台本概要
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タイトル | ムーンライトブレイド(月に輝く魔法剣) |
---|---|
作者名 | ヒロタカノ (@hiro_takano) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
---------------------------------------------- どこかなにかで使っていただけたら幸いです。 「使ったよ」とでもコメントいただけたらありがたいです。 いつかどこかで誰かのお役に立ちますように。 ---------------------------------------------- 剣と魔法のファンタジーです。 183 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
トリスティア | 女 | 158 | 元王国騎士団の将軍、フォレスターの娘。 勝ち気な娘。幼少時はピュア。 |
アレク | 男 | 105 | 魔法を使わず白兵戦を得意とする騎士。 真面目で正義感が強い、若き将軍。 |
フォレスター | 男 | 67 | 王国騎士団の元将軍。 |
エル | 女 | 25 | 王国騎士団の魔法部隊の魔法使い |
騎士A | 不問 | 14 | 騎士たちと野盗たちは、兼ね役していただいても構いません。 名前付きのキャラを演じる方が引き受けても良いです。 |
騎士B | 不問 | 9 | |
野盗A | 不問 | 6 | |
野盗B | 不問 | 9 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:タッタッタッタ
トリスティア:(M)「夜、月の光が輝く夜。とても…とても静かな夜。あてもなくさまよう1人の少女がいた。
トリスティア:
トリスティア:(子)「おとうさん…。おとうさん、おとうさん、どこ?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「……どこの世でも、人は弱くて、もろくて、はかなくて、力をもたない…。
トリスティア:
トリスティア:(子)「おとうさん、どこ…どこにいるの?おとうんさん?おとうさん~?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「…だから、絆を求める。…だからこそ繋ぎとめようとする。
トリスティア:
トリスティア:「どこにいるの?おとうさん、おとうさん?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「……いつまでも、そばにいたいから
トリスティア:
:〇ライト家屋敷前(うつてなしのアレクの前に魔法騎士部隊長トリスティアが現れる。)
0:ザワザワザワザワ(人が騒いでいる音)
0:
0:パチパチパチ(焚き火の音)
0:
0:タタタタタ(走りよる)
騎士B:「おおい。おお~い!」
騎士A:「お?おい、どうだった?」
騎士B:「いや、だめだ。…そっちは。」
騎士A:「こっちもだ…。状況は以前変わらず…。」
騎士B:「そうか。…よし、とりあえず将軍に報告してくる。」
騎士A:「わかった。」
0:タタタタタ(走り去る)
0:
0:タッタッタ(歩く音)
0:
騎士A:「おい、そこの女!止まれ。」
0:タッタ。
騎士A:「どこへ行くつもりだ。ここから先は、王国騎士団第1部隊が作戦会議中につき、関係者以外通すわけにはいかない。」
トリスティア:「…私は関係者だ。」
騎士A:「なに?」
0:チャ(剣の音)
トリスティア:「おまえはこの剣が目に入らないのか?」
騎士A:「そ!その剣!?はっ…ははっ!しっ、失礼しました!」
0:タッタッタ(歩く音)
:〇作戦会議室
0:パチパチパチ(焚き火の音)
0:
0:パサッ(テントをめくる音)
騎士B:「将軍、アレク将軍!」
アレク:「来たか。で、首尾はどうだ?」
騎士B:「東の湖の方を回ってみましたが…だめです、いたるところに罠がしかけられています。」
アレク:「西の森の方はどうだ?」
騎士B:「どちらも高度な細工が施されていて……力づくではなんとかなるかもしれませんが、隠密行動となると…。我々では手のだしようがありません。」
アレク:「ちっ、やつらめ。罠のプロを雇ったか…。やっかいだ。」
0:パサッ(テントをめくる音)
騎士A:「し、将軍!」
アレク:「なんだ?」
騎士A:「第7部隊の部隊長殿がお見えになりました。なんでも将軍にお会いしたいとか…。」
アレク:「…第7?…魔法騎士部隊のものがいったいなんのようだ?…わかった、通せ。」
騎士A:「はっ。」
0:バサッ(テントの入り口をめくる)
トリスティア:「ずいぶんと苦労してるようだな。将軍殿。」
アレク:「…おまえは!?」
トリスティア:「久しぶりだな、アレク。」
アレク:「……トリスティア……そうか、今度若い騎士が部隊長になったとは聞いていたが…。まさかおまえのことだったとは。」
トリスティア:「…まったく、もう少し魔法を使える人間を作戦に加える気になったらどうだ?エルがすねていたぞ。『私はいつも追いてきぼりだ。』ってな。」
アレク:「…エル…。」
トリスティア:「…ふ、まあいい…で、状況はどうなってる?」
アレク:「…今、人質を取って立てこもっているのは例の邪教集団の残党だ。」
トリスティア:「例の……あの信仰のためには死ぬことすら恐れないイカれたやつらのことだな。」
アレク:「…ああ。要求は捕まっている教祖の釈放。しかし、立てこもった家のものにはずいぶんと私怨があるらしい。」
トリスティア:「…なるほど。先の一件にはここの家の連中が絡んでいたのか…。」
アレク:「…おそらく、無傷で人質を開放する気はないとだろう。…なんとか屋敷内に侵入を図ろうかと偵察隊に付近をあたらせたが、屋敷のいたるところに罠がしかけてあるらしくて…くっ。」
トリスティア:「八方ふさがりか。…まぁ無理もない、『敵に人質をとられた場合、うかつに行動にうつすのは自殺好意』、だった、かな。」
アレク:「…トリスティア。」
0:パチパチパチ(焚き火の音)
トリスティア:「…まるで、あのときと同じだな。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…よし……私が突破口を開いてやる。」
アレク:「!?…手があるというのか?」
0:チャキ(剣の音)
トリスティア:「ひとつだけ良い手がある。その手を使えばこの場の均衡を崩すことができるぞ。…もっとも、そのあとはおまえのうで次第だがな。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…ふふ、ずいぶんと心配そうな顔だな、アレク。大丈夫だ、私はあんな奴らになんか遅れをとらないさ。それに私は…こんなところで、立ち止まるわけにはいかない」
:〇フォレスター廷(時は今より数年前。フォレスター将軍が一人娘トリスティアに剣の稽古をつけている、そこにアレクがやってくる。)
トリスティア:「やぁ…はっ…とぉ…えいっ。」(リバーブからだんだん普通になる)
0:噴水の音フェードイン
0:
0:キンッ、キンッ、キンッ(剣の音)
0:
トリスティア:「やぁっ!!」
フォレスター:「ふんっ。」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「違う。」
トリスティア:「とぉっ!!」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「まだだ!まだ脇がしまってない!」
トリスティア:「はぁっ!」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「よし、いいぞ。その調子だ。」
0:キンッ、キンッ(剣の音)
トリスティア:「いやぁああ!!」
0:キンッ!(剣の音)
フォレスター:「よし!そこまで。」
0:ザシュ(地面に剣をつきたてる)
トリスティア:「……はぁ…はぁ…」
0:パチパチ(拍手)
フォレスター:「今の踏み込みは良かった。今までで1番いいぞ、トリスティア。」
トリスティア:「ほんと?父様?」
フォレスター:「ああ、見事なのものだ。相変わらず飲みこみがはやいな。」
トリスティア:「父さまの教えがいいんですよ。」
フォレスター:「…まったく、まともに剣も振るうことすらできなかった昔がうそのようだな。」
トリスティア:「ふふ」
0:タッタッタ
アレク:「将軍!」
0:タッタ。
アレク:「フォレスター将軍、こちらにおられましたか。」
フォレスター:「アレクか?どうした。」
アレク:「先ほど軍師殿から連絡がありました。急な話ですが軍議を開くので将軍を呼んでもらいたいとのことで。」
フォレスター:「…この間の野盗討伐の件だな。わかった、したくをしてくる。アレク、少しまっててくれ。」
アレク:「はい。」
フォレスター:「…トリスティア、今日の稽古はここまでとしよう。でかけてくるぞ。」
トリスティア:「はい、父様。」
0:タッタッタ
アレク:「…君は?」
:〇引き続きフォレスター廷(トリスティアとアレクの会話。母親がいなくなり無気力になった娘に愛情を注ぐため、剣を教え始めた。)
0:(噴水の音)
アレク:「そうか、君は、将軍の。」
トリスティア:「そうだ、知らなかったのか?」
アレク:「…ああ、将軍は自分のことをあまり話したがらないから。…そうだな、将軍のことで知ってるといえば、確か奥さんが以前魔法使いの部隊にいたことぐらいしか…あっ。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…すまない。」
トリスティア:「…気にするな、ひきずっていないといえば嘘になるが…それは戦いに身を投じるものの背負う宿命だということくらい納得している。…それに。」
0:チャキ
