台本概要
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タイトル | 幸せプロジェクト |
---|---|
作者名 | 野菜 |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男1、女3、不問1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
君の幸せはなに?神様を利用してでも、叶えたい幸せ。 神はこの悲劇の終わりをご所望だ。 正義は、君たちにある。ついてきてほしい。このプロジェクトに。 『幸せ、プロジェクト』 ただ、幸せなあの頃を取り戻したかっただけだったのに。 1709 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
アリス | 女 | 59 | 元凶。彼女は仕組みに興味を抱いた。……どの世界でも。狂っている。 |
レイミア | 女 | 34 | 手を貸す人。叶うなら、何も起こらない日々に戻りたい。狂っている。気の強いお姉ちゃん。 |
エリザベート | 女 | 29 | 終わらせたい人。愛称はエリーザ。狂っている。慈愛に満ちた、おっとりさん。 |
ルイ | 男 | 27 | 憐れむ人。アリスが無害に生きられる可能性を探す。狂っている。優しいお兄さん。 |
ガラク | 不問 | 32 | 天使。神の怒りに触れたものへの対処のため動く。つかみどころのない何でも屋。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:『幸せプロジェクト』 野菜
:
:
アリス:元凶。彼女は仕組みに興味を抱いた。……どの世界でも。狂っている。
レイミア:手を貸す人。叶うなら、何も起こらない日々に戻りたい。狂っている。気の強いお姉ちゃん。
エリザベート:終わらせたい人。愛称はエリーザ。狂っている。慈愛に満ちた、おっとりさん。
ルイ:憐れむ人。アリスが無害に生きられる可能性を探す。狂っている。優しいお兄さん。
ガラク:天使。神の怒りに触れたものへの対処のため動く。つかみどころのない何でも屋。
:
:
0:本編開始
:
:
0:エリザベート、レイミア、ルイ。苦しそうに、泣きそうに。
エリザベート:あの子はまだ幼かった。
レイミア:アリスも幼かった。
エリザベート:そんなことで許される問題ではないのよ!
レイミア:………エリーザはもう、研究者じゃなくて、母なのね。
エリザベート:ルイの方がよほど母に向いているわ。そう思わない?私は守れなかったもの。
ルイ:かわいそうに、と思うことと、母になるということは別じゃないかな。
レイミア:アリスを救おうとしてる裏切者が、何を言うのよ。
ルイ:…………僕は、アリスの狂気の被害者が生まれない世界を見たいだけなんだ。アリスだって、被害者だ。分かるだろ?
:
:
レイミア:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:君の幸せはなに?神様を利用してでも、叶えたい幸せ。
エリザベート:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:神はこの悲劇の終わりをご所望だ。
ルイ:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:正義は、君たちにある。ついてきてほしい。このプロジェクトに。
:
:
アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。木製の家屋。安物だが清潔な毛布や枕。近くには木のクローゼットがあって、開けると私の服がある。袖を通す。そう、この部屋は、それだけ。
レイミア:(ノック)アリス?やっと起きたのね。私たち外にいるから!
エリザベート:急ぐことないわ。ゆっくりいらっしゃい。
アリス:ああ、吐き気のする違和感。早く、早くしないと。
レイミア:遅いわよアリス。悪いけど、紅茶、先飲んでるから。
エリザベート:ルイとガラクは狩りですって。私、狩りが終ったあとの臭い、苦手なのですけれど。
アリス:その紅茶、どこから出したの。
エリザベート:………ああ、これはね。知ってるかしら、山を南西へ二つ超えたところの村の………
アリス:ちがうわ。紅茶に使うお湯はどこから?外じゃないわよね。近くにたき火も、たき火の跡もない。
レイミア:そんなこと、些細な問題でしょ?こういうものなのよ。
アリス:そんなの説明になってない。家の中でもないわよね。だってあの家、ベッドとクローゼットしかなかったんだもの!
エリザベート:………レイミア、二人を呼んで。ねえ、アリス覚えていないの?ここは一晩だけの宿で、これから町へ行くのよ。
アリス:あなた、誰?
エリザベート:…………それは。
アリス:ほら、私だって人の目を見たまま嘘を吐けるわ。譲れない目的さえあればね、エリーザ。
エリザベート:嘘じゃないわ。………座って。紅茶が気に入らないのなら、お水でもいいから。一度落ち着きなさい。
アリス:エリーザの近くにはタルトタタンに大きめのフォークとナイフ。ああ、紅茶を飲んだ彼女を切り開けば、「仕組み」が分かるだろうか?
