台本概要
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タイトル | 死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第五番 運冥 |
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作者名 | 神風雷神 (@populight) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男2、女2、不問1) |
時間 | 70 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。 死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 さて、今日はいつもと違う場所から、死神の一日が始まる。 ※誤字脱字、報告あれば修正します。よろしければお手に取って、読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。 475 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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冥助 | 男 | 172 | 天川冥助(アマカワ メイスケ) 主人公。依頼を受けると大体引き受けてしまう。人道に反するような行為が大嫌いで、そのためならある程度違反しても制裁する。得意物は大鎌。刃渡りは長いが、狙った場所だけ斬ることができる。女性の涙に弱い(響子は別) |
響子 | 女 | 114 | 高嶺響子(タカネ キョウコ) 隣町の死神。事あるごとに冥助のところに来て、世間話や仕事の依頼を持ちかけてくる。話をよく聴いてくれる死神と評判で、死人から慕われている。得意物は無い。非常に怪力で、軽く叩いたり蹴ったりするだけでも、強烈に痛い。涙脆い。 |
晴 | 不問 | 147 | 夜神晴(ヤガミ ハル) 死後の世界の番人の一人。死神のまとめ役をしていて、法律等にうるさい。とても優しそうであるが、怒ると果てしなく怖く、死神相手でも拷問し、改心させようとする。得意物は鎖で、拘束したり、鞭のように使うこともある。甘い物に目がない。 |
詩織 | 女 | 95 | 横川詩織(ヨコカワ シオリ) 音楽大学に通う学生。声楽専攻でオペラ歌手を目指している。とあるバーで名尾川と出会った。しかし、名尾川の本性を知り、逃げようとするが捕まり、命が燃え尽きようとしている。 |
正春 | 男 | 87 | 名尾川正春(ナオカワ マサハル) 天才と呼ばれるほどの作曲家でピアニスト。狂気じみた旋律で人々の心を揺さぶるが、それは愛する人の苦しみや叫びからインスピレーションを受けているものだった。気に入った女性を食い物にし、様々な方法で殺害したその声を楽譜にしたためている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
死神の鎮魂歌 ー第5番 運冥ー(本編)
詩織:や、やめて!離して!痛い!苦しい!誰か!誰か!助けて!
正春:ぁぁ・・そう!その顔!絶望と!裏切られた瞬間のその顔!その顔で!どんな声を聴かせてくれるかなぁ?!
晴:運命は、変えられない。いや、簡単に変えては、いけないんです。さあ・・・考えを改めなさい。
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響子:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
響子:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。
響子:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
響子:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
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冥助:・・・・・???おっかしいなぁ。今までこんなことなかったはずなのに・・・。
響子:あら、どうしたの?目を瞑って腕組んで、何してるのかと思ってたけど。
冥助:・・・毎度毎度よく来るなぁ、おい!何度も言うが、仕事はどうした?!何なら始末書もあっただろ?!
響子:ふん!あんたと違って、量が全然違ったわ。ノート1冊分で終わったわよ。余裕よ、よ・ゆ・う。
冥助:何でだよ!あれだけのことしておいて、ノート1冊分かよ!
響子:あんたに言われたくないわ!!あれだけのことをこんなにたくさんしておいて、クビになってないことの方が不思議なんだからね!普通なら、クビよ!クビクビクビ!クビー!
冥助:あああ!クビクビうるせぇ!他にも仕事あんだろ!怠慢だ!お前のほうがクビだ!
響子:・・・あんたのその減らず口、どうする?叩いて治す?殴って治す?それとも、蹴って治す?
冥助:や、やめろ!どれにしても俺の口が再起不能になる!
響子:まったく・・・で?何してたの?
冥助:・・・この前の病院騒動の時にいた矢吹ってやつ、覚えてるか?
響子:ああ、冥助が情報を共有してる男の人よね。
冥助:そう。ソイツとテレパシーみたいなので、会話することもあるんだけど・・・。
響子:・・・連絡がつかないのね。
冥助:・・・そうなんだよ。何かあったのか?
響子:・・・ねぇ。その人、いつもは何してるの?
冥助:ん?あぁ。町の情報屋だ。いろんな情報を知ってるし、霊も見えて会話もできる。死んだ人間の情報を前もって教えてくれるから、情報処理が段違いに速くなるんだよ。
響子:なるほどね〜・・・って、あんたそれ不公平じゃない!
冥助:しょうがねぇだろ!こちとら始末書で地獄見てんだよ!
響子:じ・ぶ・ん・の・せ・き・に・ん・でしょ!
冥助:・・・・・・・。
響子:・・・まあ、でも心配になる気持ちはわかるけどね。
冥助:・・・あ。で、お前は何しに来たんだよ。
響子:ああ、そうそう。最近、学生の子たちが何人も行方不明になってる事件、知ってる?
冥助:あぁ。有名になってるな。
響子:何も知らない?
冥助:何も知らねぇよ。うちの管轄じゃないし、連絡も届いてないからな。でも、何で響子が聴いてるんだ?管轄じゃねぇだろ?
響子:うちの管轄のおじいちゃんが、孫が殺されたって怒ってきたのよ。だから、何か情報があればと思って・・・。
冥助:前にも言ったが、うちは市役所じゃねぇんだよ!何でもかんでも相談に乗ってたら、身体がいくつあっても足りねぇよ!
響子:それはそうなんだけど、やっぱり気になってね・・・。
冥助:気持ちは分かるが・・・難しいよなぁ。
響子:うーん・・・。
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晴:ごめんくださーい。
響子:あ、冥助、お客さ・・・あ。
冥助:げっ!もう来やがった!
晴:あらあら。これはこれは。挨拶ですね。お久しぶりです、天川さん。
冥助:・・・こりゃどうも。
響子:お久しぶりです。夜神さん。
晴:お久しぶりです、高嶺さん。おやおや?お仕事はどうされたんですか?
響子:あーー・・・えっとぉ・・・ちょっと情報が欲しくて、こちらに聴きに来たんです〜。
晴:おや、そうなのですね。仕事に熱心なのは良いことです。ただ、ご自身の仕事に尽力を注ぐようにお願いします。この間の始末書といい、最近仕事が滞っている様子ですよ。
響子:あ、あはははは・・・・・以後、気をつけます・・・。
冥助:やーい、注意うけてやんの〜。
晴:天川さん?
冥助:は、は、はい!
晴:貴方の規約違反・・・何度目でしたっけ?
冥助:・・・・・10回目です。
晴:そうですね。
響子:あんたそんなにやってたの?!
冥助:うるせえ!別に暴力的なヤツだけじゃーーー
晴:天川さん?
冥助:反省してます!
晴:・・・・・。
冥助:・・・で、今日はどういった要件で?
晴:ああ、そうですね。今回で違反10回目ですので、まともに仕事ができるのか、チェックさせてもらいに来ました。
冥助:・・・は?
晴:まとめ役をしている以上、保護責任が付き物です。
冥助:いやいや!ちゃんとしてますって!ほら!ちゃんと始末書も期日には出してるし!!
晴:それは仕事とは言いません。
冥助:うっ・・・。
晴:(ため息)・・・天川さん。これ以上違反するようだと、本当にクビになりかねません。そうならないようにするために、私がここに来ました。
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響子:め、冥助。ちゃんとしといたほうがいいわよ。夜神さんって、今まで違反した死神を何人もクビにするだけじゃなくて、黄泉の門の更に深く、深淵の闇に閉じ込めてしまうって噂なんだから。
冥助:し、深淵ってなんだよ?やべえ所か?
響子:あんたちゃんと話聴いてたの?深淵の闇!入ったら最期、二度と出られず、永遠に孤独に彷徨うことになる闇の中!だから、何も見えない。何も聴こえない。そんな所に連れて行かれるのよ!
冥助:マジでやべぇ。っていうか、殺される?俺。
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晴:・・・・・聴いていますか、天川さん?
冥助:は、はい!
晴:ともかく、しばらくの間、貴方を監視させてもらいます。眼の前で違反するようなら・・・容赦しません。
冥助:・・・・・。
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詩織:ハァ・・ハァ・・!す、すみません!
響子:冥助。お客さんよ。
冥助:お、いらっしゃい、お嬢さーーー
詩織:た、助けてください!!!
冥助:お、おおおお?ど、どうした?って、何だ?傷だらけじゃねぇか。
響子:しかも、人為的な傷・・・落ち着いて!どうしたの?
詩織:わ、私・・・殺されそうなんです!
響子:・・・殺されるも何も、この身体は幽霊・・・まさか!
冥助:お嬢さん。少し詳しく聴かせてくれるか?
詩織:私・・・彼に騙されてたんです・・・。その彼とは、一週間前、バーで知り合いました。
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詩織:ハァ・・・仕事、なかなか見つからないな・・・。音大で声楽を続けてきたけど・・・私、本当に向いてるのかな?
正春:やぁ、一人かな?
詩織:え?あ、はい。
正春:良かったら、私と一杯付き合ってくれないかな?
詩織:え?あー・・・ーーー
正春:この飲み代は、私が払うからさ。
詩織:・・・じ、じゃあ、一杯だけ・・・。
正春:ありがとう。私は名尾川正春。君は?
詩織:よ、横川です。横川詩織・・・え?名尾川って・・・あの、ピアニストの名尾川正春さん?!
正春:おや?私のことを知っているんですか?
詩織:知っているも何も!天才作曲家って、有名じゃないですか!!ほ、本物ですか?!
正春:そうだね。間違いなく、本物だよ。
詩織:し、信じられない。
正春:知っている人からしたらそうだろうね。
詩織:で、でも、どうして私に声を?
正春:ん〜・・・理由は2つ。1つは、詩織さんが悩んでいそうだったから。もう1つは・・・詩織さんの声、だね。
詩織:こ、声?
正春:そう。さっき呟いてた声が、とても耳に良く聴こえてね。つい声をかけてしまった。仕事柄、音を感じやすいんだよ。
詩織:そ、そうなんですね。そっか、私の声が・・・。
正春:では、お近づきの印に、乾杯。
詩織:か、乾杯!
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詩織:自信を無くしかけてた声を褒められて、嬉しくなって、そこから意気投合して、仲良くなって・・・それで、仕事が見つからないことを相談したんです。そしたら・・・ーーー
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正春:・・・なるほどね。たしかに、声楽を極めた人たちの仕事場は狭き門。なかなか入れるものではないから、難しいよね。
詩織:そうなんです・・・。この声が、だめなのかなって思って・・・。
正春:いやいや!詩織さんの声は魅力的さ!だからこそ、君に声をかけたんだからね。
詩織:名尾川さん・・・。
正春:・・・そうだ。詩織さんのことを、私が知り合いに紹介しよう。
詩織:え?!そ、そんな!ご迷惑になるようなことーーー
正春:迷惑なんて思ってないさ。何より、詩織さんの声に、僕が惚れ込んだから。
詩織:・・・あ、ありがとうございます。
正春:もし良かったら、今度、ここに遊びに来ないかい?
詩織:え?この地図・・・どこですか?
正春:私が作曲する時に使うアトリエなんだ。山の中で声も響きやすい。声楽の練習にはピッタリの場所さ。で、その時に仕事のことも紹介してあげよう。
詩織:い、いいんですか?私なんかがーーー
正春:構わないんだよ。私が好きでやってるんだから。・・・あ、ただし、一人で来てほしいな。好きでやってるとはいえ、有名人が後ろで手を引いてるなんて言われたら、後でお互いに嫌だろうからね。
詩織:そ、そうですね。分かりました・・・。
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詩織:この時は、私も彼を信用しきっていました。
響子:でも、彼の肩書は嘘だった?
詩織:いえ。彼は、正真正銘の名尾川正春さんでした。
響子:え?じゃあ、どうしてーーー
冥助:響子。まだ続きがありそうだ。
詩織:・・・今日、そのアトリエに一人で行ったんです。そしたらーーー
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正春:いらっしゃい、詩織さん。
詩織:お邪魔します、名尾川さん。
正春:遠かっただろう。お疲れ様。
詩織:いえ、大丈夫です。・・・本当に、声が通りそうな所ですね。
正春:うん。本当によく通るよ。さあ、緊張ほぐしにハーブティーをどうぞ。
詩織:あ、ありがとうございます。いただきます。・・・・美味しい。
正春:それは良かった。・・・さて、君の声を聴かせてくれるかな?
詩織:え?
正春:僕に合わせて、声を出してくれたら、それででいい。
詩織:わ、わかり、ま・・・あ、あれ?か、身体が、痺れて・・・!
正春:大丈夫。声は出るはずだからぁっ!!!(隠し持っていたナイフで腕を切りつける)
詩織:キャアッ!い、痛い!
