台本概要

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タイトル 瞳のない蝶
作者名 野菜  (@irodlinatuyasai)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 人類は淘汰された。有羽族(ゆうはぞく)の手によって。
力、体格、スピード、飛行力。そして兵器の技術や知能においても、有羽族が勝っていた。
人類が数を減らしたのは言うまでもない。希少種となった、純血の人間はペットとして高値で売買されている。

「僕は、生きたいのです。あなたと共に。生かされるだけの存在ではなく。」
「僕に瞳をください。」

男女配役していますが、役者様の性別は問いません。
こちらの世界観がお気に召したら、「翼のない鳥」もぜひ。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
リク 不問 58 純人間。利き手の右腕を失い、両目は包帯で隠されている僕っ娘。ソラのことを信頼しているが、いまいち伝わっていない。
ソラ 不問 57 有羽族の男性。過去の経験から失うことを人並外れて気にしており、人間の視線を嫌う。リクのことを常に気にかけている。何もかも世話したい。年齢は百歳を超えていますが、容姿並びにどんな声質の方でも演じていただきたいです。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:『瞳のない蝶』  野菜  :   :  リク:純人間。利き手の右腕を失い、両目は包帯で隠されている女性。ソラのことを信頼しているが、いまいち伝わっていない。 リク:僕っ子。年齢・容姿はご自由にどうぞ。  :  ソラ:有羽族の男性。過去の経験から失うことを人並外れて気にしており、人間の視線を嫌う。リクのことを常に気にかけている。何もかも世話したい。 ソラ:年齢は百歳を超えていますが、容姿並びにどんな声質の方でも演じていただきたいです。  :   :   :  0:本編開始  :   :   :  0:大きな人間用の鳥かご、その前に近づく羽を持つソラ。リクは眠っている。 ソラ:オリの扉を開ける。床に眠る、片腕の少女。 ソラ:起きなさい、リク。 リク:……おはようございます、ソラさん。 リク:(僕は、目をふさがれている。包帯で、そりゃあぐるぐると。何も、光すらも届かない。それでも。) ソラ:失礼、運ぶよ。 リク:はい。 リク:(僕はなにひとつ、不自由してはいない。)  :   :  ソラ:まずはスープから。むせないでね。あーん。 リク:あー。 リク:(お姫様抱っこで運ばれて、食事……エサも口に運んでもらう。) ソラ:パン、ちぎってある。はい。 リク:(これは介護でしょうか、いいえ、ちがいます。) ソラ:今日は買い物に出かける。連れていくからね。 リク:(もぐもぐした後)かしこまりました。 リク:(僕らは、人間は、飼われているのです。)  :   :   :  ソラ:人類は淘汰された。我々、有羽族(ゆうはぞく)の手によって。 リク:僕の母も父も、ペットとして飼われていたんだそうだ。会ったことはない。気づくとペットショップの業者のもとにいた。 ソラ:力、体格、スピード、飛行力。そして兵器の技術や知能においても、有羽族が勝っていた。 リク:人類が数を減らしたのは言うまでもない。希少種となった、純血の人間はペットとして高値で売買されている。  :   :  0:【間】夜空を飛ぶソラ。すごい速度で飛んでいるが、リード紐で固定され、しっかり抱きかかえられたリクは安定している。 ソラ:力加減は?どこもケガしていないか? リク:ケガは!!ケガはしてないです!!でも!!もう少しゆっくり飛んでいただけますか!! ソラ:どこかちぎれそう? リク:そこまででは!!ないですけども!!怖い!怖いですソラさん!! 0:ぎゅっとソラにしがみつくリク ソラ:……このまま飛びます。 リク:なんでえええええええ!!!  :   :  ソラ:会計を済ませてくる。リード紐をつなぐね。この袋を持って、ここから離れないように。 リク:はい。いってらっしゃいませ。 ソラ:すぐ戻るからね。 リク:(僕は、どこへ行くにも、いつも一緒に連れていかれる。