台本概要

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タイトル ask you
作者名
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 1.世界観を壊さないのであればアドリブ可
2.キャスト様の性別は指定なし。キャラの性別はお守りください。
3.本作は死をテーマにしておりますので、苦手な方はおやめください。
4.時間は大体の目安となります。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
案内人 77 死者をあの世へ連れていく仕事をしている。残業大嫌い
観月 61 婚約放棄された20代の男性。
一二三 23 70代のおじいちゃん。
美音 36 高校入学したばかりの女の子。一二三娘と兼役
保育士 19 ケアが必要な魂をあの世へ連れていく仕事をしている。美音母と兼役
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:ビルの屋上 : 観月:…もう疲れた。まさかこんな最後を迎えるなんてな。 案内人:あー!そこの方! 観月:…えっ? 案内人:あなたです!今にも飛び降りようとしているあなた! 観月:…何ですか? 案内人:あなた、死ぬつもりですか? 観月:…そうですけど。 案内人:困ります! 観月:…えっ? 案内人:私、残業しない主義なんで。飛び降りるのは止めていただけませんか? 観月:…残業?俺が死んだら、あなたの仕事が増えるんですか? 案内人:そうです。私、死んだ方をあの世へ案内する仕事をしているんですが…。 観月:…はい? 案内人:あっ、今「こいつ、頭おかしいんじゃない?」って思いました? 観月:えっと…ちょっぴり。 案内人:よく言われます。しかし、安心してください。そんなことでは傷つきません! 観月:よく言われるんだ。あの、あの世へ案内するって言ってますが、貴方は死神なんですか? 案内人:死神ではありません。私はただの案内人です。今日死ぬ生き物を確実にあの世へ案内するという仕事をしております。 観月:はい…? 案内人:信じていませんね。でも、本当なんですよ。あなたも死んだら案内して差し上げます。 観月:では、逝きまーす。 案内人:ちょっと待った! 観月:何ですか? 案内人:あのね、急に死なれたらこちらも困るんですよ! 観月:どう大変なんですか? 案内人:まず、死亡される方を魂の履歴書を見ながら上層部が選抜します。どのような死因にしようか、いつ死亡しようか。それが決まったら死亡者リストが私たちに配られてお迎えに行くんです。 案内人:なのに、急にリストにいない方がいたら、急遽リストに載せなければなりません。 観月:リスト載せればいいじゃないですか。 案内人:バカ!死亡者数は、きちんと平等に決めているんです。死に過ぎてもダメなのでバランスよく、出産数と合わせて考えて決めているんです。 案内人:それなのに急に死亡者が増えたら、出産数を増やさなくちゃいけなくなるでしょうが! 観月:へー。結構細かいんですね。 案内人:そうすると、もう残業ですよ。残業なんかしてごらんなさい。私の楽しみが無くなります! 観月:楽しみって…デートとかですか? 案内人:あなた、恋愛がお好きなんですね。私は、恋愛に興味がありません。そんな甘い時間より、仕事帰りに浴場施設へ行き、疲れた体をリフレッシュすることのが好きなんです。 観月:お風呂上がりのフルーツジュース美味しいですよね。 案内人:そうなんです!それで明日も頑張ろうってなるんです。だから、私の邪魔をされたくありません。なので、聞いてあげます。あなた、なんで死にたいんですか? 観月:えっと、言わなくちゃいけませんか? 案内人:もちろんです。人に話を聞いてもらうだけで、気持ちが楽になるかもしれませんよ。 観月:気持ちが楽になるかはわかりませんが…わかりました。俺、結婚する予定だったんです。 案内人:へ~。 観月:聞く気あります? 