台本概要

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タイトル チョコレートコスモス
作者名 ころけ まぬ
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(女2)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 「私は狡いヤツだから」




・著作権を放棄しておりません

・配信アプリ内での使用
「視聴料」をいただかない場合はご自由に。
スパチャ等も免除とさせていただきます。
その際は【シナリオタイトル/作者名/声劇台本置き場さんのURL】をコメント欄等、目につく箇所にご記入ください。

……視聴料という名目でなくても有料枠等、視聴するにあたってリスナーが金銭を支払う必要がある場合は免除外になります。

アーカイブにテキストが残らない際は必ずシナリオタイトルと作者名、掲載先が声劇台本置き場さんであることを【口頭でお伝えください】

・アーカイブ等を動画化・ボイスドラマ化について
非商用の場合はご自由に。
視聴料がかかったり再生数が金銭として投稿者に還ってくる等
収益化されたチャンネルでのアップロードはご遠慮ください。

・登場人物の性別について
登場人物の性別の変更はご遠慮ください。
ただしキャストさんの性別は問いません。

・アドリブについて
改変に近いものはご遠慮ください。
それ以外はご自由に。

・引用について
シナリオの一部を告知記事や告知画像に掲載しても大丈夫です。
その際は引用部分を「」で括り【作者名/シナリオタイトル】を小さくても構わないので添えてください


数あるシナリオの中からお目にとめていただき、ここまでお読みいただきありがとうございます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ミツル 78 高崎ミツル(タカザキ・ミツル)。アラフォー。シマとは2つ違い。先輩。
シマ 83 丸井シマ(マルイ・シマ)。アラフォー。ミツルとは2つ違い。後輩。男性が苦手。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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ミツル:(M)アラフォー女。プロポーズされる。恋愛経験もそこそこ故に初めてのことではない。そして、こういう場面に直面する度に、思い出してしまうのだ。 0: ミツル:(M)私には忘れられない告白がある。 0:(間) シマ:(回想)先輩のこと、好きに、なりました。付き合って、もらえません、か……? 0:(間) 0:高校時代の回想。体育祭の準備中。シマが脚立に立ち一人で巨大な背景板に絵を描いている。シマの身長だと限界があり苦戦している。 シマ:……んーっ!! ミツル:危ない!! シマ:ひっ!! ミツル:ふぅ。驚かせてごめん?脚立がぐらついてたから。 シマ:あ、ありがとうございます。 ミツル:えっと、一年生の…… シマ:丸井シマです。 ミツル:丸井さんか。三年の高崎です。背景班の様子を見に来たんだけど、何で丸井さんひとり? シマ:うちの班、運動部の人が多くて……。 ミツル:部活あるからーって一斉に逃げたか。でも、今やってる作業は誰か男子捕まえてやって貰った方が良いよ。上の方は届かないでしょ。背景班に抜けが多いのはリーダー達に伝えとくから。 シマ:は、はい。ありがとうございます。でも。 ミツル:ん。 シマ:私、男子が苦手で。その、あんまり話しかけにいきたくない……っていうか。 ミツル:ああ。じゃあ、他の子が出て来る様になったらこっちが作業振る様にするよ。 シマ:すみません。助かります。 0:ミツル、背景板に目が留まる ミツル:ねえ、これ。背景板、ここまで一人で描いたの? シマ:はい。あの、もしかして、おかしい……ですか? ミツル:ううん。上手い。