どう考えても人目をひくだろうこんな僕を。) リク:(そして、本当に過保護だ。必要以上に介護……いや甘やかされている。) リク:(それはきっと、あの日から。)  :   :  ソラ:人間を飼育するのは二体目だ。一度目は失敗してしまった。 ソラ:飼っていた人間が窓を割り、逃げ出そうとした。私の家はかなり高所にあるというのに。私が見つけた時の、あの憎々し気な瞳が、今でも心を離れない。 ソラ:おしおきに軽くほんの少し叩いただけだった。それだけなのに。  :   :  リク:……ソラさん? ソラ:……あ。ああ。すまない。運ぶよ、いいかい。 リク:お願いします。  :   :  ソラ:私は、目のない人間を飼おうと思った。潰すことも考えたが、その必要が来たら、その時でいい。 ソラ:ペットショップに私はこう注文した。 リク:ペットショップの狭いオリにいたころ。急に飼育員が包帯を持ってやってきた。 リク:誰か、何かやらかしたのだろうと思ってみていれば、彼女はこちらに近づいてくる。 リク:おとなしく、包帯をぐるぐると両目を覆うように巻かれる。 リク:彼女は言った。「あなたの買い手が決まったわ、殺されたくなければ、自分でこの包帯を外さないことね。」と。  :   :  ソラ:しばらくは穏便に暮らしていた。前の反抗的な人間と違い、注文通りのおとなしい人間だったから。 リク:ペットショップのオリしか知らない僕にとって、新しい有羽族、新しい家は新鮮だった。 ソラ:リクと名付けたその人間は、かわいらしくあちこちを探索した。見ていて飽きなかった、だが。 リク:それがいけなかったんだと思う。  :   :  ソラ:ある日リクが、目を離したすきに触れていたのは、開いた窓だった。あの、彼の、逃げた窓。 リク:新鮮な風を感じて、これが裏口なのではないかと思った。窓にしては、僕にとってあまりに大きかった。体が通るほどに。 ソラ:彼の、最期の憎しみに満ちた瞳がよぎる。衝動に任せて、私は。 リク:僕の腕は。 ソラ:忘れていたんだ。人間が、ほんとうに、もろいこと。  :   :   :  リク:ソラが、料理をしている。いまや僕は、視界がなくとも、利き手がなくとも、部屋の移動や暇つぶしできるようになっていた。 リク:裏口、もとい、窓に触れる。もう窓は窓だ。何が言いたいかって言うと、鉄格子がはまっている。光をとるためだけの、窓。 ソラ:リク?リクどこだい?餌ができた……何してるの。 リク:(ソラの声が凍り付いたのが分かった。) ソラ:……ごはんだよ。 リク:はい。  :   :  0:【間】食事中。隣り合って座る二人。ソラがリクに餌を与えている。やがて皿が空になる。 ソラ:はい、これでおわりだよ。 リク:ごちそうさまでした。 ソラ:うん。 リク:……普段はこんなこと思わないんですけど。 ソラ:なんだい? リク:どうして僕は、こんな姿で生きているのでしょうか。 ソラ:……私を、恨んでいるかい? リク:いいえ!……いいえ。それ以上によくしてもらってます。……やっぱり、さっきの忘れてください。 ソラ:「生きていくことは、死んでいくことだ。」 リク:……え? ソラ:「故に私は、完成して生を終えたものに執着したくない」 リク:ソラさん? ソラ:知り合いの言葉だ。……妙なことを言ったね。忘れてほしい。  :   :   :  0:朝の近づく薄明りの、鳥かごの中。リクが床に横になっている。 リク:(僕は、このなにひとつ不自由ない場所で、ただひとつ望みがあった。) リク:……こういうのは、鮮度が大事、だよね? リク:(感情は、想いは、人間の命なんてのは。簡単に吹き飛ぶんだって。) リク:ウミ、約束、破っちゃうね。  :   :  ソラ:お風呂出たよ。……まだ起きていたんだね。寝よう。おや、そのノートは? リク:ソラさん!お話をしましょう! ソラ:いいよ。どうしたの。 リク:(深呼吸)なぜ僕は、あなたを見れないのですか。 ソラ:……私が、とても醜いからだよ。 リク:気にしません。 ソラ:気にするのはリクじゃない。 リク:では次。なぜ僕は、あなたを助けられないのですか。 ソラ:なにがいいたいの。 リク:腕がなくとも、目が見えればお手伝いくらいできます! ソラ:……その必要はないよ。 リク:では。なぜ。 ソラ:(まるで、リクのないはずの瞳に射抜かれてるようだった。) リク:なぜ僕はただ生かされているのですか!ソラさんは!