台本概要
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タイトル | 『餓獣』#1 |
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作者名 | sazanka (@sazankasarasara) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『餓獣(ガジュウ)』。 復讐なんざ犬も喰わない。 喰わず、喰われず、手負いの獣は路地を這い行く。 暴行系理不尽ノワール。 ―2020年11月21日― ※格闘シーン有り ※冒頭の「最期の声」、末尾の【ナレーション】は共に、どちらの演者様が兼ねて頂いても構いません。 198 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ジュウ | 男 | 85 | 復讐者。19歳。スタイル:古流武術「朗獅流」。 |
多嶋 | 男 | 99 | 応対者。31歳。総合格闘家。スタイル:極真空手、テコンドー、シュートボクシング、他。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:ヒュー、ヒュー、と、断末魔の息。
最期の声:「そう……、ヒ、ヒルコ橋のよ……、裏の、路地の、中にある、店でよ……、
最期の声:じゅ、十字路の角、曲がったら……、緑の、光ってる看板で、すぐわかる……。
最期の声:試合の後はソコで、よく、飲んでるって……、前に、……今も……、あァ、多分……。
最期の声:あァ、ホント、ホントに、それで全部……、
最期の声:なァ、おい、話したぜ、話したから、よ……、
最期の声:他の、奴には……、ア、アリサにも、ミリアにも……、マ……、マジで……、手ェ、出さないでくれよ……、
最期の声:頼む、頼むよ……、」
0:【間】
【モノローグ】(多嶋):この世の中には、「強い方のヤツ」と「弱い方のヤツ」、2種類しか居なくて。
【モノローグ】(多嶋):自分はどっちかと言えば、「強い方のヤツ」だ、って。
【モノローグ】(多嶋):ガキの頃から思ってたし、今もちょっとは、そう思ってる。
多嶋:マスター、いつもの……。
多嶋:ン? そうだよ、今日も試合の後。
多嶋:一応防衛戦勝ったんだぜ、あァ……。
多嶋:ヘヘ、ちょっとは興味持てって、常連なんだからよ……、
【モノローグ】(多嶋):試合の後、ゆるゆる考えながら飲む酒は美味い。
【モノローグ】(多嶋):ケンカで勝つだけが強さだとは思わねェけど、強い方が勝つのがケンカだとは思う。
【モノローグ】(多嶋):格闘技の試合なんて所詮はショーだが、なんて事はねェ、結局は全部ケンカだ。
【モノローグ】(多嶋):蹴って、殴って、
【モノローグ】(多嶋):蹴られて、殴られて。
【モノローグ】(多嶋):最後に立ってた方の勝ち。
【モノローグ】(多嶋):ガチでもヤラセでも関係無い。
【モノローグ】(多嶋):勝った方の勝ちだ。
【モノローグ】(多嶋):今も昔も、俺はそういうルールでしか生きられない。
【モノローグ】(多嶋):親父やお袋が望んだような生き方は到底無理だったし、したいとも思わなかった。
多嶋:感想……? 試合の?
多嶋:ねェなァ、特に。
多嶋:何回もやってる相手だし……、
多嶋:退屈、だったよ。
多嶋:客はきっちり沸かせて来たけどさ。
【モノローグ】(多嶋):田舎モンのグレたガキが都会に出りゃァ、そのまま都会の、グレた大人になるだけだ。
【モノローグ】(多嶋):我慢は苦手でもねェけど、しないで済むなら越したコトはねェ。
【モノローグ】(多嶋):群れて、つるんで、キレて殴って。
【モノローグ】(多嶋):この国で一番ケンカが強ェのは警察だから、当然捕まるが。
【モノローグ】(多嶋):だけど前科モンでもソコソコ稼げる仕事なんていくらでもある。
【モノローグ】(多嶋):ツテさえありゃ簡単にありつける、俺は昔から人懐っこかったからな。
多嶋:まァさァ、予定調和っつーの?
多嶋:イイもんだよ、退屈も。
多嶋:俺ってオットリしてる方だからさァ、こう見えて。
多嶋:へ、へへ、へ……。
【モノローグ】(多嶋):ドコの場所でもゴタゴタと、色んなトコで無茶やって来たけど。
【モノローグ】(多嶋):今の、汗臭いリングの上で、バクチ狂いの柄悪い連中や、ケバい水商売の女たちが、今日は勝ったの、昨日は負けたのと、泣いたり喚いたりしてんのを見るのは楽しい。
【モノローグ】(多嶋):退屈だけど、今は楽しい。
【モノローグ】(多嶋):俺は大人になったからな。
【モノローグ】(多嶋):ケンカにも、人生にも……、
【モノローグ】(多嶋):「勝ってる方」の、
【モノローグ】(多嶋):「強い方の大人」に。
0:【間】
【モノローグ】(ジュウ):ひもじい。
【モノローグ】(ジュウ):ひもじい。
【モノローグ】(ジュウ):腹減った。
【モノローグ】(ジュウ):喰っても喰っても喰い足りねェ。
【モノローグ】(ジュウ):何匹喰っても足りるワケがねェ。
【モノローグ】(ジュウ):胃袋に穴ァ空いてんだ、
【モノローグ】(ジュウ):コレじゃ大人になんかなれやしねェ。
:
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):季節の変わり目は頭痛くなってムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):ムカつき過ぎて誰でもイイからブチ殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):電車の吊り革がムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):俺みたいな腕長い奴には持ちにくいからムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):ドアの脇から動く気もねェ真ん中分けのイヤホンのクソ学生も、
【モノローグ】(ジュウ):疲れた顔して足開いて座ってやがるデカいホクロのオッサンも、
【モノローグ】(ジュウ):ベラベラペチャクチャずっと喋ってる二人連れの髪染めた女も、
【モノローグ】(ジュウ):孫かナンか知らねェがブサイクなガキ連れた痩せたババアも、
【モノローグ】(ジュウ):ゲームに夢中のネクタイの男も、
【モノローグ】(ジュウ):土方みてェな汚ねェ安全靴のオッサンも、
【モノローグ】(ジュウ):どいつもこいつもブチ殺したくて仕方ねェ。
:
【モノローグ】(ジュウ):スマホかざして改札抜けて、その横でダルそうに見てやがるウスノロそうな駅員だって殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):狭い駅ン中をモタモタ歩いてやがる年寄りも、ギャーギャー群れてウルセぇ学校帰りのガキ共も、ウゼぇカップルも杖ついてノロノロ歩きの障害者もベビーカーの女も殺してェ、急いでんだぞ俺は夕方だぞ人多いんだから俺みてェに早く歩けボケが、
【モノローグ】(ジュウ):俺はいつだって急いでんだぞクソ共が!!
:
【モノローグ】(ジュウ):殺す、殺す、
【モノローグ】(ジュウ):何も知らなきゃ殺す、
【モノローグ】(ジュウ):知ってたら聞いてから殺す。
【モノローグ】(ジュウ):前の奴とおんなじように殺す、
【モノローグ】(ジュウ):俺の自慢のメリケンサックでブン殴って殺す!
【モノローグ】(ジュウ):殺す!!
ジュウ:クッソが……っ!!
【モノローグ】(ジュウ):風も声も光も全部がウルセぇ。
【モノローグ】(ジュウ):着いたらスッカリ夜だった。
【モノローグ】(ジュウ):ネオンチカチカの繁華街に今から繰り出そうって奴らは全員ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):俺が用のねェ表通りを歩いてる奴ら、ニヤケ面のサラリーマンもゴキブリみてェなキャッチの黒服共も肩で風切って歩いてやがるヤクザも全員ムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):路地の裏から裏道へ、グネグネ曲がって歩き回って。
【モノローグ】(ジュウ):俺に道訊かれて答えなかった奴も、ヘラヘラ笑って「アシッド・ジグ」の場所教えやがった奴も両方殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):分かりにくい場所に店開けやがったアホも、よりによってこんなトコ溜り場にしてやがる「タジマ」って野郎もムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):殺すんだった、今から。
【モノローグ】(ジュウ):訊くコト訊いてから殺すんだった!
ジュウ:オイお前。
多嶋:ン……、
0:入店し、開口一番。
0:店内の気怠げな喧騒。
多嶋:何だ、ニイちゃん……、俺?
ジュウ:おォ……。
ジュウ:暗い店だなココ、
多嶋:すぐに慣れるよ。
多嶋:俺のファンか?
ジュウ:殺す。
0:水を打ったかの如き静寂。
多嶋:は?
ジュウ:死ね。
ジュウ:殺す。
ジュウ:から、外出ろ。
多嶋:……、
0:値踏みするようにニヤつき。
多嶋:何だお前、シャブ中か……?
