台本概要
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タイトル | 善の鬼 第八章「恨み」 |
---|---|
作者名 | Oroるん (@Oro90644720) |
ジャンル | 時代劇 |
演者人数 | 4人用台本(不問4) ※兼役あり |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
・演者性別不問ですが、役性別変えないようお願いします。 ・時代考証甘めです。 ・軽微なアドリブ可。 68 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
善鬼 | 男 | 91 | 小野善鬼(おのぜんき) |
穂邑 | 女 | 44 | ほむら |
典膳 | 男 | 89 | 神子上典膳(みこがみてんぜん) |
一刀斎 | 男 | 51 | 伊東一刀斎(いとういっとうさい) |
伊予 | 女 | 62 | いよ ※穂邑との兼ね役推奨 |
六平太 | 男 | 59 | ろくへいた ※一刀斎との兼ね役推奨 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:欅楼
穂邑:いらっしゃいませ。お初にお目もじ致します。穂邑(ほむら)と申します。どうぞ末永くご贔屓(ひいき)に。
一刀斎:うむ。
穂邑:さ、まずは一献(いっこん)
0:穂邑、酌をする
一刀斎:(一息に飲み干す)
穂邑:良い(よい)飲みっぷりですこと。惚れ惚れ(ほれぼれ)致しますわ。
一刀斎:お前も飲め。
0:一刀斎、酌をする
穂邑:ありがとうございます。(酒を飲む)
一刀斎:お前も、いける口の様だな。
穂邑:まあ商売柄、お相手出来る様になりませんとね。(酌をする)
一刀斎:うむ。(酒を飲む)
穂邑:指名して下さったそうですが、どなたから私の事をお聞きに?
一刀斎:ここの馴染みだ。
穂邑:そうでしたか。ありがたいことです。
一刀斎:いいや。そいつにはな、ここには来てはならんと言われた。
穂邑:あら、どうして?
一刀斎:さあな。お前を奪(と)られると思って、案じておったのではないか?
穂邑:まあ(笑う)
一刀斎:俺がこの店に来たいと言った時な、そいつ「何でもするからそれだけは勘弁してくれ!」と喚き(わめき)おってな。
穂邑:(笑いながら)もう、冗談ばっかり。良いんですか?そこまで言われたのに、ここに来てしまって。
一刀斎:ああ、もうよいのだ。それはな、もう済んだ話だ。
穂邑:え?
一刀斎:こちらの話だ。気にするな。
穂邑:はあ・・・(酌をする)
一刀斎:(酒を飲む)お前、出(で)は百姓か?
穂邑:まあ・・・そんな所です。
一刀斎:ふむ。昔の話は、したくないか。
穂邑:・・・お侍さんは?どなたかに仕(つか)えていらっしゃるの?
一刀斎:いや、しがない浪人だ。帰る家もなく、日々彷徨い(さまよい)歩いておる。
穂邑:・・・良いですね。
一刀斎:ほう?
穂邑:(ため息)私も、色んな所に行ってみたい。
一刀斎:今の暮らしが不満か?
穂邑:ずっと、こういう生き方も悪くないと、思っていたはずなんですけどね。最近、つくづくこの稼業が嫌になりまして。
一刀斎:そうか。
穂邑:・・・
一刀斎:連れて行ってやろうか?
穂邑:え?
一刀斎:お前を、ここから連れ出してやろうか、と言っている。
穂邑:そんな事言って。本気にしますよ?
一刀斎:本気だ。
穂邑:どうやって?身請けでもして下さるんですか?
一刀斎:そうではない。まあ、その気になればそのくらいの金子(きんす)、用立て(ようだて)られるかもしれんがな。
穂邑:じゃあ・・・
一刀斎:簡単だ。お前を攫う(さらう)のよ。この店からな。
穂邑:え?・・・そんな事、できるわけが・・・
一刀斎:できる。俺ならばな。
穂邑:『そう言った後、その男は私の顔をじっと見ていた。とても鋭く、昏い(くらい)目だった。その視線だけで、人を殺(あや)めてしまえそうなほどに。』
穂邑:『でも何故か、怖いとは思わなかった。むしろ、どこか惹きつけられてしまう、そんな目だった。』
一刀斎:どうした?
穂邑:あ、いや・・・お酒を、取ってまいります。
一刀斎:それは後でよい。
穂邑:え?
一刀斎:っ!
0:一刀斎、穂邑の手首を掴んで引き倒す
穂邑:きゃっ!
一刀斎:こっちが先だ。
0:一刀斎、穂邑の上にのしかかる
穂邑:・・・強引なお方。
一刀斎:強引な男は嫌いか?
穂邑:・・・いいえ。
一刀斎:では、よいな?
穂邑:・・・はい。
0:一刀斎、穂邑に顔を寄せる
一刀斎:・・・
穂邑:・・・嫌。
一刀斎:何?
穂邑:あっ。
一刀斎:どうした?この店は、初めての客には夜伽(よとぎ)をさせんのか?
穂邑:いいえ、そんな畏(かしこ)まった店じゃございません。
一刀斎:ではなぜ拒(こば)む?
穂邑:拒むだなんて、そんな・・・
一刀斎:何故か、と聞いているのだ。
穂邑:自分でもよく分からないんです。ただ・・・
一刀斎:ただ?
穂邑:・・・言ったら、お気を悪くなさいます。
一刀斎:構わん。申してみよ。
穂邑:なんというか・・・旦那(だんな)とは、そうならない方が良い、そうなっちゃいけない。一瞬、そんな風に思ったんです。
一刀斎:ほう。
穂邑:すいません、変な事言って。どうかお気になさらず、旦那のお好きな様に・・・
一刀斎:いや。
0:一刀斎、穂邑から離れ、座り直す
穂邑:?
0:穂邑も座り直す
一刀斎:今日は無しだ。
穂邑:宜しいんですか?
一刀斎:ああ。今日はな、「その気じゃない女」を抱く気分ではない。
穂邑:「今日」は?
一刀斎:ああ。
穂邑:・・・ふふ。
一刀斎:可笑(おか)しいか?
穂邑:ええ。おかしな人。
一刀斎:お前もな。
0:しばし二人で静かに笑い合う
0:善鬼と一刀斎が木刀で稽古している
善鬼:はあああ!
一刀斎:ぬるい!そんな太刀(たち)で敵が倒せるか!
善鬼:くっ!やあああ!
一刀斎:どこを見ている!俺はここだ!
典膳:(どうしたんだ?今日の稽古、いつに無く、先生が饒舌(じょうぜつ)ではないか?)
善鬼:せやあああ!
一刀斎:どうした!そんなものか!?
善鬼:でやあああ!
一刀斎:もっと、もっとだ!
善鬼:いやあああ!
一刀斎:殺す気で来い!!
善鬼:シャアッ!!
0:一刀斎、善鬼の斬撃を受け止める。
一刀斎:そうだっ!!
典膳:っ!
典膳:(先生が・・・褒(ほ)めた?)
善鬼:(荒い息遣い)
一刀斎:(荒い息遣い)
典膳:『私には、それが師弟の稽古には見えなかった。まるで、二匹の獣が戯れあって(じゃれあって)いるかのような、そんな風に思えて・・・』
典膳:『二人を・・・遠くに感じた。』
0:とある山奥の廃屋
伊予:兄上!ここもじきに奴らに見つかります!早くお支度(したく)を!