トリスティア:「…それに今は、父様が剣を教えてくれるからな。それだけで、私は充分なのさ。」
アレク:「…将軍が?君に剣を?」
トリスティア:「ああ。ちょうど母様がなくなられてからだろうか…」
アレク:「…」
トリスティア:「…ここだけの話だがな。私は、いずれ王国騎士団への入団を志願しようかと考えているんだ。この剣で少しでも父様の力になりたい。だからな、そのときはよろしく頼むぞ。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…なんだ?さっきからだまって…女だてらに剣を振う姿はそんなにめずらしいか?」
アレク:「いや、そんなことはないと思うが…。…しかし…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「いや…なんでもない。」
トリスティア:「はは。…なんだ、おかしなやつだな。」
0:タッタッタ
フォレスター:「アレク、待たせたな。」
:〇城、王立施療院。アレクとエルの会話(アレクの怪我を治療するエル。そこにトリスティアがやってくる。)
0:カランカラン(ビンの音とか)
エル:「これでよし。」
アレク:「…」
エル:「痛みをやわらげる薬草を調合して塗っておいたから、少しは傷を気にしないで動けると思うよ。」
アレク:「ああ、すまない」
エル:「…ねぇ、本当に治癒の魔法をかけなくていいの?」
アレク:「ああ、大丈夫だ。」
エル:「でも、次の任務もせまっているんでしょ?」
アレク:「…悪いな…魔法は好きじゃない。」
エル:「……ふぅ。頑固ねぇ。」
アレク:「頑固だ。」
エル:「…はいはい。」
0:ガチャ、バタン(ドアを開けて、閉める)
トリスティア:「失礼する。…あっ。」
アレク:「…君は、」
トリスティア:「父様の部下の…アレク、だったな。」
アレク:「ああ。…こんなところになんのようだ?」
トリスティア:「父様に頼まれて、薬草を取りに来たのだが、ここに『月夜草』はおいてあるか?」
エル:「…えっと…これのこと?」
0:キン(ビンの音)
トリスティア:「それだ…。…ありがとう、失礼する。」
0:ガチャ、バタン(ドアを開けて、閉める)
エル:「あのコは?」
アレク:「将軍の娘さんだ。確かトリスティアという名の。」
エル:「将軍様の?」
アレク:「ああ、一人娘だそうだ。」
エル:「へぇ、そうなんだ。娘さんがいたなんて、知らなかった。……あっ?そういえば…。」
アレク:「どうした?」
エル:「将軍様といえば。ちょっと前にね、誰かが命を狙っているという噂を聞いたことがあるの。」
アレク:「…将軍の命を?まさか。あの方を良く思わないやつはそういないだろう…。」
エル:「先生が言ってたよ、『光あるところに闇もまたある』って。私には難しいことなんてわからないけど、ようするに悪人にとっては英雄なんて目の上のタンコブなんでしょうね。」
アレク:「…」
エル:「…アレク?」
アレク:「…心配だな。あの方がそんな輩に遅れをとるとは思えないが、そいつらにとっては家族もまた標的となりかねないからな…。」
エル:「…もしかして、あのコのこと気にかけていたりする?」
アレク:「なんだ?焼いているのか?」
エル:「べっつに。…ほら、終わったよ。」
0:ペチッ
アレク:「あいて。」
エル:「ふん。」
アレク:「…っぅ…ただな。」
エル:「?」
アレク:「このあいだ、将軍が彼女に剣技を教えているのをみたんだ。」
エル:「…?…どうして『ただ』なの?いいじゃない、きっと護身術か何かのつもりで教えているんでしょ?」
アレク:「…将軍の剣技は護身術なんかじゃない、白兵戦を主に務める騎士のために開発された、敵を根こそぎなぎ倒す剣技なんだ。それにあのコはおそらく…」
エル:「…?」
:〇道(トリスティア捕まる。)
0:(虫の音)
トリスティア:「もう日も暮れてしまったか。まずいな…少し遅くなってしまったな。」
0:タッタッタ…(歩く音)
0:水の音(遠くから)
トリスティア:「…近道か…。」
フォレスター:「(最近、水門のある通りの方は物騒なんだそうだ、気をつけるんだぞ。)」
0:チャキ
トリスティア:「大丈夫だよ。…まったく、父様も心配性なんだから」
0:タッタッタ(歩く音)
水の音(フェードアウト)
0:タッタッ。
トリスティア:「…なんだおまえたちは?」
野盗A:「よぉ姉ちゃん。」
トリスティア:「どいてくれ、通行の邪魔だ。」
野盗B:「ちょっと俺達と付き合ってくれないか?」
トリスティア:「どこへだ?」
野盗A:「いいところだよ。」
トリスティア:「…誘っているのか?だったら他をあたってくれ。」
野盗A:「まぁ、そう言わずにさぁ。」
トリスティア:「なんだ!?そんなに遊びたければ遊女でも捕まえてくればいいだろう!」
0:チャキ
野盗B:「へへ…あんた、将軍様の娘だろ?」
トリスティア:「…なるほど…そういうことか。」
野盗A:「なにが、そういうことなんだ?ああ?」
トリスティア:「…大の男が二人がかりで女を襲うとは、おまえ達、クズ以下だな。」
野盗B:「ああん?ギャアギャアうるせぇ、いいからとっととついて…」
トリスティア:「ふん。」
0:キンッ(野盗の小剣をはじく)
野盗B:「うおっ、こいつ。」
トリスティア:「私を甘くみるなよ。どかぬというなら力ずくで通るまで。この、アストリア王国一と謳われた大将軍フォレスター直伝の剣技で!!…はぁ!」
0:キンキンッ
トリスティア:「はぁっ!とぉっ!」
野盗B:「なっ、くっ、うおっ?」
トリスティア:「どうだ!…ひきさがるなら、いまのうち」
野盗B:「このっ、いきがってんじじゃねぇぞ!!」
0:キンッ
トリスティア:「えっ?」
0:カラン
トリスティア:「しまっ、」
野盗B:「おらっ!」
0:ドカ
トリスティア:「んっ!!」
0:ドサッ
野盗B:「…ふぅ。」
野盗A:「おい、大丈夫か?」
野盗B:「ああ大したことない。威勢の良さにびびったが、所詮小娘の剣だぜ、軽すぎら!…よし、連れていくぞ」
野盗A:「おう」。
トリスティア:「…父…さま。」
0:水の音(フェードアウト)
:〇城、フォレスターとアレクの会話(トリスティアを助けるため、単身敵地に乗り込もうとするフォレスター)
アレク:「将軍!!!」
フォレスター:「アレク、どうした?」
アレク:「娘さんが賊に囚われたって。」
フォレスター:「ああ、今東の砦に立てこもっている。連中は私一人でくることを要求してきた。」
アレク:「…行かれるのですか?一人で。」
フォレスター:「…。」
アレク:「普段から『敵に人質をとられた場合、うかつに行動に移るのは自殺行為だ』と説いてくださっているのは将軍じゃないですか?いくら…いくら人質が娘さんだからって、一人でのり込むなんて…せめて対策部隊を組織してからでも遅く…」
フォレスター:「…。」
0:タッタッタ(歩く音)
アレク:「将軍、お待ちください!1人では自殺行為…」
フォレスター:「わかってる!!!」
0:ッタ(立ち止まる)
アレク:「…。」
フォレスター:「それ以上、言うな…。」
アレク:「……将軍、ひとつ聞きたいことがあります。」
0:タッ…。
アレク:「…どうしてあのコに剣技なんか教えたのですか?…将軍なら、……将軍ならば、いずれこうなることくらい予測できて…。」
フォレスター:「…」
アレク:「…」
フォレスター:「…ああ、そうだ……いずれこうなることはわかっていたのだよ。母親がいなくなり、生きる希望を失っていたあれに剣技を教えると言ったあの日からな。」
アレク:「……将軍。」
フォレスター:「…だから…悪いのは自分の力量を見誤った娘ではない。母の手のかわりに、剣の道しか教えることができなかった…こんなことでしか親子の絆をつなぐことができなかった私が悪いのだよ。」
アレク:「…。」
フォレスター:「不器用なやつだと笑ってもかまわない。…だが、私は将軍である前に一人の親でありたい。私は命をかけて娘を助ける。…それだけだ。」
0:タッタッタ(歩く音)
アレク:「…。」
トリスティア:「(…それが、アレクが父様と交わした最後のセリフだったそうだ…。)」
:〇城(アレクに当り散らすトリスティア。トリスティアは自分が将軍になって父の跡をつぐというが、アレクはトリスティアに剣を捨てろという。)
0:コツコツコツコツ(歩く音)
トリスティア:「…アレク」
アレク:「…トリスティア。」
トリスティア:「将軍になったんだってな。…おめでとう。」
アレク:「…ああ。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…ひとつ聞きたいことがある。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…おまえが私の王国騎士団入りを拒否したといういう話は本当か?」
アレク:「…。」
トリスティア:「…本当なのか?」
アレク:「…規律では、最終的な判断は将軍に一任されることになっている。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…なんだ?聞きたいことはそれだけか?軍議がある、通行の邪魔だ。」
トリスティア:「ハハ、ハ。…そうか。…わかった。…だったら」
アレク:「…。」
トリスティア:「…だったら、私が将軍になる。」
0:チャキ
トリスティア:「私と代われ!…アレク!」
アレク:「断る。」
トリスティア:「私と代わるんだ!」
アレク:「…断る!私は将軍の意思を継ぎ、命あるかぎり王国騎士団を束ていくと誓った。例え実の娘がなんといおうとも、私はその誓いを放棄するつもりはない。」
トリスティア:「そんなこと、そんなこと私が知ったことかぁ!!私だって父様から剣を教わった!私にだって父様の意思を継ぐ権利がある!!!……だから私と」
0:チャキ
トリスティア:「かわれアレクゥウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!」
0:タタタタ!!
