烏白:ハハッ。待って、鼻についてる。今誉めたばかりなのに。 黒斑:おや。 0:(黒斑、ソースを舐める) 烏白:そんなに美味しい? 黒斑:ええ。このソースが堪りません。 亀毛:なあ。今のところ、ガイシャはみーんな女なんだろ。犯人はやっぱり男かもな。……いや、嫉妬に狂った女って線もあるか。 烏白:好きが溢れてしまって、その果てに……グサリ! 亀毛:……分からねえ感情だな。 黒斑:全くですね。理解ができません。 兎角:(ハッとして)……被害者はみんな女? 亀毛:あぁ。……何だよ?さっき現場でお前が言ってたことだろ。ボケたか、兎角。 兎角:あぁそうだ!そうだった!ッハハ!なら適任がいるじゃないか! 亀毛:……うげ。何か嫌〜な予感……! 烏白:(食べながら)んぅ? 黒斑:おやおや。 0:(場面転換) 烏白:……んんん?さっきの話どういうこと?帰ろうと思ってたのに、兎角さんたら「ここでちょっと待ってろ!」なんて……、僕課題やりたいのに。 黒斑:ふふ。まあまあ。きっと良いことがありますよ、きっとね。 烏白:……?何だか楽しそうだね、クロ。 黒斑:えぇ、とっても。 0:(一方その頃隣の部屋では……) 亀毛:はい?あ、あの……と、兎角さぁん? 兎角:被害者はみーんな女だ。言ってる意味、分・か・る・だ・ろ? 亀毛:お、おい。まさかとは思うが、俺を……? 0:(兎角、亀毛ににじるよる。亀毛、息が荒くなっていく) 兎角:さあ。始めようか、亀毛。どんな服がいい?綺麗系か、可愛い系か?いやなに、恐れることはないぞ!兎にも角にも、お前は座っているだけでいい!私が細部までしっっっかり拘ってやる! 亀毛:や、やめろ、メイクオタク!近付くな!囮役が必要なら、お前が化粧すれば良いだろう!? 兎角:なーに言ってるんだ。お前以上の適任はいないぞ。恐ろしくメイク映えするその造詣!友人ながら惚れ惚れする! 亀毛:あーっ!これほど褒め言葉が怖いことはない! 兎角:お前は最高の素材だ!さあさあ、往生際が悪いぞ。兎にも角にも、私がお前を完璧な女性にしてやるからな! 亀毛:い、い、い、嫌だぁあああああ!!!!! 0:(1時間後) 亀毛:これが俺……いや、私……? 兎角:どうだ!サイッコーに美人だろ! 亀毛:お前すごいな。何をどうしたら俺がこうなる? 兎角:だから言ったろ。お前は素材がいいんだよ。さあ!兎にも角にもシロ達に見せに行くぞ! 亀毛:え!?俺このまま外に出るのか!? 兎角:当たり前だろう。囮捜査なんだから!ほら、早く! 亀毛:う、うわぁあああああ〜! 0:(間) 兎角:と、言うことで。今回捜査に協力してくれることになった……えー、えっと、名前はー、えー、 亀毛:(指示があるまで通常の声。小声で)……もうどうにでもしてくれ……。 兎角:亀子(かめこ)だ! 亀毛:亀子!? 烏白:わあ……! 0:(烏白、女装した亀毛に近付く) 亀毛:うぇえ!? 兎角:やばい、早速バレたか。 黒斑:ふふ。やはり亀毛さんを女装させる作戦でしたか。お似合いです、とても。 兎角:兎にも角にも、これでバレなきゃ、私の化粧のクオリティが保証されるんだが……。 烏白:な、 亀毛:な……!? 烏白:なんっっって美しい! 亀毛:(同時に)はぁああああ!? 兎角:(同時に)よっしゃー! 黒斑:(同時に)おやおや。 亀毛:ふざけんなガキンチョ、俺は……! 烏白:ガキンチョ? 亀毛:あ、いや……! 兎角:あー!かりんとう!かりんとうって言ったんだ、彼女は! 烏白:かりんとう……?一体なぜ? 黒斑:これは厳しい。 兎角:ほほほほほら!海外ではよくあるだろう!愛しい存在に大して、やれ「マイスイートポテト」だの、やれ「ラブリーピッグ」だの!ね!ほら!彼女はお爺様が北欧の出なんだ!だから兎にも角にもつい、ついね!そういった言葉が出てきてしまう! 烏白:なるほど……!クォーターなのですね。道理で美しい! 黒斑:通るんだ……。 亀毛:そ、そうなんだ。 烏白:あれ、そういえばお声が……。お風邪を召していらっしゃるので? 兎角:亀子! 亀毛:(女声で)いーえ!大丈夫ですわぁああ! 烏白:そう、ですか……。それにしても、つい出てくる言葉がかりんとうとは……やけに古風ですね。 兎角:彼女は日本生まれで、日本の文化に強く誇りを持っているんだ! 亀毛:おもち!相撲!醤油!舞妓!富士山(ふじやま)!(思いつく限りのジャパンを羅列する) 烏白:なるほど……。 黒斑:これで気付かないのが烏白だよなあ。 烏白:ん?どうした?クロ。 黒斑:いいえ、何も。大人なようで子供なのが、君の愛らしいところですよ、烏白。 烏白:なーに、その顔。なーんか、嫌な感じだなあ。 兎角:いやあ!兎にも角にもこれで私の腕が証明された!さ!囮捜査囮捜査!!!!! 亀毛:うぅうううう。 0:(数時間後。亀毛、もとい亀子はずーんと落ち込んでいる) 烏白:だ、大丈夫ですよ亀子さん!貴女はとても魅力的な女性ですから! 亀毛:(女声のまま)やめて、下手な慰めは余計に辛くなる。 兎角:いやあ、釣れなかったなあ!