六平太:・・・俺はよい。お前一人で逃げよ。
伊予:何を申されます!兄上を置いていくことなどできませぬ!
六平太:一刀斎を討ち取ることに全てを賭けてきた。それが叶わぬとなった今、生きていて何の意味があろうか。
伊予:それは私とて・・・
六平太:お前は生きよ。本懐(ほんかい)を遂げる事は叶わなかったが、お前はよくやってくれた。お前の事、誇りに思っておるぞ。
伊予:兄上・・・
六平太:さあ、じきに奴らがやって来よう。その前にここを立ち去るのだ。
伊予:嫌でございます。私は・・・伊予(いよ)は、どこに行くのも兄上と一緒でございます!
六平太:伊予・・・
伊予:お願い致します、最後まで、お側にいさせて下さい。
六平太:・・・すまぬ。
伊予:・・・はっ!
0:善鬼、典膳、廃屋前までやって来る
善鬼:(廃屋の中に向かって呼びかける)おい!中にいるのは分かってんだ!観念して出てきやがれ!
伊予:くっ・・・
六平太:覚悟は良いか?
伊予:・・・はい。
六平太:では参ろう。
0:六平太、伊予、小屋から出てくる
善鬼:お、出てきたな。探したんだぜ。
典膳:・・・
伊予:貴様ら・・・
善鬼:ん?おめえは、初めて見る顔だな。
典膳:(この男、右腕が無いのか?)
六平太:・・・お初にお目にかかる。某(それがし)は榊六平太(さかきろくへいた)。こちらは妹の伊予でござる。
善鬼:そうか。出会ったばかりで何だが・・・死んでもらうぜ。
伊予:おのれ!
六平太:一刀斎殿は?おられぬか?
善鬼:当たり前だろ?おめえらごときに、何で先生が手を煩わせ(わずらわせ)なきゃならねえんだ?
六平太:そうか。一度近くでお顔を拝見したいと思っていたが、叶わぬか。
善鬼:おめえにその資格はねえよ。
六平太:(少し笑いながら)違いないな。
伊予:簡単にやらせはせんぞ!
0:女剣士、剣を抜く
善鬼:手向かう(てむかう)なら勝手にしな。最後の悪あがきってやつだな。
典膳:・・・お待ち下さい。
善鬼:あ?
典膳:そなたら、何故そこまで先生を恨まれる?一体、何があったのですか?
善鬼:やめろ典膳。そんな事聞いて何になる?時間の無駄だ。
典膳:私は知りたいのです。何がこの二人を、そこまで駆り立てるのかを。
善鬼:どうせ大した話じゃねえさ。大方(おおかた)そこの男の腕を斬り落としたのが先生で、その恨みを晴らそうとしたってとこだろ?
伊予:違う!
善鬼:・・・
典膳:伊予殿と申されたな。以前、お父上の事を口にされたのを覚えているぞ。それが理由ではないのか?
伊予:・・・
六平太:・・・ここまで来て、隠し立てすることなど無い。お話し致そう。
善鬼:ふん。
六平太:我々の家は、さる大名家に仕えていた。我らの祖先は武勇の誉(ほまれ)高き武人で、乱世の中、お家(おいえ)を守り抜いた「軍神」とまで言われておった。
六平太:そんなこともあり、我が一族は代々主君に武芸を指南(しなん)するお役目を仰せ使って(おおせつかって)いたのだ。
伊予:父上も、優れた武人だった。特に、人に指南するのに秀でていた。私が、女子(おなご)でありながらここまでの技量を得ることができたのも、父上の教えを受けていたからだ。
六平太:我らが仕えていた主君も、武芸がお好きな方(かた)だった。腕前はそこまでではなかったが、殿(との)は熱心に父上のご指南を受けておられた。私たちは、そんな父上の事を、とても誇らしく思っていた。
典膳:・・・
伊予:殿は武者修行で領内を訪れる武芸者を度々(たびたび)呼び付けられ、腕試しをされた。高名(こうめい)な武人であれば、特に腕を見たがられた。そして・・・
典膳:先生が、ご領地を訪れたのか?
六平太:伊東一刀斎は当時既に剣豪として名を馳せていた。殿は大層喜んで、一刀斎殿を呼びつけられた。そして、父上と立ち会う様、お命じになった。
善鬼:当然、先生が勝ったわけだな?
伊予:くっ・・・
六平太:・・・そうだ。しかも、その立ち会いで、父上は両肩の骨を砕かれた。辛うじて(かろうじて)腕を動かすことはできたが、二度と剣を握れなくなった。武芸者として、父上は死んだのだ。
典膳:・・・
善鬼:まさか、それで先生を恨んだってのか?
伊予:そんなわけないだろう!武芸者ならば、立ち会いの結果でどうなろうと覚悟はできている。例え命を落としたとて、恨んだりなどはせん!
典膳:では・・・
六平太:殿は一刀斎殿の腕前に感服(かんぷく)された。そして、是非とも召し抱えたいと申された。しかし、一刀斎殿は承知されなかった。
善鬼:当然だな。
六平太:殿は諦めが付かず、何度も申し出られた。すると、一刀斎殿は・・・
0:六平太、表情を曇らせる
典膳:?
六平太:・・・
善鬼:なんだよ?
伊予:・・・一刀斎は、お前らの師は、こう言ったのだ!「こんな雑魚を指南役にする様な、見る目の無い主君に仕える気はない」とな!!
典膳:っ!!
善鬼:・・・
六平太:殿は当然お怒りになり、一刀斎殿は家臣たちに取り囲まれた。しかし、取り押さえることはできず、簡単にあしらわられた。そのまま、一刀斎殿は悠々(ゆうゆう)と領地を立ち去った。
伊予:そして、殿のお怒りは、父上に向けられた。殿は父上を厳しく叱責(しっせき)された。
六平太:終い(しまい)には、父上を領内から追放するとまで仰られた(おっしゃられた)。そうして俺たちは、先祖代々仕えた主(あるじ)を、失ったのだ。
典膳:むごい・・・
伊予:だが、誰よりも父上ご自身が、自分を責めておられた。殿に恥をかかせた、家名(かめい)に泥を塗った、と・・・
六平太:そして・・・立ち会いより数日後、俺は脇差を突き立て、腹から血を流している父上を見つけた。
典膳:っ!
六平太:父上は、まだ息があった。両腕が上手く動かせない為、切腹も満足に出来なかったのだ。
六平太:俺はすぐに介錯(かいしゃく)しようとしたが、父上はそれを許さなかった。
典膳:なぜ?
六平太:「これは自身への罰なのだ、すぐに楽になることは許されない。だから最後までやり通すのだ」と申されてな。
伊予:・・・
六平太:しかし、父上の両手は一向に言う事を効かなかった。このままでは、ただ父上が苦しみ続けるだけだ。だから俺は・・・
典膳:?
伊予:兄上・・・
六平太:俺は・・・脇差を握る父上の拳の上に、自分の右手を添えた。そうして、そのまま・・・実の父の腹を裂いたのだ!
典膳:何と!