丸井さんって美術部? シマ:帰宅部です。美術は好きなんですが、やっぱり男子部員がいると思ったら……。どの部活にも入れませんでした。あっ、別に何か嫌な過去があるとかそういうのでは……ないです。ただ、どうしても苦手で。 ミツル:どうしても苦手かぁ。そういうのってあるよね。ブッチーが授業中に腰揺すりながらずり下がったズボン直す仕草とか、濱田(ハマダ)先生がテスト返す時に親指舐めるのとか。私はああいうのがどうしても苦手。気にしなきゃいいんだろうけど。 シマ:ブッチーって小渕(こぶち)先生ですか?私も授業かかってるんで分かります。アレですよね「うぅん!」って言いながらズボン直すやつ! ミツル:それそれ!うぅん! シマ:濱田先生にもかかってるから指舐めるやつも分かりますよ!あれに当たっちゃった子って悲痛ですよね。テストに濱田先生の唾がついてるんですもん! ミツル:うん……悲痛だった。 シマ:あっ!先輩、当たっちゃったんですかー!?す、すみません……。 ミツル:点数も良くなかったしさ、もう二重で嫌なテストだったよ。 シマ:あははっ。 0:回想終了。現在。 ミツル:(M)丸井シマは高校時代の後輩。三年の体育祭の時に同じチームになり、その作業がきっかけで知り合った。私が初めて受けた告白は彼女からのものだ。生まれて初めてのことに加え、同性からの告白が印象に残るのも無理はなかった。今は恋愛は男女間だけのものではなく性別に捉われないという考え方が浸透し始めているが、当時はそうではなかったから。あと、私が彼女からの告白を忘れられない理由はそれだけではない。 0:高校時代。回想。また別の日の作業中、無意識に呟くシマ。隣ではミツルが作業をしている。 ミツル:リーダーに注意して貰ってもサボるやつはサボるねー。困ったもんだ。丸井さんに絵心があったからまだ良かったけど。 シマ:下の名前で呼びたいな……。 ミツル:ん。いーよ。好きに呼んで。 シマ:えっ! ミツル:あ。もしかして私のことじゃなかった? シマ:あ、いや!先輩のこと、ですけど。その、私、声に出しちゃってましたか? ミツル:うん。下の名前で呼びたいなって言ってたよ。 シマ:まじかー!うわあ、恥ずかしい!す、すみません先輩。体育祭チームと作業班が被ってるだけで馴れ馴れしくて! ミツル:別に良いよ。そんな上下関係ガチガチの体育会系じゃないし。変な呼び方以外は全然気にしないから。 シマ:じゃ、じゃあ……ミツル先輩、ううん、ミツ先輩って呼んで良いですか? ミツル:いーよ。じゃあ私もシマちゃんって呼ぶね。 シマ:よかったらちゃんは無しで、シマって呼んでください。クラスの子からそう呼ばれてるんです。 ミツル:オッケー。 0:回想終了。現在。シマのモノローグ。 シマ:(M)物心ついた時から同性に惹かれていた。仲良しの手繋ぎにすらドキドキとしていたが、やがて成長すると友人らの手を握るのは男の子達になっていった。恋愛は男女でするもの、そういう当時、異性が羨ましかった。時には妬ましいと思うこともあった。それが原因かどうかは分からないが、次第に私は異性に対して苦手意識を芽生えさせていった。 0: シマ:(M)高崎ミツルという女性のことをよく覚えている。高校時代に好きだった人。私が初めて恋愛感情を伝えた相手でもある。それまでは忍ぶ恋ばかりだったけれど、彼女には気持ちを伝えたいと思った。彼女なら私を受け入れてくれるんじゃないかって、そんな都合の良い考えを当時の私はしてしまったのだ。 0:回想。ある日の作業中。教室にはミツル、シマと数名の生徒。そこに別の班の男子生徒が現れ、ある女子生徒を呼び出す。ざわつく室内。 シマ:あの人は、確か応援班の。どうしたんだろ、大道具班に何か用事ですかね?って、川口(カワグチ)さんが連れて行かれてっ。ミツ先輩、川口さん大丈夫ですかね? ミツル:ああ。まあ、用事っちゃ用事なんじゃない?個人的な。心配しなくても良いと思うよ。たぶんすぐ戻って来るって。 シマ:あっ、本当だ!なんか川口さん、嬉しそう……? 0:呼び出しから戻った女子生徒の周りから黄色い悲鳴がする ミツル:告白されたんじゃない?