犯人! 亀毛:うぐ! 烏白:犯人の奴、見る目がないんですよ!亀子さんに惹かれないだなんて!……亀子さん!落ち込まないでくださいね! 亀毛:やめて……もうやめて……。うぅ。何だろう、この負けた感じ……。 兎角:兎にも角にも残念だったなあ、亀子。 亀毛:うるせぇよ!……ぁ。う、うるさいわよ! 0:(烏白、意を決したように一歩踏み出す) 黒斑:ん?烏白? 烏白:か、亀子さん!犯人には分からなかったかもしれないけど……貴女は誰よりも美しい!出会ったばかりでこんなことを言うのは、おかしいと思われるかもしれませんが、僕は……っ!僕は貴女のことが……! 黒斑:おやおやおや。 亀毛:うぇ!?ままま待って!?顔が近い! 烏白:貴女が好きです!亀子さん! 亀毛:や、やめろシロ! 烏白:わあ!名前呼んでくれて嬉しいです、亀子さん!僕、早く貴女に相応しい男になります!だから、だから……! 亀毛:ストップストップストーップ!おおおお俺は亀毛だーーーーーッ!!!!!!! 烏白:え。 0:(また数時間後。残業する亀毛。扉を開ける烏白) 烏白:……亀毛さん? 亀毛:おう、シロ。何だぁ?兎角も残業してんのか?まったく、こんな時間に、しかもこーんな所を子供が1人でうろついてんのはおかしいだろーが。 0:(間) 亀毛:……あー。今日はすまなかったな、ほんと。 烏白:やめてください。僕の黒歴史です。男に……それもよりにもよって亀毛さんに告白するだなんて……思い出しただけで吐きそうだ。うぇ。 亀毛:ははは……。 烏白:……煮詰まってそうですね、捜査。 亀毛:あぁ。また今夜も帰れそうにない。 0:(亀毛が背もたれに体重をかけると、椅子がキイ、と鳴る) 烏白:その椅子……。 亀毛:ん? 烏白:いえ。座り心地良さそうですね。 亀毛:あぁ。私物だ、私物。家にも帰れねえ、仮眠室も碌に使えねえ職業のくせに、支給品の椅子がしょぼいのだけはいただけねえからよ。 烏白:監視カメラ、確認してたんですか? 亀毛:あぁ。……おかしいんだよ。どう考えても、トリックが思い浮かばない。こんなに監視カメラがあって、犯人はどうやって一切撮られずに現場にやって来れた……? 烏白:んー。ベタだけど、通気口とか? 亀毛:死角から入れるような通気口はねえな。 烏白:なるほど。……うーん。誰かに変装して、とか。 亀毛:怪人二十面相みたいに、闇世に紛れて、か?兎角くらいの腕がありゃあまあ……いや、普通に考えたら現実じゃありねえ話だよな。 烏白:……ですね。あ、そういえば。クロを見ませんでしたか?どこにもいなくて。 亀毛:さあな。ったく。いなくなって困るなら、ちゃんと手綱繋いどけよな。 烏白:はは。じゃあちょっと探してきます。 0:(立ち去る烏白) 亀毛:に、しても……本当にどこにも映ってねえな。この辺街灯もなくて見辛えったら。 亀毛:あー!早くこんなん終わらせてビールの1杯でも飲みてえわ。なーにが悲しくて休日にこんな……って、ん?今なんか……。なんだ、巻き戻してもう一度……くそ、見にくいな。んん?今、黒い影みたいなのが……、 0:(扉が開く) 亀毛:ん?どうした烏白、忘れものか?いや、兎角か?なあ、ちょっと見て欲しいんだ、この録画のここのこれ……。ッ!? 0:(亀毛の叫び声がこだまする) 0:  0:(次の日) 兎角:シロ!シロはいるか! 烏白:どうしたんです、兎角さん、そんなに慌てて。 兎角:……亀毛が、やられた。 0:(黒斑、隣にいる烏白に目を遣る) 兎角:殺されたんだ、例のホシに!……チクショウ、何だって亀毛が……!とにかく!いつも通り、ご丁寧にも床は磨いたようにピカピカで、亀毛の椅子にだけ血がべっとりと付いてた!あの布張りの椅子に、血が!遺体はまだ見つかってないが、でもしかし……! 烏白:落ち着いてください、兎角さん! 兎角:あ、あぁ、悪い……。とにかく、しばらく家に帰れそうにない。すまんが、クロと一緒に家を頼む。……亀毛が狙われたんだ。お前もなるべく外に出ず、家にいて欲しい。 烏白:分かり、ました……。あ、あの、兎角さん……! 兎角:ん?なんだ? 烏白:いえ……何でも、ないです。 兎角:何か気付いたことがあれば、携帯に連絡をくれ。じゃあな。 0:(間) 烏白:……クロ? 黒斑:はい。 烏白:……帰ろうか。 黒斑:ええ。 0:(場面転換。黒斑、いつも通り兎角宅で食事をしている) 烏白:美味しい?クロ。 黒斑:ええ。……どうしたんです?烏白は食べないのですか。珍しいですね。食欲が出ませんか? 烏白:クロは……お肉が好きだよね。 黒斑:ええ。自分は肉食なんです。……ん?どうしました? 0:(烏白、黒斑の皿をじっと見つめる) 烏白:……やっぱり。 黒斑:食事の途中で、人様の皿を覗き込むのはお行儀が悪いですよ、烏白。 烏白:(被せて)君なのかい。連続殺人事件の犯人は。 0:(長い間) 黒斑:あぁ、やっぱり君は鋭いね。そういうところが、とても好きだよ。うん、そう。犯人は自分だ。よく気付いたね。花丸百点だ。 烏白:だって、だっておかしいんだよ、クロ。