レイミア:エリーザ!「まだ生きてる」わね!?よかった…………。
アリス:…………どういうこと?
ルイ:ガラク、もういい。
ガラク:やれやれ、予想よりも早かったね、残念だ。
ルイ:かまわない。何度だってやりなおばいいんだから。
レイミア:今回は武器も魔法もないんでしょ?そうなると、どうしたらいいのかしら。
ルイ:地面に横になり心停止はどうだろう?痛みも時間も最小限じゃないかな。
エリザベート:そうしましょうか。ガラク、お願いしますね。
レイミア:次はどうしよっか~
アリス:なに………?なんなの…………?
ガラク:(一度手をたたく)
アリス:育ての親であるはずの三人は、のんきなことを言いながら地面に横になる。ガラクという人物が手をたたくと、ピクリともしなくなった。
:
:
アリス:闇。目を閉じたときの暗さのような、何かが見えそうで見えない、闇の中。私はここに来たことがある。
ガラク:今回の試みもダメだったね。魔法も科学もない世界は、お気に召さなかったようだ。
アリス:……さっきの場所で、あなただけが分からない。あなた、何?
ガラク:何、と来たか。さすが。うーん、そうだなあ。アリスはあの三人が本来は何をしていた人物か、記憶はあるかい?
アリス:本来、の意味は知らないけど。エリーザ、レイミア、ルイは私の両親と同じ研究者で、同僚よ。両親が事故に遭ってからは育ての親でもあるわ。
ガラク:オーケー。俺はガラク。三人は、俺のプロジェクトに参加してもらっているんだ。
アリス:それは、私が聞いてもいいプロジェクト?
ガラク:いいとも。これはね。「幸せプロジェクト」。
アリス:幸せって何?
ガラク:みんな、私も、三人それぞれの幸せも別物だよ。次会ったら聞いてみたらいい。
アリス:次って何?そもそもここは何なの?
ガラク:適当に作った控室だよ。(受信)…………あ、うん。決まった?次は?…………そんなので効くかなあ。まあ用意するけど。うまくやりなよ。
ガラク:と、いうわけでアリスも考えておきたまえ。何が、君の幸せなのか。(手をたたく)
:
:
:
アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。裂けて綿の見えるソファーで、眠ってしまっていたらしい。落ち着く。いつもここでパパとママを待っていたっけ。二人はとても忙しい人だったけど、私の分からないことへの恐怖に、いつだって向き合ってくれた。大好きな、両親。今はもう、いない両親。
レイミア:準備ができたわ。来なさい。
アリス:レイミア……?
レイミア:エリーザが怒ってる。理由はわかるでしょ?
アリス:エリーザが?どうして?
レイミア:大丈夫よ、知らないなら教えてあげるから。
アリス:レイミアは私にとって、気が強い、そして頼りになる姉だった。
レイミア:あなたがエリーザの息子を絞め殺したからよ。
:
:
エリザベート:お寝坊さんね、アリス。風邪はひいていない?
アリス:反応に困りレイミアを見上げると、嬉しそうに笑っていた。からかわれたのだろうか。
エリザベート:ここは任せてもらっていいのよね、ルイ、レイミア?
ルイ:「次」の世界のためにも見守らせてもらうけどね。
アリス:私たちは死んでやりなおしでもしているのだろうか?そんなことが、ありうるのだろうか。
エリザベート:申し訳ないけど、ここに座って頂戴。レイミア、注射は終わっているのよね?
レイミア:三人の中で一番私が注射は上手でしょ?気づいてすらいないわ。
アリス:………何をしたの。
ルイ:すまない、僕の提案なんだ。もしアリスが暴れて、近くのものでけがをしないように、麻酔を…………。
アリス:ルイは、本気でそう思っているんだろうから、質が悪いわ。
エリザベート:みんな、考えなしに何かをしているんじゃないの。お願い、協力してちょうだい。
レイミア:椅子に座らせて……っと。固定ベルトつけるけど、苦しかったら言いなさいよね。
アリス:私は椅子に固定された。これでは、まるで囚人みたい。
ガラク:囚人だからね。
アリス:見上げても、ガラクの姿はなかった。代わりにエリーザが近づいてくる。
アリス:ルイが、純粋でまっすぐな、優しい兄だとしたら、エリーザは褒めることも叱ることもうまい、二人目の母だった。
エリザベート:こんなことしてごめんなさい。でもね、何をしても私たち、あなたを分かってあげられないの。止めてあげられないの。
ルイ:全部、腹を割って話すんでしょ?順番に行かないと。
レイミア:エリーザ、代わりに説明だけしてもいい?
