台本概要
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タイトル | 将棋ファイター成流 |
---|---|
作者名 | 棒も寝てれば犬に当たる |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 3人用台本(男1、女1、不問1) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 商用、非商用問わず連絡不要 |
説明 |
将棋バトルコメディです。大きく声を張らなくてもいい戦闘になっていると思います。 台本製作にあたり、将棋について学びました。 台詞・キャラの性別などは、自由に変更してもらってかまいません。 101 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ナル | 不問 | 92 | 深良ナル(ふからなる)。各地の将棋場のトップと戦っている。 設定は男ですが、演者の性別は自由です。 |
マッスル山田 | 男 | 71 | ファイター名は穴熊ッスル山田。勝ちにこだわる。 |
ルーワ | 女 | 77 | 視屋辺ルーワ(しやべるーわ)。山田に、兄の将棋人生を潰された過去を背負う。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
N(マッスル山田):将棋大国、日本で生まれたからには、誰でも一生のうち一度は夢見る「神の一手」。将棋バトラーとは、「神の一手」を目指す将棋棋士のことである!
モブ(ナル):「ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!
マッスル山田:「……ニッ!!
実況(ルーワ):「マッスルポーズと素敵な笑顔で登場ゥー!穴熊ッスル山田!今日こそ見せてくれ、「神の一手」をー!
0:
間:
0:
0:ナル、マッスル山田が登場している生中継を見ながら歩いている。将棋センターを前にして、歩みを止める。
ナル:「なにが神の一手だよ。こんな辺境の将棋センターでトップ貼ってたって、なんの称号にもなんねぇだろうに。……ここか
ルーワ:「……
ナル:「ん、どうしたんだお嬢ちゃん。入り口に突っ立ってちゃ邪魔んなるぜ
ルーワ:「あ、すいません
ナル:「入んないのか?将棋指しに来たんだろ。ん、これはーー
ルーワ:「今日は将棋センター休みですって。お互い、残念でしたね
ナル:「ああ、やってんのはアッチか。来な、案内したげるよ
ルーワ:「え?
0:
ルーワ:「あの、初めまして、ですよね。ここの将棋センターだと見たことない方だと思うんですけど……
ナル:「ああ、ここにくるのは初めてだよ
ルーワ:「でも、その。どこに向かってるんですか?初めてなのに
ナル:「すぐにわかるさ。ほら、乗りな
ルーワ:「はい。こんなとこにエレベーターがあるなんて、知りませんでした
ナル:「行政が管理してる将棋センターなら、設置場所は決められてんだよ。一見わからないよう隠されてるけどね
ルーワ:「え、こ、これ地下に降りてますよね?この将棋センターに地下があるなんて聞いたことがありません
ナル:「君、ここで将棋を打つようになって何年だい?
ルーワ:「半年、でしょうか
ナル:「それなら知らなくてもしかたないか。今向かってるのは、地下将棋場。そこらのアマたちじゃ簡単に来れない、将棋バトラーが集まる戦場さ
ルーワ:「せ、戦場……
ナル:「さ、着いたぜ
ルーワ:「ッ。すごい熱気
ナル:「そこらへんの床で盤打ってるだろ。誰でも適当に吹っ掛けりゃ将棋できるよ。じゃあな
ルーワ:「は、はい。ありがとうございました。……あの人は、将棋しに来たわけじゃないのかな
0:
マッスル山田:「いやー、ハッハッハッ!どうもどうも、応援ありがとう!また見に来てくれ!
ナル:「よう
マッスル山田:「んン?なんだい、君も僕のサインが欲しいのかな?色紙があると嬉しいんだが……ああ、Tシャツに書けばいいのかな?
ナル:「悪いが、お前のファンってわけじゃないんだ
マッスル山田:「ふゥン?ッ!その右手の火傷痕は…
ナル:「マイク貸しな。集まってるか将棋馬鹿共!俺が今から、とっておきのスペシャルバトルを見せてやる!
ルーワ:「さっきの人!中央の広い将棋盤で、なにを?
ナル:「ファイターはここのトップ、マッスル山田!そしてーー
マッスル山田:「将棋場潰し…!
ナル:「ナルだ!!
ルーワ:周りの人たちが一気に目の色を変えた。ところどころで怒号も飛んでいる。私も名前くらい知っている。将棋場潰しの、ナル
ナル:「トップはチャレンジャーの挑戦は断れない。そうだよな?
マッスル山田:「ニッ!勿論受けて立つよ!でも、今しがた試合が終わったばかりなんだ。休憩後に対局でいいかい?
ナル:「ああ、いいぜ。お前ら聞いたな、トップは挑戦を受けた!休憩後に中央盤でスペシャルマッチだ!今のままじゃあ熱が足りねえ、もっと客集めてこい!…ほらよ
マッスル山田:「ありがとう。みんなー!俺は誰が相手でも負けないぞー!是非応援しに来てくれー!
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間:
0:
0:控え室
ルーワ:「貴方が、ナルさんだったんですね
ナル:「君はさっきの。へへ、俺も有名人になったもんだな
ルーワ:「将棋場潰しといえば誰でも知っていますよ。各将棋場のトップファイターと戦って、全戦全勝だと
ナル:「まぁな。俺は最強を目指してるんだ。各地のトップを潰していけば、いずれは最強に近づけると思ってな
ルーワ:「……ナルさんに、おねがいがあるんです
ナル:「ん?
ルーワ:「この勝負、私と変わってくださいませんか
ナル:「どうして?
ルーワ:「兄の、仇なんです
ナル:「…詳しく聞いても、いいか
ルーワ:「はい。私の兄、視屋辺ルーゾは、実力が認められてプロ棋士団からスカウトが来るほどのファイターだったんです
ナル:「視屋辺。ああ、テレビで見たことあるな
ルーワ:「でも、アイツが、マッスル山田が全部奪っていった、全部……!急に現れてはすぐに順位を上げてきて、ある日兄を呼び出したかと思ったら、ボロボロになって帰ってきて!……それ以降兄は、自分はプロになる覚悟がなかったんだって、もう駒も将棋盤も見向きしなくなってしまいました。お兄ちゃんがあんなやつに負けるわけないのに!なんかずるしたんだ。じゃなきゃあんな、ポッと出のやつに……!