善鬼:・・・
六平太:父上のうめき声、今でも耳について離れぬ。
六平太:そして何より、腹を裂いた感触・・・刃(やいば)が腑(はらわた)を切り裂いていく感触が、俺の右手にずっと残った。寝ても覚めても、その感触は俺を苦しめた。
伊予:そして、それに耐えられなくなった兄上は・・・
0:回想
伊予:兄上?母上がお呼びです。どちらにいらっしゃいますか?
六平太:(遠くから)ぐぬぅあああ!!
伊予:っ!兄上!
伊予:『私が急ぎ部屋の障子(しょうじ)を開け放つと、そこには左手に小太刀を持ち、右腕から血を流す兄上がいた。』
六平太:うがあっ!があっ!ああっ!
伊予:『兄上は、右腕に小太刀を打ちつけていた。何度も、何度も・・・』
伊予:兄上!何をしているのですか!?お辞め下さい!!
0:伊予、六平太の左腕を掴み止めようとする
六平太:があっ!
0:六平太、伊予を突きとばす。
伊予:うあっ!
伊予:『私は、兄上をお止めしようとした。しかし、兄上は一向に辞めようとはされなかった。』
六平太:ああっ!ぐぬううう!
0:伊予、六平太に抱きつく。
伊予:お願いします、もうお辞め下さい!もう・・・辞めて・・・
六平太:ぐあああああ!!
0:回想終わり
六平太:そうして俺は、右腕を失ったというわけだ。
典膳:・・・
六平太:馬鹿なことをしたものだ。これから母と妹と三人、路頭に迷おうという時に、唯一の男手(おとこで)が隻腕(せきわん)になったのだからな。
伊予:私は、お側に居ながら、兄上を苦しみから救う事が出来なかった・・・
六平太:家を失ってから、様々な土地を巡った。毎日毎日、生きるのに必死だった。
六平太:不思議な事だが、一刀斎殿に対する恨みは、しばらく沸いてこなかったのだ。父上を失った悲しみと、日々の生活の苦しさが、そんな感情を覆い隠していたのだろう。
伊予:数年後、母上が病(やまい)に倒れた。私達は必死に看病したが、母上は弱っていく一方だった。そして、いよいよ命が尽きようとしたまさにその時、母上はこう仰った。「恨めしや・・・伊東一刀斎」
典膳:っ!
六平太:それが、母上の最後のお言葉だ。俺は雷に打たれた様に感じた。母上は、片時(かたとき)も一刀斎殿への恨みをお忘れでは無かったのだ、と。
伊予:そして、我らの心にも、一刀斎への憎しみが渦巻いた。忘れかけていた恨みが、蘇ったのだ。この恨み、晴らさねばならないと!
六平太:各地を巡り、人を集めた。かつて父の教えを受けた者、我らと同じ様に一刀斎殿に恨みを持つ者。そうして集めた同志たちと誓い合った。「必ず、伊東一刀斎を葬る」とな。
典膳:それで我らに襲撃を・・・
伊予:・・・これが、全てだ。結局、念願を果たすことは出来なかったがな。
典膳:(何という事だ。こればかりは、先生のなさり様(なさりよう)が酷すぎる!恨みを持つのも当然だ。)
典膳:(私は、どうすれば良い?何か、何かしてやれる事はないか?この兄妹(きょうだい)の為に、何か・・・)
善鬼:・・・話は終い(しまい)か?
典膳:え?
善鬼:つまんねえ話だな。聞いて損したぜ。
伊予:何だと?
善鬼:長々と話してもらってわりいが、とどのつまり、「おめえらの親父が弱かった」それだけの話だろ?
六平太:っ!
伊予:き、貴様あ!!
典膳:兄者!
善鬼:だってそうだろうがよ。弱かったから、殿様の怒りを買って、家族を路頭(ろとう)に迷わせたんだろうが。
伊予:父上は弱くない!!
六平太:其方(そなた)に、父上の・・・我ら家族の何が分かると言うのだ!!
善鬼:分かんねえなあ、弱い奴らの考える事なんてよ。
0:伊予、剣を抜く
伊予:殺す!
善鬼:良いねえ、良い殺気だ!これでもうちょい腕がありゃ、言うことねえのによ!
伊予:おのれ!
典膳:・・・
0:典膳、二人の間に割って入る
善鬼:あ?何してんだ典膳?どけよ。この女は俺がいたぶってやる。
典膳:私が相手をします。
善鬼:何だあ?俺がやるって言ってんだ。邪魔するんじゃ(ねえよ)
典膳:(被せて)私が相手をします!!
善鬼:・・・
典膳:・・・
善鬼:(舌打ち)好きにしろ。
0:典膳、刀を抜く
典膳:さあ、伊予殿。尋常(じんじょう)なる立ち会いだ。思う存分参られよ。
伊予:・・・承知、致した!
伊予:榊龍弦(さかきりゅうげん)が娘、伊予!
典膳:一刀流、伊東一刀斎が門弟、神子上典膳!・・・参る。
伊予:・・・
典膳:・・・
伊予:はあああ!
典膳:せやあああ!
0:二人の斬撃がぶつかり合う
伊予:くっ!
典膳:はあああ!
伊予:やあっ!
0:伊予、典膳の斬撃をいなし、一撃を放つ
典膳:くっ!やるな!
伊予:これで、どうだ!
典膳:甘い!
0:典膳、肩で当て身を入れ、伊予が吹き飛ぶ
伊予:うあっ!
典膳:(深く呼吸する)
伊予:やはり・・・強い!
典膳:せやあああ!
伊予:おおおおお!
0:そのまま斬り合う
善鬼:(典膳のやつ、何やってやがんだ。その女、確かに少し腕は立つが、おめえならどうってことねえだろ?)
典膳:やあああ!
伊予:はあああああ!
善鬼:(相手が女だからか?先生に親父を辱められた(はずかしめられた)相手だからか?)
善鬼:(どんな相手だろうと、情けなんか掛けちゃいけねえのに。)
一刀斎:『死を恐れるな。』
善鬼:(死ぬ事を恐れちゃいけねえ、命を奪う事を恐れちゃいけねえ。それが正しいんだ。それが俺たちの生きる道なんだ!)
六平太:どうされた?苛立って(いらだって)いるようだが?
善鬼:うるせえ!
六平太:・・・
典膳:おおおおお!
善鬼:(何でおめえには・・・それが分かんねえんだ?)
典膳:(荒い息遣い)
善鬼:(おめえも・・・所詮は人か。)
典膳:やあっ!
伊予:ぐあっ!
0:典膳の斬撃が、伊予の肩を斬りつける。伊予、刀を落とす。
六平太:伊予!
善鬼:勝負あったな。
伊予:(うめき声)
典膳:(荒い息遣い)
伊予:み、見事だ、神子上典膳。
典膳:其方(そなた)も、よく戦われた。誇りに思われよ。
伊予:ふん・・・貴殿(きでん)、一刀斎の弟子にしておくには惜しいな。
典膳:・・・
伊予:さあ、とどめを。
典膳:私は・・・
伊予:何を躊躇う(ためらう)?私が女子(おなご)だからか?それは私への侮辱(ぶじょく)ぞ?
典膳:・・・承知・・・
0:善鬼、剣を抜く
善鬼:どけ。
典膳:え?
善鬼:ふんっ!
0:善鬼、伊予を斬りつける。
伊予:がはっ!