多嶋:あー、マスター、このボウズにさァ、
ジュウ:(遮り)出ェろォやァアアアアアアっ!!!!
多嶋:うぉっ!? っと、おいっ!!
0:破砕。瓶やグラスが砕け散る音。
【モノローグ】(ジュウ):殺す。
【モノローグ】(ジュウ):殺す。
【モノローグ】(ジュウ):ブチ殺す。
【モノローグ】(ジュウ):さっさと外出ねェコイツも、カウンターの酒全部割れたぐらいで喚いてやがる店の奴もウルセぇ悲鳴あげてる商売女もみんな後で殺す!!
【モノローグ】(ジュウ):「外でやってくれ」だァ?
【モノローグ】(ジュウ):コッチは初めからそのツモリだボケカス!!!
ジュウ:(打撃)オらァ!!
多嶋:(防ぎ)うぉっ、
多嶋:っつ……っ!!
0:店外。事は既に始まっている。
ジュウ:ガードすんなクソ、殺すぞ……、
多嶋:いきなり道に引っ張り出して、殴りかかってくるとか……、
多嶋:お前マジで、
ジュウ:(遮り)「タジマ」か?
多嶋:あ??
ジュウ:その首んトコの刺青(いれずみ)。
ジュウ:「タジマ」って奴かお前?
ジュウ:「ガルガリンNEO」の、
多嶋:確信ねェのに殴って来たのか? お前、
ジュウ:答えろよ、殺す。
多嶋:日本語になってねェよ、さっきから……。
多嶋:そうだよ、俺は多嶋……、
ジュウ:(殴りかかり)
ジュウ:ゥおらっ!!
多嶋:(回避)くォっ!!
多嶋:ぐ……、
多嶋:(打撃)ィイ加減にしろやオラぁ!!
ジュウ:(喰らい)ぐォ……っ!!
ジュウ:な……っ、殴って来てんじゃねェ殺すぞ!!
多嶋:おめェだよ!!
多嶋:何なんだ、テメェ一体……、
ジュウ:「サトナカ」って奴に聞いたんだ。
ジュウ:お前のコト。
多嶋:あ……?
ジュウ:昔の仲間だ、って。
多嶋:「サトナカ」……!?
ジュウ:昔のツレで、今でも知ってンのは「タジマ」って奴だけだ、って。
ジュウ:気絶する前にハッキリ聞いた。
多嶋:……気絶……、
多嶋:ま、まさか……っ、
ジュウ:しらばっくれても無駄だからな言っとくケド、
多嶋:(遮り)お前が殺したのか!?
ジュウ:あ……?
0:静寂。
多嶋:……「郷中大(サトナカマサル)」は俺の、昔の……、
多嶋:前の団体ン時の、仲間(ツレ)だ。
多嶋:そんで……、
0:睨みつけ、
多嶋:5日前に、殺された。
ジュウ:……、
多嶋:路地で、倒れてんの、見つかって……、
多嶋:病院、運ばれた時には死んでた。
多嶋:誰かと、殴り合いやって……、
多嶋:ズタボロにやられて、伸びてる間に死んだ。
ジュウ:それ……、
多嶋:(遮り)お前か!?
多嶋:昔みてェに、ルール無用ってワケにゃァ行かなくても……、
多嶋:アイツだって俺とおんなじように現役で……、
多嶋:ケンカで、滅多なコトで、アイツが負けるワケがねェ。
多嶋:それを……、ギタギタにやって、しまいに死なせやがったのは、
ジュウ:俺だ。
多嶋:っ!!
ジュウ:そっか、まだ死んでなかったンかアレ……。
ジュウ:クソ弱かったぞ「サトナカ」、あんなんでよく地下のファイターやってられたなって、
多嶋:……っ!!
ジュウ:でェ。ボコしてから聞いたんだよ。
ジュウ:今でも繋がってて、居場所とかも知ってんのはお前だけだって、
多嶋:(遮り)フザケてンじゃねェぞゴラぁっっ!!!
ジュウ:(瞬時に昂り)フザケてねェよナンだお前コラ殺すぞゴラぁっっ!!!
多嶋:郷中殺しやがってコラぁっ!!!
多嶋:アイツ……っ、嫁居ンだぞお前、
多嶋:子供も……、
ジュウ:(遮り)知ったコトかボケぇ俺がよォっっ!!
ジュウ:殴り返せもしねェカスのゴミがガキ作ってよォがどーだろォがよォっ!!!
多嶋:誰がカスのゴミだテメェっ!!!
ジュウ:サトナカだよボケカスっ!!
ジュウ:うるせェんだよグダグダグチグチ!!
多嶋:……っ、お前……、
多嶋:サトナカにも……、こんな風にやったンか……?
ジュウ:あァ?
多嶋:路地で、カラんで、イキナリ殴りかかったンか、おい……、
ジュウ:チゲぇよカス殺すぞ、クソが。
ジュウ:ジムの帰りに声かけて殴ったらキレやがって、最終「俺に勝ったら何でも答えてやる」とかカマしやがったから「じゃァ」っつってボコしまくったら、
多嶋:(遮り)おんなじじゃねぇか今とよォ!!
多嶋:頭イカレてんのかテメェっ!!
ジュウ:イカれてねェよフザケんなボケぇっ!!!
ジュウ:訊いてんのはコッチだゴミカス!!
ジュウ:お前かァ!?
多嶋:あァ……!?
ジュウ:8年前のクリスマス。
ジュウ:「朗獅流(ろうしりゅう)」の道場で、師範のジジイとその息子夫婦を殺しやがったのは。
ジュウ:お前か?
多嶋:なっ……!?
0:一転。
0:驚愕、絶句。
多嶋:お……、お前っ、それ……、
ジュウ:サトナカは全然違ったワ。
ジュウ:死ぬほどボコしても言わなかったし……、
ジュウ:そもそもそんなデカくねェし。
ジュウ:何より弱すぎた。
多嶋:……、……っ!
ジュウ:あんなんに親父やジジイを殺せるワケねェ。
ジュウ:で、お前は?
多嶋:おっ、俺は、
ジュウ:ソコソコはデケぇよな、お前。
ジュウ:今んトコ、リーダーだったヤツの手掛かりってそんなモンなんだけど……、
多嶋:ちっ、違うっ!!
多嶋:俺はリーダーじゃねェ!!
ジュウ:俺「は」。へェ。
多嶋:……っ、
0:狼狽。脂汗が滲み。
多嶋:あ、あん時とか……、
多嶋:俺なんかまだガキ、若造の、下っ端みてェなモンで……っ、
ジュウ:知らねェよ、俺はソイツ見てねェから。
ジュウ:でェ、
多嶋:違う! 本当に、
ジュウ:(遮り)ジジイと親父殺してなくても。
ジュウ:母さんと姉貴 輪姦(マワ)したヤツらン中には居たんだよな?
ジュウ:お前。
多嶋:っ!!!
0:再びの絶句。
0:喧騒を遠く、裏路地の静寂。
多嶋:……っ、そ、
多嶋:……、いっ、いや……、
ジュウ:サトナカもおんなじよーにビックリしてたワ。
ジュウ:姉貴の事も輪姦(マワ)し殺したと思ってたか?
ジュウ:母さんとおんなじに。
多嶋:……っ、
多嶋:……、
多嶋:お、お前、は……、
ジュウ:俺は「獅童 充( シドウ ミチル)」。
ジュウ:お前らが殺した武道家の……、
ジュウ:孫で、息子だ。
多嶋:……っ!!
0:餓えたる獣の視線は応対者を逃さず。
0:徐ろに歩み寄る。
ジュウ:「充(ミチル)」の音読みで「充(ジュウ)」とか呼ばれるけど。
ジュウ:覚えなくてイイよ、
ジュウ:殺すから、お前。
多嶋:おっ、俺は違うっ!
多嶋:やってねェって、
ジュウ:(遮り)ガぁァァアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!
多嶋:う、ォおっ!?
0:瞬転、咆哮。殴打の嵐。
ジュウ:(打撃)シぃイっ!!
ジュウ:(打撃)死ねっ!!
ジュウ:(打撃)死ねっ!!
ジュウ:(打撃)死ねェっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐォっ、
多嶋:(喰らい)がっ、
多嶋:(喰らい)グぅっ、
多嶋:(喰らい)くァっ!!
ジュウ:しらばっくれてもっ!!
ジュウ:無駄だっつってンだろォが!!
ジュウ:(打撃)オラぁっ!!