ナル:「……若いうちに摘まれたんだ。あのマッスル山田とかいうやつ、研究資料は少なかったから確証は得てないが、プロだぜ
ルーワ:「え!?
ナル:「棋士団のスカウトがあったんだろ。正式に入団する前に、才能のあるスカウト組を、一生将棋の出来ないようにしてるやつがいるって噂、聞いたことがある
ルーワ:「それ、って
ナル:「酷な言い方だけど、君の兄は将棋で真っ向勝負をし、プロの実力を前に挫折しただけさ。ズルも何もなかった
ルーワ:「ッ!
ナル:「悔しがることはない。いってしまえばアマとプロだ、そりゃ実力差はあるさ
ルーワ:「でも、それじゃあ私とお兄ちゃんの悔しさは……!お兄ちゃんが頑張ってきた想いを折られた、この苦しみは!どこにぶつければいいのか……!
ナル:「そりゃ将棋でマッスル山田にぶつけなよ
ルーワ:「……でも、プロだったなんて。私と同じ、半年前からここに現れたから、てっきり同じくらいかと思ってたのに
ナル:「怖気づいたのか。君の兄のように
ルーワ:「ッ!
0:ルーワ、ナルの頬を叩く。
ルーワ:「お兄ちゃんを、馬鹿にしないでください!
ナル:「へ。いい将気をもってるじゃないか。それをぶつけりゃいいだけさ
ルーワ:「え
ナル:「選手交代の話、どうしてもっていうなら代わってやるよ。ただし、一度王手をかけられた時点で俺に交代だ。いいな?
0:
間:
0:
0:中央盤
マッスル山田:「ハッハッハッハッ!皆待たせたね!今日も筋肉で、勝利をもぎ取っていくぞー!
ルーワ:「凄い人気。なによ、自分より弱い奴しか狙わない卑怯者のくせに
ナル:「待ちくたびれたぜ。コンディションが原因だとか言い訳はできないぞ
マッスル山田:「そんなみっともない真似はしないさ。僕はどんな戦いも、正々堂々フェアに行う。全力で相手するために休息をとっただけだよ
ナル:「そりゃいい心がけだな
ルーワ:「なにが正々堂々よ…。それが二度と駒を握れなくする理由になるの……?
マッスル山田:「さっきから気になっているんだが、そこの女性はだれだい?選手は、僕とナル君じゃなかったのかな?
ナル:「それなんだけど、この娘がどうしてもマッスル山田と戦いたいっていうからさ。任せる事にしたんだ
マッスル山田:「ふうむ、僕は構わないけれど。いいのかい?失礼を承知で口にするが、彼女はここに立つ実力を持ってないんじゃないかな
ナル:「実力はなくても資格はあると思うぜ。視屋辺ルーゾって名前に聞き覚えないか?そいつの妹なんだってさ
マッスル山田:「うーーーん、どこかで。あッそうか、前のここのタイトル保持者だね!戦うことなくどこかへ行ってしまったから、僕も悲しかったんだ。そうかあの人の妹さんかぁ。どうだい?お兄さんは元気でやっているかな?ぜひ一度、対局をお願いしたいよ
ルーワ:「白を切りやがって……!お前のせいで、兄は将棋をすることはなくなった!
マッスル山田:「一体なんのことかな?
ルーワ:「おまえェッ!
ナル:「落ち着きな。それ以上は盤外戦術で失格になるぜ
ルーワ:「くッ…
マッスル山田:「とりあえず、そこのお嬢さんと対局すればいいのかな。スペシャルマッチというには、味気ない気もするが
ナル:「安心しろ。今回、こっちは特別ルールをもってきた。戦っている視屋辺ルーワが一度王手をかけられたとき、俺とバトンタッチだ
マッスル山田:「……ハハ!君こそ、僕を舐めているんじゃないかな
ナル:「そんなことないさ。フェアな対局がお好きなんだろ。実力的に、それくらいでやっとフェアだと思ったまでだ
マッスル山田:「言うねえ。そのルールを下げる気がないのなら、私も一つ制限を設けよう!
ナル:「なに?
マッスル山田:「20手までに、ナル君含めこの試合を終わらせると誓おう。それができなければ私の敗北とする!
ナル:「……いいぜ。お互いに準備はいいか!
マッスル山田:「いつでも来い!
ルーワ:「大丈夫です!
ナル:「対局、開始ッ!
マッスル山田:「お願いします
ルーワ:「お願いします
0:
マッスル山田:「まずは様子見だ。定石通りに指させてもらうよ
ルーワ:「お得意の穴熊ですか。対策は考えてきています!
マッスル山田:「端攻め……!確かに、穴熊は盤端の守りが一番薄いね。いい手だ
ルーワ:「余裕、ですか。でも、もう囲いの反対側は崩しました。攻めの手数は十分なはず!
マッスル山田:「どこからでもかかってくるといい。穴熊を専門どっているんだ。対策の対策は考えてあるものさ
ルーワ:「ここからです!
ナル:……妙だ。20手までに終わらせるといった割には悠長すぎる。そもそも、穴熊を作っている時点で10手消費しているんだ。今は15手目、どう考えても残り5手で試合を終わらせるなど出来ないはずだ
ナル:「ッ!
ルーワ:「崩れた!もう攻めに転じる暇もないはず!
ナル:「ルーワさん!盤をよく見ろ!
ルーワ:「ナルさん?
マッスル山田:「さすが将棋場潰し。気づいたみたいだね
ルーワ:「盤を、見る……?マッスル山田の歩が1つ消えている。いえ、あったはずのマスに穴が開いている!ま、まさかッ!
