台本概要

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タイトル 恋のアディショナルタイム
作者名 遠野太陽  (@10nonbsun)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 全力青春ラブストーリー。
恋する男子と応援する女子。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
優里 113 ゆうり。高校生。女子サッカー部員。ポジションはサイドバック。神社の娘。お守りパワーで奇跡を起こす。舞斗の幼馴染。
舞斗 109 まいと。高校生。男子サッカー部員。ポジションはトップ下。小学生の頃から玲香に恋している。 (玲香:優里と舞斗より年は4つ上。なでしこ1部リーグに所属するプロサッカー選手。あだ名はゴリラ。台詞はありません)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:【アディショナルタイム】サッカーにおける用語。前後半それぞれの規定試合時間の後に、追加する時間を指す。何分間の追加とするかは、試合中に空費された時間の長さを考慮して、主審の裁量で決定する。2013年頃までは「ロスタイム(失われた時間)」と呼ばれていたが、「なるべくポジティブな言葉を使おう」という潮流により、「アディショナルタイム(加えられた時間)」に変更された。  :  優里:全国高校サッカー選手権、県大会決勝。舞斗のいる男子サッカー部は延長戦の後半が始まってすぐ、相手チームに先制された。 優里:スコアは0対1。 舞斗:顔上げろ! まだ時間あるぞ! 優里:スタミナはとっくに切れていた。それでも舞斗は気力を振り絞って前を向いた。 舞斗:こっち! ボールよこせ! 優里:フリーでボールを受け取って舞斗がドリブルを仕掛けた。 優里:一人かわして二人目。接触寸前でサイドを駆け上がる味方にパス。 優里:ワンツーで戻されたボールをノートラップでロングパス。 優里:サイドチェンジから一人二人とパスを繋いで、再び舞斗にボールが渡る。 優里:スピードに乗ったままトラップで一人かわし、ワンタッチでもう一人抜き去った。 優里:サイドを走る味方に視線を送り、フェイントで切り返し。ディフェンダーを置き去りにしてもう一度内側に切り込む。 優里:シュートチャンスだ。 優里:渾身の右脚がボールに触れる直前、相手チームのセンターバックのスパイクが舞斗の左脚を蹴り飛ばした。 舞斗:(ラフプレーを受けて転倒)ぐああっ! 優里:転倒した舞斗は激痛に足を押さえた。 優里:審判の笛が鳴った。イエローカードが出てペナルティキック。同点のチャンスだ。 優里:顔をしかめながらも舞斗はニヤリと笑った。 舞斗:任せたぞ! 優里:キッカーを味方に託し、舞斗はタンカーでベンチへと運ばれた。 優里:なんとしても1点! 優里:しかし、ペナルティキックは鉄壁を誇るゴールキーパーに阻まれてしまった。 優里:落胆するベンチメンバー。一瞬だけ悔しそうに下を向いた舞斗は歯を食いしばって、また前を向いた。 舞斗:まだ終わってない。 優里:交代枠は使わない。舞斗が戻るのを信じて、フィールドの十人が必死に守る。 優里:アディショナルタイム。審判が掲げた数字は3。 優里:試合時間は残り3分。 優里:監督に声をかけられ、舞斗が力強く頷いた。 舞斗:はい。大丈夫です。いきます! 優里:ボールがタッチラインを切ったタイミングで舞斗がフィールドに戻った。 優里:残された時間はたった3分。 優里:焦る味方を落ち着かせるように舞斗は手を叩いた。 舞斗:(パンパンと手を叩き)まだあと3分もある。まずは1点、落ち着いていこう! 優里:そう。これはアディショナルタイム。「たった3分」じゃない。まだ3分も残ってる。 優里:時間を稼ぐ相手チームにプレッシャーをかけてサイドバックがボールを奪った。 優里:ボランチから細かくパスを繋いで敵陣に切り込む。 優里:サイド深くまでドリブルで駆け上がったフォワードからマイナスの角度でセンタリングが上がった。 優里:絶好のタイミングで舞斗がファーサイドへ走りこんだ。 舞斗:うおおおお! 優里:大きくジャンプしてヘディングシュート。 優里:舞斗の頭からゴールに向かったボールはファーのポストを掠めてラインを割ってしまった。 舞斗:くっそおおお! 優里:相手ゴールキーパーがゴールキックでボールを蹴り上げた。