案内人:ありますよ。ただ…「婚約者が死んじゃった」とかそんな理由なのかな?と思っただけです。 観月:死んでいません。俺、5年付き合っていた彼女がいたんです。両家の顔合わせも終わって、式も先週する予定でした。 案内人:先週?挙げなかったんですか? 観月:はい。結婚式の1週間前に、彼女から告げられました。「本当にごめんなさい。私、好きな人ができました。あなたと結婚をするのではなく…その人とお付き合いします」って。 案内人:頭の中がお花畑。 観月:初恋の人だそうです。ずっと会えなくて、連絡先も知らない彼と、偶然街で声をかけられたそうです。 観月:彼は、出会った時よりも魅力的になっていて、ここで出会って連絡先を交換したのも運命だからだと思ったらしいです。 案内人:ただ連絡先を交換しただけで? 観月:彼女のご両親も「バカなことを言うな!」と説得しようとしてくれたんですが、彼女がもう俺に気持ちがないようで…結局、彼女が式場のキャンセル料を支払うということで婚約破棄になりました。 案内人:それで? 観月:いや、最初は死ぬつもりありませんでした。彼女が後悔するぐらい魅力的な男になってやろうって思ったんです。だけど…事情を知っている職場のメンバーが、気まずそうに俺と関わるんです。 観月:その空気が重たくて…イヤになっちゃって。 案内人:そんなのいつか忘れますよ。 観月:そのいつかって…いつ来るんです?それを待つのが嫌なんです。 案内人:転職されるのは? 観月:小さいころから、デザイナーになりたくて…。第一志望会社だったんです。だから、転職するのも嫌で…。 案内人:なるほどね~。 観月:あなただって、転職する気ないでしょう? 案内人:ないですね。潰れない安定した仕事なので。 観月:なら、俺の気持ちわかりますよ。 案内人:恋愛興味ないのでわかりませんが…。 観月:というわけで、後で会いましょう。 案内人:お待ちなさい! 観月:何ですか? 案内人:まずは、話を聞いてみませんか? 観月:あなたの? 案内人:いいえ。今日死んだ人と。 観月:なんで? 案内人:死んだ人の気持ちを聞いたら、自分の悩みなんてかわいいなって思うかもしれませんよ。 観月:……そう、ですかね? 案内人:聞いて、あなたの気持ちが変わらないならもう止めません。私、優しいので残業をします。 観月:残業してくれるんですか? 案内人:ですから、話を聞くぐらいいいでしょ?今日、この地域の死亡者は3人ですし。すぐ終わりますって。 観月:……3人なら、聞こうかな。 案内人:はい、決まりました!というわけで、ずっと声をかけるタイミングを見計らってくださった一二三さん。お待たせしました! 観月:えっ!?もういるんですか!? 案内人:はい。あなた、見えるでしょ? 観月:見えるって、俺霊感ないですよ? 一二三:お邪魔します。 観月:うわっ!! 案内人:失礼ですよ。 観月:いや、急に出てきたから驚いちゃいました。 一二三:驚かせてすみません。もう出てきていいようだったので。 案内人:お待たせしてすみません。 一二三:いえいえ。大丈夫ですよ。あの…この手紙を見て来たんですが、ここに来たらあの世へ逝けるんですか? 案内人:はい、そうです。 一二三:…あの、変なことを聞きますが。 案内人:何でしょう? 一二三:娘は…死にませんか? 観月:えっ? 案内人:えっと…(リストを見ながら)そうですね。死ぬ予定はないですね。ご安心ください。 一二三:よかった…。生きていてくれるならよかった…。 観月:あの…。 案内人:あぁ!忘れていました!一二三さん、あなたの死んだいきさつをこの若者に教えてあげていただけませんか? 一二三:あぁ…確か死にたいんでしたよね。 観月:そうです…。 一二三:自殺はよくない。あなたはまだ若い。本当は言いたくありませんが…あなたをお助けできるかもしれないのなら、お話ししましょう。 観月:あ、ありがとうございます。 案内人:ありがとうございます。では、教えてください。一二三さんの最後を…。 一二三:私は…大切な娘に殺されました。 観月:えっ? 