六平太:っ!
典膳:兄者!!何をされるのですか!?
善鬼:うるせえ。おめえが「ちんたら」やってるからだろうが。
六平太:伊予!
0:六平太、伊予に駆け寄り、抱き抱える。
伊予:兄・・・上・・・
六平太:よう頑張ったな・・・
伊予:・・・
六平太:少し待っていてくれ。俺も、すぐに後を追う。
伊予:・・・・・・(絶命)
典膳:・・・
善鬼:後はおめえだけだ。やるか?
0:六平太、伊予を横たえる
六平太:・・・遠慮する。片腕を失って以来、武芸は捨てた。手向かいはせん。
善鬼:そうか。
0:善鬼、剣を構える
善鬼:・・・おめえ、何でそんな顔をしてやがる?
六平太:え?
善鬼:憑き物(つきもの)が落ちた様な、すっきりした顔だ。これから死ぬ人間の顔じゃねえ。
六平太:(少し笑いながら)そうか・・・もしかしたら俺は、疲れていたのかも知れん。恨みを抱き続ける生き方に。だがそれも、ようやく終わる。
善鬼:(舌打ち)気に入らねえ。
0:六平太、顔を上げ善鬼の顔を見る。
六平太:・・・其方は、哀しい(かなしい)目をしているな。
善鬼:・・・うるせえ。
六平太:・・・何を捨ててきた?
善鬼:・・・何もかもを。
典膳:・・・
六平太:そうか・・・
0:六平太、目を閉じる
善鬼:はあっ!
0:善鬼、刀を振り下ろす。
六平太:ぐっ!
善鬼:(大きく息を吐く)
六平太:伊予・・・父上・・・母上・・・今、参ります・・・(絶命)
0:善鬼、刀の血を拭って鞘に納める。
善鬼:帰るぞ、典膳。
典膳:・・・
善鬼:典膳?
典膳:・・・先に戻っていて下さい。私は、二人を葬って(ほうむって)やります。
善鬼:ふん。おめえはとことんお人好しだな。
典膳:兄者は・・・
善鬼:あ?
典膳:兄者は・・・一体どうしてしまったのですか!?私の知っている兄者は、どこへ行ってしまったのですか!?
善鬼:・・・
典膳:兄者は、相手を蔑み辱める(さげすみはずかしめる)ような方ではなかったはずです!粗野(そや)で不器用でも、人を励まし、思いやる、そんな優しい方だったはずです!
善鬼:・・・
典膳:何があったのですか?理由(わけ)があるのでしょう?
善鬼:・・・俺は変わったか?
典膳:はい・・・
善鬼:どう変わった?
典膳:まるで・・・人の心を亡くしてしまわれたかのように・・・
善鬼:そうか・・・おめえ、先生があいつらの親父にした仕打ち、どう思った?
典膳:・・・自分の師を悪く言いたくはありませんが、あまりに酷過ぎます!武人たる者、負けた相手にも敬意を払うべきです!それを・・・主君の前で、雑魚呼ばわりするとは!
善鬼:・・・
典膳:その後どうなるか、先生にも分からないはず無かったでしょうに・・・それで父を失い、あの二人は果てしない恨みを抱くようになったのです!
善鬼:・・・おめえ、先生がどうしてそんな態度を取ったのか、本当に分かんねえのか?
典膳:何を・・・
善鬼:先生が冷酷だからか?傲慢(ごうまん)だからか?そんなわけねえだろ!
典膳:じゃあ、どういう理由があったというのです!?
善鬼:おめえ、さっき言ったじゃねえか。恨まれるためさ。
典膳:・・・は?
善鬼:俺たち武芸者が、強くなる為に一番必要なものが何か、分かるか?
典膳:・・・
善鬼:敵だよ。
典膳:っ!
善鬼:戦う相手がいてこそ、俺たちが武芸を振るう意味が産まれる。強くなれる。だから俺たちには、敵が必要なのさ。
典膳:だから・・・恨みを買う為に先生は、彼らの父を侮辱(ぶじょく)したというのですか?彼らが、復讐(ふくしゅう)しに来る様、仕向けたと!?
善鬼:そうだ。あいつらは、子供を使い、女を使い、最後には数にものを言わせ・・・そうやって手を替え品を替え、執念深く先生の命を狙い続けた!
典膳:(震えながら)それが全て、先生の目論見(もくろみ)通りだと?
善鬼:(笑いながら)最高だったじゃねえか!あいつらのおかげで、何度も命懸けの勝負ができた!この経験はな、木刀の稽古ではできねえんだよ!
典膳:その為に、他人を不幸にしても良いと言うのですか!?
善鬼:綺麗事ばっか言ってんじゃねえ!俺たちは人斬りだろうが。人の血を啜って(すすって)生きてる獣(けだもの)だろうがよ!
典膳:私は武人として、信念を持って剣を振るっています!戦(いくさ)の無い世に剣を取り、時には命さえ奪う我らだからこそ、その心は気高く(けだかく)あるべきです!
善鬼:・・・おめえよ、いい加減うるせえな。よくもまあそこまで綺麗事を並べ立てられるもんだ。逆に感心するぜ。
典膳:綺麗事などでは・・・
善鬼:武芸者が剣を振る理由?そんなもん、自分の欲を満たす為に決まってんだろ。日銭(ひぜに)を稼ぐ為、出世の為、気に入らねえ奴をぶっ殺す為、とかよ。
典膳:皆が皆そうではありません!偉大な剣豪は皆、誇り高く尊敬される人物ばかりです!
善鬼:そんなもん、俺から言わせりゃ偽物(にせもん)だ。本物はな、周りから恐れられ、誰も近寄ろうとしねえ、先生みたいな武芸者だ!
典膳:それでは人として、どうやって生きていくのです?
善鬼:俺たちは、もう人じゃねえ。鬼なんだよ。
典膳:私は鬼になどなりたくありません!
善鬼:(舌打ち)どうやら、俺の見込み違いだったようだな。
典膳:何を・・・
善鬼:一つ言っておく。俺はな・・・いつか、先生を斬る。
典膳:・・・え?
善鬼:それがな、先生の望みなんだよ。
典膳:何を言って・・・
善鬼:先生は言った。俺を弟子にしたのは、自分に並び立つ者を育てるためだと。どうしてか分かるか?
典膳:それは、きっと兄者に、自分の様な達人になって、一刀流を継いで欲しいと・・・
善鬼:違うな。先生は自分に匹敵するような強い「敵」を、自分の手で創り出そうとしているのさ。
典膳:・・・
善鬼:俺は先生の願いを叶える。先生を斬り殺せるような剣士になる!そして、その暁(あかつき)に、先生と最高の殺し合いをするんだ!!
典膳:それではもはや、目的は強くなる事ですらない・・・ただ、強い相手と殺し合うこと、まるで、それが望みのように・・・
善鬼:分かってるじゃねえか!
典膳:そんな生き方をすれば、周りには敵しか居なくなるではないですか!
善鬼:そうさ!
典膳:ではいずれ・・・私も兄者の「敵」になると申されるのですか?
善鬼:・・・そうかもな。
典膳:・・・長年寝食を共にしてきた私と、苦楽を共にしてきた私と、剣を交えると?私を、斬れると言うのですか?
