台本概要

 107 views 

タイトル 善の鬼 第六章「刺客」
作者名 Oroるん  (@Oro90644720)
ジャンル 時代劇
演者人数 4人用台本(不問4) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ・演者性別不問ですが、役性別変えないでお願いします。
・時代考証甘めです
・軽微なアドリブ可

 107 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
善鬼 113 小野善鬼(おのぜんき)
穂邑 19 ほむら
典膳 55 神子上典膳(みこがみてんぜん)
一刀斎 68 伊東一刀斎(いとういっとうさい)
伊予 20 いよ ※穂邑との兼ね役推奨
六平太 5 ろくへいた ※一刀斎との兼ね役推奨
剣豪 4 ※典膳との兼ね役推奨
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:ただ真っ白いだけの空間 一刀斎と善鬼が斬り合っている。 善鬼:やあああああ! 0:一刀斎、善鬼の斬撃を受け止める。 一刀斎:むん!・・・どうした、そんなものか! 善鬼:お前を・・・お前を殺して、俺は自由になるんだ! 一刀斎:足りぬぞ!そんなものでは、俺には届かぬわ! 善鬼:おおおおお! 一刀斎:シャアッ! 0:二人の斬撃がぶつかり合う。 善鬼:死ね!一刀斎!! 一刀斎:そうだ!・・・もっともっと、俺に殺意をぶつけろ! 善鬼:はあああああ! 一刀斎:ぐっ! 0:善鬼の斬撃が、一刀斎の肩を深く斬りつける。 善鬼:(荒々しい息遣い) 一刀斎:(うめき声) 善鬼:先生・・・ 一刀斎:(暗く笑いながら)やりおったな。 善鬼:・・・ 一刀斎:遂に・・・俺を超えたか・・・ 善鬼:これで、終わりです。 一刀斎:そうだな・・・さあ、とどめをさせ。 善鬼:・・・ 0:善鬼、剣を鞘に納める。 一刀斎:何をしている?何故、剣をしまう? 善鬼:・・・ 0:善鬼、一刀斎に背を向け歩き出す。 一刀斎:どこへゆく?戻ってこい!とどめをさせ! 0:善鬼、応えず歩き続ける。 一刀斎:待て!戻ってこいと言うのが分からぬか! 一刀斎:俺を殺せ!・・・善鬼!善鬼ぃ!! 0:一刀斎の寝室 一刀斎:はっ!(目覚める) 典膳:先生! 一刀斎:・・・典膳。 典膳:大丈夫ですか?ひどくうなされておられたようですが・・・ 一刀斎:そうか。 典膳:水でもお持ちしましょうか? 一刀斎:要らぬ。 典膳:・・・ 一刀斎:案ずるな。少し、夢見(ゆめみ)が悪かっただけだ。 一刀斎:・・・ただの、夢だ。 0:道場 善鬼:はあっ! 0:典膳、善鬼の打ち込みを受ける。 典膳:くっ!はっ! 0:典膳、善鬼を押し返し距離を取る。 善鬼:(深く呼吸する) 典膳:(落ち着け・・・落ち着け。) 善鬼:ふっ! 典膳:やあっ! 0:二人の木刀がぶつかり合う。 典膳:『弟子入りした時とは違う。兄者の太刀筋が見えるようになってきた。』 善鬼:せいっ! 典膳:やあっ! 典膳:(集中しろ!必ず勝機は来る!) 善鬼:おらあ! 典膳:(今だ!) 典膳:でやああ! 0:しばしの静寂 善鬼:ぐっ! 典膳:や、やった・・・兄者から・・・兄者から一本取った! 善鬼:(激しい息遣い) 典膳:あ、兄者!すいません、大丈夫ですか? 善鬼:へっ、大丈夫だよ。それより・・・ 典膳:? 善鬼:やるじゃねえか。今のは見事だったぜ。腕上げたな。 典膳:は、はい! 善鬼:鍛えた甲斐があったってもんだ。最初から分かってたんだぜ。「おめえはもっと強くなれる」ってな。 典膳:(涙ぐみながら)兄者。 善鬼:おめえは、俺の自慢の弟弟子だ! 典膳:ありがとうございます!これも全て先生と兄者のおかげです! 典膳:これからもご指導、ご鞭撻の程を・・・ 善鬼:(被せて)隙ありぃ! 0:善鬼、典膳に打ち込む。 典膳:ぐはぁ! 善鬼:(豪快に笑う)油断したなあ!勝負はまだ終わってねえぞ! 