台本概要
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タイトル | Cross Recollection サーシャ |
---|---|
作者名 | 愁有 (@syu_boikone) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
Crossシリーズ外伝 サーシャの過去編でふ 兼役ありです 132 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
サーシャ | 女 | 81 | 7歳の女の子 |
アーシャリア | 女 | 73 | サーシャの母 |
タントス | 男 | 54 | サーシャの父 |
フォルグ | 男 | 34 | 孤児院の父 |
アグレス | 男 | 53 | 逞しくなった |
アーカード | 男 | 39 | ゴミ |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
サーシャ:(M)この時はまだ、何も知らなかった。私のこの力が、こんなにも悲惨で、危険で、求められていたのかを
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アーシャリア:貴方!こっちの手伝いお願いします
タントス:分かった!行くぞ…せーの!
サーシャ:(M)私の父と母は、しがないただの行商人
サーシャ:(M)特別な力は持っておらず、母が少し治癒術を扱えるくらい
サーシャ:(M)それでも、弱きを助け強きを挫く。とても優しい家族だった
アーシャリア:サーシャ、この方達の治療をお願い
サーシャ:はい!酷い怪我…今治しますね
サーシャ:(M)私は特別な力を持っていた
サーシャ:(M)傷に触れれば、ひとたび傷を負う前の状態に戻せる不思議な力
サーシャ:はい!治りました
タントス:良くやったぞサーシャ
タントス:流石私の自慢の娘だ!
サーシャ:お父さん止めてよー
アーシャリア:ありがとうサーシャ。あなたのお陰で、この人達は死なずに済んだわ
サーシャ:えへへー
サーシャ:どういたしまして
アーシャリア:貴方、これからどうします?
タントス:そうだな、この人達はログルスに向かう予定だったみたいだし一緒に戻ろう
アーシャリア:良いのですか?私達はラビアンナに向かう予定だったはずですが
タントス:これだけ整備されている街道にも関わらず、荷馬車が襲われると言うのとは
タントス:ここいらを拠点にしている賊がいるはずだ。今向かうのは危険かもしれない
アーシャリア:分かりました。では戻る準備を
タントス:頼んだ。私は辺りを警戒しておこう
アーシャリア:サーシャ、こっちを手伝って
サーシャ:はーい
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サーシャ:(M)傷ついた人達をログルスまで送り、私達は家に帰った
アーシャリア:貴方、これからどうしましょうか?
タントス:ラビアンナに続く道で整備されているのはあそこしかない
タントス:私は今回あったことを近衛師団に報告しに行こうと思う
アーシャリア:大丈夫なのですか?貴方は……
タントス:大丈夫だ。話くらいは流石に聞いてくれると思うさ
アーシャリア:分かりました。気をつけて行ってね
タントス:では行ってくる
サーシャ:行ってらっしゃい!
アーシャリア:それではサーシャ、私達はお買い物に行きましょう
サーシャ:お買い物?
アーシャリア:はい。お出かけする予定だったので食料のストックが無いのよ、今日のご飯が食べられないわ
サーシャ:はーい!準備してきます
アーシャリア:いい子ね……って走っちゃダメよ!そこ段差……言わんこっちゃない
サーシャ:……ごめんなさい!気をつけます
アーシャリア:…ホント痛みに強い子ね。こちらに来なさい
アーシャリア:今治療を……
サーシャ:(M)お母さんが治療してくれようと手を伸ばしたその時、玄関からノック音が聞こえた
サーシャ:(M)その瞬間、お母さんの顔に緊張感が走る
サーシャ:お母さん……?
アーシャリア:サーシャ、奥の部屋に隠れていなさい
サーシャ:どうして?
アーシャリア:いいから、奥の部屋で静かにしていなさい
サーシャ:(M)お母さんの物言わせぬ顔にビックリして、何も言えなくなった
サーシャ:分かり…ました
アーシャリア:いい子ね。ほら行きなさい
サーシャ:(M)言われた通り奥の部屋に行き、こっそり玄関の方を覗き見る
アーシャリア:…やはり、またアナタなのね
アーカード:やはりとは、なかなかの言い方ですねぇ。僕が来ることを予想でもしていたのかな?
アーシャリア:それでなんの用?
アーカード:酷いなぁ、何も用が無ければ来ては行けないのですかな?
アーシャリア:当たり前じゃない。何度来ても無駄なの分かっているでしょう?
アーカード:はっはっはっ
アーカード:生憎僕は諦めが悪い質でね。何度だって来ますよ
サーシャ:(M)初めて見た顔だ。薄ら笑いが張り付いてる怖い顔
サーシャ:(M)そして、お母さんがあんなに警戒心を剥き出しにしているのも初めて見る光景だった
アーシャリア:そ、なら諦めて帰ってくださると助かるんですが
アーカード:ふふっ、そんな怖い顔してると、折角の美しい顔が台無しですよ?
アーシャリア:っ!触らないで!
アーカード:おやおや、弾かれてしまいましたね
アーカード:宜しいんですか?この国に置いて近衛師団は法で守らています
アーカード:今の貴女の行動を国に報告したらどうなると思います?
アーシャリア:っ……
アーカード:それでいいんで……
サーシャ:(M)男が何かを言いかけながら、またお母さんに手を伸ばした時、その男の後ろから、聞き馴染みのある声が飛んできた
タントス:私の妻に何をしている?
アーカード:おやぁ、お早いご帰宅で
タントス:お前は、アーカードか
アーカード:お久しぶりですねぇ、タントス
アーカード:あなたが近衛師団を辞めて以来ですかねぇ
タントス:そうだな。で?ここで何をしている
タントス:今、私の妻に触ろうとしていたな?
アーカード:人聞きの悪い。近衛師団の仕事として、国民が平穏無事に過ごしているか、確認していただけですよ
タントス:そうか。私達は無事だ
タントス:それが分かったのならさっさと帰れ
アーカード:酷いですねぇ。そうだ…お子さんは元気ですか?
タントス:貴様…サーシャに何かしたら許さんぞ
アーカード:おぉー怖い怖い。それではここいらで帰りましょうか
アーカード:さようなら。また来ますね
タントス:……
タントス:アーシャリア大丈夫か
アーシャリア:はい。ありがとうございます
タントス:サーシャは?
