台本概要
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タイトル | グレーハッカー〜痴漢被害証明事件〜 |
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作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
警視庁捜査一課から左遷され所轄へ配属されている黒岩は、 とある事件で知り合った交番勤務の鉄を尋ねる。 ちょうど鉄は、駅で起きた痴漢事件の被害者と容疑者を連れてきて・・。 真っ向から対立する被害者と容疑者の主張。 防犯カメラの映像から真相の解明に乗り出す。 透明連鎖で登場した天才ハッカー倉賀野アイミとの出会いの物語。 事件シリーズとして数本書いています。この作品だけでも楽しんでいただけるよう作っているはずですので どうぞご利用下さい。 シリーズに興味を持たれた方がいましたらリリース順は異なりますが、現段階の時系列は下記です。 時系列が前後することでキャラクターの年齢が怪しくなってきました・・。 1グレーハッカー〜痴漢被害証明事件〜 2黒いインク〜連続親殺し事件〜 3幸せの青いバラ〜連続薬物事件〜 4朱色の盃〜跡取り誘拐事件〜 5ダークレッドの婚姻〜許嫁ひき逃げ事件〜 6灰になった偶像〜教団腐敗事件〜 7透明連鎖〜闇自殺サイト事件〜 ご利用の際、報告は不要ですが、作者名、作品タイトルは枠タイトルなどに明記してください。 作者…大輝宇宙 その他ご利用に関する詳細は、Xの固定コメントを必ずご確認のうえ、規約をお守り下さい。 353 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
鉄 | 男 | 64 | 丸橋鉄(まるはしてつ)。年齢は20代後半を想定。交番勤務のお巡りさん。正義感がつよく、やさしい。爽やかだが熱血 |
黒岩 | 男 | 63 | 黒岩仁(くろいわじん)年齢は30代後半〜40代半ばを想定。もとは警視庁捜査一課係長だったが、現在所轄に左遷されている。男気があり気前がいい。 |
アイミ | 女 | 100 | 倉賀野アイミ(くらかのあいみ)年齢は10代半ばを想定。今回の痴漢事件の被害者。小生意気なツンデレ。ピンクの髪の毛、ミニスカート、ピアスバチバチの天才ハッカー。 |
須田 | 男 | 61 | 須田章生(すだあきお)年齢は20代後半〜40代を想定。今回の痴漢事件の容疑者。オドオドしていて落ち着きがない。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:鉄の勤務する駅前交番に、刑事の黒岩が訪ねてくる。
黒岩:よぉ!・・あ?何だ、出かけるのか?
鉄:ああ、黒岩さん!すみません、駅で痴漢を確保したってことで今から引き取りに行くんです。
黒岩:ほぉん。たっぷり灸据えてやらねえとな。
鉄:はい。ただ、係長が別件で外してて・・。
黒岩:すぐ終わるんだろ?俺がとりあえずここに残ってるから、お前、引き取ってこい。
鉄:ありがとうございます!行ってきます。
0:交番に戻ってきた鉄、容疑者、そして
黒岩:なぁ、嬢ちゃん?
アイミ:・・・。
黒岩:あのな、嬢ちゃん。普通痴漢にあった被害者は、容疑者とは別室で話を聞くことになってんだ。
アイミ:気にしない。
鉄:でも、君の住所や名前なんかもこれから聞くから、それをこの人・・痴漢に知られたくはないでしょう?
須田:・・・。
アイミ:個人的なことは、今は答えない。「嬢ちゃん」なんて呼び方も不快だけど、便宜上仕方ないから受け入れてる。
黒岩:おお・・。
アイミ:まだ成人してないってことは言っておく。つまり、このオドオドした男は、未成年に性犯罪を働いたってこと。
鉄:う、うん・・。
須田:僕は・・やってない。
アイミ:あ?あんた、たしかに私のお尻触ったでしょう?現行犯なのよ、諦めなさい。
須田:やってない・・です。
アイミ:たしかに触られました!
須田:え、冤罪だ!僕は弁護士を呼ぶ!それまで僕も個人的なことを言う気はない!
鉄:ちょっと・・落ち着いてください!
アイミ:弁護士ですって?上等よ!あんたが法廷に出るんなら、私は弁護士なんて立てないわ!自己弁護で絶対にあんたを有罪にしてやる。
須田:なっ・・大体、証拠はないんだよ!
アイミ:・・!私が触られたって言ってるんだからそれが証拠よ!あんた知らないの?痴漢はほとんど被害者の証言が優位になるの!痴漢で取り押さえられたら90パーセント以上の確率で有罪確定よ!
須田:じゃあ君が、僕を陥れようとして・・やっているかもしれないじゃない・・か。
アイミ:そんなことして、私にどんな得があるってゆうのよ。バッカじゃないの?
須田:それに、痴漢するなら・・君みたいな奇抜な子じゃなくて、もっと大人しくて可愛い子にするよ・・。
アイミ:きっも!サイテー。
黒岩:やめねぇか、二人とも。ったく・・鉄、何で二人一緒に引き取ってきた。少なくとも嬢ちゃ・・被害者の方は鉄道警察に話を聞かせても良かっただろうが。
鉄:すみません・・この子が、一緒に来るって聞かないもので・・。
アイミ:駄々をこねたみたいに言わないで。
鉄:ほぼ同じようなもんだったよ。
アイミ:ふんっ
黒岩:まぁいい。俺は容疑者からここで話を聞くからよ。お前はその子連れて、奥で聴取しろ。
鉄:あ、ありがとうございます!
黒岩:タイミング悪ぃ時に来ちまったぜ。
0:鉄とアイミ。交番奥、当直室。
鉄:ごめんね。ここくらいしかなくて。座って。
アイミ:はぁ・・
鉄:ええと、じゃあ名前や高校を教えてくれる?
アイミ:倉賀野(くらかの)アイミ。私立プロアチーブ学院、情報科。
鉄:へぇ・・プロアチーブか。賢いんだね。今日は平日だけど、学校は?
アイミ:行ってない。試験だけ受ければいいの。
鉄:えっ?
アイミ:私は、もうあそこで学ぶことはない。
鉄:ええと・・?
