台本概要

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タイトル 愛の礫(つぶて)
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 (あいのつぶて)

5分くらいの台本です。

朗読/「これを便宜上、愛と呼ぶことにする」

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。

地球儀の個人台本サイト:https://lit.link/tsukuenoueno

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 不問 1 読む人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
語り手:最近、物忘れが酷い気がするんです。 語り手: 語り手:大事じゃないことは、忘れても、まあ、いいか。 語り手:でも、大事なことは?どうなるでしょう。 語り手: 語り手:大事な筈なんです、すごく。確か。たぶん。 語り手:なのに、何故、あれ。 語り手: 語り手:「あ」、という間に忘れてる。 語り手: 語り手:これは単なる、所謂、つまり、 語り手:不安、という一括りで片付けて良いものなのでしょうか。 語り手: 語り手:寂しいからか、一人だからか、 語り手:独り、だからか。 語り手: 語り手:覚えていられないんです。 語り手:全部全部、大切だった筈なのに。 語り手: 語り手:段々と、意識を奪われていくのです。 語り手:あぁ、そうやって奪うのか 語り手:            私 語り手:             の 語り手:            語り手: 語り手: 語り手:思い出を思い出し、散歩する。 語り手:思い出の中を、ゆっくり歩いていく。 語り手:歩いていく、前へ。前へ。 語り手:前へ、いや。 語り手:前、とは言うが、 語り手:これは後ろへ、なのかもしれません。 語り手:後ろへ、後ろへ。 語り手:思い出を反芻するのは、過去に縋っているだけなのだと……だけなのだと。 語り手: 語り手:はた、とそれに思い至り、 語り手:足を止めたのです。 語り手: 語り手:「愛のつぶて」という文字を見かけました。 語り手:はて、これは何でしょう。 語り手:はりつけみたいな字だ、と私は思いました。 語り手: 語り手:頭の中で、誰かの声がします。 語り手: 語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手: 語り手:私のため?本当に? 語り手: 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手: 語り手:やめてください!……やめて、もうやめてください。お願いします。やめてください。 語り手: 語り手:愛のあるはずのそれらの言葉は、 語り手:まるで小石を投げられた仔犬のように、 語り手:私に痣を増やし、増やし、増やし、 語り手:増えて増えて増 語り手:       え 語り手:      て 語り手:     ? 語り手: 語り手:あぁ。 語り手: 語り手:いつの間にか、 語り手:目の前に痣だらけの、 語り手:子供の頃の、私。 語り手: 語り手:私のために、と投げられた小石なら。 語り手: 語り手:私はこれを便宜上、 語り手:  愛のつぶて、と呼ぶことに致しましょう。 語り手: 語り手:愛のつぶてとやらに殴られて、黒い胃液がのぼります。 語り手:心臓の音が、左胸からどんどん離れて、 語り手:頭の中でガンガン響くのは。……何故? 語り手: 語り手:他人事のように、響き、遠く。 語り手:ぼやけた景色の向こうで、だれかが、 語り手:  語り手:わたし、が? 語り手:  語り手:私が、私、が。 語り手:  語り手:忘れないで、忘れないで、と。 語り手:ガンガン、と。響く、響く。響くのです。 語り手:  語り手:      ガン 語り手:  語り手:  語り手:           ガン 語り手:  語り手:  ガン 語り手:  語り手:  語り手:              ガン 語り手:  語り手:  語り手:  語り手:  語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手:  語り手:愛してるから……心配なの。 語り手:ごめんなさい、ごめんなさいね。 語り手:貴方に色々押し付けて、 語り手:貴方に色々期待して、 語り手:ごめんね、ごめんね。 語り手:  語り手:でも、心配なの。 語り手:駄目ね。いつまでも子供のように思っては。 語り手:  語り手:あぁ、と私は思います。 語り手:しくしく泣く、その女の背中に。 語り手:私は気付くのです。 語り手:  語り手:私が泣いただけ、 語り手:同じだけ、私も誰かを、 語り手:泣かせてやしないか、と 語り手:  語り手:なら、悪いのはやはり私なのではないか。 語り手:いや、誰が悪いとか、そういう話ではないのかもしれないけれど 語り手:  語り手:貰った愛のつぶてたち。 語り手:私がただ、受け取り方を間違えただけで。 語り手:  語り手:そこに、確かに愛はあったのだ、と。 語り手:そう思い直すことは、できないだろうか。 語り手:  語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手:  語り手:分からなかったことが、 語り手:今は……なんとなく分かる気がするのです。 語り手:まだまだ、気付いてないこともあるかもしれないけれど。でも、なんとなく。 語り手:  語り手:だから。 語り手:  語り手:小石を愛して抱えていく。 語り手:大事に手のひらに握って、 語り手:自分の爪が、その掌を抉らないように。 語り手:大事に、優しく、握り込んで。 語り手:  語り手:今の私は……笑えているだろうか。 語り手:  語り手:大丈夫、ここにある。 語り手:小石は、向けられた愛は、私が握ってる。 語り手:  語り手:だからやはり、これは便宜上—— 語り手:   愛の礫と呼ぶことにしよう。