典膳:ひ、卑怯な! 善鬼:卑怯?戦いに「卑怯」なんて言葉は存在しねえ! 典膳:いや、今のは流石に・・・ 善鬼:問答無用! 典膳:くっ!でやあああ! 善鬼:『先生が稽古するようになって以来、典膳はめきめきと腕を上げていた。まだ俺の方が上だが、いずれ追い抜かれるだろう。』 善鬼:『こいつの才能が妬(ねた)ましい。だが一方で、これで良かったのかもしれない、とも思う。』 善鬼:『典膳なら、きっと先生とも上手くやっていける。』 善鬼:『もしかして俺は、この為に典膳を弟弟子にしたのか。こいつを、俺の身代わりにするために・・・』 善鬼:『これで、先生の元を離れて、とらと一緒に・・・』 一刀斎:『逃げることは許さん。』 善鬼:っ! 典膳:兄者?どうかされましたか? 善鬼:・・・何でもねえ。 善鬼:(・・・大丈夫だ。大丈夫のはずだ。) 0:欅楼 善鬼:よう。 穂邑:いらっしゃい。 善鬼:ほい、土産。 0:善鬼、饅頭の箱を差し出す。 穂邑:・・・またいつもの饅頭(まんじゅう)かい?あんたの土産は、毎度変わり映えしないねえ。 善鬼:ところがどっこい、今日はそれだけじゃあねえんだぜ! 穂邑:え? 善鬼:これだ! 0:善鬼、饅頭の箱を差し出す。 穂邑:いや、同じ饅頭じゃないか。 善鬼:今日はなんと、二箱(ふたはこ)だ! 穂邑:・・・ 善鬼:どうだ?驚いたか? 穂邑:アンタのその発想に驚かされたよ・・・ 善鬼:何だよ、嬉しくねえのか?「土産が変わり映えしねえ」って、いつも文句ばっかり言うからよ。 穂邑:数を増やしゃ良いってもんじゃないんだよ!私は、土産の中身がいつもおんなじだって言ってんだ! 善鬼:ちぇっ、折角(せっかく)買ってきたのによ。いらねえなら持って帰るわ。 0:善鬼、饅頭の箱を取り上げる。 穂邑:誰も要らないとは言ってないだろ! 0:穂邑、箱を取り返す。 善鬼:結局食うんじゃねえか。 穂邑:(饅頭食べる) 善鬼:饅頭が駄目なら、一体何なら良いんだ? 穂邑:(饅頭頬張りながらなので聞き取れない様に)そりゃあ、簪(かんざし)とか・・・ 善鬼:何だって? 穂邑:(一旦饅頭を飲み込んで)簪! 善鬼:・・・食えねえじゃねえか。 穂邑:当たり前だろ! 善鬼:そんなもんもらって何が嬉しいんだ?ただの髪飾りだろ? 穂邑:(大きなため息)あんた、女心ってやつを何にも分かってないねえ。 善鬼:うるせえ。 穂邑:普通の馴染み客ってのは、遊女にそういう気の利いたもんを贈ってくれるんだけどねえ。 穂邑:それでよく、身請けするだなんて言えたもんだ。 善鬼:う・・・ 穂邑:ま、アンタに簪の良し悪しが分かるはずもないか。 善鬼:なんだと!俺だってその気になりゃあ、簪の一本くらい選べらあ! 穂邑:はいはい、そういう事にしとこうね。 善鬼:馬鹿にしやがって!見てろ!今度来る時はなあ、おめえが腰抜かす様な一品、持ってきてやる! 穂邑:(棒読みで)そいつは楽しみだー 善鬼:ぜってえだからな!期待して待ってろ! 穂邑:はいはーい。 0:欅楼からの帰り道 善鬼:とらのやつ、見てろよ!俺だってやればできるってところを見せてやる! 善鬼:たかが髪飾り選ぶのがどうだってんだ!そんなもん結局あれだろ・・・ 善鬼:その・・・何だ・・・とにかく、派手なやつ買っときゃ良いんだろ! 善鬼:・・・ 善鬼:・・・ 善鬼:・・・一応、典膳にも聞いてみるか。あいつそういうの詳しそうだし。 善鬼:あくまで一応ね。一応・・・ 0:逗留している宿に付く。 善鬼:典膳、帰ったぞ。ちょっとおめえに聞きてえ事が・・・ 典膳:(宿の中から)先生! 善鬼:何だ!? 0:善鬼、宿の中を駆け抜け、部屋の襖を開ける。 一刀斎:(酒を飲む)おう、善鬼か。どうした?血相を変えて。 善鬼:先生?・・・こ、これは! 善鬼:『酒を飲む先生の傍(かたわら)には、半裸(はんら)の女が横たわっていた。』 善鬼:『女の胸からはおびただしい血が流れ落ちており、すでに事切れていた。』 典膳:兄者・・・ 善鬼:典膳、一体何があった? 