マッスル山田:「気づかないのも無理はない。あらかじめ置いておいた角駒に隠れて、そちらから穴は見えないからね
ルーワ:「盤を掘り進めていたというの!?一手目から少しずつ、1枚の歩で!
ナル:「玉の立つ地面がひび割れてきているぞ!
ルーワ:「え!?
マッスル山田:「僕の将棋は2次元なんてとうに超えているのさ。筋肉があれば、地下さえもフィールドにできる。突き上げろ と金!「ゴールデン・キングバスター」!
ナル:「よけろー!
ルーワ:「でも私の手番じゃない!
ナル:「くそっ!
マッスル山田:「下からの攻撃では王を守ることができないだろう。意外とあっけなかったね!ハッハッハッ!
ナル:「……これで勝った気でいるなんて、お笑いだぜ
マッスル山田:「!な、なぜだ。と金の上とんがりが、王に、さ、刺さらない!
ルーワ:「王が、将気をまとっている…!このと金じゃ王を貫けないんだ。でも、この将気はいったい……
ナル:「たった一度の王取りで勝ったつもりでいるのか?そんなんじゃタイトルは1個もとれねえぜ
ルーワ:「ナルさん!
ナル:「ごめんね。バトンタッチだ。
ルーワ:「……お願いします
マッスル山田:「王手がかかるまで、君は出てこないんじゃなかったのかい?
ナル:「つれないこと言うなよ。そもそも、王の真下まで掘り進めた時点で王手はかかっていた。選手交代しても文句はないだろ
マッスル山田:「王手をかけた後に一手お嬢さんが打って、選手続投していたじゃないか
ナル:「交代のタイミングは決めてなかったと思うぜ。なんだ、随分言い訳がましいこというじゃねえか。そんなに俺とやるのが怖いかよ
マッスル山田:「……。すまない!少々勝ちにこだわってしまった。このまま試合続行で構わないよ。どうぞ、そちらの手番だ!
ナル:「それじゃいかせてもらうぜ。まずは、玉を囲う壁を剥がさせてもらう!「飛車ストライク」!
マッスル山田:「ヌウッ!い、一手で、一気に4枚も!
ルーワ:「す、凄い。飛車1枚でも、使い手が違えばまるで別物の威力を発揮するんだ!
マッスル山田:「しかもこれは……
ナル:「銀横、1ターンでとられない場所につかせてもらった。加えて盤端の玉は自軍に囲まれて動けない。次の俺のターンまた4枚取りすりゃ、玉まで届くぞ
ルーワ:「つまり、たった1手、1駒で、王手……!
ナル:「これが穴熊の崩し方さ。よく覚えときな
マッスル山田:「むぅ
ナル:「どうするよ、穴熊野郎。対策の対策はしてあるんだろ?
マッスル山田:「……お見事!さすが将棋場潰しだ!将気を纏い攻めてきた者は、これまでにも何人かいたが、ここまで追い詰められたのは初めてだ!僕も、もう少しだけ、力を出させてもらうよ、スゥゥーー
ルーワ:「な、なに?地下なのに風が吹いている?それに、マッスル山田の棋力が、どんどん上がっていく!
マッスル山田:「スゥゥゥーーー……
ルーワ:「違う、風が吹いているんじゃない、尋常じゃない空気を吸っているんだ!胸が、異様に膨らんでいく!
マッスル山田:「フゥンンッ!
ルーワ:「クッ!この距離ですごい風圧!
マッスル山田:「ふぅ。それでは、桂馬を移動させてターンエンド。そちらの手番だよ
ルーワ:「全然関係ない桂馬を動かして何を……。ッ!ひ、飛車は!?銀横についた飛車はどこにいったの!
ナル:「よく見なって、ルーワさん。俺たちの飛車は消されたわけじゃないぜ
ルーワ:「え?……あッ!飛車のいたマスが、埋没してる!?
ナル:「飛車を盤に埋めたことで、身動きを封じたんだ
ルーワ:「そんな!
マッスル山田:「将気を使ったプレイングはそちらから始めたんだ。何か言われる筋合いはないぞ
ナル:「勿論文句なんてないさ。むしろ嬉しいよ。俺は将棋場トップの全力を見て、感じて、その上で勝ちたいんだ
マッスル山田:「野心家だね
ナル:「将棋バトラーでいるのなら一度は夢見る、「神の一手」。それに近づくためなら、どんな相手がどんな手を使ってきても、勝たなきゃいけねえのさ。違うかよ
マッスル山田:「否定はしない。だが、「神の一手」……若いね。そんなもののために将棋を指しているのかい、君は
ナル:「ああ
マッスル山田:「「神の一手」なんて夢物語、おとぎ話なのさ。上を知れば知るほど、自分がもつには不相応な夢だって自覚する
ナル:「だからプロをやめたのか
マッスル山田:「ッ。ハハ、よく研究しているね。確かに、僕はプロ経験者だ
ナル:「勿論文句なんてないさ。むしろ嬉しいよ。俺は将棋場トップの全力を見て、感じて、その上で勝ちたいんだ
マッスル山田:「野心家だね
ナル:「そういうもんじゃないか?将棋バトラーでいるのなら一度は夢見る「神の一手」。それに近づくためなら、どんな相手がどんな手を使ってきても、勝たなきゃいけねえ。違うかよ
マッスル山田:「否定はしない。だが、「神の一手」……若いね。そんなもののために将棋を指しているのかい、君は
ナル:「そんなもの、か。
マッスル山田:「「神の一手」なんて、夢物語、おとぎ話なのさ。上を知れば知るほど、自分がもつには不相応な夢だって自覚する
ナル:「だからプロをやめたのか
マッスル山田:「ッ。ハハ、よく研究しているね。確かに、僕はプロ経験者だ
ルーワ:「やっぱり
マッスル山田:「昔の話さ。今はこの将棋センターでで半年くらいやらせてもらっている、しがない1人の棋士さ
ナル:「ここだと半年、その前のとこだと1年、更に前のとこでも1年トップをはってたんだってな
マッスル山田:「ッ!?