その瞬間、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。 舞斗:(荒い息) 優里:もう少し高く飛べていたら。足を痛めてなかったら、枠内にヘディングできたかもしれない。 優里:チャンスは他にも何度もあった。 優里:でも結局、1点も取れなかった。 舞斗:(荒い息)負けた・・・。 優里:舞斗は座りこんだまま動けない。 舞斗:(泣く)負けた・・・! 優里:舞斗の高校サッカーが終わった瞬間だった。 優里:私の手の中のお守りは、強く握りしめたまま、くの字に曲がっていた。 優里:私のお守りパワーが足りなかった。  :  舞斗:応援、ありがとうございました! 優里:男子サッカー部全員が応援席に頭を下げた。 優里:顔を上げた舞斗が応援席を見渡し、そこにいるはずの人がいないことに気がついて、それから私のほうへ視線を向けた。 舞斗:玲香さんは? 優里:黙って首を横に振る私に舞斗がもう一度言った。 舞斗:なあ、優里、玲香さんは? 優里:試合の途中で、もう出発の時間だからって。 舞斗:出発ってなんだよ。 優里:玲香さんはさっき帰った。ここにはもういない。 舞斗:それっていつ? 優里:延長後半が始まってすぐだから10分くらい前。16時の電車に乗らなきゃ夜の試合に間に合わないからって。 舞斗:なんで言ってくれなかったんだよ! 優里:試合中だったじゃん。言えるわけない! 舞斗:16時何分の電車? 優里:そんなの知らないよ。 舞斗:ここから一番近い駅なら柏の葉キャンパス駅だよな。 舞斗:追いかけなきゃ。 優里:なに言ってるの!? 舞斗:次はいつ会えるかわからない。今日じゃなきゃダメなんだ! 優里:舞斗、もう走るスタミナ残ってないでしょ!? どうやって駅まで行くつもり!? 舞斗:それは・・・。 優里:それにこれからミーティング始まるんでしょ。 優里:16時まであと5分しかないのに。 舞斗:優里、助けてくれ! 優里:・・・。 舞斗:お前だけが頼りなんだ! 優里:・・・間に合わなくても文句言わないでよ。 優里:すぐ自転車持ってくるから、スタジアム出たところで待ってて。 舞斗:わかった。  :  優里:(M)玲香さんは4つ年上で女子のプロサッカー選手。今は三重県にあるリーグ1部のチームに所属している。 優里:他の男子からは「ゴリラ」と呼ばれていたけど、小学1年生からサッカーを始めた舞斗にとっては憧れの人で、初恋の人だ。 優里:舞斗と一緒にサッカーを始めた私にとっても、玲香さんはカッコいいお姉さんだった。 優里:県大会決勝に舞斗が出場すると聞いて、忙しい中、応援に駆けつけてくれたのだ。  :  舞斗:俺が漕ぐよ。 優里:バカ言わないの。女子サッカー部の脚力なめんな。早く後ろに乗って。 舞斗:いや、でも俺が後ろに乗るのは・・・。 優里:いいから! これが一番早く駅に着く方法なの。急いで。 舞斗:わかったよ。 0:自転車に二人乗りする。 優里:振り落とされないでよ。 優里:おりゃああああ! 舞斗:うおっとっとっと! 危ねぇ! 優里:しっかり掴まって。 舞斗:わかってる!  :  優里:(M)玲香さんはギリギリまで私の隣で応援していた。 優里:「ごめんね。私の分まで応援してあげて」 優里:そう言葉を残して、玲香さんは行ってしまった。  :  0:自転車を走らせながら。 優里:ミーティングは大丈夫だったの? 舞斗:なんとかしてきた。 優里:玲香さんに会ってどうするつもり? 舞斗:それは・・・。 優里:この試合に勝ったら告白するって言ってたよね? 舞斗:ああ。 優里:負けちゃったから告白は無し? 舞斗:・・・。 優里:急いで追いかけて、負けましたって報告するの? 舞斗:えっと・・・たぶんこれだ。16時12分。区間快速秋葉原行き。まだ間に合うかもしれない。 優里:スマホで時刻表調べてたの? 舞斗:ちゃんと掴まってるから大丈夫。 優里:スマホ落としても知らないからね! 舞斗:よし。急げ優里、ぶっとばせ! 優里:何様だ! 後で何かおごりなさいよ! 優里:おりゃあああ!  :  優里:(M)さっき、みんなの前で舞斗に「お前だけが頼りなんだ」って言われた時、身体中から汗が吹き出すのを感じた。 優里:舞斗の力になれることが嬉しかった。 優里:たとえ舞斗が玲香さんしか見ていなくても。 優里:私は舞斗が好きだった。  :  舞斗:さっきの話だけどさ。 優里:なに? 舞斗:もし間に合って、玲香さんに会えたら、告白する。 舞斗:ずっと好きでしたって、気持ち伝える。 