一二三:私は、アルツハイマー型認知症でして…。娘は、仕事をしながら私の介護をしてくれていました。しかし、私の症状はどんどん悪化しました。 一二三:夜は寝ずに徘徊して、警察に保護される。仕事から帰ったら、靴を履かずにうろつき、近所の家の呼び鈴を鳴らす。私を一人にすることができなくなりました。娘は限界だったんでしょうね。 娘:お父さん、疲れちゃった。…ごめんね。本当にごめんね。 一二三:そう言って、私の首を絞めました。私は、子供を苦しめながら…死んだんです。 観月:娘さん…どうなったんですか? 案内人:すぐに警察に自首なさりました。後追いする勇気はなかったようです。 一二三:生きてますか。…よかった。本当によかった。 案内人:罪を償わなければいけませんが、幸せになっていただきたいですね。 観月:生きてくれるのが、よかった…かぁ。 美音:あの…。 案内人:あっ、あなたが美音さんですか?こんにちは。 美音:……私、死んだんですか? 案内人:はい! 観月:えっ?こんな若い子を死なせたんですか? 案内人:上層部が決めたことですから詳しいことはわかりませんが、そのようですね。 一二三:あなたのような若い方が、なぜ死んでしまったんですか? 美音:……遅刻しそうだったの。 観月:遅刻? 美音:部活に遅刻しそうになって、赤信号なのはわかっていたんだけれど…急いで横断歩道を渡れば大丈夫って思って渡ったら……トラックが目の前に来て、それで…。 一二三:なんて危ないことをしたんだ。 美音:……死ぬなんて思わなかった。 案内人:でも、ルール違反をしたんですから。自業自得ですね。 美音:……イヤだ。 案内人:イヤ? 美音:私、死にたくない!高校へ入ったばかりで…彼氏とかも作ったことなくて…人生これからなんだよ!? 案内人:でも、あなたが信号を無視してしまったから死んだんです。上層部が決めたことですし、諦めてください。 美音:そんな…。私、死にたくないよ。お母さんとケンカしたまんま死ぬなんて…イヤだよ。 一二三:ケンカをしたのかい? 美音:うん。…しかも、今思えばくだらないことで。……私、今日は部活の朝練があったの。いつもより早く学校へ行かなくちゃいけなかったのに、お母さんにちゃんと言ったのに、お母さん忘れちゃってて。 観月:えっと…お母さんが忘れていたら困ることだったの? 美音:困るよ!起こしてくれないと学校へ行けないじゃない! 観月:えっ? 美音:私、お母さんに起こしてもらわなきゃ朝起きられないの!なのにお母さん、忘れたんだよ!?…でも、私。 母:美音、ごめん!朝練があるの忘れてた!早く起きて! 美音:って起こしてくれたのに、朝練のこと忘れていたことに腹が立っていたから、「役立たず!」って言っちゃった。 母:朝ごはん食べる時間なくてごめん!走りながらでも食べられるようにおにぎり作ったよ!本当にごめんね! 美音:ってお母さんが言ったんだけど、おにぎりの気分じゃなかったから。誰のせいで遅刻しそうになっているんだよ!?ババアの飯なんか食わねえよ!…そう言って…家を飛び出したの。 案内人:ババアって…酷いことを言いましたね。 観月:というか、高校生だよね。自分で起きれるようになろうと思わなかったの? 美音:だって…目覚ましだけじゃ起きられないし、お母さんが起こしてくれた方が遅刻しないし…。 一二三:お母さん、おにぎりを握って…お優しい方ですね。 美音:…そう優しいの。 母:美音、今度の休み映画に行かない?お母さん、久しぶりに美音とお出かけしたいなぁ。 美音:…私のことが大好きっていつも言ってくれる、優しいお母さんだったの。なのに…なんであんなひどいこと…言っちゃったのかな? 案内人:死ぬなんて思わなかったからじゃないですか? 美音:…そう。死ぬなんて思わなかった。…ねえ、あんたがこの手紙に書いてある案内人? 案内人:そうです。 美音:…ねえ、私…死にたくないんだ。お母さんに謝りたいんだ。生き返らせてよ。 案内人:無理ですよ。あなたはリストに入っている方。今日でその命終了です。 美音:…どうして私なのよ? 案内人:知りません。