声劇台本置き場

手稲：今日も順調ですね車尾（くずも）さん！ 車尾：ばか、油断するなよ、ここは東京。何が起こるかわからねえ。 手稲：何も起こんないですって。 車尾：アレは何だ？ マグロ：うおおおお！！！止まれねえ！止まることをゆるされねえんだよ！おれはァ！！ リポーター：こちら現場の首都高 目黒ICから中継しています！ リポーター：なんと巨大マグロが首都高 環状線の渋滞の上を逆走中！ リポーター：更なる渋滞を呼んでいます！ 車尾：なんてこったい。これじゃあ午後の便に間に合わねえじゃねえか。 手稲：どうします？下道行きます？ 車尾：いや。手稲（ていね）、とりあえず酉島（とりしま）に電話入れて。車尾（くずも）休憩入りまーす。 手稲：車尾（くずも）さん、まさかあのマグロ釣る気ですか。 車尾：うん 手稲：やめときましょうよ。さすがにバカですよ。釣りバカというか、バカですよ。 リポーター：現在 巨大マグロは一ツ橋JCTを通過しました！ものすごいスピードで車を掻きわけて環状１号線を進んでおります！ マグロ：フルエアロがなんじゃい！こちとら生まれもっての流線形じゃア！オッッラァ！！ 0：ドガシャアン！！フルエアロの車がお釈迦になる。 手稲：あーあーあのマグロ相当キレてますよ。 リポーター：ご覧ください！マグロの分厚い体が車を正面から弾き飛ばしております！ リポーター：あの巨体にはさぞ豊富な脂身が詰まっている事でしょう！ マグロ：ウィンカーなんてついてるわけねえだるぉ！？ホタルイカか！？ホタルイカを両脇に抱えろってか！？ マグロ：やかましいわ！ 車尾：渋滞でイラつくのは皆一緒だ。それでも礼儀正しく振舞うのが日本人の美徳なんじゃねえか？ 手稲：いや、相手はマグロですよ。振舞うというか振舞われる側だと思うんですけど、 リポーター：ああ！ご覧下さい！マグロから逃げる車と、渋滞で止まっている車の間で二次的な事故が多発しております！ リポーター：首都高は巨大マグロで大混乱です！ マグロ：ハザード焚（た）かないくらいでガタガタ抜かすな！シャリでも炊いとけ！！ 車尾：あのマグロには運転マナーってもんを教えてやらねえと。 手稲：そんなこと言ってもあのマグロ、トラックよりでかいんじゃないですか？ 手稲：あんな巨体、クレーンだって釣り上げるのは不可能ですよ。腰やっちゃいますよ？ 車尾：手稲、俺は誰だ？ 手稲：車尾（くずも）さんです。 車尾：その通り。箪笥（たんす）だろうがドラム洗濯機だろうが、何であろうが吊り上げる。 車尾：それが、”車尾さん、です” 手稲：へーそうですか。かっこいいっすね。 車尾：てかさ、寿司食いたくね？ 手稲：あ、いっすね。 手稲：もしもし。手稲です。酉島（とりしま）さん、ニュース観てます？ 手稲：ええ。マグロが…ええ、そうです。それじゃあ。 手稲：車尾（くずも）さん、おっけーでーす。 車尾：じゃ、運転よろしく。釣って来るわ。 手稲：相手は魚とはいえ巨大です。気をつけてください。 車尾：おう。 マグロ：ハアハア…そろそろ呼吸苦しくなってきた マグロ：高速入る前に肺呼吸になっとくべきだったわ…！ 車尾：じゃあお前は今、どうやって声出してんだよ？ マグロ：なんだ？トラックの天井に人間だと！？ リポーター：あーっと！ここで反対車線を爆走するのはグリズリー運送のトラックです！ リポーター：法定速度ギリギリまで上げて巨大マグロに追いついて来ましたッ！ 車尾：てめえを裁きに来たぜ。二つの意味でな。 マグロ：てめえまさか…フロンティア（板前）の差し金かッ！？ 車尾：フロンティアか…懐かしいな。しかし今の俺はただのトラックの運転手… 車尾：てめえは要冷蔵で各家庭行きだァッ！！ マグロ：いやだ！俺は家庭から離れたいんだ！遠くに行きたいんだああ！！ マグロ：燃えよ！俺の尾びれ！ マグロ：バーニング・スイング・テール（全力泳法）！ 車尾：バーニングだと！？まずい！ リポーター：巨大マグロがぐんぐんと加速していきます！ リポーター：１００、１２０…出た～！海の弾丸と呼ばれる由縁（ゆえん） リポーター：驚異のスピード！１６０km/hだ～！！ 手稲：車尾さん！諦めましょう！トラックで追いつくのはムリです！！ 車尾：馬鹿言ってんじゃねえ！ヤツが暴れきる前に仕留めねえと！ 手稲：別に今じゃなくたって、弱ってから確保すればいいじゃないですか！ 手稲：どうしてそんなに拘るんですか！ 車尾：うめえ寿司が、食いてえから。 手稲：…！？ 車尾：ぜってーに今仕留めねえといけない理由があんだよ。 手稲：わかりました…あとでちゃんと説明してくださいよ！？ 手稲：加速しますよ！ベタ踏みで！！ 車尾：ぐおおお！さすがに全速力は応えるぜ…！ 車尾：が、しかし…なんてラッキーなんだ！ 車尾：よかった！ここが首都高でよかった…！！ リポーター：巨大マグロは霞が関トンネルへ突入！上空からは見えなくなってしまいました…！ マグロ：なあ兄弟、俺はここまで来たぜ…！ マグロ：見せてやりたかったなあ…俺の鱗にゃあ、 マグロ：オレンジ色のナトリウムランプだって似合うってことをよ…！ マグロ：なあ、かっこいいだろ…？ マグロ：それにしても息苦しいな… マグロ：この街は、息苦しいぜ…！ リポーター：あ、出ました！トンネルを抜けた巨大マグロが、首都高の道路から飛び降ります！飛び降りた先は！！ 手稲：まさか！ 車尾：そう、皇居の外堀だ！！ マグロ：ぐあああ！これは淡水！？淡水はきつい！！ マグロ：おれはサーモンじゃねえっつうの！！ 車尾：トンネルを越えた先は辺り一面水だ。飛び込むと思ったぜ… 車尾：お堀という名の、完全閉鎖水域にな！！ マグロ：ぐあああ！海はおろか、川にも繋がっていないだとおお！？ 車尾：お疲れさん。生きたまま皇居を拝んだマグロはお前だけだぜ。 車尾：誇るといい。 マグロ：これで終わると思うなよ… マグロ：…ぐあ！いきなり何をッ！！ 車尾：悪いがこっちにも事情があってな。 車尾：お前が息絶える前に、お前を〆る。 マグロ：ピチピ…ピチピチ…。〈絶命〉 0： 車尾：ふう、おつかれちゃん。 手稲：お疲れ様です。 車尾：事後処理はどうなってる？ 手稲：すべて終わりましたよ。速度違反も特例として認めてくれるそうです。 手稲：会社の株も上々。万事うまくいきました。 車尾：午後の便は？ 手稲：午後便は車折（くるまざき）さんに代わってもらいましたよ。 車尾：やれやれまた借りが出来ちまったな。 手稲：それで、なんだったんです？ 車尾：何って？ 手稲：あの時に無茶した理由ですよ 車尾：ああ、それか。マグロってな、筋肉が温まるとたんぱく質が変性してパサパサした食感になるんだ。 車尾：これを漁業では「ヤケ」と呼ばれていて、最も嫌われるんだ。 車尾：どうせ食うなら、美味いもん食いたいじゃねえか。 手稲：ふ、ふふふ！ 車尾：何が可笑しいんだよ。 手稲：いや、やっぱり車尾さんは料理に関してはどうしようもなく一生懸命なんだなって！ 車尾：ばか、俺はトラック運転手としても一生懸命だぞ？ 車尾：なんてったって、「真面目が一番」！ 車尾：だからな！ リポーター：それ、グリズリー運送のキャッチコピーじゃないですよね。 車尾：うお、あんた誰だ！ 手稲：幸田（こうだ）さんお疲れ様です。 車尾：手稲、知り合いなの？ 手稲：幸田さんはメディア関係の仕事をしてて、今回の報道でもお世話になったんですよ。 リポーター：私もお寿司を頂きたくて。 車尾：そういうことなら任せてくれ！特上盛りを振舞ってやるぜ。 手稲：やったー！寿司だー！ リポーター：頂きます！！ 0： マグロ：ありがとう… 0： 車尾：お？ 手稲：どうかしました？ 車尾：いや、今、ネタから声が聞こえたような… 車尾：ま、なんでもねえ！好きなネタはあるか？ リポーター：私、大トロが食べたいです！ 手稲：鉄火巻きで！ 車尾：はいよ！ 0： 車尾：マグロ、こっちこそありがとうな。 車尾：ご馳走様。