正春:ハハハハ!いい!!いい!!そう!その声!!
詩織:な、名尾川さん!?こ、これは、どういうことですか?!
正春:言っただろう?君の声が好きだと。君の声で、私の作品の音が紡がれていくんだ。さて、ひとまず逃げられないようにしないとね・・!
詩織:く、鎖?や、やめて!離して!誰か!誰か!助けて!
正春:無駄だよ。忘れたのかい?ここは山の中。周りに家もなければ、人も簡単には来ない。誰も、君がここにいることを知らない。
詩織:・・・・・っ!
正春:・・・ぁぁ・・そう!その顔!絶望と!裏切られた瞬間のその顔!その顔で!どんな声を聴かせてくれるかなぁ?!(太ももを切りつける)
詩織:痛い!痛い・・・っ!ホントに・・・助けて・・・。
正春:あれ?声が小さいなぁ・・・インスピレーションに欠ける・・・もっと・・・声を上げて叫べぇっ!!!(太ももに軽く突き刺す)
詩織:ぃ、いやぁあぁぁぁ!!!痛い!!痛い!刺さないでぇ!!!
正春:ハハハハハハハハ!!!そうか!この痛みで、こんな声が出るんだなぁ!早速スコアに書かないと!
詩織:・・・お願い・・・もう・・・許して・・・
正春:許す?詩織さん。許すも何も、僕は怒っていない。見たいんだ。聴きたいんだ!人が、命をかけて叫ぶ声で描かれる作品を!!そのために・・・君には、命をかけて、この作品の題材になってもらうよ?
詩織:い、命・・・?
正春:そう・・・ハハハ、いいね!また絶望した!今の声も・・・あああ、いい!さあ、どんどん聴かせておくれ!君の音楽をおおお!!!
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詩織:そこから、どれだけされたか、わからないんです。それで、いつの間にか気を失ってて・・・。そしたら、こんな身体になってたんですけど、彼にはまったく見えてなかったみたいで、でも、私の身体は、多分息してて、死んでないって思ったんです。
冥助:なるほどね。でも、そうだったとしても、どうしてここに来れたんだ?
詩織:私、実はこの町に知り合いがいたんです。その子に、ここに死神がいて、その人が助けてくれたんだって言ってて、もしかしたらと思って、無我夢中で飛んできました。
響子:知り合い?
詩織:立花優希って言うんですけどーーー。
冥助:アイツ・・・!余計なことをベラベラとーーー!
晴:ーーー天川さん。
冥助:・・・はい。
晴:死神規約、第31条。生きている者に、自分の存在を知られてはならない。
冥助:ち、違うんだ!今回みたいに、優希は死んでなくて!そ、それでーーー。
晴:ーーー天川さん?
冥助:・・・反省しております。と、というか!そのこともこの前の始末書に書いたぞ!さては見てねえな!?
晴:勿論、見ていますよ?・・・『私は立花優希に正体がバレています。しかし、その後の様子を見ている限り、口外する様子は見られません。』・・・・・どういうことでしょうか?
冥助:人間、時間が経てば考えも変わる!そう!変わる!
響子:だから気をつけなさいとあれほど・・・。
晴:・・・規約違反、11ですね。
冥助:待ってくれ!不可抗力だ!
晴:問答無用です。
詩織:あ、あの!
晴:ん?
詩織:私を、助けてくれませんか?!
晴:・・・・・。
詩織:ど、どうか、お願いします!
晴:ダメです。
詩織:・・・え?
晴:本来死神は、この場での願いを、しかも、生きている者と死んでいる者の願いを同時に叶えるのが、死神規約に規定されていること。ここに貴女が来たことは、たしかに生きている者の願いを聴いたことにはなります。ですが、ここに死んでいる者の願いは無い。過去ではなく、今、なのです。運命です。諦めてください、横川詩織さん。
詩織:運、命・・・・そ・・・そんな・・・。
響子:や、夜神さん何とかならないんーーーっ!!!(夜神が鎖を取り出し、響子の喉元にまで伸ばす)
晴:これ以上は、過干渉です。死神規約の第8条に違反します。それでも言うのなら・・・容赦せずこの鎖、貴女の首に巻き付けますよ?
響子:っ!・・・あ。
冥助:おいおい。それは無いんじゃねぇの?
晴:・・・何ですか?
響子:冥助・・・。
冥助:監視役か何か知らねぇけど、こんなところでドンパチされるなんて、事務所の代表が許すと思うか?
晴:・・・私に、意見する。という意思表示として、認めてよろしいですか?
冥助:そのお嬢さんがどうなるかってのは、分かんねぇよ。でも・・・何かできないかを考える。これすらやっちゃだめなのか?
晴:規約に基づくものです。過干渉になります。
冥助:じゃあ・・・俺の覚えた規約、言ってもいいか?
晴:・・・何ですか?
冥助:死神規約、第42条。死神は、他の死神の公務を妨害してはならない、ってなぁっ!!!(鎌を振り下ろし、無理矢理鎖を叩き落とす)
晴:くっ・・・!
響子:冥助!
冥助:響子!この人を連れて飛べ!お前がやれることをやれ!!ここは俺が何とかする!!
響子:そ、そんなことしたら冥助がーーー!
冥助:言ってる場合か!!!そのお嬢さんのこと!守りたいんだろ?!俺も・・・同じだからよ!!
響子:ーーーっ!!!
冥助:響子ができること、分かるだろ!?
響子:・・・・・詩織さん!!いくよ!(詩織のことを抱き上げて飛び上がる)
詩織:え?キャァッ!!
晴:させません!
冥助:おっと!(響子たちに向かう鎖を鎌で払い落とす)
晴:っ・・・・・・。
冥助:・・・・・。
晴:・・・やり残したことは、ありますか?
冥助:何で、止まってたんだ?
晴:・・・・・。
冥助:今の喋ってる間に、絶対に止められただろ?もし本気で止めようと思ったら、止められたはずーーーっと!?(高速で突いてきた鎖を紙一重で躱す)
晴:規約違反常習者に、相応の罰を受けてもらうためです。
冥助:・・・へぇ。そうかい。
晴:天川冥助さん。監視役である私に歯向かったことは、勿論規約違反です。
冥助:へっ・・・承知の上だっての!
晴:なれば、更生しないといけません、ねっ!!(鎖を鞭のように横に振るう)
冥助:よっと!嫌だね!何が更生だ!人の命を守りたいと思う気持ちの、何が悪いってんだよ!
晴:口を慎みなさい。規約違反です・・・!
冥助:おっと・・・!(向かってきた鎖を鎌で受け止める)
晴:捕らえましたよ・・・!
冥助:な、何・・・くそっ!!!(生き物のように冥助の身体に鎖が巻き付く)
晴:さぁ、どうさせてもらいましょうか、ね!(更に4本の鎖が手足に巻き付き、空中で磔の状態にする)
冥助:うわっ!離せっ!こんな鎖・・・ぐ、あああっ!!!
晴:無駄です。貴方程度の力で、私の鎖は外せません。動かせば動かすほど、貴方の手足を絞め上げます。
冥助:い・・っ!!くそっ!!
晴:さて、どうですか?考えを改めますか?
冥助:そんなわけねぇだろ!人の命を守れるなら!守ろうとするのはーーーっああああああっ!!!
晴:痛いですか?それが貴方の間違いを正す痛みです。
冥助:ーーーっ!この・・・っ!!
晴:もう一度問います。考えを改めますか?
冥助:へっ!何度でも言うぜ!俺は!罪もない人に手をかける外道を放っておくような薄情になりたくねぇーーーああああああぁああっ!!!
晴:・・・話になりません。そのようなこと、貴方の管轄外です。・・・もう一度問います。考えを・・・改めますか?
冥助:・・・響子・・・頼んだぜ・・・。
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正春:フフッ・・・ハハハハハハハハ。この気絶した静寂。これも尚良しだなぁ。起きた後、更なる絶望を味わうことを想像しただけで・・・ああああ。スコアが!スコアが止まらないぃぃぃ!さあ!もう少しだ!1番の盛り上がりは、更なる絶望で!アハハハハハハハ!!
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響子:ーーーーーここまで追ってこないなら、とりあえず大丈夫そうね。
詩織:・・・・・・。
響子・・・冥助・・・。
詩織:あ、あの・・・すみませんでした。
響子:え?何が?
詩織:あの人、私たちのことを守ってくれて・・・自分が酷い目に遭うかもしれないのに・・・。それに、あの相手の人も、とっても怖くて、どうしていいか、分からなくなっちゃってーーー。
響子:横川詩織さん、だったよね?
詩織:え?あ、はい。
響子:冥助も、私も、考えてることは同じ。貴女を、守りたいの。まだ救えるかもしれない、その命を。
詩織:・・・死神、さん。
響子:そうと決まれば・・・。相手の名前、もう一度教えて?
詩織:は、はい!名尾川正春です!
響子:名尾川正春・・・・・・さっき、有名な作曲家、とか何とか言ってたわね?
詩織:は、はい。まるでドラムを叩くかのように鍵盤を弾くような曲をいくつも作ってるんです。特にこの数年間、何曲も作曲されていてーーー
響子:ちょっと待って。何曲も?
詩織:え?あ、はい。
響子:・・・・・可能性は、ある。
詩織:え?
響子:こっちに来て!
詩織:え?え?ど、どこへ?
響子:・・・貴女の仲間になる人たちを、探しに行くのよ!
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冥助:・・・ッ・・・ハァ・・・ハァ・・・。
晴:(ため息)・・・天川さん。何て強情な人なんでしょう。これほどまでに拷問を受けても、まだ変わりませんか。もう百二十五回目ですよ?そろそろ、考えを改めますか?
冥助:・・・関係、ねぇよ・・・。俺の、考えは・・・変わらねぇ・・・!俺は・・・間違って・・な・・あ、ああああっ!!
晴:間違っている、間違っていない、ではないんです。規約。ルールです。貴方が死神になる際にも、伝えられたはずのルールです。そして、遵守するように教育されているはずです。
冥助:・・・ハァ・・・ハァ・・・
晴:規約を遵守出来なければ、死神として待っているのは、永遠の死です。死と言われながら、死ぬことすら赦されない無限の苦しみ。そんな場所にわざわざ行くようなことをしているんですよ?
冥助:・・・なぁ・・・夜神さんよぉ。
晴:・・・何ですか?
冥助:さっきのお嬢さん、何か悪いことしたのかよ?
晴:・・・・・。
冥助:してねぇよなぁ?相手が100%悪いだろ?なのに・・・騙されて、痛めつけられて、挙句の果てに殺される・・・。そんな人生・・・ありなのかよ・・・!
晴:・・・それが、その方の運命なんですーーー。
冥助:運命だぁ?・・・ふざけんじゃねぇよっ!!!
晴:ーーーっ!!!
冥助:決まってんのかよ!その訳わかんねぇヤツに殺されるために、必死に生きてきたのかよ?!
晴:・・・っ・・・運命は、変えられない。いや、簡単に変えては、いけないんです・・・。
冥助:今を必死に生きている人間が!生きたいと願っている人間が!殺されそうになってるのを!眼の前で見殺しにしろっていうのかよ!
晴:人の運命を変えるような傲慢!あってはならないのです!(冥助の手足だけではなく、胴体に巻き付いた鎖もきつく締め上げる)
冥助:ぐ、ぁああああぁあっ!!!
晴:さあ!早く改心しなさい!考えを・・・改めなさい!!
冥助:み、認めて・・・たまるかよぉっ!!!そんな運命・・・俺は、絶対に認めねぇっ!!!俺が・・・死神として・・・神として・・・!そんな運命・・・変えてやるよぉぉっ!!!
晴:・・・っ・・・何と・・・愚かな・・・。
冥助:っ・・・ハァ・・・ハァ・・・。
晴:何故・・・そこまで思えるのですか?自分の身をなげうってまで・・・どうしてそこまで、できるのですか・・・。自分が・・・死ぬかもしれないんですよ・・・?
冥助:・・・死神は、魂を無事に、黄泉の扉に、送り届ける事が、仕事だろ?
晴:・・・もちろん、そうです。
冥助:でも、理不尽に殺されて、泣きながら黄泉の扉に逝くヤツも、何人もいる。そいつ等の魂は、無事なのか?
晴:そういう魂は、扉をくぐった後、比較的早く転生すると言われていまーーー
冥助:そうじゃねぇっ!
晴:え?
冥助:そいつ等の魂は、心はねぇのかよ!!その心は、無事なのかよ?!
晴:・・・・・。
冥助:俺は!そんな魂を!1つでも多く救ってやる!だから俺は!死神になったんだ!
晴:・・・再度問います。考えを、改めますか?