それでオッケーしたんでしょ。 シマ:こ、告白!? ミツル:ああ、シマは一年だから知らないかぁ。うちの学校、体育祭の準備中に告白すると上手くいくっていうジンクスがあるんだよ。だから毎年この時期になるとああいうのが増えるんだよね。 シマ:そ、そうなんですか。あ、そう言えばミツ先輩って、その、彼氏とかいる……んですか? ミツル:いないよ。 シマ:そうなんですね。欲しいとは思いますか? ミツル:どうだろう。彼氏がいなくても困ったことないし。いないまま卒業する気がするなー。興味、あるの? シマ:えっ。 ミツル:付き合うとか、そういうのに興味があるの? シマ:あ、ああ。まあ。男子と手を繋いだり、デートしたり、それが嬉しいって私には分からない感覚だと思うので。 ミツル:私もまだ分からないなあ。友達と遊びに行くだけで十分って感じ。だからシマと同じだね。 シマ:……そう、ですかね。 0:回想終了。現在。シマのモノローグ。 シマ:(M)この時、高崎ミツルは恋そのものを知らなかった。誰かを独占したいと思うことも、その人に触れてみたいと思うことも。彼女に対して元々好感はあったが「たったひとり」を映したことのない、まだ透明なその瞳を知った時、私は彼女への恋を自覚した。 0:回想。またある日の放課後。作業時間を過ぎても教室に一人居残るシマ。 ミツル:作業はもう終わってる時間だよ。先生に見つかると本番までに持ち点が原点されちゃう。帰った、帰ったー! シマ:ミツ先輩!すみません。作業はもう止めてたんですけど……。 ミツル:一人で何してたの?そういや作業に出て来ない子達に、リーダー達から今度はキツめの注意が入ったってね。最近は人手足りる様になったでしょ? シマ:もしかして、先輩が作業時間内にあんまり来てくれなくなったのって……。 ミツル:うん。人手足りてるから。私の担当はフリーで各班の抜けを埋めることと見回りだからね。 シマ:う、先輩〜! ミツル:なになに、もしかしてシマ……寂しかったとかー? シマ:そうですよー!先輩と話しながら作業するのが楽しかったのに。だから今日は待ってたんです。先輩に会えないかなって思って! ミツル:シマ、私のこと好きだねー! シマ:そうですよ!……好きですよ! ミツル:あー、シマはかわいいなー! シマ:……。 シマ:(M)私は狡いヤツだ。何気なさを装ったり、先輩にとってはなんでもないと知っていながら、向けられた言葉のひとつひとつをさも特別の様に受け取ったりしてしまうのだもの。 0:回想終了、現在。 シマ:(M)でも、彼女だって狡かった。彼女は私を、優しく優しく傷つけた。本人がそれを自覚していなかったのがなおのこと狡い。 0:シマ、馴染みの居酒屋のカウンターで一人飲みを楽しんでいる。そこにミツルが来店してくる。 ミツル:すみません、ひとりです。 シマ:(M)近くに女性がいると、どうしても一度はそちらを気にしてしまう。その癖を歴代の恋人にはよく思われないことが殆どだったけれど、これはもう治ることがないのだろうと諦めている。 0:シマから一つ空けた位置に腰を下ろすミツル。さり気なくミツルに視線を向けるシマ。 ミツル:生ひとつ。はい、中で。……はぁー。(深い溜息) シマ:……すんごい溜息。 ミツル:えっ。 0:目が合う二人。 シマ:あ、いや!その、私、声に出しちゃってましたか? ミツル:はい。ばっちし。でもそうですよね、気持ちよく飲んでる時に溜息何て聞きたくないですよね。すみません。 シマ:いえ、こちらが失礼して……。 ミツル:あの、良かったらご一緒させて貰えませんか。今日はそういう気分なんです。もちろんここは持たせていただきますから。 シマ:いやいやお気遣いなく。お話でしたらどうぞ。えーっと席、詰めますか?あっ、ちょうどビールが来ましたね。 ミツル:じゃあお言葉に甘えて。……乾杯? シマ:か、乾杯……。 ミツル:っはぁー!これこれ! シマ:……っふ。 ミツル:おじさん臭かったですか?でも私もおばさんだし、仕方がないですよ。 シマ:見た目が上品だから大胆な飲み方とのギャップがあって、つい笑っちゃいました。 