声劇台本置き場

女①：ねえ。 女②：なに？ 女①：そろそろ私を解放してよぉ……。 女②：…………（ため息をついて水を飲む）。 女①：もしもーし？ねえ、無視すんなってば。 女②：私にどうしろって言うの？ 女①：言ってんじゃん。どうして欲しいかはずっと。 女②：無理。 女①：なんで？ 女②：そのお願いは聞き入れられないかなー。 女①：だからなんで。 女②：無理だから。 女①：なんで？ 　：（間） 女②：……え？逆にさ。なんでそんなに私と会いたいの？ 女①：会いたいから。 女②：理由になってないし、普通に嫌。 女①：なんで？ 女②：私にメリットないじゃん。 女①：デメリットもないでしょ。 女②：デメリットしかないよ。 女①：なんで？ 女②：なんでわざわざ私があんたに顔晒しにいかなきゃなんないのよ？ 女①：だから！確かめたいの！私は！それだけ！ 女②：私は何も確かめることない。 女①：本当に会うだけ！5秒もかかんない！ちょーうお買い得！そんで、見たら満足して帰るからぁ！ 女②：交通費無駄すぎる。 女①：それじゃあ勿体無いから、そのままデートしよ、デート！ 女②：やだ。何かされそうだもん。 女①：何もしないわよ、別に！ 女②：いや、普通に結構怖いから。 女①：…………。 　：（間） 女①：あ、分かった。じゃあじゃあ！デメリットを極力減らせば良いわけだ。 女②：いや、何が「じゃあじゃあ」なのよ。何も分かってないからね、あんたは。 女①：別に2人きりじゃなくてもいいからー！10人とかでもいいから！ 女②：やだよ。人多いの疲れるもん。 　：（間） 女②：え。ねぇ待って。もしかして、これってちょっと口説かれてるわけ？今？私？ 女①：え。逆に今までの会話なんだと思ってたの。 女②：え？本気で口説いてんの、これ？私たち女同士だよ！？ 　：（間） 女①：ｯｽー……いや。なんかそういう風に言われるとまあ……違う気もするけど。 女②：うん。好きって言うか、「顔が好き」なだけだもんね？見たらすぐ帰るって、「顔を」だもんね？ 女①：うん。私、あんたの顔めっちゃ好き。 女②：写真でしか見たことないくせに？ 女①：だから確かめたいの！あんたが本当にタイプの顔かどうか！ 女②：確かめてどうすんのよ。 女①：「うわあ、本当に好きな顔だ」ってなる。 女②：何それ。 女①：気になるじゃん？ 女②：……別に好みの顔のタイプなんてそこら中にいるって。世の中の二分の一は男だし、そっちで好み探す方が合理的でしょ。私である必要ない。 女①：いやー。私、男の人の顔ってみんなじゃがいもか、へのへのもへじに見えるんだよね。 女②：あー、理想高いタイプだ？ 女①：そんなつもりないんだけどなぁ。 女②：それなのに私の顔が好き、ねえ……。 女①：そう。悲しいことに、あんたの顔が人生で一番好き……！ 女②：そうなんだー。ありがとう。それは嬉しいー。 女①：軽いなぁ。 女②：いや。だって知ってたもん。あんたが私の顔好きって言ってんのは。 女①：うん。 女②：でも、人生で一番ってのは知らなかったからさ。しかも女の顔で一番、って意味じゃなくて、全性別中一番好きな顔って思ってくれてるとは思わなかったから……。いや〜、なんかごめんね〜？顔良くて。 女①：……あんたってほんと嫌な女だよね。 女②：顔がいいって自覚はあるから。 女①：はー。これだから美人は。 女②：でも、きっとイメージとは違うと思うよ。 女①：え？ 女②：ネットに上げてる写真なんて、どうせ虚構だもん。色んなところを可愛く最適化してあるんだから。 女①：でも前動画上げてたじゃん。動画はそんな加工できなくない？ 女②：加工アプリの技術進化はすごいわけよ。 女①：あー。じゃあやっぱり騙されちゃってんだ、私。 女②：そう。騙されてるの、現在進行形で。 　：（間） 女①：あーあ。私ほんっとあんたのこと嫌い。 女②：なんでよ。好きって言ったじゃん、私の顔。 女①：うん。どちゃくそに好き。 女②：ほら。 女①：だから嫌い。 女②：だからなんでよ。 女①：だって、人生最高があんたなんだよ？ 女②：うん。良いじゃん。良かったね、人生最高の顔と出会えて。 女①：いや出会えてないじゃん。 女②：出会ってるじゃん。ほら。こうして話してる。 女①：会えてないんだよな〜〜〜。 女②：大丈夫大丈夫。