アイミ:今は皆、私が作ったプログラムを搭載したPCで勉強してる。
鉄:ごめん、俺全然話についていけてないや。
アイミ:つまり、学校で使うパソコンの中身を私が作ったってこと。
鉄:おお。
アイミ:そのくらい優秀だから、試験だけ受けて点数に問題なければ卒業は約束されてる。
鉄:すごい・・な。
アイミ:・・!やけに素直に受け取るのね。
鉄:そうかな?
アイミ:話しにくい。
鉄:ははっ、それは悪かった。
アイミ:別に。
鉄:ごめん、この交番には婦人警官がいないんだ。だから、話を聞くのはこんな野郎だけど・・。
アイミ:構わないわ。私はキモオタに触られたショックよりもアイツに制裁を加えてやりたい気持ちでいっぱいだから。
鉄:気持ち悪かったことを思い出させて悪いけど・・。
アイミ:さっさと始めてちょうだい。
0:黒岩と須田
黒岩:あんた、本当に弁護士呼ぶのか?
須田:その方がいいなら、そうしたいです。
黒岩:俺にはどっちがいいかっつーことは、分かんねぇが・・。警察としてはやりづれぇとは思う。
須田:僕の一生がかかってる重要な問題です。冤罪なんて困りますから。僕は、あんなピンクの髪の・・派手なギャルみたいな子、触りたくないです!
黒岩:てめぇの好みなんざ、どうでもいいんだよ。
須田:冤罪だ・・。
黒岩:悪ぃな、あんちゃん。名前、住所、職業なんかを教えてくれや。
須田:須田章生(すだあきお)・・。千代田区在住の・・会社員です。免許証があります・・(免許証を出す)
黒岩:会社はどこにある?
須田:新宿です。
黒岩:・・ふん。
須田:かっ・・会社に連絡したりしませんよね!?大丈夫ですよね!?やってもいないことで、会社での立場を失ったりしたら・・僕は・・。
黒岩:まぁ、今すぐにはとりあえずしねぇよ。
須田:僕は、課長に昇級したばかりで・・べっ・・弁護士を呼ばないと!
黒岩:落ち着け。
0:派出所入口側に戻ってくる鉄とアイミ。
鉄:黒岩さん、こっちの事情聴取は終わりました。
アイミ:そっちは?犯行を自供した?
黒岩:バカ言うな。たとえしてても、嬢ちゃんには言えねぇよ。鉄、こっち終わるまで嬢ちゃんは当直室にいてもらえ。話がややこしくなるからな。
鉄:あ、はい。
アイミ:早く自供しなさいよ!キモオタ!どうせすぐに分かることなんだから!!
鉄:こら、君。やめるんだ!
アイミ:何よ!私は未成年で被害者よ!?
須田:証拠が・・ないんだ。それが僕を証明してくれる・・。無実だ。事実無根だ・・!
アイミ:証拠証拠ってうるさいわね!カメラでもあったらバッチリ映ってるに決まってるわ!!
須田:カメラ・・
アイミ:絶対に触られたんだから!
須田:け、刑事さん・・お巡りさん・・今日僕たちが乗っていた電車の防犯カメラって見て貰えないんでしょうか。
黒岩:桜都線(おうとせん)のか?
須田:はい・・桜都線、9時2分下北沢(しもきたざわ)発・・僕等がいたのは3両目です。
アイミ:あんた鉄オタだったの?てっきり美少女フィギュアとかのオタクかと思ったわ。
須田:ど、どっちでもないですよ・・オタクオタク言わないで下さい。
アイミ:ふんっ
鉄:黒岩さん、桜都電鉄に問い合わせてみます。
アイミ:カメラを提案するなんて随分と自信があるのね。
須田:や、やってない自信があるんだ。
アイミ:何それ。さっきっから嘘ばっかり。
黒岩:やめねぇか。ま、防犯カメラが観られるんなら、状況も、ちったぁ分かるだろうよ。うっかり触れちまったとか、わざとだとかよ。
0:
鉄:今、データ送ってくれるそうです。
黒岩:あん?仕事が早いな。
鉄:防犯カメラの会社がすぐに動いてくれたとかで。
アイミ:どこ?
鉄:え?ハナゾノカメラって言ったっけな。
アイミ:ふーん。防犯カメラとしては大手のところね。
黒岩:詳しいんだな、嬢ちゃん。
アイミ:まぁね。まぁ、ハナゾノカメラは昔から製造業が主体のカメラ会社で、防犯カメラの保存システム、共有システムにはまだまだ穴があるって言われてるわ。
黒岩:ほぉん。
須田:ここで一緒に見られるんでしょうか?
黒岩:まずは俺たちがチェックしてからだな。防犯カメラっつーのには、お前らとは関係ない一般人が沢山映ってるもんだからよ。
須田:そ、そうですよね・・。
0:数日後
須田:き、今日は一体何の話でまた警察署なんかに呼ばれたんですか?しかも、この間の子も一緒なんて・・。
アイミ:とうとうカメラから証拠が出たってところでしょ?
鉄:カメラを我々が確認した結果を、おふたりに伝えようと思いまして。
黒岩:結論から言うと、カメラには、痴漢の証拠は映ってなかったんだ。
アイミ:え?
須田:ほっ・・ほっ・・ほらみろ!!被害届を今すぐ取下げろよ!
アイミ:そんなわけない!わたし確かに触られたもん!コイツに!間違いないのよ!?
鉄:くら・・いや、君の言い分を疑っている訳じゃないんだけど・・。
アイミ:死角になってるとか、そういうことじゃないの!?
黒岩:いや、こいつの手元はしっかり映ってた。
アイミ:そんな・・。
鉄:君はきっと納得しないと思ったから、他の乗客を加工処理して、今日は防犯カメラの映像を見てもらおうと思う。
アイミ:被害届を取り下げさせたいってこと?
