台本概要

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タイトル 知を愛する者どもよ ④「我思え、故に我あれ」
作者名 常波 静  (@nami_voiconne)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男2、女2、不問1) ※兼役あり
時間 50 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 先人の偉大な哲学者たちのように、優れた人物を育成することを目的とした、全寮制の学園、フィロソフィア学園。
1学期も終わりが近づき、期末テストの時期がやってきた。テストを受けたプラトンとアリストテレスだったが、返ってきた二人の答案はなんと0点になっていた。二人は答案のことを担任であるデカルトに伝えるが、取り合ってもらえない。二人は何者かによって結果が替えられたのではないかと真相を探ることになるが……。

※「哲学者シリーズ」第四話です。
 単体でもお楽しみいただけますが、シリーズを通して読んでいただくと、より楽しんでいただけます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
プラトン 不問 91 フィロソフィア学園1年生。ひとりで真理を追い求めている。
アリストテレス 102 フィロソフィア学園1年生。好奇心旺盛な明るい少女。
デカルト 59 フィロソフィア学園の教師。生徒に厳しい一面もあるが、フレンドリーで生徒思いの教師。生徒からの信頼も厚い。
スピノザ 36 フィロソフィア学園1年生。何に対しても楽をしたいと思っている。ライプニッツ以外の生徒とは距離を置いていて、誰かと絡むのはあまり好きじゃない。 ※「アルケー」と兼役
ライプニッツ 54 フィロソフィア学園1年生。明るい今どきのギャル。楽しいことは好き。勉強は嫌い。スピノザにかまっていることが多い。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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デカルト:「良い精神を持っているだけでは十分でなく、大切なのはそれをよく用いることだ。」(ルネ・デカルト) スピノザ:「人は互いの助けがあれば、ずっと簡単に必要なものを準備できる。そして力を合わせれば、あらゆるところで襲ってくる危険をもっと簡単に避けられる」(バールーフ・デ・スピノザ) ライプニッツ:「愛するとは、自分の幸せを相手の幸せに重ねることである」(ゴットフリート・ライプニッツ) 0:【タイトルコール】 スピノザ:知を愛する者どもよ ライプニッツ:第4話 デカルト:「我思え、故に我あれ」 0: 0: アリストテレス:「そろそろ期末テストですね」 プラトン:「そうだな」 アリストテレス:「勉強は捗(はかど)っていますか?」 プラトン:「いつも通りだ。特に問題はない」 アリストテレス:「プラトンさんはさすがですね。私は新聞部の活動が忙しくてまだほとんど勉強ができてなくて……」 プラトン:「そういいながら、君は中間テストでは上位の成績だった。心配することはないだろう」 アリストテレス:「この学校のテストって変わってますよね。一般的な五教科のテストとは別に「思想」なんてテストがあるんですから」 プラトン:「それぞれの哲学者に関する思想を問う問題や論述があるね。哲学者になりきれているかのテスト、ということなのだろう」 アリストテレス:「そのテストって、かなり厳しいみたいですね」 プラトン:「なぜそう思う」 アリストテレス:「だって入学した当初に比べて、中等部と高等部合わせて、学生の人数が200人以上は減っています。特に中間テストが終わった後に見かけなくなった生徒が多いです」 プラトン:「ちょっと待て。まさかとは思うが、学内の生徒全員の顔を覚えているのかい?」 アリストテレス:「大した特技ではないんですがけど、一度見た顔は忘れないんですよね 」 プラトン:「いや、十分大した特技だよ。随分と記憶力がいいんだな」 アリストテレス:「それよりも、やっぱり消えてしまった生徒さんは退学処分になってしまったということなのでしょうか?」 プラトン:「聞いてみればいいさ。おい、アルケー」 アルケー:「はい、フィロソフィア学園総合管理システム、アルケーです。お呼びでしょうか」 アリストテレス:「消えてしまった生徒さんは、どうなったんですか?」 アルケー:「退学処分となった多くの生徒は、哲学者を名乗るにふさわしくないと判断したため、除籍いたしました」 アリストテレス:「私達も、そうならないように頑張らないといけませんね」 プラトン:「ああ、そうだな」 アルケー:「お二人がテストで良い結果を残し、哲学者へと成長していくことを期待しています。それでは、失礼いたします」 デカルト:「なんだ、プラトンにアリストテレス。まだ残っていたのか」 プラトン:「あ、デカルト先生。遅くまでお仕事ですか?」 デカルト:「まあな。お前たちこそ、遅くまで勉強か?」 アリストテレス:「少しプラトンさんと話していただけですよ。もうすぐ帰ります」 デカルト:「そうかい。交流を深めるのも結構だが、テストも近い。しっかりと勉強するんだぞ」 アリストテレス:「はーい」 ライプニッツ:「あーもう。なんでこんな時に限って忘れ物なんかすんだろ……って、あれ、プラちゃんとアリスちゃん」 プラトン:「ぷ、プラ?」 アリストテレス:「どうしたんですか、ライプニッツさん」 ライプニッツ:「見りゃわかんでしょ、忘れ物しちゃったの。えーっとこのへんにあったはずなんだけどな」 アリストテレス:「よかったら、探すの手伝いましょうか?」 ライプニッツ:「あー、だいじょぶだいじょぶ。それよか、ふたりともこんな時間までなに仲よさげに話してんの? 付き合ってんの?」 アリストテレス:「ちょっちょっと何を言ってるんですかっ」 プラトン:「断じてそんなことはない」 ライプニッツ:「えーそうなの? お似合いだと思うけどなあ」 スピノザ:「ライプニッツ、いつまで油を売ってるんだ?」 ライプニッツ:「お、スピちゃん。もういいよー」 スピノザ:「ならどうしてぐずぐずしてるん……お前らか」 アリストテレス:「こんにちは。スピノザさん」 スピノザ:「よお。テスト前だってのに随分と余裕そうだな」 アリストテレス:「余裕ってわけではないですけど、嫌だとか不安だとか嘆いていても、いいことなんてないじゃないですか。どうせなら楽しまないと損ですよ?」 スピノザ:「テストが楽しみなんて言うヤツ、初めてみた」 プラトン:「この学園でテストが楽しみだと言えるのは彼女くらいだろうね」 デカルト:「お前たちも楽しんでくれると、俺としてはありがたいんだけどな」 スピノザ:「ならもっと簡単なテストにしてくださいよ、先生」 デカルト:「そんなことしたら、お前たちのためにならないだろ。それにもう問題は作ってアルケーに渡してあるから、変更はできねーぞ」 ライプニッツ:「じゃあ先生問題教えてよー。教えてくれたらデートくらいはしてあげるからさ♪」 デカルト:「しなくていいから勉強しろ」 ライプニッツ:「じゃあ、あたしのこの秘蔵生着替え写真あげるから」 デカルト:「いらん」 ライプニッツ:「なんだ、教室に忘れたから先生に届けてあげようと思ってたのに」 スピノザ:「忘れ物ってそれだったのか」 デカルト:「とにかく! 教えねえし、デートも写真も結構だ。アルケーにバレたら、俺がクビになっちまう」 ライプニッツ:「へえ、じゃあバレなかったら先生はあたしとデートしたいんだ」 デカルト:「だからそういうんじゃねーって。大人をからかうのはやめろ」 ライプニッツ:「はーい」 スピノザ:「それよりも先生、質問したいんだけどいいっすか?」 デカルト:「もちろんいいぞ。どこだ?」 スピノザ:「いや、ゆっくり聞きたいんで、職員室で聞いてください」 デカルト:「そうか。なら職員室に行くか」 ライプニッツ:「あたしも暇だから行くー」 デカルト:「テスト直前に暇なのか?」 ライプニッツ:「だってどうせ100点に決まってるもん」 スピノザ:「じゃあお前は質問なんてないだろうから、来なくていいな」 デカルト:「ついでにいうと、たまたま音声レコーダーがあったから今の音声もバッチリ記録したぞー」 ライプニッツ:「ああ、ウソウソッ。あたしも質問っ。ていうか勉強教えてー」 デカルト:「じゃあ行くか。質問にも答えてやるし、みっちり勉強を教えてやるよ」 アリストテレス:「楽しそうですね、私も一緒に行っていいですか?」 ライプニッツ:「あー、ごめん。あの職員室三人用なんだー」 アリストテレス:「どこかで聞いたことがあるような断られ方をしましたっ」 スピノザ:「それは冗談だけどさ、あんまり人数が多かったら先生も手が回らねーだろ。どうせお前はいい点とるだろうし」 アリストテレス:「そういうことでしたか。では残念ですが、諦めて帰ることにします」 デカルト:「おお、じゃあ気をつけて帰れよー」 アリストテレス:「はい、そちらも頑張ってくださいねー。……はあ。いいなあ。勉強会楽しそうだなあ」 プラトン:「おい、なぜ僕を見るんだ」 アリストテレス:「プラトンさん、一緒に……」 プラトン:「勉強ならひとりでやってくれ」 アリストテレス:「まだ何も言ってないですよ!」 プラトン:「君の言いそうなことなんて簡単に想像がつく」 アリストテレス:「そんなに私のことを分かってくれてるんですね。嬉しいですっ」 プラトン:「もういいよ、そういうことで。じゃあ僕は帰るよ」 アリストテレス:「あ、待ってください。