台本概要

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タイトル デンティスト☆ウォーズ!
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 歯医者さんと患者/ラブコメ

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人全役演じ分けもご自由に。

地球儀の個人台本サイト:https://lit.link/tsukuenoueno

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
朱里 90 松宮 朱里(まつみや あかり)。綺麗な歯に自信があったが、この度とうとう虫歯になった。 「どうして!こんなに毎日しっかり磨いてるのに!」
噺川 88 噺川 悠(はなしかわ ゆう)。歯科医。 「オーバーブラッシングって知ってます?」
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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朱里:(M)歯が、痛い。 朱里:松宮朱里、一生の不覚である。一体全体どうしてこうなったと言うのか。おかしい。おかしすぎる……! 朱里:  朱里:話を最初から整理しよう。私は松宮朱里。社会人。女。そこそこの会社でそこそこのOLをする、そこそこ恋人いない歴が伸びてきたそこそこの二十代。 そこそこばかりの私が誇れる、唯一の取り柄。それは……「歯並び」! 朱里:  朱里:結衣ちゃんは可愛いね、真理子ちゃんはスタイル良いね、朱里ちゃんは……歯並びいいね。……そう。私は今まであらゆる合コンを歯並びだけで乗り切ってきた女。歯の汚れは心の汚れ。1日5回、寝起き、朝食後、昼食後、夕食後、寝る前……この全ての歯磨きを怠ったことのない、歯を愛し歯を慈しんできた女。当然、今まで1度として虫歯になったことはない。なのに……! 朱里:  朱里:……あぁ神様。一体私が、何をしたって言うんですか。 朱里:  朱里:「3歳までに口移しとかすると、子供が虫歯になるって言うじゃない?あれ、おばあちゃん世代を説得するの大変だったのよ〜。すぐに自分の口で噛んで柔らかくしたのを貴方にあげようとするんだもの」 朱里:  朱里:そう笑っていたお母様。嗚呼、母よ。3歳までに虫歯にならなければ、生涯虫歯に苦しむことはないという話は、もしかして迷信だったのでしょうか。 朱里:  朱里:私はただ……、  :   :   :  朱里:ただ、シュークリームが食べたかっただけなのにぃ……! 噺川:なっちゃったもんは仕方ないですねー。 朱里:そんな殺生な。ドクター、あなたに人の心はないのか! 噺川:はーい。そろそろおしゃべりやめてくださいねー。大きく口を開けて、舌は上にー。(患者の口に指を突っ込む) 朱里:あががががが。ひほのほほろはないほは(人の心はないのか)! 噺川:あー。これはやっちゃってますね。 朱里:はひが(何が)!?ほほが(どこが)!? 噺川:奥歯が。完全に虫歯ですね。 朱里:ほんなせっひょうな(そんな殺生な)! 噺川:ただの事実ですよ。(口から手を離して)はい、今日はここまで。型取ったので、次回はそれを嵌めます。それまで暫くシュークリームはおあずけですよ。 朱里:ええ!? 噺川:良い大人なんだから、シュークリームくらい我慢できるでしょう。 朱里:できませんよ!良い大人だけど、仕事終わりに食べるシュークリームだけが心の支えなんですから! 噺川:……それ大丈夫ですか?……お仕事大変そうですねえ。 朱里:やめてください!軽い気持ちで優しくしないで!好きになっちゃうから! 噺川:えぇ……(混乱)? 朱里:会社と家を往復するだけの、出会いのない女を舐めないでください!あっという間に惚れちゃいますよ!先生、ただでさえ高スペックなんですから! 