ミツル:あはは。よくワインとか好きそうって言われますね。 シマ:そう、そんな感じです。 ミツル:でもワインは飲みません。というか、お上品な飲み方しなきゃいけないお酒はみんな疲れます。かといって周りに迷惑かける様な飲み方も嫌いですけど。 シマ:見ていて気持ちが良い飲み方でした。 ミツル:飲んでるヤツの気持ちは晴れてないんですけどね。 シマ:あ、そうでしたね。溜息が……。あの、何か、その、お悩みですか? ミツル:聞いてくれます?私、今日プロポーズされたんです。 シマ:おめでたいことに聞こえますけど、そうじゃないと? ミツル:そのプロポーズがどうとか、相手に不満がある訳じゃないんです。ただ、こういう時に必ず思い出すことが……人がいるんです。それが痞えて(ツカエテ)きちんと向き合えないというか。 シマ:心の全てを向けられない、みたいな。 ミツル:そ、そうなの! シマ:分かります。私もそうだから。 ミツル:あなたも? シマ:ええ。昔、好きだった人のことが忘れられないんです。いつまで経ってもその人のことを綺麗に消化出来ずにいます。新しい恋愛が始まってもそう。 ミツル:私は、私のことを初めて好きになってくれた人を……傷付けてしまったんです。その時の私はそんなこと微塵も思っていなかった。寧ろ、相手を傷付けまいとして……。でも時が経って、色々なものが変化して、そこで初めて相手に酷いことをしてしまったと気付いたんです。 シマ:何があったんですか? ミツル:……私は相手の気持ちを「勘違い」だと言ったんです。そもそも向けられた好意を好意として認識しなかった。気持ちそのものを否定してしまった……。 シマ:確かに、好意を寄せる側にしたら残酷というか……(無意識な独り言の様に)。 ミツル:そうよね。本当に酷い……。 0:回想。高校時代。放課後にミツルを呼び出すシマ。 シマ:先輩のこと、好きに、なりました。付き合って、もらえません、か……? ミツル:え? シマ:ミツ先輩が好きです。 ミツル:シマ? シマ:本当に好きなんです。ミツ先輩のことが……。 ミツル:シマ。ありがとう。でもその気持ちは違うと思うの。 シマ:えっ。 ミツル:シマは私に理想の男性像を見てるんじゃないかって。それを恋愛の感覚と錯覚してるんじゃないかって思うんだ。 シマ:錯覚? ミツル:うん。私達、言ってもまだ高校生でしょ。しっかりした恋愛を知ってるわけじゃない。シマが慕ってくれるのは嬉しいけどそれを勘違いして欲しくないな。 シマ:……。 ミツル:シマが大丈夫だって思える人がきっと現れると思うから!ね! シマ:……そっか。そう……ですよね。先輩、驚かせてごめんなさい。ごめんな……さい。 0:(間) 0: 0:回想終了、現在。居酒屋。 シマ:……。 ミツル:あの……? シマ:……。 ミツル:大丈夫ですか? シマ:あっ!えっ! ミツル:いや、黙り込んで固まっていらしたのでご気分が悪くなったのかと……。 シマ:あ、ああ。大丈夫です。すみません、お話の途中に……。お話を聞いてたら私も自分のことを思い出してしまって。 ミツル:そうだったんですか。私達、似てるのかも知れませんね。 シマ:……そう、ですかね。 ミツル:もしあなたがそういう目に遭ったらどうします? シマ:えっ。 ミツル:好きな相手に気持ちを伝えたのにそれを否定されたら。 シマ:……かなしい、ですよ。 ミツル:それ以外は? シマ:……? ミツル:相手のことをどう思います?ずっと恨むとか、そんなヤツのことはさっさと忘れちゃうとか。 シマ:忘れられないですよ! ミツル:怒ってるから? シマ:それもあるかも知れないですがいちばんは……ちゃんと答えを聞かせて貰ってないからです。気持ちを受け止めた上での返事が、どんなものであっても欲しいから。 ミツル:……。 シマ:私だったらちゃんと振って欲しいって思います。 ミツル:……あなたのことは恋愛対象に見られません。これでも? 0:はっきりとしたミツルの言葉にシマは一瞬怯む。 シマ:はい。それでも。