アレク:「ふんっ!」
0:キンッ
トリスティア:「っつ!」
0:カランカラン
トリスティア:「くっ、くそ!」
0:チャキ
0:キン(刃をしまう)
アレク:「よせ、もうやめろ。」
トリスティア:「どけっ!!父様は私の身代わりになって死んだんだ。だから私は父様の代わりになる!!この父様が教えてくれた剣で代わりになるんだ」
0:ドス(壁を叩く)
アレク:「たかが小娘に何がわかる!!!!!!」
トリスティア:「………………小娘……だと?」
アレク:「(静かな怒りで)その曇りひとつない刃を俺に向けるな…。細い腕を振りまわして綺麗事をぬかすな…。いいかげんに…いいかげんに自分の弱さを認めろ…。」
トリスティア:「……。」
アレク:「…最後の忠告だ…。これ以上抵抗するなら容赦はしない。お前を力でねじ伏せてやる!」
トリスティア:「……。」
アレク:「…ふぅ……だから、悪いことは言わない。トリスティア…。」
トリスティア:「……。」
アレク:「…剣を、捨てろ。」
0:カランカラン
トリスティア:「うっ、くっ、うっくうううう」
アレク:「…。」
フォレスター:(M)「悪いのは娘ではない。剣の道しか教えることができなかった…こんなことでしか親子の絆をつなぐことができなかった私が悪いのだ。」
0:タッタッタ
トリスティア:「アレク」
アレク:「…なんだ。」
トリスティア:「…教えてくれ…私は、…どうしたらいいのだ?」
アレク:「…自分の心に聞いてみろ?答えは出ているのだろう?」
トリスティア:「…うっ、くっ、うう。うううううう、うわぁぁぁ!!!(号泣)」
0:タッタッタ
アレク:「(…将軍。)」
エル:「相変わらず厳しいのね、アレク。」
アレク:「…エル」
エル:「…強すぎるんだよ、アレクは。」
アレク:「…。」
エル:「…。」
アレク:「…俺はこんなやり方しか知らない。剣のみで生きてきた俺にはな。エル?魔法使いのお前だったら…こんなとき、どうする?」
エル:「…どうする、って」
アレク:「…魔法使いのお前なら、どうする?。」
エル:「……はぁ…、もう!こんなときだけ頼ろうとするんだから…。」
:〇フォレスター廷
トリスティア:(子)「(おとうさん、おとうさんどこにいるの?)」
0:タッタッタ(歩く音)
トリスティア:(子)「(おとうさん?)」
0:タッタッタ(歩く音)
トリスティア:(子)「(ねぇ、おとうさん?)」
フォレスター:「…トリスティア…」
トリスティア:(子)「お父さん…」
フォレスター:「…こっちに、おいで。」
トリスティア:(子)「………ねぇ、おとうさん。きいて。」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「お母さん、いっぱいお祈りしたのに目を開けてくれないの…どうして?」
フォレスター:「…さぁ、もう、こっちにおいで」
0:チャキ
フォレスター:「これからは、ずっと私といっしょだよ、…さぁ。」
0:虫の声
0:噴水
トリスティア:「…夢?…ああ、夢か」
0:ガバッ
トリスティア:「…ここは、そうか…アレクに剣で負けて、それから…泣き崩れて……はは、なんとも情けない。」
トリスティア:
トリスティア:「暗いな…すっかり日も暮れてしまった。月が、綺麗だ…な。」
トリスティア:
トリスティア:「…初めて剣を握った日もこんな満月の夜だった。こんなふうに庭で独り泣いていた私に父様が…。」
トリスティア:
トリスティア:「…泣いていた私に…。」
0:(カランカラン)
アレク:(M)「…いいかげんに自分の弱さを認めろ…。」
トリスティア:「確かに弱いな…わたしは…。」
0:ドザッ(再びねころがる)
トリスティア:「…父様…父様、わからないよ、私は、どうしたらいいの?どうしたら…」
0:虫の声
トリスティア:「…なんだか…今日は…泣き…つかれ…た…もう少し休ませて、くれ。」
0:噴水の音
0:(以下リバーブ)
0:
0:ブン ブン(剣の音)
トリスティア:(子)「えいっ、……えいっ、……やぁ」
0:ブン(剣の音)
トリスティア:(子)「……とぉ、………はっ。」
0:パチパチパチ(拍手)
トリスティア:(子)「…あっ。」
フォレスター:「トリスティア」
トリスティア:(子)「おとうさん。…おとうさん!」
0:タッタッタ
0:(リバーブ終わり)
トリスティア:(子)「ねぇ、おとうさん。見て、あたし剣がふれるようになったんだよ。」
フォレスター:「よくやったな 偉いぞ」
トリスティア:(子)「うん。……ねぇ、おとうさん、聞いて?」
フォレスター:「なんだ?」
トリスティア:(子)「…私ね。私、大きくなったら王国騎士団に入るの。」
フォレスター:「…騎士団に?。」
トリスティア:(子)「うん、はやく大きくなって、王国騎士団に入って、お父さんが教えてくれたこの剣でお父さんの力になるの。だから、もっと…もっと剣技を教えて!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「……おとうさん?」
フォレスター:「…もう、いいだろう?」
トリスティア:(子)「…えっ?」
フォレスター:「…剣がふれるようになったんだ、もう、充分じゃないか。」
トリスティア:(子)「え…でも、あたし」
フォレスター:「ほらっ。」
トリスティア:(子)「…あっ。」
フォレスター:「こんなに手にマメをつくってしまって…。この細い腕には負担が大きすぎるんだ。」
トリスティア:(子)「…」
フォレスター:「トリスティア…私が不器用なばっかりに、こんな方法でしか話すことができなかったばかりに、おまえには不憫な思いをさせてしまったよ…。だが、おまえばその小さな体でよく私のワガママを聞いてくれた。ありがとう。だから、本当に私はもう充分だよ。」
トリスティア:「おとう、さん?」
フォレスター:「…もう、いいよ。これからは自分の道をみつけなさい。…ほらっ、さぁ剣を、こっちへ。」
トリスティア:「…トリスティア…(大人のほうの声で)」
トリスティア:
トリスティア:(子)「う…うん…。」
トリスティア:
トリスティア:「…トリスティア…(大人のほうの声で)」
0:チャキ
トリスティア:「…トリスティア!…(大人のほうの声で)」
トリスティア:
トリスティア(子)「…はっ。」
フォレスター:「トリスティア?」
トリスティア(子)「…『おとう、さん』?」
フォレスター:「…?どうしたんだい?」
トリスティア:「ちがう、『おとうさん』は…違う。」
フォレスター:「…なんだって?」
0:チャキ
トリスティア:(子)「…だめ。…やっぱりいやだ。あたし、剣は捨てない。」
フォレスター:「…何を言っているんだ?おまえは充分やったよ。だから…」
トリスティア:(子)「おとうさんっ!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「…わからない…わからないよ。どうしてそんなこと言うの?…『父様』」
フォレスター:「…トリスティア…。」
トリスティア:(子)「…。」
フォレスター:「…悪いことは言わない…剣を、捨てなさい」
トリスティア:(子)「いやだ。」
フォレスター:「…捨てなさい。」
トリスティア:(子)「…いやだ。」
フォレスター:「剣を捨てろ!トリスティア!!」
トリスティア:(子)「いやだぁ!…いやだいやだ!いやだぁああ!!!!!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「…いや、だ。」
フォレスター:「…私を困らせないでおくれ。これでは心残りで安心してアレのもとにいけないではないか。もう、私はこの世にいない。…なのに…なにを、こだわる?」
トリスティア:(子)「…。」
0:チャキ
トリスティア:(子)「…これは…これは…あたしと…」
トリスティア:「…私と父さまのたったひとつの絆だ。」
:〇回想(リバーブ)
トリスティア:「はぁはぁはぁ…」
フォレスター:「つらいか?」
トリスティア:「ううん、まだ、いけます。」
フォレスター:「よし…、違う何度いったらわからるんだ?脇がしまっていない!」
トリスティア:「はい!!」
フォレスター:「…よし、いいぞ。その調子だ。」
:〇回想終わり
トリスティア:「……そうか…そうなんだ…そうなんだよ、父様…これは「絆」だ。父さまと私をつなぐ、絆なんだ…だから捨てられないんだ。」