多嶋:(喰らい)ぐぉオっ!!
多嶋:ま……、待て、
ジュウ:待つかよ、お前、なァ。
ジュウ:待つワケがねェだろォがよォーーー、
多嶋:……っ、はァ……っ、
多嶋:っ痛(つ)……、
ジュウ:サトナカよりは硬ェなァ、お前。
ジュウ:昔はガチの、リアルファイトで稼いでたんだろ、お前ら。
多嶋:……、稼いで、ねェよ……、
多嶋:あんなギャンブル、胴元のヤツらだけが、甘い汁……、
ジュウ:いンだよどーでも。
ジュウ:お前がリーダーじゃねェんだったら……、
多嶋:っ、お、落ち着け、おい……っ、
ジュウ:(殴りかかり)
ジュウ:仲間の居所教えやがれオラぁっ!!!
多嶋:(防ぎ)うゥっ!!
多嶋:な、仲間……っ!?
ジュウ:ガードすんなってだから!
ジュウ:決まってンだろ、サトナカがお前の事ウタったよーに……、
ジュウ:あン時一緒に居たヤツら、知ってるヤツの居場所と名前吐きやがれ。
ジュウ:(打撃)オラっ!!
多嶋:(喰らい)ぐァっ!!
多嶋:……っ、
ジュウ:オラ吐けコラぁっ!!
ジュウ:(打撃)とっととっ!!
ジュウ:(打撃)吐いて!!
ジュウ:(打撃)死にやがれっ!!
多嶋:(喰らい)ぉグっ!!
多嶋:(喰らい)ゴフっ! ゴハぁっっ!!
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):意識が遠のく。
【モノローグ】(多嶋):何だ……、
【モノローグ】(多嶋):何なんだ、コリャ。
【モノローグ】(多嶋):俺はただ、いつも通り八百長半分の試合を終えて……、
【モノローグ】(多嶋):いつもみてェに、打ち上げソコソコで抜け出して、行き付けの店で飲んでただけだ。
【モノローグ】(多嶋):ナンにも悪い事はやってねェ、
【モノローグ】(多嶋):ただ……、リングの上でケンカして、勝ったり、負けたりして……、
【モノローグ】(多嶋):居心地の悪くねェ退屈を、続けるだけの筈だった。
ジュウ:(打撃)シャラぁっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐ、ほァっ!!
【モノローグ】(多嶋):歳取って、体動かなくなった後の事はまだ考えてねェけど……、
【モノローグ】(多嶋):周りに居る、昔おんなじように無茶やってた年寄りや、オッサン連中だって……、
【モノローグ】(多嶋):足引きずったり手ェ不自由にしながら、ナンダカンダでソレナリのウマいポスト貰って、気楽に、やってんだから。
【モノローグ】(多嶋):俺だって、今の、このまんま……、
【モノローグ】(多嶋):……「死ぬヤツは早いウチに死んだだけ」?
【モノローグ】(多嶋):こんな風にか?
【モノローグ】(多嶋):こんな、くだらねェ、
【モノローグ】(多嶋):言われるまで思い出しもしなかった、昔のカラミで……、
【モノローグ】(多嶋):俺が、
【モノローグ】(多嶋):死ぬ?
【モノローグ】(多嶋):……郷中も、
ジュウ:(打撃)オラぁっ!!
ジュウ:(打撃)ぅラァっ!!!
多嶋:(喰らい)ごォっ!
多嶋:(喰らい)ガハっっ!!
ジュウ:黙ってりゃ黙ってるだけ殴られ損なんだぞテメェーー……。
ジュウ:(打撃)シャぁっ!!!!
多嶋:(喰らい)ぅグぉオ゙っ!!!
多嶋:……や……、やめろお前、け、警察……っ、
ジュウ:ドコの店も呼びゃしねェだろ、
ジュウ:売人の溜り場だもんなァ、
多嶋:……っ、
ジュウ:ケツモチのヤクザが来る前には済ましてェんだよ。
ジュウ:だから吐けゴラぁっっ!!!( 打撃)
多嶋:(喰らい)ゴハぁっ……っ!!!
【モノローグ】(多嶋):知ってやがったのか……っ。
【モノローグ】(多嶋):こいつガキのクセに、なんつー鋭い突きを打ちやがる。
【モノローグ】(多嶋):ヒザの関節から背中のバネ、身長からしちゃ長ェ腕の先まで全部をしならせて、普通の何倍もの威力で叩き込む。
【モノローグ】(多嶋):系統としちゃ確かに古武道の流れ、だが「あの夜」に死んだジジイやオッサンの型は……、
【モノローグ】(多嶋):こんなんだったか!!??
【モノローグ】(多嶋):覚えてねェよ、あん時はまだ若かったし……、
【モノローグ】(多嶋):覚える価値もねェぐらい、あんなくらいのコト、よく、あったから。
【モノローグ】(多嶋):普通そうだろ、
【モノローグ】(多嶋):誰でもそうだろ、
【モノローグ】(多嶋):ガキの、頃なんてよ……、
ジュウ:(打撃)シぃイイァアっ!!!
多嶋:(喰らい)グオぉっっ!!!
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):ガードも何もままならねェまま、イカれた突きをマトモに喰らって吹き飛んで。
【モノローグ】(多嶋):電柱の脇の、ゴミ捨て場ン中に突っ込んだ。
【モノローグ】(多嶋):辺りの看板は次々と電源が落ちてく。
【モノローグ】(多嶋):ここいらの店の、道でモメ事が起こった時の、セオリーだった。
多嶋:(吐血し)ご、ふっ……っ、
多嶋:あ、ぁ……っ、
【モノローグ】(多嶋):畜生。
【モノローグ】(多嶋):畜生。
【モノローグ】(多嶋):血ィ、吐いてやがる、俺。
【モノローグ】(多嶋):馬鹿じゃねェのかコイツ、
【モノローグ】(多嶋):グローブも付けねェで、全力で人の腹なんか殴ったら……、
【モノローグ】(多嶋):こうなるだろ、馬鹿か。
【モノローグ】(多嶋):アバラもイっちまってる気がする、
【モノローグ】(多嶋):前の団体の時から、十、何年ぶり……、
ジュウ:しぶてェな、オイ……。
ジュウ:んじゃァとっとと“コイツ”の出番だワ。
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):ボロいカーゴパンツのポケットから、金属製の、メリケンサック。
【モノローグ】(多嶋):見間違いようのねェ、鈍く光って、分厚く角張った……、
【モノローグ】(多嶋):マジモンの凶器。
【モノローグ】(多嶋):ガチの、マジで、イカれてやがるコイツ。
【モノローグ】(多嶋):そんなモン付けて殴ったら……、
【モノローグ】(多嶋):死んじまうだろ、
【モノローグ】(多嶋):誰が?
【モノローグ】(多嶋):誰が、
【モノローグ】(多嶋):俺が、
【モノローグ】(多嶋):郷中と、
【モノローグ】(多嶋):おんなじように……?
多嶋:(囁き)…………めてンじゃねェぞ……、
ジュウ:お、
多嶋:(よろめき、立ち上がりつつ)
多嶋:ナメてンじゃねェぞガキぃ……っ!!
0:応対者は荒く息を吐きつつ、深く構えを取る。
0:再びの、対峙。
多嶋:はァ……っ、はァ……っ!!
ジュウ:まだ構えれンのかよ……。
ジュウ:ベツにナメてはねェけど、
多嶋:郷中がやってたような、生ヌルいプロレスごっこと一緒にすンじゃねェぞ……。
多嶋:俺んトコはな……、今の時代じゃァ十分、ガチなんだよ……!
ジュウ:自分で言うコトかソレ……。
ジュウ:つーかゴタクはイイから、
多嶋:(遮り)鋭威(エイ)ィっっっ!!!
ジュウ:(回避)うオ゙ぉっ!?
0:気合い一閃、神速の縮地。
0:剃刀の如き蹴りを復讐者は飛び退き、躱す。
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):避けられた! 糞、糞っ!
【モノローグ】(多嶋):だが、今の上段蹴りは良かった! ガチ中のガチ、自分でも驚く程の!!