どんなに時間が経っても、返事を待ち続けると……あ。 ミツル:ん? シマ:いや、何でもないです……。 ミツル:そう? 0:(間) 0: 0:暫くしてミツルは二人分の会計を済ませて席を立つ。 ミツル:今日はお付き合いありがとうございました。不思議ね、ほんの少しだけ痞えたものが取れた気がする。 シマ:そうですか、良かったです。あ、あの……ご馳走様でした。お気遣いなくって言ったのに。 ミツル:こちらのワガママに付き合っていただいたんですもの、当然ですよ。この辺りで私は失礼させていただきますが、あなたは? シマ:私は……もう少しだけ飲んで帰ります。あのっ、偉そうかも知れないんですが……。繰り返さないでください。 ミツル:繰り返す? シマ:プロポーズの返事。相手の方にはあなたの気持ちを伝えてください。過去のことがあってじゃなくて、相手だけを見て、その気持ちに真っ直ぐ答えてください。 ミツル:……。 シマ:ほんと、えらそうで、ごめんなさい。 ミツル:ううん、ありがとう。……あなたに出会えて、よかった。 シマ:……。 0:居酒屋を出るミツル。シマはカウンターに座ったまま顔を覆う。 シマ:……あの時の恋が終わるなら、こんな感じ、なのかな。 0:(了)

ミツル:(M)アラフォー女。プロポーズされる。恋愛経験もそこそこ故に初めてのことではない。そして、こういう場面に直面する度に、思い出してしまうのだ。 0: ミツル:(M)私には忘れられない告白がある。 0:(間) シマ:(回想)先輩のこと、好きに、なりました。付き合って、もらえません、か……? 0:(間) 0:高校時代の回想。体育祭の準備中。シマが脚立に立ち一人で巨大な背景板に絵を描いている。シマの身長だと限界があり苦戦している。 シマ:……んーっ!! ミツル:危ない!! シマ:ひっ!! ミツル:ふぅ。驚かせてごめん?脚立がぐらついてたから。 シマ:あ、ありがとうございます。 ミツル:えっと、一年生の…… シマ:丸井シマです。 ミツル:丸井さんか。三年の高崎です。背景班の様子を見に来たんだけど、何で丸井さんひとり? シマ:うちの班、運動部の人が多くて……。 ミツル:部活あるからーって一斉に逃げたか。でも、今やってる作業は誰か男子捕まえてやって貰った方が良いよ。上の方は届かないでしょ。背景班に抜けが多いのはリーダー達に伝えとくから。 シマ:は、はい。ありがとうございます。でも。 ミツル:ん。 シマ:私、男子が苦手で。その、あんまり話しかけにいきたくない……っていうか。 ミツル:ああ。じゃあ、他の子が出て来る様になったらこっちが作業振る様にするよ。 シマ:すみません。助かります。 0:ミツル、背景板に目が留まる ミツル:ねえ、これ。背景板、ここまで一人で描いたの? シマ:はい。あの、もしかして、おかしい……ですか? ミツル:ううん。上手い。丸井さんって美術部? シマ:帰宅部です。美術は好きなんですが、やっぱり男子部員がいると思ったら……。どの部活にも入れませんでした。あっ、別に何か嫌な過去があるとかそういうのでは……ないです。ただ、どうしても苦手で。 ミツル:どうしても苦手かぁ。そういうのってあるよね。ブッチーが授業中に腰揺すりながらずり下がったズボン直す仕草とか、濱田(ハマダ)先生がテスト返す時に親指舐めるのとか。私はああいうのがどうしても苦手。気にしなきゃいいんだろうけど。 シマ:ブッチーって小渕(こぶち)先生ですか?私も授業かかってるんで分かります。アレですよね「うぅん!」って言いながらズボン直すやつ! ミツル:それそれ!うぅん! シマ:濱田先生にもかかってるから指舐めるやつも分かりますよ!あれに当たっちゃった子って悲痛ですよね。テストに濱田先生の唾がついてるんですもん! ミツル:うん……悲痛だった。 シマ:あっ!先輩、当たっちゃったんですかー!?す、すみません……。 ミツル:点数も良くなかったしさ、もう二重で嫌なテストだったよ。 シマ:あははっ。 0:回想終了。現在。 ミツル:(M)丸井シマは高校時代の後輩。三年の体育祭の時に同じチームになり、その作業がきっかけで知り合った。