鉄:違う。・・でも、このまま裁判に持っていったとしても、この映像を「冤罪の証拠」として使われてしまったら
アイミ:私は勝てないってことね。
鉄:・・うん。かなり難しくなると思う。
アイミ:なるほど。
黒岩:ま、この映像についてはちょいと気になることもあってな。まぁ、みんなで見ようや。
須田:・・・はい。
アイミ:いいわ。流して。
0:映像が流れる
黒岩:下北沢(しもきたざわ)を出て、渋谷まで一本。ここから停車駅はねぇ。
鉄:映像からも分かるけど、朝9時を過ぎているとはいえ、まだまだ大学生や通勤中の会社員で車内はごった返している・・。
鉄:ドア付近に立って、ドアの窓越しに外側を向いている、ピンクの髪の子が君。
アイミ:そうね。
黒岩:そのすぐ後ろ、斜め後ろに陣取ってポケットからスマホを取り出したのがお前だ。
須田:そうです。
鉄:被害者の顔はこの角度からは俯きがちで判別がつかないけれど、当日の服装、髪の色からも君だということは立証される。
アイミ:ええ。私も、間違いないって言えるわ。
黒岩:容疑者、おめぇさんは顔が何回か映る。
須田:え?ああ・・じゃあ証拠になるってことですね。
黒岩:まぁな。おめぇだって分かるからな。見てろ、この後カメラの方を見上げる。
須田:あっ!ほ、本当だ!・・良かった。これで僕がやってないと分かってもらえる・・。
鉄:・・このまま電車は地下に入っていきます。外の風景が暗くなって・・地下へ。
アイミ:・・駅にもう着くかっていうタイミングで触られたのよ。もうそろそろだわ。・・あんた、またカメラ目線・・ほんっとキモイ!
須田:う、うるさい!たまたまだ!
黒岩:やめろ!そろそろ渋谷駅だ。
0:映像の中でアイミが突然振り返り騒ぎ立てる。
アイミ:・・え?
須田:ほらみろ!僕は、スマートフォンを触ってた!しかも両手で握るようにだ!見えてただろう!?君はそんな僕をいきなり痴漢呼ばわりしたんだ!
アイミ:そんなわけ・・
鉄:この映像を見ると、確かに君が突然振り返って男性に声を上げているように見えるんだ。
アイミ:もう1回!地下に入ったあたりから見せて!
須田:何度見たって同じだよ。
アイミ:何か何か見落としてることがあるはず・・。
黒岩:・・(考えるため息)
0:鉄、映像を戻す
アイミ:もう1回
鉄:うん
アイミ:もう1回
鉄:うん
アイミ:もう1回
須田:いい加減にしてくれよ!何度見たって同じだ!
アイミ:もう1回
0:映像を見る一同
アイミ:もう1回
0:映像が流れる
アイミ:もう1回
須田:刑事さん!もうこの子を止めてください!こんなに動かない証拠があるんです。被害届を取り下げて終わりでしょう?
アイミ:この映像・・なんか変。
須田:はぁ!?まだ言いがかりをつけるのか君は。
アイミ:まるで、観られちゃ困るところだけ切り取って、他の部分を引き伸ばしたみたい・・・。
須田:何を言ってる。誰が!何のために?
黒岩:その違和感は、俺達も感じたんだ。妙に動きが鈍いというか、単調なところがあるんでな。
鉄:しかし、音声がなく、外の風景も地下に入ったあとだから分かりにくい。あとこれは、ハナゾノカメラから送ってもらったデータで、そこだけ加工するのは容疑者には無理だという結論に至った。
アイミ:クラッキングされてる・・。
黒岩:あ?クラッ・・なんだ?
アイミ:このデータ、ハナゾノカメラから送られる前に改ざんされてるとしたら?
鉄:え?
須田:な、何を言ってる
0:自分のバッグからパソコンを取り出すアイミ。キーボードを叩き始める。
黒岩:なにが始まったんだ?
アイミ:ハナゾノカメラのメインコンピュータをハッキングしてる。
鉄:ハッキング?
アイミ:そう。きっとこのデータはコイツの都合のいいように改ざんされてる。だから、元データを復元する。
須田:ハッキング?復元?そんなこと、君にできるわけがない。
アイミ:キモオタクラッカーは黙ってて。
0:もくもくとパソコンに向かうアイミ
アイミ:桜都線(おうとせん)・・ああ、車両が分かんないか・・全部出しちゃえ。
鉄:うわ。何分割もされて・・
黒岩:おいおい、何者(なにもん)だ?嬢ちゃん。
アイミ:見つけた・・!
須田:馬鹿なことを・・。
アイミ:やっぱり・・人の手が加わってる。クラッカーの端末、特定したわ。
須田:何だって?
アイミ:スマホね。なるほど。
鉄:スマホからこのシステムに侵入したってことか?
アイミ:そうよ、こいつが。ふーん・・須田章生(すだあきお)って言うんだ。端末情報から契約者割り出すくらい簡単なのよ!
須田:ひぃっ!?
アイミ:これが、元のデータよ。確認してちょうだい(パソコン画面をみんなへ向かって回す)
鉄:・・・。
黒岩:・・・。
黒岩:触ったな。バッチリ映ってやがる。
鉄:ハッキングに、クラッキング・・。
アイミ:凡人のお巡りさんにはついていけない話よね。この男は、クラッカー・・。企業なんかのネットワークに侵入してそのシステムを破壊する技術を持ってるわ。
黒岩:てめぇ、最初からこの映像を自分の無罪を主張する為の材料に使うつもりで改ざんしたんだな?
須田:な、なんの事だか。僕は普通の会社員です・・この子のいいがかりです・・。
アイミ:はぁ!?
黒岩:俺はよ、ハッキングだとか難しいことは分からねぇから、別のとこから質問してぇんだが
黒岩:おめぇあの日、何で桜都線(おうとせん)に乗ってた?
須田:つ、通勤の為ですよ?
黒岩:ははっ。詰めが甘ぇなぁ。
須田:ど、どういう意味だ
黒岩:おめぇの自宅は千代田区、会社は新宿だ。だが、桜都線はそのどっちも通らねぇよ。
須田:あ・・
鉄:あなたの会社に問い合わせたところ、あなたはあの日、午後の出勤の申請を出していましたね。
須田:そ、そうです!買い物・・しようと渋谷へ向かっていたんでした。
黒岩:ほぉ。
鉄:もう1つ、俺も気になってることがあります。
須田:やめてくださいよ、刑事さん達まで僕を・・。
鉄:あなたは、電車内の防犯カメラの位置を知っていたんじゃありませんか?
須田:え?