多嶋:(「息吹」と呼ばれる丹田呼吸法)
多嶋:しィーーーーーー………っ、
多嶋:こォーーーーーーー……っ、
【モノローグ】(多嶋):何だか不思議だ、空気の流れがゆっくりに感じる。
【モノローグ】(多嶋):アチコチ痛いハズなのに体が軽い、相手と自分の次の動きの「答え」が見える気がする。
【モノローグ】(多嶋):肌の表面がピリピリして、まるで、昔の……、
【モノローグ】(多嶋):ガキの時分の、黒帯、取った時みたいな、
【モノローグ】(多嶋):初めて師範に、褒められた時みたいな、
【モノローグ】(多嶋):濁りの無い、真っ直ぐな気ぶ
ジュウ:(遮り)テメェ何すンだビックリするだろォがクソカスこらァアアアアっ!!!!(打撃)
多嶋:(喰らい)ウぐォおっ!? ガハっっ!!!
ジュウ:(打撃)喰らえっ!! 喰らえっ!!
ジュウ:(打撃)オラ喰らえェっ!!
ジュウ:俺は殴られンのも反撃されンのも大嫌いなんだぞクソがァアアアアっっ!!!
多嶋:(余さず喰らい)
多嶋:……っ!! ……っ!!!
ジュウ:(連撃)大体ナンでお前ら揃いも揃ってよォっ!!!
ジュウ:リーダーどころか仲間の居場所もそんな知らねェんだよクソがコラぁアアアっ!!!
多嶋:(喰らい)……っ、……っ!!
ジュウ:まだお前で4人目だぞオラぁっっ!!(打撃)
ジュウ:たかが8年やそこらで疎遠になってンじゃねェぞ薄情モン共がコラぁっ!!!(打撃)
多嶋:(喰らい)ぅぐゲハぁっっ!!!
多嶋:(吐血)ご、はァ……っ!!
多嶋:……っ!
0:激情任せの乱打。
0:鉄拳の大車輪を全身に浴び、吹き飛んだ応対者は身をよじる。
多嶋:……っ、……、
多嶋:もう……っ、ヤメてくれ……っ!
多嶋:(吐血)げふっ……っ
ジュウ:(にじり寄り)
ジュウ:ヤメねェーーよ、バカか?
ジュウ:「ヤメろ」って言われてよォーー、
ジュウ:ヤメんのかお前は?
ジュウ:ヤメたンか? 「お前ら」は?
多嶋:ふ、復讐なんてくだらねェ……、
多嶋:お前……、そんな、ガキなのにそこまで強ェんだから……、
ジュウ:あァーーーーーー?
多嶋:ワカる、俺だって昔、極真やってたからワカるんだ……、
多嶋:その若さでソコまで鍛え上げて、マジで、並大抵の苦労じゃねェ……っ、
多嶋:俺なんか殺して……、復讐、したってよ……、
ジュウ:……、
多嶋:お前の、努力も、将来も……、
多嶋:マジで、全部が無駄に……、
ジュウ:知らねェよ。
ジュウ:俺は弱いモノ虐めがしてェだけだから。
多嶋:……っ!
0:復讐者の眼は据わり、噴火を待つ熔岩の如く滾り。
ジュウ:ムカつくンだよお前ら、
ジュウ:強ェからって好き放題しやがって。
ジュウ:強い方が何でも、思い通りにしてイイってンならよォーーーーー、
多嶋:く、来るな……っ、
ジュウ:俺はソレより強くなってブチ殺すだけだよなァーーーーーーー?
多嶋:糞っ、くそ……、
ジュウ:(打撃)オラぁっっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐゥっ、オ゙ぉっ……っ!!!
ジュウ:(絶え間無き連撃)
ジュウ:オラ吐けっ!!
ジュウ:オラっ!! オラぁっ!!
ジュウ:吐けってンだよオラっ!! ぅオラっ!!
ジュウ:吐けっ!! 吐いて死ねっ!!
ジュウ:一人も知らねェってコタねェだろ吐けっ!! オラっ!!
ジュウ:ボッチかテメェコラっ!! おいコラぁっ!!
ジュウ:スッキリ吐いて気持ち良くなってから死ねオラっ!!
ジュウ:オラ死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねェっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!!
ジュウ:死ィイねェエエエエっっっ!!!!
多嶋:……っ!! …………っっ!!
0:復讐者は馬乗りになり、一頻(ひとしき)り、鉄拳重打の豪雨。
0:応対者の肉が弾け、筋骨が砕ける。
多嶋:……っ!
多嶋:……っ、
多嶋:……、
多嶋:…………、
0:為す術無く。
0:最早、悶えも、呻きもせず。
多嶋:……、……、
0:復讐者は一旦、手を止め。
ジュウ:はァ……っ、はァ……っ、
ジュウ:ちょ……、ちょい休憩……、
ジュウ:ポカリ飲むワ。
0:路地の隅に投げ出した帆布製のロールバッグより、ペットボトルを取り出し。
0:喉を鳴らし、水分補給。
ジュウ:……っプは……。
ジュウ:ったく、まだまだ動くと暑ィな……。
多嶋:……、……、
ジュウ:イイ加減に吐けや、喉と口だけ外して殴ンのも楽じゃねェんだからよ……。
0:静寂。観察。
ジュウ:…………、
ジュウ:死んだ?
多嶋:……、
多嶋:…………、
多嶋:……生き、てるよ……、
0:虫の息。
0:復讐者は辟易し。
ジュウ:マジで頑丈だな無駄に……。付き合ってらンねーぞ、
ジュウ:ちょ、待てよ、1本飲み切ったら再開すっから……、
0:再度、グビグビと飲み下す。
0:灯りを落とした店々の屋内からは、微かに歓談の声が戻り。
多嶋:……、
多嶋:……、……、
多嶋:………………。
多嶋:……ポカリ派か。
ジュウ:ア?
ジュウ:おォ……、アクエリはナンか薄い気ィするしよ……、
多嶋:……、
多嶋:……、
多嶋:何も、見えねェ……。
ジュウ:そりゃそーだろ、眼ん玉なんかとっくに潰れてンだから。
多嶋:……、
多嶋:…………。
0:滋養と水分を飲み下す音が続く。
0:応対者の声は弱り、掠れ。
多嶋:……いくら、殴っても……、
多嶋:ナニも、言う気はねェぞ……。
多嶋:居場所……、何人かは、知ってるけどよ……。
ジュウ:死んでもか?
多嶋:死んだら……、言えねェし……、
多嶋:どうせ、殺すんだろ。
ジュウ:あ、そっか。
ジュウ:え、なんか根本的にダメなンかなコレ……、
多嶋:……、
多嶋:だけど……。
多嶋:……死んでも、言わねェ。
ジュウ:…………、
ジュウ:ナンで?
多嶋:……、……、
0:裏路地の静謐。
0:表通りの嬌声だけが微かに漂い来る。
ジュウ:どーせ死ぬのによ。
ジュウ:関係ナくねェか逆に。
多嶋:…………。
多嶋:へ、へ……、
多嶋:そりゃァ……、
多嶋:そりゃァ、よ……、
0:掠れた笑み。
多嶋:ココで吐かずに、死んだ方が、よ……、
0:四肢には既に力通わず。
0:縄をよじるが如くに、口の端を曲げ。
多嶋:「勝った」気がするから、だよ。
多嶋:ボウズ……。
ジュウ:…………、
0:復讐者の面差しには露ほどの兆しも無く。
0:暫し、沈黙。
ジュウ:……どー見たってお前の負けだろ。
ジュウ:殺すワ。
多嶋:久々に退屈しなかったよ、
ジュウ:(打撃)シャぁアっっっ!!!!!