せっかくですから、さっきの3人のモデルになった哲学者について教えてくださいよ」 プラトン:「だからなぜ僕がそんなことを教えてやらなくちゃならないんだ」 アリストテレス:「だってテストに出てくるかもしれませんよ。だから、復習するつもりで教えてくださいよ」 プラトン:「まったく、仕方がないな……」 アリストテレス:「(小声で)結局付き合ってくれるんですよね」 プラトン:「なにか言ったか?」 アリストテレス:「いえいえ。さっそく教えてください」 プラトン:「前回経験論の話はしたが、当然覚えているね?」 アリストテレス:「はい。実際に見て経験することで、人間は価値観を作り上げていくって考えでしたよね?」 プラトン:「そう。同時期に出てきたもう一つの考え方がある。それを大陸合理論と呼ぶ」 アリストテレス:「どういう考え方なんですか?」 プラトン:「認識は人間の理性にもとづく。つまり、人間は生まれながらにして様々な観念を持っているという主張をしている。人間の精神は白紙の状態であり、経験によって知識が増える、と考えた経験論とは対立する主張だね。その大陸合理論の先駆けとなったのが、デカルトだ」 デカルト:「目に見えるもの、耳で聞こえたものがすべて正しいなんてあてにしちゃいけないんだよ。自然についての実験は常に偶然に左右される不確実なものだ。それに自分が感じたことはもしかしたら錯覚かもしれねえし、そもそも今この空間が現実である保証はない。夢を見ているだけかもしれない。1+1=2というのも神にそう思い込まされているのかもしれない。有形のものよりも無形のもの、精神を信じるべきだ。つまり、真に確実なものが掴める「自分の意識」から何事も出発しなきゃなんねえ」 プラトン:「デカルトはいったん既存の常識や哲学を否定し、本当に疑うことのできないものはなにかと考えた。これを方法的懐疑(ほうほうてきかいぎ)という。その結果彼がたどり着いた結論はこうだ」 デカルト:「この世のすべてを疑えば疑うほど、疑っている自分自身だけは、疑うことのできない、たしかに存在しているものだと分かった。これを一言で表現するなら……我思う、故に我あり」 プラトン:「なにもかもを疑ったときに、疑っている自分自身だけはたしかに存在している、信じられるものだと考えたんだ。言い換えると、世の中のあらゆるものを疑うと、最後に残るのは魂や精神といった、自分の内面にあるものだけだということだ」 アリストテレス:「少し極端には感じますが、たしかに理解はできます」 プラトン:「そしてそこから生まれたのが、演繹法(えんえきほう)だ。これも経験論の帰納法(きのうほう)とは相反する考え方だね」 デカルト:「まず最初に確実な心理を示そう。例えば、『人間は死ぬ』。ここの事実を元にして推論できることがある。例えば、『プラトンは人間である』。ゆえに、『プラトンは死ぬ』。同じように考えると、『アリストテレスは人間である』。ゆえに、『アリストテレスは死ぬ』。こうして、個々の事例について人間は判断することだできるんだ」 プラトン:「揺るがない一つの真理から出発し、そこから分かることを推察していく。これが演繹法だ」 アリストテレス:「なるほど。たしかに事例を集めて、そこから分かる事実を導き出す経験論とは順序が逆ですね」 プラトン:「そういうことだ。そしてそんなデカルトの次に出てくる合理論の哲学者が、スピノザだ」 スピノザ:「この世界のすべてのものは原因と結果のつながりによって存在している。そして、その繋がりには、それ以上さかのぼることのできない究極的な原因、究極原因があるはずだ。それを俺たちは、神と呼んでいるんだ」 プラトン:「すべての根本には神が関わっっている。それが彼の主張だ」 アリストテレス:「待ってください。デカルトさんの考え方からすると、神は見えもしないんだから、神の存在なんてまっさきに疑うべきものになるんじゃないですか?」 プラトン:「そう思うだろう? そこで彼はこう考えたのさ。そもそも、人間は神の一部であるとね」 スピノザ:「人間も植物も動物も、全てのものには根本に神が関わっている。つまり、神が唯一の実体であり、すべてのものは神の一部なんだ。当然人間も神の一部だから、生まれながらにして真理を理解していて、そこから個々の事例について判断することができるんだ」 プラトン:「万物は神が表されたものである。汎神論(はんしんろん)という考え方だね。すべて神の一部だから、人間は揺るぎない真理を知り、個々の事象を判断する能力がある。演繹法を使えるとしたんだね」 アリストテレス:「神の一部って考えると、なんだかすごく偉くなったような気がしますね」 プラトン:「その形、その者でありつづけようとする力、コナトゥスを持っているともいっているし、力を与えてくれる思想かもしれない。そして、最後に出てくるのがライプニッツだ」 ライプニッツ:「人間が神様の一部なわけないじゃん。すべてのものはモナドっていうめちゃくちゃちっさい実体でできてんの。つまりお互い独立しててちょっかいかけたりできないの。モナド同士を動かせるのは神様だけ」 プラトン:「すべての存在はモナド、単子と呼ばれるものが根幹にあるとしているんだ。モナドは存在の最小単位みたいなもので、それ以上分割できない実体のことだよ。細胞のようにイメージしてもいいかもしれない。モナドはそれぞれ独立していて互いに干渉できないが、神によってあらかじめ全体で調和するように仕組まれていると考えたんだ。これを予定調和説という」 ライプニッツ:「神様がちゃんとどうにかなるようにしてくれてんの。だから心配しなくてもだいじょうーぶ。神様がいいかんじに一番いい世界にしてくれてんの。そんなハッピーな世界ないっしょ!」 プラトン:「そうして、この世は神によって最善の世界にされている。最善説にまで発展させた」 アリストテレス:「それはそうだったらいいかもしれませんが、さすがに理想にすぎないんじゃないですか? 実際はいいことばかり起きるわけじゃなくて、悪いことだって起きますよね? たとえば災害や戦争が起こります。それも神様が最善だと思って仕組んだんですか?」 プラトン:「たしかにこの理論を受け入れがたいと感じる人間は多い。それに対してこう補足してみようか」 ライプニッツ:「神様はいいことと悪いことのバランスをとってるんだって。いいことばっかでも、悪いことばっかでも、ダメだと思うんだよね。そう意味で、ちょうどよく神様が調整してくれてんの」 プラトン:「いいことも悪いこともバランスよく。そういう世界が最適、最善だと考えたというわけだ」 アリストテレス:「なるほど、勉強になりましたっ。明日テストも神様がなんとかしてくれるといいですね」 プラトン:「……言っておくが、何もしなくていいと主張してるわけではないからな」 0: 0: デカルト:「では今からテストを返却するぞ。アリストテレス」 アリストテレス:「はい」 デカルト:「なんだこの点数は。ちゃんと勉強しろよ」 アリストテレス:「えっ私はちゃんと勉強しましたよ」 デカルト:「それでこの点数なのか?」 アリストテレス:「この点数って……0点!?」 デカルト:「とにかく、もう少し頑張ることだな」 アリストテレス:「うーん、なんでだろう……。あ、プラトンさん、テストどうでした?」 プラトン:「信じられない……この僕が、0点だと?」 アリストテレス:「え? プラトンさんも?」 プラトン:「ああ。「も」ということは、君もかい?」 アリストテレス:「はい。そうなんですよ。ちゃんと回答したはずなんですけど白紙になってて……」 プラトン:「僕だってそうだ。こんな点数が出るなんてありえない」 アリストテレス:「先生に聞いてみましょうか。せんせーい、採点ミスじゃないですか?」 デカルト:「いいや、ミスなどあるわけがない。採点はアルケーが正確に行っている。採点ミスなどありえん」 プラトン:「アルケーに任せたということは、先生は答案を確認していないんですか?」 デカルト:「いいや、もちろん採点された答案は確認しているが。それがなにか問題があるのか?」 プラトン:「いいえ。ですが、不自然とは思わないんですか。二人も0点がいるんですよ?」 デカルト:「二人ではない」 アリストテレス:「え?」 デカルト:「スピノザとライプニッツ以外は全員0点だった」 プラトン:「なんだって?」 デカルト:「今回のテストは難しかったかもしれないが、全員気が抜けているんじゃないか? この結果を受け止めて、次回はこのような結果にならないようにしなさい。以上だ」 アリストテレス:「あの、それでプラトンさんはどう思います?」 プラトン:「どうって、あの二人が点数を改ざんしたんじゃないのか?」 アリストテレス:「どうやってそんなことをしたんでしょう?」 プラトン:「さあね」 アリストテレス:「さあねって、考えてくださいよ。そうでないと私たちこのままだと0点になっちゃいますよ?」 プラトン:「はあ……まったく、面倒なことになったな」 アリストテレス:「とにかく、まずは状況を確認しましょう」 0: 0: スピノザ:「それで、俺になんのようだ?」 アリストテレス:「スピノザさんは、テスト何点でしたか?」 スピノザ:「そんなことを聞いてどうする?」 アリストテレス:「いやあ、私が思った点数とだいぶ離れていたので、スピノザさんはどうだったのかなーっと」 スピノザ:「それは、お前の勉強が足りなかっただけじゃないのか?」 アリストテレス:「そうだとしても、さすがに0点はないと思いませんか?」 スピノザ:「解答欄をずらして書いたんだろ」 プラトン:「そうだとしても、他の大多数の生徒まで0点というのはおかしくないかい?」 スピノザ:「……本当か?」 