噺川:はあ。そうですかねえ。  :   :(以下、同時に) 朱里:(噺川の合いの手を無視して話し続ける)だって歯科医師でしょ……高収入なんでしょ……若いのに開業医だし……こういうのは実家が太いって相場が決まってますけど先生もそうなんでしょ……絶対良いお家柄だ凄い……子供の頃ピアノ習ってたに決まってる……顔はマスクでよく見えないけど、高身長で清潔感もあって……なんか訳わかんないくらい良い匂いするし……!あっ、手も綺麗ですよね!?口に指突っ込まれても不快感がまるでないですもん! 噺川:(朱里が話し続ける中適当に合いの手を打ち続ける。アドリブ可)えぇ……いやまあそこそこは……そうですねえ……はあ……そんな相場あります?……いや、ヴァイオリンでしたね……えっ、なんだろハンドクリームかな……うんうん……突っ込んでいると言うか、まあ治療に必要なことですからねー。  :  噺川:(相槌を終えて)……ぁ。でもほら、あれですよ。なんだっけな。あのー、ほら、いませんでしたっけ。令和中ずっと罰ゲームでシュークリーム食べられないYouTuber。 朱里:え?……何の話ですか? 噺川:それに比べたらなんてことないと思いません?完治までシュークリーム我慢するくらい。 朱里:それは……そう……、 噺川:思えるでしょ? 朱里:思えません! 噺川:えー……駄目かあ。 朱里:今すぐシュークリーム食べたい!今すぐ!シュークリーム食〜べ〜た〜い! 噺川:5歳児かな? 朱里:……歳取ったら普通に大人になれると思ってた……。 噺川:え? 朱里:歳取ったら!普通にちゃんと大人になれると思ってたんです! 噺川:はあ。松宮さんはもうちゃんと大人の女性に見えますけど。 朱里:そりゃあ外見(そとみ)はそうでしょうよ。むしろどんどん学生時代の若さが失われていくなって怖いくらいで……。でも、中身は全然。 噺川:変わる必要があるんですか? 朱里:え? 噺川:ありのままの松宮さんの魅力ってのがあるでしょう。そう無理に大人になる必要はあるのでしょうか。 朱里:私の魅力って何ですかあ……!ないですよ!そんなの! 噺川:素直なところ。 朱里:……へ? 噺川:素直でまっすぐで。こうして診察してる間にも表情がコロコロ変わって……可愛らしいと思いますよ。  :(間) 朱里:……先生、絶対モテるでしょ。 噺川:いやあ。それがずっと寂しい独り身で。 朱里:でも女を泣かせるタイプだよね。 噺川:はは。そんなことないんだけどなあ……。 朱里:だって、思わせぶりすぎるもん。 噺川:そうですか? 朱里:そうやって何人のおなごを落としてきたのか……。 噺川:おや。悪いイメージがついちゃったかな。 朱里:何だろう。いちいち大人の余裕を感じる……。 噺川:そんなに大人が良いですか? 朱里:流石に、友達みんなに「お前は色気がない」って言われ続けると、気にしてなかったものも気になると言いますか……。 噺川:色気……ですか。 朱里:あーーーもう!美人に生まれたかった! 噺川:ふふ。色気と美人はまた別の話な気もしますが。 朱里:細かいことはいいの!美人になりたいの! 噺川:大人の次は美人、ですか……。 噺川:知ってますか。美人って逆に浮気される率高いんですよ。 朱里:え?なんで!?性格悪いから!? 噺川:それは人によりけりでしょうよ。 朱里:じゃあ何で? 噺川:美人と付き合えたことによって、男の自己肯定感が上がっちゃうからです。 朱里:は? 噺川:「あ、こんな美人と付き合えるなんて、僕って結構イケてるんだな」ってね。 朱里:あー……調子乗っちゃうんだ……。 噺川:男って奴はバカな生き物ですからね。 朱里:……先生も? 噺川:どうでしょうか。私は友人曰くブス専らしいので。 朱里:おお!ブス専!いや〜、貴方がブス界の救世主でしたか。ありがたや〜ありがたや〜! 噺川:僕自身はそういった自覚はないんですけれどね。 朱里:よっ!ブス界に垂らされた蜘蛛の糸! 噺川:合いの手が独特過ぎるなあ。 噺川:……松宮さんも、僕には魅力的な女性に見えますよ。 