優里:・・・そっか。 舞斗:あーあ、負けちゃった。 舞斗:勝ちたかったな。全国行きたかった。成長した俺を玲香さんに見せたかった。 舞斗:延長になる前に点取ってたら、試合の後で話す時間があったのに。 舞斗:試合に勝ってたら、「玲香さんの応援のおかげだよ」って報告できたのに・・・。 舞斗:こんなカッコ悪いのに玲香さんに告白するとか、自分でもバカみたいだって思うよ。 優里:玉砕覚悟ってこと? 舞斗:結果なんかどうだっていい。俺は俺の気持ちをぶつけるだけ。 優里:結果が一番大事でしょ。可能性もないのに告白するなんて意味わかんない。 優里:振られる前提で想いを伝えられても、相手が迷惑でしょ。 舞斗:優里は俺が告白するのに反対なのか? 優里:そうじゃなくて。 優里:成功させるつもりで全力でぶつかれって言ってんの。 舞斗:応援してくれるのか? 優里:当たり前でしょ。じゃなきゃ今、舞斗を後ろに乗せて自転車漕いでない。 舞斗:うまくいくかな? 優里:いくわけないじゃん。私の全財産を舞斗がフラれるほうに賭ける! 舞斗:マジで!? 優里:借りられるだけお金を借りて、全額舞斗がフラれるほうに賭ける! 舞斗:どんだけだよ。俺が盛大にフラれるのを期待してるってこと? 優里:まあね。フラれて泣いてる舞斗を大笑いしてやるのが今から楽しみで仕方ない。 舞斗:最低だな。 優里:それにね。 舞斗:なに? 優里:きっとフラれるけど。間違いなくフラれるけど。でもそれでもそんな舞斗を応援したいって思う。 舞斗:どうして? 優里:なんか青春じゃん。 優里:毎日サッカーばっかりやってて、青春ってなんなのかなって思ってたけど。 優里:試合に負けたくせに告白しようとするカッコ悪い舞斗ってさ、青春じゃん。 優里:そんなカッコ悪い幼馴染を助けるために自転車走らせる私もさ、青春じゃん。 舞斗:なんだよそれ。 優里:なんかいいね。燃えてきた。 舞斗:優里。 優里:なに? 舞斗:お前、すっげぇいい奴だな。 優里:今ごろ気づいたか。 舞斗:それと、もっとすげぇことに気がついた。 優里:なに? 舞斗:さっきから信号全部青。 優里:当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの。神社の娘よ。 舞斗:お守りパワーか!? 優里:その通り。『交通安全』で交通量を減らして、『勝守(かちまもり)』で運気上昇。警察に見つからない&全部青信号にして駅までノンストップで走り抜ける! 舞斗:さすが優里! 舞斗:お前のお守りパワーはホントすげぇな! 優里:そんなことない。 舞斗:そんなことあるだろ。 舞斗:お前の『合格祈願』のおかげで一緒の高校に入れたし、『学業成就』のおかげで俺は赤点にならなかった。 優里:でも私は舞斗のケガを防げなかった。 優里:私の『必勝祈願』も『身体健全』も舞斗を助けられなかった。 舞斗:お守りパワーで試合に勝てるなら毎日あんなにキツイ練習してねぇよ。 舞斗:負けたのも、ケガしたのも俺の力不足だ。優里のお守りがあったから俺は最後まで走れたんだ。 優里:今度こそ舞斗を助ける。だから絶対間に合わせる。 優里:舞斗、駅に着いたらダッシュできる? 舞斗:ああ。もう回復したから大丈夫。 優里:ケガした足は? 舞斗:もう平気。優里のお守りのおかげ。でも発車まであと1分しかない。 優里:ええええ、もうそんな時間!? 優里:間に合ええええ!! 舞斗:駅まであと少し! 優里:バスのロータリーに突っ込むよ! 舞斗:マジかよ、バス動いてるって! うおわあああ! 優里:(バスの間をすり抜けて)どけどけー! 舞斗:無茶しすぎだろ! 優里:階段の前に停めるから走って! 舞斗:オッケー! 優里:電車もう着いてる! 舞斗:時間は・・・あっ、今、発車時刻! 優里:『旅行安全』フルパワー! 舞斗:優里!? 優里:今、電車を停めた。走れ舞斗! 舞斗:電車を停めた!? 舞斗:ホントだ。動いてない。どうなってんだよ!? 優里:線路に落下物で安全確認中! 舞斗:お前、なんでもありだな。 優里:急いで! 3分したら発車しちゃうよ! 舞斗:3分!? たった3分で俺の想いを伝えられるわけないだろ。言いたいこといっぱいあるのに。 優里:「好きだ」って言うだけなら1秒で言える。 優里:舞斗、「たった3分」じゃない。まだ3分も残ってる。 優里:これはアディショナルタイムだ! 舞斗:アディショナルタイム・・・。 優里:走れ舞斗! 舞斗:よし、行ってくる! 舞斗:うおおおおお! 