君、昨日……、 黒斑:昨日? 烏白:僕、昨日クロを探してたんだ。どこにもいなくて、兎角さんや亀毛さんにも訊いて。でも、クロ、君……やっと見つかったと思ったら、亀毛さんの部屋から……出てきたよね。 黒斑:見られていたのか。 烏白:それに、この肉の断面……。 黒斑:あぁ、本当に聡い子ですね、君は。でも駄目だ、駄目です烏白、それ以上は……。 烏白:あの時の指先と、同じだよね? 0:(間) 黒斑:ッハハ。困ったな。君と出会ってから、不思議な気持ちになることがある。君みたいに賢い子に好感を持つのは当然だけれど、でもそれ以上に……あぁ。なるほど。これが。 黒斑:「好きが溢れてしまう」って、ことなのかな。 烏白:クロ、君まさか。人間を……被害者みんなを……食べたのかい? 黒斑:ふふ。ええ、言ったでしょう。自分は肉食なんです。ぜーんぶぜんぶ、自分が食べました。全て綺麗に。食べ残しなく。……指先を残してしまったのは、とんだマナー違反ですね。全く、自分で自分が許せませんよ。……でも、壁や椅子に飛んだ血は仕方がないですが、床は丁寧に舐めたのですよ。 烏白:クロ。信じたくない。今だって信じられない!でも証拠が……犯人は君だって、脳が警鐘を鳴らしてる! 黒斑:あはははは!……本当に、君は素晴らしい子だ。堪らない。我慢できない。あぁ、これが……愛、なのですね。 0:(遠くで烏白の悲鳴がこだまする) 0:  0:(長い間) 兎角:ただいま〜!シロ?……あれ、あいつどこに行った。……ったく、家にいろって言ったのに。また勝手にうろついて……。あぁ、いや。靴はあるか。……寝てるのか? 黒斑:おや、兎角さん。お帰りなさい。 兎角:おぉ、クロ。よーしよしよしよし。全く、お前はちゃんと出迎えてくれるのに、兎にも角にも飼い主は何をしてるんだ、ええ? 黒斑:ふふ。ねえ、知ってますか、兎角さん。 兎角:ん?どうした、クロ? 黒斑:昔から、飼い主を食べちゃう犬って、少なからずいるんですよ。どうせ人間が、犬に虐待でもしてたんだろって思うでしょう?それがねえ、そういう形跡は全く。人間と犬の関係が良好であればあるほど、そういう事例が起きるって説もあるくらいで。飼い主が気絶したり亡くなったりすると、どうやら犬ってパニックになるらしいんですよ。飼い主を起こそうと顔を舐めている内に、起きない飼い主にパニックを起こして、それが噛むという行動として現れる、とか。ふふ。面白いですよね。最愛の相手を起こそうとして、いつの間にか食べちゃう……なんて。ふふふ。あぁ。もちろんわざとじゃないんですよ。……わざと噛むだなんて……ねえ?そうしたら犬と言えど、明確な殺人ですもの。……あぁ。でも。日本だと法律上、飼い犬がしでかす全ての責任は、飼い主にあるんでしたっけ?……つまり、飼い主を食べてしまった飼い犬の罪は……食べられた飼い主にあるってことですね!……ふふふふ!あぁ。「もし」自分の声が人間に聴こえてしまったら、きっと怒られてしまいますね。 兎角:あぁ。そんなにクンクン鳴いてくれるな。なんだ、慰めてくれているのか?あぁ、ごめんな。駄目だな。私がしっかりしないといけないのに。ハハッ、お前は本当に、大人しい良い犬だなあ、クロ。それに比べてシロの奴……全く手間のかかる……。 0:  亀毛:(声だけ)畜生に、人の道理が分かるもんかよ。 0:  黒斑:(M)あぁ、亀毛さん。貴方のあの言葉は、大変的を得ておりました。えぇえぇ、その通り。自分のような「犬畜生」に、人の道理などが分かるはずがないのです。 黒斑:自分は、人の罰せない悪を裁いて参りました。時に子犬を承認欲求の道具として扱い、大きくなった途端に世話を放棄した者を。時に野良犬を蹴飛ばすことで、ストレスを発散していた者を。時に秘密がバレそうになったり、邪魔になったりした者を。たまたま警察にバレてからは、女性が多かったようですが、ね。 黒斑:でも烏白、貴方は……貴方だけは。そんな建前どうでも良かった。貴方のことを大切に思うようになったから。一緒にいて、情が湧いたから。「食べたくなったから」、いただきました。 0:  兎角:ほら、クロ、行くぞ。 黒斑:ふふ。…………わん。 0:  黒斑:(M)兎角さん。兎角さん。そうして貴方がリビングに入った時。そして壁の赤いシミを見つけた時。貴方は一体どんな反応をするのでしょうか。……あぁ。ええ。とてもとても、楽しみです。 0:  黒斑:食べちゃいたい程可愛いって、言いますもんね、烏白。ふふ。 黒斑:ご馳走様でした。 0:台本終了 0:  0:  0:  0:黒斑→今回唯一人間じゃない存在。人間の言葉を理解する黒い犬。自称探偵。黒斑の声は、他3人には、ただの犬の鳴き声にしか聞こえない。 0:  0:兎に角はなく、亀に毛はなく、烏は白くない。兎角、亀毛、烏白は、この世にありえないもの、存在しないものの例え。……他3人はみんな同じ意味の名前なのに、黒斑は……? 0:黒斑とは、他の色に黒が混ざり斑らになること。……だって黒斑は、人間に混ざった異端分子だから。 0:犬の世界からしたら、人間の方が異端なのかもしれないけれど。