0:渾身の正拳。
0:応対者は絶命し、
0:暗転。
:
0:【間】
【ナレーション】:応対者死亡報告。
【ナレーション】:「多嶋 晃成(タジマ コウセイ)」31歳、牡牛座のB型。
【ナレーション】:マイナー格闘技団体「ガルガリンNEO」所属の総合格闘家。確かな実力と燻(いぶ)し銀のパフォーマンスでコアなファンを持つ、当該団体の看板選手の一人。
【ナレーション】:団体の前身であり、暴力団の下部組織として非合法ギャンブルを行う地下格闘技リーグ「ガルガリン」に所属していた時代には、「ジャックナイフ」のリングネームにて、同じく花形選手の「スレッジハンマー」と並び一部界隈を沸かすスターであった。
【ナレーション】:主宰者の検挙によりリーグが解体された後は、合法・非合法を問わず様々な職を転々。出所した主宰者が新たに立ち上げた「ガルガリンNEO」に戻るまでの間、傷害・暴行・脅喝・強姦等の罪により4度の立件・逮捕。
【ナレーション】:学生時代より修める極真空手の他、テコンドー、シュートボクシング等を組み合わせた変幻自在のファイトスタイルを持つが、飲酒による酩酊と、復讐者の剣幕に圧(お)され実力を発揮する事なく敗北。
【ナレーション】:黎和(れいわ)2年11月20日、全身複雑骨折および内臓破裂複数、頭蓋骨粉砕による脳挫滅(のうざめつ)等により、死亡・殺害。
0:【終】
0:ヒュー、ヒュー、と、断末魔の息。
最期の声:「そう……、ヒ、ヒルコ橋のよ……、裏の、路地の、中にある、店でよ……、
最期の声:じゅ、十字路の角、曲がったら……、緑の、光ってる看板で、すぐわかる……。
最期の声:試合の後はソコで、よく、飲んでるって……、前に、……今も……、あァ、多分……。
最期の声:あァ、ホント、ホントに、それで全部……、
最期の声:なァ、おい、話したぜ、話したから、よ……、
最期の声:他の、奴には……、ア、アリサにも、ミリアにも……、マ……、マジで……、手ェ、出さないでくれよ……、
最期の声:頼む、頼むよ……、」
0:【間】
【モノローグ】(多嶋):この世の中には、「強い方のヤツ」と「弱い方のヤツ」、2種類しか居なくて。
【モノローグ】(多嶋):自分はどっちかと言えば、「強い方のヤツ」だ、って。
【モノローグ】(多嶋):ガキの頃から思ってたし、今もちょっとは、そう思ってる。
多嶋:マスター、いつもの……。
多嶋:ン? そうだよ、今日も試合の後。
多嶋:一応防衛戦勝ったんだぜ、あァ……。
多嶋:ヘヘ、ちょっとは興味持てって、常連なんだからよ……、
【モノローグ】(多嶋):試合の後、ゆるゆる考えながら飲む酒は美味い。
【モノローグ】(多嶋):ケンカで勝つだけが強さだとは思わねェけど、強い方が勝つのがケンカだとは思う。
【モノローグ】(多嶋):格闘技の試合なんて所詮はショーだが、なんて事はねェ、結局は全部ケンカだ。
【モノローグ】(多嶋):蹴って、殴って、
【モノローグ】(多嶋):蹴られて、殴られて。
【モノローグ】(多嶋):最後に立ってた方の勝ち。
【モノローグ】(多嶋):ガチでもヤラセでも関係無い。
【モノローグ】(多嶋):勝った方の勝ちだ。
【モノローグ】(多嶋):今も昔も、俺はそういうルールでしか生きられない。
【モノローグ】(多嶋):親父やお袋が望んだような生き方は到底無理だったし、したいとも思わなかった。
多嶋:感想……? 試合の?
多嶋:ねェなァ、特に。
多嶋:何回もやってる相手だし……、
多嶋:退屈、だったよ。
多嶋:客はきっちり沸かせて来たけどさ。
【モノローグ】(多嶋):田舎モンのグレたガキが都会に出りゃァ、そのまま都会の、グレた大人になるだけだ。
【モノローグ】(多嶋):我慢は苦手でもねェけど、しないで済むなら越したコトはねェ。
【モノローグ】(多嶋):群れて、つるんで、キレて殴って。
【モノローグ】(多嶋):この国で一番ケンカが強ェのは警察だから、当然捕まるが。
【モノローグ】(多嶋):だけど前科モンでもソコソコ稼げる仕事なんていくらでもある。
【モノローグ】(多嶋):ツテさえありゃ簡単にありつける、俺は昔から人懐っこかったからな。
多嶋:まァさァ、予定調和っつーの?
多嶋:イイもんだよ、退屈も。
多嶋:俺ってオットリしてる方だからさァ、こう見えて。
多嶋:へ、へへ、へ……。
【モノローグ】(多嶋):ドコの場所でもゴタゴタと、色んなトコで無茶やって来たけど。
【モノローグ】(多嶋):今の、汗臭いリングの上で、バクチ狂いの柄悪い連中や、ケバい水商売の女たちが、今日は勝ったの、昨日は負けたのと、泣いたり喚いたりしてんのを見るのは楽しい。
【モノローグ】(多嶋):退屈だけど、今は楽しい。
【モノローグ】(多嶋):俺は大人になったからな。
【モノローグ】(多嶋):ケンカにも、人生にも……、
【モノローグ】(多嶋):「勝ってる方」の、
【モノローグ】(多嶋):「強い方の大人」に。
0:【間】
【モノローグ】(ジュウ):ひもじい。
【モノローグ】(ジュウ):ひもじい。
【モノローグ】(ジュウ):腹減った。
【モノローグ】(ジュウ):喰っても喰っても喰い足りねェ。
【モノローグ】(ジュウ):何匹喰っても足りるワケがねェ。
【モノローグ】(ジュウ):胃袋に穴ァ空いてんだ、
【モノローグ】(ジュウ):コレじゃ大人になんかなれやしねェ。
:
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):季節の変わり目は頭痛くなってムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):ムカつき過ぎて誰でもイイからブチ殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):電車の吊り革がムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):俺みたいな腕長い奴には持ちにくいからムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつく、
【モノローグ】(ジュウ):ムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):ドアの脇から動く気もねェ真ん中分けのイヤホンのクソ学生も、
【モノローグ】(ジュウ):疲れた顔して足開いて座ってやがるデカいホクロのオッサンも、
【モノローグ】(ジュウ):ベラベラペチャクチャずっと喋ってる二人連れの髪染めた女も、
【モノローグ】(ジュウ):孫かナンか知らねェがブサイクなガキ連れた痩せたババアも、
【モノローグ】(ジュウ):ゲームに夢中のネクタイの男も、
【モノローグ】(ジュウ):土方みてェな汚ねェ安全靴のオッサンも、
【モノローグ】(ジュウ):どいつもこいつもブチ殺したくて仕方ねェ。
:
【モノローグ】(ジュウ):スマホかざして改札抜けて、その横でダルそうに見てやがるウスノロそうな駅員だって殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):狭い駅ン中をモタモタ歩いてやがる年寄りも、ギャーギャー群れてウルセぇ学校帰りのガキ共も、ウゼぇカップルも杖ついてノロノロ歩きの障害者もベビーカーの女も殺してェ、急いでんだぞ俺は夕方だぞ人多いんだから俺みてェに早く歩けボケが、
【モノローグ】(ジュウ):俺はいつだって急いでんだぞクソ共が!!
:
【モノローグ】(ジュウ):殺す、殺す、
【モノローグ】(ジュウ):何も知らなきゃ殺す、
【モノローグ】(ジュウ):知ってたら聞いてから殺す。
【モノローグ】(ジュウ):前の奴とおんなじように殺す、
【モノローグ】(ジュウ):俺の自慢のメリケンサックでブン殴って殺す!
【モノローグ】(ジュウ):殺す!!
ジュウ:クッソが……っ!!
【モノローグ】(ジュウ):風も声も光も全部がウルセぇ。
【モノローグ】(ジュウ):着いたらスッカリ夜だった。
【モノローグ】(ジュウ):ネオンチカチカの繁華街に今から繰り出そうって奴らは全員ムカつく。
【モノローグ】(ジュウ):俺が用のねェ表通りを歩いてる奴ら、ニヤケ面のサラリーマンもゴキブリみてェなキャッチの黒服共も肩で風切って歩いてやがるヤクザも全員ムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):路地の裏から裏道へ、グネグネ曲がって歩き回って。
【モノローグ】(ジュウ):俺に道訊かれて答えなかった奴も、ヘラヘラ笑って「アシッド・ジグ」の場所教えやがった奴も両方殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):分かりにくい場所に店開けやがったアホも、よりによってこんなトコ溜り場にしてやがる「タジマ」って野郎もムカつくから殺してェ。
【モノローグ】(ジュウ):殺すんだった、今から。
【モノローグ】(ジュウ):訊くコト訊いてから殺すんだった!
ジュウ:オイお前。
多嶋:ン……、
0:入店し、開口一番。
0:店内の気怠げな喧騒。
多嶋:何だ、ニイちゃん……、俺?
ジュウ:おォ……。
ジュウ:暗い店だなココ、
多嶋:すぐに慣れるよ。
多嶋:俺のファンか?
ジュウ:殺す。
0:水を打ったかの如き静寂。
多嶋:は?
ジュウ:死ね。
ジュウ:殺す。
ジュウ:から、外出ろ。
多嶋:……、
0:値踏みするようにニヤつき。
多嶋:何だお前、シャブ中か……?
多嶋:あー、マスター、このボウズにさァ、
ジュウ:(遮り)出ェろォやァアアアアアアっ!!!!
多嶋:うぉっ!? っと、おいっ!!