フォレスター:「…」
トリスティア:「…小さい頃はそうだった。つらくって、重くて、まともに振るうのでさえ何ヶ月もかかっても!もう止めようと思ったことがあったけど!ある日コツをつかんで出来るようになった時は、うれしくて!うれしくて!父様の前で嬉しくて何度も振るってみせた…。それは父様を喜ばせたかったから、ただそれだけだった。」
フォレスター:「…。」
トリスティア:「でもそのうちだんだんと…父さまが教えてくれたのは剣技だけじゃないことに気づいた。剣を通して『人の命の尊さ』を学んだ、剣を通して『護ること』を学んだ…そう、…剣の道から力いっぱい生きることを教えてくれたのは他でもない父さまと父様の剣だ。だからこそ、母様の死を乗り越えることができた。そしてきっと今度も…。」
フォレスター:「…」
トリスティア:「だから私は…、剣を捨てない。これからの道もこの剣で切りひらく」
フォレスター:「トリスティア」
トリスティア:「…。」
フォレスター:「………いつのまにか、大きくなったんだな。」
0:チャキ
フォレスター:「…答えをみせてくれ…。私を乗り越えるんだ、…できるか?」
トリスティア:「…父さま?」
フォレスター:「その…ありったけの想いをぶつけてみせろ…さぁ」
0:チャキ
フォレスター:(トリスティアの回想)「(いいか、トリスティア。剣を振るうには、刀の芯をイメージして、振り下ろすことが大切だ。剣の重さに体をもっていかれるな!)」
トリスティア:「刃の芯をイメージする……刃の芯をイメージする……刃の芯をイメージする…。」
0:キィイイ…(剣が光だす(魔法のチャージ))
トリスティア:「…父さま。」
0:キィィイイイイイイイン(剣が光だす(魔法のチャージ))
フォレスター:「来い!トリスティア!!」
0:チャキ
トリスティア:「うわぁああああああああああああ!!!(リバーブ)」
0:バシュウウ……
0:噴水
0:
0:虫の音
トリスティア:「……今のは…。」
0:チャキ
フォレスター:(幻)「…トリスティア…大きく、なったな」
トリスティア:「………父さま…ありがとう。」
:〇ライト家廷前
0:ドン(机を叩く)
アレク:「馬鹿な!馬鹿げた作戦だ!無茶だ!」
トリスティア:「別に無茶ではないだろう。少数精鋭による転移魔法で屋敷内に侵入し、人質の身柄を確保しつつ内側から斬り込んで敵をかく乱させ、外の部隊を誘導する。 敵がおまえ達を警戒している今がチャンスなんだ。やつらは罠を信頼してる。逆にいえば内の護りは手薄。おまえだってわかってるはずだろ?」
アレク:「ちがう、そんなことをいってるんじゃない!」
トリスティア:「だったら他になにか手があると言うのか?言ってみろ!!」
アレク:「それ、は!」
トリスティア:「転移魔法も白兵戦も出来る我ら魔法騎士団にしかできぬだろ?違うか?」
アレク:「……しかし、しかしそれで、おまえの身にもしものことがあったら…。」
トリスティア:「…大丈夫だ。私は父様のようにはならない。」
アレク:「…」
トリスティア:「…」
アレク:「…トリスティア」
トリスティア:「…。」
アレク:「…おまえにひとつききたいことがある。…どうしてあの時剣を捨てなかった?」
トリスティア:「…。」
アレク:「おまえはもう気づいているのだろう?自分の潜在能力に?…将軍の意思を継ぐだけというのなら、魔法だけを専門に学んでいれば、きっと…」
トリスティア:「……ふ。」
0:チャキ
トリスティア:「捨てられなかったのさ。この剣には思い出がいっぱいつまっている。これは私と父さまが生きてきた証なんだ。だから捨てない。…たとえ父様に捨てろといわれても」
アレク:「…。」
トリスティア:「…不器用なやつだろ?笑っても構わないぞ?…だがいくら遠回りをしても…たとえ何度挫折しても…私は私なりの方法で追い付く。おまえにも、父様にも、な。」
アレク:「…」
トリスティア:「…」
アレク:「…トリスティア…。」
トリスティア:「…なんだ?」
アレク:「エルに礼をいっておけよ。今のおまえがいるのはあいつのおかげでもあるのだからな。」
トリスティア:「もう言ったさ。夢でも魔法でも最後に父様に会うことことができて良かったと。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…アレク?」
アレク:「王国騎士団、魔法騎士部隊隊長トリスティア=ライムロッド!作戦の全権をゆだねる!作戦の合図もそちらで決めてくれ。」
トリスティア:「了解した!」
アレク:「…健闘を、祈る。」
トリスティア:「…ああ。まかせておけ」
0:タッタッタ。
:〇回想
アレク:「(ではトリスティアには魔法を使う才能があると?)」
フォレスター:「(そうだ、おまえの言うとおり、あいつの母は先天的に強い魔法力をもつ家系。その娘も例外ではなかった。幼い頃は無意識のうちに自分でケガを直していたさ。だが、剣技を覚えていくうちに…。私と離れ離れになりたくないと想いが強かったあまりにあれの才能の芽を積んでしまった。)」
アレク:「(…剣を学べば魔力が劣り。魔法を学べば力が劣る、未だ魔法騎士に実績がないのはそのためですね。)」
フォレスター:「(人間とは不思議な生き物だな。いずれきっかけさえつかめれば、魔力がもどる可能性もなくはないのだが……、あれは過酷な選択だった…。)」
アレク:「(…。)」
フォレスター:「(…だがな、これから先に進むべき道は あれ自身の意思できめなければならない。 … 例え険しい道をすすむことになったとしても構わない、それが最愛の娘が選んだ道であるかぎりはな…)」
アレク:「(…将軍。)」
0:ざわざわざわ(人のざわめき)
トリスティア:(M)「(人は弱くて、もろくて、はかなくて…力をもたない…)」
トリスティア:「各員、準備は出来たか?」
騎士A:「はっ、隊長」
騎士B:「いつでもいけます、ご指示を。」
トリスティア:「よし………!?……馬鹿者!この魔方陣のスペルが違う。そこはΔ(デルタ)だ。」
騎士A:「はっ!すっ!すみません。」
トリスティア:(M)「(だからこそ繋ぎとめようとする。…私は父様を追いかける。)」
騎士B:「隊長、転移魔法陣、起動できます。」
トリスティア:「よし、出来たな?偵察隊の合図をもって、作戦開始とする。…詠唱、構え。」
騎士B:「構え!」
トリスティア:「……………」
騎士A:「…隊長?…空に、何かありますか?」
トリスティア:「……ふふ。いや。月が、綺麗だな」
0:バシュウ
騎士A:「発光弾を確認!隊長!作戦開始の合図です!!」
トリスティア:「転移魔法詠唱!いけぇえええ!!!」
0:
トリスティア:(M)「たった一つの想いとともに。――いつまでも、そばにいたいから。」
エル:「アストリア王国騎士団第7部隊隊長トリスティア・ライムロッド。彼女の開発した、剣と魔法を融合させた独自の剣技「魔法剣」は、第7部隊に革命をもたらすことになる。彼女の振るう剣は、月の輝きのように金色の光をまとったその刃から、『Moon Light』と呼ばれ、後の彼女の武勇伝とともに広く語り継がれることになる。…が、だがそれは、また別の物語。」
0:タッタッタッタ
トリスティア:(M)「夜、月の光が輝く夜。とても…とても静かな夜。あてもなくさまよう1人の少女がいた。
トリスティア:
トリスティア:(子)「おとうさん…。おとうさん、おとうさん、どこ?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「……どこの世でも、人は弱くて、もろくて、はかなくて、力をもたない…。
トリスティア:
トリスティア:(子)「おとうさん、どこ…どこにいるの?おとうんさん?おとうさん~?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「…だから、絆を求める。…だからこそ繋ぎとめようとする。
トリスティア:
トリスティア:「どこにいるの?おとうさん、おとうさん?」
トリスティア:
トリスティア:(M)「……いつまでも、そばにいたいから
トリスティア:
:〇ライト家屋敷前(うつてなしのアレクの前に魔法騎士部隊長トリスティアが現れる。)
0:ザワザワザワザワ(人が騒いでいる音)
0:
0:パチパチパチ(焚き火の音)
0:
0:タタタタタ(走りよる)
騎士B:「おおい。おお~い!」