善鬼:当然だろ。
典膳:っ!
善鬼:俺に斬れねえものなんてねえ。親だろうが兄弟だろうが、友だろうが、女だろうが、こ、子供、だろうが・・・(子供を斬った記憶が一瞬蘇る)
典膳:・・・兄者?
善鬼:・・・俺の邪魔をするやつは、全員ぶった斬る。
善鬼:おめえだろうが、誰だろうがな。
0:つづく
0:欅楼
穂邑:いらっしゃいませ。お初にお目もじ致します。穂邑(ほむら)と申します。どうぞ末永くご贔屓(ひいき)に。
一刀斎:うむ。
穂邑:さ、まずは一献(いっこん)
0:穂邑、酌をする
一刀斎:(一息に飲み干す)
穂邑:良い(よい)飲みっぷりですこと。惚れ惚れ(ほれぼれ)致しますわ。
一刀斎:お前も飲め。
0:一刀斎、酌をする
穂邑:ありがとうございます。(酒を飲む)
一刀斎:お前も、いける口の様だな。
穂邑:まあ商売柄、お相手出来る様になりませんとね。(酌をする)
一刀斎:うむ。(酒を飲む)
穂邑:指名して下さったそうですが、どなたから私の事をお聞きに?
一刀斎:ここの馴染みだ。
穂邑:そうでしたか。ありがたいことです。
一刀斎:いいや。そいつにはな、ここには来てはならんと言われた。
穂邑:あら、どうして?
一刀斎:さあな。お前を奪(と)られると思って、案じておったのではないか?
穂邑:まあ(笑う)
一刀斎:俺がこの店に来たいと言った時な、そいつ「何でもするからそれだけは勘弁してくれ!」と喚き(わめき)おってな。
穂邑:(笑いながら)もう、冗談ばっかり。良いんですか?そこまで言われたのに、ここに来てしまって。
一刀斎:ああ、もうよいのだ。それはな、もう済んだ話だ。
穂邑:え?
一刀斎:こちらの話だ。気にするな。
穂邑:はあ・・・(酌をする)
一刀斎:(酒を飲む)お前、出(で)は百姓か?
穂邑:まあ・・・そんな所です。
一刀斎:ふむ。昔の話は、したくないか。
穂邑:・・・お侍さんは?どなたかに仕(つか)えていらっしゃるの?
一刀斎:いや、しがない浪人だ。帰る家もなく、日々彷徨い(さまよい)歩いておる。
穂邑:・・・良いですね。
一刀斎:ほう?
穂邑:(ため息)私も、色んな所に行ってみたい。
一刀斎:今の暮らしが不満か?
穂邑:ずっと、こういう生き方も悪くないと、思っていたはずなんですけどね。最近、つくづくこの稼業が嫌になりまして。
一刀斎:そうか。
穂邑:・・・
一刀斎:連れて行ってやろうか?
穂邑:え?
一刀斎:お前を、ここから連れ出してやろうか、と言っている。
穂邑:そんな事言って。本気にしますよ?
一刀斎:本気だ。
穂邑:どうやって?身請けでもして下さるんですか?
一刀斎:そうではない。まあ、その気になればそのくらいの金子(きんす)、用立て(ようだて)られるかもしれんがな。
穂邑:じゃあ・・・
一刀斎:簡単だ。お前を攫う(さらう)のよ。この店からな。
穂邑:え?・・・そんな事、できるわけが・・・
一刀斎:できる。俺ならばな。
穂邑:『そう言った後、その男は私の顔をじっと見ていた。とても鋭く、昏い(くらい)目だった。その視線だけで、人を殺(あや)めてしまえそうなほどに。』
穂邑:『でも何故か、怖いとは思わなかった。むしろ、どこか惹きつけられてしまう、そんな目だった。』
一刀斎:どうした?
穂邑:あ、いや・・・お酒を、取ってまいります。
一刀斎:それは後でよい。
穂邑:え?
一刀斎:っ!
0:一刀斎、穂邑の手首を掴んで引き倒す
穂邑:きゃっ!
一刀斎:こっちが先だ。
0:一刀斎、穂邑の上にのしかかる
穂邑:・・・強引なお方。
一刀斎:強引な男は嫌いか?
穂邑:・・・いいえ。
一刀斎:では、よいな?
穂邑:・・・はい。
0:一刀斎、穂邑に顔を寄せる
一刀斎:・・・
穂邑:・・・嫌。
一刀斎:何?
穂邑:あっ。
一刀斎:どうした?この店は、初めての客には夜伽(よとぎ)をさせんのか?
穂邑:いいえ、そんな畏(かしこ)まった店じゃございません。
一刀斎:ではなぜ拒(こば)む?
穂邑:拒むだなんて、そんな・・・
一刀斎:何故か、と聞いているのだ。
穂邑:自分でもよく分からないんです。ただ・・・
一刀斎:ただ?
穂邑:・・・言ったら、お気を悪くなさいます。
一刀斎:構わん。申してみよ。
穂邑:なんというか・・・旦那(だんな)とは、そうならない方が良い、そうなっちゃいけない。一瞬、そんな風に思ったんです。
一刀斎:ほう。
穂邑:すいません、変な事言って。どうかお気になさらず、旦那のお好きな様に・・・
一刀斎:いや。
0:一刀斎、穂邑から離れ、座り直す
穂邑:?
0:穂邑も座り直す
一刀斎:今日は無しだ。
穂邑:宜しいんですか?
一刀斎:ああ。今日はな、「その気じゃない女」を抱く気分ではない。
穂邑:「今日」は?
一刀斎:ああ。
穂邑:・・・ふふ。
一刀斎:可笑(おか)しいか?
穂邑:ええ。おかしな人。
一刀斎:お前もな。
0:しばし二人で静かに笑い合う
0:善鬼と一刀斎が木刀で稽古している
善鬼:はあああ!
一刀斎:ぬるい!そんな太刀(たち)で敵が倒せるか!
善鬼:くっ!やあああ!
一刀斎:どこを見ている!俺はここだ!
典膳:(どうしたんだ?今日の稽古、いつに無く、先生が饒舌(じょうぜつ)ではないか?)
善鬼:せやあああ!
一刀斎:どうした!そんなものか!?
善鬼:でやあああ!
一刀斎:もっと、もっとだ!
善鬼:いやあああ!
一刀斎:殺す気で来い!!
善鬼:シャアッ!!
0:一刀斎、善鬼の斬撃を受け止める。
一刀斎:そうだっ!!
典膳:っ!
典膳:(先生が・・・褒(ほ)めた?)
善鬼:(荒い息遣い)
一刀斎:(荒い息遣い)
典膳:『私には、それが師弟の稽古には見えなかった。まるで、二匹の獣が戯れあって(じゃれあって)いるかのような、そんな風に思えて・・・』
典膳:『二人を・・・遠くに感じた。』
0:とある山奥の廃屋
伊予:兄上!ここもじきに奴らに見つかります!早くお支度(したく)を!
六平太:・・・俺はよい。お前一人で逃げよ。
伊予:何を申されます!兄上を置いていくことなどできませぬ!