プラトン:「本当だ。それで、君は何点だったんだい?」 スピノザ:「100点だけど?」 アリストテレス:「え、すごい!」 スピノザ:「勉強しただけだって。すごくはない」 プラトン:「なるほど、相当頑張ったんだな。中等部の頃から君の成績が上位になったのを見た覚えはないぞ」 スピノザ:「お前らも勉強しろよ。じゃあな」 アリストテレス:「……うーん、やっぱり頑張って勉強したんでしょうか」 プラトン:「とてもそうは見えなかったね。では、もう一人の方にいこう」 0: ライプニッツ:「あたしになんか用?」 アリストテレス:「テストどうだったかなーっと思って」 ラプニッツ:「えーっ、そんなに気になっちゃうかんじ?」 アリストテレス:「ええ、いい点だったらしいってデカルト先生から聞いたので気になっちゃって」 ライプニッツ:「じゃあ言っちゃうけどお、100点満点のはハナマルちゃんに決まってんじゃん!」 アリストテレス:「え、ライプニッツさんもですかっ、すごい!」 ライプニッツ:「そう? フツーじゃね?」 アリストテレス:「いやすごいですよ。私たちは0点でしたから」 プラトン:「あまり言いふらさないでもらえると助かるんだが」 ライプニッツ:「え、そんなにヒドいの? ウケるんだけど」 アリストテレス:「ウケないでくださいよー。それにしても、ライプニッツさんって勉強が得意なんですね。よかったら今度教えてください」 ライプニッツ:「あーいや、それはちょっと難しいかなあ。あたしも忙しいからさっ」 プラトン:「中等部の君のイメージだと、下から数えたほうがはやい順位ではなかったかい?」 ライプニッツ:「う、うるさいな。あたしだってやるときゃやるのよ!」 プラトン:「そうかい」 ライプニッツ:「あ、それでアリスちゃん」 アリストテレス:「はい、なんですか?」 ライプニッツ:「勉強教えるってのは難しいかもしんないけど、よかったらまた女子会でもしようよ。あんたとはゆっくり話したいなって思ってたんだ」 アリストテレス:「いいですね、すごく楽しそうです!」 ライプニッツ:「よっしゃ決まり。じゃあまた誘うからよろしくねー」 アリストテレス:「はい、こちらこそよろしくお願います!」 ライプニッツ:「んじゃ、あたしはスピちゃんのとこ行かないとだから。またねー」 アリストテレス:「はーい、さようならー……ライプニッツさんとはあまり話したことがありませでしたが、明るくていい人ですね」 プラトン:「僕はああいう人間と関わるのは忌避(きひ)したいと思うね」 アリストテレス:「プラトンさんは相変わらず人間嫌いなんですね。そんなにライプニッツさんがお嫌いですか? たしかにプラトンさんとは性格が正反対というか、陽(よう)と陰(いん)というか、正と負というか、まったく違うというか……」 プラトン:「さり気なく僕のことをディスるのはやめてくれ」 アリストテレス:「あ、すみません」 プラトン:「まあ性格が合わないというところももちろんそうだが、それ以上に、不正行為をするようなヤツらと仲良くお話ししようとは思わないね」 アリストテレス:「不正行為って、じゃあやっぱりライプニッツさんが今回のテストでなにかしたっていうんですか?」 プラトン:「ああ。ライプニッツとスピノザ。あの二人が今回のテストで点数の改ざんを行ったことは、まず間違いないだろう」 アリストテレス:「どうしてそう思うんですか?」 プラトン:「どう考えても、あの二人だけが満点になっているのは不自然だ。二人がいくら勉学に励んだとはいえ、そこまで成績が上位ではなかったのにいきなり満点というのはおかしいだろう。きっと点数の改ざんを行ったんだ」 アリストテレス:「改ざんって、どうやって改ざんしたんでしょうか。カンニングをしたとか?」 プラトン:「カンニングにも種類がある。一般的なのは、カンニングペーパーをどこかに仕込む方法だろう。制服のポケットやシャープペンシルの中、消しゴムのケースの中などに仕込む。ただ、その方法だといくらか点数を上げることはできても、満点にすることはできないだろう」 アリストテレス:「じゃあ、スマホで調べたっていうのはどうですか?」 プラトン:「忘れたのかい。この学園で僕たち生徒は、スマホの所有を禁じられている。不可能だ」 アリストテレス:「じゃあ、テスト中にお互いに答案用紙を交換して、分からないところを教えてもらったとか?」 プラトン:「それは少なくともどちらか一方が満点をとるほどの学力を身に着けていなければ、到底成り立たない方法だ。さっきも言ったように、中等部時代の二人の学力はそこまで高くはなかった。いくら勉強したとはいっても無理がある」 アリストテレス:「元々の二人の学力から考えると、カンニングをしたところでどう頑張っても満点にはならないんですね」 プラトン:「そういうことだ。だから、ただのカンニングではないだろう。それに、もう一つ疑問がある」 アリストテレス:「なんですか?」 プラトン:「どうやって二人は他の生徒全員の点数を0点にしたのか。そもそも、なぜわざわざ他の生徒の点数を0点にする必要があったのか」 アリストテレス:「そっか。100点にするだけが目的なら、他の生徒の点数をわざわざ0点に改ざんする必要はないですよね」 プラトン:「その通りだ。わざわざ改ざんがバレるリスクを犯す必要はない。それに他の生徒を0点にしたことで、犯人があの二人なのではないかということがすぐに分かってしまう」 アリストテレス:「じゃあ二人はバレるようにカンニングをしたってことですか? 一体なんのために?」 プラトン:「それを今考えているんだ」 アリストテレス:「考えれば考えるほど分からなくなってきますね。いっそのこと、写真やデートしてあげるからって先生にお願いして問題を教えてもらった、とかなら単純なんですけどねえ。あー、でもそれだとやっぱり他の生徒が0点にされている意味が分かりませんもんね。やっぱりこの事件は難しいですねプラトンさん」 プラトン:「……それだ」 アリストテレス:「え?」 プラトン:「それが真実なんだよ、アリス君」 アリストテレス:「まさか本当に、写真とデートを条件にテストの問題を教えてもらったっていうんですか?」 プラトン:「正確には違う。問題を教えてもらったんじゃない。問題を教えさせたんだ」 アリストテレス:「教えさせた?」 プラトン:「ああ。どうやら真理は見えたようだ」 0: 0: スピノザ:「先生、どういうつもりですか。約束が違います」 ライプニッツ:「そうそう、あたしも満点なんてびっくりしちゃった」 デカルト:「俺は言われた通りにしただけだ」 スピノザ:「ふざけんなよっ! だれがあんなモロバレの改ざんしろっつったんだ? ええっ!?」 ライプニッツ:「バレたらあたしら退学になっちゃうし、それは困るんだよねー。でもって、先生も疑われちゃうよ?」 スピノザ:「疑われるですまさねえぞ。あんたの過去をバラして、ライプニッツがアルケーに写真を見せれば、あんたは間違いなくクビになる。分かってんだろうな?」 デカルト:「分かってるさ。……もとよりそのつもりだったんだからな」 スピノザ:「はあ?」 デカルト:「お前たちの担任として、最後の授業だ。これは哲学者デカルトの言葉だが……『理性すなわち良識が私たちを人間たらしめ、動物から区別する唯一のものであるだけに、各人のうちに完全に備わってると思いたい。』。今のお前たちには良識がねえ。良識の欠けた人間はただの動物と変わらねえ。覚えておくんだな」 ライプニッツ:「はあ、訳わかんない。最後の最後にお説教?」 スピノザ:「相手にするだけ無駄だ。俺たちはどうやってごまかすかを考えねえと」 プラトン:「残念だがもう手遅れだよ」 スピノザ:「……なぜお前らがここにいるんだ」 アリストテレス:「それはこっちのセリフですよ。体育館の地下倉庫で、一体なにをやっていたんですか?」 ライプニッツ:「なにって、ちょーっと先生とお話ししてただけだけど?」 プラトン:「わざわざ話すだけでこんな人目のつかない場所を選んだのかい? それにここは通信環境が悪く、アルケーの監視が唯一行き届かない場所だ。ただのお話しというには無理がある。それに外から聞いていた限りでは、穏やかな雰囲気ではなかったようだが?」 スピノザ:「いいだろどうだって。用がないならさっさと出ていけよ」 アリストテレス:「用はありますよ。このままだと私たちのテスト0点のままになったちゃいますから、先生に真相を話してほしいんです」 デカルト:「俺に?」 プラトン:「どうせ自首するつもりだったんでしょう? だったら今すべてを話してください」 デカルト:「……どこまで気づいた?」 プラトン:「先生が脅されていて、すべてを明るみにした上で辞職するつもりだってことくらいまでは」 デカルト:「つまり、全部知ってるってことだな」 アリストテレス:「じゃあ、本当に先生が改ざんをしたんですか?」 デカルト:「ああ、そうだ」 アリストテレス:「そんな……」 デカルト:「かわいい生徒からの要望だ。すべてを話そう。……俺が改ざんを行ったのは事実だ」 ライプニッツ:「あーあ、言っちゃった」 プラトン:「どう考えてもスピノザとライプニッツの二人だけでカンニングをして満点をとるのは難しい。そう考えて、二人は先生を頼った。そう考えるとすべての辻褄が合う」 デカルト:「そういうことだ。二人の答案用紙差し替えて、高得点すること。二人からそう頼まれた」 アリストテレス:「でも、そんなこと断ったら良かったんじゃ……」 デカルト:「もしも断ったら、ライプニッツが生着替え写真をアルケーに見せつけて、『デカルト先生に盗撮された』って言うぞって脅されたんだ。だから、答案用紙を入れ替えて改ざんをした」 スピノザ:「なのにこいつは俺たちの答案を満点にして、他の生徒の点数を0点にしやがった。