舞斗:(転びそうになって)おおっとっとっ! 優里:『無病息災』『厄除(やくよけ)祈願』! 舞斗:ぅおっと。危ねぇ! サンキュー、優里! 舞斗:(階段を駆け上がる)うおおおおお! 優里:(溜め息)私に出来るのはここまで。 優里:しっかりやんなさいよ。  :  舞斗:(走る)玲香さーん! 舞斗:(走る)玲香さん、玲香さーん!  :  優里:恋愛・・・成就・・・。 優里:バカ舞斗。あんたの『恋愛成就』なんか、祈ってやるもんか。 優里:(涙ぐむ)・・・好きな人の恋を応援するなんて、私、青春してるじゃん。 優里:・・・ちゃんと、玲香さんに会えたかなぁ。  :  舞斗:(玲香を見つけて)あっ、玲香さん! 舞斗:(深呼吸)玲香さん、俺・・・。 舞斗:玲香さんが好きだ! 舞斗:ずっとずっと好きだった!  :  優里:ダメだ。こんな顔、舞斗に見せられない。笑わなきゃ。振られた舞斗を大笑いしてやるんだ。  :  優里:音を立ててゆっくりと電車が動きだした。 優里:少しして、目の前の階段を舞斗がゆっくりと降りてきた。 優里:その顔は、泣いてるようにも、笑ってるようにも見えた。  :  舞斗:優里。 優里:ちゃんと玲香さんには会えた? 舞斗:うん。 優里:どうだったって聞くまでもないか。その顔見ればわかる。 舞斗:(笑)彼氏がいるんだってさ。盛大にフラれた。 優里:(笑)だから言ったのに。 舞斗:でも俺、ちゃんと気持ちを伝えられた。優里のおかげ。 優里:うん。 舞斗:あーあ。初恋だったのになー。 優里:ねぇ、聞いたことなかったんだけどさ。 舞斗:なに? 優里:玲香さんのどこがそんなによかったの? 舞斗:なんだよいきなり。 優里:だって玲香さん、男勝りで性格ガサツだし、筋肉凄いし。 舞斗:優里だって他の女子と比べたら足太いだろ。 優里:うっさい。見んなバカ。 舞斗:見てねぇよ。 舞斗:玲香さんは俺がサッカーを始めた時に出会った初めてのヒーローだったんだ。 舞斗:ヒーローってのは違うか。 舞斗:誰よりもサッカーが上手くて。足も速くて。ケンカも強くて。「ゴリラ」って言われても全然気にしないで、大きな口開けて笑ってるのがホントにカッコよくて。 舞斗:この人みたいになりたいって思った。 舞斗:ずっと好きだった。 舞斗:・・・好きだったんだ。 優里:頭、撫でてあげよっか。 舞斗:いらねぇよ、バカ。 優里:泣くなら肩貸そっか。 舞斗:いらねぇっつってんだろ。 優里:ねぇ。舞斗の好きなタイプって、やっぱりサッカー上手い人? 舞斗:永野芽郁。 優里:玲香さんと全然違うじゃん。永野芽郁にゴリラ成分1%も入ってないよ。 舞斗:ゴリラ成分配合してるから玲香さんを好きになったんじゃねぇよ。 舞斗:お前もゴリラのくせに人のこと言えんのか。 優里:ああん!? ここまで舞斗を運んであげた恩人をゴリラって言ったか!? 舞斗:・・・悪かった。 舞斗:(苦笑)ありがとな、優里。 優里:まあいいけど。私の気持ちを考える余裕なんてないのは最初からわかってるから。 舞斗:え、なにが? 優里:ねぇ、舞斗。帰ったら練習つきあってよ。 舞斗:今日これから? 優里:うん。いつものところで。 舞斗:わかった。つきあうよ。 優里:ありがと。 舞斗:それより競技場に戻るんだろ。帰りは俺が前な。 優里:ええっ、いいよ。私の自転車だし。 舞斗:もうスタミナは復活したから大丈夫。 優里:ちょ、ちょっと。勝手に乗らないで。 舞斗:ほら、早く後ろに乗れ。あっちに荷物置きっぱなしなんだから。 優里:・・・私、二人乗りで後ろに乗ったことない。 舞斗:マジで? 乗り方わかるよな? 優里:わかるけど・・・。 舞斗:バカ、そうじゃねぇよ、股広げんな。 舞斗:横座りするんだよ。見たことあるだろ。 優里:そんな、女子みたいなこと。 舞斗:お前も女子だろうが。 優里:ううぅ・・・これでいい? 舞斗:よし。じゃあ行くぞ。 優里:ちょ、ちょっと待って。これ絶対落ちる。怖い。 舞斗:つかまってろ。 優里:えぇ・・・(焦って舞斗の腰に腕を回す)これでいい!? 舞斗:うおっ! つかまるのは俺じゃなくて! 優里:(パニック)違うの!? 舞斗:もういいよこれで。汗臭くないか? 優里:大丈夫。 舞斗:じゃあ、しっかりつかまってろよ。 舞斗:あと、交通安全と運気上昇、よろしくな。 優里:任せといて。ゆっくりね。急ぐことないからね。 舞斗:うおりゃああああ! 優里:う、うわ、わあああ! 優里:舞斗、もっとゆっくり! 安全運転! 舞斗:わかってるって。 舞斗:(笑)なぁ、優里。 優里:なに? 舞斗:自転車で女子と二人乗りってさ、青春してるよな! 優里:・・・相手が私でもいいの? 舞斗:見えてないから大丈夫。脳内で永野芽郁に変換してるから。うわっ、ちょっ、やめろ、なにやってんだ!? 優里:腹筋チェーック! おおぅ、固い。バッキバキ。鍛えてるねぇ。 舞斗:バカ、やめろ変態。 優里:(笑)・・・ねぇ、舞斗・・・。 舞斗:なに? 優里:(小声で)好きだよ。 舞斗:ええ、なに? なんだって? 優里:なんでもなーい。  :  0:おしまい。