鉄:やたらにカメラの方を見るので不思議に思っていたんです。でも、彼女のおかげで腑に落ちました。あなたは手元のスマホで削除する映像を確認しながら、自分が痴漢をやってない証拠にするためにカメラとの距離や角度を何度も確認していたんだって。
須田:そ、想像でしょう?
黒岩:お前、痴漢の物色のために通勤に使わない桜都線(おうとせん)に乗ってたんじゃねぇか?
須田:や、やめてくださいよ!ぼ、僕はやってない・・冤罪だ!元データ?それこそ、この子が・・
アイミ:やっぱりね。
須田:な、なんだ。
アイミ:私もそうだから分かるんだけど、クラッカーとかハッカーって自分がやりましたって証をデータのどこかに残したがるもんなのよ。
須田:うっ・・!
アイミ:あんたの特殊なサインを追ってみたら、ハナゾノカメラで数十件以上防犯カメラを改ざんした跡が見つかった。
鉄:つまり、数十件の痴漢の余罪が?
アイミ:ま、そういうことなんじゃない?こないだも言ったけど、ハナゾノカメラのデータ保管についてはまだまだ穴がある。これだけの技術があればハッキングやクラッキングは楽勝だったでしょうね。
須田:くっ・・
黒岩:おめぇは、システムに「穴」のある防犯カメラを使ってる電車を狙ったんだろ。実際お前が通勤に使ってる菊花電鉄(きっかでんてつ)は、アイミーテックつー企業のシステムだった。
鉄:状況は、お前にかなり不利だ。言い逃れはもうよせ。
須田:・・・アイミーテックには侵入できませんよ。あのシステムをハッキングするのは、至難の業です。
アイミ:・・・。
須田:なんなんだよ、お前・・。
アイミ:は?
須田:俺のクラッキングの跡付けるとか、なんだよ!お前こそキモオタだろうが!
アイミ:あんたのクラッキングくらい!すぐ見つけられるわよ!ご丁寧にサインまでしてまわって・・。でも勿体ないわ。
須田:なんだと?
アイミ:そこそこの技術があるってのに・・こんなくだらないことを繰り返すために使ったなんて。ほんっとバカ。
須田:ははっ。あーあ、こんな生意気な女、触らずに、いつも通り大人しそうな子狙えばよかった・・。
黒岩:てめぇ
須田:お前が、そんな短いスカート穿いて目の前に立ってるからいけないんだよ。
アイミ:なっ・・!
須田:触られても文句言えないよ、ハッキングは僕より上かもしれないけど、考えが足りない。もっと自衛しなきゃ、馬鹿だなぁ。
アイミ:・・・!
鉄:ふざけるな・・バカはお前だ!・・スカートが短いとか目の前に立ってたとか・・「だから触っていい」には絶対にならない!いいか、お前が痴漢行為をしたのは、お前がすると決めてやったことだ。お前が自分の欲望を抑えきれずに、相手の気持ちを考えず勝手にやったことだ!・・そのことに、被害者に落ち度は1ミリだってない。
須田:・・・(返す言葉がない)
アイミ:・・・!(一瞬胸が詰まって泣きそうになる)
黒岩:おめぇは、犯罪を隠蔽しようとしたうえに、自分を正当化しすぎだ。余罪もかなりあるようだし、覚悟しろよ?全部、立件してやっからな。
須田:クソ・・・ついてない。なんで・・僕が・・クソ・・!
0:
0:数ヶ月後、鉄の実家のお好み焼き屋。
黒岩:須田の事件、二人ともありがとうな!
鉄:いえ、交番勤務の俺が黒岩さんのお手伝いができるなんて・・本当に貴重な体験でした!
黒岩:いやぁ。痴漢の捜査なんて、俺もめったにねぇ事だったからな。所轄は色々させてもらえてありがてぇぜ。
黒岩:今日は俺の奢りだからよ!二人とも好きなだけ食ってくれよ!
アイミ:何が、全部立件してやるよ・・!結局私が防犯カメラのクラッキング全部調べたんじゃない!ほんっと人遣い荒すぎ・・。
黒岩:ありがとなぁ!
アイミ:はぁ!?・・ふんっ。まぁいいわよ。アイツには物凄く腹が立ってたわけだし。
黒岩:乗り掛かった船って言うんだぞ。
アイミ:なにそれ。
鉄:すごい技術を持ってたんだね、倉鹿野(くらかの)さん。
アイミ:まぁね。でも世界には私なんかよりすごいハッカーは五万といるから。
黒岩:分かんねぇ世界だぜ。
鉄:(お好み焼きを受け取って)はい、黒岩スペシャル!
アイミ:何よそれ
鉄:黒岩さんが好んで食べてるミックスだよ。豚玉ベースの明太、チーズミックスのネギ増しの、餅増し増し。
アイミ:ほぼ餅?
黒岩:んなことねぇよ。それにマヨネーズかけて食ってみろ。うめぇぞ。
アイミ:ふぅん。(食べる)・・うま。
黒岩:だろう?ここは、鉄の実家だ。美味くて安い!好きなもん注文しろよ!
鉄:オリジナルのミックスも作るから言ってくれよ。
黒岩:そういや、ハナゾノカメラ、システムを刷新(さっしん)してデータのセキュリティ強化をしたんだとよ。
鉄:へぇー、まぁ、せっかくの防犯カメラが犯罪に利用されるなんて意味がないですしね。でも、そのシステムは大丈夫なんでしょうか。
アイミ:大丈夫に決まってる。
黒岩:あ?なんでおめぇが言い切れるんだ。
アイミ:だって、そのシステム、私が組んだから。
鉄:君が?!
アイミ:そうよ。今回あの須田って男の余罪を立件するためにハナゾノカメラのシステムにどうしても顔認証識別システムを入れたかったの。
黒岩:顔・・?識別??