アーシャリア:奥の部屋に隠れさせています
タントス:そうか、いい判断だ
アーシャリア:サーシャ、もう大丈夫よ。出ておいで
サーシャ:お母さん!
アーシャリア:ごめんなさいね。怖かったでしょう
サーシャ:大丈夫!お母さんは大丈夫?
アーシャリア:あら、心配してくれるの?ありがとうね
アーシャリア:私は大丈夫よ
タントス:アーシャリア、こんなことが何度もあったのか?
アーシャリア:サーシャが、居る時に来たのは初めてです
タントス:サーシャが居る時は…か
タントス:ということは、君が一人の時には何度か来ているのだな?
アーシャリア:……はい
タントス:なぜ言わなかった
アーシャリア:それは…
サーシャ:お父さん!お母さんをいじめちゃダメ!
タントス:サーシャ!?わ、私はいじめてなど……
サーシャ:ダメ!!
タントス:……すまない。少し言葉が強かったのかもしれない
アーシャリア:私もごめんなさい。もっと早くに言うべきでした
サーシャ:むふー、仲直り
タントス:一体誰に似たのやら……
アーシャリア:サーシャには感謝ばかりね。ありがとうね
サーシャ:(M)高まっていた緊張感が一気に解れた
サーシャ:(M)そのお陰なのか、安心した途端にお腹の虫が鳴った
サーシャ:あうっ……
アーシャリア:うふふ、お腹空いてたのね。すぐお買い物に行かなきゃ
サーシャ:やったー!
タントス:私は直ぐに片さなくては行けない仕事が出来たから一緒には行けない
タントス:くれぐれも気をつけて行って来るんだよ
アーシャリア:分かりました
サーシャ:はーーい!
サーシャ:(M)こうして、お母さんと二人でお手てを繋ぎながら仲良く買い物に出かけた
アーシャリア:今日は何を食べようかしら
サーシャ:ハンバーグ!
アーシャリア:あら、ハンバーグ良いわね。そうしましょう
サーシャ:やったー!
サーシャ:(M)いつも通りの会話。楽しくスキップをしながら歩いていると人にぶつかってしまった
サーシャ:きゃっ!?
アーシャリア:あらあら、歩く時はちゃんと前を見ないと……ごめんなさいね
アグレス:……大丈夫かい?
サーシャ:ごめんなさい……
アグレス:俺は大丈夫だよ。ごめんね
フォルグ:アグレス、大丈夫か
アグレス:すみません。少し考え事をしていて
フォルグ:……ん?
アーシャリア:あら?フォルグ様ではないですか
フォルグ:アーシャリアか。久しぶりだな
アーシャリア:お久しぶりです。すみません、挨拶に行けなくて……
フォルグ:大丈夫だ。お前たちには助けられている
フォルグ:タントスは元気か?
アーシャリア:はい。元気が有り余ってていつも何かをしていますよ
フォルグ:そうか。変わらないな
フォルグ:その子は?
アーシャリア:ご紹介が遅れてすみません。娘のサーシャです
アーシャリア:サーシャ、挨拶を
サーシャ:こんにちは!サーシャです!
フォルグ:元気だな。良い事だ
アーシャリア:そう言うフォルグ様が連れている子は、もしかして
フォルグ:あぁ、その通りだ
アーシャリア:ジルメナス様と言うより、ファルメナス様に似てとてもお優しい顔ですね
フォルグ:そうだな。とても良い子に育っている
アーシャリア:その子がアグレス様という事は、うちのサーシャと同い年くらいですね
フォルグ:アーシャリア、どこで誰が聞いてるか分からない故、その名前はあまり出さないでくれ
アーシャリア:あっ……失礼致しました
フォルグ:それで?これから買い物か?
アーシャリア:はい
フォルグ:最近近衛師団の動きが怪しい。気をつけろ
アーシャリア:ご忠告痛み入ります
アーシャリア:それでは……サーシャ行きますよ
サーシャ:ちょっと待って!
アーシャリア:……?
サーシャ:あなたその傷…
アグレス:…気にする程でもない。俺は大丈夫だよ
サーシャ:ダメだよ…ちょっと触るね
アグレス:…!?この力は……
サーシャ:これで治った!!
アグレス:ありがとう
サーシャ:どういたしまして!またね
アグレス:あぁ、また……
サーシャ:(M)これが、後に大切になる人との初めての出会い
アグレス:先生、あの力って……
フォルグ:あぁ、そうだろうな
アグレス:だとしたらまずくないですか?
フォルグ:そうだな
アグレス:先生はお知り合いそうでしたが
フォルグ:私の元部下の妻だ
アグレス:訳を話して、あの子を保護した方が良いのでは……
フォルグ:それはダメだ
フォルグ:家族を失ったり、引き離されたりする辛さをお前は十分理解しているはずだ
アグレス:それは…そうですね
アグレス:すみません
フォルグ:だが、あのままにしておく訳にも行くまい
アグレス:はい。あの力は今国が血眼になっている物
フォルグ:そうだ。近衛師団の怪しい動きと重なるところがある
フォルグ:アグレス、この要件を片して、彼女たちの動きを警戒するぞ
アグレス:分かりました
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サーシャ:(M)あれから3日が経ち、再びラビアンナに向けて出国の準備をしていた
タントス:よし、これで準備完了だ
アーシャリア:貴方、この刀は……
タントス:万が一の為だ。賊の掃討は終わったみたいだが、何があるか分からない
アーシャリア:そうですね
タントス:大丈夫だ、何かあったら私が守る
タントス:それに、近衛師団も配備されているらしいから安心だ
アーシャリア:分かりました。それでも……無茶はしないでくださいね
タントス:あぁ、分かっている
アーシャリア:サーシャ!もう出るわよ!
サーシャ:はーい!
サーシャ:(M)外に用意してあった荷馬車に乗り込みラビアンナに向かう
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アグレス:無事出国出来そうですね
フォルグ:あぁ、だが気になることがある
アグレス:気になること?それはなんですか?