黒斑:(M)昔から、罰されない悪というものが許せなかった。だから警察ではなく、「探偵」などという職についた。警察に裁けない犯罪も、自分なら……そんな驕りもあったのかもしれない。そうして正義を振りかざす自分が疎ましかったのだろうか。周りにいた筈の仲間は、いつの間にかいなくなって、気が付けば一匹狼のはぐれ者。まあ別に、誰がなくて困る事もなし。 黒斑:……そんな考えの自分が、何の気まぐれか、濡れそぼった子犬のようなそいつに、声をかけてしまった。 黒斑:  黒斑:——それが、全ての始まりだった。 0:  黒斑:あの。そんな所で何をしているのです。ここら辺は治安が悪い。縄張り争いの渦中のシマです。早くどこか移動した方がいい。 烏白:……あぁ。へへ。こんばんは。ここは君の縄張り?ごめんね、お邪魔してるよ。 黒斑:お邪魔してるよ、じゃないでしょう。びしょ濡れじゃないですか。それに、初対面の相手に「君」と言うのも、礼儀がなっていないですね、「クソガキ」。 烏白:なんか君、良い香りがする……。 黒斑:は?ちょっと、何ですかいきなり……! 0:(烏白、倒れるように黒斑にもたれかかり、苦しそうに唸る) 黒斑:え?こ、こら……!(ハッとして)貴方……すごい熱じゃないですか。 0:(道の向こうから亀毛と兎角が走ってくる) 亀毛:……あ!兎角(とかく)!いたぞ!こっちだ! 黒斑:ん?……あぁ、良かった。どうやら保護者様のお迎えですよ。ほら、起きなさい、クソガキ。 兎角:シロ!あぁ。兎にも角にも良かった、見つかって。 兎角:……あ。ごめんな。君がシロを保護してくれていたのか。感謝する。 亀毛:うわっ!お前ら揃いも揃ってびしょ濡れじゃねえか! 黒斑:ええ。この子がもたれかかってきたおかげで、自分までこのザマです。 烏白:こいつと一緒に、帰る……。 0:(烏白、黒斑をギュッと抱きしめる) 黒斑:は?いや、何を言っているんです。自分は遠慮いたします。離しなさい、クソガキ。 兎角:一緒に帰るって、お前なあ……。 烏白:帰る……! 黒斑:おいこら、離せ。離しなさいって。……くそ!力強いですね、まったく! 0:(「逃げないでよ!一緒に帰ろう!」「一旦手を離してください!」などと押し問答をする烏白と黒斑) 兎角:…………だー、もう!ほら!そいつも一緒でいいから帰るぞ!風呂沸かしてやるから、びしょ濡れ同士一緒に入れ、な!? 黒斑:は!?だから何勝手に……! 烏白:帰ろ?クロ! 黒斑:はい!? 亀毛:ハハッ、クロか!そりゃあ良い!真っ黒のこいつにピッタリだ! 黒斑:猫の名付けみたいに、適当にあだ名を付けるのはやめていただきたい!自分の名前は、黒斑(くろぶち)!クロはクロですが黒斑です!くーろーぶーち! 烏白:一緒にいて、クロ。 黒斑:〜〜〜ッ!あぁ、もう! 0:  黒斑:(M)——そこから妙に懐かれてしまって、今に至る。その日は、烏白(うしろ)の唯一の肉親が亡くなった日だったらしい。遠縁の兎角(とかく)が烏白を一時預かることになったのだが、親戚連中と言い合う中で、烏白がいつの間にかいなくなっているのに気付き、友人の亀毛(きもう)と大慌てで探し回っていたそうだ。 0:  兎角:いやあ、あの時は流石に肝を冷やした。預かって半時間で対象を見失うなんてね。 亀毛:お前が風呂上がりに、化粧水だなんだって無駄な時間かけていたからだけどな!? 兎角:いやあ、ハハハッ!兎にも角にもクロがいてくれて良かったよ。そうでなきゃ、今頃ストレスでお肌がボロボロになっているところだった! 亀毛:ったく……。 0: 烏白:何かね。クロと一緒だと、安心するんだよね。不思議。……少し、お父さんと匂いが似てるからかな。出会った時、絶対に手を離しちゃいけないって……あの時そう思ったんだ。 0:  亀毛:良いじゃないか、烏白のシロと真っ黒のクロ。お似合いだぜ、お前ら。俺らも職場では、「兎角のウサギと亀毛のカメで相性ぴったりだね」なーんて言われるんだよ。なんたって、俺らは最高のバディだからな! 兎角:私としては、このノリが時々鬱陶しいんだけどね。……時々ね。 烏白:ふふ。 0:  黒斑:(M)全身黒づくめだから、「クロ」。何とも安直なあだ名だ。しかも、三者三様で好き勝手言ってくれる。……というか、ウサギとカメは競争相手なのだから、「相性がいい」とはならないだろうに。全く、いい加減な奴らだ。 黒斑:まあ、拠点が変わって、仕事に差し支えるような職でなし。「クロ」というあだ名は不本意だったが、烏白の熱烈な後押しもあり、そのまま自分は、兎角の家に世話になることになった。 黒斑:……兎角と亀毛の生業が、自分の興味を強く揺さぶるものだったことが、兎角の家に住むことを決めた大きな要因だった。……警察。警察だ。自分が選ばなかった道。そちら側の視点から、また何かこの世界について見えることもあるかもしれない。あいつらもあいつらで、急に預かることになった烏白を持て余しており、本人が懐いていて、面倒の見れる自分のような存在が、どうやらありがたいようであった。 