朱里:はあ!?おい誰がブスだってぇ!? 噺川:わあ、すごい顔。 朱里:私一応患者ですからね!?リップサービスとかあるでしょ、普通! 噺川:歯医者にリップサービスはないかなあ。 朱里:患者ってことは、医者にとってはお客様でしょ!お客様は神様でしょ! 噺川:それはお客側が言うセリフじゃないんだよなあ。と言うか、褒めたのに酷い言われようだな。 朱里:……くそ、もしかして歯医者に見せかけた美人局!?いや、男女逆だから……何!?逆はなんて言うの!?イケメンもたせ!? 噺川:はーい。落ち着きましょうねえ、松宮さん。美人局でもイケメンもたせでもないですよー。 朱里:じゃあ何ですか!?結婚詐欺!? 噺川:だから詐欺とかじゃないですって。 噺川:本心を言ったまでです。 朱里:……え。 噺川:可愛いですよ、松宮さんは。  :(間) 朱里:……ブス専って自覚はないって仰ってましたけど、先生って、恋愛対象の許容範囲が広いタイプです……? 噺川:どうですかねえ。好きになったらその人に一途なので、分かりませんね。 朱里:え?でも、私のことを可愛いって思ったんですよね……? 噺川:えぇ。 朱里:……た、 噺川:た? 朱里:大変だーーー!みなさーん!この人は真のブス専です!ブスでもお構いなく発情する、節操なし色ボケ歯医者さんですーーーーー! 噺川:まままま松宮さん!? 朱里:助けてー!襲われる!襲われてしまうーーーーー! 噺川:こらこらこら!やめてください本当に誤解されます!あーもうっ!落ち着いてください! 朱里:いーーーやーーーーーーーー!  :   :(長い間)  :  噺川:(ため息)落ち着きましたか? 朱里:……はい。ごめんなさい……暴走しました……。 噺川:いーえ。慣れてますから。 朱里:え!こんな患者が他にも!?……歯医者さんって大変なんですね……。 噺川:憐れみの目で見られている気がするなあ……。 朱里:……済みません。こう、好意を向けられることに慣れていないもので……。 噺川:拗らせてるなあ。 朱里:……普通の人は、どうやって男女の仲を深めているものなんですか、ね……? 噺川:うーん。僕だったら普通にお茶に誘うところからですかね。大抵の人がそうだと思いますよ。 朱里:お、お茶?……け、結構なお手前で……? 噺川:なぜ茶道。お茶ですよ。喫茶店に行くとか、ほら、色々あるでしょ。松宮さんとなら、シュークリームを食べに行くとか。 朱里:シュークリーム!良いですね! 噺川:ふふ。本当にお好きなんですね、シュークリーム。 朱里:私の身体はシュークリームで出来ていると言っても過言じゃありませんからね! 噺川:なるほど。……じゃあ、どうです? 朱里:え? 噺川:完治したら、シュークリーム食べに行きませんか?  :(間) 朱里:……え。口説いてます? 噺川:ふふ。どう思います?  :(間) 朱里:……先生。女の恨みは怖いんですよ。 噺川:え? 朱里:揶揄うのも大概にしてください!言っときますけど私そこまでチョロくないですから!そう簡単に壺とか買いませんから! 噺川:あー、まだ詐欺だと思われてるのか。 朱里:騙されないですからね! 噺川:朱里ちゃん。 朱里:ビタミン剤も美容液も買いません!買いませんったら買いません! 朱里:……って、え?今、下の名前で呼びました? 噺川:うん。呼んだよ、朱里ちゃん。 朱里:……へ? 噺川:朱里ちゃんって、本当に忘れっぽいよねえ。 朱里:……も、もしかして以前お会いしたことが……? 噺川:あの頃僕は背が低くて、弱っちいって皆に虐められてた。……でも、朱里ちゃんだけは僕を庇ってくれたよね。小四の頃引っ越すまでは、いつも朱里ちゃんの後ろを追いかけてた。 朱里:…………。 噺川:僕は、大人じゃない、ちょっと我儘だけど天真爛漫で、笑った顔が可愛くて元気いっぱいで、こっちまで思わず笑顔になっちゃうような……そんな朱里ちゃんに救われたんだよ。 朱里:せ、先生……? 噺川:恥ずかしいけど、実は初恋だったんだ。