0:【アディショナルタイム】サッカーにおける用語。前後半それぞれの規定試合時間の後に、追加する時間を指す。何分間の追加とするかは、試合中に空費された時間の長さを考慮して、主審の裁量で決定する。2013年頃までは「ロスタイム(失われた時間)」と呼ばれていたが、「なるべくポジティブな言葉を使おう」という潮流により、「アディショナルタイム(加えられた時間)」に変更された。  :  優里:全国高校サッカー選手権、県大会決勝。舞斗のいる男子サッカー部は延長戦の後半が始まってすぐ、相手チームに先制された。 優里:スコアは0対1。 舞斗:顔上げろ! まだ時間あるぞ! 優里:スタミナはとっくに切れていた。それでも舞斗は気力を振り絞って前を向いた。 舞斗:こっち! ボールよこせ! 優里:フリーでボールを受け取って舞斗がドリブルを仕掛けた。 優里:一人かわして二人目。接触寸前でサイドを駆け上がる味方にパス。 優里:ワンツーで戻されたボールをノートラップでロングパス。 優里:サイドチェンジから一人二人とパスを繋いで、再び舞斗にボールが渡る。 優里:スピードに乗ったままトラップで一人かわし、ワンタッチでもう一人抜き去った。 優里:サイドを走る味方に視線を送り、フェイントで切り返し。ディフェンダーを置き去りにしてもう一度内側に切り込む。 優里:シュートチャンスだ。 優里:渾身の右脚がボールに触れる直前、相手チームのセンターバックのスパイクが舞斗の左脚を蹴り飛ばした。 舞斗:(ラフプレーを受けて転倒)ぐああっ! 優里:転倒した舞斗は激痛に足を押さえた。 優里:審判の笛が鳴った。イエローカードが出てペナルティキック。同点のチャンスだ。 優里:顔をしかめながらも舞斗はニヤリと笑った。 舞斗:任せたぞ! 優里:キッカーを味方に託し、舞斗はタンカーでベンチへと運ばれた。 優里:なんとしても1点! 優里:しかし、ペナルティキックは鉄壁を誇るゴールキーパーに阻まれてしまった。 優里:落胆するベンチメンバー。一瞬だけ悔しそうに下を向いた舞斗は歯を食いしばって、また前を向いた。 舞斗:まだ終わってない。 優里:交代枠は使わない。舞斗が戻るのを信じて、フィールドの十人が必死に守る。 優里:アディショナルタイム。審判が掲げた数字は3。 優里:試合時間は残り3分。 優里:監督に声をかけられ、舞斗が力強く頷いた。 舞斗:はい。大丈夫です。いきます! 優里:ボールがタッチラインを切ったタイミングで舞斗がフィールドに戻った。 優里:残された時間はたった3分。 優里:焦る味方を落ち着かせるように舞斗は手を叩いた。 舞斗:(パンパンと手を叩き)まだあと3分もある。まずは1点、落ち着いていこう! 優里:そう。これはアディショナルタイム。「たった3分」じゃない。まだ3分も残ってる。 優里:時間を稼ぐ相手チームにプレッシャーをかけてサイドバックがボールを奪った。 優里:ボランチから細かくパスを繋いで敵陣に切り込む。 優里:サイド深くまでドリブルで駆け上がったフォワードからマイナスの角度でセンタリングが上がった。 優里:絶好のタイミングで舞斗がファーサイドへ走りこんだ。 舞斗:うおおおお! 優里:大きくジャンプしてヘディングシュート。 優里:舞斗の頭からゴールに向かったボールはファーのポストを掠めてラインを割ってしまった。 舞斗:くっそおおお! 優里:相手ゴールキーパーがゴールキックでボールを蹴り上げた。その瞬間、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。 舞斗:(荒い息) 優里:もう少し高く飛べていたら。足を痛めてなかったら、枠内にヘディングできたかもしれない。 優里:チャンスは他にも何度もあった。 優里:でも結局、1点も取れなかった。 舞斗:(荒い息)負けた・・・。 優里:舞斗は座りこんだまま動けない。 舞斗:(泣く)負けた・・・! 優里:舞斗の高校サッカーが終わった瞬間だった。 