俺たちはバレない程度にやれって言ったのにな」 ライプニッツ:「なんでそんなことしたの? バレないようにやってくれたら、あたしたちも先生もずっとこの学園にいられたのに」 デカルト:「そんなの決まってんだろ。俺はお前たちの先生だ。生徒の悪だくみに加担するわけにはいかねえだろ」 ライプニッツ:「くっだらない。そんな意地のためにわざわざ自分までクビになるようなことをしたっての?」 デカルト:「理由はそれだけじゃない。これは俺自身のけじめでもあるんだ」 スピノザ:「けじめ?」 デカルト:「俺は、前の学校を不祥事を起こしてクビになって、この学園に来た。そのときの不祥事ってのは、女子生徒の盗撮だったんだよ」 ライプニッツ:「まさか、本当に盗撮やってたの?」 デカルト:「そうだ。だからお前たちに脅されて、これは過去に犯した罪の報いなんだと思ったんだ。だからあえて反発することはしなかったし、あえてこの三人がやったってことが分かるように改ざんした」 プラトン:「その結果、僕が気づいたわけですね」 デカルト:「ああ。なんとなく、あの人の教え子であるお前なら分かってくれるんじゃないかと思った。まあもし誰にも気付かれなかったとしても、自首するつもりではいたんだがな」 プラトン:「……」 デカルト:「そういうわけで、こんな改ざんをしちまった。プラトン、アリストテレス。お前たちには悪いことをしたな。お前たちが出した本当の解答用紙はちゃんと保管してある。アルケーにはすべてを話した後でそれを渡して、正しい点数をつけてもらうようにしておく。もちろん、スピノザとライプニッツの分もな。許してくれとは言わないが、勉強することを、真理を追求することを諦めず、これからも頑張ってくれないか。俺からの最後の頼みだ」 アリストテレス:「先生は、本当にそれでいいんですか? 事情を話せばアルケーさんだって分かってくれると思います」 デカルト:「アルケーは、この学園は、そんなに甘くねえよ。それに、俺は前の学校で問題を起こしている。どちらにしろ、教師でいる資格はなかっんだ」 スピノザ:「勝手に自分の都合でこっちまで道連れにするなんて、最低の教師だな」 デカルト:「こっちだって、最低の生徒のを受け持つことになったんだ。本当に、運が悪かった」 スピノザ:「ふんっ」 プラトン:「先生。これは僕のただの想像ですが、前の学校での盗撮というのも実は今回のように生徒から仕組まれたものだったんじゃないですか?」 デカルト:「プラトン。その質問にだけは答えられない」 プラトン:「なぜですか?」 デカルト:「俺が今真実を言ったとしても、それがお前にとって真実である保証はない。俺が嘘をついている可能性だって十分にある。結局、他人から言われたことなんてアテにならねえんだ。だから真相を決めるのは、お前自身だ。お前は俺を見てどういう人間だと感じたか。それが大事なんだ。俺からはなにも言わねえ」 プラトン:「……分かりました」 デカルト:「話はこれで終わりだ。俺はもう行く。アルケーに話をしねえとな」 スピノザ:「待てよ。なに勝手に終わろうとしてんだ。辞めたきゃお前ひとりだけやめろよっ!」 ライプニッツ:「そうよ。せっかくこの学園に入れたのに、退学なんてことになったら、あたしたちどうすればいいのよ」 デカルト:「お前たちの思想で言うならば、すべては神が調和するようになんとかしてくれる。だからお前たちも今度は真面目に頑張るんだな。どちらにしろ、俺はお前たちを見過ごすわけにはいかねえ」 スピノザ:「ぜってー認めねえぞ。お前にそそのかされたって言ってやるっ」 デカルト:「好きにしろ。ボイスレコーダーにこれまでの一連の会話はすべて録音している。俺はそれをアルケーに差し出すだけだ」 ライプニッツ:「ボイス、レコーダー……!」 プラトン:「やはり隠し持っていたんですね」 デカルト:「当たり前だ。これでもお前たちよりも人生経験豊富なんだ。ナメんじゃねえぞ」 スピノザ:「くっそ……」 アリストテレス:「先生がいなくなると、寂しくなりますね。私、デカルト先生のこと、本当に素敵な先生だと思っていました」 デカルト:「そりゃ悪いな。今の話を聞いて幻滅しただろ?」 アリストテレス:「いいえ。先生は最後まで生徒思いのいい先生だと思います。さっき先生の資格がないなんて言っていましたけど、デカルト先生はちゃんと私達の先生だと思います」 デカルト:「そうか、ありがとな」 アリストテレス:「こちらこそ、ありがとうございました」 デカルト:「ああ、そうだ。プラトン。最後に一つアドバイスしといてやる」 プラトン:「なんですか?」 デカルト:「デカルトって哲学者はなんでもかんでも疑った。自分で見たものでさえも。それは知っているな?」 プラトン:「もちろんです」 デカルト:「この学園のことについて知りたいなら、すべてを疑ってかかった方がいい。お前が見ているものも、聞いたものも、考えたものも、すべてを疑うんだ。その先にこそきっと真理がある」 プラトン:「覚えておきます」 デカルト:「もう会うこともねえだろうけど、お前たちがこの学園を無事に卒業できることを祈ってるぜ。じゃあな」 プラトン:「……さようなら。先生」 0: 0: プラトン:「アルケー」 アルケー:「お呼びでしょうか」 プラトン:「今回も、君はなにもかも分かっていたんだろう? テストの改ざんも、そしておそらくは先生の過去も」 アルケー:「本プラグラムは、教師や生徒の要望にただ従うことだけが任務となっております。必要以上の干渉はいたしません。教師や生徒からの申告があった場合、そして哲学者になりきれていないと判断した場合、本名を名乗ったときのみ、処罰をくだします」 プラトン:「じゃあ、僕の要望にも答えてくれ。……一年前、あの事件で、なにがあったんだ? 僕はそれが知りたいだけだ。教えてくれ」 アルケー:「あなたがそれを知る必要はありません。言い換えるならば、それを知る努力をするのも、あなたの生徒としての務めです」 プラトン:「うまく言い逃れしたもんだな」 アルケー:「あなたが真理を見ることができたとき、あなたがなにを思うのか、楽しみにしています。それでは、あなたが知を愛す哲学者とならんことを」 プラトン:「……すべてを疑ってかかるしかない、か。これは思っている以上に僕はなにか大きな見落とし、いや、勘違いをしているのかもしれない。この学園の謎、必ず暴いてやる」 0: 0: アリストテレス:「話ってなんですか、ライプニッツさん」 ライプニッツ:「あー、来た来た。ごめんね、急に部屋に呼び出しちゃって」 アリストテレス:「それは構いませんけど……それよりもっ。なんですか、このお菓子の山は!!」 ライプニッツ:「ほら、女子会しようって言ってたじゃん? いつまでこの学校にいられるからわかんないから、今日やっちゃったほうがいいなって思って」 アリストテレス:「なるほど。でも、いいんですか、そんな私だけ楽しんじゃって……」 ライプニッツ:「遠慮しないでよ。退学になるのはあたしとスピちゃんの自業自得なんだからさ。あたしは、あんた達を恨んでなんかいないよ。だからさ、最後くらい楽しくお話しさせてよ」 アリストテレス:「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、いただきまーすっ」 ライプニッツ:「あははっ。そんなにがっつかなくてもお菓子は逃げないから。ゆっくり食べなよ。あんたにはちょっと長話もしなきゃいけないしね」 アリストテレス:「(口にお菓子を詰め込みながら)なふぁばなふぃ(長話)?」 ライプニッツ:「プラちゃん、いるでしょ? あいつのことで言っておかなきゃって思って」 アリストテレス:「プラトンさんが、どうかしたんですか?」 ライプニッツ:「あいつ、真理がどうとかってずっと言ってるでしょ? 実はあれ、一年前に起きたことを引きずってて、その真相を知りたいって思ってるらしいんだよね」 アリストテレス:「一年前の出来事って、一体何があったんですか?」 ライプニッツ:「そのときあたし達の学園の先生だった人が急に辞めたのよ。プラトンはその先生のことすごく尊敬してたみたいだから、かなりショックだったんだろうね」 アリストテレス:「そんなことがあったんですね。ちなみに、なんという名前の先生だったんですか?」 ライプニッツ:「人気で優秀な先生だったから、この学園に来てから一度くらい名前は聞いてるんじゃない? ソクラテス先生よ」 アリストテレス:「その名前なら何度か聞きました。授業をサボるエピクロスさんといつも話をしたり、演劇部の顧問としてアウグスティヌス先輩の悩みを聞いたり、陸上部の厳しい練習を注意したりしてたって」 ライプニッツ:「プラトンは、ソクラテス先生が辞めたのは誰かににハメられせいだってずっと言ってて。アルケーのことも、生徒のこともあまり信じてないみたいなの」 アリストテレス:「それで友だちが少ないんですね」 ライプニッツ:「あんたって結構はっきり言うのね。まあでもそんなプラトンがアリスちゃんにはわりと心を開いてるみたいじゃん?」 アリストテレス:「だといいんですけどね。いつも煙たがられていますよ」 ライプニッツ:「本当に関心がなかったら新聞部に入ったり、あんなにいつも話したりしないでしょ? 十分仲いいと思うよ。だからさ、お願いすることじゃないんだろうけど、プラちゃんとこれからも仲良くしてやってほしいなって」 アリストテレス:「もちろんですよ。プラトンさんといると退屈しなくて楽しいですから、言われなくても付きまといます!」 ライプニッツ:「ありがと。なんかあんたらを見てると、あたしとスピちゃんみたいに見えてきてさ。他人事とは思えなかったから、言っときたかったんだよね」 アリストテレス:「ライプニッツさんとスピノザさんもいいコンビだと思いますよ。二人ならこれからもやっていけると思っています」 ライプニッツ:「あったりまえよ。二人でいれば恐いものなんかないもん」 アリストテレス:「うふふ、元気が出たようでよかったです」 ライプニッツ:「ありがと。あたしもアリスちゃんとプラちゃんならうまくやっていけると思うよ。それこそ、一生連れ添うくらいにね♪」 アリストテレス:「たしかに、それくらい交友関係が続くと素敵ですよねっ」 ライプニッツ:「そういう意味じゃないんだけど、まあいいや。ほら、まだまだたくさんあるから、お菓子食べて食べてっ」 アリストテレス:「はい、いただきますっ! ……少しもらって、明日プラトンさんにも分けてあげないとな。これからもお世話になりそうですから。ね、プラトンさん」 0: 0: プラトン:「はっくしょんっ! ……なんだ? 急にくしゃみが」 アルケー:「学園総合管理プログラム、アルケーです。風邪の症状を感知。ただちに風邪薬を処方します」 プラトン:「結構だっ」 0: 0: 0:《終》