フォルグ:この街道は三日前に荷馬車が賊に襲われている
フォルグ:賊は倒したと話に聞いたが、それでも近衛師団の人数が少なすぎる
アグレス:賊はもう居ないからと、少人数での見張りになったということでしょうか
フォルグ:それは無いだろうな。賊を倒したところであんなのはいくらでも湧く
フォルグ:それにだ
フォルグ:近衛師団の人数が一部隊にも満たない
フォルグ:それでは同じことの繰り返しだ
アグレス:確かに……
フォルグ:私は裏を探ってくる。アグレスは隠れつつ、ログルスを出るまで警戒を頼む
アグレス:分かりました
フォルグ:私の気配は分かるな?何かあったら直ぐに連絡しなさい
アグレス:はい!
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サーシャ:(M)ログルスを出て一時間位が経った
サーシャ:(M)国を出るには後、もう少し時間がかかるらしい
サーシャ:(M)私は初めて行く地に、心を踊らせていた
サーシャ:お母さん!ラビアンナってどんなとこ?
アーシャリア:そうね、女性の都と呼ばれているわ
サーシャ:みやこ?
アーシャリア:美しい女性達が着飾り、唄い、踊る
アーシャリア:男性にとっては夢の国とまで言われていますね
サーシャ:なら、お母さんが行ったらモテモテだね
アーシャリア:こらこら、お父さんの前でそんな事言わないの
サーシャ:あう…ごめんなさい
サーシャ:(M)冗談交じりにお母さんが私のおでこを小突く
サーシャ:(M)なんてことの無いいつも通りの日常
サーシャ:(M)そんな時間を楽しんでいた時、急に荷馬車が揺れた
アーシャリア:!?貴方!
タントス:アーシャリア出てくるな!中にいなさい
アーシャリア:でも!
タントス:サーシャを頼む
アーシャリア:……分かりました
タントス:なんだ貴様ら……っ!?お前は
アーカード:おやおやぁ。こんな所で何をしているんですか?
タントス:アーカードなんのつもりだ
アーカード:なんのつもりと言われましてもねぇ
アーカード:ただ警備してるだけですよ?
タントス:お前が?
タントス:笑わせるな。第三師団団長のお前がこんな所で警備なんて有り得ないだろう
アーカード:あぁ、そうですねぇ
アーカード:アナタにはバレてしまいますよねぇ!
タントス:ぐっ……なんのつもりだ!
アーカード:アナタには死んでもらいます
タントス:なんだと?
アーカード:邪魔なんですよ
アーカード:あの女とは私が結ばれるハズだったのにぃ
アーカード:横からノコノコとかっ攫われたこっちの気分分かりますか?
タントス:結ばれる予定だった?
タントス:お前が勝手に求婚して振られただけだろうが
アーカード:黙れ!
サーシャ:(M)荷馬車の小窓から外を覗くと、戦闘が繰り広げられていた
サーシャ:お父さん!
アーシャリア:サーシャダメ!あなたはここで隠れていなさい
サーシャ:でもお父さんが!
アーシャリア:私が行きます。あなたは見つからないように、頭を低くしてて
サーシャ:ダメ!行かないでお母さん!!!
サーシャ:(M)この時私は、とても嫌な予感を肌で感じ取っていた
0:
アグレス:あれは……?
アグレス:近衛師団長か!?
アグレス:まずい……今の俺では対処出来る相手ではない
アグレス:先生に連絡を…
アグレス:そんなことをして間に合うのか?
アグレス:いや、迷っている場合ではない
アグレス:頼む…耐え忍んでくれ
0:
アーカード:アナタはスターシア家の価値を何も分かっていない
タントス:ふん、家柄の価値なんぞで人を見るからお前には魅力がないのだ
アーカード:五月蝿いですねぇ
アーカード:あの家には価値しかないんですよ
アーカード:代々受け継がれる治癒術
アーカード:そして、そこから稀に生まれるギフト【天刻】
タントス:ギフト?
アーカード:あぁそうでした。退団しているアナタは知りえない情報ですね
タントス:なに?
アーカード:ジルメナス様が王座に就き、今まで不思議な力や特別な力と呼称されていたものに、正式な名称が付きました
アーカード:力の名を(神からの授かりもの)『ギフト』
アーカード:その力を持ち操る者を『ギフテッド』
アーカード:アナタの娘はギフテッドなんですよ
アーカード:しかも、その中でも最上位に位置する特別のね
タントス:まさか…
アーカード:そう、噂程度には耳に入っているでしょう?
アーカード:ログルス帝国が今、血眼になって探している力の一つ
アーカード:それが【天刻】なんですよぉ
タントス:クソッ
アーカード:アナタの事です
アーカード:このことに勘付き、ラビアンナにでも亡命しようとしていたんでしょうが
アーカード:そんなの…この私が許すわけねぇーだろうが!
タントス:がはっ……
アーシャリア:貴方!
タントス:何故出てきたんだ!
アーシャリア:自分の旦那様のピンチに駆けつけない妻が、どこにいるんですか
タントス:バカ者……
アーシャリア:それで構いません。立てますか?
タントス:あぁ大丈夫だ
アーカード:なんですかなんですかぁ?
アーカード:人の目の前でイチャイチャと
アーカード:ふざけるなぁ!
タントス:ふん!はぁあああ!
アーカード:ぐっ……流石、第一近衛師団元団長ですねぇ
タントス:前線を離れたとは言え、お前如きに負けるほど落ちぶれてはいない
アーカード:言ってくれますねぇ
アーカード:だけど忘れていませんかぁ?
アーカード:私もギフテッドである事を!
タントス:アーシャリア!ぐはっ
アーシャリア:貴方!!
サーシャ:(M)お父さんの体から鮮血が舞う
サーシャ:(M)飛び出していきたい気持ちを何とか抑え、恐怖で震える足を精一杯支えて外を見ていた
タントス:貴様……今、わざとアーシャリアを…
アーカード:当たり前だ。弱点を狙わない理由が何処にあるんですか?
アーシャリア:この傷……もう私の力じゃ………
アーカード:お前達、この女を捕えていろ
タントス:ぬああああ!
アーカード:なに!?
タントス:私の妻と娘に指一本でも触れてみろ。殺すぞ
アーカード:ふふっ……はははははははっ
アーカード:強がりが見え見えですよ
アーカード:いいから、さっさと死ねよぉお!!
タントス:く…そ
サーシャ:(M)アーカードがお父さんに止めを刺すべく剣を振るう
サーシャ:(M)その間に割り込む一つの影
サーシャ:お母さん!!