僕になにも期待してくれない。 ソラ:リク… リク:僕は、僕はね。知らないでしょうけど悪い子なんです。これ、見つけて、読んじゃいました。 ソラ:このノートは…私が、唯一あの子に買い与えた…… リク:読めないでしょうね、文化の違う有羽族には。それは、ウミという人間の日記です。 0:中身をペラペラとめくり、嗚咽をもらすソラ。リクはそのすきに包帯を外す。 ソラ:きっと、さぞかし恨みつらみが書かれているんだろうね、荒々しい文字だ。 リク:いや、ウミさんの字が汚いだけです。 ソラ:!?リク!おまえ勝手に包帯を…… リク:僕は、生きたいのです。あなたと共に。生かされるだけの存在ではなく。 リク:たとえ生きていくことが死んでいくことでもかまわない。それなら僕は! リク:……あなたを。ソラさんを見つめて死んでいきたい。 ソラ:リク…… リク:僕のソラさん。僕に瞳をください。 ソラ:ごめん。ごめんね。君の瞳が、こんなにもきれいだなんて知らなかった。 リク:これからは毎日見れます!……よ、ね? ソラ:そうだね。 リク:改めて?はじめまして!ソラさん!とてもきれいな羽ですよ! ソラ:蛾をきれいだというリクはかなり変わってるね。 リク:(泣いていたソラさんはふわりと笑った。) ソラ:はじめまして、私のリク。  :   :  リク:ウミさんの日記は、案の定文句ばかりだった。 ソラ:でも、想像していたものとはちがった。 リク:男なのにあーんされて虫唾が走るーとか、いつもみられていて気持ち悪いーとか。 ソラ:いたって日常的な不満だった。 リク:「俺以外の人間、絶対あいつには教えんなよ!」なーんて書いてある。……ごめんね、今読み聞かせてるんだ。 ソラ:もしかしたら、彼……ウミは逃げ出すつもりはなかったのかもしれない。 リク:ねえソラさん。 ソラ:なに? リク:僕が逃げ出すと思いますか? ソラ:……私のことが嫌いになったら、きっと。 リク:信頼が!!足りてない!!いいですもん、これからはいっぱいお手伝いして、絶対嫌いにならないって証明してみせるから! ソラ:いや、じっとしていてほしい。 リク:ひどい!  :   :  0:【間】大きな人間用の鳥かご、静かに開いた扉から、リクが出てくる。 リク:オリの扉を開ける。ベッドに眠る、寝相の悪い有羽族。 リク:起きてください、ソラさん。 ソラ:……。 リク:起ーーきーーてーー! ソラ:ごめん、あと少し。 リク:はい。少しだけです。 リク:(僕はなにひとつ、不自由してはいない。)  :   :  ソラ:まずはスープから。熱いから気を付けて。 リク:はい! リク:(手を引かれて歩いて、食事を片手で食べる練習をする。) ソラ:パン、ちぎってある。はい。 リク:(これはリハビリでしょうか、まあ、否定はしません。) ソラ:今日は買い物に出かける。来てくれるよね? リク:(もぐもぐした後)もちろんです。 リク:(僕らは、人間は、彼らと共に生きていくのです。)  :   : 

0:『瞳のない蝶』  野菜  :   :  リク:純人間。利き手の右腕を失い、両目は包帯で隠されている女性。ソラのことを信頼しているが、いまいち伝わっていない。 リク:僕っ子。年齢・容姿はご自由にどうぞ。  :  ソラ:有羽族の男性。過去の経験から失うことを人並外れて気にしており、人間の視線を嫌う。リクのことを常に気にかけている。何もかも世話したい。 ソラ:年齢は百歳を超えていますが、容姿並びにどんな声質の方でも演じていただきたいです。  :   :   :  0:本編開始  :   :   :  0:大きな人間用の鳥かご、その前に近づく羽を持つソラ。リクは眠っている。 ソラ:オリの扉を開ける。床に眠る、片腕の少女。 ソラ:起きなさい、リク。 リク:……おはようございます、ソラさん。 リク:(僕は、目をふさがれている。包帯で、そりゃあぐるぐると。何も、光すらも届かない。それでも。) ソラ:失礼、運ぶよ。 リク:はい。 リク:(僕はなにひとつ、不自由してはいない。)  :   :  ソラ:まずはスープから。むせないでね。あーん。 リク:あー。 リク:(お姫様抱っこで運ばれて、食事……エサも口に運んでもらう。) ソラ:パン、ちぎってある。はい。 リク:(これは介護でしょうか、いいえ、ちがいます。) ソラ:今日は買い物に出かける。連れていくからね。 