冥助:俺の答えは!変わらねぇっ!!!
晴:貴方という人は・・・っ!!!
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響子:冥助ぇっ!!!
晴:・・・・おや、戻って来られたんですか。
冥助:響子・・・。
詩織:ひ、酷い傷・・・。
響子:遅くなってごめん!
冥助:まったくだぜ・・・。遅すぎるんだよ・・・。
響子:これでも頑張ったんだから!・・・ほら!これが、名尾川正春についての資料よ!
晴:っ!いけません!管轄外の資料作成など、規約違反です!
響子:規約規約って!うるさいのよ!
晴:な・・・っ!
響子:この子は・・・横川詩織は!何か罰を受けないといけない存在なの?!
晴:だから・・・これが運命なんです。これ以上違反するようだと、貴女にも罰が下りまーーー。
響子:そんな運命を受け入れるくらいなら!眼の前の助かる命を見捨てるくらいなら!!私は喜んで罰を選ぶわ!!!
晴:っ・・・!
冥助:・・・だから、言ったろ?運命なんて、変えてやるってさ。
晴:・・・あなた方は、何も分かっていない。本当の苦しみを。恐怖を。
響子:知らないわよ。そんなもの。
晴:だから言えるんです。そんな甘いことを。私は、二度と同じ過ちは繰り返さない・・・!
響子:・・・っ!!!
晴:・・・何をしてるんです?
響子:・・・詩織さん!
詩織:この人達は!何も悪くない!私の願いを、聴き届けてくれた!この人達を傷つけるなら・・・私が受けます!!
晴:無理です。貴女には受けきれません。確実に、死にますよ?
詩織:・・・それでも、私のことを!命をかけて守ろうとしてくれる人だから!私は・・・退きません!!!
晴:・・・・・。
冥助:・・・へへっ。無理だよなぁ?関係のない一般人を傷つけるなんて、死神規約に、反するもんなぁ?
晴:・・・っ・・・!
冥助:ありがとうな、お嬢さん。
詩織:いえ・・・私にできることなんて、これぐらいですから。
冥助:・・・響子。
響子:何?
冥助:資料、ありがとうな。
響子:・・・うちで仕事3日間ね?
冥助:ったく・・・しょうがねぇなぁ・・・で?ちゃんと許可、取ってきたか?
響子:・・・ええ。8件全部、取ってきたわよ。
冥助:流石だぜ・・・・っ!!!!!
響子:ど、どうしたの!?冥助!
冥助:くそっ!こんな時に!
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正春:さて・・・用意は整った。一つひとつの器具を使っていく楽しみがあるなぁ。削る、炙る、彫る・・・どれも最高の音を奏でるに違いない!・・・しかし・・・いつ死ぬか分からない恐怖、いつ痛みや苦しみが来るかも分からない、そしてそれが来たときの恐怖・・・そう・・・毒だぁ。この毒で、絶望しながら発狂する様を・・・ああああ!聴きたい聴きたい聴きたい!!!さあ・・・そろそろ起こそうか・・・。
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冥助:くそっ!ヤツだ!名尾川正春が、横川詩織を起こして殺そうとしてる!
響子:なんですって!?
詩織:そ、そんな・・・。
晴:・・・・・。
詩織:や、夜神さん。
晴:・・・(詩織に視線を向ける)
詩織:どうか・・・どうかお願いします。助けてください・・・助けて・・・。
冥助:横川詩織!
詩織:っ!!
冥助:お前は・・・死神に、何を望む・・・?
詩織:・・・お願いします・・・あの人を・・・殺してください・・・どうか・・・どうか・・・!!!
響子:・・・冥助。ちゃんと聴けた?
冥助:・・・あぁ。確実にな。・・・お嬢さん。安心しろ。その心、受け取った。
詩織:よ、よろしくお願いしまーーー。(意識が戻ったのか、そこで消えてしまう)
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冥助:・・・夜神さん。
晴:・・・何ですか?
冥助:たしかに今回の件、規約違反ばっかりだ。でも、条件は揃った。終わった後、俺のことを煮るなり焼くなりして構わねぇ。だから・・・行かせてくれ!頼む!
響子:私からもお願いします!私も!いくらでも罰を受けますから!!
晴:・・・・・・・・・(ため息)(冥助の拘束を解く)
冥助:おっ・・ととっ・・。
響子:冥助!
晴:飲みなさい。(小瓶を渡す)
冥助:これは?
晴:特効薬です。死神の仕事をしに行くのに、そんなボロボロの身体で務まりますか?
冥助:・・・!(小瓶の液体を一気に飲む)・・・すげぇ・・・一瞬で痛みも跡も無くなった・・・!
響子:夜神さん・・・ありがとうございます!
晴:お二人とも・・・規約違反の相応の罰、覚悟しておいてくださいね。そして、制裁も無駄な動きがあればその時点で、罰します。いいですね?
冥助:分かったよ!全部受けてやるよ!響子!行くぞ!
響子:ええ!!
晴:(先に行く二人を視ながら深くため息をつく)・・・・・何と、愚かなことを・・・・・。(今度は浅くため息をつく)・・・どうして・・・こうも似た方が現れるんですかね・・・。
0:
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正春:さぁて・・・メインテーマといこうかなぁっ!!!
詩織:ぉ・・・お願い・・・もぅ・・・ゃめて・・・
正春:おやおや!起きたんですね!待ちくたびれましたよ・・・・ここからどんな声が聴けるのか!
詩織:・・・もぅ・・・やだ・・・。
正春:声が小さいっ!!!
詩織:ひいっ!!
正春:・・・ハハハハ!!なるほど!!その声!いいね!やはりスコアが捗る!!
詩織:だ、誰か!助けて!助けてぇっ!!!
正春:ああぁああ!!いい!いい!ここで一気に跳ね上げる!!完璧だ!素晴らしい!
詩織:もう・・・許してよぉ・・・。
正春:さぁ、最高のディミニエンドを用意しようじゃないか。
詩織:・・・え?何ですか?そのコップ。
正春:この中には、ゆっくり回っていく毒が入れてある。飲むどころか口に入れたが最後・・・少しずつ苦しみ、やがて息絶える・・・。
詩織:ぃゃ・・・いや・・・!
正春:その苦しみを味わいながら、君は炙られたり彫られたり、切り刻まれたりして!最期の最期まで声を出して足掻きながら!無様に死んでいくんだよ・・・!
詩織:嫌だ!飲みたくない!飲みたくない!
正春:君に拒否権は無いんだよ!さあ!口を開けなさい!時間をかけてゆっくりと!存分に楽しませてくれぇ!アハハハハハハハーーー!!!
詩織:助けて・・・助けて!死神さん!!!
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冥助:おやおやぁ?こんなところにどう見ても監禁、婦女暴行の容疑者がいるぞぉ?
正春:・・・何?
響子:言い逃れできないわよねぇ?眼の前の女性・・・そんなに傷だらけで、嫌がってて・・・どういうつもりなのかしら?
晴:相手には見えていない状態での発言。死神規約第2条。むやみに相手を恐怖に陥れてはいけない。
冥助:ぐ・・・
正春:だ、誰だ!?ここには誰もいないはず!
冥助:いねぇよ?ここにいるのは・・・人じゃねぇ。
正春:な、何?
晴:・・・規約第ーーー
冥助:だああっ!後でまとめて聴くから黙っててくれよ!
正春:・・・何なんだ?一体・・・。
冥助:お前は、人の命をどう思ってんだ?
正春:何?
響子:その眼の前にいる女性・・・横川詩織は、生きたいと願っている。
冥助:それを踏みにじろうとする行為・・・人の命をどう思ってるんだ?
正春:踏みにじる?ハハハ・・・何を仰ってるんですか?この方は、私の崇高な作品の一部になるのです!作品として、永遠に残り続ける!そのための代償として考えれば、安いものでしょう!
晴:・・・っ。
冥助:最後に問う。お前は、死神か?
正春:死神?アハハハ・・・ハハハハハハハハ!!そう!それだ!この作品は、まさにそのテーマ!!命を刈り取る瞬間こそ!この作品の高みーーー。
冥助:おい。
正春:・・・何です?
冥助:てめぇが、死神を語るな。
響子:こんなクズ、本当にいるのね。視てるだけで吐き気が止まらないわ。
0:壁をすり抜けるように、死神三人が入ってくる。
正春:な、何?どうやって入ってきた?!
冥助:お前の死神は、間違っている。死神は、本来生殺与奪に関係しない。
響子:死神は、亡くなった魂を黄泉の扉に送り届けるのが役目。命を刈り取るなんて、普通はしない。
冥助:でも、命を刈り取る事もある。それは、生きている者と死んでいる者の願いを、お互いに受理した時だ。
正春:・・・・・。
冥助:名尾川正春。職業は作曲家・・・なるほど。絶対音感の持ち主なんだな。それで人の声が、全部音階になるわけだ。
響子:ある時、泣いている人の声を使って作曲してみれば、それが称賛された。そこから試行錯誤していった結果・・・あり得ない行動を取るようになった。
正春:・・・っ!
冥助:人の苦しみ、悲しみ、絶望。そこから奏でる音階は、どんどん楽譜に描くことができた。そしたら・・・8人も手にかけていた。中毒になっちまったんだな。
響子:負の感情の声を聞かないと落ち着かない。そして、描けば描くほどお金になる。こんな美味しい話は、放っておけなかったーーー。
正春:うるさい!うるさいうるさい!何だ!貴様らに何が分かる?!毎回毎回完璧な作品を提供しなければならない苦しみが!貴様らに分かるのか?!
冥助:分かるわけねぇよ!自分の名声が欲しいだけで、人の命を簡単にもてあそぶようなクズの気持ちはよぉ!
正春:こんの・・・言わせておけばぁっ!
詩織:ひ・・・っ!!
響子:詩織さんっ!
正春:おっと!近寄るな?このナイフには強烈な毒が塗られてある!少し傷がついただけで・・・コイツはもう助からない。
晴:・・・・・・。
冥助:てめぇ・・・正真正銘のクズだな。そうやって、今まで8人も殺してきたのか?
正春:ああ、そうとも!彼女達は私の作品となったんだ!身体を刺されたり、全身を鞭で叩かれたり、バーナーで炙られたりする度に、痛みに耐えかねて泣き叫ぶ!その声が私のスコアとなって刻まれていくんだ!これほどまでに栄誉なことはないだろう!
詩織:・・・・そんなことをして・・・最低!!
響子:冥助・・・私の頭がおかしいのかなぁ・・・?怒りで頭がおかしくなりそうなんだけど。
冥助:あぁ・・・こんなに狂ったやつは初めてだ・・・。コイツはーーー
晴:待ちなさい。
冥助:・・・何だよ?
晴:・・・死神規約第53条。死神は、生きている者を処罰する際、無意味な外傷を負わせてはいけない。
響子:ち、ちょっと・・・ここにきてまだ規約を言うの?!
冥助:夜神さんよぉ・・・何とも思わねぇのかよ・・・。
晴:何度も言っています。死神は、私利私欲に溺れてはならない。死神は、神様です。死に対して常に公平です。喜怒哀楽を表に出してはいけません。
冥助:この・・・!
正春:何をごちゃごちゃ言ってんだ!勝手に進めるなら!こっちも勝手にさせてもらうよぉ!さぁさぁ!この毒で!私に最高の曲を仕上げさせてくれぇぇぇえぇ!!!
響子:詩織さんっ!!!
詩織:いやぁっ!!!・・・・・・・・ぇ、え?
冥助:・・・・・な・・・。
正春:・・・ぁ・・・ぁぁあああああ!!!き、傷が!!私の顔に傷がああぁああぁ!!?!
晴:これはこれは〜。私としたことが〜。生きている人間を守るために武器を弾き飛ばしたんですが〜、少しだけ傷をつけてしまいました〜・・・。しかし、猛毒と仰っていたので、どの道助からないですね〜。
正春:ああぁああぁ!!!解毒!は、早く解毒しないとぉおぉぉぉ!!!
冥助:・・・夜神さん、あんたーーー
晴:人は過ちを犯すもの。その度に後悔し、反省し、自分自身で更生するもの。・・・この者に、その更生の余地はありません・・・。消滅を懇願しても赦されぬ地獄を見るべきです。
響子:・・・夜神さん・・・。
晴:ーーーおや?何をされてるんです?これは私のミスです。その始末書の整理があるので・・・私は・・・何も見ていません。
0:
正春:くっそおぉおぉぉぉ!!!せめて!!この女だけでも道連れだあぁぁぁ!!!(再びナイフを持ち、振り上げる)
詩織:いやっ!!
冥助:響子!