0:  兎角:ふーむ、これはこれは。兎にも角にも厄介だ。 亀毛:兎角だけに?ってか最近のその口癖なんなの?キャラ付け? 兎角:うるさい、黙れ。 亀毛:よっと。あーらら。ほんと、こりゃまたひっでえなあ。壁中血だらけだ。 0:(黒斑、いつの間にか音もなく亀毛の背後に立っている) 黒斑:おやおや。マル変ですか? 亀毛:うおっ。びっくりさせんな、ったく。相変わらずでけえな、お前は。 黒斑:ふふ、どうも。背丈だけは人並み以上にありますからね。 兎角:こら、クロ。それ以上先には入るなよ。 黒斑:ええ。弁えていますよ。こう見えても探偵ですから。 兎角:あれ?そういえばシロは? 烏白:いるよ、ここに。 亀毛:だぁあああ!だからなんでお前らは、いつも突然背後にいるんだ!びびらせんな!俺の可愛い可愛いちっちゃな心臓がもたねえだろ、ったく! 烏白:小心者。 亀毛:何か言ったか、ガキンチョ。 烏白:いえ、別に。亀毛さんは顔が整っているだけのビビり野郎、なんて、言ってませんよ、全然。 亀毛:言ってんだよなあ全部!?くそ! 亀毛:あー、それで?詳細は? 兎角:困ったことに、詳細も何もまだ分っちゃいない。壁にはこんなにも血が飛び散っているのに、床はピカピカ。死体もどこにも見つからない。……例の事件だよ。 亀毛:またか。これで何度目だ。 兎角:被害者は、おそらく全員がうら若き女性。……と言っても、犯行現場周辺で、その時期に行方不明となった人物と照らし合わせた予想というだけで……兎にも角にも、今のところなんの確証もない。 亀毛:しかも警察を嘲笑うかのように、狭い範囲で犯行を繰り返してやがる。 黒斑:(匂いを嗅いで)あれ? 0:(黒斑、現場の棚の奥を覗き込む) 黒斑:(小声で)おやおやこれは……どうやら忘れ物ですね。 兎角:どうした?クロ。……っ!これは……。 亀毛:おいおい、こりゃ洒落になんねえなあ。 烏白:これは……指?何でこんな棚の奥に……。 亀毛:おーい。何でそんなに冷静なんだ、お前は。 烏白:慣れ、かな。 亀毛:慣れるなよ、ガキンチョ。 兎角:まったく!先に来た奴らも鑑識も、一体何をやってやがる! 烏白:兎角さん、ちょっと断面見せてください。 兎角:え? 亀毛:下がっとけガキンチョ。……どう殺したらこんな所まで指が吹っ飛ぶんだ? 黒斑:ほら、下がりましょう、烏白。 兎角:おい、亀毛。 亀毛:なんだ。 黒斑:…………。 兎角:流石シロだ。ほら見ろ、これ。 亀毛:あ?……なんだ。切り口が妙だな。綺麗といえば綺麗なんだが、なんだか……、 烏白:なんだか途中で歪んでいる……。 亀毛:鋭利な刃物でスパッと一断ち……って感じでもねえな。凶器はなんだ? 兎角:んー、いや、これだけじゃさっぱり分からん。兎にも角にも、そういう細かい所は、一旦専門に任せよう。 烏白:それにしても……こんな惨い殺し方……。 亀毛:ハッ。犯罪者なんてみんな畜生だ。畜生に、人の道理が分かるもんかよ。 黒斑:……確かに。 兎角:はあ……。こりゃまた暫く、「無能な警察」の見出しで話題になりそうだな。 烏白:でも、ようやくヒントだね。 亀毛:あ? 烏白:どの事件でも異常なまでに綺麗だった床に、初めて取りこぼされた指先(こんせき)……。 兎角:慎重で正確な犯人の、唯一の失敗。今までの計画的な犯行に現れた暗雲。……兎にも角にも、この事件最初の綻び(ほころび)、か。 亀毛:あぁ、なるほど、そういうことか。……これで捜査が進むと良いんだがな。……鑑識の奴らを連れ戻さねえと。 烏白:早く捕まえないとね。……許せないよ。 黒斑:……ええ、本当に。許せませんねえ。 烏白:行こう、クロ。鑑識の人達が戻ってくる。僕らはお邪魔だ。……お腹も空いたし。 黒斑:あぁ、確かに。食事の時間ですね。ご一緒します。 兎角:うーん……。 亀毛:おい兎角、俺らも飯だ。鑑識が来るまでに脳に糖分回さねえと、判断が鈍っちまう。一旦署に戻ろう。出前でいいだろ? 兎角:あ、あぁ……。 0:(場面転換。警察署の一室。烏白と亀毛がすごい勢いで食事を平らげていく) 兎角:……はぁ。あんな現場を見た直後に、よく平気でモノ食べられるねえ、君たち。 亀毛:ゔぁか!はあがへっへはいくははできう、だほーあ!(馬鹿!腹が減っては戦はできぬ、だろうが!) 兎角:え?なんて?……おい、今馬鹿って言ったか? 烏白:はべはいとはいりょうもひおうおくもおひまふから(食べないと体力も思考力も落ちますから) 兎角:は?なんだって?……ったくもう、2人揃って汚ないなあ。クロを見習いなさいよ。君たちと違ってマナーが良いから。 烏白:うるさいなあ。食事くらい好きにさせてよ。 亀毛:全くだぜ!あぐあぐあぐ……。 黒斑:食事は美しく。基本ですよ、烏白。……亀毛さんは論外ですが。 烏白:クロは本当にお上品に食べるよねえ。美味しい?そのお肉。 黒斑:ええ、とっても。烏白も食べます? 烏白:ハハッ。待って、鼻についてる。今誉めたばかりなのに。 