リク:(もぐもぐした後)かしこまりました。 リク:(僕らは、人間は、飼われているのです。)  :   :   :  ソラ:人類は淘汰された。我々、有羽族(ゆうはぞく)の手によって。 リク:僕の母も父も、ペットとして飼われていたんだそうだ。会ったことはない。気づくとペットショップの業者のもとにいた。 ソラ:力、体格、スピード、飛行力。そして兵器の技術や知能においても、有羽族が勝っていた。 リク:人類が数を減らしたのは言うまでもない。希少種となった、純血の人間はペットとして高値で売買されている。  :   :  0:【間】夜空を飛ぶソラ。すごい速度で飛んでいるが、リード紐で固定され、しっかり抱きかかえられたリクは安定している。 ソラ:力加減は?どこもケガしていないか? リク:ケガは!!ケガはしてないです!!でも!!もう少しゆっくり飛んでいただけますか!! ソラ:どこかちぎれそう? リク:そこまででは!!ないですけども!!怖い!怖いですソラさん!! 0:ぎゅっとソラにしがみつくリク ソラ:……このまま飛びます。 リク:なんでえええええええ!!!  :   :  ソラ:会計を済ませてくる。リード紐をつなぐね。この袋を持って、ここから離れないように。 リク:はい。いってらっしゃいませ。 ソラ:すぐ戻るからね。 リク:(僕は、どこへ行くにも、いつも一緒に連れていかれる。どう考えても人目をひくだろうこんな僕を。) リク:(そして、本当に過保護だ。必要以上に介護……いや甘やかされている。) リク:(それはきっと、あの日から。)  :   :  ソラ:人間を飼育するのは二体目だ。一度目は失敗してしまった。 ソラ:飼っていた人間が窓を割り、逃げ出そうとした。私の家はかなり高所にあるというのに。私が見つけた時の、あの憎々し気な瞳が、今でも心を離れない。 ソラ:おしおきに軽くほんの少し叩いただけだった。それだけなのに。  :   :  リク:……ソラさん? ソラ:……あ。ああ。すまない。運ぶよ、いいかい。 リク:お願いします。  :   :  ソラ:私は、目のない人間を飼おうと思った。潰すことも考えたが、その必要が来たら、その時でいい。 ソラ:ペットショップに私はこう注文した。 リク:ペットショップの狭いオリにいたころ。急に飼育員が包帯を持ってやってきた。 リク:誰か、何かやらかしたのだろうと思ってみていれば、彼女はこちらに近づいてくる。 リク:おとなしく、包帯をぐるぐると両目を覆うように巻かれる。 リク:彼女は言った。「あなたの買い手が決まったわ、殺されたくなければ、自分でこの包帯を外さないことね。」と。  :   :  ソラ:しばらくは穏便に暮らしていた。前の反抗的な人間と違い、注文通りのおとなしい人間だったから。 リク:ペットショップのオリしか知らない僕にとって、新しい有羽族、新しい家は新鮮だった。 ソラ:リクと名付けたその人間は、かわいらしくあちこちを探索した。見ていて飽きなかった、だが。 リク:それがいけなかったんだと思う。  :   :  ソラ:ある日リクが、目を離したすきに触れていたのは、開いた窓だった。あの、彼の、逃げた窓。 リク:新鮮な風を感じて、これが裏口なのではないかと思った。窓にしては、僕にとってあまりに大きかった。体が通るほどに。 ソラ:彼の、最期の憎しみに満ちた瞳がよぎる。衝動に任せて、私は。 リク:僕の腕は。 ソラ:忘れていたんだ。人間が、ほんとうに、もろいこと。  :   :   :  リク:ソラが、料理をしている。いまや僕は、視界がなくとも、利き手がなくとも、部屋の移動や暇つぶしできるようになっていた。 リク:裏口、もとい、窓に触れる。もう窓は窓だ。何が言いたいかって言うと、鉄格子がはまっている。光をとるためだけの、窓。 ソラ:リク?リクどこだい?餌ができた……何してるの。 リク:(ソラの声が凍り付いたのが分かった。) ソラ:……ごはんだよ。 リク:はい。  :   :  0:【間】食事中。隣り合って座る二人。ソラがリクに餌を与えている。やがて皿が空になる。 ソラ:はい、これでおわりだよ。 リク:ごちそうさまでした。 ソラ:うん。 リク:……普段はこんなこと思わないんですけど。 ソラ:なんだい? リク:どうして僕は、こんな姿で生きているのでしょうか。 ソラ:……私を、恨んでいるかい? リク:いいえ!……いいえ。それ以上によくしてもらってます。