ってか、好物シュークリームって、あの頃と全く変わってなくて笑っちゃった。……変わってなくて、嬉しかったよ。 朱里:……つ、つかぬことをお訊きしますが……先生、お名前は……? 噺川:マスクしてるとはいえ、全然気付いてくれないんだもんなあ。 朱里:ご、ごめんなさい……。 噺川:噺川(はなしかわ)。 噺川:(しか、を強く)噺川 悠だよ。 朱里:(はなし、を強く)はなし、かわ……?ええっ!は、歯無しの噺川!? 噺川:あー、そこで覚えてたかー。 朱里:ええ!歯無しなのに歯医者さん!?歯無しなのに!? 噺川:いつの話してるんだよ。永久歯に生え変わるまで暫く前歯がなかっただけだろ。今はちゃんとあるよ。ほら。(マスクを外す) 朱里:ぎゃあ!マスク詐欺のない正真正銘のイケメン!イケメン怖い! 噺川:イケメン怖いってなんだよ。 朱里:ただでさえ男に免疫ないんだから!イケメンの輝きに私が耐えられると思わないで! 噺川:……はあ。ほら。マスクしたから。マスクしたら大丈夫だろ。 朱里:おお、これなら目を見て話せる……! 噺川:難儀だねえ、朱里ちゃんは。 噺川:……ね?歯無しじゃなかったでしょ? 朱里:でででででも!な、名前には「歯無し」って入ってるじゃん! 噺川:「歯科」も入ってるよ。歯医者にぴったりの名前だろ。 朱里:た、確かに……。 噺川:で?どう?一緒にお茶行ってくれる? 朱里:そ、それは……、 噺川:それは?  :(間) 朱里:ち、治療終わったから帰ります!ありがとうございました! 噺川:そうですかそうですか。では1週間後にまた予約入れておきますねー。 朱里:はあ!? 噺川:被せ物しなきゃ困るでしょ。 朱里:うぐ……。 噺川:それに。 朱里:へ? 噺川:逃さないよ? 噺川:……一緒にシュークリーム食べに行くんでしょ? 朱里:〜〜〜〜〜ッ!ありがとうございました!さようなら! 噺川:ふふ。はい。また。 朱里:…………。 噺川:ん?どうしました? 朱里:分かってると思うけど、私美人じゃないから……、 噺川:え? 朱里:デートとかしたら、またいじられるかもだからね……! 噺川:そんなこと気にしてたの? 朱里:あ〜〜〜もう。 噺川:僕は朱里ちゃんの顔も好きだけどな。 朱里:はあ!?何!?私がブスって言いたいの!? 噺川:面倒くさい人だなあ、もう。  :(噺川、朱里にぐっと近づく) 朱里:ひゃっ!? 噺川:気にならないよ。好きな人とデート出来たら、他の人の言うことなんか。 朱里:…………! 噺川:だから朱里ちゃんも。 朱里:ひゃ、ひゃい……! 噺川:余所見しないで、僕だけ見てね? 朱里:……や、やっぱりイケメン怖い!!!!!!

朱里:(M)歯が、痛い。 朱里:松宮朱里、一生の不覚である。一体全体どうしてこうなったと言うのか。おかしい。おかしすぎる……! 朱里:  朱里:話を最初から整理しよう。私は松宮朱里。社会人。女。そこそこの会社でそこそこのOLをする、そこそこ恋人いない歴が伸びてきたそこそこの二十代。 そこそこばかりの私が誇れる、唯一の取り柄。それは……「歯並び」! 朱里:  朱里:結衣ちゃんは可愛いね、真理子ちゃんはスタイル良いね、朱里ちゃんは……歯並びいいね。……そう。私は今まであらゆる合コンを歯並びだけで乗り切ってきた女。歯の汚れは心の汚れ。1日5回、寝起き、朝食後、昼食後、夕食後、寝る前……この全ての歯磨きを怠ったことのない、歯を愛し歯を慈しんできた女。当然、今まで1度として虫歯になったことはない。なのに……! 朱里:  朱里:……あぁ神様。一体私が、何をしたって言うんですか。 朱里:  朱里:「3歳までに口移しとかすると、子供が虫歯になるって言うじゃない?あれ、おばあちゃん世代を説得するの大変だったのよ〜。すぐに自分の口で噛んで柔らかくしたのを貴方にあげようとするんだもの」 朱里:  朱里:そう笑っていたお母様。嗚呼、母よ。3歳までに虫歯にならなければ、生涯虫歯に苦しむことはないという話は、もしかして迷信だったのでしょうか。 