優里:私の手の中のお守りは、強く握りしめたまま、くの字に曲がっていた。 優里:私のお守りパワーが足りなかった。  :  舞斗:応援、ありがとうございました! 優里:男子サッカー部全員が応援席に頭を下げた。 優里:顔を上げた舞斗が応援席を見渡し、そこにいるはずの人がいないことに気がついて、それから私のほうへ視線を向けた。 舞斗:玲香さんは? 優里:黙って首を横に振る私に舞斗がもう一度言った。 舞斗:なあ、優里、玲香さんは? 優里:試合の途中で、もう出発の時間だからって。 舞斗:出発ってなんだよ。 優里:玲香さんはさっき帰った。ここにはもういない。 舞斗:それっていつ? 優里:延長後半が始まってすぐだから10分くらい前。16時の電車に乗らなきゃ夜の試合に間に合わないからって。 舞斗:なんで言ってくれなかったんだよ! 優里:試合中だったじゃん。言えるわけない! 舞斗:16時何分の電車? 優里:そんなの知らないよ。 舞斗:ここから一番近い駅なら柏の葉キャンパス駅だよな。 舞斗:追いかけなきゃ。 優里:なに言ってるの!? 舞斗:次はいつ会えるかわからない。今日じゃなきゃダメなんだ! 優里:舞斗、もう走るスタミナ残ってないでしょ!? どうやって駅まで行くつもり!? 舞斗:それは・・・。 優里:それにこれからミーティング始まるんでしょ。 優里:16時まであと5分しかないのに。 舞斗:優里、助けてくれ! 優里:・・・。 舞斗:お前だけが頼りなんだ! 優里:・・・間に合わなくても文句言わないでよ。 優里:すぐ自転車持ってくるから、スタジアム出たところで待ってて。 舞斗:わかった。  :  優里:(M)玲香さんは4つ年上で女子のプロサッカー選手。今は三重県にあるリーグ1部のチームに所属している。 優里:他の男子からは「ゴリラ」と呼ばれていたけど、小学1年生からサッカーを始めた舞斗にとっては憧れの人で、初恋の人だ。 優里:舞斗と一緒にサッカーを始めた私にとっても、玲香さんはカッコいいお姉さんだった。 優里:県大会決勝に舞斗が出場すると聞いて、忙しい中、応援に駆けつけてくれたのだ。  :  舞斗:俺が漕ぐよ。 優里:バカ言わないの。女子サッカー部の脚力なめんな。早く後ろに乗って。 舞斗:いや、でも俺が後ろに乗るのは・・・。 優里:いいから! これが一番早く駅に着く方法なの。急いで。 舞斗:わかったよ。 0:自転車に二人乗りする。 優里:振り落とされないでよ。 優里:おりゃああああ! 舞斗:うおっとっとっと! 危ねぇ! 優里:しっかり掴まって。 舞斗:わかってる!  :  優里:(M)玲香さんはギリギリまで私の隣で応援していた。 優里:「ごめんね。私の分まで応援してあげて」 優里:そう言葉を残して、玲香さんは行ってしまった。  :  0:自転車を走らせながら。 優里:ミーティングは大丈夫だったの? 舞斗:なんとかしてきた。 優里:玲香さんに会ってどうするつもり? 舞斗:それは・・・。 優里:この試合に勝ったら告白するって言ってたよね? 舞斗:ああ。 優里:負けちゃったから告白は無し? 舞斗:・・・。 優里:急いで追いかけて、負けましたって報告するの? 舞斗:えっと・・・たぶんこれだ。16時12分。区間快速秋葉原行き。まだ間に合うかもしれない。 優里:スマホで時刻表調べてたの? 舞斗:ちゃんと掴まってるから大丈夫。 優里:スマホ落としても知らないからね! 舞斗:よし。急げ優里、ぶっとばせ! 優里:何様だ! 後で何かおごりなさいよ! 優里:おりゃあああ!  :  優里:(M)さっき、みんなの前で舞斗に「お前だけが頼りなんだ」って言われた時、身体中から汗が吹き出すのを感じた。 優里:舞斗の力になれることが嬉しかった。 優里:たとえ舞斗が玲香さんしか見ていなくても。 優里:私は舞斗が好きだった。  :  舞斗:さっきの話だけどさ。 優里:なに? 舞斗:もし間に合って、玲香さんに会えたら、告白する。 舞斗:ずっと好きでしたって、気持ち伝える。 優里:・・・そっか。 舞斗:あーあ、負けちゃった。 舞斗:勝ちたかったな。全国行きたかった。成長した俺を玲香さんに見せたかった。 舞斗:延長になる前に点取ってたら、試合の後で話す時間があったのに。 舞斗:試合に勝ってたら、「玲香さんの応援のおかげだよ」って報告できたのに・・・。 舞斗:こんなカッコ悪いのに玲香さんに告白するとか、自分でもバカみたいだって思うよ。 優里:玉砕覚悟ってこと? 舞斗:結果なんかどうだっていい。俺は俺の気持ちをぶつけるだけ。 