典膳:私も、今戻ったばかりでして・・・ 一刀斎:何、町で女を買ってな、ここで「こと」に及んでおったのだが、「まぐわって」いる最中に、短刀を振りかざしてきおったのよ。 典膳:なんと・・・ 一刀斎:だから斬り捨ててやった、というわけだ。 善鬼:まさか、この女・・・ 典膳:例の一味ですか? 一刀斎:ガキの次は女か。節操(せっそう)の無い連中だ。 典膳:・・・ 善鬼:先生、もしかして、その女が刺客だと気付いていらっしゃったんですか? 典膳:え? 一刀斎:ああ。 典膳:何故、わざわざ敵の術中にはまるような真似を? 一刀斎:考えてもみろ、命を狙ってくる女を抱くなど、そうそうできる経験ではないだろう? 典膳:まさか、その為に・・・ 一刀斎:(豪快に笑う)なかなか、新鮮な感覚であったぞ。 典膳:・・・ 善鬼:とにかく、骸(むくろ)を始末しないと・・・ 一刀斎:そんなもん、後だ後。お前らも飲め! 典膳:いや、そんな場合では・・・ 一刀斎:俺が飲めと言っておるのだぞ? 善鬼:・・・分かりました。 典膳:・・・ 典膳:『こんなに味のしない酒は初めてだ。それはそうだ、すぐ隣に女の骸があるのだから。普通、酒を飲むような状況ではない。』 一刀斎:お前ら、知っているか?巷(ちまた)では俺の事を「剣鬼」と呼ぶんだそうだ。 典膳:「剣鬼」ですか? 一刀斎:ああ。「剣の鬼」で「剣鬼」だ。どうだ?なかなか良い呼び名だとは思わんか? 典膳:それは・・・ 善鬼:・・・ 一刀斎:どうした?(鼻で笑う)これが雑言(ぞうごん)であることぐらい、分かっておるわ。 一刀斎:しかし、よいではないか。俺たちは人に好かれる為に剣を振るっているわけでは無い。 一刀斎:人に畏怖(いふ)されるのは当然の事。 一刀斎:鬼とは、言い得て妙ではないか。 典膳:はあ・・・ 一刀斎:お前らも強くなりたければ、人である事を捨てよ。鬼になるのだ。 善鬼:鬼・・・ 一刀斎:そうすれば・・・? 典膳:先生? 一刀斎:(ため息)ゆっくり酒も飲ませてくれんのか。 典膳:・・・はっ! 善鬼:『その時、障子(しょうじ)を突き破って何かが投げ込まれた。投げ込まれた物体は掛け軸に突き刺さった。』 善鬼:これは、飛び苦無(くない)? 一刀斎:やれやれ。 善鬼:『苦無が次々に投げ込まれる。障子が穴だらけになった。』 典膳:くそっ! 善鬼:『典膳が障子を開け放つ。そこは中庭だった。暗闇で良く見えないが、数人の刺客がいるようだ。』 一刀斎:こんな夜更けに、ご苦労なことだ。 善鬼:典膳! 典膳:はいっ! 0:二人、中庭に飛び込み、刀を抜く。 伊予:伊東一刀斎!その首、貰い受ける! 善鬼:こいつ・・・ 典膳:・・・女? 一刀斎:ほう。 伊予:やあっ! 0:伊予、苦無を投げる。 典膳:はあっ! 0:典膳、苦無を刀で打ち落とす。 伊予:苦無を、刀で打ち払った? 善鬼:てめえら、一体何もんだ? 伊予:かかれ! 0:刺客達、刀を抜いて斬りかかる。 善鬼:くっ!おらあああ! 典膳:でやあああ! 0:善鬼、典膳、応戦する。 一刀斎:おい、この骸はお前らの仲間だろ?(女の死体を中庭に投げ込む) 伊予:っ!桔梗(ききょう)! 一刀斎:丁度良かった、お前らで葬って(ほうむって)やってくれ。 伊予:おのれ! 善鬼:まさか、おめえが頭(かしら)なのか? 伊予:答える義理はない!一刀斎、覚悟! 0:伊予、一刀斎斬りかかる。 典膳:させるか! 0:典膳、伊予の剣を受け止める。 伊予:くっ! 典膳:(こいつ・・・できる!) 伊予:はあああ! 典膳:やあああ! 0:典膳と伊予、斬り合う。 善鬼:(典膳とあそこまでやり合えるとは、ただもんじゃねえな。) 一刀斎:ふんっ! 0:一刀斎、伊予に当て身を入れる。 伊予:ぐああっ! 0:伊予、吹き飛ばされる。 典膳:先生! 一刀斎:俺にも遊ばせろ。女の武芸者は久しぶりだ。 0:一刀斎、刀を抜く。 伊予:貴様・・・ 一刀斎:お前は、このくたばった女の様に、抱かせてはくれんのか? 伊予:ふざけるな!死ねえええ! 