台本概要

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タイトル 仕立て屋
作者名 四ツ倉絢一  (@2o11_bungei)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 10 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 「ここはね、あなただけの一張羅をあつらえるための場所だよ」

タイトル 『仕立て屋』
キャスト 男性1名(メイン)女性1名不問1名
所要時間 10分前後

男性1名がメインの声劇台本です。前半後半で掛け合いの相手が変わります。
商用・非商用問わずご利用いただけます。
朗読の練習や配信等、ご活用していただければ幸いです。
配信・投稿の際は作者名「四ツ倉絢一」と作者X/Twitterアカウント「@2o11_bungei」を併記、もしくはこちらのページのURLの表記をしていただければ利用報告は不要です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
19 10~20代の男性。カメレオン俳優として有名。人間。
仕立て屋 8 10代の女の子。樹より年下に見える。人間じゃないかもしれない。
インタビュアー 不問 10 成人。雑誌の編集者。人間。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
仕立て屋:「ここはね、仕立て屋」 樹:そうやって話しだしたのは、化粧っけのない、10代くらいの女の子でした。 仕立て屋:「ほころびをつくろって、あなたにぴったりの一張羅を仕立てあげるところ」 樹:正直、騙されたかな。と、思いました。 樹:あなたもそうは思いませんか? 樹:いくら、お世話になっている先輩に教えてもらったんだとしても。僕の悩みを、こんな、同年代の女の子が解決できるわけない。 樹:それでも僕は、その場から立ち去れませんでした。 樹:騙されても、やれることはやりたくて。 仕立て屋:「知ったかぶりをする子って、いるでしょう? 仕立て屋:あれはこうでとてもよかったね、と言うと、そうです知ってますよかったですね、と言う子。でも、声にためらいがあって、目が右に左にそれる子。 仕立て屋:そういう子にはね、指摘せず、否定せず、そうだよね、と言うの。そうやって、ほころびをつくろう。知っている自分に、なってもらう。 仕立て屋:そうやって、仕立てあげるの。なりたいあなたに。 仕立て屋:ここはね、あなただけの一張羅をあつらえるための場所だよ」 樹:「……あの、それ、ほんとうにできるんですか?」 仕立て屋:「うん。それが私の仕事」 樹:言い切られては、僕も腹を決めないわけにはいきません。 樹:「次の……明後日の、オーディションで。記憶をなくした女の子の役を受けるんです、僕」 仕立て屋:「うん、それは素敵だね」 樹:女の子は、こともなげに言いました。 樹:だから僕は、彼女を信頼することにしたのです。 樹:「僕だけの一張羅を、あつらえてくれるんですよね?」 仕立て屋:「素敵な役になりたいの?」 樹:「いいえ」 樹:仕立て屋の女の子は、首をかしげました。 樹:夢を叶えるには、欲張りにならないといけない。 樹:ここを教えてもらったときに、先輩がそう言っていました。 樹:誰よりも努力家な先輩。このときには、初めてのテレビ出演も控えていた先輩。 樹:そんな先輩の言葉なら、信じないわけにはいきません。 樹:あなたも、きっとそうです。 樹:「その役になれる。どんな役にもなれる。 樹:……僕を、とびきり素敵な俳優にしてほしいんです」 仕立て屋:「わかった」 樹:彼女の微笑みはすこし大人びていて、いつか、演技に役立ちそうでした。 仕立て屋:「あなたならなれるよ、絶対に」  : 樹:「そうやって、僕ははじめてオーディションに受かったんです」 0:樹、水を一口飲んで一呼吸置く。 インタビュアー:「はあ……」 樹:「変な話だと思います?」 インタビュアー:「いっ、いえ! おとぎ話みたいだなあって、アハハ…… インタビュアー:えと、それで、あの、あー……あ! 周りの方とかの反応はいかがでしたか?」 樹:「無名の劇団だったから、みんな喜んで祝福してくれました」 インタビュアー:「それはよかったですね。先輩も喜んでくれたんじゃないですか?」 樹:「ええきっと……先輩にもお礼を言おうと思ったんですが、そのときはやっぱり忙しかったのか会えなくて」 インタビュアー:「テレビ出演が決まったとおっしゃってましたね?」 樹:「ええ、そのすこし前から次々と仕事が舞いこんでいて、劇団一の俳優だと言われていました。 樹:毎日忙しく過ごされているんだろうことはわかっていましたが、それにしたって会えなくて。 樹:一ヶ月が過ぎておかしいと思って調べたら、そんな人はいませんでした」 インタビュアー:「えっ?」 樹:「いなかったんです、最初から」 インタビュアー:「あー……アハハ、やだなあ樹さん! 怖い話ですか? インタビュアー:意外と素顔はいたずらっ子だって雑紙に載せますよ〜?」 樹:「先輩のテレビ出演をお祝いした垂れ幕やらなんやら、すべて僕になっていました。 樹:劇団も一番の俳優は僕。 樹:誰に聞いても先輩のことは知らず、先輩が出た芝居は違う人間の名前が並んで。そもそも僕も、先輩の名前が思い出せませんでした」 インタビュアー:「樹さん」 樹:「あなたにも夢、あるでしょう?」 インタビュアー:「……」 樹:「欲張りになったほうがいいですよ。僕はもう、満足しました」 インタビュアー:「……あなた、なに言ってるんですか?」 樹:「性別の壁すら超える、カメレオン俳優、樹。 樹:僕はもう満喫したんです。 樹:この記事は来月号でしたよね? これが出る前に、あなた、行ったほうがいいですよ」 インタビュアー:「はあ……」 樹:「場所はあなたが思うところです。 樹:僕はもう行けませんが、あなたならたどりつきます。先輩は自宅のトイレだったって言ってたかな? 僕は劇団の倉庫でした」 0:樹、インタビュアーに微笑む。 樹:「あなただけの一張羅、素敵でしょうね」