タントス:サーシャ出てくるな!!
アーカード:余所見している暇ないでしょう
タントス:がふっ……サーシャ…来てはダメだ
サーシャ:お父さん!お母さん!嫌っ死なないで!
アーカード:あぁあ。計画が台無しだ
アーカード:アーシャリアと結婚し、スターシア家の実権を握り、娘を献上する事で
アーカード:国の幹部までのし上がる予定だったのにぃ……
アーカード:まぁいい。【天刻】の力は確かなようだ
サーシャ:どうして……傷は治ったのにどうして……
アーカード:来い。アナタにはまだ価値がある
アーシャリア:サー……シャ
サーシャ:いや!離して!!
サーシャ:お父さんとお母さんが!
アーカード:はぁ……やかましいですね。少し眠っていて貰いましょうか
タントス:や…めろ
アグレス:はっ!!
サーシャ:(M)私に振り下ろされた拳が寸前で弾かれ、代わりに見知った男の子がそこにいた
サーシャ:貴方は………
アグレス:クソ……間に合わなかった
アーカード:誰だお前っ……アナタは
サーシャ:この前のおじさん……
フォルグ:アーカード、随分と自由にやっているみたいだな
アーカード:師団から退いたアナタが、今更何故………
フォルグ:私はこうなることを危惧していたが、まさか的中するとはな……………
フォルグ:アグレス、その子を連れてここから離れなさい
アグレス:でもっ!
フォルグ:迷うな、お前のせいではない。あの二人はもう手遅れだ
アグレス:………分かりました
アグレス:ごめん……
サーシャ:え…嫌だ!離して!!
アグレス:ごめんなさい
サーシャ:いやぁああああああああ!
アーカード:行かせる訳ない…ぶっ!?
フォルグ:久々に私も怒りが頂点に達している
アーカード:なに!?
フォルグ:練気解放<九玄・阿修羅ノ僧>
アーカード:な、なんだその姿は!?
フォルグ:二人共……もう少しだけ待っていてくれ
0:
アーシャリア:フォルグ様……夫は……
フォルグ:………
アーシャリア:そう…ですか。相変わらず…お優しいですね
フォルグ:……すまない
アーシャリア:サーシャは…どうなりましたか?
フォルグ:アグレスが保護している
アーシャリア:そう……良かった
アーシャリア:私達の宝物……
アーシャリア:ずっと一緒に居られなくてごめんなさい……
アーシャリア:フォルグ様……
フォルグ:なんだ
アーシャリア:サーシャの事……お願いしてもよろしいでしょうか
フォルグ:あぁ……任せろ
アーシャリア:ありがとう…ございます……………
フォルグ:……………っ
フォルグ:………すまない
0:
サーシャ:離して!もう少しで何とかなったかもしれないのに!!
アグレス:……無理だ
サーシャ:噓よ!傷だって……
アグレス:無理なんだよ!
サーシャ:っ……
アグレス:君の【天刻】は命までは戻せない!
サーシャ:でも!
アグレス:すまない…それでも、あれ以上力を使わせる訳にはいかなかった
サーシャ:どうして……
アグレス:天を関するギフトは強力だけど、その分大きな代償が伴う
アグレス:……【天刻】の代償は寿命なんだ
サーシャ:それでも!
アグレス:もう君にこの力は使わせない
サーシャ:何で貴方がそんな事決めるの!
サーシャ:今の私の気持ちなんて何も分か……………
アグレス:分かるよ
サーシャ:……………え?
アグレス:四歳の時、お母様が病で他界し、それがきっかけで家から捨てられた
サーシャ:…どうして
アグレス:俺の家は王家なんだ
サーシャ:……………え?
アグレス:血の繋がった家族は多く無かったが、兄弟姉妹はたくさんいた
アグレス:そして、俺以外は皆、今のギフトと呼ばれる特殊な力を持っていた
アグレス:俺だけ劣っていたんだ。他と比べてね
アグレス:そんな役立たずは要らないと、捨てられて、先生に拾われたんだ
サーシャ:ごめんなさい……何も知らないのに身勝手なことを……
アグレス:良いんだ。君の気持は良く分かる
アグレス:全てを失って絶望の縁に立っているとき、この世の全てを恨みたくなる
サーシャ:貴方は恨んだの?
アグレス:あぁ、恨んだ。けど、先生に支えられてそんな気持ちも挫けたよ
サーシャ:凄いね……私には……
アグレス:大丈夫。俺が君の支えになるよ
サーシャ:……………え?
アグレス:俺の名前は、アグレス・ログルス。現帝王ジルメナスの息子だ
アグレス:だが、今のこの国は間違っている。俺が誰も傷付かず、誰もが泣くこともなく、笑顔で過ごせる国を作る
アグレス:サーシャ、手伝ってくれないか?
サーシャ:私が……?
アグレス:今俺達は、親を失ったり、ギフトの能力に目覚めた子ども達を保護する為の孤児院をしてる
アグレス:そこに来て、俺を支えてほしい
サーシャ:貴方を?
アグレス:お互いに失ってる者同士、気持は通じ合えると思う…
サーシャ:……うん、分かった
サーシャ:これからずっとよろしくね、アグレス
0:
0:現代
0:
サーシャ:……懐かしい夢
アグレス:……ん?おはようサーシャ
サーシャ:おはようアグレス……って、何故私の手を……
アグレス:少し魘されているみたいだったからね。安心させる為だ
サーシャ:……昔の…貴方に初めて出会った頃の夢を見ていたわ
アグレス:懐かしいな
サーシャ:ねぇアグレス……
アグレス:……ん?
サーシャ:私……貴方の事、大好きよ
アグレス:い、いきなりどうしたんだい?
サーシャ:アグレスは言ってくれないの……?
アグレス:うっ……………
サーシャ:じぃーーーーーー
アグレス:ぷっ…あはははは
サーシャ:もう…何で笑うのよ
アグレス:いや、孤児院に子どもが増えて行って、お姉ちゃんとしてふるまうにつれてさ
アグレス:君は感情を隠すようになった
アグレス:そんな君が、こんな風に気持ちを伝えてくれるのがうれしいんだ
サーシャ:それは、仕方ないじゃ……………っ
アグレス:愛しているよサーシャ。これからもずっと一緒だ
サーシャ:………嬉しいけど、その不意打ちはズルい
アグレス:恥ずかしいんだ……これ以上はもう少し待っててくれ
サーシャ:ふふっ
サーシャ:期待してるわね
サーシャ:それじゃあ行きましょうか
アグレス:あぁ………共に
サーシャ:(M)この時はまだ、何も知らなかった。私のこの力が、こんなにも悲惨で、危険で、求められていたのかを
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アーシャリア:貴方!こっちの手伝いお願いします
タントス:分かった!行くぞ…せーの!