黒斑:おや。 0:(黒斑、ソースを舐める) 烏白:そんなに美味しい? 黒斑:ええ。このソースが堪りません。 亀毛:なあ。今のところ、ガイシャはみーんな女なんだろ。犯人はやっぱり男かもな。……いや、嫉妬に狂った女って線もあるか。 烏白:好きが溢れてしまって、その果てに……グサリ! 亀毛:……分からねえ感情だな。 黒斑:全くですね。理解ができません。 兎角:(ハッとして)……被害者はみんな女? 亀毛:あぁ。……何だよ?さっき現場でお前が言ってたことだろ。ボケたか、兎角。 兎角:あぁそうだ!そうだった!ッハハ!なら適任がいるじゃないか! 亀毛:……うげ。何か嫌〜な予感……! 烏白:(食べながら)んぅ? 黒斑:おやおや。 0:(場面転換) 烏白:……んんん?さっきの話どういうこと?帰ろうと思ってたのに、兎角さんたら「ここでちょっと待ってろ!」なんて……、僕課題やりたいのに。 黒斑:ふふ。まあまあ。きっと良いことがありますよ、きっとね。 烏白:……?何だか楽しそうだね、クロ。 黒斑:えぇ、とっても。 0:(一方その頃隣の部屋では……) 亀毛:はい?あ、あの……と、兎角さぁん? 兎角:被害者はみーんな女だ。言ってる意味、分・か・る・だ・ろ? 亀毛:お、おい。まさかとは思うが、俺を……? 0:(兎角、亀毛ににじるよる。亀毛、息が荒くなっていく) 兎角:さあ。始めようか、亀毛。どんな服がいい?綺麗系か、可愛い系か?いやなに、恐れることはないぞ!兎にも角にも、お前は座っているだけでいい!私が細部までしっっっかり拘ってやる! 亀毛:や、やめろ、メイクオタク!近付くな!囮役が必要なら、お前が化粧すれば良いだろう!? 兎角:なーに言ってるんだ。お前以上の適任はいないぞ。恐ろしくメイク映えするその造詣!友人ながら惚れ惚れする! 亀毛:あーっ!これほど褒め言葉が怖いことはない! 兎角:お前は最高の素材だ!さあさあ、往生際が悪いぞ。兎にも角にも、私がお前を完璧な女性にしてやるからな! 亀毛:い、い、い、嫌だぁあああああ!!!!! 0:(1時間後) 亀毛:これが俺……いや、私……? 兎角:どうだ!サイッコーに美人だろ! 亀毛:お前すごいな。何をどうしたら俺がこうなる? 兎角:だから言ったろ。お前は素材がいいんだよ。さあ!兎にも角にもシロ達に見せに行くぞ! 亀毛:え!?俺このまま外に出るのか!? 兎角:当たり前だろう。囮捜査なんだから!ほら、早く! 亀毛:う、うわぁあああああ〜! 0:(間) 兎角:と、言うことで。今回捜査に協力してくれることになった……えー、えっと、名前はー、えー、 亀毛:(指示があるまで通常の声。小声で)……もうどうにでもしてくれ……。 兎角:亀子(かめこ)だ! 亀毛:亀子!? 烏白:わあ……! 0:(烏白、女装した亀毛に近付く) 亀毛:うぇえ!? 兎角:やばい、早速バレたか。 黒斑:ふふ。やはり亀毛さんを女装させる作戦でしたか。お似合いです、とても。 兎角:兎にも角にも、これでバレなきゃ、私の化粧のクオリティが保証されるんだが……。 烏白:な、 亀毛:な……!? 烏白:なんっっって美しい! 亀毛:(同時に)はぁああああ!? 兎角:(同時に)よっしゃー! 黒斑:(同時に)おやおや。 亀毛:ふざけんなガキンチョ、俺は……! 烏白:ガキンチョ? 亀毛:あ、いや……! 兎角:あー!かりんとう!かりんとうって言ったんだ、彼女は! 烏白:かりんとう……?一体なぜ? 黒斑:これは厳しい。 兎角:ほほほほほら!海外ではよくあるだろう!愛しい存在に大して、やれ「マイスイートポテト」だの、やれ「ラブリーピッグ」だの!ね!ほら!彼女はお爺様が北欧の出なんだ!だから兎にも角にもつい、ついね!そういった言葉が出てきてしまう! 烏白:なるほど……!クォーターなのですね。道理で美しい! 黒斑:通るんだ……。 亀毛:そ、そうなんだ。 烏白:あれ、そういえばお声が……。お風邪を召していらっしゃるので? 兎角:亀子! 亀毛:(女声で)いーえ!大丈夫ですわぁああ! 烏白:そう、ですか……。それにしても、つい出てくる言葉がかりんとうとは……やけに古風ですね。 兎角:彼女は日本生まれで、日本の文化に強く誇りを持っているんだ! 亀毛:おもち!相撲!醤油!舞妓!富士山(ふじやま)!(思いつく限りのジャパンを羅列する) 烏白:なるほど……。 黒斑:これで気付かないのが烏白だよなあ。 烏白:ん?どうした?クロ。 黒斑:いいえ、何も。大人なようで子供なのが、君の愛らしいところですよ、烏白。 烏白:なーに、その顔。なーんか、嫌な感じだなあ。 兎角:いやあ!兎にも角にもこれで私の腕が証明された!さ!囮捜査囮捜査!!!!! 亀毛:うぅうううう。 0:(数時間後。亀毛、もとい亀子はずーんと落ち込んでいる) 烏白:だ、大丈夫ですよ亀子さん!貴女はとても魅力的な女性ですから! 亀毛:(女声のまま)やめて、下手な慰めは余計に辛くなる。 兎角:いやあ、釣れなかったなあ!犯人! 亀毛:うぐ! 烏白:犯人の奴、見る目がないんですよ!