ナル:「どっちも、この間俺が邪魔してきたとこだ。噂だったよ、無敗の穴熊使いの男がいたって。けど、今のトップが現れてからすぐに姿を見なくなったんだってよ
マッスル山田:「……確かに、僕のことかもしれないね。行かなくなったのは、たまたまじゃないかな。あまり覚えていないよ
ナル:「逃げ癖がついて、いちいち覚えてねえか。プロの時から一緒だろ。自分が勝てる世界じゃなかったからすぐやめたんだ
マッスル山田:「……盤外戦術はもうやめにしないかい。持ち時間が減っていくぞ
ルーワ:「ナルさん、相手の言う通りです。もうあと3分しかもっていません
ナル:「3分も使わないよ。俺は角を移動させて終了だ
マッスル山田:「フッ。ハッハッハッハ…
ルーワ:「な、なにがおかしいんですか!
マッスル山田:「いや、人には「盤をよく見ろ」というくせに、この変化には気づかないとはね。お喋りに夢中だったかい?
ナル:「…4、いや、最初の歩がそんままだから5枚か
マッスル山田:「正解だ。今君の王は、盤を掘り進めた僕の5人の兵士に囲まれている。1枚の歩では落とせないようだからね、数で押させてもらうよ!
ルーワ:「まさか、盤下からの攻撃を5つ同時に!?
マッスル山田:「行け!「キングバスター・5(フィフス)」!
ルーワ:「そんな!ナルさんの玉が!
マッスル山田:「ハッハッハ!大口を叩いた割にはあっけない終わり方だったね
ナル:「……。さっきも言ったぞ、一度や二度の王手で勝ったつもりになるなって
ルーワ:「ナルさん?
マッスル山田:「へえ。君の玉は今、僕の手に握られているがね
ナル:「そいつは、本当に玉か?
マッスル山田:「なに?こ、これは……!
ルーワ:「金!?玉じゃない!……そ、そうか!金の屋根とちょんちょんを1つ隠して玉に見せたんだ!将気を実体化させる者しかできない、伝説の「ダウト・キング戦法」!
マッスル山田:「馬鹿な。将気で駒の文字を隠すだなんて、そんな芸当、プロでもできる奴はいなかったぞ!
ナル:「それはただ、お前の攻めが大したことなかったからじゃないか?
マッスル山田:「なッ!
ナル:「さぁ俺の手番だ。ちょうど20手目、お前のルールにのっとって、この番で終わらせてやるよ
ルーワ:「ここからどうやって……
ナル:「ハアアア……!!!
マッスル山田:「ッ。これは……
ルーワ:「す、凄すぎる!なんて棋力の高まり!右手に……竜の紋章が!
ナル:「飛べよ、ドラゴンッ!
マッスル山田:「埋めた飛車が、成って飛び上がった!?
ナル:「ただの竜じゃねえぞ。竜からさらに成った完全体!竜王だ!
ルーワ:「2つ目の、成った姿……
マッスル山田:「宙に浮くなんて聞いたことないぞ……!
ナル:「3次元の将棋が売りなんじゃなかったか?空の王から陸の王へ、竜の一撃だ!「ドラゴニック・ブレイク」!!
マッスル山田:「お、王を守れ雑兵(ぞうひょう)ども!重なって、この一撃だけは防げえ!………ハァッハァッ
ルーワ:「と、止まった……。囲いにつかっていた他の駒全部を使って、止められた!あと一歩だったのに!
マッスル山田:「は、はは、ハッハッハッハ!どうだ!止めたぞ!王で竜王をとって、ターンエンドだ!
ナル:「自分から射程範囲に入るとは、馬鹿な王もいたもんだな
マッスル山田:「え。あ、あ、あぁあぁ!?
ナル:「角で、王取りだ
ルーワ:「神の、一手……
マッスル山田:「グゥッ、グアアアーーーッ!
0:
マッスル山田:「まけた。…ここでも、僕はまた、醜態をさらしてしまった。勝たなくては、勝ち続けなくてはいけないのに!
ナル:「その勝ちへの執念、プロの頃に染み付いたのか
マッスル山田:「フゥッフゥッ
ナル:「もう少し余裕をもったらどうだ?お前からは勝とうとするより、負けたくない意思を強く感じた。それと、楽しむことだな。
マッスル山田:「たの、しむ
ナル:「俺は楽しかったぜ、あんたとの一局
マッスル山田:「ッ。負けだ、なにもかも。俺の負けだ……
ナル:「ここのトップのタイトル、いただいていくぜ。対局、ありがとうございました
ルーワ:「ありがとうございました
マッスル山田:「……ありがと、ござい、ました
0:
0:間
0:
0:将棋センター前
ルーワ:「やった、やりました!凄かったです、ナルさんのプレイング
ナル:「はは、褒めてくれるのは嬉しいけど、まだまだだな
ルーワ:「あれで、ですか
ナル:「ああ。竜王に成った時の攻撃、本来なら王まで取れたはずなんだ。俺が手懐けられてない証拠さ
ルーワ:「それでも、あの流れは「神の一手」に近いものだったとおもいます
ナル:「そうかな。一手どころか二手三手があったものだけど
ルーワ:「多分、神の一手って、本当に一手だけのことをさす言葉じゃないと思います。それまでの盤の流れを活かした最善手、それはそれまでの手も含まれるんじゃないでしょうか
ナル:「神の一手は一手じゃない、か。面白い事を言うね
ルーワ:「い、いえ、素人が生意気でした!
ナル:「はは、そんなことないよ。あのさ、今度一局、俺とやろうよ
ルーワ:「え!でも私なんかじゃ練習にも……
ナル:「なるさ。今の話も興味があるし。それにルーワさんの穴熊対策も面白かったよ、もっと見たいんだ。まぁ今すぐじゃないからさ、そのうち
ルーワ:「は、はい!このあとは、予定があるんですか?