サーシャ:(M)私の父と母は、しがないただの行商人
サーシャ:(M)特別な力は持っておらず、母が少し治癒術を扱えるくらい
サーシャ:(M)それでも、弱きを助け強きを挫く。とても優しい家族だった
アーシャリア:サーシャ、この方達の治療をお願い
サーシャ:はい!酷い怪我…今治しますね
サーシャ:(M)私は特別な力を持っていた
サーシャ:(M)傷に触れれば、ひとたび傷を負う前の状態に戻せる不思議な力
サーシャ:はい!治りました
タントス:良くやったぞサーシャ
タントス:流石私の自慢の娘だ!
サーシャ:お父さん止めてよー
アーシャリア:ありがとうサーシャ。あなたのお陰で、この人達は死なずに済んだわ
サーシャ:えへへー
サーシャ:どういたしまして
アーシャリア:貴方、これからどうします?
タントス:そうだな、この人達はログルスに向かう予定だったみたいだし一緒に戻ろう
アーシャリア:良いのですか?私達はラビアンナに向かう予定だったはずですが
タントス:これだけ整備されている街道にも関わらず、荷馬車が襲われると言うのとは
タントス:ここいらを拠点にしている賊がいるはずだ。今向かうのは危険かもしれない
アーシャリア:分かりました。では戻る準備を
タントス:頼んだ。私は辺りを警戒しておこう
アーシャリア:サーシャ、こっちを手伝って
サーシャ:はーい
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サーシャ:(M)傷ついた人達をログルスまで送り、私達は家に帰った
アーシャリア:貴方、これからどうしましょうか?
タントス:ラビアンナに続く道で整備されているのはあそこしかない
タントス:私は今回あったことを近衛師団に報告しに行こうと思う
アーシャリア:大丈夫なのですか?貴方は……
タントス:大丈夫だ。話くらいは流石に聞いてくれると思うさ
アーシャリア:分かりました。気をつけて行ってね
タントス:では行ってくる
サーシャ:行ってらっしゃい!
アーシャリア:それではサーシャ、私達はお買い物に行きましょう
サーシャ:お買い物?
アーシャリア:はい。お出かけする予定だったので食料のストックが無いのよ、今日のご飯が食べられないわ
サーシャ:はーい!準備してきます
アーシャリア:いい子ね……って走っちゃダメよ!そこ段差……言わんこっちゃない
サーシャ:……ごめんなさい!気をつけます
アーシャリア:…ホント痛みに強い子ね。こちらに来なさい
アーシャリア:今治療を……
サーシャ:(M)お母さんが治療してくれようと手を伸ばしたその時、玄関からノック音が聞こえた
サーシャ:(M)その瞬間、お母さんの顔に緊張感が走る
サーシャ:お母さん……?
アーシャリア:サーシャ、奥の部屋に隠れていなさい
サーシャ:どうして?
アーシャリア:いいから、奥の部屋で静かにしていなさい
サーシャ:(M)お母さんの物言わせぬ顔にビックリして、何も言えなくなった
サーシャ:分かり…ました
アーシャリア:いい子ね。ほら行きなさい
サーシャ:(M)言われた通り奥の部屋に行き、こっそり玄関の方を覗き見る
アーシャリア:…やはり、またアナタなのね
アーカード:やはりとは、なかなかの言い方ですねぇ。僕が来ることを予想でもしていたのかな?
アーシャリア:それでなんの用?
アーカード:酷いなぁ、何も用が無ければ来ては行けないのですかな?
アーシャリア:当たり前じゃない。何度来ても無駄なの分かっているでしょう?
アーカード:はっはっはっ
アーカード:生憎僕は諦めが悪い質でね。何度だって来ますよ
サーシャ:(M)初めて見た顔だ。薄ら笑いが張り付いてる怖い顔
サーシャ:(M)そして、お母さんがあんなに警戒心を剥き出しにしているのも初めて見る光景だった
アーシャリア:そ、なら諦めて帰ってくださると助かるんですが
アーカード:ふふっ、そんな怖い顔してると、折角の美しい顔が台無しですよ?
アーシャリア:っ!触らないで!
アーカード:おやおや、弾かれてしまいましたね
アーカード:宜しいんですか?この国に置いて近衛師団は法で守らています
アーカード:今の貴女の行動を国に報告したらどうなると思います?
アーシャリア:っ……
アーカード:それでいいんで……
サーシャ:(M)男が何かを言いかけながら、またお母さんに手を伸ばした時、その男の後ろから、聞き馴染みのある声が飛んできた
タントス:私の妻に何をしている?
アーカード:おやぁ、お早いご帰宅で
タントス:お前は、アーカードか
アーカード:お久しぶりですねぇ、タントス
アーカード:あなたが近衛師団を辞めて以来ですかねぇ
タントス:そうだな。で?ここで何をしている
タントス:今、私の妻に触ろうとしていたな?
アーカード:人聞きの悪い。近衛師団の仕事として、国民が平穏無事に過ごしているか、確認していただけですよ
タントス:そうか。私達は無事だ
タントス:それが分かったのならさっさと帰れ
アーカード:酷いですねぇ。そうだ…お子さんは元気ですか?
タントス:貴様…サーシャに何かしたら許さんぞ
アーカード:おぉー怖い怖い。それではここいらで帰りましょうか
アーカード:さようなら。また来ますね
タントス:……
タントス:アーシャリア大丈夫か
アーシャリア:はい。ありがとうございます
タントス:サーシャは?
アーシャリア:奥の部屋に隠れさせています
タントス:そうか、いい判断だ
アーシャリア:サーシャ、もう大丈夫よ。出ておいで
サーシャ:お母さん!
アーシャリア:ごめんなさいね。怖かったでしょう
サーシャ:大丈夫!お母さんは大丈夫?