亀子さんに惹かれないだなんて!……亀子さん!落ち込まないでくださいね! 亀毛:やめて……もうやめて……。うぅ。何だろう、この負けた感じ……。 兎角:兎にも角にも残念だったなあ、亀子。 亀毛:うるせぇよ!……ぁ。う、うるさいわよ! 0:(烏白、意を決したように一歩踏み出す) 黒斑:ん?烏白? 烏白:か、亀子さん!犯人には分からなかったかもしれないけど……貴女は誰よりも美しい!出会ったばかりでこんなことを言うのは、おかしいと思われるかもしれませんが、僕は……っ!僕は貴女のことが……! 黒斑:おやおやおや。 亀毛:うぇ!?ままま待って!?顔が近い! 烏白:貴女が好きです!亀子さん! 亀毛:や、やめろシロ! 烏白:わあ!名前呼んでくれて嬉しいです、亀子さん!僕、早く貴女に相応しい男になります!だから、だから……! 亀毛:ストップストップストーップ!おおおお俺は亀毛だーーーーーッ!!!!!!! 烏白:え。 0:(また数時間後。残業する亀毛。扉を開ける烏白) 烏白:……亀毛さん? 亀毛:おう、シロ。何だぁ?兎角も残業してんのか?まったく、こんな時間に、しかもこーんな所を子供が1人でうろついてんのはおかしいだろーが。 0:(間) 亀毛:……あー。今日はすまなかったな、ほんと。 烏白:やめてください。僕の黒歴史です。男に……それもよりにもよって亀毛さんに告白するだなんて……思い出しただけで吐きそうだ。うぇ。 亀毛:ははは……。 烏白:……煮詰まってそうですね、捜査。 亀毛:あぁ。また今夜も帰れそうにない。 0:(亀毛が背もたれに体重をかけると、椅子がキイ、と鳴る) 烏白:その椅子……。 亀毛:ん? 烏白:いえ。座り心地良さそうですね。 亀毛:あぁ。私物だ、私物。家にも帰れねえ、仮眠室も碌に使えねえ職業のくせに、支給品の椅子がしょぼいのだけはいただけねえからよ。 烏白:監視カメラ、確認してたんですか? 亀毛:あぁ。……おかしいんだよ。どう考えても、トリックが思い浮かばない。こんなに監視カメラがあって、犯人はどうやって一切撮られずに現場にやって来れた……? 烏白:んー。ベタだけど、通気口とか? 亀毛:死角から入れるような通気口はねえな。 烏白:なるほど。……うーん。誰かに変装して、とか。 亀毛:怪人二十面相みたいに、闇世に紛れて、か?兎角くらいの腕がありゃあまあ……いや、普通に考えたら現実じゃありねえ話だよな。 烏白:……ですね。あ、そういえば。クロを見ませんでしたか?どこにもいなくて。 亀毛:さあな。ったく。いなくなって困るなら、ちゃんと手綱繋いどけよな。 烏白:はは。じゃあちょっと探してきます。 0:(立ち去る烏白) 亀毛:に、しても……本当にどこにも映ってねえな。この辺街灯もなくて見辛えったら。 亀毛:あー!早くこんなん終わらせてビールの1杯でも飲みてえわ。なーにが悲しくて休日にこんな……って、ん?今なんか……。なんだ、巻き戻してもう一度……くそ、見にくいな。んん?今、黒い影みたいなのが……、 0:(扉が開く) 亀毛:ん?どうした烏白、忘れものか?いや、兎角か?なあ、ちょっと見て欲しいんだ、この録画のここのこれ……。ッ!? 0:(亀毛の叫び声がこだまする) 0:  0:(次の日) 兎角:シロ!シロはいるか! 烏白:どうしたんです、兎角さん、そんなに慌てて。 兎角:……亀毛が、やられた。 0:(黒斑、隣にいる烏白に目を遣る) 兎角:殺されたんだ、例のホシに!……チクショウ、何だって亀毛が……!とにかく!いつも通り、ご丁寧にも床は磨いたようにピカピカで、亀毛の椅子にだけ血がべっとりと付いてた!あの布張りの椅子に、血が!遺体はまだ見つかってないが、でもしかし……! 烏白:落ち着いてください、兎角さん! 兎角:あ、あぁ、悪い……。とにかく、しばらく家に帰れそうにない。すまんが、クロと一緒に家を頼む。……亀毛が狙われたんだ。お前もなるべく外に出ず、家にいて欲しい。 烏白:分かり、ました……。あ、あの、兎角さん……! 兎角:ん?なんだ? 烏白:いえ……何でも、ないです。 兎角:何か気付いたことがあれば、携帯に連絡をくれ。じゃあな。 0:(間) 烏白:……クロ? 黒斑:はい。 烏白:……帰ろうか。 黒斑:ええ。 0:(場面転換。黒斑、いつも通り兎角宅で食事をしている) 烏白:美味しい?クロ。 黒斑:ええ。……どうしたんです?烏白は食べないのですか。珍しいですね。食欲が出ませんか? 烏白:クロは……お肉が好きだよね。 黒斑:ええ。自分は肉食なんです。……ん?どうしました? 0:(烏白、黒斑の皿をじっと見つめる) 烏白:……やっぱり。 黒斑:食事の途中で、人様の皿を覗き込むのはお行儀が悪いですよ、烏白。 烏白:(被せて)君なのかい。連続殺人事件の犯人は。 0:(長い間) 黒斑:あぁ、やっぱり君は鋭いね。そういうところが、とても好きだよ。うん、そう。犯人は自分だ。よく気付いたね。花丸百点だ。 烏白:だって、だっておかしいんだよ、クロ。君、昨日……、 黒斑:昨日? 烏白:僕、昨日クロを探してたんだ。