0:破砕。瓶やグラスが砕け散る音。
【モノローグ】(ジュウ):殺す。
【モノローグ】(ジュウ):殺す。
【モノローグ】(ジュウ):ブチ殺す。
【モノローグ】(ジュウ):さっさと外出ねェコイツも、カウンターの酒全部割れたぐらいで喚いてやがる店の奴もウルセぇ悲鳴あげてる商売女もみんな後で殺す!!
【モノローグ】(ジュウ):「外でやってくれ」だァ?
【モノローグ】(ジュウ):コッチは初めからそのツモリだボケカス!!!
ジュウ:(打撃)オらァ!!
多嶋:(防ぎ)うぉっ、
多嶋:っつ……っ!!
0:店外。事は既に始まっている。
ジュウ:ガードすんなクソ、殺すぞ……、
多嶋:いきなり道に引っ張り出して、殴りかかってくるとか……、
多嶋:お前マジで、
ジュウ:(遮り)「タジマ」か?
多嶋:あ??
ジュウ:その首んトコの刺青(いれずみ)。
ジュウ:「タジマ」って奴かお前?
ジュウ:「ガルガリンNEO」の、
多嶋:確信ねェのに殴って来たのか? お前、
ジュウ:答えろよ、殺す。
多嶋:日本語になってねェよ、さっきから……。
多嶋:そうだよ、俺は多嶋……、
ジュウ:(殴りかかり)
ジュウ:ゥおらっ!!
多嶋:(回避)くォっ!!
多嶋:ぐ……、
多嶋:(打撃)ィイ加減にしろやオラぁ!!
ジュウ:(喰らい)ぐォ……っ!!
ジュウ:な……っ、殴って来てんじゃねェ殺すぞ!!
多嶋:おめェだよ!!
多嶋:何なんだ、テメェ一体……、
ジュウ:「サトナカ」って奴に聞いたんだ。
ジュウ:お前のコト。
多嶋:あ……?
ジュウ:昔の仲間だ、って。
多嶋:「サトナカ」……!?
ジュウ:昔のツレで、今でも知ってンのは「タジマ」って奴だけだ、って。
ジュウ:気絶する前にハッキリ聞いた。
多嶋:……気絶……、
多嶋:ま、まさか……っ、
ジュウ:しらばっくれても無駄だからな言っとくケド、
多嶋:(遮り)お前が殺したのか!?
ジュウ:あ……?
0:静寂。
多嶋:……「郷中大(サトナカマサル)」は俺の、昔の……、
多嶋:前の団体ン時の、仲間(ツレ)だ。
多嶋:そんで……、
0:睨みつけ、
多嶋:5日前に、殺された。
ジュウ:……、
多嶋:路地で、倒れてんの、見つかって……、
多嶋:病院、運ばれた時には死んでた。
多嶋:誰かと、殴り合いやって……、
多嶋:ズタボロにやられて、伸びてる間に死んだ。
ジュウ:それ……、
多嶋:(遮り)お前か!?
多嶋:昔みてェに、ルール無用ってワケにゃァ行かなくても……、
多嶋:アイツだって俺とおんなじように現役で……、
多嶋:ケンカで、滅多なコトで、アイツが負けるワケがねェ。
多嶋:それを……、ギタギタにやって、しまいに死なせやがったのは、
ジュウ:俺だ。
多嶋:っ!!
ジュウ:そっか、まだ死んでなかったンかアレ……。
ジュウ:クソ弱かったぞ「サトナカ」、あんなんでよく地下のファイターやってられたなって、
多嶋:……っ!!
ジュウ:でェ。ボコしてから聞いたんだよ。
ジュウ:今でも繋がってて、居場所とかも知ってんのはお前だけだって、
多嶋:(遮り)フザケてンじゃねェぞゴラぁっっ!!!
ジュウ:(瞬時に昂り)フザケてねェよナンだお前コラ殺すぞゴラぁっっ!!!
多嶋:郷中殺しやがってコラぁっ!!!
多嶋:アイツ……っ、嫁居ンだぞお前、
多嶋:子供も……、
ジュウ:(遮り)知ったコトかボケぇ俺がよォっっ!!
ジュウ:殴り返せもしねェカスのゴミがガキ作ってよォがどーだろォがよォっ!!!
多嶋:誰がカスのゴミだテメェっ!!!
ジュウ:サトナカだよボケカスっ!!
ジュウ:うるせェんだよグダグダグチグチ!!
多嶋:……っ、お前……、
多嶋:サトナカにも……、こんな風にやったンか……?
ジュウ:あァ?
多嶋:路地で、カラんで、イキナリ殴りかかったンか、おい……、
ジュウ:チゲぇよカス殺すぞ、クソが。
ジュウ:ジムの帰りに声かけて殴ったらキレやがって、最終「俺に勝ったら何でも答えてやる」とかカマしやがったから「じゃァ」っつってボコしまくったら、
多嶋:(遮り)おんなじじゃねぇか今とよォ!!
多嶋:頭イカレてんのかテメェっ!!
ジュウ:イカれてねェよフザケんなボケぇっ!!!
ジュウ:訊いてんのはコッチだゴミカス!!
ジュウ:お前かァ!?
多嶋:あァ……!?
ジュウ:8年前のクリスマス。
ジュウ:「朗獅流(ろうしりゅう)」の道場で、師範のジジイとその息子夫婦を殺しやがったのは。
ジュウ:お前か?
多嶋:なっ……!?
0:一転。
0:驚愕、絶句。
多嶋:お……、お前っ、それ……、
ジュウ:サトナカは全然違ったワ。
ジュウ:死ぬほどボコしても言わなかったし……、
ジュウ:そもそもそんなデカくねェし。
ジュウ:何より弱すぎた。
多嶋:……、……っ!
ジュウ:あんなんに親父やジジイを殺せるワケねェ。
ジュウ:で、お前は?
多嶋:おっ、俺は、
ジュウ:ソコソコはデケぇよな、お前。
ジュウ:今んトコ、リーダーだったヤツの手掛かりってそんなモンなんだけど……、
多嶋:ちっ、違うっ!!
多嶋:俺はリーダーじゃねェ!!
ジュウ:俺「は」。へェ。
多嶋:……っ、
0:狼狽。脂汗が滲み。
多嶋:あ、あん時とか……、
多嶋:俺なんかまだガキ、若造の、下っ端みてェなモンで……っ、
ジュウ:知らねェよ、俺はソイツ見てねェから。
ジュウ:でェ、
多嶋:違う! 本当に、
ジュウ:(遮り)ジジイと親父殺してなくても。
ジュウ:母さんと姉貴 輪姦(マワ)したヤツらン中には居たんだよな?
ジュウ:お前。
多嶋:っ!!!
0:再びの絶句。
0:喧騒を遠く、裏路地の静寂。
多嶋:……っ、そ、
多嶋:……、いっ、いや……、
ジュウ:サトナカもおんなじよーにビックリしてたワ。
ジュウ:姉貴の事も輪姦(マワ)し殺したと思ってたか?
ジュウ:母さんとおんなじに。
多嶋:……っ、
多嶋:……、
多嶋:お、お前、は……、
ジュウ:俺は「獅童 充( シドウ ミチル)」。
ジュウ:お前らが殺した武道家の……、
ジュウ:孫で、息子だ。
多嶋:……っ!!
0:餓えたる獣の視線は応対者を逃さず。
0:徐ろに歩み寄る。
ジュウ:「充(ミチル)」の音読みで「充(ジュウ)」とか呼ばれるけど。
ジュウ:覚えなくてイイよ、
ジュウ:殺すから、お前。
多嶋:おっ、俺は違うっ!
多嶋:やってねェって、
ジュウ:(遮り)ガぁァァアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!
多嶋:う、ォおっ!?
0:瞬転、咆哮。殴打の嵐。
ジュウ:(打撃)シぃイっ!!
ジュウ:(打撃)死ねっ!!
ジュウ:(打撃)死ねっ!!
ジュウ:(打撃)死ねェっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐォっ、
多嶋:(喰らい)がっ、
多嶋:(喰らい)グぅっ、
多嶋:(喰らい)くァっ!!
ジュウ:しらばっくれてもっ!!
ジュウ:無駄だっつってンだろォが!!
ジュウ:(打撃)オラぁっ!!
多嶋:(喰らい)ぐぉオっ!!