0:伊予の斬撃を一刀斎が受け止める。 一刀斎:おっと。鋭さはあるが、軽い剣だな。 0:一刀斎と伊予、鍔迫り合いになる。 伊予:貴様のせいで・・・父上は! 典膳:何? 一刀斎:はあっ! 0:一刀斎、伊予を突き飛ばす。 伊予:ぐっ! 善鬼:でりゃああ!(一人斬り倒す)うっし!あと二人! 伊予:(舌打ち)引けっ! 善鬼:逃がすか! 一刀斎:追うな! 善鬼:え? 0:伊予達、逃げ去る。 典膳:何故追わないのですか? 一刀斎:面白そうな連中ではないか。ここで終わらせては勿体ないだろう。 典膳:はあ・・・ 善鬼:・・・ 一刀斎:結局骸は置いていったのか。こちらで始末するしかないようだな。 善鬼:しかしあの女、相当な使い手だったな。親父がどうとか言ってたが、仇討ち(あだうち)か? 典膳:どうでしょうか?「貴様のせいで」と言っていましたので、少し違う気がします。 一刀斎:どうせ似た様な話だろう。理由などどうでもよいわ。 一刀斎:それより、次はどのように仕掛けてくるか、そちらの方が興味がある。 0:伊予が根城にしている廃屋。 伊予:ただいま戻りました、兄上。 六平太:首尾は? 伊予:申し訳ございません、討ち損じました。 六平太:そうか・・・すまんな、俺も右腕を失っておらねば、加勢できたものを。 伊予:それもこれも全て、あの憎き一刀斎のせいでございます! 六平太:・・・ 伊予:これから、どうなさいますか?  六平太:各地に散らばる同志達を集めよ。 伊予:それでは? 六平太:小細工は終い(しまい)だ。我らの総力を持って、必ずや一刀斎を討ち取ってくれる! 0:数ヶ月後 善鬼:典膳?いねえのか? 一刀斎:典膳なら出かけておるぞ。俺の使いでな。 善鬼:先生。 一刀斎:案ずるな。立ち会いの申し込みはあったが、此度(こたび)はあいつを名代(みょうだい)にしたのではない。 善鬼:・・・ 一刀斎:久々に俺直々に出向いてやろうと思ってな。相手は神道流(しんとうりゅう)の達人らしい。どうだ、面白そうだろう? 善鬼:お供致します。もしかしたら、例の一味かもしれません。 一刀斎:それはそれで面白そうだが、まあ、好きにせい。 0:草原 剣豪:お待ち申しておりました。 善鬼:『立ち会いの場所は何も無い草原だった。相手は先に着いて俺たちを待ち構えていた。』 善鬼:『ただし、一人ではなく・・・』 一刀斎:お主の子か? 剣豪:いかにも。 善鬼:『子連れだった。』 一刀斎:良いのか?子供に見せるものではないと思うが。 剣豪:構いませぬ。この子には、私の生き様全てを見せてやりたいのです。 善鬼:(何が生き様だ。もうすぐこのガキが目にするのは、親父の「死に様」なんだぞ?) 一刀斎:それは、よい心掛けだな。 善鬼:『誰が相手だろうと関係ない。先生に勝てる者など、いない。』 善鬼:『だから、相対(あいたい)した者は必ず命を落とす事になる。』 0:剣豪、刀を抜く。 剣豪:いざ! 0:時間経過 善鬼:『「だから言っただろ」と、男の骸を見下ろしながら思った。男の目は見開かれていたが、その瞳が動くことはもう無い。』 一刀斎:(ため息)期待外れだったな。 善鬼:『子供は男の死体に縋(すが)り付きながら泣き叫んでいる。』 善鬼:『この子は、これからどうなってしまうのか。世話してくれる人はいるのだろうか?』 一刀斎:おいガキ、いつまでも泣くな。お前も男だろう? 善鬼:『子供が先生を睨み付ける。その目には・・・殺気が込められていた。』 一刀斎:む? 善鬼:あっ! 善鬼:『突然、子供が父親の剣を掴むと、先生に斬りかかっていった。』 善鬼:『恐らく、剣など初めて持ったのだろう。その斬撃はととても覚束(おぼつか)ないものだった。』 善鬼:『しかし、不意をつかれたのか、先生はかわしきれず、袴(はかま)がわずかに斬りつけられた。』 一刀斎:(舌打ち) 善鬼:(まずい!) 善鬼:このガキ! 善鬼:『俺は子供を蹴り付けた。小さな体が、草原をごろごろと転がっていく。』 善鬼:おめえのせいで、先生のお着物に傷がついたじゃねえか! 善鬼:『俺は草原に倒れた子供の体を蹴り続けた。一切の手加減無く、全力で。そうしなければ、先生に気取(けど)られてしまう。』 一刀斎:・・・ 善鬼:(辛抱しろガキ!これは全部おめえの為なんだ。) 善鬼:(息を切らせながら)先生、このガキの始末、俺に任せて下さい。きっちり締め上げてやりますよ。 一刀斎:善鬼。 善鬼:はい。 一刀斎:斬れ。 善鬼:・・・・・・え? 一刀斎:このガキを斬れ、と言ったんだ。 0:つづく