語り手:最近、物忘れが酷い気がするんです。 語り手: 語り手:大事じゃないことは、忘れても、まあ、いいか。 語り手:でも、大事なことは?どうなるでしょう。 語り手: 語り手:大事な筈なんです、すごく。確か。たぶん。 語り手:なのに、何故、あれ。 語り手: 語り手:「あ」、という間に忘れてる。 語り手: 語り手:これは単なる、所謂、つまり、 語り手:不安、という一括りで片付けて良いものなのでしょうか。 語り手: 語り手:寂しいからか、一人だからか、 語り手:独り、だからか。 語り手: 語り手:覚えていられないんです。 語り手:全部全部、大切だった筈なのに。 語り手: 語り手:段々と、意識を奪われていくのです。 語り手:あぁ、そうやって奪うのか 語り手:            私 語り手:             の 語り手:            語り手: 語り手: 語り手:思い出を思い出し、散歩する。 語り手:思い出の中を、ゆっくり歩いていく。 語り手:歩いていく、前へ。前へ。 語り手:前へ、いや。 語り手:前、とは言うが、 語り手:これは後ろへ、なのかもしれません。 語り手:後ろへ、後ろへ。 語り手:思い出を反芻するのは、過去に縋っているだけなのだと……だけなのだと。 語り手: 語り手:はた、とそれに思い至り、 語り手:足を止めたのです。 語り手: 語り手:「愛のつぶて」という文字を見かけました。 語り手:はて、これは何でしょう。 語り手:はりつけみたいな字だ、と私は思いました。 語り手: 語り手:頭の中で、誰かの声がします。 語り手: 語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手: 語り手:私のため?本当に? 語り手: 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手: 語り手:やめてください!……やめて、もうやめてください。お願いします。やめてください。 語り手: 語り手:愛のあるはずのそれらの言葉は、 語り手:まるで小石を投げられた仔犬のように、 語り手:私に痣を増やし、増やし、増やし、 語り手:増えて増えて増 語り手:       え 語り手:      て 語り手:     ? 語り手: 語り手:あぁ。 語り手: 語り手:いつの間にか、 語り手:目の前に痣だらけの、 語り手:子供の頃の、私。 語り手: 語り手:私のために、と投げられた小石なら。 語り手: 語り手:私はこれを便宜上、 語り手:  愛のつぶて、と呼ぶことに致しましょう。 語り手: 語り手:愛のつぶてとやらに殴られて、黒い胃液がのぼります。 語り手:心臓の音が、左胸からどんどん離れて、 語り手:頭の中でガンガン響くのは。……何故? 語り手: 語り手:他人事のように、響き、遠く。 語り手:ぼやけた景色の向こうで、だれかが、 語り手:  語り手:わたし、が? 語り手:  語り手:私が、私、が。 語り手:  語り手:忘れないで、忘れないで、と。 語り手:ガンガン、と。響く、響く。響くのです。 語り手:  語り手:      ガン 語り手:  語り手:  語り手:           ガン 語り手:  語り手:  ガン 語り手:  語り手:  語り手:              ガン 語り手:  語り手:  語り手:  語り手:  語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手:  語り手:愛してるから……心配なの。 語り手:ごめんなさい、ごめんなさいね。 語り手:貴方に色々押し付けて、 語り手:貴方に色々期待して、 語り手:ごめんね、ごめんね。 語り手:  語り手:でも、心配なの。 語り手:駄目ね。いつまでも子供のように思っては。 語り手:  語り手:あぁ、と私は思います。 語り手:しくしく泣く、その女の背中に。 語り手:私は気付くのです。 語り手:  語り手:私が泣いただけ、 語り手:同じだけ、私も誰かを、 語り手:泣かせてやしないか、と 語り手:  語り手:なら、悪いのはやはり私なのではないか。 語り手:いや、誰が悪いとか、そういう話ではないのかもしれないけれど 語り手:  語り手:貰った愛のつぶてたち。 語り手:私がただ、受け取り方を間違えただけで。 語り手:  語り手:そこに、確かに愛はあったのだ、と。 語り手:そう思い直すことは、できないだろうか。 語り手:  語り手:貴方のためなのよ、と誰かが言います。 語り手:貴方のことを想ってるから、 語り手:貴方のことを愛してるから、 語り手:  語り手:分からなかったことが、 語り手:今は……なんとなく分かる気がするのです。 語り手:まだまだ、気付いてないこともあるかもしれないけれど。でも、なんとなく。 語り手:  語り手:だから。 語り手:  語り手:小石を愛して抱えていく。 語り手:大事に手のひらに握って、 語り手:自分の爪が、その掌を抉らないように。 語り手:大事に、優しく、握り込んで。 語り手:  語り手:今の私は……笑えているだろうか。 語り手:  語り手:大丈夫、ここにある。 語り手:小石は、向けられた愛は、私が握ってる。 語り手:  語り手:だからやはり、これは便宜上—— 語り手:   愛の礫と呼ぶことにしよう。