騎士A:「お?おい、どうだった?」
騎士B:「いや、だめだ。…そっちは。」
騎士A:「こっちもだ…。状況は以前変わらず…。」
騎士B:「そうか。…よし、とりあえず将軍に報告してくる。」
騎士A:「わかった。」
0:タタタタタ(走り去る)
0:
0:タッタッタ(歩く音)
0:
騎士A:「おい、そこの女!止まれ。」
0:タッタ。
騎士A:「どこへ行くつもりだ。ここから先は、王国騎士団第1部隊が作戦会議中につき、関係者以外通すわけにはいかない。」
トリスティア:「…私は関係者だ。」
騎士A:「なに?」
0:チャ(剣の音)
トリスティア:「おまえはこの剣が目に入らないのか?」
騎士A:「そ!その剣!?はっ…ははっ!しっ、失礼しました!」
0:タッタッタ(歩く音)
:〇作戦会議室
0:パチパチパチ(焚き火の音)
0:
0:パサッ(テントをめくる音)
騎士B:「将軍、アレク将軍!」
アレク:「来たか。で、首尾はどうだ?」
騎士B:「東の湖の方を回ってみましたが…だめです、いたるところに罠がしかけられています。」
アレク:「西の森の方はどうだ?」
騎士B:「どちらも高度な細工が施されていて……力づくではなんとかなるかもしれませんが、隠密行動となると…。我々では手のだしようがありません。」
アレク:「ちっ、やつらめ。罠のプロを雇ったか…。やっかいだ。」
0:パサッ(テントをめくる音)
騎士A:「し、将軍!」
アレク:「なんだ?」
騎士A:「第7部隊の部隊長殿がお見えになりました。なんでも将軍にお会いしたいとか…。」
アレク:「…第7?…魔法騎士部隊のものがいったいなんのようだ?…わかった、通せ。」
騎士A:「はっ。」
0:バサッ(テントの入り口をめくる)
トリスティア:「ずいぶんと苦労してるようだな。将軍殿。」
アレク:「…おまえは!?」
トリスティア:「久しぶりだな、アレク。」
アレク:「……トリスティア……そうか、今度若い騎士が部隊長になったとは聞いていたが…。まさかおまえのことだったとは。」
トリスティア:「…まったく、もう少し魔法を使える人間を作戦に加える気になったらどうだ?エルがすねていたぞ。『私はいつも追いてきぼりだ。』ってな。」
アレク:「…エル…。」
トリスティア:「…ふ、まあいい…で、状況はどうなってる?」
アレク:「…今、人質を取って立てこもっているのは例の邪教集団の残党だ。」
トリスティア:「例の……あの信仰のためには死ぬことすら恐れないイカれたやつらのことだな。」
アレク:「…ああ。要求は捕まっている教祖の釈放。しかし、立てこもった家のものにはずいぶんと私怨があるらしい。」
トリスティア:「…なるほど。先の一件にはここの家の連中が絡んでいたのか…。」
アレク:「…おそらく、無傷で人質を開放する気はないとだろう。…なんとか屋敷内に侵入を図ろうかと偵察隊に付近をあたらせたが、屋敷のいたるところに罠がしかけてあるらしくて…くっ。」
トリスティア:「八方ふさがりか。…まぁ無理もない、『敵に人質をとられた場合、うかつに行動にうつすのは自殺好意』、だった、かな。」
アレク:「…トリスティア。」
0:パチパチパチ(焚き火の音)
トリスティア:「…まるで、あのときと同じだな。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…よし……私が突破口を開いてやる。」
アレク:「!?…手があるというのか?」
0:チャキ(剣の音)
トリスティア:「ひとつだけ良い手がある。その手を使えばこの場の均衡を崩すことができるぞ。…もっとも、そのあとはおまえのうで次第だがな。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…ふふ、ずいぶんと心配そうな顔だな、アレク。大丈夫だ、私はあんな奴らになんか遅れをとらないさ。それに私は…こんなところで、立ち止まるわけにはいかない」
:〇フォレスター廷(時は今より数年前。フォレスター将軍が一人娘トリスティアに剣の稽古をつけている、そこにアレクがやってくる。)
トリスティア:「やぁ…はっ…とぉ…えいっ。」(リバーブからだんだん普通になる)
0:噴水の音フェードイン
0:
0:キンッ、キンッ、キンッ(剣の音)
0:
トリスティア:「やぁっ!!」
フォレスター:「ふんっ。」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「違う。」
トリスティア:「とぉっ!!」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「まだだ!まだ脇がしまってない!」
トリスティア:「はぁっ!」
0:キンッ(剣の音)
フォレスター:「よし、いいぞ。その調子だ。」
0:キンッ、キンッ(剣の音)
トリスティア:「いやぁああ!!」
0:キンッ!(剣の音)
フォレスター:「よし!そこまで。」
0:ザシュ(地面に剣をつきたてる)
トリスティア:「……はぁ…はぁ…」
0:パチパチ(拍手)
フォレスター:「今の踏み込みは良かった。今までで1番いいぞ、トリスティア。」
トリスティア:「ほんと?父様?」
フォレスター:「ああ、見事なのものだ。相変わらず飲みこみがはやいな。」
トリスティア:「父さまの教えがいいんですよ。」
フォレスター:「…まったく、まともに剣も振るうことすらできなかった昔がうそのようだな。」
トリスティア:「ふふ」
0:タッタッタ
アレク:「将軍!」
0:タッタ。
アレク:「フォレスター将軍、こちらにおられましたか。」
フォレスター:「アレクか?どうした。」
アレク:「先ほど軍師殿から連絡がありました。急な話ですが軍議を開くので将軍を呼んでもらいたいとのことで。」
フォレスター:「…この間の野盗討伐の件だな。わかった、したくをしてくる。アレク、少しまっててくれ。」
アレク:「はい。」
フォレスター:「…トリスティア、今日の稽古はここまでとしよう。でかけてくるぞ。」
トリスティア:「はい、父様。」
0:タッタッタ
アレク:「…君は?」
:〇引き続きフォレスター廷(トリスティアとアレクの会話。母親がいなくなり無気力になった娘に愛情を注ぐため、剣を教え始めた。)
0:(噴水の音)
アレク:「そうか、君は、将軍の。」
トリスティア:「そうだ、知らなかったのか?」
アレク:「…ああ、将軍は自分のことをあまり話したがらないから。…そうだな、将軍のことで知ってるといえば、確か奥さんが以前魔法使いの部隊にいたことぐらいしか…あっ。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…すまない。」
トリスティア:「…気にするな、ひきずっていないといえば嘘になるが…それは戦いに身を投じるものの背負う宿命だということくらい納得している。…それに。」
0:チャキ
トリスティア:「…それに今は、父様が剣を教えてくれるからな。それだけで、私は充分なのさ。」
アレク:「…将軍が?君に剣を?」
トリスティア:「ああ。ちょうど母様がなくなられてからだろうか…」
アレク:「…」
トリスティア:「…ここだけの話だがな。私は、いずれ王国騎士団への入団を志願しようかと考えているんだ。この剣で少しでも父様の力になりたい。だからな、そのときはよろしく頼むぞ。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…なんだ?さっきからだまって…女だてらに剣を振う姿はそんなにめずらしいか?」
アレク:「いや、そんなことはないと思うが…。…しかし…。」
トリスティア:「…。」
アレク:「いや…なんでもない。」
トリスティア:「はは。…なんだ、おかしなやつだな。」
0:タッタッタ
フォレスター:「アレク、待たせたな。」
:〇城、王立施療院。アレクとエルの会話(アレクの怪我を治療するエル。そこにトリスティアがやってくる。)
0:カランカラン(ビンの音とか)
エル:「これでよし。」
アレク:「…」
エル:「痛みをやわらげる薬草を調合して塗っておいたから、少しは傷を気にしないで動けると思うよ。」
アレク:「ああ、すまない」
エル:「…ねぇ、本当に治癒の魔法をかけなくていいの?」
アレク:「ああ、大丈夫だ。」
エル:「でも、次の任務もせまっているんでしょ?」
アレク:「…悪いな…魔法は好きじゃない。」