六平太:一刀斎を討ち取ることに全てを賭けてきた。それが叶わぬとなった今、生きていて何の意味があろうか。
伊予:それは私とて・・・
六平太:お前は生きよ。本懐(ほんかい)を遂げる事は叶わなかったが、お前はよくやってくれた。お前の事、誇りに思っておるぞ。
伊予:兄上・・・
六平太:さあ、じきに奴らがやって来よう。その前にここを立ち去るのだ。
伊予:嫌でございます。私は・・・伊予(いよ)は、どこに行くのも兄上と一緒でございます!
六平太:伊予・・・
伊予:お願い致します、最後まで、お側にいさせて下さい。
六平太:・・・すまぬ。
伊予:・・・はっ!
0:善鬼、典膳、廃屋前までやって来る
善鬼:(廃屋の中に向かって呼びかける)おい!中にいるのは分かってんだ!観念して出てきやがれ!
伊予:くっ・・・
六平太:覚悟は良いか?
伊予:・・・はい。
六平太:では参ろう。
0:六平太、伊予、小屋から出てくる
善鬼:お、出てきたな。探したんだぜ。
典膳:・・・
伊予:貴様ら・・・
善鬼:ん?おめえは、初めて見る顔だな。
典膳:(この男、右腕が無いのか?)
六平太:・・・お初にお目にかかる。某(それがし)は榊六平太(さかきろくへいた)。こちらは妹の伊予でござる。
善鬼:そうか。出会ったばかりで何だが・・・死んでもらうぜ。
伊予:おのれ!
六平太:一刀斎殿は?おられぬか?
善鬼:当たり前だろ?おめえらごときに、何で先生が手を煩わせ(わずらわせ)なきゃならねえんだ?
六平太:そうか。一度近くでお顔を拝見したいと思っていたが、叶わぬか。
善鬼:おめえにその資格はねえよ。
六平太:(少し笑いながら)違いないな。
伊予:簡単にやらせはせんぞ!
0:女剣士、剣を抜く
善鬼:手向かう(てむかう)なら勝手にしな。最後の悪あがきってやつだな。
典膳:・・・お待ち下さい。
善鬼:あ?
典膳:そなたら、何故そこまで先生を恨まれる?一体、何があったのですか?
善鬼:やめろ典膳。そんな事聞いて何になる?時間の無駄だ。
典膳:私は知りたいのです。何がこの二人を、そこまで駆り立てるのかを。
善鬼:どうせ大した話じゃねえさ。大方(おおかた)そこの男の腕を斬り落としたのが先生で、その恨みを晴らそうとしたってとこだろ?
伊予:違う!
善鬼:・・・
典膳:伊予殿と申されたな。以前、お父上の事を口にされたのを覚えているぞ。それが理由ではないのか?
伊予:・・・
六平太:・・・ここまで来て、隠し立てすることなど無い。お話し致そう。
善鬼:ふん。
六平太:我々の家は、さる大名家に仕えていた。我らの祖先は武勇の誉(ほまれ)高き武人で、乱世の中、お家(おいえ)を守り抜いた「軍神」とまで言われておった。
六平太:そんなこともあり、我が一族は代々主君に武芸を指南(しなん)するお役目を仰せ使って(おおせつかって)いたのだ。
伊予:父上も、優れた武人だった。特に、人に指南するのに秀でていた。私が、女子(おなご)でありながらここまでの技量を得ることができたのも、父上の教えを受けていたからだ。
六平太:我らが仕えていた主君も、武芸がお好きな方(かた)だった。腕前はそこまでではなかったが、殿(との)は熱心に父上のご指南を受けておられた。私たちは、そんな父上の事を、とても誇らしく思っていた。
典膳:・・・
伊予:殿は武者修行で領内を訪れる武芸者を度々(たびたび)呼び付けられ、腕試しをされた。高名(こうめい)な武人であれば、特に腕を見たがられた。そして・・・
典膳:先生が、ご領地を訪れたのか?
六平太:伊東一刀斎は当時既に剣豪として名を馳せていた。殿は大層喜んで、一刀斎殿を呼びつけられた。そして、父上と立ち会う様、お命じになった。
善鬼:当然、先生が勝ったわけだな?
伊予:くっ・・・
六平太:・・・そうだ。しかも、その立ち会いで、父上は両肩の骨を砕かれた。辛うじて(かろうじて)腕を動かすことはできたが、二度と剣を握れなくなった。武芸者として、父上は死んだのだ。
典膳:・・・
善鬼:まさか、それで先生を恨んだってのか?
伊予:そんなわけないだろう!武芸者ならば、立ち会いの結果でどうなろうと覚悟はできている。例え命を落としたとて、恨んだりなどはせん!
典膳:では・・・
六平太:殿は一刀斎殿の腕前に感服(かんぷく)された。そして、是非とも召し抱えたいと申された。しかし、一刀斎殿は承知されなかった。
善鬼:当然だな。
六平太:殿は諦めが付かず、何度も申し出られた。すると、一刀斎殿は・・・
0:六平太、表情を曇らせる
典膳:?
六平太:・・・
善鬼:なんだよ?
伊予:・・・一刀斎は、お前らの師は、こう言ったのだ!「こんな雑魚を指南役にする様な、見る目の無い主君に仕える気はない」とな!!
典膳:っ!!
善鬼:・・・
六平太:殿は当然お怒りになり、一刀斎殿は家臣たちに取り囲まれた。しかし、取り押さえることはできず、簡単にあしらわられた。そのまま、一刀斎殿は悠々(ゆうゆう)と領地を立ち去った。
伊予:そして、殿のお怒りは、父上に向けられた。殿は父上を厳しく叱責(しっせき)された。
六平太:終い(しまい)には、父上を領内から追放するとまで仰られた(おっしゃられた)。そうして俺たちは、先祖代々仕えた主(あるじ)を、失ったのだ。
典膳:むごい・・・
伊予:だが、誰よりも父上ご自身が、自分を責めておられた。殿に恥をかかせた、家名(かめい)に泥を塗った、と・・・
六平太:そして・・・立ち会いより数日後、俺は脇差を突き立て、腹から血を流している父上を見つけた。
典膳:っ!
六平太:父上は、まだ息があった。両腕が上手く動かせない為、切腹も満足に出来なかったのだ。
六平太:俺はすぐに介錯(かいしゃく)しようとしたが、父上はそれを許さなかった。
典膳:なぜ?
六平太:「これは自身への罰なのだ、すぐに楽になることは許されない。だから最後までやり通すのだ」と申されてな。
伊予:・・・
六平太:しかし、父上の両手は一向に言う事を効かなかった。このままでは、ただ父上が苦しみ続けるだけだ。だから俺は・・・
典膳:?
伊予:兄上・・・
六平太:俺は・・・脇差を握る父上の拳の上に、自分の右手を添えた。そうして、そのまま・・・実の父の腹を裂いたのだ!
典膳:何と!
善鬼:・・・
六平太:父上のうめき声、今でも耳について離れぬ。
六平太:そして何より、腹を裂いた感触・・・刃(やいば)が腑(はらわた)を切り裂いていく感触が、俺の右手にずっと残った。寝ても覚めても、その感触は俺を苦しめた。
伊予:そして、それに耐えられなくなった兄上は・・・
0:回想
伊予:兄上?母上がお呼びです。どちらにいらっしゃいますか?
六平太:(遠くから)ぐぬぅあああ!!
伊予:っ!兄上!