デカルト:「良い精神を持っているだけでは十分でなく、大切なのはそれをよく用いることだ。」(ルネ・デカルト) スピノザ:「人は互いの助けがあれば、ずっと簡単に必要なものを準備できる。そして力を合わせれば、あらゆるところで襲ってくる危険をもっと簡単に避けられる」(バールーフ・デ・スピノザ) ライプニッツ:「愛するとは、自分の幸せを相手の幸せに重ねることである」(ゴットフリート・ライプニッツ) 0:【タイトルコール】 スピノザ:知を愛する者どもよ ライプニッツ:第4話 デカルト:「我思え、故に我あれ」 0: 0: アリストテレス:「そろそろ期末テストですね」 プラトン:「そうだな」 アリストテレス:「勉強は捗(はかど)っていますか?」 プラトン:「いつも通りだ。特に問題はない」 アリストテレス:「プラトンさんはさすがですね。私は新聞部の活動が忙しくてまだほとんど勉強ができてなくて……」 プラトン:「そういいながら、君は中間テストでは上位の成績だった。心配することはないだろう」 アリストテレス:「この学校のテストって変わってますよね。一般的な五教科のテストとは別に「思想」なんてテストがあるんですから」 プラトン:「それぞれの哲学者に関する思想を問う問題や論述があるね。哲学者になりきれているかのテスト、ということなのだろう」 アリストテレス:「そのテストって、かなり厳しいみたいですね」 プラトン:「なぜそう思う」 アリストテレス:「だって入学した当初に比べて、中等部と高等部合わせて、学生の人数が200人以上は減っています。特に中間テストが終わった後に見かけなくなった生徒が多いです」 プラトン:「ちょっと待て。まさかとは思うが、学内の生徒全員の顔を覚えているのかい?」 アリストテレス:「大した特技ではないんですがけど、一度見た顔は忘れないんですよね 」 プラトン:「いや、十分大した特技だよ。随分と記憶力がいいんだな」 アリストテレス:「それよりも、やっぱり消えてしまった生徒さんは退学処分になってしまったということなのでしょうか?」 プラトン:「聞いてみればいいさ。おい、アルケー」 アルケー:「はい、フィロソフィア学園総合管理システム、アルケーです。お呼びでしょうか」 アリストテレス:「消えてしまった生徒さんは、どうなったんですか?」 アルケー:「退学処分となった多くの生徒は、哲学者を名乗るにふさわしくないと判断したため、除籍いたしました」 アリストテレス:「私達も、そうならないように頑張らないといけませんね」 プラトン:「ああ、そうだな」 アルケー:「お二人がテストで良い結果を残し、哲学者へと成長していくことを期待しています。それでは、失礼いたします」 デカルト:「なんだ、プラトンにアリストテレス。まだ残っていたのか」 プラトン:「あ、デカルト先生。遅くまでお仕事ですか?」 デカルト:「まあな。お前たちこそ、遅くまで勉強か?」 アリストテレス:「少しプラトンさんと話していただけですよ。もうすぐ帰ります」 デカルト:「そうかい。交流を深めるのも結構だが、テストも近い。しっかりと勉強するんだぞ」 アリストテレス:「はーい」 ライプニッツ:「あーもう。なんでこんな時に限って忘れ物なんかすんだろ……って、あれ、プラちゃんとアリスちゃん」 プラトン:「ぷ、プラ?」 アリストテレス:「どうしたんですか、ライプニッツさん」 ライプニッツ:「見りゃわかんでしょ、忘れ物しちゃったの。えーっとこのへんにあったはずなんだけどな」 アリストテレス:「よかったら、探すの手伝いましょうか?」 ライプニッツ:「あー、だいじょぶだいじょぶ。それよか、ふたりともこんな時間までなに仲よさげに話してんの? 付き合ってんの?」 アリストテレス:「ちょっちょっと何を言ってるんですかっ」 プラトン:「断じてそんなことはない」 ライプニッツ:「えーそうなの? お似合いだと思うけどなあ」 スピノザ:「ライプニッツ、いつまで油を売ってるんだ?」 ライプニッツ:「お、スピちゃん。もういいよー」 スピノザ:「ならどうしてぐずぐずしてるん……お前らか」 アリストテレス:「こんにちは。スピノザさん」 スピノザ:「よお。テスト前だってのに随分と余裕そうだな」 アリストテレス:「余裕ってわけではないですけど、嫌だとか不安だとか嘆いていても、いいことなんてないじゃないですか。どうせなら楽しまないと損ですよ?」 スピノザ:「テストが楽しみなんて言うヤツ、初めてみた」 プラトン:「この学園でテストが楽しみだと言えるのは彼女くらいだろうね」 デカルト:「お前たちも楽しんでくれると、俺としてはありがたいんだけどな」 スピノザ:「ならもっと簡単なテストにしてくださいよ、先生」 デカルト:「そんなことしたら、お前たちのためにならないだろ。それにもう問題は作ってアルケーに渡してあるから、変更はできねーぞ」 ライプニッツ:「じゃあ先生問題教えてよー。教えてくれたらデートくらいはしてあげるからさ♪」 デカルト:「しなくていいから勉強しろ」 ライプニッツ:「じゃあ、あたしのこの秘蔵生着替え写真あげるから」 デカルト:「いらん」 ライプニッツ:「なんだ、教室に忘れたから先生に届けてあげようと思ってたのに」 スピノザ:「忘れ物ってそれだったのか」 デカルト:「とにかく! 教えねえし、デートも写真も結構だ。アルケーにバレたら、俺がクビになっちまう」 ライプニッツ:「へえ、じゃあバレなかったら先生はあたしとデートしたいんだ」 デカルト:「だからそういうんじゃねーって。大人をからかうのはやめろ」 ライプニッツ:「はーい」 スピノザ:「それよりも先生、質問したいんだけどいいっすか?」 デカルト:「もちろんいいぞ。どこだ?」 スピノザ:「いや、ゆっくり聞きたいんで、職員室で聞いてください」 デカルト:「そうか。なら職員室に行くか」 ライプニッツ:「あたしも暇だから行くー」 デカルト:「テスト直前に暇なのか?」 ライプニッツ:「だってどうせ100点に決まってるもん」 スピノザ:「じゃあお前は質問なんてないだろうから、来なくていいな」 デカルト:「ついでにいうと、たまたま音声レコーダーがあったから今の音声もバッチリ記録したぞー」 ライプニッツ:「ああ、ウソウソッ。あたしも質問っ。ていうか勉強教えてー」 デカルト:「じゃあ行くか。質問にも答えてやるし、みっちり勉強を教えてやるよ」 アリストテレス:「楽しそうですね、私も一緒に行っていいですか?」 ライプニッツ:「あー、ごめん。あの職員室三人用なんだー」 アリストテレス:「どこかで聞いたことがあるような断られ方をしましたっ」 スピノザ:「それは冗談だけどさ、あんまり人数が多かったら先生も手が回らねーだろ。どうせお前はいい点とるだろうし」 アリストテレス:「そういうことでしたか。では残念ですが、諦めて帰ることにします」 デカルト:「おお、じゃあ気をつけて帰れよー」 アリストテレス:「はい、そちらも頑張ってくださいねー。……はあ。いいなあ。勉強会楽しそうだなあ」 プラトン:「おい、なぜ僕を見るんだ」 アリストテレス:「プラトンさん、一緒に……」 プラトン:「勉強ならひとりでやってくれ」 アリストテレス:「まだ何も言ってないですよ!」 プラトン:「君の言いそうなことなんて簡単に想像がつく」 アリストテレス:「そんなに私のことを分かってくれてるんですね。嬉しいですっ」 プラトン:「もういいよ、そういうことで。じゃあ僕は帰るよ」 アリストテレス:「あ、待ってください。せっかくですから、さっきの3人のモデルになった哲学者について教えてくださいよ」 プラトン:「だからなぜ僕がそんなことを教えてやらなくちゃならないんだ」 アリストテレス:「だってテストに出てくるかもしれませんよ。だから、復習するつもりで教えてくださいよ」 プラトン:「まったく、仕方がないな……」 アリストテレス:「(小声で)結局付き合ってくれるんですよね」 プラトン:「なにか言ったか?」 アリストテレス:「いえいえ。さっそく教えてください」 プラトン:「前回経験論の話はしたが、当然覚えているね?」 アリストテレス:「はい。実際に見て経験することで、人間は価値観を作り上げていくって考えでしたよね?」 プラトン:「そう。同時期に出てきたもう一つの考え方がある。それを大陸合理論と呼ぶ」 アリストテレス:「どういう考え方なんですか?」 プラトン:「認識は人間の理性にもとづく。つまり、人間は生まれながらにして様々な観念を持っているという主張をしている。人間の精神は白紙の状態であり、経験によって知識が増える、と考えた経験論とは対立する主張だね。