すぐ他の人が更新するって、人生最高。 女①：いや、「どんぴしゃど真ん中」って中々なくない？ 女②：……え？……いや、どうだろ。私はないからな。ストライクど真ん中に好みの人と出会った経験。 女①：でしょー？ 女②：まあ、ね？ 女①：吉沢亮はイケメンで、橋本環奈は可愛いってみんながみんな思うじゃん？でも、お前の好みどんぴしゃど真ん中ストライクバッターアウトかって言われたら、話変わってこない？ 女②：そう、だね。変わるかも。 女①：そうなんだよ。変わるんだよ。 女②：……なるほど？ 女①：で、現状私の一番ど真ん中には、あんたがいるわけ。 女②：可哀想。 女①：悔しい。あんたの顔が一番好き！ 女②：……ありがとう？ 女①：疑問系にしないで！噛み締めて、私の「好き」を！ 女②：何それ。 女①：噛み締めて、ほら、今！ 女②：……私のこと、好き？ 女①：うん、大好き。可愛い。一番。最高。あんたがナンバーワン！ 女②：ふ。ありがと。噛み締めた。 女①：うん、よーく味わってよね。 女②：何か段々自己肯定感上がってきた。 女①：おー。そりゃ良かった。 女②：おかげで自撮りをネットに上げていいね集めなくて済むかも。 女①：え、なんで。それは上げてよ。 女②：食いつかないでよ。 女①：いや、新しい自撮りは見たいじゃん。大事な判断材料じゃん。 女②：あんなん、自己肯定感めためたに低い時に上げるくらいがちょうど良いのよ。 女①：そんなもん？ 女②：そんなもん。 女①：ふぅん。 女②：……誰かに肯定されたい時って、あるじゃん。 女①：まあ、うん。 女②：自撮りってのは、そういう「寂しい」「認めて」って感情を吐き出した結果なわけ。 女①：……なるほど。 女②：ってことで、今あんたが私を認めてくれたから、しばらく撮る必要がなくなったのです。 女①：私の「好き」で、しばらく分チャージできたわけだ。 女②：そういうこと。 　：（間） 女①：（早口で）それはそれとして自撮りは見たいけどね？ 女②：必死やめろ。 女①：じゃあ会おうよ！ 女②：なんでそんなに会うことに拘るかなあ。 女①：顔が好きだから。 女②：顔だけね。 女①：いや、それは……。んんん。ん〜〜〜！？ 女②：何よ。 女①：いや……だってこれ言うとなんか本当にガチな感じになるからさあ〜〜〜。 女②：今更？大丈夫だよ。あんた現在進行形でヤバい奴ポイントカード押され続けてるから。 女①：あ、そう？ 女②：うん。もうすぐ貯まって景品がもらえるレベル。 女①：あんたに会える券？ 女②：それは絶対ない。それだけは確定でない。 女①：一回会ったらもう騒がないって。会えないから会いたんだって。 女②：あー、ないものねだり的な？ 女①：手に入らないから焦がれるわけよ。 女②：そんなもんですか。 女①：そんなもんですよ。 女②：へぇ。 女①：私が冷めたら、あんたもこれ以上面倒じゃないじゃん。 女②：でも、別に好きでいてくれるんならそれに越したことないじゃん？ 女①：え？ 女②：ギャーギャー騒いでるあんたは面白いし。好かれるのも気持ちいいし。 女①：は？ 女②：（笑って）一生好きでいたら？私の顔。 女①：悪魔かあんたは。 女②：天使でしょ。 女①：顔だけね！？ 　：（間） 女①：（大きなため息）本当にあんたの言う通りになりそうで怖い……。 女②：ご愁傷さま。 女①：あんたのことが気になって夜しか眠れない。 女②：寝れてんじゃん。 女①：私の貴重な時間を無駄にしているという罪悪感はないのか！ 女②：ない。私にとったらそれ、貴重でもなんでもないもん。 女①：……あんたねえ。嫌な女ポイントカード作ったら一瞬で貯まるわよ。 女②：ウケる。 女①：ウケるな！ 女②：（笑って）……で？ 女①：え？ 女②：ガチな感じになるけど、なに？ 　：（間） 女①：……私さあ。 女②：うん？ 女①：あんたのさあ。 女②：うん。なに？ 女①：……性格悪いとこ……好きなんだよね……。 女②：はい？ 女①：あと、あざとい所も……。 　：（間） 女②：趣味悪。 女①：……だよねぇ。知ってる。 女②：えー。馬鹿じゃん。 女①：それな？……あーあ。だから余計翻弄されるんだよなあ。 女②：あんたが勝手に転がってるだけね？ 女①：そういう感じも結構好きなんだよなあ。ずるい。 女②：何にもずるくないからね。 