エリザベート:ええ。ごめんなさい。ごめんなさい。こうしていると、どうしてもあの子のことを思い出してしまって…………。
ルイ:ここを選んで、ごめんね。
レイミア:…………アリス。信じられないだろうし、あんたのことだからいっぱい質問したいと思う。でも「今回は」、私たちの話を聞いて。
アリス:…………わかった。
レイミア:ガラクもでてきて。
ガラク:いいのかい?
レイミア:この子には言い聞かせるだけじゃたぶん納得しないわ。
ガラク:はあい。
ルイ:アリス。ぼくたちは。いや、僕の場合は災害の被害者を減らす。ううん、ゼロにするために動いている。大量殺人が起きるんだよ。
レイミア:ここは、もうすでに大量殺人が行われた世界よ。ゲームオーバーの世界。
ルイ:この研究所から持ち出された、有害物質が飲料水の工場に持ち込まれて、大事故が起きている。
レイミア:犯人は、この研究所で幼児の殺人事件が起きて混乱しているところを狙ったわ。あるいは、殺しの面白さを覚えて、もっとやりたくなったのかも。
ルイ:君なんだよ。僕らのアリス。
アリス:………分かんない、そんな記憶、ない。
エリザベート:ええ、私たちも分からない。聡明で、明るく笑うあなたがどうしてあんなことをしたのか。
レイミア:…………エリーザ。
エリザベート:あなたもわからない、わたしもわからない。これでとんとんよね?きっと、私の息子を手にかけた訳も分からないのでしょう。
ルイ:プロジェクトは、この世界が終ってから始まったんだ。僕らにとっては。
ガラク:俺が三人に協力してもらいました。………あ。協力してもらっている最中、の間違いだね。
アリス:そういえば、あなたが「誰」かは聞いたけれど、「何」かは聞いてなかった。
ガラク:天使だよ。
アリス:…………。
ガラク:いや、なぜそんな眉間にしわを…………。嘘じゃないって。世界を渡り歩き、時には創造してみせるなんて、神様の力を借りれる天使くらいにしかできないよ。
レイミア:ガラクの力で、私たちはいろんな可能性を試した。あんたの両親が生きている世界、私たちまで全滅した世界、アリスが病気の世界にアリスが男の子の世界。
エリザベート:何十回もくりかえしてきた!!!全部、毎回、ダメだったのよ!!
アリス:ダメ………だ、った?
エリザベート:あなたは何度でも、あらゆる方法を使って、何度も殺人を犯すのよ。笑って、泣いて、無表情で、怒って。でも必ず災害のように残虐な結果を引き起こす!!…………あなたを、この手で終わらせることもしたわ。でも、それはいつも失敗に終わった。急に地震が来たり、火事が起きたり。あなたに手をのばすといつだってより多くの人が亡くなった。
ルイ:始めよう。アリス、僕らは君を殺しはしない。僕が応急処置をするし、エリーザも致命傷を与えないやり方は心得ている。
アリス:なに……を………?
エリザベート:だって、
アリス:エリーザたちは、とっくに狂ってしまったのだ。私のせいで。
エリザベート:だって、痛みを知らなきゃ優しい子にはなれないでしょお??
:
:
ガラク:もういいかな?
エリザベート:ごめんね、ごめんね。今、助けてあげるからね。
レイミア:エリーザ、「また」殺しちゃうわよ。
ルイ:ガラクの言う通り、ここまでだね。次の世界に行こう。
レイミア:でも、研究所なんて毒くらいしかないわよ?
ルイ:苦しむだけでやり直せるんだ、いいじゃないか。エリーザも限界だし。
エリザベート:私の、アリス。私の、あの子。どうして、どうして…………
レイミア:わかった、覚悟決める。
:
:
ガラク:話は終わっていないんだ。
アリス:………ああ、控室に、戻ってきたのね。さっきのは差し詰め、科学の世界ってところ?
ガラク:俺が天使って話は覚えてるだろ?
アリス:悪魔、の方が似合いそうだけど。
ガラク:悪魔はむしろ君だろ?いや、悪魔ならもっと簡単にことは済んだのに。
アリス:どういうこと?三人がおかしくなったことと関係があるの!?