私が初めて受けた告白は彼女からのものだ。生まれて初めてのことに加え、同性からの告白が印象に残るのも無理はなかった。今は恋愛は男女間だけのものではなく性別に捉われないという考え方が浸透し始めているが、当時はそうではなかったから。あと、私が彼女からの告白を忘れられない理由はそれだけではない。 0:高校時代。回想。また別の日の作業中、無意識に呟くシマ。隣ではミツルが作業をしている。 ミツル:リーダーに注意して貰ってもサボるやつはサボるねー。困ったもんだ。丸井さんに絵心があったからまだ良かったけど。 シマ:下の名前で呼びたいな……。 ミツル:ん。いーよ。好きに呼んで。 シマ:えっ! ミツル:あ。もしかして私のことじゃなかった? シマ:あ、いや!先輩のこと、ですけど。その、私、声に出しちゃってましたか? ミツル:うん。下の名前で呼びたいなって言ってたよ。 シマ:まじかー!うわあ、恥ずかしい!す、すみません先輩。体育祭チームと作業班が被ってるだけで馴れ馴れしくて! ミツル:別に良いよ。そんな上下関係ガチガチの体育会系じゃないし。変な呼び方以外は全然気にしないから。 シマ:じゃ、じゃあ……ミツル先輩、ううん、ミツ先輩って呼んで良いですか? ミツル:いーよ。じゃあ私もシマちゃんって呼ぶね。 シマ:よかったらちゃんは無しで、シマって呼んでください。クラスの子からそう呼ばれてるんです。 ミツル:オッケー。 0:回想終了。現在。シマのモノローグ。 シマ:(M)物心ついた時から同性に惹かれていた。仲良しの手繋ぎにすらドキドキとしていたが、やがて成長すると友人らの手を握るのは男の子達になっていった。恋愛は男女でするもの、そういう当時、異性が羨ましかった。時には妬ましいと思うこともあった。それが原因かどうかは分からないが、次第に私は異性に対して苦手意識を芽生えさせていった。 0: シマ:(M)高崎ミツルという女性のことをよく覚えている。高校時代に好きだった人。私が初めて恋愛感情を伝えた相手でもある。それまでは忍ぶ恋ばかりだったけれど、彼女には気持ちを伝えたいと思った。彼女なら私を受け入れてくれるんじゃないかって、そんな都合の良い考えを当時の私はしてしまったのだ。 0:回想。ある日の作業中。教室にはミツル、シマと数名の生徒。そこに別の班の男子生徒が現れ、ある女子生徒を呼び出す。ざわつく室内。 シマ:あの人は、確か応援班の。どうしたんだろ、大道具班に何か用事ですかね?って、川口(カワグチ)さんが連れて行かれてっ。ミツ先輩、川口さん大丈夫ですかね? ミツル:ああ。まあ、用事っちゃ用事なんじゃない?個人的な。心配しなくても良いと思うよ。たぶんすぐ戻って来るって。 シマ:あっ、本当だ!なんか川口さん、嬉しそう……? 0:呼び出しから戻った女子生徒の周りから黄色い悲鳴がする ミツル:告白されたんじゃない?それでオッケーしたんでしょ。 シマ:こ、告白!? ミツル:ああ、シマは一年だから知らないかぁ。うちの学校、体育祭の準備中に告白すると上手くいくっていうジンクスがあるんだよ。だから毎年この時期になるとああいうのが増えるんだよね。 シマ:そ、そうなんですか。あ、そう言えばミツ先輩って、その、彼氏とかいる……んですか? ミツル:いないよ。 シマ:そうなんですね。欲しいとは思いますか? ミツル:どうだろう。彼氏がいなくても困ったことないし。いないまま卒業する気がするなー。興味、あるの? シマ:えっ。 ミツル:付き合うとか、そういうのに興味があるの? シマ:あ、ああ。まあ。男子と手を繋いだり、デートしたり、それが嬉しいって私には分からない感覚だと思うので。 ミツル:私もまだ分からないなあ。友達と遊びに行くだけで十分って感じ。だからシマと同じだね。 シマ:……そう、ですかね。 0:回想終了。現在。シマのモノローグ。 シマ:(M)この時、高崎ミツルは恋そのものを知らなかった。誰かを独占したいと思うことも、その人に触れてみたいと思うことも。彼女に対して元々好感はあったが「たったひとり」を映したことのない、まだ透明なその瞳を知った時、私は彼女への恋を自覚した。 