女①：……人生最高があんたって事実が許せないんだもん。 女②：そう言われましても。 女①：だって、よりによってあんたって。 女②：まあまあ、良いじゃん私が一番。最高じゃん私が一番。 女①：助けてくれよー、私を。 女②：どうやってよ、嫌だよ。 女①：人助けだと思って救って！お願い！ 女②：あんたと会う時間があるなら、駅前で困ってるおばあちゃん探す方が有意義だろうねえ。 女①：あんたって私に冷たすぎない？ 女②：深夜3時の電話に出てる時点ですんごく優しいよ。 女①：……確かに。 女②：ね？ 女①：……でもさ。こうしてあんたに縛られてる私、可哀想すぎると思わない？ 女②：思わない。ネタとして面白いからずっとそのままでいて欲しい。 女①：えぇ……？私一生あんたを頭の特等席に置き続けなきゃなんないの？ 女②：え。私、今あんたの頭の特等席にいんの？ 　：（間） 女①：いる……ね。 女②：それは草。 女①：草生やすな！ 女②：ウケる。 女①：ウケんなって。 女②：ははっ。 女①：あーーー。 女②：あー、お腹痛い。 女①：しんどい……。 女②：私は今、結構良い気分。 女①：あのさあ。 女②：ん？ 女①：頼むから早く老いてくんない？ 女②：は？ 女①：早くBBAになれ！ 女②：こらこらこら。人の老化を望むな。 女①：そうしたらタイプじゃなくなるかもしれない。ほら！早くしわくちゃになれ！ほうれい線にシミ小皺！たるみにむくみに色素沈着！ 女②：いや何、こわ。 女②：（ため息）人生でBBAになれなんて命令されるの、これが最初で最後だろうねえ。 女①：やった！私が最初で最後の女！ 女②：どこで喜んでんのよ。 　：（間） 女②：ねえ。 女①：ん？ 女②：……年取ってしわくちゃになったら、もう私に構ってくれないの？ 女①：…………。 女②：ねぇってば。 女①：あのさ。「構ってくれないの？」って訊き方ずるくない？あざとくない、あんた？ 女②：ふふ。……よし。私、今しわくちゃの可愛いおばあちゃんになるって目標ができたわ。 女①：おー。なれなれ。 女②：なれますかねえ？可愛いおばあちゃんに。 女①：あり得る。全然ある。保証する。 女②：会ったことないのに？ 女①：ないのに。 女②：会ったことない人の言葉はな〜。信じられないからな〜。 女①：いや。なら、会ってよ。 女②：幻滅するよ、会ったら。 女①：なんで。 女②：写真とはやっぱ違うから。 女①：あんたってさあ。自信あんのかないのか……結局どっち？ 女②：……自分でも分かんない。 女①：何じゃそりゃ。 女②：…………。 女①：おーい？ 女②：……たらどうなんの？ 女①：え？ 　：（間） 女②：会ったら、実際どういう反応するの？ 女①：どうって……。 女②：写真と違ったら？ 女①：違ったら？ 女②：うん。 女①：写真と違って好みじゃなかったら……うーん、そうだなぁ。 　：（間） 女①：（咳払い）「あ、こんにちは」 女②：「こんにちは」 女①：「はじめまして」 女②：「はじめまして」 女①：（上から下まで女②を見て）「ｯｽー……はい。ありがとうございました」 女②：「えっ、もう良いんですか？」 女①：「はい、もういいです。それでは」 女②：「それでは……？」 　：（間） 女①：……って、現地解散する。 女②：どっ最低じゃん。 女①：現地集合現地リリース。 女②：リリースって言うな。その時点じゃ捕まってねーわ！ 女①：いや……ってかまあ、普通にそのまま遊ぶでしょ。顔がタイプじゃなくても。あんたはあんたなんだし。 女②：まあ、ね……。 女①：で、私の熱も冷めて、私はあんたの呪縛から解放される。 女②：最初から呪ってないし。 女①：呪われてんの、現在進行形で。 女②：人聞き悪いな。騙されてるだけだって。現在進行形で。 　：（間） 女①：それ変わんなくない？どっちも。 女②：……変わんない、か。どっちも。 　：（間） 女①：でもね？ 女②：んー？ 女①：顔が写真と違っても、結局好きだと思うよ。 女②：…………は？ 女①：あんたの空気、居心地良いんだもん。だからどんなあんたでも、可愛いって思うと思う。 女②：……へぇ。 女①：何か、そんな気がする！ 女②：あっそ。 女①：うん！ 　：（間） 女②：……じゃあ、さ。 女①：ん？ 女②：実際会ってみて、写真通り好みだったらどうするの？ 