アイミ:ひとつひとつ動画を確認してたんじゃ、私オバサンになっちゃうもの。全データから須田の顔が映ってるものだけをピックアップしたかったの。クラッキングの形跡探しと同時にね。
鉄:なるほど。
アイミ:そのついでにセキュリティ強化もしといたってわけ。
黒岩:なんだその顔何とかシステム・・それがありゃ何人もの捜査員が徹夜せずに済むぞ。
アイミ:実用化まではあと少しってとこね。出来上がったら格安で警視庁に売ってあげるわ。
鉄:ちゃっかりしてるなぁ
黒岩:お前、ほんとに一体何者だ。
アイミ:私は、菊花鉄道(きっかてつどう)の防犯カメラシステムを請け負っているアイミーテックの社長の娘。趣味でハッキングもするただの女の子よ。
黒岩:ハッキングが趣味なんて、ただの女じゃねぇよ。
アイミ:じゃ、お腹もいっぱいになったし、私はそろそろ行くわね。(立ち上がる)
黒岩:頼むから、おめぇを逮捕しなきゃならんようなことはするなよ。
アイミ:くふっ。どうかしら?じゃあね、黒岩、鉄。
0:
0:
鉄:正義のためにハッキングをするハッカーを、ホワイトハッカーというそうですが、あの笑顔は結構悪いこともしてそうですね(苦笑)
黒岩:どうだかなぁ
鉄:さしずめグレーハッカーって感じでしょうか。
黒岩:灰色なんてあの嬢ちゃんには似合わねぇよ。ありゃもっと鮮やかな、ピンクハッカーだ。
0:
0:
0:おしまい
0:鉄の勤務する駅前交番に、刑事の黒岩が訪ねてくる。
黒岩:よぉ!・・あ?何だ、出かけるのか?
鉄:ああ、黒岩さん!すみません、駅で痴漢を確保したってことで今から引き取りに行くんです。
黒岩:ほぉん。たっぷり灸据えてやらねえとな。
鉄:はい。ただ、係長が別件で外してて・・。
黒岩:すぐ終わるんだろ?俺がとりあえずここに残ってるから、お前、引き取ってこい。
鉄:ありがとうございます!行ってきます。
0:交番に戻ってきた鉄、容疑者、そして
黒岩:なぁ、嬢ちゃん?
アイミ:・・・。
黒岩:あのな、嬢ちゃん。普通痴漢にあった被害者は、容疑者とは別室で話を聞くことになってんだ。
アイミ:気にしない。
鉄:でも、君の住所や名前なんかもこれから聞くから、それをこの人・・痴漢に知られたくはないでしょう?
須田:・・・。
アイミ:個人的なことは、今は答えない。「嬢ちゃん」なんて呼び方も不快だけど、便宜上仕方ないから受け入れてる。
黒岩:おお・・。
アイミ:まだ成人してないってことは言っておく。つまり、このオドオドした男は、未成年に性犯罪を働いたってこと。
鉄:う、うん・・。
須田:僕は・・やってない。
アイミ:あ?あんた、たしかに私のお尻触ったでしょう?現行犯なのよ、諦めなさい。
須田:やってない・・です。
アイミ:たしかに触られました!
須田:え、冤罪だ!僕は弁護士を呼ぶ!それまで僕も個人的なことを言う気はない!
鉄:ちょっと・・落ち着いてください!
アイミ:弁護士ですって?上等よ!あんたが法廷に出るんなら、私は弁護士なんて立てないわ!自己弁護で絶対にあんたを有罪にしてやる。
須田:なっ・・大体、証拠はないんだよ!
アイミ:・・!私が触られたって言ってるんだからそれが証拠よ!あんた知らないの?痴漢はほとんど被害者の証言が優位になるの!痴漢で取り押さえられたら90パーセント以上の確率で有罪確定よ!
須田:じゃあ君が、僕を陥れようとして・・やっているかもしれないじゃない・・か。
アイミ:そんなことして、私にどんな得があるってゆうのよ。バッカじゃないの?
須田:それに、痴漢するなら・・君みたいな奇抜な子じゃなくて、もっと大人しくて可愛い子にするよ・・。
アイミ:きっも!サイテー。
黒岩:やめねぇか、二人とも。ったく・・鉄、何で二人一緒に引き取ってきた。少なくとも嬢ちゃ・・被害者の方は鉄道警察に話を聞かせても良かっただろうが。
鉄:すみません・・この子が、一緒に来るって聞かないもので・・。
アイミ:駄々をこねたみたいに言わないで。
鉄:ほぼ同じようなもんだったよ。
アイミ:ふんっ
黒岩:まぁいい。俺は容疑者からここで話を聞くからよ。お前はその子連れて、奥で聴取しろ。
鉄:あ、ありがとうございます!
黒岩:タイミング悪ぃ時に来ちまったぜ。
0:鉄とアイミ。交番奥、当直室。
鉄:ごめんね。ここくらいしかなくて。座って。
アイミ:はぁ・・
鉄:ええと、じゃあ名前や高校を教えてくれる?
アイミ:倉賀野(くらかの)アイミ。私立プロアチーブ学院、情報科。
鉄:へぇ・・プロアチーブか。賢いんだね。今日は平日だけど、学校は?
アイミ:行ってない。試験だけ受ければいいの。
鉄:えっ?
アイミ:私は、もうあそこで学ぶことはない。
鉄:ええと・・?
アイミ:今は皆、私が作ったプログラムを搭載したPCで勉強してる。
鉄:ごめん、俺全然話についていけてないや。
アイミ:つまり、学校で使うパソコンの中身を私が作ったってこと。
鉄:おお。
アイミ:そのくらい優秀だから、試験だけ受けて点数に問題なければ卒業は約束されてる。
鉄:すごい・・な。
アイミ:・・!やけに素直に受け取るのね。
鉄:そうかな?
アイミ:話しにくい。
鉄:ははっ、それは悪かった。
アイミ:別に。
鉄:ごめん、この交番には婦人警官がいないんだ。だから、話を聞くのはこんな野郎だけど・・。
アイミ:構わないわ。私はキモオタに触られたショックよりもアイツに制裁を加えてやりたい気持ちでいっぱいだから。
鉄:気持ち悪かったことを思い出させて悪いけど・・。
アイミ:さっさと始めてちょうだい。
0:黒岩と須田
黒岩:あんた、本当に弁護士呼ぶのか?
須田:その方がいいなら、そうしたいです。
黒岩:俺にはどっちがいいかっつーことは、分かんねぇが・・。警察としてはやりづれぇとは思う。
須田:僕の一生がかかってる重要な問題です。冤罪なんて困りますから。僕は、あんなピンクの髪の・・派手なギャルみたいな子、触りたくないです!