その大陸合理論の先駆けとなったのが、デカルトだ」 デカルト:「目に見えるもの、耳で聞こえたものがすべて正しいなんてあてにしちゃいけないんだよ。自然についての実験は常に偶然に左右される不確実なものだ。それに自分が感じたことはもしかしたら錯覚かもしれねえし、そもそも今この空間が現実である保証はない。夢を見ているだけかもしれない。1+1=2というのも神にそう思い込まされているのかもしれない。有形のものよりも無形のもの、精神を信じるべきだ。つまり、真に確実なものが掴める「自分の意識」から何事も出発しなきゃなんねえ」 プラトン:「デカルトはいったん既存の常識や哲学を否定し、本当に疑うことのできないものはなにかと考えた。これを方法的懐疑(ほうほうてきかいぎ)という。その結果彼がたどり着いた結論はこうだ」 デカルト:「この世のすべてを疑えば疑うほど、疑っている自分自身だけは、疑うことのできない、たしかに存在しているものだと分かった。これを一言で表現するなら……我思う、故に我あり」 プラトン:「なにもかもを疑ったときに、疑っている自分自身だけはたしかに存在している、信じられるものだと考えたんだ。言い換えると、世の中のあらゆるものを疑うと、最後に残るのは魂や精神といった、自分の内面にあるものだけだということだ」 アリストテレス:「少し極端には感じますが、たしかに理解はできます」 プラトン:「そしてそこから生まれたのが、演繹法(えんえきほう)だ。これも経験論の帰納法(きのうほう)とは相反する考え方だね」 デカルト:「まず最初に確実な心理を示そう。例えば、『人間は死ぬ』。ここの事実を元にして推論できることがある。例えば、『プラトンは人間である』。ゆえに、『プラトンは死ぬ』。同じように考えると、『アリストテレスは人間である』。ゆえに、『アリストテレスは死ぬ』。こうして、個々の事例について人間は判断することだできるんだ」 プラトン:「揺るがない一つの真理から出発し、そこから分かることを推察していく。これが演繹法だ」 アリストテレス:「なるほど。たしかに事例を集めて、そこから分かる事実を導き出す経験論とは順序が逆ですね」 プラトン:「そういうことだ。そしてそんなデカルトの次に出てくる合理論の哲学者が、スピノザだ」 スピノザ:「この世界のすべてのものは原因と結果のつながりによって存在している。そして、その繋がりには、それ以上さかのぼることのできない究極的な原因、究極原因があるはずだ。それを俺たちは、神と呼んでいるんだ」 プラトン:「すべての根本には神が関わっっている。それが彼の主張だ」 アリストテレス:「待ってください。デカルトさんの考え方からすると、神は見えもしないんだから、神の存在なんてまっさきに疑うべきものになるんじゃないですか?」 プラトン:「そう思うだろう? そこで彼はこう考えたのさ。そもそも、人間は神の一部であるとね」 スピノザ:「人間も植物も動物も、全てのものには根本に神が関わっている。つまり、神が唯一の実体であり、すべてのものは神の一部なんだ。当然人間も神の一部だから、生まれながらにして真理を理解していて、そこから個々の事例について判断することができるんだ」 プラトン:「万物は神が表されたものである。汎神論(はんしんろん)という考え方だね。すべて神の一部だから、人間は揺るぎない真理を知り、個々の事象を判断する能力がある。演繹法を使えるとしたんだね」 アリストテレス:「神の一部って考えると、なんだかすごく偉くなったような気がしますね」 プラトン:「その形、その者でありつづけようとする力、コナトゥスを持っているともいっているし、力を与えてくれる思想かもしれない。そして、最後に出てくるのがライプニッツだ」 ライプニッツ:「人間が神様の一部なわけないじゃん。すべてのものはモナドっていうめちゃくちゃちっさい実体でできてんの。つまりお互い独立しててちょっかいかけたりできないの。モナド同士を動かせるのは神様だけ」 プラトン:「すべての存在はモナド、単子と呼ばれるものが根幹にあるとしているんだ。モナドは存在の最小単位みたいなもので、それ以上分割できない実体のことだよ。細胞のようにイメージしてもいいかもしれない。モナドはそれぞれ独立していて互いに干渉できないが、神によってあらかじめ全体で調和するように仕組まれていると考えたんだ。これを予定調和説という」 ライプニッツ:「神様がちゃんとどうにかなるようにしてくれてんの。だから心配しなくてもだいじょうーぶ。神様がいいかんじに一番いい世界にしてくれてんの。そんなハッピーな世界ないっしょ!」 プラトン:「そうして、この世は神によって最善の世界にされている。最善説にまで発展させた」 アリストテレス:「それはそうだったらいいかもしれませんが、さすがに理想にすぎないんじゃないですか? 実際はいいことばかり起きるわけじゃなくて、悪いことだって起きますよね? たとえば災害や戦争が起こります。それも神様が最善だと思って仕組んだんですか?」 プラトン:「たしかにこの理論を受け入れがたいと感じる人間は多い。それに対してこう補足してみようか」 ライプニッツ:「神様はいいことと悪いことのバランスをとってるんだって。いいことばっかでも、悪いことばっかでも、ダメだと思うんだよね。そう意味で、ちょうどよく神様が調整してくれてんの」 プラトン:「いいことも悪いこともバランスよく。そういう世界が最適、最善だと考えたというわけだ」 アリストテレス:「なるほど、勉強になりましたっ。明日テストも神様がなんとかしてくれるといいですね」 プラトン:「……言っておくが、何もしなくていいと主張してるわけではないからな」 0: 0: デカルト:「では今からテストを返却するぞ。アリストテレス」 アリストテレス:「はい」 デカルト:「なんだこの点数は。ちゃんと勉強しろよ」 アリストテレス:「えっ私はちゃんと勉強しましたよ」 デカルト:「それでこの点数なのか?」 アリストテレス:「この点数って……0点!?」 デカルト:「とにかく、もう少し頑張ることだな」 アリストテレス:「うーん、なんでだろう……。あ、プラトンさん、テストどうでした?」 プラトン:「信じられない……この僕が、0点だと?」 アリストテレス:「え? プラトンさんも?」 プラトン:「ああ。「も」ということは、君もかい?」 アリストテレス:「はい。そうなんですよ。ちゃんと回答したはずなんですけど白紙になってて……」 プラトン:「僕だってそうだ。こんな点数が出るなんてありえない」 アリストテレス:「先生に聞いてみましょうか。せんせーい、採点ミスじゃないですか?」 デカルト:「いいや、ミスなどあるわけがない。採点はアルケーが正確に行っている。採点ミスなどありえん」 プラトン:「アルケーに任せたということは、先生は答案を確認していないんですか?」 デカルト:「いいや、もちろん採点された答案は確認しているが。それがなにか問題があるのか?」 プラトン:「いいえ。ですが、不自然とは思わないんですか。二人も0点がいるんですよ?」 デカルト:「二人ではない」 アリストテレス:「え?」 デカルト:「スピノザとライプニッツ以外は全員0点だった」 プラトン:「なんだって?」 デカルト:「今回のテストは難しかったかもしれないが、全員気が抜けているんじゃないか? この結果を受け止めて、次回はこのような結果にならないようにしなさい。以上だ」 アリストテレス:「あの、それでプラトンさんはどう思います?」 プラトン:「どうって、あの二人が点数を改ざんしたんじゃないのか?」 アリストテレス:「どうやってそんなことをしたんでしょう?」 プラトン:「さあね」 アリストテレス:「さあねって、考えてくださいよ。そうでないと私たちこのままだと0点になっちゃいますよ?」 プラトン:「はあ……まったく、面倒なことになったな」 アリストテレス:「とにかく、まずは状況を確認しましょう」 0: 0: スピノザ:「それで、俺になんのようだ?」 アリストテレス:「スピノザさんは、テスト何点でしたか?」 スピノザ:「そんなことを聞いてどうする?」 アリストテレス:「いやあ、私が思った点数とだいぶ離れていたので、スピノザさんはどうだったのかなーっと」 スピノザ:「それは、お前の勉強が足りなかっただけじゃないのか?」 アリストテレス:「そうだとしても、さすがに0点はないと思いませんか?」 スピノザ:「解答欄をずらして書いたんだろ」 プラトン:「そうだとしても、他の大多数の生徒まで0点というのはおかしくないかい?」 スピノザ:「……本当か?」 プラトン:「本当だ。それで、君は何点だったんだい?」 スピノザ:「100点だけど?」 アリストテレス:「え、すごい!」 スピノザ:「勉強しただけだって。すごくはない」 プラトン:「なるほど、相当頑張ったんだな。中等部の頃から君の成績が上位になったのを見た覚えはないぞ」 スピノザ:「お前らも勉強しろよ。じゃあな」 アリストテレス:「……うーん、やっぱり頑張って勉強したんでしょうか」 プラトン:「とてもそうは見えなかったね。では、もう一人の方にいこう」 0: ライプニッツ:「あたしになんか用?」 アリストテレス:「テストどうだったかなーっと思って」 ラプニッツ:「えーっ、そんなに気になっちゃうかんじ?」 アリストテレス:「ええ、いい点だったらしいってデカルト先生から聞いたので気になっちゃって」 ライプニッツ:「じゃあ言っちゃうけどお、100点満点のはハナマルちゃんに決まってんじゃん!」 アリストテレス:「え、ライプニッツさんもですかっ、すごい!」 ライプニッツ:「そう? フツーじゃね?」 アリストテレス:「いやすごいですよ。