女①：好みだったら……？ 女②：うん。 　：（間） 女①：告白する……？ 女②：ぷっ、はは……！あんたねえ……！ 女①：いやそりゃそうでしょ。性格好き、顔好き、そんなんもうそれしかないじゃん！ 女②：だから私たち女同士だって。 女①：今時、恋愛に女も男も関係ないでしょ！ 女②：だって私の恋愛対象男だし。それに顔見られて「はい、ありがとうございました」って言われるのも癪に触るし。 女①：癪に触るってあんたねえ……。 女②：むかつくじゃん、なんか。 女①：まあ、そうだよね。顔見て「チェンジ」って言われてるようなもんだもんね。 女②：ほらね？やっぱりメリットない。 女①：そっか〜。 女②：……っていうか、そもそも私に告白する想像できるの、あんた？ 女①：え？……いや。 女①：うーん。でき、ない、かも……？ 女②：ねー？できないでしょ？ 　：（間） 女①：え、でもさ。 女②：ん？ 女①：あ、ちょうどそれ。 女②：え？ 女①：その「ん？」って言うの、結構好き。 女②：何、いきなり。 女①：私、あんたの声も好きだよって話！ 女②：…………ふ。 女①：おーい。ちょっとにやけたのバレてるぞ〜？ 女②：だって。 女①：なに？ 女②：嬉しいじゃん、普通に。 女①：うん。 女②：顔に、性格に、声も？ 女①：……うん。 女②：全部じゃん。 女①：ね。全部なんだよね。 女②：ふぅん？ 女①：だから、会って実際タイプかどうか確かめたいわけ。 女②：あ、結局そこに戻るんだ。 女①：戻るでしょ。 女②：そこで顔もチェックしたがるのがな〜。そこは「顔は関係ない」って言えないもんですかね、面食いさん？ 女①：ばっかだなー。例えば喧嘩しても、相手の顔が良かったらなんか許せるでしょ。美は世界を救うの。顔が良い方がいいに決まってる。 女②：そういうもんかな。 女①：そういうもん！ 女②：……面食いだって隠しもしないんですねえ。 女①：人間素直な方が絶対いいからね。 女②：正直すぎるのもどうかと思うけど。 女①：言いたいことは言う。やりたいことはすぐ実行する。現代人に足りてない要素の2つだぞ！ 女②：あー、だから電話も突然かけてくるんだ。 女①：電話なんて突然以外かけようがなくない？ 女②：急なんだもん。今だってこんな遅い時間じゃん。 女①：出たじゃん。 女②：出たけど。 女①：ね？ 女②：「ね？」じゃないよ。そんなんだから私、あんたの電話滅多に出ないんだから。 女①：そう！あんたほんっと私の電話出ないよね！？ 女②：あんたの着信履歴すごいよ。 女①：何が？ 女②：まるでレッドカーペット。 女①：それはあんたが私の電話ずっと無視するからでしょ！？不在着信の赤文字履歴がずっと溜まってるってことじゃん！ 女②：別に無視してる訳じゃないよ。あんたが毎回出るのだるい時にかけてくるだけ。 女①：それを世間では無視って言うんだよ。 女②：メッセは別に無視してないじゃん。電話だけじゃん。 女①：電話は無視するじゃん。 女②：頻度と時間帯が悪い。そんな頻繁に話したいことないし。 女①：えぇ〜？まあ時間帯は確かに私が悪いけど！……え？頻度は10日に1回とかしかかけてなくない？ 女②：3ヶ月に1回とかで良い。 女①：少な。 　：（間） 女①：え、待って。なんかずっと私があんたにめちゃくちゃ惚れてて、ストーカーみたいにしつこい感じになってるけどさ？ 女②：うん。 女①：私たち友達だよね？ 女②：うん。 女①：ネットだけど3年くらいの付き合いだよね？ 女②：うん、かなり長い付き合い。 女①：割と仲良いよね？ 女②：うん、結構仲良い。 女①：だよね！？……あー、良かった！ 　：（間） 女②：まあ……何だかんだ気ぃ合うし？電話出ても良いかな、って思うくらいには、私あんたのこと好きだよ。 女①：……どーせ3ヶ月に1回くらいでしょ。 女②：そう。3ヶ月に1回くらい。 女①：あっそ。……まあ、嫌われてないならいいかー。 女②：……ん。 　：（間） 女①：……また、かけるね。 女②：3ヶ月後ね。近況報告溜めといて、3ヶ月分。 女①：明日かける。 女②：絶対出ない。 女①：あんたのことほんっとに嫌い。 女②：顔は？ 女①：……はあ？あんたねえ。 女②：顔は？ 女①：……好き。 女②：ふふ。良い気分。 女①：……はぁ。もう。ほんっと嫌な女。