0:回想。またある日の放課後。作業時間を過ぎても教室に一人居残るシマ。 ミツル:作業はもう終わってる時間だよ。先生に見つかると本番までに持ち点が原点されちゃう。帰った、帰ったー! シマ:ミツ先輩!すみません。作業はもう止めてたんですけど……。 ミツル:一人で何してたの?そういや作業に出て来ない子達に、リーダー達から今度はキツめの注意が入ったってね。最近は人手足りる様になったでしょ? シマ:もしかして、先輩が作業時間内にあんまり来てくれなくなったのって……。 ミツル:うん。人手足りてるから。私の担当はフリーで各班の抜けを埋めることと見回りだからね。 シマ:う、先輩〜! ミツル:なになに、もしかしてシマ……寂しかったとかー? シマ:そうですよー!先輩と話しながら作業するのが楽しかったのに。だから今日は待ってたんです。先輩に会えないかなって思って! ミツル:シマ、私のこと好きだねー! シマ:そうですよ!……好きですよ! ミツル:あー、シマはかわいいなー! シマ:……。 シマ:(M)私は狡いヤツだ。何気なさを装ったり、先輩にとってはなんでもないと知っていながら、向けられた言葉のひとつひとつをさも特別の様に受け取ったりしてしまうのだもの。 0:回想終了、現在。 シマ:(M)でも、彼女だって狡かった。彼女は私を、優しく優しく傷つけた。本人がそれを自覚していなかったのがなおのこと狡い。 0:シマ、馴染みの居酒屋のカウンターで一人飲みを楽しんでいる。そこにミツルが来店してくる。 ミツル:すみません、ひとりです。 シマ:(M)近くに女性がいると、どうしても一度はそちらを気にしてしまう。その癖を歴代の恋人にはよく思われないことが殆どだったけれど、これはもう治ることがないのだろうと諦めている。 0:シマから一つ空けた位置に腰を下ろすミツル。さり気なくミツルに視線を向けるシマ。 ミツル:生ひとつ。はい、中で。……はぁー。(深い溜息) シマ:……すんごい溜息。 ミツル:えっ。 0:目が合う二人。 シマ:あ、いや!その、私、声に出しちゃってましたか? ミツル:はい。ばっちし。でもそうですよね、気持ちよく飲んでる時に溜息何て聞きたくないですよね。すみません。 シマ:いえ、こちらが失礼して……。 ミツル:あの、良かったらご一緒させて貰えませんか。今日はそういう気分なんです。もちろんここは持たせていただきますから。 シマ:いやいやお気遣いなく。お話でしたらどうぞ。えーっと席、詰めますか?あっ、ちょうどビールが来ましたね。 ミツル:じゃあお言葉に甘えて。……乾杯? シマ:か、乾杯……。 ミツル:っはぁー!これこれ! シマ:……っふ。 ミツル:おじさん臭かったですか?でも私もおばさんだし、仕方がないですよ。 シマ:見た目が上品だから大胆な飲み方とのギャップがあって、つい笑っちゃいました。 ミツル:あはは。よくワインとか好きそうって言われますね。 シマ:そう、そんな感じです。 ミツル:でもワインは飲みません。というか、お上品な飲み方しなきゃいけないお酒はみんな疲れます。かといって周りに迷惑かける様な飲み方も嫌いですけど。 シマ:見ていて気持ちが良い飲み方でした。 ミツル:飲んでるヤツの気持ちは晴れてないんですけどね。 シマ:あ、そうでしたね。溜息が……。あの、何か、その、お悩みですか? ミツル:聞いてくれます?私、今日プロポーズされたんです。 シマ:おめでたいことに聞こえますけど、そうじゃないと? ミツル:そのプロポーズがどうとか、相手に不満がある訳じゃないんです。ただ、こういう時に必ず思い出すことが……人がいるんです。それが痞えて(ツカエテ)きちんと向き合えないというか。 シマ:心の全てを向けられない、みたいな。 ミツル:そ、そうなの! シマ:分かります。私もそうだから。 ミツル:あなたも? シマ:ええ。昔、好きだった人のことが忘れられないんです。いつまで経ってもその人のことを綺麗に消化出来ずにいます。新しい恋愛が始まってもそう。 