朱里:  朱里:私はただ……、  :   :   :  朱里:ただ、シュークリームが食べたかっただけなのにぃ……! 噺川:なっちゃったもんは仕方ないですねー。 朱里:そんな殺生な。ドクター、あなたに人の心はないのか! 噺川:はーい。そろそろおしゃべりやめてくださいねー。大きく口を開けて、舌は上にー。(患者の口に指を突っ込む) 朱里:あががががが。ひほのほほろはないほは(人の心はないのか)! 噺川:あー。これはやっちゃってますね。 朱里:はひが(何が)!?ほほが(どこが)!? 噺川:奥歯が。完全に虫歯ですね。 朱里:ほんなせっひょうな(そんな殺生な)! 噺川:ただの事実ですよ。(口から手を離して)はい、今日はここまで。型取ったので、次回はそれを嵌めます。それまで暫くシュークリームはおあずけですよ。 朱里:ええ!? 噺川:良い大人なんだから、シュークリームくらい我慢できるでしょう。 朱里:できませんよ!良い大人だけど、仕事終わりに食べるシュークリームだけが心の支えなんですから! 噺川:……それ大丈夫ですか?……お仕事大変そうですねえ。 朱里:やめてください!軽い気持ちで優しくしないで!好きになっちゃうから! 噺川:えぇ……(混乱)? 朱里:会社と家を往復するだけの、出会いのない女を舐めないでください!あっという間に惚れちゃいますよ!先生、ただでさえ高スペックなんですから! 噺川:はあ。そうですかねえ。  :   :(以下、同時に) 朱里:(噺川の合いの手を無視して話し続ける)だって歯科医師でしょ……高収入なんでしょ……若いのに開業医だし……こういうのは実家が太いって相場が決まってますけど先生もそうなんでしょ……絶対良いお家柄だ凄い……子供の頃ピアノ習ってたに決まってる……顔はマスクでよく見えないけど、高身長で清潔感もあって……なんか訳わかんないくらい良い匂いするし……!あっ、手も綺麗ですよね!?口に指突っ込まれても不快感がまるでないですもん! 噺川:(朱里が話し続ける中適当に合いの手を打ち続ける。アドリブ可)えぇ……いやまあそこそこは……そうですねえ……はあ……そんな相場あります?……いや、ヴァイオリンでしたね……えっ、なんだろハンドクリームかな……うんうん……突っ込んでいると言うか、まあ治療に必要なことですからねー。  :  噺川:(相槌を終えて)……ぁ。でもほら、あれですよ。なんだっけな。あのー、ほら、いませんでしたっけ。令和中ずっと罰ゲームでシュークリーム食べられないYouTuber。 朱里:え?……何の話ですか? 噺川:それに比べたらなんてことないと思いません?完治までシュークリーム我慢するくらい。 朱里:それは……そう……、 噺川:思えるでしょ? 朱里:思えません! 噺川:えー……駄目かあ。 朱里:今すぐシュークリーム食べたい!今すぐ!シュークリーム食〜べ〜た〜い! 噺川:5歳児かな? 朱里:……歳取ったら普通に大人になれると思ってた……。 噺川:え? 朱里:歳取ったら!普通にちゃんと大人になれると思ってたんです! 噺川:はあ。松宮さんはもうちゃんと大人の女性に見えますけど。 朱里:そりゃあ外見(そとみ)はそうでしょうよ。むしろどんどん学生時代の若さが失われていくなって怖いくらいで……。でも、中身は全然。 噺川:変わる必要があるんですか? 朱里:え? 噺川:ありのままの松宮さんの魅力ってのがあるでしょう。そう無理に大人になる必要はあるのでしょうか。 朱里:私の魅力って何ですかあ……!ないですよ!そんなの! 噺川:素直なところ。 朱里:……へ? 噺川:素直でまっすぐで。こうして診察してる間にも表情がコロコロ変わって……可愛らしいと思いますよ。  :(間) 朱里:……先生、絶対モテるでしょ。 噺川:いやあ。それがずっと寂しい独り身で。 朱里:でも女を泣かせるタイプだよね。 噺川:はは。そんなことないんだけどなあ……。 朱里:だって、思わせぶりすぎるもん。 噺川:そうですか? 朱里:そうやって何人のおなごを落としてきたのか……。 噺川:おや。