上層部が決めたことですから。 美音:ひどいよ…本当にひどいよ。 案内人:死は平等に来るんですよ。 一二三:あの、案内人さん。 案内人:一二三さん、どうされました? 一二三:せめて…お母さんに謝る機会を作ってあげられませんか?夢枕とかで。 案内人:夢枕は、死んだ人全員ができるわけではありません。分岐コース課が死んだ魂が天国にふさわしいか地獄にふさわしいかを判断している時、死んだ方は待機室にいることになります。 案内人:その時、夢枕に立つことを許された者だけが夢枕に立てるんです。 観月:なんかお役所みたいなところだな。 美音:じゃあ…夢枕に立てるようにしてよ!じゃなきゃ今から逃げてやる! 案内人:えっ!? 美音:私、死にたくないもん!お母さんの側にずっといてやる! 案内人:ちょっと!それは困ります!残業したくないんですよ! 美音:じゃあ、私のお願い叶えてよ!お母さんに謝るだけでいいんだ!お願いだよ! 案内人:近い近い近い近い近い!!顔が近い!もう!わかりましたよ!その課にいる同僚に聞いてみますから! 美音:ありがとう!夢枕に立てるなら、あんたと一緒にあの世へ逝くよ! 案内人:さて、あと一人…。 保育士:お待たせしてしまい申し訳ございません。 案内人:あっ、今日の担当はあなたでしたか。お疲れ様です。 保育士:お疲れ様です。みなさん、お待たせしてしまい申し訳ございません。 観月:また若い方が亡くなったんですね。 保育士:いいえ。私、保育課の者でして。 観月:保育課? 案内人:はい。字も読めないような子供が亡くなった時に、集合場所まで迷わないよう連れてくるんです。 一二三:なんと!?私…子供が亡くなるのは見ていられないんです。 保育士:お優しい方ですね~。 案内人:さて、名無しさんもいらっしゃいましたし…あの世へ逝きましょうか。 美音:ねえ、一つ聞いていい? 保育士:何でしょう? 美音:その丸いのが…生き物?ぬいぐるみに見えるんだけど。 保育士:はい。名無しさんでーす。 美音:なんで名無しなの? 案内人:あぁ、名前がないからです。 美音:何で名前がないの? 保育士:今日の死亡者さんはおしゃべりが好きなんですね。 案内人:先ほどまで、死んだ状況を説明していただいていたから、名無しさんのことも気になるようです。 保育士:そういうことですかぁ。聞きたいですか? 美音:聞きたい。 保育士:いいですよ~。この子は、妊娠9週目の人間の赤ちゃんです。 美音:…流産ってこと? 保育士:いいえ。名無しさんは、お父様とお母様によって死んだんです。 美音:……どういうこと? 保育士:名無しさんは、心拍も安定。そもそも死ぬ予定ではありませんでした。 一二三:では…なぜ? 保育士:名無しさんのお父さんもお母さんも学生さんでして…育てられないと判断したんではないでしょうか。 案内人:子供が子供をつくったんですね。 一二三:なんと…親御さんもお子さんも傷ついたでしょうな。 保育士:確かにお母さん泣いていましたね。 美音:…えっと…それってまさか。 案内人:みなさん、ご心配なく。あの世では、名無しさんのような方のためのケアルームがございます。 美音:ケアルーム? 保育士:はい。産まれたかったけれど産まれることができなかった。生きたくても生きられなかった。そんな魂をもう一度あの世で心の傷が癒えるまで十分ケアをいたします。 美音:……次は、ちゃんと産まれられたらいいね。 保育士:話変えちゃうんですけどいいですか? 案内人:なんです? 保育士:どうして、生きた人間がいるんですか? 案内人:あぁ、死にたいと仰っていたので、実際死んだ方のお話を聞いてからにしてくださいと私が止めたんです。 美音:えっ?あんた生きているの? 観月:あっ、はい。……俺。 保育士:俺? 観月:死ぬのやめます。生きて…自分の生を全うします! 案内人:おー!素晴らしい!あなたが死なない選択肢を選んだならよかった!これで定時であがれます! 保育士:それでは、私たちは逝きましょうか。 一二三:えっと…お名前を教えていただけますか? 観月:えっと…。 案内人:観月 忍さんです。 観月:えっ? 一二三:観月さん。あなたの幸せを願っております。 美音:生きていられるっていいな…。自分から死なないで、ちゃんと生きるんだよ。 保育士:それではさようなら。 観月:ありがとうございます。……案内人さん。 案内人:どうしました? 観月:俺、あなたに名前を言いましたか?というか、死んだ方が見えるって…もしかして俺…。 案内人:ふふふっ。今日は大丈夫です。ですから、悔いが残らない人生をお過ごしください。それでは、次は死んだ時にお会いいたしましょう。