ミツル:私は、私のことを初めて好きになってくれた人を……傷付けてしまったんです。その時の私はそんなこと微塵も思っていなかった。寧ろ、相手を傷付けまいとして……。でも時が経って、色々なものが変化して、そこで初めて相手に酷いことをしてしまったと気付いたんです。 シマ:何があったんですか? ミツル:……私は相手の気持ちを「勘違い」だと言ったんです。そもそも向けられた好意を好意として認識しなかった。気持ちそのものを否定してしまった……。 シマ:確かに、好意を寄せる側にしたら残酷というか……(無意識な独り言の様に)。 ミツル:そうよね。本当に酷い……。 0:回想。高校時代。放課後にミツルを呼び出すシマ。 シマ:先輩のこと、好きに、なりました。付き合って、もらえません、か……? ミツル:え? シマ:ミツ先輩が好きです。 ミツル:シマ? シマ:本当に好きなんです。ミツ先輩のことが……。 ミツル:シマ。ありがとう。でもその気持ちは違うと思うの。 シマ:えっ。 ミツル:シマは私に理想の男性像を見てるんじゃないかって。それを恋愛の感覚と錯覚してるんじゃないかって思うんだ。 シマ:錯覚? ミツル:うん。私達、言ってもまだ高校生でしょ。しっかりした恋愛を知ってるわけじゃない。シマが慕ってくれるのは嬉しいけどそれを勘違いして欲しくないな。 シマ:……。 ミツル:シマが大丈夫だって思える人がきっと現れると思うから!ね! シマ:……そっか。そう……ですよね。先輩、驚かせてごめんなさい。ごめんな……さい。 0:(間) 0: 0:回想終了、現在。居酒屋。 シマ:……。 ミツル:あの……? シマ:……。 ミツル:大丈夫ですか? シマ:あっ!えっ! ミツル:いや、黙り込んで固まっていらしたのでご気分が悪くなったのかと……。 シマ:あ、ああ。大丈夫です。すみません、お話の途中に……。お話を聞いてたら私も自分のことを思い出してしまって。 ミツル:そうだったんですか。私達、似てるのかも知れませんね。 シマ:……そう、ですかね。 ミツル:もしあなたがそういう目に遭ったらどうします? シマ:えっ。 ミツル:好きな相手に気持ちを伝えたのにそれを否定されたら。 シマ:……かなしい、ですよ。 ミツル:それ以外は? シマ:……? ミツル:相手のことをどう思います?ずっと恨むとか、そんなヤツのことはさっさと忘れちゃうとか。 シマ:忘れられないですよ! ミツル:怒ってるから? シマ:それもあるかも知れないですがいちばんは……ちゃんと答えを聞かせて貰ってないからです。気持ちを受け止めた上での返事が、どんなものであっても欲しいから。 ミツル:……。 シマ:私だったらちゃんと振って欲しいって思います。 ミツル:……あなたのことは恋愛対象に見られません。これでも? 0:はっきりとしたミツルの言葉にシマは一瞬怯む。 シマ:はい。それでも。どんなに時間が経っても、返事を待ち続けると……あ。 ミツル:ん? シマ:いや、何でもないです……。 ミツル:そう? 0:(間) 0: 0:暫くしてミツルは二人分の会計を済ませて席を立つ。 ミツル:今日はお付き合いありがとうございました。不思議ね、ほんの少しだけ痞えたものが取れた気がする。 シマ:そうですか、良かったです。あ、あの……ご馳走様でした。お気遣いなくって言ったのに。 ミツル:こちらのワガママに付き合っていただいたんですもの、当然ですよ。この辺りで私は失礼させていただきますが、あなたは? シマ:私は……もう少しだけ飲んで帰ります。あのっ、偉そうかも知れないんですが……。繰り返さないでください。 ミツル:繰り返す? シマ:プロポーズの返事。相手の方にはあなたの気持ちを伝えてください。過去のことがあってじゃなくて、相手だけを見て、その気持ちに真っ直ぐ答えてください。 ミツル:……。 シマ:ほんと、えらそうで、ごめんなさい。 ミツル:ううん、ありがとう。……あなたに出会えて、よかった。 シマ:……。 0:居酒屋を出るミツル。シマはカウンターに座ったまま顔を覆う。 シマ:……あの時の恋が終わるなら、こんな感じ、なのかな。 0:(了)