アーシャリア:あら、心配してくれるの?ありがとうね
アーシャリア:私は大丈夫よ
タントス:アーシャリア、こんなことが何度もあったのか?
アーシャリア:サーシャが、居る時に来たのは初めてです
タントス:サーシャが居る時は…か
タントス:ということは、君が一人の時には何度か来ているのだな?
アーシャリア:……はい
タントス:なぜ言わなかった
アーシャリア:それは…
サーシャ:お父さん!お母さんをいじめちゃダメ!
タントス:サーシャ!?わ、私はいじめてなど……
サーシャ:ダメ!!
タントス:……すまない。少し言葉が強かったのかもしれない
アーシャリア:私もごめんなさい。もっと早くに言うべきでした
サーシャ:むふー、仲直り
タントス:一体誰に似たのやら……
アーシャリア:サーシャには感謝ばかりね。ありがとうね
サーシャ:(M)高まっていた緊張感が一気に解れた
サーシャ:(M)そのお陰なのか、安心した途端にお腹の虫が鳴った
サーシャ:あうっ……
アーシャリア:うふふ、お腹空いてたのね。すぐお買い物に行かなきゃ
サーシャ:やったー!
タントス:私は直ぐに片さなくては行けない仕事が出来たから一緒には行けない
タントス:くれぐれも気をつけて行って来るんだよ
アーシャリア:分かりました
サーシャ:はーーい!
サーシャ:(M)こうして、お母さんと二人でお手てを繋ぎながら仲良く買い物に出かけた
アーシャリア:今日は何を食べようかしら
サーシャ:ハンバーグ!
アーシャリア:あら、ハンバーグ良いわね。そうしましょう
サーシャ:やったー!
サーシャ:(M)いつも通りの会話。楽しくスキップをしながら歩いていると人にぶつかってしまった
サーシャ:きゃっ!?
アーシャリア:あらあら、歩く時はちゃんと前を見ないと……ごめんなさいね
アグレス:……大丈夫かい?
サーシャ:ごめんなさい……
アグレス:俺は大丈夫だよ。ごめんね
フォルグ:アグレス、大丈夫か
アグレス:すみません。少し考え事をしていて
フォルグ:……ん?
アーシャリア:あら?フォルグ様ではないですか
フォルグ:アーシャリアか。久しぶりだな
アーシャリア:お久しぶりです。すみません、挨拶に行けなくて……
フォルグ:大丈夫だ。お前たちには助けられている
フォルグ:タントスは元気か?
アーシャリア:はい。元気が有り余ってていつも何かをしていますよ
フォルグ:そうか。変わらないな
フォルグ:その子は?
アーシャリア:ご紹介が遅れてすみません。娘のサーシャです
アーシャリア:サーシャ、挨拶を
サーシャ:こんにちは!サーシャです!
フォルグ:元気だな。良い事だ
アーシャリア:そう言うフォルグ様が連れている子は、もしかして
フォルグ:あぁ、その通りだ
アーシャリア:ジルメナス様と言うより、ファルメナス様に似てとてもお優しい顔ですね
フォルグ:そうだな。とても良い子に育っている
アーシャリア:その子がアグレス様という事は、うちのサーシャと同い年くらいですね
フォルグ:アーシャリア、どこで誰が聞いてるか分からない故、その名前はあまり出さないでくれ
アーシャリア:あっ……失礼致しました
フォルグ:それで?これから買い物か?
アーシャリア:はい
フォルグ:最近近衛師団の動きが怪しい。気をつけろ
アーシャリア:ご忠告痛み入ります
アーシャリア:それでは……サーシャ行きますよ
サーシャ:ちょっと待って!
アーシャリア:……?
サーシャ:あなたその傷…
アグレス:…気にする程でもない。俺は大丈夫だよ
サーシャ:ダメだよ…ちょっと触るね
アグレス:…!?この力は……
サーシャ:これで治った!!
アグレス:ありがとう
サーシャ:どういたしまして!またね
アグレス:あぁ、また……
サーシャ:(M)これが、後に大切になる人との初めての出会い
アグレス:先生、あの力って……
フォルグ:あぁ、そうだろうな
アグレス:だとしたらまずくないですか?
フォルグ:そうだな
アグレス:先生はお知り合いそうでしたが
フォルグ:私の元部下の妻だ
アグレス:訳を話して、あの子を保護した方が良いのでは……
フォルグ:それはダメだ
フォルグ:家族を失ったり、引き離されたりする辛さをお前は十分理解しているはずだ
アグレス:それは…そうですね
アグレス:すみません
フォルグ:だが、あのままにしておく訳にも行くまい
アグレス:はい。あの力は今国が血眼になっている物
フォルグ:そうだ。近衛師団の怪しい動きと重なるところがある
フォルグ:アグレス、この要件を片して、彼女たちの動きを警戒するぞ
アグレス:分かりました
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サーシャ:(M)あれから3日が経ち、再びラビアンナに向けて出国の準備をしていた
タントス:よし、これで準備完了だ
アーシャリア:貴方、この刀は……
タントス:万が一の為だ。賊の掃討は終わったみたいだが、何があるか分からない
アーシャリア:そうですね
タントス:大丈夫だ、何かあったら私が守る
タントス:それに、近衛師団も配備されているらしいから安心だ
アーシャリア:分かりました。それでも……無茶はしないでくださいね
タントス:あぁ、分かっている
アーシャリア:サーシャ!もう出るわよ!
サーシャ:はーい!
サーシャ:(M)外に用意してあった荷馬車に乗り込みラビアンナに向かう
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アグレス:無事出国出来そうですね
フォルグ:あぁ、だが気になることがある
アグレス:気になること?それはなんですか?
フォルグ:この街道は三日前に荷馬車が賊に襲われている
フォルグ:賊は倒したと話に聞いたが、それでも近衛師団の人数が少なすぎる
アグレス:賊はもう居ないからと、少人数での見張りになったということでしょうか
フォルグ:それは無いだろうな。賊を倒したところであんなのはいくらでも湧く
フォルグ:それにだ
フォルグ:近衛師団の人数が一部隊にも満たない
フォルグ:それでは同じことの繰り返しだ
アグレス:確かに……
フォルグ:私は裏を探ってくる。アグレスは隠れつつ、ログルスを出るまで警戒を頼む
アグレス:分かりました
フォルグ:私の気配は分かるな?何かあったら直ぐに連絡しなさい
アグレス:はい!