優里:結果が一番大事でしょ。可能性もないのに告白するなんて意味わかんない。 優里:振られる前提で想いを伝えられても、相手が迷惑でしょ。 舞斗:優里は俺が告白するのに反対なのか? 優里:そうじゃなくて。 優里:成功させるつもりで全力でぶつかれって言ってんの。 舞斗:応援してくれるのか? 優里:当たり前でしょ。じゃなきゃ今、舞斗を後ろに乗せて自転車漕いでない。 舞斗:うまくいくかな? 優里:いくわけないじゃん。私の全財産を舞斗がフラれるほうに賭ける! 舞斗:マジで!? 優里:借りられるだけお金を借りて、全額舞斗がフラれるほうに賭ける! 舞斗:どんだけだよ。俺が盛大にフラれるのを期待してるってこと? 優里:まあね。フラれて泣いてる舞斗を大笑いしてやるのが今から楽しみで仕方ない。 舞斗:最低だな。 優里:それにね。 舞斗:なに? 優里:きっとフラれるけど。間違いなくフラれるけど。でもそれでもそんな舞斗を応援したいって思う。 舞斗:どうして? 優里:なんか青春じゃん。 優里:毎日サッカーばっかりやってて、青春ってなんなのかなって思ってたけど。 優里:試合に負けたくせに告白しようとするカッコ悪い舞斗ってさ、青春じゃん。 優里:そんなカッコ悪い幼馴染を助けるために自転車走らせる私もさ、青春じゃん。 舞斗:なんだよそれ。 優里:なんかいいね。燃えてきた。 舞斗:優里。 優里:なに? 舞斗:お前、すっげぇいい奴だな。 優里:今ごろ気づいたか。 舞斗:それと、もっとすげぇことに気がついた。 優里:なに? 舞斗:さっきから信号全部青。 優里:当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの。神社の娘よ。 舞斗:お守りパワーか!? 優里:その通り。『交通安全』で交通量を減らして、『勝守(かちまもり)』で運気上昇。警察に見つからない&全部青信号にして駅までノンストップで走り抜ける! 舞斗:さすが優里! 舞斗:お前のお守りパワーはホントすげぇな! 優里:そんなことない。 舞斗:そんなことあるだろ。 舞斗:お前の『合格祈願』のおかげで一緒の高校に入れたし、『学業成就』のおかげで俺は赤点にならなかった。 優里:でも私は舞斗のケガを防げなかった。 優里:私の『必勝祈願』も『身体健全』も舞斗を助けられなかった。 舞斗:お守りパワーで試合に勝てるなら毎日あんなにキツイ練習してねぇよ。 舞斗:負けたのも、ケガしたのも俺の力不足だ。優里のお守りがあったから俺は最後まで走れたんだ。 優里:今度こそ舞斗を助ける。だから絶対間に合わせる。 優里:舞斗、駅に着いたらダッシュできる? 舞斗:ああ。もう回復したから大丈夫。 優里:ケガした足は? 舞斗:もう平気。優里のお守りのおかげ。でも発車まであと1分しかない。 優里:ええええ、もうそんな時間!? 優里:間に合ええええ!! 舞斗:駅まであと少し! 優里:バスのロータリーに突っ込むよ! 舞斗:マジかよ、バス動いてるって! うおわあああ! 優里:(バスの間をすり抜けて)どけどけー! 舞斗:無茶しすぎだろ! 優里:階段の前に停めるから走って! 舞斗:オッケー! 優里:電車もう着いてる! 舞斗:時間は・・・あっ、今、発車時刻! 優里:『旅行安全』フルパワー! 舞斗:優里!? 優里:今、電車を停めた。走れ舞斗! 舞斗:電車を停めた!? 舞斗:ホントだ。動いてない。どうなってんだよ!? 優里:線路に落下物で安全確認中! 舞斗:お前、なんでもありだな。 優里:急いで! 3分したら発車しちゃうよ! 舞斗:3分!? たった3分で俺の想いを伝えられるわけないだろ。言いたいこといっぱいあるのに。 優里:「好きだ」って言うだけなら1秒で言える。 優里:舞斗、「たった3分」じゃない。まだ3分も残ってる。 優里:これはアディショナルタイムだ! 舞斗:アディショナルタイム・・・。 優里:走れ舞斗! 舞斗:よし、行ってくる! 舞斗:うおおおおお! 舞斗:(転びそうになって)おおっとっとっ! 優里:『無病息災』『厄除(やくよけ)祈願』! 舞斗:ぅおっと。危ねぇ! サンキュー、優里! 舞斗:(階段を駆け上がる)うおおおおお! 優里:(溜め息)私に出来るのはここまで。 優里:しっかりやんなさいよ。  :  舞斗:(走る)玲香さーん! 舞斗:(走る)玲香さん、玲香さーん!  :  優里:恋愛・・・成就・・・。 優里:バカ舞斗。あんたの『恋愛成就』なんか、祈ってやるもんか。 優里:(涙ぐむ)・・・好きな人の恋を応援するなんて、私、青春してるじゃん。 