0:ただ真っ白いだけの空間 一刀斎と善鬼が斬り合っている。 善鬼:やあああああ! 0:一刀斎、善鬼の斬撃を受け止める。 一刀斎:むん!・・・どうした、そんなものか! 善鬼:お前を・・・お前を殺して、俺は自由になるんだ! 一刀斎:足りぬぞ!そんなものでは、俺には届かぬわ! 善鬼:おおおおお! 一刀斎:シャアッ! 0:二人の斬撃がぶつかり合う。 善鬼:死ね!一刀斎!! 一刀斎:そうだ!・・・もっともっと、俺に殺意をぶつけろ! 善鬼:はあああああ! 一刀斎:ぐっ! 0:善鬼の斬撃が、一刀斎の肩を深く斬りつける。 善鬼:(荒々しい息遣い) 一刀斎:(うめき声) 善鬼:先生・・・ 一刀斎:(暗く笑いながら)やりおったな。 善鬼:・・・ 一刀斎:遂に・・・俺を超えたか・・・ 善鬼:これで、終わりです。 一刀斎:そうだな・・・さあ、とどめをさせ。 善鬼:・・・ 0:善鬼、剣を鞘に納める。 一刀斎:何をしている?何故、剣をしまう? 善鬼:・・・ 0:善鬼、一刀斎に背を向け歩き出す。 一刀斎:どこへゆく?戻ってこい!とどめをさせ! 0:善鬼、応えず歩き続ける。 一刀斎:待て!戻ってこいと言うのが分からぬか! 一刀斎:俺を殺せ!・・・善鬼!善鬼ぃ!! 0:一刀斎の寝室 一刀斎:はっ!(目覚める) 典膳:先生! 一刀斎:・・・典膳。 典膳:大丈夫ですか?ひどくうなされておられたようですが・・・ 一刀斎:そうか。 典膳:水でもお持ちしましょうか? 一刀斎:要らぬ。 典膳:・・・ 一刀斎:案ずるな。少し、夢見(ゆめみ)が悪かっただけだ。 一刀斎:・・・ただの、夢だ。 0:道場 善鬼:はあっ! 0:典膳、善鬼の打ち込みを受ける。 典膳:くっ!はっ! 0:典膳、善鬼を押し返し距離を取る。 善鬼:(深く呼吸する) 典膳:(落ち着け・・・落ち着け。) 善鬼:ふっ! 典膳:やあっ! 0:二人の木刀がぶつかり合う。 典膳:『弟子入りした時とは違う。兄者の太刀筋が見えるようになってきた。』 善鬼:せいっ! 典膳:やあっ! 典膳:(集中しろ!必ず勝機は来る!) 善鬼:おらあ! 典膳:(今だ!) 典膳:でやああ! 0:しばしの静寂 善鬼:ぐっ! 典膳:や、やった・・・兄者から・・・兄者から一本取った! 善鬼:(激しい息遣い) 典膳:あ、兄者!すいません、大丈夫ですか? 善鬼:へっ、大丈夫だよ。それより・・・ 典膳:? 善鬼:やるじゃねえか。今のは見事だったぜ。腕上げたな。 典膳:は、はい! 善鬼:鍛えた甲斐があったってもんだ。最初から分かってたんだぜ。「おめえはもっと強くなれる」ってな。 典膳:(涙ぐみながら)兄者。 善鬼:おめえは、俺の自慢の弟弟子だ! 典膳:ありがとうございます!これも全て先生と兄者のおかげです! 典膳:これからもご指導、ご鞭撻の程を・・・ 善鬼:(被せて)隙ありぃ! 0:善鬼、典膳に打ち込む。 典膳:ぐはぁ! 善鬼:(豪快に笑う)油断したなあ!勝負はまだ終わってねえぞ! 典膳:ひ、卑怯な! 善鬼:卑怯?戦いに「卑怯」なんて言葉は存在しねえ! 典膳:いや、今のは流石に・・・ 善鬼:問答無用! 典膳:くっ!でやあああ! 善鬼:『先生が稽古するようになって以来、典膳はめきめきと腕を上げていた。まだ俺の方が上だが、いずれ追い抜かれるだろう。』 善鬼:『こいつの才能が妬(ねた)ましい。だが一方で、これで良かったのかもしれない、とも思う。』 善鬼:『典膳なら、きっと先生とも上手くやっていける。』 