響子:はあああっ!!!(名尾川の腕を殴り、その部分の骨が陥没する)
正春:が、ぁああっ!!ほ、骨がぁああっ!!!
響子:詩織さん!大丈夫?!
詩織:・・・怖かった・・・怖かったよぉ・・・!
響子:もう大丈夫よ!安心して!
正春:こ、このぉ・・・せ、せめて、スコアだけでもーーー
冥助:おい。
正春:え?
0:その刹那、名尾川の右腕が斬り落とされる。
冥助:こんな不幸を生み出す右腕・・・いらねぇんだよっ!!!
正春:ぁ、ぁああぁああっ!!!腕が、腕がぁああっ!!!
0:のたうち回る名尾川。それを横目に見ながら冥助が問う
冥助:横川詩織。心変わりはあったか?
詩織:・・・あるわけがない!お願いします。あの人を・・・悪魔を、消してください!
冥助:分かった。お前のその心、受け取ったぜ。
正春:い、痛い・・・く、苦しい・・・し、死んでしまう!
冥助:死ぬ?何言ってんだ?
正春:え?
冥助:お前は今から、死神に魂を刈り取られるんだ。骨が砕けようが腕が斬られようが、関係ねぇ。どうせ今から、死ぬんだからよ。
正春:た、助けて・・・助けてぇっ!!!
0:名尾川は家を飛び出し、山道を全力で駆けていった。
0:
0:
響子:本当に、クズってどうして逃げ足はあんなに速いのかしら?
冥助:そうだな。
晴:・・・・・。
冥助:それにしても〜・・・夜神さん、やっぱり怒ってたんですね〜。
晴:・・・え?
冥助:トボけたって無駄ですよ〜!あんなやり方、普通の人には出来ないですってぇ〜!『この者に、その更生の余地はありません。消滅を懇願しても赦されぬ地獄を見るべきです。』だってさ〜。かっこいい!
響子:(ため息)・・・何でこう、自分から首を絞めるようなことするんだろ、あの馬鹿・・・。
晴:・・・ん〜・・・そうですね。怒ってた・・・わけではないですよ。
冥助:え?
詩織:あ、あの・・・!
響子:ん?
詩織:た、助けてくれて、ありがとうございました!
晴:・・・・・ひとつ忠告しておきます。横川詩織さん。
詩織:は、はい・・・。
晴:私達死神は、本来生きている者の生死に関与してはいけないのです。今回、名尾川正春に接触したのは貴女の責任です。当然、貴女自身で解決すべき問題です。
詩織:・・・はい、反省してます・・・。
響子:ち、ちょっと!今そんな話しなくてもーーー!
晴:ですが・・・今回の御相手が、あまりにもクズで、自分勝手で・・・そんな者を処罰するのです、私達は。
詩織:・・・・・。
晴:良かったですね。貴女は・・・救われます。死神によって。これからの人生、自分の力を持って、真っ当に生きてください。
詩織:・・・はい・・ありがとう、ございます・・・!
晴:・・・さて・・・永らく死神をやってきましたが、これほどまでにクズを見たのは初めてですね〜。なるほど〜。それなりに経験してきたつもりなので、全て監察しているつもりでした〜。
響子:や、夜神さん・・・?
晴:・・・真正のクズというのは、これほどまでに感情を昂らせるものなのですね・・・。
冥助:・・・分かってくれましたかい?リーダーさん?
晴:・・・規約違反は認められません。
冥助:ケッ・・・結局規約かよ。
響子:冥助ーーー。
晴:死神界では、の話です。
響子:え?
晴:私は、既に生きている者を傷つけた、規約違反者です。規約違反者には相応の罰が下ります。それならば・・・ひとつやふたつ、怖くもありません。
冥助:・・・ま、まとめ役さん?そんなこと言って、大丈夫?
晴:さて、死神たるもの、生きている人間の最期を見届けなければ。・・・どうしますか?貴方がたが行きますか?それとも・・・私が行きますか?
冥助:おいおい。上司だからといってここは譲れねぇよ。俺の縄張りだ。俺がやる。
晴:・・・許可します。彼の最期を、見届けてきてください。
冥助:・・・分かったよ。響子。詩織さんを頼んだ。
響子:ええ、分かったわ。
冥助:じゃあ・・・行ってくる。
詩織:よろしく・・・お願いします・・・!
0:
0:
響子:・・・・・夜神さんって、もしかして、かなり違反したことがあったりしますか?
晴:おや〜?どうしてそう思われるんです〜?
響子:あ、いや・・・似てたんです。さっきの瞬間、犯人に対する感情が、いつもの冥助と。
晴:・・・・・彼と、ですか・・・。
響子:し、失礼なことを言いました!
晴:・・・いえ。案外、間違っていませんよ。
響子:え?
晴:昔、私はもう一人の死神と一緒に仕事をしていました。私達は、何度も違反を繰り返す大馬鹿者でした。
響子:や、夜神さんが・・・?!
晴:そんな時です。その死神が・・・ある違反を犯しました。それは、死神にとって、禁忌とされているもの。そして・・・彼は今も、どこかを彷徨っています。どうなったのかも分かりません。黄泉の扉の、更に奥深く。入ったら最期、二度と出られず、永遠に孤独に彷徨うことになる闇の中。何も見えない。何も聴こえないと言われています。
響子:・・・禁忌って、何なんですか?
晴:・・・死神が、私利私欲のままに行動すること・・・。
響子:・・・・・。
晴:もう誰も、私達のように傷つき、苦しむ死神を出したくない。私はその思いで、この仕事をしています。だからこそ・・・・・貴女がたが、とても目に映ったのかもしれませんね。
響子:夜神さん・・・本当はーーー
晴:優しい死神、なんて言わないでくださいね。私は規約重視の、お固い死神ですので。
響子:・・・・・・・。
晴:・・・では、私は急用ができましたので、一度失礼しますね。
響子:え?こんな時にどこに?
晴:・・・いえ・・・本来の仕事の中でも、最も重い仕事をしてくる。それだけです。
0:
0:
正春:ハァ・・・ハァ・・・何でなんだ・・・眼の前に町が見えているはずなのに・・・どうして着かないんだ・・・。山から・・・出られない・・・!
冥助:おーい!どうしたんだ?そんなに慌てて、どこに行くって言うんだよ!
正春:ひ、ひぃっ!!!
冥助:ここまで自分勝手に好き放題しておいて、挙句の果てには逃亡かよ?情ねぇよなぁ。
正春:く、来るな、来るなぁっ!!!
冥助:おい、お前。今まで殺してきた人間達に、申し訳ないという思いは無いのか?
正春:ぇ・・・え・・・?
冥助:どうなんだよ?お前が手にかけた8人に、謝罪の言葉はねぇのか?
正春:す・・・す、す、すみませんでしたぁっ!!私は人の命で楽曲を製作した、最低の人間です!!自首して罪を償います!!だから!!許してください!!
冥助:・・・・・へぇ。そうなんだ〜。・・・なぁ、お前って、平気で嘘をつくんだな?
正春:・・・え?いえ!そんなことはーーー!
冥助:しらばっくれんな!!さっきの言葉は何だったんだよ!!
正春:・・・え?
冥助:・・・『彼女達は私の作品となったんだ!身体を刺されたり、全身を鞭で叩かれたり、バーナーで炙られたりする度に、痛みに耐えかねて泣き叫ぶ!その声が私のスコアとなって刻まれていくんだ!これほどまでに栄誉なことはないだろう!』
正春:・・・ぁ・・ぁああ・・・。
冥助:・・・あとさ、お前の殺してきた8人から、とびっきりのメッセージが届いたぜ?
正春:な、なんだって?
冥助:・・・『今から死神にされることで、自分の声を楽譜にしてください。さようなら。』だってさ・・・!
正春:ぁ・・ぁああぁああっ!
冥助:てめぇの私利私欲で人を喰い物にして、のし上がっていくケダモノがよぉ!あの世でしっかり反省してこいっ!!!
0:
0:
正春:・・・・・ここは・・・私は・・・死んだのか・・・?もう・・・終わりなのか・・・っ!聴こえる・・・断末魔の叫び・・・!途切れることのない苦しみの声・・・!見える・・・視える!ぁああっ!頭の中でスコアが埋め尽くされていくーーー!
晴:ーーー名尾川、正春さん?
正春:・・・あ、貴方は、先程の、し、死神・・・?
晴:天川冥助さんから、制裁を受けたんですね?
正春:そ、そうです!ですから私はこれからーーー
晴:ーーー簡単に・・・逝けるとお思いですか?
正春:な、何・・・がっ!!(晴によって手足、首などに鎖が巻かれる)
晴:魂というものは、この世界で浄化され、新たなモノとして生を受ける。そのために黄泉の扉があり、人は転生します。
正春:ぅ・・あぁっ!!
晴:しかし・・・貴方にはその浄化の見込みがありません。そのような魂は・・・永遠に戻されるべきではありません。
0:正春の後ろに、禍々しい黒い門が現れ、徐々に開いていく
正春:ひ、ひぃっ!!!な、何だ、これは!!
晴:冥府の門。或る者は、音も光も無い世界を彷徨い続ける。或る者は、毒のような苦しみで、永遠にのたうち回る。そして或る者は、死ぬことを許されぬまま、幾度となく拷問が繰り返される。
正春:ぁ・・ぁああっ!!ぁああぁああっ!!!
晴:貴方は一体、どんな罰を受けるのでしょうか?
正春:やめろ!!やめてくれ!!!嫌だ!!!嫌だぁああっ!!!
晴:・・・貴方が重ねた罪を、万死の責苦をもって、永久に懺悔し続けなさい。では・・・さようなら。
0:
0:
0:
冥助:・・・・・あの〜〜・・・夜神さん?
晴:何ですか?忙しいのです。後にしてもらえますか?
響子:・・・いや、あのーーー
冥助:待て待て待て!!!おかしいだろ?!何この始末書!見たことねぇんだけど?!百科事典なんてレベルじゃねぇぞ?!
晴:当然です。私は死神のまとめ役なのです。それなりのポジションであれば、相応の罰が下ります。
響子:いや、だからってこの量・・・
冥助:うへぇ・・・絶対にまとめ役なんてやりたくねぇな。
響子:あんたには無理よ。無理無理無理無理。絶対に無理。あんたの下につくなんてまっぴらごめんだわ。
冥助:なんだと?!こんのぉ・・・!
晴:あー・・・気が散るので、他所でやってもらえませんか?
冥助:こ・こ・は・お・れ・の・事・務・所・だ!!!
晴:・・・・まぁ、そう言っている間に、終わりましたよ。
響子:え?!?!
冥助:う、嘘だろ?!・・・ありえねぇ・・・出来てやがる。
響子:こ、これが・・・死神のまとめ役の速さ・・・。
晴:まぁ、こんな始末書、幾度となくこなしてきましたから。
冥助:・・・・・え?
晴:・・・・どうかしましたか?
冥助:じゃあ、あんたも規定違反を何回もーーー
晴:何か、言いましたか?(圧)
冥助:何もありません・・・
響子:あ、アハハ・・・。
0:
0:
詩織:し、死神さん!
冥助:ん?お!
響子:詩織さんだ。
詩織:死神さん!聴こえてますか?先日は、命を助けていただいて、ありがとうございました!そして・・・夜神さん!!
晴:・・・!
詩織:夜神さんに言われた言葉!とても心に響きました!これから、もう一度頑張ります!夢を諦めず・・・必ず叶えます!どうか・・・視ていてください!
晴:(ため息)・・・死神に見初められたら、死んでしまいますよ?
詩織:こ、これ!うちで作ってるどら焼きです!よかったら食べてください!じゃあ!ありがとうございました!!
0:
0:走り去っていく詩織を見ながら
冥助:律儀だねぇ。
響子:ほんとにね。
晴:まったく・・・置いたままだと、死神事務所の意向に反しますね。処分しないと・・・パクッ。
冥助:あ、食べた。
響子:食べた。
晴:・・・あ~〜〜。このまわりのふわっとした独特の生地にしっとりとして尚且つ甘過ぎない粒あんが絶妙にマッチしている!流石は日本古来からある伝統菓子!これほどまでに美味しい甘味はなかなか・・・コホン
冥助:な、なぁ・・・実物を食べるのって、規定違反じゃ・・・
晴:お二人とも・・・貴方方は何も?(圧)
冥助:・・・見ていません。
響子:・・・見ていません。
晴:よろしい。
0:
響子:ところで冥助。矢吹さんはどうなったの?
冥助:結局連絡は取れずじまいだよ。まったく・・・どこに行ったんだ?
晴:・・・矢吹?どなたです、その方?
冥助:え?夜神さん、会ったことあるんじゃないんですか?