エル:「……ふぅ。頑固ねぇ。」
アレク:「頑固だ。」
エル:「…はいはい。」
0:ガチャ、バタン(ドアを開けて、閉める)
トリスティア:「失礼する。…あっ。」
アレク:「…君は、」
トリスティア:「父様の部下の…アレク、だったな。」
アレク:「ああ。…こんなところになんのようだ?」
トリスティア:「父様に頼まれて、薬草を取りに来たのだが、ここに『月夜草』はおいてあるか?」
エル:「…えっと…これのこと?」
0:キン(ビンの音)
トリスティア:「それだ…。…ありがとう、失礼する。」
0:ガチャ、バタン(ドアを開けて、閉める)
エル:「あのコは?」
アレク:「将軍の娘さんだ。確かトリスティアという名の。」
エル:「将軍様の?」
アレク:「ああ、一人娘だそうだ。」
エル:「へぇ、そうなんだ。娘さんがいたなんて、知らなかった。……あっ?そういえば…。」
アレク:「どうした?」
エル:「将軍様といえば。ちょっと前にね、誰かが命を狙っているという噂を聞いたことがあるの。」
アレク:「…将軍の命を?まさか。あの方を良く思わないやつはそういないだろう…。」
エル:「先生が言ってたよ、『光あるところに闇もまたある』って。私には難しいことなんてわからないけど、ようするに悪人にとっては英雄なんて目の上のタンコブなんでしょうね。」
アレク:「…」
エル:「…アレク?」
アレク:「…心配だな。あの方がそんな輩に遅れをとるとは思えないが、そいつらにとっては家族もまた標的となりかねないからな…。」
エル:「…もしかして、あのコのこと気にかけていたりする?」
アレク:「なんだ?焼いているのか?」
エル:「べっつに。…ほら、終わったよ。」
0:ペチッ
アレク:「あいて。」
エル:「ふん。」
アレク:「…っぅ…ただな。」
エル:「?」
アレク:「このあいだ、将軍が彼女に剣技を教えているのをみたんだ。」
エル:「…?…どうして『ただ』なの?いいじゃない、きっと護身術か何かのつもりで教えているんでしょ?」
アレク:「…将軍の剣技は護身術なんかじゃない、白兵戦を主に務める騎士のために開発された、敵を根こそぎなぎ倒す剣技なんだ。それにあのコはおそらく…」
エル:「…?」
:〇道(トリスティア捕まる。)
0:(虫の音)
トリスティア:「もう日も暮れてしまったか。まずいな…少し遅くなってしまったな。」
0:タッタッタ…(歩く音)
0:水の音(遠くから)
トリスティア:「…近道か…。」
フォレスター:「(最近、水門のある通りの方は物騒なんだそうだ、気をつけるんだぞ。)」
0:チャキ
トリスティア:「大丈夫だよ。…まったく、父様も心配性なんだから」
0:タッタッタ(歩く音)
水の音(フェードアウト)
0:タッタッ。
トリスティア:「…なんだおまえたちは?」
野盗A:「よぉ姉ちゃん。」
トリスティア:「どいてくれ、通行の邪魔だ。」
野盗B:「ちょっと俺達と付き合ってくれないか?」
トリスティア:「どこへだ?」
野盗A:「いいところだよ。」
トリスティア:「…誘っているのか?だったら他をあたってくれ。」
野盗A:「まぁ、そう言わずにさぁ。」
トリスティア:「なんだ!?そんなに遊びたければ遊女でも捕まえてくればいいだろう!」
0:チャキ
野盗B:「へへ…あんた、将軍様の娘だろ?」
トリスティア:「…なるほど…そういうことか。」
野盗A:「なにが、そういうことなんだ?ああ?」
トリスティア:「…大の男が二人がかりで女を襲うとは、おまえ達、クズ以下だな。」
野盗B:「ああん?ギャアギャアうるせぇ、いいからとっととついて…」
トリスティア:「ふん。」
0:キンッ(野盗の小剣をはじく)
野盗B:「うおっ、こいつ。」
トリスティア:「私を甘くみるなよ。どかぬというなら力ずくで通るまで。この、アストリア王国一と謳われた大将軍フォレスター直伝の剣技で!!…はぁ!」
0:キンキンッ
トリスティア:「はぁっ!とぉっ!」
野盗B:「なっ、くっ、うおっ?」
トリスティア:「どうだ!…ひきさがるなら、いまのうち」
野盗B:「このっ、いきがってんじじゃねぇぞ!!」
0:キンッ
トリスティア:「えっ?」
0:カラン
トリスティア:「しまっ、」
野盗B:「おらっ!」
0:ドカ
トリスティア:「んっ!!」
0:ドサッ
野盗B:「…ふぅ。」
野盗A:「おい、大丈夫か?」
野盗B:「ああ大したことない。威勢の良さにびびったが、所詮小娘の剣だぜ、軽すぎら!…よし、連れていくぞ」
野盗A:「おう」。
トリスティア:「…父…さま。」
0:水の音(フェードアウト)
:〇城、フォレスターとアレクの会話(トリスティアを助けるため、単身敵地に乗り込もうとするフォレスター)
アレク:「将軍!!!」
フォレスター:「アレク、どうした?」
アレク:「娘さんが賊に囚われたって。」
フォレスター:「ああ、今東の砦に立てこもっている。連中は私一人でくることを要求してきた。」
アレク:「…行かれるのですか?一人で。」
フォレスター:「…。」
アレク:「普段から『敵に人質をとられた場合、うかつに行動に移るのは自殺行為だ』と説いてくださっているのは将軍じゃないですか?いくら…いくら人質が娘さんだからって、一人でのり込むなんて…せめて対策部隊を組織してからでも遅く…」
フォレスター:「…。」
0:タッタッタ(歩く音)
アレク:「将軍、お待ちください!1人では自殺行為…」
フォレスター:「わかってる!!!」
0:ッタ(立ち止まる)
アレク:「…。」
フォレスター:「それ以上、言うな…。」
アレク:「……将軍、ひとつ聞きたいことがあります。」
0:タッ…。
アレク:「…どうしてあのコに剣技なんか教えたのですか?…将軍なら、……将軍ならば、いずれこうなることくらい予測できて…。」
フォレスター:「…」
アレク:「…」
フォレスター:「…ああ、そうだ……いずれこうなることはわかっていたのだよ。母親がいなくなり、生きる希望を失っていたあれに剣技を教えると言ったあの日からな。」
アレク:「……将軍。」
フォレスター:「…だから…悪いのは自分の力量を見誤った娘ではない。母の手のかわりに、剣の道しか教えることができなかった…こんなことでしか親子の絆をつなぐことができなかった私が悪いのだよ。」
アレク:「…。」
フォレスター:「不器用なやつだと笑ってもかまわない。…だが、私は将軍である前に一人の親でありたい。私は命をかけて娘を助ける。…それだけだ。」
0:タッタッタ(歩く音)
アレク:「…。」
トリスティア:「(…それが、アレクが父様と交わした最後のセリフだったそうだ…。)」
:〇城(アレクに当り散らすトリスティア。トリスティアは自分が将軍になって父の跡をつぐというが、アレクはトリスティアに剣を捨てろという。)
0:コツコツコツコツ(歩く音)
トリスティア:「…アレク」
アレク:「…トリスティア。」
トリスティア:「将軍になったんだってな。…おめでとう。」
アレク:「…ああ。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…ひとつ聞きたいことがある。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…おまえが私の王国騎士団入りを拒否したといういう話は本当か?」
アレク:「…。」
トリスティア:「…本当なのか?」
アレク:「…規律では、最終的な判断は将軍に一任されることになっている。」
トリスティア:「…。」
アレク:「…なんだ?聞きたいことはそれだけか?軍議がある、通行の邪魔だ。」
トリスティア:「ハハ、ハ。…そうか。…わかった。…だったら」
アレク:「…。」
トリスティア:「…だったら、私が将軍になる。」
0:チャキ
トリスティア:「私と代われ!…アレク!」
アレク:「断る。」
トリスティア:「私と代わるんだ!」
アレク:「…断る!私は将軍の意思を継ぎ、命あるかぎり王国騎士団を束ていくと誓った。例え実の娘がなんといおうとも、私はその誓いを放棄するつもりはない。」
トリスティア:「そんなこと、そんなこと私が知ったことかぁ!!私だって父様から剣を教わった!私にだって父様の意思を継ぐ権利がある!!!……だから私と」
0:チャキ
トリスティア:「かわれアレクゥウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!」
0:タタタタ!!