ナル:「体力づくりのために走って家に帰るようにしてるんだ。そろそろいかないと。それじゃあまた!
ルーワ:「はい、ありがとうございました!
0:
0:間
0:
加久サスオ(マッスル山田):「カークックック…。勝ちしか見えないよう調教された山田を、改心させるとはな。面白いやつよ。もしかしたら現代将棋界は、君みたいな新風を求めているのかもしれないな。…ここまで上がって来な、深良ナル……!
0:続きはありまません。
N(マッスル山田):将棋大国、日本で生まれたからには、誰でも一生のうち一度は夢見る「神の一手」。将棋バトラーとは、「神の一手」を目指す将棋棋士のことである!
モブ(ナル):「ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!ヤ・マ・ダッ!
マッスル山田:「……ニッ!!
実況(ルーワ):「マッスルポーズと素敵な笑顔で登場ゥー!穴熊ッスル山田!今日こそ見せてくれ、「神の一手」をー!
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0:ナル、マッスル山田が登場している生中継を見ながら歩いている。将棋センターを前にして、歩みを止める。
ナル:「なにが神の一手だよ。こんな辺境の将棋センターでトップ貼ってたって、なんの称号にもなんねぇだろうに。……ここか
ルーワ:「……
ナル:「ん、どうしたんだお嬢ちゃん。入り口に突っ立ってちゃ邪魔んなるぜ
ルーワ:「あ、すいません
ナル:「入んないのか?将棋指しに来たんだろ。ん、これはーー
ルーワ:「今日は将棋センター休みですって。お互い、残念でしたね
ナル:「ああ、やってんのはアッチか。来な、案内したげるよ
ルーワ:「え?
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ルーワ:「あの、初めまして、ですよね。ここの将棋センターだと見たことない方だと思うんですけど……
ナル:「ああ、ここにくるのは初めてだよ
ルーワ:「でも、その。どこに向かってるんですか?初めてなのに
ナル:「すぐにわかるさ。ほら、乗りな
ルーワ:「はい。こんなとこにエレベーターがあるなんて、知りませんでした
ナル:「行政が管理してる将棋センターなら、設置場所は決められてんだよ。一見わからないよう隠されてるけどね
ルーワ:「え、こ、これ地下に降りてますよね?この将棋センターに地下があるなんて聞いたことがありません
ナル:「君、ここで将棋を打つようになって何年だい?
ルーワ:「半年、でしょうか
ナル:「それなら知らなくてもしかたないか。今向かってるのは、地下将棋場。そこらのアマたちじゃ簡単に来れない、将棋バトラーが集まる戦場さ
ルーワ:「せ、戦場……
ナル:「さ、着いたぜ
ルーワ:「ッ。すごい熱気
ナル:「そこらへんの床で盤打ってるだろ。誰でも適当に吹っ掛けりゃ将棋できるよ。じゃあな
ルーワ:「は、はい。ありがとうございました。……あの人は、将棋しに来たわけじゃないのかな
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マッスル山田:「いやー、ハッハッハッ!どうもどうも、応援ありがとう!また見に来てくれ!
ナル:「よう
マッスル山田:「んン?なんだい、君も僕のサインが欲しいのかな?色紙があると嬉しいんだが……ああ、Tシャツに書けばいいのかな?
ナル:「悪いが、お前のファンってわけじゃないんだ
マッスル山田:「ふゥン?ッ!その右手の火傷痕は…
ナル:「マイク貸しな。集まってるか将棋馬鹿共!俺が今から、とっておきのスペシャルバトルを見せてやる!
ルーワ:「さっきの人!中央の広い将棋盤で、なにを?
ナル:「ファイターはここのトップ、マッスル山田!そしてーー
マッスル山田:「将棋場潰し…!
ナル:「ナルだ!!
ルーワ:周りの人たちが一気に目の色を変えた。ところどころで怒号も飛んでいる。私も名前くらい知っている。将棋場潰しの、ナル
ナル:「トップはチャレンジャーの挑戦は断れない。そうだよな?
マッスル山田:「ニッ!勿論受けて立つよ!でも、今しがた試合が終わったばかりなんだ。休憩後に対局でいいかい?
ナル:「ああ、いいぜ。お前ら聞いたな、トップは挑戦を受けた!休憩後に中央盤でスペシャルマッチだ!今のままじゃあ熱が足りねえ、もっと客集めてこい!…ほらよ
マッスル山田:「ありがとう。みんなー!俺は誰が相手でも負けないぞー!是非応援しに来てくれー!
0:
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ルーワ:「貴方が、ナルさんだったんですね
ナル:「君はさっきの。へへ、俺も有名人になったもんだな
ルーワ:「将棋場潰しといえば誰でも知っていますよ。各将棋場のトップファイターと戦って、全戦全勝だと
ナル:「まぁな。俺は最強を目指してるんだ。各地のトップを潰していけば、いずれは最強に近づけると思ってな
ルーワ:「……ナルさんに、おねがいがあるんです
ナル:「ん?
ルーワ:「この勝負、私と変わってくださいませんか
ナル:「どうして?
ルーワ:「兄の、仇なんです
ナル:「…詳しく聞いても、いいか
ルーワ:「はい。私の兄、視屋辺ルーゾは、実力が認められてプロ棋士団からスカウトが来るほどのファイターだったんです
ナル:「視屋辺。ああ、テレビで見たことあるな
ルーワ:「でも、アイツが、マッスル山田が全部奪っていった、全部……!急に現れてはすぐに順位を上げてきて、ある日兄を呼び出したかと思ったら、ボロボロになって帰ってきて!……それ以降兄は、自分はプロになる覚悟がなかったんだって、もう駒も将棋盤も見向きしなくなってしまいました。お兄ちゃんがあんなやつに負けるわけないのに!なんかずるしたんだ。じゃなきゃあんな、ポッと出のやつに……!
ナル:「……若いうちに摘まれたんだ。あのマッスル山田とかいうやつ、研究資料は少なかったから確証は得てないが、プロだぜ
ルーワ:「え!?