ガラク:まず、「人間の問題は人間が解決すべき」。これが俺の神様の方針でね。助けたい人間側に力を貸すことはできても、決断や対処法は人間に任せることになってる。
アリス:だからガラクは三人に、「幸せプロジェクト」の協力、むしろ実行をさせたのね。
ガラク:次ね、三人が狂ったのは必然だ。「死んでは何度も生き返る」ということに慣れてしまうんだよ?それは正気とは言えない。
アリス:…………そうね。ねえ、「幸せプロジェクト」って、本当は何?
ガラク:幸せを追求する計画さ。「すべての世界」の幸せ。もっと詳しく言うならば「君以外の全員」の幸せを追求するんだ。
アリス:私以外の幸せ………それは、生きること?
ガラク:理不尽な死の回避、愛する息子の生存、大好きな妹分の平和な毎日、愛する人の忘れ形見の守護。
アリス:もっと、分かりやすく言って。
ガラク:残念ながら、次の世界を彼らは決めたようだ。それと、アリス。
アリス:いちいち何よ。
ガラク:俺はアリスのこと大っ嫌いだから。
:
:
アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。オルゴールが鳴る、かわいい子供部屋。私の体は知っているものより幼くなっていた。
ルイ:(小声)ただいま。
ルイ:(普通の声)なんだ、まだ起きてるんだね。いけない子だ。
アリス:………ルイ?
ルイ:ちゃんと、覚えているね。スーツを脱いでくる。「お姉ちゃん」たちと話してなさい。
レイミア:母さん、アリス起きたって。
エリザベート:ああ、アリス。体は痛くない?ガラク先生のことは信頼してるけれど、痛いところがあったらすぐに言うのよ?
レイミア:私でもいいかんね!
アリス:………なに、これ。
レイミア:(小声)…………おままごと、だよ。ママがエリーザ、姉が私、妹があんた、パパがルイ。ガラクは今は医者。
アリス:(小声)今回は、家族実験?
レイミア:(小声)それもある。でもね、エリーザがもう、壊れちゃったのよ。心の方が。
アリス:…………。
エリザベート:アリス、私の愛しい子。ママもパパも、お姉ちゃんも、それぞれすぐそばのお部屋にいるからね。おやすみなさい。
レイミア:いろいろ。昔のあんたの記憶とか息子さんの記憶とか混ざっちゃってるみたい。…………じゃ、あたし右隣の部屋だから。おやすみ。
ルイ:おまたせ。二人とは話せたかな。読み聞かせは今日はパパがやるからね。
アリス:私は、さっき控室でガラクと話したことで、思い出してしまっていたんだ。
ルイ:どうかした、アリス?顔が…………こわいよ?
アリス:私は、好きなものは一番先に食べるし、今でもパパとママが大好きなんだって。
ルイ:ママたちを呼ぼうか?それとも疲れているかな?
アリス:パパ。私って、魔法仕えるの?
ルイ:えっ。………あ、ああ。パパたちの娘だからな。きっとすごい魔法使いになれるぞ。
アリス:そっか…………パパ、大好きだよ。
アリス:『ヘルファイア』
ルイ:っっ!!?
アリス:ああ、なるほどなるほど。人体自然発火現象もこれに近いのかな?人間ってこんなふうに溶けて行くんだね。ずっと見たかったんだ。この世界に連れてきてくれて、ありがと。ルイ兄ちゃん。
ルイ:あ……あ……
アリス:お姉ちゃんとお母さんのところにもいかなくちゃ。二人とも、私がつれてってあげないとね。
:
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ガラク:おまえ…………よくも…………
アリス:レイミアもエリーザも、ルイとはちがってほぼ不意打ちで即死にした。私を控室に送る、という決断は間に合わなかったよね。
ガラク:やはり、おまえは悪魔の子だ。
アリス:知ってたよ?悪魔二人が拾って育てた、ただの人間。それが私。でもパパもママも悪魔だから、こことは違う場所から私を守ってくれてる。だから犠牲なしには私を止められない。ガラクたちは、百の犠牲を支払ってでも、私一人を完全に排除すべきだったんだよ。みんなは、みんなはほんとに優しいから…………あなたが説得するべきだったのに。
ガラク:これから、どうするつもりだ。
アリス:私はまだまだ、知らないことばっかりなんだ。なんで心臓が動くのか、どうやって血は赤から黒に変わるのか。レイミアから聞かなかった?私、自分で見聞きしないと納得できないの。
ガラク:この世界を、どうするつもりだ!!