黒岩:てめぇの好みなんざ、どうでもいいんだよ。
須田:冤罪だ・・。
黒岩:悪ぃな、あんちゃん。名前、住所、職業なんかを教えてくれや。
須田:須田章生(すだあきお)・・。千代田区在住の・・会社員です。免許証があります・・(免許証を出す)
黒岩:会社はどこにある?
須田:新宿です。
黒岩:・・ふん。
須田:かっ・・会社に連絡したりしませんよね!?大丈夫ですよね!?やってもいないことで、会社での立場を失ったりしたら・・僕は・・。
黒岩:まぁ、今すぐにはとりあえずしねぇよ。
須田:僕は、課長に昇級したばかりで・・べっ・・弁護士を呼ばないと!
黒岩:落ち着け。
0:派出所入口側に戻ってくる鉄とアイミ。
鉄:黒岩さん、こっちの事情聴取は終わりました。
アイミ:そっちは?犯行を自供した?
黒岩:バカ言うな。たとえしてても、嬢ちゃんには言えねぇよ。鉄、こっち終わるまで嬢ちゃんは当直室にいてもらえ。話がややこしくなるからな。
鉄:あ、はい。
アイミ:早く自供しなさいよ!キモオタ!どうせすぐに分かることなんだから!!
鉄:こら、君。やめるんだ!
アイミ:何よ!私は未成年で被害者よ!?
須田:証拠が・・ないんだ。それが僕を証明してくれる・・。無実だ。事実無根だ・・!
アイミ:証拠証拠ってうるさいわね!カメラでもあったらバッチリ映ってるに決まってるわ!!
須田:カメラ・・
アイミ:絶対に触られたんだから!
須田:け、刑事さん・・お巡りさん・・今日僕たちが乗っていた電車の防犯カメラって見て貰えないんでしょうか。
黒岩:桜都線(おうとせん)のか?
須田:はい・・桜都線、9時2分下北沢(しもきたざわ)発・・僕等がいたのは3両目です。
アイミ:あんた鉄オタだったの?てっきり美少女フィギュアとかのオタクかと思ったわ。
須田:ど、どっちでもないですよ・・オタクオタク言わないで下さい。
アイミ:ふんっ
鉄:黒岩さん、桜都電鉄に問い合わせてみます。
アイミ:カメラを提案するなんて随分と自信があるのね。
須田:や、やってない自信があるんだ。
アイミ:何それ。さっきっから嘘ばっかり。
黒岩:やめねぇか。ま、防犯カメラが観られるんなら、状況も、ちったぁ分かるだろうよ。うっかり触れちまったとか、わざとだとかよ。
0:
鉄:今、データ送ってくれるそうです。
黒岩:あん?仕事が早いな。
鉄:防犯カメラの会社がすぐに動いてくれたとかで。
アイミ:どこ?
鉄:え?ハナゾノカメラって言ったっけな。
アイミ:ふーん。防犯カメラとしては大手のところね。
黒岩:詳しいんだな、嬢ちゃん。
アイミ:まぁね。まぁ、ハナゾノカメラは昔から製造業が主体のカメラ会社で、防犯カメラの保存システム、共有システムにはまだまだ穴があるって言われてるわ。
黒岩:ほぉん。
須田:ここで一緒に見られるんでしょうか?
黒岩:まずは俺たちがチェックしてからだな。防犯カメラっつーのには、お前らとは関係ない一般人が沢山映ってるもんだからよ。
須田:そ、そうですよね・・。
0:数日後
須田:き、今日は一体何の話でまた警察署なんかに呼ばれたんですか?しかも、この間の子も一緒なんて・・。
アイミ:とうとうカメラから証拠が出たってところでしょ?
鉄:カメラを我々が確認した結果を、おふたりに伝えようと思いまして。
黒岩:結論から言うと、カメラには、痴漢の証拠は映ってなかったんだ。
アイミ:え?
須田:ほっ・・ほっ・・ほらみろ!!被害届を今すぐ取下げろよ!
アイミ:そんなわけない!わたし確かに触られたもん!コイツに!間違いないのよ!?
鉄:くら・・いや、君の言い分を疑っている訳じゃないんだけど・・。
アイミ:死角になってるとか、そういうことじゃないの!?
黒岩:いや、こいつの手元はしっかり映ってた。
アイミ:そんな・・。
鉄:君はきっと納得しないと思ったから、他の乗客を加工処理して、今日は防犯カメラの映像を見てもらおうと思う。
アイミ:被害届を取り下げさせたいってこと?
鉄:違う。・・でも、このまま裁判に持っていったとしても、この映像を「冤罪の証拠」として使われてしまったら
アイミ:私は勝てないってことね。
鉄:・・うん。かなり難しくなると思う。
アイミ:なるほど。
黒岩:ま、この映像についてはちょいと気になることもあってな。まぁ、みんなで見ようや。
須田:・・・はい。
アイミ:いいわ。流して。
0:映像が流れる
黒岩:下北沢(しもきたざわ)を出て、渋谷まで一本。ここから停車駅はねぇ。
鉄:映像からも分かるけど、朝9時を過ぎているとはいえ、まだまだ大学生や通勤中の会社員で車内はごった返している・・。
鉄:ドア付近に立って、ドアの窓越しに外側を向いている、ピンクの髪の子が君。
アイミ:そうね。
黒岩:そのすぐ後ろ、斜め後ろに陣取ってポケットからスマホを取り出したのがお前だ。
須田:そうです。
鉄:被害者の顔はこの角度からは俯きがちで判別がつかないけれど、当日の服装、髪の色からも君だということは立証される。
アイミ:ええ。私も、間違いないって言えるわ。
黒岩:容疑者、おめぇさんは顔が何回か映る。
須田:え?ああ・・じゃあ証拠になるってことですね。
黒岩:まぁな。おめぇだって分かるからな。見てろ、この後カメラの方を見上げる。
須田:あっ!ほ、本当だ!・・良かった。これで僕がやってないと分かってもらえる・・。
鉄:・・このまま電車は地下に入っていきます。外の風景が暗くなって・・地下へ。
アイミ:・・駅にもう着くかっていうタイミングで触られたのよ。もうそろそろだわ。・・あんた、またカメラ目線・・ほんっとキモイ!