善鬼:『もしかして俺は、この為に典膳を弟弟子にしたのか。こいつを、俺の身代わりにするために・・・』 善鬼:『これで、先生の元を離れて、とらと一緒に・・・』 一刀斎:『逃げることは許さん。』 善鬼:っ! 典膳:兄者?どうかされましたか? 善鬼:・・・何でもねえ。 善鬼:(・・・大丈夫だ。大丈夫のはずだ。) 0:欅楼 善鬼:よう。 穂邑:いらっしゃい。 善鬼:ほい、土産。 0:善鬼、饅頭の箱を差し出す。 穂邑:・・・またいつもの饅頭(まんじゅう)かい?あんたの土産は、毎度変わり映えしないねえ。 善鬼:ところがどっこい、今日はそれだけじゃあねえんだぜ! 穂邑:え? 善鬼:これだ! 0:善鬼、饅頭の箱を差し出す。 穂邑:いや、同じ饅頭じゃないか。 善鬼:今日はなんと、二箱(ふたはこ)だ! 穂邑:・・・ 善鬼:どうだ?驚いたか? 穂邑:アンタのその発想に驚かされたよ・・・ 善鬼:何だよ、嬉しくねえのか?「土産が変わり映えしねえ」って、いつも文句ばっかり言うからよ。 穂邑:数を増やしゃ良いってもんじゃないんだよ!私は、土産の中身がいつもおんなじだって言ってんだ! 善鬼:ちぇっ、折角(せっかく)買ってきたのによ。いらねえなら持って帰るわ。 0:善鬼、饅頭の箱を取り上げる。 穂邑:誰も要らないとは言ってないだろ! 0:穂邑、箱を取り返す。 善鬼:結局食うんじゃねえか。 穂邑:(饅頭食べる) 善鬼:饅頭が駄目なら、一体何なら良いんだ? 穂邑:(饅頭頬張りながらなので聞き取れない様に)そりゃあ、簪(かんざし)とか・・・ 善鬼:何だって? 穂邑:(一旦饅頭を飲み込んで)簪! 善鬼:・・・食えねえじゃねえか。 穂邑:当たり前だろ! 善鬼:そんなもんもらって何が嬉しいんだ?ただの髪飾りだろ? 穂邑:(大きなため息)あんた、女心ってやつを何にも分かってないねえ。 善鬼:うるせえ。 穂邑:普通の馴染み客ってのは、遊女にそういう気の利いたもんを贈ってくれるんだけどねえ。 穂邑:それでよく、身請けするだなんて言えたもんだ。 善鬼:う・・・ 穂邑:ま、アンタに簪の良し悪しが分かるはずもないか。 善鬼:なんだと!俺だってその気になりゃあ、簪の一本くらい選べらあ! 穂邑:はいはい、そういう事にしとこうね。 善鬼:馬鹿にしやがって!見てろ!今度来る時はなあ、おめえが腰抜かす様な一品、持ってきてやる! 穂邑:(棒読みで)そいつは楽しみだー 善鬼:ぜってえだからな!期待して待ってろ! 穂邑:はいはーい。 0:欅楼からの帰り道 善鬼:とらのやつ、見てろよ!俺だってやればできるってところを見せてやる! 善鬼:たかが髪飾り選ぶのがどうだってんだ!そんなもん結局あれだろ・・・ 善鬼:その・・・何だ・・・とにかく、派手なやつ買っときゃ良いんだろ! 善鬼:・・・ 善鬼:・・・ 善鬼:・・・一応、典膳にも聞いてみるか。あいつそういうの詳しそうだし。 善鬼:あくまで一応ね。一応・・・ 0:逗留している宿に付く。 善鬼:典膳、帰ったぞ。ちょっとおめえに聞きてえ事が・・・ 典膳:(宿の中から)先生! 善鬼:何だ!? 0:善鬼、宿の中を駆け抜け、部屋の襖を開ける。 一刀斎:(酒を飲む)おう、善鬼か。どうした?血相を変えて。 善鬼:先生?・・・こ、これは! 善鬼:『酒を飲む先生の傍(かたわら)には、半裸(はんら)の女が横たわっていた。』 善鬼:『女の胸からはおびただしい血が流れ落ちており、すでに事切れていた。』 典膳:兄者・・・ 善鬼:典膳、一体何があった? 典膳:私も、今戻ったばかりでして・・・ 一刀斎:何、町で女を買ってな、ここで「こと」に及んでおったのだが、「まぐわって」いる最中に、短刀を振りかざしてきおったのよ。 典膳:なんと・・・ 一刀斎:だから斬り捨ててやった、というわけだ。 善鬼:まさか、この女・・・ 典膳:例の一味ですか? 一刀斎:ガキの次は女か。節操(せっそう)の無い連中だ。 典膳:・・・ 善鬼:先生、もしかして、その女が刺客だと気付いていらっしゃったんですか? 典膳:え? 