……やっぱり、さっきの忘れてください。 ソラ:「生きていくことは、死んでいくことだ。」 リク:……え? ソラ:「故に私は、完成して生を終えたものに執着したくない」 リク:ソラさん? ソラ:知り合いの言葉だ。……妙なことを言ったね。忘れてほしい。  :   :   :  0:朝の近づく薄明りの、鳥かごの中。リクが床に横になっている。 リク:(僕は、このなにひとつ不自由ない場所で、ただひとつ望みがあった。) リク:……こういうのは、鮮度が大事、だよね? リク:(感情は、想いは、人間の命なんてのは。簡単に吹き飛ぶんだって。) リク:ウミ、約束、破っちゃうね。  :   :  ソラ:お風呂出たよ。……まだ起きていたんだね。寝よう。おや、そのノートは? リク:ソラさん!お話をしましょう! ソラ:いいよ。どうしたの。 リク:(深呼吸)なぜ僕は、あなたを見れないのですか。 ソラ:……私が、とても醜いからだよ。 リク:気にしません。 ソラ:気にするのはリクじゃない。 リク:では次。なぜ僕は、あなたを助けられないのですか。 ソラ:なにがいいたいの。 リク:腕がなくとも、目が見えればお手伝いくらいできます! ソラ:……その必要はないよ。 リク:では。なぜ。 ソラ:(まるで、リクのないはずの瞳に射抜かれてるようだった。) リク:なぜ僕はただ生かされているのですか!ソラさんは!僕になにも期待してくれない。 ソラ:リク… リク:僕は、僕はね。知らないでしょうけど悪い子なんです。これ、見つけて、読んじゃいました。 ソラ:このノートは…私が、唯一あの子に買い与えた…… リク:読めないでしょうね、文化の違う有羽族には。それは、ウミという人間の日記です。 0:中身をペラペラとめくり、嗚咽をもらすソラ。リクはそのすきに包帯を外す。 ソラ:きっと、さぞかし恨みつらみが書かれているんだろうね、荒々しい文字だ。 リク:いや、ウミさんの字が汚いだけです。 ソラ:!?リク!おまえ勝手に包帯を…… リク:僕は、生きたいのです。あなたと共に。生かされるだけの存在ではなく。 リク:たとえ生きていくことが死んでいくことでもかまわない。それなら僕は! リク:……あなたを。ソラさんを見つめて死んでいきたい。 ソラ:リク…… リク:僕のソラさん。僕に瞳をください。 ソラ:ごめん。ごめんね。君の瞳が、こんなにもきれいだなんて知らなかった。 リク:これからは毎日見れます!……よ、ね? ソラ:そうだね。 リク:改めて?はじめまして!ソラさん!とてもきれいな羽ですよ! ソラ:蛾をきれいだというリクはかなり変わってるね。 リク:(泣いていたソラさんはふわりと笑った。) ソラ:はじめまして、私のリク。  :   :  リク:ウミさんの日記は、案の定文句ばかりだった。 ソラ:でも、想像していたものとはちがった。 リク:男なのにあーんされて虫唾が走るーとか、いつもみられていて気持ち悪いーとか。 ソラ:いたって日常的な不満だった。 リク:「俺以外の人間、絶対あいつには教えんなよ!」なーんて書いてある。……ごめんね、今読み聞かせてるんだ。 ソラ:もしかしたら、彼……ウミは逃げ出すつもりはなかったのかもしれない。 リク:ねえソラさん。 ソラ:なに? リク:僕が逃げ出すと思いますか? ソラ:……私のことが嫌いになったら、きっと。 リク:信頼が!!足りてない!!いいですもん、これからはいっぱいお手伝いして、絶対嫌いにならないって証明してみせるから! ソラ:いや、じっとしていてほしい。 リク:ひどい!  :   :  0:【間】大きな人間用の鳥かご、静かに開いた扉から、リクが出てくる。 リク:オリの扉を開ける。ベッドに眠る、寝相の悪い有羽族。 リク:起きてください、ソラさん。 ソラ:……。 リク:起ーーきーーてーー! ソラ:ごめん、あと少し。 リク:はい。少しだけです。 リク:(僕はなにひとつ、不自由してはいない。)  :   :  ソラ:まずはスープから。熱いから気を付けて。 リク:はい! リク:(手を引かれて歩いて、食事を片手で食べる練習をする。) ソラ:パン、ちぎってある。はい。 リク:(これはリハビリでしょうか、まあ、否定はしません。) ソラ:今日は買い物に出かける。来てくれるよね? リク:(もぐもぐした後)もちろんです。 リク:(僕らは、人間は、彼らと共に生きていくのです。)  :   :