須田:う、うるさい!たまたまだ!
黒岩:やめろ!そろそろ渋谷駅だ。
0:映像の中でアイミが突然振り返り騒ぎ立てる。
アイミ:・・え?
須田:ほらみろ!僕は、スマートフォンを触ってた!しかも両手で握るようにだ!見えてただろう!?君はそんな僕をいきなり痴漢呼ばわりしたんだ!
アイミ:そんなわけ・・
鉄:この映像を見ると、確かに君が突然振り返って男性に声を上げているように見えるんだ。
アイミ:もう1回!地下に入ったあたりから見せて!
須田:何度見たって同じだよ。
アイミ:何か何か見落としてることがあるはず・・。
黒岩:・・(考えるため息)
0:鉄、映像を戻す
アイミ:もう1回
鉄:うん
アイミ:もう1回
鉄:うん
アイミ:もう1回
須田:いい加減にしてくれよ!何度見たって同じだ!
アイミ:もう1回
0:映像を見る一同
アイミ:もう1回
0:映像が流れる
アイミ:もう1回
須田:刑事さん!もうこの子を止めてください!こんなに動かない証拠があるんです。被害届を取り下げて終わりでしょう?
アイミ:この映像・・なんか変。
須田:はぁ!?まだ言いがかりをつけるのか君は。
アイミ:まるで、観られちゃ困るところだけ切り取って、他の部分を引き伸ばしたみたい・・・。
須田:何を言ってる。誰が!何のために?
黒岩:その違和感は、俺達も感じたんだ。妙に動きが鈍いというか、単調なところがあるんでな。
鉄:しかし、音声がなく、外の風景も地下に入ったあとだから分かりにくい。あとこれは、ハナゾノカメラから送ってもらったデータで、そこだけ加工するのは容疑者には無理だという結論に至った。
アイミ:クラッキングされてる・・。
黒岩:あ?クラッ・・なんだ?
アイミ:このデータ、ハナゾノカメラから送られる前に改ざんされてるとしたら?
鉄:え?
須田:な、何を言ってる
0:自分のバッグからパソコンを取り出すアイミ。キーボードを叩き始める。
黒岩:なにが始まったんだ?
アイミ:ハナゾノカメラのメインコンピュータをハッキングしてる。
鉄:ハッキング?
アイミ:そう。きっとこのデータはコイツの都合のいいように改ざんされてる。だから、元データを復元する。
須田:ハッキング?復元?そんなこと、君にできるわけがない。
アイミ:キモオタクラッカーは黙ってて。
0:もくもくとパソコンに向かうアイミ
アイミ:桜都線(おうとせん)・・ああ、車両が分かんないか・・全部出しちゃえ。
鉄:うわ。何分割もされて・・
黒岩:おいおい、何者(なにもん)だ?嬢ちゃん。
アイミ:見つけた・・!
須田:馬鹿なことを・・。
アイミ:やっぱり・・人の手が加わってる。クラッカーの端末、特定したわ。
須田:何だって?
アイミ:スマホね。なるほど。
鉄:スマホからこのシステムに侵入したってことか?
アイミ:そうよ、こいつが。ふーん・・須田章生(すだあきお)って言うんだ。端末情報から契約者割り出すくらい簡単なのよ!
須田:ひぃっ!?
アイミ:これが、元のデータよ。確認してちょうだい(パソコン画面をみんなへ向かって回す)
鉄:・・・。
黒岩:・・・。
黒岩:触ったな。バッチリ映ってやがる。
鉄:ハッキングに、クラッキング・・。
アイミ:凡人のお巡りさんにはついていけない話よね。この男は、クラッカー・・。企業なんかのネットワークに侵入してそのシステムを破壊する技術を持ってるわ。
黒岩:てめぇ、最初からこの映像を自分の無罪を主張する為の材料に使うつもりで改ざんしたんだな?
須田:な、なんの事だか。僕は普通の会社員です・・この子のいいがかりです・・。
アイミ:はぁ!?
黒岩:俺はよ、ハッキングだとか難しいことは分からねぇから、別のとこから質問してぇんだが
黒岩:おめぇあの日、何で桜都線(おうとせん)に乗ってた?
須田:つ、通勤の為ですよ?
黒岩:ははっ。詰めが甘ぇなぁ。
須田:ど、どういう意味だ
黒岩:おめぇの自宅は千代田区、会社は新宿だ。だが、桜都線はそのどっちも通らねぇよ。
須田:あ・・
鉄:あなたの会社に問い合わせたところ、あなたはあの日、午後の出勤の申請を出していましたね。
須田:そ、そうです!買い物・・しようと渋谷へ向かっていたんでした。
黒岩:ほぉ。
鉄:もう1つ、俺も気になってることがあります。
須田:やめてくださいよ、刑事さん達まで僕を・・。
鉄:あなたは、電車内の防犯カメラの位置を知っていたんじゃありませんか?
須田:え?
鉄:やたらにカメラの方を見るので不思議に思っていたんです。でも、彼女のおかげで腑に落ちました。あなたは手元のスマホで削除する映像を確認しながら、自分が痴漢をやってない証拠にするためにカメラとの距離や角度を何度も確認していたんだって。
須田:そ、想像でしょう?
黒岩:お前、痴漢の物色のために通勤に使わない桜都線(おうとせん)に乗ってたんじゃねぇか?
須田:や、やめてくださいよ!ぼ、僕はやってない・・冤罪だ!元データ?それこそ、この子が・・
アイミ:やっぱりね。
須田:な、なんだ。
アイミ:私もそうだから分かるんだけど、クラッカーとかハッカーって自分がやりましたって証をデータのどこかに残したがるもんなのよ。
須田:うっ・・!
アイミ:あんたの特殊なサインを追ってみたら、ハナゾノカメラで数十件以上防犯カメラを改ざんした跡が見つかった。
鉄:つまり、数十件の痴漢の余罪が?