伊予:『私が急ぎ部屋の障子(しょうじ)を開け放つと、そこには左手に小太刀を持ち、右腕から血を流す兄上がいた。』
六平太:うがあっ!があっ!ああっ!
伊予:『兄上は、右腕に小太刀を打ちつけていた。何度も、何度も・・・』
伊予:兄上!何をしているのですか!?お辞め下さい!!
0:伊予、六平太の左腕を掴み止めようとする
六平太:があっ!
0:六平太、伊予を突きとばす。
伊予:うあっ!
伊予:『私は、兄上をお止めしようとした。しかし、兄上は一向に辞めようとはされなかった。』
六平太:ああっ!ぐぬううう!
0:伊予、六平太に抱きつく。
伊予:お願いします、もうお辞め下さい!もう・・・辞めて・・・
六平太:ぐあああああ!!
0:回想終わり
六平太:そうして俺は、右腕を失ったというわけだ。
典膳:・・・
六平太:馬鹿なことをしたものだ。これから母と妹と三人、路頭に迷おうという時に、唯一の男手(おとこで)が隻腕(せきわん)になったのだからな。
伊予:私は、お側に居ながら、兄上を苦しみから救う事が出来なかった・・・
六平太:家を失ってから、様々な土地を巡った。毎日毎日、生きるのに必死だった。
六平太:不思議な事だが、一刀斎殿に対する恨みは、しばらく沸いてこなかったのだ。父上を失った悲しみと、日々の生活の苦しさが、そんな感情を覆い隠していたのだろう。
伊予:数年後、母上が病(やまい)に倒れた。私達は必死に看病したが、母上は弱っていく一方だった。そして、いよいよ命が尽きようとしたまさにその時、母上はこう仰った。「恨めしや・・・伊東一刀斎」
典膳:っ!
六平太:それが、母上の最後のお言葉だ。俺は雷に打たれた様に感じた。母上は、片時(かたとき)も一刀斎殿への恨みをお忘れでは無かったのだ、と。
伊予:そして、我らの心にも、一刀斎への憎しみが渦巻いた。忘れかけていた恨みが、蘇ったのだ。この恨み、晴らさねばならないと!
六平太:各地を巡り、人を集めた。かつて父の教えを受けた者、我らと同じ様に一刀斎殿に恨みを持つ者。そうして集めた同志たちと誓い合った。「必ず、伊東一刀斎を葬る」とな。
典膳:それで我らに襲撃を・・・
伊予:・・・これが、全てだ。結局、念願を果たすことは出来なかったがな。
典膳:(何という事だ。こればかりは、先生のなさり様(なさりよう)が酷すぎる!恨みを持つのも当然だ。)
典膳:(私は、どうすれば良い?何か、何かしてやれる事はないか?この兄妹(きょうだい)の為に、何か・・・)
善鬼:・・・話は終い(しまい)か?
典膳:え?
善鬼:つまんねえ話だな。聞いて損したぜ。
伊予:何だと?
善鬼:長々と話してもらってわりいが、とどのつまり、「おめえらの親父が弱かった」それだけの話だろ?
六平太:っ!
伊予:き、貴様あ!!
典膳:兄者!
善鬼:だってそうだろうがよ。弱かったから、殿様の怒りを買って、家族を路頭(ろとう)に迷わせたんだろうが。
伊予:父上は弱くない!!
六平太:其方(そなた)に、父上の・・・我ら家族の何が分かると言うのだ!!
善鬼:分かんねえなあ、弱い奴らの考える事なんてよ。
0:伊予、剣を抜く
伊予:殺す!
善鬼:良いねえ、良い殺気だ!これでもうちょい腕がありゃ、言うことねえのによ!
伊予:おのれ!
典膳:・・・
0:典膳、二人の間に割って入る
善鬼:あ?何してんだ典膳?どけよ。この女は俺がいたぶってやる。
典膳:私が相手をします。
善鬼:何だあ?俺がやるって言ってんだ。邪魔するんじゃ(ねえよ)
典膳:(被せて)私が相手をします!!
善鬼:・・・
典膳:・・・
善鬼:(舌打ち)好きにしろ。
0:典膳、刀を抜く
典膳:さあ、伊予殿。尋常(じんじょう)なる立ち会いだ。思う存分参られよ。
伊予:・・・承知、致した!
伊予:榊龍弦(さかきりゅうげん)が娘、伊予!
典膳:一刀流、伊東一刀斎が門弟、神子上典膳!・・・参る。
伊予:・・・
典膳:・・・
伊予:はあああ!
典膳:せやあああ!
0:二人の斬撃がぶつかり合う
伊予:くっ!
典膳:はあああ!
伊予:やあっ!
0:伊予、典膳の斬撃をいなし、一撃を放つ
典膳:くっ!やるな!
伊予:これで、どうだ!
典膳:甘い!
0:典膳、肩で当て身を入れ、伊予が吹き飛ぶ
伊予:うあっ!
典膳:(深く呼吸する)
伊予:やはり・・・強い!
典膳:せやあああ!
伊予:おおおおお!
0:そのまま斬り合う
善鬼:(典膳のやつ、何やってやがんだ。その女、確かに少し腕は立つが、おめえならどうってことねえだろ?)
典膳:やあああ!
伊予:はあああああ!
善鬼:(相手が女だからか?先生に親父を辱められた(はずかしめられた)相手だからか?)
善鬼:(どんな相手だろうと、情けなんか掛けちゃいけねえのに。)
一刀斎:『死を恐れるな。』
善鬼:(死ぬ事を恐れちゃいけねえ、命を奪う事を恐れちゃいけねえ。それが正しいんだ。それが俺たちの生きる道なんだ!)
六平太:どうされた?苛立って(いらだって)いるようだが?
善鬼:うるせえ!
六平太:・・・
典膳:おおおおお!
善鬼:(何でおめえには・・・それが分かんねえんだ?)
典膳:(荒い息遣い)
善鬼:(おめえも・・・所詮は人か。)
典膳:やあっ!
伊予:ぐあっ!
0:典膳の斬撃が、伊予の肩を斬りつける。伊予、刀を落とす。
六平太:伊予!
善鬼:勝負あったな。
伊予:(うめき声)
典膳:(荒い息遣い)
伊予:み、見事だ、神子上典膳。
典膳:其方(そなた)も、よく戦われた。誇りに思われよ。
伊予:ふん・・・貴殿(きでん)、一刀斎の弟子にしておくには惜しいな。
典膳:・・・
伊予:さあ、とどめを。
典膳:私は・・・
伊予:何を躊躇う(ためらう)?私が女子(おなご)だからか?それは私への侮辱(ぶじょく)ぞ?
典膳:・・・承知・・・
0:善鬼、剣を抜く
善鬼:どけ。
典膳:え?
善鬼:ふんっ!
0:善鬼、伊予を斬りつける。
伊予:がはっ!
六平太:っ!
典膳:兄者!!何をされるのですか!?
善鬼:うるせえ。おめえが「ちんたら」やってるからだろうが。
六平太:伊予!
0:六平太、伊予に駆け寄り、抱き抱える。
伊予:兄・・・上・・・
六平太:よう頑張ったな・・・
伊予:・・・
六平太:少し待っていてくれ。俺も、すぐに後を追う。
伊予:・・・・・・(絶命)
典膳:・・・
善鬼:後はおめえだけだ。やるか?