一刀斎:ああ。 典膳:何故、わざわざ敵の術中にはまるような真似を? 一刀斎:考えてもみろ、命を狙ってくる女を抱くなど、そうそうできる経験ではないだろう? 典膳:まさか、その為に・・・ 一刀斎:(豪快に笑う)なかなか、新鮮な感覚であったぞ。 典膳:・・・ 善鬼:とにかく、骸(むくろ)を始末しないと・・・ 一刀斎:そんなもん、後だ後。お前らも飲め! 典膳:いや、そんな場合では・・・ 一刀斎:俺が飲めと言っておるのだぞ? 善鬼:・・・分かりました。 典膳:・・・ 典膳:『こんなに味のしない酒は初めてだ。それはそうだ、すぐ隣に女の骸があるのだから。普通、酒を飲むような状況ではない。』 一刀斎:お前ら、知っているか?巷(ちまた)では俺の事を「剣鬼」と呼ぶんだそうだ。 典膳:「剣鬼」ですか? 一刀斎:ああ。「剣の鬼」で「剣鬼」だ。どうだ?なかなか良い呼び名だとは思わんか? 典膳:それは・・・ 善鬼:・・・ 一刀斎:どうした?(鼻で笑う)これが雑言(ぞうごん)であることぐらい、分かっておるわ。 一刀斎:しかし、よいではないか。俺たちは人に好かれる為に剣を振るっているわけでは無い。 一刀斎:人に畏怖(いふ)されるのは当然の事。 一刀斎:鬼とは、言い得て妙ではないか。 典膳:はあ・・・ 一刀斎:お前らも強くなりたければ、人である事を捨てよ。鬼になるのだ。 善鬼:鬼・・・ 一刀斎:そうすれば・・・? 典膳:先生? 一刀斎:(ため息)ゆっくり酒も飲ませてくれんのか。 典膳:・・・はっ! 善鬼:『その時、障子(しょうじ)を突き破って何かが投げ込まれた。投げ込まれた物体は掛け軸に突き刺さった。』 善鬼:これは、飛び苦無(くない)? 一刀斎:やれやれ。 善鬼:『苦無が次々に投げ込まれる。障子が穴だらけになった。』 典膳:くそっ! 善鬼:『典膳が障子を開け放つ。そこは中庭だった。暗闇で良く見えないが、数人の刺客がいるようだ。』 一刀斎:こんな夜更けに、ご苦労なことだ。 善鬼:典膳! 典膳:はいっ! 0:二人、中庭に飛び込み、刀を抜く。 伊予:伊東一刀斎!その首、貰い受ける! 善鬼:こいつ・・・ 典膳:・・・女? 一刀斎:ほう。 伊予:やあっ! 0:伊予、苦無を投げる。 典膳:はあっ! 0:典膳、苦無を刀で打ち落とす。 伊予:苦無を、刀で打ち払った? 善鬼:てめえら、一体何もんだ? 伊予:かかれ! 0:刺客達、刀を抜いて斬りかかる。 善鬼:くっ!おらあああ! 典膳:でやあああ! 0:善鬼、典膳、応戦する。 一刀斎:おい、この骸はお前らの仲間だろ?(女の死体を中庭に投げ込む) 伊予:っ!桔梗(ききょう)! 一刀斎:丁度良かった、お前らで葬って(ほうむって)やってくれ。 伊予:おのれ! 善鬼:まさか、おめえが頭(かしら)なのか? 伊予:答える義理はない!一刀斎、覚悟! 0:伊予、一刀斎斬りかかる。 典膳:させるか! 0:典膳、伊予の剣を受け止める。 伊予:くっ! 典膳:(こいつ・・・できる!) 伊予:はあああ! 典膳:やあああ! 0:典膳と伊予、斬り合う。 善鬼:(典膳とあそこまでやり合えるとは、ただもんじゃねえな。) 一刀斎:ふんっ! 0:一刀斎、伊予に当て身を入れる。 伊予:ぐああっ! 0:伊予、吹き飛ばされる。 典膳:先生! 一刀斎:俺にも遊ばせろ。女の武芸者は久しぶりだ。 0:一刀斎、刀を抜く。 伊予:貴様・・・ 一刀斎:お前は、このくたばった女の様に、抱かせてはくれんのか? 伊予:ふざけるな!死ねえええ! 0:伊予の斬撃を一刀斎が受け止める。 一刀斎:おっと。鋭さはあるが、軽い剣だな。 0:一刀斎と伊予、鍔迫り合いになる。 伊予:貴様のせいで・・・父上は! 典膳:何? 一刀斎:はあっ! 0:一刀斎、伊予を突き飛ばす。 伊予:ぐっ! 善鬼:でりゃああ!(一人斬り倒す)うっし!あと二人! 伊予:(舌打ち)引けっ! 善鬼:逃がすか! 一刀斎:追うな! 善鬼:え? 0:伊予達、逃げ去る。 典膳:何故追わないのですか? 一刀斎:面白そうな連中ではないか。