仕立て屋:「ここはね、仕立て屋」 樹:そうやって話しだしたのは、化粧っけのない、10代くらいの女の子でした。 仕立て屋:「ほころびをつくろって、あなたにぴったりの一張羅を仕立てあげるところ」 樹:正直、騙されたかな。と、思いました。 樹:あなたもそうは思いませんか? 樹:いくら、お世話になっている先輩に教えてもらったんだとしても。僕の悩みを、こんな、同年代の女の子が解決できるわけない。 樹:それでも僕は、その場から立ち去れませんでした。 樹:騙されても、やれることはやりたくて。 仕立て屋:「知ったかぶりをする子って、いるでしょう? 仕立て屋:あれはこうでとてもよかったね、と言うと、そうです知ってますよかったですね、と言う子。でも、声にためらいがあって、目が右に左にそれる子。 仕立て屋:そういう子にはね、指摘せず、否定せず、そうだよね、と言うの。そうやって、ほころびをつくろう。知っている自分に、なってもらう。 仕立て屋:そうやって、仕立てあげるの。なりたいあなたに。 仕立て屋:ここはね、あなただけの一張羅をあつらえるための場所だよ」 樹:「……あの、それ、ほんとうにできるんですか?」 仕立て屋:「うん。それが私の仕事」 樹:言い切られては、僕も腹を決めないわけにはいきません。 樹:「次の……明後日の、オーディションで。記憶をなくした女の子の役を受けるんです、僕」 仕立て屋:「うん、それは素敵だね」 樹:女の子は、こともなげに言いました。 樹:だから僕は、彼女を信頼することにしたのです。 樹:「僕だけの一張羅を、あつらえてくれるんですよね?」 仕立て屋:「素敵な役になりたいの?」 樹:「いいえ」 樹:仕立て屋の女の子は、首をかしげました。 樹:夢を叶えるには、欲張りにならないといけない。 樹:ここを教えてもらったときに、先輩がそう言っていました。 樹:誰よりも努力家な先輩。このときには、初めてのテレビ出演も控えていた先輩。 樹:そんな先輩の言葉なら、信じないわけにはいきません。 樹:あなたも、きっとそうです。 樹:「その役になれる。どんな役にもなれる。 樹:……僕を、とびきり素敵な俳優にしてほしいんです」 仕立て屋:「わかった」 樹:彼女の微笑みはすこし大人びていて、いつか、演技に役立ちそうでした。 仕立て屋:「あなたならなれるよ、絶対に」  : 樹:「そうやって、僕ははじめてオーディションに受かったんです」 0:樹、水を一口飲んで一呼吸置く。 インタビュアー:「はあ……」 樹:「変な話だと思います?」 インタビュアー:「いっ、いえ! おとぎ話みたいだなあって、アハハ…… インタビュアー:えと、それで、あの、あー……あ! 周りの方とかの反応はいかがでしたか?」 樹:「無名の劇団だったから、みんな喜んで祝福してくれました」 インタビュアー:「それはよかったですね。先輩も喜んでくれたんじゃないですか?」 樹:「ええきっと……先輩にもお礼を言おうと思ったんですが、そのときはやっぱり忙しかったのか会えなくて」 インタビュアー:「テレビ出演が決まったとおっしゃってましたね?」 樹:「ええ、そのすこし前から次々と仕事が舞いこんでいて、劇団一の俳優だと言われていました。 樹:毎日忙しく過ごされているんだろうことはわかっていましたが、それにしたって会えなくて。 樹:一ヶ月が過ぎておかしいと思って調べたら、そんな人はいませんでした」 インタビュアー:「えっ?」 樹:「いなかったんです、最初から」 インタビュアー:「あー……アハハ、やだなあ樹さん! 怖い話ですか? インタビュアー:意外と素顔はいたずらっ子だって雑紙に載せますよ〜?」 樹:「先輩のテレビ出演をお祝いした垂れ幕やらなんやら、すべて僕になっていました。 樹:劇団も一番の俳優は僕。 樹:誰に聞いても先輩のことは知らず、先輩が出た芝居は違う人間の名前が並んで。そもそも僕も、先輩の名前が思い出せませんでした」 インタビュアー:「樹さん」 樹:「あなたにも夢、あるでしょう?」 インタビュアー:「……」 樹:「欲張りになったほうがいいですよ。僕はもう、満足しました」 インタビュアー:「……あなた、なに言ってるんですか?」 樹:「性別の壁すら超える、カメレオン俳優、樹。 樹:僕はもう満喫したんです。 樹:この記事は来月号でしたよね? これが出る前に、あなた、行ったほうがいいですよ」 インタビュアー:「はあ……」 樹:「場所はあなたが思うところです。 樹:僕はもう行けませんが、あなたならたどりつきます。先輩は自宅のトイレだったって言ってたかな? 僕は劇団の倉庫でした」 0:樹、インタビュアーに微笑む。 樹:「あなただけの一張羅、素敵でしょうね」