悪いイメージがついちゃったかな。 朱里:何だろう。いちいち大人の余裕を感じる……。 噺川:そんなに大人が良いですか? 朱里:流石に、友達みんなに「お前は色気がない」って言われ続けると、気にしてなかったものも気になると言いますか……。 噺川:色気……ですか。 朱里:あーーーもう!美人に生まれたかった! 噺川:ふふ。色気と美人はまた別の話な気もしますが。 朱里:細かいことはいいの!美人になりたいの! 噺川:大人の次は美人、ですか……。 噺川:知ってますか。美人って逆に浮気される率高いんですよ。 朱里:え?なんで!?性格悪いから!? 噺川:それは人によりけりでしょうよ。 朱里:じゃあ何で? 噺川:美人と付き合えたことによって、男の自己肯定感が上がっちゃうからです。 朱里:は? 噺川:「あ、こんな美人と付き合えるなんて、僕って結構イケてるんだな」ってね。 朱里:あー……調子乗っちゃうんだ……。 噺川:男って奴はバカな生き物ですからね。 朱里:……先生も? 噺川:どうでしょうか。私は友人曰くブス専らしいので。 朱里:おお!ブス専!いや〜、貴方がブス界の救世主でしたか。ありがたや〜ありがたや〜! 噺川:僕自身はそういった自覚はないんですけれどね。 朱里:よっ!ブス界に垂らされた蜘蛛の糸! 噺川:合いの手が独特過ぎるなあ。 噺川:……松宮さんも、僕には魅力的な女性に見えますよ。 朱里:はあ!?おい誰がブスだってぇ!? 噺川:わあ、すごい顔。 朱里:私一応患者ですからね!?リップサービスとかあるでしょ、普通! 噺川:歯医者にリップサービスはないかなあ。 朱里:患者ってことは、医者にとってはお客様でしょ!お客様は神様でしょ! 噺川:それはお客側が言うセリフじゃないんだよなあ。と言うか、褒めたのに酷い言われようだな。 朱里:……くそ、もしかして歯医者に見せかけた美人局!?いや、男女逆だから……何!?逆はなんて言うの!?イケメンもたせ!? 噺川:はーい。落ち着きましょうねえ、松宮さん。美人局でもイケメンもたせでもないですよー。 朱里:じゃあ何ですか!?結婚詐欺!? 噺川:だから詐欺とかじゃないですって。 噺川:本心を言ったまでです。 朱里:……え。 噺川:可愛いですよ、松宮さんは。  :(間) 朱里:……ブス専って自覚はないって仰ってましたけど、先生って、恋愛対象の許容範囲が広いタイプです……? 噺川:どうですかねえ。好きになったらその人に一途なので、分かりませんね。 朱里:え?でも、私のことを可愛いって思ったんですよね……? 噺川:えぇ。 朱里:……た、 噺川:た? 朱里:大変だーーー!みなさーん!この人は真のブス専です!ブスでもお構いなく発情する、節操なし色ボケ歯医者さんですーーーーー! 噺川:まままま松宮さん!? 朱里:助けてー!襲われる!襲われてしまうーーーーー! 噺川:こらこらこら!やめてください本当に誤解されます!あーもうっ!落ち着いてください! 朱里:いーーーやーーーーーーーー!  :   :(長い間)  :  噺川:(ため息)落ち着きましたか? 朱里:……はい。ごめんなさい……暴走しました……。 噺川:いーえ。慣れてますから。 朱里:え!こんな患者が他にも!?……歯医者さんって大変なんですね……。 噺川:憐れみの目で見られている気がするなあ……。 朱里:……済みません。こう、好意を向けられることに慣れていないもので……。 噺川:拗らせてるなあ。 朱里:……普通の人は、どうやって男女の仲を深めているものなんですか、ね……? 噺川:うーん。僕だったら普通にお茶に誘うところからですかね。大抵の人がそうだと思いますよ。 朱里:お、お茶?……け、結構なお手前で……? 噺川:なぜ茶道。お茶ですよ。喫茶店に行くとか、ほら、色々あるでしょ。松宮さんとなら、シュークリームを食べに行くとか。 朱里:シュークリーム!良いですね! 噺川:ふふ。本当にお好きなんですね、シュークリーム。 朱里:私の身体はシュークリームで出来ていると言っても過言じゃありませんからね! 