0:ビルの屋上 : 観月:…もう疲れた。まさかこんな最後を迎えるなんてな。 案内人:あー!そこの方! 観月:…えっ? 案内人:あなたです!今にも飛び降りようとしているあなた! 観月:…何ですか? 案内人:あなた、死ぬつもりですか? 観月:…そうですけど。 案内人:困ります! 観月:…えっ? 案内人:私、残業しない主義なんで。飛び降りるのは止めていただけませんか? 観月:…残業?俺が死んだら、あなたの仕事が増えるんですか? 案内人:そうです。私、死んだ方をあの世へ案内する仕事をしているんですが…。 観月:…はい? 案内人:あっ、今「こいつ、頭おかしいんじゃない?」って思いました? 観月:えっと…ちょっぴり。 案内人:よく言われます。しかし、安心してください。そんなことでは傷つきません! 観月:よく言われるんだ。あの、あの世へ案内するって言ってますが、貴方は死神なんですか? 案内人:死神ではありません。私はただの案内人です。今日死ぬ生き物を確実にあの世へ案内するという仕事をしております。 観月:はい…? 案内人:信じていませんね。でも、本当なんですよ。あなたも死んだら案内して差し上げます。 観月:では、逝きまーす。 案内人:ちょっと待った! 観月:何ですか? 案内人:あのね、急に死なれたらこちらも困るんですよ! 観月:どう大変なんですか? 案内人:まず、死亡される方を魂の履歴書を見ながら上層部が選抜します。どのような死因にしようか、いつ死亡しようか。それが決まったら死亡者リストが私たちに配られてお迎えに行くんです。 案内人:なのに、急にリストにいない方がいたら、急遽リストに載せなければなりません。 観月:リスト載せればいいじゃないですか。 案内人:バカ!死亡者数は、きちんと平等に決めているんです。死に過ぎてもダメなのでバランスよく、出産数と合わせて考えて決めているんです。 案内人:それなのに急に死亡者が増えたら、出産数を増やさなくちゃいけなくなるでしょうが! 観月:へー。結構細かいんですね。 案内人:そうすると、もう残業ですよ。残業なんかしてごらんなさい。私の楽しみが無くなります! 観月:楽しみって…デートとかですか? 案内人:あなた、恋愛がお好きなんですね。私は、恋愛に興味がありません。そんな甘い時間より、仕事帰りに浴場施設へ行き、疲れた体をリフレッシュすることのが好きなんです。 観月:お風呂上がりのフルーツジュース美味しいですよね。 案内人:そうなんです!それで明日も頑張ろうってなるんです。だから、私の邪魔をされたくありません。なので、聞いてあげます。あなた、なんで死にたいんですか? 観月:えっと、言わなくちゃいけませんか? 案内人:もちろんです。人に話を聞いてもらうだけで、気持ちが楽になるかもしれませんよ。 観月:気持ちが楽になるかはわかりませんが…わかりました。俺、結婚する予定だったんです。 案内人:へ~。 観月:聞く気あります? 案内人:ありますよ。ただ…「婚約者が死んじゃった」とかそんな理由なのかな?と思っただけです。 観月:死んでいません。俺、5年付き合っていた彼女がいたんです。両家の顔合わせも終わって、式も先週する予定でした。 案内人:先週?挙げなかったんですか? 観月:はい。結婚式の1週間前に、彼女から告げられました。「本当にごめんなさい。私、好きな人ができました。あなたと結婚をするのではなく…その人とお付き合いします」って。 案内人:頭の中がお花畑。 観月:初恋の人だそうです。