アリス:ぜんぶ、ぜーんぶ。向こう側にいるパパとママへのお土産にする。ものすごく、ものすごーく悪い子になったら。
アリス:もういっかい、パパとママに、会えるよね?
:
:
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ルイ:『幸せプロジェクト』結果
レイミア:魔法世界、大陸の六割が死滅。観測できる人類はなし。
エリザベート:続行不可能とみなし、この世界を、歴史として登録する。
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アリス:みんな。愛しているよ。
:
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0:『幸せプロジェクト』 野菜
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アリス:元凶。彼女は仕組みに興味を抱いた。……どの世界でも。狂っている。
レイミア:手を貸す人。叶うなら、何も起こらない日々に戻りたい。狂っている。気の強いお姉ちゃん。
エリザベート:終わらせたい人。愛称はエリーザ。狂っている。慈愛に満ちた、おっとりさん。
ルイ:憐れむ人。アリスが無害に生きられる可能性を探す。狂っている。優しいお兄さん。
ガラク:天使。神の怒りに触れたものへの対処のため動く。つかみどころのない何でも屋。
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0:本編開始
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0:エリザベート、レイミア、ルイ。苦しそうに、泣きそうに。
エリザベート:あの子はまだ幼かった。
レイミア:アリスも幼かった。
エリザベート:そんなことで許される問題ではないのよ!
レイミア:………エリーザはもう、研究者じゃなくて、母なのね。
エリザベート:ルイの方がよほど母に向いているわ。そう思わない?私は守れなかったもの。
ルイ:かわいそうに、と思うことと、母になるということは別じゃないかな。
レイミア:アリスを救おうとしてる裏切者が、何を言うのよ。
ルイ:…………僕は、アリスの狂気の被害者が生まれない世界を見たいだけなんだ。アリスだって、被害者だ。分かるだろ?
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レイミア:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:君の幸せはなに?神様を利用してでも、叶えたい幸せ。
エリザベート:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:神はこの悲劇の終わりをご所望だ。
ルイ:『幸せ、プロジェクト』
ガラク:正義は、君たちにある。ついてきてほしい。このプロジェクトに。
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アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。木製の家屋。安物だが清潔な毛布や枕。近くには木のクローゼットがあって、開けると私の服がある。袖を通す。そう、この部屋は、それだけ。
レイミア:(ノック)アリス?やっと起きたのね。私たち外にいるから!
エリザベート:急ぐことないわ。ゆっくりいらっしゃい。
アリス:ああ、吐き気のする違和感。早く、早くしないと。
レイミア:遅いわよアリス。悪いけど、紅茶、先飲んでるから。
エリザベート:ルイとガラクは狩りですって。私、狩りが終ったあとの臭い、苦手なのですけれど。
アリス:その紅茶、どこから出したの。
エリザベート:………ああ、これはね。知ってるかしら、山を南西へ二つ超えたところの村の………
アリス:ちがうわ。紅茶に使うお湯はどこから?外じゃないわよね。近くにたき火も、たき火の跡もない。
レイミア:そんなこと、些細な問題でしょ?こういうものなのよ。
アリス:そんなの説明になってない。家の中でもないわよね。だってあの家、ベッドとクローゼットしかなかったんだもの!
エリザベート:………レイミア、二人を呼んで。ねえ、アリス覚えていないの?ここは一晩だけの宿で、これから町へ行くのよ。
アリス:あなた、誰?
エリザベート:…………それは。
アリス:ほら、私だって人の目を見たまま嘘を吐けるわ。譲れない目的さえあればね、エリーザ。
エリザベート:嘘じゃないわ。………座って。紅茶が気に入らないのなら、お水でもいいから。一度落ち着きなさい。
アリス:エリーザの近くにはタルトタタンに大きめのフォークとナイフ。ああ、紅茶を飲んだ彼女を切り開けば、「仕組み」が分かるだろうか?
レイミア:エリーザ!「まだ生きてる」わね!?よかった…………。
アリス:…………どういうこと?
ルイ:ガラク、もういい。
ガラク:やれやれ、予想よりも早かったね、残念だ。
ルイ:かまわない。何度だってやりなおばいいんだから。
レイミア:今回は武器も魔法もないんでしょ?そうなると、どうしたらいいのかしら。
ルイ:地面に横になり心停止はどうだろう?痛みも時間も最小限じゃないかな。
エリザベート:そうしましょうか。ガラク、お願いしますね。
レイミア:次はどうしよっか~
アリス:なに………?なんなの…………?