多嶋:ま……、待て、
ジュウ:待つかよ、お前、なァ。
ジュウ:待つワケがねェだろォがよォーーー、
多嶋:……っ、はァ……っ、
多嶋:っ痛(つ)……、
ジュウ:サトナカよりは硬ェなァ、お前。
ジュウ:昔はガチの、リアルファイトで稼いでたんだろ、お前ら。
多嶋:……、稼いで、ねェよ……、
多嶋:あんなギャンブル、胴元のヤツらだけが、甘い汁……、
ジュウ:いンだよどーでも。
ジュウ:お前がリーダーじゃねェんだったら……、
多嶋:っ、お、落ち着け、おい……っ、
ジュウ:(殴りかかり)
ジュウ:仲間の居所教えやがれオラぁっ!!!
多嶋:(防ぎ)うゥっ!!
多嶋:な、仲間……っ!?
ジュウ:ガードすんなってだから!
ジュウ:決まってンだろ、サトナカがお前の事ウタったよーに……、
ジュウ:あン時一緒に居たヤツら、知ってるヤツの居場所と名前吐きやがれ。
ジュウ:(打撃)オラっ!!
多嶋:(喰らい)ぐァっ!!
多嶋:……っ、
ジュウ:オラ吐けコラぁっ!!
ジュウ:(打撃)とっととっ!!
ジュウ:(打撃)吐いて!!
ジュウ:(打撃)死にやがれっ!!
多嶋:(喰らい)ぉグっ!!
多嶋:(喰らい)ゴフっ! ゴハぁっっ!!
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):意識が遠のく。
【モノローグ】(多嶋):何だ……、
【モノローグ】(多嶋):何なんだ、コリャ。
【モノローグ】(多嶋):俺はただ、いつも通り八百長半分の試合を終えて……、
【モノローグ】(多嶋):いつもみてェに、打ち上げソコソコで抜け出して、行き付けの店で飲んでただけだ。
【モノローグ】(多嶋):ナンにも悪い事はやってねェ、
【モノローグ】(多嶋):ただ……、リングの上でケンカして、勝ったり、負けたりして……、
【モノローグ】(多嶋):居心地の悪くねェ退屈を、続けるだけの筈だった。
ジュウ:(打撃)シャラぁっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐ、ほァっ!!
【モノローグ】(多嶋):歳取って、体動かなくなった後の事はまだ考えてねェけど……、
【モノローグ】(多嶋):周りに居る、昔おんなじように無茶やってた年寄りや、オッサン連中だって……、
【モノローグ】(多嶋):足引きずったり手ェ不自由にしながら、ナンダカンダでソレナリのウマいポスト貰って、気楽に、やってんだから。
【モノローグ】(多嶋):俺だって、今の、このまんま……、
【モノローグ】(多嶋):……「死ぬヤツは早いウチに死んだだけ」?
【モノローグ】(多嶋):こんな風にか?
【モノローグ】(多嶋):こんな、くだらねェ、
【モノローグ】(多嶋):言われるまで思い出しもしなかった、昔のカラミで……、
【モノローグ】(多嶋):俺が、
【モノローグ】(多嶋):死ぬ?
【モノローグ】(多嶋):……郷中も、
ジュウ:(打撃)オラぁっ!!
ジュウ:(打撃)ぅラァっ!!!
多嶋:(喰らい)ごォっ!
多嶋:(喰らい)ガハっっ!!
ジュウ:黙ってりゃ黙ってるだけ殴られ損なんだぞテメェーー……。
ジュウ:(打撃)シャぁっ!!!!
多嶋:(喰らい)ぅグぉオ゙っ!!!
多嶋:……や……、やめろお前、け、警察……っ、
ジュウ:ドコの店も呼びゃしねェだろ、
ジュウ:売人の溜り場だもんなァ、
多嶋:……っ、
ジュウ:ケツモチのヤクザが来る前には済ましてェんだよ。
ジュウ:だから吐けゴラぁっっ!!!( 打撃)
多嶋:(喰らい)ゴハぁっ……っ!!!
【モノローグ】(多嶋):知ってやがったのか……っ。
【モノローグ】(多嶋):こいつガキのクセに、なんつー鋭い突きを打ちやがる。
【モノローグ】(多嶋):ヒザの関節から背中のバネ、身長からしちゃ長ェ腕の先まで全部をしならせて、普通の何倍もの威力で叩き込む。
【モノローグ】(多嶋):系統としちゃ確かに古武道の流れ、だが「あの夜」に死んだジジイやオッサンの型は……、
【モノローグ】(多嶋):こんなんだったか!!??
【モノローグ】(多嶋):覚えてねェよ、あん時はまだ若かったし……、
【モノローグ】(多嶋):覚える価値もねェぐらい、あんなくらいのコト、よく、あったから。
【モノローグ】(多嶋):普通そうだろ、
【モノローグ】(多嶋):誰でもそうだろ、
【モノローグ】(多嶋):ガキの、頃なんてよ……、
ジュウ:(打撃)シぃイイァアっ!!!
多嶋:(喰らい)グオぉっっ!!!
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):ガードも何もままならねェまま、イカれた突きをマトモに喰らって吹き飛んで。
【モノローグ】(多嶋):電柱の脇の、ゴミ捨て場ン中に突っ込んだ。
【モノローグ】(多嶋):辺りの看板は次々と電源が落ちてく。
【モノローグ】(多嶋):ここいらの店の、道でモメ事が起こった時の、セオリーだった。
多嶋:(吐血し)ご、ふっ……っ、
多嶋:あ、ぁ……っ、
【モノローグ】(多嶋):畜生。
【モノローグ】(多嶋):畜生。
【モノローグ】(多嶋):血ィ、吐いてやがる、俺。
【モノローグ】(多嶋):馬鹿じゃねェのかコイツ、
【モノローグ】(多嶋):グローブも付けねェで、全力で人の腹なんか殴ったら……、
【モノローグ】(多嶋):こうなるだろ、馬鹿か。
【モノローグ】(多嶋):アバラもイっちまってる気がする、
【モノローグ】(多嶋):前の団体の時から、十、何年ぶり……、
ジュウ:しぶてェな、オイ……。
ジュウ:んじゃァとっとと“コイツ”の出番だワ。
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):ボロいカーゴパンツのポケットから、金属製の、メリケンサック。
【モノローグ】(多嶋):見間違いようのねェ、鈍く光って、分厚く角張った……、
【モノローグ】(多嶋):マジモンの凶器。
【モノローグ】(多嶋):ガチの、マジで、イカれてやがるコイツ。
【モノローグ】(多嶋):そんなモン付けて殴ったら……、
【モノローグ】(多嶋):死んじまうだろ、
【モノローグ】(多嶋):誰が?
【モノローグ】(多嶋):誰が、
【モノローグ】(多嶋):俺が、
【モノローグ】(多嶋):郷中と、
【モノローグ】(多嶋):おんなじように……?
多嶋:(囁き)…………めてンじゃねェぞ……、
ジュウ:お、
多嶋:(よろめき、立ち上がりつつ)
多嶋:ナメてンじゃねェぞガキぃ……っ!!
0:応対者は荒く息を吐きつつ、深く構えを取る。
0:再びの、対峙。
多嶋:はァ……っ、はァ……っ!!
ジュウ:まだ構えれンのかよ……。
ジュウ:ベツにナメてはねェけど、
多嶋:郷中がやってたような、生ヌルいプロレスごっこと一緒にすンじゃねェぞ……。
多嶋:俺んトコはな……、今の時代じゃァ十分、ガチなんだよ……!
ジュウ:自分で言うコトかソレ……。
ジュウ:つーかゴタクはイイから、
多嶋:(遮り)鋭威(エイ)ィっっっ!!!
ジュウ:(回避)うオ゙ぉっ!?
0:気合い一閃、神速の縮地。
0:剃刀の如き蹴りを復讐者は飛び退き、躱す。
多嶋:……っ!!
【モノローグ】(多嶋):避けられた! 糞、糞っ!
【モノローグ】(多嶋):だが、今の上段蹴りは良かった! ガチ中のガチ、自分でも驚く程の!!
多嶋:(「息吹」と呼ばれる丹田呼吸法)
多嶋:しィーーーーーー………っ、
多嶋:こォーーーーーーー……っ、
【モノローグ】(多嶋):何だか不思議だ、空気の流れがゆっくりに感じる。
【モノローグ】(多嶋):アチコチ痛いハズなのに体が軽い、相手と自分の次の動きの「答え」が見える気がする。
【モノローグ】(多嶋):肌の表面がピリピリして、まるで、昔の……、
【モノローグ】(多嶋):ガキの時分の、黒帯、取った時みたいな、
【モノローグ】(多嶋):初めて師範に、褒められた時みたいな、
【モノローグ】(多嶋):濁りの無い、真っ直ぐな気ぶ
ジュウ:(遮り)テメェ何すンだビックリするだろォがクソカスこらァアアアアっ!!!!(打撃)
多嶋:(喰らい)ウぐォおっ!? ガハっっ!!!