晴:矢吹・・・・・いや、覚えは無いですね。
冥助:そんなはずは・・・!だってこの前、夜神さんのことをいい人って言ってたぜ?!
晴:私をいい人・・・・・・・・そうですか。
響子:何か思い出しました?
晴:・・・いえ、何も。
響子:そう、ですか・・・。
晴:・・・天川冥助さん。
冥助:な、何だよ?
晴:その矢吹という方・・・お気をつけください。その方は・・・・・嘘をついていると思います。
冥助:・・・え・・・?
晴:あと、近いうちに、私から貴方に依頼があります。引き受けないなどの選択肢は、ありませんので。それでは。
冥助:ちょ、ちょっと!おい!
0:夜神が姿を消す。
響子:め、冥助・・・。
冥助:・・・何だよ・・・どうなってんだよ・・・矢吹・・・?!
0:
0:
晴:・・・・・まさか・・・そんなはずはない。・・・あり得ない。あり得てはならない。・・・でも・・・もしかしたら・・・・・。
0:
0:
0:
響子:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
響子:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。
響子:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
響子:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。
0:
0:
0:第五番 了
死神の鎮魂歌 ー第5番 運冥ー(本編)
詩織:や、やめて!離して!痛い!苦しい!誰か!誰か!助けて!
正春:ぁぁ・・そう!その顔!絶望と!裏切られた瞬間のその顔!その顔で!どんな声を聴かせてくれるかなぁ?!
晴:運命は、変えられない。いや、簡単に変えては、いけないんです。さあ・・・考えを改めなさい。
0:
0:
響子:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
響子:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。
響子:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
響子:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
0:
冥助:・・・・・???おっかしいなぁ。今までこんなことなかったはずなのに・・・。
響子:あら、どうしたの?目を瞑って腕組んで、何してるのかと思ってたけど。
冥助:・・・毎度毎度よく来るなぁ、おい!何度も言うが、仕事はどうした?!何なら始末書もあっただろ?!
響子:ふん!あんたと違って、量が全然違ったわ。ノート1冊分で終わったわよ。余裕よ、よ・ゆ・う。
冥助:何でだよ!あれだけのことしておいて、ノート1冊分かよ!
響子:あんたに言われたくないわ!!あれだけのことをこんなにたくさんしておいて、クビになってないことの方が不思議なんだからね!普通なら、クビよ!クビクビクビ!クビー!
冥助:あああ!クビクビうるせぇ!他にも仕事あんだろ!怠慢だ!お前のほうがクビだ!
響子:・・・あんたのその減らず口、どうする?叩いて治す?殴って治す?それとも、蹴って治す?
冥助:や、やめろ!どれにしても俺の口が再起不能になる!
響子:まったく・・・で?何してたの?
冥助:・・・この前の病院騒動の時にいた矢吹ってやつ、覚えてるか?
響子:ああ、冥助が情報を共有してる男の人よね。
冥助:そう。ソイツとテレパシーみたいなので、会話することもあるんだけど・・・。
響子:・・・連絡がつかないのね。
冥助:・・・そうなんだよ。何かあったのか?
響子:・・・ねぇ。その人、いつもは何してるの?
冥助:ん?あぁ。町の情報屋だ。いろんな情報を知ってるし、霊も見えて会話もできる。死んだ人間の情報を前もって教えてくれるから、情報処理が段違いに速くなるんだよ。
響子:なるほどね〜・・・って、あんたそれ不公平じゃない!
冥助:しょうがねぇだろ!こちとら始末書で地獄見てんだよ!
響子:じ・ぶ・ん・の・せ・き・に・ん・でしょ!
冥助:・・・・・・・。
響子:・・・まあ、でも心配になる気持ちはわかるけどね。
冥助:・・・あ。で、お前は何しに来たんだよ。
響子:ああ、そうそう。最近、学生の子たちが何人も行方不明になってる事件、知ってる?
冥助:あぁ。有名になってるな。
響子:何も知らない?
冥助:何も知らねぇよ。うちの管轄じゃないし、連絡も届いてないからな。でも、何で響子が聴いてるんだ?管轄じゃねぇだろ?
響子:うちの管轄のおじいちゃんが、孫が殺されたって怒ってきたのよ。だから、何か情報があればと思って・・・。
冥助:前にも言ったが、うちは市役所じゃねぇんだよ!何でもかんでも相談に乗ってたら、身体がいくつあっても足りねぇよ!
響子:それはそうなんだけど、やっぱり気になってね・・・。
冥助:気持ちは分かるが・・・難しいよなぁ。
響子:うーん・・・。
0:
0:
0:
晴:ごめんくださーい。
響子:あ、冥助、お客さ・・・あ。
冥助:げっ!もう来やがった!
晴:あらあら。これはこれは。挨拶ですね。お久しぶりです、天川さん。
冥助:・・・こりゃどうも。
響子:お久しぶりです。夜神さん。
晴:お久しぶりです、高嶺さん。おやおや?お仕事はどうされたんですか?
響子:あーー・・・えっとぉ・・・ちょっと情報が欲しくて、こちらに聴きに来たんです〜。
晴:おや、そうなのですね。仕事に熱心なのは良いことです。ただ、ご自身の仕事に尽力を注ぐようにお願いします。この間の始末書といい、最近仕事が滞っている様子ですよ。
響子:あ、あはははは・・・・・以後、気をつけます・・・。
冥助:やーい、注意うけてやんの〜。
晴:天川さん?
冥助:は、は、はい!
晴:貴方の規約違反・・・何度目でしたっけ?
冥助:・・・・・10回目です。
晴:そうですね。
響子:あんたそんなにやってたの?!
冥助:うるせえ!別に暴力的なヤツだけじゃーーー
晴:天川さん?
冥助:反省してます!
晴:・・・・・。
冥助:・・・で、今日はどういった要件で?
晴:ああ、そうですね。今回で違反10回目ですので、まともに仕事ができるのか、チェックさせてもらいに来ました。
冥助:・・・は?
晴:まとめ役をしている以上、保護責任が付き物です。
冥助:いやいや!ちゃんとしてますって!ほら!ちゃんと始末書も期日には出してるし!!
晴:それは仕事とは言いません。
冥助:うっ・・・。
晴:(ため息)・・・天川さん。これ以上違反するようだと、本当にクビになりかねません。そうならないようにするために、私がここに来ました。
0:
響子:め、冥助。ちゃんとしといたほうがいいわよ。夜神さんって、今まで違反した死神を何人もクビにするだけじゃなくて、黄泉の門の更に深く、深淵の闇に閉じ込めてしまうって噂なんだから。
冥助:し、深淵ってなんだよ?やべえ所か?
響子:あんたちゃんと話聴いてたの?深淵の闇!入ったら最期、二度と出られず、永遠に孤独に彷徨うことになる闇の中!だから、何も見えない。何も聴こえない。そんな所に連れて行かれるのよ!
冥助:マジでやべぇ。っていうか、殺される?俺。
0:
晴:・・・・・聴いていますか、天川さん?
冥助:は、はい!
晴:ともかく、しばらくの間、貴方を監視させてもらいます。眼の前で違反するようなら・・・容赦しません。
冥助:・・・・・。
0:
0:
詩織:ハァ・・ハァ・・!す、すみません!
響子:冥助。お客さんよ。
冥助:お、いらっしゃい、お嬢さーーー
詩織:た、助けてください!!!
冥助:お、おおおお?ど、どうした?って、何だ?傷だらけじゃねぇか。
響子:しかも、人為的な傷・・・落ち着いて!どうしたの?
詩織:わ、私・・・殺されそうなんです!
響子:・・・殺されるも何も、この身体は幽霊・・・まさか!
冥助:お嬢さん。少し詳しく聴かせてくれるか?
詩織:私・・・彼に騙されてたんです・・・。その彼とは、一週間前、バーで知り合いました。
0:
0:
0:
詩織:ハァ・・・仕事、なかなか見つからないな・・・。音大で声楽を続けてきたけど・・・私、本当に向いてるのかな?
正春:やぁ、一人かな?
詩織:え?あ、はい。
正春:良かったら、私と一杯付き合ってくれないかな?
詩織:え?あー・・・ーーー
正春:この飲み代は、私が払うからさ。
詩織:・・・じ、じゃあ、一杯だけ・・・。
正春:ありがとう。私は名尾川正春。君は?
詩織:よ、横川です。横川詩織・・・え?名尾川って・・・あの、ピアニストの名尾川正春さん?!
正春:おや?私のことを知っているんですか?
詩織:知っているも何も!天才作曲家って、有名じゃないですか!!ほ、本物ですか?!
正春:そうだね。間違いなく、本物だよ。
詩織:し、信じられない。
正春:知っている人からしたらそうだろうね。
詩織:で、でも、どうして私に声を?
正春:ん〜・・・理由は2つ。1つは、詩織さんが悩んでいそうだったから。もう1つは・・・詩織さんの声、だね。
詩織:こ、声?
正春:そう。さっき呟いてた声が、とても耳に良く聴こえてね。つい声をかけてしまった。仕事柄、音を感じやすいんだよ。
詩織:そ、そうなんですね。そっか、私の声が・・・。
正春:では、お近づきの印に、乾杯。
詩織:か、乾杯!
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詩織:自信を無くしかけてた声を褒められて、嬉しくなって、そこから意気投合して、仲良くなって・・・それで、仕事が見つからないことを相談したんです。そしたら・・・ーーー
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正春:・・・なるほどね。たしかに、声楽を極めた人たちの仕事場は狭き門。なかなか入れるものではないから、難しいよね。
詩織:そうなんです・・・。この声が、だめなのかなって思って・・・。
正春:いやいや!詩織さんの声は魅力的さ!だからこそ、君に声をかけたんだからね。
詩織:名尾川さん・・・。
正春:・・・そうだ。詩織さんのことを、私が知り合いに紹介しよう。
詩織:え?!そ、そんな!ご迷惑になるようなことーーー
正春:迷惑なんて思ってないさ。何より、詩織さんの声に、僕が惚れ込んだから。
詩織:・・・あ、ありがとうございます。
正春:もし良かったら、今度、ここに遊びに来ないかい?
詩織:え?この地図・・・どこですか?
正春:私が作曲する時に使うアトリエなんだ。山の中で声も響きやすい。声楽の練習にはピッタリの場所さ。で、その時に仕事のことも紹介してあげよう。
詩織:い、いいんですか?私なんかがーーー
正春:構わないんだよ。私が好きでやってるんだから。・・・あ、ただし、一人で来てほしいな。好きでやってるとはいえ、有名人が後ろで手を引いてるなんて言われたら、後でお互いに嫌だろうからね。
詩織:そ、そうですね。分かりました・・・。
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詩織:この時は、私も彼を信用しきっていました。
響子:でも、彼の肩書は嘘だった?
詩織:いえ。彼は、正真正銘の名尾川正春さんでした。
響子:え?じゃあ、どうしてーーー
冥助:響子。まだ続きがありそうだ。
詩織:・・・今日、そのアトリエに一人で行ったんです。そしたらーーー
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正春:いらっしゃい、詩織さん。
詩織:お邪魔します、名尾川さん。
正春:遠かっただろう。お疲れ様。
詩織:いえ、大丈夫です。・・・本当に、声が通りそうな所ですね。
正春:うん。本当によく通るよ。さあ、緊張ほぐしにハーブティーをどうぞ。
詩織:あ、ありがとうございます。いただきます。・・・・美味しい。
正春:それは良かった。・・・さて、君の声を聴かせてくれるかな?
詩織:え?
正春:僕に合わせて、声を出してくれたら、それででいい。
詩織:わ、わかり、ま・・・あ、あれ?か、身体が、痺れて・・・!
正春:大丈夫。声は出るはずだからぁっ!!!(隠し持っていたナイフで腕を切りつける)
詩織:キャアッ!い、痛い!
正春:ハハハハ!いい!!いい!!そう!その声!!
詩織:な、名尾川さん!?こ、これは、どういうことですか?!
正春:言っただろう?君の声が好きだと。君の声で、私の作品の音が紡がれていくんだ。さて、ひとまず逃げられないようにしないとね・・!
詩織:く、鎖?や、やめて!離して!誰か!誰か!助けて!
正春:無駄だよ。忘れたのかい?ここは山の中。周りに家もなければ、人も簡単には来ない。誰も、君がここにいることを知らない。
詩織:・・・・・っ!
正春:・・・ぁぁ・・そう!その顔!絶望と!裏切られた瞬間のその顔!その顔で!どんな声を聴かせてくれるかなぁ?!(太ももを切りつける)
詩織:痛い!痛い・・・っ!ホントに・・・助けて・・・。
正春:あれ?声が小さいなぁ・・・インスピレーションに欠ける・・・もっと・・・声を上げて叫べぇっ!!!(太ももに軽く突き刺す)
詩織:ぃ、いやぁあぁぁぁ!!!痛い!!痛い!刺さないでぇ!!!