ガラク:(一度手をたたく)
アリス:育ての親であるはずの三人は、のんきなことを言いながら地面に横になる。ガラクという人物が手をたたくと、ピクリともしなくなった。
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アリス:闇。目を閉じたときの暗さのような、何かが見えそうで見えない、闇の中。私はここに来たことがある。
ガラク:今回の試みもダメだったね。魔法も科学もない世界は、お気に召さなかったようだ。
アリス:……さっきの場所で、あなただけが分からない。あなた、何?
ガラク:何、と来たか。さすが。うーん、そうだなあ。アリスはあの三人が本来は何をしていた人物か、記憶はあるかい?
アリス:本来、の意味は知らないけど。エリーザ、レイミア、ルイは私の両親と同じ研究者で、同僚よ。両親が事故に遭ってからは育ての親でもあるわ。
ガラク:オーケー。俺はガラク。三人は、俺のプロジェクトに参加してもらっているんだ。
アリス:それは、私が聞いてもいいプロジェクト?
ガラク:いいとも。これはね。「幸せプロジェクト」。
アリス:幸せって何?
ガラク:みんな、私も、三人それぞれの幸せも別物だよ。次会ったら聞いてみたらいい。
アリス:次って何?そもそもここは何なの?
ガラク:適当に作った控室だよ。(受信)…………あ、うん。決まった?次は?…………そんなので効くかなあ。まあ用意するけど。うまくやりなよ。
ガラク:と、いうわけでアリスも考えておきたまえ。何が、君の幸せなのか。(手をたたく)
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アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。裂けて綿の見えるソファーで、眠ってしまっていたらしい。落ち着く。いつもここでパパとママを待っていたっけ。二人はとても忙しい人だったけど、私の分からないことへの恐怖に、いつだって向き合ってくれた。大好きな、両親。今はもう、いない両親。
レイミア:準備ができたわ。来なさい。
アリス:レイミア……?
レイミア:エリーザが怒ってる。理由はわかるでしょ?
アリス:エリーザが?どうして?
レイミア:大丈夫よ、知らないなら教えてあげるから。
アリス:レイミアは私にとって、気が強い、そして頼りになる姉だった。
レイミア:あなたがエリーザの息子を絞め殺したからよ。
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エリザベート:お寝坊さんね、アリス。風邪はひいていない?
アリス:反応に困りレイミアを見上げると、嬉しそうに笑っていた。からかわれたのだろうか。
エリザベート:ここは任せてもらっていいのよね、ルイ、レイミア?
ルイ:「次」の世界のためにも見守らせてもらうけどね。
アリス:私たちは死んでやりなおしでもしているのだろうか?そんなことが、ありうるのだろうか。
エリザベート:申し訳ないけど、ここに座って頂戴。レイミア、注射は終わっているのよね?
レイミア:三人の中で一番私が注射は上手でしょ?気づいてすらいないわ。
アリス:………何をしたの。
ルイ:すまない、僕の提案なんだ。もしアリスが暴れて、近くのものでけがをしないように、麻酔を…………。
アリス:ルイは、本気でそう思っているんだろうから、質が悪いわ。
エリザベート:みんな、考えなしに何かをしているんじゃないの。お願い、協力してちょうだい。
レイミア:椅子に座らせて……っと。固定ベルトつけるけど、苦しかったら言いなさいよね。
アリス:私は椅子に固定された。これでは、まるで囚人みたい。
ガラク:囚人だからね。
アリス:見上げても、ガラクの姿はなかった。代わりにエリーザが近づいてくる。
アリス:ルイが、純粋でまっすぐな、優しい兄だとしたら、エリーザは褒めることも叱ることもうまい、二人目の母だった。
エリザベート:こんなことしてごめんなさい。でもね、何をしても私たち、あなたを分かってあげられないの。止めてあげられないの。
ルイ:全部、腹を割って話すんでしょ?順番に行かないと。
レイミア:エリーザ、代わりに説明だけしてもいい?
エリザベート:ええ。ごめんなさい。ごめんなさい。こうしていると、どうしてもあの子のことを思い出してしまって…………。
ルイ:ここを選んで、ごめんね。
レイミア:…………アリス。信じられないだろうし、あんたのことだからいっぱい質問したいと思う。でも「今回は」、私たちの話を聞いて。
アリス:…………わかった。
レイミア:ガラクもでてきて。
ガラク:いいのかい?