ナル:「棋士団のスカウトがあったんだろ。正式に入団する前に、才能のあるスカウト組を、一生将棋の出来ないようにしてるやつがいるって噂、聞いたことがある
ルーワ:「それ、って
ナル:「酷な言い方だけど、君の兄は将棋で真っ向勝負をし、プロの実力を前に挫折しただけさ。ズルも何もなかった
ルーワ:「ッ!
ナル:「悔しがることはない。いってしまえばアマとプロだ、そりゃ実力差はあるさ
ルーワ:「でも、それじゃあ私とお兄ちゃんの悔しさは……!お兄ちゃんが頑張ってきた想いを折られた、この苦しみは!どこにぶつければいいのか……!
ナル:「そりゃ将棋でマッスル山田にぶつけなよ
ルーワ:「……でも、プロだったなんて。私と同じ、半年前からここに現れたから、てっきり同じくらいかと思ってたのに
ナル:「怖気づいたのか。君の兄のように
ルーワ:「ッ!
0:ルーワ、ナルの頬を叩く。
ルーワ:「お兄ちゃんを、馬鹿にしないでください!
ナル:「へ。いい将気をもってるじゃないか。それをぶつけりゃいいだけさ
ルーワ:「え
ナル:「選手交代の話、どうしてもっていうなら代わってやるよ。ただし、一度王手をかけられた時点で俺に交代だ。いいな?
0:
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0:中央盤
マッスル山田:「ハッハッハッハッ!皆待たせたね!今日も筋肉で、勝利をもぎ取っていくぞー!
ルーワ:「凄い人気。なによ、自分より弱い奴しか狙わない卑怯者のくせに
ナル:「待ちくたびれたぜ。コンディションが原因だとか言い訳はできないぞ
マッスル山田:「そんなみっともない真似はしないさ。僕はどんな戦いも、正々堂々フェアに行う。全力で相手するために休息をとっただけだよ
ナル:「そりゃいい心がけだな
ルーワ:「なにが正々堂々よ…。それが二度と駒を握れなくする理由になるの……?
マッスル山田:「さっきから気になっているんだが、そこの女性はだれだい?選手は、僕とナル君じゃなかったのかな?
ナル:「それなんだけど、この娘がどうしてもマッスル山田と戦いたいっていうからさ。任せる事にしたんだ
マッスル山田:「ふうむ、僕は構わないけれど。いいのかい?失礼を承知で口にするが、彼女はここに立つ実力を持ってないんじゃないかな
ナル:「実力はなくても資格はあると思うぜ。視屋辺ルーゾって名前に聞き覚えないか?そいつの妹なんだってさ
マッスル山田:「うーーーん、どこかで。あッそうか、前のここのタイトル保持者だね!戦うことなくどこかへ行ってしまったから、僕も悲しかったんだ。そうかあの人の妹さんかぁ。どうだい?お兄さんは元気でやっているかな?ぜひ一度、対局をお願いしたいよ
ルーワ:「白を切りやがって……!お前のせいで、兄は将棋をすることはなくなった!
マッスル山田:「一体なんのことかな?
ルーワ:「おまえェッ!
ナル:「落ち着きな。それ以上は盤外戦術で失格になるぜ
ルーワ:「くッ…
マッスル山田:「とりあえず、そこのお嬢さんと対局すればいいのかな。スペシャルマッチというには、味気ない気もするが
ナル:「安心しろ。今回、こっちは特別ルールをもってきた。戦っている視屋辺ルーワが一度王手をかけられたとき、俺とバトンタッチだ
マッスル山田:「……ハハ!君こそ、僕を舐めているんじゃないかな
ナル:「そんなことないさ。フェアな対局がお好きなんだろ。実力的に、それくらいでやっとフェアだと思ったまでだ
マッスル山田:「言うねえ。そのルールを下げる気がないのなら、私も一つ制限を設けよう!
ナル:「なに?
マッスル山田:「20手までに、ナル君含めこの試合を終わらせると誓おう。それができなければ私の敗北とする!
ナル:「……いいぜ。お互いに準備はいいか!
マッスル山田:「いつでも来い!
ルーワ:「大丈夫です!
ナル:「対局、開始ッ!
マッスル山田:「お願いします
ルーワ:「お願いします
0:
マッスル山田:「まずは様子見だ。定石通りに指させてもらうよ
ルーワ:「お得意の穴熊ですか。対策は考えてきています!
マッスル山田:「端攻め……!確かに、穴熊は盤端の守りが一番薄いね。いい手だ
ルーワ:「余裕、ですか。でも、もう囲いの反対側は崩しました。攻めの手数は十分なはず!
マッスル山田:「どこからでもかかってくるといい。穴熊を専門どっているんだ。対策の対策は考えてあるものさ
ルーワ:「ここからです!
ナル:……妙だ。20手までに終わらせるといった割には悠長すぎる。そもそも、穴熊を作っている時点で10手消費しているんだ。今は15手目、どう考えても残り5手で試合を終わらせるなど出来ないはずだ
ナル:「ッ!
ルーワ:「崩れた!もう攻めに転じる暇もないはず!
ナル:「ルーワさん!盤をよく見ろ!
ルーワ:「ナルさん?
マッスル山田:「さすが将棋場潰し。気づいたみたいだね
ルーワ:「盤を、見る……?マッスル山田の歩が1つ消えている。いえ、あったはずのマスに穴が開いている!ま、まさかッ!
マッスル山田:「気づかないのも無理はない。あらかじめ置いておいた角駒に隠れて、そちらから穴は見えないからね
ルーワ:「盤を掘り進めていたというの!?一手目から少しずつ、1枚の歩で!
ナル:「玉の立つ地面がひび割れてきているぞ!
ルーワ:「え!?
マッスル山田:「僕の将棋は2次元なんてとうに超えているのさ。筋肉があれば、地下さえもフィールドにできる。突き上げろ と金!「ゴールデン・キングバスター」!