ジュウ:(打撃)喰らえっ!! 喰らえっ!!
ジュウ:(打撃)オラ喰らえェっ!!
ジュウ:俺は殴られンのも反撃されンのも大嫌いなんだぞクソがァアアアアっっ!!!
多嶋:(余さず喰らい)
多嶋:……っ!! ……っ!!!
ジュウ:(連撃)大体ナンでお前ら揃いも揃ってよォっ!!!
ジュウ:リーダーどころか仲間の居場所もそんな知らねェんだよクソがコラぁアアアっ!!!
多嶋:(喰らい)……っ、……っ!!
ジュウ:まだお前で4人目だぞオラぁっっ!!(打撃)
ジュウ:たかが8年やそこらで疎遠になってンじゃねェぞ薄情モン共がコラぁっ!!!(打撃)
多嶋:(喰らい)ぅぐゲハぁっっ!!!
多嶋:(吐血)ご、はァ……っ!!
多嶋:……っ!
0:激情任せの乱打。
0:鉄拳の大車輪を全身に浴び、吹き飛んだ応対者は身をよじる。
多嶋:……っ、……、
多嶋:もう……っ、ヤメてくれ……っ!
多嶋:(吐血)げふっ……っ
ジュウ:(にじり寄り)
ジュウ:ヤメねェーーよ、バカか?
ジュウ:「ヤメろ」って言われてよォーー、
ジュウ:ヤメんのかお前は?
ジュウ:ヤメたンか? 「お前ら」は?
多嶋:ふ、復讐なんてくだらねェ……、
多嶋:お前……、そんな、ガキなのにそこまで強ェんだから……、
ジュウ:あァーーーーーー?
多嶋:ワカる、俺だって昔、極真やってたからワカるんだ……、
多嶋:その若さでソコまで鍛え上げて、マジで、並大抵の苦労じゃねェ……っ、
多嶋:俺なんか殺して……、復讐、したってよ……、
ジュウ:……、
多嶋:お前の、努力も、将来も……、
多嶋:マジで、全部が無駄に……、
ジュウ:知らねェよ。
ジュウ:俺は弱いモノ虐めがしてェだけだから。
多嶋:……っ!
0:復讐者の眼は据わり、噴火を待つ熔岩の如く滾り。
ジュウ:ムカつくンだよお前ら、
ジュウ:強ェからって好き放題しやがって。
ジュウ:強い方が何でも、思い通りにしてイイってンならよォーーーーー、
多嶋:く、来るな……っ、
ジュウ:俺はソレより強くなってブチ殺すだけだよなァーーーーーーー?
多嶋:糞っ、くそ……、
ジュウ:(打撃)オラぁっっ!!!
多嶋:(喰らい)ぐゥっ、オ゙ぉっ……っ!!!
ジュウ:(絶え間無き連撃)
ジュウ:オラ吐けっ!!
ジュウ:オラっ!! オラぁっ!!
ジュウ:吐けってンだよオラっ!! ぅオラっ!!
ジュウ:吐けっ!! 吐いて死ねっ!!
ジュウ:一人も知らねェってコタねェだろ吐けっ!! オラっ!!
ジュウ:ボッチかテメェコラっ!! おいコラぁっ!!
ジュウ:スッキリ吐いて気持ち良くなってから死ねオラっ!!
ジュウ:オラ死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねェっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!
ジュウ:死ね!! 死ねっ!!
ジュウ:死ねっ!! 死ねっ!!!
ジュウ:死ィイねェエエエエっっっ!!!!
多嶋:……っ!! …………っっ!!
0:復讐者は馬乗りになり、一頻(ひとしき)り、鉄拳重打の豪雨。
0:応対者の肉が弾け、筋骨が砕ける。
多嶋:……っ!
多嶋:……っ、
多嶋:……、
多嶋:…………、
0:為す術無く。
0:最早、悶えも、呻きもせず。
多嶋:……、……、
0:復讐者は一旦、手を止め。
ジュウ:はァ……っ、はァ……っ、
ジュウ:ちょ……、ちょい休憩……、
ジュウ:ポカリ飲むワ。
0:路地の隅に投げ出した帆布製のロールバッグより、ペットボトルを取り出し。
0:喉を鳴らし、水分補給。
ジュウ:……っプは……。
ジュウ:ったく、まだまだ動くと暑ィな……。
多嶋:……、……、
ジュウ:イイ加減に吐けや、喉と口だけ外して殴ンのも楽じゃねェんだからよ……。
0:静寂。観察。
ジュウ:…………、
ジュウ:死んだ?
多嶋:……、
多嶋:…………、
多嶋:……生き、てるよ……、
0:虫の息。
0:復讐者は辟易し。
ジュウ:マジで頑丈だな無駄に……。付き合ってらンねーぞ、
ジュウ:ちょ、待てよ、1本飲み切ったら再開すっから……、
0:再度、グビグビと飲み下す。
0:灯りを落とした店々の屋内からは、微かに歓談の声が戻り。
多嶋:……、
多嶋:……、……、
多嶋:………………。
多嶋:……ポカリ派か。
ジュウ:ア?
ジュウ:おォ……、アクエリはナンか薄い気ィするしよ……、
多嶋:……、
多嶋:……、
多嶋:何も、見えねェ……。
ジュウ:そりゃそーだろ、眼ん玉なんかとっくに潰れてンだから。
多嶋:……、
多嶋:…………。
0:滋養と水分を飲み下す音が続く。
0:応対者の声は弱り、掠れ。
多嶋:……いくら、殴っても……、
多嶋:ナニも、言う気はねェぞ……。
多嶋:居場所……、何人かは、知ってるけどよ……。
ジュウ:死んでもか?
多嶋:死んだら……、言えねェし……、
多嶋:どうせ、殺すんだろ。
ジュウ:あ、そっか。
ジュウ:え、なんか根本的にダメなンかなコレ……、
多嶋:……、
多嶋:だけど……。
多嶋:……死んでも、言わねェ。
ジュウ:…………、
ジュウ:ナンで?
多嶋:……、……、
0:裏路地の静謐。
0:表通りの嬌声だけが微かに漂い来る。
ジュウ:どーせ死ぬのによ。
ジュウ:関係ナくねェか逆に。
多嶋:…………。
多嶋:へ、へ……、
多嶋:そりゃァ……、
多嶋:そりゃァ、よ……、
0:掠れた笑み。
多嶋:ココで吐かずに、死んだ方が、よ……、
0:四肢には既に力通わず。
0:縄をよじるが如くに、口の端を曲げ。
多嶋:「勝った」気がするから、だよ。
多嶋:ボウズ……。
ジュウ:…………、
0:復讐者の面差しには露ほどの兆しも無く。
0:暫し、沈黙。
ジュウ:……どー見たってお前の負けだろ。
ジュウ:殺すワ。
多嶋:久々に退屈しなかったよ、
ジュウ:(打撃)シャぁアっっっ!!!!!
0:渾身の正拳。
0:応対者は絶命し、
0:暗転。
:
0:【間】
【ナレーション】:応対者死亡報告。
【ナレーション】:「多嶋 晃成(タジマ コウセイ)」31歳、牡牛座のB型。
【ナレーション】:マイナー格闘技団体「ガルガリンNEO」所属の総合格闘家。確かな実力と燻(いぶ)し銀のパフォーマンスでコアなファンを持つ、当該団体の看板選手の一人。
【ナレーション】:団体の前身であり、暴力団の下部組織として非合法ギャンブルを行う地下格闘技リーグ「ガルガリン」に所属していた時代には、「ジャックナイフ」のリングネームにて、同じく花形選手の「スレッジハンマー」と並び一部界隈を沸かすスターであった。
【ナレーション】:主宰者の検挙によりリーグが解体された後は、合法・非合法を問わず様々な職を転々。出所した主宰者が新たに立ち上げた「ガルガリンNEO」に戻るまでの間、傷害・暴行・脅喝・強姦等の罪により4度の立件・逮捕。
【ナレーション】:学生時代より修める極真空手の他、テコンドー、シュートボクシング等を組み合わせた変幻自在のファイトスタイルを持つが、飲酒による酩酊と、復讐者の剣幕に圧(お)され実力を発揮する事なく敗北。
【ナレーション】:黎和(れいわ)2年11月20日、全身複雑骨折および内臓破裂複数、頭蓋骨粉砕による脳挫滅(のうざめつ)等により、死亡・殺害。
0:【終】