0:六平太、伊予を横たえる
六平太:・・・遠慮する。片腕を失って以来、武芸は捨てた。手向かいはせん。
善鬼:そうか。
0:善鬼、剣を構える
善鬼:・・・おめえ、何でそんな顔をしてやがる?
六平太:え?
善鬼:憑き物(つきもの)が落ちた様な、すっきりした顔だ。これから死ぬ人間の顔じゃねえ。
六平太:(少し笑いながら)そうか・・・もしかしたら俺は、疲れていたのかも知れん。恨みを抱き続ける生き方に。だがそれも、ようやく終わる。
善鬼:(舌打ち)気に入らねえ。
0:六平太、顔を上げ善鬼の顔を見る。
六平太:・・・其方は、哀しい(かなしい)目をしているな。
善鬼:・・・うるせえ。
六平太:・・・何を捨ててきた?
善鬼:・・・何もかもを。
典膳:・・・
六平太:そうか・・・
0:六平太、目を閉じる
善鬼:はあっ!
0:善鬼、刀を振り下ろす。
六平太:ぐっ!
善鬼:(大きく息を吐く)
六平太:伊予・・・父上・・・母上・・・今、参ります・・・(絶命)
0:善鬼、刀の血を拭って鞘に納める。
善鬼:帰るぞ、典膳。
典膳:・・・
善鬼:典膳?
典膳:・・・先に戻っていて下さい。私は、二人を葬って(ほうむって)やります。
善鬼:ふん。おめえはとことんお人好しだな。
典膳:兄者は・・・
善鬼:あ?
典膳:兄者は・・・一体どうしてしまったのですか!?私の知っている兄者は、どこへ行ってしまったのですか!?
善鬼:・・・
典膳:兄者は、相手を蔑み辱める(さげすみはずかしめる)ような方ではなかったはずです!粗野(そや)で不器用でも、人を励まし、思いやる、そんな優しい方だったはずです!
善鬼:・・・
典膳:何があったのですか?理由(わけ)があるのでしょう?
善鬼:・・・俺は変わったか?
典膳:はい・・・
善鬼:どう変わった?
典膳:まるで・・・人の心を亡くしてしまわれたかのように・・・
善鬼:そうか・・・おめえ、先生があいつらの親父にした仕打ち、どう思った?
典膳:・・・自分の師を悪く言いたくはありませんが、あまりに酷過ぎます!武人たる者、負けた相手にも敬意を払うべきです!それを・・・主君の前で、雑魚呼ばわりするとは!
善鬼:・・・
典膳:その後どうなるか、先生にも分からないはず無かったでしょうに・・・それで父を失い、あの二人は果てしない恨みを抱くようになったのです!
善鬼:・・・おめえ、先生がどうしてそんな態度を取ったのか、本当に分かんねえのか?
典膳:何を・・・
善鬼:先生が冷酷だからか?傲慢(ごうまん)だからか?そんなわけねえだろ!
典膳:じゃあ、どういう理由があったというのです!?
善鬼:おめえ、さっき言ったじゃねえか。恨まれるためさ。
典膳:・・・は?
善鬼:俺たち武芸者が、強くなる為に一番必要なものが何か、分かるか?
典膳:・・・
善鬼:敵だよ。
典膳:っ!
善鬼:戦う相手がいてこそ、俺たちが武芸を振るう意味が産まれる。強くなれる。だから俺たちには、敵が必要なのさ。
典膳:だから・・・恨みを買う為に先生は、彼らの父を侮辱(ぶじょく)したというのですか?彼らが、復讐(ふくしゅう)しに来る様、仕向けたと!?
善鬼:そうだ。あいつらは、子供を使い、女を使い、最後には数にものを言わせ・・・そうやって手を替え品を替え、執念深く先生の命を狙い続けた!
典膳:(震えながら)それが全て、先生の目論見(もくろみ)通りだと?
善鬼:(笑いながら)最高だったじゃねえか!あいつらのおかげで、何度も命懸けの勝負ができた!この経験はな、木刀の稽古ではできねえんだよ!
典膳:その為に、他人を不幸にしても良いと言うのですか!?
善鬼:綺麗事ばっか言ってんじゃねえ!俺たちは人斬りだろうが。人の血を啜って(すすって)生きてる獣(けだもの)だろうがよ!
典膳:私は武人として、信念を持って剣を振るっています!戦(いくさ)の無い世に剣を取り、時には命さえ奪う我らだからこそ、その心は気高く(けだかく)あるべきです!
善鬼:・・・おめえよ、いい加減うるせえな。よくもまあそこまで綺麗事を並べ立てられるもんだ。逆に感心するぜ。
典膳:綺麗事などでは・・・
善鬼:武芸者が剣を振る理由?そんなもん、自分の欲を満たす為に決まってんだろ。日銭(ひぜに)を稼ぐ為、出世の為、気に入らねえ奴をぶっ殺す為、とかよ。
典膳:皆が皆そうではありません!偉大な剣豪は皆、誇り高く尊敬される人物ばかりです!
善鬼:そんなもん、俺から言わせりゃ偽物(にせもん)だ。本物はな、周りから恐れられ、誰も近寄ろうとしねえ、先生みたいな武芸者だ!
典膳:それでは人として、どうやって生きていくのです?
善鬼:俺たちは、もう人じゃねえ。鬼なんだよ。
典膳:私は鬼になどなりたくありません!
善鬼:(舌打ち)どうやら、俺の見込み違いだったようだな。
典膳:何を・・・
善鬼:一つ言っておく。俺はな・・・いつか、先生を斬る。
典膳:・・・え?
善鬼:それがな、先生の望みなんだよ。
典膳:何を言って・・・
善鬼:先生は言った。俺を弟子にしたのは、自分に並び立つ者を育てるためだと。どうしてか分かるか?
典膳:それは、きっと兄者に、自分の様な達人になって、一刀流を継いで欲しいと・・・
善鬼:違うな。先生は自分に匹敵するような強い「敵」を、自分の手で創り出そうとしているのさ。
典膳:・・・
善鬼:俺は先生の願いを叶える。先生を斬り殺せるような剣士になる!そして、その暁(あかつき)に、先生と最高の殺し合いをするんだ!!
典膳:それではもはや、目的は強くなる事ですらない・・・ただ、強い相手と殺し合うこと、まるで、それが望みのように・・・
善鬼:分かってるじゃねえか!
典膳:そんな生き方をすれば、周りには敵しか居なくなるではないですか!
善鬼:そうさ!
典膳:ではいずれ・・・私も兄者の「敵」になると申されるのですか?
善鬼:・・・そうかもな。
典膳:・・・長年寝食を共にしてきた私と、苦楽を共にしてきた私と、剣を交えると?私を、斬れると言うのですか?
善鬼:当然だろ。
典膳:っ!
善鬼:俺に斬れねえものなんてねえ。親だろうが兄弟だろうが、友だろうが、女だろうが、こ、子供、だろうが・・・(子供を斬った記憶が一瞬蘇る)
典膳:・・・兄者?
善鬼:・・・俺の邪魔をするやつは、全員ぶった斬る。
善鬼:おめえだろうが、誰だろうがな。
0:つづく