ナル:「よけろー!
ルーワ:「でも私の手番じゃない!
ナル:「くそっ!
マッスル山田:「下からの攻撃では王を守ることができないだろう。意外とあっけなかったね!ハッハッハッ!
ナル:「……これで勝った気でいるなんて、お笑いだぜ
マッスル山田:「!な、なぜだ。と金の上とんがりが、王に、さ、刺さらない!
ルーワ:「王が、将気をまとっている…!このと金じゃ王を貫けないんだ。でも、この将気はいったい……
ナル:「たった一度の王取りで勝ったつもりでいるのか?そんなんじゃタイトルは1個もとれねえぜ
ルーワ:「ナルさん!
ナル:「ごめんね。バトンタッチだ。
ルーワ:「……お願いします
マッスル山田:「王手がかかるまで、君は出てこないんじゃなかったのかい?
ナル:「つれないこと言うなよ。そもそも、王の真下まで掘り進めた時点で王手はかかっていた。選手交代しても文句はないだろ
マッスル山田:「王手をかけた後に一手お嬢さんが打って、選手続投していたじゃないか
ナル:「交代のタイミングは決めてなかったと思うぜ。なんだ、随分言い訳がましいこというじゃねえか。そんなに俺とやるのが怖いかよ
マッスル山田:「……。すまない!少々勝ちにこだわってしまった。このまま試合続行で構わないよ。どうぞ、そちらの手番だ!
ナル:「それじゃいかせてもらうぜ。まずは、玉を囲う壁を剥がさせてもらう!「飛車ストライク」!
マッスル山田:「ヌウッ!い、一手で、一気に4枚も!
ルーワ:「す、凄い。飛車1枚でも、使い手が違えばまるで別物の威力を発揮するんだ!
マッスル山田:「しかもこれは……
ナル:「銀横、1ターンでとられない場所につかせてもらった。加えて盤端の玉は自軍に囲まれて動けない。次の俺のターンまた4枚取りすりゃ、玉まで届くぞ
ルーワ:「つまり、たった1手、1駒で、王手……!
ナル:「これが穴熊の崩し方さ。よく覚えときな
マッスル山田:「むぅ
ナル:「どうするよ、穴熊野郎。対策の対策はしてあるんだろ?
マッスル山田:「……お見事!さすが将棋場潰しだ!将気を纏い攻めてきた者は、これまでにも何人かいたが、ここまで追い詰められたのは初めてだ!僕も、もう少しだけ、力を出させてもらうよ、スゥゥーー
ルーワ:「な、なに?地下なのに風が吹いている?それに、マッスル山田の棋力が、どんどん上がっていく!
マッスル山田:「スゥゥゥーーー……
ルーワ:「違う、風が吹いているんじゃない、尋常じゃない空気を吸っているんだ!胸が、異様に膨らんでいく!
マッスル山田:「フゥンンッ!
ルーワ:「クッ!この距離ですごい風圧!
マッスル山田:「ふぅ。それでは、桂馬を移動させてターンエンド。そちらの手番だよ
ルーワ:「全然関係ない桂馬を動かして何を……。ッ!ひ、飛車は!?銀横についた飛車はどこにいったの!
ナル:「よく見なって、ルーワさん。俺たちの飛車は消されたわけじゃないぜ
ルーワ:「え?……あッ!飛車のいたマスが、埋没してる!?
ナル:「飛車を盤に埋めたことで、身動きを封じたんだ
ルーワ:「そんな!
マッスル山田:「将気を使ったプレイングはそちらから始めたんだ。何か言われる筋合いはないぞ
ナル:「勿論文句なんてないさ。むしろ嬉しいよ。俺は将棋場トップの全力を見て、感じて、その上で勝ちたいんだ
マッスル山田:「野心家だね
ナル:「将棋バトラーでいるのなら一度は夢見る、「神の一手」。それに近づくためなら、どんな相手がどんな手を使ってきても、勝たなきゃいけねえのさ。違うかよ
マッスル山田:「否定はしない。だが、「神の一手」……若いね。そんなもののために将棋を指しているのかい、君は
ナル:「ああ
マッスル山田:「「神の一手」なんて夢物語、おとぎ話なのさ。上を知れば知るほど、自分がもつには不相応な夢だって自覚する
ナル:「だからプロをやめたのか
マッスル山田:「ッ。ハハ、よく研究しているね。確かに、僕はプロ経験者だ
ナル:「勿論文句なんてないさ。むしろ嬉しいよ。俺は将棋場トップの全力を見て、感じて、その上で勝ちたいんだ
マッスル山田:「野心家だね
ナル:「そういうもんじゃないか?将棋バトラーでいるのなら一度は夢見る「神の一手」。それに近づくためなら、どんな相手がどんな手を使ってきても、勝たなきゃいけねえ。違うかよ
マッスル山田:「否定はしない。だが、「神の一手」……若いね。そんなもののために将棋を指しているのかい、君は
ナル:「そんなもの、か。
マッスル山田:「「神の一手」なんて、夢物語、おとぎ話なのさ。上を知れば知るほど、自分がもつには不相応な夢だって自覚する
ナル:「だからプロをやめたのか
マッスル山田:「ッ。ハハ、よく研究しているね。確かに、僕はプロ経験者だ
ルーワ:「やっぱり
マッスル山田:「昔の話さ。今はこの将棋センターでで半年くらいやらせてもらっている、しがない1人の棋士さ
ナル:「ここだと半年、その前のとこだと1年、更に前のとこでも1年トップをはってたんだってな
マッスル山田:「ッ!?