ここで終わらせては勿体ないだろう。 典膳:はあ・・・ 善鬼:・・・ 一刀斎:結局骸は置いていったのか。こちらで始末するしかないようだな。 善鬼:しかしあの女、相当な使い手だったな。親父がどうとか言ってたが、仇討ち(あだうち)か? 典膳:どうでしょうか?「貴様のせいで」と言っていましたので、少し違う気がします。 一刀斎:どうせ似た様な話だろう。理由などどうでもよいわ。 一刀斎:それより、次はどのように仕掛けてくるか、そちらの方が興味がある。 0:伊予が根城にしている廃屋。 伊予:ただいま戻りました、兄上。 六平太:首尾は? 伊予:申し訳ございません、討ち損じました。 六平太:そうか・・・すまんな、俺も右腕を失っておらねば、加勢できたものを。 伊予:それもこれも全て、あの憎き一刀斎のせいでございます! 六平太:・・・ 伊予:これから、どうなさいますか?  六平太:各地に散らばる同志達を集めよ。 伊予:それでは? 六平太:小細工は終い(しまい)だ。我らの総力を持って、必ずや一刀斎を討ち取ってくれる! 0:数ヶ月後 善鬼:典膳?いねえのか? 一刀斎:典膳なら出かけておるぞ。俺の使いでな。 善鬼:先生。 一刀斎:案ずるな。立ち会いの申し込みはあったが、此度(こたび)はあいつを名代(みょうだい)にしたのではない。 善鬼:・・・ 一刀斎:久々に俺直々に出向いてやろうと思ってな。相手は神道流(しんとうりゅう)の達人らしい。どうだ、面白そうだろう? 善鬼:お供致します。もしかしたら、例の一味かもしれません。 一刀斎:それはそれで面白そうだが、まあ、好きにせい。 0:草原 剣豪:お待ち申しておりました。 善鬼:『立ち会いの場所は何も無い草原だった。相手は先に着いて俺たちを待ち構えていた。』 善鬼:『ただし、一人ではなく・・・』 一刀斎:お主の子か? 剣豪:いかにも。 善鬼:『子連れだった。』 一刀斎:良いのか?子供に見せるものではないと思うが。 剣豪:構いませぬ。この子には、私の生き様全てを見せてやりたいのです。 善鬼:(何が生き様だ。もうすぐこのガキが目にするのは、親父の「死に様」なんだぞ?) 一刀斎:それは、よい心掛けだな。 善鬼:『誰が相手だろうと関係ない。先生に勝てる者など、いない。』 善鬼:『だから、相対(あいたい)した者は必ず命を落とす事になる。』 0:剣豪、刀を抜く。 剣豪:いざ! 0:時間経過 善鬼:『「だから言っただろ」と、男の骸を見下ろしながら思った。男の目は見開かれていたが、その瞳が動くことはもう無い。』 一刀斎:(ため息)期待外れだったな。 善鬼:『子供は男の死体に縋(すが)り付きながら泣き叫んでいる。』 善鬼:『この子は、これからどうなってしまうのか。世話してくれる人はいるのだろうか?』 一刀斎:おいガキ、いつまでも泣くな。お前も男だろう? 善鬼:『子供が先生を睨み付ける。その目には・・・殺気が込められていた。』 一刀斎:む? 善鬼:あっ! 善鬼:『突然、子供が父親の剣を掴むと、先生に斬りかかっていった。』 善鬼:『恐らく、剣など初めて持ったのだろう。その斬撃はととても覚束(おぼつか)ないものだった。』 善鬼:『しかし、不意をつかれたのか、先生はかわしきれず、袴(はかま)がわずかに斬りつけられた。』 一刀斎:(舌打ち) 善鬼:(まずい!) 善鬼:このガキ! 善鬼:『俺は子供を蹴り付けた。小さな体が、草原をごろごろと転がっていく。』 善鬼:おめえのせいで、先生のお着物に傷がついたじゃねえか! 善鬼:『俺は草原に倒れた子供の体を蹴り続けた。一切の手加減無く、全力で。そうしなければ、先生に気取(けど)られてしまう。』 一刀斎:・・・ 善鬼:(辛抱しろガキ!これは全部おめえの為なんだ。) 善鬼:(息を切らせながら)先生、このガキの始末、俺に任せて下さい。きっちり締め上げてやりますよ。 一刀斎:善鬼。 善鬼:はい。 一刀斎:斬れ。 善鬼:・・・・・・え? 一刀斎:このガキを斬れ、と言ったんだ。 0:つづく