ずっと会えなくて、連絡先も知らない彼と、偶然街で声をかけられたそうです。 観月:彼は、出会った時よりも魅力的になっていて、ここで出会って連絡先を交換したのも運命だからだと思ったらしいです。 案内人:ただ連絡先を交換しただけで? 観月:彼女のご両親も「バカなことを言うな!」と説得しようとしてくれたんですが、彼女がもう俺に気持ちがないようで…結局、彼女が式場のキャンセル料を支払うということで婚約破棄になりました。 案内人:それで? 観月:いや、最初は死ぬつもりありませんでした。彼女が後悔するぐらい魅力的な男になってやろうって思ったんです。だけど…事情を知っている職場のメンバーが、気まずそうに俺と関わるんです。 観月:その空気が重たくて…イヤになっちゃって。 案内人:そんなのいつか忘れますよ。 観月:そのいつかって…いつ来るんです?それを待つのが嫌なんです。 案内人:転職されるのは? 観月:小さいころから、デザイナーになりたくて…。第一志望会社だったんです。だから、転職するのも嫌で…。 案内人:なるほどね~。 観月:あなただって、転職する気ないでしょう? 案内人:ないですね。潰れない安定した仕事なので。 観月:なら、俺の気持ちわかりますよ。 案内人:恋愛興味ないのでわかりませんが…。 観月:というわけで、後で会いましょう。 案内人:お待ちなさい! 観月:何ですか? 案内人:まずは、話を聞いてみませんか? 観月:あなたの? 案内人:いいえ。今日死んだ人と。 観月:なんで? 案内人:死んだ人の気持ちを聞いたら、自分の悩みなんてかわいいなって思うかもしれませんよ。 観月:……そう、ですかね? 案内人:聞いて、あなたの気持ちが変わらないならもう止めません。私、優しいので残業をします。 観月:残業してくれるんですか? 案内人:ですから、話を聞くぐらいいいでしょ?今日、この地域の死亡者は3人ですし。すぐ終わりますって。 観月:……3人なら、聞こうかな。 案内人:はい、決まりました!というわけで、ずっと声をかけるタイミングを見計らってくださった一二三さん。お待たせしました! 観月:えっ!?もういるんですか!? 案内人:はい。あなた、見えるでしょ? 観月:見えるって、俺霊感ないですよ? 一二三:お邪魔します。 観月:うわっ!! 案内人:失礼ですよ。 観月:いや、急に出てきたから驚いちゃいました。 一二三:驚かせてすみません。もう出てきていいようだったので。 案内人:お待たせしてすみません。 一二三:いえいえ。大丈夫ですよ。あの…この手紙を見て来たんですが、ここに来たらあの世へ逝けるんですか? 案内人:はい、そうです。 一二三:…あの、変なことを聞きますが。 案内人:何でしょう? 一二三:娘は…死にませんか? 観月:えっ? 案内人:えっと…(リストを見ながら)そうですね。死ぬ予定はないですね。ご安心ください。 一二三:よかった…。生きていてくれるならよかった…。 観月:あの…。 案内人:あぁ!忘れていました!一二三さん、あなたの死んだいきさつをこの若者に教えてあげていただけませんか? 一二三:あぁ…確か死にたいんでしたよね。 観月:そうです…。 一二三:自殺はよくない。あなたはまだ若い。本当は言いたくありませんが…あなたをお助けできるかもしれないのなら、お話ししましょう。 観月:あ、ありがとうございます。 案内人:ありがとうございます。では、教えてください。一二三さんの最後を…。 一二三:私は…大切な娘に殺されました。 観月:えっ? 一二三:私は、アルツハイマー型認知症でして…。娘は、仕事をしながら私の介護をしてくれていました。しかし、私の症状はどんどん悪化しました。 一二三:夜は寝ずに徘徊して、警察に保護される。仕事から帰ったら、靴を履かずにうろつき、近所の家の呼び鈴を鳴らす。私を一人にすることができなくなりました。娘は限界だったんでしょうね。 娘:お父さん、疲れちゃった。…ごめんね。本当にごめんね。 一二三:そう言って、私の首を絞めました。私は、子供を苦しめながら…死んだんです。 観月:娘さん…どうなったんですか? 