正春:ハハハハハハハハ!!!そうか!この痛みで、こんな声が出るんだなぁ!早速スコアに書かないと!
詩織:・・・お願い・・・もう・・・許して・・・
正春:許す?詩織さん。許すも何も、僕は怒っていない。見たいんだ。聴きたいんだ!人が、命をかけて叫ぶ声で描かれる作品を!!そのために・・・君には、命をかけて、この作品の題材になってもらうよ?
詩織:い、命・・・?
正春:そう・・・ハハハ、いいね!また絶望した!今の声も・・・あああ、いい!さあ、どんどん聴かせておくれ!君の音楽をおおお!!!
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詩織:そこから、どれだけされたか、わからないんです。それで、いつの間にか気を失ってて・・・。そしたら、こんな身体になってたんですけど、彼にはまったく見えてなかったみたいで、でも、私の身体は、多分息してて、死んでないって思ったんです。
冥助:なるほどね。でも、そうだったとしても、どうしてここに来れたんだ?
詩織:私、実はこの町に知り合いがいたんです。その子に、ここに死神がいて、その人が助けてくれたんだって言ってて、もしかしたらと思って、無我夢中で飛んできました。
響子:知り合い?
詩織:立花優希って言うんですけどーーー。
冥助:アイツ・・・!余計なことをベラベラとーーー!
晴:ーーー天川さん。
冥助:・・・はい。
晴:死神規約、第31条。生きている者に、自分の存在を知られてはならない。
冥助:ち、違うんだ!今回みたいに、優希は死んでなくて!そ、それでーーー。
晴:ーーー天川さん?
冥助:・・・反省しております。と、というか!そのこともこの前の始末書に書いたぞ!さては見てねえな!?
晴:勿論、見ていますよ?・・・『私は立花優希に正体がバレています。しかし、その後の様子を見ている限り、口外する様子は見られません。』・・・・・どういうことでしょうか?
冥助:人間、時間が経てば考えも変わる!そう!変わる!
響子:だから気をつけなさいとあれほど・・・。
晴:・・・規約違反、11ですね。
冥助:待ってくれ!不可抗力だ!
晴:問答無用です。
詩織:あ、あの!
晴:ん?
詩織:私を、助けてくれませんか?!
晴:・・・・・。
詩織:ど、どうか、お願いします!
晴:ダメです。
詩織:・・・え?
晴:本来死神は、この場での願いを、しかも、生きている者と死んでいる者の願いを同時に叶えるのが、死神規約に規定されていること。ここに貴女が来たことは、たしかに生きている者の願いを聴いたことにはなります。ですが、ここに死んでいる者の願いは無い。過去ではなく、今、なのです。運命です。諦めてください、横川詩織さん。
詩織:運、命・・・・そ・・・そんな・・・。
響子:や、夜神さん何とかならないんーーーっ!!!(夜神が鎖を取り出し、響子の喉元にまで伸ばす)
晴:これ以上は、過干渉です。死神規約の第8条に違反します。それでも言うのなら・・・容赦せずこの鎖、貴女の首に巻き付けますよ?
響子:っ!・・・あ。
冥助:おいおい。それは無いんじゃねぇの?
晴:・・・何ですか?
響子:冥助・・・。
冥助:監視役か何か知らねぇけど、こんなところでドンパチされるなんて、事務所の代表が許すと思うか?
晴:・・・私に、意見する。という意思表示として、認めてよろしいですか?
冥助:そのお嬢さんがどうなるかってのは、分かんねぇよ。でも・・・何かできないかを考える。これすらやっちゃだめなのか?
晴:規約に基づくものです。過干渉になります。
冥助:じゃあ・・・俺の覚えた規約、言ってもいいか?
晴:・・・何ですか?
冥助:死神規約、第42条。死神は、他の死神の公務を妨害してはならない、ってなぁっ!!!(鎌を振り下ろし、無理矢理鎖を叩き落とす)
晴:くっ・・・!
響子:冥助!
冥助:響子!この人を連れて飛べ!お前がやれることをやれ!!ここは俺が何とかする!!
響子:そ、そんなことしたら冥助がーーー!
冥助:言ってる場合か!!!そのお嬢さんのこと!守りたいんだろ?!俺も・・・同じだからよ!!
響子:ーーーっ!!!
冥助:響子ができること、分かるだろ!?
響子:・・・・・詩織さん!!いくよ!(詩織のことを抱き上げて飛び上がる)
詩織:え?キャァッ!!
晴:させません!
冥助:おっと!(響子たちに向かう鎖を鎌で払い落とす)
晴:っ・・・・・・。
冥助:・・・・・。
晴:・・・やり残したことは、ありますか?
冥助:何で、止まってたんだ?
晴:・・・・・。
冥助:今の喋ってる間に、絶対に止められただろ?もし本気で止めようと思ったら、止められたはずーーーっと!?(高速で突いてきた鎖を紙一重で躱す)
晴:規約違反常習者に、相応の罰を受けてもらうためです。
冥助:・・・へぇ。そうかい。
晴:天川冥助さん。監視役である私に歯向かったことは、勿論規約違反です。
冥助:へっ・・・承知の上だっての!
晴:なれば、更生しないといけません、ねっ!!(鎖を鞭のように横に振るう)
冥助:よっと!嫌だね!何が更生だ!人の命を守りたいと思う気持ちの、何が悪いってんだよ!
晴:口を慎みなさい。規約違反です・・・!
冥助:おっと・・・!(向かってきた鎖を鎌で受け止める)
晴:捕らえましたよ・・・!
冥助:な、何・・・くそっ!!!(生き物のように冥助の身体に鎖が巻き付く)
晴:さぁ、どうさせてもらいましょうか、ね!(更に4本の鎖が手足に巻き付き、空中で磔の状態にする)
冥助:うわっ!離せっ!こんな鎖・・・ぐ、あああっ!!!
晴:無駄です。貴方程度の力で、私の鎖は外せません。動かせば動かすほど、貴方の手足を絞め上げます。
冥助:い・・っ!!くそっ!!
晴:さて、どうですか?考えを改めますか?
冥助:そんなわけねぇだろ!人の命を守れるなら!守ろうとするのはーーーっああああああっ!!!
晴:痛いですか?それが貴方の間違いを正す痛みです。
冥助:ーーーっ!この・・・っ!!
晴:もう一度問います。考えを改めますか?
冥助:へっ!何度でも言うぜ!俺は!罪もない人に手をかける外道を放っておくような薄情になりたくねぇーーーああああああぁああっ!!!
晴:・・・話になりません。そのようなこと、貴方の管轄外です。・・・もう一度問います。考えを・・・改めますか?
冥助:・・・響子・・・頼んだぜ・・・。
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正春:フフッ・・・ハハハハハハハハ。この気絶した静寂。これも尚良しだなぁ。起きた後、更なる絶望を味わうことを想像しただけで・・・ああああ。スコアが!スコアが止まらないぃぃぃ!さあ!もう少しだ!1番の盛り上がりは、更なる絶望で!アハハハハハハハ!!
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響子:ーーーーーここまで追ってこないなら、とりあえず大丈夫そうね。
詩織:・・・・・・。
響子・・・冥助・・・。
詩織:あ、あの・・・すみませんでした。
響子:え?何が?
詩織:あの人、私たちのことを守ってくれて・・・自分が酷い目に遭うかもしれないのに・・・。それに、あの相手の人も、とっても怖くて、どうしていいか、分からなくなっちゃってーーー。
響子:横川詩織さん、だったよね?
詩織:え?あ、はい。
響子:冥助も、私も、考えてることは同じ。貴女を、守りたいの。まだ救えるかもしれない、その命を。
詩織:・・・死神、さん。
響子:そうと決まれば・・・。相手の名前、もう一度教えて?
詩織:は、はい!名尾川正春です!
響子:名尾川正春・・・・・・さっき、有名な作曲家、とか何とか言ってたわね?
詩織:は、はい。まるでドラムを叩くかのように鍵盤を弾くような曲をいくつも作ってるんです。特にこの数年間、何曲も作曲されていてーーー
響子:ちょっと待って。何曲も?
詩織:え?あ、はい。
響子:・・・・・可能性は、ある。
詩織:え?
響子:こっちに来て!
詩織:え?え?ど、どこへ?
響子:・・・貴女の仲間になる人たちを、探しに行くのよ!
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冥助:・・・ッ・・・ハァ・・・ハァ・・・。
晴:(ため息)・・・天川さん。何て強情な人なんでしょう。これほどまでに拷問を受けても、まだ変わりませんか。もう百二十五回目ですよ?そろそろ、考えを改めますか?
冥助:・・・関係、ねぇよ・・・。俺の、考えは・・・変わらねぇ・・・!俺は・・・間違って・・な・・あ、ああああっ!!
晴:間違っている、間違っていない、ではないんです。規約。ルールです。貴方が死神になる際にも、伝えられたはずのルールです。そして、遵守するように教育されているはずです。
冥助:・・・ハァ・・・ハァ・・・
晴:規約を遵守出来なければ、死神として待っているのは、永遠の死です。死と言われながら、死ぬことすら赦されない無限の苦しみ。そんな場所にわざわざ行くようなことをしているんですよ?
冥助:・・・なぁ・・・夜神さんよぉ。
晴:・・・何ですか?
冥助:さっきのお嬢さん、何か悪いことしたのかよ?
晴:・・・・・。
冥助:してねぇよなぁ?相手が100%悪いだろ?なのに・・・騙されて、痛めつけられて、挙句の果てに殺される・・・。そんな人生・・・ありなのかよ・・・!
晴:・・・それが、その方の運命なんですーーー。
冥助:運命だぁ?・・・ふざけんじゃねぇよっ!!!
晴:ーーーっ!!!
冥助:決まってんのかよ!その訳わかんねぇヤツに殺されるために、必死に生きてきたのかよ?!
晴:・・・っ・・・運命は、変えられない。いや、簡単に変えては、いけないんです・・・。
冥助:今を必死に生きている人間が!生きたいと願っている人間が!殺されそうになってるのを!眼の前で見殺しにしろっていうのかよ!
晴:人の運命を変えるような傲慢!あってはならないのです!(冥助の手足だけではなく、胴体に巻き付いた鎖もきつく締め上げる)
冥助:ぐ、ぁああああぁあっ!!!
晴:さあ!早く改心しなさい!考えを・・・改めなさい!!
冥助:み、認めて・・・たまるかよぉっ!!!そんな運命・・・俺は、絶対に認めねぇっ!!!俺が・・・死神として・・・神として・・・!そんな運命・・・変えてやるよぉぉっ!!!
晴:・・・っ・・・何と・・・愚かな・・・。
冥助:っ・・・ハァ・・・ハァ・・・。
晴:何故・・・そこまで思えるのですか?自分の身をなげうってまで・・・どうしてそこまで、できるのですか・・・。自分が・・・死ぬかもしれないんですよ・・・?
冥助:・・・死神は、魂を無事に、黄泉の扉に、送り届ける事が、仕事だろ?
晴:・・・もちろん、そうです。
冥助:でも、理不尽に殺されて、泣きながら黄泉の扉に逝くヤツも、何人もいる。そいつ等の魂は、無事なのか?
晴:そういう魂は、扉をくぐった後、比較的早く転生すると言われていまーーー
冥助:そうじゃねぇっ!
晴:え?
冥助:そいつ等の魂は、心はねぇのかよ!!その心は、無事なのかよ?!
晴:・・・・・。
冥助:俺は!そんな魂を!1つでも多く救ってやる!だから俺は!死神になったんだ!
晴:・・・再度問います。考えを、改めますか?
冥助:俺の答えは!変わらねぇっ!!!
晴:貴方という人は・・・っ!!!
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響子:冥助ぇっ!!!
晴:・・・・おや、戻って来られたんですか。
冥助:響子・・・。
詩織:ひ、酷い傷・・・。
響子:遅くなってごめん!
冥助:まったくだぜ・・・。遅すぎるんだよ・・・。
響子:これでも頑張ったんだから!・・・ほら!これが、名尾川正春についての資料よ!
晴:っ!いけません!管轄外の資料作成など、規約違反です!
響子:規約規約って!うるさいのよ!
晴:な・・・っ!
響子:この子は・・・横川詩織は!何か罰を受けないといけない存在なの?!
晴:だから・・・これが運命なんです。これ以上違反するようだと、貴女にも罰が下りまーーー。
響子:そんな運命を受け入れるくらいなら!眼の前の助かる命を見捨てるくらいなら!!私は喜んで罰を選ぶわ!!!