優里:・・・ちゃんと、玲香さんに会えたかなぁ。  :  舞斗:(玲香を見つけて)あっ、玲香さん! 舞斗:(深呼吸)玲香さん、俺・・・。 舞斗:玲香さんが好きだ! 舞斗:ずっとずっと好きだった!  :  優里:ダメだ。こんな顔、舞斗に見せられない。笑わなきゃ。振られた舞斗を大笑いしてやるんだ。  :  優里:音を立ててゆっくりと電車が動きだした。 優里:少しして、目の前の階段を舞斗がゆっくりと降りてきた。 優里:その顔は、泣いてるようにも、笑ってるようにも見えた。  :  舞斗:優里。 優里:ちゃんと玲香さんには会えた? 舞斗:うん。 優里:どうだったって聞くまでもないか。その顔見ればわかる。 舞斗:(笑)彼氏がいるんだってさ。盛大にフラれた。 優里:(笑)だから言ったのに。 舞斗:でも俺、ちゃんと気持ちを伝えられた。優里のおかげ。 優里:うん。 舞斗:あーあ。初恋だったのになー。 優里:ねぇ、聞いたことなかったんだけどさ。 舞斗:なに? 優里:玲香さんのどこがそんなによかったの? 舞斗:なんだよいきなり。 優里:だって玲香さん、男勝りで性格ガサツだし、筋肉凄いし。 舞斗:優里だって他の女子と比べたら足太いだろ。 優里:うっさい。見んなバカ。 舞斗:見てねぇよ。 舞斗:玲香さんは俺がサッカーを始めた時に出会った初めてのヒーローだったんだ。 舞斗:ヒーローってのは違うか。 舞斗:誰よりもサッカーが上手くて。足も速くて。ケンカも強くて。「ゴリラ」って言われても全然気にしないで、大きな口開けて笑ってるのがホントにカッコよくて。 舞斗:この人みたいになりたいって思った。 舞斗:ずっと好きだった。 舞斗:・・・好きだったんだ。 優里:頭、撫でてあげよっか。 舞斗:いらねぇよ、バカ。 優里:泣くなら肩貸そっか。 舞斗:いらねぇっつってんだろ。 優里:ねぇ。舞斗の好きなタイプって、やっぱりサッカー上手い人? 舞斗:永野芽郁。 優里:玲香さんと全然違うじゃん。永野芽郁にゴリラ成分1%も入ってないよ。 舞斗:ゴリラ成分配合してるから玲香さんを好きになったんじゃねぇよ。 舞斗:お前もゴリラのくせに人のこと言えんのか。 優里:ああん!? ここまで舞斗を運んであげた恩人をゴリラって言ったか!? 舞斗:・・・悪かった。 舞斗:(苦笑)ありがとな、優里。 優里:まあいいけど。私の気持ちを考える余裕なんてないのは最初からわかってるから。 舞斗:え、なにが? 優里:ねぇ、舞斗。帰ったら練習つきあってよ。 舞斗:今日これから? 優里:うん。いつものところで。 舞斗:わかった。つきあうよ。 優里:ありがと。 舞斗:それより競技場に戻るんだろ。帰りは俺が前な。 優里:ええっ、いいよ。私の自転車だし。 舞斗:もうスタミナは復活したから大丈夫。 優里:ちょ、ちょっと。勝手に乗らないで。 舞斗:ほら、早く後ろに乗れ。あっちに荷物置きっぱなしなんだから。 優里:・・・私、二人乗りで後ろに乗ったことない。 舞斗:マジで? 乗り方わかるよな? 優里:わかるけど・・・。 舞斗:バカ、そうじゃねぇよ、股広げんな。 舞斗:横座りするんだよ。見たことあるだろ。 優里:そんな、女子みたいなこと。 舞斗:お前も女子だろうが。 優里:ううぅ・・・これでいい? 舞斗:よし。じゃあ行くぞ。 優里:ちょ、ちょっと待って。これ絶対落ちる。怖い。 舞斗:つかまってろ。 優里:えぇ・・・(焦って舞斗の腰に腕を回す)これでいい!? 舞斗:うおっ! つかまるのは俺じゃなくて! 優里:(パニック)違うの!? 舞斗:もういいよこれで。汗臭くないか? 優里:大丈夫。 舞斗:じゃあ、しっかりつかまってろよ。 舞斗:あと、交通安全と運気上昇、よろしくな。 優里:任せといて。ゆっくりね。急ぐことないからね。 舞斗:うおりゃああああ! 優里:う、うわ、わあああ! 優里:舞斗、もっとゆっくり! 安全運転! 舞斗:わかってるって。 舞斗:(笑)なぁ、優里。 優里:なに? 舞斗:自転車で女子と二人乗りってさ、青春してるよな! 優里:・・・相手が私でもいいの? 舞斗:見えてないから大丈夫。脳内で永野芽郁に変換してるから。うわっ、ちょっ、やめろ、なにやってんだ!? 優里:腹筋チェーック! おおぅ、固い。バッキバキ。鍛えてるねぇ。 舞斗:バカ、やめろ変態。 優里:(笑)・・・ねぇ、舞斗・・・。 舞斗:なに? 優里:(小声で)好きだよ。 舞斗:ええ、なに? なんだって? 優里:なんでもなーい。  :  0:おしまい。