アレク:「ふんっ!」
0:キンッ
トリスティア:「っつ!」
0:カランカラン
トリスティア:「くっ、くそ!」
0:チャキ
0:キン(刃をしまう)
アレク:「よせ、もうやめろ。」
トリスティア:「どけっ!!父様は私の身代わりになって死んだんだ。だから私は父様の代わりになる!!この父様が教えてくれた剣で代わりになるんだ」
0:ドス(壁を叩く)
アレク:「たかが小娘に何がわかる!!!!!!」
トリスティア:「………………小娘……だと?」
アレク:「(静かな怒りで)その曇りひとつない刃を俺に向けるな…。細い腕を振りまわして綺麗事をぬかすな…。いいかげんに…いいかげんに自分の弱さを認めろ…。」
トリスティア:「……。」
アレク:「…最後の忠告だ…。これ以上抵抗するなら容赦はしない。お前を力でねじ伏せてやる!」
トリスティア:「……。」
アレク:「…ふぅ……だから、悪いことは言わない。トリスティア…。」
トリスティア:「……。」
アレク:「…剣を、捨てろ。」
0:カランカラン
トリスティア:「うっ、くっ、うっくうううう」
アレク:「…。」
フォレスター:(M)「悪いのは娘ではない。剣の道しか教えることができなかった…こんなことでしか親子の絆をつなぐことができなかった私が悪いのだ。」
0:タッタッタ
トリスティア:「アレク」
アレク:「…なんだ。」
トリスティア:「…教えてくれ…私は、…どうしたらいいのだ?」
アレク:「…自分の心に聞いてみろ?答えは出ているのだろう?」
トリスティア:「…うっ、くっ、うう。うううううう、うわぁぁぁ!!!(号泣)」
0:タッタッタ
アレク:「(…将軍。)」
エル:「相変わらず厳しいのね、アレク。」
アレク:「…エル」
エル:「…強すぎるんだよ、アレクは。」
アレク:「…。」
エル:「…。」
アレク:「…俺はこんなやり方しか知らない。剣のみで生きてきた俺にはな。エル?魔法使いのお前だったら…こんなとき、どうする?」
エル:「…どうする、って」
アレク:「…魔法使いのお前なら、どうする?。」
エル:「……はぁ…、もう!こんなときだけ頼ろうとするんだから…。」
:〇フォレスター廷
トリスティア:(子)「(おとうさん、おとうさんどこにいるの?)」
0:タッタッタ(歩く音)
トリスティア:(子)「(おとうさん?)」
0:タッタッタ(歩く音)
トリスティア:(子)「(ねぇ、おとうさん?)」
フォレスター:「…トリスティア…」
トリスティア:(子)「お父さん…」
フォレスター:「…こっちに、おいで。」
トリスティア:(子)「………ねぇ、おとうさん。きいて。」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「お母さん、いっぱいお祈りしたのに目を開けてくれないの…どうして?」
フォレスター:「…さぁ、もう、こっちにおいで」
0:チャキ
フォレスター:「これからは、ずっと私といっしょだよ、…さぁ。」
0:虫の声
0:噴水
トリスティア:「…夢?…ああ、夢か」
0:ガバッ
トリスティア:「…ここは、そうか…アレクに剣で負けて、それから…泣き崩れて……はは、なんとも情けない。」
トリスティア:
トリスティア:「暗いな…すっかり日も暮れてしまった。月が、綺麗だ…な。」
トリスティア:
トリスティア:「…初めて剣を握った日もこんな満月の夜だった。こんなふうに庭で独り泣いていた私に父様が…。」
トリスティア:
トリスティア:「…泣いていた私に…。」
0:(カランカラン)
アレク:(M)「…いいかげんに自分の弱さを認めろ…。」
トリスティア:「確かに弱いな…わたしは…。」
0:ドザッ(再びねころがる)
トリスティア:「…父様…父様、わからないよ、私は、どうしたらいいの?どうしたら…」
0:虫の声
トリスティア:「…なんだか…今日は…泣き…つかれ…た…もう少し休ませて、くれ。」
0:噴水の音
0:(以下リバーブ)
0:
0:ブン ブン(剣の音)
トリスティア:(子)「えいっ、……えいっ、……やぁ」
0:ブン(剣の音)
トリスティア:(子)「……とぉ、………はっ。」
0:パチパチパチ(拍手)
トリスティア:(子)「…あっ。」
フォレスター:「トリスティア」
トリスティア:(子)「おとうさん。…おとうさん!」
0:タッタッタ
0:(リバーブ終わり)
トリスティア:(子)「ねぇ、おとうさん。見て、あたし剣がふれるようになったんだよ。」
フォレスター:「よくやったな 偉いぞ」
トリスティア:(子)「うん。……ねぇ、おとうさん、聞いて?」
フォレスター:「なんだ?」
トリスティア:(子)「…私ね。私、大きくなったら王国騎士団に入るの。」
フォレスター:「…騎士団に?。」
トリスティア:(子)「うん、はやく大きくなって、王国騎士団に入って、お父さんが教えてくれたこの剣でお父さんの力になるの。だから、もっと…もっと剣技を教えて!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「……おとうさん?」
フォレスター:「…もう、いいだろう?」
トリスティア:(子)「…えっ?」
フォレスター:「…剣がふれるようになったんだ、もう、充分じゃないか。」
トリスティア:(子)「え…でも、あたし」
フォレスター:「ほらっ。」
トリスティア:(子)「…あっ。」
フォレスター:「こんなに手にマメをつくってしまって…。この細い腕には負担が大きすぎるんだ。」
トリスティア:(子)「…」
フォレスター:「トリスティア…私が不器用なばっかりに、こんな方法でしか話すことができなかったばかりに、おまえには不憫な思いをさせてしまったよ…。だが、おまえばその小さな体でよく私のワガママを聞いてくれた。ありがとう。だから、本当に私はもう充分だよ。」
トリスティア:「おとう、さん?」
フォレスター:「…もう、いいよ。これからは自分の道をみつけなさい。…ほらっ、さぁ剣を、こっちへ。」
トリスティア:「…トリスティア…(大人のほうの声で)」
トリスティア:
トリスティア:(子)「う…うん…。」
トリスティア:
トリスティア:「…トリスティア…(大人のほうの声で)」
0:チャキ
トリスティア:「…トリスティア!…(大人のほうの声で)」
トリスティア:
トリスティア(子)「…はっ。」
フォレスター:「トリスティア?」
トリスティア(子)「…『おとう、さん』?」
フォレスター:「…?どうしたんだい?」
トリスティア:「ちがう、『おとうさん』は…違う。」
フォレスター:「…なんだって?」
0:チャキ
トリスティア:(子)「…だめ。…やっぱりいやだ。あたし、剣は捨てない。」
フォレスター:「…何を言っているんだ?おまえは充分やったよ。だから…」
トリスティア:(子)「おとうさんっ!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「…わからない…わからないよ。どうしてそんなこと言うの?…『父様』」
フォレスター:「…トリスティア…。」
トリスティア:(子)「…。」
フォレスター:「…悪いことは言わない…剣を、捨てなさい」
トリスティア:(子)「いやだ。」
フォレスター:「…捨てなさい。」
トリスティア:(子)「…いやだ。」
フォレスター:「剣を捨てろ!トリスティア!!」
トリスティア:(子)「いやだぁ!…いやだいやだ!いやだぁああ!!!!!」
フォレスター:「…。」
トリスティア:(子)「…いや、だ。」
フォレスター:「…私を困らせないでおくれ。これでは心残りで安心してアレのもとにいけないではないか。もう、私はこの世にいない。…なのに…なにを、こだわる?」
トリスティア:(子)「…。」
0:チャキ