どこにもいなくて、兎角さんや亀毛さんにも訊いて。でも、クロ、君……やっと見つかったと思ったら、亀毛さんの部屋から……出てきたよね。 黒斑:見られていたのか。 烏白:それに、この肉の断面……。 黒斑:あぁ、本当に聡い子ですね、君は。でも駄目だ、駄目です烏白、それ以上は……。 烏白:あの時の指先と、同じだよね? 0:(間) 黒斑:ッハハ。困ったな。君と出会ってから、不思議な気持ちになることがある。君みたいに賢い子に好感を持つのは当然だけれど、でもそれ以上に……あぁ。なるほど。これが。 黒斑:「好きが溢れてしまう」って、ことなのかな。 烏白:クロ、君まさか。人間を……被害者みんなを……食べたのかい? 黒斑:ふふ。ええ、言ったでしょう。自分は肉食なんです。ぜーんぶぜんぶ、自分が食べました。全て綺麗に。食べ残しなく。……指先を残してしまったのは、とんだマナー違反ですね。全く、自分で自分が許せませんよ。……でも、壁や椅子に飛んだ血は仕方がないですが、床は丁寧に舐めたのですよ。 烏白:クロ。信じたくない。今だって信じられない!でも証拠が……犯人は君だって、脳が警鐘を鳴らしてる! 黒斑:あはははは!……本当に、君は素晴らしい子だ。堪らない。我慢できない。あぁ、これが……愛、なのですね。 0:(遠くで烏白の悲鳴がこだまする) 0:  0:(長い間) 兎角:ただいま〜!シロ?……あれ、あいつどこに行った。……ったく、家にいろって言ったのに。また勝手にうろついて……。あぁ、いや。靴はあるか。……寝てるのか? 黒斑:おや、兎角さん。お帰りなさい。 兎角:おぉ、クロ。よーしよしよしよし。全く、お前はちゃんと出迎えてくれるのに、兎にも角にも飼い主は何をしてるんだ、ええ? 黒斑:ふふ。ねえ、知ってますか、兎角さん。 兎角:ん?どうした、クロ? 黒斑:昔から、飼い主を食べちゃう犬って、少なからずいるんですよ。どうせ人間が、犬に虐待でもしてたんだろって思うでしょう?それがねえ、そういう形跡は全く。人間と犬の関係が良好であればあるほど、そういう事例が起きるって説もあるくらいで。飼い主が気絶したり亡くなったりすると、どうやら犬ってパニックになるらしいんですよ。飼い主を起こそうと顔を舐めている内に、起きない飼い主にパニックを起こして、それが噛むという行動として現れる、とか。ふふ。面白いですよね。最愛の相手を起こそうとして、いつの間にか食べちゃう……なんて。ふふふ。あぁ。もちろんわざとじゃないんですよ。……わざと噛むだなんて……ねえ?そうしたら犬と言えど、明確な殺人ですもの。……あぁ。でも。日本だと法律上、飼い犬がしでかす全ての責任は、飼い主にあるんでしたっけ?……つまり、飼い主を食べてしまった飼い犬の罪は……食べられた飼い主にあるってことですね!……ふふふふ!あぁ。「もし」自分の声が人間に聴こえてしまったら、きっと怒られてしまいますね。 兎角:あぁ。そんなにクンクン鳴いてくれるな。なんだ、慰めてくれているのか?あぁ、ごめんな。駄目だな。私がしっかりしないといけないのに。ハハッ、お前は本当に、大人しい良い犬だなあ、クロ。それに比べてシロの奴……全く手間のかかる……。 0:  亀毛:(声だけ)畜生に、人の道理が分かるもんかよ。 0:  黒斑:(M)あぁ、亀毛さん。貴方のあの言葉は、大変的を得ておりました。えぇえぇ、その通り。自分のような「犬畜生」に、人の道理などが分かるはずがないのです。 黒斑:自分は、人の罰せない悪を裁いて参りました。時に子犬を承認欲求の道具として扱い、大きくなった途端に世話を放棄した者を。時に野良犬を蹴飛ばすことで、ストレスを発散していた者を。時に秘密がバレそうになったり、邪魔になったりした者を。たまたま警察にバレてからは、女性が多かったようですが、ね。 黒斑:でも烏白、貴方は……貴方だけは。そんな建前どうでも良かった。貴方のことを大切に思うようになったから。一緒にいて、情が湧いたから。「食べたくなったから」、いただきました。 0:  兎角:ほら、クロ、行くぞ。 黒斑:ふふ。…………わん。 0:  黒斑:(M)兎角さん。兎角さん。そうして貴方がリビングに入った時。そして壁の赤いシミを見つけた時。貴方は一体どんな反応をするのでしょうか。……あぁ。ええ。とてもとても、楽しみです。 0:  黒斑:食べちゃいたい程可愛いって、言いますもんね、烏白。ふふ。 黒斑:ご馳走様でした。 0:台本終了 0:  0:  0:  0:黒斑→今回唯一人間じゃない存在。人間の言葉を理解する黒い犬。自称探偵。黒斑の声は、他3人には、ただの犬の鳴き声にしか聞こえない。 0:  0:兎に角はなく、亀に毛はなく、烏は白くない。兎角、亀毛、烏白は、この世にありえないもの、存在しないものの例え。……他3人はみんな同じ意味の名前なのに、黒斑は……? 0:黒斑とは、他の色に黒が混ざり斑らになること。……だって黒斑は、人間に混ざった異端分子だから。 0:犬の世界からしたら、人間の方が異端なのかもしれないけれど。