晴:っ・・・!
冥助:・・・だから、言ったろ?運命なんて、変えてやるってさ。
晴:・・・あなた方は、何も分かっていない。本当の苦しみを。恐怖を。
響子:知らないわよ。そんなもの。
晴:だから言えるんです。そんな甘いことを。私は、二度と同じ過ちは繰り返さない・・・!
響子:・・・っ!!!
晴:・・・何をしてるんです?
響子:・・・詩織さん!
詩織:この人達は!何も悪くない!私の願いを、聴き届けてくれた!この人達を傷つけるなら・・・私が受けます!!
晴:無理です。貴女には受けきれません。確実に、死にますよ?
詩織:・・・それでも、私のことを!命をかけて守ろうとしてくれる人だから!私は・・・退きません!!!
晴:・・・・・。
冥助:・・・へへっ。無理だよなぁ?関係のない一般人を傷つけるなんて、死神規約に、反するもんなぁ?
晴:・・・っ・・・!
冥助:ありがとうな、お嬢さん。
詩織:いえ・・・私にできることなんて、これぐらいですから。
冥助:・・・響子。
響子:何?
冥助:資料、ありがとうな。
響子:・・・うちで仕事3日間ね?
冥助:ったく・・・しょうがねぇなぁ・・・で?ちゃんと許可、取ってきたか?
響子:・・・ええ。8件全部、取ってきたわよ。
冥助:流石だぜ・・・・っ!!!!!
響子:ど、どうしたの!?冥助!
冥助:くそっ!こんな時に!
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正春:さて・・・用意は整った。一つひとつの器具を使っていく楽しみがあるなぁ。削る、炙る、彫る・・・どれも最高の音を奏でるに違いない!・・・しかし・・・いつ死ぬか分からない恐怖、いつ痛みや苦しみが来るかも分からない、そしてそれが来たときの恐怖・・・そう・・・毒だぁ。この毒で、絶望しながら発狂する様を・・・ああああ!聴きたい聴きたい聴きたい!!!さあ・・・そろそろ起こそうか・・・。
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冥助:くそっ!ヤツだ!名尾川正春が、横川詩織を起こして殺そうとしてる!
響子:なんですって!?
詩織:そ、そんな・・・。
晴:・・・・・。
詩織:や、夜神さん。
晴:・・・(詩織に視線を向ける)
詩織:どうか・・・どうかお願いします。助けてください・・・助けて・・・。
冥助:横川詩織!
詩織:っ!!
冥助:お前は・・・死神に、何を望む・・・?
詩織:・・・お願いします・・・あの人を・・・殺してください・・・どうか・・・どうか・・・!!!
響子:・・・冥助。ちゃんと聴けた?
冥助:・・・あぁ。確実にな。・・・お嬢さん。安心しろ。その心、受け取った。
詩織:よ、よろしくお願いしまーーー。(意識が戻ったのか、そこで消えてしまう)
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冥助:・・・夜神さん。
晴:・・・何ですか?
冥助:たしかに今回の件、規約違反ばっかりだ。でも、条件は揃った。終わった後、俺のことを煮るなり焼くなりして構わねぇ。だから・・・行かせてくれ!頼む!
響子:私からもお願いします!私も!いくらでも罰を受けますから!!
晴:・・・・・・・・・(ため息)(冥助の拘束を解く)
冥助:おっ・・ととっ・・。
響子:冥助!
晴:飲みなさい。(小瓶を渡す)
冥助:これは?
晴:特効薬です。死神の仕事をしに行くのに、そんなボロボロの身体で務まりますか?
冥助:・・・!(小瓶の液体を一気に飲む)・・・すげぇ・・・一瞬で痛みも跡も無くなった・・・!
響子:夜神さん・・・ありがとうございます!
晴:お二人とも・・・規約違反の相応の罰、覚悟しておいてくださいね。そして、制裁も無駄な動きがあればその時点で、罰します。いいですね?
冥助:分かったよ!全部受けてやるよ!響子!行くぞ!
響子:ええ!!
晴:(先に行く二人を視ながら深くため息をつく)・・・・・何と、愚かなことを・・・・・。(今度は浅くため息をつく)・・・どうして・・・こうも似た方が現れるんですかね・・・。
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正春:さぁて・・・メインテーマといこうかなぁっ!!!
詩織:ぉ・・・お願い・・・もぅ・・・ゃめて・・・
正春:おやおや!起きたんですね!待ちくたびれましたよ・・・・ここからどんな声が聴けるのか!
詩織:・・・もぅ・・・やだ・・・。
正春:声が小さいっ!!!
詩織:ひいっ!!
正春:・・・ハハハハ!!なるほど!!その声!いいね!やはりスコアが捗る!!
詩織:だ、誰か!助けて!助けてぇっ!!!
正春:ああぁああ!!いい!いい!ここで一気に跳ね上げる!!完璧だ!素晴らしい!
詩織:もう・・・許してよぉ・・・。
正春:さぁ、最高のディミニエンドを用意しようじゃないか。
詩織:・・・え?何ですか?そのコップ。
正春:この中には、ゆっくり回っていく毒が入れてある。飲むどころか口に入れたが最後・・・少しずつ苦しみ、やがて息絶える・・・。
詩織:ぃゃ・・・いや・・・!
正春:その苦しみを味わいながら、君は炙られたり彫られたり、切り刻まれたりして!最期の最期まで声を出して足掻きながら!無様に死んでいくんだよ・・・!
詩織:嫌だ!飲みたくない!飲みたくない!
正春:君に拒否権は無いんだよ!さあ!口を開けなさい!時間をかけてゆっくりと!存分に楽しませてくれぇ!アハハハハハハハーーー!!!
詩織:助けて・・・助けて!死神さん!!!
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冥助:おやおやぁ?こんなところにどう見ても監禁、婦女暴行の容疑者がいるぞぉ?
正春:・・・何?
響子:言い逃れできないわよねぇ?眼の前の女性・・・そんなに傷だらけで、嫌がってて・・・どういうつもりなのかしら?
晴:相手には見えていない状態での発言。死神規約第2条。むやみに相手を恐怖に陥れてはいけない。
冥助:ぐ・・・
正春:だ、誰だ!?ここには誰もいないはず!
冥助:いねぇよ?ここにいるのは・・・人じゃねぇ。
正春:な、何?
晴:・・・規約第ーーー
冥助:だああっ!後でまとめて聴くから黙っててくれよ!
正春:・・・何なんだ?一体・・・。
冥助:お前は、人の命をどう思ってんだ?
正春:何?
響子:その眼の前にいる女性・・・横川詩織は、生きたいと願っている。
冥助:それを踏みにじろうとする行為・・・人の命をどう思ってるんだ?
正春:踏みにじる?ハハハ・・・何を仰ってるんですか?この方は、私の崇高な作品の一部になるのです!作品として、永遠に残り続ける!そのための代償として考えれば、安いものでしょう!
晴:・・・っ。
冥助:最後に問う。お前は、死神か?
正春:死神?アハハハ・・・ハハハハハハハハ!!そう!それだ!この作品は、まさにそのテーマ!!命を刈り取る瞬間こそ!この作品の高みーーー。
冥助:おい。
正春:・・・何です?
冥助:てめぇが、死神を語るな。
響子:こんなクズ、本当にいるのね。視てるだけで吐き気が止まらないわ。
0:壁をすり抜けるように、死神三人が入ってくる。
正春:な、何?どうやって入ってきた?!
冥助:お前の死神は、間違っている。死神は、本来生殺与奪に関係しない。
響子:死神は、亡くなった魂を黄泉の扉に送り届けるのが役目。命を刈り取るなんて、普通はしない。
冥助:でも、命を刈り取る事もある。それは、生きている者と死んでいる者の願いを、お互いに受理した時だ。
正春:・・・・・。
冥助:名尾川正春。職業は作曲家・・・なるほど。絶対音感の持ち主なんだな。それで人の声が、全部音階になるわけだ。
響子:ある時、泣いている人の声を使って作曲してみれば、それが称賛された。そこから試行錯誤していった結果・・・あり得ない行動を取るようになった。
正春:・・・っ!
冥助:人の苦しみ、悲しみ、絶望。そこから奏でる音階は、どんどん楽譜に描くことができた。そしたら・・・8人も手にかけていた。中毒になっちまったんだな。
響子:負の感情の声を聞かないと落ち着かない。そして、描けば描くほどお金になる。こんな美味しい話は、放っておけなかったーーー。
正春:うるさい!うるさいうるさい!何だ!貴様らに何が分かる?!毎回毎回完璧な作品を提供しなければならない苦しみが!貴様らに分かるのか?!
冥助:分かるわけねぇよ!自分の名声が欲しいだけで、人の命を簡単にもてあそぶようなクズの気持ちはよぉ!
正春:こんの・・・言わせておけばぁっ!
詩織:ひ・・・っ!!
響子:詩織さんっ!
正春:おっと!近寄るな?このナイフには強烈な毒が塗られてある!少し傷がついただけで・・・コイツはもう助からない。
晴:・・・・・・。
冥助:てめぇ・・・正真正銘のクズだな。そうやって、今まで8人も殺してきたのか?
正春:ああ、そうとも!彼女達は私の作品となったんだ!身体を刺されたり、全身を鞭で叩かれたり、バーナーで炙られたりする度に、痛みに耐えかねて泣き叫ぶ!その声が私のスコアとなって刻まれていくんだ!これほどまでに栄誉なことはないだろう!
詩織:・・・・そんなことをして・・・最低!!
響子:冥助・・・私の頭がおかしいのかなぁ・・・?怒りで頭がおかしくなりそうなんだけど。
冥助:あぁ・・・こんなに狂ったやつは初めてだ・・・。コイツはーーー
晴:待ちなさい。
冥助:・・・何だよ?
晴:・・・死神規約第53条。死神は、生きている者を処罰する際、無意味な外傷を負わせてはいけない。
響子:ち、ちょっと・・・ここにきてまだ規約を言うの?!
冥助:夜神さんよぉ・・・何とも思わねぇのかよ・・・。
晴:何度も言っています。死神は、私利私欲に溺れてはならない。死神は、神様です。死に対して常に公平です。喜怒哀楽を表に出してはいけません。
冥助:この・・・!
正春:何をごちゃごちゃ言ってんだ!勝手に進めるなら!こっちも勝手にさせてもらうよぉ!さぁさぁ!この毒で!私に最高の曲を仕上げさせてくれぇぇぇえぇ!!!
響子:詩織さんっ!!!
詩織:いやぁっ!!!・・・・・・・・ぇ、え?
冥助:・・・・・な・・・。
正春:・・・ぁ・・・ぁぁあああああ!!!き、傷が!!私の顔に傷がああぁああぁ!!?!
晴:これはこれは〜。私としたことが〜。生きている人間を守るために武器を弾き飛ばしたんですが〜、少しだけ傷をつけてしまいました〜・・・。しかし、猛毒と仰っていたので、どの道助からないですね〜。
正春:ああぁああぁ!!!解毒!は、早く解毒しないとぉおぉぉぉ!!!
冥助:・・・夜神さん、あんたーーー
晴:人は過ちを犯すもの。その度に後悔し、反省し、自分自身で更生するもの。・・・この者に、その更生の余地はありません・・・。消滅を懇願しても赦されぬ地獄を見るべきです。
響子:・・・夜神さん・・・。
晴:ーーーおや?何をされてるんです?これは私のミスです。その始末書の整理があるので・・・私は・・・何も見ていません。
0:
正春:くっそおぉおぉぉぉ!!!せめて!!この女だけでも道連れだあぁぁぁ!!!(再びナイフを持ち、振り上げる)
詩織:いやっ!!
冥助:響子!
響子:はあああっ!!!(名尾川の腕を殴り、その部分の骨が陥没する)
正春:が、ぁああっ!!ほ、骨がぁああっ!!!
響子:詩織さん!大丈夫?!
詩織:・・・怖かった・・・怖かったよぉ・・・!
響子:もう大丈夫よ!安心して!
正春:こ、このぉ・・・せ、せめて、スコアだけでもーーー
冥助:おい。
正春:え?
0:その刹那、名尾川の右腕が斬り落とされる。
冥助:こんな不幸を生み出す右腕・・・いらねぇんだよっ!!!
正春:ぁ、ぁああぁああっ!!!腕が、腕がぁああっ!!!
0:のたうち回る名尾川。それを横目に見ながら冥助が問う
冥助:横川詩織。心変わりはあったか?
詩織:・・・あるわけがない!お願いします。あの人を・・・悪魔を、消してください!
冥助:分かった。お前のその心、受け取ったぜ。
正春:い、痛い・・・く、苦しい・・・し、死んでしまう!