ナル:「どっちも、この間俺が邪魔してきたとこだ。噂だったよ、無敗の穴熊使いの男がいたって。けど、今のトップが現れてからすぐに姿を見なくなったんだってよ
マッスル山田:「……確かに、僕のことかもしれないね。行かなくなったのは、たまたまじゃないかな。あまり覚えていないよ
ナル:「逃げ癖がついて、いちいち覚えてねえか。プロの時から一緒だろ。自分が勝てる世界じゃなかったからすぐやめたんだ
マッスル山田:「……盤外戦術はもうやめにしないかい。持ち時間が減っていくぞ
ルーワ:「ナルさん、相手の言う通りです。もうあと3分しかもっていません
ナル:「3分も使わないよ。俺は角を移動させて終了だ
マッスル山田:「フッ。ハッハッハッハ…
ルーワ:「な、なにがおかしいんですか!
マッスル山田:「いや、人には「盤をよく見ろ」というくせに、この変化には気づかないとはね。お喋りに夢中だったかい?
ナル:「…4、いや、最初の歩がそんままだから5枚か
マッスル山田:「正解だ。今君の王は、盤を掘り進めた僕の5人の兵士に囲まれている。1枚の歩では落とせないようだからね、数で押させてもらうよ!
ルーワ:「まさか、盤下からの攻撃を5つ同時に!?
マッスル山田:「行け!「キングバスター・5(フィフス)」!
ルーワ:「そんな!ナルさんの玉が!
マッスル山田:「ハッハッハ!大口を叩いた割にはあっけない終わり方だったね
ナル:「……。さっきも言ったぞ、一度や二度の王手で勝ったつもりになるなって
ルーワ:「ナルさん?
マッスル山田:「へえ。君の玉は今、僕の手に握られているがね
ナル:「そいつは、本当に玉か?
マッスル山田:「なに?こ、これは……!
ルーワ:「金!?玉じゃない!……そ、そうか!金の屋根とちょんちょんを1つ隠して玉に見せたんだ!将気を実体化させる者しかできない、伝説の「ダウト・キング戦法」!
マッスル山田:「馬鹿な。将気で駒の文字を隠すだなんて、そんな芸当、プロでもできる奴はいなかったぞ!
ナル:「それはただ、お前の攻めが大したことなかったからじゃないか?
マッスル山田:「なッ!
ナル:「さぁ俺の手番だ。ちょうど20手目、お前のルールにのっとって、この番で終わらせてやるよ
ルーワ:「ここからどうやって……
ナル:「ハアアア……!!!
マッスル山田:「ッ。これは……
ルーワ:「す、凄すぎる!なんて棋力の高まり!右手に……竜の紋章が!
ナル:「飛べよ、ドラゴンッ!
マッスル山田:「埋めた飛車が、成って飛び上がった!?
ナル:「ただの竜じゃねえぞ。竜からさらに成った完全体!竜王だ!
ルーワ:「2つ目の、成った姿……
マッスル山田:「宙に浮くなんて聞いたことないぞ……!
ナル:「3次元の将棋が売りなんじゃなかったか?空の王から陸の王へ、竜の一撃だ!「ドラゴニック・ブレイク」!!
マッスル山田:「お、王を守れ雑兵(ぞうひょう)ども!重なって、この一撃だけは防げえ!………ハァッハァッ
ルーワ:「と、止まった……。囲いにつかっていた他の駒全部を使って、止められた!あと一歩だったのに!
マッスル山田:「は、はは、ハッハッハッハ!どうだ!止めたぞ!王で竜王をとって、ターンエンドだ!
ナル:「自分から射程範囲に入るとは、馬鹿な王もいたもんだな
マッスル山田:「え。あ、あ、あぁあぁ!?
ナル:「角で、王取りだ
ルーワ:「神の、一手……
マッスル山田:「グゥッ、グアアアーーーッ!
0:
マッスル山田:「まけた。…ここでも、僕はまた、醜態をさらしてしまった。勝たなくては、勝ち続けなくてはいけないのに!
ナル:「その勝ちへの執念、プロの頃に染み付いたのか
マッスル山田:「フゥッフゥッ
ナル:「もう少し余裕をもったらどうだ?お前からは勝とうとするより、負けたくない意思を強く感じた。それと、楽しむことだな。
マッスル山田:「たの、しむ
ナル:「俺は楽しかったぜ、あんたとの一局
マッスル山田:「ッ。負けだ、なにもかも。俺の負けだ……
ナル:「ここのトップのタイトル、いただいていくぜ。対局、ありがとうございました
ルーワ:「ありがとうございました
マッスル山田:「……ありがと、ござい、ました
0:
0:間
0:
0:将棋センター前
ルーワ:「やった、やりました!凄かったです、ナルさんのプレイング
ナル:「はは、褒めてくれるのは嬉しいけど、まだまだだな
ルーワ:「あれで、ですか
ナル:「ああ。竜王に成った時の攻撃、本来なら王まで取れたはずなんだ。俺が手懐けられてない証拠さ
ルーワ:「それでも、あの流れは「神の一手」に近いものだったとおもいます
ナル:「そうかな。一手どころか二手三手があったものだけど
ルーワ:「多分、神の一手って、本当に一手だけのことをさす言葉じゃないと思います。それまでの盤の流れを活かした最善手、それはそれまでの手も含まれるんじゃないでしょうか
ナル:「神の一手は一手じゃない、か。面白い事を言うね
ルーワ:「い、いえ、素人が生意気でした!
ナル:「はは、そんなことないよ。あのさ、今度一局、俺とやろうよ
ルーワ:「え!でも私なんかじゃ練習にも……
ナル:「なるさ。今の話も興味があるし。それにルーワさんの穴熊対策も面白かったよ、もっと見たいんだ。まぁ今すぐじゃないからさ、そのうち
ルーワ:「は、はい!このあとは、予定があるんですか?
ナル:「体力づくりのために走って家に帰るようにしてるんだ。そろそろいかないと。それじゃあまた!
ルーワ:「はい、ありがとうございました!
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0:間
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加久サスオ(マッスル山田):「カークックック…。勝ちしか見えないよう調教された山田を、改心させるとはな。面白いやつよ。もしかしたら現代将棋界は、君みたいな新風を求めているのかもしれないな。…ここまで上がって来な、深良ナル……!
0:続きはありまません。