噺川:なるほど。……じゃあ、どうです? 朱里:え? 噺川:完治したら、シュークリーム食べに行きませんか?  :(間) 朱里:……え。口説いてます? 噺川:ふふ。どう思います?  :(間) 朱里:……先生。女の恨みは怖いんですよ。 噺川:え? 朱里:揶揄うのも大概にしてください!言っときますけど私そこまでチョロくないですから!そう簡単に壺とか買いませんから! 噺川:あー、まだ詐欺だと思われてるのか。 朱里:騙されないですからね! 噺川:朱里ちゃん。 朱里:ビタミン剤も美容液も買いません!買いませんったら買いません! 朱里:……って、え?今、下の名前で呼びました? 噺川:うん。呼んだよ、朱里ちゃん。 朱里:……へ? 噺川:朱里ちゃんって、本当に忘れっぽいよねえ。 朱里:……も、もしかして以前お会いしたことが……? 噺川:あの頃僕は背が低くて、弱っちいって皆に虐められてた。……でも、朱里ちゃんだけは僕を庇ってくれたよね。小四の頃引っ越すまでは、いつも朱里ちゃんの後ろを追いかけてた。 朱里:…………。 噺川:僕は、大人じゃない、ちょっと我儘だけど天真爛漫で、笑った顔が可愛くて元気いっぱいで、こっちまで思わず笑顔になっちゃうような……そんな朱里ちゃんに救われたんだよ。 朱里:せ、先生……? 噺川:恥ずかしいけど、実は初恋だったんだ。ってか、好物シュークリームって、あの頃と全く変わってなくて笑っちゃった。……変わってなくて、嬉しかったよ。 朱里:……つ、つかぬことをお訊きしますが……先生、お名前は……? 噺川:マスクしてるとはいえ、全然気付いてくれないんだもんなあ。 朱里:ご、ごめんなさい……。 噺川:噺川(はなしかわ)。 噺川:(しか、を強く)噺川 悠だよ。 朱里:(はなし、を強く)はなし、かわ……?ええっ!は、歯無しの噺川!? 噺川:あー、そこで覚えてたかー。 朱里:ええ!歯無しなのに歯医者さん!?歯無しなのに!? 噺川:いつの話してるんだよ。永久歯に生え変わるまで暫く前歯がなかっただけだろ。今はちゃんとあるよ。ほら。(マスクを外す) 朱里:ぎゃあ!マスク詐欺のない正真正銘のイケメン!イケメン怖い! 噺川:イケメン怖いってなんだよ。 朱里:ただでさえ男に免疫ないんだから!イケメンの輝きに私が耐えられると思わないで! 噺川:……はあ。ほら。マスクしたから。マスクしたら大丈夫だろ。 朱里:おお、これなら目を見て話せる……! 噺川:難儀だねえ、朱里ちゃんは。 噺川:……ね?歯無しじゃなかったでしょ? 朱里:でででででも!な、名前には「歯無し」って入ってるじゃん! 噺川:「歯科」も入ってるよ。歯医者にぴったりの名前だろ。 朱里:た、確かに……。 噺川:で?どう?一緒にお茶行ってくれる? 朱里:そ、それは……、 噺川:それは?  :(間) 朱里:ち、治療終わったから帰ります!ありがとうございました! 噺川:そうですかそうですか。では1週間後にまた予約入れておきますねー。 朱里:はあ!? 噺川:被せ物しなきゃ困るでしょ。 朱里:うぐ……。 噺川:それに。 朱里:へ? 噺川:逃さないよ? 噺川:……一緒にシュークリーム食べに行くんでしょ? 朱里:〜〜〜〜〜ッ!ありがとうございました!さようなら! 噺川:ふふ。はい。また。 朱里:…………。 噺川:ん?どうしました? 朱里:分かってると思うけど、私美人じゃないから……、 噺川:え? 朱里:デートとかしたら、またいじられるかもだからね……! 噺川:そんなこと気にしてたの? 朱里:あ〜〜〜もう。 噺川:僕は朱里ちゃんの顔も好きだけどな。 朱里:はあ!?何!?私がブスって言いたいの!? 噺川:面倒くさい人だなあ、もう。  :(噺川、朱里にぐっと近づく) 朱里:ひゃっ!? 噺川:気にならないよ。好きな人とデート出来たら、他の人の言うことなんか。 朱里:…………! 噺川:だから朱里ちゃんも。 朱里:ひゃ、ひゃい……! 噺川:余所見しないで、僕だけ見てね? 朱里:……や、やっぱりイケメン怖い!!!!!!