レイミア:この子には言い聞かせるだけじゃたぶん納得しないわ。
ガラク:はあい。
ルイ:アリス。ぼくたちは。いや、僕の場合は災害の被害者を減らす。ううん、ゼロにするために動いている。大量殺人が起きるんだよ。
レイミア:ここは、もうすでに大量殺人が行われた世界よ。ゲームオーバーの世界。
ルイ:この研究所から持ち出された、有害物質が飲料水の工場に持ち込まれて、大事故が起きている。
レイミア:犯人は、この研究所で幼児の殺人事件が起きて混乱しているところを狙ったわ。あるいは、殺しの面白さを覚えて、もっとやりたくなったのかも。
ルイ:君なんだよ。僕らのアリス。
アリス:………分かんない、そんな記憶、ない。
エリザベート:ええ、私たちも分からない。聡明で、明るく笑うあなたがどうしてあんなことをしたのか。
レイミア:…………エリーザ。
エリザベート:あなたもわからない、わたしもわからない。これでとんとんよね?きっと、私の息子を手にかけた訳も分からないのでしょう。
ルイ:プロジェクトは、この世界が終ってから始まったんだ。僕らにとっては。
ガラク:俺が三人に協力してもらいました。………あ。協力してもらっている最中、の間違いだね。
アリス:そういえば、あなたが「誰」かは聞いたけれど、「何」かは聞いてなかった。
ガラク:天使だよ。
アリス:…………。
ガラク:いや、なぜそんな眉間にしわを…………。嘘じゃないって。世界を渡り歩き、時には創造してみせるなんて、神様の力を借りれる天使くらいにしかできないよ。
レイミア:ガラクの力で、私たちはいろんな可能性を試した。あんたの両親が生きている世界、私たちまで全滅した世界、アリスが病気の世界にアリスが男の子の世界。
エリザベート:何十回もくりかえしてきた!!!全部、毎回、ダメだったのよ!!
アリス:ダメ………だ、った?
エリザベート:あなたは何度でも、あらゆる方法を使って、何度も殺人を犯すのよ。笑って、泣いて、無表情で、怒って。でも必ず災害のように残虐な結果を引き起こす!!…………あなたを、この手で終わらせることもしたわ。でも、それはいつも失敗に終わった。急に地震が来たり、火事が起きたり。あなたに手をのばすといつだってより多くの人が亡くなった。
ルイ:始めよう。アリス、僕らは君を殺しはしない。僕が応急処置をするし、エリーザも致命傷を与えないやり方は心得ている。
アリス:なに……を………?
エリザベート:だって、
アリス:エリーザたちは、とっくに狂ってしまったのだ。私のせいで。
エリザベート:だって、痛みを知らなきゃ優しい子にはなれないでしょお??
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ガラク:もういいかな?
エリザベート:ごめんね、ごめんね。今、助けてあげるからね。
レイミア:エリーザ、「また」殺しちゃうわよ。
ルイ:ガラクの言う通り、ここまでだね。次の世界に行こう。
レイミア:でも、研究所なんて毒くらいしかないわよ?
ルイ:苦しむだけでやり直せるんだ、いいじゃないか。エリーザも限界だし。
エリザベート:私の、アリス。私の、あの子。どうして、どうして…………
レイミア:わかった、覚悟決める。
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ガラク:話は終わっていないんだ。
アリス:………ああ、控室に、戻ってきたのね。さっきのは差し詰め、科学の世界ってところ?
ガラク:俺が天使って話は覚えてるだろ?
アリス:悪魔、の方が似合いそうだけど。
ガラク:悪魔はむしろ君だろ?いや、悪魔ならもっと簡単にことは済んだのに。
アリス:どういうこと?三人がおかしくなったことと関係があるの!?
ガラク:まず、「人間の問題は人間が解決すべき」。これが俺の神様の方針でね。助けたい人間側に力を貸すことはできても、決断や対処法は人間に任せることになってる。
アリス:だからガラクは三人に、「幸せプロジェクト」の協力、むしろ実行をさせたのね。
ガラク:次ね、三人が狂ったのは必然だ。「死んでは何度も生き返る」ということに慣れてしまうんだよ?それは正気とは言えない。
アリス:…………そうね。ねえ、「幸せプロジェクト」って、本当は何?