冥助:死ぬ?何言ってんだ?
正春:え?
冥助:お前は今から、死神に魂を刈り取られるんだ。骨が砕けようが腕が斬られようが、関係ねぇ。どうせ今から、死ぬんだからよ。
正春:た、助けて・・・助けてぇっ!!!
0:名尾川は家を飛び出し、山道を全力で駆けていった。
0:
0:
響子:本当に、クズってどうして逃げ足はあんなに速いのかしら?
冥助:そうだな。
晴:・・・・・。
冥助:それにしても〜・・・夜神さん、やっぱり怒ってたんですね〜。
晴:・・・え?
冥助:トボけたって無駄ですよ〜!あんなやり方、普通の人には出来ないですってぇ〜!『この者に、その更生の余地はありません。消滅を懇願しても赦されぬ地獄を見るべきです。』だってさ〜。かっこいい!
響子:(ため息)・・・何でこう、自分から首を絞めるようなことするんだろ、あの馬鹿・・・。
晴:・・・ん〜・・・そうですね。怒ってた・・・わけではないですよ。
冥助:え?
詩織:あ、あの・・・!
響子:ん?
詩織:た、助けてくれて、ありがとうございました!
晴:・・・・・ひとつ忠告しておきます。横川詩織さん。
詩織:は、はい・・・。
晴:私達死神は、本来生きている者の生死に関与してはいけないのです。今回、名尾川正春に接触したのは貴女の責任です。当然、貴女自身で解決すべき問題です。
詩織:・・・はい、反省してます・・・。
響子:ち、ちょっと!今そんな話しなくてもーーー!
晴:ですが・・・今回の御相手が、あまりにもクズで、自分勝手で・・・そんな者を処罰するのです、私達は。
詩織:・・・・・。
晴:良かったですね。貴女は・・・救われます。死神によって。これからの人生、自分の力を持って、真っ当に生きてください。
詩織:・・・はい・・ありがとう、ございます・・・!
晴:・・・さて・・・永らく死神をやってきましたが、これほどまでにクズを見たのは初めてですね〜。なるほど〜。それなりに経験してきたつもりなので、全て監察しているつもりでした〜。
響子:や、夜神さん・・・?
晴:・・・真正のクズというのは、これほどまでに感情を昂らせるものなのですね・・・。
冥助:・・・分かってくれましたかい?リーダーさん?
晴:・・・規約違反は認められません。
冥助:ケッ・・・結局規約かよ。
響子:冥助ーーー。
晴:死神界では、の話です。
響子:え?
晴:私は、既に生きている者を傷つけた、規約違反者です。規約違反者には相応の罰が下ります。それならば・・・ひとつやふたつ、怖くもありません。
冥助:・・・ま、まとめ役さん?そんなこと言って、大丈夫?
晴:さて、死神たるもの、生きている人間の最期を見届けなければ。・・・どうしますか?貴方がたが行きますか?それとも・・・私が行きますか?
冥助:おいおい。上司だからといってここは譲れねぇよ。俺の縄張りだ。俺がやる。
晴:・・・許可します。彼の最期を、見届けてきてください。
冥助:・・・分かったよ。響子。詩織さんを頼んだ。
響子:ええ、分かったわ。
冥助:じゃあ・・・行ってくる。
詩織:よろしく・・・お願いします・・・!
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響子:・・・・・夜神さんって、もしかして、かなり違反したことがあったりしますか?
晴:おや〜?どうしてそう思われるんです〜?
響子:あ、いや・・・似てたんです。さっきの瞬間、犯人に対する感情が、いつもの冥助と。
晴:・・・・・彼と、ですか・・・。
響子:し、失礼なことを言いました!
晴:・・・いえ。案外、間違っていませんよ。
響子:え?
晴:昔、私はもう一人の死神と一緒に仕事をしていました。私達は、何度も違反を繰り返す大馬鹿者でした。
響子:や、夜神さんが・・・?!
晴:そんな時です。その死神が・・・ある違反を犯しました。それは、死神にとって、禁忌とされているもの。そして・・・彼は今も、どこかを彷徨っています。どうなったのかも分かりません。黄泉の扉の、更に奥深く。入ったら最期、二度と出られず、永遠に孤独に彷徨うことになる闇の中。何も見えない。何も聴こえないと言われています。
響子:・・・禁忌って、何なんですか?
晴:・・・死神が、私利私欲のままに行動すること・・・。
響子:・・・・・。
晴:もう誰も、私達のように傷つき、苦しむ死神を出したくない。私はその思いで、この仕事をしています。だからこそ・・・・・貴女がたが、とても目に映ったのかもしれませんね。
響子:夜神さん・・・本当はーーー
晴:優しい死神、なんて言わないでくださいね。私は規約重視の、お固い死神ですので。
響子:・・・・・・・。
晴:・・・では、私は急用ができましたので、一度失礼しますね。
響子:え?こんな時にどこに?
晴:・・・いえ・・・本来の仕事の中でも、最も重い仕事をしてくる。それだけです。
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正春:ハァ・・・ハァ・・・何でなんだ・・・眼の前に町が見えているはずなのに・・・どうして着かないんだ・・・。山から・・・出られない・・・!
冥助:おーい!どうしたんだ?そんなに慌てて、どこに行くって言うんだよ!
正春:ひ、ひぃっ!!!
冥助:ここまで自分勝手に好き放題しておいて、挙句の果てには逃亡かよ?情ねぇよなぁ。
正春:く、来るな、来るなぁっ!!!
冥助:おい、お前。今まで殺してきた人間達に、申し訳ないという思いは無いのか?
正春:ぇ・・・え・・・?
冥助:どうなんだよ?お前が手にかけた8人に、謝罪の言葉はねぇのか?
正春:す・・・す、す、すみませんでしたぁっ!!私は人の命で楽曲を製作した、最低の人間です!!自首して罪を償います!!だから!!許してください!!
冥助:・・・・・へぇ。そうなんだ〜。・・・なぁ、お前って、平気で嘘をつくんだな?
正春:・・・え?いえ!そんなことはーーー!
冥助:しらばっくれんな!!さっきの言葉は何だったんだよ!!
正春:・・・え?
冥助:・・・『彼女達は私の作品となったんだ!身体を刺されたり、全身を鞭で叩かれたり、バーナーで炙られたりする度に、痛みに耐えかねて泣き叫ぶ!その声が私のスコアとなって刻まれていくんだ!これほどまでに栄誉なことはないだろう!』
正春:・・・ぁ・・ぁああ・・・。
冥助:・・・あとさ、お前の殺してきた8人から、とびっきりのメッセージが届いたぜ?
正春:な、なんだって?
冥助:・・・『今から死神にされることで、自分の声を楽譜にしてください。さようなら。』だってさ・・・!
正春:ぁ・・ぁああぁああっ!
冥助:てめぇの私利私欲で人を喰い物にして、のし上がっていくケダモノがよぉ!あの世でしっかり反省してこいっ!!!
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正春:・・・・・ここは・・・私は・・・死んだのか・・・?もう・・・終わりなのか・・・っ!聴こえる・・・断末魔の叫び・・・!途切れることのない苦しみの声・・・!見える・・・視える!ぁああっ!頭の中でスコアが埋め尽くされていくーーー!
晴:ーーー名尾川、正春さん?
正春:・・・あ、貴方は、先程の、し、死神・・・?
晴:天川冥助さんから、制裁を受けたんですね?
正春:そ、そうです!ですから私はこれからーーー
晴:ーーー簡単に・・・逝けるとお思いですか?
正春:な、何・・・がっ!!(晴によって手足、首などに鎖が巻かれる)
晴:魂というものは、この世界で浄化され、新たなモノとして生を受ける。そのために黄泉の扉があり、人は転生します。
正春:ぅ・・あぁっ!!
晴:しかし・・・貴方にはその浄化の見込みがありません。そのような魂は・・・永遠に戻されるべきではありません。
0:正春の後ろに、禍々しい黒い門が現れ、徐々に開いていく
正春:ひ、ひぃっ!!!な、何だ、これは!!
晴:冥府の門。或る者は、音も光も無い世界を彷徨い続ける。或る者は、毒のような苦しみで、永遠にのたうち回る。そして或る者は、死ぬことを許されぬまま、幾度となく拷問が繰り返される。
正春:ぁ・・ぁああっ!!ぁああぁああっ!!!
晴:貴方は一体、どんな罰を受けるのでしょうか?
正春:やめろ!!やめてくれ!!!嫌だ!!!嫌だぁああっ!!!
晴:・・・貴方が重ねた罪を、万死の責苦をもって、永久に懺悔し続けなさい。では・・・さようなら。
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冥助:・・・・・あの〜〜・・・夜神さん?
晴:何ですか?忙しいのです。後にしてもらえますか?
響子:・・・いや、あのーーー
冥助:待て待て待て!!!おかしいだろ?!何この始末書!見たことねぇんだけど?!百科事典なんてレベルじゃねぇぞ?!
晴:当然です。私は死神のまとめ役なのです。それなりのポジションであれば、相応の罰が下ります。
響子:いや、だからってこの量・・・
冥助:うへぇ・・・絶対にまとめ役なんてやりたくねぇな。
響子:あんたには無理よ。無理無理無理無理。絶対に無理。あんたの下につくなんてまっぴらごめんだわ。
冥助:なんだと?!こんのぉ・・・!
晴:あー・・・気が散るので、他所でやってもらえませんか?
冥助:こ・こ・は・お・れ・の・事・務・所・だ!!!
晴:・・・・まぁ、そう言っている間に、終わりましたよ。
響子:え?!?!
冥助:う、嘘だろ?!・・・ありえねぇ・・・出来てやがる。
響子:こ、これが・・・死神のまとめ役の速さ・・・。
晴:まぁ、こんな始末書、幾度となくこなしてきましたから。
冥助:・・・・・え?
晴:・・・・どうかしましたか?
冥助:じゃあ、あんたも規定違反を何回もーーー
晴:何か、言いましたか?(圧)
冥助:何もありません・・・
響子:あ、アハハ・・・。
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詩織:し、死神さん!
冥助:ん?お!
響子:詩織さんだ。
詩織:死神さん!聴こえてますか?先日は、命を助けていただいて、ありがとうございました!そして・・・夜神さん!!
晴:・・・!
詩織:夜神さんに言われた言葉!とても心に響きました!これから、もう一度頑張ります!夢を諦めず・・・必ず叶えます!どうか・・・視ていてください!
晴:(ため息)・・・死神に見初められたら、死んでしまいますよ?
詩織:こ、これ!うちで作ってるどら焼きです!よかったら食べてください!じゃあ!ありがとうございました!!
0:
0:走り去っていく詩織を見ながら
冥助:律儀だねぇ。
響子:ほんとにね。
晴:まったく・・・置いたままだと、死神事務所の意向に反しますね。処分しないと・・・パクッ。
冥助:あ、食べた。
響子:食べた。
晴:・・・あ~〜〜。このまわりのふわっとした独特の生地にしっとりとして尚且つ甘過ぎない粒あんが絶妙にマッチしている!流石は日本古来からある伝統菓子!これほどまでに美味しい甘味はなかなか・・・コホン
冥助:な、なぁ・・・実物を食べるのって、規定違反じゃ・・・
晴:お二人とも・・・貴方方は何も?(圧)
冥助:・・・見ていません。
響子:・・・見ていません。
晴:よろしい。
0:
響子:ところで冥助。矢吹さんはどうなったの?
冥助:結局連絡は取れずじまいだよ。まったく・・・どこに行ったんだ?
晴:・・・矢吹?どなたです、その方?
冥助:え?夜神さん、会ったことあるんじゃないんですか?
晴:矢吹・・・・・いや、覚えは無いですね。
冥助:そんなはずは・・・!だってこの前、夜神さんのことをいい人って言ってたぜ?!
晴:私をいい人・・・・・・・・そうですか。
響子:何か思い出しました?
晴:・・・いえ、何も。
響子:そう、ですか・・・。
晴:・・・天川冥助さん。
冥助:な、何だよ?
晴:その矢吹という方・・・お気をつけください。その方は・・・・・嘘をついていると思います。
冥助:・・・え・・・?
晴:あと、近いうちに、私から貴方に依頼があります。引き受けないなどの選択肢は、ありませんので。それでは。
冥助:ちょ、ちょっと!おい!
0:夜神が姿を消す。
響子:め、冥助・・・。
冥助:・・・何だよ・・・どうなってんだよ・・・矢吹・・・?!
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晴:・・・・・まさか・・・そんなはずはない。・・・あり得ない。あり得てはならない。・・・でも・・・もしかしたら・・・・・。
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響子:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
響子:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。
響子:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
響子:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。
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0:第五番 了