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サーシャ:(M)ログルスを出て一時間位が経った
サーシャ:(M)国を出るには後、もう少し時間がかかるらしい
サーシャ:(M)私は初めて行く地に、心を踊らせていた
サーシャ:お母さん!ラビアンナってどんなとこ?
アーシャリア:そうね、女性の都と呼ばれているわ
サーシャ:みやこ?
アーシャリア:美しい女性達が着飾り、唄い、踊る
アーシャリア:男性にとっては夢の国とまで言われていますね
サーシャ:なら、お母さんが行ったらモテモテだね
アーシャリア:こらこら、お父さんの前でそんな事言わないの
サーシャ:あう…ごめんなさい
サーシャ:(M)冗談交じりにお母さんが私のおでこを小突く
サーシャ:(M)なんてことの無いいつも通りの日常
サーシャ:(M)そんな時間を楽しんでいた時、急に荷馬車が揺れた
アーシャリア:!?貴方!
タントス:アーシャリア出てくるな!中にいなさい
アーシャリア:でも!
タントス:サーシャを頼む
アーシャリア:……分かりました
タントス:なんだ貴様ら……っ!?お前は
アーカード:おやおやぁ。こんな所で何をしているんですか?
タントス:アーカードなんのつもりだ
アーカード:なんのつもりと言われましてもねぇ
アーカード:ただ警備してるだけですよ?
タントス:お前が?
タントス:笑わせるな。第三師団団長のお前がこんな所で警備なんて有り得ないだろう
アーカード:あぁ、そうですねぇ
アーカード:アナタにはバレてしまいますよねぇ!
タントス:ぐっ……なんのつもりだ!
アーカード:アナタには死んでもらいます
タントス:なんだと?
アーカード:邪魔なんですよ
アーカード:あの女とは私が結ばれるハズだったのにぃ
アーカード:横からノコノコとかっ攫われたこっちの気分分かりますか?
タントス:結ばれる予定だった?
タントス:お前が勝手に求婚して振られただけだろうが
アーカード:黙れ!
サーシャ:(M)荷馬車の小窓から外を覗くと、戦闘が繰り広げられていた
サーシャ:お父さん!
アーシャリア:サーシャダメ!あなたはここで隠れていなさい
サーシャ:でもお父さんが!
アーシャリア:私が行きます。あなたは見つからないように、頭を低くしてて
サーシャ:ダメ!行かないでお母さん!!!
サーシャ:(M)この時私は、とても嫌な予感を肌で感じ取っていた
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アグレス:あれは……?
アグレス:近衛師団長か!?
アグレス:まずい……今の俺では対処出来る相手ではない
アグレス:先生に連絡を…
アグレス:そんなことをして間に合うのか?
アグレス:いや、迷っている場合ではない
アグレス:頼む…耐え忍んでくれ
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アーカード:アナタはスターシア家の価値を何も分かっていない
タントス:ふん、家柄の価値なんぞで人を見るからお前には魅力がないのだ
アーカード:五月蝿いですねぇ
アーカード:あの家には価値しかないんですよ
アーカード:代々受け継がれる治癒術
アーカード:そして、そこから稀に生まれるギフト【天刻】
タントス:ギフト?
アーカード:あぁそうでした。退団しているアナタは知りえない情報ですね
タントス:なに?
アーカード:ジルメナス様が王座に就き、今まで不思議な力や特別な力と呼称されていたものに、正式な名称が付きました
アーカード:力の名を(神からの授かりもの)『ギフト』
アーカード:その力を持ち操る者を『ギフテッド』
アーカード:アナタの娘はギフテッドなんですよ
アーカード:しかも、その中でも最上位に位置する特別のね
タントス:まさか…
アーカード:そう、噂程度には耳に入っているでしょう?
アーカード:ログルス帝国が今、血眼になって探している力の一つ
アーカード:それが【天刻】なんですよぉ
タントス:クソッ
アーカード:アナタの事です
アーカード:このことに勘付き、ラビアンナにでも亡命しようとしていたんでしょうが
アーカード:そんなの…この私が許すわけねぇーだろうが!
タントス:がはっ……
アーシャリア:貴方!
タントス:何故出てきたんだ!
アーシャリア:自分の旦那様のピンチに駆けつけない妻が、どこにいるんですか
タントス:バカ者……
アーシャリア:それで構いません。立てますか?
タントス:あぁ大丈夫だ
アーカード:なんですかなんですかぁ?
アーカード:人の目の前でイチャイチャと
アーカード:ふざけるなぁ!
タントス:ふん!はぁあああ!
アーカード:ぐっ……流石、第一近衛師団元団長ですねぇ
タントス:前線を離れたとは言え、お前如きに負けるほど落ちぶれてはいない
アーカード:言ってくれますねぇ
アーカード:だけど忘れていませんかぁ?
アーカード:私もギフテッドである事を!
タントス:アーシャリア!ぐはっ
アーシャリア:貴方!!
サーシャ:(M)お父さんの体から鮮血が舞う
サーシャ:(M)飛び出していきたい気持ちを何とか抑え、恐怖で震える足を精一杯支えて外を見ていた
タントス:貴様……今、わざとアーシャリアを…
アーカード:当たり前だ。弱点を狙わない理由が何処にあるんですか?
アーシャリア:この傷……もう私の力じゃ………
アーカード:お前達、この女を捕えていろ
タントス:ぬああああ!
アーカード:なに!?
タントス:私の妻と娘に指一本でも触れてみろ。殺すぞ
アーカード:ふふっ……はははははははっ
アーカード:強がりが見え見えですよ
アーカード:いいから、さっさと死ねよぉお!!
タントス:く…そ
サーシャ:(M)アーカードがお父さんに止めを刺すべく剣を振るう
サーシャ:(M)その間に割り込む一つの影
サーシャ:お母さん!!
タントス:サーシャ出てくるな!!
アーカード:余所見している暇ないでしょう
タントス:がふっ……サーシャ…来てはダメだ
サーシャ:お父さん!お母さん!嫌っ死なないで!