私たちは0点でしたから」 プラトン:「あまり言いふらさないでもらえると助かるんだが」 ライプニッツ:「え、そんなにヒドいの? ウケるんだけど」 アリストテレス:「ウケないでくださいよー。それにしても、ライプニッツさんって勉強が得意なんですね。よかったら今度教えてください」 ライプニッツ:「あーいや、それはちょっと難しいかなあ。あたしも忙しいからさっ」 プラトン:「中等部の君のイメージだと、下から数えたほうがはやい順位ではなかったかい?」 ライプニッツ:「う、うるさいな。あたしだってやるときゃやるのよ!」 プラトン:「そうかい」 ライプニッツ:「あ、それでアリスちゃん」 アリストテレス:「はい、なんですか?」 ライプニッツ:「勉強教えるってのは難しいかもしんないけど、よかったらまた女子会でもしようよ。あんたとはゆっくり話したいなって思ってたんだ」 アリストテレス:「いいですね、すごく楽しそうです!」 ライプニッツ:「よっしゃ決まり。じゃあまた誘うからよろしくねー」 アリストテレス:「はい、こちらこそよろしくお願います!」 ライプニッツ:「んじゃ、あたしはスピちゃんのとこ行かないとだから。またねー」 アリストテレス:「はーい、さようならー……ライプニッツさんとはあまり話したことがありませでしたが、明るくていい人ですね」 プラトン:「僕はああいう人間と関わるのは忌避(きひ)したいと思うね」 アリストテレス:「プラトンさんは相変わらず人間嫌いなんですね。そんなにライプニッツさんがお嫌いですか? たしかにプラトンさんとは性格が正反対というか、陽(よう)と陰(いん)というか、正と負というか、まったく違うというか……」 プラトン:「さり気なく僕のことをディスるのはやめてくれ」 アリストテレス:「あ、すみません」 プラトン:「まあ性格が合わないというところももちろんそうだが、それ以上に、不正行為をするようなヤツらと仲良くお話ししようとは思わないね」 アリストテレス:「不正行為って、じゃあやっぱりライプニッツさんが今回のテストでなにかしたっていうんですか?」 プラトン:「ああ。ライプニッツとスピノザ。あの二人が今回のテストで点数の改ざんを行ったことは、まず間違いないだろう」 アリストテレス:「どうしてそう思うんですか?」 プラトン:「どう考えても、あの二人だけが満点になっているのは不自然だ。二人がいくら勉学に励んだとはいえ、そこまで成績が上位ではなかったのにいきなり満点というのはおかしいだろう。きっと点数の改ざんを行ったんだ」 アリストテレス:「改ざんって、どうやって改ざんしたんでしょうか。カンニングをしたとか?」 プラトン:「カンニングにも種類がある。一般的なのは、カンニングペーパーをどこかに仕込む方法だろう。制服のポケットやシャープペンシルの中、消しゴムのケースの中などに仕込む。ただ、その方法だといくらか点数を上げることはできても、満点にすることはできないだろう」 アリストテレス:「じゃあ、スマホで調べたっていうのはどうですか?」 プラトン:「忘れたのかい。この学園で僕たち生徒は、スマホの所有を禁じられている。不可能だ」 アリストテレス:「じゃあ、テスト中にお互いに答案用紙を交換して、分からないところを教えてもらったとか?」 プラトン:「それは少なくともどちらか一方が満点をとるほどの学力を身に着けていなければ、到底成り立たない方法だ。さっきも言ったように、中等部時代の二人の学力はそこまで高くはなかった。いくら勉強したとはいっても無理がある」 アリストテレス:「元々の二人の学力から考えると、カンニングをしたところでどう頑張っても満点にはならないんですね」 プラトン:「そういうことだ。だから、ただのカンニングではないだろう。それに、もう一つ疑問がある」 アリストテレス:「なんですか?」 プラトン:「どうやって二人は他の生徒全員の点数を0点にしたのか。そもそも、なぜわざわざ他の生徒の点数を0点にする必要があったのか」 アリストテレス:「そっか。100点にするだけが目的なら、他の生徒の点数をわざわざ0点に改ざんする必要はないですよね」 プラトン:「その通りだ。わざわざ改ざんがバレるリスクを犯す必要はない。それに他の生徒を0点にしたことで、犯人があの二人なのではないかということがすぐに分かってしまう」 アリストテレス:「じゃあ二人はバレるようにカンニングをしたってことですか? 一体なんのために?」 プラトン:「それを今考えているんだ」 アリストテレス:「考えれば考えるほど分からなくなってきますね。いっそのこと、写真やデートしてあげるからって先生にお願いして問題を教えてもらった、とかなら単純なんですけどねえ。あー、でもそれだとやっぱり他の生徒が0点にされている意味が分かりませんもんね。やっぱりこの事件は難しいですねプラトンさん」 プラトン:「……それだ」 アリストテレス:「え?」 プラトン:「それが真実なんだよ、アリス君」 アリストテレス:「まさか本当に、写真とデートを条件にテストの問題を教えてもらったっていうんですか?」 プラトン:「正確には違う。問題を教えてもらったんじゃない。問題を教えさせたんだ」 アリストテレス:「教えさせた?」 プラトン:「ああ。どうやら真理は見えたようだ」 0: 0: スピノザ:「先生、どういうつもりですか。約束が違います」 ライプニッツ:「そうそう、あたしも満点なんてびっくりしちゃった」 デカルト:「俺は言われた通りにしただけだ」 スピノザ:「ふざけんなよっ! だれがあんなモロバレの改ざんしろっつったんだ? ええっ!?」 ライプニッツ:「バレたらあたしら退学になっちゃうし、それは困るんだよねー。でもって、先生も疑われちゃうよ?」 スピノザ:「疑われるですまさねえぞ。あんたの過去をバラして、ライプニッツがアルケーに写真を見せれば、あんたは間違いなくクビになる。分かってんだろうな?」 デカルト:「分かってるさ。……もとよりそのつもりだったんだからな」 スピノザ:「はあ?」 デカルト:「お前たちの担任として、最後の授業だ。これは哲学者デカルトの言葉だが……『理性すなわち良識が私たちを人間たらしめ、動物から区別する唯一のものであるだけに、各人のうちに完全に備わってると思いたい。』。今のお前たちには良識がねえ。良識の欠けた人間はただの動物と変わらねえ。覚えておくんだな」 ライプニッツ:「はあ、訳わかんない。最後の最後にお説教?」 スピノザ:「相手にするだけ無駄だ。俺たちはどうやってごまかすかを考えねえと」 プラトン:「残念だがもう手遅れだよ」 スピノザ:「……なぜお前らがここにいるんだ」 アリストテレス:「それはこっちのセリフですよ。体育館の地下倉庫で、一体なにをやっていたんですか?」 ライプニッツ:「なにって、ちょーっと先生とお話ししてただけだけど?」 プラトン:「わざわざ話すだけでこんな人目のつかない場所を選んだのかい? それにここは通信環境が悪く、アルケーの監視が唯一行き届かない場所だ。ただのお話しというには無理がある。それに外から聞いていた限りでは、穏やかな雰囲気ではなかったようだが?」 スピノザ:「いいだろどうだって。用がないならさっさと出ていけよ」 アリストテレス:「用はありますよ。このままだと私たちのテスト0点のままになったちゃいますから、先生に真相を話してほしいんです」 デカルト:「俺に?」 プラトン:「どうせ自首するつもりだったんでしょう? だったら今すべてを話してください」 デカルト:「……どこまで気づいた?」 プラトン:「先生が脅されていて、すべてを明るみにした上で辞職するつもりだってことくらいまでは」 デカルト:「つまり、全部知ってるってことだな」 アリストテレス:「じゃあ、本当に先生が改ざんをしたんですか?」 デカルト:「ああ、そうだ」 アリストテレス:「そんな……」 デカルト:「かわいい生徒からの要望だ。すべてを話そう。……俺が改ざんを行ったのは事実だ」 ライプニッツ:「あーあ、言っちゃった」 プラトン:「どう考えてもスピノザとライプニッツの二人だけでカンニングをして満点をとるのは難しい。そう考えて、二人は先生を頼った。そう考えるとすべての辻褄が合う」 デカルト:「そういうことだ。二人の答案用紙差し替えて、高得点すること。二人からそう頼まれた」 アリストテレス:「でも、そんなこと断ったら良かったんじゃ……」 デカルト:「もしも断ったら、ライプニッツが生着替え写真をアルケーに見せつけて、『デカルト先生に盗撮された』って言うぞって脅されたんだ。だから、答案用紙を入れ替えて改ざんをした」 スピノザ:「なのにこいつは俺たちの答案を満点にして、他の生徒の点数を0点にしやがった。俺たちはバレない程度にやれって言ったのにな」 ライプニッツ:「なんでそんなことしたの? バレないようにやってくれたら、あたしたちも先生もずっとこの学園にいられたのに」 デカルト:「そんなの決まってんだろ。俺はお前たちの先生だ。生徒の悪だくみに加担するわけにはいかねえだろ」 ライプニッツ:「くっだらない。そんな意地のためにわざわざ自分までクビになるようなことをしたっての?」 デカルト:「理由はそれだけじゃない。これは俺自身のけじめでもあるんだ」 スピノザ:「けじめ?」 デカルト:「俺は、前の学校を不祥事を起こしてクビになって、この学園に来た。そのときの不祥事ってのは、女子生徒の盗撮だったんだよ」 ライプニッツ:「まさか、本当に盗撮やってたの?」 デカルト:「そうだ。だからお前たちに脅されて、これは過去に犯した罪の報いなんだと思ったんだ。だからあえて反発することはしなかったし、あえてこの三人がやったってことが分かるように改ざんした」 プラトン:「その結果、僕が気づいたわけですね」 デカルト:「ああ。