トリスティア:(子)「…これは…これは…あたしと…」
トリスティア:「…私と父さまのたったひとつの絆だ。」
:〇回想(リバーブ)
トリスティア:「はぁはぁはぁ…」
フォレスター:「つらいか?」
トリスティア:「ううん、まだ、いけます。」
フォレスター:「よし…、違う何度いったらわからるんだ?脇がしまっていない!」
トリスティア:「はい!!」
フォレスター:「…よし、いいぞ。その調子だ。」
:〇回想終わり
トリスティア:「……そうか…そうなんだ…そうなんだよ、父様…これは「絆」だ。父さまと私をつなぐ、絆なんだ…だから捨てられないんだ。」
フォレスター:「…」
トリスティア:「…小さい頃はそうだった。つらくって、重くて、まともに振るうのでさえ何ヶ月もかかっても!もう止めようと思ったことがあったけど!ある日コツをつかんで出来るようになった時は、うれしくて!うれしくて!父様の前で嬉しくて何度も振るってみせた…。それは父様を喜ばせたかったから、ただそれだけだった。」
フォレスター:「…。」
トリスティア:「でもそのうちだんだんと…父さまが教えてくれたのは剣技だけじゃないことに気づいた。剣を通して『人の命の尊さ』を学んだ、剣を通して『護ること』を学んだ…そう、…剣の道から力いっぱい生きることを教えてくれたのは他でもない父さまと父様の剣だ。だからこそ、母様の死を乗り越えることができた。そしてきっと今度も…。」
フォレスター:「…」
トリスティア:「だから私は…、剣を捨てない。これからの道もこの剣で切りひらく」
フォレスター:「トリスティア」
トリスティア:「…。」
フォレスター:「………いつのまにか、大きくなったんだな。」
0:チャキ
フォレスター:「…答えをみせてくれ…。私を乗り越えるんだ、…できるか?」
トリスティア:「…父さま?」
フォレスター:「その…ありったけの想いをぶつけてみせろ…さぁ」
0:チャキ
フォレスター:(トリスティアの回想)「(いいか、トリスティア。剣を振るうには、刀の芯をイメージして、振り下ろすことが大切だ。剣の重さに体をもっていかれるな!)」
トリスティア:「刃の芯をイメージする……刃の芯をイメージする……刃の芯をイメージする…。」
0:キィイイ…(剣が光だす(魔法のチャージ))
トリスティア:「…父さま。」
0:キィィイイイイイイイン(剣が光だす(魔法のチャージ))
フォレスター:「来い!トリスティア!!」
0:チャキ
トリスティア:「うわぁああああああああああああ!!!(リバーブ)」
0:バシュウウ……
0:噴水
0:
0:虫の音
トリスティア:「……今のは…。」
0:チャキ
フォレスター:(幻)「…トリスティア…大きく、なったな」
トリスティア:「………父さま…ありがとう。」
:〇ライト家廷前
0:ドン(机を叩く)
アレク:「馬鹿な!馬鹿げた作戦だ!無茶だ!」
トリスティア:「別に無茶ではないだろう。少数精鋭による転移魔法で屋敷内に侵入し、人質の身柄を確保しつつ内側から斬り込んで敵をかく乱させ、外の部隊を誘導する。 敵がおまえ達を警戒している今がチャンスなんだ。やつらは罠を信頼してる。逆にいえば内の護りは手薄。おまえだってわかってるはずだろ?」
アレク:「ちがう、そんなことをいってるんじゃない!」
トリスティア:「だったら他になにか手があると言うのか?言ってみろ!!」
アレク:「それ、は!」
トリスティア:「転移魔法も白兵戦も出来る我ら魔法騎士団にしかできぬだろ?違うか?」
アレク:「……しかし、しかしそれで、おまえの身にもしものことがあったら…。」
トリスティア:「…大丈夫だ。私は父様のようにはならない。」
アレク:「…」
トリスティア:「…」
アレク:「…トリスティア」
トリスティア:「…。」
アレク:「…おまえにひとつききたいことがある。…どうしてあの時剣を捨てなかった?」
トリスティア:「…。」
アレク:「おまえはもう気づいているのだろう?自分の潜在能力に?…将軍の意思を継ぐだけというのなら、魔法だけを専門に学んでいれば、きっと…」
トリスティア:「……ふ。」
0:チャキ
トリスティア:「捨てられなかったのさ。この剣には思い出がいっぱいつまっている。これは私と父さまが生きてきた証なんだ。だから捨てない。…たとえ父様に捨てろといわれても」
アレク:「…。」
トリスティア:「…不器用なやつだろ?笑っても構わないぞ?…だがいくら遠回りをしても…たとえ何度挫折しても…私は私なりの方法で追い付く。おまえにも、父様にも、な。」
アレク:「…」
トリスティア:「…」
アレク:「…トリスティア…。」
トリスティア:「…なんだ?」
アレク:「エルに礼をいっておけよ。今のおまえがいるのはあいつのおかげでもあるのだからな。」
トリスティア:「もう言ったさ。夢でも魔法でも最後に父様に会うことことができて良かったと。」
アレク:「…。」
トリスティア:「…アレク?」
アレク:「王国騎士団、魔法騎士部隊隊長トリスティア=ライムロッド!作戦の全権をゆだねる!作戦の合図もそちらで決めてくれ。」
トリスティア:「了解した!」
アレク:「…健闘を、祈る。」
トリスティア:「…ああ。まかせておけ」
0:タッタッタ。
:〇回想
アレク:「(ではトリスティアには魔法を使う才能があると?)」
フォレスター:「(そうだ、おまえの言うとおり、あいつの母は先天的に強い魔法力をもつ家系。その娘も例外ではなかった。幼い頃は無意識のうちに自分でケガを直していたさ。だが、剣技を覚えていくうちに…。私と離れ離れになりたくないと想いが強かったあまりにあれの才能の芽を積んでしまった。)」
アレク:「(…剣を学べば魔力が劣り。魔法を学べば力が劣る、未だ魔法騎士に実績がないのはそのためですね。)」
フォレスター:「(人間とは不思議な生き物だな。いずれきっかけさえつかめれば、魔力がもどる可能性もなくはないのだが……、あれは過酷な選択だった…。)」
アレク:「(…。)」
フォレスター:「(…だがな、これから先に進むべき道は あれ自身の意思できめなければならない。 … 例え険しい道をすすむことになったとしても構わない、それが最愛の娘が選んだ道であるかぎりはな…)」
アレク:「(…将軍。)」
0:ざわざわざわ(人のざわめき)
トリスティア:(M)「(人は弱くて、もろくて、はかなくて…力をもたない…)」
トリスティア:「各員、準備は出来たか?」
騎士A:「はっ、隊長」
騎士B:「いつでもいけます、ご指示を。」
トリスティア:「よし………!?……馬鹿者!この魔方陣のスペルが違う。そこはΔ(デルタ)だ。」
騎士A:「はっ!すっ!すみません。」
トリスティア:(M)「(だからこそ繋ぎとめようとする。…私は父様を追いかける。)」
騎士B:「隊長、転移魔法陣、起動できます。」
トリスティア:「よし、出来たな?偵察隊の合図をもって、作戦開始とする。…詠唱、構え。」
騎士B:「構え!」
トリスティア:「……………」
騎士A:「…隊長?…空に、何かありますか?」
トリスティア:「……ふふ。いや。月が、綺麗だな」
0:バシュウ
騎士A:「発光弾を確認!隊長!作戦開始の合図です!!」
トリスティア:「転移魔法詠唱!いけぇえええ!!!」
0:
トリスティア:(M)「たった一つの想いとともに。――いつまでも、そばにいたいから。」
エル:「アストリア王国騎士団第7部隊隊長トリスティア・ライムロッド。彼女の開発した、剣と魔法を融合させた独自の剣技「魔法剣」は、第7部隊に革命をもたらすことになる。彼女の振るう剣は、月の輝きのように金色の光をまとったその刃から、『Moon Light』と呼ばれ、後の彼女の武勇伝とともに広く語り継がれることになる。…が、だがそれは、また別の物語。」