アイミ:ま、そういうことなんじゃない?こないだも言ったけど、ハナゾノカメラのデータ保管についてはまだまだ穴がある。これだけの技術があればハッキングやクラッキングは楽勝だったでしょうね。
須田:くっ・・
黒岩:おめぇは、システムに「穴」のある防犯カメラを使ってる電車を狙ったんだろ。実際お前が通勤に使ってる菊花電鉄(きっかでんてつ)は、アイミーテックつー企業のシステムだった。
鉄:状況は、お前にかなり不利だ。言い逃れはもうよせ。
須田:・・・アイミーテックには侵入できませんよ。あのシステムをハッキングするのは、至難の業です。
アイミ:・・・。
須田:なんなんだよ、お前・・。
アイミ:は?
須田:俺のクラッキングの跡付けるとか、なんだよ!お前こそキモオタだろうが!
アイミ:あんたのクラッキングくらい!すぐ見つけられるわよ!ご丁寧にサインまでしてまわって・・。でも勿体ないわ。
須田:なんだと?
アイミ:そこそこの技術があるってのに・・こんなくだらないことを繰り返すために使ったなんて。ほんっとバカ。
須田:ははっ。あーあ、こんな生意気な女、触らずに、いつも通り大人しそうな子狙えばよかった・・。
黒岩:てめぇ
須田:お前が、そんな短いスカート穿いて目の前に立ってるからいけないんだよ。
アイミ:なっ・・!
須田:触られても文句言えないよ、ハッキングは僕より上かもしれないけど、考えが足りない。もっと自衛しなきゃ、馬鹿だなぁ。
アイミ:・・・!
鉄:ふざけるな・・バカはお前だ!・・スカートが短いとか目の前に立ってたとか・・「だから触っていい」には絶対にならない!いいか、お前が痴漢行為をしたのは、お前がすると決めてやったことだ。お前が自分の欲望を抑えきれずに、相手の気持ちを考えず勝手にやったことだ!・・そのことに、被害者に落ち度は1ミリだってない。
須田:・・・(返す言葉がない)
アイミ:・・・!(一瞬胸が詰まって泣きそうになる)
黒岩:おめぇは、犯罪を隠蔽しようとしたうえに、自分を正当化しすぎだ。余罪もかなりあるようだし、覚悟しろよ?全部、立件してやっからな。
須田:クソ・・・ついてない。なんで・・僕が・・クソ・・!
0:
0:数ヶ月後、鉄の実家のお好み焼き屋。
黒岩:須田の事件、二人ともありがとうな!
鉄:いえ、交番勤務の俺が黒岩さんのお手伝いができるなんて・・本当に貴重な体験でした!
黒岩:いやぁ。痴漢の捜査なんて、俺もめったにねぇ事だったからな。所轄は色々させてもらえてありがてぇぜ。
黒岩:今日は俺の奢りだからよ!二人とも好きなだけ食ってくれよ!
アイミ:何が、全部立件してやるよ・・!結局私が防犯カメラのクラッキング全部調べたんじゃない!ほんっと人遣い荒すぎ・・。
黒岩:ありがとなぁ!
アイミ:はぁ!?・・ふんっ。まぁいいわよ。アイツには物凄く腹が立ってたわけだし。
黒岩:乗り掛かった船って言うんだぞ。
アイミ:なにそれ。
鉄:すごい技術を持ってたんだね、倉鹿野(くらかの)さん。
アイミ:まぁね。でも世界には私なんかよりすごいハッカーは五万といるから。
黒岩:分かんねぇ世界だぜ。
鉄:(お好み焼きを受け取って)はい、黒岩スペシャル!
アイミ:何よそれ
鉄:黒岩さんが好んで食べてるミックスだよ。豚玉ベースの明太、チーズミックスのネギ増しの、餅増し増し。
アイミ:ほぼ餅?
黒岩:んなことねぇよ。それにマヨネーズかけて食ってみろ。うめぇぞ。
アイミ:ふぅん。(食べる)・・うま。
黒岩:だろう?ここは、鉄の実家だ。美味くて安い!好きなもん注文しろよ!
鉄:オリジナルのミックスも作るから言ってくれよ。
黒岩:そういや、ハナゾノカメラ、システムを刷新(さっしん)してデータのセキュリティ強化をしたんだとよ。
鉄:へぇー、まぁ、せっかくの防犯カメラが犯罪に利用されるなんて意味がないですしね。でも、そのシステムは大丈夫なんでしょうか。
アイミ:大丈夫に決まってる。
黒岩:あ?なんでおめぇが言い切れるんだ。
アイミ:だって、そのシステム、私が組んだから。
鉄:君が?!
アイミ:そうよ。今回あの須田って男の余罪を立件するためにハナゾノカメラのシステムにどうしても顔認証識別システムを入れたかったの。
黒岩:顔・・?識別??
アイミ:ひとつひとつ動画を確認してたんじゃ、私オバサンになっちゃうもの。全データから須田の顔が映ってるものだけをピックアップしたかったの。クラッキングの形跡探しと同時にね。
鉄:なるほど。
アイミ:そのついでにセキュリティ強化もしといたってわけ。
黒岩:なんだその顔何とかシステム・・それがありゃ何人もの捜査員が徹夜せずに済むぞ。
アイミ:実用化まではあと少しってとこね。出来上がったら格安で警視庁に売ってあげるわ。
鉄:ちゃっかりしてるなぁ
黒岩:お前、ほんとに一体何者だ。
アイミ:私は、菊花鉄道(きっかてつどう)の防犯カメラシステムを請け負っているアイミーテックの社長の娘。趣味でハッキングもするただの女の子よ。
黒岩:ハッキングが趣味なんて、ただの女じゃねぇよ。
アイミ:じゃ、お腹もいっぱいになったし、私はそろそろ行くわね。(立ち上がる)
黒岩:頼むから、おめぇを逮捕しなきゃならんようなことはするなよ。
アイミ:くふっ。どうかしら?じゃあね、黒岩、鉄。
0:
0:
鉄:正義のためにハッキングをするハッカーを、ホワイトハッカーというそうですが、あの笑顔は結構悪いこともしてそうですね(苦笑)
黒岩:どうだかなぁ
鉄:さしずめグレーハッカーって感じでしょうか。
黒岩:灰色なんてあの嬢ちゃんには似合わねぇよ。ありゃもっと鮮やかな、ピンクハッカーだ。
0:
0:
0:おしまい