ガラク:幸せを追求する計画さ。「すべての世界」の幸せ。もっと詳しく言うならば「君以外の全員」の幸せを追求するんだ。
アリス:私以外の幸せ………それは、生きること?
ガラク:理不尽な死の回避、愛する息子の生存、大好きな妹分の平和な毎日、愛する人の忘れ形見の守護。
アリス:もっと、分かりやすく言って。
ガラク:残念ながら、次の世界を彼らは決めたようだ。それと、アリス。
アリス:いちいち何よ。
ガラク:俺はアリスのこと大っ嫌いだから。
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アリス:「今回の」私が目を覚ます。今回の?まるで前回があるかのようだ。オルゴールが鳴る、かわいい子供部屋。私の体は知っているものより幼くなっていた。
ルイ:(小声)ただいま。
ルイ:(普通の声)なんだ、まだ起きてるんだね。いけない子だ。
アリス:………ルイ?
ルイ:ちゃんと、覚えているね。スーツを脱いでくる。「お姉ちゃん」たちと話してなさい。
レイミア:母さん、アリス起きたって。
エリザベート:ああ、アリス。体は痛くない?ガラク先生のことは信頼してるけれど、痛いところがあったらすぐに言うのよ?
レイミア:私でもいいかんね!
アリス:………なに、これ。
レイミア:(小声)…………おままごと、だよ。ママがエリーザ、姉が私、妹があんた、パパがルイ。ガラクは今は医者。
アリス:(小声)今回は、家族実験?
レイミア:(小声)それもある。でもね、エリーザがもう、壊れちゃったのよ。心の方が。
アリス:…………。
エリザベート:アリス、私の愛しい子。ママもパパも、お姉ちゃんも、それぞれすぐそばのお部屋にいるからね。おやすみなさい。
レイミア:いろいろ。昔のあんたの記憶とか息子さんの記憶とか混ざっちゃってるみたい。…………じゃ、あたし右隣の部屋だから。おやすみ。
ルイ:おまたせ。二人とは話せたかな。読み聞かせは今日はパパがやるからね。
アリス:私は、さっき控室でガラクと話したことで、思い出してしまっていたんだ。
ルイ:どうかした、アリス?顔が…………こわいよ?
アリス:私は、好きなものは一番先に食べるし、今でもパパとママが大好きなんだって。
ルイ:ママたちを呼ぼうか?それとも疲れているかな?
アリス:パパ。私って、魔法仕えるの?
ルイ:えっ。………あ、ああ。パパたちの娘だからな。きっとすごい魔法使いになれるぞ。
アリス:そっか…………パパ、大好きだよ。
アリス:『ヘルファイア』
ルイ:っっ!!?
アリス:ああ、なるほどなるほど。人体自然発火現象もこれに近いのかな?人間ってこんなふうに溶けて行くんだね。ずっと見たかったんだ。この世界に連れてきてくれて、ありがと。ルイ兄ちゃん。
ルイ:あ……あ……
アリス:お姉ちゃんとお母さんのところにもいかなくちゃ。二人とも、私がつれてってあげないとね。
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ガラク:おまえ…………よくも…………
アリス:レイミアもエリーザも、ルイとはちがってほぼ不意打ちで即死にした。私を控室に送る、という決断は間に合わなかったよね。
ガラク:やはり、おまえは悪魔の子だ。
アリス:知ってたよ?悪魔二人が拾って育てた、ただの人間。それが私。でもパパもママも悪魔だから、こことは違う場所から私を守ってくれてる。だから犠牲なしには私を止められない。ガラクたちは、百の犠牲を支払ってでも、私一人を完全に排除すべきだったんだよ。みんなは、みんなはほんとに優しいから…………あなたが説得するべきだったのに。
ガラク:これから、どうするつもりだ。
アリス:私はまだまだ、知らないことばっかりなんだ。なんで心臓が動くのか、どうやって血は赤から黒に変わるのか。レイミアから聞かなかった?私、自分で見聞きしないと納得できないの。
ガラク:この世界を、どうするつもりだ!!
アリス:ぜんぶ、ぜーんぶ。向こう側にいるパパとママへのお土産にする。ものすごく、ものすごーく悪い子になったら。
アリス:もういっかい、パパとママに、会えるよね?
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ルイ:『幸せプロジェクト』結果
レイミア:魔法世界、大陸の六割が死滅。観測できる人類はなし。
エリザベート:続行不可能とみなし、この世界を、歴史として登録する。
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アリス:みんな。愛しているよ。
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