なんとなく、あの人の教え子であるお前なら分かってくれるんじゃないかと思った。まあもし誰にも気付かれなかったとしても、自首するつもりではいたんだがな」 プラトン:「……」 デカルト:「そういうわけで、こんな改ざんをしちまった。プラトン、アリストテレス。お前たちには悪いことをしたな。お前たちが出した本当の解答用紙はちゃんと保管してある。アルケーにはすべてを話した後でそれを渡して、正しい点数をつけてもらうようにしておく。もちろん、スピノザとライプニッツの分もな。許してくれとは言わないが、勉強することを、真理を追求することを諦めず、これからも頑張ってくれないか。俺からの最後の頼みだ」 アリストテレス:「先生は、本当にそれでいいんですか? 事情を話せばアルケーさんだって分かってくれると思います」 デカルト:「アルケーは、この学園は、そんなに甘くねえよ。それに、俺は前の学校で問題を起こしている。どちらにしろ、教師でいる資格はなかっんだ」 スピノザ:「勝手に自分の都合でこっちまで道連れにするなんて、最低の教師だな」 デカルト:「こっちだって、最低の生徒のを受け持つことになったんだ。本当に、運が悪かった」 スピノザ:「ふんっ」 プラトン:「先生。これは僕のただの想像ですが、前の学校での盗撮というのも実は今回のように生徒から仕組まれたものだったんじゃないですか?」 デカルト:「プラトン。その質問にだけは答えられない」 プラトン:「なぜですか?」 デカルト:「俺が今真実を言ったとしても、それがお前にとって真実である保証はない。俺が嘘をついている可能性だって十分にある。結局、他人から言われたことなんてアテにならねえんだ。だから真相を決めるのは、お前自身だ。お前は俺を見てどういう人間だと感じたか。それが大事なんだ。俺からはなにも言わねえ」 プラトン:「……分かりました」 デカルト:「話はこれで終わりだ。俺はもう行く。アルケーに話をしねえとな」 スピノザ:「待てよ。なに勝手に終わろうとしてんだ。辞めたきゃお前ひとりだけやめろよっ!」 ライプニッツ:「そうよ。せっかくこの学園に入れたのに、退学なんてことになったら、あたしたちどうすればいいのよ」 デカルト:「お前たちの思想で言うならば、すべては神が調和するようになんとかしてくれる。だからお前たちも今度は真面目に頑張るんだな。どちらにしろ、俺はお前たちを見過ごすわけにはいかねえ」 スピノザ:「ぜってー認めねえぞ。お前にそそのかされたって言ってやるっ」 デカルト:「好きにしろ。ボイスレコーダーにこれまでの一連の会話はすべて録音している。俺はそれをアルケーに差し出すだけだ」 ライプニッツ:「ボイス、レコーダー……!」 プラトン:「やはり隠し持っていたんですね」 デカルト:「当たり前だ。これでもお前たちよりも人生経験豊富なんだ。ナメんじゃねえぞ」 スピノザ:「くっそ……」 アリストテレス:「先生がいなくなると、寂しくなりますね。私、デカルト先生のこと、本当に素敵な先生だと思っていました」 デカルト:「そりゃ悪いな。今の話を聞いて幻滅しただろ?」 アリストテレス:「いいえ。先生は最後まで生徒思いのいい先生だと思います。さっき先生の資格がないなんて言っていましたけど、デカルト先生はちゃんと私達の先生だと思います」 デカルト:「そうか、ありがとな」 アリストテレス:「こちらこそ、ありがとうございました」 デカルト:「ああ、そうだ。プラトン。最後に一つアドバイスしといてやる」 プラトン:「なんですか?」 デカルト:「デカルトって哲学者はなんでもかんでも疑った。自分で見たものでさえも。それは知っているな?」 プラトン:「もちろんです」 デカルト:「この学園のことについて知りたいなら、すべてを疑ってかかった方がいい。お前が見ているものも、聞いたものも、考えたものも、すべてを疑うんだ。その先にこそきっと真理がある」 プラトン:「覚えておきます」 デカルト:「もう会うこともねえだろうけど、お前たちがこの学園を無事に卒業できることを祈ってるぜ。じゃあな」 プラトン:「……さようなら。先生」 0: 0: プラトン:「アルケー」 アルケー:「お呼びでしょうか」 プラトン:「今回も、君はなにもかも分かっていたんだろう? テストの改ざんも、そしておそらくは先生の過去も」 アルケー:「本プラグラムは、教師や生徒の要望にただ従うことだけが任務となっております。必要以上の干渉はいたしません。教師や生徒からの申告があった場合、そして哲学者になりきれていないと判断した場合、本名を名乗ったときのみ、処罰をくだします」 プラトン:「じゃあ、僕の要望にも答えてくれ。……一年前、あの事件で、なにがあったんだ? 僕はそれが知りたいだけだ。教えてくれ」 アルケー:「あなたがそれを知る必要はありません。言い換えるならば、それを知る努力をするのも、あなたの生徒としての務めです」 プラトン:「うまく言い逃れしたもんだな」 アルケー:「あなたが真理を見ることができたとき、あなたがなにを思うのか、楽しみにしています。それでは、あなたが知を愛す哲学者とならんことを」 プラトン:「……すべてを疑ってかかるしかない、か。これは思っている以上に僕はなにか大きな見落とし、いや、勘違いをしているのかもしれない。この学園の謎、必ず暴いてやる」 0: 0: アリストテレス:「話ってなんですか、ライプニッツさん」 ライプニッツ:「あー、来た来た。ごめんね、急に部屋に呼び出しちゃって」 アリストテレス:「それは構いませんけど……それよりもっ。なんですか、このお菓子の山は!!」 ライプニッツ:「ほら、女子会しようって言ってたじゃん? いつまでこの学校にいられるからわかんないから、今日やっちゃったほうがいいなって思って」 アリストテレス:「なるほど。でも、いいんですか、そんな私だけ楽しんじゃって……」 ライプニッツ:「遠慮しないでよ。退学になるのはあたしとスピちゃんの自業自得なんだからさ。あたしは、あんた達を恨んでなんかいないよ。だからさ、最後くらい楽しくお話しさせてよ」 アリストテレス:「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、いただきまーすっ」 ライプニッツ:「あははっ。そんなにがっつかなくてもお菓子は逃げないから。ゆっくり食べなよ。あんたにはちょっと長話もしなきゃいけないしね」 アリストテレス:「(口にお菓子を詰め込みながら)なふぁばなふぃ(長話)?」 ライプニッツ:「プラちゃん、いるでしょ? あいつのことで言っておかなきゃって思って」 アリストテレス:「プラトンさんが、どうかしたんですか?」 ライプニッツ:「あいつ、真理がどうとかってずっと言ってるでしょ? 実はあれ、一年前に起きたことを引きずってて、その真相を知りたいって思ってるらしいんだよね」 アリストテレス:「一年前の出来事って、一体何があったんですか?」 ライプニッツ:「そのときあたし達の学園の先生だった人が急に辞めたのよ。プラトンはその先生のことすごく尊敬してたみたいだから、かなりショックだったんだろうね」 アリストテレス:「そんなことがあったんですね。ちなみに、なんという名前の先生だったんですか?」 ライプニッツ:「人気で優秀な先生だったから、この学園に来てから一度くらい名前は聞いてるんじゃない? ソクラテス先生よ」 アリストテレス:「その名前なら何度か聞きました。授業をサボるエピクロスさんといつも話をしたり、演劇部の顧問としてアウグスティヌス先輩の悩みを聞いたり、陸上部の厳しい練習を注意したりしてたって」 ライプニッツ:「プラトンは、ソクラテス先生が辞めたのは誰かににハメられせいだってずっと言ってて。アルケーのことも、生徒のこともあまり信じてないみたいなの」 アリストテレス:「それで友だちが少ないんですね」 ライプニッツ:「あんたって結構はっきり言うのね。まあでもそんなプラトンがアリスちゃんにはわりと心を開いてるみたいじゃん?」 アリストテレス:「だといいんですけどね。いつも煙たがられていますよ」 ライプニッツ:「本当に関心がなかったら新聞部に入ったり、あんなにいつも話したりしないでしょ? 十分仲いいと思うよ。だからさ、お願いすることじゃないんだろうけど、プラちゃんとこれからも仲良くしてやってほしいなって」 アリストテレス:「もちろんですよ。プラトンさんといると退屈しなくて楽しいですから、言われなくても付きまといます!」 ライプニッツ:「ありがと。なんかあんたらを見てると、あたしとスピちゃんみたいに見えてきてさ。他人事とは思えなかったから、言っときたかったんだよね」 アリストテレス:「ライプニッツさんとスピノザさんもいいコンビだと思いますよ。二人ならこれからもやっていけると思っています」 ライプニッツ:「あったりまえよ。二人でいれば恐いものなんかないもん」 アリストテレス:「うふふ、元気が出たようでよかったです」 ライプニッツ:「ありがと。あたしもアリスちゃんとプラちゃんならうまくやっていけると思うよ。それこそ、一生連れ添うくらいにね♪」 アリストテレス:「たしかに、それくらい交友関係が続くと素敵ですよねっ」 ライプニッツ:「そういう意味じゃないんだけど、まあいいや。ほら、まだまだたくさんあるから、お菓子食べて食べてっ」 アリストテレス:「はい、いただきますっ! ……少しもらって、明日プラトンさんにも分けてあげないとな。これからもお世話になりそうですから。ね、プラトンさん」 0: 0: プラトン:「はっくしょんっ! ……なんだ? 急にくしゃみが」 アルケー:「学園総合管理プログラム、アルケーです。風邪の症状を感知。ただちに風邪薬を処方します」 プラトン:「結構だっ」 0: 0: 0:《終》