案内人:すぐに警察に自首なさりました。後追いする勇気はなかったようです。 一二三:生きてますか。…よかった。本当によかった。 案内人:罪を償わなければいけませんが、幸せになっていただきたいですね。 観月:生きてくれるのが、よかった…かぁ。 美音:あの…。 案内人:あっ、あなたが美音さんですか?こんにちは。 美音:……私、死んだんですか? 案内人:はい! 観月:えっ?こんな若い子を死なせたんですか? 案内人:上層部が決めたことですから詳しいことはわかりませんが、そのようですね。 一二三:あなたのような若い方が、なぜ死んでしまったんですか? 美音:……遅刻しそうだったの。 観月:遅刻? 美音:部活に遅刻しそうになって、赤信号なのはわかっていたんだけれど…急いで横断歩道を渡れば大丈夫って思って渡ったら……トラックが目の前に来て、それで…。 一二三:なんて危ないことをしたんだ。 美音:……死ぬなんて思わなかった。 案内人:でも、ルール違反をしたんですから。自業自得ですね。 美音:……イヤだ。 案内人:イヤ? 美音:私、死にたくない!高校へ入ったばかりで…彼氏とかも作ったことなくて…人生これからなんだよ!? 案内人:でも、あなたが信号を無視してしまったから死んだんです。上層部が決めたことですし、諦めてください。 美音:そんな…。私、死にたくないよ。お母さんとケンカしたまんま死ぬなんて…イヤだよ。 一二三:ケンカをしたのかい? 美音:うん。…しかも、今思えばくだらないことで。……私、今日は部活の朝練があったの。いつもより早く学校へ行かなくちゃいけなかったのに、お母さんにちゃんと言ったのに、お母さん忘れちゃってて。 観月:えっと…お母さんが忘れていたら困ることだったの? 美音:困るよ!起こしてくれないと学校へ行けないじゃない! 観月:えっ? 美音:私、お母さんに起こしてもらわなきゃ朝起きられないの!なのにお母さん、忘れたんだよ!?…でも、私。 母:美音、ごめん!朝練があるの忘れてた!早く起きて! 美音:って起こしてくれたのに、朝練のこと忘れていたことに腹が立っていたから、「役立たず!」って言っちゃった。 母:朝ごはん食べる時間なくてごめん!走りながらでも食べられるようにおにぎり作ったよ!本当にごめんね! 美音:ってお母さんが言ったんだけど、おにぎりの気分じゃなかったから。誰のせいで遅刻しそうになっているんだよ!?ババアの飯なんか食わねえよ!…そう言って…家を飛び出したの。 案内人:ババアって…酷いことを言いましたね。 観月:というか、高校生だよね。自分で起きれるようになろうと思わなかったの? 美音:だって…目覚ましだけじゃ起きられないし、お母さんが起こしてくれた方が遅刻しないし…。 一二三:お母さん、おにぎりを握って…お優しい方ですね。 美音:…そう優しいの。 母:美音、今度の休み映画に行かない?お母さん、久しぶりに美音とお出かけしたいなぁ。 美音:…私のことが大好きっていつも言ってくれる、優しいお母さんだったの。なのに…なんであんなひどいこと…言っちゃったのかな? 案内人:死ぬなんて思わなかったからじゃないですか? 美音:…そう。死ぬなんて思わなかった。…ねえ、あんたがこの手紙に書いてある案内人? 案内人:そうです。 美音:…ねえ、私…死にたくないんだ。お母さんに謝りたいんだ。生き返らせてよ。 案内人:無理ですよ。あなたはリストに入っている方。今日でその命終了です。 美音:…どうして私なのよ? 案内人:知りません。上層部が決めたことですから。 美音:ひどいよ…本当にひどいよ。 案内人:死は平等に来るんですよ。 一二三:あの、案内人さん。 案内人:一二三さん、どうされました? 一二三:せめて…お母さんに謝る機会を作ってあげられませんか?夢枕とかで。 案内人:夢枕は、死んだ人全員ができるわけではありません。分岐コース課が死んだ魂が天国にふさわしいか地獄にふさわしいかを判断している時、死んだ方は待機室にいることになります。 案内人:その時、夢枕に立つことを許された者だけが夢枕に立てるんです。 