アーカード:あぁあ。計画が台無しだ
アーカード:アーシャリアと結婚し、スターシア家の実権を握り、娘を献上する事で
アーカード:国の幹部までのし上がる予定だったのにぃ……
アーカード:まぁいい。【天刻】の力は確かなようだ
サーシャ:どうして……傷は治ったのにどうして……
アーカード:来い。アナタにはまだ価値がある
アーシャリア:サー……シャ
サーシャ:いや!離して!!
サーシャ:お父さんとお母さんが!
アーカード:はぁ……やかましいですね。少し眠っていて貰いましょうか
タントス:や…めろ
アグレス:はっ!!
サーシャ:(M)私に振り下ろされた拳が寸前で弾かれ、代わりに見知った男の子がそこにいた
サーシャ:貴方は………
アグレス:クソ……間に合わなかった
アーカード:誰だお前っ……アナタは
サーシャ:この前のおじさん……
フォルグ:アーカード、随分と自由にやっているみたいだな
アーカード:師団から退いたアナタが、今更何故………
フォルグ:私はこうなることを危惧していたが、まさか的中するとはな……………
フォルグ:アグレス、その子を連れてここから離れなさい
アグレス:でもっ!
フォルグ:迷うな、お前のせいではない。あの二人はもう手遅れだ
アグレス:………分かりました
アグレス:ごめん……
サーシャ:え…嫌だ!離して!!
アグレス:ごめんなさい
サーシャ:いやぁああああああああ!
アーカード:行かせる訳ない…ぶっ!?
フォルグ:久々に私も怒りが頂点に達している
アーカード:なに!?
フォルグ:練気解放<九玄・阿修羅ノ僧>
アーカード:な、なんだその姿は!?
フォルグ:二人共……もう少しだけ待っていてくれ
0:
アーシャリア:フォルグ様……夫は……
フォルグ:………
アーシャリア:そう…ですか。相変わらず…お優しいですね
フォルグ:……すまない
アーシャリア:サーシャは…どうなりましたか?
フォルグ:アグレスが保護している
アーシャリア:そう……良かった
アーシャリア:私達の宝物……
アーシャリア:ずっと一緒に居られなくてごめんなさい……
アーシャリア:フォルグ様……
フォルグ:なんだ
アーシャリア:サーシャの事……お願いしてもよろしいでしょうか
フォルグ:あぁ……任せろ
アーシャリア:ありがとう…ございます……………
フォルグ:……………っ
フォルグ:………すまない
0:
サーシャ:離して!もう少しで何とかなったかもしれないのに!!
アグレス:……無理だ
サーシャ:噓よ!傷だって……
アグレス:無理なんだよ!
サーシャ:っ……
アグレス:君の【天刻】は命までは戻せない!
サーシャ:でも!
アグレス:すまない…それでも、あれ以上力を使わせる訳にはいかなかった
サーシャ:どうして……
アグレス:天を関するギフトは強力だけど、その分大きな代償が伴う
アグレス:……【天刻】の代償は寿命なんだ
サーシャ:それでも!
アグレス:もう君にこの力は使わせない
サーシャ:何で貴方がそんな事決めるの!
サーシャ:今の私の気持ちなんて何も分か……………
アグレス:分かるよ
サーシャ:……………え?
アグレス:四歳の時、お母様が病で他界し、それがきっかけで家から捨てられた
サーシャ:…どうして
アグレス:俺の家は王家なんだ
サーシャ:……………え?
アグレス:血の繋がった家族は多く無かったが、兄弟姉妹はたくさんいた
アグレス:そして、俺以外は皆、今のギフトと呼ばれる特殊な力を持っていた
アグレス:俺だけ劣っていたんだ。他と比べてね
アグレス:そんな役立たずは要らないと、捨てられて、先生に拾われたんだ
サーシャ:ごめんなさい……何も知らないのに身勝手なことを……
アグレス:良いんだ。君の気持は良く分かる
アグレス:全てを失って絶望の縁に立っているとき、この世の全てを恨みたくなる
サーシャ:貴方は恨んだの?
アグレス:あぁ、恨んだ。けど、先生に支えられてそんな気持ちも挫けたよ
サーシャ:凄いね……私には……
アグレス:大丈夫。俺が君の支えになるよ
サーシャ:……………え?
アグレス:俺の名前は、アグレス・ログルス。現帝王ジルメナスの息子だ
アグレス:だが、今のこの国は間違っている。俺が誰も傷付かず、誰もが泣くこともなく、笑顔で過ごせる国を作る
アグレス:サーシャ、手伝ってくれないか?
サーシャ:私が……?
アグレス:今俺達は、親を失ったり、ギフトの能力に目覚めた子ども達を保護する為の孤児院をしてる
アグレス:そこに来て、俺を支えてほしい
サーシャ:貴方を?
アグレス:お互いに失ってる者同士、気持は通じ合えると思う…
サーシャ:……うん、分かった
サーシャ:これからずっとよろしくね、アグレス
0:
0:現代
0:
サーシャ:……懐かしい夢
アグレス:……ん?おはようサーシャ
サーシャ:おはようアグレス……って、何故私の手を……
アグレス:少し魘されているみたいだったからね。安心させる為だ
サーシャ:……昔の…貴方に初めて出会った頃の夢を見ていたわ
アグレス:懐かしいな
サーシャ:ねぇアグレス……
アグレス:……ん?
サーシャ:私……貴方の事、大好きよ
アグレス:い、いきなりどうしたんだい?
サーシャ:アグレスは言ってくれないの……?
アグレス:うっ……………
サーシャ:じぃーーーーーー
アグレス:ぷっ…あはははは
サーシャ:もう…何で笑うのよ
アグレス:いや、孤児院に子どもが増えて行って、お姉ちゃんとしてふるまうにつれてさ
アグレス:君は感情を隠すようになった
アグレス:そんな君が、こんな風に気持ちを伝えてくれるのがうれしいんだ
サーシャ:それは、仕方ないじゃ……………っ
アグレス:愛しているよサーシャ。これからもずっと一緒だ
サーシャ:………嬉しいけど、その不意打ちはズルい
アグレス:恥ずかしいんだ……これ以上はもう少し待っててくれ
サーシャ:ふふっ
サーシャ:期待してるわね
サーシャ:それじゃあ行きましょうか
アグレス:あぁ………共に