観月:なんかお役所みたいなところだな。 美音:じゃあ…夢枕に立てるようにしてよ!じゃなきゃ今から逃げてやる! 案内人:えっ!? 美音:私、死にたくないもん!お母さんの側にずっといてやる! 案内人:ちょっと!それは困ります!残業したくないんですよ! 美音:じゃあ、私のお願い叶えてよ!お母さんに謝るだけでいいんだ!お願いだよ! 案内人:近い近い近い近い近い!!顔が近い!もう!わかりましたよ!その課にいる同僚に聞いてみますから! 美音:ありがとう!夢枕に立てるなら、あんたと一緒にあの世へ逝くよ! 案内人:さて、あと一人…。 保育士:お待たせしてしまい申し訳ございません。 案内人:あっ、今日の担当はあなたでしたか。お疲れ様です。 保育士:お疲れ様です。みなさん、お待たせしてしまい申し訳ございません。 観月:また若い方が亡くなったんですね。 保育士:いいえ。私、保育課の者でして。 観月:保育課? 案内人:はい。字も読めないような子供が亡くなった時に、集合場所まで迷わないよう連れてくるんです。 一二三:なんと!?私…子供が亡くなるのは見ていられないんです。 保育士:お優しい方ですね~。 案内人:さて、名無しさんもいらっしゃいましたし…あの世へ逝きましょうか。 美音:ねえ、一つ聞いていい? 保育士:何でしょう? 美音:その丸いのが…生き物?ぬいぐるみに見えるんだけど。 保育士:はい。名無しさんでーす。 美音:なんで名無しなの? 案内人:あぁ、名前がないからです。 美音:何で名前がないの? 保育士:今日の死亡者さんはおしゃべりが好きなんですね。 案内人:先ほどまで、死んだ状況を説明していただいていたから、名無しさんのことも気になるようです。 保育士:そういうことですかぁ。聞きたいですか? 美音:聞きたい。 保育士:いいですよ~。この子は、妊娠9週目の人間の赤ちゃんです。 美音:…流産ってこと? 保育士:いいえ。名無しさんは、お父様とお母様によって死んだんです。 美音:……どういうこと? 保育士:名無しさんは、心拍も安定。そもそも死ぬ予定ではありませんでした。 一二三:では…なぜ? 保育士:名無しさんのお父さんもお母さんも学生さんでして…育てられないと判断したんではないでしょうか。 案内人:子供が子供をつくったんですね。 一二三:なんと…親御さんもお子さんも傷ついたでしょうな。 保育士:確かにお母さん泣いていましたね。 美音:…えっと…それってまさか。 案内人:みなさん、ご心配なく。あの世では、名無しさんのような方のためのケアルームがございます。 美音:ケアルーム? 保育士:はい。産まれたかったけれど産まれることができなかった。生きたくても生きられなかった。そんな魂をもう一度あの世で心の傷が癒えるまで十分ケアをいたします。 美音:……次は、ちゃんと産まれられたらいいね。 保育士:話変えちゃうんですけどいいですか? 案内人:なんです? 保育士:どうして、生きた人間がいるんですか? 案内人:あぁ、死にたいと仰っていたので、実際死んだ方のお話を聞いてからにしてくださいと私が止めたんです。 美音:えっ?あんた生きているの? 観月:あっ、はい。……俺。 保育士:俺? 観月:死ぬのやめます。生きて…自分の生を全うします! 案内人:おー!素晴らしい!あなたが死なない選択肢を選んだならよかった!これで定時であがれます! 保育士:それでは、私たちは逝きましょうか。 一二三:えっと…お名前を教えていただけますか? 観月:えっと…。 案内人:観月 忍さんです。 観月:えっ? 一二三:観月さん。あなたの幸せを願っております。 美音:生きていられるっていいな…。自分から死なないで、ちゃんと生きるんだよ。 保育士:それではさようなら。 観月:ありがとうございます。……案内人さん。 案内人:どうしました? 観月:俺、あなたに名前を言いましたか?というか、死んだ方が見えるって…もしかして俺…。 案内人:ふふふっ。今日は大丈夫です。ですから、悔いが残らない人生をお過ごしください。それでは、次は死んだ時にお会いいたしましょう。